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『「意地悪」化する日本』内田樹、福島みずほ(2015年)を読書。

両氏の対談で、安倍政治、橋下徹、戦争法(安保法制)などを強く批判。
家族とかも論じており、内容は大変濃く、ヒントになる事も多い。
ただし読み違えている事もある。

お勧め度:☆☆

キーワード:安倍政治、戦後レジーム/主権国家、対米従属、憲法草案、大坂都構想、都道府県、政党、議員、サンディ・スプリングス、選択と集中/トリクルダウン、社会福祉、大学、忖度/諫言、道徳、戦争法(安保法制)/特定秘密保護法、選択的夫婦別姓、人格、SEALDs、行政府/立法府、軍産複合体、参議院選挙、株式会社化、基地問題、日本の威信/株価、分断統治、行政サービス、ネット

<安倍政治とは>
・安倍政治は自民党では特異である。自民党の本来の政治は人情的かつ保守的であった。
・安倍政治は常識がなく平気で嘘をつき、呆然として議論ができない。今や教養/見識/人格がなく「親しみ」がある人(橋下さんなど)が、公人に押し上げられる時代になった。

・安倍さん(以下彼)が持つルサンチマン(怨念)は「戦後レジーム」で、かっての大日本帝国のような「主権国家」を目標としている。彼の中では”主権国家=戦争できる国”と誤解している。
・日本の国家戦略は「対米従属を通じての、対米自立」で、米国に従属していると「良い事」(サンフランシスコ講話条約/独立、小笠原/沖縄返還)があると信じている。

・日本の「対米従属」は迂回的戦術であったが、今や国家目標になっている。「特定秘密保護法」「集団的自衛権の行使」「安保法制」、これらは”米国の戦争のお手伝い”をするための制度で、「対米従属を通じての、対米従属」になっている。※確かに。
・日本の外交・国防/エネルギー政策/食料政策/教育・医療政策、これらは全て米国の国益に沿っている。そもそも政府も官僚も米国を忖度し、米国の意に反する政策は出さない。

・自民党「憲法草案」は酷いもので、「基本的人権は、公の秩序によって制限される」としている。この「憲法草案」は国民を説教をする憲法で、国民をコントロールしている(憲法は国家をコントロールするもの)。

・米国はマキャベリズムで、米国に都合が良ければ、相手国が独裁国家でも文句は言わない。安倍支持層も同じで、日本が民主主義であろうが独裁であろうが関係ない。株価が上昇し続ける間、彼を支持する。

・彼の発言には嘘が多い。①原発はコントロール下にある②「女性活躍」と言いながら「労働者派遣法」を改悪③「積極的平和主義」、これは「積極的戦争主義」④「沖縄の皆さんの理解を丁寧に求める」で民意を踏み潰すなど、言葉と現実が乖離している。アウシュビッツに掲げられていた「労働は人を自由にする」を思わせる。

・第一次安倍内閣は対話的で、質問に素直に答えて失敗した。この経験から今は全く議論せず、同じフレーズ「国民の命と幸せな暮らしを守る」などを繰り返すだけである。・彼は第一次内閣で野党/メディアに理性的かつ穏当に対応して失敗した。この経験から反対勢力に対して強権的に振る舞うようになった。※それは感じる。

・彼は第一次内閣で失敗し、総裁選でもギリギリで勝った。彼が首相である必然性はない。
・人は自身に他者を抱え込み葛藤する。葛藤がない人は他者と会話できない。彼にはその葛藤がない。
・彼は日教組/自治労/朝日新聞/岩波書店を批判している。

・橋下さんは政治家/知識人/教師/法曹/役人を罵倒した。橋下さんは権威あるものを踏み潰し、愚弄し、暴きたいルサンチマン(怨念)を持っている。
・「大坂都構想」の賛成派はCMや電話など、お金を掛けて組織的に運動した。一方反対派は市民が自発的に運動した。住民投票は僅差で反対となったが、それは「何か嫌」という気分が決めた。

・明治維新で「廃藩置県」が行われ、都道府県が置かれた。それまでは「藩(国)」であった。「国境」「お国自慢」「お国なまり」など、これらは全て「藩(国)」で、国民は政府が勝手に引いた都道府県への帰属意識は薄い。中東の「サイクス=ピコ協定」も同様である。※自分もそんな気がする。

・政治家は大規模な制度改革が政治と勘違いしている。介護保険/地域包括ケアシステム/子育て支援など地道な政策が重要である。※確かに。大規模な改革は失敗が多い気がする。
・今や国家が「有限責任」の「株式会社化」している。「戦争責任」も過去の事としてチャラにできない。

<「意地悪」への欲望>
・橋下さんは「偶像」を破壊したい願望が強いと感じる。
・人は本当に貧しくなると助け合います。日本人が冷淡になってきたのは、「豊か」になったからだと思います。

・日本の政党は離合集散が続いています。「維新」も東西に分裂し、西は自民党に近く、東は民主党に近い。
・世界では保守政党/社会民主主義政党/環境政党/共産党/右翼政党がバランスしていますが、日本は「社会民主主義政党」が非常に弱い。

・田中角栄の「列島改造論」は成長論でもあり、分配論でもあった。その田中派の多く(羽田孜、渡部恒三、小沢一郎、鳩山由紀夫、岡田克也など)は民主党に移った。これにより自民党は農村型から都会型(清和会系)に変わった。
・安倍政治は「選択と集中」で経済成長の一点突破を目指すが、「トリクルダウン」がなければ意味がない。

・議員と選挙民の関係が病んでいると思う。街頭での演説/運動会でのスピーチなどで「踏み絵」をさせるのではなく、市民を集めての国政報告や質問への回答など、地道な活動が欲しい。
・参議院は「良識の府」であり、名望家/学識者/文化人が議員になるべきである。選挙制度改正により無所属で立候補できなくなったのは残念である。

・日本は「身を切る改革」で議員数を減らす傾向にあるが、それで喜ぶのは政府与党/官僚である。野党/メディアは政府与党をチェックする重要な役目がある。米国では議員自体も議員秘書も増やす傾向にある。※この辺り、うなずく事が多い。

・米国に「サンディ・スプリングス」という市がある。この市は「税金を払えない人に税金を使うのはアンフェアだ」と、金持ちだけが独立した市である。独立した市は警察や消防が強化されたが、独立された郡は病院/図書館は閉鎖され、犯罪が増え、教育水準も下がった。米国にはこのような市が30以上ある。※ゲーテッド・タウンかな。

・「選択と集中」で生産性の高いセクターに資源を集中させようとしているが、儲かった人が「これを皆で分配しよう」(トリクルダウン)と言うはずがない。
・近年日本で「医療の自由化」をいわれているが、これは「医療の市場化」である。お金がない人は十分な医療を受けれなくなる。

・国立大学の独立行政法人化で「学術的生産力」が急激に下がった。これにより教員の事務量が膨大になり、また批判的な知性を育てる人文科学系が縮小された。
・「米国の次はドイツが覇権を握る」との意見もある。しかしドイツの文学/政治/経済/歴史/文化を研究している専門家はほとんどいない。同様にイスラムの専門家も少ない。

・彼は翁長県知事にも後藤健二さんの母にも会わなかった。周りの人は彼に忖度し、諫言する人がいないのでは。

<「ビッグ・ブラザー」はすべてが知りたい>
・「道徳」が教科化されます。世の中が多様化している時代に画一的な内容で評点化するのは、子供を「面従腹背」にします。子供は身近な大人から学ぶものです。
・幸福な家庭の形は一つかもしれないが、不幸の形は様々である。同様に少年非行の原因も様々である。

・「戦争法」では国会の承認が必要ですが、「特定秘密保護法」でその内容が開示されない可能性が高い。一方「盗聴法改正案」が通れば個人の電話/メールなど全て盗聴される。マイナンバーもそれに近い制度です。
・政府が個人情報を維持するのはコストが高すぎる。高価な情報程、製薬会社/保険会社への流出が懸念される。

・1970年代に国立大学の学費が急激に値上げされた(月1千円→月9万円)。これは学費を上げて親の監視を強め、学生運動を鎮めるためだった。※確かに、効果ありそう。
・自民党は「家族の連帯責任」を強める傾向にある。そのため「選択的夫婦別姓」に反対する。

・著者夫婦(福島)がたまたま休日が取れた時、娘と動物園に行こうとすると、娘が「私の意見も聞いて」と言う。これは目から鱗が落ちた。
・著者(内田)の祖父は大変厳格だった。そのためか著者が子供の頃、毎週家族会議を開く事になった。また著者が学生運動に嵌っていた時、父の書棚に全共闘運動の本が並んでいた。これにほろっとした。

・著者(内田)の中には幼児/老人/おばさん/少女/青年など色々な「人格」が混在している。娘の前では「おばさん」である。若い頃は自分の中の卑しさ/弱さ/暴力性/幼児性を抑え込もうとしていたが、今はその気はない。
・武術を始めて、自分の意図で動かせるのは身体の一部である事を知った。これは現場への権限移譲が大切なのに通じた。
・著者(内田)は25歳の時、4歳年上の女性と結婚したが、丁度その頃「教わりたいモード」になっていた。
※この辺りは本書の趣旨から少し外れるが、「道徳」の教科化反対という事で。

<社会の地盤が動いている>
・選挙年齢の引き下げで、240万票の行方が政治の流れを決めると思う。「安保法制」反対で集ったSEALDsなどは「落選運動」(当選させたくない候補者を落す)をしている。SEALDsの「安倍辞めろ」「憲法守れ」「民主主義はこれだ」には感動した。
・SEALDsの運動は「新しさ」が目立つが、成熟した政治思想・政治運動で、OLDs/MIDDLEs/ママの会/学者の会/OVERSEAsなどに多種多様な人が参加した。※バックにそれなりの人がいるのでは。

・かつての安田講堂/浅間山荘では母親が闘争を辞める様に子供に訴えたが、今回は母親が自ら子供を連れて「誰の子供も殺させない」と訴えていた。
・今は「激動期」にあると思う。中年男性は気付いていないが、女性/若者はそれに気付いている。南米では家庭での「ささやき戦術」で独裁政権が倒れた。日本の状況もそれに近いのでは。※これは読み違いかな。

・彼は米国議会で安保法制の成立を約束した。自分の指令下に立法府があると思っている。これでは「共和制」ではなく「独裁」である。憲法では立法権は立法府にあり、しかも立法府は国権の最高機関である。※この点でも憲法を侵しているのか。
・彼の権力の源泉は米国である。米国が支持する政策であれば、政界/財界/メディアは「忖度」して反対しない事を知っている。「戦争法案」は”日本の国益か、米国の国益か”の「踏み絵」である。

・彼の国会を愚弄する態度(質問に答えない/説明しない/説得しない)は、立法府が行政府の下にある事を国民に周知させるためです。
・オバマ大統領と金正恩を比べると政治的実力はオバマが圧倒的に上だが、「権力者」となると金正恩が上である。これはオバマはルールに従っているが、金正恩にはルールがないからである。その点からすると、彼も「権力者」である。
・東京電力の3名は「検察審査会」で強制起訴となった。政府に対しても釘を刺して行こうと思う。

・「戦争法案」は審議なし/表決なし/反対討論なし/地方公聴会の報告なしで「強行採決」された。これは前代未聞です。これでは法案も違憲、手続きも違憲です。
・自民党「憲法草案」の前文は「日本国は国民主権の下、三権分立に基づいて統治される」となっている。これでは国民主権が最優先されるか疑わしい。

・米国はリチャード・アーミテージ/ジョセフ・ナイなどの私人を通して日本に圧力を掛けている。日本の政治家/官僚/メディアは、それらを忖度し、米国の国益に叶う事をどんどんやっています。
・米国が中東(インドネシアからアフリカまで拡大解釈)に介入する時は、国連決議ではなく集団的自衛権を行使し、日本を引きずり込むつもりです。経団連はプチアメリカ(軍産複合体)になるのを期待しているのでは。

<それでも希望はある>
・来年は参議院選挙があります。共産党志位委員長が「野党共闘」を呼び掛けています。2014年総選挙で社民党/民主党/生活の党は選挙協力し、沖縄では全議席を獲得しました。
・来年の参議院選挙では統一名簿は困難でも、1人区の調整は可能と思います。若い有権者にも期待します。また「戦争法案」で公明党と創価学会で温度差があり、そこにも期待です。※これは読み違いです。

・今の自民党は「株式会社化」し、中年男性に馴染みの上意下達になっています。経営結果はマーケット(選挙)で判定され、悪ければトップは交替します。株価が下落するか米国の支持を失うと、彼も交替させられます。
・「改正労働者派遣法」が成立しました。これは派遣労働者を一生派遣で働かせるための法律です。
・以前アウトソーシングが流行りました。これは短期的には人件費の削減になりますが、長期的にはスキルの喪失になりました。

・自民党「憲法草案」には「緊急事態条項」があり、「緊急事態宣言」されると内閣は政令を出す事が可能になります(国会の死)。これはナチスの「全権委任法」と同じです。

・日本が米国から自立するには、まず基地から出て行ってもらう事です。韓国/台湾/フィリピンはそれをやりました。沖縄県民も米国も出て行きたいのに日本政府だけが引き止めています。

・日本社会(経団連、防衛省、外務省、政党、内閣法制局、出版社、NHKなど)で、あるライン以上になるには、イエスマンになるしかありません。また独裁者は有能な部下を粛清するため、独裁者の周りは無能者の集まりになります。

・60年安保/70年安保は日常生活と無関係で、当時の若者は闘争の目的を理解せず参加していました。しかし今回の2015年安保は違います。※多分逆と思います。当時の方が反戦意識が強いのでは。

・著者(福島)はパワハラ/独裁が大嫌いです。
・安倍支持も盤石ではありません。安倍支持層が支持する理由は、日本の威信(対中国、韓国)と株価だけです。彼はそれを知っているため、官製相場で株価を支えています。

・「松下政経塾」の”政経”は政治経営です。※知らなかった。
・共産党が「野党共闘」を提案したのに驚いた。国全体が右傾化したので、共産党が右傾化しても不自然さを感じない。

・日本は東アジアの盟主であったが、今や中国に抜かれ韓国に並ばれた。中年男性はそれに耐えられない。そのため中国叩き/韓国叩きで人気を得るが、それに何の意味もない。

・米国にはメインカルチャーとサブカルチャーが存在します。核廃絶/脱原発など必ず賛成と反対が存在します。米国は多層的で主権国家で民主主義の国です。米国に自国の意見を素直に伝えれば、ちゃんと通じる国です。米国は誠実に語る国をリスペクトします。

・米国の統治政策の基本は「分断統治」です。東アジアでも日本/韓国/中国/台湾/ASEANが一定の緊張感を持つ一方、同盟関係になる事を警戒しています。※そうなのか。
・何時か米国の覇権は終わります。韓国/フィリピン/台湾は日本と違って、それに取り組んでいます。
・英国/オーストラリア/ギリシャなどが「脱グローバリズム」に向かっています。これには留意する必要があります。

・今は国家が「株式会社化」しています。「株式会社」の理論には適さないが、行政サービス(治安、防災、公衆衛生、医療、教育、保育、介護など)が行政の核心です。
・豊かであった時代であれば、他人を蹴落とす「意地悪」は合理的でしたが、豊かでない時代になると「集団で生き延びる」に切り替える必要があります。

・メディアでは新聞/テレビが衰退し、ネットだけになります。メディアにこの危機感が足りません。ただしネットでの情報発信者が信用できるかは吟味する必要があります。その指標の一つは「言葉遣い」でしょうか。

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