『欧州ポピュリズム』庄司克宏(2018年)を読書。
近年のポピュリズムの行方が気になるので本書を選択。
欧州ポピュリズムとEUの対立が、詳細に解説されています。
反EUはポピュリズムの一部でしょうが、欧州ポピュリズムについては少し理解できた気がする。またEUの課題も見えた気がします。
EUは未来国家を作ろうとする試みであり、「欧州はやはり成熟している」と感じさせられる。
大変詳しいので、一般的ではないと思う。しかしEUの仕組みや欧州ポピュリズムを知れて満足。
お勧め度:☆☆(個人的には☆☆☆)
キーワード:<欧州ポピュリズムの衝撃>ポピュリズム危機、マリーヌ・ルペン/国民戦線/Frexit、ドイツのための選択肢、<欧州ポピュリズムは何か>排外主義ポピュリズム/反リベラル・ポピュリズム、リベラル・デモクラシー、欧州懐疑主義、グローバル化、<EUはどのような存在か>ガラパゴス/主権の共有/自律性、単一市場/単一通貨、権限、正当性、コペンハーゲン基準/アキ・コミュノテール、権利停止手続/法の支配枠組み/業務不履行訴訟、<なぜ欧州ポピュリズムが出現したか>モネ方式、経済統合、空洞化、代表制民主主義の機能不全、移民・難民問題、加盟条件/継続条件、<欧州ポピュリズムはEUに何をもたらすか>欧州議会ルート/政府間ルート/国内ルート、ハンガリー/オルバン、ポーランド/法と正義、国民投票/英国独立党/緊縮策/難民割当/EUウクライナ連合協定、<リベラルEUの行方>二速度式欧州/アラカルト欧州、英国EU改革合意、高度化協力、財政同盟、東西対立/南北対立、機能的限定/地理的限定
<欧州ポピュリズムの衝撃>
○2017年ポピュリズム危機
・2009年10月「ギリシャ債務問題」が引き金になり、「欧州債務危機」が南欧を襲う。結果、ギリシャでは「急進左派連合」、スペインでは「ポデモス」が躍進する。
・2015年シリア難民の流入で、EUでは急進右派が勢力を拡大する。2016年英国ではEU離脱の国民投票が実施され、EU離脱を選択する。この背景に「英国独立党」の扇動があった。
・2017年オランダ/仏国/ドイツ/オーストリア/チェコの国政選挙でポピュリズム政党が躍進する。
・2017年3月オランダ下院議会選挙でポピュリズム政党「自由党」(PVV)は反移民・難民で第二党になる。
・4月仏国大統領選の1回目投票で、ポピュリズム政党「国民戦線」(FN)のマリーヌ・ルペンが、中道右派「共和党」/中道左派「社会党」を破る。5月2回目投票で、彼女は親EUのマクロンに敗れる。
・9月ドイツ連邦議会選挙が行われ、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が第三党に躍進する。
・10月オーストリア国民議会選挙で極右政党「自由党」(FPO)が第三党になり、第一党の中道右派政党「国民党」と連立政権を形成する。「自由党」ハインツ・クリスティアン・シュトラッヘは副首相に就く。※既にオーストリアでは政権を担っているのか。
・10月チェコ下院選挙でポピュリズム政党「ANO」が第一党になり、反ユーロ/反移民・難民のアンドレイ・バビシュが首相に就く。しかし下院の信任が得られず、組閣中である。なお2018年1月大統領選では、反移民・難民の現職ミロシュ・ゼマンが再選された。※チェコもそうか。
・2018年3月イタリア総選挙で反EU/反移民・難民のポピュリズム政党「五つ星運動」が第一党になり、連立政権樹立を目指している。
○欧州ポピュリズムの台頭と浸透
・欧州ポピュリズムは一過性ではなく、持続的な脅威である。冷戦期は中道右派と中道左派が争っていた。1991年冷戦が終わると、急進右派ポピュリズム政党が得票率を増加させ、2011年より急進左派ポピュリズム政党も得票率を増加させている。
・急進右派の支持率が高いのは、ハンガー/ポーランドなどの旧共産圏と、移民・難民が多く流入したオーストリア/デンマークなどである。一方急進左派の支持率が高いのは、欧州債務危機のギリシャ/キプロス/スペインなどである。※この傾向は覚えておかないと。
・ポピュリズムの浸透は「政党イデオロギー別の得票率」でも明らかである。1997年は保守主義(33%)/社会民主主義(27%)/リベラル(12%)/ポピュリズム(8%)であったが、2017年は保守主義(28%)/社会民主主義(23%)/ポピュリズム(15%)/リベラル(12%)となっている。保守主義/社会民主主義の減少分を、ポピュリズムが吸収した。
○仏国/ドイツにおけるポピュリズムとEU
・2011年マリーヌ・ルペンは「国民戦線」の党首になる。2012年大統領選で第3位になる。2014年欧州会議選挙で「国民戦線」は躍進する。2015年反ユダヤを発言する父を除名する。
・2017年彼女は大統領選で反EU/反グローバル化/反移民/反イスラムを鮮明にした。また国民投票による「Frexit」を目指した。マニフェストにEU加盟条件の緩和/ユーロ財政規律の廃止/シェンゲン協定の撤廃/EU法優越の廃止により、EUを緩やかな協力体に変える計画を記している。また「Frexit」が国民投票で否定された場合は辞職すると記している。「ユーロ離脱」は国民投票で同意された場合のみ実行すると記している。
・この大統領選ではマクロンに敗れたが、2022年も立候補する意向である。もし彼女が大統領に選ばれていたら、EUは崩壊もしくは停滞したと思われる。2022年大統領選はマクロンの政治に掛かっている。
・2013年「ドイツのための選択肢」(AfD)は反ユーロで創設された。2015年共同代表の一人がフラウケ・ペトリになり、反移民・反イスラムが追加される。2016年4つの州議会選挙で13%から24%の得票を得る。
・彼女は「AfD」の連立政権入りを目指し、党の穏健化を図るが、実権は極右的なアレクサンダー・ガウラントとアリス・ヴァイデルが握る。2017年9月総選挙で第三党に躍進するが、彼女は離党する。
・「AfD」は総選挙のマニフェストに反移民/反イスラムと共に、EUを緩やかな経済連合に変える対EU政策を約束した。これらの政策は「国民戦線」の政策と同様である。
・2017年総選挙でメルケル首相が率いる「キリスト教民主同盟」(CDU)/「キリスト教社会同盟」(CSU)は9%も得票率を落した。連立パートナーの「社会民主党」(SPD)も戦後最低の得票率であった。
○本書の構成
・第1章では「欧州ポピュリズムは何か」を、第2章では「EUはどのような存在か」を、第3章では「なぜ欧州ポピュリズムが出現したか」を、第4章では「EUにとって欧州ポピュリズムは、いかなるリスクか」を、第5章では「EUはそれに対し、どう対応しているのか」を解説する。
<欧州ポピュリズムは何か>
・冷戦終結後、リベラルの秩序は3つの意味で崩壊している。①中国/ロシアの台頭により、西側諸国のパワー/影響力が低下している。②マーケット・デモクラシーが魅力を失った。それは反グローバリズムに表れている。③リベラル・デモクラシー体制がポピュリズムの台頭で危機に瀕している。本章は③のポピュリズムについて考察する。
○ポピュリズムをどう捉えるか。
・ポピュリズムは「大衆迎合主義」と称される。一般的に「特権エリートに対抗して、大衆の利益/文化的特性/自然な感情を強調する政治運動。ポピュリズムは少数派の権利を考慮せず、大衆集会/国民投票などの多数派の意思に訴える」と定義される。定義に見られるように「無垢の大衆VS腐敗したエリート」の対抗関係になる。
・またポピュリズムは「政治は一般意思の表明であるべし」と主張し、「実質を欠いたイデオロギー」である。「一般意思」とは「個々の意思の総和でなく、利己を捨てた一体としての意思」を意味する。また「実質を欠いた」とは「政治問題の一貫した解答ではなく、社会主義/ナショナリズムなどの本格的なイデオロギーと結び付いて、初めて主張される」の意味である。そのためポピュリズムは「政治的戦略」と云える。※難解。
・ポピュリズムは「排外主義ポピュリズム」と「反リベラル・ポピュリズム」に大別できる。ただし「排外主義ポピュリズム」と「反リベラル・ポピュリズム」は重なりあって存在している。
・「排外主義ポピュリズム」は法/秩序を重視し、偏狭なナショナリズムと自国民に限定した福祉を擁護する。政党には「国民戦線」(FN、仏国)/「ドイツのための選択肢」(AfD)/「自由党」(PVV、オランダ)/「英国独立党」(UKIP)/「自由党」(FPO、オーストリア)がある。
・「反リベラル・ポピュリズム」は民主主義には従うが、個人の自由を限定し、司法権の独立を尊重せず、メディアを統制し、少数派を軽視する(※全体主義に近いかな)。「反リベラル・ポピュリズム」政党には、「フィデス=ハンガリー市民同盟」(Fidesz、与党)/「法と正義」(PiS、ポーランド与党)がある。
○ポピュリズムとリベラル・デモクラシー
・西側諸国が築いたのが「リベラル・デモクラシー」(=立憲民主主義)だが、これはリベラルとデモクラシーが柱である。リベラルは「法の支配」を意味する。これは個人の権利を保護する手段となる。一方のデモクラシー(民主主義)は、最高権威は法ではなく人民にあるとし、「一般意思」を尊重する。従って「リベラル・デモクラシー」は相反する倫理がバランスしている状態である。※超基本だろうが知らなかった。相反してるんだ。
・一方のポピュリズムは少数派を保護せず、「一般意思」を尊重する。ポピュリズムの敵は「独立の機関」であり、ポピュリズムは権力分立/司法権の独立、メディアの多元主義/独立性を嫌う。
・「リベラル・デモクラシー」は多数派と少数派との間の適切なバランスで維持される。このバランスが崩れるケースは2通りある。①過剰な多数派支配(ポピュリズム)、②過剰な少数派支配である(急進的多元主義)である。通常は①の状況が起こり得る。この場合、自由かつ公正な選挙で支配者が選択されるのに、法の支配/少数派の権利が保障されない状況になる。
・EUは「リベラル・デモクラシー」の体現である。EUの主要機関(コミッション、EU司法裁判所、欧州中央銀行)は非多数派機関である。そのため各国政府の多数派に制限を課す事があるため、ポピュリズムはこれを「選挙で選ばれていないエリート」と非難する。
・EUの機能には経済面と政治面がある。経済面では、EUは自由貿易/開放市場/物・サービス・資本・人の自由移動/競争・効率性に焦点を当てる。一方各国には再分配的な社会政策/税制が残される。ポピュリズムは、これを「ブリュッセルは社会政策を軽視している」と非難する。
・EUは国内での規制撤廃/域内での再規制により、国境と市場の開放を目指す。一方ポピュリズムは、国境と市場の閉鎖を目指す。そのためポピュリズムは「EUはグローバル化の手先」と非難する。
・政治面では、ポピュリズムは「国民性/ナショナル・アイデンティティが損なわれている」「有権者から民主的コントロールを奪っている。コントロールを取り戻せ」と主張する。
・欧州のポピュリズム政党は「欧州懐疑主義」に立つ。「欧州懐疑主義」とは、欧州統合を進めるEU/各国政府に意義を唱える政治的立場である(※簡単に云えば反EUかな)。「欧州懐疑主義」はポピュリズム政党に限らない。例えば英国「保守党」は「欧州懐疑主義」の議員を抱えている。
・有権者は「欧州懐疑主義」(ユーロ、EUと加盟国間の権限配分)に余り関心を持たない。しかし「欧州懐疑主義」政党は、EU問題を重要な争点に設定する。本書では欧州ポピュリズムを「欧州懐疑主義」に限定する。※これは重要なポイントだ。ポピュリズムにはもっと沢山の争点があるが本書は対象にしない。
・「欧州懐疑主義」にはハードとソフトの2種類ある。ハードな「欧州懐疑主義」は、EUを確信的に否定し、EU離脱を志向する。一方ソフトな「欧州懐疑主義」は、EUの権限拡張は否定するが、EU離脱は主張しない。「補完性原則」の遵守(後述)と経済的利益の追求を主張する。
・「排外主義ポピュリズム」はハードな「欧州懐疑主義」で、急進右派が多い。一方「反リベラル・ポピュリズム」はソフトな「欧州懐疑主義」で、急進左派が多い。
○グローバル化と欧州ポピュリズム
・グローバル化とは、物・サービス・資本・人・情報の移動が増大する事である。グローバル化による格差の増大/失業率の上昇が社会的緊張を高め、ポピュリズムを台頭させた。自由貿易/資本移動の自由/移民/オフショアリング(海外移転)/金融の肥大化/企業の金融化などが、政治的・経済的エリートにより、規制されないままなされたと批判されている。
・仏国で「グローバル化を脅威と感じるか」を政党支持者別に集計すると、中道右派「共和党」39%、中道左派「社会党」43%、ポピュリズム政党「国民戦線」76%であった。ドイツも同様で、中道右派「キリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟」32%、中道左派「社会民主党」33%、ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢」78%であった。※顕著だな。正しくポピュリズム政党は反グローバル化を惹き付けている。
・EUはグローバル化の負の影響から、欧州を保護しているのか、助長しているのか。EUは物・サービス・資本・人の自由移動を意味する「単一市場」と「単一通貨」ユーロで経済統合を行っている。「EU条約」では単に効率性/規制撤廃を目指すのではなく、社会的進歩を目指すとしている。2007年「ベルリン宣言」で「単一市場/単一通貨はグローバル化に対抗するための手段」としている。
・その後2008年リーマン・ショック、2010年ギリシャ債務危機、2015年欧州難民危機が起こり、EUはグローバル化の負の影響に直面する。2017年「ローマ宣言」で「世界は地域紛争/テロリズム/移民増大/保護主義/社会的・経済的不平等に直面している。EUは安全・安心/繁栄/競争力/持続可能/社会的責任で重要な役割を果たす」とした。ここからは、欧州市民をグローバル化から守ろうとする意思が窺われる。※まあ宣言なので当然かな。
・EUのコミッション(欧州委員会)はグローバル化に対応するための行動を明らかにしている。対外的には「高い基準(?)に基づく公正なルールに依拠した秩序を構築するため、多くの国と協力する」とし、目標を「市場開放/テクノロジーの進化を福利増大に調和させる」としている。これはグローバル化を管理しようとしている事の表れである。「グローバル化の管理」とは「国際的な移動に関するルールの自由化が、市場参加者と政府を拘束する公式の手続き(?)と整合するよう、公的・私的アクターが確保(?)しようとする事」である。※超難解。
・グローバル化を管理する手段に「政策範囲の拡張」がある。例として単一通貨ユーロの導入により、加盟国を為替変動の圧力から保護している。また「政策範囲の拡張」により獲得した権限により、グローバル・ガバナンスの在り方を左右する事がある。例として「個人データ保護法」があり、米国/日本は法律の改正を迫られた。
・またグローバル化を管理する手段に「EUの領域的拡大」がある。加盟国の増加は、国際機関/国際会議での影響力を向上させている。加盟国は「コペンハーゲン基準」「アキ・コミュノテール」を受容している。
※EU自体がグローバル化の気もするが。
・EUがグローバル化を管理するプロセスにおいて、「欧州懐疑主義」が増大する現象が生じた。それは3つの経路で現れた。1つ目は、2015年シリアからの難民(当年133万人)で「欧州難民危機」になった。欧州の人々は、「EUと各国のエリートは移民問題を真剣に検討/対応する気がなく、安易に難民を受け入れた」と非難した。これにより仏国「国民戦線」/「ドイツのための選択肢」/オランダ「自由党」などの「排外主義ポピュリズ」政党が支持を得て、彼らはEUや国内のエスタブリッシュメントを攻撃した。
・2つ目は、EUの領域的拡大に伴い、「コペンハーゲン基準」「アキ・コミュノテール」に反発し、「反リベラル・ポピュリズム」政党が政権に就く現象が現れた。ハンガリー/ポーランドがその状況にある。
・3つ目は、EUの領域的拡大の結果、域内移民が特定の加盟国に多量に流入する現象が生じた。「排外主義ポピュリズ」政党は域内移民の制限を主張するようになった。2016年英国のEU離脱は、ポーランド人などの域内移民が主な要因であった。
・EUは「グローバル化から欧州を守る」と宣言しているが、このように「欧州懐疑主義」は「EUはグローバル化の手先」と批判している。
<EUはどのような存在か>
・「ガラパゴス化」と云う用語がある。ガラパゴス諸島は隔離されているため、独自の発展をするが、脆弱となる。EUは国際連合/世界貿易機関(WTO)と異なり、「ガラパゴス化」/「スプラナショナル」(超国家的)/「トランスナショナル」(国境横断的)と形容される。
○主権の共有とEUの自律性
・EUは主権を共有していると云われる。政治学者はある「何百もの委員会を通じて交渉され、お互いの国内問題に干渉する原則に基づき規制/裁判判決を受け容れる妥協がなされている。欧州諸国は隣国の了承がなければ何もできない。政府は便益(安全、繁栄、経済的・社会的規制)を提供できるという幻想を維持している。この政治システムはポストモダンである」と述べている。※難解。
・このように欧州の主権国家は相互干渉の下での共通行動により、単独では得られない利益を享受し、「主権の共有」を行っている。結局、EUは主権国家間のコンセンサスを基礎に置き、大国は横暴せず、中小国は駄々をこねないデリケートなシステムである。
・「主権の共有」をEU司法裁判所は「EU法の自律性」と表現している。対内的にはEU法は加盟国の憲法/法令に優越する。対外的にはEUが締結した国際協定の監督機関が、EU法を勝手に解釈する事はできない。すなわちEUは国家でないため、「自律性」を「主権」の意味で使用している。※EUは国家ではないので、正確には条約を締結する権利がないのでは。
・このようにEUは主権国家を超えた秩序なのでポストモダン/先進的であり、ガラパゴスである。ガラパゴスのEUは歴史/正当性に欠け、脆弱である。それゆえ仏国「国民戦線」や「ドイツのための選択肢」が第一党になれば、EUは崩壊するであろう。※生まれたばかりの秩序で、実験的だからな。
○単一市場と派生的政策
・EUの存在意義は、物・サービス・資本・人の自由移動を意味する「単一市場」にある。これが他の欧州諸国を引き寄せている。
・加盟国は課税と公共支出に基づいて再分配政策を行うため、「福祉国家」と形容される。一方EUは「単一市場」と市場規制政策が中核で、「規制国家」と形容される。「単一市場」は競争法(独占禁止法)/共通農業政策/共通運輸政策/社会政策を切り離せないので、これらもEUの政策に含まれる。
・「単一市場」の完成により、新たに3つの政策分野が派生した。1つ目は、物の自由移動により共通通商政策を始めとする対外政策が拡張/強化された。またこれを補完する共通外交・安全保障政策も導入された。
・2つ目は、人の自由移動において域外から域内への移動は、当初は予定されていなかった。しかし1993年「マーストリヒト条約」/1995年「シェンゲン協定」/1999年「アムステルダム条約」の発効で、「司法・内務協力」の「人の自由移動」政策はEU管理となった。これには国境管理/難民庇護/移民に関する政策が含まれる。その後「司法・内務協力」は「警察・刑事司法協力」として発展した。さらに現行のEU基本条約である「リスボン条約」(2009年発効)では「自由・安全・司法領域協力」になった。※難解。
・3つ目は、1999年「単一通貨」ユーロが導入され、欧州中央銀行(ECB)が単一の金融政策を行っている。世界金融危機/欧州債務危機により、経済・財政政策の協力が強化された。またECBを中心とする単一監督機構/単一破綻処理機構を柱とする「銀行同盟」も導入された。
・以上のように「単一市場」から始まり、徐々に政策範囲が拡張/強化された。※長い目で見れば、生まれたばかりで成長期(幼児期かも)なんだろうな。
○EUの権限と予算 ※この辺りから、具体的で詳しくなる。
・EUの権限行使は、3段階(個別授権原則、補完性原則、比例性原則)になっている。EUは「個別授権原則」により、EU基本条約で個別に付与された権限の範囲内で行動する。国家の領土保全/秩序維持/安全保障は加盟国の権限である。
・しかしその権限をEUが行使すべきかが判断される(補完性原則)。EUレベルでないと判断されると、各国が行動する。「補完性原則」が遵守されているかは、コミッション(欧州委員会)の立法提案段階でチェックされる。さらにある目的に対し複数の手段がある場合、関係者の負担が最も少ない手段が選択される(比例性原則)。
・またEU権限は強度により、4つに類型される。「排他的権限」はEUのみが立法できる。「共有権限」はEU/加盟国が共に立法できる。これには単一市場/社会政策/環境/運輸/自由・安全・司法領域などが含まれる。補完性原則が最も効果する分野である。3つ目は「支援・調整・補充的行動」で、これは加盟国の行動を支援・調整・補充する権限である。これには健康/産業/文化/教育などが含まれる(※ECTSはここかな)。4つ目は「政策調整」で、EUは政策調整に限られる。これには経済政策/雇用政策が含まれる。また共通外交・安全保障政策は加盟国が協力して策定・実施される。※マネージメント好きな欧州人らしい。
・EUの予算は「多年度財政枠組み」に従って組まれる。2016年度予算は20兆円で、加盟国の国家予算の合計の2%に留まる。※随分少ないな。社会保障がなく、ルール作りが主な仕事かな。
・EUの財源は「固有財源」と呼ばれ、3種類に分かれる。1つ目の伝統的固有財源は関税/砂糖課徴金により、2つ目は付加価値税により、3つ目は各国の国民総所得に基づくもので、これが全体の3/4を占める。
・歳出は農業関連予算(40%、農家への所得保障など)、地域振興予算(38%、構造基金=豊かな国から貧しい国への再分配)が二大項目である。
・1人当たりの差引額(=受取額-拠出額)は、オランダ/スウェーデン/ドイツは純拠出国で、中東欧諸国は純受取国になっている。
○EUの運営と正当性
・EUの運営には「欧州理事会/閣僚理事会で主権国家間を調整する」側面と「EU益を追求する独立機関に委ねる超国家主義的」側面がある。
・EUの独立機関にはコミッション(欧州委員会)/EU司法裁判所/欧州中央銀行(ECB)がある。コミッションは立法/政策の提案権を独占している。EU司法裁判所は紛争を最終的に解決している。ECBは金融政策を決定している。※本書ではこれらの機関が重要になる。
・欧州理事会は全加盟国の首脳によるコンセンサスで、「基本的政治方針」を決定する。これに基づいてコミッション/閣僚理事会/欧州議会が立法/政策を決定する。コミッションが法案を作成し、これに閣僚理事会/欧州議会が賛成すれば法案が成立する。
・幾つか特徴を挙げる。コミッションはEU益を追求し、立法提案権を独占する。多数決が原則だが、実際は全員のコンセンサスで決定されている。閣僚理事会でコミッションの意に沿わない法案修正がされると、法案の撤回ができる。
・閣僚理事会は加盟国の大臣が出席し、各国の民意を代表する。欧州議会の議員は選挙で選ばれ、各国の国民を代表する。閣僚理事会では「特定多数決」(国票+人口票)で決定されるが、実際はコンセンサスで決定されている。欧州議会はトランスナショナル(国境横断的)な政党で構成され、過半数で議決される。
・正当性には「インプット型正当性」「アウトプット型正当性」がある。「インプット型正当性」は政治システムが民意に応えているかであり、「アウトプット型正当性」は政治システムの政策結果が市民の望む結果になっているかである。※正当性かな。
・EUの「インプット型正当性」を見ると、世論調査では「全く満足」43%に対し「全く不満」47%であり、「民主主義の赤字」と批判されている。
・EUの立法提案権を独占するコミッションは、選挙を経ないで任命される。一方欧州議会は直接選挙のため民主的正当性があると思われる。しかし「民族的・文化的な同質(デモス)のないところで民主主義は成立しない」(デモス不在論)からすれば、デモス(欧州民)が存在しない現状では、民主主義は成立しない事になる。閣僚会議は各国の閣僚が、自国の利害に基づいて交渉する。しかし立法/政策が全ての市民に影響を及ぼすにも拘わらず、ドイツとマルタでは「特定多数決」の人口票で20倍の格差がある(人口は200倍)。
・一方の「アウトプット型正当性」で、「単一市場」は評価されたが、ユーロ危機/欧州難民危機で評価が揺らいでいる。世論調査で「対応が不十分」とした分野に、失業対策(63%)/脱税対策(60%)/移民問題(58%)/テロ対策(57%)/環境保護(53%)/域外国境管理(52%)がある。
○EUの基本的価値と加盟条件
・EUは「人権/民主主義/法の支配」を価値としている。この価値の尊重はEU基本条約に明記され、加盟条件でもある。
・EU加盟の手順は、加盟申請→加盟条件の充足判断→加盟に関する条約・議定書の成立・署名・批准である。
・加盟条件に地理的条件(欧州に位置する事)がある。トルコは肯定されているが、モロッコは否定されている。実質的条件として「民主主義/法の支配/人権と少数民族の尊重と促進」がある。
・具体的な加盟基準は、「コペンハーゲン基準」(1993年)である。それは①政治的基準-「民主主義/法の支配/人権と少数民族の尊重」を保障する安定した制度、②経済的基準-市場経済が機能、③法的基準-「アキ・コミュノテール」(EUアキ)に則った法整備である。
・「アキ・コミュノテール」の詳細は以下の35章からなる(※大幅省略。EUの権限外も含まれているのか)。加盟申請国はこれに交渉の余地はなく、EUと加盟申請国は非対称な力関係に置かれる。
第1章「物の自由移動」
第2章「労働者の自由移動」
第5章「公共調達」
第6章「会社法」
第7章「知的財産権法」
第8章「競争政策」
第9章「金融サービス」
第16章「税制」
第19章「社会政策および雇用」
第23章「司法制度および基本権」
第26章「教育および文化」
第27章「環境」
第29章「関税同盟」
第31章「外交、安全保障および防衛政策」
第33章「財政および予算規定」
・EU加盟条件はあるが、EU加盟継続条件はない。加盟国が「人権/民主主義/法の支配」に違反しても、EUが介入する手段は余り用意されていない。唯一「権利停止手続」がある。これは2段階に分かれ、1段階目は”違反する恐れがある場合”の「予防メカニズム」、2段階目は”違反が実在する場合”の「制裁メカニズム」である。
・「アムステルダム条約」(1999年発効)で初めて「権利停止手続」の「制裁メカニズム」が導入された。1999年オーストリアで中道右派「国民党」と極右「自由党」が連立政権を形成した。これに対しEUは、”違反が実在しない”ため「制裁メカニズム」を発動できなかった。そのため各国は二国間制裁を行った。これにより「ニース条約」(2003年発効)で「予防メカニズム」が追加された。
・予防メカニズム-ある加盟国が”違反する恐れがある場合”、閣僚理事会は勧告し、認定を行う(コミッション/欧州議会の同意が必要)。その後閣僚理事会は定期的に検証する。
・制裁メカニズム-”違反が実在する場合”、コミッション/欧州議会/欧州理事会の同意で違反が認定される。違反が認定された場合、閣僚理事会は権利停止の対象を議決する。権利停止の発動は、対象国を除く全会一致を必要とする。
・「権利停止手続」は深刻な事態になって対処する手続きである。そのため前段階でコミッションが対象国と対話する「法の支配枠組み」(2014年)が導入された。
・「法の支配枠組み」は3段階で行われる。1段階目はコミッションは対象国を分析し、「法の支配意見」を対象国に送付し、対応を評価する。2段階目は問題が解決されない場合、「法の支配勧告」を送付する。3段階目はコミッションは対象国を監視し、「法の支配勧告」に従っていない場合、「権利停止手続」を発動する。
・また「権利停止手続」とは別に、コミッションが対象国をEU司法裁判所に提訴する手段(業務不履行訴訟)も提供された。これは行政的段階/司法的段階の2段階に分かれる。行政的段階は対象国にEU法に従う機会を与える。それでも従わない場合、司法的段階に進み、判決に従わなければいけない。判決に従わない場合、制裁金が科せられる。
<なぜ欧州ポピュリズムが出現したか>
・欧州でポピュリズムが出現した要因に、①政治エリートは大衆の問題に十分に取り組んでいない、②政治エリートに左右がなくなった、③政治エリートが無力に思える、④メディアの活用がある。
・逆にポピュリズムを抑制する動きもある。その要因に①支持者が限定的、②ナチスの記憶、③アルゼンチンの混乱、④民主主義の改善などがある。
・本章では「インプット型正当性」「アウトプット型正当性」から、ポピュリズムが台頭した要因を考察する。
○ポピュリズムの一般的な発生要因
・ポピュリズムの発生要因を需要サイド(大衆)/供給サイド(政治的アクター)、さらにそれぞれを国内レベル/国際レベルの4つに分けて整理する。
・需要サイド・国内レベルでは、社会的不満(政治家の無能無策、経済的苦境、福祉縮小、移民増大など)により、大衆はエリートに対立感情を募らせている。需要サイド・国際レベルでは、BrexitがFrexitを誘発したように、他国のポピュリズムが「デモンストレーション効果」になっている。
・供給サイド・国内レベルでは、政党は選挙に勝つため有権者が好む政策を掲げ、各政党の政策が収斂している。政党が有権者の期待に応えられず、ポピュリズムが付け入る余地になっている。供給サイド・国際レベルでは、グローバル化がもたらした「反コスモポリタン感情」を利用している。
○欧州ポピュリズムの構造的要因
・EUは「独特な政体」と云われる。比較政治学者は「EUは代表制民主主義の制約を回避し、政策決定できる政治システム」と述べている。それは大衆民主主義が近視眼的になる傾向への回避や、「非多数派機関」の役割への考慮から来ている。EUの政治システムそのものが欧州ポピュリズムを生み出した要因である事を以下に説明する。
※答えは単純だな、エリートが行う政治(EU)に当然、大衆は反発する。
・EUは「スプラナショナル(超国家的)な政体」と云われる。EUは最終目標を示さないで、徐々に経済統合を進めた(モネ方式)。「モネ方式」はテクノクラート(専門家エリート)による市場統合に限定され、「アウトプット型正当性」で評価されるのが前提であった。この欧州統合プロジェクトは、石炭・鉄鋼部門の統合、市場統合、経済通貨同盟と拡大した。さらに共通外交・安全保障政策、司法・内務協力(国境管理、警察協力など)など非経済分野まで拡大している。
・「モネ方式」は「国家主権の委譲は行うが、統合による利益を各国に配分する」と云う暗黙の合意があった(スプラナショナル・コンプロマイズ、※超国家的妥協)。また欧州統合プロジェクトは経済統合だけでなく、政治統合も措定(?)されていた。
・当初のEU基本条約「ローマ条約」(1958年発効)では、「単一市場の形成」のみが目的になっていたが、「リスボン条約」(2009年発効)では、目的は以下に拡張されている(※大幅に簡略化。ほとんど普通の憲法みたい)。
①平和/諸価値/厚生の促進を目的とする。
②域内に国境のない自由・安全・司法領域を提供する。
③EUは域内市場を設立する。均衡の取れた経済成長/物価の安定/完全雇用/社会的進歩/環境保護/科学的・技術的進歩を目標とする。
④ユーロによる経済通貨統合を設立する。
⑤他地域との関係において、EUの諸価値/利益/市民を擁護・保護し、平和/安全/持続可能な発展/自由・公正な貿易/人権の保護/国際法の遵守に寄与する。
⑥EUは付与された権限に応じて、諸目的を追求する。
・1992年「マーストリヒト条約」批准の時、この「スプラナショナル・コンプロマイズ」が問題になる。市場統合に加え、EUが通貨統合/外交・安全保障/国境管理/移民/治安に関与するようになるため、デンマークでは国民投票で批准が否決された(デンマーク・ショック)。これを期に「補完性原則」(前述)が導入された。
・2000年ドイツ外相ヨシュカ・フィッシャーが欧州統合を漸進的に進める「モネ方式」に疑問を呈し、二院制の欧州議会/欧州政府を擁する「欧州連邦」構想を提案する。各国を代表する諮問会議で「欧州憲法条約草案」が作成され、署名された。内容は「欧州連邦」には程遠かったが国家を連想させ、仏国/オランダでは国民投票で否決される。
・EUの欧州統合は国内政治から隔離されていた。それは政治エリートに対し「許容のコンセンサス」があったためである。しかしその信頼は揺らぎ、欧州ポピュリズムは「EUはグローバル化を推進する大企業/銀行の手先になっている。国境管理を野放しにし、国内の多数派より移民などの少数派を不当に保護している」と批判した。仏国「国民戦線」マリーヌ・ルペンは「真の分断は、グローバル化の支持者とナショナリストの間に存在する」と発言した。
※急進右派・左派の得票率は、冷戦後から徐々に増えていた。欧州ポピュリズムの出現は「シリア難民」以前からあったはず。
・欧州の政治エリートはEUの政治プロセスを国内政治から隔離し、テクノクラート的解決策を選好してきた。欧州統合プロジェクトは政治的主流派(?)で合意され、政治的争点にされなかった。この「モネ方式」はEUの構築プロセスを政党間の争点にせず、公開討議からも隔離した。一方で国内政治は「空洞化」された。
・この国内政治の「空洞化」は2つの理由から起きた。1つ目は、欧州統合が進むたびにEUの「政策スペース」が拡張され、国内政治の「政策スペース」は減少した。EUの政策権限(前述)の「排他的権限」は限定的であり、EUも加盟国も立法できる「共有権限」が広範囲に亘る。しかしEUが立法すると、加盟国は立法する事ができない。
・2つ目は、政策決定が各国レベルからEUレベルに委譲される事で、各国政府/政党が用いる事ができる政策の手段が減少している。特に「非多数派機関」に政策決定が委任されると、「政党政治」が排除される結果になる。EUにはEU司法裁判所/コミッション/欧州中央銀行/ユーロポールなどの「非多数派機関」がある。
・政治面でもEU法令の執行権限は各国政府にあるが、「一律の条件」(?)が必要とされる場合は、執行権限はコミッションに委任され、さらに補助機関に再委任される事もある。
・以上2つの理由により国内政治の「スペース」「能力」は減少し、政党間に政策の違いがなくなった。この国内政治の「空洞化」は、EUレベルの「民主主義の空洞化」(前述)と共に、各国レベルの「民主主義の空洞化」になっている。だからと言ってEUが独裁的/権威主義的な訳ではない。EUは「参加民主主義」に基づいており、公開/透明/対話に努めている。
・ではなぜEUと云う政体が生まれたのか。それはEUが「代表制民主主義の機能不全」の解決策だったためである。EUが従来型の民主主義であれば、その存在理由はない。
・日本でも見られるが、国家として必要な政策でも、有権者に不人気だと実現できない事が多々ある。このような問題を回避するためEUが作られたのである。
・EUは各国の政治家が実行できない不人気の政策を実行している。そのため加盟国の政治家は責任をEUに押し付けていると云える。
・EUは「アウトプット型正当性」を基盤にしている。それは再分配政策ではなく、効率性に基づく規制政策の権限を与えられている事からも分かる。EUの「非多数派機関」の専門的・技術的知識を通じ、長期的利益を出す事に存在理由がある。
・「代表制民主主義の機能不全」の解決策のために作られたEUではあるが、その代償として欧州ポピュリズムが生まれた。
※本項には同意。
・ポピュリズムは社会を「無垢な民衆vs腐敗したエリート」と認識し、ポピュリズム政党こそが「一般意思」を代表していると見なしている。
・EUはテクノクラート的な「非多数派機関」により運営されている。しかし「参加民主主義」を標榜し、直接選挙の欧州議会を擁している。一方で民主的説明責任の欠如/「インプット型正当性」に欠ける/政策決定者は直接負託されていないなどの問題がある。このようにEUレベルには与党・野党関係が存在しないのである。
・欧州議会が各国の議会と異なるのは、課税・歳出の権限/立法発議権/政府を承認する権限を欠くからだけではない。根本的な違いは与党・野党関係が存在しない点である。その結果、反EU政党/欧州懐疑派政党などの欧州ポピュリズム政党が出現した。
※「与党・野党関係が存在しない」に疑問。欧州議会では不足と云う事か。
・本節は欧州ポピュリズムが出現した理由を、国内政治から隔離された政策分野(市場統合など)で見てきた。次節は国内政治から隔離されていない政策分野(移民・難民問題、法の支配問題)で見ていく。
○排外主義ポピュリズムと移民・難民問題-国内政治からの隔離がない場合①
・2015年以来中東/北アフリカにおける政治不安で、2015年/2016年にそれぞれ130万人の難民庇護申請がされた。移民・難民問題では不法移民が最大の問題である。バルカン諸国では難民申請の認定率は10%未満であり、かつ送還命令の実行率は5割を切っている。
・2016年欧州10ヶ国で『欧州の将来-大衆とエリートの態度比較』が調査された。ここでのエリートとは政治家/メディア/ビジネス/市民社会で影響力のある個人である。
・「EUの失敗は何か」の質問に、大衆は難民危機/官僚主義と過剰な規制/大量移民を挙げている(※難民危機と大量移民は別なんだ。大量移民は域内移民かな)。一方エリートは官僚主義と過剰な規制/難民危機/緊縮政策となっている。また移民に対しては、大衆は44%が否定しているが、エリートは57%が肯定している。
・「移民政策はEUと各国政府、どちらが行うべきか」の質問には、圧倒的に自国政府となっている。イスラムからの移民に関しては、大衆は56%が否定しているが、エリートは53%が肯定している。
・移民・難民問題は、EUの政策分野では「自由・安全・司法領域」に含まれ、これは共有権限になる。しかしEUは域内の国境管理の撤廃は行ってきたが、域外の国境管理/移民・難民の管理は各国に任せている。そのため国境管理/移民・難民の管理は各国の政治問題となり、排外主義ポピュリズムの批判対象になっている。さらにポピュリズム政党は移民・難民問題の責任をEUに押し付けている。
○反リベラル・ポピュリズムとコペンハーゲン・ディレンマ-国内政治からの隔離がない場合②
・EU加盟の交渉は「コペンハーゲン基準」(前述)に基づき、閣僚理事会/コミッションが行う。ただし加盟条約・議定書は、各加盟国と加盟申請国が締結する。
・加盟申請国は「アキ・コミュノテール」を無条件に受諾しなければならない。「民主主義/法の支配/人権と少数民族の尊重」を充たしているかなどはEUが判断する。そのため加盟交渉プロセスは国内政治から隔離される。
・中欧諸国のEU加盟は、民主プロセスに対するエリートの覇権を制度化するものになった(※難解)。議会は政治問題を討議する場ではなく、「アキ・コミュノテール」を採択するだけの機関になった。
・さらに問題なのは、「コペンハーゲン基準」は加盟条件であり、継続条件ではない。加盟後に「人権/民主主義/法の支配」に違反しても、EUは全会一致の「権利停止手続」しか手段がない。加盟後は「人権/民主主義/法の支配」は国内政治問題として扱われ、反リベラル・ポピュリズムの出現が可能になる。
・実際にハンガー/ポーランドでは、反リベラル・ポピュリズム政党が政権に就き、司法権の独立を侵害し、メディアの中立性を脅かす法改正が行われた。
<欧州ポピュリズムはEUに何をもたらすか>
・本章ではポピュリズム政党がEUに与える影響を、3節に分けて考察する。
○欧州ポピュリズムがEUの政策決定に「侵入」する経路
・ポピュリズム政党がEUに”直接”影響を及ぼすルートに、①欧州議会ルート、②政府間ルート(欧州理事会、閣僚理事会)がある。
・2014年欧州議会選挙で、ポピュリズム政党(国民戦線(FN)、英国独立党(UKIP)、デンマーク国民党(DF)など)は総議席751の内220を獲得した。しかしポピュリズム政党は「欧州保守・改革グループ」「欧州自由・直接民主主義グループ」「民族・自由欧州」に分かれ、欧州議会での影響力は小さい。中道右派「欧州人民党グループ」と中道左派「社会民主進歩同盟グループ」が大連立を組む事が多くなっている(議決の75%を有する)。
・一方の政府間ルート(欧州理事会、閣僚理事会)は直接影響を及ぼしている。特に半年交替で輪番制の「閣僚理事会議長」は議題設定権を持ち、コミッションなどへの牽制になる。2011年前半ハンガリーが議長国となり、コミッションのハンガリーへの「法の支配/民主主義」の追求を鈍らせた。ポピュリズム政党が政権で重要な地位に就くようになると、EUの活動はマヒするだろう。
・加盟国の政権与党が排外主義的な主張/政策に変節するケースもある(国内ルート)。2017年3月オランダ総選挙前、中道右派「自由民主国民党」のルッテ首相は、移民に厳しい姿勢を取る事を表明した。また2017年9月ドイツ連邦議会選挙でメルケル首相は大幅に議席を減らし、難民受け入れの上限を年間20万人に設定した。また2017年10月オーストリア議会選挙で中道右派「国民党」は第一党を維持するが、第三党となった極右政党「自由党」と連立し、「自由党」は副首相などの主要ポストを得た。
・EUへの移民・難民が止まない限り、このインセンティブは続く。EUは周辺国の安定や国境管理政策を強化する必要がある。またEUは基本的人権を価値としているため、流入した移民・難民を人道的に保護する必要がある。この移民・難民問題でEUの「アウトプット型正当性」は揺らいでいる。
※移民・難民問題だけが課題なら、欧州ポピュリズムは一時的な問題だが。
○欧州議会内の党派政治と欧州ポピュリズム
・EUは「人権/民主主義/法の支配」を価値にしているが、ハンガリー/ポーランドでは権威主義的な「反リベラル・ポピュリズム」政権が誕生している。EUには「権利停止手続」「法の支配枠組み」の手段があるが、「権利停止手続」は実行された事がなく、「法の支配枠組み」は強制力に欠ける。
-ハンガリー
・2010年ハンガリー総選挙で「フィデス」党首オルバンは大勝し、「キリスト教民主人民党」と連立し、首相に就く。彼は独立機関を弱体化させた。
・まず「憲法裁判所」を弱体化させた。第一に裁判官を議会の議席数に応じ任命できるように改正した。第二に裁判官を11人から15人に増員した。どちらも与党に有利な改正である。第三に20年以上に及ぶ「憲法裁判所判例法」(?)を廃止し、憲法改正を審査する権限も廃止した。さらに司法部を統制する権限を、政治任命される「国家司法庁長官」に集中させた。
・また「2011年憲法」で、データ保護監督官/中央銀行などの独立機関に、政治的コントロールが及ぼせるようにした。またジャーナリストがバランス/正確性/客観性に欠ける報道をした場合、罰則を科せられるようにした。さらに選挙法を与党有利に改正した。
・コミッションはこれらに対し指摘を行い、「国家司法庁長官」の一部の権限は削除され、中央銀行の独立性は確保された。データ保護監督官への対応は不十分とし、EU司法裁判所に提訴し、EUの「個人データ保護法」に違反との判決が下る。裁判官の定年退職年齢を引下げに関しても、EU司法裁判所に提訴し勝訴するが、裁判官の復職は一部に留まった。
・EU諸国はハンガリーに対し「法の支配枠組み」を発動しなかった。欧州議会の党派政治を見ると説明が付く。オルバン首相のポピュリズム政党「フィデス」は欧州議会で第一党の中道右派「欧州人民党」(EPP)に属し、「フィデス」の11議席は貴重である。
・オルバン首相の死刑支持/移民反対に対し、欧州議会はコミッションの「法の支配枠組み」の開始を決議するが、コミッションは開始しなかった。これはコミッションの委員長を含め、過半数がEPP出身者のためである。
・オルバン首相は政権を批判する投資家ジュージ・ソロス/NGOの活動を妨害する法案を成立させている。コミッションはこれらの法律をEU司法裁判所に提訴したが、「権利停止手続」には至っていない。
・ハンガリーは多額の財政移転を受けているが、オルバン首相はEUの難民危機への対応を非難し、難民割当制を拒否している。
-ポーランド
・2015年10月ウルトラ保守/権威主義のポピュリズム政党「法と正義」(PiS)が総選挙で過半数を得る。PiSは党首ヤロスワフ・カチンスキが実権を握っている。PiS政権はハンガリーと違って憲法改正に必要な議席を確保していないため、憲法違反の反リベラル政策を導入している。
・2015年12月「憲法裁判所」の判決の定足数/多数決や処理順などが与党に有利になる法案を可決した。「憲法裁判所」はこれを違憲としたが、PiS政権は判決を拒否した。2016年7月上記法案を緩和させた法案を可決した。「憲法裁判所」はこれも違憲としたが、PiS政権はこれも無視した。
・PiS政権はメディアに対しても政治的コントロールを及ぼす行為に出る。公共テレビ/ラジオの経営陣の任免権限を財務大臣に付与した。
・これらに対しコミッションは「法の支配枠組み」を発動し、「法の支配意見」「法の支配勧告」を出し、「権利停止手続」をちらつかせた。ハンガリーと対応が異なるのは、①PiS政権は憲法改正できず、憲法違反している、②PiSは欧州議会で欧州懐疑派「欧州保守改革党」(ECR)に属しているためである。
・その後もPiS政権は、裁判官の任免/定年などを司法大臣の影響下に置く法改正を行った。そのためコミッションは「権利停止手続」に入ると警告し、2017年12月その手続きに入り、閣僚理事会に認定を求めている。
・ハンガー/ポーランドのような反リベラル政権は、EUのリベラル・デモクラシーの脅威になっている。この反リベラル政権の誕生にEUは直接的・間接的に絡んでいる。それは①EU加盟条件(コペンハーゲン基準、アキ・コミュノーテル)でリベラル・デモクラシーを定着できなかった、②欧州議会の党派政治はハンガリー政府を支援し、ポーランド政府はそれを模倣しているからである。反リベラルに対抗するためには、財政移転の停止などの措置が必要であろう。
○国民投票と欧州ポピュリズム
・欧州ポピュリズムの影響は、単一争点の国民投票に顕著に表れる。1972~2016年EUに関連する国民投票が59件あった(非加盟国を含む)。このうちEUを支持する結果は41件であった。だが実際はEU残留派が多数を占めている(ドイツ88%、スペイン84%、ポーランド82%、オランダ80%、ハンガリー77%、仏国76%など)。
・EUに関係する国民投票には2種類ある。1つ目はEU離脱を問う国民投票である。英国では「英国独立党」(UKIP)のキャンペーンで、離脱多数となった。しかし英国以外で実施される可能性は低い。
・2つ目はEUの単一政策を争点にする国民投票である。例として、2015年緊縮政策の受け容れを問うギリシャでの国民投票、2016年難民受け容れの是非を問うハンガリーでの国民投票、2016年「EUウクライナ連合協定」(後述)の批准を問うオランダでの国民投票がある。
-英国
・1975年英国でEEC(現EU)加盟存続の是非を問う国民投票が行われた。2016年6月EU離脱を問う国民投票は保守党が公約にしたため行われた。保守党キャメロン首相とEUは離脱阻止のため、域内移民のセーフガードを設けるなどEU改革を行ったが、国民は評価しなかった。※「英国EU改革合意」は後述。
・UKIPは「自党は外部勢力に国を売り渡さない唯一の勢力」と主張し、反EU/反移民/反既成政党を掲げた。UKIPが伸長した理由は、①経済低迷/域内移民はEUが原因で、離脱すればすべてが上手く行くとした。②既成政党/エリートは国を売り渡しているとした。③全ての不安の根本原因をEUに集結させた。しかしこれらの主張は間違いで、経済低迷の原因は中国の台頭にあった。また域内移民への社会給付額は納税額より少なかった。
・2013年前半キャメロン首相は「EUを改革して残留すべし」と主張するが、逆にUKIPはこの頃より支持率を伸ばす。
・2016年6月国民投票で離脱が選択されるが、これは政権にポピュリズム政党が加わらなくても、政治的目標が達成される警告となった。ちなみに2017年6月総選挙でUKIPは議席を失っている。
-ギリシャ
・2008年「リーマン・ショック」は、2010年「欧州債務危機」としてEUに波及した。ギリシャ/アイルランド/ポルトガル/スペイン/キプロスは財政赤字などから、EU/IMFから金融支援を受けた。それには厳しい緊縮策が条件になった。その後ギリシャ以外の国は金融支援プログラムを終える。
・2015年1月総選挙で緊縮策に反対する「急進左派連合」が勝利し、アレクシス・チプラスが首相に就く。5月債権団とギリシャで交渉が始まるが、緊縮策の緩和で難航した。チプラス政権はドイツなどの債権減免を求めたが認められなかった。
・同年7月緊縮策を問う国民投票で国民は”No”を突き付けた。これを受けて交渉に臨んだが、さらに厳しい緊縮策を呑まざるを得なかった。
-ハンガリー
・2015年欧州難民問題が発生する。当初の4万人の受け容れは合意するが、追加の12万人はハンガリーなどの反対でコンセンサスはならず、投票で成立する。※全加盟国が同数?
・2016年2月これに対しハンガリーで難民割当を受諾するか国民投票が実施された。結果は反対が98%に及んだが、投票率が44%に留まり、国民投票としては成立しなかった。このような国民投票はポピュリズム政党の強力な手段になる。
・2015年12月スロヴァキア/ハンガリーはこの難民割当の取り消しをEU司法裁判所に提訴するが、敗訴している。2017年12月逆にコミッションはハンガー/チェコ/ポーランドを、難民割当違反としてEU司法裁判所に提訴している。
-オランダ
・オランダの「諮問的国民投票法」では、公布された法律に対し30万人以上の要請で国民投票が実施され、30%以上の投票率で過半数あれば法律改正が要求される。
・2015年7月「EUウクライナ連合協定」(包括的な協力関係)は施行されていたが、2016年4月同協定に対する国民投票が実施される。国民投票の結果(投票率32%、反対61%)、同協定は停止される。ポピュリズム政党「自由党」の党首は、「EUの終わりの始まり」と吹聴した。
・中道右派連立政権のルッテ首相は国民投票制度の廃止を決定し、2018年2月廃止法案が成立した。※こっちに向かったか。
<リベラルEUの行方>
・ポピュリズムの台頭により、EUの在り方が問われている。2017年コミッションが「欧州将来白書」にシナリオを載せたので、これについて考察する。
○EUの将来シナリオ
・2016年9月EUは欧州債務危機/難民危機/英国のEU離脱に直面し、プラティスラヴァ(スロヴァキア)で「プラティスラヴァ宣言」「ロードマップ」を採択した。宣言では「EUは完全ではないが、過激派/ポピュリズムに対する最善の手段であり、EU市民の期待に応える」とした。
・また「ロードマップ」には短期的優先事項を、①域外国境の完全なコントロール、②域内の治安/テロ対策、③対外安全保障の強化、④市民の経済的改善/生活様式の保全/若者の機会改善とした。
・2017年3月コミッションは「欧州将来白書」を公表する。ここに2025年に向けたEUの5つのシナリオが記された。このシナリオには重複があり、相互に排他的でない。※面白いものを作る。
・シナリオ①「従来からの改革を継続」-現状維持であるが、これでは雇用政策に期待できない。
・シナリオ②「協力を単一市場に留める」-これは多くの権限を加盟国に返還する方法で、「アラカルト欧州」と呼ばれる。ポピュリズム政党/欧州懐疑派が好む方法である。
・シナリオ③「マルチ・スピード欧州」-これは「有志連合」「二速度式欧州」とも呼ばれる。有能な加盟国が超国家的統合を進展させる方法であが、政策決定が複雑化し、透明性/説明責任が課題になる。これは「単一通貨ユーロ」「シェンゲン領域」で導入済みで、防衛/治安/税制/社会政策などの政策分野が想定されている。2017年12月防衛に関する「常設構造化協力」が表明されている。
・シナリオ④「権限の強化/縮小を共に行う」-これはEUを重要課題に集中させる方法である。具体的には、欧州共通テロ対策機関の新設、欧州国境・沿岸警備隊の中央集権化、単一難民保護機関の新設などが挙げられる。権限の縮小では地域開発、公衆衛生、社会政策が挙げられる。
・シナリオ⑤「全ての面で権限を強化する」-これは正当性が問題になる。
・シナリオ①⑤は従来の「モネ方式」の継続であるが、十分な成果を上げられず、市民の支持を失っている。シナリオ③は先行する国家で欧州統合を進める方法である(二速度式欧州)。シナリオ②は希望する国だけが政府間協力する「アラカルト欧州」で、シナリオ④は「準アラカルト欧州」である。親EU派は「二速度式欧州」、ポピュリズム政党は「アラカルト欧州」を支持している。
・2017年コミッションは重点分野「欧州の社会的側面」「グローバル化の活用」「経済通貨同盟の深化」「欧州防衛の将来」「EU財政の将来」毎に「リフレクション・ペーパー」を公表している。
○アラカルト欧州
・2013年英国キャメロン首相はEUが柔軟な連合になるよう、EU基本条約の改正を要求した。2016年2月欧州理事会で「英国EU改革合意」が締結される。これは「アラカルト欧州」の要素を含むもので、英国がEU残留となった場合に効力を発生するものであった。
・「英国EU改革合意」には2つの要素が含まれていた。1つ目は「加盟国は欧州統合を強制されない」で、EU基本条約の前文にある「一層緊密化する連合」は、英国に適用されないとした。
・2つ目は「加盟国はEU法案を拒否できる」である。コミッションが提出した法案に対し、「補完性原則」から「イエローカード」(見直し要求)/「オレンジカード」(欧州議会/閣僚理事会での法案拒否権)が既に存在した。これに「レッドカード」(加盟国の議会で法案が拒否された場合、閣僚理事会で修正する)を追加する合意であった。
・キャメロン首相は「オプトアウト」(※説明なし)ではなく、欧州統合の性格自体を変えようとした。
○二速度式欧州
・「二速度式欧州」は既に単位通貨ユーロ/シェンゲン協定で使われている。さらに一部の加盟国が先行して協力する「高度化協力」がEU基本条約にある。この「高度化協力」は使い勝手が良くなく、家族法/知的財産権で使われているに過ぎない。「二速度式欧州」の導入が問題なのではなく、域内か域外かが問題である。
・ベネルクス3国/仏国/ドイツ/イタリア/スペインは「二速度式欧州」への支持を表明し、「アラカルト欧州」に反対している。これに対し「ヴィシェグラード4」(ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロヴァキア)は「高度化協力」は容認するが、EUの分裂は避けるべしと警告する。
・2017年3月「ローマ条約」60周年を記念して「ローマ宣言」が出された。そこで今後10年間の4つの政策目標「ローマ・アジェンダ」が掲げられた。※半年前の「ロードマップ」のコピーみたい。
①安心・安全-域外国境管理、移民政策、テロ対策
②繁栄と持続可能-成長と雇用、単一市場の発展、経済通貨同盟(EMU)、エネルギー/環境
③社会-格差是正、男女平等、失業、差別、社会的排除、貧困
④グローバル強化-共通安全保障・防衛、多国間制度
・これらの政策目標を実現する手段として、「加盟国が同一方向に向かう一方で、必要に応じ”異なる歩調/強度”で行動する」と宣言された。これは「二速度式欧州」を意味する。
・「二速度式欧州」が想定される分野として、オランド仏国大統領は防衛/経済通貨同盟(EMU)/税制を挙げた。共通外交・安全保障政策では、既に「常設構造化協力」がなされている。
・”西の加盟国”がEU基本条約の改正に拘るのは、EU域外も含めての「財政同盟」を実現したいためである。一方”東の加盟国”はスロヴァキアを除いて「非ユーロ圏」のため、ユーロ圏だけで「財政同盟」が進められ、”東の加盟国”が重要政策(金融、税制、雇用など)/予算配分から除外されるのを警戒している。
・2017年10月欧州理事会の常任議長トゥスクは、最重要問題をユーロ圏改革/移民問題/域内治安/貿易/EU財政/欧州議会の議席とし、これらに対する各国の相違を「決定ノート」として配布した。議論が不調の場合、有志国で「高度化協力」を検討するとし、「二速度式欧州」の活用を匂わせた。
○リベラルEUの課題 ※本節はまとめに近い。
・「人権/民主主義/法の支配」はEUの加盟基準である。しかしハンガリーではポピュリズム政党「法と正義」(PiS)が、憲法裁判所などの独立機関を弱体化させている。これは中東欧諸国との加盟交渉で、「リベラル・デモクラシー」を支える「法の支配」の制度化が表面的に終わった事による。EUには「権利停止手続」「業務不履行訴訟」などの手段があるが、違反を解消できないでいる(前述)。
・これに対しドイツ政府が「法の支配」を遵守しているかに応じ、EU予算を配分する案を掲示した。これにコミッションの一部の委員は賛成を表明している。
・このような兆しは見られるが、ハンガー/ポーランドの総選挙で反リベラルの政党が敗れるのを期待する状況である。逆に反リベラル・ポピュリズム政権が増えれば、EUの政策が反リベラルに傾く事が懸念される。
・EUは「法の支配」を巡って、「リベラル・デモクラシー」を標榜する西欧と、「反リベラル・ポピュリズム」に染まっている東欧が対立している(東西対立)。他方「経済通貨統合」(EMU)で財政規律を重視する”北”(ドイツ、オランダなど)と、財政規律の緩和を求める”南”(フランス、スペイン、イタリアなど)の「南北対立」もある。
・「南北対立」は”お金”の問題なので解決は容易かもしれないが、「東西対立」は”価値”を巡る対立で、EUの根幹に関わる問題である。
・EUの将来は、”統合レベルの高低”と”「アウトプット型正当性」「インプット型正当性」の重視”の2軸/4区画で表現できる(※図あり)。
統合レベル高・「インプット型正当性」重視-「欧州連邦」を形成し、EUの政治化が行われる。
統合レベル高・「アウトプット型正当性」重視-「モネ方式」の継続で、「more Europe」(統合の強化)または「二速度式欧州」(参加国の限定)のどちらかになる。
統合レベル低・「インプット型正当性」重視-「単一市場」のみになり、他の政策分野は希望国が対象となる(アラカルト欧州)。
統合レベル低・「アウトプット型正当性」重視-政策分野を限定・強化する「準アラカルト欧州」になる。
・最後にEUの欧州ポピュリズムに対する解決策を見る。まず「統合領域の限定」が考えられる。これには「地理的限定」「機能的限定」がある。「地理的限定」は参加国を限定する方法で「二速度式欧州」を進める。これにより「アウトプット型正当性」を確保し、ポピュリズム政党を封じ込める。
・大学教授らは「多元主義の重視」「競争・協力・模倣による柔軟な統合」(?)を主張している。これらは「機能的限定」を含意し、「アラカルト欧州」「準アラカルト欧州」の導入を意味する。これにより政治空間をEUレベルから各国レベルに返還する事で、「インプット型正当性」の余地が広がり、ポピュリズム政党の台頭を抑制できる。
・欧州ポピュリズムの台頭/浸透は、EUの構造的要因にある。このパラドックスを克服するため、EU自体が変わらなければならない。
<おわりに>
・本書執筆は、講演『欧州懐疑派の台頭に揺れるEUの2017年展望』が切っ掛けである。しかし先行研究で、答えを見付け出せなかった。
・ヒントになったのがピーター・メア教授の著作『虚空を支配する-西欧民主主義の空洞化』で、「代表制民主主義の制約から回避して政策決定ができる保護領域として、EUは構築された」と云う考え方であった。この卓見に触れ、「EUそのものが、欧州ポピュリズムを生み出した」との理論が成立した。
・EUを扱う書籍に「崩壊」「壊滅」「解体」「消滅」などの表現が用いられるが、せいぜい「危機」「分裂」程度であろう。
・欧州ポピュリズムは、EUの”悪性腫瘍”と云える。これは欧州の隅々まで蔓延しており、完全に排除するのは困難だが、”癌細胞”にならないよう縮小させる必要がある。