『歴史哲学への招待』小林道憲を読書。
書名の通り哲学的な内容で苦手な本。
本書の大筋は「歴史叙述は流動的で、現在の状況によりその内容が変わる」「歴史叙述は積み重ねであり、現時点でもその積み重ねが行われている」などです。
しかし最終章で「歴史は今の人の行為で変わる」と強く主張し、歴史への参加を強く要請しています。これが著者が一番訴えたかった事と思います。
抽象的論述が大半で、私としては具体例の方が楽しめた。
お勧め度:☆☆(若い人向け)
キーワード:歴史、変動、カオス理論、ゆらぎ、秩序/混沌、革命、保守/革新、世代、出来事/相互作用、偶然、分岐点、因果、自由、不可逆的、進化、崩壊/形成、創造/破壊、農牧革命/都市革命/精神革命/商業革命/科学革命/産業革命/情報革命、飛躍、部族国家/都市国家/古代国家/中世封建制・専制国家/近代国民国家/世界国家、原動力、認識、史料、仮説、主観/客観、過去/現在/未来、解釈、物語/芸術、終末史観/進歩史観、絶対/相対、創造、行為、英雄、天才/偉人
○変動
・第1次世界大戦はオーストリア皇太子殺害と云う偶然(道を間違え立ち往生し、たまたまそこに狙撃者がいた)から起こった。
・ソ連崩壊はゴルバチョフの「アルコール中毒者撲滅運動」から始まり、ペレストロイカ、グラスノスチ、ロシア独立へと展開した。
・ルターの行為(95ヵ条の議論)はカトリック教会への抗議であり、宗教改革を意図した行為ではなかった。
・歴史は秩序の安定と激変を繰返す(カオス理論)。
・幕末長州藩は「七卿落ち」「禁門の変」で守勢だった、「薩長同盟」と「第2次長州征伐」での勝利で倒幕に変わった。
・開放系では、それを構成する自己組織は外部からの変動にも内部からの変動にも自己を作り変える(自己組織化理論)。
・中国にも1860年「洋務運動」、1898年「変法自強運動」など革新者による「ゆらぎ」があった。
・歴史は「秩序と混沌」を繰返す。旧体制から新体制への変換は「革命」によりなされる。
・フランス革命の結果は当初から予期された物ではなく、共和制、恐怖政治、総統政府と展開した。
・政治革命には常に保守と革新の対立があるが、世代間の対立も重要である。
・歴史とは牧畜/農業、都市、科学、産業などの外部環境に対する自己改革による適応である。
・歴史は出来事の積み重ねで、その出来事の相互作用で形成される。
○偶然
・足利義政は世継ぎが生まれなかったので、弟を後継者に指名した。しかし翌年世継ぎが生まれ「応仁の乱」になる。もう少し早く世継ぎが生まれていたら戦国時代にならなかった。
・歴史は右に転ぶか、左に転ぶかで大きく変わる。
・進化論ではカンブリア紀に多細胞生物が爆発的に種を増やしたが、その後大半は絶滅した。
・歴史で「もしも」を考える事に意味はないが、「家光が鎖国令を出さなかったら」「関ケ原で小早川が裏切らず、西軍が勝っていたら」など分岐点が多い。
・歴史は非決定的に動くので「決定論」は成り立たないし、法則も当て嵌まらない。マルクスの予言(資本主義社会は共産主義社会に変わる)も的中しなかった。
・一つの歴史的事象には多くの原因があり、歴史は単純な因果関係ではなく、「多因多果」である。
・歴史は偶然に左右される。これは歴史が自由である事を表している。
・歴史は一通りしかなく、不可逆的である。
・これらの様に歴史は偶然によって創造されてきた。
○進化
・歴史はフランス革命を見られる様に、「崩壊と形成」や「創造と破壊」を繰返す中で進化する。
・中世から近世への移行期であるルネサンス期は、肉親でさえも殺害する残忍さがあった。
・歴史は革命(農牧革命、都市革命、精神革命、商業革命、科学革命、産業革命、情報革命など)により段階的に飛躍的に進化した。
・国家は部族国家、都市国家、古代国家、中世封建制・専制国家、近代国民国家と発展した。今日の近代国民国家は、さらに世界国家に飛躍しつつある。
・歴史を動かす力には技術、経済、社会、政治、文化、宗教がある。これらには変わり易い物と変わり難い物がある。
○認識
・歴史は歴史家が残された史料から推察するしかない。しかもその史料は過去の作成者が主観的に作成した物である。歴史家はこの史料から、自分の仮説にあった物だけを選択し歴史を叙述している。
・歴史は過去を語っているのではなく、今の視点で過去を見ているに過ぎない。時代が変われば過去の評価も変わる。
・歴史には個々の事件に対する個別的認識と普遍的認識があるが、個別的認識から普遍的な物を取り出したのが普遍的認識となる。
・歴史も科学の様に因果関係を単純化したいが、無限の要素が相互連関しているので、それは不可能である。※これを強く主張すると、歴史の存在意義がなくなる。
・「本能寺の変」の原因を「手勢の少なさ」(短期的)に求めても、「応仁の乱」(長期的)に求めても十分でなく、中期的に求めるのが妥当である。
・歴史家は自分の歴史観から仮説を立て、それに合った史料を取り出して、歴史叙述しているに過ぎない。
・科学ではパラダイム転換が起こると大変革が起こる(天文学で天動説が地動説に変わると、大変革が起こった)。歴史でも同様な事が考えられる。
・歴史家は主観と客観によって歴史叙述する。主観と客観を分離する事はできない。
・第1次世界大戦による欧州衰退により、歴史観は進歩史観から没落史観や循環史観に変わり、歴史の見方も大きく変わった。これは歴史の見方は、現在の状況に大きく左右される事を表している。
・古代/中世/近世の三区分法はルネサンスに始まり、今に続く。これは古代ギリシャを理想化するために生まれた。
○解釈
・過去の人物は、彼が生きた時代の歴史・社会・文化を反映している。また後に彼を解釈する時は、その時代の歴史・社会・文化を反映する。江戸時代の「歌舞伎」は、その時代の環境を反映し、『古事記』『日本書紀』に書かれている事には、その時代の環境を反映している。
・過去の人物を理解するには、それなりの経験が必要である。歴史家が経験を積むことによって、過去の人物を理解し歴史を解釈する事ができる。
・歴史解釈には「先行理解」が必要である。歴史解釈の全体は部分解釈から構成される。
・歴史家が歴史を解釈する事で歴史が形成される。従って歴史家自身も歴史に含まれる。
・「本能寺の変」を起こした光秀に対する評価も時代によって異なる。
・歴史的に田沼意次の政治は汚職政治として非難され、松平定信の「寛政の改革」は評価されてきたが、近年の世界同時不況で田沼政治が積極財政として評価されている(善悪の逆転)。
・歴史叙述は歴史家が立てた筋に基づいて作られた物語である。その意味で歴史叙述は歴史家が作った芸術である。フランス革命の終焉をどこに置くかによって、悲劇的にも喜劇的にもなる。
・中世にはキリスト教により終末史観があり、近代には啓蒙主義により進歩史観があった(歴史観)。マルクスは歴史を、生産力を原動力とする発展と考えた(唯物史観)。
・一つの歴史的事象もパースペクティブ(視点?)を変える事で解釈が変わる。よって歴史に絶対はない。
○創造
・長州は「第1次長州征伐」で幕府に敗北し恭順派が実権を握ります。しかし1864年12月高杉晋作はたった80人で功山寺で挙兵し、藩論を倒幕に転換させた。この様に歴史は行為によって変動します。
・645年6月中大兄皇子と中臣鎌足が蘇我入鹿を討つ事で、中央集権体制に変貌した。歴史は今の行為によって変わるのです。
・過去の歴史を顕微鏡的に見る事は、かえって未来の創造を失わせる。
・中世欧州は領邦国家に分裂していたが、カトリックと云う統一精神が存在した、これは今の欧州統合の参考になる。
・規定された行為ではなく、規定外の今の行為により歴史は変動する。カオスの渦中に身を投じ、行為する事で歴史が形成される。
・歴史の変動期にはアレクサンドロス/シーザー/チンギス=カン/ナポレオン/織田信長/豊臣秀吉/徳川家康/坂本龍馬/高杉晋作/西郷隆盛など英雄が登場する。一方ヒトラー/スターリン/毛沢東など偽英雄も存在した。
・宗教/芸術/科学/技術における天才/偉人も評価すべきである。仏陀/イエス・キリスト/ガリレイ/ニュートン/アインシュタイン/大塩平八郎/吉田松陰などがそれに該当する。
・政治であれ科学であれ、歴史における革命は個人の行為から始まる。
・歴史は行為により変動します。行為には自由があります。歴史は行為により形成されます。