『GNH』辻信一(2008年)を読書。
10人もの知識人が「豊かさ」について語っています。そのため豊かさ/幸せ/楽しむ/時間などについて、様々な視点から語られています。
テーマが簡潔なので期待していなかったが、国際的で内容も十分で、集大成的な本です。
お金/時間/自然などに対する考えが、講師全員が一致しているので驚きます。
元々賛同している内容なので、納得しながら読めたが、逆に言えば少し退屈でもあった。
お勧め度:☆☆☆(3つにしたが、大学での講演/講義が基なので読み難い章もある)
キーワード:<スローライフとGNH>カルチャル・クリエイティヴス、スロー/スモール/シンプル、マインドセット/文化、繋がり、間/時間/空間、平和、文化、<関係性喪失の時代>自殺/うつ病、新自由主義/自己責任、物語、企業と個人、政府、地域/友達、<経済成長から生活の充実へ>ゴール、大量リサイクル、ミレニアム開発目標/持続可能性、気候変動問題、資産/人的資本、経済活動/非経済活動、二つの成長、経済学、政治参加、幸福の基準、資源・資産/安全・安心、グリーンGDP/エコロジカル・フットプリント、多属性評価、ビジョン、<時間をめぐる豊かさと貧しさ>点、生活のペース、ジャスト・イン・タイム、不定時法、外国人/日本人、近代化、神経衰弱/過労死、無駄遣い/自由、<グローバルからローカルへ>ラダック/開発、グローバル化/貿易振興、競争、ローカル化/コミュニティ/自然、持続可能性、<スローフードと云う豊かさ>ファストフード、輸入食材、個人店、個食、食品ロス、多様性、フェアトレード、遺伝子組み換え、ぬかどこ、農家民宿、だし、地球環境、味わう、スローシティ/スロータウン、<農村の暮らしとGNH>農村/都市、作る/買う、遠隔対象性、棚田/田んぼ、祭り、幸せ、<命を生み育てる幸せ>ペナン族、妊娠/出産、休む/眠る、感謝、体験、お金/時間、学び、<若者よ、旅に出よう>豊かさ、アーティスト、自然、エコロジー/エコノミー、大地、自然主義/リレーションシップ、精神的な成長、<作る喜びを取り戻す>プラス成長、消費社会、楽しい労働、競争、平和、正しい戦争、沖縄
<はじめに>-辻信一(文化人類学者、環境運動家)
・1958年ロバート・ケネディが大統領候補が「GNPにはタバコ/酒/薬/離婚/犯罪/環境汚染などが含まれるが、健康/教育/楽しさ/美しさ/・・などは含まれていない」と演説します。1976年ブータン国王ジクメ・センゲ・ワンチュックは「GNH」(Gross National Happiness、国民総幸福)と云う造語を作り、「GNHはGNPより大切」と発言します。
・本書は「豊かさ」について、10人の講師が語っています。
※昨日国連が「幸福度」を発表し、日本は58位でした。日本は「社会の自由度」「他者への寛大さ」が劣っています。
<スローライフとGNH>-辻信一
○豊かさの感覚
・20世紀米国では近代主義的な価値観と対極する伝統的な価値観が主流でしたが、「カウンターカルチャー」(対抗文化)などの新しい価値観が生まれます。この第三の潮流を調査し続け、出版されたのが『カルチャル・クリエイティヴス』(2000年)です。
・「カルチャル・クリエイティヴス」は「新しい文化を創る人々」の意味ですが、略して「カルチャー・クリエイティブ(CC)」とします。
・CCは環境派で、自然食/地産地消を志向します。また自ら市民農園などで野菜を作ります。彼らは”脱消費”でテレビよりラジオが好きで、服装もきらびやかでなく、地味です。彼らは「3S」(スロー、スモール、シンプル)と云えます。
○日本のCC
・2001年講師(辻)は『スロー・イズ・ビューティフル』を出版しました。CCは徐々に浸透していると感じます。講師は大学で教えており、学生と接する機会が多く、それを強く感じます。
○豊かさのマインドセットを変える
・環境問題と平和問題は繋がらない感じがしますが、CCの中ではこれらは繋がります。アインシュタインは「問題を解決するためには、問題を引き起こした『マインドセット』を変える必要がある」と言っています。
・地球温暖化でアル・ゴアとIPCC(気候変動に関する政府間パネル)がノーベル平和賞を受賞します。日本は化石燃料に代るエネルギーとして「原子力」を選択します。他方世界は、サトウキビなどの「バイオ燃料」に注目します。
・しかし何れの選択肢も「マインドセット」を変えていないのです。「経済成長」と云う宗教にも似た「マインドセット」を変えていないのです。「マインドセット」は価値観/美意識であり、何が面白いか/何に安らぎを感じるか/何を幸せだと思うかであり、「文化」と云えます。
・そのため環境問題は、技術の問題/科学の問題/政治の問題/経済の問題ではなく、「文化」の問題と考えれば良いのです。それに取り組み始めたのがCC(カルチャー・クリエイティブ)です。
○スローライフ
・この文化運動に関わるキーワードが「スローライフ」と「GNH」です。スローは「スピードが遅い」をイメージしますが、このスローを「繋がり」と考えています。世界は繋がっています。太陽/地球/大地/動物/人、全てが繋がり、スローに動いているのです。二人三脚を思い浮かべて下さい。単独で走れば速いですが、繋がる事で遅くなっています。
・人と人/人と自然/国と国、これらの「繋がり」が壊れているため、問題が起きているのです。
○加速する経済
・「時間」にも色々あります。月・太陽の運行/地球の誕生/生物の進化/人類の進化/人の一生/ニンジンの時間/ニワトリの時間など、それぞれに時間があります。水は雨となって山に降り、川から海に流れ、蒸発して雲になります。
・人間はそれとは別に「社会の時間」を作りました。人間はこの「社会の時間」を増々加速させています。皆「時間がない」と不機嫌になっています。経済は「早い者勝ち」になっています。IT長者に成功の要因を聞くと、「スピード」と答えます。この「早い者勝ち」は家庭の中にも持ち込まれています。
※確かに。数秒を稼ぐのに、どうすれば良いか常に考える。
○壊される「間」
・エコロジストのヴァンダナ・シヴァは「9.11事件」を見て、”囚われの動物”(家畜)を思い出したそうです。ニワトリは畳1畳のケースに20羽が詰め込まれます。これが5段重ねられます。給餌はコンピュータで管理されています。ニワトリは空間/時間を奪われているのです。さらに近年、名前はブロイラー(焼くもの)に変えられました。
・こんな状態に置かれるとどうなるか、他者を傷付けるのです。そのためニワトリは、予めクチバシが抜かれます。豚は、予め歯を抜いたり、尾尻を切られます。これらは根本的な問題解決になっていません。真の解決は「間」(空間、時間)を返して上げる事です。※これもマインドセットかな。
・「勝ち組・負け組」と云う恐ろしい言葉がまかり通っています。例えば5人の内、1人が勝ったとします。負けた人はつらい世の中になります。しかし勝った人も勝ち続けなければいけません。要するに競争を基本とする社会は”不幸な社会”なのです。実は競争のないスローダウンした社会を望んでいる人は多くいます。
○ブータン発のGNH
・2つ目のキーワード「GNH」に入ります。GNPは国民総生産で、商品が売買された総和です。GNHは1976年ブータン国王が国際会議で発言した言葉、Hは幸福(Happiness)で、国民総幸福と訳せます。国王は冗談で言ったかもしれませんが、今やGNHの研究会/会議/学会/国際会議などが存在します。
・講師はブータンを訪れましたが、田舎へ行けば行くほど幸福度が高いと感じました。都会に行くとお金の話/社会問題/環境問題など、暮らし難そうです。
・ブータンは今、民主制への転換を図っています。憲法にGNHが書き込まれました。このGNHには4つの基準があります。①生態系の豊かさ、②伝統的文化/精神的文化の豊かさ、③経済的な豊かさ、④政治の質です。GNHは物質的な豊かさ以上の人間の幸せを追求する概念です。
○平和と経済
・次に経済的な豊かさと平和の関係を考えます。「パックス・エコノミカ」と云う言葉があります。これは「経済支配下での平和」を意味します。近年のグローバル経済が平和をもたらしているのは確かです。しかしその経済が戦争を生み出し続け、自然を破壊し、社会の至る所で葛藤/争い/不幸を作り出しています。さらに未来から「豊かさ」を搾取しています。
・「憲法9条」は凄い事だと思います。憲法についてアンケートを取ると、経済が好調の時は「護憲」が増えます。要するに平和は経済に飲み込まれているのです。まさに「パックス・エコノミカ」です。
・アインシュタインは「同じマインドセットでは解決できない」(前述)と言っています。平和を経済から独り立ちさせなければいけません。
・経済成長を最優先し、米国の核の傘の下で原発を推進し、平和憲法を堅持しながら米軍基地を置き、こんな矛盾だらけの時代を終わらせる必要があります。
○本物の豊かさ
・皆さんは経済成長と云う宗教から抜け出し、”本物の豊かさ”を掲示する必要があります。これは”新しい価値観の文化”を創る事を意味します。一人ひとりが「カルチャー・クリエイティブ(CC)」になる必要があります。※歴史では経済が宗教を飲み込み、経済が宗教に置き換わったと云える。
・文化とは「間」です。人と人との「間」が壊されていては文化は創れません。壊された「間」を蘇らせる必要があります。
※本章は大体納得できる内容であった。
<関係性喪失の時代>-大木昌(歴史学者)
○幸せと豊かさ
・講師(大木)は辻信一と「GNH研究会」を立ち上げました。GNHは、1972年ブータン国王が戴冠式で「政府の目的はGNPを増やす事ではなく、GNHを増やす事」と述べた事に始まります。※前述と違うが、まあ良いか。
・「幸せ」は主観なので、学問になりません。「幸せ」と「豊かさ」は重なる部分が多くあります。その「幸せ」について個人的な考えを述べます。
・少し前『関係性喪失の時代』と云う本を書きました。サブタイトルは「壊れゆく日本と世界」です。そこで様々な問題を扱っていますが、その原因を「関係性の喪失」としています。今人間は自然との関係性を断ち、さらに人間同士の関係性も断とうとしています。大家族は核家族に変わりました。これらの「関係性喪失」により、命が軽くなっています。
○統計から見える幸せの実感
・「幸せ度」(2005年)を見ると、10代/60代/70代は高くなっていますが、その間は低くなっています。これは雇用者の33%が非正規雇用であり、不安を多く抱えているためです。
・1958年からの「1人当たり実質GDP」と「生活満足度」をグラフにしています。GDPは6倍以上に増えたのに、「生活満足度」は全く変わっていません。戦後はバラック小屋に住み、食べ物はなく、電気製品もない時代でした。今やクーラー/テレビ/パソコンがあり、新幹線/マイカーで移動できます。※この比較はどうかと思う。人間の欲望に限はないので。
○自己責任経済と自殺
・自動車事故を起こすと保険金が下り、病院に行き、弁護士を呼んで裁判をします。新しい車も購入します。これらは全てGDPに加算されます。
・『自殺統計』では年2万5千人台だったのが、1998年突然、年3万2千人台に増えます。しかもこの数字も当てになりません。これに含まれているのは、遺書とかで自殺が明確な場合だけです。比率では米国の2倍、欧州の3倍もいます。
・うつ病などの気分障害も多く、1999年44万人でしたが、2002年71万人、2005年92.5万人と急増しています。
・この原因は小泉・竹中政権での、「生き残る力のない会社は市場から撤退すべき」とした新自由主義の導入によります。勝って巨万の富を得るのは、実際は100人に1人もいません。自由競争は自己責任が原則です。老後など全てを自己責任で生きなければいけません。これでは不安が募るばかりです。
・某会社が15ヵ国の若者に幸福度のアンケートをしたところ、”幸せ”と感じているのは世界平均は34%でしたが、日本は8%で最下位でした。
・「夜回り先生」の水谷修さんの下には、1年半で16万通の自傷行為の相談メールが届きました。※夜回り先生?
○物語を書けない時代
・講師が若い頃は物がなく、1日をパン4枚で生活していました。しかし辛くはなく、将来への希望はありました。その頃は小説家になりたくて、小説を書いていました。また職業探検家/音楽家を目指した時もありました。今の若者は物語を書けなくなったと思います。
・日本の物語は「所得倍増論」「列島改造論」でしたが、どれもお金の話で、世界に誇れるような物語ではありません。これは不幸な話です。
・講師の息子はニュージーランドに永住しました。娘はオーストラリアに住んでいます。ニュージーランドのGDPは日本の半分以下です。それなのに社会保障は充実しています。
・日本の財政投融資は一般会計予算の4倍あり、道路工事や橋の建設に使われています。国民1人当り700万円の借金はそのツケです。
・オーストラリアの人は60歳で退職する事を楽しみにしています。一方日本人は再就職の心配をしなければいけません。
・「木は天まで伸びない」と云う言葉があります。高く伸びれば、より多くの太陽光を得て成長できます。しかし木を支える根がもたなくなります。日本も今や成長が足枷になっています。
○競争の下で関係性は育たない
・競争社会は人間関係を豊かにしません。教え子が就職して数年経ち、メールが来ると大概は退職の話です。「3年3割」の言葉があるように、就職して3年経つと3割が退職します。女性の場合、もっと多いと思います。
・日本の企業は収益が上げていますが、それは非正規雇用が33%に達しているように、単純に人件費を削ったからです。一方正社員は夜遅くまで残業しています。
○政府のお金の使い方
・日本は国民1人に700万円の借金があり、日本の繁栄は”砂上の楼閣”です。東国原県知事が「談合は止める」と言うと、建設業者が2割しか残りませんでした。それ程無駄が多いのです。
・在日米軍への「思いやり予算」は年6千億円あります。米兵が犯罪を起こしても日本の法廷で裁けません。これでは植民地です。
・講師は障害児のケアに関わっていますが、障害児を持つ家庭の負担は増える一方です。「介護難民」も心配されます。
○関係性がもたらす幸せ
・「宝くじの幸せ」と云う命題があります。人間は一人では幸せを感じる事ができず、他人との関係性の中で幸せを感じます。
・講師の母は91歳まで一人で暮らしました。それはコミュニティがしっかりしており、周りの人が助けてくれたからです。
・政府は老後の面倒を見ません。そのため介護を受ける人は大変ですが、介護をする人も大変です。過酷な労働で、しかも月給は20万円位しかありません。
○地域で作る関係性
・講師はゴミ出しや散歩の時に挨拶するようにしています。それで人間関係を保っています。泥棒は挨拶している町では入り難いそうです。
・講師は大借金した事があり、その時3人の子供を育てましたが、1週間の家族の生活費が2千円の時がありました。その時は地域の人に支えてもらいました。地域/友達との人間関係が最も大事だと思います。それにいくらお金を掛けても構わないと思います。
・人生は老後が重要で、定年後が”収穫期”と思っています。しかし定年になって急に収穫できる訳ではありません。その前に田畑を手入れしておく必要があります。
○関係性を紡ぐには
・人には人の意見に賛成する「なるほど」派と、人の意見に反対する「だが、しかし」派がいます。友達ができるのは「なるほど」派です。自分もそのように努めています。
・子育ては大変ですが、その感動は数倍もあります。
・”幸せ”の条件に「格差がない事」があります。序列のある社会では、充足感を得られません。※そう思う。
・”小さな幸せ”が感じられるのも大切です。昔は近所からの「おすそ分け」がありました。今は物が溢れ、”幸せ”を感じる壁が、ドンドン高くなっています。
・近所でキジの親子を見ました。また庭にワイルドベリーが実を付けています。これでジャムを作る予定です。これらも”小さな幸せ”です。
・愛知県長久手町に「愛知たいようの杜」と云う施設があります。ここは老人ホーム/ケアセンター/幼稚園/福祉学校/長屋などで構成されています。この創立者は「働いている人より、お年寄りなど、時間を持て余している人が充実する事が重要」と言います。
・自分が愛する人/自分を愛する人がいないと”幸せ”は感じられません。自分と喜び/悲しみ/苦しみを分かち合う人がどれだけいるか、それでその人の”幸せ度”は決まります。
※本章は常識的な事が多く、同意できる事が多い。
<経済成長から生活の充実へ>-坂田裕輔(環境経済学者)
○二つの生き方
・人には「二つの生き方」があります。一つはゴールを決めず、障害物を避けながら生きる生き方です。経済成長は真にこれで、成長を続けますが、公害/食料問題/人口爆発/地球温暖化などの問題が起きます。もう一つはゴールを決めて、それに向かって進む生き方です。この場合、障害の避け方も決まりますし、今ゴールのどの地点にいるかも分かります。
・講師(坂田)は大学で環境経済学を教え、ゴミ処理政策を研究しています。今は大量生産/大量消費/大量廃棄の社会になっています。大量の森林を伐採し、大量の鉱物を採掘し、大量の商品を作っています。このシステムを維持するには”ゴミを減らす”ではなく、”大量リサイクル”しかありません。これがゴールです。
○持続可能性とは未来を信じられる事
・国連は「ミレニアム開発目標」(MDGs)を設定しています。これは2015年までに貧困/教育/ジェンダー/幼児の健康/妊産婦/疾病/持続可能性/グローバルパートナーシップの8分野で、地球環境/人類の生活を改善する取り組みです。※MDGsはSDGsの前身か。SDGsは最近時々目にして、気になっていた。
・「グローバルパートナーシップ」とは行政/市民/企業などが、お互いを理解し、対等に繋がる事です。
・MDGsに「持続可能性」が入っている事に注目したい。自分の”孫の孫”位の生活を想像して下さい。彼らが楽しい暮らしをしているか、未来を明るいと信じているか、それが「持続可能性」です。今の経済学は価値判断をしません。そのため持続可能性を語れないのです。前世代から受け継いだものを次の世代に伝える。これが”世代間の公正/平等”です。
○世界の状況は悪くなっている?
・ここ30年間位で硫黄酸化物の減少など、都市環境は改善しています(※良くなっている訳ではなく、元に戻りつつあるだけ)。しかし世界では化学物質の問題/地球温暖化の問題/熱帯雨林の問題などが起こっています。
・世界に1日1ドル以下で生活する「絶対的貧困」が11億人います。東アジアでは減少していますが、アフリカは取り残されています。
・90年以降、洪水/干ばつなどの異常気象が増加しています。「地球温暖化」と云われていますが、「気候変動問題」の方が適切です。この問題に対し研究機関/政府などが頑張っています。
○幸せの実感
・低開発国での幸せの基準に「平均寿命」があります。経済学者が「格差は昔からあったか」を議論していますが、的外れな議論です。
・1820年頃まで、世界は経済成長していませんでした。その後の経済成長で、子供が死ななくなり、寿命が延びました。ところが今は幾らGDPが増えても、”できる事”がなくなっています。※あると思うけど。
・年収1億とかの人は、さらに稼ごうと思っています。それはお金が自尊心や社会での地位の確認になっているためです。
○資源/資本と経済活動
・GDPは「経済活動」の総和で、”豊かさ”そのものではありません。国には資源/資産があり、それには土地/預金/経験/環境などが含まれます。経験は「人的資本」と云えます。教育水準や識字率がそれを示します。これらが高いと経済発展が望めます。
・この「人的資本」により土地から食べ物が作られ、仕事により価値のあるモノが作られます。この「経済活動」により得られたモノがGDPです。これらの「人的資本」などの資産を有効に使うとGDPも大きくなります。
・「経済活動」以外の活動が「非経済活動」です。「非経済活動」である家庭生活/コミュニティ活動からも資産が生み出されています。休暇をディズニーランドで過ごすのは「経済活動」ですが、公園でぼーっと過ごしたり、運動をするのは「非経済活動」です。しかし、どちらからも資産が作られます。
※ぼーっとして資産が得られる?ディズニーランドから資産が得られる?資産って何?安らぎ/楽しみを含めているのかな。
○二つの成長
・「経済成長」には2種類あります。1つは所得の一部を貯蓄/投資し、それで資産を拡大し、さらなる所得を増やす成長です。これは健全な「経済成長」です。もう一つは「非経済活動」を「経済活動」に変える方法です。例えば「家で食事を作っていたのを外食にする」「介護や子供の世話を家でやっていたのを商売にする」などです。
・サービスには、お金を使って得ているサービスと、そうでないサービスがあるのです。これら全てのサービスの総和が”豊かさ”です。
○経済学と幸福
・経済学者は景気/経済成長は語りますが、幸せ/豊かさは語りません。経済の目的は、資源を効率的に配分する事や資産を増やす事です。時間/お金/材料などの限られた資源を分配するのが経済学です。食べ物などは必要な分だけあれば良いのですが、お金はできるだけ多く欲しいものです。そのため経済学は「お金の学問」になったのです。
※分配がピンとこない。そう云えばGDPは生産/分配/支出で三面等価だったな。
・資源を分配する基準は、「効率性」「公平性」です。経済学者には「クールヘッド(冷静な思考)」と「ウォームヘッド(温かい心)」のバランスが必要です。どう考えても必要な人に、その足りないモノを分け与えるのが「公平性」「ウォームヘッド」です。
・「日本では農業は儲からないので止めるべきだ」と言う経済学者がいます。しかし農家には家族の思い出や、先祖からの土地を受け継ぐ責任があるのです。農業を止める事は単純に「効率性」だけの問題ではなく、実際は失業問題/環境問題/子供の育成環境なども関係しています。
○幸せの基準
・人がどんな時に幸せを感じるかを調べました。1番は所得、2番は家庭生活でした。これには子供の有無、配偶者の有無なども影響します。3番目が職業、4番目が政治参加です。
・政治参加は「自分が思っている政策が選択され、社会が良くなった」と感じる幸せです。開発途上国で「食わしてやるから、民主主義/言論の自由は我慢しろ」はよくあります。しかしこれでは幸せになれません。「目的は手段を正当化しない」と云う言葉があります。要するに人権の侵害を伴う政治です。しかし奪われた人権が回復できなかったり、受けた心の傷は治りません。それゆえ選択肢の有無が重要なのです。※選択肢?民主主義かな。
・5番目が「人や社会に認められている、必要とされている」です。他人が自分が作った物を買ってくれるのは嬉しい事です。
・1番目が所得でしたが、所得は周りの人との比較なので相対的なものです。開発途上国では以前は何とか暮らせていたのに、所得が増えると逆に暮らし難くなる事もあります。これは先に話した「二つの成長」に繋がる話で、以前はお金が掛からなかったのに、お金が必要になったためです。
・幸福の水準は地域によって差があります。九州の人は「昔は食べ物がなくなっても、山や海に行けば食べ物が取れた」と言う人もいます。一流大学に入って、一流会社に勤めても、幸せと感じない人がいるように、個人差もあります。
○幸福の要素
・幸福を感じる要因に家庭/コミュニティ/友達/お金などの資源・資産があります。もう一つ重要なのが安全・安心です。失業したらどうなるのか、お金がなくなったらどうなるのか、これらは不安の種になります。※論述範囲がどんどん広がり、拡散していく。
○GDPに代る指標
・GDPに代る指標は多くあります。「グリーンGDP」と云う環境で補正したGDPもあります。例えば温暖化で海面が60Cm上昇するため、防波堤を嵩上げしたとします。これはGDPに含まれますが、「グリーンGDP」にはこのような回復のための防御的支出は含めません。
・他に「人間開発指標」(国連)、「地球環境幸福度指数」(環境NGO「地球の友」)、「エコロジカル・フットプリント」(WWF)などがあります。「エコロジカル・フットプリント」は現在の暮らしを支えるのために、地球が何個必要かを表す指標です。今は2.4になっています。
・GDPを止めて他の指標にする議論がありますが、1つの指標で世の中を見るのは危険です。売り上げが何パーセント成長したか、1秒で何人が餓死しているかなどの単一指標もあります。※GDPは操作されている指標なので、そもそも信頼してはいけない指標です。
・経済学では「効用」で幸福水準を分析しようとしています。これに対し所得/余暇/周辺環境/持続可能性/安心・安全などで評価するのが「多属性評価」です。
・大学にも、偏差値/場所/学生の質/授業料/教育内容など様々な特徴があります。これらを一つの指標にまとめるのではなく、様々な視点から評価するのが「多属性評価」です。
・豊かさをGNHで評価する提案もありますが、一つの指標で評価するのは意味がないと考えます。「複雑で、何が何だか分からない」が現実だからです。
○限界を知る
・どんな指標を作ったとしても、これで満足となる指標はありません。人間の「欲望」は限がなく、ある目標が達成されると、さらに次の目標を目指します。
・「足るを知り」と云う仏教の言葉があります。今やそれは「宗教くさい」とされ、ブレーキが外れた世の中になっています。
・楽しめるかは重要な要素です。そのためには量から質への転換や、「自分は良くやっている」と認めるのが有効です。また「こんな世の中が良いな」と思う事を実践するのも有効です。その一つが政治への働きかけです。社会に対し意見を言うのは政治の基本です。また消費行動でフェアトレードや有機野菜を買うのも一つの方法です。
○Q&A
・質問)人生ではなく、どのような社会を実現したいかのビジョンを持つのが重要とありました。
回答)社会は簡単には変えられません。しかし自分の行動への賛同者が現れ、徐々に良い方に変わっていくと信じています。
・質問)ビジョンを持つときの主語は”一人ひとり”でしょうか。
回答)あるビジョンを持つ集団同士が競争するのが理想と考えています。ビジョンが一つなのは、気持ち悪いです。
※本章は会話調なので読み難かった。結局指標にベストはない。個人としては「楽しむ事が大切」かな。最後の政治参加は少しヒントになる。
<時間をめぐる豊かさと貧しさ>-西本郁子
○社会のスピードアップ
・本章は「時間」についてお話します。辻信一『スロー・イズ・ビューティフル』/島村奈津『スローフード』は20世終わりから21世紀にかけての本です。時間を研究してきた講師(西本)は、「スローを求める声が、以前からあったのか」調べてみました。
・1975年朝日新聞「フジ三太郎」が出勤時間をテーマにしています。この頃、「そんなに急いでどこへ行く?」「のんびり行こうよ、俺達は」なども流行っています。共感を呼んだミヒャエル・エンデ『モモ』(?)は、1973年です。
・江戸中期、荻生徂徠は『政談』で幾つかの例を挙げ、「せわしな風俗」を批判しています。
○時間厳守の息苦しさ
・日本は時間に厳しく、鉄道は正確に運行されています。まるで社会全体が一つの時計のようです。「時間厳守」は英語で「punctuality」で、これは”点”から派生しています。松本清張には鉄道ミステリー小説『点と線』があります。「時間帯」と云う言葉がありますが、今の世の中は”帯”が”点”になり、せわしくなっています。
○忙しさを証明した実験
・80年代米国の研究者が6ヶ国(日本、米国、英国、イタリア、台湾、インドネシア)で「生活のペース」を、以下の3方法で計測しました。①銀行に置いてある時計の正確さ、②街を歩く速度、③郵便局で高額紙幣で切手を買い、その対応の早さです。全ての計測で日本が一番で、2位が米国、3位が英国となりました。
・その後この研究者は40数ヶ国に拡大し、計測しました。その結果、1位スイス、2位アイルランド、3位ドイツ、4位日本となりました。日本は当時からペースが速かった事になります。
○時間と工業
・自動車産業に「ジャスト・イン・タイム」(トヨタ生産方式)があります。「石油危機」で世界が暗中模索の中、日本は「ジャスト・イン・タイム」で高品質のモノを作り続けました。徹底的に作業の無駄を省き、作業者の手待ち時間や余裕はなくなりました。
○江戸時代の時計
・江戸時代の時刻は「不定時法」でした。日の出から日没までを六刻に分け、日没から日の出までも六刻に分けました。よって季節によって一刻の長さが変わります。当時は時計はなく、日の出、正午、日没を基準に生活をしていました。明治6年(1873年)に今の「定時法」の何時何分が導入され、時計も徐々に普及しました。
○外国人が見た日本人
・明治初期、大森貝塚を発見したエドワード・モースは「人力車が凄いスピードで走っているのに、人が除けない」と驚いています。また「私の助手は仕事を喜んでやってくれるが、時間の価値を知らないので、辛抱強くやらないといけない」と記しています。
・1873年バジル・ホール・チェンバレンは日本に来ます。彼は日本文化を欧州に伝えた重要な人物です。彼は「短気になってはいけない。日本では物事は直ぐには進まない」と記しています。
・昭和初期、キャサリン・サムソンは、「日本の列車の時刻は正確です」「日本は西洋文明の影響を受けたのに、人々はおおらかで、ゆったりしている」と記しています。しかし仕事に関しては「何をするにも減速する必要がある。急ごうとすると、睨まれる」と記しています。
○明治の文人が見た時間
・石川啄木(1886-1912年)は「近代的の意味は性急(せっかち)」と記しています。
○近代化がもたらした時間感覚
・夏目漱石(1867-1916年)は講演『現代日本の開化』で、時間に関し「西洋が100年掛けてやった事を、日本は10年でやろうとしている。そのような事をすれば神経衰弱になり、息絶え絶えになる」と述べている。「神経衰弱」は今では聞きませんが、圧迫された感情は「ストレス」であり、今のうつ病/過労死/過労死予備軍に相当すると思われます。
・与謝野晶子(1878-1942年)はエッセイ『忙中の閑』で、「能率能率と”忙”の生活が強調され、人は頽廃衰弱し、その能力を失う」と書いています。同じ年『忙しすぎる生活』で「皆働き過ぎで、回復させる休憩時間もない」と書いています。
※2人共「働き過ぎて病気になる」と書いていて、面白い。近代化(資本主義)は競争社会で、こうなったんだろうな。
○能率主義とその反発
・フレデリック・テイラーは「科学的管理法」を開発します。作業の無駄を省き、作業効率を上げる方法です。※勉強したかも。
・これらに対し社会の速いペースに疑問を投げかける人も現れます。谷崎潤一郎(1886-1965年)は「旅行する時は、鈍行に乗れ。そうすれば景色が見れる」と言っています。
・戦後にも柳宗悦(1889-1961年)はエッセイ『時計のない暮らし』で、「時計が入って、テンポの早い文化が促進された」「能楽は近代人からは生まれない。古い音楽にはレガート(なめらか)/アダジオ/アンダンテが多く、近代音楽にはプレストが多い」「スピードアップは幸福を約束するのだろうか。東洋風の時計のない暮らしにも意味がある」と書いています。※音楽は分からない。
・60年代後半になると、日本人は逆に欧州のペースが遅い事に驚きます。70年代後半、筒井康隆は『急流』で「私達は時間が経つのが早い」「時計はぐるぐる回り、社会もそれに釣られて速くなり、人間はその速さに着いていけなくなる」と書いています。
○19世紀にあった過労死
・19世紀から20世紀前半、英国/米国は速度が速い社会でした。英国の評論家W・R・グレッグは「19世紀後半の生活の特徴は、スピードである」と言っています。また彼は心臓疾患による突然死/過労死を訴えています。
・同じ頃米国でも精神科医が「英国が半世紀でやった事を、米国は四半世紀でやり、暮らしのスピードが増している」と言っています。当時米国は電信/郵便/鉄道などの科学技術により社会のスピードが速まりました。これは90年代パソコンが日本に入り、テクノストレスに晒された時代と共通しています。
・「適者生存」(今で云う勝ち組・負け組)の言葉を作った哲学者ハーバート・スペンサーは、英国/米国で仕事のストレスから精神を病んだり、過労で亡くなる人がいる事に驚きます。
・独国の経済史家ヴェルナー・ゾンバルトも社会の速度が速くなっている事に気付きます。そして「近代人は全ての時間を仕事に捧げている。その間極端に酷使され、過度の緊張に置かれている。これは近代経済人の常識となった。この過度の業務により、人は肉体/精神を破壊させた」と記しています。
・過労死と云う言葉は、80年代に日本で生まれた言葉と思われるかもしれませんが、19世紀後半から欧米で心臓病/神経衰弱などが見られていたのです。
○時間の無駄遣いと豊かさ
・「ロボット」と云う言葉を作ったチェコの作家カレル・チャペックは、「欧州も米国のように能率が優先する社会になる」と危惧を抱き、エッセイ『アメリカニズムについて』(1926年)で「スピード、それは大西洋の向こうから呼び掛けている。金持ちになりたければ、おしゃべりを止めて、仕事の速度を速めなさい」と書いています。彼は「大聖堂や哲学に代表されるように、欧州は文化を時間を掛けて作ってきた」「欧州には時間の無駄が必要であり、人生にも一定の怠惰が必要」と考えていました。
・「時間の無駄遣い」があると豊かさを感じるのでしょうか。ある新聞記者に「余暇があると何をしますか」と質問しても、答えが返ってきませんでした。私達は仕事の能率を高める教育は受けましたが、余暇の過ごし方については、考える機会を与えられなかったようです。※これは悲しい。
・「8時間労働」は米国での労働運動で得られた成果です。労働者は「8時間労働、8時間休息、8時間自由」を掲げました。自由(what we will)には強い響きがあります。
※本章は中々面白かった。多くの人物が出てきたが、これは覚えられそうにない。ただ世界的な流れは理解できた。最後に”自由”に結び付けたのは面白い。
<グローバルからローカルへ>-ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ(言語学者)
○幸せとは
・「幸せとは何か」を考える上で、最初にキーワード「デヴェロップメント」(開発/発展、以下開発)を取り上げます。講師(ホッジ)はカシミールのラダックに入り、「開発」によって、人々が不幸せになるプロセスを見ました。講師はこれを書籍『ラダック 懐かしい未来』にしています。
○GDPのからくり
・「経済開発」「経済発展」に入る前、ラダックの人々は大きく美しい家に住んでいました。材料は地元に幾らでもある土と石を使っていました。
・ところが近代的な教育が行われるようになると、グローバルな家の建て方を教えますが、伝統的な家の建て方を教えなくなりました。そのため材料を外から取り寄せ、小さく醜い家に住むようになり、しかもお金が必要になりました。しかしこれによりGDPは上がっているのです。
・「開発」が成され、人々はGDPを上げましたが、家を建てる資源へのアクセス/伝統技術/時間/自尊心を失い、お金のために働かなくてはならなくなりました。
※里山資本主義を思い出した。
○奴隷制に始まったグローバル化
・開発/発展/進歩などの言葉は考え直す必要があります。人を不幸にするので、発展/進歩は相応しくない言葉です。※GDPは単に経済規模と思っています。
・経済の仕組みは数百年前の奴隷制に始まります。アフリカなどから人々を引きはがし、鉱山/農園で働かせました。さらに第二次世界大戦頃、奴隷制を進んでやる仕組みを内面化させました。
○二つの経済-自立か依存か
・「開発」を理解する上で、経済の二つの面を区別する必要があります。一つ目は自分達の生存を保障する仕組みとしての経済、二つ目は特定の商品を作り、それを海外に売る経済です。一つ目の経済は、個人で自給自足するのではなく、地域で自給自足します。
・世界の経済/政治のリーダーは、二つ目の経済(グローバル化)を推し進めています。これにより地域の人々は自立できなくなり、外への依存を深めています。
・モンゴルには2500万頭の家畜がいますが、モンゴルで売っているバターはドイツ製です。ラダックでも、以前はバターを自給していましたが、今はヒマラヤから持ってきています。良質の乳製品を生産していた英国も、ニュージーランドからバターを輸入しています。
・これらは生産/流通システムの随所に補助金/助成金が投じられ、輸入品が安くなっているからです。政府は貿易振興のため、税金を補助金/助成金としてばら撒いています。政府は農業・工業の生産者/エネルギー産業/交通手段(空港、港湾、道路、造船)などに、お金をばら撒いています。
○競争の果て
・グローバル化により生産者と消費者の距離は遠ざかります。都市化も進みます。単一のモノを多く作るようになり、そのために多くの化石燃料/テクノロジー/化学薬品/農薬・化学肥料を使い、環境を破壊しました。小さな会社は潰れ、雇用も減っていきます。子供の教育にも影響し、競争に勝つために時間を使うようになりました。
・この競争は何のためか、生きて行くためです。生きるのに最低限必要なモノを得るためにも、過酷な競争に勝たねばなりません。これで幸せなのでしょうか。近年世界各国で抑うつの子供が見られます。米国などでは、構ってもらえない飼い犬に、抗うつ剤を投与しています。私達はこの人間を不幸にする仕組みを変えなければいけません。
○植えつけられる劣等感
・子供が理想とする「ロールモデル」は身の周りの人ではなく、白人などの外国人になっています。1975年初めてラダックを訪れた時は、ラダックの人は誇り高く、幸せそうでした。それが今は目の色/身長/肌の色など、様々な劣等感を持つようになりました。
・一方講師の生まれたスウェーデンでも10歳位になると、胸が小さい/鼻が大きい/唇が小さいと言って整形手術を受けます。
・しかしこの整形手術はGDPに加算されます。他にも沢山あります。水が汚くなると、ミネラルウォーターが売れます。泥棒がテレビ/パソコンなどを盗めば、それを買います。これらは全てGDPに加算されます。グローバル経済は消費至上主義で、とにかくモノが売れれば良いのです。
○グローバル化からローカル化へ
・グローバル経済に異を唱える人が増えています。米国/英国/オーストラリアでは、「仕事を犠牲にしても、暮らしを高めたい」とする人が3割います。ハリウッドスターのブラット・ピット/レオナルド・ディカプリオはグローバル経済から身を引く行動をしています。ハリウッドではグローバル経済の主役である大企業を批判する映画も作られています。
・GDP/GNPのおかしさに気付き、GNH(国民総幸福)/GPI(真正進歩指標)などのオルタナティブなモデルが模索されています。
・講師はローカル化/地域化が人々を”幸せ”にすると信じています。ローカル化には、コストが安い、化石燃料の消費を減らせる、地域の雇用が増える、など様々なメリットがあります。
・「フード・マイレージ」と云う考え方があります。これは食べ物の移動距離ですが、他の様々なモノに当て嵌まります。マイレージが長いと、それだけ多くのエネルギーを消費し、二酸化炭素を排出します。
・人間の幸福に大切なのはコミュニティです。コミュニティは現代病(アルコール依存症、ドラッグ依存症、うつ病など)の治療に有効です。また自然との繋がりも大切です。
・ローカル化で「幸せの経済」を作りましょう。「ローカル・フード活動」などの行動を起こしましょう。そして同じ意見/目標を持った人で集まり、コミュニティを作りましょう。
○Q&A
・質問)グローバル化の良い面もあると思いますが。
回答)政府がやろうとしているグローバル化は、グローバル企業が自由に活動できる環境の整備です。これは競争を煽り、世界は不幸になります。
ラダックの人々が劣等感を抱くようになりました。英語が話せない事が劣等感なので、「ここへ来る外国人が、ラダックの言葉を学んだら」と伝えました。ラダックの人はアスベスト/DDT/農薬などの危険性を知らされないまま、それらを使用しています。北(先進国)の人は、それらを南(ラダックなど)の人に伝え、南の人は持続可能性を北の人に伝えなければいけません。これが本当のグローバル化だと思います。
・質問)グローバル化を進化/人間の本性とする見方もあります。
回答)どちらも否定します。自由化/規制の撤廃/予算の配分などは意図的なものです。友人が『買うために生まれてきた』と云う皮肉なタイトルの本を書きました。人は消費するように教育され、自己への不満/否定を消費に向かうようにされたのです。※私は物欲は強くない。身分相応です。
・質問)途上国の人に「持続可能な開発」の話をすると、「俺達だって車は欲しいし、iPodも欲しい」と反論されます。
回答)「持続可能な開発」を進める上で、二つの重要な”R”があります。「リニューアル」(Renewal)と「対抗」(Resistance)です。「リニューアル」は新しいモデル作りです。「対抗」はどちらかと云うと「協力」です。近年シアトルのデモでは「環境運動」と「労働組合運動」が結び付きました。右翼と左翼も同じ方向に向っています。”北”と”南”の人も同じ方向に向っています。バラバラなセクションに属していた人が繋がり始めています。これは一個人の中にも見られます。政治的な場で働いてきた人も、経済的な場で働いてきた人も、「幸せは何だろうか」と考え、行動を始めています。講師は人の思いやり/親切/愛情を信じています。
※本章は西洋人の先進性を感じられた。
<スローフードと云う豊かさ>-島村奈津(ノンフィクション作家)
○イタリアのスローフード文化
・講師(島村)は2000年『スローフードな人生!』を出版しました。それを書く前にイタリアの農村の状況を取材しました。イタリアの「スローフード協会」は均質化された味ではなく、地域/家庭の味を守ろうとする運動です。「スローフード協会」には世界で7万人強の会員がいます。①質の良いものを作る生産者を守る、②味の教育、③在来種/伝統加工品の保護を活動方針としています。
・講師は大学に入るまでは受験勉強ばかりで、生活での基本的な事(買物、料理など)は一切しませんでした。大学に入りファストフードを食べるようになり、体を壊します。しかし卒業してイタリアで生活すると体調が良くなったのです。
・イタリアでは肉屋/野菜屋が料理の仕方を教えてくれます。製麺屋で朝練った麺を買います。またイタリアでは平日でも食事パーティをします。そんなイタリアで見た風景を『スローフードな人生!』に書きました。
・一方日本では、製麺屋/うなぎ屋などはドンドン潰れ、100円ショップ/携帯電話ショップになっています。それで「日本食もやらないと」と思い書いたのが『スローフードな日本!』(2006年)です。
○ファストフードは戦後に始まった
・講師と同じ昭和30年代生まれの親ほど酷い親はいないと云われます。ところが『現代家族の誕生』に勇気付けられる事が書かれていました。そこにはファストフード第一世代は昭和30年代生まれではなく、その親と書かれていました。
・戦後「キッチンカー」(?)が現れます。これは米国の小麦教会がスポンサーとなり、米ではなくパンを食べさせるのが目的です。これにより日本人は朝食/給食でパンを食べるようになったのです。この頃「米を食べると頭が悪くなる」と言う学者も現れます。また大豆油(?)も流行ります。※この話は面白い。米国文化の侵略だな。
○経済システムに組み込まれた食
・戦後、日本の食事は大きく変わります。瀬戸内海の大崎上島はミカンの産地でしたが、オレンジの輸入自由化で四苦八苦です。日本の農家はなぎ倒され、3~4%の人達が支えています。※農業人口かな?
・チェーン店の和食定食では、アジフライは南方から輸入してチン、焼きナスもベトナムから輸入してチンです。横浜の埠頭に行けば分かりますが、菜の花/ラッキョウ/ショウガ/ふりかけ/佃煮などを中国から大量に輸入しています。
・もう一つ気を付けないといけないのが添加物です。化学調味料に頼り、”だし”を取らなくなっています。
○個人店の元気な町が良い
・70年代からスーパーができた事も大きな変化です。それにより個人店はどんどん消えます。皆が個人店で買い物するようになれば、個人店も残っていけます。嬉しい事に地方に行けば、「85%は地元の素材です」と言う料理屋もあります。
・井上ひさしさんだったと思いますが「買物は、投票するようなもの」と言われました。講師も反省し、個人店で買うようにしています。
○畑の均質化と効率化
・イタリアには200haの農家もありますが、日本は4ha位です。農水省は補助金などで大型化を図っています。しかし日本の農業は小規模が魅力だと思います。東北に行くと、昔ながらの風景が残っています。それは農業/林業の人が”ものづくり”を通じて作ってきた風景です。
・最先端の農業では土も太陽もいらない野菜工場の中でコンピュータ制御により作られます。牛の消化を助けるため、たわし状の物を胃に入れたり、ニワトリに卵を早く生ませるため、人口光を当てたり、抗生物質を多く含んだ餌を与えています。
○消費文化と食
・今の日本は非常に貧しく、かつ非常に豊かです。日本は米国の後追いです。米国では料理しなくなっています。「台所に電子レンジがあるだけで良い」「台所に宅配のための電話があるだけで良い」とのジョークもあります。
・消費社会なので、恐怖心を煽り、消毒液/薬品を買わせています。日本の食文化は”菌”が命です。麹は日本しかなく、その専門店は日本に10軒しかありません(※蔵元が受け継いでいるのでは?)。
・外国産の野菜/加工食品が幾らか安いですが、それを買わないようにしています。将来の医療費の節約と思い、国産品を買っています。
・健康食品は疑い深い目で見ています。近年では拒食症の子供が増えています。またコンビニにはサプリメントが並び、子供がそれを買っています。
・おじいちゃんと食べる/近所の人と食べる、今はそんな機会がなくなりました。これにより他者を理解する機会が失われています。子供が自分の部屋で一人でファストフードを食べる、それは貧しさだと思います。
・食品の廃棄も問題です。期限切れのコンビニ弁当/早食い・大食い競争/ホテルでの結婚式の料理/豊作の野菜など大量に廃棄しています。日本が廃棄する半分で、世界の食糧援助を賄えるそうです。
○食の南北問題、種の多様性
・インドは広大で気候も多様なため、お米の種類だけでも2千種類以上あります。日本は60年代の農の工業化で”コシヒカリ”ばかりになりました。インドには「バスマティライス」と云う種類のお米があり、米国の会社がそれで特許を取ろうとしたのを阻止しました。インドでは消費者が食べながら、700種類以上の種を守っています。※日本でも和牛の問題がある。
・広大な土地で1種類のお米を作ると、植物の多様性が失われます。19世紀アイルランドで主食で2種類しかないジャガイモが病気になります。それを救ったのが南の種でした。70年代には米国のトウモロコシが干ばつに遭いますが、これを救ったのもアンデス山脈のトウモロコシです。これでは南が貧しいと云えません。
○フェアトレードの意義
・エクアドルに行って、「フェアトレード」の意義を理解しました。コーヒー/バナナ/チョコレートなどに云えますが、費用で増えているのは広告費です。広告費を増やす一方で、原価を下げているのです。「フェアトレード」に取り組んでいる「ウインドファーム」は、市場価格の3倍位で買い取っています。※生産者への搾取を止める良い行動だ。
・1999年コーヒーの価格が大暴落します。これは①「ネスカフェ」がベトナムで大量に作った、②ブラジルが予想外に生産を伸ばしたのが原因です。※そんなのあったかな。今は中国により不足しているのでは。
○遺伝子組み換え食品
・1996年米国で「遺伝子組み換え(GM)大豆」が許可され、10年後には生産高の8割が「GM大豆」になりました。トウモロコシ/菜種油も同様で、これらの輸出先は日本です。お菓子に入っている「水飴」ですが、これも輸入したコーンスターチから作られています。
○イタリアにも押し寄せる変化
・イタリアでも食のグローバル化が進んでいます。トマトでも大手の種が入り、在来の種は姿を消しています。アマルフィはレモン畑と街が絶景を作り、世界遺産になっています。日本もこのような環境に優しい農業を模索する時代です。※農業に風景を繋げるかな?
・EUは環境/健康に良い食べ物を作っている農家を直接支援しています。イタリアの自給率は80%以上で、お肉/穀物は80%以上、野菜/果実は120%です。農業人口比率は日本と同じなので、日本も自給率を高められます。
※EUの支出は農業関連が多いからな。※人口比率が同じで自給率が8割以上とは、日本と余りにも違い過ぎる。日本はそれ以上に稼げる産業があるからかな。
○日本の可能性
・ドイツ人/イタリア人は日本の山水に感動します。イタリアに留学していると、石灰水で髪は茶色になります。飲み水は買わなくてはいけません。
・日本は都市化したと思っていましたが、地方には多様な文化が残っています。講師の育った北九州では”ぬかどこ”文化が残っています。各家庭に”ぬかどこ”があって、毎日お父さんが掻き回します。すると野菜の質に拘るようになり、自分で野菜を作るようになります。
・「農家民宿」も面白いです。宮古島の津嘉山千代さんは、自給自足の生活をし、嫁探し/職探しなどの世話もしています。ある男性が妻を失って、流れ着いたのが彼女の「農家民宿」でした。今彼は宮古島でマンゴー作りをしています。※サトウキビ畑の話が記憶にあるが、ここかな?
・襟裳岬の高橋裕之さんは牛の放牧をし、昆布漁もしています。彼のファーム・イン「マリブット」の朝食は自給率98%位です。
○毎日から始める
・自給率は低いし、遺伝子組み換え食品は多く輸入され、暗い気持ちになりますが、私達にできる事があります。1つ目は直売所で野菜を買う/農家の人と親しくなる/漁村に行ってみるなどです。そうすれば家の自給率は直ぐに上がります。
・2つ目に日本の中央集権はそれ程強くなく、地方には人の心/食文化/気候などの多様性が残っています。
・3つ目は日本の農業はアジア型農業(小規模?)なので、切り替え可能です。沿岸漁業の漁師さんもいますし、お味噌を作っている頑固な職人さんも、まだいます。
○世界に誇れる食文化
・日本が誇れるのは”だしの文化”です。昆布/いりこ/しょっつる/しいたけなどの「旨味」です。※しょっつるは魚醤か。
・海水温は10年で0.6度上昇しました。昆布加工の成田省一さんは、この危機感から、昆布の養殖方法をロシアの漁師に教えています。
・有馬温泉の旅館は日本製のタオルに拘っています。理由は「中国で漂白剤を使いタオルを洗うと、中国の川を汚し、エチゼンクラゲを肥大化させる」からです。※日本ならOK?
○人の間に食がある
・イタリアの「スローフード協会」の副会長が、「家族、友人、故郷、地域、自然の真中に食がある」と言いました。私達が飲むコーヒーの先には、その国の子供の将来があります。日本の海/アフリカの森/エクアドルの森、これらの「地球環境」を守る事が子供の将来に繋がっています。
・ファストフードのフライドポテトなどには「甘味料」が入っています。これは味覚の未発達の子供に、”美味しい”と感じさせるためです。味とは味覚だけでなく、視覚/聴覚/触覚など全身で「味わう」ものです。「誰々さんが作った食べ物」などで「味わう」事で子供は育ちます。
○Q&A
・質問)イタリアがスローフードな理由は。
回答)確かにイタリアはインフラは整備されておらず、国民所得も高くありません。しかし、町から10分~20分歩くと畑があり、輸入食品の割合も少ないです。一番の理由は地方主義/地域主義です。37軒の集落から、人口300万人のミラノまで、全て平等です。※平地が少なく分散志向なのでは。歴史的にも都市国家や分裂時代が長かった。
・97年頃「スローシティ」のネットワーク(?)が生まれ、人口5万人以下の町が独立していった。小さな農業/漁業があるか、エネルギー問題を考えているか、ベンチはあるか、などが良き街の条件になった。※意味不明。この講師の話は常に説明不足。
・辻)日本にも「スロータウン」はあります。子供には子供の遅さがあるし、誰でも病気や調子の悪い時があり、誰でも年を取る。そんな人を待てる町が「スロータウン」です。
・「スローシティ」の会長がきて、滋賀県高島市は気に入ってくれた。しかし東京については「石油が枯渇するかもしれないのに、何で高層ビルを造るの」と怒られた。
・辻)石油と云えばペットボトルです。2500億本だそうです。学生とゴミ分別していましたが、一人200本です。リサイクルせず、中国に輸出しているそうです。※この話もよく分からない。
・質問)ドイツの自給率は100%を超えたそうですが。
回答)日本の農水省には予算がなく、お金になる産業(農水産以外?)に予算を使っています。欧州は兵糧攻め(?)にあってきたので、かつてより食を根本としています。
・辻)トヨタが世界一になったと喜んでいますが、私達は米国からどんどん買わないといけない。だから水(?)なんです。トヨタが売れれば売れるほど、自給率が下がります。※貿易不均衡の話かな。
※本章で広範囲の話を聞けたが、説明不足が多い。
<農村の暮らしとGNH>-結城登美雄(民族研究家)
○日本の村はどんな場所
・GDPからGNHへの道を考えると、「心ではうなずけても、行動に移すまでは」で、中々進みません。そこで東北の山村をヒントにしたいと思います。
・日本は明治初期、人口3千万の内、9割が”村”に住んでいました。今は逆で1割しか住んでいません。”村”には、山/海/田んぼ/畑/沢/沼/川/野などの自然があります。これを支えているのが水/風/光/土です。これらは神様です。ただし土は人間によって、良くする事ができます。”村”では衣食住全てを「作る暮らし」をしていました。
・近代になると会社/企業が生まれ、企業は沢山のお金を生み出し、自然より大切と思われるようになった。そこに「作る豊かさ、買う豊かさ」が生まれた。
○作る豊かさ、買う豊かさ
・都市に住む人は「買う豊かさ」のみを追いかけ、「作る豊かさ」を失っている。逆に農村には「作る豊かさ」はあっても。店がないので「買う豊かさ」はない。農村のおじいちゃん/おばあちゃんは「私は幸せだった」と言うが、「私は豊かだった」という人はいない。
※この考えは面白い。近代は作る事の分業を極端に進めた社会だな。
・農村のおじいちゃん/おばあちゃんの経済は、3つのパターンがあります。①自分で作れるものは、自分で作る。②作れないものは、隣人と交換する。③それでも足りないものは、お金で買う。農村は①が中心で、その暮らしに揺らぎがない。一方都市は③が中心で、「全部買う」しかない不安定な暮らしである。
・民俗学者・柳田国男は論文『都市と農村』で、「都市の人は常にハラハラし、敏感である。それは作る手段を持たず、不安のためである」と述べている。
※確かに都市生活は土台がお金なので、不安の上に立っている。農村には感謝祭”くんち”とかあって、豊かだな。
○足元にある幸い
・ファミリー(家族)とファーマー(農民)は語源が同じである。柳田国男は「ハッピーツリー(幸いの木)」と云う言葉を使っている。漁村で正月に魚を吊るし、自然の恵みに感謝する。正月15日位までは漁に出ず、それを食べて過ごす。
・心理学に「遠隔対象性」(遠くのものに惹かれる)と云う概念がある。「隣の芝が青く見える」「遠くの神様の方が有難く思え、お伊勢参りする」「自分の旦那より、隣の旦那が・・」「自分の彼氏より、友達の彼氏が・・」などである。近くにあるものが、一番大事なのでは。近代化で米国/欧州を目標にした事は、正しかったのだろうか。
○人の手が加わった自然の温かさ
・昭和40年代、多くの人が都市を目指す中、民俗学者・宮本常一は農山村を歩きます。彼は「自然は寂しい。しかし人の手が加わると、温かくなる」と言っています。
・山形県大蔵村には棚田があります。しかし6割が法面などで、米が植えられるのは4割です。おじいちゃん達により、日本の自然/棚田/食料は守られています。
・講師(結城)は山形県大江町で生まれました。標高500mで雪深い所です。村を出た人も、5月末に神社の前に集まります。さらに標高800mの田んぼで、80歳を超えたおじいちゃんが、なけなしの米を作り続けています。
・青森県田舎館村に弥生時代の田んぼがあります。そこに1586の弥生人の足跡が残っています。これはファーマーがファミリーであった証明です。
・福島県桧枝岐村は標高820mでお米が取れません。200軒家があり、苗字は平野/星/橘しかありません(※NHK『おなまえっ』でやった)。ここでは女性は15歳、男性は20歳になると、大きさ60Cmの唐櫃を作ってもらいます。女性はこれに嫁入り道具を入れ、嫁に行きます。亡くなると棺おけになります。子供の時に人間の一生を教えるのです。
・東北では川でシャケを取ります。シャケには、ケガチシャケ/ホウネンマスなどの別名があります。米/稗/粟の収穫がなかった冬、川でシャケを取ります。シャケに感謝し、卒塔婆/千本供養塔などを建てました。
・岩手県山形村は5戸16人で、最年少は65歳です。彼らは自然を生かし、伝統を守り、共同して生きる事を決意しました。近年そこに若者が多く訪れています。彼らが「デパート」と呼ぶ海があり、フノリ/マツモなどを必要な分だけ採って生活しています。※山形村に海はないけど。
・村で生きるには「段取り」が重要です。味噌は1年先の事を考える。薪は冬に必要な分だけ集める。
・岩手/秋田は祭りが多い。市で収穫した産品を売り、その後は温泉に行ったり、祭りで楽しむ。秋田県横手の「かまくら」は水神を祀る祭りです。秋田県上桧木内の「紙風船上げ」は五穀豊穣/家内安全を願う祭りです。
○皆の利益に繋がる幸せ
・沖縄県国頭村には生協/農協/森林組合を合わせたような「共同売店」がある。そこでの利益を貯め、皆でその使い道を話し合い、決めています。奨学金制度/医療費の融資制度/船/バス/泡盛工場/発電所/診療所などに当てました。※地方自治だな。
・皆で山焼きし、採れた山菜などで「食の文化祭」をやる。一人一品を持寄り、皆で食べる。こんな暮らしだと、子育てに苦労しない。
・上流でシャケを待つ人がいるので全部取らない。湖でシジミを取る。湖の葦を刈って屋根に葺く。みんな自然のものを生かします。
・台風が過ぎれば、おじいちゃんが切れた昆布を採りに行きます。カジキ一匹釣れれば、家族は十分暮らせます。
・83歳のおばあちゃんは「私が元気に働けるのは、私を待ってくれる人がいるから。だから田んぼのもの/畑のもの/漬物を作る。これで幸せ」と言う。
※農村は3S(スロー、スモール、シンプル)だな。食べ物があれば、あくせく働く必要はないのかも。
<命を生み育てる幸せ>-アンニャ・ライト(シンガー・ソングライター、環境活動家)
○まだ希望はある
・講師(ライト)はスウェーデンで生まれ、オーストラリアで育ちました。今はエクアドルにも住んでいます。10代で環境運動に関わり、1999年日本でNGO「ナマケモノ倶楽部」を立ち上げました。”豊かさ”とは「繋がりを感じ、生きている事を実感する事」です。
・環境運動の目的は未来の子供のためです。子供を産む前、この世界/将来に希望があるのか悩みました。しかしエクアドルで自然の豊かさ/子供の豊かさに感動しました。
・10代の頃、世界に絶望していました。ところがマレーシア・サラワタ州でペナン族の人々に会い、覚醒します。彼らは狩猟採集民のため森に住み、自然を理解し、大変優しい民族です。森が伐採される時、彼らはブルドーザーの前に座り込み、抵抗しました。これを見て「先進国の人々は”人間は何か”を忘却した」と感じました。
○子供を産む
・妊娠すると子供との対話が始まります。「まだ早かったんじゃない」と言っても、「私は生まれてくるの」と言います。その頃から、彼女を対等な人間として、付き合いたいと思いました。彼女には彼女の運命があり、アイデンティティがあります。社会は様々な方向から彼女のアイデンティティを揺るがしますが、それらから彼女を守ろうと思います。
○出産
・病院は病気になっていく所です。またエクアドルでは医者が儲けるために、やたら帝王切開をします。そこで自宅出産する事にしました。哺乳類は、常に暗い場所に隠れて出産します。病院みたいに明るく、人の出入りが多い場所で出産しません。出産に備えヨガをやったり、坂道を登り降りして身体を鍛えました。
○生と死の境目
・いよいよ長女パチャを出産します。自分が動物である事を実感する体験です。助産婦と友人を呼び、夫にビデオカメラを回してもらいました。録画ボタンは押し忘れていました。長女はバンジージャンプのように飛び出ました。そのためか、彼女は高い所を怖がりません。
・講師はこれに自信を持ち、長男ヤニの出産時は助産婦を呼びませんでした。友人と2歳半の長女に見守ってもらいました。長女は立派で、出産する講師を励ましてくれました。しかしその後出産の様子を他人に話すのには困りました。
○子供から教わる豊かさ
・オーストラリアでは、子供は親とは別の部屋で寝かせますが、そうはしませんでした。講師は世界を転々としていますが、子供達は落ち着いています。
・講師の暮らしにストレスはありません。エクアドルに住んでいた事もあり、暗くなれば休み、明るくなれば起きます。休む/眠るは豊かさの重要な要素です。日本の子供は休む/眠る事ができなくなっていると感じます。そのため本当の意味での考える/想像する力がなくなっていると感じます。※同感。
○役に立つ喜び
・子供達は自転車で学校に通っています。子供達は元気で、自信を持っています。自動車に乗ろうとすると、「地球温暖化が!」と叱られます。隣の家で樹木を切っていると、長女が「木が切るのを止めて!」と叫びます。自分の考えと同じなので、それを注意する事はできませんでした。
・家でニワトリを飼っています。ニワトリは卵を産んでくれます。子供達は卵を見付けるのが大好きです。ニワトリには名前があって、子供達はそれを呼び、ニワトリに感謝しています。
○感情と経験を奪われた子供達
・現代社会での問題の一つに感情への評価があります。「感情的になるな、理性的になれ」です。しかし感情的である事は重要です。
・長女は木登りが好きで、木に登り、そこで歌をよく歌っています。最近、長女が太った長男に木登りを教え、「止めなさい!」と言いたいのを我慢しています。子供達は水辺で遊ぶようになり、自然と泳ぎを覚えました。親は危険なので様々な事を止めさせますが、本当に重要なのは子供自身が体験し、その危険性を学ぶ事です。
○スローな生活の楽しみ
・現代社会は急ぐ事を強いています。講師は日本の仲間と「スローライフ」がテーマの「ナマケモノ倶楽部」を創りました。テーマが「スローライフ」の曲も作っています。”スロー”の意味は、例えば親子が歩いて行くと、子供は遅れます。親はスローダウンして子供に合わせます。要するにペースを合わせ、一緒に生きる事です。
・なぜ現代社会が速くなったかと云うと、お金のためです。お金を稼ぐためには働かなければならず、それに時間を取られるために、ドンドン速くなったのです。
・我が家では「新しいものは買わない」が原則です。古いもので良ければ、その分時間が戻ってきます。長女が「私達って豊か?」と聞いてきました。「私達は豊かよ!」と答えました。私達には自由/時間がたっぷりあり、いつも安らかで楽しく一緒に過ごし、恐怖/不安/ストレスがないからです。
○親の行動を見せる
・講師は「緑の党」のメンバーで、上院議員の選挙に出ます。先日米軍/オーストラリア軍の合同演習があり、初めて子供と抗議行動に参加しました。仲間の幾人かはゲートに上り、逮捕されました。子供はサッカーをして遊んでいましたが、デモ後に描いた絵日記には、「私達が欲しいのは平和だ、戦争じゃない」と描かれていました。
・今後も政治行動に子供を連れて行きます。親子は切り離せないユニットです。子供にとっては、全てが”学び”です。自分が感じている事を表現できる事を実感して欲しいです。知識の詰め込みによる”学び”以上に、体験に基づく”学び”は大切です。また”学び”は苦痛ではなく、喜びである事も実感して欲しいです。
○Q&A
・質問)政治行動に行く前に、子供に説明しましたか。
回答)彼女とは日頃から戦争/武器/兵隊などについて話しています。彼女位になると、世の中でどんな事(軍事化)が起こっているかは理解しています。講師の教育を極端と批判する人がいますが、「兵隊は英雄」と教育する国も極端と思っています。極端化した世の中では、バランスをもたらすのが重要と考えています。
・質問)「お金からの自由」を言われましたが、お金を稼ぐ事の賛否は。
回答)個人の生き方は否定しません。ただ今の世の中で極端にお金に執着し、それにより失われるものが多くあったと考えています。地球は豊かですが、これらをお金に換算するシステムができ、金持ちはどんどん金持ちになり、貧しい人はどんどん貧しくなり、地球の生態系は壊されています。
※どんな子供になるのか楽しみです。
<若者よ、旅に出よう>-サティシュ・クマール
○無一文で世界を歩く
・講師(クマール)はインドの生れですが、英国に住んでいます。若い時、世界平和のためにインドからロンドンまで歩きました。出発前、グル(師)の所へ行くと、グルは「お金を一切持つな」と言われました。それで無一文で出発しました。敵国のパキスタンに入ると、名前を呼ばれます。彼は「君の事を新聞で読んだ。私も戦争に反対している」と言い、食事などを振る舞ってくれました。その後アフガニスタン/イラン/モスクワ/パリなどを歩き、英国に渡ったのです。
○豊かさとお金
・「お金なしでは何もできない」と信じられています。しかしお金は”本当の豊かさ”ではありません。”本当の豊かさ”は、友人/コミュニティや水/森などの自然です。しかし今の世の中は、お金のために川/森/海を汚し、コミュニティ/家族を崩壊させています。お金は交換の手段であって、”豊かさ”そのものではありません。「お金のために、家族や自然を壊していないか」問い直して下さい。
○私達は地球のお客さん
・インドに帰ると、グル(師)から「どうやって旅ができた」と尋ねられました。講師は「どこへ行っても”お客さん”だった」と答えました。これに対しグルは「我々は地球の”お客さん”です。地球に負担を掛けない質素な生き方をすれば、地球は時間をくれる」と教示されました。
○誰もがアーティスト
・お金が道具として、大地のために、人々のために使われるのは良い事です。しかし先進国では「お金=豊かさ」になり、お金を稼ぐために大地を使っています。これでは”逆立ち”です。経済成長は”自然をお金に変える終わりのないゲーム”です。
・「量から質」に発想を転換する必要があります。まず挙げたいのは、歌/踊り/詩/文学/祝祭や工芸/芸術などです(※インド的だな)。ビジネスマンを減らし、詩人/芸術家などを増やしたいです。現代社会は彼らを減らしました。本来全ての人間がアーティストです。現代社会は詩/音楽/芸術/美術を奪い去りました。
・2つの社会があるとします。1つはビジネスマン/工場/高層ビル/車などが溢れた社会です。もう1つは芸術家/詩人/音楽家/自然などが溢れた社会です。「ビジネスとアート」の関係、「量と質」の関係を問い直して下さい。
○自然を大切に
・人間は自然に近いほどエレガントな暮らしができます。科学技術を全否定している訳ではありません。お金は単なる手段で、目的ではありません。そのお金が支配している現代社会は問題です。
・人間が自然を大切にすれば、自然は人間を大切にしてくれます。自然の寛容さは無尽蔵です。リンゴを食べると種が入っています。あの小さな種はやがて木になり、何百もの実を与えてくれます。繰り返します「人間が自然を大切にすれば、必ず自然は人間を大切にしてくれます」。お金は破壊的なものです。※自然の恵みは説得力がある。
○エコロジーとエコノミー
・「エコロジー」(生態学、環境運動)と「エコノミー」(経済)は、共にギリシャ語のオイコス(エコ、住む場所)が語源です。「エコロジー」はエコ+ロジー(ロゴス、知)で、住む場所を知る事です。一方の「エコノミー」は、住む場所を運営する事です。現代社会は「エコノミー」を重視していますが、本来は「エコロジー」が最初にあって、「エコノミー」はその一部です。※面白い話だ。
・日本は全ての仕事を「パートタイム」にしてはどうでしょうか。要するに「週3日勤務」です。休日は散歩/歌を歌う/俳句を作る/ガーデニング、何でも構いません。自分を大切にできない人は、人の世話をできません。
○自分を愛する、土と繋がる
・自分を愛せない人は、人からも愛せられません。「夫が愛してくれない」「妻が愛してくれない」とよく聞きますが、「あなたは自分を愛していますか?」。「自分を愛する」とは、ありのままの自分を受け入れる事です。それができれば、誰もが詩人であり、芸術家です。人は誰もがブッダであり、ガンジーであり、芭蕉です。お金を稼ぐのに忙しく、自分の時間を持てなければ、その可能性はゼロです。
・お勧めなのは、できるだけお金を持たず、その代わりたっぷり時間を持つ事です。その時間で、大地との繋がりを持って下さい。土を耕しているようで、実は大地があなたを耕し、あなたを豊かにしています。※私に土を耕す趣味はない。
・私達は「土地を所有する」と云いますが、大地には太陽光が降り注ぎ、雨風が吹き、動物が棲んでいます。これらを人間は所有できません。
○オーナーシップからリレーションシップへ
・「土地の所有」と云う概念は、アメリカ/アフリカ/インド、何れにもありませんでした。これは欧州で税金を取るために生まれた概念です。「資本主義」に所有(オーナーシップ)は不可欠です。そこで大転換し、「自然主義」による分かち合い/共有(リレーションシップ)を提案します。
・例えばリンゴの実は、人間であれ、鳥であれ、虫であれ、誰でも取って食べる事ができます。ガンジーと共に働いたクノークは大地主を回って、40万エーカーの土地を放棄させました。「」は分かち合う世界です。※自然主義については説明不足。この大転換は簡単ではない。ただし中国は土地を国有化している。
○土と平和への回帰
・土と平和は密接に繋がっています(※土より自然の方が良いかな)。平和の基本はフード・セキュリティです。そのためには地域で取れる「食べ物」を復活させる事です。「食べ物」やエネルギーを米国/中国などの外国に頼らなくなると、軍事力も不要になります。
※食べ物の地産地消だな。日本はエネルギーが賄えれば、実現できそう。そのためには再生可能エネルギーかな。資源がないか。
・日本の憲法9条は、世界に誇れる条項です。世界最大の軍事力を持つ米国は、9.11などの事件に遭いました。自然の恵みを公平に分かち合う事ができれば、世界は平和になります。
※実際の戦闘地はウクライナ/アラブ/カシミールなどかな。人間同士は戦いたくないのに、国がけしかけている感がある。
○経済成長ではなく、スピリチュアルな成長を
・経済成長は「豊かさ」をもたらすと言ってきましたが、それは幻想です。世界一裕福な米国でさえ、貧困/格差が深刻な問題になっています。経済成長は破壊的なものです。
・今からは自然が与えてくれる「豊かさ」を、分かち合う方向に進むべきです。そこで「スピリチュアル(精神的)な成長」を提案します。これは芸術/歌/踊りにおける成長、家庭/自然/大地との繋がりにおける成長です。”スピリチュアル”とは、人と人との関係/人と他の生き物との関係/人と自然との関係から試され、発見されます。
・日本は経済不況を経験していますが、これは新しい価値に挑戦する絶好のチャンスです。この危機から”持続可能な社会”へ転換する絶好のチャンスです。”永遠の経済成長”は地球温暖化などの環境破壊をもたらしました。大きな壁に突き当たった以上、引き返すしかありません。
○Q&A
・質問)平和巡礼で印象に残った国は。
回答)アフガニスタンです。自然は美しく、人の心も純粋でした。グルジアも印象に残った国です。出会った女性に、お茶をご馳走になり、さらに4袋のお茶を渡されました。「これをソ連の4首脳に渡して欲しい。核ボタンを押しそうになった時、このお茶を飲んで、自分達が破壊しようとしているものを思い浮かべて欲しい」と言われました。講師はメッセンジャーになり、このお茶を4首脳に渡しました。
・質問)家族を養うために働く必要がありますが。
回答)お金を稼ぐのに時間を取られ、家族の時間が少なくなるのでは意味がありません。
・質問)お金中心の社会を変える方法は。
回答)お金中心の社会になったのは、ここ100年です。ソ連には社会主義システムがあり、南アフリカにはアパルトヘイトがありました。しかし何れも違うシステムに変わりました。皆さん全員が社会の主人公です。一人ひとりが勇気を持ち、社会を変えていきましょう。
・質問)インドとパキスタンの対立の原因は。
回答)カシミールは豊かな土地です。カシミールで独立すればと考えています。
・質問)インドでは環境問題がどのように考えられていますか。
回答)インドには2つのインドが存在します。7億人の”農村のインド”と、3億人の”都会のインド”です。”都会のインド”は200年前に誕生し、石油などの大量消費によって地球を破壊してきたインドです。何万年と続けてきた持続可能な”農村のインド”に戻る必要があります。
・質問)フィリピンでは教育を受けれない子供が多くいます。フィリピンには経済成長が必要なのでは。
回答)社会に必要なのは公平です。インドでも極めて裕福な人と、多くの貧しい人がいます。一部の人に集中している富を、公平に分かち合う必要があります。
・質問)地球が破壊に向かっているのに対し、個人の努力では無力です。環境保全の義務化はどうでしょうか。
回答)個人と政府の両方が必要です。ガンジーは「Be the change」(変化になれ)と言っています。多くの人が行動する事で、政府は法律を作り、企業も考え方を変えます。自分のライフスタイルを変えるのは、ワクワクする事です。自然の恵みを享受し、コミュニティ/友人/家族を大切にする。そんな生き方は楽しいものです。皆さんの中から新しいリーダーが生まれる事を期待しています。
※本章は自然/芸術への強い愛着が感じられる。
<作る喜びを取り戻す>-ダグラス・スミス(政治学者)
○なぜ限界が信じられないのか
・池田香代子『世界がもし100人の村だったら』は、日本で大変売れた本です。これは環境学者ドネラ・メドウスが書いた文章が、インターネットで徐々に書き直されたものです。当初は環境問題だったものが、格差問題が中心に変わりました。
・講師(スミス)は、なぜ日本でこの本が売れたのか興味を持ちました。「あんな酷い所に生まれなくて良かった」と云う自己満足から売れたのでは、と思ったからです。
・1972年メドウスは『成長の限界』を書いています。この本は「経済成長には限界がある」とし、「このままでは自然環境を破壊し、世界的危機になる」と書いていました。出版当時は新鮮でインパクトを与えたのですが、今では毎日同じような記事を新聞が書き、「狼少年」になっています。
・メドウスの主張は、日本の政治家/官僚/経済学者には馬耳東風です。”ゼロ成長”になった時、講師は良い機会と思いましたが、政治家は”危機的な状況”と判断し景気対策を実施しました。また国民も政権交代を恐れ、”プラス成長”を願うのです。
○自然なしで生きられるか
・1時間で3つの種が絶滅していると云われます。上空に高度を上げると酸素が薄くなり、地中を掘れば岩盤になります。この範囲が生物圏です。木を伐りアスファルトの道路を造ると、その下に生物はいられなくなります。
・政府の経済成長政策は変わりません。ある日本のサラリーマンに米国の印象を聞くと、「まだこれから成長する国」と答えました。理由は「まだ森がある」です。
・漫画/SFが描く未来像に自然はなく、人工的な構造物だけが立ち並ぶ風景になっています。人間は科学技術を万能と信じているみたいです。これも「経済成長」を諦めきれない理由です。
○消費社会の中での幸福
・「経済成長を諦めろ」は、「禁欲主義になれ」と言われているようで、それは「豊かさ」を捨てる事で、中々決心できません。そこで「幸福」「豊かさ」を考え直す必要があります。
・東京で「You are what you buy」(買物であなたが作られる)と書かれたポスターを見ました。また”人”と”物”が太字で、「人は物を買うと人物」のコピーもありました。何れも消費を美化したものです。会社は「幸福の追求」を「消費の追求」に置き換えているのです。
・ある社会学者は「スーパーマーケットには催眠術を掛ける力がある」と書いています。講師にも「鉛筆/消しゴムを買うつもりでスーパーマーケットに入ったが、出る時には大きな袋を下げ、なぜそれを買ったのか記憶がない」と云った経験があります。
○苦しい労働、楽しい労働
・ILOが1日8時間/週40時間の労働時間を決めたのは「第二次世界大戦」以前です。しかし日本の労働時間は増える傾向にあります。サラリーマンの一生は、ほとんど仕事をしている事になります。
・講師は大学で「マルクス主義」を教えていました。マルクスは社会主義については、ほとんど書いていません。彼が書き残した99%は資本主義についてです。彼は「疎外された労働」により商品が作られ、それを販売し、「余剰価値」が生まれ、それが会社/株主のものになり、それを「搾取」としました。彼は労働を、会社に管理される「疎外された労働」としました。
・同じ頃、アーティストのウィリアム・モリスは小説『ユートピアだより』を書いています。そこには”楽しい労働”が書かれています。彼はマルクスなどと違い、自分で料理をし、絵を描き、大工をしていました。彼は”管理されない労働”を知っていたのです。
・子供は積み木をしたり、砂場で何かを作ったり、絵を描いたりします。ものを作るのが楽しい事を知っています。何年か前、友達と山小屋を作りました、大変楽しかった思い出です。
・今の社会にも、自由に働く楽しみが隠されているのです。「You are what you make」(自分が作ったものが、自分のアイデンティティを形成する)です。※良い言葉だ。
○幸せと豊かさのリスト
・消費社会の弊害は他にもあります。子供は試験地獄/受験地獄に置かれています。競争社会から解放されたら、どれだけ楽しいでしょうか。そうなれば友情を、もっと楽しむ事ができるでしょう。世の中が”競争原理”から”協力原理”に変わる事を期待します。
・人間が幸福であるためには、平和が大切です。日本は平和憲法により軍事行動を行っていません。しかし日本には米軍基地があり、その米軍は多くの戦争に参加しています。特に講師は沖縄に住んでいるため、「戦争に関わっておらず、平和である」とはとても言えません。
・講師は「幸せと豊かさのリスト」を作りました。これには自由に追加ができます。”ゼロ成長”でも幸せになれると考えています。
○Q&A
・質問)「正しい戦争」はありますか。
回答)国際法/国連憲章は「正しい戦争」を認めています。日本は憲法で「交戦権」を認めていませんが、自民党政府は「自衛権」を認めています。しかしこの「正しい戦争」により、20世紀に2億人の人が亡くなっています。その多くは婦女子などの非戦闘員です。近年のアフガニスタン/イラク/湾岸戦争でも一番殺されたのは非戦闘員です。さらに驚くべき事に、国が多くの自国民を殺しています。国によっては自国民を抑圧するためだけの軍隊を持っています。
どの戦争でも国は自衛戦を主張します。「正しい戦争」を認めるのは危険です。あらゆる戦争を認めてはいけません。
・質問)日本、特に沖縄に住んで変わった事は何ですか。
回答)1961年大阪外国語大学の先生になり、日本に住み始めます。当時「安保運動」が盛んで、学生に「私達は戦争を知っている。私達は二度と戦争に行かない。それは憲法にも書いてある」と散々聞かされました。その後数十年経つと、「憲法に書いてあるから、私達は戦争できない」に変わりました。
7年前に沖縄に移りました。沖縄を一言で言うと「植民地」です。琉球に軍隊を送り、政府を潰し、同化させたのが始まりです。今でも「植民地」としての顔が見えます。沖縄には米軍基地があり、「沖縄には、まだ平和憲法が入ってきていない」と感じます。
・質問)今の社会では「疎外された労働」から逃れられないと思いますが。
回答)戦後の日本人には、破壊された日本を作り直す大義名分や、戦争への罪悪感から勤労にいそしみました。また家/食べ物/衣類などを得るのは楽しみでもありました。ところが今は必要でないもの、ガラクタまでも作っています。ポルノ雑誌/添加物入り食品/不要な飾りなどです。
残念ながら講師は「疎外された労働」を解消するプランを持っていません。しかし学生には「勉強」して欲しいです。今の社会がどのような状況なのか、「勉強」して欲しいです。
・質問)経済学部の先生と親しいのですが、先生に「お金を、いつまで信じるの」と問うと、「経済があるから環境がある」と答えます。
回答)「経済があるから環境がある」の本意は分かりませんが、経済をなくす事はできません。中国人は”働”と云う漢字を良く作ったもので、”人が動く”と書きます。子供は砂場に行くと、色々なものを作ります。人は木から家を作り、砂/鉱物からダム/橋を造ります。人が自然環境を壊しているのは、客観的な事実です。
※戦争の問題は難しいですね。身近でないので危機感がない。
<おわりに>-辻信一
・今、著者の周りは”GNHブーム”です。2006年コーディネーターを務める「GNH-豊かさを問い直す」(GNH研究会)は、明治学院大学の研究プロジェクトとして始まりました。世話人を務める環境・文化NGO「ナマケモノ倶楽部」はGNHキャンペーンを始めました。
・ブータンでは憲法にGNHが記されました。世界あちこちで豊かさ/幸せを示す新しい指標が模索されています。英国キャメロン首相は、指標「GWB」(ジェネラル・ウェルビーイング、総合的幸福)を作りました。これは「家族との安らかな時間」「地域の自然環境の豊かさ」「各人がコミュニティで果たす役割」が軸になっています。
・経済学者にも、環境/平和/コミュニティを重視する「幸せの経済学」を提唱する人が急増しています。講師をされたホッジは、映画『幸せの経済』を製作しています。同じくクマールは雑誌『リサージェンス』で、GNPからの脱却に貢献しています。
・2008年北海道で「G8サミット」が開かれます。これらの国は、今の危機的な状況に一番責任を負う国です。”G”は”Greedy”(貪欲)の”G”と思っています。そんな国が集まって世界の行方を決めるのは、有難くありません。いっそ、最も幸せな8ヶ国が集まって「H8サミット」を開いてはと思います。※笑った。
・なお本書は明治学院大学で行われた講演/講義が基になっています。