『鉄条網の歴史』石弘之、石紀美子を読書。
鉄条網に関係する戦争、人種差別/民族紛争、自然などを解説。関連する小説や映画が所々で紹介される。
100年位の間に様々な問題があった事が分かる。米国の砂漠化や南米での先住民絶滅は知らなかった。西洋人の残虐性を再確認した。
自然破壊の最大の要因は人と家畜です。
お勧め度:☆☆☆
キーワード:鉄条網、西部開拓、砂漠化、塹壕戦、強制収容所、ホロコースト、アパルトヘイト、ボスニア、ベルリンの壁、イスラエル、米国/メキシコ国境、中国/北朝鮮国境、タイ、先住民、インディアン、インディオ、ケニア、アボリジニ、軍事境界線、チェルノブイリ
○まえがき
・鉄条網の特許は米国では1867年に最初に取得された。外敵からを守るのが目的だったが、戦場などでも使用される様になる。1874年イリノイ州のグリッデンが鉄条網の特許で巨額の利益を得る。
○西部開拓
・米国への移民は3波あった-1840年代(アイルランドから)、1880年代(東欧・中欧から)、20C初頭。
・開拓の最前線(フロンティア)は、1776年独立時はアパラチア山脈の東部だったが、1783年にミシシッピ川を超え大平原に達し、1848年カリフォルニア州割譲でほぼ終結。
・1862年「ホームステッド法」で農民に160エーカーを与える。農民は農作物を家畜から守るため鉄条網を設置。1880年代ロングホーン種の放牧が盛んになり、農作物を守る農民と「放牧の自由」を主張するカウボーイの衝突が激しくなる。映画『シェーン』のシェーンは農民に雇われたガンマン。農民が優遇されるようになり20C初頭にはカウボーイは消える。
○砂漠化
・1869年東西から建設した大陸横断鉄道が繋がる。牛の飼育は放牧から牧場に変わった。牛によって植生が食べつくされ、表土が露わになった。農家は地下水を汲み上げ灌漑を行い、機械化で開墾も容易になり農地が拡大。
・1930年代に入ると砂嵐(ブリザード)が多発する様になる。1935年の砂嵐は東部のニューヨーク、ワシントンまで砂塵の被害が及んだ。1937年ローズベルト大統領は防風林の植林や放牧規制を始める。
○塹壕戦
・1889年米西戦争でスペイン軍が鉄条網を使用、これが鉄条網の最初の軍事利用。1899年第2次南アフリカ戦争(ボーア戦争)でもアフリカーナー軍(ボーア軍)が陣地を守るため鉄条網を使用、機関銃との併用は有効であった。1904年日露戦争では機関銃、鉄条網、塹壕、地雷が使用された。
・1914年第1次世界戦争では本格的な塹壕戦となる。対塹壕戦で戦車が使用されたが、故障が多かった。『西部戦線異状なし』がベストセラーに、『戦場のマリア』がアカデミー賞にノミネートされる。
・1939年ノモンハン事件は日ソ間の近代戦。
○強制収容所
・1768年ロシア帝国に対するポーランドの反乱で、反乱者を収容したのが強制収容所の最初とされる。
・19C末スペインは独立を要求するキューバ人を収容、これは米西戦争の起因となる。
・ダイヤモンド、金を産出する南アフリカでは、アフリカーナー(ボーア人)が先住民を駆逐しトランスヴァール共和国、オレンジ自由国を建国。英国はアフリカーナーとの間に1881年第1次南アフリカ戦争、1899年第2次南アフリカ戦争を起こす。英国は捕えたアフリカーナー16万人をセントヘレナ島に強制収容する。
・ドイツは南西アフリカ(現ナミビア)で先住民を強制収容。
・1936年スペイン内戦でフランコ軍に敗れた人民戦線側は20万人が投獄され、5万人が死刑判決に。『誰がために鐘は鳴る』ヘミングウェー、『希望』マルロー、『ゲルニカ』ピカソなどの作品が作られる。
・第2次世界大戦時ドイツはダッハウ(ミュンヘン)、アウシュビッツなどの強制収容所で、ユダヤ人、ロマ人、同性愛者、心身障害者、エホバの証人など1千万人を虐殺(ホロコースト)。捕虜収容所では映画『大脱走』が作られた。
・1950年代ソ連では「反革命分子」を収容する強制収容所が作られ1800万人が収容され、また別に600万人がシベリアなどに流刑となった。シベリアのコルイマ収容所では鉱山労働などの重労働を課した。日本、ドイツ、イタリアなどの捕虜やバルト3国、ポーランドなどの政治犯も収容し、重労働を課した。
・第2次世界大戦時米国は日系人を強制収容。日系人は乾燥地帯に作られた強制収容所で野菜・果実の栽培や家畜を飼い生活した。志願者は欧州戦線で戦った。カナダでも同様な措置が取られた。
○民族対立
・1948年南アフリカでアパルトヘイトを掲げた国民党が勝利。アパルトヘイトは白人(アフリカーナーを含む)、カラード(白人との混血)、アジア人、黒人を隔離する政策。人口の3/4を占める黒人は国土の1割程の不毛の乾燥地(ホームランド)に隔離された。大都市周辺には黒人居留地(タウンシップ)が作られた。1976年ソウェト(ヨハネスブルク近郊の黒人居留地)での蜂起で国際批判が高まり、1991年アパルトヘイトが廃止される。しかし失業・貧困・犯罪・アルコール依存・エイズなどの問題は解消されていない。『遠い夜明け』はアカデミー賞にノミネートされる。
・1991年ユーゴスラビア(セルビア)からスロベニア、クロアチアが独立を宣言、それぞれセルビアと戦争になる。ボシュニャク人(イスラム教)とセルビア人(正教)が混在するボスニアも1992年独立を宣言、セルビアとボスニア戦争になる。セルビア人の残虐行為(虐殺、監禁、レイプ、放火、略奪など)が世界的に非難される。『サラエボの花』は映画祭で多くの賞を受賞。『女性と戦争と平和』なども話題に。現代の戦争は国際世論を味方に付ける情報戦も重要。
○国境
・1961年人口流出に悩む東ドイツは「ベルリンの壁」を作る。1989年ハンガリー、オーストリアが西ドイツとの国境を開放し、東ドイツは意味をなさなくなった「ベルリンの壁」を開放。「ベルリンの壁」は二重でウサギが棲みつき、それを題材にした『ベルリンのウサギたち』がアカデミー賞にノミネートされる。
・1967年イスラエルは第3次中東戦争でヨルダン川西岸、ガザ、ゴラン高原、シナイ半島を占領。占領地に分離壁を建設しパレスチナ人を囲い込んだ。脳死により民族を超えイスラエル人に心臓を提供した話が映画『ジェニンの心』になる。
・米国とメキシコとの国境は3141Kmあり、毎年3億5千万人が合法的に入出国しているが、密入国が問題になっている。さらに西部(カリフォルニア州、アリゾナ州)では麻薬の密輸が問題になっている。フェンスが設置(建設中・計画を含む)されているのは国境の1/3に留まっている。
・中国と北朝鮮との国境では、北朝鮮は脱北を阻止するため鉄条網を設置。一方中国も北朝鮮崩壊時の難民を警戒し鉄条網を設置。中国は一人っ子政策で女性が不足しており、女性の脱北者は庇護している。
・タイ南部はイスラム教徒が多数を占め、イスラム過激派ジェマ・イスラミアが活動。タイはマレーシアとの国境に鉄条網を建設。
・他にインドのカシミール地方、西サハラなどで国境紛争がある。
○先住民
・米国では白人の入植で先住民(インディアン)が同化または西方への移住を迫られた。1838年東部に住んでいたチェロキー族のオクラホマ州への移動は有名。大平原に住んでいた先住民(スー族、シャイアン族、コマンチ族、ナボホ族、アパッチ族)も強制的に移住させられる。1千万人居たとされる先住民は95%が失われた。先住民の居留地は今でもあるが、貧困・幼児死亡・自殺・失業などが問題になっている。約5千万頭生息していたパイソンも542頭と絶滅寸前になる。映画『折れた矢』『小さな巨人』『ソルジャーブルー』『ラストサムライ』などが作成される。
・南米のカイオワ族(インディオ)はポルトガル・スペインの奴隷狩りを免れ森林に逃げるが、1970年代牧場・農場開発で森林が焼き払われる。鉄条網に囲まれた居留地で生き延びたが、乳幼児死亡・自殺・アルコール依存などが問題になっている。『ミッション』がアカデミー賞とカンヌ映画祭グランプリを獲得。
・ケニアは高地のため気候が温暖で白人が入植。白人は先住民(キクユ族、ナンディ族、マサイ族)を追い出し肥沃な土地を独占し、コーヒー、紅茶、サイザル麻、トウモロコシをプランテーション。1963年マウマウ団の反植民地闘争で独立するが、今日では首都ナイロビで先住民が住むスラムの強制撤去が行われている。
・オーストラリアでは母から強制的に切り離された先住民(アボリジニ)の姉妹が映画『裸足の1500マイル』になる。タスマニア島の先住民約4千人は絶滅させられた。
○自然
・南北朝鮮の軍事境界線はそれぞれ2Kmが緩衝地帯になり自然が回復。絶滅が危惧されるジャコウジカ、アムールヒョウ、ユーラシアカワウソ、アムールゴーラルなどの生息が確認されている。
・チェルノブイリ原発の半径30Km圏内は立入りが禁止されている。ネズミ、ノロジカ/ヘラジカ、イノシシ、オオカミ、ヒグマなどの野生生物が回復。馬の祖先と考えられているモウコノウマやヨーロッパバイソンの復活が計画されている。ただし放射能の生態系への影響が懸念される。
・福島原発事故により漁や養殖が中断されたが、再開後は漁獲量が増えた。