『食品を科学する』村田容常、三森国敏、山添康、熊谷進、佐藤洋、石井克枝を読書。
食品を6つの主題(基礎知識、農薬、脂質、食中毒、メチル水銀、調理)に限定し解説。可成り専門的。
微生物は加熱すれば死滅する物もあれば、死滅しない物もある。逆に低温でも繁殖する微生物もある。この辺り複雑。
糖質、アミノ酸、ビタミンについて知りたかったが、それについては記述がなかった。
お勧め度:☆☆
キーワード:食品安全委員会、加工/調理、食品添加物、安全/ハザード、農薬、毒性試験、許容1日摂取量(ADI)、残留基準値(MRL)、脂質、植物油、トランス脂肪酸、吸収、親水性/親油性、食中毒、保健所、感染型/毒素型、予防、メチル水銀、水俣病、調理、おいしさ
○はじめに
・本書は「食品安全委員会」の賢人が編集。
○基礎知識
・人間は他の生物を食べる事で有機物(糖質、タンパク質、脂質)を取り込んでいる。
・農業にて人間は虫と植物を取り合い、農薬を使い、また雑草に対しては除草を行っている。
・江戸時代、享保/天明/天保などの飢饉が起きた。1993年大冷害が発生したが、餓死者は出なかった。
・「米」には籾殻が付き、また生では消化に適さないため調理が必要。「豆」には生では動物に悪影響の物質が含まれているため、納豆や豆腐に加工します。この様に食品には「加工/調理」が行われている。また食品には様々な目的で「食品添加物」が加えられます。
・食品には安全を脅かす「ハザード」が存在する。しかしこれを完全にゼロにする事はできない。安全を規制/監視/罰則で担保しているが、社会的コストを要している。
・10万人当たりの死亡者数を見ると、がん283人、心疾患155人に対し、食中毒0.003人と非常に少ない。
○農薬
・農薬は収穫を増すために使用される。DDTやBHCは安価で即効性があるため使用されていたが、人体に悪影響があり今は使用されていない。枯葉剤(TCDD)も今は使用されていない。
・農薬に対しは「毒性試験」(単回投与/反復投与/発生/生殖/遺伝/発がん性)が行われている。動物(ラット、マウス、ウサギ)による毒性試験で無毒性量(NOAEL)を求めている。生殖毒性試験では子孫への影響を調べ、遺伝毒性試験ではDNAへの影響を調べ、発がん性試験では腫瘍の発生を調べている。
・食品安全委員会は、毒性試験で求められた無毒性量(NOAEL)を安全係数(通常100)で割って、農薬に対する許容1日摂取量(ADI)を設定している。
・さらに厚生労働省は、その農薬を使用する全ての食品から、食品毎に残留基準値(MRL)を求めている。したがって食品毎の残留基準値(MRL)は無毒性量(NOAEL)の10万分の1から1万分の1の値になる。
○脂質
・糖質/タンパク質/脂質は3大栄養素。脂質はエネルギー源であり、ビタミンの吸収を助ける働きがあるが、取り過ぎると肥満/高脂血症/高血圧の原因になる。
・動物由来の脂質は古くから摂取していたが、植物由来の脂質の摂取は近年に始まった。それは植物油に含まれる脂肪酸は炭素数が20を超え、人体に有害(心疾患など)のため。しかし1980年代、長鎖脂肪酸を作らない菜種が見つかり、植物油の摂取が始まった。
・植物油は不飽和脂肪酸(炭素の2重結合がある)を多く含み、飽和脂肪酸(炭素の2重結合がない)に還元する時に「トランス脂肪酸」が作られます。この「トランス脂肪酸」は代謝し難いため、人体に残ります。※植物油は健康に良いと思っていたが逆かな。
・栄養素は①親水性(水に溶けて吸収)と②親油性(油に溶けて吸収)に分かれます。
・グルコース/キシロース(糖)、アミノ酸(タンパク質)、金属イオン、ビタミンCは①親水性で、必要量しか人体に吸収されません。
・一方グリセリド(脂肪酸)、コレステロールは②親油性で必要以上に人体に吸収されます。脂肪酸は肝臓を経ないで全身に送られ、脂肪になります。
・LDL(悪玉コレステロール)はグリセリド(脂肪酸)とコレステロールを全身に送り、HDL(善玉コレステロール)は逆にグリセリド(脂肪酸)とコレステロールを全身から肝臓に送る物質です。
○食中毒
・食中毒は微生物(細菌、ウイルス)を摂取する事で発生します。細菌は細胞からなり、ウイルスはより小さい粒子からなります。
・保健所は食中毒が発生すると「聞き取り調査/検査」を行います。「聞き取り調査」である程度の事が推定されます。「検査」は数ヵ月掛かる事もあります。
・保健所への報告では、件数ではカンピロバクター、ノロウイルスが多く、患者数ではノロウイルスが多い。
・食中毒には①感染型(生きた微生物の摂取による)②毒素型(微生物が作った毒素の摂取による)があります。①感染型には腸管出血性大腸菌、サルモネラ属菌、カンピロバクター、ノロウイルス、腸炎ビブリオがあり、②毒素型には黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌がある。
・腸管出血性大腸菌は結腸に接着し毒素を作り、その毒素が全身に回り、様々な箇所で障害が発生します。
・食中毒の予防には①汚染源に触れない②微生物を増殖させない③加熱による殺菌などがある。※しかし汚染源は微生物毎に異なり、増殖を抑制する条件(温度/pH/水分/酸素など)も微生物毎に異なる。
○メチル水銀
・水銀は常温で液体の珍しい金属。水銀は硫黄と結合し、硫化水銀として産出される。本章はメチル水銀について解説します。
・水俣病は大脳や小脳の神経細胞がメチル水銀により死滅する病気。
・1970年代イラクで飢饉が起こり、各国が小麦を援助した。その中にメチル水銀が含まれている小麦があり、6500人が中毒を起こした。その調査結果から毛髪中の水銀濃度が10ppmを超える辺りから胎児に影響が出る事が判明した。
・水銀は自然界に存在します。大型の魚を食べるマグロ<カジキ<クジラ<イルカなどは高い濃度で水銀を蓄積しています。※クジラ、イルカが岸に打ち上げるのは水銀中毒では。
・日本人の毛髪中の水銀濃度は平均2.1ppmです。水銀の耐容週間摂取量は2μg/Kgですが、日本人はマグロ/カジキの摂取量が多いため、8人に1人が超えている。
○調理
・食品は生産/加工/流通/調理の過程を経ます。生産では農薬/遺伝子組換え/動物用医薬品/肥料・飼料などのリスクがあり、調理では毒/微生物/添加物/化学・汚染物質などのリスクがある。
・「非加熱調理」で鶏肉に触ったり、切ったりする事で菌が拡散します。まな板/包丁やスポンジにも菌が付着する恐れがあります。
・ジャガイモの芽には有害物質のソラニンが含まれます。この物質は殺虫剤の成分です。※今日学校の授業で事件が発生していた。
・「加熱調理」には湿式加熱(煮る、蒸すなど)と乾式加熱(焼く、揚げるなど)があります。
・「おいしさ」には「味」と「テクスチャー」(柔らかい、シャキシャキしている、歯応えなど)があり。日本人は比較的、テクスチャーを重視します。加熱調理には「おいしさ」を増す他に、殺菌機能があります。
・野菜を加熱すると「あく」(硝酸塩)が出ます。
・卵黄の凝固温度は68℃で、卵白の凝固温度は72℃です。70℃で茹でると「温泉卵」が作れます。
・動物の気道/消化管には微生物が付着しています。肉には微生物は殆ど付着していませんが、加熱が必要です。ミンチは表面積が広いため、十分な加熱が必要です。ハンバーグを焼く時、「蓋」の効果は非常にあります。※電子レンジでラップするのも意味があるな。
・魚には腸炎ビブリオや寄生虫アニサキスが付着している恐れがあり、内臓を切り取った後、まな板/包丁の洗浄が必要です。また殺菌のための加熱時間にも注意が必要です。
・マグロ/サバなどの魚を常温で放置すると「ヒスタミン」が発生し、これを摂取すると食中毒になります。「ヒスタミン」は加熱しても分解されないので、保存方法が重要です。