『中国バブル崩壊』日本経済新聞社を読書。
今年は米中貿易問題などで中国が注目されるので、本書を選択。
本書は2015年の中国の経済減速をテーマにしています。
前半は中国の政治・経済・外交で、後半は中国以外の国の状況となっています。
2015年中国で様々な動きが見られ、また中国経済が減速した年で、中国株バブルが発生した年でもあります。
今年は中国経済への懸念で、2015年と似ている気がします。
お勧め度:☆☆(かなり参考になりそう)
キーワード:<はじめに>株/人民元、<プロローグ>20XX年、<株安・人民元ショック>株バブル、人民元切り下げ/世界同時株安、地方財政、<新常態>中所得国の罠/4兆元の景気対策、反腐敗運動、業界再編、先端産業、中国ビジネス、消費行動、社会統制/反腐敗/法治、<強まる大国意識>アジアインフラ投資銀行(AIIB)、一帯一路、南シナ海/サイバー攻撃、ASEAN、日中関係、<身構える日本・世界>WTO/G20、中国依存、欧州、米国、チャイナプラスワン、中国関連企業、インバウンド関係、コモディティー、豪州/ブラジル/ロシア、台湾/韓国
<はじめに>
・2015年6月、前年夏から2.5倍に上がった「上海株」が3週間で3割減じ、バブルになります。中国当局はなりふり構わぬ対策を講じます。
・2015年8月中国人民銀行(以下人民銀)は3日間で4.7%の「人民元」切下げをします。中国経済への懸念から、世界同時株安に向かいます。
・中国はGDPが世界第2位になり、アジア諸国や資源国(オーストラリア、ブラジルなど)は中国依存が高くなっている。
・中国には「影の銀行(シャドー・バンキング)」があり、多額の不良債権を生む恐れがある。地方債務への不安も高い。
<プロローグ 20XX年>
・20XX年、経済成長率が5%を切る。労働コストの上昇で国際競争力を失う。政策金利は0%台になり、量的緩和で債務は増大した。人民元安政策も続いている。AIIBは不良債権の山を築いただけであった。外貨準備は2兆ドルに半減した。中国国債はBBB格に格下げされ、中国企業はドル資金の調達が困難になった。
・「株民」(個人投資家)は株式投資で財産を失った。国民の政府に対する信任は著しく低下した。人民解放軍は発言力を増し、軍事費は毎年2桁の膨張を続けた。この始まりは2015年8月の「人民元切り下げ」であった。
<株安・人民元ショック>
○株バブル崩壊
・2015年7月20日「新華社通信」が「証券監督管理委員会が株価対策で投じた資金の回収を研究(?)している」との記事を出す。この記事がパニックを起こし、7月27日「上海総合指数」は8.5%急落する。
・政府は国有証券会社に買い支えを命じていたが、27日の急落で「市場安定のための買い入れを続ける」と発表する。28日人民銀も「金融緩和を続ける」と発表する。※中国株は官製バブル。中国政府は国民を酷く恐れている。
・政府は「新華社通信」の記者だけでなく、「悪意のある空売り」をしたとして、貿易会社の証券口座を凍結した。
・2007年10月「上海総合指数」は6124の最高値を更新している。その後2014年まで低迷を続けていた。
・中国株は個人投資家が7割程度を占める。その理由は、①年金制度が未整備のため、機関投資家が育っていない②外国人の売買を禁止しているである。この個人偏重が乱高下の原因になっている。
・2015年9月「G20財務相・中央銀行総裁会議」で、人民銀総裁は「株式市場は安定した」「改革を深化する」と主張した。同月「世界経済フォーラム」で李首相は「リスクのまん延は防いだ」「市場介入はなかった」と弁明する。
○人民元ショック
・2015年8月11日人民銀が人民元の為替レートの「基準値」を一挙に1.9%切り下げる。人民元は「管理変動相場制」で「基準値」の上下2%の変動を認めている。
・人民銀は「一度限りの措置」と説明していたが、12日/13日も切り下げ、合計4.7%の切り下げになった。
・「中国の夢」を掲げる習主席は、人民元がIMFの準備資産「SDR」に入るのを目指していた。この度の切り下げはこれを揺るがせるもので、輸出競争力を高めるためと判断された。これにより中国経済の悪化が益々懸念され、世界同時株安に向かう。※日本は円安になると、逆に株価は上がるが、大半が海外投資家のためか。
・2015年8月8日、7月輸出額は前年比8.3%の大幅減であった。これは現役指導者と長老が集う「北戴河会議」にも伝わった。李首相の「為替維持政策」は人民元の実効為替レートを15.3%も上昇させていた。7月は輸出だけでなく生産/消費/投資などの経済指標が軒並み悪化した。
・2015年8月4日IMFは人民元のSDR入りについて、「人民元の基準値は市場の為替レートと一致していない」と指摘していた。これも元切り下げの口実になった。
○バブルリレー
・2014年11月21日人民銀は2年4ヶ月ぶりに利下げを行う。これは不動産市況の低迷を救うのが目的であった。しかし結果的には株バブルを誘引した。
・2014年9~11月、3ヶ月連続で住宅価格が上昇した都市がゼロになる。中国の地方政府は国有地の使用権を売って収入にし、これが歳入の3割を占めている。住宅市況の低迷は地方政府の資金繰りを行き詰ませるため、金融緩和が必要であった。しかし結果的には資金は住宅市況に流れず、株式市場に流れ込んだ。※中国は税制にも問題があるのか。
・2014年11月「上海証券取引所」と「香港証券取引所」の相互取引を可能にした。これは資本市場開放の一環だったが、上海株式市場の過熱に繋がった。
・習指導部は「株バブル」を否定せず、「一帯一路構想」「国有企業改革」で逆に「株バブル」を煽った。
・2015年6月半ばから上海株は急落を始め、政府は上場企業に株式の売買を禁止するなどの「株価維持政策」を講じる。
・心配された2015年4~6月GDP成長率は7.0%で踏み止まった。しかしこの内容を見てみると、工業/建築/交通運輸は鈍化し、金融業だけが突出して伸びていた。6月の上海株式市場の1日当りの売買高は1兆元で、1年前の10倍以上もある。
・習指導部は「政府はリスクを防ぐ能力も自信もある」と繰り返すが、場当たり的で不透明な政策自体が世界のリスクである。
○広がる波紋
・2015年8月26日「日経平均株価」は「上海ショック」により1万8千円を割る。ファーストリテイリング/トヨタ自動車/コマツ/ダイキン工業/JFE/三菱電機などの中国関連株が大幅に下げた。
・中国はリーマン・ショック後に4兆元の景気対策を行ったが、それを事実上担った地方政府は不動産の使用権収入に頼り、「地方融資平台」が発行する債券で糊口を凌いだ。
・通貨安競争への懸念から、株安は世界に波及した。マレーシアの格安航空会社エアアジアは4割下げ、インドネシアの食品会社インドフード・スクセス・マクムルも2割下げた。これはドル建て債務で為替差損が発生したためである。タイ石油公社は資源安により売られた。アジア新興国の株価指数は軒並み下落した。
・中国GDPの半分は官民の投資で、これ以上投資を拡大する事は不可能である。政策金利は消費者物価指数と同水準で、これも利下げできない。残るは元切り下げしかなかった。
<新常態>
○中所得国の罠
・2014年5月習指導部は「新常態(ニューノーマル)」を掲げた。11月北京で開かれたAPECで、習主席は「新常態」について演説した。①中国は今後も穏やかな経済成長をする②中国はリスクに対する能力も自信もある③中国は経済構造を内需主導にグレードアップしている④中国は規制緩和を続ける。
・「日本経済研究センター」は、中国の経済成長率は2025年には4.1%まで鈍化すると予測している。地方政府は乱開発で大きな債務を抱えている。少子高齢化は潜在成長率を押し下げる。同センターは、中国は「中所得国の罠」に陥ると見ている。1990年代韓国/台湾は「中所得国の罠」に陥りかけたが、電機/自動車の高度化で高所得国に仲間入りした。
※「中所得国の罠」に陥らない。特許でも学術論文でも優れている。国土が広いだけ。ただ国有企業が足枷になる恐れはある。
・財政相は「中所得国の罠」を回避する措置として以下を挙げた。①農業改革②戸籍改革③労使関係の改革④土地制度の改革⑤社会保障制度の充実。
・リーマン・ショック後の4兆元の景気対策は足枷になっている。投資は鉄鋼/セメント/火力発電所など素材・エネルギー関連に集中した。これは質の向上ではなく、量の増加のため、その後遺症に悩まされている。
・一つ目は生産能力の過剰である。2015年の鋼材の輸出量は1億トンを超えるのは確実で、これは日本の粗鋼生産量に匹敵する。
・二つ目は環境破壊である。これらの産業は石炭を多量に消費するため、「PM2.5」などの環境汚染が懸念される。2014年11月APEC/2015年9月軍事パレードでは10日前から自動車の通行を規制し、工場の操業を停止させていた。
○企業淘汰
・中国には中国石油天然気集団(CNPC)/中国石油化工集団(シノペック)/中国海洋石油総公司の3大石油会社がある。2015年5月「国有資産監督管理委員会」はCNPCに、管理職の給与の15%カット/社員のボーナスの20%削減を通達する。
・2014年3月習首席は全国人民代表大会(全人代)で「国有企業改革」を掲げていた。2014年12月周永康・前政治局常務委員の党籍剥奪/刑事責任の追及を受けて、CNPCは習指導部への忠誠を表明した。
・シノペックの2015年上半期純利益は22%減に落ち込んでいた。石油3社は周永康などの政府幹部により、アフリカ/中東/南米などで資源権益を買い漁っていた。しかし今はこれが石油3社の収益を圧迫している。
・習指導部は「新常態」「反腐敗運動」を推し進めた。2015年3月全人代が閉幕した日、中国第一汽車集団の董事長(代表取締役に相当)が連れ去られる。当社は中国で最初に生まれた自動車メーカーで、「名門中の名門」である。
・習指導部は「石油閥」を始め、自動車などの「機械工業閥」や電力/金属の「電力閥」の幹部を次々と摘発した。国有企業のトップは中央政府の要職と同等で、その人事は党/政府が所管する。
・「中央規律検査委員会」のトップ王岐山・政治局常務委員は「反腐敗運動」を推し進めているが、経済成長が鈍化する中、国有企業の経営効率化が急務になっている。
・2015年8月中国移動通信集団/中国聯合網絡通信集団/中国電信集団のトップの入れ替えが行われた。業界2位3位の中国聯合網絡通信集団/中国電信集団が合併し、業界再編が噂されている。
・中国のリーマン・ショック後の4兆元の景気対策は、鉄鋼/セメント/建材などの生産過剰となり後遺症に苦しんでいる。2015年3月全人代で李首相は「製造大国から製造強国への転換」を掲げ。「中国製造2025」で情報ネットワーク/半導体/新エネルギー/新素材/バイオ/航空などの先端産業への優遇を示した。
・電子商取引のアリババ集団/通信機器のファーウェイ/スマホのシャオミ(小米)などがあるが、欧米の二番煎じに過ぎない。
○中国ビジネスの変調
・2015年2月広東省広州市のシチズンの工場で従業員1千人全員を解雇する事件が起こる。翌月広東省の台湾系企業の工場で5千人のデモが発生する。デモは他の工場に広まり、広東省のデモは数万人規模となった。
・広東省東莞市では過去5年間に撤退した日本企業は100社を超える。そこには夜逃げした中小企業は含まれていない。
・2015年4月北京の日系電子部品メーカーにスマホメーカーの小米から「部品納入の延期要請」があった。
・2015年5月遼寧省大連市で日系電機メーカーに勤める中国人は「どうせ潰れるなら、高い補償金を払って欲しい」と言う。
○転換期を迎えた消費市場
・28歳の中国人は週末はショッピングセンターで過ごす。「バブル型」消費は鳴りを潜め、「身の丈」消費に転換している。
・中間層はSNS「ウィーチャット(微信)」などで情報を仕入れ、ネット通販/実店舗で購入している。この消費行動は「80後」(80年代生まれ)の特徴である。彼らは「一人っ子政策」で「小皇帝」と揶揄された世代である。「90後」(90年代生まれ)の消費は個性を尊重し、周りに流されない。
・ビール産業では少品種/大量生産で寡占化が進んだ。しかし消費の成熟化で、「大量にビールを飲むのは恥ずかしい」に変わっている。この傾向は全ての消費財について云える。この新しい消費形態を満足させているのは、実店舗を持たないネット通販である。
・円安により日本での「爆買い」が見られる。その対象は家電製品(炊飯器、温水便座など)/生活用品(化粧水、お菓子など)など様々である。
・国営中央テレビは、3月15日「世界消費者権利デー」に「外資叩き」の番組を放送している。海外の企業は、これに戦々恐々としている。
○進む社会統制
・2015年7月胡錦濤・前国家主席の側近で中央弁公室主任(官房長官に相当)であった令計画(※名前です)の処分が発表された。薄熙来・重慶市党委員会書記/胡政権で政治局常務委員を務めた周永康/胡政権で軍の制服組トップを務めた徐才厚・中央軍事委員会副主席/令計画の4人は「新4人組」と呼ばれた。※凄いメンバー。
・同月末、軍の作戦部門を担当した郭伯雄・中央軍事委員会副主席も摘発される。習主席は「反腐敗」により権力基盤を固めたと云える。
・2015年8月『人民日報』と新華社『財経国家』は、長老による現政権への関与を批判する記事を載せた。
・富裕層の上位1%が中国全土の資産の1/3を保有している。「反腐敗」を進めても共産党への不満・不信は拭えない。習主席は「中国の夢」を掲げ、そこで「2020年GDPを10年の2倍にする」と約束している。期待を寄せた経済成長の鈍化により、習主席は社会統制を強め始めた。
・2015年7月中国当局は人権派の弁護士/活動家300人以上を連行・拘束した。新華社/中央テレビは人権派弁護士・周世鋒/有名女性弁護士・王宇の刑事拘束処分を報道した。これにより政府批判に対する厳しい姿勢を示したが、逆効果になる恐れもある。
・中国では新聞/ニュース/町中で「依法治国」(法による統治)をよく見かける。これは「人治」(コネ・人脈による統治)からの転換を意味する。しかし全国人民代表会議で審議されている法案は、域外NGO管理法案/ネット安全法案/反テロ法案などで、何れも規制を強化する法案である。
・2015年7月「国家安全法」が成立する。国家の利益を守る法律で、この法律は当局により恣意的に運用される恐れがある。習指導部は目指すは「中国式法治」で、欧米とは異なると強調している。
<強まる大国意識>
○既存秩序への挑戦
・2015年6月習主席はアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーの前で、「AIIBには歴史的意義がある」と発言する。また中国は「AIIBは”21世紀型”」と表現している。”21世紀型”とは米欧主導ではなく、新興国/発展途上国主導を意味する。新開発銀行(BRICS銀行)は世界銀行、AIIBはアジア開発銀行(ADB)に対抗する国際金融機関と云える。
・中国は原油の対外依存が6割に達している。よって中東/中央アジアの安全保障を強化する必要がある。外貨準備の4兆ドルをAIIBに注ぎ、新興国のインフラ整備に充てる。AIIBの資本金は、アジアなどの「域内メンバー」が75%を負担する。理事も同様で「域内メンバー」に全12人中9人が割り当てられる。
・米国/日本は参加を見送るが、欧州勢はこぞって参加し、創設メンバーは57ヶ国となった(ADBは67ヶ国)。
・IMFの改革は棚上げにされており、AIIBがどれだけ成果を残せるか、実験が始まった。
・中国は「一帯一路(シルクロード)構想」を掲げている。これはアジアの発展途上国へのインフラ投資をテコに、EU(中国最大の貿易相手)との間に巨大経済圏を構築する構想である。中国メディアは、これを「中国版マーシャルプラン」と呼んでいる。ドルは戦後の米国による西欧支援で、基軸通貨になった。
・2015年は戦後70年の節目である。9月天安門広場で「抗日戦争勝利70周年」の軍事パレードが行われた(実際に戦ったのは国民党政権)。
・1989年11月「ベルリンの壁」が崩壊し、冷戦は終結する。中国は鄧小平の「改革開放」により経済力を付け、「米国一強体制」は揺らぎ始めている。しかしその中国の経済力に陰りが見え始めた。
○米国との駆け引き
・米国は、中国による南沙(スプラトリー)諸島での岩礁埋立/米国政府・企業へのサイバー攻撃に対し警戒を強めている。米軍統合参謀本部の戦略は中国を「脅威」と位置付けた。
・2015年6月オバマ大統領は「戦略・経済対話」で中国側代表にサイバー攻撃の自制を求めた。しかし同月には連邦政府420万人、翌月には政府機関2150万人の個人情報が盗難に遭う。
・2015年9月オバマ大統領は訪中する予定だが、任期が1年半となったオバマ大統領に耳を傾けるとは思われない。また南シナ海/サイバー攻撃の問題は習主席が中国軍を掌握していない証拠とする意見もある。
・2016年11月米国大統領選が実施される。共和党の有力候補トランプは対中強硬姿勢を示しており、民主党も「弱腰」姿勢は見せられない。米軍と中国軍の偶発的な衝突の恐れが高まっている。
○中国膨脹への警戒
・2015年8月マレーシアで「ASEAN地域フォーラム」が開かれ、共同声明で「埋立への深刻な懸念」が言及され、王外相は不快感を露わにする。
・ASEANが中国に対する警戒心を強めた理由は、①埋立/領有権主張などの現実的脅威②米国の関与拡大による後押し③中国の景気減速(ASEANの輸出減/輸入増)である。
・中国に経済/安全保障を依存していたミャンマーでは、大型ダム開発が凍結された。スリランカでは親中大統領が敗れ、政権が代わった。中国はインドを取り囲むようにミャンマー/スリランカ/パキスタンなどに港湾・物流拠点を整備してきた(真珠の首飾り)。しかしミャンマー/スリランカとの関係が微妙になり、中国の戦略に狂いが生じている。
・インド・モディ首相は中国から2兆円の投資を受けるも、安全保障/外交面での警戒体制を崩していない。
・ロシアは「ウクライナ問題」などで欧米と対立し、中国と「蜜月」関係に思えるが、両国の潜在的な緊張関係は残存している。
○緊張孕む日中改善
・2015年8月安倍首相は「村山談話」を引き継ぎ、心からのお詫び/侵略/植民地支配を盛り込んだ「戦後70年談話」を発表する。翌月天安門広場で「抗日戦争勝利70周年」の軍事パレードが行われた。習主席は抗日戦争勝利を強調するが、「歴史認識問題」で日本を批判する事はなかった。
・2010年尖閣諸島沖で「中国漁船衝突事件」が起き、2012年野田首相が尖閣諸島を国有化し、中国全土で反日デモが起こる。戦後70年の節目で一先ず沈静化したと云える。しかし日中関係は「友好を築く」から「摩擦のコントロール」に変わった。
・2014年11月「アジア太平洋経済協力会議(APEC)」で日中首脳会談(仏頂面で握手)が行われるが、中身はなかった。2015年4月「アジア・アフリカ会議」で再び日中首脳会談があり、習主席は「抗日戦争勝利70周年」式典への出席と、AIIBへの参加を要請している。
・第2次安倍政権を支えたのは「円安」であったが、2015年8月世界同時株安/円高になり、中国の動向から目が離せなくなる。2016年夏日本では参院選があり、2017年秋中国では習指導部2期目の最高指導部を選ぶ党大会がある。共に外交面での失点は許されない状況にある。
<中国減速、身構える日本・世界>
○切れない日中関係
・毛沢東に代わった鄧小平は「改革開放」を始める。沿岸部に「経済特区」を設置し外資を呼び込み、農業改革では「人民公社」を解体した。しかし1989年「天安門事件」で民主化は弾圧され、欧米諸国による経済制裁で「改革開放」は挫折する。
・転機となったのが2001年「世界貿易機関(WTO)」への加盟である。関税引き下げ/サービス業の自由化/安い人件費などで、「世界の工場」になった。2013年GDPは10年前の5倍に増加し、日本の2倍近くになった。中国が世界経済に与える影響は大きい。
・中国の存在感は増し、2006年米中間で「戦略・経済対話」が始まる。リーマン・ショック後、G7は世界の牽引役になれないとして、G20会議が首脳レベルに格上げされる(※このタイミングだったのか)。
・日本経済の中国依存は高まっている。輸出額は全体の18%を占め、米国と拮抗し、電子部品/液晶フィルム/自動車部品などを輸出している。訪日客数でも全体の25%を占め、「爆買い」現象を起こしている。
・2012年尖閣諸島の国有化で、自動車メーカー/素材メーカー/観光産業などが影響を受けた。
・2015年1~7月の日本から中国への直接投資は、前年比で24%減少している。これは人件費が高騰した中国から、ASEAN諸国に生産拠点を移しているためである。
○独仏の中国シフト、米中の相互依存
・2015年6月「EU中国ビジネスサミット」でユンケル欧州委員長は、中国を何度も持ち上げ、「中国の投資は大歓迎」と述べた。2014年中国の貿易額は欧州全体の14%を占め、米国と拮抗している。
・欧州の企業、特にドイツの企業は積極的で、フォルクスワーゲン/ダイムラーは中国に研究開発拠点を開いた。化学大手BASF/医薬メルク/仏原子力大手アレバ/航空機エアバスなども業務提携を行っている。
・伊タイヤ大手ピレリは中国化工集団に、スウェーデンの自動車会社ボルボ・カーは吉利控股集団に買収されている。
・2015年3月英国財務相は、G7で初めてAIIBへの参加を表明する。これに続きドイツ/仏国/イタリアなどが参加を表明する。最終的には欧州から20ヶ国が参加し、欧州と中国の蜜月関係を映し出した。
・米中の経済関係も深い。米国の中国への輸出はカナダ/メキシコに次いで3番目である。しかし中国の米国からの輸入は、全体の8%で欧州/韓国/日本より少ない。
・米国は「双子の赤字」に苦しんでいるが、その裏返しにあるのが中国である。米国の貿易赤字の大半は中国で、中国は稼いだドルを米国債に投資している。
○日本の産業界、チャイナプラスワン
・中国の新車販売は2014年2300万台になり、10年で4倍に急増した。しかし2015年4~7月は4ヶ月連続で前年を下回った。独フォルクスワーゲン/韓国現代自動車の大幅な値引きで、日本メーカーは苦戦している。中国の生産能力は5千万台あるが、新車販売予測は2500万台で稼働率は50%と低迷が予想される。※元々そんなに高くないと聞いた事がある。
・中国市場の失速に対し、各社はインド/東南アジアで生産・販売を拡大する「チャイナプラスワン」を進めている。
・自動車大手以上に苦しんでいるのが家電メーカーである。スマホでは米アップル/韓国サムソン/小米に苦戦している。2015年1月パナソニックは中国でのテレビ生産から撤退した。ソニーは同社最大のテレビ生産工場をマレーシアに築いている。
※この辺りから、企業個別の話になる。
・「チャイナプラスワン」は自動車/家電以外の産業にも広がっている。2015年5月イオンモールはジャカルタに大型モールを開業した(初日に8万5千人が訪れた)。2015年8月キリンHDはミャンマーのビール最大手を買収している。2015年7月外食大手大戸屋HDはタイ/インドネシアに続き、ベトナムに出店した。
・2014年日本から中国への直接投資は67億ドルだったが、東南アジアへの直接投資は204億ドルに達している。ASEANは人口6億人/GDP2兆4千億ドルの一大経済圏であるが、中国への貿易依存度が高く、中国経済の減速による影響が懸念される。
○中国関連企業への影響
・日立建機の2015年4~6月営業利益は前年比63%減となる。これは中国での43%減収が大きく影響した。リーマン・ショック後の4兆元の景気対策で、今は稼働しない建機が溢れている。
・鉄鋼/非鉄は不透明感が強い。中国での需要減に加え、人民元の下落で、市況がさらに悪化する恐れがある。中国の鉄鋼メーカーは既に減産に動いている。銅/ニッケルなどの非鉄金属市況も、供給過剰の影響で下落が続いている。
・他方堅調を保っている業種もある。FAでは空気圧機器のSMCが、2016年3月期で売上高6%増を見込んでいる。また人件費/所得水準の上昇で、消費関連も堅調である。花王/ユニ・チャーム/ライオンは好業績が予想される。
・2015年8月「人民元の切下げ」により、ファーストリテイリング/JFEHD/資生堂/Jフロントリテイリング/三菱商事/三井金属などの中国関連銘柄は大幅に下落した。
○「爆買い」依存
・2015年1~7月の中国人旅行客は、既に2014年通年を上回った。「爆買い」も健在で、インバウンド関係に陰りは見られない。三井伊勢丹HDの三越銀座店では免税店の売上が全体の25%を占める。
・家電と共に化粧品/日用品の売上も伸びている。資生堂は2015年4~6月決算で36億円の黒字となった(前年は17億円の赤字)(※業績は良かったが、株価は下げたのか)。小林製薬/アース製薬/花王も好業績が予想される。
・中国人旅行客には、首都圏と関西を巡る「黄金コース」が人気である。東京都/京都府/大阪府のホテル稼働率は8割を超える。藤田観光/プリンスホテルはホテルを開業している。
・しかし化粧品・日用品メーカー/観光関連企業も中国への過度の依存は避けている。
○成長鈍化と「スーパーサイクル」
・原油/金属などの商品の価格が下がっている。2015年夏、代表的な商品指数である「ロイター・コアコモディティーCRB指数」は200を切り、12年ぶりの低水準になった。これは「コモディティーのスーパーサイクル」と呼ばれた。
・非鉄金属の銅は電線/自動車/半導体などに使われている。2011年以降、銅相場は軟化し、2015年夏には6年ぶりの安値になった。これは中国の銅消費の低い伸びが原因である。
・中国は石炭による安価な電力でアルミニウムを輸出している。2015年1~7月のアルミ輸出量は286万トンで前年から3割も増加した。これは中国内での需要減による。
・中国の成長鈍化により、原油市況も下げている。2015年8月「ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)」は、37ドル/バレルと6年ぶりの安値になった。これは米シェール原油の増産/OPECの需給調整放棄/中国の需要鈍化が原因である。しかし中国は原油の輸入を増やし(※矛盾)、備蓄や石油製品の輸出を増やしていると思われる。
○資源国の苦悩 豪州、ブラジル、ロシア
・豪州は鉄鉱石/原料炭の輸出国で、中国鉄鋼業の拡大により、2008年金融危機の影響を受けなかった。しかし鉄鉱石価格は2015年8月56ドル/トンで、年初から21%下落している。原料炭の輸出額も2014年7月~2015年6月で前年比7%減となっている。
・資源産業の変調により、豪州の失業率は上昇し、賃金上昇率は鈍化している。
・ブラジルにとって中国は輸出/輸入で最大の相手国である。ブラジルは中国の成長と歩調を合わせるように貿易収支を改善させ、2001年以降は黒字に転換した。しかし鉄鉱石価格の下落で資源大手ヴァーレは2014年7~9月より赤字に転換した。
・ブラジルには「ブラジルコスト」と呼ばれる労働制度があり、工業製品は競争力がなく、1次産品への依存度が高い。2015年実質経済成長率はマイナス成長に陥る恐れがある。
・サウジアラビアに次ぐ世界第2位の石油輸出国ロシアも、原油の価格下落/需要減の影響を受けている。2015年4~6月実質経済成長率は2期連続でマイナスになった。
・ロシアは製造業の育成が遅れ、国家予算の歳入の半分は、石油・天然ガスからの収入である。
・ロシアは「ウクライナ危機」後に中国との関係を強化したが、軍事・外交面に比べ経済面での協力は遅れが目立つ。東西シベリアから中国への天然ガス・パイプラインが計画されたが、東ルートが着工されたに過ぎない。
○競争力を失う台湾、韓国
・台湾/韓国は中国経済への依存度が高い。台湾は輸出の4割が中国向けで、その輸出が2014年11月以降減少している。スマホ用半導体(システムLSI、DRAMなど)/液晶パネル/タッチパネルなどの減少が目立つ。
・韓国も中国向け輸出の減少が目立つ。落ち込みが大きいのは石油化学製品/スマホ/鉄鋼製品/農機具/事務機器などである。
・中国市場で韓国/台湾製品の優位性が失われている原因に、中国企業の技術向上も考えられる。これまで台湾の部材と中国の安い労働力で「ウィンウィン」の関係であったが、今はほころび始めている。
・かつて中国市場でトップであったサムスン電子のスマホは、2014年4~6月に中国の小米/レノボ・グループに抜かれ3位に下がった。
・韓国でも中国への依存を減らすため、ベトナムなどへの傾斜を強めている(チャイナプラスワン)。2014年韓国企業の海外直接投資は、中国が40%減の30億ドルに対し、ASEANが5%増の40億ドルになり逆転した。
・韓国サムスン電子/韓国LG電子/台湾仁宝電脳工業などはベトナム/タイなどで工場を稼働させた。台湾鴻海精密工業は「2020年までにインドで工場を稼働させ、100万人の雇用を生む」と表明している。