『経済学の3つの基本』根井雅弘を読書。
経済成長、バブル、競争(独占、価格)に関する経済理論を解説。
著者は経済学の多様性を認めており、複数の理論を紹介。特にガルブレイス、ミンスキーなど異端派の理論を多く紹介。
お勧め度:☆☆(専門的だが中々面白い)
キーワード:経済成長、ケインズ、ガルブレイス、限界効用、ミシャン、外部不経済、費用、ミル、定常状態、ピグー、マーシャル、人間性、バブル/ブーム、ミンスキー、競争、シュンペーター、イノベーション、ベイン、独占、合併、古典派、利潤率、自然価格、ワルラス、需要と供給の均衡、市場価格、スラッファ
○経済成長
・貧しかった日本は「経済成長」=「豊かさ」だったが、今はそうではない。金銭的評価が不可能な環境破壊などが起きた。
・ケイジアンは様々な成長理論を構築したが、短期と長期の投資に注目した「ハロッド=ドーマーモデル」は有名。
・異端派のガルブレイスは「消費者主権」(消費は消費者が主導する)が主流の時、「依存効果」(消費は企業が宣伝などを駆使する事で作られる)を唱える(※マーケティングだな)。また生産者が作り出した需要なので「限界効用」はゼロとした。
・ミシャンは環境破壊などの「外部不経済」が起きており、何が費用で何が費用でないかを再考する必要があると説く。
・古典派ミルは産業的/社会的/文化的には発展するが利潤がゼロになる「定常状態」に至ると考えた(※何か当ってる)。宇沢弘文は「定常状態」を「持続的発展」と読み替えた。
・平川克美は経済成長至上主義は個々が日常の生活に喜びを感じる「縮小均衡」に変わると説く。
・ピグーは環境破壊などの外部不経済があり、「社会的費用」と「私的費用」の乖離があるので、企業に「ピグー税」を課す事を考案(※炭素税があるな)。
・ケインズの師匠マーシャルは経済学は「富の研究」と共に「人間の研究」とし、企業/労働者の「人間性」の成長に期待した。彼は「余暇」の過ごし方を重視した。
・吉川洋はケインズの「有効需要」とシュンペーターの「イノベーション」の統合を目指した。
○バブル
・1985年プラザ合意による円高不況を避けるため日銀は「超低金利」政策を採り、株・不動産バブルとなる。
・ガルブレイスは『大暴落1929』でバブルは「時代の空気」が作るとした。またバブルが繰り返される原因は①金融に関する記憶は短い②お金が成功の尺度とし、防止策は唯一「高度な懐疑主義」とした。著者は「高度な懐疑主義」を高く評価。経済学では「市場信仰」や新古典学派の終着駅である「リアル・ビジネス・サイクル理論」が揺るぎない。
・フィッシャーは大恐慌の反省から「負債デフレ論」を説く。
・ポスト・ケイジアンのミンスキーは「金融不安定性仮説」を説く。クルーグマンは「レバレッジ」に注目したと彼を評価。彼はキャッシュ・フローから金融ポジションを「ヘッジ金融」「投機的金融」「ポンツィ金融」の3段階に分けた。さらに「企業の債務構造の規制」を提唱した。
・ケインズは「ブームの崩壊」は「資本の限界効率の崩壊」にあるとした。
○競争
・経済学では「競争概念」が必ず登場する。「競争」は「資源の最適配分」を達成すると共に、技術革新(イノベーション)も促進する。
・シュンペーターは静態的な「一般均衡理論」で「資源の最適配分」は認めたが、「イノベーション」は動態論で最も重要とした。資本主義で重要なのは生産方法が不変での「競争」ではなく、新商品/新技術/新供給源泉/新組織型からくる「競争」とした。成功者の独占的地位は、模倣者が出現するので一時的とした。
・ベインは「産業組織論」で「市場構造」「市場行動」「市場成果」のパラダイムを確立し、独占の排除を強く主張した。
・1960年代の大型合併(八幡・富士製鉄など)に近代経済学者グループは異を唱えたが、財界・官界には過当競争を排除し、コスト削減・イノベーション促進を図ろうと考える人が多くいた。両者の対立は「コンスタビリティ理論」(新規参入が可能であれば規制は不要)により解消された。
・古典派(スミス、リカード、ミルなど)では「競争」は産業間で資本の移動が妨げられない事とし、これにより全産業で均等な利潤率になり、市場価格は自然価格(中心価格)に収束するとした(均衡状態)。
・新古典派(マーシャル、ワルラスなど)では、当初はマーシャルの需要と供給で均衡する「部分均衡分析」、その後はワルラスの「一般均衡分析」へと進展した。
・異端派のスラッファは価格は一時的諸力(需要と供給)で決まる市場価格ではなく、古典派と同様に持続的諸力(生産方法による利潤率)で決まる自然価格とした。
○あとがき
・学問は経済学を含め短期間では習熟できない。また経済学には多様な経済思想が存在する。