『二次電池』小林哲彦、宮崎義憲、太田璋を読書。
電池で充電し再利用できるのが二次電池です。
本書は2編で構成され、第1編は二次電池の仕組みを、第2編は二次電池の用途を解説しています。
第1編は化学用語の羅列です。第2編では二次電池に関連する広範囲の事が解説されています。
二次電池の種類の多さや、技術的にまだ発展段階である事に驚きます。
お勧め度:☆☆
キーワード:二次電池、化学反応/正極/負極/電子/電解液、鉛蓄電池、ニッケル・ガドミウム蓄電池/ニカド電池、ニッケル水素電池/水素吸蔵合金、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、コイン形リチウム二次電池、ナトリウム硫黄電池、レドックスフロー電池、キャパシタ/電気二重層キャパシタ、燃料電池/エネファーム、未来型二次電池/リチウム硫黄電池/空気電池/固体電池、揚水発電/電力負荷平準化、太陽電池/太陽光発電、熱発電/ゼーベック効果、無接点充電、携帯電話/PDA、電動工具、ゴルフカート、ロボット、電池システム、港湾クレーン、フォークリフト、ハイブリッド車/プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車、電動二輪車、風力発電、太陽光発電/逆潮、家庭用蓄電システム、スマートグリッド、はやぶさ、しんかい
○はじめに
・電気エネルギー(電気)は、位置エネルギー(水力発電)/化学エネルギー(火力発電)/原子力エネルギー(原子力発電)/光エネルギー(太陽光発電)から変換して取得できます。
・電力の需要/供給をバランスさせる事は難しく、蓄電技術は必要です。
<第1編 二次電池とは>
○二次電池の基礎
・「二次電池」は充電可能な電池です。本書では二次電池の他に、蓄電できる電気量は少ないが大電流が流せる「キャパシタ」も解説します。また「燃料電池」「太陽電池」「熱電池」も解説します。これらは二次電池ではなく、発電デバイスです。
・電池は「電気化学反応」で電気を起こします。電池は「電子を放出したい物質」を負極に、「電子を受け取りたい物質」を正極に置いています。
・「充電器」は「放電」とは逆方向に電子を送り、二次電池を「充電」します。これと似た自然現象が「光合成」です。
・例えば酸化銀電池(一次電池)の化学反応(Zn+Ag2O→ZnO+2Ag)を同じ場所で反応させても電子は取り出せません。負極にZn、正極にAg2Oを配置し、それを短絡させる事で電気を起こします。
・この時電子は外部回路を移動しますが、酸化物イオン(02-)は正極/負極間の電解液(水/有機溶媒など)を移動します。
・電池の起電力(電圧)は負極の電子の放出のし易さと、正極の電子の受け取り易さで決まります(イオン化傾向。K>Ca>Na>Mg>Al>Zn・・・Hg>Ag>Pt>Au)。
・1800年ボルタ電池、1836年ダニエル電池、1860年鉛蓄電池、1868年ルクランシェ電池(マンガン乾電池)が発明されました。
・一次電池にはマンガン乾電池/アルカリ乾電池/空気電池/酸化銀電池/アルカリボタン電池/リチウム電池などがあります。
・二次電池の代表が、負極に鉛を用いた「鉛蓄電池」です。当初は補液が必要でしたが、1970年代密閉化した制御弁式が開発されました。
・1899年銅/銀/ニッケルなどの金属酸化物を正極とし、アルカリ水溶液を用いた「アルカリ蓄電池」(ニカド電池、ニッケル・ガドミウム電池、ニッケル水素電池)が発明されました。
・1984年負極に金属Li/LiAl合金、正極にパナジュウム/マンガン酸化物/ポリアニリンを用いた「リチウム二次電池」が開発されました。さらに1994年負極にリチウムチタン複合酸化物、正極にマンガン酸化物を用いた「リチウム二次電池」が開発されます。その後も多種類が開発されています(※省略)。
○それぞれの二次電池
・「鉛蓄電池」は歴史が古く、小型軽量/高出力/ローメンテナンスな二次電池です。負極は海綿状鉛、正極は二酸化鉛、電解液は希硫酸を用います。液式と制御弁式があり、液式では充電の最終段階で水が分解されるため、補水が必要です。
・「鉛蓄電池」自動車用にはハイブリッド車用やアイドリングストップ車用もあり、アイドリングストップ車用は耐久性が要求されます。
・「鉛蓄電池」据置用はビル/通信設備/電力設備などの非常用電源として利用されています。また「鉛蓄電池」は安価のため、太陽光発電/風力発電などの蓄電に利用されています。
・「ニッケル・ガドミウム蓄電池」は負極にCd、正極にNiOOH、電解液に水酸化カリウムを用います。1951年充電時に正極で発生する酸素を吸収する方式が開発され、「ニカド電池」として多量に生産されました。
・「ニッケル水素電池」は負極に「水素吸蔵合金」、正極に水酸化ニッケルを用い、濃アルカリ電解液を密閉化した二次電池です。水素が移動するだけの単純な反応で、高密度化/高出力化/長寿命化されています。
・オイルショックにより水素が見直されました。水素は単独でなく、合金に吸蔵する事で多量の水素が貯蔵できます(水素吸蔵合金)。またアルカリに耐える「水素吸蔵合金」の製造も可能になり、「ニッケル水素電池」が実用化されました。
・負極は合金(Mm-Ni-Co-Mn-Al)が使用されていましたが、今はCoフリー/高容量・高出力/長寿命の新合金(Mm-Mg-Ni-Al)が使用されています。正極やセパレータでも様々な工夫がされています。
・「リチウム二次電池」は負極にリチウム(Li)を用いた二次電池です。「リチウム二次電池」には①リチウムイオン電池②リチウムポリマー電池③コイン形リチウム二次電池があります。
・「リチウムイオン電池」は負極に黒鉛、正極にコバルト酸リチウム、電解液に有機電解液を用います。充電により正極からリチウムイオンが抜け、負極に収納されます。本電池には①低温でも氷結しない②電圧が高い③エネルギー密度が高く小型軽量などの特徴があります。一方課題は①コスト②安全性(発熱発火)などがあります。
・「リチウムイオン電池」の負極は、炭素材(黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン)/チタン酸リチウムがあり、それぞれ長所/短所があります。正極は、コバルト酸リチウム/三元系/Ni系/改質マンガン酸リチウムスピネル/リン酸リチウムがあります。※この辺り難解。
・「リチウムイオン電池」の電解液には機能性の添加剤を用います。添加剤には①リチウムイオンの出入りを円滑にする②安全性を高める③過充電を防止する機能があります。
・「リチウムポリマー電池」では電解質に有機ポリマー(ポリエチレンオキサイド、ポリフッカ化ビニリデン)が利用されています。この電池には①リチウムイオン電池と共通の材料を使用するため、高エネルギー密度/高性能②電解液が固形化するため安全性が高いなどの特徴があります。
・「コイン形リチウム二次電池」には、パナジウムリチウム二次電池/マンガンリチウム二次電池/ニオブリチウム二次電池/チタンリチウム二次電池があり、それぞれ特徴があります。
・「ナトリウム硫黄電池(NaS電池)」は負極にナトリウム、正極に硫黄を用います。高温(300℃)で動作させる必要があり、据置型になります。またセラミックの固体電解質を用いるのも特徴です。放電時は負極のナトリウムがイオン化し正極に達し、多硫化ナトリウムになります。
・「ナトリウム硫黄電池」には①資源的制約が少ない②大容量化が容易③性能が安定④耐久性が高い⑤保守が容易⑥ヒーターが必要⑦ナトリウム/硫黄は危険物などの特徴があります。これらの特徴から、①工場での停電/瞬低対応②風力発電/太陽光発電の変動吸収③スマートグリッド/マイクログリッドなどに使われています。
・「レドックスフロー電池」は正極/負極が共に液体の二次電池です。①長寿命②大容量化が容易③資源的制約がない④単純なのでコストダウンが望めるなどの長所があります。※この二次電池は初耳。
○電池の周辺技術
・「キャパシタ」には電気二重層キャパシタ(EDLC)/アルミ電解コンデンサ/セラミックコンデンサ/リチウムイオンキャパシタなどがあります。
・EDLCは瞬発力/持続力においてアルミ電解コンデンサと二次電池の中間に位置します。
・EDLCの電解質はテトラエチルアンモニア・テトラフルオロボレート(TEA・BF4)で、有機溶液で陽イオン/陰イオンに分かれます。電圧を掛けると正極/負極にそれらのイオンが付着します。正極/負極に「椰子殻活性炭」が使用されます。
・EDLCは携帯電話のメモリーバックアップ/雷による瞬低対策/モーターの回生に利用されています。
・「燃料電池」はアノード(負極)に燃料(水素など)、カソード(正極)に酸化剤(酸素など)を導入する事で電気を得る発電デバイスです。また①必要な物質を外部から供給している②永続的に電気を得られるなどが特徴です。
・「燃料電池」の電解質には水素イオン伝導体(リン酸、水素イオン伝導性固体高分子膜)や酸化物イオン伝導体(水酸化カリウム、炭酸リチウム・炭酸ナトリウム)などがあります。
・「燃料電池」は家庭用の「エネファーム」/自動車/火力発電所での二酸化炭素排出削減(MCFC)/携帯機器用のDMFCなどに利用されています。
・「未来型二次電池」にリチウム硫黄電池/空気電池/固体電池があります。「リチウム硫黄電池」は負極にリチウム金属、正極に硫黄を用いますが、理論的にはエネルギー密度はリチウムイオン電池の10倍以上になります。
・「空気電池」は正極に空気(酸素)を取り込めるようにした二次電池で、リチウム空気電池/亜鉛空気電池があります。
・リチウムイオン電池には電解液の温度上昇/発火の危険があります。対策として①燃えにくい液体②高分子電解質③燃えない無機化合物(セラミックなど)が検討されています(固体電池)。
・負極にリチウムを用いると高性能の電池ができますが、日本で産出されません。ナトリウム/マグネシウム/アルミニウムは電荷も高く、負極での使用が研究されています。
・二次電池には遷移金属/重金属など人体/環境に有害な物質が使われています。これに関しても研究が進められています。
・「揚水発電」は発電に使った水を余剰電力で汲み上げ、再度発電するシステムです。よって昼夜の需要差を埋める「電力負荷平準化」が目的です。※これは見学した事がある。
・「太陽電池」は光エネルギーを電気エネルギーに変換しています。電力系統から孤立した電卓/交通標識/人工衛星などで利用されています。再生可能エネルギーとして「太陽光発電」としても開発が進んでいます。
・「熱発電」は金属/半導体などに温度勾配を設けると、電力が生じる現象(ゼーベック効果)を利用しています。工場の廃熱などが利用されています。※これは知らなかった。
・「無接点充電」には利便性/防水性などの長所があり、①電磁誘導方式②磁界共鳴方式があります。①電磁誘導方式は変圧器/電磁調理器と同じ原理です。②磁界共鳴方式はラジオ波を用い送信機の共振回路と受信機の共振回路で給電します。
<第2編 用途から見た二次電池>
○情報・通信技術
・近年の「ノートPC」はリチウムイオン電池を使用しています。「ノートPC」の電池パックには、電池の電圧/電流/温度などの異常をPCに知らせる監視回路や、異常時に充放電を停止する保護回路が備わっています。
・「携帯電話」「PDA」でもリチウムイオン電池を使用しています。リチウムイオン電池は満充電だと劣化します。また60℃以上になると急激に劣化するので、高温にしない事も重要です。
・「充電式電動工具」はニカド電池からニッケル水素電池、さらにリチウムイオン電池と変わっています。リチウムイオン電池はCC-CV充電制御(定電流から定電圧)を行っています。放電時は電圧/温度を監視しています。
・「電動ゴルフカート」には高容量/メンテナンス性から鉛蓄電池を使用しています。
・「ロボット」には産業用ロボット/医療・福祉用ロボット/掃除ロボットなどがありますが、非据置型は二次電池を使っています。低コストを重視するロボットは鉛蓄電池、小型・軽量を重視するロボットはニッケル水素電池/リチウムイオン電池などを使用しています。
・ニッケル水素電池には「メモリー効果」(継ぎ足し充電により容量が減少した様に見える)があります。
・リチウムイオン電池を複数接続し大容量/高電圧を実現した①蓄電用標準電池システム②動力用標準電池システムが開発されています。
○大型産業用
・「エレベータ」では予備電源/省エネの目的で二次電池を利用しています。かつては鉛蓄電池を使用していましたが、近年はニッケル水素電池を使用しています。満員で上昇/空員で下降する時はモータで動かし、空員で上昇/満員で下降する時は回生電力を回収しています。
・コンテナを荷役する「港湾クレーン」は電気二重層キャパシタ(EDLC)を搭載しています。吊り上げ時はEDLCがアシストし、吊り下げ時はEDLCに蓄電します。
・「フォークリフト」は倉庫内での騒音/排気ガスの抑制から電動化が進んでいます。二次電池は鉛蓄電池を使用しています。
○交通システム
・「環境調和型自動車」(燃料電池車、電気自動車)により二酸化炭素の排出低減/燃費向上がなされました。
・「ハイブリッド車」には①シリーズ方式②パラレル方式③シリーズ・パラレル方式があります。
①シリーズ方式は電気自動車が基本です。エンジン/発電機を持ち、充電は不要です。エンジンは小型化できますが、モーターは高出力になります。コースター(トヨタ)などが採用しています。
②パラレル方式はエンジンの動力が主で、小型のモーターで発進/加速をアシストします。減速時は回生電力を回収します。インサイト(ホンダ)などが採用しています。
③シリーズ・パラレル方式はエンジンの動力を遊星歯車で車軸と発電機に分割します。燃費の向上が望めます。プリウス(トヨタ)などが採用しています。
※「ハイブリッド車」だけでも3種類あるのか。
・「プラグインハイブリッド車」は充電可能なハイブリッド車です。アイミーブ(三菱)/リーフ(日産)などが市販されています。電気自動車と比べると、高価な電池を小さくできます。
・「電気自動車」は電気エネルギーだけで走行するため、そのエネルギー源は多様です。また「電気自動車」はガソリン車よりエネルギー効率が高いが、①航続距離②充電時間③価格などの課題があります。
・「電気自動車」の充電は①充電器を自動車に内臓する②充電器を定置するが考えられますが、①充電器を内臓する方式で進められています。
・「燃料電池車」は電気自動車の航続距離/充電時間を解決する究極のエコカーとして期待されています。「燃料電池車」には燃料電池(FC)と二次電池が必要ですが、そのバランスが重要です。
・「燃料電池車」は低温での始動/コスト/耐久性/水素インフラなどが課題です。
・燃料電池システムは水素系/空気系/冷却系/電気系で構成されています。
・電車/バスは電池を積み、減速時に回生電力を回収しています。またハイブリッド鉄道車両(ディーゼル車など)も電池を積み、減速時に回生電力を回収しています。
・「電動二輪車」(電動バイク、電動アシスト自転車)がありますが、これらの電池には耐久性が強く要求されます。中国では二輪車の1/3が電動バイクです。
・交通システム全体では、電池の性能から、航続距離が短い場合は電気自動車、航続距離が長い場合はハイブリッド車/燃料電池車が有利です。
○電力系統
・再生可能エネルギーとして「風力発電(WF)」が期待されています。日本は山岳が多く設置が困難で、しかも利用率は20%しかありません。電力平準化に鉛蓄電池/レドックスフロー電池/ナトリウム硫黄電池/ニッケル水素電池が利用されています。
・再生可能エネルギーとして「太陽光発電(PV)」も注目されています。一般家庭では「逆潮」により配電に電力を供給しています。
・「ロードコンディショナー」「一般家庭設置型蓄電システム」などの家庭用蓄電システム、オール電化による「冷暖房エアコン」「ヒートポンプ式給湯機」「IHクッキングヒータ」などで夜間電力の利用が促進されています。また「太陽光発電(PV)」の余剰電力は売電されています。
・また近年次世代グリッド/マイクログリッドが注目され、HEMS(スマートメーターなど)と蓄電システムによる電力の有効利用が考えられます。
・「スマートグリッド」の明確な定義はありませんが、太陽光発電(PV)/風力発電(WF)/小容量水力発電/コージェネレーションシステムなどの供給サイドと消費サイドが情報通信し制御する電力系統・配電システムです。
・「スマートグリッド」の高圧系統では大容量の、低圧配電系統ではナトリウム硫黄電池/ニッケル水素電池などの蓄電システムが必要になります。
・「マイクログリッド」ではV2G(電気自動車から配電)/V2H(電気自動車から家)が検討されています。
・日本の電力系統は「くし形」で制御が容易です。一方欧州は「メッシュ状」でループフローが発生します。※数年前米国で大停電が起きたような。
○宇宙・深海
・小惑星探査機「はやぶさ」はリチウムイオン電池を搭載しました。
・有人潜水調査船「しんかい2000」は酸化銀亜鉛電池を搭載しました。この電池は安定していますが、充電時に負極に針状金属が析出するため、運用管理が重要です。
・有人潜水調査船「しんかい6500」はリチウムイオン電池を搭載しました。リチウムイオン電池は酸化銀亜鉛電池に比べエネルギー密度が高い/ガスが発生しない/メモリー効果がない/充電電流が大きい/長寿命などの特徴があります。安全性から過充電/過放電/短絡については十分検討しました。