『コモン・センス 完全版』トマス・ペインを読書。
米国独立を国民に扇動した『コモン・センス』(以下本書)の解説と翻訳。
著者は専門家でないのに、国際状況の把握や先見性に優れている。正に常識と云える。
日本も変革期(明治維新、戦後)を経験したが、国民はどれ程自覚を持っていたのか。
独立戦争の経緯を知っていた方が読み易いかも。
お勧め度:☆☆
○解説-ペイン
・1737年英国の職人の家に誕生、74年渡米。75年4月ボストン郊外レキシントンで英米が武力衝突(独立戦争開始)。76年1月本書刊行、ベストセラーとなり世論を独立に変える。
・1776年6月『愛国の霊言』発表。7月独立宣言。87年鉄橋事業で帰英、89年仏革命で渡仏、91年『人間の権利』発表、93年恐怖政治で投獄、翌年釈放、02年渡米、09年死去。
・当時の文章は古典・格言を引用し教養を強調、一方本書は聖書が基で理解が容易。
○解説-本質
・1740年頃宗教的関心から平等意識が強まる(大いなる目覚め)。これも独立の機運を高めた要因。
・本書の構成は聖書の構成(旧約、福音書、黙示録)と類似。
・本書も『愛国の霊言』も虚構性があるが、人類普遍の自由を掲げる世界国家(駆け込み寺)樹立を理想とする。
・仏革命は理想を追求する余り連続性を失ったが、独立戦争の敵は米国から離れた英国の王室で連続性を保てた。
○解説-日米関係
・米国は理想と現実が矛盾する国家。日本の戦前の「八紘一宇」と米国が掲げる理想は同一。目の霞が取れた点でも日本の敗戦と独立戦争は同じ。また日本の憲法も本書も恒久平和を唱える。
※独立前でも米国を使用します。
○本書-前書き
・英王と英国議会は米国を抑圧。米国は搾取を拒む権利を有し、この大義は世界的普遍性を持つ。
○本書-政府
・社会は自然に生まれ、幸せをもたらす積極的なメリットを持つ。一方政府は人が善良でない事から生まれ、幸せをもたらさない消極的なメリットを持つ。
・社会には悪徳が存在、政府や代表が必要に。「安全の確保」も政府が生まれた根本的理由。
・英王・上院は世襲で専制支配の遺物、下院が自由を支える。しかし英王は社会で何が起こっているか知らないのに下院の拒否権を持つ。英王の意思は議会の承認を得ているのでより手強い。
○本書-王権
・王と「王でない人」は不平等の一つ。王は争いの元凶。芋虫(ミイラ)を崇めるのは神への冒瀆。聖書がラテン語から翻訳されなかったのは、教会と王が既得権を保護したため。王の先祖(ノルマン朝)は凶暴者か悪知恵者、世襲も愚か。共和制は王権で毒されている。
○本書-独立
・今は英国との和解が主流だがメリットはない。七年戦争(1756~63年)で英国側に立ったハノーファー選帝侯国は悲惨な目に。
・米国は英国ではなく欧州各国からの移民が作った。英国から独立し、各国と貿易するのが義務。
・独立反対者は和解で利益を得る者か、真実を見れないか見ようとしない者。
・米国は分離独立しかない。印紙条例(1765~66年、重税)の様に英国は横暴を繰返す。
・英国に請願を届け、結果を受取り、周知するのに1年以上掛かる、愚行である。
・英王は米国の繁栄を妬み、米国の利益になる法律は制定しない。
・米国の国体は大陸会議と州会議で構成し、「大陸憲章」を制定する。憲章こそが王である。共和制だと話合いで戦争を回避できる可能性が高い。
・今こそ圧政に立ち向かう時、自由の国を築くため決起せよ。
・陸軍は強力。海軍は保有しないが、タール、木材、鉄などは国内生産され建造能力は高い。
・マニフェストを作成し、第三国の仲裁を可能にするため独立を宣言すべし。憲章で宗教の自由を保障。有権者も議員も多い方が良い。
・今は各州が経済発展段階で連携するのに最適。
○増補版-独立
・英王の議会開会前の施政勅語は米国への敵意に満ちていた。
・独立が主流となった理由は①いずれ独立する②伸ばす程難易に。
・七年戦争から13年経ち、軍事的にも好機。
・独立の道は直線的だが、和解の道は紆余曲折。
・独立する能力を持ちながら英国に従属は節理に反する。
・和解成立後、米国内が親英国派と反英国派に分裂したらどうするのか。
・独立には①大陸会議による②軍事政権による③暴徒によるがあるが、当然①が望ましい。独立と通商再開をワンセットにするのも望ましい。
○増補版-クエーカー
・恒久平和実現のため独立派は武力を使用。独立派への批判は信仰心からではなく心の冷たさ。
・教義に「国家の興亡に関与しない」とある、ならば独立派を批判するな。
・独立派への批判は①信仰不信を招く②政治不介入に反する③連帯、友愛に水を差す。
○『愛国の霊言』-議員とモンゴメリー将軍の問答
・独立にはリスクが?-航海法から解放され、貿易が盛んになる。各州の力がまだ弱いので、連携の好機。
・英国には親米派がいるが?-英国のチャタム卿、ロッキンガム侯爵、ウィルクス氏等は政権攻撃の材料にしているだけ。