『デフレの真実』渡辺喜美、菅下清廣(2011年)を読書。
渡辺氏の脱デフレ政策を解説しています。積極財政/金融緩和/円安で今のアベノミクスと同じです。
大きく異なるのは道州制の導入でしょうか。
東日本震災を脱デフレの機会と見ています。
お勧め度:☆☆
キーワード:東日本復興院、権限/財源/人間、埋蔵金、情報隠蔽、脱原発、電力自由化、デフレ、戦後レジーム、高橋是清、金融緩和、積極財政、道州制、開国、法人税、海洋資源、TPP、歳入庁、混合診療、復興特需
○大震災で日本のデフレはどうなる
・「東日本復興院」を時限的に設置する必要があります。縦割を廃し、「東日本復興院」に権限/財源/人間(3ゲン)を移譲します。
・復興財源には埋蔵金(国債整理基金特別会計10兆円、労働保険特別会計5兆円)を活用します。
・菅総理の原発事故での情報隠蔽は重罪です。「大丈夫、大丈夫」と言うだけで、メルトダウン/スピーディなどを公開しませんでした。これでは戦時中の大本営と同じです。
・日本の国土面積は世界の0.25%ですが、火山噴火の10%、地震の20%が発生する特殊な国です。「脱原発」を図る必要があります。
・一般企業の発電能力は6,000万キロワットあり、東京電力に匹敵する埋蔵電力があります。「電力自由化」を推進する必要があります。
・著者の地元で小水力発電/燃料電池/バイオエタノール発電のプロジェクトが実施されています。
・「みんなの党」は「東日本緊急応援アジェンダ」を作成しました。そこで被災者の土地/家屋を買い上げる案を提案しています。財源は「復興国債」にすべきです。また「東日本復興院」は一次産業(農業会社、漁業会社)に資本を提供し、そこで被災者を雇用すべきです。
・賠償金は東電の「解体型再編」で捻出すべきです。
・日本の電気料金は一番高い。これは「総括原価方式」のためです。
・復興特需で「脱デフレ」になるか、復興増税で大不況になるか重要な分岐点です。
○デフレはなぜ悪いか
・日本はデフレです。1991年名目GDPは474兆円で、18年後の2009年も474兆円でした。モノの値段が下がるため、モノを買わないデフレスパイラルに陥っています。
・デフレ脱却の方策は、①積極財政②金融緩和③円安です。「技術革新」で生産性を上げる事も重要です。
○デフレはなぜ終わらない
・戦時中に確立した中央集権/官僚統制(戦後レジーム)が、今も延々と続いています。財閥解体も農地解放も官僚が望むものです。財閥解体により資金調達が株式市場(直接金融)から、官僚が統制可能な銀行融資(間接金融)に移りました。
・食糧管理法も1942年に成立しています。「天下り」もこの時代の遺物です。「9電力体制」も1940年体制です。それまでは何百という電力会社がありました。
・「みんなの党」は小さな政府/地域主権/民間主導/増税より減税を掲げています。
・日本の資本主義は”いびつ”です。資本3に対し負債7でレバレッジしています。これは信用収縮を起こします。バブル崩壊後は選挙制度改革ではなく、構造改革をすべきでした。
・デフレは給料が下がらない官僚にとって天国です。またデフレによる景気対策/雇用対策/格差是正対策/自殺者対策は、官僚の権限が拡大するだけです。
・世界恐慌後、高橋是清蔵相は①積極財政②金融緩和③円安で世界で一番早くデフレから脱却しました。その後戦争に突入したため、日銀はこの方策を否定していますが、間違いです。
・プライマリーバランスを改善するのに、名目成長率2%なら消費税15%が必要ですが、名目成長率4%なら消費税5%で済みます。民主党は消費税25%を考えています。増税は必要ありません。「みんなの党」は消費税を全額地方財源にする予定です。
・デフレの原因は「お金の量」です。金融緩和が必要です。
○デフレ脱却
・デフレ脱却には「積極財政」と「金融緩和」を同時に実行する必要があります。銀行券の発行を増やすと日銀のバランスシートが拡大します。リーマンショック後、各国はバランスシートを拡大していますが、日銀だけは、それをやっていません。※この辺り、少し理解できず。
・政府と日銀が一体となって政策を実行するには、「日銀法」の改正が必要です。
・デフレの原因はデフレギャップ(需要と供給の差)です。大震災前はデフレギャップが20兆円ありました。この差を埋めるには積極財政(特に法人減税)しかありません。法人に対する即時償却/自由償却などの投資減税が有効です。
・為替介入は効果がありません。よって「外国為替資金特別会計」も意味がありません。これは「天下り」の温床です。
・国が株式を保有している会社に対し、配当を要求する事(株主権の行使)も有効です。これにより一般企業も内部留保を配当に回す様になります。
・日本は1,000兆円の借金がありますが700兆円の資産があり、国債の金利は上昇しません。金利が上がると皆が国債を購入します。
○成長戦略
・成長戦略の根底は「道州制」です。中央政府は外交/防衛/安全保障/通商交渉/マクロ経済政策/社会保障/インフラ整備に限定し、歳出は基礎自治体が5割、道州政府が3割、中央政府が2割を担います。
・「道州制」により一次産業に対し有効な政策を打てます。世界的に食料需要は間違いなく増え続けます。
・「道州制」で権限/財源/人間(3ゲン)を地方に移譲します。また「道州制特区」を導入すべきです。
・栃木のイチゴ/青森のリンゴ/北海道の牛乳など国際競争力のある農産品はあります。日本は「スキスキ開国」すべきです。農業改革は「道州制」の目玉になります。
・法人税を半分(20%)にします。その穴埋めに「労働保険特別会計」の埋蔵金5兆円と政府保有株(郵政、日本政策投資銀行、商工中金、日本たばこ)の1/4を売却します。※これは一時的では。
・国会議員の給与/ボーナスもカットします。国家公務員の人件費もカットします。「国債整理基金」での「定率繰り入れ」10兆円も停止します。
○国家戦略
・中国の覇権主義を抑えるためには、環太平洋諸国で合従連衡する必要があります。
・日本の経済水域は世界第6位の広さです。大陸棚には金/銀/銅/ニッケル/コバルト/マンガン/メタンハイドレートなどの資源が無尽蔵にあります。これらの開発は国がサポートし、民間主導ですべきです。
・日本は海洋国家です。今はデフレで企業も個人も投資しません。デフレを脱却し、海洋資源開発に投資すべきです。日本は資源大国になれます。
・国家戦略を立てるため、官邸に「国家戦略本部」を設置します。
・日本はWTOで、最も自由化が遅れているグループに属します。TPPは即座に関税を撤廃するものではありません。10年後/15年後に撤廃されます。
・米軍基地は沖縄である必然性はありません。基地問題は沖縄を「スーパー特区」に指定し、経済を活性化した後です。
○年金、医療、教育
・国民年金の未収は4割に達しています。厚生年金の未収額も年6兆円あります。この問題に対し「社会保障を受ける権利」と「納税の義務」を一体化した「歳入庁」の設置を提案します。
・医療改革では「混合診療」の解禁を提案します。歯科/産婦人科では既に「混合診療」が行われています。
・法人は厚生労働省が統制する医療法人/社会福祉法人、文部科学省が統制する学校法人/独立行政法人などバラバラです。営利法人/非営利法人、民法法人/商法法人の2種類で十分です。
○株価、為替
・大震災前のマーケットはデフレ/円高/株安でした。
・米国はデフレでもないのに、デフレ懸念からQE2で60兆円を供給しました。日銀は大震災で10兆円を供給しましたが、全然足りません。復興国債を20兆円発行すれば、復興特需で株高/円安/脱デフレを実現できます。
・復興財源の確保方法は3種類考えられます。①復興国債を20兆円発行し、日銀が一括引受けする②赤字国債と増税③復興税などで増税。
・①であれば脱デフレが可能です。しかし「財政法」の改正が必要です。②だとマーケットを圧迫します。また「特例公債法案」を通す必要があります。③は最悪の方法です。
・②③の方法では株価は下がります。①で復興国債を日銀が一括引受けしなくても、日銀が市場で買えばデフレは終わり、株価は上がります。※結局どれになったんだ。
・景気にはサイクルがあります。3年のキッチン・サイクル/10年のジュグラー・サイクル/20年のクズネッツ・サイクル/約50年のコンドラチェフ・サイクルがあります。
・日本株が2009年に底入れしたとすれば、円高もピークが近付いていると考えられます。
・日本は企業も個人も”しっかり”しています。日本経済は優れた政治リーダーが表れるかに掛かっています。
・日本は中央集権/官僚統制を止めて、民間主導/地域主権/小さな政府に転じれば再び経済成長します。