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『21世紀の中国 経済篇』加藤弘之、渡邉真理子、大橋英夫(2013年)を読書。

先進国が経済低迷する中、中国は安定成長。成長を支持した国家資本主義を専門家3名がマクロ、ミクロ、グローバルの観点で解説。
国が巨大なので中国の国家資本主義は注目され、経済発展の一つのモデルとなっている。
政治と経済が一体となり、公権力と資本を行使できる国有企業は中国経済を牽引して来たが、格差、環境破壊、腐敗・汚職の問題を起こした。
「土地、労働、金融は自由化ではなく安定化が望ましい」と別の本に書かれていたが、中国はその状況に近いと云える。

お勧め度:☆☆☆

○国家資本主義
・国家資本主義の特徴は①ルールなき生存競争(例:携帯電話の山寨)②混合市場体制(国有企業と民営企業が共存)③地方政府官僚が経済成長で昇進競争。地方政府と企業は協調④官僚・党は利益集団化し、腐敗・汚職が蔓延(富豪の9割は共産党幹部の子弟)。
・「国進民退」(国有企業の勢力拡大)は起きているのか?その影響は?普遍性はあるのか?は重要検討事項。
・中国は改革開放時代(1978年鄧小平が「改革開放」を提唱し、市場経済に移行)と国家資本主義時代(2001年WTO加盟後)に分かれる。

○国進民退
・1992年鄧小平の南巡講話で社会主義体制より経済発展が優先される(国退民進、国有企業の衰退)。03年国有資産監督管理委員会を設立し、「国進民退」に転換。06年国有企業を16業種(軍事、エネルギー、電力、通信、石炭など)で優遇(技術振興政策)。
・国有企業がGDPに占める割合は38%(2009年)。その後は縮小気味。
・1994年自動車産業政策を発表するが効果なし。21Cに入り国内需要が爆発的に増え、自動車産業が復活。09年産業政策を販売・流通にも拡大(自動車市場の育成、道路整備、自動車ローンなど)。
・2003年以降マイナス金利、投資主導で経済発展。08年リーマン・ショック時、中央政府が4兆元、地方政府が18兆元をインフラ建設などに投資。

○混合市場体制
・国有企業、民営企業、外資企業が共存する混合市場体制。
・2006~08年法制度(会社法、破産法、証券法、独占禁止法など)、金融システムを完成させ市場経済化するが、国有企業を優遇。
・2012年重慶市長薄熙来事件で民間資本の参入拡大が論争に。
・国有企業への批判は①公権力、金融、土地で優遇②効率性が低い③報酬が高い④補助金がある。
・国有企業が独占している石油産業、混合市場の鉄鋼産業などで市場メカニズムが働いていない。

○国有企業と民営企業
・中国は法治ではなく人治と云われる。90年代破産法がない中、政府は国有企業を破綻処理。
・2005年石油産業を2社(中国石化、中国石油)が独占し石油不足に。石油産業の大手国有企業は補助金を受取り、税で優遇され、公金を浪費している。
・航空産業では2006年は民営企業が14社存在したが主要路線に参入できず今は4社。
・鉄鋼産業では2004年経済引締めで江蘇鉄本(民営)の創始者は逮捕されプロジェクトは中止された。09年政府方針で小規模な山東鋼鉄(国有)が大規模な日照鋼鉄(民営)を買収。
・国有企業は政治的目的を利用し、商業的利益を追求している。
・中国では上位法より下位法が優越する(国務院より部門の法規が優越。法治の逆転現象)。

○グローバル化
・製造業で「世界の工場」に。米国に次ぐ69社(内国有64社)が世界企業ランキング「グローバル500」に入る。
・90年代貯蓄・外貨不足を克服。2000年代政府は対外進出を支援。香港、租税回避地を経由し、エネルギー・電力・金属分野に直接投資。
・1992年石油輸入国に転じる。今は石油・鉄鉱石の半分以上を輸入。資源国が財政難になると融資と資源購入をセットで締結し、資源を安定供給。党・政府の上層部に「石油派」(国有石油会社の幹部経験者)が多い。国有石油会社は企業利益を追求し、権益原油を取得。

○国際展開
・豊富な外貨準備で「政府系ファンド」は米国金融機関などに投資。
・中国輸出入銀行、国家開発銀行、ASEAN投資協力基金、アフリカ開発基金は巨額な対外援助・経済協力。「対外経済合作」で労働者を派遣し工事を請負う。「ならず者国」への援助には批判あり。
・経済摩擦が拡大-中国海洋石油は米石油大手ユカルノの買収を提案するが撤回。レノボはIBMパソコン部門を買収。華為技術は3COMへ出資。遠洋運輸集団は各国で港湾経営権を取得。中国アルミ業集団は資源大手リオ・ティントに出資。中国石油はスーダンの油田を開発。
・中国の補助金、優遇税制、産業政策には批判も多く、アンチダンピング(相殺関税)などの貿易救済措置を取る国がある。
・中国の国家資本主義は既存の国際経済秩序に大きな影響を与えている。

○今後
・『タイム』は世界共通価値のワシントン・コンセンサスに対し北京コンセンサスを提起。
・経済システムの北京コンセンサスに社会・政治システムを加えた中国モデルも存在。中国モデルが形成された要因は①離陸段階②社会主義から市場経済に移行③独自の中央-地方関係。
・国家資本主義の特徴は①ルールなき競争②混合市場体制③独自の中央-地方関係④官僚・党の利益集団化。
・中国モデルは以下のコストを払った。①社会的弱者(農民工など)からの収奪②環境破壊③腐敗・汚職の蔓延。
・中国モデルの持続可能性には以下の懸念事項がある。大衆の不満、農民工の不足、高齢化、新興国との競争、資源の輸入など。
・富の3/4を国が保有「国富民窮」。これを打破するためには経済システムを官主導から民主導に移行する必要がある。

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