『中央銀行がわかれば 世界経済がわかる』益田悦佐(2016年)を読書。
中央銀行について幅広く解説しています。中央銀行以外の金融に関する説明もあります。
今まで中央銀行に関する本を何冊も読んだが、中央銀行を根本から批判するの(中央銀行不要論)は初めてです。
詳しいのは良いが、文章が少し難しい箇所もある。また本書はQ&Aの形式になっています。
お勧め度:☆☆☆
キーワード:<はじめに>独占<中央銀行の起源>通貨発行、イングランド銀行、南海会社、連邦準備制度(Fed)、インフレ、金利、<中央銀行の在り方>植民地経営/チューリップ・バブル、第1次世界大戦、世界大恐慌/GM、産軍金融複合体、金本位制/ブレトンウッズ体制/ニクソンショック、プラザ合意、量的緩和、<中央銀行とは>インフレ、為替、国債、国庫納付金、政策金利、信用創造システム、量的緩和、国際通貨基金(IMF)/世界銀行/国際決済銀行(BIS)、<世界の中央銀行>国債債権、インフレ、ユーロ、<中央銀行は必要か>グローバル化、マイナス金利、<おわりに>勝者の歴史
<はじめに>
・中央銀行ほど表向きと実態が異なる組織はありません。「慢性インフレが世界に望ましい」と言っていますが、これは国王/大統領/国会議員/高級官僚/大企業/大金持ちなど、多額の借入ができる人に有利なだけです。これは近代は「独占」を禁止しているのに、中央銀行にだけ通貨供給の独占を許しているのが根本原因です。
<中央銀行の起源>
○英米の中央銀行
・中央銀行の役割は「通貨発行権の独占」です。近代社会では「独占」が弊害なのは自明です。米国では「独占禁止法」、日本では「公取法」で「独占」を禁止しています。唯一許されているのが中央銀行です。
・かつては金貸し/金細工師が通貨を発行していました。これで問題が起きなかったのは、市場競争原理が働き、割引が行われていたからです。
・世界最初の”近代的な中央銀行”は英国の「イングランド銀行」です。17世紀英国は清教徒革命/名誉革命で王党派と共和派が闘いますが、共和派に資金調達していたのが「イングランド銀行」です。それが中央銀行となります。※中央銀行となった経緯の説明はない。
・1720年英仏でバブルが発生します。英国では「南海会社」、仏国では「ミシシッピ会社」の株価が急騰/暴落します。当時英国には3つの独占企業(東インド会社、イングランド銀行、南海会社)がありました。「南海会社」は奴隷貿易を独占する会社でした。「南海会社」はバブル崩壊後も存続します。独占企業は悪い事をするものです。
・世界最初の”現代的な中央銀行”は米国の「連邦準備制度(Fed)」です。米国の最初の中央銀行は「第一国立銀行」(1791~1811年)ですが、国務長官トマス・ジェファーソンが潰します。1817年「第二国立銀行」が中央銀行に公認されますが、1836年アンドリュー・ジャクソンン大統領が潰します。
・中国は銀本位制で、欧州は金本位制でした。そのため米国では、金本位制/銀本位制/金銀複本位制で大論争になっています。※その後の経緯は解説されていない。
・1907年米国は大不況になります。1910年J・ピアポント・モルガンが所有する島で秘密会議が行われ、Fedの骨格が決まります。彼はロスチャイルド家の番頭で、Fedの悪事は全て陰謀だ、とする説が多くあります。Fedは12の連邦準備銀行からなるため、独占ではないと主張しています。
・1913年Fedが設立されると、デフレがなくなり、インフレばかりになります(※これは知らなかった)。インフレは多額の借入をする人(国、大手金融機関、一流企業、大金持ち)に有利な状況です。「物価の番人」と云っていますが、強者の味方になっているに過ぎません。
・英国の「立憲君主制」が旨く行った理由は、婿入りのハノーヴァー朝(1714~1901年)で王権が弱かったためです。※変な理由。
・近年イングランド銀行/欧州中央銀行などの総裁に金融機関の利益代表が就いており、これは問題です。
・近年の中央銀行は仕事(金利の操作、通貨供給量の操作)のし過ぎです。英国の金利は19世紀半ばまで、約120年間5%で一定でした。そのため英国は発展したのです。今は米国のFedの影響で、頻繁に金利を変動させられています。米国の時代になって、金利/インフレ率が乱高下するようになりました。
・国家には自然国家と人口国家があります。米国は人口国家/植民地国家で植民地での利権が延々と支配している国です。そのため殺人発生件数が高くなっています。
・1929年米国は大恐慌を起こし、それ以降行儀が良くなります。1930年代は大不況に勝つため、40年代はファシズムに勝つため、50・60年代は冷戦に勝つため、自由/平等を強調し続けました。※この見方は面白い。
・しかし米国の内情は、白人の世帯所得が5万ドルに対し、黒人は3万ドルで、平等性はありません。
・経済政策には財政出動と金融緩和があります。国家は財政出動、中央銀行は金融緩和のやり過ぎて、経済の浮沈をかえって極端にしています。その批判を避けるため、中央銀行を中途半端な位置付けにしているです。
<中央銀行の在り方>
○近代の中央銀行
・江戸時代の通貨制度は複雑でした。東日本は「金使い」の経済、西日本は「銀使い」の経済でした。しかも銀貨は「打刻貨幣」ではなく、重さで測る「秤量貨幣」でした。さらに各藩は金銀(正貨)を回収し、藩札を発行し、藩内ではそれを流通させていました(※正貨は参勤交代など、藩外で使うため)。要するに「通貨発行権を独占させないと、市場が混乱する」は虚言です。
・オランダはポルトガルから香料諸島を奪い、農園で高く売れる香料を栽培し、持続的な植民地経営を始めます。1602年東インド会社が設立され、1609年「アムステルダム銀行」が設立されます。「アムステルダム銀行」は市内に限られた両替権の独占なので、中央銀行とは云えません。
・「アムステルダム取引所」では東インド会社の株や様々な商品が取引されました。貿易の中継地であるオスマン帝国からチューリップの球根が持ち込まれます。1636年このチューリップの球根がバブルを起こします。
・植民地経営をするには多額の資金が必要になります。18~19世紀に誕生した欧州の中央銀行は、植民地経営が目的でした。しかしこれにより、その後バブルが繰り返されるようになります。
・1720年英仏のバブルで、仏国では王立銀行「バンク・ロワイヤル」が「ミシシッピ会社」を合併し、破綻します。そのため仏国では銀行は”バンク”を名乗りません。英国では「イングランド銀行」は共和派だったため、王党派の「南海会社」の影響を受けませんでした。一般的に中央銀行は政府に従属するので、独立性を保っているとは云えません。
○現代の中央銀行
・1861年「南北戦争」で北部の産業資本/金融資本はぼろ儲けします。1866年「普墺戦争」が始まりますが、彼らの期待に反し短期間で終わります。1870年「普仏戦争」が始まりますが、これも期待に反し短期間で終わります。
・一方1914年に始まった「第1次世界大戦」は予想に反し、長期の戦争になります。それは米国がどちらに付くか明確にせず、両陣営を煽ったからです。決着が明白になった1917年、米国は連合国側に付きます。米国は欧州で戦争を起こさせ、世界的に優位になろうとしたのです。
・この背景に1913年に設立されたFedがありました。財務省が発行する国債を、中央銀行が無制限に引き受ける仕組みが整備されていたのです。政府と中央銀行が別組織のため、この誤魔化しが可能だったのです。※この辺りが「軍産複合体」の起源かな。
・中央銀行の役割は、近代では国家の植民地経営の資金調達だったものが、現代では国家の総力戦のための資金調達に変わります。しかし1989年冷戦終結後は各地でテロ/ゲリラが続出するようになり、米国の圧倒的優位な軍事力は効力を失いました。
・「第1次世界大戦」によりドイツに過酷な賠償金が課せられます。これによりドイツは悪役にされても「第2次世界大戦」を起こすしかなかったのです。
・1930年「国際決済銀行(BIS)」が設立されます。その目的はドイツに賠償金を払わせるためでした。BISは中央銀行の自己資本の内容を規制しているので、権威を持っています。※本来は市中銀行ではなく中央銀行の規制が目的なのかな。
・1929年「世界大恐慌」に対し、ケイジアン(財政出動派)とフリードマンなどのマネタリスト(金融緩和派)が延々と論争しています。しかし両者の主張(政府消費が減少した、貨幣供給量が減少した)は何れも間違っています。統計で見ると「投資」が1929年924億ドルだったのが、1932年には99億ドルに縮小しています。要するに「世界大恐慌」は金融政策/財政政策と無関係で、民間企業の「投資」の減少が原因です。
・1928年フロリダの不動産バブルが崩壊します。GMのアルフレッド・スローン社長は、景気と生産台数の関係を分析していました。そこで不況の兆しを察知し、生産台数を400万台から100万台に減少させます。当時耐久消費財と云えば自動車しかありません。この「ガリバー型寡占企業」の減産により、関連企業も「投資」を控え、「世界大恐慌」に向かったのです。
※「世界大恐慌」の起因はGMだったのか。
・「第2次世界大戦」後は軍需産業により重化学工業が過剰設備になっています。それは中央銀行/大手金融機関/軍需産業大手などの金融利権/軍需利権が、米国議会/大統領を支配しているからです。※「軍産複合体」だな。
・ヒラリー・クリントンは金融利権/軍需利権にどっぷり浸かっていましたが、トランプは彼らから献金を受けませんでした。トランプは「グラス・スティーガル法」の復活を掲げるなど、「産軍金融複合体」(金融利権、軍需利権)と対決するのではと期待しています。
・「第2次世界大戦」中、米国は自動車生産を殆ど停止させ、自動車工場のアセンブリラインで戦闘機/爆撃機/戦車/装甲車両を作りました。1970年代米国が日本車の攻勢に怒り心頭に発したのは、その復讐戦と感じたためです。
・米国白人の国家への信頼は厚いものでしたが、金融資産ばかり増えて貧富の格差が広がると、「プアホワイト」の不満が募ってきました。それはここ2・3年の事で、それがトランプ政権を生んだのです。中央銀行(Fed)は財務省と結託しているのに、中立の振りをしています。
○金本位制
・「金本位制」は段階的に変化します。19世紀半ばまでは本物の「金本位制」でしたが、貿易の不均衡により金が流出する国がありました。「第2次世界大戦」前は各国が通貨と金との交換率を決めました(金固定相場制)。「第2次世界大戦」後は金1オンス=35ドルとなり、さらに各国の通貨がドルにペッグ(例:1ドル=360円)するようになります。この「固定相場制」は明らかに不自然な制度でした。1971年米国は金との兌換を一時停止し、「ブレトンウッズ体制」が崩壊します(ニクソンショック)。
・そのため世界の通貨は不換紙幣となり、通貨発行量の歯止め効かなくなっています。
・日本が保有する金850トンは米国が保管しています。しかし日本の高官は誰もその返還を言い出しません。橋本龍太郎首相が「米国債の売却を考えた事がある」と発言しますが失脚し、不審死しています。
・経済学者は「金本位制は窮屈な制度なので、廃止されて当然」と言いますが、「金本位制」の非実用性を説明できる人はいません。金は安全な資産で、価格が必ず上がるものです。金融担当者が「金本位制」を否定する理由は、自分達の裁量権が縮小されるからです。また経済学者が否定する理由は、教え子を政府や大手金融機関に就職させるためです。※何か「原子力村」だな。
○プラザ合意
・1985年「プラザ合意」以降、1987年「ブラック・マンデー」/1989年「日本のバブル崩壊」/1997年「東アジア通貨危機」「ロシア国債危機」/2000年「米国のハイテク・バブル崩壊」/2008年「リーマン・ショック」/2011年「欧州国債危機」など金融危機が頻発しています。
・「プラザ合意」前の世界情勢としてソ連/欧州の凋落があります。また経済面では製造業よりサービス業が発展します。それなのに金融業は過剰設備の製造業に無理やり資金を注入し、肥大化させました。そのため本来成長の基盤となるべき「金融業以外のサービス業」は低迷しています。
・この時代の変化に、小手先の国際金融で対応したのが「プラザ合意」で、そのため金融危機が頻発しているのです。本来は「金融業以外のサービス業」が経済を主導すべきですが、金融業が新興国(中国など)/資源国への投資で高収益を得ています。
○量的緩和
・2015年上海株式市場が大暴落します。これは中国の経済成長が止まり、資源の浪費が終わった事を示しています。これに衝撃を受けたのが米国の金融業です。中国で収益を得れないどころか、回収も難しくなりました。米国の金融業は中国/産油国から資金を預かり、それを海外取引で運用していましたが、それができなくなりました。
・この金融業を支えていたのが中央銀行の「量的緩和」です。中央銀行は金利を下げる事で投資を促しましたが、効果はありませんでした。そこで中央銀行は債券/証券を買い取り、通貨の供給量を増やしました。これが「量的緩和」です。
・この「量的緩和」はFedが始めましたが、今は引締めに向っています。逆に日銀/欧州中央銀行(ECB)が「量的緩和」を行っています。日銀/ECBの総裁/幹部職員が、何故こんな愚策を継続・拡大するのか理解できません。
<中央銀行とは>
○インフレ
・中央銀行の諸悪の根源は、「通貨発行権」を独占している点にあります。「銀行券」は「額面通りの価値があると保証された借用証」で、「利息なし、償還期限なしの借用証」です。その信頼は中央銀行が発行しても財務相が発行しても違いはありません。
・中央銀行は民間企業でしょうか。日銀は株式会社ですが、これはマヤカシです。日銀総裁は国が任命していますが、日銀出身者と財務省出身者が交互に任命されています(たすき掛け人事)。
・第2次安倍政権の発足で、「金融政策は経済の流れに沿った事しかできない」と正論を主張する白川・日銀総裁が退任し、「2年間でインフレ率を2%上げる」と主張する黒田氏が日銀総裁に就任します。彼らは「政府・日銀がインフレで日本経済は再生すると唱えれば、嘘も真実になる」と高を括っています。
・1998年以降、日本のコアインフレ率(生鮮食品を除く消費者物価の上昇率)は0%~マイナス1%の範囲に収まっています。2016年7月黒田・日銀総裁は「インフレ率2%の達成期限を無期限」とします。安倍政権/財務省/日銀はこの失政の責任があります。
・中央銀行は「物価の番人」「マネーストックの番人」「金利の番人」と云われます。これらは理屈が通る責務です。近年中央銀行が「為替の番人」と言い出しましたが、これは越権行為です。
・1775年~2013年の米国のインフレ率を見ると、Fed設立以前はインフレとデフレが半々です。しかしFed設立以降は8割がインフレになっています。これでは「物価の番人」と云えません。「インフレを目標にします」と堂々と言い始めたのは、日銀が最初です。本来「インフレ目標」はインフレ率を抑制するための上限目標でしたが、それが逆転し、下限目標になっています。
○金本位制
・昔は本物の「金本位制」で、中央銀行は金準備に応じた通貨しか発行しませんでした。19世紀末になると各通貨と金の交換率が固定され、「金固定相場制」に変わります。しかしこの「金固定相場制」は旨く行かないシステムです。英国は1ポンド=4ドルでポンドの価値を維持しようとしますが、国力を疲弊させます。
・1932年大統領に初当選したフランクリン・デラノ・ローズヴェルトは、翌年国民の金の所有を禁止し、金融機関で金1トロイオンス=22ドルで強制的に交換させます(財産権の侵害)。さらに次の年に金の公定価格を1トロイオンス=35ドルに引上げます(ドルの切り下げ)。※何かインチキ。
・1964年金証書の保有・取引・輸出入が許され、1974年やっと金地金の保有・取引・輸出入が許されます。1970年頃から「金保有が解禁される」と噂され、金価格が上昇し続けます。1トロイオンス=35ドルだったものが、解禁までに125ドルまで上昇します。さらに解禁されると、1980年には800ドル、2011年には1900ドルまで上昇します。※凄い金への信用。
・今日では資産格差の拡大を防ぐ名目で「金は預かり証に交換される」と警戒されています。
・「金本位制」はF・D・ローズヴェルトにより無効になったのです。「第2次世界大戦」終戦直前、各国の通貨とドルの為替レートを固定にし、金1トロイオンス=35ドルとする「ブレトンウッズ体制」が確立します。
・繰り返し説明しますが、「第2次世界大戦」後、各国通貨がドルと固定相場になり、そのドルだけが金との交換率が決まっていました。しかし金との交換は禁止されていました。これはとんでもなく欺瞞的な制度です。案の定「ブレトンウッズ体制」は「オイルショック」「ニクソンショック」で崩壊します。
・本物の「金本位制」は19世紀半ばで終わり、その後は「金固定相場制」に変わり、「第2次世界大戦」後は「金為替本位制」に変わったのです。
○為替
・近年中央銀行は「通貨の番人」と言い出しましたが、これは越権行為です。通貨には相手国があります。では何故、政府・日銀が「円安にする」と発言し円安になったのでしょうか。欧米の機関投資家が円を借り、日本株を買います。円安/株高になった時点で株を売り、借りた円を返すのです(※円キャリートレードかな)。今は円高/株安に向っています。政府・日銀はこれに、何の対策も取れないのです。
・マレーシアはリンギットを維持しようと為替を操作しますが、「東アジア通貨危機」を起こします。1992年「ポンド危機」で、ジョージ・ソロスのヘッジファンドは10億ドル以上の大儲けをします。中央銀行に為替をコントロールする力はありません。
○国債、国庫納付金
・中央銀行は「政府の銀行」と呼ばれます。政府への資金提供は国債の購入で行われます。しかし直接購入しているのではなく、22行ある「プライマリーディーラー」から購入しています。
・その「プライマリーディーラー」を日本最大の都市銀行・三菱東京UFJ銀行が返上する事件がありました。これには伏線があります。2016年1月日銀が「マイナス金利」を導入します。これに対し当行は「早く解消して欲しい」と要請しますが、黒田日銀総裁は「金融政策は金融機関のためにやるのではない、必要ならば、さらにマイナス金利を深掘りする」と恫喝します。
・「プライマリーディーラー」は国債発行額の4%以上の応札義務がありますが、財務省と意見交換ができたり、日銀が購入する国債を増やしたりしてもらえます(手数料収入が増える)。しかし当行は「プライマリーディーラー」を返上しました。
・日銀は財務省が毎月発行している国債総額とほぼ同額を購入しています。これは日銀に限った事でしたが、ECBドラギ総裁も同様な事を始めました。一方Fedは狡猾で公開市場での購入額を非公開にしています。これで景気操作を行っています。※どれ位影響があるのか。
・日銀は最終的な利益(利益から経費、税金、準備金、配当金などを除く)を国に納付しています(国庫納付金)。2015年度は利息収入が1兆2875億円あり、そこから4501億円の引当金を積んだため、国庫納付金は3905億円と半減しました。日銀が持つ国債は100兆円を超えており、1%の金利で1兆円になります。しかし現在の国債利回りはマイナスなので、大量の引当金が必要だったのです。
○金融政策
・「政策金利」は中央銀行が決めています。現在は0.01%と限りなくゼロに近い金利です(※マイナス金利?)。「金利を下げれば、景気が良くなる」と云われましたが、今は成り立たない理論です。かつての製造業中心の時代だと、借金をして大量生産すれば、コストも下がり、商品も売れました。しかしサービス産業中心の時代には、この理論は成り立ちません。
・経済を回しているのは銀行による「信用創造システム」です。これは銀行間で「又貸し」する事で融資が拡大するメカニズムですが、今は効果がありません。日銀も「マネタリーベース」を急拡大していますが、使い道がないので日銀口座に預けるだけです。しかしその金利がマイナス0.1%になるので、保管料を払う羽目になりました。
・今はM1(現金通貨+預金通貨)を増やしても、M2(現金通貨+国内銀行などに預けられた預金)が増えないため、「信用創造システム」は機能していません。※超基本だろうが、説明不十分で分からない。
・「量的緩和」により金融業者/不動産業者が潤ったくらいで、プラスはなかったと云えます。「量的緩和」で世界の金属鉱山業者は設備を拡大しましたが、「行きは良い良い、帰りは恐い」で、これから借金の返済が大変です。
・「量的緩和」で金融市場から債券/株/上場投資信託(ETF)/上場不動産投信(REIT)を購入し、金融市場にお金をばら撒きました。しかし株/不動産の上げで儲けた人はいますが、設備投資に動きは見られませんでした。
・「マネタリーベース」とは、中央銀行が直接供給する通貨です。それを銀行が「又貸し」して増えたのがM2/M3です。M2は「通貨ストック」と呼ばれます。M3は「現金通貨+国内銀行などに預けられた預金」です。「マネタリーベース」を増やせば、世の中に出回っているお金(マネーサプライ)が増えると考えるのは間違いです。※超基本だろうが、詳しい説明がないので理解できず。
・中央銀行の権威が増せば増すほど、物価/金利が不安定になっています。これはどの中央銀行にも云えます。特にFedの存在感が大きいですが、”言い逃れ”が旨いのもFedです。
○その他
・近年日本での不動産投資が激増しました。2015年度の不動産業向け新規融資額が10.6兆円となり、バブル期を超えました。2016年3月神奈川県のアパートの空室率は35%を超え、適正水準の30%を大きく超えています。これは相続税対策でアパートの建設が急増したためです。
・米国には「Fedウォッチャー」と云う、”Fed語”を理解できる特権階級がいます。日本にも「MOF担」「日銀ウォッチャー」がいますが、「Fedウォッチャー」には及びません。
・昔は国家が破綻すると、国王は借金を踏み倒し、高利貸/金融財閥を潰していました。しかし今日の金融資本は手数料商売を増やし、債務負担を国に押し付けています。これは2008年世界金融危機以降、特に顕著になっています。そのため国が財政破綻する危険が高まっています。
○国際通貨基金(IMF)、世界銀行、国際決済銀行(BIS)
・「第1次世界大戦」の戦後処理のために作られたのが国際決済銀行(BIS)で、「第2次世界大戦」の戦後処理のために作られたのが国際通貨基金(IMF)/世界銀行です。
・IMF/世界銀行は大風呂敷を広げ過ぎたと云えます。IMFの設立趣意書には「IMF設立の目的は国際通貨システムの安定である。そのため世界の経済金融情勢をモニターする」とあります。これは当時の通貨間の固定為替レートを維持しようとしたものです。これは幻想で、そもそも国際通貨システムは安定させるべきものではありません。
・大雑把に言えば、先進諸国間の金融問題を処理するのがIMFで、低開発国/後進国/最貧国の開発支援をするのが世界銀行です(※IMFは新興国/発展途上国にもちょっかいを出しているが)。またIMFは欧州主導で、世界銀行は米国主導です。
・世界銀行は、後進国/最貧国が資金を調達するための保証機関の役割をしています。
・最近IMFの運営が余に杜撰なので、「独立評価局」が設立され、資金運営の実態が明らかになりました。新興国への要請には厳しいが、出身国の要請には甘い実態が明らかになりました。通常は限度額の6~7倍のところを、ギリシャ/ポルトガル/アイルランドに対しては20倍の資金を引き出していた事が分かりました。
・IMF/世界銀行は、「優秀な経済学者に高給を払うために設立されている」と疑いたくなります。優秀な経済学者を体制側の味方に付けるための組織に思えます。
・1997年韓国は通貨危機になり、IMFが入ります。韓国経済は「ガリバー型寡占企業」(サムスン、現代など)が存在する業界構造をしていますが、IMFはその支配力をさらに強める改革を進めました。結果「ガリバー型寡占企業」の羽振りは良くなりましたが、韓国経済は縮小します。アルゼンチンなどの事例も同様な結果になっています。
・ただし当事国の政府・中央銀行にとっては下駄を預ける事で、強引な改革も可能になり、責任を取らされる事もなくなります。
・「国際決済銀行(BIS)」は「第1次世界大戦」後にドイツの賠償金のリスケジュールのために設立されました。中央銀行の規制を作り、中央銀行の権威を高めました。「バーゼル合意」(BIS規制)は条約でもなく、法的拘束力もありません。しかしIMF/世界銀行と異なり、機能していると云えます。
<世界の中央銀行>
○金融緩和、国債
・かつては各国の中央銀行はFedに倣っていましたが、近年は独自の道を歩んでいます。Fedが利上げに転換しましたが、日銀/ECBは金融緩和を続けています。ECBドラギ総裁は日銀の「異次元緩和」を成功したと思い込んでおり、大手企業の社債やETFの購入を発言しています。
・中央銀行によるETF購入は望ましい政策ではありません。本来金融商品の価格発見機能はヘッジファンドが果たす機能です。日銀が介入する事で、それを歪めてしまいます。日銀が大株主になった企業(ファーストリテイリングなど)は、政府・日銀の意向に沿った経営をせざるを得ません。また本来潰れるべき会社を延命させる要因にもなります。
・日本の国債債務残高はGDPの200%もあり、異常です。2位のイタリアでも110%です。日本の国債依存が急上昇したのは1994年頃からです。しかしこれによって企業業績が回復した話は全く聞きません。それは必要性のない社会インフラ/生活インフラ/公共建築を建設したためです。日本は金利が低いので、今の内に日銀は国債の元本を棒引きにするのが得策です(徳政令)。※こんな事できるの?
・日銀が国債債権を放棄(徳政令)しても問題はありません。それは過去の国債支出によって、特権階級が生まれていれば批判の対象になりますが、国が価値のないものばかり作ったため、特権階級が生まれていないからです。
・問題は日銀が「バランスシート」をどう処理するかですが、性懲りもなく肥大化させた「マネタリーベース」の縮小で問題ありません。日銀が「マネタリーベース」を拡大させても、国民は流通速度を減速させる事でインフレを防ぎました。「マネタリーベース」が縮小されれば、その分流通速度を上げれば良いだけです。
○インフレ
・「デフレは経済を崩壊する」はデマです。米国の過去(1790~2015年)のインフレ率を見ると、Fed設立(1913年)までは平均でマイナス0.2%です。米国がこの時期、「経済が崩壊していた」とは誰も考えません。Fed設立後も「金固定相場制」で「金本位制」は維持されていました。「第2次世界大戦」後にドルのみが金との兌換性を持ち、他の通貨はドルとの固定相場になります(金為替本位制)。「ニクソンショック」(1971年)までの「ブレトンウッズ体制」で、インフレ率が1%前後に上昇します。
・米国大統領リチャード・ニクソンによる「金兌換の一時停止」(ニクソンショック)により2つの大きな経済変化が生じます。1つ目はインフレ率の上昇で、4~5%まで上昇します。
・2つ目は所得格差の拡大です。「ニクソンショック」前は、所得上位1%の所得は横ばいで、所得下位90%の所得が上昇する理想的な経済でした。ところが「ニクソンショック」後は、所得上位1%の所得が伸び、所得下位90%の所得が減少する経済になりました。それは当然で、インフレは借手(国、大手企業、大手金融機関、大金持ち)に有利で、貸手に不利な経済環境だからです。
・これにより「消費性向」の高い勤労所得者の所得は増えず、「消費性向」の低い高額所得者に所得が集中する事で、世界的に経済成長率が鈍化したのです。※デフレではなくインフレが経済を崩壊する。
○欧州、中国
・ドイツは「ユーロ圏で独り勝ちしている」と云われますが、ドルベースでの実質所得はマルク時代の方が高く、ユーロ時代になって下がっています。
・英国はEUに加盟しましたが、ユーロは導入しませんでした。これは大正解と云えますが、EUを離脱する事になりました。しかし「EU離脱」の悪影響は殆どないと思われます。
・中央銀行が自国通貨を安くする政策を取っていますが、意味のない政策です。日本の場合、輸出品は資本財/中間財なので、安くなっても輸出が増える訳ではありません。「円安」は輸出産業だけ儲けさして、国民を貧乏にする政策です。インバウンドが増えたと喜んでいますが、その分海外旅行者は激減しているのです。
・中国の中央銀行・中国人民銀行は、膨らませ過ぎた信用を放置すると突然爆縮する恐れがあるので、徐々に引き締めると思います。中国の輸入は1桁マイナス/輸出は2桁マイナスが続き、近い将来、深刻な不況が予想されます。中国は銅/鉄鋼で過剰な設備を抱えています。
<中央銀行は必要か>
・本来景気は自律的に波を作ります。中央銀行が予想し、操作できるものではありません。国民が貧しくなったのは、中央銀行の金融政策のためです。※資本主義の本質もあるかも。
・「グローバル化」が進んでいますが、全ての分野で「グローバル化」する必要はありません。世界はどんどん分裂・縮小しています。ソ連/ユーゴスラビアは分裂しました。中国は北京語圏/上海語圏/福建語圏/四川語圏/広東語圏に分裂するでしょう。米国も旧奴隷州/旧自由州/山岳州/西海岸に分裂するかもしれません。
・「お金」は車輪/火/糸・針などと並び、人類が発明した偉大な道具です。しかしそこには言語/文化などの多様性がありません。金融の「グローバル化」は進むと思いますが、「世界単一中央銀行」の夢は完全に消えました。
・「マイナス金利」は一線を踏み越えた金融政策です。「マイナス金利」により「バランスシート」の健全性が疑われる状況になりました。国債の保有は、「プラス金利」だと元本の目減りを埋めてくれますが、「マイナス金利」だと益々元本が小さくなります。国債は債権だったものが、債務に変わったのです。「マイナス金利」の弊害は徐々に露わになってくると思います。
・「マイナス金利」は日本の前に、スイス/スウェーデン/ECBが始めました。欧州各国の国債発行残高は少額なので、「バランスシート」の問題は軽微です。しかし日本の国債発行残高は巨額なので、その影響は甚大です。
・3大中央銀行でFedだけが「利上げ」の意向を示しています。しかし政策会合の度に特殊要因を挙げて、「利上げ」を見送っています。そもそも機能していなかったので、今後も機能しないでしょう。
・中央銀行は通貨発行を粛々とするだけで充分です。金利も市場の実勢に任せるのが無難です。大手銀行に通貨発行をさせるのも良いと思います。その場合、信用の裏付けに金が一番です。
・近年中央銀行の政策が機能しない事が明白になってきました。それに気付いていないのがECBドラギ総裁/日銀・黒田総裁です。では「アベノミクス」はどうなんでしょうか。金融政策/財政政策/構造改革(規制緩和、規制撤廃)、何れも不合格です。2016年上半期、世界的に株価が下落しますが、1月末に「マイナス金利」を導入した日本(日経平均)は、資源バブルが崩壊した中国(上海総合)と同程度暴落しています。
・複数の銀行に銀行券の発行を任せて良いと思います。過渡的な措置として、10~20年単位で三菱東京UFJ/みずほ/三井住友の輪番制にするのも良いと思います。※これこそ構造改革だな。
<おわりに>
・著者には学校で教えられる「近現代史」に不満を持っていました。この「近現代史」が、余にも勝者の立場を正当化する内容だからです。世界経済における覇権の歴史は綺麗事ではありません。英国の覇権は、イングランド銀行/インドの植民地経営をする東インド会社/奴隷納入権を独占する南海会社によりなされました。米国の覇権は、欧州における2度の世界大戦でなされました。
・米国は植民地時代のまま、「利権集団の、利権集団による、利権集団のための政治」を延々と続けています。米国はロビイストによる贈収賄を正当化・合法化としている国です。一方で40年以上に渡って、国民の金保有・取引・輸出入を禁止(財産権を侵害)した国です。