『コレクションと資本主義』水野和夫/山本豊津(2017年)を読書。
資本主義を利子率/蒐集(コレクション)/芸術などから解説しています。
第1章が抽象的でウンザリしたが、中盤は資本主義の歴史的な解説で面白くなった。しかし終盤は芸術の話が多くなった。
経済・社会と芸術が密接に関係している事を知った。また芸術の変遷を何となく理解できたのは嬉しい。
多少哲学的で苦手だが、節が適量に区切られているので読み易い。
水野氏は経済学者、山本氏は「東京画廊」の社長です。
お勧め度:☆☆
キーワード:芸術、資本主義の終焉/低金利、長い16世紀、ミュージアム/蒐集、陸の時代/閉じた帝国、芸術、古典、<コレクションの本質>有用性、コンテクスト(文脈)/物語、蒐集、フロンティア、茶の湯、<利子、自我、絵画の「作者」の誕生>ミュージアム/暴力性、利子、自我/作品、ビザンチン様式/ロマネスク様式、価値、ゴシック様式、ラテラノ公会議、<「長い16世紀」とパトロン=コレクター>スコラ哲学、ルネサンス(人間復興)、油彩画、メディチ家、利子率革命、ビザンチン帝国の滅亡/大航海時代、海賊資本主義、出版資本主義、空間革命、ローマ略奪事件/30年戦争、オランダ東インド会社、チューリップ・バブル、ルーベンス、<近代資本主義>近代自我、ウェスト・ファリア条約/国民国家、大英博物館/ルーヴル美術館、キューガーデン、ナポレオン、産業革命/動力革命、ロシア構成主義、第1次世界大戦、ドイツ表現主義/ダダイスム/シュールレアリスム、実在主義、<戦後と「長い21世紀」>第2次世界大戦、ポップ・アート、具体/もの派、画商、コンテクスト、大原孫三郎/松方幸次郎、ニクソン・ショック、バブル、欧州回帰、周縁、量的緩和、終焉、<最先端の芸術が予言する「新中世時代」>閉じた帝国、より近く/よりゆっくり/より寛容に、ピカソ/近代絵画の終焉、<芸術、蒐集、資本主義のしたたかさ>マニエリスム、フェイク、商品化、評価
<資本の本質が芸術に現れる>-水野和夫
○山本豊津さんの著作に衝撃
・山本豊津(以下山本氏)『アートは資本主義の行方を予言する』で、芸術と経済の共通点/関係性が解説されています。オークションで最高額をつけた作品は『いつ結婚するの?』(ポール・ゴーギャン)『インターチェンジ』(ウィレム・デ・クーニング)の3億ドルです。彼はこれを「有用性がないから」と説明しています。これは人間が価値を生み出すアルゴリズムです。
※最近話題になったバンクシーの裁断されかけた絵画は1.5億円で、まだまだだな。
・水野和夫(以下水野氏)はゼロ金利/マイナス金利になり、資本主義は終焉したと主張しています。中世以降の歴史を見ると、何度か金利の低下が起こりますが、大航海/植民地支配などのフロンティアを見い出し、資本主義の命脈を保ってきました。しかし今の低金利はリーマン・ショックなど、フロンティアを見つけ出せないでいます。
○「長い16世紀」と「長い21世紀」
・イタリア・ジェノバの国債金利は1555年9%でしたが、1619年1.125%に下がります。16世紀後半投資がイタリア全土に及び、17世紀資本が行き場を失ったのです。しかしこれにより「地中海資本主義」は終焉し、大航海時代になり、政治/経済/思想のパラダイム転換が起き、「近代資本主義」が生まれたのです。※金利はその国の発展を表す指数みたい。
・歴史学者フェルナン・ブローデルは、1450~1650年を「長い16世紀」とし、その後半100年を「利子率革命」としました。水野氏は今をその類似性から「長い21世紀」と考えます。
・「長い16世紀」は、外に向けては「海賊資本主義」、内においては「出版資本主義」の時代です。英国は海賊でスペインに勝利します。印刷業者を味方につけたプロテスタントは、キリスト教を中心とした封建主義システムを崩壊させます。
・21世紀はグローバリゼーションにより世界経済が一体化しますが、その弊害により地域分割、すなわち複数の「閉じた帝国」の時代に向かっていると思われます。
○ミュージアムと蒐集
・水野氏が芸術に興味を抱いたきっかけは松宮秀治『ミュージアムの思想』を読んだのが切っ掛けです。当書は「ミュージアム」には西欧の思想/哲学/歴史が込められているとし、単に集める「収集」ではなく、自分達の価値で分類/選別して蒐める「蒐集」を用いています。
・西洋は旧約聖書の「ノアの方舟」に始まり、古代ローマ、植民地支配の大英博物館(英国)/ルーヴル美術館(仏国)などで膨大の美術品/文化財/歴史的遺物を蒐めました。彼らは蒐めた物を公開し、ヒエラルキーの上位にいる事を誇示しました。
○12~13世紀に資本主義の原型が作られた
・さらにジョン・エルスナー/ロジャー・カーディナル『蒐集』を読み、西洋の歴史や「蒐集」(コレクティング)と資本主義の関係が深く理解できるようになりました。エルスナーは社会秩序自体が蒐集と言っています。確かに封建時代、教会は霊魂を蒐集し、権力者は土地などの資本を蒐集しました。※世の中バラバラだったら成り立たない。
・マックス・ヴェーバーは、「資本主義を発展させたのはカルヴァン主義の”禁欲的で堅実な生活習慣”」としましたが、エルスナーは資本主義の根本原理を「蒐集」とします。
・12~13世紀のイタリアで資本主義の原型が作られました。東方との胡椒貿易により、富が商人に集まり、その富をめぐって宗教戦争が起こります(※この頃に宗教戦争があったかな?)。この地中海貿易が資本主義の原型である「地中海資本主義」です。
○英国のEU離脱とトランプ政権誕生の意味
・一方カール・シュミットは、15世紀から始まった西欧による植民地支配の最強国スペインが収奪した富を、英国が海賊を奨励して収奪した「海賊資本主義」を「近代資本主義」の始まりとしています。さらにシュミットは、「17~18世紀の陸の帝国スペイン(?)と海の帝国英国との覇権争いが、今の陸の国家(EU、ロシア、中国)と海の国家(米国、英国)の覇権争いとして続いている」とします。
・英国のEU離脱/トランプ政権誕生は陸の時代の再来を意味します。それは「閉じた帝国」の時代でもあります。ゼロ金利が示すように資本の調達が容易になり、A地域(帝国)とB地域(帝国)が相互依存を極力避ける時代になったのです。※グローバル化の行き過ぎによる反動と思うが。
・長くなりましたが、「蒐集」と云う概念で歴史/経済を見直すと、世界が見えてきます。その「蒐集」を最も表しているのが芸術です。芸術を見ずして、資本主義の行方を語れません。
○「近代の終わり」を意識した演劇『果てこん』
・ゼロ金利から「資本主義の終焉」「近代の終わり」を論じてきましたが、「近代の終わり」を強烈に意識したのは、演劇『世界の果てからこんにちわ』(鈴木忠志、以下『果てこん』)を観てからです。『果てこん』は戦前と戦後での、日本の精神の断絶を描いています。資本主義とコマーシャリズムに踊らされ、一人ひとりの存在は希薄で浮遊なものになったと強く感じました。その中で特に印象に残っているのが、「日本がお亡くなりになりました」の言葉です。
・「コレクション」(蒐集)は「救済」する事です。経済学では「救済」と「投資」は事後で等しくなります。「投資」の累計が資本であり、「コレクション」は資本主義そのものなのです。※コレクション=救済=投資=資本主義?
・水野氏は経済学だけでなく、演劇/哲学/文学においても「終焉」を強く意識するようになりました。
・経済成長とは付加価値(売上と仕入れの差=GDP/国内総生産)の成長を云います。この付加価値を無理やり増やそうとするから矛盾が噴出するのです。※売上-仕入れ=GDP?
○主流派経済学はゼロ金利を説明できない
・既存の経済学は、現実がおかしいとしてゼロ金利を説明できません。覆いを取り除き真理を見い出す事(発見)が科学で、旧来は科学は専門的/分化的なものではなく、総合知でした。ところが近代になり”科”(数学、生物学、医学など)に分かれ、日本語で科学となったのです。分化により学問は発達しましたが、「木を見て森を見ず」となりました。
○「歴史の危機」に頼れるのは「古典」
・経済学の理論/潮流を作った人は、経済学だけの人ではありません。アダム・スミスは神学/倫理学/法学/宇宙論を学んでいます。マルクスの出発点は法律学です。ケインズはニュートンを研究し、数学も学んでいます。
・今「リベラルアーツ」が注目されますが、これは古代ギリシャ/古代ローマの自由七科(文法、修辞、論理、算術、幾何、天文、音楽)を指します。
・今は秩序が崩壊しつつある「歴史の危機」(※歴史的な危機?)ですが、頼れるのは「古典」です。ラテン語の「古典」(classicus)は”艦隊”を意味し、「危機において力を与えてくれる書物」を意味します。この書物には絵画/音楽/演劇などの芸術も含まれます。
・「長い16世紀」でイタリア・ルネサンスの人は古代ギリシャを参照し、「歴史の危機」を乗り越えました(※凄い雑。いきなり結論が書かれている。もう少し説明が欲しい)。2013年日銀は「2年で物価上昇率を2%にする」と断言しました。彼らは最も優れた金融の専門家です。経済産業省の「成長戦略」を作成している人も、マクロ経済学の専門家です。
○資本の本質を学びたい
・昨今、人の行動が数学的合理性に基づかない事が分かってきました。宝くじやギャンブルは合理的でありません。仕事の報酬を上げると、逆にモチベーションが下がってしまいます。これは古典派経済学/新古典派経済学の前提「人間は合理的に判断し、行動する」に反します。
※売れる商品に、合理性か疑われるものもある。※全体的にはどうなんだろう。水野氏はレアケースを挙げて全体とする傾向が強い。理論が乱暴過ぎる。
・そのため最近では心理学的視点を取り込んだ行動経済学が注目されています。純粋経済学以外の理論/視点が必要になっているのです。※誰かが経済学は実際に起きた現象から作られると言っていた。
・水野氏は『果てこん』を何度も観て、資本主義の本質が「蒐集」にあると気付き、理論/モデルを構築する事ができました。
・山本氏との対談で、資本主義の本質が明らかになるのを期待します。名画に3億ドルの値が付くように「有用性がないものは価値が上がる」はどう云う意味か。この現象は「長い16世紀」での「チューリップ・バブル」と同じように「歴史の危機」なのか。この現象は水野氏の自論「資本主義の終焉」「閉じていく世界」と結び付くのか。
・水野氏は「閉じていく世界」「新中世主義の世界」では(※新中世主義?説明が全くない)、「世界は、より近く、よりゆっくり、より寛容に移行する」と考えています。そこでは成長を前提とした経済原則ではなく、個人の表現/主体性を重んじた芸術の価値観が重要になると考えています。
※やっと1章。先が思いやられる。
<コレクションの本質を歴史から考える>-両著者の対談
○芸術は資本主義を解くための鍵?
・今の「利子率革命」は「資本主義の終焉」なのか「新たな資本主義の始まり」なのか誰も分からない。ゼロ金利は資本の「蒐集」ができなくなり、資本が終焉した事を意味します。※会社にはまだ人が集まっているが。
・「長い16世紀」がそうであったように、変革は一朝一夕では成されません。今の「工業資本主義」に代わる次の体制は、まだ見えてきません。※「資本主義の終焉」ではなく「資本主義の変容」なのでは。
・水野氏は山本氏『アートは資本主義の行方を予言する』を読み、芸術と資本主義のパラレルな関係に驚きました。有用性がない芸術作品に高額な値段が付く。そこに資本主義の価値創造とは異なる、先鋭的な形が見えます。
○印象派と産業革命の共通点
・水野氏は演劇『果てこん』を観て「西洋史の終焉」(※今度は西洋史?コロコロ変わる?)を強く意識した。経済とは関係ない哲学/文学/美術/芸能などに経済の本質が潜んでいると感じた。逆に山本氏は美術大学の講義で「芸術が価値を持つ仕組み、すなわち経済を知る必要がある」と学生に教えている。
・「歴史の危機」で必要なのは横断的な知識であり、最もやってはいけない事は「専門化」です。
・「印象派」は色の分解を試みました。これは18世紀の分析的/客観的な産業革命/科学革命に通底しています。また抽象絵画の原点である「ロシア構成主義」はロシア革命(1917年)の影響です。この様に芸術と経済/政治は深い関連にあります。
○1万円札が1万円の価値になる理由
・ゴーギャン/デ・クーニングの作品が3億ドルの値段を付けています。貨幣/紙幣もそれ自体は有用性はありませんが、1万円札は1万円の価値があります。経済学では「価格は需給のバランスで決まる」とされますが、有用性だけで資本主義や人間の欲望の本質を語れません。
○コンテクストに説得力があるか
・作品の価格が上がるのに「期待」があります。この「期待」には、それなりの理由が必要です。例えば「作成者がどんな人物か」「作品がどんな位置付けにあるのか」などで、要するに「コンテクスト」(文脈)や「物語」が必要なのです。
○今も続いている大英博物館の蒐集
・本書の1つのテーマは経済と芸術の関係で、もう1つのテーマが「蒐集」(コレクション)です。
・大英博物館は800万点の美術品/工芸品/書籍などを収蔵し、内15万点を展示しています。今も寄贈などで増えています。日本は韓国に「儀軌類図書」を返還しましたが、仏国は「貸与」と云う方法(所有権は仏国)で返還しています。※彼らは奪ったものを簡単には返さない。がめついな。
○ノアの方舟に始まる
・「蒐集」とは単に集める静態的なものでなく、動態的なものです。それにゴールはなく、過剰/飽満/過多と云えます。西欧では「蒐集」が大航海時代/植民地時代に国家的に行われました。その始まりが「ノアの方舟」です。
○収蔵品を公開する欧州、非公開の日本
・日本での「蒐集」に東大寺の正倉院があります。これは光明皇后が亡き夫・聖武天皇の品を保管したのが始まりです。しかし西洋と違って「秘匿」にされました。
・足利時代の東山文化の「東山御物」に対し、勘定法/鑑賞法などを記した『君台観左右帳記』が作られます。これは画期的なものです。※知らなかった。
・安土桃山時代、織田信長/豊臣秀吉により茶器の価値が上がります。秀吉は「大茶会」を開いて、茶道具や金色の茶室を公開します。これは西洋のミュージアムと同じ発想です。※持つ人は、見せようとする。何なんだろう。自慢したいのかな。
○資本も絵画もフロンティアがない
・今の資本主義はフロンティア(投資先)がなくなったとされます。絵画も欧州から米国に移り、さらに中国に移ったのですが、また欧州に戻ろうとしています。毎年6月スイスで開かれる「アート・バーゼル」には300のギャラリーが出展し、7万人が訪れます。これは世界経済の中心と芸術の中心が等しい事を示していますが、中国の次のフロンティアが見えてきません。
・1971年ニクソン大統領が金本位制を廃止し、1974年先進国の長期金利がピークアウトした時点で資本主義は終わったのです。
○日本は資本主義の未来を表している
・資本主義もただでは転ばず、新自由主義/インターネットにより延命を図りましたが、2008年リーマン・ショックで頓挫します。
・世界の個人金融資産は168兆ドルで、これは世界の名目GDPの2倍を超えます。世界の企業もキャッシュ(現預金、有価証券、貸付金など)を積み上げ、総額12兆ドルに達しています。膨大な金余り現象で、超低金利になっています。
・経済学では利子率が2%を切ると社会・経済システムを維持するのは困難と云われています。日本は1997年国債金利が2%を切り、20年も低金利が続いています。
・16~17世紀イタリア・ジェノバで「利子率革命」が起き、中世社会が近代社会に変わりました。今はそれ以来のパラダイムシフトの時代なのです。
・日本は社会インフラ(新幹線、高速道路、上下水道、発送電システム)が整備され、自動販売機/コンビニが乱立しています。成熟/飽和した社会ですが、投資先/フロンティアを見い出せていません。資本主義が変質し、違った社会・経済システムに移行するのか、それとも新しいフロンティアを見い出し、拡大再生産サイクルを回し続けるのか、日本が絶好のモデルになっています。
○大名達の経済力を茶器に向かわせた
・ゴーギャン/デ・クーニングの作品のように、フロンティアが芸術に向かう可能性もあります。現に戦国時代、豊臣秀吉/千利休は茶器に向かわせたのです。秀吉は論功行賞で統治を維持していましたが、全国を統一するとそのための土地がなくなります。そこで向かわせたのが「茶の湯」の世界です。価値を経済・軍事から文化にシフトさせたのです。
・次章からは「利子率」「蒐集」「終焉」をキーワードに歴史を遡ります。清水幾太郎は「過去を見る眼が新しくならない限り、現代の新しさは掴めない」と言っています。
<利子、自我、絵画の「作者」の誕生>-両著者の対談
○ミュージアムの本質
・「蒐集」は暴力性を秘めた概念です。ミュージアムを「美術館」「博物館」と訳していますが、それでは本質が見えません。「蒐集」には植民地などから美術品/文化財などを収奪した直接的な暴力性もありますが、「蒐集」したものをミュージアムで開示し、自らの優位性を示し、自分達の価値観を押し広げる暴力性もあります。松宮秀治は後者こそ暴力性の本質的と言っています。
・また「蒐集」は帝国主義/植民地主義の「結果」とされますが、それは「ノアの方舟」以来ずっとあった西洋思想の「原因」です。
○社会・国家体制自体が蒐集
・ジョン・エルスナーは「社会秩序自体が蒐集」と言っています。さらに彼は「帝国は民族のコレクション」「国は地方/部族のコレクション」「キリスト教は魂のコレクション」「資本主義は資本のコレクション」と言っています。※訳の分からぬ理論になってきた。
・マルクスは『資本論』で、下部構造(経済)が上部構造(政治、社会、宗教)を決定するとしましたが、その下部構造のさらに下に「蒐集」という根本原理があると考えられます。
・水野氏は近年の大事件を「過剰な蒐集の限界」としています。「米国同時多発テロ事件」は米国が富/利権を過剰に蒐集したため、テロリズムが起きた。「リーマン・ショック」はレバレッジや金融派生商品で過剰に資本を蒐集したため、バブルが弾けた。「福島第1原発事故」は原子力エネルギーを過剰に蒐集したため、想定外の地震/津波でそれが破綻した。※これらは蒐集自体が問題なのではなく、過剰が問題なのでは。蒐集の拡大解釈。
○利子の誕生
・シドニー・ホーマー/リチャード・シラ『金利の歴史』は古代メソポタミアからの人類の金利を調べた画期的な本です。これには紀元前3千年前のシュメール王国から金利は存在したとあります。バビロニア王朝は貨幣経済は発達していなかったが、貴重品/財産を保管したり、穀物/家畜を貸し付けていました。物々交換の時代から利子は存在したのです。メソポタミアでは紀元前18世紀頃、貨幣経済になり、貨幣に対する利子も生まれました。
○4世紀~中世初期までの停滞
・貨幣経済は国家のような権力が信用を保証する事で成立します。4世紀、ローマ帝国コンスタンティヌス帝が制定したソリドゥス金貨が流通しますが、395年ローマ帝国が東西に分裂し、政治的に混乱すると、貨幣経済は影を潜めます。
・フランク王朝カール大帝がデナリウス銀貨を鋳造しますが、フランク王朝の分裂で廃れます。歴史学者ヤーコブ・ブルクハルトは、476年西ローマ帝国崩壊から800年カール大帝戴冠までを最大の「歴史の危機」とします。
・11世紀頃までは「ビザンチン美術」が隆盛した時代で、モザイク壁画やイコン(聖像)が主流でした。これらは壮麗ですが動きに乏しく、人間味に欠けます。それはキリスト教による教化/支配が進み、芸術においても自由が失われた事を示しています。
○自我の芽生え
・そうした中で変化が生じます。10世紀頃から「三圃制」により農業生産が増大します。これにより農民は余った農作物を貨幣に替え、他の商品を入手するようになったのです。貨幣経済が復活し、政治的にも安定し、「東方貿易」が盛んになります。十字軍の遠征はそれを加速させ、イタリアの諸都市が発展し、各国の貨幣を交換する両替商(バンコ)が生まれ、両替商は貸付も行うようになります。
・この自由な経済活動から「自我意識」が芽生え、利子が生まれたのです。これは絵画にも当て嵌まり。宗教に属していた絵画は、「作品」として独立します。
・12世紀はビザンチン帝国の「ビザンチン様式」と神聖ローマ帝国の「ロマネスク様式」が主流です。「ビザンチン様式」はモザイク画、「ロマネスク様式」はフレスコ画が中心で、どちらも宗教と密着しています。サン・ヴィターレ聖堂は代表的な建築物です。その後作者が表に出て、絵画は「作品」として独立します。
○宗教は利子を禁じた
・アリストテレスは「貨幣が貨幣を生むのは自然に反している」と利子を批判します。旧約聖書には「貧しいものに金を貸すなら、利息は取るな」「同朋から利息を取ってはならない」とあり、ユダヤ教/イスラム教は利子を禁じています。
・教会からすれば「時間」は神のもので、人間が「時間」に値段(利子)を付けるのを許されなかったのです。それでも利子が生まれたのは、貨幣経済/商業活動が発展したからです。また商人は利子とはせず、手数料として徴利しました。
・また教会が利子を禁じた理由に、富により商人/資本家が権力を増大させる事への警戒もありました。そのため法人は認められず、商人は1代限りで、死後は財産を教会に没収されました。※メディチ家とかはもう少し後なので許されたのかな。
○「貨幣不妊説」から「貨幣種子説」へ
・1215年「第4回ラテラノ公会議」で利子が認められます。丁度この頃ピエール・ド・ジャン・オリーヴィが『契約論』を著します。当時はアリストテレスの「貨幣は石である」(貨幣不妊説)が一般的でしたが、彼は「貨幣は種子である」と説きます。これは「貨幣は自然に成長する」とする説で、教会はこれに便乗し、利子を認めました。
・また彼は「価格投機」(需給により価格が変動する)についても言及しています。彼は資本/金融の発達が過剰な蒐集へ向かう危険性を認識していたのです。教会は『契約論』を1970年代まで秘匿にします。そのため公開されると「マルクスより600年も前に資本の本質が説かれていた」と驚愕されます。
○ゴシック様式に見る飽満/過剰
・商業の発達で商人は、銀/金/胡椒などの資本の蒐集を始めます。蒐集によって価値は生まれます。バラバラな情報を書籍にする、木材/石/金属などを集め加工するなどの蒐集で価値が生まれます。人/資源/情報/スキルを蒐集して価値を生み、それでお金を蒐集するのが資本主義です。投資/投機により拡大再生産され、資本は自己増殖するのです。これにより銀行/株式市場などの直接・間接金融が生まれました。
・芸術の世界も同様で、コレクション(蒐集)により価格が上がります。「作品」への投機も始まります。
・13世紀、建築は古典的/宗教的な「ロマネスク様式」から、華美/壮麗な「ゴシック様式」に変わります。シャルトル大聖堂/ランス大聖堂/アミアン大聖堂などが、それを代表しています。
○13世紀、絵画の作者が表に出る
・13世紀、絵画の作者が表に出始めます。画家ピエトロ・カヴァリーニ/チマブーエ/ジェットなどです。彼らにより平面的で静的だった絵画は、立体的で表情のある動的な絵画に変わります。これは商業の活発化により、文化の担い手が聖職者/修道士から、商人/封建領主に広がった事に関係しています。
・1215年「第4回ラテラノ公会議」で利子が認められますが、同時に懺悔の仕方も変わっています。以前は公衆の前で告白していたが、神父と一対一で行う仕方が認められます。蒐集により利子が生まれると同時に、自我が芽生え、絵画も自立し作品となったのです。
・次章では蒐集が行き詰まり、金利が1.1%まで下がった「利子率革命」「長い16世紀」を解説します。
<「長い16世紀」とパトロン=コレクター>-両著者の対談
○再発見された古代ギリシャ
・近年、ルネサンスの萌芽は12世紀で、その原点はスコラ哲学とされています。スコラ哲学はトマス・アクィナスが大成しますが、これはアリストテレスの客観性/論理性を踏襲しています。
・ただし欧州は長い混乱で、ギリシャ哲学の文献を失っていました。ギリシャ哲学を受け継いだのがイスラム圏で、その代表がイブン・スィーナーです。彼の著作『治癒の書』はギリシャ哲学を詳細に解説しています。欧州はギリシャ古典文化をイスラム圏から逆輸入しました。
○絵画は「神の世界」から「人間の世界」に
・「地中海資本主義」はイスラム文化を取り入れ発展します。それに伴い芸術では「ルネサンス」(人間復興)が起きます。「ゴシック芸術」の後期、チマブーエ/ジェットなどの名前が表に出てきますが、14~15世紀に、それが顕著になります。彫刻は写実的/肉感的になり、絵画は遠近法で空間を表現するようになります。その後ダ・ヴィンチ/ミケランジェロ/ラファエロなどの巨匠が出現します。
・「ルネサンス」はイタリアの商業都市の隆盛によりますが、その前にネーデルランのファン・エイク兄弟が「油彩画」を生み出します。「油彩画」により持ち運びが可能になり、絵画が商品化されます。これによりダ・ヴィンチ『モナ・リザ』が生まれたのです。
○ルネサンスを支えたパトロン=コレクター
・「ルネサンス」の隆盛を支えたのがメディチ家などの資産家です。メディチ家は、14世紀に銀行家として台頭し、1410年にローマ教皇庁の財務管理者になり、莫大な富を得ます。
・メディチ家はボッティチェリ/ダ・ヴィンチ/ミケランジェロ/ヴァザーリ/ブロンズィーノ/ブルネレスキなどのパトロンになります。そのためメディチ家は単なる資産家ではなく、今でも名声が聞こえるのです。
・「ルネサンス」は蒐集の集大成です。作品の蒐集であり、芸術家の才能の蒐集であり、お金の蒐集です。
○イタリアで起こった「利子率革命」
・メディチ家は最盛期ロレンツォ(1449~92年)の時代、銀行が倒産寸前になります。1611~21年ジェノバの国債金利が1.1%に下がります。それはイタリアで投資先がなくなったためです。利子率(利潤率)が2%を切ると、経済・社会システムは維持が困難になります。歴史学者フェルナン・ブローデルは、この状態を「利子率革命」と称しました。
・日本は1997年に国債金利が2%を切りました。私達は今、「利子率革命」を経験しているのです。
・「利子率革命」により、「中世封建主義社会」は「近代資本主義社会」に、200年(1450~1650年)掛けて移行します。ブローデルはこの期間を「長い16世紀」と称します。
※「利子率革命」が原因で社会変革が起きたの?低金利となったのは、衰退する一地域の一時期の現象では。
○「海賊資本主義」と「出版資本主義」の登場
・中世封建社会は教会の権威で窮屈なため、資本主義を維持・発展するための蒐集ができませんでした。しかし蒐集を促すような様々な変化が起きます。ルネサンスの文芸復興、自然科学の発達、出版技術の発達、大航海による地理的フロンティアの発見などです。
・特にオスマン朝によるビザンチン帝国の滅亡(1453年)は顕著な事件で、欧州は海も陸も、東方で空間を失います。これによりイタリアの地中海交易時代は終わり、スペイン/ポルトガルによる大航海時代が始まります(※交易は続いたみたい)。「長い16世紀」はビザンチン帝国の滅亡により始まります。丈夫で高速の船/羅針盤などの技術が蒐集され、資本が蒐集され、大航海時代が始まります。
○海賊を奨励した英国
・スペイン/ポルトガルが世界から銀/金の蒐集を始めると、英国は海賊を始めます。スペイン/ポルトガルは陸軍が強く、インド/南米から戦利品を持ち帰るようになります。それを英国の海賊が襲うようになったのです。英国は狡猾で、帰国する全ての船ではなく、スペイン/ポルトガルに利を残し、船の半分を襲いました。
・この「海賊資本主義」は1550年頃から始まり、「スペイン継承戦争」の講和条約「ユトレヒト条約」(1713年)まで続きます。この条約で英国の海上覇権が確立します。1588年「アルマダ海戦」でスペインの無敵艦隊は英国に敗れますが、スペインは直ぐに、海上覇権を取り戻しています。
・「海賊資本主義」を時代の象徴とした理由は、「海賊資本主義」が蒐集の頂点に位置していたからです。
○欧州人の知識欲
・欧州人は図書に対する執着が大変強い。大英博物館は中央に図書館が配置され、そこから各フロアが放射状に広がっています。欧州にはポンピドゥー・センターなど、美術館と図書館が併設されるケースが多い。
・欧州人は知識欲が強く、これは蒐集への執着の一端である。中世は教会が知識/情報の蒐集を行っていました。貴族は図書を蒐集し、修道院が聖書/典礼書/聖人伝などを写本していました。大学は12世紀頃にボローニャ大学/パリ大学が生まれています。しかし商人も商売のために、航海の知識/東方の情報などが必要になってきました。
・1440年頃グーテンベルクが金属活字で印刷を始めます。これにより大量印刷が可能になり「出版資本主義」が生まれます。ラテン語の聖書の印刷などで、印刷業は欧州で最大の産業になります。その後ドイツ語の聖書を印刷するようになり、それがルターなどの宗教革命を起こします。
※現代はインターネットにより「Facebook革命」が起きた。これにはまだ先がありそう。
○「空間革命」が生み出したフロンティア
・「海賊資本主義」と「出版資本主義」が同時に起こったのは、「空間革命」のためです。大航海により地理的な世界が広がり、それに伴って知識/情報も広がりました。情報/コンテクストを共有する事で価値が生まれました。フロンティアが生まれた事で、資本主義は次の段階へ進みました。
・絵画において印刷は多大な影響を及ぼしました。原作1点しかなかったものが、印刷により多量に安価になり、絵画の商品化が進みます。この時代、銅版画でエッチングが行われるようになります。また絵画のサイズもさらにコンパクトになります。※絵画のカラー印刷は無理と思うが。
○「空間革命」に適合したプロテスタント
・「海賊資本主義」「出版資本主義」は、共にカトリックと戦うプロテスタントの資本主義です。英国のヘンリー8世は離婚を認められず、「イギリス国教会」を樹立します。その娘エリザベス1世がカトリックのスペインと「アルマダ海戦」で戦ったのです。「出版資本主義」はルターなどのプロテスタントの活動です。したがってカトリックは海では「海賊資本主義」、陸では「出版資本主義」と戦わねばならなかったのです。※そんな仕組か。面白い。
○国王の肖像画が描かれるようになる
・ルネサンスまでは宗教のストーリーが絵画になっていましたが、この時代になると国王の肖像画が増えます。
・宗教の権威が下落した理由に「免罪符」があります。教会の権威と皇帝の権力が逆転した事件が、1527年「ローマ略奪事件」です。神聖ローマ皇帝兼スペイン王カール5世がローマに侵攻し、殺戮/破壊の限りを尽くします。
・その後もカトリックとプロテスタントの宗教戦争は続き、最終的な戦争が「30年戦争」(1618~48年)です。この戦争の構図は単純でなく、仏国ブルボン家とオーストリア・ハプスブルク家の覇権争いでもあった。1648年「ウェスト・ファリア条約」で欧州の新しい秩序が生まれ、「長い16世紀」が終わり、さらに国民国家へと繋がっていきます。
○チューリップバブル
・「30年戦争」は悲惨な戦争で、版画家ジャック・カロの『戦争の惨禍』シリーズが残っています。
・イタリアでは1611年に金利が2%を切り、1619年に1.125%の史上最低になります。絵画の中心はネーデルランド(オランダ、ベルギー)に移り、「バロック美術」が盛んになります。
・資本も同様で、オランダに移ります。当時オランダはスペインとの戦争で経済的に打撃を受けていました。1602年世界最初の株式会社「オランダ東インド会社」が設立されます。その配当は年利20%ありました。オランダ/スペイン/ポルトガルは植民地により、この高い金利を維持できたのです。
・資本が過剰にオランダに移動したため、1934年「チューリップ・バブル」が起きます。当時チューリップはオスマン帝国から輸入され、憧れだったのです。1766年オークションハウス「クリスティーズ」が創業しますが、当時はまだ絵画は投資先としては未整備でした。
○永続性/無限性
・「法人」は個人と違い、永続的に富を蒐集できます。イタリアには有志がお金を出し合う「パートナーシップ」はありましたが、教会は「法人」を認めませんでした。小口の株式を発行する「オランダ東インド会社」は近代の始まりです。
○ルーベンス
・イタリアで飽和状態に陥った資本主義が、新たなフロンティアを見付け、ダイナミズムを取り戻す時代の代表的な芸術家がルーベンスです。彼は外交官でもあり、万能の天才と云えます。彼はネーデルランドで生まれ、1600年32歳の時、イタリアに絵画修業に出ます。ヴェネツィア/ローマ/フィレンツェ/ジェノバで8年間学び、ネーデルランドに戻ります。彼は肖像画/風景画/宗教画を描いていますが、ルネサンスの写実性に激しい動きや強い色彩が加わり、「バロック様式」の特徴を持っています。
※「長い16世紀」における「地中海資本主義」から「海賊資本主義」「出版資本主義」の流れは面白かった。
<近代資本主義>-両著者の対談
○資本家は認められなかった
・「長い16世紀」は、1453年ビザンチン帝国の滅亡から、1648年「ウェスト・ファリア条約」締結までの約200年間です。この間に政治/社会は大きく変化しますが、絵画も「作品」から「商品」に変わります。近代の始まりは、政治的には「ウェスト・ファリア条約」とされますが、経済的には永続性を持った法人の誕生、つまり1602年「オランダ東インド会社」の誕生とされます。貨幣も国家が保証するため、永続性を持ったものになります。
・ただし貪欲な資本主義は宗教的価値から見るとエゴイスティックで、世間は認めませんでした。中世に嫌われていた職業は商人/娼婦/旅館の主人でした。旅館は娼婦や放蕩人が集まる場所でした。
○「我思う、故に我あり」と「近代自我」
・1543年コペルニクスは『天体の回転について』を著します。その後、ガリレオ・ガリレイ/ヨハネス・ケプラーが「地動説」を裏付け、1687年アイザック・ニュートンが『プリンピキア』で万有引力を発見します。これによりアリストテレス的/スコラ神学的な宇宙論は終焉します。歴史学者はこの140年間を「科学革命」としています。
・中世的世界観の崩壊で神の存在がなくなり、人々は不安に陥ります。ルネ・デカルトは「我思う、故に我あり」を掲示します。これは「神の存在がなくても、自我は存在する」との宣言で、「近代自我」の登場です。※哲学は苦手。
○「ウェスト・ファリア条約」で宗教と国家が分離
・経済的/科学的合理性により、宗教と国家は分離します。それが端的に表れたのが「ウェスト・ファリア条約」です。同条約は世界最初の国際条約で欧州の66ヵ国が締結しています。同条約は宗教を信仰とし、政治・経済から分離させます。カトリックとプロテスタントは対等になります。
・国境が定まり、神聖ローマ帝国/フランス王国/スウェーデン王国/イングランド王国/ネーデルランド共和国などの王権が認められます。近代国家、いわゆる国民国家の誕生です。絶対王政/中央集権/軍隊を持った国民国家が誕生します。国家/国民/資本は結び付き、国は重商政策を実施します。
○大英博物館とルーヴル美術館の違い
・キリスト教から解放された国家は富の蒐集に乗り出します。仏国ではそれは宮廷の奢侈に向かい、後に民衆の怒りを買って、「フランス革命」に至ります。
・「ロココ様式」は「バロック様式」の劇的な表現を踏襲し、それに宮廷の華やか/繊細/おしゃれを加味したものです。代表的な画家にヴァトー/ブーシェ/フラゴナールなどがいます。一方でシャルダン/ホガース/ゲインズバラ/レイノルズなどは庶民を描いています。
・「大英博物館」は世界最大の博物館で、800万点を収蔵しています。一方「ルーヴル美術館」は38万点を収蔵し、3万5千点を展示しています。1682年仏国は王宮をルーヴル宮殿からヴェルサイユ宮殿に移します。それ以降ルーヴルは王室コレクションの収蔵・展示場所になり、1793年美術館として正式に開館します。その後ナポレオンが諸国から美術品を収奪しています。「大英博物館」は海を通じての蒐集で、「ルーヴル美術館」は陸を通じての蒐集です。
○スペインの没落
・英国は1600年「英国東インド会社」を設立し、「スペイン継承戦争」(1707~14年)でスペインに勝利し、海上覇権を確実にします。英国はインドで過酷な植民地支配を行い、大西洋では三角貿易を行います。
・スペインの没落に宗教も関係していたと思われます。オランダ/英国は、進取の気性に富み、合理性が高いプロテスタントの国で、スペインは保守的なカトリックの国です。
・これは絵画にも表れています。スペインの代表的な画家はベラスケスですが、彼は宮廷画家で、大きな絵を描いています。一方オランダではルーベンス/フランス・ハルス/レンブラントなどの画家が活躍しますが、彼らの絵は小さく、一般庶民を描いています。
○海洋国家英国の蒐集
・海洋国家英国は蒐集を続け、産業革命を起こします。大英博物館も注目されますが、「キューガーデン」も注目されます。「キューガーデン」は、1759年に宮殿に併設された庭園ですが、今は120ヘクタールの植物園になっています。
・植民地時代、「命の蒐集」がここで行われました。世界各地から種/苗が集められ、ここで品種改良されました。マレーシアのゴム・プランテーションは有名ですが、これは英国がアマゾンから移植したものです。お茶も中国からインド・ダージリン/スリランカに移植されました。パンの木もポリネシアから西インド諸島に移植されました。彼らは種子が財産である事を理解していたのです。
・2010年上海万博が開かれます。英国のパビリオンは無数の触手が伸びていましたが、その先には植物の種が付いていました。山本氏はそれを見て、英国の蒐集への執念を感じました。※画像を見てビックリ。
○プロパガンダを行ったナポレオン
・18世紀後半に仏国はアンシャン・レジーム体制(第1身分:聖職者、第2身分:貴族、第3身分:平民)になりますが、国内にはルソー/ヴォルテールの啓蒙思想が広まり、国外では英国の立憲君主制/米国の独立戦争が起きます。1789年「フランス革命」が起き、ジャコバン派による恐怖政治が始まります。
・1804年ナポレオンが皇帝に就きます。彼はジャック=ルイ・ダヴィッドに「皇帝ナポレオンの聖別式と皇妃ジョセフィーヌの戴冠」(※ナポレオンの戴冠ではないんだ)を描かせます。彼は絵画をプロパガンダとして利用します。彼は美術品の蒐集を続け、「ルーヴル美術館」を「ナポレオン美術館」と改称させます。
・彼は「ロシア遠征」で大敗します。仏国は多くの成人男性が亡くなり、英国/ドイツに抜かれます。「ウィーン会議」により秩序は「ウィーン体制」に変わります。
○セザンヌは蒸気鉄道が好きだった
・欧州大陸が混乱する中、英国は「産業革命」の道をひた走ります。1769年ジェームス・ワットが「蒸気機関」を発明します。人力/風水力に変わり化石燃料による動力を得ます。水野氏は「産業革命」の本質を、この「動力革命」と見ています。「蒸気機関」は鉄道/船舶/工場などで用いられ、資本主義をさらに発達させます。
・「動力革命」は絵画にも影響します。1844年ウィリアム・ターナーは疾走する蒸気鉄道を描きます。1878年ポール・セザンヌは汽車から見るサント・ヴィクトワール山の美しさに感嘆し、その山の連作を始めます。表現の細かい具象性が消え、細部に拘らない「印象派」の絵画になっています。
○農村へのノスタルジー
・「産業革命」により都市化が進み、その反動でミレー/コロー/テオドール・ルソーなどの「バルビゾン派」が生まれます。ミレーの『落穂拾い』『晩鐘』が有名です。
・「産業革命」により大量生産・大量消費の消費社会に向かいますが、この背景に英国/仏国での市民革命があります。市民革命により人権/自由が保証された事で、消費社会が生まれたのです。市民革命がなければ、自動車は貴族の”おもちゃ”で終わったでしょう。民主主義と「産業革命」が一体となり大衆社会が成立したのです。
○ロシア革命とパラレルに生まれた「ロシア構成主義」
・資本主義の発達で、土地/生産手段を持たない「無産階級」が生まれます。マルクスの彼らを主役とする理論から「ロシア革命」が起きます。
・世界で最初の抽象画は「ロシア革命」の頃にロシアで誕生します。写真の登場により具象的な表現が必要なくなり、直線/面/図形を組み合わせた幾何学的な「ロシア構成主義」が生まれます。※抽象画はポスターみたいで、無機質な感じ。
・それは個人を1つの階級として抽象化する社会主義/共産主義と合致しています。社会主義/共産主義は伝統/宗教に縛られない科学的/合理的な社会システムで、抽象化された社会システムと云えます。※社会主義と抽象画が一致?難しい。
・なおパブロ・ピカソの絵画は、2次元の中で3次元の表現を試みた具象画で、抽象画ではありません。
○コレクションを理解していたスターリン
・1922年ソ連が誕生します。社会主義は利子率がゼロの世界で、希少性を否定する世界です。社会主義は、より多くの人が満足するものを提供するのが目的です。希少性より普遍性を重視します。資本主義と社会主義の戦いになりますが、ソ連は軍拡を重んじ、民需を蔑ろにしたため崩壊します。
・ここで面白い話があります。ソ連は崩壊しますが、「ロシア構成主義」の作品が残されていたのです。スターリンはエルミタージュの作品を残していたのです。※ストリートビューでエルミタージュ美術館を見ると凄いな。
・対照的なのが中国の「文化大革命」です。毛沢東/四人組は全ての美術品を破壊します。さらに美術品を鑑定できる知識人までも粛清します。※以前ソ連と中国の対比で驚いた事があったが、何だったかな。
○科学技術がもたらす不安
・科学技術の発達により、人間は何でも解決できると思うようになります。「ロシア構成主義」の前に「イタリア未来派」の存在があります。これは過去の芸術を全て否定する過激なものでした。
・しかし「第1次世界大戦」で化学兵器/細菌兵器などの大量殺戮兵器が使用され、科学技術に対する不安感/不信感が高まります。そんな社会不安の中で生まれたのが「ドイツ表現主義」です。「ドイツ表現主義」では不条理な世界観が表現されています。
○二つの大戦
・「第1次世界大戦」は、それまでに蓄積した資本/技術による総力戦になります。戦争は消耗戦になり大量殺戮兵器が使用されます。その悲惨さは過去の戦争の比ではなく、戦争が終わっても、人々の社会不安は解消されませんでした。
・そんな中で「ドイツ表現主義」が生まれ、さらに「ダダイスム」「シュールレアリスム」が生まれます。「ダダイスム」は、チューリヒに集まった芸術家が既存の社会を徹底的に否定した事に始まります。「シュールレアリスム」は、夢/無意識などの非合理的な世界を描く事で本質に迫ります。どちらの作品も時代の不安感/虚無感を感じさせます。※どちらも奇怪な作品だ。
・「第1次世界大戦」の戦後処理は上手く行かず、ドイツ/日本/イタリアは全体主義/軍備拡大に突き進み、世界各国も自国の利益を守るため、ブロック経済政策を取ります。世界にフロンティアはなくなり、飽和状態になり、衝突するしかなかったのです。
○「身体と運動」に立ち戻った芸術家
・世界は「第1次世界大戦」の教訓を活かせず、「第2次世界大戦」でも大量殺戮/虐殺を繰り返してします。そんな中で価値観を一から見直す「実在主義」が起きます。「実在主義」は、「国家/歴史が生み出すストーリーの前に自己の存在があり、その自身の存在/不安に立ち向かう主体性/自由を獲得せよ」とする考えです。
・サルトルは「実在は本質に先立つ」と言っています。彼は「生命の存在は偶然であり、存在に意味を与えるのは、宗教/国家/社会である」と述べ、「その虚飾を脱ぎ去り、生きる意味を見い出し、他者と関わっていく事」をアンガージュマン(社会参加)とします。
・メルロ=ポンティは身体の運動を重視する「身体性」を提唱します。彼は精神と物質の間に「身体」を置き、その「身体」の重要性を解きます。
※哲学はサッパリ。
・ジャクソン・ポロックは筆に絵の具を浸して、思いのまま絵を描きました。白髪一雄は自身をロープで吊り下げ、絵を描きました。彼はフット・ペインティングを始めます。そこには「自分の身体以外は疑わしい」とのニヒリズムがありました。
<戦後と「長い21世紀」>-両著者の対談
○「海の時代」の勝者
・近代は「より遠く、より速く、より合理的に」を旗印に、蒐集を加速させました。政治・経済から宗教が分離され、国民国家が誕生しました。国民国家は重商主義政策を取り、植民地から蒐集・収奪しました。蒐集するフロンティアがなくなると各国は衝突し、「第1次世界大戦」「第2次世界大戦」を引き起こしました。「第2次世界大戦」は「海の国家」(米国、英国)が「陸の国家」(ドイツ、イタリア)に勝った戦争です。これは1713年英国がスペインに勝った「スペイン継承戦争」と同じ構図で、「海の時代」が継続した事を表しています。ただし覇権は、唯一無償であった米国に移ります。また植民地の独立運動が活発になり、1945~60年で中東/南アジア/東南アジアで多くの国が独立します。
・蒐集システムも変化します。1973年「オイル・ショック」まではセブン・メジャーがタダ同然で化石燃料を入手していました。「オイル・ショック」で産油国に価格決定権を奪われたため、「電子・金融空間」で資本の蒐集を始めます。
・歴史家ジョン・ギャラハー/ロナルド・ロビンソンは「非公式の帝国」を提唱します。これは他国に経済力/軍事力で圧倒的な圧力を掛け、不平等条約などで実質的に支配する概念です。米国は冷戦下/冷戦後、この方法で他国をコントロールします。
○芸術の中心がニューヨークに移る
・1929年「欧州への憧れ」から「ニューヨーク近代美術館」が作られます。最初の展示会は「セザンヌ、ゴーギャン、スーラ、ゴッホ展」で、後期印象派が展示されます。1931年「ホイットニー美術館」が開館しますが、こちらは米国の美術品を展示します。
・1964年「ヴェネツィア・ビエンナーレ」で米国のロバート・ラウシェンバーグが金獅子賞を受賞します。そこで初めて米国の芸術が認められ、ニューヨークが「ポップ・アート」の中心になります。
・「ポップ・アート」は1960年代に米国で発展した芸術です。新聞/雑誌/広告/コミック/写真などを素材とし、大量消費社会を表現した芸術です。そのため商業主義との批判もありました。
○日本の戦後芸術
・1954年吉原治良が「具体美術協会」を設立します。彼は自分の会社の倉庫をアトリエとして開放します。そこに白髪(前述)などの画家が集まり、自由な技法で、自由な表現を試みます(具体美術運動)。
○「もの派」の出現
・1960年代後半「もの派」が出現します。1968年関根伸夫は「野外彫刻展」で円柱形の穴を掘り、その土を円柱形に積み上げた『位相-大地』を出展します。芸術家はこれに衝撃を受けます。これにより様々な物を用いた「もの派」が出現します。
○日本人は投資/資産運用に向いていない
・「具体美術運動」「もの派」の作品をまず買ったのは、国内の美術館と外国人です。日本人は海外で評価されてからでないと買いません。日本人は投資が苦手で、日本の株式市場は外国人投資家が主導し、1990年代の不良債権処理も米国のハゲタカファンドが大儲けしました。西洋人は芸術も「種子」と思っているようで、全てが花にならなくても、一つでも大輪を咲かせればと思っています。
○「印象派」を買ったのは米国/ロシア
・「印象派」が誕生しましたが、フランスでの評価は最悪でした。クロード・モネ/エドゥアール・マネ/カミーユ・ピサロ/オーギュスト・ルノワールなどの前衛的な画家は、伝統的なものから攻撃を受けます。
・これらの作品を買ったのは米国/ロシアの新興ブルジョアジーでした。「ペンシルベニア鉄道」の社長アレクサンダー・カサットは、妹が「印象派」の画家で、「印象派」の絵画をコレクションします。
・近代画商の先駆けがポール・デュラン=リュエルです。1970年「普仏戦争」でロンドンに避難した時、ピサロに出会い、「印象派」のパトロン画商になります。1886年彼は「ニューヨーク・アート協会」に「印象派」の絵画が300点以上を送り、これが米国で最初の印象派展になります。
○「印象派」が成功したコンテクストづくり
・ロシアのコレクターで有名なのがセルゲイ・シチューキン/イヴァン・アレクサンドロヴィッチ・モロゾフです。1897年シチューキンはパリを訪れ、モネ『太陽とリラ』を購入しています。
・この頃絵画のパトロンが、王族貴族/聖職者から一般市民階級(※新興ブルジョアジー?)に変わったのです。また絵画のマーケットも形成されます。プレーヤーとして画家/画商/コレクター/美術館/キュレーター(絵画展を企画)/評論家/ジャーナリズム・コマーシャリズム/オークション会社が出現し、彼らが「コンテクスト」を作ったのです。クリスティーズ/サザビーズなどのオークション会社は「印象派」の絵画を活発に取引し、その情報はマスメディアにより世界中に発信されました。
○日本のコレクター
・日本の戦前のコレクターに倉敷紡績社長の大原孫三郎がいます。1930年彼は日本で最初の美術館を開館します。これは「ニューヨーク近代美術館」開館の翌年です。彼はエル・グレコ『受胎告知』ルノワール『泉による女』ゴーギャン『かぐわしき大地』などを購入しています。
・大原氏と双璧を成すのが、川崎造船所社長の松方幸次郎です。彼はレンブラント/モネ/マネ/ゴーギャン/ゴッホ/セザンヌなどの作品を集めた美術館の設立を計画しますが、川崎造船所の破綻で絵画は散逸します。
○ニクソン・ショックで「貨幣は種子から石」へ戻る
・1971年ドルと金の兌換が停止され、「ブレトン・ウッズ体制」が終焉します。戦後、日本/ドイツは自国通貨安を利用し、輸出を拡大します。一方米国はベトナム戦争や社会保障費の増大で貿易赤字/財政赤字の「双子の赤字」に陥ります。スミソニアン体制がスタートするも、1年半で変動相場制に移行します。1215年「ラテラノ公会議」で「貨幣は石から種子」に変わりましたが、「ニクソン・ショック」により「貨幣は種子から石」に戻ったのです。
・1973年「オイル・ショック」も襲来しますが、日本は合理化/省エネなどで乗り切ります。1985年米国は「プラザ合意」で高くなり過ぎたドルの価値を半減させます。
・ドルと金の交換が停止された事で「不確実性の時代」になり、新自由主義は必然的に生まれ、貨幣は膨張し、バーチャルな金融経済が誕生します。
○日本のバブル
・冷戦は資本主義と社会主義の戦いで、資本主義が勝利しますが、単純に資本主義が優れていたとは言えません。資本主義も社会主義も「非公式の帝国支配」(前述)で生産力の向上に努めました。しかしソ連は軍事に注力し過ぎ、民需が後回しにされ、その不満で崩壊します。中国も社会主義に限界がきて、鄧小平が民主化(?)を進め、市場経済を導入し、経済発展を遂げます。
・1987年2月為替安定で「ルーヴル合意」しますが、10月「ブラックマンデー」で世界の株価が暴落します。日本はいち早く回復し、そのため米国に協調し、低金利を続けます。これにより過剰な資本が株式市場/土地に流れ、バブルが発生します、1989年12月バブルは崩壊し、「失われた20年」の長い不況に入ります。
・日本はバブルを創出し、対米資金還流を積極化し、米国の軍拡を支えました(※理解できず)。冷戦で米国が勝利できたのは、日本などの「周縁国」のマネーのためです。
○美術館の建設
・日本と対照的だったのが西ドイツです。西ドイツは「ルーヴル合意」に従わず、インフレ懸念から金利を高く誘導します。1989年11月「ベルリンの壁」が崩壊し、1年も経ず東ドイツを統合します。さらに1992年「マーストリヒト条約」を締結し、単一通貨ユーロの誕生を決定的にします。ドイツは政策金利への内政干渉を拒絶し、ドイツ統合/通貨統合を遂げたのです。※日本には外交がないからな。
・この頃芸術でも動きがありました。1993年「ヴェネツィア・ビエンナーレ」でドイツのハンス・ハーケが金獅子賞を受賞します。ドイツの現代美術が評価され、芸術の欧州回帰が始まったのです。
・欧州各国で美術館が建設されます。1977年仏国で現代美術館と図書館を併設する「ポンピドゥー・センター」が造られます。2000年英国では「テート・モダン」と云う現代美術館が造られます。ドイツでは各都市に現代美術館が造られます。
・毎年6月にスイスで開かれる「アート・バーゼル」に、世界中のアーティスト/画廊/コレクターが注目します。この「アート・バーゼル」はマイアミ/香港でも開催され、「アート・バーゼル」は「周縁」を広げています。
○量的緩和で米国を延命
・芸術での米国の衰退は見られません。アーティストはニューヨークで個展を開き、ポロック/デ・クーニングの現代美術は最高値を付けました。
・実体経済が限界となった米国は、1980年代資本を海外に展開します。1990年代は金融緩和を行い、様々な金融商品を開発し、ITバブルで経済を再上昇させます。株/FX/証券/為替などのバーチャルな空間を作り、「周縁」からマネーを蒐集するシステムを作ったのです。
・この「周縁」は国外/国内に分けられます。国外は「ショック・ドクトリン」(※これは知っておいた方が良さそう)によって被害を受けた韓国/東南アジア/中東/アフリカなどの第三世界です。国内は信用レベルの低いサブプライム層です。
・2008年「リーマン・ショック」に至りますが、量的緩和で事態を誤魔化しています。実物投資空間の利潤率は国債の利率で代替できますが、日本/ドイツは一時マイナス金利になりました。要するに量的緩和で作られたバーチャルな投資空間で資本が回っているに過ぎません。
○中国の芸術
・「Artprice」が発表した美術品のマーケットシェアは、中国(36%)/米国(27%)/英国(21%)/仏国(5%)/ドイツ(2%)となっています。『フォーブス』の長者番付で資産10億ドル以上は、米国(565人)/中国(319人)となっています。中国は土地の私有が認められないため、お金は芸術に向かい易いのです。
・「Artprice」の作家別の取引高を見ると、ピカソ(1億9633万ドル)/張大千(1億8079万ドル)/呉冠中(1億172万ドル)で、中国の作家が上位を独占しています。※これは驚き。買うだけでなく、作っているのか。
・北京の軍の施設「798廠」があった場所は、「798芸術区」になりました。また中国政府は500以上の美術館を造る予定です。
○ピカソから「終焉」を見る
・しかし中国は生産過剰の問題を根本的に解決できていません。中国は米国債を大量に保有していますが、ソフトランディングしてもらいたいものです。一番の問題は中国の次の「周縁」がない事です。インドもアフリカもマーケットが小さ過ぎます。※私達平民は山程いるけど。
・ピカソも「終焉」を示唆する画家です。彼はキュビスムなどあらゆる表現を試みました。やりつくした意味で、彼は「近代の終焉」を飾る画家です。しかし彼の絵画は今でも売れ続けています。同様に「近代の終焉」がきても、経済活動は続くのです。※無理やりこじつけ、しかも意味がよく分からない。
<最先端の芸術が予言する「新中世時代」>-両著者の対談
○トランプが大統領になった必然
・12世紀以降、金利/利潤率は「資本の蒐集」の効率性を表す指標です。グローバリゼーション/金融資本主義をもってしても蒐集の限界を迎え、米国は世界の警察を続けるメリットがなくなり、トランプ大統領が出現したのです。この「長い21世紀」で「閉じた帝国」が並立する事が予想されます。
○閉じた帝国
・中世以前はローマ帝国/オスマン帝国/ロシア帝国/ムガール帝国/清帝国など、時代/地域ごとに帝国が存在し、その領域内でゼロ成長を実現していました。近代資本主義が生まれ、拡大主義/成長主義となったのは、16世紀以降の数百年しかないのです。※中世はゼロ成長?
・1977年国際政治学者ヘドリー・ブルは、中世のシステムが近代主権国家システムに代わると説いています。
・「閉じた帝国」と戦前の「ブロック経済」は違います。「ブロック経済」は拡大再生産が前提なので生産過剰になり、衝突したのです。しかし「閉じた帝国」はゼロ成長で、「閉じた帝国」同士の依存関係は発生しません。※資源とか偏在しているのに依存なし?
・中世は宗教が人間の欲望のリミッターでしたが、近代になるとそのリミッターが外されました。人間の自由/自我が確立され、世界は成長神話に覆いつくされてしまったのです。※この欲望を放棄させるのは難しいと思うけど。
○より近く、よりゆっくり、より寛容に
・日本/ドイツはゼロ金利(ゼロ成長)で、「新中世」のモデルとなる国ですが、問題はミクロ経済です。企業/経営者は「成長」をモチベーションにしており、「成長しない」を選択するのは不可能です。現状維持/撤退/縮小は、競合他社を有利にするだけです。
・近代資本主義は「より遠く、より早く、より合理的に」が理念でしたが、ポスト近代は「より近く、よりゆっくり、より寛容に」に変える必要があります。「より近く」では、グローバル化をローカル化する必要があります。「よりゆっくり」では、短期の業績ではなく中長期の業績を重視する経営に変える必要があります(※結局業績だよ)。「より寛容に」では、16世紀の司祭デジデリウス・エラスムスが参考になります。彼はカトリックとプロテスタントの関係を、「寛容」で修復しようと試みました。※寛容が何か説明されていない。
○ベケットが感じた「出口のない時代」
・資本主義と芸術はパラレルに変化し、「資本主義の終焉」は芸術にも表れています。ピカソは近代絵画を集大成し、自らマーケティングも行い、生きている間にお金を稼いだ芸術家です。彼は1973年に亡くなり、これは「近代絵画の終焉」です。
・この「近代絵画の終焉」は「絵画の終焉」でもあります。その頃「もの派」や高松次郎が登場します。彼らは2次元の絵画ではなく、彫刻やインスタレーション(空間を作品とする)で3次元表現を始めます。これは絵画そのものの終焉を意味します。
・演劇にもピカソと同様に象徴的な劇作家サミュエル
・ベケットがいます。彼は『果てこん』の鈴木忠志(前述)に影響を与えた人物で、彼の演劇も「近代の終焉」を感じさせます。彼の演劇『ゴドーを待ちながら』は、2人の登場人物がゴドー(神?哲学?思想?)を待ち続けるが、結局現れない演劇です。
○「大地の魔術師展」と「ドクメンタⅨ」
・1989年そのベケットが亡くなります。その年ベルリンの壁が崩壊し、ドイツは統一され、ソ連は消滅します。1992年「マーストリヒト条約」で通貨統合で合意され、EUは「閉じた世界」に進みます(※EUは閉じた帝国?FTP/EPAを締結しているのに)。1989年フランシス・フクヤマは「歴史の終わり」を発表します。この年近代は終わったのです。
・この年美術史でも大事件が起きます。ポンピドゥー・センターが「ポストコロニアリズム」(ポスト植民地主義)「マルチカルチュラリズム」(多元的文化主義)を掲げる「大地の魔術師展」を開き、西洋/アジア/アフリカ/オセアニア/中南米の作品を展示しました。これまでの蒐集は植民地主義的な側面を持ていましたが、これにより世界は等価になったのです。
・一方1992年ゲント現代美術館が欧州中心主義をコンセプトとする展覧会「ドクメンタⅨ」を開きます。その翌年「ヴェネツィア・ビエンナーレ」でドイツのハンス・ハーケが金獅子賞を受賞します(前述)。展覧会「ドクメンタⅨ」は、芸術が米国一極でない事を予言していました。
○芸術は反芸術で延命した
・要するに芸術は反芸術で延命してきたのです。「印象派」も当初は反芸術とされました。その後のキュビスム/ダダイスム/コンセプチュアルアートなども既成の価値観を壊そうとし、次代に繋がっています。これは資本主義も同様です。テオドール・アドルノは「近代は反近代を生む」と言っています。ユーゼフ・シュンペーターは「創造的破壊」を提唱しています。芸術も資本主義も、破壊者の包含でダイナミズムを保っているのです。
・アンチテーゼのマルクス主義により、資本主義は労働者政策/社会福祉政策を取り込み、耐性を高めました。ケインズにより富の行き過ぎた蒐集が抑制されました。トマス・ピケティの『21世紀の資本』も資本主義のブレーキになりました。彼は「資本収益率>経済成長率」から、格差の拡大を解きました。文学でもシェイクスピアは『ヴェニスの商人』で金貸しシャイロックの悲劇を書いています。
・アダム・スミスは『国富論』で「見えざる手」で市場原理を説きました。しかし彼は「経済学だけでなく、法律学/倫理学/道徳学も修めて初めて『人間学』になる」と考えていました。彼は市場原理の信奉者と見られていますが、総合的な視点から解こうとした人物です。
○「マニエリスム」が予言する資本主義
・芸術では「マニエリスム」が起こっています。これは前時代の手法を模倣する事で、「ルネサンス」の終わりに生まれました。あらゆる表現を試みたが、結局ダ・ヴィンチ/ミケランジェロ/ラファエロを超えられなかっため、彼らの手法を模倣したのです。この手法はやがて衒学的/耽美的になります。なお「マニエリスム」「マンネリ」は語源は同じです。
・日本には村上隆/奈良美智、英国にはダミアン・ハーストなど、「マニエリスム」に通じる芸術家が表れています。
<芸術、蒐集、資本主義のしたたかさ>-山本豊津
○芸術と経済にまたがる画商
・水野氏に拙著『アートは資本主義の行方を予言する』の帯を書いて頂き、付合いが始まりました。そこで話が弾み、本書の出版になりました。
・拙著は資本主義と芸術の共通点を探った本です。これに対し読者から「芸術は分かったけど、資本主義の行方をもっと知りたかった」との意見を頂きました。それが本書で実現できたと思っています。
・水野氏の『資本主義の終焉と歴史の危機』を読み、その背景に鈴木忠志の演劇『果てこん』やベケットの存在がある事に驚きました。さらに水野氏から紹介された松宮秀治『ミュージアムの思想』を読み、「蒐集」の概念に驚かされました。水野史観が多くの人を惹き付ける理由が分かった気がします。
・画商はアーティストの創作への意図を理解し、それを芸術事情から評価し、適切な価格を付けるのが仕事です。
○17世紀と21世紀の芸術での共通点
・イタリアで「利子率革命」が起きた時、絵画は「マニエリスム」に流れました。パルミジャニーノ/ティントレット/エル・グレコなどがそれを代表しています。彼らは写実的な表現を模倣しながらも、次第に変形したり、捩じれたり、アンバランスになったり、過激なコントラストになります。
・今の日本の芸術も「マニエリスム」を思わせます。村上隆/奈良美智/草間彌生がそれを代表しています。彼らの芸術は高踏的/非現実的/耽美的/おふざけにも見えます。
○絵画は終わらない
・しかし絵画は終焉していません。村上氏のフィギュアは16億円の価格を付けました。1960年代の「具体」も3億円以上、1970年代の「もの派」も1億円以上の価格を付けています。表現自体に新しい手法は見られませんが、市場はむしろ活発化しています。
・「アート・バーゼル」の戦略は強かです。バーゼル/香港/マイアミでアート・フェアを開き、それぞれの地域でマーケットを形成しています。
○ダミアン・ハーストのフェイク
・水野氏との対談で感じたのは、資本主義の”しぶとさ”でした。米国の金融資本主義/新自由主義は限界を迎え、私達は「長い21世紀」を歩んでいると思います。
・芸術も「長い21世紀」を歩んでいると思いますが、2017年ピノー財団の美術館で見たダミアン・ハーストの展覧会は衝撃的でした。紀元1~2世紀頃に沈んだ難破船から古代美術品を引き揚げる架空の設定となっていました。偽物の美術品を満載した船を実際に沈め、それを引き揚げ、展示していました。
○芸術も経済もフェイクである
・ダミアン・ハーストの展覧会も「マニエリスム」であり、仮想現実を作る「フェイク」(虚構)です。資本主義自体も「フェイク」と云えます。彼は「情報化が進むと、全てがフェイクになる」と語っています。確かに私達の社会は現実なのか。マスメディア/ネットが発信する情報は、「フェイク」(虚構)でないと断言できるのか。
・歴史的遺産は、その時代の虚構の物象化されたものと考えます。エジプト文明のピラミッド/ギリシャ文明の彫像/ローマ帝国の銀器/中国文明の陶磁器・水墨画/イスラムのモスク/インドのタージ・マハール宮殿、これら全てが虚構です。アーティストは虚構を物象化し、未来の人類へ生存のメッセージとして残しているのです。
・芸術も資本主義もフェークを土台として成り立っているのです。一つのストーリーが終わっても次のストーリーを作り、ダイナミズムを持っているがゆえに、しぶといのです。
※こんな解釈で良いのかな。
○芸術と資本主義のダイナミズム
・ハーストは反体制派のアーティストです。芸術はそんな反体制派を取り込む事で延命してきました。ルネサンス/印象派/ダダイスムも同様でした。資本主義も反体制派の理論を内在させる事で、自己改革を遂げています。
・ハーストは芸術に挑発的な姿勢を取る事で評価され、経済力と名声を得てきたのです。芸術家は単に作品を作っているのではなく、プロデューサーでありキュレーターなのです。
・芸術と資本主義が今ほど接近している時代はありません。芸術は「商品化」され、この二つの共通性/親和性がクローズアップされています。
※芸術も経済の一つの分野に見えてきた。
○日本の美術品を資産として活用する
・世界は「長い21世紀」「新中世主義」になり「閉じた世界」に向かっています。そのため拡大再生産するのではなく、既にあるものを活用する社会になります。そうであるならば「芸術の資産化」が重要になります。
・しかし日本は税制(美術品の相続など)や美術品の評価に問題があります。美術品の評価基準を確立する事で、隠れた美術品も出てくるし、美術品の資産化も進みます。※外国は評価基準が整備されているのかな。
○画商ができる事
・画商は美術品/文化財の価値を高めなければなりません。それにはコンテクスト/ストーリーが必要です。中国と違って、日本は歴史の断絶がありません。そのため水野氏が関係する「アートフェア東京」では、古美術/近代美術/現代美術の展示が可能となっています。中国は香港にアジア最大の現代美術館を建設中です。中国が水平性が強みなら、日本は垂直性(時間軸)で対抗できます。
・近年中国の愛好家/投資家が日本に来て、中国の古美術を買い戻しています。文化庁/財務省はこれらを守る必要があります。
・画商としては、新しいコレクターと出会う必要があります。美術品がかってより残されてきたのは、パトロン/コレクターのお蔭です。中世では君主/貴族/教会、近代では富裕層、現代では企業/個人のお蔭です。新しいコレクターと出会うためには、芸術を評価/批評する仕組みが必要です。
○芸術は溢れたマネーを吸収できるか
・お金も芸術もフェイク(虚構)です。お金は金本位制により制御されていましたが、「ニクソン・ショック」で箍が外れ、暴れん坊になりました。これを抑制/吸収できるのは、同じく希少性のある芸術です。