『アラブ革命はなぜ起きたか』エマニュエル・トッドを読書。
近代化を識字率、出生率から解説。アラブ革命を必然とし、近代化の途上とする(英仏の革命も数世紀を要した)。
最近、事件ではない観点(都市国家、宗教改革、国家教育、階層など)から歴史を解説する本を読んだが、何れも面白かった。
他著『文明の接近』も読みたい。
お勧め度:☆☆☆(ユニーク。翻訳で少し難読)
キーワード:人口統計学、識字率、出生率、近代化、アラブ革命、人類学、家族構造、権威/平等
○刊行の経緯
・アラブ革命に対しイスラム恐怖症が起こるが、著者は人口統計学から冷静に分析。
○予見
・若者による街頭革命(アラブ革命)は当然の事。しかし老化した欧州は理解できない。
○識字率、出生率
・歴史は経済が動かすとの脅迫があるが、最大の推進力は読み書き能力(識字率)。出生率は女性による出生の制御を意味するが、人口統計学では常識の指標。
○イラン革命
・1979年王政転覆前に識字率50%を達成。革命で一気に民主化する訳ではない。外圧がなければ中東で最初の民主主義国家になった。イランでは革命後に出生率が低下。これは若い女性の地位向上を示す。
・近代化には識字率/出生率と家族構造が大きく影響。
○内婚制
・アラブ圏の内婚制(いとこ同士の結婚)は反近代的。チュニジア、エジプトは共に識字率は高く、内婚率は急落傾向にあった。
○予言
・著者は歴史家、人口統計学者で予言者でもある。
○アラブ圏
・仏領マグレブ(モロッコ、アルジェリア、チュニジア)は独立後に出生率が低下。リビアは移行期で古典的現象(虐殺など)が発生。アルジェリアはアノミー(無統制)社会で暴力的。革命は納税拒否から起こるが、サウディアラビア、リビアは産油国で国民に非依存。
○イスラム教
・イランの出生率2は脱イスラム教を表す。イスラム教にはスンニ派とイランなどのシーア派があるが、シーア派は「世界は不正」が世界観で革命的。
・イスラム圏でも中東は父系社会だが、インドネシアは母系社会。実はマホメットの考えは男女平等であった。
○老化西欧
・西欧の危機は老化(出生率低下)と宗教不在。アラブ圏の父系社会は権威的ではなく慈悲深い。
○中国、ロシア
・移行期にはナチスなどの危機が発生する。中国は権威主義で男女比率、輸出依存など多くの問題がある。
○ドイツ
・ドイツ、日本などの直系家族は権威主義でナチスなどの独裁を生んだ、また不平等主義で自民族中心主義。ドイツは普遍主義を取れず利己主義。ロシアはドイツと異なり自力で全体主義を捨て、その点は評価される。仏国は家族構造から自由・平等を尊重する(普遍主義)。
○進歩
・近代化には家族構造や隣人関係などが影響する(人類学)。しかし英国/北米/豪州、日本/ドイツ/北欧、ロシア/中国など家族構造で同様な結果に。
・人類は文字の発明/識字化、出生制御など着実に進歩。著者は歴史にて経済は副次的と考え、経済学より人類学に関心。
○アラブ革命
・近代化(民主化)は仏国型、日独型、ロシア型、中国型など多様で一つに収斂しない。
・アルジェリアは仏国の植民地になり攪乱された。エジプトは元々女性の地位が高く、典型的なアラブ社会(父系社会)ではない。リビアは産油国で国民抑圧機関があった。
○トッド人類学
・家族構造には①平等主義核家族②絶対核家族③直系家族④外婚制共同体家族⑤内婚制共同体家族などがある。核家族は親から独立し自由主義だが、兄弟で平等に遺産相続する①平等主義核家族(仏国)と不平等な②絶対核家族(英国、米国)がある。③直系家族(日本、ドイツ)は相続者が家に残り、権威主義・不平等主義になる。④外婚制共同体家族(ロシア、中国)は息子は共同体に残り、兄弟で平等に遺産相続、よって権威主義・平等主義(共産主義)になる。⑤内婚制共同体家族(アラブ圏)は共同体内で結婚する。
・著者は経済より心性の進歩を重視。心性は「人類学的基底」で決まる。それは家族・親族・隣人・教師などの総体で家族構造が核心。
・男性識字率が50%を超える(識字化)と移行期に入る(英国革命、仏国革命、ロシア革命)。2030年頃アフリカの識字化で近代化が終わる。
○訳者解説
・西洋はチュニジア、エジプト、リビアの革命でイスラム恐怖症に取り憑かれたが、何れも非宗教的だった。著者はイスラム圏の人々も普通の人(普遍的な人)と考える。
・著者は幼児死亡率からソ連崩壊を予言。「世界の多様性」を認め、様々な民主化を容認。