『里山資本主義』藻谷浩介、NHK広島(2013年)を読書。
過疎地における林業復活、耕作放棄地の利用、コミュニケーションなどを「里山資本主義」として説いています。
「里山資本主義」は、経済性重視の「マネー資本主義」の欠点を補うシステムとして紹介しています。
前半は「里山資本主義」を、後半は「マネー資本主義」がもたらした弊害を解説しています。
日本は森林に恵まれ、林業をもっと活用すべきと思います。都会の喧騒とした社会は、少子化を招いている原因と感じます。
文章がやや難しく、また全体的に冗長的に感じるで、もう少しシンプルで圧縮して欲しかった。
お勧め度:☆☆(過疎地の再興を望みます)
キーワード:里山資本主義/マネー資本主義、<中国山地>真庭市/木質バイオマス発電/木質ペレット、庄原市/エコストーブ、<オーストリア>ペレット/森林官/森林マスター/原発禁止/コージェネレーション、地域、集成材(CLT)、<里山資本主義>マネタリスト経済学、物々交換/規模の利益/分業の原理、<グローバル経済からの解放>周防大島/ジャム、ニューノーマル/域際収支、耕作放棄地、<無縁社会の克服>空き家/野菜/保育園、<しなやかな21世紀>スマートシティ、<不安/不満/不信に訣別>日本経済衰退説/経済成長/国際競争力/デフレ、少子化/高齢化、<爽やかな風>ヴィジョン
○はじめに-井上恭介
・都会で猛烈に働いている人は「豊か」に思えない。彼らは収入も多いが、支出も多い(※何と云っても自由な時間がない)。一方裏山で拾った薪でご飯を炊き、近所の農家と野菜を共有する生活もある(里山資本主義)。
・これを見直す切っ掛けになったのは「リーマンショック」である。米国はGM/GE/デュポンなどで大衆消費社会を作り、それらが凋落すると、マネーゲームを始めた。欧州の各国は倒産危機の企業に財政出動し、ユーロ危機に陥った。
・2011年東日本大震災が発生する。スイッチを捻っても電気が点かない。生きるために基本的な事が、巨大システムに牛耳られているのを知った。この年著者(井上)はNHK広島に転勤し、「エコストーブ」を活用する和田芳治さんと知り合う(後述)。
・転勤後「里山資本主義」の番組を作成し、その推進役を『デフレの正体』を書かれた藻谷浩介にお願いした。
・「里山資本主義」は「マネー資本主義」の対極だが、最先端の志向であり、「スマートシティ」と同じ発想である。都会での不安/不満/不信を解消する手段として活用されたい。
○世界経済の最先端、中国山地-夜久恭裕 ※3人の名前が繋がってる。
・岡山県真庭市は8割が森林を占め、製材所が多い。1989年全国で1万7千あった製材所は、2009年7千に減っている。そこで知り合った中島浩一郎(銘建工業)さんを紹介する。
・彼は1997年より、製材屑を利用し「木質バイオマス発電」をしている。この発電で自社工場の電力を賄い(年1億円)、余った電力を売電している(年5千万円)。さらに製材屑の処分費を浮かしている(年2億4千万円)。当初買取価格は3円/KWだったが、2002年買取義務付けで9円/KWに上昇した。政府は「売れる商品の開発」「生産性向上」を推し進めるが、「木質バイオマス発電」は「捨てる物を利用する」発想である。
・発電で余った製材屑は「木質ペレット」に加工し、販売している。このペレットで冷房もできる。真庭市には「バイオマス政策課」があり、「ペレットボイラー」の購入者に補助金を出している。
・真庭市のトマト農家は重油ボイラーからペレットボイラーに買い替えた。
・『エネルギー白書』ではエネルギー利用の内訳は、動力/照明35%、暖房27%、給湯28%、厨房8%、冷房3%で、主に電気による動力/照明以外は全て熱利用である。※そうなんだ。電力しか見ていなかった。
・真庭市ではエネルギーの11%を木から得ている。日本全体では太陽光/風力を含めた自然エネルギー全てで、わずか1%である。
・日本は1960年代まではエネルギーを木から得ており、木炭はその代表であった。「たたら製鉄」は平安時代から営まれ、多量の木炭を使用した。
・戦後まもなく安価で便利な石油が輸入され、1960年代には木材の輸入が自由化され、森林の放置が始まり、林業は衰退した。
・真庭市では出力1万KWの「バイオマス発電所」の計画が進んでいる。これは「再生可能エネルギー特措法」により33.6円/KW(間伐材)に跳ね上がった事による。またこれにより地域の雇用増/所得向上が望まれる。
・広島県庄原市の和田芳治さんは裏山で薪を集め、自作の「エコストーブ」で料理している。彼は「原価ゼロ円」の生活を追求し、クレソン(野草)を料理に使い、畑で野菜も作る。
・和田芳治さんは高校卒業後も庄原市に残った。彼は役場から企業誘致を任され、田舎の魅力を再考する切っ掛けになった。節分草/ブルーギル/ブラックバス/エコストーブなどを見い出した。東日本大震災を機に「エコストーブ」の講習依頼が各地から来るようになった。
・彼は言葉遊びが得意で、光齢者/笑エネ/志民などを作っている。また作詞/作曲もする。
○21世紀先進国はオーストリア-夜久恭裕
・オーストリアは経済が安定した国で、1人当たりGDPは世界11位である(日本は17位)。その要因は「里山資本主義」にある。オーストリアの森林面積は日本の15%しかないが、生産量は日本と同程度ある。
・オーストリアでは4年に1度、世界規模の林業機械展示会「オーストロフォーマ」が開かれる。展示は複数個所で行われ、山丸ごとの展示もある。著者(夜久)はここでペレット用タンローリー/ペレットボイラーを見学した。ペレットボイラーの製造会社も見学したが、ペレットボイラーは木の種類を自動判別し、酸素量を自動調整している。
・オーストリアがペレットに力を注ぐのは、日本と同様に技術はあるが、資源がないからである。また森林の育成/伐採、ペレットの加工、ペレットを利用する機械の開発/生産などは雇用を生んでいる。オーストリアは5百年先/1千年先を見越している。
・オーストリアでは林業従事者を資格で分類している。「林業労働者」は伐採/集材などを行う人で、林業高校を卒業すると資格を得られる。一方森林を管理する人が「森林官」「森林マスター」で、「森林官」は500ha以上の森林を管理する。これらの管理者は伐採する量/伐採する区域/木材の販売先などに責任を持つ。国内3ヶ所の研修所で森林の維持方法などを学ぶ事で、資格を取得できる。
・オーストリアでは林業の脱3K(危険、きつい、汚い)がなされている。それは①教育が義務付けられ、安全になった②再生可能エネルギーの推進で、国家が支援している③林業が高度化したによる。
・オーストリアは自然が作り出す利子だけで生活している。今や林業は2番目に外貨を稼ぐ産業になっている。
・オーストリアは1972年原発の建設を始めるが、住民の反対で稼働できず。1986年チェルノブイリ原発事故が起きる。1999年憲法で原発の稼働を禁止する。2011年福島第1原発事故から「エコ電力法」が成立し、バイオマス発電の補助金が増額される。オーストリアはロシアのエネルギー面での脅しから、エネルギーの自給自足を強く意識している。
・オーストリアにも「里山資本主義」を実践している町ギュッシングがある。町にはバイオマス発電が3基あり、その排熱による熱湯を各家庭に送り、「地域暖房」を行っている(コージェネレーション)。
・ギュッシングの議会は1990年エネルギーの脱化石燃料を決議し、1992年木質バイオマス発電による「地域暖房」を始める。2001年には売電を始め、2005年には黒字化する。安定している熱/電気により企業が誘致され、雇用を生んだ。税収は34万ユーロ(1993年)が150万ユーロ(2009年)に増大した。市長は改革に必要なのは「住民の決断と政治のリーダーシップ」と述べる。
・20世紀は国家が主導する時代で、初頭は帝国主義で国家が対抗し、半ばは第2次世界大戦の復興と高度成長で国家が競い、後半はグローバル競争が激化する時代であった。ある意味「地域」が捨てられる時代であった。しかし21世紀はスローフード/地産地消/スローライフ/ご当地グルメなど、「地域」が復権する時代である。
・真庭市の中島さん(前述)は、バイオマス先進国との交流を盛んに行い、海外に視察に行く時は、若手社員を同伴している。
・彼は新しい試みとして、CLT(クロス・ラミネーティッド・ティンバー、集成材)に取り組んでいる。CLTにより4、5階建ての木造建築が可能になる(オーストリアでは9階建てまで認可されている)。彼は国土交通省に建築基準法の改正を働きかけている。※鉄もセメントも豊富なので競争できるか。
○「里山資本主義」の極意-藻谷浩介
・生きるのに必要なのは、お金だろうか、水/食料/燃料だろうか。
・日銀は金融緩和でお札を多量に供給し、国は多量に国債を発行し、将来世代にツケを回している。日本は20年間で300兆円の国際収支を稼いだが、消費されず貯蓄されている。そのため国は国債を発行し、お金を回そうとするが効き目はない。その累積は1千兆円に達した。
・日本の石油/石炭/天然ガスなどの輸入額は、20年前は年5兆円であったが、今は20兆円を超えている。日本の輸出産業は強力で、EU/米国/中国/香港/韓国/台湾/シンガポール/タイ/インドから14兆円の貿易黒字を稼いでいる。したがって儲けたお金は全てアラブ諸国などの資源国に流れている。※これなら林業を見直すべきだ。
・生きるのに必要なのは、お金ではなく、水/食料/燃料である。日本各地の里山では、井戸から水を汲み、棚田から米、畑から野菜、山から薪を得て生活している人がいる。この「里山資本主義」は、お金の循環が全てを決する「マネー資本主義」をバックアップするサブシステムである。
・たたら製鉄/木炭を生んだ中国山地は、石油/天然ガスの導入により過疎化した。地域振興の「三種の神器」は交通インフラ整備/工業団地造成/観光振興であり、中国山地は何れも恵まれていたが、過疎化を抑える事はできなかった。
・そんな中、庄原市の和田さん(前述)は「里山資本主義」の生活を送っている。彼のアイデアで地元の福祉施設は、地元の半端物の野菜を食材に利用している。
・真庭市のペレットは製材屑を利用しているため採算が取れているが、間伐材からペレットを作ると採算は難しい。中標津空港(北海道)/高知駅/日向市駅(宮崎)などは集成材で作られている。
・オーストリアは神聖ローマ帝国の中核であり、またオーストリア=ハンガリー帝国は大国であり、プライドが高い。オーストリアは石炭を産出せず、タンカーを横付けする港はなく、原発は自ら放棄した。それゆえ自然エネルギーの活用が進んだ。オーストリアでペレットが普及しているのは、真庭市と同様、製材屑が豊富にあるからである。
・「里山資本主義」は「マネー資本主義」のサブシステムなので両立するが、政府の経済運営関係者は「里山資本主義」を否定している。日本は単一の原理にかぶれ易いが、オーストリアは止揚(アウフヘーベン)を生んだドイツ文化圏に属し、「里山資本主義」を認めている。※止揚?
・日本は律令制度/仏教/朱子学/文明開化/軍国主義/戦後のマルクス主義/ケインズ経済学/マネタリスト経済学など、瞬時に一色に染まる傾向があるが、その後時間を掛け、その新しい原理を日本流に変容させてきた。小泉改革の頃に輸入されたマネタリスト経済学(マネー資本主義?)は、まだ輸入されたままで変容していない。
・「マネー資本主義」に対する「里山資本主義」のアンチテーゼを列挙する。①「里山資本主義」は「貨幣換算できない物々交換」の復権である。バイオマス発電を始めた中島さんは自社内で物々交換をした事になる。また特定の人との物々交換により「絆」「ネットワーク」が生まれる。
・②「マネー資本主義」の「規模の利益」への抵抗である。「マネー資本主義」は大量生産/大量消費が原理であるが、「里山資本主義」の福祉施設は地元から食料/燃料を調達する。東日本大震災の時、巨大電力システムに依存する家屋では電気が使えなくなったが、ソーラーシステムなどを取り付けていた家屋では普通に電気が使えた。
・③「マネー資本主義」の「分業の原理」への異議である。リカードは各人が何でもするより、各人が得意な事に専念し、その成果物を交換する社会が理想とした。「里山資本主義」では和田さん達のように、薪も切れば、田畑も耕し、大工もすれば、料理もし、観光業者もすれば、通信販売業者もする。すなわち一人多役である。中島さんの銘建工業も集成材メーカーであり、発電事業者であり、木質ペレットの製造/販売/輸出業者である。
・「里山資本主義」は田舎に引っ越さなくても実践できる。買い物で地元産の商品を選択したり、店主と情報交換しながら買うのでも良い。また田舎の民家をセカンドハウスとして借りても良い、気に入れば購入すれば良い。今はそう云った情報も豊富である。
・今の「里山資本主義」は、ネットが爆発的に普及した段階と同じ段階にあると思う。「里山資本主義」は「あなたは、かけがえのない人」と思える世界である。そこでは持つべきものはお金ではなく、「人との絆」や「自然とのつながり」である。
○グローバル経済からの解放-井上恭介、夜久恭裕
・山口県周防大島は瀬戸内海で3番目に大きな島である。1961年国はミカン栽培を推奨し、大島でもミカン栽培に転換したが、オレンジ/グレープフルーツの輸入自由化で打撃を受ける。これにより若者は島を出て、高齢化が進んだ。しかしここ10年でその流れが変わった。
・松島匡史さんは京都の電力会社に勤めていたが、大島にIターンし、「瀬戸内ジャムズガーデン」を開業した。そこでは春はイチゴ/サクランボ、夏はブルーベリー、秋はイチジク、冬はミカン/リンゴなどのジャムを販売している。風味もバニラ/シナモン/ラム/紅茶/チョコレートなど様々である。
・彼は島を回り、青ミカン/東和金時などからもジャムを作っている。原料となる果物を、1キロ100円以上で仕入れている。また手作りにも拘っているため、雇用にも繋がっている。
・松島さん以外にも養蜂業/レストラン経営/水産加工などで若者が大島にUターン/Iターンしてきた。東京にあるNPO法人「ETIC」は、そんな若者と地域をマッチングをしている。
・三菱総研の安倍氏は地域に密着し、今あるものをどう使うかと云った「ニューノーマル消費」に注目している。一方、成長が全ての「オールドノーマル」を以下のように分析している。①52%-新商品が2年以内に消える割合②1.5年-新商品が利益を得られる期間③39%-仕事への満足度。また近年若者の「うつ病」が増加している。これらより今の社会が過剰競争である事が分かる。
・都道府県別の収支を「域際収支」と云う。東京都/大阪府などはプラスだが、高知県/奈良県などはマイナスになっている。高知県を品目別に見ると、農業はプラスだが、エネルギー(石油、電気、ガス)は大きくマイナス、2次産業も軒並みマイナス(電子部品のみプラス)、意外にも飲食料品もマイナスである。「里山資本主義」はこれらを解消するシステムと云える。※まるで高知県は帝国時代の植民地だな。
・中島さん(前述)は高知県知事に口説かれ、大豊町の製材所/発電所の施工式に参加した。大豊町にも「真庭モデル」を興そうとしている。
・「懐かしい未来」はスウェーデンの環境活動家が作った言葉である。今は成熟した時代になり、地域の豊かさや多様性に関心が向かっている。
・近年「シェア」の意味が変わってきた。以前は市場占有率を意味したが、今は共有を表している。
・中国地方は「耕作放棄地」の割合が高く、広島県26%(4位)/島根県22%(9位)である。「食料自給率」が低いのに、なぜ「耕作放棄地」がこんなに多いのか不可解である。「食料自給率」は米は96%だが、小麦11%/油脂類13%と低い。また畜産物の飼料の48%は輸入している。海外と競争するため農業の大規模化を要求しているが、これは正しいのか。
・島根県の洲濱正明さんは「耕作放棄地」を借り放牧している。ここの牛はストレスがなく、また多種の草を食べるため、牛乳は大変美味しいが、日によって変わる。これはビンテージと云える。
・島根県邑南町のイタリアンレストランのシェフは「耕すシェフ」と呼ばれている。彼女達は「耕作放棄地」で野菜を作り、それを調理しているためである。都会から来た彼女達にとって、ここは別世界である。
・島根県八頭町では「耕作放棄地」にホンモロコを放流している。ホンモロコは焼いたり甘露煮にすると美味しい。この試みは他県にも広がっている。
・「里山資本主義」は「作る楽しさ」「誇り」などの「豊かさ」をもたらす、さらに「感謝するコミュニケーション」が生まれる。「里山資本主義」が常識になれば、地方は激変し、日本は変わる。
○無縁社会の克服-井上恭介
・日本にとって「税と社会保障」「財政問題」は重要な課題である。年金制度は経済成長が続く事が前提であった。中国山地ではこれらの問題に対処する方法が試みられている。
・庄原市の和田さん(前述)の近所に住む熊原保さんは「空き家」を施設に利用している。不動産のコストが安い事は、大変なメリットである。その施設でデイサービスを受ける「お年寄り」は野菜を作っているが、野菜は一気に育つため、多くを捨てていた。施設ではそれを料理して出している。
・施設でアンケートを取ると100軒もの農家が野菜の提供を希望してきた。彼は施設の食材費(年間1億2千万円)の1割を地元から調達する目標を立てた。またその対価は「地域通貨」で支払っている。
・施設には保育園も併設されている。施設で働くママは、その保育園に子供を預け、働いている。また施設を利用する「お年寄り」は、子供達の良い遊び相手になっている。
・また施設の隣にレストランを経営し、「お年寄り」に楽しいランチの時間を提供している。この施設周辺では「お役立ちクロス」に溢れ、「孤立」は見当たらない。
・この施設には福祉先進国ファインランドの教授も視察に訪れている。
・熊原さんがこんな素敵な場所を作れたのは、和田さんを始めとする「過疎を逆手にとる会」の存在がある。「エコストーブ」を完成させた西山昭憲さんは、通信会社の仕事をする傍ら、川で鮎を捕り、山でシイタケを採り、友達からもらった鹿肉を食している。
・西山さんは「手間返し」を楽しみに生活している。「手間返し」は政府を当てにする考えではなく、人間を信じる考えである。
○「マッチョな20世紀」から「しなやかな21世紀」へ-井上恭介
・和田さん達は、年金と云うセーフティネットを持った60歳から75歳までの「光齢者」に田舎への移住を勧めている。
・著者(井上)は広島転勤前、「スマートシティ」プロジェクトの取材をしていた。プロジェクトへの参加企業は日立/清水建設/シャープ/HP/伊藤忠商事/三井不動産など錚々たる会社であった。実はそれが目指していたのは「里山資本主義」であり、太陽光/風力などによるエネルギー自給であった。
・「スマートシティ」で要求されるのは、しなやかさ/繊細さなどの調整能力である。米国が主導した20世紀を、日本は自動車に見られるような調整能力で勝ち残った。「スマートシティ」は「ものづくり日本」の遺伝子を活かせる場である。
・「スマートシティ」では、トイレ/ポットの使用で「お年寄り」の安否を確認するシステムが考えられている。これらも「里山資本主義」に通じる。広島から東京に出張した時、「スマートシティ」のメンバーと話したが、醤油の貸し借りや荷物の預かりができないかと考えていた。
・世界2位の経済大国になったのは「金の卵」のお陰である。その一方で少子化/無縁社会などの問題が起こった。今は揺り戻しが必要である。また近年「多様性」が注目されている。世界と戦える戦士を目指すだけでなく、地域でマルチに活動する人材も必要である。
○不安/不満/不信に訣別を-藻谷浩介
・「根本原因分析」と云う手法があるが、日本人の不安の源泉は「経済的繁栄への執着」にあると思う。官僚が悪い/大企業が悪い/マスコミが悪い/政権が悪い、彼らにより自分は切り捨てられていると云った不安/不満/不信が渦巻いている。
・2012年以降「アベノミクス」による金融緩和で円安に反転した。しかしこれはGDPの8割を占める内需産業には輸入燃料の上昇から、生活費の上昇に向う。
・「日本終末党」が「日本経済衰退説」を説くが、著者(藻谷)はそうは思わない。「日本終末党」の根拠は①経済成長の鈍化。しかし1人当たりGDPは微増しており、先進国では最高水準である。日本の平均寿命は延び続け、治安維持されている。20世紀欧州の多くの国はGDPで米国/日本に抜かれたが、暮らしの豊かさ(住環境、食生活、装いなど)は変わらなかった。
・根拠②国際競争力の低下-日本の国際競争力はバブル頃は1位であったが、27位に下降した。また日本の輸出額は3/4に減り(2007年比)、貿易赤字に転じた。しかし輸出額は1990年41兆円が2012年61兆円と1.5倍に増えている。月別輸出額は5兆円をキープし、これは日本製品の競争力を表している。赤字に転じたのは競争力の劣化ではなく、尖閣問題による政治的要因である。日本が貿易赤字なのは資源国だけである。また日本が海外から受ける金利配当は14兆円あり、貿易赤字6兆円を超えている。
・根拠③デフレ-デフレは経済活動を停滞させる要因になる。多くの国はインフレだが、日本だけがデフレである。しかし円高(110円/ドル→80円/ドル)なので外国から見れば1.4倍の物価上昇である。「リフレ論者」は脱デフレのため金融緩和を行っているが、インフレに向かう気配はない。そもそも「デフレは日銀のせいで、市場経済は自在にコントロールできる」は疑わしい。
・結論を申せば、デフレの原因は商品の供給過剰/大量生産低価格にあり、価格転嫁できる分野を開拓できるかに掛かっている。フランス/イタリアは日本より時給が高いが、ワイン/チーズ/パスタ/ハム/オリーブオイル/装飾工芸品などでブランドを持っている。
・高齢者は平均3,500万円残し死亡している。現実的な脱デフレ政策は、若者にこれらのお金を回す政策である。
・東日本大震災は日本人を打ちのめしたが、大震災は過去に幾らでもあった。十和田湖大噴火/明応大地震/眉山崩落/浅間山噴火/宝永噴火など枚挙に暇がない。日本人の半数は首都圏/京阪神圏に住んでいるが、彼らは燃料/食料/飲料、何れも自給できていない。東京-大阪間の交通が停止したら、新型インフルエンザが大流行したら、そんな事を心配しても仕方がない。彼らはこれらの事から本能的に不安を感じている。
・日本は刹那的な国債発行で、世界一の借金王になった。まだ生まれていない子孫にツケを回している。これまでは国債を国内で消化できたが、化石燃料輸入による貿易赤字で、今後は消化が難しくなるのは避けられない。インフレ誘導すれば金利は上がり、国債を多量に保有する年金基金/生命保険会社/金融機関などは打撃を受ける。当然政府の資金繰りも難しくなる。
・これらの刹那的対応しか取れなかった原因は、短期的な利益しか見ない「マネー資本主義」の本質による。笹子トンネルのように老朽化した土木構造物/使用済み核燃料の最終処分なども、この刹那的対応の一つである。
・ここまでは「マネー資本主義」の限界を猛々しく述べた。これからは「里山資本主義」について静かに述べる。「里山資本主義」はお金に依存せず、水/食料/燃料を自給でき、「マネー資本主義」のバックアップになるシステムである。「里山資本主義」の下で生活している人に焦燥感はなく、充足感に満ちている。それは彼らの日々の生活が安心を作っているからである。
・近年取り上げられる大きな問題に「少子化」がある。合計特殊出生率は1.4を割り、このままでは60年後に子供がいなくなる。この原因には諸説あるが、都道府県別の出生率を見ると、首都圏/京阪神圏は低く、九州や日本海側が高い。出生率が高い地域は、子育てへの支援が厚い地域(通勤/労働時間が短い、保育所が完備など)である。
・昔に田舎から都会に出た人は、田舎は昔のままと思うかもしれないが、今はスーパー/コンビニ/ホームセンターもあり、Jリーグ/Bリーグを見に行く事もでき、飛行機で都会に行くのも簡単である(少ないのは職場くらい)。
・2040年日本は年齢別人口(5歳刻み)で85歳以上が最も多くなる。しかし著者は「高齢化」を全く心配していない。これまで超高齢化社会のトップランナーであり、「マネー資本主義」の限界を自覚しつつある日本は、「里山資本主義」を取り込み、「明るい高齢化社会」に向うと考えている。
・医療費が一番掛かるのは、生きるか死ぬかの状態が長く続く場合である。男性の平均寿命が一番長いのは長野県だが、高齢者1人当たりの医療費は最低水準にある。これは県が戦後から食生活などの生活習慣の改善(予防医療)を指導してきたからである。個人的には長野県は「里山資本主義」を実践しているから、とも考えている。
・また「里山資本主義」の普及は「明るい高齢化社会」へ導くと考えている。今まで述べてきた「貨幣換算できない価値」(施設での触れ合い、生産者の生きがいなど)は高齢者を元気にする。「里山資本主義」を実践する人が増えるのは確実である。
○里山資本主義の爽やかな風-藻谷浩介
・日本は温暖な気候/豊富な降水量/肥沃な土壌に恵まれ農業適地である。食料自給率は必ず回復する。燃料需給も木質バイオマス/太陽光などの再生可能エネルギーの普及で、必ず改善する(人口減少は有利に働く)。人口減少で土石流/津波などの危険地域や湿地/急傾斜地などの居住に適さない地域からの移転も容易になる。
・国債償還に関しては高齢者が残す財産を利用し(相続税の強化など)、徐々に解消できる。
・黒船来航後の明治維新/日露戦争での勝利/戦後の高度経済成長/多摩川の水質改善など、想像できない進展が過去にあった。今後日本がどこに向うかは、旧来型のヴィジョンを持つ企業/政府/中高年者が、新しいヴィジョンに切り替えられるかに掛かっている。
○あとがき-藻谷浩介
・著者(藻谷)は全国での講演やコンサルティングを本業としている。そのため著作は、雑誌への寄稿や対談を元にしているが、唯一の例外が『デフレの正体』であった。そのため本書は、著者にとって2冊目の書き下ろしになる。本書の執筆を決意させたのは、角川書店の岸山氏とNHK広島の井上氏/夜久氏の熱意と、「里山資本主義」を世に問いたい使命感である。