『反グローバリズムの克服』八代尚宏を読書。
グローバリズムを肯定。日本、米国、欧州、東アジアの経済と構造改革を解説。
お勧め度:☆☆(内容は濃い)
キーワード:グローバリズム、自由貿易、構造改革、直接投資、労働移動、通貨統合、地域格差、財政再建、社会保障、少子高齢化
○はじめに
・TPPに対し反グローバリズムがあるが、日本の経済発展は自由貿易のお陰。減反ではなく所得補償が正しい農業政策。
○世界経済
・①「企業が国を選ぶ時代」で直接投資を誘致できるか②流動性が高い労働市場(年功序列賃金が障害)③少子高齢化が世界共通の課題。
・自由貿易は国内での競争を促し価格低下に。
・欧州は政治統合の段階だが、通貨統合による地域格差が未解決。英国にはEU離脱問題がある。スウェーデンは「企業は救済せず、個人を守る」で発展。
・中国は経済特区(一国二制度)で発展。シンガポールも教育重視で発展。
○日本経済
・戦後、自由貿易で経済発展。社会主義は初期段階のみ有効。自由貿易は消費者・企業の利益になる、その利益を分配するのが政治の役割。
・スティグリッツは自由貿易による発展途上国での弊害を挙げたが、それは政治の失敗を指摘するため。農産物の輸出補助金は誤り。
・日米通商で自動車輸出の自主規制、大型小売店参入の非関税障壁など摩擦があった。
・減反政策は誤り、所得補償が正しい。紛争処理条項(ISDS)で郵政、農協は指摘される恐れが。
・WTOはGATTを継承した多国間の自由貿易協定。
・温暖化対策でCO2排出権を取引。
○米国経済
・米国は連邦制で州の権限が強い。日本の系列取引を批判したが、逆に採り入れた。
・戦後のブロック経済を統一し、「パックス・アメリカーナ」に。1973年変動為替相場制に。「レーガノミクス」で税控除を廃止し、税率を下げた。「プラザ合意」でドル安に。
・ダイナミックな金融市場からICT分野が発展。90年代冷戦終結で財政改善し長期金利低下。工業品価格の低下でインフレも鎮静。
・08年サブプライム・ローン危機からリーマン・ショック発生、欧州では金融機関を国債で救済したためソブリンリスクに。
・先進国で所得格差が最大。それは経営者は株価連動報酬で高所得、一方低所得者は移民で所得低迷のため。
・01年ブッシュ大統領は個人所得税を大幅に減税。10年オバマ大統領は民間医療保険会社への加入を義務化。
・教育の高さは、権限が強く独立した教育委員会による。
・北米自由貿易協定(NAFTA)による関税撤廃で域内貿易が膨張。カナダは日本の「三位一体改革」に相当する財政改革に成功。
・世界経済の自由化で労働者が移動し、賃金は均等化する。各国は自由貿易とそれによって得られた利益の再分配が重要政策。
○欧州経済
・欧州連合(EU)は市場・通貨統合を経て政治統合に入った。英国にはEU離脱問題がある。共通農業政策(CAP)は所得補償で農産物の価格が低下。
・ユーロ加盟に厳しい「財政規律」を課す。99年ユーロ導入。貿易で利点はあるが為替調整が不可となる。
・10年ギリシャ危機は欧州金融危機に拡大。欧州安定メカニズム(ESM)で「新財政協定」を設定し対応。日本は高度成長期、労働者の移動で地域格差に対応。NAFTAは通貨統合せず政治統合(軍事、外交)・経済統合を行った。東アジアは地域格差が激しく通貨統合は困難。
・03年独シュレーダー首相は構造改革(財政健全化、労働・資本市場の流動化)。解雇規制と有期雇用の規制緩和で労働市場を、英米型の直接金融市場の導入で資本市場を流動化。
・79年英サッチャー首相は民営化、「小さな政府」、金融規制緩和(金融ビックバン)で構造改革。
・スウェーデンは「企業は救済せず、個人を守る」で高福祉国家。①国内市場のオープン化②女性活用③個人への高課税が特徴。
・資本主義には直接金融(株式、社債)が主流の英米型と間接金融(銀行)が主流の独仏型がある。近年は流動性が高い英米型に傾斜。
○東アジア経済
・中国は地域格差、資産バブル、環境が問題。
・先進国は資本集約的産業(鉄鋼、造船など)、後進国は労働集約的産業(繊維など)で分業。
・「中所得国の罠」には高度人材の育成が重要。少子高齢化には①高齢者の就労②女性活用③社会保障の効率化が重要。
・東アジアの急成長は労働者の移動や多国籍企業間の競争による。ASEANの急成長は共通通貨がドル、共通言語が英語による。
・97年ドルペッグ固定相場制により債務が増加し通貨危機に。変動相場制に変わり輸出が回復し危機脱出。韓国はこの経験から最も財政規律を守る国に。
・78年中国は「改革開放」を開始。経済特区に外国資本で工場建設。国営企業の半数を民営化。沿岸部と内陸部で地域格差がある。
・都市国家シンガポールは能力主義を徹底。港湾業→石油化学→エレクトロニクス→金融業と円滑に産業転換。社会保障は給与の2割を強制積立。
・豪州は鉱業・農業が主要産業。83年ホーク首相は構造改革(関税引下げ、増税なき財政再建-年金支給年齢の引上げ、公的/民間医療保険の併用)。
○日本が学ぶもの
・反グローバリズムは①農業保護②雇用安定③米国からの保護が要因だが誤り。グローバリズムは消費者の利益。
・「市場も失敗するが、政府も失敗する」ので市場と政府の適切な組み合わせが重要。
・地域格差には道州制などの地域分権で対応。労働市場の流動化は解雇ルールの明確化で対応。少子高齢化には移民や高齢者の就労で対応。需要が増加する介護サービスはビジネス機会。