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『半市場経済』内山節、細川あつし、杉原学、梅田一見を読書。

近年、資本主義の弊害が問われている。その原因は事業性ミッションの追求にあるとし、改善方法(社会性ミッションによる共創)を提唱。
著者によって論述に違いがあるので少し難解(特に最終章)。

お勧め度:☆☆

キーワード:事業性/社会性、創業、創造、エシカル・ビジネス、オウエン、時間、多職、ソーシャル・イノベーション、資本主義、経済格差、非正規雇用、環境破壊、使用価値/交換価値、新結合、ソーシャル・エンタープライズ、半市場経済

○今の変化
・近年利益の最大化を目的とするのではなく、「よき社会」を作るビジネスが創造されている。その経済活動を本書では「半市場経済」と呼ぶ。
・戦後人々は農村から都市に出て「縁」を結び直した。しかし新たに結んだ企業、国、市場との新しい「縁」が失業、社会保障、不満足で崩壊しつつある。今はもう経済成長にしがみ付くのではなく、経済と社会の在り方を模索すべきで、社会/経済/生き方を一体的に構想する必要がある。
・経済理論は国富を追求する意図から生まれた。
・経済システムを作るには志(ミッション)が必要であるが、今はそこに社会性が要求されている。

○経済、労働とは
・労働者は非正規雇用が1/3を占め企業から容易に解雇され、労働者は労働内容に満足できず、経済(企業)と労働が分離し、労働は単に道具になってしまった。人には居場所が必要で、そこで充足感が得られる。その居場所を創造する動きが、今各所で見られる。
・近代化は政治的には国民国家、社会的には市民社会、経済的には資本市場経済の形成である。かつては国家/社会/経済は一体化していたが、今はそれぞれが独自の理論で動き調和がなくなった。この原因は経済理論が倫理性を失った事にある。
・日本は創業が少ないと云われるが、米国は創業も多いいが廃業も多い。NPO法と会社法の唯一の違いは、帳簿上で非営利事業と営利事業を分ける事だけ。
・今は社会保障の劣化、不安定な雇用、劣化する市民社会、エネルギー問題、環境問題、戦争など問題が山積。新しい考え方は「境界」から生まれる説がある。現在と過去かから解を導き出す「伝統回帰」(現在と過去の融合)に注目したい。
・経済理論は市場原理主義とケインズ主義の間を揺れ動いてきたが、目的が経済成長から「よりよく生きる世界の創造」に変わりつつある。フェアトレードなどによって新しい関係を創造する人達が増えた。

○エシカル・ビジネス
・今はステークスホルダー(株主、従業員、顧客、社会)が意識されるようになった。企業が不祥事を起こした時の不買運動も日常的になった。「よいコト」「よいモノ」を求めるエシカル・ビジネス(エシカル=倫理的)も盛んになった。共感する人達でエシカル・ビジネスのネットワークが広がっている。
・エシカル・ビジネスは「社会性ミッション」「事業性ミッション」の両方を追求している。
・エシカル・ビジネスの例として、オーガニック・コットンの輸入から販売までの全過程をまかなう「アバンティ」、合法性確認材(フェアウッド)を使用した家具の開発・製造・販売を手掛ける「ワイス・ワイス」、組合が組合員の資産を管理する「佐呂間漁業協同組合」がある。組合員の資産管理の切っ掛けは保証人になってくれた町への恩返し。
・英国では19C初頭、エシカル・ビジネス・アントレプレナー(企業家)にオウエンがいる。オウエンは工場長になり労働者の就労条件を改善し続け、モラルと生産性を上げた。その後オウエンは独立し綿紡績工場の経営者となり、「性格形成論的経営」(児童労働撤廃、就業時間短縮、工場環境改善、社宅建設、社会インフラ整備)を実行。オウエンの児童労働の禁止、労働環境の改善、就業時間の短縮は1833年「工場法」として成立。
・もう一人第1次・第2次世界大戦間にデュアル・ミッションを追求した人に英国人ルイスがいる。英国は世界恐慌で大失業時代に入る。ルイスは百貨店の経営者になると利益を全社員で公平に配分すると宣言。地主/資本家/労働者の3階層時代に全株式を従業員が持つ会社に変えた。幸福な従業員はお客様を大切にし、今でも取引先・地域と良好な関係を築いている。
・エシカル・ビジネスは「よいコト」を少しづつ始める事でよい。エシカル・ビジネスの仕組みとして「コーオウンド・ビジネス(従業員所有事業)」「非成長型ビジネス」がある。

○充足感のある時間
・今は未来を重視し過ぎ、現在を希薄化させている。江戸時代は必要な時に働き、珍しいものがあれば群衆が集まった。今は時間を労働と云う商品で切り売りしている。この労働形態は時間(時計が刻む時間)を導入した事で生まれた。明治初期、学校制度に反対する暴動が多発した(伊勢暴動など)。今は「時間の私有」を嫌い「時間の共有」を好む若者が表れてきた。
・「自立」とは一つに依存する「就職」ではなく「依存先を増やすこと」。
・「飛脚の加藤」さんは徒歩による運送サービスを始めた。今は兵庫県生野町にて野菜の行商など「多職」な働き方で地域住民の信頼を得ている。
・鈴木さんは東京都檜原村でゲストハウス「へんぼり堂」を営む。「へんぼり堂」では毎週末、村のお年寄りを「師匠」として招き、イベントを開いている。
・友廣さんは半年ほど農山魚村を旅し、都市と農村をつなぐのが自分の役割と実感、「つむぎや」を興す。牡鹿半島の鹿の角でアクセサリーを作り全国で販売している。

○ソーシャル・イノベーション
・暴走する市場経済・マネー資本主義は経済格差、非正規雇用の拡大、環境破壊、コミュニティ崩壊などの問題を起こした。
・経済学者センはウェルビーイング(幸福)の指標として①物質的状況②生活品質③持続可能性を挙げた。またウェルビーイングは「社会的結束性」を高める事が目標で、それには①社会的包摂②社会関係資本③社会的流動性が必要とした。
・またセンは経済学が倫理学・政治哲学から切り離されたのが問題で、経済学に「善」を結び付ける必要性を提起。利己心は社会秩序を乱すリスクで、それに対し「同感・共感」「徳」が必要とした。
・アダム・スミスは価値を使用価値と交換価値に分けた。使用価値は実際に消費者が使用して得られる価値、一方交換価値は市場で交換される事で生じる価値。交換価値をベースとした市場原理主義が行き詰り、今こそ実体的有用性である使用価値を見直す時期である。
・イノベーションは「新結合」から生まれる。能、だしは「新結合」から生まれた。オバマ大統領はエジソンの電球、ベルのトランジスター、GEのジェット・エンジン、フォードの自動車、アマゾンの販売方法を「新結合」の事例として挙げた。
・資本主義で寡占化が進み官僚的になり活力を失う、しかし未開拓の分野ではイノベーションの出現が必然的となる。世界は貨幣経済(交換価値)に翻弄されているが、地域では社会的弱者支援、コミュニティ再生、再生可能エネルギー開発などのソーシャル・イノベーションが萌芽し始めている。
・イノベーションを起こす「志」は①社会的価値②事業的価値③個人的価値の中から生まれる。
・マイクロ・クレジットのグラミン銀行創始者ユヌスは利益を株主に配当せず再投資するソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)を紹介した。

○半市場経済
・経済には①市場経済②半市場経済③非市場経済がある。②半市場経済は市場を活用しているが市場原理だけで営まれない経済。原理が強くなるほど単純化され①市場経済に近づくが、それは劣化である。人間関係が強くなるほど③非市場経済に近づく。ソーシャル・イノベーションを起こすには②半市場経済を拡大する必要がある。

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