『地図で読む「国際関係」入門』眞淳平(2015年)を読書。
国際情勢について書かれています。
特に目新しい事は書かれていませんが、多くの事が網羅され、今日の国際情勢を理解できる良書だと思います。
「地図で読む」となっていますが、地図は殆ど使用していません。
お勧め度:☆☆☆
キーワード:集団的自衛権、自衛隊、特定秘密保護法、財政赤字/所得格差、移民、人工知能/シェールガス、FTA/一帯一路/AIIB、高齢社会、識字率、EU/NATO、ウクライナ、税負担率、ASEAN、EU、ユーロ、ギリシャ債務危機、発展途上国の罠、グローバリゼーション、RCEP/APEC/TPP、世界金融危機、金融ビックバン、国際連合/安全保障理事会/平和維持活動(PKO)、非政府組織(NGO)、イスラム国(IS)、核兵器/サイバー戦争/ロボット兵器/宇宙空間、地球温暖化/温室効果ガス、安全保障/領土問題、超高齢化社会/貧困の連鎖、iPS細胞
○はじめに
・世界には超大国米国/経済発展した中国/国際機関/非政府組織(NGO)/イスラム過激派武装組織など様々な国・組織が存在する。
○日本
・2014年「集団的自衛権の行使」が閣議決定され、翌年には「武力行使の新3要件」(①存立危機事態②他に手段がない③必要最小限の行使)や「4つの事態」(①グレーゾーン事態②重要影響事態③存立危機事態④有事)が明らかになり、「日米防衛協力のための指針」が結ばれた。憲法解釈は一変し、自衛隊の活動は海外に拡大された。この背景には台頭する中国、核武装する北朝鮮などの不安定な東アジア情勢がある。
・中国は2024年頃にGDPで米国を抜くと云われており、軍事力(特に西太平洋)を強化している。北朝鮮は「先軍政治」を掲げ、核兵器開発などに力を注いでいる。ロシアはウクライナ問題など波乱要因となっている。
・1950年朝鮮戦争勃発により「警察予備隊」(海上警備隊は52年)が組織され、55年に「自衛隊」となった。自衛隊は自国防衛が目的であったが、今日は国連平和維持活動にも参加している(92年PKO法成立)。
・2013年「国家安全保障会議」「特定秘密保護法」、14年「武器輸出3原則の廃止」「改正国民投票法」など安全保障関連の法制度の整備が進む。
○米国
・広大な土地・人口/世界最大の経済/人材の吸収力/最先端の技術/政策立案・実行能力/軍事力など様々な分野で世界トップである。
・しかし財政赤字の問題があり、軍事/インフラ整備/教育などへの悪影響がみられる。また格差問題があり、中間層で金融・IT・医療などで賃金が増える一方、地域サービスでは賃金は減少し、所得格差が拡大している。
・こんな中、宗教右派(福音派)や政治的保守派が勢力を拡大している。2014年中間選挙では民主党が東部・西部、共和党が中部・南部で勝利し、極端な地域性が見られる。ヒスパニック系移民(特に隣国メキシコ人)が増加傾向にあり、彼らは言語/政治的立場などが異なり、不安材料である。
・外交的には新興国(中国、ロシア、インド、ブラジル)の挑戦は脅威であり、中東問題(イラク、アフガニスタンなど)も解決していない。
・しかしIT/人工知能/ロボットなど新しい産業を生み出す力がある。またシェールガスによりエネルギー輸出国に転換する可能性がある。
○新興国
・中国の経済成長は1978年鄧小平の「改革開放」に始まる。農民への「生産責任制」や外資の進出を容易にする「経済特区」などにより経済成長が始まった。しかし人件費が高くなり「中進国の罠」に陥っている。政府はFTA/一帯一路/AIIBなどにより打開を図っている。しかし中国は急速に高齢社会に突入する。
・インドの経済成長も凄まじく、中国と異なり人口は増え続ける。しかしインドには問題が多く、教育水準(識字率)は低い。ITなどの「知識集約型」産業は発展したが「労働集約型」産業は発展していない。また中国の存在(真珠の首飾り)やパキスタンとの確執も懸念材料である。
・ロシアはプーチンが大統領に就任した2000年頃から、石油価格の上昇で経済が上向く。しかし東欧諸国がEU/NATOに加盟するなど、求心力はない。特にウクライナ/グルジア(ジョージア)と軍事紛争を起こしている。
・ブラジルは世界5位の面積・人口を有し注目される。政府は医療費無料化/学費無料化/貧困対策などに注力しており、国民の税負担率が高くなっている。
・ASEANの人口はEUを超え、GDPは仏国/英国に次ぐ世界7位であり、AFTAにより経済は急成長している。しかし地域による経済格差(1人当たりGDPでシンガポールはカンボジアの50倍)が見られる。また中国との関係も懸念される。
○EU
・EUは当初の6ヵ国が現在は28ヵ国の超国家機関に発展した。従来主権は国家にあるが、加盟国はその一部をEUに移譲している。学位互換制度「ボローニャ・プロセス」、国境審査「シェンゲン協定」などがある。ユーロ採用国は金融政策を「欧州中央銀行(ECB)」に委ねている。
・EUの始まりは1951年「欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)」で、その後58年「欧州経済共同体(EEC)」67年「欧州共同体(EC)」93年「欧州連合(EU)」と発展した。「マーストリヒト条約」により単一通貨ユーロが導入された。2009年「リスボン条約」が発効している。
・EUは①欧州理事会②閣僚理事会③欧州委員会④欧州議会で構成される。③欧州委員会は国家の政府に相当し、3万人以上が勤務している。④欧州議会では中道右派「欧州人民党」中道左派「社会民主進歩同盟」などが議席を有する。他に「欧州司法裁判所」などがある。
・EUは「基本的人権の尊重」「独占の規制」などを理念としている。
・EU各国は財政問題を抱え、「ギリシャ債務危機」を起こし、「欧州安定化メカニズム」を立ち上げた。ギリシャは4人に1人が公務員で、しかも高額の年金をもらっている。
・近年の景気後退で右翼政党が躍進し、移民など(※どちらかと云うと、ホームグロウンでは)によるテロが問題になっている。
○発展途上国
・グローバリゼーションにより貧困層が減少したが、それは中国・インドによる。サハラ以南(サブサハラ)では逆に増加している。
・ナイジェリア(原油、天然ガス)/ボツワナ(天然資源)/ルワンダ(ICT)(※ルワンダは虐殺があったけど)などでは高い経済成長を遂げている。アジアのバングラデシュは、アパレル産業により経済成長している。
・発展途上国には①紛争の罠②天然資源の罠③内陸国の罠④悪い統治の罠がある。②は資金を得ても格差や物価上昇になる。③はインフラ未整備の問題。④は政治家の問題。
・④悪い統治の例(ジンバブエ)-ムガベ政権は①解放ゲリラに多額の年金を支給②コンゴへの出兵③白人農地の接収を実施した。これにより農地荒廃/財政危機/急激なインフレを起こす。
・ODA/IMFなどによる支援には、賛否両論がある。支援する分野を間違えない事が重要で、いきなり重化学工業に投資ではなく、教育/インフラなどへの投資が有効である。
○グローバリゼーション
・近年グローバリゼーションが進んでいます。自由貿易は戦後のGATT/WTOから始まるが、WTOは加盟国が多く、中々スムーズに進展していない。そこで近年はFTA/EPAにより貿易自由化が進められている。東アジアには「東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)」「アジア太平洋経済協力会議(APEC)」「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)」が存在する。
・自由貿易にもプラス面とマイナス面があります。プラス面は商品/サービスの価格が下がる事、マイナス面は生産者が外国との競争で生計を立てられなくなる事です。この場合、補助金による生産者保護が必要になります。
・2008年「世界金融危機」が起こりました。発端は「住宅バブル」の崩壊です。これにより「サブプライムローン」の返済が不可能になり、グローバリゼーションによる世界一体化で、世界規模の金融不安に陥りました。
・グローバリゼーションの切っ掛けは英国での「金融ビックバン」です。この金融改革により証券会社と保険会社の垣根の撤廃、外国為替の自由化などが行われました。これによりヘッジファンドなどによる「投機的な資金」が増大しました。
・またグローバリゼーションは「鳥インフルエンザ」「エボラ出血熱」などの感染症を拡大させました。
○新たな国際主体
・主な国際機関に「国際連合(国連)」「国際決済銀行(BIS)」「国際標準化機構(ISO)」「国際刑事警察機構(ICPO)」などがある。
・国連は平和維持/人権・自由の擁護を目的とする。主な機関に総会/安全保障理事会(安保理)/事務局/国際司法裁判所がある。安保理には「非軍事的強制措置」「軍事的強制措置」が認められている。ただし常任理事国には拒否権があるため、1950年朝鮮戦争、91年湾岸戦争(イラクのクウェート侵略)とも正規の国連軍ではない。
・国連は「平和維持」の目的から平和維持活動(PKO)を行ってきました。今日ではPKOの活動範囲が拡大され、武装勢力への火器使用も認められています。
・国連は「世界保健機関(WHO)」「世界銀行グループ」「国際通貨基金(IMF)」などの専門機関と連携しています。
・事務局は4万人以上の職員を有し、事務総長は「国連の顔」である。
・様々な非政府組織(NGO)が存在するが、「オックスファム(貧困対策)」「赤十字国際委員会(ICRC)」などは有名である。近年NGOからの政策提言により「対人地雷の廃止」「クラスター爆弾の禁止」などの条約が締結された。温暖化対策の「京都議定書」の作成もNGOが関与した。
○今後の難題
・2014年以降イスラム過激派武装組織「イスラム国(IS)」がイラクで勢力を拡大している。03年「イラク戦争」によりフセイン政権の関係者がISに流れたとされる。また10年「アラブの春」はチュニジア/エジプト/イエメン/リビア/バーレーン/シリアなどで政権を崩壊させたが、民主体制が確立したのはチュニジアだけである。
・中東諸国間の対立は、単に宗派の違いによらず、大変複雑である。
・周辺国/先進国でイスラム過激派武装組織のテロが多発している。ISには世界各国から1万5千人の戦闘員が参加しており、拡散が憂慮される。
・米ロ間にはウクライナ問題はありますが、「新START」などにより核軍縮が進められています。しかし2015年「核不拡散条約」は成果がないまま閉幕しました。核兵器の拡散が懸念されます。
・主要国は「サイバー戦争」の攻撃/防御を研究しています。「サイバー戦争」が起きた場合、電力・水道・電話などのインフラ/交通システム/金融システムなどが麻痺する危険性があります。他にもロボット兵器や宇宙空間での戦争が懸念されます。
・「温室効果ガス」には二酸化炭素/メタン/亜酸化窒素/フロンなどがあります。地球温暖化を抑制するため、「温室効果ガス」の排出量を規制する必要があります。
○日本の課題
・中国の強大化により日米同盟による安全保障は重要です。韓国とは竹島、ロシアとは北方四島、中国とは尖閣諸島の領土問題があります。
・日本は世界で最も高齢化が進んだ国です。超高齢化社会のモデルケースを掲示する立場にあります。
・日本はOECD内で「ジニ係数」「相対的貧困率」が高く、「貧困の連鎖」への対応も重要な課題です。
・2014年「iPS細胞」による眼科臨床手術が行われました。この分野は日本の期待できる分野です。