『大国の暴走』渡部恒雄/近藤大介/小泉悠(2017年)を読書。
トランプ政権誕生から6ヵ月経ち、米中露3大国を詳しく解説しています。
トランプ政権をニューヨーク派/ワシントン派/身内に分ける見方は、大変参考になる。
また中国/ロシアの国民国家と異なる国家観も参考になる。
本書は3人の著者の対談で、それぞれ若干の解釈の違いがあると思いますが、そこまでは読み込んでいません。
著者の渡部氏は米国、近藤氏は中国、小泉氏はロシアが専門です。
お勧め度:☆☆☆(面白い本です)
キーワード:<トランプ政権半年間の総括>ニューヨーク派/ワシントン派、初期設定/シリア空爆/ロシアゲート事件、貿易赤字/北朝鮮/南シナ海、弾劾、北朝鮮危機/北朝鮮侵攻、THAAD配備/文在寅、シリア情勢/イラン包括核合意/NATO、欧州、ユーラシア連合、<3帝国による三国志>弱者の戦略、ネオコン、仮想敵、トランプ現象、トランプ自伝、台湾/九段線、主権、国家体制の並存、ハイブリッド戦争/超限戦、言論統制、白人至上主義/右翼、チェチェン/新疆ウイグル自治区、農村戸籍、疲弊するリベラル、ポスト・トゥルース時代、分断、<これから何が起こるか>米露関係/経済制裁、米中関係/貿易摩擦/南シナ海、北朝鮮、核軍縮、EU崩壊/一帯一路/中央アジア/上海協力機構、<日本はどうすべきか>日米貿易摩擦/日米同盟、台湾統一、北方領土/経済協力、憲法改正/核武装
<トランプ政権半年間の総括>
○ホワイトハウス
・2017年1月トランプ政権が発足した。実はホワイトハウスには3つの勢力がある。「ニューヨーク派」「ワシントン派」「身内」です。
・「ニューヨーク派」はスティーブ・バノン主席戦略官を中心とした「革命派」で、「これまでの間違った政策が米国をダメにした」と考えるグループです。
・「ワシントン派」は米国の伝統的な国益を守ろうとする「保守派」で、ジェームズ・マティス国防長官/H・R・マクマスター国家安全保障担当補佐官らが含まれる。
・最近「ニューヨーク派」のマイケル・アントン国家安全保障担当次席補佐官が注目され、マクマスター主席補佐官と渡り合っている。
・「身内」の筆頭は娘婿ジャレッド・クシュナーです。「ワシントン派」がクシュナーを取り込み、行ったのが「シリア空爆」です。
・バノンは失脚したと云われますが、主席戦略官は選挙の戦略を立てるのが役割なので、失脚ではありません。
※いきなりヘビー。
○初期設定
・普通は100日経過すると方向が見えるのですが、トランプの場合は見えてきません。トランプは親ロシアでNATOに冷淡と思われましたが、「シリア空爆」でロシアを困らせています。
・トランプの「初期設定」は、「今の白人/キリスト教徒はイスラムに敗れつつあり、何よりも優先して、この戦争に勝つ必要があり、ロシアとも手を結ぶ」です。
・5月からの初の外遊で中東諸国/NATO/G7に出席しますが、NATOに「守って欲しいなら、カネを出せ」で「初期設定」に戻っています。
・クシュナーがロシアに秘密回線の開設を提案したと報道され、政権がガタガタになっています。
○裏切られたロシア
・ロシアには、旧ソ連国をNATOに加盟させない/友好国を民主化させて転覆させない/ウクライナ問題を見過ごす/経済制裁の解除などの「国益」があります。ロシアは孤立主義を歩むであろうトランプ政権を歓迎していましたが、春頃には失望します。ウラジーミル・ジリノフスキーは「シャンパンを抜くのは、弾劾が通った時だ」と暴言を吐いています。
・「シリア空爆」によりロシアは2つの屈辱を受けます。1つは「ヒラリーだとやったかもしれないが、トランプはやらないだろう」と考えていた事をやったからです。もう1つは、空爆に対し「米露戦争」を恐れ、反撃できなかった点です。
・「シリア空爆」後に米露双方の外相が相手国を訪れ、再調整を図ります。しかしこの時トランプが「イスラム国」の最重要機密をセルゲイ・ラブロフ外相に漏らした事が発覚します。
・この直後から「ロシアゲート事件」が本格的に注目されるようになります。当初は「マイケル・フリン前国家安全保障担当補佐官が、選挙期間中に駐米露シア大使に会っていた」と云うショボイ話でしたが、もっと重大な事が隠されていると考えられています。
○振り回される中国
・「シリア空爆」は習近平が米国を訪れている4月に行われました。これは中国にとっては「吉報」です。それは中国が恐れていた米露接近が低下したからです。
・米中には3つの大きな問題があります。米国の貿易赤字問題/北朝鮮問題/南シナ海問題です。トランプは当初は、「北朝鮮を抑えてくれるなら、南シナ海を黙認する」と思わせていましたが、5月には「航行の自由作戦」を行っています。ここにもトランプ政権の「一貫性のなさ」が表れ、トランプ政権と対称的な中国は困惑しています。
○ロシアゲート事件
・ロシアとの癒着は当初は、フリンとかバノンの前任の選挙対策責任者だったポール・マナフォートに留まっていましたが、トランプは捜査を行っていたジェームズ・コミーFBI長官を解任します。これにより益々疑惑が深まります。
・ニクソンも同様の対応を行っています。ニクソンは「ウォーターゲート事件」の捜査をしていた特別検察官を解任するため、司法長官/司法副長官を更迭しています。トランプは「ウォーターゲート事件」から学んでいないと云えます。
○トランプ弾劾
・弾劾は下院議員の過半数の賛成で訴追され、上院で弾劾裁判が行われ、上院議員の2/3以上の賛成で弾劾されます。従って弾劾がなるかは、上院の共和党議員次第です。「ウォーターゲート事件」では共和党の上院院内総務ハワード・ベーカーがニクソンに厳しい態度を取ったため、弾劾が現実味を帯びたのです。トランプは危機管理ができていないので、弾劾の可能性があります。
○ロシア・コネクションの闇
・「ロシアゲート事件」は長くなると思います。FBI長官が公聴会に出て証言するのは、余ほどの確証がないとできません。前任の選挙参謀マナフォートは、ロシアがヤヌコーヴィッチをウクライナ大統領に当選させるために使った選挙コンサルタントですから、ロシアとトランプの繋がりがなかったとは思えません。※繋がりは強そう。
○レームダック化
・トランプ政権のレームダック化も考えられますが、米国経済が好調のため、それはないでしょう。彼の支持者は「彼が大統領にならなければ、経済はもっと酷くなっていた」と強固に支持しています。またトランプは「ニューヨーク・タイムズ/CNNは、フェイクニュースだ」と批判していますが、彼らはそれを信じています。
○北朝鮮危機を煽る理由
・北朝鮮が今年に入り、10発以上のミサイルを発射しました。これには北朝鮮の内的要因と外的要因があります。
・内的要因は、金正恩委員長に実績が乏しいため、ミサイル発射や過度な粛清で権威を保持しようとしています。
・外的要因は、トランプが必要以上に北朝鮮危機を煽っているからです。米国内ではトランプ支持/不支持に関係なく、北朝鮮に対する強硬策は支持されています。5月に行われたG7サミットで、トランプは地球気候変動問題/移民・難民問題/自由貿易問題を混乱させ、首脳宣言は6ページになってしまいました(前サミットでは32ページ)。これを埋め合わせたのが「北朝鮮は新たな脅威」でした。
○北朝鮮の事情
・北朝鮮の軍事行動には周期性があります。3月に米韓軍事演習があるため、この時期が最も激しくなります。5月になると、軍人も田植えをするので、大人しくなります。
○中国の北朝鮮侵攻
・中国の対北朝鮮政策は、半島の非核化/対話・交渉による問題解決/地域の平和と安定です。2017年には5年に一度の「共産党大会」があるので、それまでは平穏無事を保とうとします。
・しかしその後に中国が北朝鮮に侵攻する要因は幾つかあります。習近平は人民解放軍の改革を進めていますが、軍の面従腹背で進んでいません。次に米軍が北朝鮮を転覆させ、鴨緑江まで米軍が押し寄せる状況を中国は許容できません。米国に先行する事があり得ます。中国にとって重要なのは「地域の安定」であって、「金正恩体制の安定」ではありません。※こんな事もあり得るのか。
○日本の巻き添え
・北朝鮮で有事が起こると日本の米軍基地が狙われます。従って、その周辺は危険性が高いと云えます。
○北朝鮮を利用するトランプ
・北朝鮮問題はクリントン時代から始まります。6者による「枠組み合意」で北朝鮮の核開発を「朝鮮半島エネルギー開発機構」(KEDO)の管理下に置きます。ブッシュはABC政策(Anything but Clinton)から、この合意を破棄し、制裁を強化します。しかし効果がないので、180度政策を転換し、容認に変わります。オバマ時代になると、「戦略的忍耐」と称し、何もしませんでした。
・トランプはABO政策(Anything but Obama)から北朝鮮強硬策を展開します。トランプ政権の「ワシントン派」は軍に近く、また「ニューヨーク派」は「ロシアゲート事件」から目を逸らせるために北朝鮮強硬策に賛成です。さらに日本にはウマが合う安倍首相がいるのです。
○レッドラインを引く中国
・北朝鮮危機が騒がれ始めた理由に、米国に届くかもしれない弾道ミサイルの開発があります。
・米国は1994年「枠組み合意」で北朝鮮が核実験した場合、軍事攻撃すると警告していましたが、2006年核実験しても攻撃しませんでした。同じくオバマもシリアの化学兵器使用をレッドラインとして設定していたのに、攻撃しませんでした。そのためトランプはレッドラインを明言していません。
・一方中国は北朝鮮が6回目の核実験をした場合、石油・食糧・化学肥料の供給停止と金融機関の取引停止を宣言しています。トランプはこの中国に期待を寄せています。北朝鮮が弾道ミサイルを発射した際、「中国に無礼を働いた」とツイートしています。
・中朝のパイプ役は張成沢が務めていましたが、処刑されます。彼の後継としては、外交委員長(外交のトップ)李洙墉が考えられます。彼はスイス大使の時、金正恩のスイス留学で父親代わりをし、金正日の秘密資金を管理していました。※この人物は初耳だ。
○「まとも」な大統領・文在寅
・韓国へのTHAAD配備は東アジア情勢を揺るがせました。しかし中国と米国は「北朝鮮を抑えてくれるなら、南シナ海を黙認する」でディールし(ただし5月に「航行の自由作戦」を行っている)、中国のTHAAD阻止の優先順位が下がります。
・これに文大統領も上手く対処します。6基配備の内、2基は前政権時代の配備とし、残りの4基の配備を先送りしたのです。
・文大統領はバランス感覚の優れた「まとも」な大統領です。大統領候補3人の演説を聞きましたが、彼には得意/不得意がなく、オールラウンドプレーヤーです。韓国国内では経済問題があり、外交面では北朝鮮問題、日本とは慰安婦問題、中国とはTHAAD問題、そして米国とはティラーソン国務長官との面会拒否などがありました。しかしいずれも無難にこなしています。
・この「まとも」は「予測可能」を意味しています。トランプの行動は「まとも」ではありません。
○シリア情勢
・シリアでは反体制派の拠点アレッポが陥落し、イスラム国も弱体化しています。しかしアサド政権が支配しているのは地中海側だけで、北にはクルドなどがいます。この分裂状態が続くかは、中東情勢の重要なテーマです。
○中東に対するトランプ政権3派
・「シリア空爆」には3派が同意する動機がありました。「ワシントン派」のマティス/マクマスターらは中東で戦った経験があり、中東問題を優先的に考えています。「ニューヨーク派」はロシアとの対立は避けたいのですが、イスラム国と戦う以上、中東での米国の存在感を示す必要があったのです。「身内」のクシュナーは正統派ユダヤ教徒なので、イスラエルの安全保障を重視し、シリアに厳しく出るのは当然です。
・トランプは初の外遊でイスラエルを訪問します。このイスラエル重視は、イスラエルと距離を置き、有志連合でイスラム国と対峙していたオバマと異なります(ABO政策)。
・イランとの「包括核合意」に関しては、現実派のマティス/ティラーソン(※ワシントン派?)は見直しに反対しています。※結局米国は離脱となった。
・「ワシントン派」と「ニューヨーク派」で考え方が著しく違うのがNATOとの関係です。マティス/ティラーソンはNATOを重視していますが、「ニューヨーク派」は孤立主義なので軽視しています。
○トランプをコントロールする軍
・「ワシントン派」と「ニューヨーク派」の力関係は、「ワシントン派」の方が僅かに優位と云えます。
・トランプは軍を信頼しています。彼が泡沫候補だった頃から、軍は彼にアドバイザーを付けていました。これは軍の常套手段で、勢いが拮抗している時は、両者を支援するのです。これによりヤバイ大統領が誕生しても、国防担当は「まとも」な人になるのです。これは「シビリアンコントロール」の逆と云えます。※面白い仕組みだな。
○欧州
・2017年欧州で急進的右派が台頭すると懸念されていましたが、フランスの大統領選で国民戦線のマリーヌ・ル・ペンは落選します。しかし欧州は反移民・反グローバリズムの嵐が吹き荒れ、マクロン大統領は慎重な対応が要求されます。
・米国にとって欧州は価値を共有する同盟国でしたが、「ニューヨーク派」はこれを覆そうとしています。欧州の利益に相反する人物(バノンなど)が政権の中枢にいるは、歴史上初めてです。
○ワシントン派とニューヨーク派の権力抗争
・「ワシントン派」と「ニューヨーク派」の権力抗争はしばらく続き、世界は4年間トランプに振り回されます。「ニューヨーク派」の源泉は国民の声なので、中間選挙で共和党が負けると状況が変わるかもしれません。
※中間選挙前にトランプ色が強く出たと思う。「アメリカ・ファースト」を強く掲げ、「ニューヨーク派」が優勢になったのでは。
○ロシアの狙い
・ロシアは「リビア内戦」に介入し始めています。アフガニスタンでも、タリバンにアフガニスタン北部を支配させようとしています。プーチンに野望があるとしたら、2011年に言い出した「ユーラシア連合」だと思います。
・プーチンは当然、「ロシアゲート事件」の内容を理解しています。おそらくウラジスラフ・スルコフ大統領補佐官などが指揮したと思われます。驚くべき事は、こんな事に大統領候補が乗り、当選してしまった事です。
・トランプは大統領になってもビジネスを手放していません。彼は大統領になる事で目的を果たしました。今は身内の利益を守るためだけで、大統領の座に座っていると云えます。※渡部氏はトランプにかなり批判的。
<3帝国による三国志>
○弱者の戦略
・ロシアのGDPは世界12位で、韓国と同規模です。ロシアがウクライナ/シリアでやっている事は、かつての日本軍のようなもので、圧倒的弱者に奇襲する戦略です(弱者の戦略)。カネ/技術/同盟国がないので、短期間で成果を上げるしか方法がありません。
○ネオコン
・鄧小平/江沢民/胡錦濤の時代は経済だけを見れば良かったものが、習近平になると経済力/軍事力/政治力/外交力の視点から見る必要が生じました。特に軍事力を前面に出しているため「ネオコン」と云えます。※「ネオコン」は良く分からない。
・この習近平的「中国第一」、トランプ的「アメリカ・ファースト」、さらに欧州/中東に大きな影響を与えているプーチン的「ロシア主義」により、世界は複雑化しています。
○中国の台頭
・「第2次世界大戦」後、冷戦になります。この冷戦は前期と後期に分かれます。前期は「ソ中」と「米欧」の戦いでしたが、1972年米国は中国を味方に引き入れます。これにより冷戦は終結に向かいます。その後米国の脅威は日本になりますが、バブルにより後退し、中国が台頭してきたのです。
・ここまで中国が発展したのは、米国/日本の支援によるものです。意外にも米国は長期戦略を持っておらず、場当り的なのです。※米国は、たまに政策が反転する。
○米国の仮想敵
・近年米国の「仮想敵」が分散しています。台頭してきた中国、依然存在感を示すロシアは脅威ですが、ブッシュの「テロとの戦い」も「仮想敵」になりました。トランプ政権にはイスラム国(イスラム過激派)が最も怖いので、ロシアと組もうとする人もいます。トランプ政権内でさえ考え方がバラバラなのです。
○トランプ現象
・「トランプ現象」は何だったのか整理してみましょう。オバマ大統領が就任した2009年1月、「米国は良い方向に向かているか」の質問に、半数が「良い方向」と答えています。ところが2016年11月の大統領選の時期には、6割以上が「悪い方向」と答えています。その不満の内容は「保守層」と「リベラル層」で異なります。「保守層」の不満は「同性婚を認めた」など白人・キリスト教徒の伝統的価値観を否定された事です。一方「リベラル層」の不満は「貧富の格差の拡大」です。
・共和党支持者はトランプが嫌いでも、党への忠誠心が高いため、トランプに投票しました。中西部の接戦州では、工業地帯で働く中低所得者はTPP離脱/不法移民排除を公約とするトランプに投票しました。
・実際の投票結果を見ると、年収5万ドル以下の人はヒラリーに投票しています。年収5万~10万ドルの中間層の人がトランプに投票しています。彼らは漠然とした不安からトランプに投票したと思われます。
・もう一つ考えられるのが、ブッシュが起こした「イラク戦争」を批判した点です。海外派兵に疲弊した国民は多くいるのです。※これも「アメリカ・ファースト」の一つだな。
○トランプは中国人
・トランプは、中国にとっては組み易い相手と思われます。中国の外交関係者は「ヒラリーでなくて良かった」と言っています。他に中国が喜ぶ理由が幾つかあります。1つ目はTPPからの離脱です。TPPは中国包囲網でしたが、トランプ自ら旗を降ろしました。2つ目はアジアでの米軍の縮減です。3つ目は米国の自壊が期待される点です。
・4つ目はトランプ自身が中国的で、フィーリングが合うと思われます。『トランプ自伝』を読むと、「家族とカネを大切にする」「周囲を敵と味方に二分する」「会議は自分が決めた事を伝達するためにある」など、どれも中国的です。
※これは外れたみたい。米中対決が顕著になっている。
・習近平は自分の在任中に南シナ海を支配し、台湾を統一したいと考えています。「西沙諸島は大丈夫だけど、南沙諸島はサラミ戦術で行くしかない」などを認識したようです。
○トランプの対中政策
・トランプは選挙中、中国については余り触れませんでした。貿易赤字の解消/為替操作国への指定/中国製品への報復関税には触れていましたが、安全保障には触れませんでした。トランプ政権には対中強硬派が多いのですが、トランプの安全保障に関する発言は少なかった。
・トランプは当選後に台湾の蔡英文総統に電話しています。一方で習近平には「一つの中国」を尊重すると言っています。
・習近平は「自分の時代に台湾を統一する」と言っています。1996年「台湾海峡危機」の時、彼は福建省の州都・福州で司令官をしており、その時の屈辱を忘れていません。ロシアのクリミア侵攻を相当研究しているようです。
○殆んど我々
・ロシア人は「勢力圏」を強く意識します。ロシア帝国/ソ連が支配していた地域は、ロシア語で「パチティー・ナーシ」(殆んど我々)と云います。彼らにはベラルーシ/ウクライナは「殆んど我々」であり、それらがNATO/EUに加盟するのは許せないのです。
○国境はグラデーション
・中国/ロシアは大陸国家のため「勢力圏」を強く意識しています。その国境は線ではなく、グラデーションになっています。中国は古くから「権威の及ぶ範囲が国境」と考え、「九段線」を引いています。
・今年から東欧にNATO軍が入りますが、半年毎にローテーションさせ、「常駐ではない」とロシアに気を遣っています。トランプは選挙中から「ウクライナはドイツに任せる」と言っており、これはロシアの歓迎する所です。
○帝国主義における主権
・中国/ロシアに「ウェストファリア条約」から始まる「国民国家」は通用しません。彼らは「地域毎にボスがいて、そのボスが地域を治めている」と考えているのです。ロシアは冥王星程の広さがあり、そこには様々な人種/宗教が存在します。中国も同様の状況と云えます。
・「主権」の考え方も西欧と異なります。西欧では各国が「主権」を持っていますが、彼らにすれば大国に依存している国は「半主権国家」なのです。日本も安全保障を自分で決められないので、「半主権国家」になります。
・彼らは「国民が意見を言うのは自由だが、国が決めた事には従ってもらう」と考えています。これがプーチンのブレーン・スルコフの「主権民主主義」です。
・中国/ロシアは歴史的に「帝国」であり続けており、「国民国家」になった事はありません。
※中国/ロシアとは国家の考え方が異なり、「国民国家」の考えがないのか。これは分かり易い。
○国を治める秘訣
・習近平が国家主席に就任すると、その日にプーチンに電話して国家統治の方法を聞いたそうです。プーチンは「軍隊とエネルギーを把握する事」と言ったそうです。両国は多民族国家で、大陸国家です。共通する「国家観」があるようです。
○「文明の衝突」から「国家体制の並存」へ
・20世紀末にサミュエル・ハンチントンが『文明の衝突』を著しました。これは世界を9つの文明に分け、キリスト教文明とイスラム教文明の対立が先鋭化すると予言した本です。
・しかし著者(小泉)は「文明の衝突」より、「国家体制の並存」と考えています。ある一つの国家モデルに収斂するのではなく、「民主的国家モデル」「権威主義的国家モデル」が共に存続すると考えています。中国/ロシアは、「トランプはその様な状況を認める」と期待しているのです。
○中国/ロシアのアイデンティティ
・ロシアに国家アイデンティティがあるとしたら、「自分達は欧州をナチから解放した」です。同様に中国にも「共産党は日本帝国主義を打倒した」があります。
・ロシアで「ロシア民族法」が議会に提出されました。これはロシアの諸民族(スラブ人、タタール人、トゥバ人、カルムイク人など)を「ロシア民族」として扱う法案です。同様に中国も92%の漢民族と他の55諸民族を「中華民族」としています。
・ロシアには自国民を鎮圧するための国内軍(国家親衛軍)があります。同様に中国にも人民武装警察(武警)があり、公安/武警の予算は軍事予算より多くなっています。
※ホントに共通点が多いな。
○守って欲しいならカネをよこせ
・ベラルーシに親西側政権が誕生すると、ロシアが介入する恐れがあります。ロシア軍は「勢力圏」守るための軍隊なのです。またそれは「ハイブリッド戦争」、すなわち正規軍/非正規軍/民間人/マスメディア/SNSなどあらゆる手段を用います。クリミア半島では宣戦布告もなく、この方法で成功しました。※「ハイブリッド戦争」は初めて聞いた。
・トランプは選挙中にバルト3国について聞かれ、「集団防衛は条件付き(カネ次第)である」と答えています。これは日本の北方領土/尖閣諸島にも云えそうです。
○「ハイブリッド戦争」と「超限戦」
・「ハイブリッド戦争」と同様に、中国には「超限戦」があります。習近平は「21世紀は陸海空天電の戦いになる」と言っています。
・2016年ロシアは米国の大統領選でヒラリー陣営をサイバー攻撃しています。しかしロシアに言わせれば、2003年に始まる「バラ革命」(グルジア)「オレンジ革命」(ウクライナ)「チューリップ革命」(キルギス)は西側が暗躍したとしています。
○ロシア/中国の言論統制
・ロシアでも言論統制が行われています。新聞は許容していますが、テレビは言論統制されています。全国ネットが3局ありますが、国有化などして、政府に都合が悪い事は言わせないようにしています。
・政府はSNS/ブログを警戒しています。ブログはマスコミと考え、政府に批判的な内容だと、是正命令しています。SNSは操業そのものを難しくしています。ロシア国内にサーバーを置く事を条件にしています。
・ロシアではスラブ語に強い「ヤンデックス」と云う検索エンジンや、「フコンタクチェ」と云う国産SNSがあります。
・サイバー空間の技術が進歩すればする程、監視は容易になるそうです。中国では政府の意に添わない記事を、アルゴリズムで自動的に削除しているみたいです。
○米国の格差/人種問題
・米国企業のCEOと非管理職の年収差は、1980年は40倍でしたが、2000年には500倍に拡がります。この格差は80年代の税制や金融技術により生じました。国民の大半はその結果に不満なのではなく、移民や自由貿易協定が機会を失わせている事に不満なのです。ただし本当の貧困層(黒人、ヒスパニック、アジア系など)は「オバマケア」に賛成しています。
○白人至上主義
・今までに存在しなかった「主席戦略官」の肩書でホワイトハウス入りしたのが、スティーブ・バノンです。彼は右翼的/白人至上主義的なニュースサイトを主宰していました。これは白人優位主義者へのアピールになりました。またトランプがロシアに甘く、中国/日本に厳しいのは、「白人至上主義」が根底にあるのかもしれません。
・白人至上主義者は黒人/ヒスパニック/アジア系を嫌っていますが、ユダヤ系も嫌っています。ユダヤ系の人(ネオコンなど)はトランプの強権的手法や排他的な政策を嫌っています。
・トランプの娘婿ジャレッド・クシュナーはユダヤ系ですが、対IS戦争/親イスラエルのためにトランプに利用されています。
※トランプは親ユダヤと思っていたが、違うのか。
・トランプ当選は「格差」ではありません。「格差」が問題なら、ヒラリーが当選しています。「メキシコからの不法移民を入れるな」「アンフェアな中国には高関税を課せ」などの白人中間層がトランプを当選させたのです。
○右翼と親睦を深めるプーチン
・ロシアの現首相メドヴェージェフはユダヤ人と云われています。スターリンはグルジア人でした。KGBを作ったジェルジンスキーは元ポーランド貴族でした。ロシアではメインストリートでなくても偉くなれます。
・しかしロシアにも人種的摩擦があり、カフカス(コーカサス)人はその対象にされます。スラブ人はナチスに劣等人種扱いされていましたが、今はナチズムにかぶれ、カフカス人を攻撃対象にしています。
※多民族国家に人種問題は付き物かな。
・プーチンは分裂を恐れ、モスクワのモスクを改修するなど宥和政策をとっています。一方で右翼のバイカー集団に参加し、ハーレーに乗っています。この集団は東欧の極右集団と親睦を深めています。
※近年の東欧の右傾化は、この影響もあるのか。
○ロシアの中間層
・ロシアではプーチンにより中間層が厚くなっています。かつては物凄い高額なサービスか、ソ連時代のような激安なサービスしかありませんでしたが、中間層が満足できるサービスが提供されるようになりました。格差は厳然と存在し、言論・メディアの統制はありますが、プーチン様様なのです。
・ロシア国民は不満に思っていても、それはプーチン批判に繋がりません。プーチンはツァーリ的な存在で、プーチンに直訴すれば何とかしてくれると思っています。ロシアにはプーチンに訴える有名な番組「ホットライン」があります。
○チェチェンの不安定は続く
・プーチンは「第2次チェチェン戦争」で反体制派を壊滅させたので、今のところチェチェンは安定しています。ラムザン・カディロフを大統領に据え、「チェチェンを安定させるなら、何をしても良い」と、強権政治を黙認しています。チェチェンはある程度独立性を許されており、これは完全な中央主権国家の中国と異なります。
・プーチンは中央から地方に至る国家のヒエラルキーを再建する事で統一しましたが、アイデンティティがある訳ではないので、その統一には脆さがあります。
・北カフカスは1860年代にロシアが征服した地域です。そのため「第2次世界大戦」になると反乱が起きますが、スターリンは強制移住で対処します。ソ連が崩壊した時も反乱が起きますが、ロシアは軍/治安部隊で制圧します。そのため最初は民族独立運動でしたが、イスラム原理主義が入り、今では「カフカス首長国」を自称しています。
○新疆ウイグル自治区
・「新疆ウイグル自治区」では、ウイグル人の居住区と漢民族の居住区が明確に分かれています。時間もウイグル人は当地の時間を使っているが、漢民族は北京時間を遣っています。言語はウイグル人はウイグル語しか理解できず、漢民族は中国語しか理解できません。
・著者(近藤)は北ウイグルを訪れましたが、街の至る所に銃を持った警察官がいます。最初は怖かったのですが、その内に「これならテロは起きないだろう」と安心するようになりました。南ウイグルも訪れようとしましたが、治安が悪いため、タクシー運転手に拒否されました。
・帝国は国境の外側にも主権を拡げますが、内側に主権の及ばない地域があるのです。中国でもカザフ族は自分達をカザフ人と思い、朝鮮族は朝鮮人と思っています。そもそもイスラム過激派には「国民国家」の枠組みが存在しません。※国境って何だろう。
○ネイションづくり
・中国では「新疆ウイグル自治区」に漢民族を移住させ、今では漢民族の方が多くなっています。ウイグル人の娘を漢民族に嫁がせるため、修学旅行は漢民族の地域に行かせています。著者(近藤)は青島の「海軍博物館」で彼女らを見ました。
・ロシアでは白人の人口は減っていますが、北カフカスなどのイスラムの人口は増えています。ロシアには徴兵制(1年に短縮された)があり、兵役は遠隔地で就くようになっています。これにより「ネイション」(※国民意識かな)を育てています。
○農村戸籍
・中国は愛国教育/共産党教育が徹底され、かつ個人主義社会のため、比較的統治は上手く行っています。しかし都市戸籍と農村戸籍では年収に、3倍近い差があります。農村戸籍の人が都市に出稼ぎに出ていますが、教育・医療・年金を受けられず、まるで外国人扱いです。
・都市戸籍/農村戸籍はなくす方向で進められています。ところが上海/広州/深圳/天津では農村戸籍者を排除し、人口を減らそうとしています。また北京の人口は2200万人ですが、その南西130Kmの雄安に「第二首都」を建設し、国有企業の本社/大学を移そうとしています。
※北京は交通渋滞とか大気汚染で有名だからな。
○辺境への冷たい視線
・著者(近藤)が北京で地下鉄に乗っていた時、北京市民と外地人で席の争いになりました。その時外地人は周りから「外地人は出て行け」と罵声を浴びました。この話を北京市民にすると「当然出て行け」と大変盛り上がりました。同じ漢民族内でも強烈な差別意識があります。
○疲弊するリベラル
・これまでの話を纏めると、「リベラル・コンセンサスの後退」や「リベラルである事への疲弊」があると思います。今までは「良い子」になろうとしていたが、自分達が報われない事に苛立ち始めたと考えます。
・シリアで西側はできなかったが、ロシアは簡単に戦局をひっくり返しました。西側の爆撃機は民間人を誤爆するとマズいので、9割が爆弾を落とさず帰ってくる。一方のロシアはブロック毎吹き飛ばしても、平気で帰ってくる。
・このリベラルであり続ける事に迷い始め、「民主党に従って行儀良くしても、得にならない」、そう感じ始めたのです。これにより「ポリティカル・コレクトネス」を無視するトランプに支持が集まったのです。
※この考え方には賛成する。今はグローバル化の反動の時期なのでは。
○オバマ政権の総括
・米国はリベラルな理念の下に、反リベラルな行動をしてきた国です。日本への原爆投下/東京大空襲がそうであり、「イラク戦争」もそうです。
・オバマはアサド政権に対し、「化学兵器を使用すれば空襲する」と宣言していましたが、軍事介入しませんでした。これによりロシアの軍事介入を招き、大量の移民が発生し、結果的に欧州で右派が勢力を強めます。
○中国の分断
・中国では「旧世界」「新世界」の2つの世界ができつつあります。「旧世界」は中国共産党による権威主義的世界です。一方の「新世界」はそれらの価値観に全く目を向けない若い世代で、スマホで日本のアニメを見たり、ゲームをしている世代です。
・中国は鄧小平以来、治安維持と開放を交互に行ってきた国です。この「新世界」の人が約2億人いて、スマホ/SNSに興じています。日本好きで、反日教育に靡きません。
○オルタナ右翼
・米国には日本の「ネット右翼」に相当する「オルタナ右翼」がいます。彼らの情報源はバノン主席戦略官が運営していた「ブライトバート・ニュース」などです。彼らのデタラメな情報発信で「ピザゲート事件」(無実のピザ屋が襲撃された)が起こりました。
・ロシアは2008年「グルジア戦争」で情報戦に敗れたため、放送局「ロシア・トゥデイ」通信社「スプートニク」で対外情報発信に力を入れています。※聞いた事がある。そんな会社なのか。
○五毛党、トロール部隊
・中国には「五毛党」と云うインターネット世論を誘導する人がいます。共産党政権を賞賛する書き込みをすると、5毛(8円)もらえるのです。ロシアには同様な「トロール部隊」があります。
・オールド・メディアが主流だった時代は、報じる側のニュースを信じるしかありませんでしたが、「ポスト・トゥルース時代」になると「今の放送は何だ」と直ぐにネットに書き込まれるので、情報発信のあり方が変わりました。またこれにより、中国/ロシアなどの非民主主義国家は民主化され、日本/米国などの民主主義国家は非民主化されると考えます。
○ポスト・トゥルース時代の情報戦
・米国では3大ネットワークのニュースは見られなくなりました。中国では「新世界」の人は、「旧世界」のメディアを信じていません。トランプはネットの力で当選したようなものです。※米国のケーブルテレビは有名だが。
・「分断」は以前よりあったと思いますが、「Brexit」やトランプ当選によって顕在化しました。米国には「divided」「disconnect」、中国/韓国には「両極化」、ロシアには崩壊を意味する「ラスパード」などの言葉があります。
<これから何が起こるか>
○トランプ大統領
・トランプは大統領を4年間続けられるでしょうか。米国大統領は「変幻自在」です。ブッシュ大統領は「アフガン侵攻」「イラク戦争」と冒険を始めますが、批判されるとタカ派を一掃して、穏健な現実主義に転じます。トランプも同様な事が起こり得ます。自分の方向を示さず、最後は「俺のディールは成功しただろう」と言うと思います。この超柔軟な姿勢で臨むと思います。
※今のトランプ政権はトランプ色が強く出ている気がする。
○危機的なロシア経済
・ロシアは米国との関係改善を望んでいます。まず中長期的な理由ですが、ロシアは「経済制裁」により、2015年/2016年はマイナス成長になりました。「原油掘削技術の提供拒否」「エネルギー開発資金融資の停止」はロシアに大変なダメージを与えています。近年ロシアの対外債務が減っています。これはロシアに資金を貸す国がないためです。
・次に短期的な理由は、原油価格の維持にあります。ロシアのGDPは原油・天然ガスに2割依存しており、国家歳入では約半分を原油・天然ガスに依存しています。米国はシェールガス/シェールオイルを採掘していますが、これはコストが高く付きます。そこで米国と協調し)、原油価格を維持する事を期待しています(裏OPEC。
※ホントにロシアはマズそうだな。
○米露関係は常に悪化する
・中国とロシアの関係は「準同盟国」と云えます。中国はロシア製戦闘機「Su-35」を購入しました。これはロシア以外で初めての所有になります。経済面でも「上海協力機構」/BRICsなどで結び付きを深めています。
・1971年「ニクソン・ショック」により”米中vsソ連”の構図になりますが、オバマ時代に”米vs中露”の構図に戻ります。トランプによって”米露vs中”の構図に一時的になるかもしれませんが、それには懐疑的です。
・プーチンは政権発足当時、米国に大変協力的でした。「ユーゴスラビア紛争」で米露関係はこじれていましたが、「9.11事件」後は、NATO軍の中央アジア配備/タリバン情報の提供/核軍縮条約の調印など大変協力的でした。しかし東欧へのミサイル配備などにより徐々に悪化し、2008年「グルジア戦争」で破綻します。オバマ政権の誕生で改善の兆しがありましたが、2014年「ウクライナ危機」で元の木阿弥になります。
※どこの国もバランス外交に努めている。
・米露関係が常に悪化する理由に、両者の結び付きの弱さにあります。ロシアと米国間の貿易額は、微々たるものです。ロシアの主要輸出品であるエネルギー/鉄鉱石は米国に豊富にあります。一方で欧州はロシアから天然ガスを輸入し、ドイツはロシアを需要な自動車の輸出先にしています。そのため欧露関係は安定しています。
・米中は多額の貿易があるので、改善に向かうと考えます。※今はそれが争いの種になっている。
○米中関係の行方
・トランプは「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」を唱え、習近平は「中華民族の偉大なる復興」を唱え、両者は瓜二つです。
・トランプの目は経済力/軍事力の「ハードパワー」にしか向けられていません。本来米国が世界を惹きつけていたのは、民主主義の価値観/自由貿易のルールなどの「ソフトパワー」です。
・またトランプの政策に古臭さを感じます。オバマも雇用を重視し、IT産業/金融分野で雇用を増やそうとしました。一方トランプが守ろうとしているのは1980年代の製造業です。日本の自民党の支持基盤は農家/農協ですが、TPPに踏み切りました。トランプの頭の中は1980年代のままと思われます。
・中国は米国との貿易摩擦を警戒しています。一方で南シナ海を勢力圏に収め、台湾を統一しようと考えています。米国に経済貿易で譲歩する代わり、安全保障で黙認してもらう可能性があります。※これは恐ろしい。
○米中軍事力の接近
・2016年トランプが蔡英文・台湾総統に電話します。中国はこれに反発し、台湾海峡に空母を送ります。しかし本当の意趣返しは「台湾統一」です。近年人民解放軍の能力が高まり、米軍が「第一列島線」内に進入するのが難しくなっています。
・トランプは「強い米軍の復活」によく言及します。しかしその内容が「第3の相殺戦略」(サード・オフセット戦略、※説明なし)に沿っているかが問題です。またこの戦略は軍事産業の振興に繋がります。オバマ政権のロバート・ワーク国防副長官が留任しているので、これについては安心して良いと思います。
・トランプが日本にどれ位軍事協力を求めて来るかは注意が必要です。2015年「日米ガイドライン」で大筋は合意しています。2017年の日米首脳会談で「2プラス2」の開催も合意しています。
・トランプが「航行の自由作戦」に自衛隊の参加を要請してくるか気懸りです。中国は日本の出方に応じ、東シナ海で「航行の自由作戦」を行っています。※何時かあったな。
○韓国、北朝鮮
・韓国へのTHAAD配備は2つの点で注目されます。1つ目は日米韓の軍事協力がなされる点です。2つ目は韓国が中国に屈するかどうかです。中国は朝鮮半島は自分達の勢力圏と考えています。
・北朝鮮の核能力が何処まで伸びるかも重要です。米国を攻撃できる能力を持つと、リアルな脅威として扱わなければいけなくなります。2016年「朝鮮労働党大会」で「核と経済の並進」を確認しています。また金正日は「核とミサイルを手放すな」を遺言しています。
・この様に東アジアは大変な地域ですが、日米韓は同盟を維持/強化するしかなく、北朝鮮の暴発を防ぐには中国/ロシアの協力が必要です。最終的にはこれらの国が纏まる必要があります。
・中国にとって最も重要なのは、北朝鮮ではなく台湾です。中国の若手外交官には「北朝鮮生贄論」もあります。習近平は重要な外交問題が発生すると、外交部など6つのラインから案を出させ、それを党中央弁公庁が取り纏めます。その中に「米国と協力して北朝鮮を倒せば恩が売れる」(北朝鮮生贄論)がありました。
・2017年中国は北朝鮮からの石炭輸入を禁止しました。しかし北朝鮮と接している遼寧省/吉林省は経済が悪化しており、北朝鮮との貿易を望んでいます。一方で北部戦区は北朝鮮/韓国に存在感を示したいと思っており、大変複雑です。
・ロシアにとっても北朝鮮はアンビバレントな存在になっています。北朝鮮によって朝鮮半島での米軍のプレゼンスが高まっています。
○核軍縮
・2018年「新START」(新戦略兵器削減条約)の期限が切れます。米露が接近し、後継の条約を結ぶ事も考えられますが、ロシアには中国が脅威で、核を減らせないのです。かつては米露が核弾頭の保有数で競っていましたが、それに中国が迫ってきているのです。核軍縮も米中露の時代になったのです。※先月米国が「INF廃棄条約」を破棄した。これは中国の脅威のためでした。
・実は中国も核軍縮には賛成しています。2017年習近平は国連欧州本部で「核のない世界を目指す」と演説しています。これは北朝鮮の核能力向上により、韓国/日本が核武装する事を恐れているのです。
○今後の中国/ロシア
・習近平後期政権の最大のテーマは「台湾統一」です。毛沢東は1949年に中国を統一すると、翌年には「朝鮮戦争」に25万人の義勇軍を送ります。その義勇軍は「台湾を統一する」と書かれた旗を持っていました。習近平は毛沢東を尊敬し、17年間も台湾と向かい合う福建省に勤めていました。彼は「台湾統一」を使命と思っています。※この可能性は高いのかな?
・ロシアは中央アジアを中国に侵食されつつも、勢力圏を維持していくと思われます。中国は東シナ海からインド洋に至るエリアを勢力圏として固めていくでしょう。中国/ロシアは外から見ると侵略的に見えますが、彼らは生き残りのためにやっています。米国は力と思想を後退させ、他国に口を出さなくなるため、中長期的には「G0」の時代になると考えられます。
・興味深いのは欧州です。フランス大統領選では極右「国民戦線」マリーヌ・ル・ペンは敗れ、エマニュエル・マクロンが当選しました。しかしEUが崩壊する可能性はあります。欧州は「一帯一路」の西端で、EUが崩壊する頃には、中国の存在感が益々高まっていると考えられます。一方東欧/北欧のロシアに対する危機感は非常に強いため、EUが崩壊してもロシアの勢力は伸びないでしょう。
・ハンガリーの首都ブダペストは180万人の都市ですが、3万人のチャイナタウンができています。ハンガリーでは30万ユーロ出すと移民できます。中東移民を拒否しているのに、中国移民は受け入れているのです。チェコでも同様に中国人は歓迎されています。
・中央アジアでは中国の投資が歓迎されています。中央アジアは経済は中国、安全保障はロシアでしたが、最近中国がトルクメニスタン/ウズベキスタンに武器を売り始めました。また中国はベラルーシにも武器を売り始めました。これも中国によるロシア勢力圏の切り崩しになります。※この点は注目だ。
・「上海協力機構」(SCO)には中国/ロシア/インド/パキスタンなど8ヵ国が参加しています。このSCOが中国の「一帯一路」を安全保障面で支える組織になるでしょう。
○今後の米国
・トランプの欠点は2国間でしか問題に対処できない点です。世界の各国が米国に靡いたのは、米国が民主主義/人権/自由貿易などの理念を持っていたからです。オバマは「リベラル・インターナショナル・オーダー」(※説明なし)を唱え、リバランス政策を行っていました。トランプのこの欠点は直りそうにありません。
・しかしこのトランプのこの欠点が有効に働く場合もあります。北朝鮮への圧力や、英国との同盟には有効に働くと思います。さらにインド/ロシアとバイで組む事で、中国包囲網を形成できます。
・米国は「軍産複合体」と云われますが、実態は異なります。米国の実態は金融業/ハイテク・IT産業/軍事産業が複雑に絡み合い、アメーバのように儲かる場所に移動します。米国はあくまでも「儲かるか」(ビジネス)で動いています。
・米国での雇用減の原因は自由貿易ではなく、IT化/ロボット化です。トランプが保護主義を強めるのは、逆に経済に悪影響です。しかしオバマが敷いた経済回復に、トランプによる規制緩和と大規模な公共インフラ投資で、経済は良好でしょう。問題は減税+公共インフラ投資による財政悪化ですが、そもそも米国は財政の悪化と改善を繰り返す国です。
<日本はどうすべきか>
○日米貿易摩擦、日米同盟
・まず「米中貿易摩擦」ですが、これは世界経済にダメージを与えます。例えばアップル社が「iPhone」を中国で組立ていますすが、これに重い関税を掛けると、多くの部品を提供している日本にも、米国のアップル社にも悪影響です。「日米貿易摩擦」ですが、こちらは80年代から貿易摩擦を解消してきた経験があります。
・これとは別に厄介なのが「安全保障の負担増」です。北朝鮮/中国が強硬になり、米国が安全保障に疲弊した今日、米国の同盟国は負担増を受け入れる必要があります。
・トランプが日米貿易交渉の進展に苛立って、ツイッターで日本企業をバッシングする恐れがあります。しかし日本企業は米国に十分投資しており、トランプの側近や議会はそれを認識しています。日本企業はソフトバンクのように、米国での雇用創出をアピールすると良いでしょう。
・日米同盟で気になるのが、トランプが「航行の自由作戦」への自衛隊の参加を要請するかです。これはトランプ登場以前から検討されており、トランプが卓袱台をひっくり返すのは無理です。かつて鳩山首相が沖縄基地問題をひっくり返そうとしましたが、日米の官僚/自衛隊・米軍は動じませんでした。
○台湾統一、習近平独裁
・中国には「パンダと竜の論理」(昔はパンダだが、今は竜)、「洋服の着せ替え論」(何時までも子供の服を着せるな)の言葉があります。
・繰り返しますが、中国の目標は第1列島線内を支配し、台湾を統一する事です。韓国へのTHAAD配備も尖閣諸島問題も、この「台湾統一」の一部です。そこで日本が台湾にどう接するかが重要になります。台湾に潜水艦を売り、結び付を深めるか、内政不干渉で傍観するか判断が必要になります。これには当然、米国も絡みます。
・日本の対中貿易は全体の22%に及びます。一方中国の対日貿易は全体の7%に過ぎません。かつては中国が日本を必要としていましたが、今は日本が中国を必要としています。※そうなんだ。
・中国には2~3億人の中間層がいます。彼らは日本に旅行し、日本のアニメを見て、親日派です。中国に「全家(ファミリーマート)」「羅森(ローソン)」「7-11」が入り「コンビニ文化」が生まれています。中国は重要なマーケットです。
・そのコンビニは電子決済で支払います。現金を使用すると、店員に驚かれます。先日中国人の友人が日本に転勤になりましたが、最初に買ったのが財布でした。
・軍事面では日中関係は個別の問題ではなく、米中関係の一部です。米国がアジアに深く関与する場合、日本は米国に従わざるを得ません。米国がアジアから手を引く場合、日本と中国は争いを封印するかもしれません。
・習近平は生産過剰の除去/在庫過剰の除去/金融リスクの除去/生産コストの下降/貧困層への補助の5つからなる経済改革を行っていますが、道半ばです。社会主義的な運営を続ける限り、「ゾンビ企業」(国有企業)は生き残り、経済は回復しません。
・今年共産党大会がありますが、習近平は首相を李克強から王岐山に替えたいと思っています。彼はクリーンなので、「反腐敗運動」と云う名の権力闘争は続けます。憲法で国家主席は2期10年となっていますが、「非常事態」を宣言すれば任期を延長できます。※今年憲法から主席の任期を削除した。
・「台湾統一」に戻りますが、中国はロシアがやった「クリミア半島統合」を手本にします。台湾を空母で囲み、無血入城する方法です(※住民投票があったが、台湾では通らないだろう)。「台湾統一」には、これらを米国に黙認してもらう必要があります。トランプは歴代大統領と違い、「理念外交」ではなく「ディール外交」なので、雇用をエサに取引するかもしれません。
○北方領土、経済協力
・プーチンは2024年まで、安倍首相は2021年まで今の地位に留まり、日露関係も今の状況が続くと思われます。ロシアは経済制裁に苦しんでいるので、「経済と領土の交換」にロシアがどこまで応じるかです。首脳会談後にロシアのメディアは「領土の話をせず、経済協力だけをもぎ取った」と報道しているので、しばらくは領土問題の解決は難しいでしょう。
・中国にとってロシアは兄貴分でしたが、今は逆転しています。軍事面で見ると、中国がロシアから輸入しているのは戦闘機のエンジンだけで、それ以外は全て中国で造れます。ロシアの極東地域は農業が頑張っていますが、耕作地の2割は中国資本が運営しています。ロシアの極東の人口は620万人しかいません。中国は国境付近だけで1億1千万人います。ロシアは極東に強い危機感を持っています。
・2016年日本はロシアに8項目からなる「経済協力プラン」を提案しました。最初の項目は「医療」でした。ロシアの医療は崩壊し、平均寿命が短くなっています。最近のインテリはウォッカを飲まなくなりました。ロシアからシベリア鉄道の北海道への延伸が提案されましたが、これは無理な提案です。
○日本の選択
・憲法改正(9条改正)は不要と考えます。「日米同盟」では攻撃と守備で、完全に分業化されています。今の憲法は必要最小限の軍事力を許しています。北朝鮮/韓国が核武装すれば、日本の核武装は必要最小限の範囲になります。※解釈改憲かな。
・憲法改正の必要が生じるのは、米国が有事になっても攻撃能力を提供しなくなった時です。今憲法改正するのは、周辺国を刺激し反発されるだけで、デメリットの方が大きいです。
・実際は憲法改正より重大な問題があって、自衛隊の「交戦規程」(ROE)は不整備です。
・戦後はどの国も三元外交(外務省、軍、諜報機関)を行ってきました。しかし日本は軍/諜報機関を米国に頼っており、これでは不完全です。中国は他国を国力で判断します。米国のバックアップがなくなると、遠慮なく日本を襲ってくるでしょう。中国は尖閣諸島を台湾の一部と考えているので、それを取りに来る事は十分考えられます。憲法改正は慎重を要しますが、排除すべきではないと思います。※前者と考え方が違う。
・核兵器は安価な兵器と云われますが、実際はSLBM(潜水艦発射型核ミサイル)や原子力潜水艦が必要になり、高く付きます。核武装は見栄でしかありません。現実的には医療費/社会保障費を勘案し、その限度額内で最適化するしかありません。ソ連は国力以上に軍拡を行い、崩壊したのです。
・日本の少子高齢化も問題ですが、中国も間もなく人口減に転じ、2050年には人口の1/4が高齢者になります。国家の財政/人口バランスは安全保障の観点からも重要です。
・「ガスライティング」と云う言葉があります。これは映画『ガス燈』の主人公が「妻には物忘れや盗癖がある」と言い触らし、妻がおかしくなる話です。米国の大統領はトランプですが、その戦略を作っているのは下部構造です。トランプの「ガスライティング」に惑わされてはいけません。下部構造をしっかり観察する事が重要です。これはプーチンのロシア/習近平の中国にも当て嵌まります。