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『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』川口マーン恵美を読書。

ドイツと日本の課題(領土/領海、脱原発、休暇/労働、教育/就職、サービス、EU)に対する対応の違いを解説しています。

当然ドイツ中心の解説になりますが、中々面白い。
しかし利点に浮かれる事なく、欠点に慎重に対応して行きたいものだ。

お勧め度:☆☆☆

キーワード:尖閣諸島、アルザス、実効支配、脱原発、太陽光発電/風力発電、休暇、ストレス、ギムナジウム、理論/討論、インターン、校則/法律、自由/責任、コミュニティー性、格差、サービス、EU/ユーロ、ギリシャ、イタリア

○まえがき
・日本人は結果重視なので、理論が苦手で議論が下手。また日本人の行動や思考には思いやりがある。

○尖閣諸島とアルザス地方
・2012年著者は漁船に乗って「尖閣諸島」(魚釣島、久場島など)を見学した。「尖閣諸島」は1943年に住民が放棄したが、戦後も日本が領有していた。68年石油/天然ガスの埋蔵が確認され、中国/台湾が領有権を主張し始めた。ウィキペディアでドイツ語の尖閣諸島を見ると、全く中国の主張が書かれている。

・「アルザス地方」はドイツ人が住み、アルザス語(ドイツ語の方言)が話されている地方だが、戦争の度に領有が変わった。第2次世界大戦後はフランス領となっている。
・ポーランドは第2次世界大戦により東部をソ連に奪われたが、西部はドイツから領土を得た。
・一度得た領土は戦争でも起きないと取り戻す事はできない。その意味で「実効支配」は絶対的である。

・ドイツは優秀な軍隊を持ち、軍隊復活/ドイツ統合/EU加盟で59回も基本法を改正した。日本も真剣に考えるべきだ。

○脱原発
・ドイツの報道機関は「福島原発事故」をパニック的に報道した。「作業員は使い捨てられている」「忍耐強い被災者を、神風特攻隊員/ハラキリ武士である」などと報道した。日本を誤解させる報道に辟易である。

・2000年ドイツはドイツ社会民主党/緑の党の連立政権で「脱原発」が合意された。09年キリスト教民主同盟/自由民主党の連立政権で「脱原発」が凍結された。「福島原発事故」により11年6月「脱原発法」が可決された。

・2011年7月ドイツで「原子力と日本社会」をテーマとするシンポジウムが開かれた。「反原発デモが開かれているが、政治的圧力にならない」「被爆国なのに、なぜ原発を停止しないのか」などの意見が出た。

・ドイツは日照時間が短いので、代替電力としては太陽光発電ではなく風力発電が有効である。しかし環境問題もあって、一筋縄では行かない。最悪の場合は豊富な褐炭で発電する事になる。
・ドイツの電気料金は「再生エネルギー買取制度」のため、仏国の約2倍であり、脱原発熱は急速に冷めている。
・ロシアは石油が高く売れるため、原発を推進している。ドイツ以外の欧州各国もロシアなどの石油に依存したくないため、原発を推進している。

・日本近海にはメタンハイドレートが存在するが、より現実的なレアアースに期待する。

○休暇/労働
・日本では有給休暇(以下有休)を取り難いが、ドイツは有休とは別に病休がある。ドイツは有休が約30日あり、休暇を取った後は、直ぐに次の休暇を計画する。
・日本人は休暇を取らないため、観光業が遅れている。

・ドイツ人は休暇でキリマンジャロに登ったり、南極に行ったり過激なので、休暇でストレスが溜まる。またドイツ人は労働時間に厳格なので、密度の高い勤務となり、ストレスが溜まる。これによりドイツ人は「燃え尽き症候群」が多い。

・労働市場を開放しているEUは、加盟国が27ヶ国に増えた。これによりドイツへの移民が増え、最低賃金は押し下げられ、失業者は増え、社会不安が高まる。当然社会保障費も増える。
・日本は移民を受入れず、高齢者などが低賃金の労働に就いているため、社会不安は少ない。

○教育/就職 ※教育制度は多様で面白い。
・ドイツは「ギムナジウム」(日本の中学・高校に相当)の卒業試験「アビトゥーア」で大学が決まる。学費は、ほぼ無料である。試験では論文が重視される。日頃から物事を論理的に考えていないと、論文は書けない。ドイツ人はその習慣があり、討論が大好きである。※入学試験がないのは理想だな。
・ドイツでは就職に「インターン」が大きく影響する。「インターン」は日本と違って通常6ヶ月と長期。したがって就職は遅くなる。
・ドイツでは校則より法律が優先される。よって18歳になれば飲酒/タバコ/セックス、全て自由である。そのためドイツでは子供の頃から自立(自由と責任)を教えている。

・かつてドイツの大学は優秀であったが、今は米英の大学(ハーバード、オックスフォードなど)が上位を占めている。ドイツは少ない予算を「三ツ星大学」に集中させ、復活を図っている。

・日本も同様に大学の研究費は少ない。日本の学生はハングリー精神がなくなり、質も低下している。
・薩摩島津藩は教育熱心(郷中)で、西洋技術(造船、紡績、硝子、印刷など)を盛んに導入した。また違法の留学生を欧州に送り、多くの偉人(五代友厚、森有礼など)を育てた。

・ドイツの小学校は4年制で、その次は学力により3つ(ギムナジウム、実業学校、基幹学校)に分かれる。ドイツでは僅か10歳で人生が決定する。
・日本の小・中学校は学力で区別せず、かつコミュニティー性が高いため、格差を醸成しない教育制度である。ドイツでは給食はないし、生徒が掃除する事もない。
・日本の義務教育は玉石混淆のため、社会格差も生まれ難い。それは支配者が豪奢に溺れた西洋貴族ではなく、贅沢を嫌った武士だったためである。

○サービス
・ドイツの鉄道は列車の運休が度々あり、時には指定席のある列車が連結されていない事もある。トラブルのアナウンスは全くされず、駅員に聞いても無駄である。
・日本の車内アナウンスは過保護なまでに丁寧で、街は街灯で明るいし(アウトバーンは暗くて怖い)、エレベータは待ち時間が少なくなるように待機してくれる。日本はサービス大国である。
・ドイツには「閉店時間法」があり、平日は6時半まで、土曜日は2時までしか営業できなかった(今は州に委ねられている)。

○EU
・ユーロは東西ドイツ統一の代償として導入された。
・ギリシャが破綻するとギリシャ経済は停止する。さらに怖いのは、それがポルトガル/スペインなど経済が不安定な国に波及する事である。
・借金国はメルケルを憎悪しているが、ギリシャの就労者の1/4は公務員であり、しかも国民の納税意識は低い。EUはユーロにより崩壊するかもしれない。

・2011年イタリアは戦後最長となったシルヴィオ・ベルルスコーニ首相が辞任する。次に禁欲的なマリオ・モンティが首相に就き、脱税摘発/緊縮財政に取り組んだ。これによりイタリア経済は冷え、国民の支持を失った。2013年下院総選挙では、お笑い芸人で政策を持たないベッペ・グリロが1/4の得票を得る異常な状況である。

・25歳未満の失業率はギリシャ/スペインでは50%を超え、一方ドイツは10%未満である。これにより多くの人がドイツへ移動している。この移動は双方にとって好ましくない。日本もTPPに参加すれば、EUのドイツになりかねない。日本もドイツも平和で豊かであるが、今後が懸念される。

○奇跡の国
・日本は経済大国なのに人の心は優しく、経済格差も深刻でない。大都市でも治安は良く、駅や車内も清潔であり、奇跡の国である。

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