『欧州統合と新自由主義』を読書。仏人ドゥノールとシュワルツの著書を翻訳。
欧州はECSU/EEC、ECを経てEUが誕生。その経緯を解説。
基盤となった思想は、第2次世界大戦前からあった新自由主義で、戦後は米国が支援し、その後共同市場が作られ、単一市場が完成。
今は市場・通貨は統合されたが、社会的措置が置去りされ課題となっている。
本書の内容は中レベル以上だと思います。翻訳でもあるし、欧州についてある程度事前知識がないと読みこなせないと思います。
お勧め度:☆☆
○序論
・ローマ条約(1958年発効)でECSCが設立され、共同市場を創設。
・マーストリヒト条約(1993年発効)でECが設立され、単一市場が完成。通貨統合のための加盟条件(収斂基準、安定・成長協定)により各国は予算・金融政策を奪われた。
・欧州社会モデルの原則は①最低限規定②後退禁止③開かれた強調方式。しかし欧州レベルの社会政策は皆無。
・2008年今の経済・金融・エネルギー危機からノーベル経済学賞受賞のスティグリッツは「新自由主義の終焉」を宣告。
・各国は金融危機で銀行を救済し財政赤字に。各国は金融市場・格付け会社に脅かされ、労働者は緊縮財政のつけを払っている。
・2011年欧州理事会はユーロ・プラス協定で自由競争・財政規律を再確認。経済的不均質、欧州予算の矛盾は残存。
○米国時代
・欧州統合には協調的な連合案と、結合がより強い連邦案が存在。1948年欧州統合を目指す英首相チャーチルなどはハーグ会議を開催、「欧州運動」を起こす。
・米国の目的は①欧州からの共産主義排除②西側欧州の強化。米国は欧州の非共産政党に資金援助。
・1948年ブリュッセル条約、49年北大西洋条約でNATO設立。マーシャル・プラン(欧州復興援助計画)の受入機関としてOEEC(OECDの前身)を創設。「欧州運動」の指導をベルギー首相スパークに委ねる。欧州評議会の議長にスパークが就く。
・1952年仏実業家モネの構想(仏独共同の鉄鋼生産)からパリ条約を締結、6ヶ国でECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)創設。ECSCには専門家が就き、超国家的権限を持つ。
・1958年ローマ条約発効、EEC(欧州経済共同体)設立。仏大統領ド・ゴールは英国の加盟を拒否。
○共同市場の創設
・ハイエクなどの新自由主義者は戦前から反ケインズ・反社会主義、①社会主義・ファシズムは計画経済②市場に国による枠組みを主張し、欧州連合・連邦を待望。
・欧州統合にキリスト教民主主義・社会主義は賛成、ド・ゴール派・共産主義は反対。
・独国では戦前にオルド自由主義(新自由主義)が誕生。独首相エアハルトはオルド自由主義の競争市場で戦後復興。協調的行為を禁止する競争制限禁止法は欧州統合に多大に影響。
・ローマ条約では独国と仏国が対立。独国が望む共同市場は創設されたが、仏国が望む社会的立法は拒否された。
・脱植民地化で財政難の仏国は、左派政党・労組が反対するが支出削減・増税を行いEEC加盟条件をクリア。通貨・予算・社会政策の放棄と激怒する官僚もいた。
・EECの競争政策と共通農業政策(CAP)は矛盾している。協調的行為に関する全ての権限は欧州委員会競争総局に集中。
・1972年バーゼル協定で通貨は「トンネルの中の蛇」に、その後欧州通貨制度(EMS)に移行。73年英国等がEECに加盟。
○単一市場の完成
・1979年欧州司法裁判所は共同体内の貿易を妨げる規制を違法とした(カシス・ド・ディジョン判決)。これにより国内産業を保護する法は無効となり、各国法より欧州法が優位となった。
・欧州委員会の義務は①貿易規制の排除②各国立法の調和。欧州議会(1979年初選挙)の欧州人民党(キリスト教民主主義)は欧州委員会の共同市場強化に同調。欧州産業人円卓会議(ボルボ社長など)、英首相サッチャー、社会主義を捨てた仏大統領ミッテランもこれに同調。
・1985年欧州委員会委員長にドロールが就く。「関税・数量制限は撤廃されたが非関税障壁は増加。単一市場を実現する」と欧州理事会で報告。87年欧州通貨同盟協会を発足させ、資本移動の自由化と通貨同盟を推進。87年単一議定書が発効し欧州理事会の権力が増大。
・1993年マーストリヒト条約が発効し政治改革なる。97年安定・成長協定を採択し、単一通貨のための収斂基準(赤字はGDP3%以内、公的債務はGDP60%以内)と段階的な制裁措置を設ける。これにより反インフレから各国の通貨・予算政策は奪われた。
・ECB(各国の中央銀行総裁で構成)は物価を安定させたが経済成長・雇用は低迷。CAP予算は1985年71%もあったが13年32%に縮小。競争総局は多大な権力を持ち、反トラストで密告制度を確立。世界の関税障壁は解消され、今やサービス・知財・投資・税制が狙い。
○社会的欧州
・2004年欧州議会選挙で社会党は社会的欧州を掲げる。
・2005年欧州憲法条約は仏国・蘭国の国民投票で拒否されるが、09年リスボン条約発効。
・EUの経済秩序の柱はマネタリズム・自由競争・自由貿易。
・社会的欧州を実現する方法は①ECBの独立性を撤回し、成長・雇用政策に奉仕させる②市場の規制緩和の停止③公共サービス・交通機関・銀行の社会化④税制・社会的権利の上方調和⑤保護貿易の導入。 ・金融危機で政府介入を復権させたが、新自由主義は揺らがない。
○新自由主義
・「私達は抵抗力のテストをされている、次は別の国に番が回る。中流階級はいなくなる」とギリシャ人は語る。欧州統合の発想源はブリュッセルとベルリンで、新自由主義(オルド自由主義)とそれを補完した社会民主主義が実現した。
・経済学者フリードマンは「市場にはルールが必要で、政府は審判として必要」と著す。
・独国はキリスト教民主主義勢力、その後社会民主党で経済発展したが、社会的逸脱(共同的労使関係)を共存していた。
・仏大統領ミッテランは社会的欧州(社会的権利の上方調和)を掲げるが実現の見込みはない。
・経済政策と社会政策の接点は雇用で、消極的な所得再分配ではなく積極的な労働市場政策(雇用の最大化=就業率)が望まれる。仏国では初期雇用契約、積極的連帯給付が法制化された。