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『ヴァティカンの正体』岩渕潤子を読書。

カトリックの総本山であるヴァティカン(バチカン)を解説。
キリスト教が2000年も生き延びたのはそれなりの理由があり、学ぶべき点があるとしています。
文化(美術、アニメなど)の知識があった方が読み易い。

お勧め度:☆☆

○バチカン
・2013年ベネディクト16世からフランシスコ(初の米大陸出身)に教皇交代。
・著者はニューヨークで暮らした時、アイルランドや南イタリアの教会に違和感を感じ非カトリックの聖公会に通った。教会は17C頃のバロック様式でキリストと対話する場所。
・キリスト教は313年ローマ帝国に公認され、380年統治目的から国教に。
・バチカンはグローバル・メディア(CNN、ワーナーブラザースなど)。聖ペトロ、聖パウロは多言語で布教-『使徒言語録』。公会議で徹底的に標準化し、一方地方では地域に適した行動を取った。
・危機(宗教改革、1870年教皇領消滅)に際しても文化的存在に変容し生き延びた。
・アップルはジョブズ(キリスト)を失っても、アップル製品(教え、聖書、宗教画など)を残し、キリスト教と類似。

○知の三位一体
・キリスト教の三位一体は父・子・聖霊だが、バチカンの知の三位一体は情報分析・教育研究・金融政策。
・知の一例としてバチカン図書館があり、蔵書は110万冊で、歴史的な書物や機密文書が保存されている。
・325年最初のニカイア公会議、381年コンスタンティノポリス公会議。1962年第2回バチカン公会議で現代化を採択。
・標準化(正統/異端)は多民族のパレスチナで生まれた事から当初から行われ、世界的宗教となった理由(言語はギリシャ語→ラテン語→英語)。
・バチカン国民は839人、全員が二重国籍。教皇庁立カトリック大学は7校でローマ市内にある。グレゴリアン大学(1551年創立、イエズス会系)は17人の教皇を輩出。イエズス会員にフランシスコ・ザビエル、マテオ・リッチ、現教皇フランシスコがいる。
・バチカンの財政管理と投資を行う宗教事業協会(IOR、俗称バチカン銀行)が存在(1929年イタリアの独立承認時に創立)。1978年IOR改革を掲げた教皇ヨハネ・パウロ1世は33日で急死し、マネーロンダリングの疑いが。現教皇フランシスコは金融安全委員会を発足。

○知の戦略
・ラテン語は死語となり進化・変化が止まる、聖職者は世界共通語として使用。ラテン語はバチカンの公用語で公式文書に書かれ、ミサ曲で歌われる。ウルガータ(405年完成)がラテン語版聖書の基本。ギリシャ哲学とキリスト教神学は現代にも影響。
・ラテン語版聖書(ウルガータ)は2400言語に翻訳されている。ホテルに聖書が置いてあるのは国際ギデオン協会による。使徒ヨハネにはボーイズラブの論争がある。
・教会は高い天井、ステンドグラス、宗教画(偶像崇拝禁止)で荘厳。聖職者は知識人・文化人でもあった。

○永遠のバチカン
・資金調達のための贖宥状(免罪符)は十字軍が始まり。十字軍が終わると聖年(ローマ巡礼)で販売。1513年教皇レオ10世は贖宥状でサン・ピエトロ大聖堂を建設、ラファエロに壁画を描かせた。これが原因でルターは17年「95ヶ条の論題」を掲示。
・バチカンは宗教改革に対し対抗宗教改革(カトリック復興)を起こす。トリエント公会議(1545~63年)で聖職者の教育と綱紀粛清を重視、イエズス会も公認。権威を高めるため建築・美術・音楽には多量出費。偶像崇拝は禁止されているが宗教画は認めた。
・贖宥状は今の建設国債に当たる。ドイツではフッガー家がマニュアルを作成し、優秀な説教師を集め贖宥状を販売。
・日本にはカトリック系大学が20校(立教、明治学院、同志社、青山、関学はプロテスタント系大学)、カトリック系学校法人は239社ある。
・イエズス会は1534年「モンマルトルの誓い」から始まる。創始者には教養人が多く、56年には3大陸で74大学を運営。イエズス会の教育事業は公会議の後押しと活版印刷の普及で成功。
・以上の様にバチカンは対抗宗教改革で文化的存在に変容した。

○学ぶべき点
・英国では1559年英国国教会(聖公会)が議会に承認される。チャールズ1世は王権神授説を掲げ清教徒革命が起きる。護国卿となったクロムウェルは王室の美術コレクション1300点を売却。この事から「英国人は芸術に疎い」と今でも云われる。
・ソ連は革命直後は抽象芸術・構成主義からバレエ、音楽、美術、演劇で世界に影響。1930年代芸術が国家認定となり衰退。
・アップル製品(宗教画)はユーザー(教徒)がジョブズ(キリスト)と対話するために存在。毎年6月に開かれるWWDCは公会議に相当。
・中世(暗黒時代)を経てルネサンスに入ると芸術家は大商人の下で芸術作品を残す。
・芸術家ウォーホルはハリウッド・スターやポップ・スターを肖像画に描き消費財化。
・クールジャパンは恥ずかしい。ポケモン、ドラゴンボールは後続が必要。特撮映像はハリウッドに多大な影響。

○文化立国バチカン
・日本を訪れた外国人は686万人、一方ローマは780万人。ローマの訪問客の大半はバチカンを訪れ、バチカンは観光都市「永遠の都」である。
・バチカンは危機(宗教改革、教皇領消滅)に際しても生き延びた。教育・人事・金融での標準化は感動的。
・暗君が浪費しよく国を滅ぼすが(バイエルン州など)、その暗君が収集した美術品で国がその後潤うことが多い。
・バチカンが対抗宗教革命で変容したように、日本も世俗権力を見切り、文化的存在に変容すべし、その時不滅なものとなる。

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