top learning-学習

『マレーシア新時代』三木敏夫を読書。

マレーシアのマハティール元首相の本を最近読んだので、その続きでASEANの理解が深まればと期待し本書を選択。

本書はナジブ現首相の施策を中心に解説。高所得国入りを目指すマレーシアの施策は①プミプトラ政策(マレー人優先政策)と②イスラム化が軸です。
これらの政策は自由化を目指すTPPの障害になりそうですが、どう対応するのか。

同じ事が数ヵ所に書かれ、また文章が少し難しい。

お勧め度:☆☆(マレーシアを理解するには十分)

キーワード:マレーシア、マハティール首相、ナジブ首相、日本貿易振興会(ジェトロ)、海外貿易開発協会(JODC)、多国籍企業化、ルックイースト政策、長期滞在/メディカルツアー、プミプトラ政策、第10次5ヵ年計画/新経済モデル(NEM)、東マレーシア(サラワク州、サバ州)、外国人労働者/最低賃金制度、統一マレー国民組織(UMNO)、TPP、知的財産権/政府調達/ISDS/政府関連企業の自由化、イスラム化、イスラム金融/シャリーアボード/スクーク、開発独裁、女性の社会進出/高学歴化/母系社会

○初めに
・マレーシアは1980年代マハティール元首相(在1981~03年)の「ルックイースト政策」(日本/韓国に学べ)により工業化が進みます。2011年から「第10次5ヵ年計画」が実施され、首都クアラルンプールは公共交通機関が整備され、自慢の「ペトロナスツインタワー」が聳えます。

・著者は大学で「開発経済」を学び、日本貿易振興会(ジェトロ)に勤め、マレーシアで海外勤務しました。また海外貿易開発協会(JODC)に出向し、1次産品の輸入促進と中小企業の海外投資に当たる。現在中国に3万社、マレーシアに1,300社の企業が進出し、その大半は中小企業です(※注目)。

・2010年学生を引率し、マレーシアの日系中小企業を見学しました。「脱国境化」(多国籍企業化)した中小企業は多く存在します。
・JODC出向時に担当した案件が、マハティール元首相が総裁を務める食品加工会社で、ステビア栽培加工の案件だった。

○ルックイースト政策から長期滞在先へ
・前年の総選挙の敗北でアブドラ前首相(在2003~09年)が退陣し、2009年ナジブ現首相が誕生する。2010年発表した「第10次5ヵ年計画(2011~15年)」ではプミプトラ政策を継続した。

・「ルックイースト政策」は1982年からマハティール元首相が始めた政策で、宗主国英国ではなく高度成長した日本/韓国に学ぶ政策です。この政策で日本への留学や、日本企業での研修が増加します。今は精神面から高度技術(省エネルギー、医学)に変わり、「ルックイースト政策」の第2波と云えます。

・定年退職者した日本人の海外長期滞在が増加しています。その人気No1がマレーシアです。マレーシアは80年代、外資主導の工業化でタイと共に「東アジアの奇跡」を演じました。
・マレーシアは「適度の先進性/後進性」を持ち合わせています。また多様性(多民族、多文化、多宗教、多言語、多食文化)を有し、魅力の多い国です。また物価も安く、親日的で、医療水準も問題ありません。
・人気の長期滞在地は首都クアラルンプール、避暑地キャメロンハイランド、「東洋の真珠」ペナン、東マレーシア(サラワク州、サバ州)などです。

・国は長期滞在を「マレーシア・マイセカンドホーム・プログラム(MM2H)」で推進しています。「メディカルツアー」にも力を入れ、心臓病/整形外科/体外受精/腫瘍学などの治療が可能です。

○経済の自由化と社会改革
・マレーシアの人口は約3千万人で、80年代外資主導による工業化で1次産品輸出国から「電子立国」になりました。輸出の70%が工業製品(内電器電子製品33%)ですが、石油/天然ガス/パーム油も重要な輸出品です。1986年直接投資による100%外資企業を認め、工業化が進展しました。

・建国以来「計画経済」で2011年から「第10次5ヵ年計画(2011~15年)」が実施されます。マイナス成長は1986年/1998年(金融危機)/2009年(リーマン・ショック)の3回だけです。

・マレーシアの人口比率はプミプトラ(マレー人)55%/華人35%/インド人10%です。「プミプトラ政策」の中核は、プミプトラ貧困問題から資本所有枠をプミプトラ30%/華人40%/外国人30%にするものです。
・「第10次5ヵ年計画(2011~15年)」で「プミプトラ政策」の資本所有枠は緩和されました。ジニ係数は0.441(0.4以上は経済格差あり)で、今は民族格差より所得格差が問題になっています。

・製造業は1986年に自由化されましたが、遅れていた金融部門でも外資に対し自由化が進められています。投資信託会社/証券会社の外資所有比率は49%から70%に引き上げられました。
・不動産投資でも外資に対し自由化が行われました。

・マハティール元首相は2020年までに先進国入りを目指す「ワワサン(ビジョン)2020」を掲示しました。
・ナジブ首相は「第10次5ヵ年計画」(高所得国入り/人材育成/外国人労働者への依存低減/補助金見直しなど)を発表しました。また民族融和の「サツ(1)マレーシア」(教育拡大/犯罪防止/汚職追放/生活向上/インフラ整備など)を掲示しました。

・またナジブ首相は経済政策理念である「新経済モデル(NEM)」(生産性向上/民間主導/知識集約型産業/アジアへの輸出など)を掲示しました。NEMの主要項目である「経済改革プログラム(ETP)」で実施するプロジェクトの総額は4,440億ドルで、その6割は民間セクターからの投資になります。

・東マレーシア(サラワク州、サバ州)ではキリスト教やアニミズムが信じられ、マレー半島でのイスラム化政策から取り残されました。「第10次5ヵ年計画」には東マレーシアの先住民の貧困問題(プミプトラマイノリティ問題)が含まれています。
・「第10次5ヵ年計画」では高所得国入りを謳っていますが、低所得者(主に農村居住者)の所得引き上げが課題です。

・マレーシアは教育改革も積極的に行っています。高等教育への進学率は23%(OECD平均28%)ですが、卒業生の27%は就職できていません。マレー語政策を推進したため学生の英語能力が低下し、企業の最大の不満項目になっています。
・また大学生の70%が女子で、女子の高学歴化も問題となっています。

・治安に関する国内治安法/扇動法の改正が望まれます。
・「プミプトラ投資信託基金」は「プミプトラ政策」の本丸で、マレー人は優先的に債権を購入できます。
・マレー人は豊かになり、インドネシア人などの外国人労働者を低賃金で雇う経済に変わりました。

○外国人労働者に依存した経済
・2014年外国人労働者1,500人が暴動を起こしました。「第10次5ヵ年計画」(2011~15年)で①外国人労働者の雇用制限/削減②最低賃金制度の導入を定めました。
・マレーシアの労働市場は開放的で、外国人労働者(インドネシア人、バングラデシュ人など)が約300万人働いています。外国人労働者はマレーシア人が嫌う3D業種(危険、汚い、かったるい)に就いています。
・外国人労働者を制限/削減したからと云って、マレーシア人が3D業種に就くとは限りません。労働集約型産業で工業化した事が原因です。
・最低賃金制度は外国人労働者も対象のため、外資企業の経営を圧迫する恐れがあります。

・大学卒業者の30%が失業状態です。これも単純労働を外国人労働者に依存している経済が原因です。知識集約型産業への高度化が望まれます。
・農業(油ヤシ・プランテーションなど)でも多くの外国人労働者が従事しています。※ヤシ油にはパーム油とココナッツ油がある。
・外国人労働者(インドネシア人)の薬物使用も問題になっています。インドネシアとはボルネオ島で領土問題が存在しました。

○プミプトラ政策
・プミプトラ政策はプミプトラ(マレー人)への①大学への優先的入学②ライセンスの優先的発給③政府への優先的雇用④不動産の割引⑤優先的利子⑥優先的国債購入⑦プミプトラ企業への優先的発注など経済/社会のあらゆる分野に及びます。
・プミプトラ政策は植民地時代に形成された①固定化された民族的就業(マレー人は農業、華人は商工業など)と②民族間の経済格差の解消が目的です。
・1969年5月13日に起きたマレー人の暴動がプミプトラ政策の起点となりました。

・プミプトラ政策の基本は人口比率によるクオータ制です(マレー人55%、華人35%、インド人10%)。
・現在は①マレー人同士②マレー人と先住民族③マレー人とインド人の経済格差が問題になっています。
・マレー人は農村(カンポン)での自給自足に満足し、帰省(ハラリヤ)を楽しみにしています。

・明の時代、多くの華人がマレーシアに定住し華僑になりました。華人は中国文化を受け継いでいますが、マレー語を話します。
・英国の植民地支配は84年間(1874~1957年)に及びます。英国はスルタンの地位を保証しました。これはマレー人を優先するプミプトラ政策と云えます。この時代に華人は錫鉱山で働き、インド人はゴム・プランテーションで働きました。1913年「マレー人保留地法」によりマレー人の農業従事が保護されました。

・戦後英国と「統一マレー国民組織(UMNO)」が独立の交渉をし、①スルタン制(立憲君主制)と②マレー人優先の維持が決まります。
・1969年の暴動で1971年憲法が改正され、プミプトラ優先が強化されました。
・マレー語の国語化で英語能力が低下し、英語能力の強化が必要となっています。※前書では英語能力が国の発展を助けたとあったが、そうではないのか。

・マハティール元首相は『マレージレンマ』で、マレー人の氏族内結婚を批判しています。
・ナジブ首相は2013年5月総選挙の結果を受けて、プミプトラ政策を強化しました(実績主義、行政改革)。

○TPP
・2013年3月安倍首相の決断で、日本のTPP参加が決まりました。TPPには「市場アクセス分野」が9分野、「サービス分野」が12分野あります。日本は国内法より国際法を優先するため、TPPは国内経済に大きく影響を与えます。
・先進国と違ってマレーシア/ベトナムの経済の主体は国営企業です。マレーシアではプミプトラ政策も実施され、自由競争が保証されていません。

・世界貿易機関(WTO)の交渉(ドーハ・ラウンド)は難航し、各国は自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)を推進しています。TPPは広域FTAです。
・マレーシアはASEAN自由貿易協定(AFTA)に加盟し、他に台湾/韓国/米国/カタール/トルコ/EUとFTAの交渉をしています。
・1997年通貨危機の時、タイ/インドネシア/韓国はIMFの融資条件(緊縮財政、変動相場制、民営化)を受入れましたが、マレーシアはドルペッグ制を採用し、プミプトラ政策も維持しました。

・2013年5月総選挙で与党は過半数を維持し、与党の主要政党UMNOも議席を増やしました。これによりナジブ首相は実績主義に基づきプミプトラ政策を強化しました。
・新アジェンダは①プミプトラ人的資源の強化②プミプトラ資本所有30%の確保③プミプトラ非金融資産所有の拡大④プミプトラ企業家の育成⑤プミプトラ向けサービスの強化となっています。これらはTPPの知的財産権(ジェネリックなど)/政府調達/投資/競争政策/ISDS/政府関連企業の自由化などと対立します。

・米国は医薬品の特許期間の延長を求めています。延長された場合、医療負担が増大します。
・マレーシアでは政府調達はプミプトラ企業に発注しています。
・ISDSは国家により企業が不当に接収された場合、世界銀行が投資家と国家を調停する条項です。
・マレーシア経済の主体は国営企業で、その自由化は困難です。

○イスラム化
・マレーシアではイスラム法の適用/プアサ(断食)の厳格化/賭博の禁止など、日常生活でもイスラム化が進んでいます。マレーシアのイスラム化は中東の原理主義とは異なり、トルコの世俗主義に近い。

・イスラムは連携/平等/清貧を目指す宗教です。その教えは「6信5行」(唯一絶対神、天国と地獄、礼拝、喜捨、断食、巡礼など)にあります。
・マレーシアの経済発展はプミプトラ政策とイスラム化の二人三脚で進みました。アブドラ前首相は社会や経済(金融)のイスラム化を推し進めました。これによりマレーシアでは「ハラール産業」やイスラム金融が発展しています。

・イスラムでは金利/不確実なもの/投機が禁止されています。イスラム金融は「利子」を「配当」に変える事で融資が可能となっています。ただし融資先は制限されています。

・マレーシアの「イスラム巡礼基金」(1963年)やUAEの「ドバイイスラム銀行」(1975年)がイスラム金融の始まりです。マレーシアでは1983年「イスラム金融法」が制定され、「マレーシアイスラム銀行」が設立されました。99年には2番目の「バンクムラママレーシア銀行」が設立されました。

・イスラム法は①シャリーア(クルアーンなど)②カーヌーン(国家法)③ウルフ(習慣法)に分かれます。融資の是非は「シャリーアボード」(イスラム法学者が1人以上含まれる)が判断します。
・金融形態としてムダーラバ(共同投資)/ムシャーラカ(株式)/スクーク(イスラム債権)など多数あり、「スクーク」は国際的に注目を浴び、活発に行われています。

・イスラムには相互扶助と貧困救済の思想があり、イスラム銀行で成功した例にバングラデシュのグラミン銀行があります。これはウンマ(イスラム共同体)の貧困救済になっています。
・欧州で生まれた資本主義市場経済とイスラム金融経済を単純に比較する事はできません。イスラムでは「博愛倫理」から①無利子の貸借②貧者救済③隣人への無償労働の義務が存在します。※この辺り難解。

・マレーシアはイスラム金融のハブとなり、中東産油国のオイルマネーを自国の経済発展に利用しようと考えています。
・イスラムは自由/平等/博愛の普遍性を持ち、他の宗教を排除しません。

・イスラム金融市場は1兆ドルに成長しました。今後20年間で8兆ドルの需要があると予測されます。マレーシアのスクーク発行額は世界の50%を超えています。マレーシアはイスラム金融のハブとなるべく、これらを支援しています。
・2001年マレーシアはイスラム金融市場を育成するため「金融部門マスタープラン」を発表しました。06年には「金融センター構想」に発展し、10年にはイスラム銀行は17行に増えました。

・イスラム金融を推進する上で、人材不足が問題になっています。
・プミプトラ政策は縮小傾向にあり、イスラム化の中に埋没する可能性があります。プミプトラマイノリティ問題や経済格差問題をイスラム化で解決する事も考えられます。
※日本では国家と宗教が深く結び付く事は考えられないけど。

○社会の変貌(女性の社会進出)
・アジアでは女性の経済活動/政治への進出は目覚ましいものがあります。マレーシアでは女性管理職の比率(2010年)は公共部門で30.5%、民間部門で26.6%です。大学入学申請(2013年)では、男子2万2千人に対し、女子4万6千人となっています。

・東アジアの国家は開発独裁が特徴です(マレーシア/マハティール首相、インドネシア/スハルト大統領、フィリピン/マルコス大統領など)。また家族主義/ネポティズム(血縁主義)も特徴です。また多様性(多民族、多言語、多宗教、多文化)も特徴です。
・イスラムでは女性の地位は低いとされますが、多くの女性指導者を生みました(スリランカ/バンダラナイケ首相、インドネシア/メワガティ大統領、フィリピン/アキノ大統領など)。

・近年テロ活動を恐れ、多くのアラブ人がマレーシアを訪れ、貴重な観光収入になっています。※言語は?貴重?

・女性の社会進出の要因は多数考えられます。一つ目に高学歴化があります。知人の話ではマレーシア国民大学経済学部の75%が女性だそうです。二つ目に都市部での男女人口比率があります。男性の多くは学校卒業後に郷里に帰ります。三つ目に「大家族制」があります。マレーシアは「大家族制」のため、若い夫婦の「共働き」が一般化しています。他に男性の「徴兵制」なども要因です。

・1980年代のイラン・イスラム革命でマレーシアでもスカーフを着用する女性が増えました。しかしそれらはカラフルで、オシャレを楽しんでいる様に思えます。
・マレーシアの工場では従業員の90%近くが女性で、女性の社会進出を嫌うイスラム国とは思えません。また男女が肌を触れ合う通勤ラッシュを見てもイスラム国とは思えません。
・東アジアには母系社会の民族が多く存在します。バタニ王国では女性が主導者に就くと、平和になり繁栄したそうです。※日本のヒメヒコ制みたい。

top learning-学習