『遺言』品川正治、斎藤貴男(2013年)を読書。
政治・経済についての対談。親米政府、財界、マスコミ等を批判。憲法9条の堅持を訴える。
マスコミは官僚に頭が上がらないのは知っていたが、スポンサー(大企業)にも頭が上がらないのか。
国家の目、人間の目と云う言葉が度々出て来る。
最近読んだ本にもあったが、「考える」「感じる」事を止め、周りに流される事がない様にしたいものだ。
著者と関係が深い労働組合、損保、マスコミの知識があった方が読み易い。
話題が広範囲なので、感想を纏めるのに苦労。
お勧め度:☆☆
○政治
・EU等は米国と袂を分かち始めているのに、日本は先廻りして米国の要望を実現しようとする特異な国。
・民主党内閣が脱原発を閣議決定できなかったのは米国、財界(経団連、経済同友会、商工会議所)の圧力。
・産業の目、外交の目で見ると違ってくるが、核と原発は人間の目で反対すべき。
・安倍首相は「震災復興なくして日本の再生はない」と言うが、結局は財界の利権。
・農地の株式会社化を認める農地法改正で自民党離れが。
○政治-税制
・官僚は法人税減税と消費税増税をしたいがために財政危機を煽る。消費税には逆進性があり、転嫁できない中小零細企業に不合理な税制。中小零細企業が大手を振れる社会が理想。
・所得税は以前は最高税率75%だったが、今は40%(1800万円以上)で頭打ち。
○反米-金融資本
・「日本と米国は同じ価値観を共有」と強調するが、金融資本が国家権力を握り、絶えず戦争を続ける国と一緒にするな。
・竹中氏は米国型資本主義が正統と言うが、役員と社員の報酬格差や破綻会社の役員に高額賞与を出す等、言語道断。
・自由・平等・博愛を掲げるが、それは勝ち組内での話。ゲーテッド・コミュニティが存在。南米の豪邸、日本の高級マンションも同様。
・米国型資本主義は以前は産業資本が核であったが、今は金融資本が核。米国型資本主義は正に資本家のためだけなので純粋とは言える。
・BIS規制、バーゼルⅡ、FRB、SEC(証券取引委員会)は監視能力がない。タックス・ヘイブンに対しても何も手が打てていない。
・サブプライム問題で訪米、全く返す充てのない人に貸している。まるっきり詐欺。
・投資会社はM&Aで利益を出す。日本の企業の内部留保が多いのはM&Aをするため。
・損保業界は90年のバブルで大蔵省の言葉を聞かず、不動産を買わないで倒産を免れた。そのため94年の日米構造協議で損保、自動車業界が標的にされた。
○反米-国際平和
・9条(戦力、戦争の放棄)が生まれた要因は①他民族2千万人以上、日本軍人2百万人以上、民間人を殺した②天皇制護持の条件③陸海軍が存在しない④GHQ民生局が最左翼。
・49年中国建国、50年朝鮮戦争勃発、憲法制定が少し遅れたら9条はなかった。
・9条は国家の目でなく人間の目で見ている。
・解釈改憲でPKO、イラク、インド洋に自衛隊を派遣。武器使用がなかったのは偶然。
・独立・主権の相互尊重、内政不干渉、紛争の平和的解決、武力の威嚇・行使の禁止を掲げるTAC(東南アジア友好協力条約)が世界に拡大。
・92年フィリピンのクラーク空軍基地、スービッグ海軍基地から米軍撤収。無人島を取られるより基地の罪過の方が大。中国に支配されるも、米国に支配されるも一緒。
・沖縄では普通は飛ばさない飛行機を飛ばし、グリーンベレーが民家に侵入したりするがマスコミは報道せず。
・官僚は民主党政権に変わっても日米安保を堅持し、沖縄県民の怒りに火をつけた。
・日本はアジア特に中国に対する加害者。排外主義で中国、韓国を敵視するのは米国を利するだけ。日米安保条約を廃棄し、9条を守る事がアジア平和の最大の「武器」。今世紀は米国を問う世紀。
・保守勢力は自らの地位を強固にするため中国脅威論を煽る。近年拠り所がない人がネット右翼に。第三極の政党は右傾化が顕著。
・中国の指導者の中には文化革命の挫折者と紅衛兵がいる。中国の駐日大使館は創価大学出身者が占め、公明党から情報を得ている。
○財界
・資本主義が国毎に多様化する中、日本の企業は利益を追求する。人間の目で見た経済社会を築いて欲しい。
・大型合併で企業は経営理念を失った。かっての日本企業は社員、取引先、メインバンクを重視し、株価(資本家)など気にしなかった(日本型資本主義)。
○財界-経済成長
・冷戦中は米国の1州として経済発展を許され、朝鮮戦争、ベトナム戦争の特需で経済成長したが、冷戦終結後はライバルに。
・経済の伸びには企業社会と市民社会の伸びがあるが、日本は等しく伸びなかった。
○財界-財界人
・経済同友会は米国留学組の牛尾氏、宮内氏が入り変化。今の経済同友会は横文字の会社が増え、構造改革派が多くなった。
・期待できる経済団体はなく、特に青年商工会議所は右傾化が顕著。
・キヤノン賀来、日商岩井速水は自民党の通貨、日銀等の金融政策を批判し、自民党から出入り禁止に。
・金融危機でも資産返上する経営者はいない。逆に経済人は叙勲を欲しがる。
○財界-雇用
・小泉内閣は「改革なくして成長なし」と言ったが、逆に後退。それまでの構造改革と異なり、弱者を切捨てた。結果が派遣村として露呈したのは神風。
・以前は非正規雇用は容認されたが、派遣村以降、地方自治体が警戒。雇用は人間の目で見る必要がある。
・派遣が拡大したのは正社員だけの労働組合に責任。労働組合の連合、全労連は終身雇用が崩れ影響力が低下し、大概の労働組合は労使協調に。役員が堂々とリストラを発言する様になった。ユニオン(合同労組)だけが本当の組合に。
・同一労働同一賃金は非正規社員を正社員にする事と同じ。最低賃金はアルバイトが基準。
・TPPは24項目(工業製品、金融、労働等)に亘る。関税撤廃でコスト削減が迫られ、人件費が更に削減される。
○マスコミ
・マスコミは保守化し、国内マターは自民党、国際情報は米国の目でしか見ない。記者クラブでの官僚の発表をそのまま報道し、国策(環境、CO2削減、食糧自給等)をPR。
・マスコミが自由に書けないのは記者クラブの問題もあるが、マスコミ内の縄張りも問題。
・マスコミの収入は販売と広告が半々だったが、「情報はタダ」となり広告が重要に。これにより電通、スポンサー(大企業)の発言力が強大に。
・海外のマスコミは賛否両論を報道するが、日本のマスコミは結論ありきで一方的な報道しかしない。今は総ガキ化時代と云われる。
・消費税増税は中小零細企業が自腹を切るしかないのに、それを報道しない。憲法と日米安保条約は矛盾するが、それを曖昧にしている。
・日本のマスコミには世論を牛耳りたい意思があり、満州事変時の様にガラッと変わる事がある。
○品川氏
・軍人勅諭読替え事件で親友一家が全員亡くなる。戦争体験を話せなかったが、戦友との再会で話せる様に。
・全損保の労働組合で10年専従。在籍した日本火災はテーブルファイヤ事件(架空の事故で裏金捻出)で全役員が辞職。
・損保業界はブレーキ産業と考える。