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『先送りできない日本』池上彰(2011年)を読書。

日本には先送りできない課題が多くあると言っています。
事象を理解するだけでなく、「考える事」が重要と書いています。

お勧め度:☆☆(要点を捉えており理解し易いが、情報が少し古い)

キーワード:課題、大震災、グローバル化、GATT/WTO、EPA/FTA、TPP、農業、保護政策、農業委員会、農協、通貨危機、ガラパゴス化、チャイナ・リスク、漁船衝突事件、ASEAN、インド、マーケティング、国債、消費増税、政治主導、事務次官会議、政局報道/政策報道、考える事

○まえがき
・日本は課題を多く抱えているが、大震災で先送りは許されなくなった。原発が停止すると発電量が3割減る。これは1989年の発電量に相当する。経済面では震災により供給力が損なわれ、インフレに向かう可能性がある。
・震災により円高となったが、これは海外資産を多く持っている日本への信頼の表れ。

○グローバル化
・冷戦終結で人件費が下がり、「経済のグローバル化」が始まった。
・貿易に関する枠組みにGATT/WTO、EPA/FTAがある。GATTウルグアイ・ラウンドで「ミニマム・アクセス」(自由化しない品目は、一定量を輸入する)が設けられた。ドーハ・ラウンドでは「セーフガード」(緊急輸入制限措置)が認められた。
・2001年中国がWTOに加盟。これが世界に与えた影響は大きく、日本の産業は「空洞化」した。
・韓国はFTAで先行し、FTA比率は36%(日本は16%)。日本のTPP参加は重要な課題。※先日EUとEPAで枠組み合意した。

○TPP
・TPP反対の要因に農業問題がある。TPPにより食料自給率の低下が考えられる。しかし米国の鉄鋼/自動車を見ると、保護政策は最終的に競争力を失わせる。
・日本の農家は農業政策に振り回された。「食糧管理法」で米を増産していたが、1969年一転して「減反」に転じる。「減反」に反対する意欲的な農家は「ヤミ米」を生産していたが、「自主流通米」として認められる。
・各自治体毎に設置される「農業委員会」が新規参入を妨げている。※知らなかった。
・2007年民主党の「戸別所得補償制度」も農家を混乱させた。
・「農業政策」は国の出先機関となり巨大な利権団体になった「農協」に対する「農協政策」になっている。

○国が変わる
・1997年ヘッジファンドはタイで「通貨危機」を起こし、大儲けする。韓国も同様に「通貨危機」に陥るが、IMFの支援で切り抜ける。この危機で韓国はグローバル・マーケットに目覚め、「貿易自由化」と「農業支援」を同時に推し進めた。一方日本は国内市場に高性能の携帯電話を供給する事で満足した(ガラパゴス化)。
・日本の金融機関は80年代までは「護送船団方式」であったが、「金融ビッグバン」により3メガバンクに合併され、国際競争力を付けた。
・1998年小渕内閣の時、信用保証を緩めたが結局倒産し、国民の税金が不良債権になった。2009年亀井金融担当大臣が「モラトリアム法」を通したが、「経済政策」で企業を救済すべきではない。社長個人に保証を求める融資制度に問題がある。

○中国
・2010年尖閣での「漁船衝突事件」で中国は「レアアース」を禁輸し、世界が騒然となる(チャイナ・リスク)。中国の「レアアース」が安価なのは環境対策が疎かのため。
・米国は「尖閣は日米安保の対象」と明言したが、これは「尖閣防衛の主体は日本で、米国はそれを支援する」の意味。
・ASEANは元々は反社会主義国で結成された。冷戦終結により10ヶ国となった。
・近年、反中国の立場からインドが注目されている。カースト制や貧困などの問題があるが、中国よりリスクは少ない。
・中国には多くの犠牲を出した「長征」「大躍進政策」「文化大革命」などがあった。中国問題の本質は人ではなく、国家にある。

○ものづくり
・ベータ方式、非接触型ICカード、DRAM、液晶ディスプレイ、アナログ・ハイビジョン技術など世界標準とならなかった日本標準は多い(ガラパゴス化)。
・米国ウォルマートではサムスン製テレビの方がソニー製テレビより高い。韓国家電は施錠できる冷蔵庫、懐中電灯が付いた携帯電話など「マーケティング」に優れる。
・日本企業は「スピード」と「語学力」に劣る。社内公用語を英語とする日本企業もあり、日本人を採用する必要性はない。
・中国の高速鉄道の技術は、JR東日本が中国への技術移転を認めた事による。
・砂漠の国では、頑丈でシンプルな自動小銃「カラシニコフ」やトラック「ランドクルーザー」が重宝される。
・新興国では世帯年収が1万ドルを超えると日本製が買われる。日本ブランドを維持する事は重要。
・南米で日本の地デジ方式が採用された。また米国では電気自動車の充電器の規格に日本方式が採用された。これらは明るい話。

○政治
・日本の国債残高は900兆円、ギリシャの国債残高は33兆円。日本が破綻しないのは国民の余剰資産が1000兆円(金融資産1400兆円-借金400兆円)あるため。しかし「団塊の世代」の引退で貯蓄額は減少しており、これ以上の借金は無理。
・政治の仕事は「再配分」。「事業仕分け」は派手だったが、目標額に達せず。2010年参院選で民主党/自民党共に「消費増税」を公約とするが民主党が惨敗。消費税10%は実は「焼け石に水」。民主党は「子ども手当」を掲げるが、「ばら撒き政策」と批判される。
・民主党は「政治主導」を掲げたが、政治家の役割は「如何に官僚を使うか」であって、「細かい所に口を出す」事ではない。田中首相は外務省の反対を押し切って「日中国交回復」を行った。竹下首相は世論に反対し消費税を導入した。
・縦割り行政では各省の「事務次官会議」が非常に重要。これで政策が決まる。
・メディアの報道には「政局報道」「政策報道」の2種類ある。需要なのは「政策報道」である。※参考になる。

○あとがき
・「いい質問」とは、説明できていない部分に問い掛けてくれる質問。
・知識欲と理解の好循環は重要。
・マイケル・サンデルが「本当にそうですか?」と執拗に問うのは、彼の学生時代の授業が面白くなかったから(ソクラテス・メソッド)。彼は「重要なのは記憶する事ではなく、考える事」と言う。※確かに、参考になる。
・国債、年金、教育、原発など日本には先送りできない課題が多い。

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