『大停滞』タイラー・コーエンを読書。
「容易に収穫できる果実は食べつくされた」として、近年(過去40年)の主に米国の経済停滞を解説。
要点を絞って解説しているので、理解しやすい。
お勧め度:☆☆(経済に興味のある方。翻訳ですがそれ程難しくない)
○果実
・「容易に収穫できる果実」は①無償の広大な土地②イノベーション(技術革新=石油、電力、モーター、自動車、航空機、電話、医薬品、大量生産など)③教育(高校・大学の進学率)だったが、いずれも食べつくされた。これにより近年、経済(世帯所得)停滞。
・経済停滞の原因はイノベーション件数の減少が原因(1900年160件/億人、2000年60件/億人)。
・胡散臭い金融イノベーションの恩恵は一部の人だけ。イノベーションの対象は限定され、格差、所得の停滞、金融危機を生んだ。
○生産性
・統計上は生産性は向上しているが、株価を見ると企業は利益を出せていない。そこで3部門に注目。
・政府部門-政府支出(道路整備など)はそのままGDPに加算されるが、市場のない政府支出は支出額に等しい価値を生んでない。
・医療部門-医療保険で保障される医療支出は、支出額に等しい価値を生んでいない。また恩恵は高齢者に限定される。
・教育部門-近年、教育支出は倍増したが、学力は変わらず。教育の生産性に問題。
・政府・医療・教育はGDPの25%を占めるが、真価は低い。
○インターネット
・インターネットはイノベーションの成功例と云える。しかし①大概のサービスは無料で経済効果がない②インターネットで家に籠れば、その分外出せず消費が減る③雇用を生まない(例:ツイッター社300人)④精神的満足が物質的欲求を低下させる。
○政治
・米国は土地が豊富で空襲もなく楽観的。
・右派の減税策は一時的効果しかなく、後世にツケを回すだけ。左派の再分配策も同様。いずれの政策も問題先送りで、政権獲得のための誇張に過ぎない。
・利益団体への補助金は経済悪化を招くだけ。
・「容易に収穫できる果実」が存在した時代(1900年代革新時代、30年代ニューディール時代)、政府も同様に拡大(政府支出はGDPの50%に)。以下のテクノロジーは政府の拡大を支援①移動・通信手段の発達②大規模な産業資本から課税③情報システムは官僚制を支援。
・2009年オバマが大統領に就任したが現状の強化に過ぎず、画期的なテクノロジーがないと収入・雇用を増やせない。
○金融
・冷戦終結で自分達は無敵と勘違いし自信過剰に。これにより過剰なリスク(安易な住宅ローン、過大なレバレッジ、常軌を逸したデリバティブ)を取るようになった。借り手が一番貧しかったサブプライムローンが最初に崩壊し金融危機に。
・金融危機の要因は①投資家への過大な信頼②監督官庁の手抜き③不動産などの資産価値の上昇を政府が促進。政治家は目先の勝利しか考えておらず、長期的視点に立っていない。
○出口
・イノベーションに対する好ましい変化は①中国・インドが製造、米国がイノベーションする体制が確立。中国・インドの科学・工学への関心の高まりと消費②インターネットによる知識共有③米国での教育制度に対する関心の高まり。
・イノベーションには科学者に敬意を払う社会が必要。今は政府も民間も収入が増えない、政治対立を先鋭化させず、無用な対立を避ける。
○解説
・著者は著名な経済ブロガーでグルメ。日本は大停滞の先進国で旨く対応していると考えている。
・本書は電子書籍で販売された。短期的な政策ではなく長期的傾向を論じている。イノベーション数については論争がある。