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『ヴァイマル憲法とヒトラー』池田浩士を読書。

第一次世界大戦終戦時のドイツ革命、ヴァイマル憲法時代、ヒトラーの首相就任、ナチス政権時代、現状を解説。
ナチスはヴァイマル憲法と云う先進的・民主的な憲法の基で合法的に国民の期待を受けて政権を獲得。
ナチスが国民から期待された遠因は、第一次世界大戦敗戦による巨額賠償と大量失業を招いた世界恐慌。ナチスは独裁政治で多数の優位者が少数の劣位者の人権を剥奪。
ナチスが台頭した経緯が分かる良書。
国民に「考える」事、「感じる」事を要求。責任の重さを感じる。

お勧め度:☆☆☆

○首相就任
・1919年敗戦後、ドイツ共和国成立。25年ヒンデンブルクが大統領に。29年世界恐慌で失業率は28年9.7%が32年44.4%に高騰。
・ナチスは1930年選挙で第2党(107議席)に大躍進、32年選挙で第1党(230議席)に。
・1933年1月ヒトラー首相就任。ナチスは内閣に航空相ゲーリング(プロイセン内務相)、内務相フリックを出すのみ。就任演説でヴェルサイユ体制を批判、ドイツ帝国・民族を鼓舞。ナチス(SA:突撃隊、SS:親衛隊)に対しては、マルクス主義の殲滅を表明。

○ヴァイマル時代(ナチス闘争時代)
・1914年オーストリア皇太子暗殺で第一次世界大戦開戦。18年ドイツ革命(社会民主党が中心)で終戦。反革命勢力の義勇軍、ドイツ労働者党(後のナチス)が誕生。ドイツ労働者党の綱領(25項目)はナチスの綱領と酷似。
・1919年制定のヴァイマル憲法は国民主権の憲法。ただし第48条大統領緊急命令、第118条「思想の自由、検閲」は人権を損なう危険性があった。
・1920年ヒトラーはドイツ労働者党の宣伝部長に。20年国民社会主義ドイツ労働者党(ナチス)に改名。21年党首に。
・1923年フランス、ベルギーが賠償支払遅滞を理由にルール地方を占領。ヒトラーは「ミュンヒェン・クーデター」を起こす。入獄中に『わが闘争』を著し、ドイツ崩壊の原因はユダヤ人と記す。
・1924年「ドーズ案」によりドイツの賠償支払が軽減される。

○ナチス政権-奉仕
・近年の研究でナチス時代の経験者は「生活・治安が安定し、失業や身分差別が解消」と好感している事が判明。
・1933年5月ナチスは全労働組合を解散、労使協調の単一組織「ドイツ労働戦線」を設立。ホワイトカラーとブルーカラーの身分差別を解消。
・年平均失業率は首相就任年の1933年28.6%が37年7.3%に減少。第二次世界大戦直前の39年7月は2.9%まで減少。
・1933年6月「自動車道路法」でアウトバーンを労働奉仕(報酬が正規労働者の半分)で建設。
・義勇軍、突撃隊、アルタム同盟(農業団体)も労働奉仕。1935年「労働奉仕法」を制定し、6ヶ月間の労働奉仕を義務化。36年冬季救援事業を法制化し、カンパ・物品を収集・分与。民族共同体のための「自己犠牲」を植付ける。

○ナチス政権-独裁
・首相就任直後に国会を解散、国会議事堂に放火し共産党員を犯人とし、大統領緊急命令で1933年3月選挙で共産党を排除。3月憲法に反し立法権・予算決定権を国会から奪い行政に与える「全権委任法」を成立させる。7月ナチス以外の政党を禁止。
・1933年3月三色旗、鉤十字旗を国旗に制定。4月憲法で禁止された称号・勲章を復活。7月遺伝性疾患者に不妊手術する法律を制定。7月ヒトラー式敬礼を習慣化。9月国内入植を促進する世襲農場を法制化。34年2月休日を制定。
・1934年8月ヒンデンブルク大統領死去、ヒトラーは大統領、首相を兼ねる総統に。
・1935年5月兵役を義務化。賠償支払(「ドーズ案」から更に軽減された「ヤング案」)、軍備縮小を拒否。37年1月ヴェルサイユ条約脱退。39年ポーランド侵攻(第二次世界大戦開戦)。

○現状
・日本の歴史教科書検定で歴史研究者の「ドイツは加害責任を問い続けているが日本は・・」に共感が。
・ヴァイツゼッカー大統領はナチス政権の外務次官でユダヤ人をアウシュヴィッツに送る署名をして戦犯となった父を弁護。外務省に多くのナチス党員が残存。
・思想家アーレントはユダヤ人移送の責任者アイヒマンの裁判を傍聴、被告は考えなかったので凡庸になったと解釈(映画『ハンナ・アーレント』)。
・ナチス時代の国民は、感じる事を止めたため考える必要がなくなった、また考える事を止めたため感じる事ができなくなった。
・ドイツ赤軍派で活動し終身刑を受けたボークは「ナチスに魅了された父親の様になりたくなかった」と記す。
・人権(表現、結社、職業選択の自由)を保障した連邦共和国基本法でさえ過激派条例で共産主義・新左翼を弾圧。第18条に「秩序に敵対する人に人権を認めない」と記す。
・日本国憲法第9条で戦力・戦争の放棄を明記。副総裁の憲法改正に関する発言は、国民は政治家に任せろと理解できる。これはナチスの手口と同一。第12条に「自由及び権利は不断の努力によって保持」と記す。
・ヴァイマル憲法が蹂躙されたのは主権者たるドイツ国民自身の責任。

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