『シェール革命後の世界勢力図』中原圭介(2013年)を読書。
シェール革命の影響を解説。
米国は復活し、ロシア、ブラジルなどの資源国は凋落。中国は所得格差で内乱の恐れがある。欧州の不況は続く。日本はシェールガス輸入で恩恵を受ける。
お勧め度:☆☆(読み易く、この著者の予想は当たる)
キーワード:シェール革命、エネルギー価格、物価下落、デフレ、米国、ロシア、ブラジル、中国、インド
○プロローグ
・欧州は三重(銀行、国家、家計)のバランスシート悪化、日本は二重(企業、銀行)のバランスシート悪化で長期不況に。日本の金融緩和は失敗する。
○米国の一人勝ち
・住宅バブル崩壊で家計のバランスシートが悪化。12年には住宅価格が上昇。銀行の貸出残高も増加。13年には雇用者数もリーマンショック前に戻る。中国は賃上げ、一方米国は賃下げにより製造業の国内回帰が進む。中国には技術流出、内乱のリスクもある。
・シェール革命により天然ガス・石油価格は下落し、化学・鉄鋼・農業などあらゆる産業に波及する。
○産業への影響
・米国では発電コストが最も安価なガス火力発電所の建設が増加。輸送部門でも液化天然ガス(LNG)で走る機関車や圧縮天然ガス(CNG)で走るトラックがある。石油ではなくシェールガスからエチレン(化学製品の基礎原料)を作る工場がある。
・シェールガスの採掘が先行したが、シェールガスが安価になたっためシェールオイルに移行している。メジャーがシェールガス、中小企業がシェールオイルを採掘する傾向にある。採掘技術は進歩している。
○復活はデフレで
・米国は天然ガスは15年、原油は17年に世界一の生産国に。天然ガス価格の下落で石油・石炭価格も下落。中東から輸入していた天然ガスは欧州に流れ、高価なロシア産は排除される。玉突きで世界的にエネルギー価格は下落。石油社会はガス社会に移行する。
・シェール革命による石油価格の下落で農畜産品価格も下落する。あらゆる物の価格が下落する。米国は無謀な金融緩和がエネルギー・鉱物資源・穀物の価格を押し上げていたが、健全なデフレになる。
○デフレと不況は無関係
・デフレ=不況は間違い、デフレの80~90%が好況。産業革命期は石炭価格の暴落でデフレだった。クルーグマン教授が提唱したインフレ目標政策は間違っている。インフレになっても企業は簡単に賃上げせず格差が拡大(米国の低い労働分配率が証明)。
・日本は物価以上に所得が下がる「悪いデフレ」。米国は物価は上がるのに所得が下がる「悪いインフレ」。
・日本は金融緩和で2%のインフレになると潜在成長率が1%の国民生活は傷む。紙幣によりお金の供給が容易になった。金融緩和は金融業が儲けるため。
○資源国は苦境に
・米国の軍事的・経済的関与は原油安で中東から離れ、東アジアに移る。サウジアラビアの原油損益分岐点は90ドル。これを切ると政治的混乱が起こる恐れが。
・石油ガス産業に依存するロシアは凋落する。米国支援のシェールガス開発でウクライナは親米に。
・ブラジルは資源価格高騰の影響を最も享受。大量の資金流入で過剰信用に。鉄鉱石の価格が下落すると経常赤字になり資金が流出し、不良債権が発生する。
・シェール革命はインフラが不整備のインドにとってはメリット。ただしカースト制が存続し、人事に注意。
○二極化
・中国のジニ係数は0.61と高い(警戒ラインは0.4)。シャドーバンキング(理財商品など)も横行。リーマンショック後の過剰投資で過剰設備。国民の不満を経済成長で逸らしていたが望めない、最悪の場合内乱の恐れが。環境コストもあり中国の投資リスクは高い。
・欧州は三重(銀行、国家、家計)のバランスシート悪化で長期不況に。中軸国フランス、イタリア、スペイン、オランダが景気低迷(FISH問題)。
・シェール革命の負け組はロシア、ブラジル、中立は中国、勝ち組はインド。今後高度成長が期待されるのはASEAN。
○日本
・日本の最大輸出国は付加価値貿易では中国ではなく米国で、日米は緊密。米国のシェールガス価格は2ドル、日本が輸入する天然ガス価格は15~18ドル。シェールガスの日本への輸出が認可されると日米双方に利益。
・TPPは日本にとって有益。基本的に自由貿易は、富裕層・中間層の消費財を作る先進国に有利。
・シェール革命に日本の技術(採掘素材、ガス火力発電など)は不可欠。ホンダは圧縮天然ガス車(CNG車)を北米で販売。ただし将来は燃料電池車が注目される。
○エピローグ
・日本は財政危機が起こる可能性はあるが、消費増税が可能のため財政破綻は起きない。
・日本はデフレで低成長になったのではない、潜在成長力を引き上げるのが政府の一番の役目。