『現代金融入門』倉都康行を読書。
1971年ニクソン・ショック以降の12の金融危機を解説。現存するリスクについても解説。
お金が余ると碌でもない事が起きる。企業のモラルのなさも問題で、今の格差社会の一因かと。金融は経済の血液であって、遮二無二利益を追求する業種ではないはず。
世界は金融危機の連続ですね。
浅過ぎず深過ぎず、適度な解説がされていると思います。しかし金融はオプション、スワップ、レポ市場など複雑。
お勧め度:☆☆☆
○はじめに
・グローバル化と金融技術の高度化は危機発生のインターバルを短くし、危機を複雑化した。
○ニクソン・ショック
・1971年新経済政策で「ドルと金の兌換停止」を発表。スミソニアン協定で新為替レートを設定するが維持できず変動相場制に移行。
・45年プレトン・ウッズ協定でドル基軸通貨制度が確立。欧州の戦後復興とベトナム戦争で米国の金ポジションが悪化。
○中南米危機
・1982年メキシコが債務のリスケを要請。83年内需型成長を遂げたブラジルも新規借入と債務リスケの交渉を開始。
・70年代の原油価格上昇とFRBの金融引締めが原因。オイルマネーは米銀を通し中南米に融資。
・ブレイディ構想(元利減免)で債務処理。
○プラザ合意
・1985年G5蔵相会議でドル切下げに合意。ドルの価値は半分以下に。レーガノミクスの失敗で為替レートに活路。日米円ドル委員会で日本に金融開国を迫る。
・米国はインフレ懸念で長期金利上昇。日本は円高不況対策で財政出動、利下げはバブル経済の伏線に。
○ブラック・マンデー
・1987年ダウが23%下落、翌日は反発。オプションを用いたプログラム取引が原因。当時日米独が3大国で独国利上げも遠因。
・タテホ化学工業は国債急落で巨額損失。リスク評価のRAROC(バンカース・トラスト)、VaR(JPモルガン)が誕生。
○バブル崩壊
・1989年大納会で日経平均株価が3万8915円に。銀行は特定金銭信託で株式投資、不動産担保融資も拡大。
・91年不動産価格の下落が始まる。92年東邦相互銀行に預金保険制度を適用。住専7社は消滅。三洋証券、山一證券、北海道拓殖銀行が破綻。
・2003年りそな銀行への公的資金投入で終結。
・金融緩和、自由化、国際化はバブルを後押し。銀行は転換社債、ワラント債で資金調達、余裕資金で現先取引。外国為替業務、国債ディーリング業務に参入。海外でも証券業務(証券引受け)、融資業務に参入するが撤退。
○欧州通貨危機
・1992年ジュージ・ソロス率いるヘッジファンドが為替オプションを利用しポンド売り。英国は欧州為替相場メカニズムから脱退、変動相場制に移行。イタリア・リラも同様に売られ、変動相場制に移行。
・1979年欧州通貨制度(ECU、欧州為替相場メカニズム)誕生。90年ドイツ再統一のためのマルク高も危機の要因。危機前にスウェーデン、フィンランドの通貨が売られ、前兆があった。
・93年マーストリヒト条約でEU発足。共通通貨の道が開かれる。
○デリバティブ事故
・1994年P&Gは金利スワップでバンカース・トラストに2億ドルの追加コストを払う。結局裁判で和解。銀行の株主が高い利益を求めるため、事故は絶えない。
・リスク低減のため金利スワップ、為替オプションなどのデリバティブ(金融派生商品)が存在。
○アジア通貨危機
・1997年ヘッジファンドによりドルペッグしていたタイ・バーツが売られ、変動相場制に移行。マレーシア、インドネシア、韓国も同様な危機に。
・各国はIMF、世界銀行、ADBの支援を受けるが、IMFのワシントン・コンセンサスには批判が多い。
・米国の金融政策により新興国で急速な資本の流入・流出が起こる構造的問題がある。
・1998年ロシアは資源価格低迷でデフォルト。ロシア国債を多量に保有していたLTCMはNY連銀の支援を受ける。
○ITバブル
・2000年ナスダック総合指数は5048ポイントに、02年急落し1114ポイントに。シラー教授は『根拠なき熱狂』でバブルを批判。グローバル・クロッシング、ワールドコムなどが破綻。エンロンは粉飾決算で破綻。「ニュー・エコノミー」は空虚であった。
・日本では情報化を掲げる産学官共同プロジェクトを立ち上げるが、ITバブルに終わる。コクド、カネボウ、ライブドアが粉飾決算。
・商業銀行と投資銀行の垣根が消滅し、デリバティブ、証券化商品の取引が拡大。2002年米国では内部統制強化のためのSOX法が成立。
○リーマン危機
・2007年住宅価格が下がる。仏国BNPパリバが証券化商品の解約に応じないと表明。為替・株式市場が大混乱。08年ベア・スターンズは証券化商品(利回り高、流動性低)の損失でJPモルガンに買収される。投資銀行4位のリーマン・ブラザーズも破綻。
・5大銀行(JPモルガン、ウェルズファーゴ、シティ、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー)にはそれぞれ特徴が。投資銀行は株主の要請でハイリスク・ハイリターンに変化。
・2010年投機を抑制し、大手銀行を救済しない金融規制改革(ドット・フランク)法成立。
○ギリシャ危機
・2010年欧州委員会が「ギリシャの統計は信用できない」と公言。トロイカ体制(EU、IMF、ECB)が1100億ユーロを、12年ヘアカットを条件に1300億ユーロを融資。
・イタリア、スペインに波及。10年EUは総額7600億ユーロを準備。
・2012年ECBドラギ総裁の「ユーロを崩壊から守るため何でもやる」発言で沈静化。
・ユーロには金融政策はECBに統合したが、財政政策が統合されていない根本的問題がある。銀行を一元的に監督する「銀行同盟」が進行している。
○フライジャル(脆弱な)世界
・何でもやる発言、アベノミクス、QE3でリスクオンに。2013年バーナンキFRB議長がQE縮小を発言。株式・債権・為替市場が混乱。新興国(ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカ)の通貨が下落(バーナンキ・ショック)。
・新興国が外貨準備を積み、変動相場制に移行していたため、20C程の通貨危機にはならず。
・ヘッジファンド(3兆ドル)、ソブリン・ウェルス・ファンド(6兆ドル)などの投機的行動が懸念される。
・ウクライナ、イラクには地政学リスクが存在。
・中国では規制対象外の理財商品、信託商品でシャドー・バンキング。世界のシャドー・バンキング規模は71兆ドルで全ファイナンスの24%を占める。バーゼル委員会や各国金融規制局は銀行業務の規制で精一杯。
・金融緩和の狙いは資産効果だが、資産バブルの兆候が見られる。