top learning-学習

『貧困大国アメリカⅡ』堤未果(2010年)を読書。

オバマ政権誕生直後の米国の4大問題(教育、社会保障、医療、刑務所)を解説。
「ゾウの鼻」と云われる米国資本主義の崩壊を知る事ができます。
これらの問題の根源は資本主義と云うよりコーポラティズム(政府と企業の癒着)と云っています。
GDP世界1位の米国の実状に驚きます。
ブッシュ政権への反感から生まれたオバマ政権ですが、ロビー活動には勝てず、今度のトランプ政権で政治不信を払拭できるか。

お勧め度:☆☆(大変詳しい)

○プロローグ
・2009年オバマ大統領の就任式に家を失った人、失業者、医療費を払えない人、学資ローンで困窮する人など200万人が集まり、国民の期待が窺われた。一方巨額な企業献金に先行きを不安視する人もいた。

○公教育
・軍事費、税収減などで財政難となり、州立大学は授業料値上げ、教員解雇を行っている。一方アイビーリーグなどの私立大学は卒業生の寄付金で潤沢で、教育の二極化が進行。
・学生は奨学金、学資ローンで生活。借入金は平均200万円となっている。
・学資ローンの債権を買取る株式会社「サニーメイ」が誕生。ロビー活動でサニーメイは巨大化、雑誌の全米トップ企業の2位になる。
・不況で就職できず学資ローンの返済が延滞し、返済額6万ドルが9万ドルに膨れ上がった人がいた。学資ローンは消費者保護法から除外されている。
・「学位を取るのは当たり前、アメリカン・ドリームを実現するため学位は必須」から学資ローンは巨大なビジネスに。

○社会保障
・GMの退職者はGM破綻で医療保険と企業年金が大幅に減額され、家電販売に再就職。破綻させた前CEOの退職金が10億円をテレビで見て愕然。
・企業年金は確定給付型から企業負担の少ない確定拠出型に移行。労組の力が強い自動車業界は年金制度改革が遅れる。
・高齢者は物価上昇、社会保障の未整備で将来不安に。消費癖からカード破産に至る高齢者も多い。
・公的年金、公的医療保険で国の債務は増大。選挙しか見ない政治、政官民の癒着がそうさせた。

○医療
・無料のRAM(遠隔地医療隊)に無保険者(国民7人に1人)が殺到。
・高齢者、低所得者向け公的医療保険(メディケア、メディケイド)は存在するが、中流層向けはない。民間の保険料と医療費が高いため医療破産する人が多く、オバマケアに期待が。
・医療保険制度には医師と患者の間に民間保険会社が介在しない「単一支払い皆保険」、公的保険と民間保険の選択が可能な「公的保険オプション」、既存のままの「民間保険のみ」の案があったが、2009年「医療改革サミット」では「単一支払い皆保険」の推進者は排除された。
・プライマリケア医師(家庭医、小児科医、内科医)の収入は低く、医師不足で過剰労働に。
・容易に薬を購入できるコンビニ・クリニックが流行。
・現行の公的医療保険でも問題があり、拡大する事に反対も。
・オバマケアでもロビー活動で医産複合体(保険会社、製薬会社)は安泰。

○刑務所
・刑務所で職業訓練として低賃金(時給40セント)で働いたが生活費の負担が多くお金は貯まらず、また出所後も仕事に就けない。
・囚人は月平均159ドル(1万6千円)で労働させる事が可能で、連邦/州政府は財政難から刑務所は民営化され巨大ビジネスに。
・UAW(全米自動車労組)は「囚人は時給2ドル(組合員は時給30ドル)で働いている」と抗議。
・世界で最も囚人が多い国は米国(囚人の25%は米国)。有罪判決3回で終身刑となるストライクアウト法が存在する州がある。ニューヨーク市はゼロ・トレランス法で厳罰化。
・刑務所ビジネスは利益率が高く人気の投資先に。刑務所REITはローリスク・ハイリターンの人気投資信託。
・米国は過度の市場原理で政治と企業が仲良し、金融危機でのウォール街救済ではなく人への投資が望まれる。

○エピローグ
・失業率は10%を超える。一方ゴールドマン・サックスでは70万ドル(7000万円)のボーナスを得ている人がいる。
・クレジットカード規制法で延滞していないのに金利が8%から33%に跳ね上がった人がいる。
・膨大な軍事費を賄うため、戦争税を検討。
・「オバマ選挙は楽しかったけど、チェンジは起きなかった。今度の選挙では献金の出所に注目したい」と言う若者も。
・医産複合体、軍産複合体などの問題の根源は資本主義と云うよりコーポラティズム(政府と企業の癒着)。

top learning-学習