『水素・次世代エネルギー研究会セミナー』長田理、山崎敏晴、天尾豊を受講。
本セミナーは「CO2フリー水素」をテーマに、産官学の3つの講演が行われました。
最初の講演は、水素社会の全体像を検討している経済産業省「CO2フリー水素ワーキンググループ」の報告です。
2番目の講演は、長州産業が開発した「水素ステーション」を紹介。
最後の講演は、大阪市立大学で研究している人工光合成でCO2を循環利用する方法を紹介。
これらの講演から、CO2排出削減のための水素利用も、課題山積なのが分かります。
この分野は欧州が進んでいるみたいなので、追随できれば良いが。
キーワード:CO2フリー水素、CO2フリー水素ワーキンググループ、Power-to-gas、余剰電力、水電解装置、水素ステーション、長州産業、COP3、低炭素エネルギー、人工光合成/人工補酵素、ギ酸・水素変換/白金微粒子触媒
<講演1-CO2フリー水素ワーキンググループ報告書概要-経済産業省・長田理>
本WGは昨年5月から本年3月まで活動し、その報告書です。なお本WGは8月に活動を再開しています。
○水素・燃料電池戦略ロードマップでの位置付け
・CO2排出の少ない水素社会の実現を目指しているが、①水素製造段階でCO2を排出している②再生可能エネルギーの過剰で系統(電力送電)能力を超えている。これらの問題を解消するため、電力と水素を相互変換する「Power-to-gas技術」(以下P2G)を検討する。
・P2Gは大規模化/長期間保存が可能で、蓄電池と比べて優位である。
○再生可能エネルギー普及への対応
・再生可能エネルギーの普及で「余剰電力」が発生しており、「余剰電力」を水素に変換して貯蔵すべきである。
・電力から水素を発生させる「水電解装置」には、①アルカリ水電解②固体分子水電解(PEM水電解)③高温水蒸気電解(SOEC)がある。「水電解装置」の評価指標に、変換効率/コスト/耐久性がある。①は以前からある方式、②はコストに問題があり、③は耐久性に問題があって研究段階である。
○水素サプライチェーン
・水素の輸送方法に、①液化水素(圧縮率1/800)②有機ハイドライド(トルエンと化合、圧縮率1/500)③圧縮水素(圧縮率1/200)④パイプラインがある。国内での輸送は③圧縮水素が望ましい。欧米では既設ガスパイプラインでの輸送が進んでいる。
○海外のCO2フリー水素の利用
・海外には以下の未利用エネルギーがある。①副生水素(苛性ソーダ製造時に水素が発生)②原油随伴ガス(原油採掘時にガスが発生)③褐炭(水分を多く含む石炭)④再生可能エネルギー。
・LNG技術により天然ガスの価値が飛躍的に高まった。同様な事が水素にも望まれる。
・CO2を地中に貯留するCCS技術(CO2 Capture and Storage)で、CO2の排出を低減している。
○CO2フリー水素の利用拡大
・水素は利用段階ではCO2を排出しないが、製造・輸送段階でCO2を排出している。ライフサイクルを通しての「CO2フリー水素」の定義が必要である。
・欧州は「CertifHy Project」で整理を終えている。なお欧州は、採掘から製造段階までのCO2排出量を対象とし、「プレミアム水素」を定義している。
・利用拡大には①託送供給制度②グリーン電力証書③J-クレジット制度などの制度普及が必要である。※詳細不明。
・利用拡大には①地方/離島での余剰の再生可能エネルギー②工業団地/大規模需要地③地方の再生可能エネルギーを都市で使う、での「CO2フリー水素」導入シナリオの検討が必要である。※③は①+②を云っているのでは?
○今後の課題
・技術面では「水電解装置」の性能、制度面では「CO2フリー水素」の定義/CO2排出量の評価・認証方法/環境価値の取引/余剰電力の活用、利用面では「CO2フリー水素」の利用拡大が課題である。
○新WGの活動
・CO2排出量を部門別で見ると、発電部門39%/産業部門28%/運輸部門17%で全体の85%を占める。発電部門は再生可能エネルギー、運輸部門はFCV/水素ステーションによりCO2排出量の削減が望めるが、他方産業部門は未着手である。
・欧州では「プレミアム水素」(=CO2フリー水素)の需要が増えると予想される。日本でもリファイナリー(バイオマス?)/自動車/ガスパイプライン注入/化学などの産業分野で需要増が必要である。
<講演2-太陽光発電システムを活用した水素ステーション(SHiPS)-長州産業・山崎敏晴>
○長州産業
・本社は山口県山陽小野田市にある。
・太陽光発電のパネル/パワーコンディショナ/蓄電池やZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)のためのHEMSを開発・販売している。
・有機ELの製造に必要な真空装置を中国/韓国に輸出している。
○「ソーラー水素iパワーステーション」(SHiPS)
・「SHiPS」は太陽光発電で水素を作るオンサイト型の「水素ステーション」です。
・「水素ステーション」全体の広さは、縦25m×横18mになります。ディスペンサの圧力は70MPa(標準タイプ)です。
・太陽光発電で作った電気で水を分解し、水素を作ります。
・本年3月に開所式が行われ、8月には安倍首相も視察された。
・環境省/経済産業省から2/3の補助金が出て、残りの1/3は地方自治体から補助金が出る場合がある。
・全国で98基の「水素ステーション」が設置され、中国地方には広島県/山口県に設置されている。
<講演3-人工光合成技術によるCO2消費、水素活用型の新しい住宅への展開-大阪市立大学人工光合成センター・天尾豊>
※この講演の理解には化学の知識が必要。地産地消は望ましいシステム(分散と集中で、どちらが高効率かは算出が必要)と思いますが、このCO2循環利用はまだ実証段階です。
○CO2問題と削減技術
・気候変動枠組条約の締約国会議(COP)が1995年から毎年開かれている。COP3(京都)で6種類(CO2、メタンなど)の削減量が定められた。
・CO2を海洋に投棄する方法があったが、環境団体などの反対で実施されず。他にCO2を地中に貯留させるCCSがある。
・低炭素社会の実現には「低炭素エネルギー」の利用が有効である。「低炭素エネルギー」には太陽光/風力/地熱/潮力/水素、バイオマス、低炭素アルコール(メタノール、エタノール)がある。
・太陽光エネルギーで実際に利用しているのは紫外線だけで、可視光線/赤外線は利用していない。
・水素エネルギーはクリーンで究極のエネルギーである。水素は危険とされるが、石油/天然ガス/原子力も同様である。
・CO2を原料として利用するCDU(Carbon dioxide Utilization)は重要である(人工光合成を含む)。CO2の固体(ドライアイス)は扱い易い。
・燃料の炭素数が少ないと、燃焼で発生するCO2も少ない。エタノール(CH3OH)に注目。
○CO2問題と人工光合成
・光合成は太陽光を利用し、「6CO2+6H2O→C6H12O6(グルコース)+6O2」となる。光合成は葉緑体でなされるが、30ステップもあるため模倣は困難である。
・ギ酸脱水素酵素(FDH)と補酵素(NAD)を利用した「人工光合成」で、「CO2+NADH+H+←→HCOOH(ギ酸)+NAD+」の酸化還元反応ができる。補酵素(NAD)の「人工補酵素」に、MV(メチルビオロゲン)/DAV(新規ビオロゲン)などがある。本センターは「人工光合成基盤」を作り、この還元反応を実証した。※補酵素ってあったかな。
・「CO2+2H++2e-→HCOOH」で「ギ酸」が還元できるが、4水素/電子だと「CO2+4H++4e-→HCHO(ホルムアルデヒド)+H2O」でホルムアルデヒドが還元でき、6水素/電子だと「CO2+6H++6e-→CH3OH(メタノール)+H2O」でメタノールが還元できる。
○人工光合成技術の住宅への展開
・「CO2/水→⦅人工光合成⦆→エネルギー貯蔵分子(ギ酸)→⦅ギ酸・水素変換⦆→水素/CO2→」の循環利用を実証する必要がある。
・「ギ酸・水素変換」は白金微粒子を触媒にする事で、反応を簡略化・効率化できる。「白金微粒子触媒」にはPt-PVP/Pt-PAA/Pt-TMAがあるが、Pt-PVP(ポリビニルピロリドン)は窒素飽和で反応させると、水素生成効率が良くなる。
・宮古島に「人工光合成ハウス」を建設し、実証実験中である。