『ルネッサンス夜話』高階秀爾を読書。
ルネッサンス期(主にフィレンツェ)の市民社会を紹介。著者は美術史学者でその方向から解説。
イタリアは教皇領、ヴェネツィア、ミラノ、ナポリなどに分裂し、フィレンツェはヴェネツィアと並ぶ共和制都市。
ルネッサンスを知るのにユニークな本。
お勧め度:☆☆
○メディチ家
・1397年ジョヴァンニがフィレンツェに銀行を設立、コジモ、ロレンツォなどが後を継ぎ、1494年フィレンツェから逃亡。
・フィレンツェには徴税制度「カタスト」があり、メディチ家は突出して巨額納税。しかし15C後半に銀行業もメディチ家も衰退。
・銀行業と云ってもキリスト教は利子禁止のため、外国支店との「為替手形」で収入を得た。
・ローマ支店は特別で教皇の移動と共に移動。メディチ家は教皇庁財務官として教皇庁の財産を管理した。
○市民の日記
・一商人ルカはフィレンツェ市民を扇動する修道士サヴォナローラと少年隊の言動を冷静に日記に記録。数々の奇蹟についても同様に記録。これはルネッサンスの合理主義か。
○フランス病かナポリ病か
・1494年常備軍を持つ仏王シャルル8世は小国分裂のイタリアに侵攻、一気にナポリ王国を征服(イタリア戦役)。これを機に西欧で梅毒が蔓延。イタリアはこれをフランス病、仏国はナポリ病と呼んだ(コロンブスの新大陸発見は1492年)。
○戦争
・1440年フィレンツェとミラノの「アンギアリの戦い」の様に、当初戦いは傭兵隊同士で小規模だった。しかし1508年ヴェネツィアとカンブレー同盟(教皇、仏国、スペインなど)との戦争では火器が使用され激化。武器と食糧の補給が重要となり、掠奪も行われた。
・愛と美の神ヴィーナスと共に捕らわれた戦いの神マルスはお払い箱になり、代わってベローナが戦争の神になる。
・マキャベリは『君主論』『ローマ史論』『戦争論』『フィレンツェ史』など戦争に関する著作を残す。
○傭兵隊
・15C前半ミラノのスフォルツァなどの傭兵隊長は英雄だったが、その後衰退。
・ヴェネツィアは周辺の領土を傭兵隊長に与え衛星国とし、常備軍化した。一方フィレンツェは最高評議会議員を2ヶ月で交代させるなど民主制が進み、敵方にお金を送り平和を買う事も。
○学者
・ルネッサンス期は古典の法律が重視され、法律家ブルーニは敬愛され、立派な墓が作られた。ある人文主義者は高貴の条件は①財産②家門③公職とした。
・家門-結婚は家門を得るチャンス。花嫁は家門に応じたお金を持参。ブルーニも息子を豪商の娘と結婚させる。
・財産-1419年ブルーニはメディチ家でアリストテレス(当時はそう考えられていた)の『経済学』を翻訳。キリスト教で否定されていた「現世の富」を肯定。これにより当時の邸館は壮麗になった。ブルーニはメディチ家での翻訳、教皇庁での仕事、法廷弁論で収入を得た。
・公職-1427年ブルーニは最高評議会議長(首相に相当)に就く。ブルーニなどの人文主義者は教会と異なり学問でも実践(公職従事など)を重視。
・15C後半最高評議会はメディチ家ロレンツォの影響が強まり、フィレンツェは衰退に向かう。
○占星術
・メディチ家ロレンツォの保護を受けた詩人ポリツィアーノには二つの誕生日が伝わる。原因は当時流行った占星術、占星術のため誕生日時が創作された。占星術は誕生時の星座と太陽、月、水星・金星・火星・木星・土星の配置で運命を占う。
○人相学
・ある彫刻家は『彫刻論』に人相学(外観と性格・行動は一致する)を記す。芸術家デューラーは人相学、特に四性論(多血質、胆汁質、粘液質、憂鬱質)を強く意識し、銅版画に憂鬱な女性を描く。当時傑出した人は多血質ではなく憂鬱質とする変化が起こっていた。
○女性
・女性は家庭を守る事と公共の場での沈黙が要求された。子供への教育から知性が高い女性を多出。女性は容姿に拘り、苦労してブロンドに染めた。
・娼婦(コルテジアーナ)は宮廷(コルテ)の女を意味。大銀行家に保護され名声を得た娼婦インペリアルは最後に毒を仰ぐ。