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『失敗の法則』池田信夫(2017年)を読書。

様々な失敗事例から、日本の組織/社会に内在する失敗要因を解説しています。
日本はボトムアップが主旨です。

本書を読むと政治家の無力を感じてしまう。やはり日本は官僚国家かな。

<はじめに>が抽象的なので心配したが、その後は一般的な見解で分かり易かった。

新しい本なので、キーワードを含め新しい情報と云える。

お勧め度:☆☆☆(一部専門的な記述がある)

キーワード:<はじめに>長期停滞、暗黙知、<優秀な兵士と無能な将軍>中間管理職、労働生産性、<現場が強いリーダーを許さない>東芝、カリスマ、パソコン部門、原子力部門/原発事故/オプション契約、日本航空(JAL)、<部分が全体を決める>霞が関、権力分立、合議、稟議、押込、日本軍、一夕会、現場主義、統制派、参謀本部/陸軍省、短期決戦、情報の非対称性、<非効率を残業でカバーする>電通、自殺、共有知識、流動化/正社員/終身雇用、家、<空気は法律を超える>福島原発事故、廃炉/除染、支援機構、原子力規制委員会、原子力村、VHF帯/UHF帯、電波共同体、貸し借り/贈与、科挙/法の支配/政治主導、関係業界、<企業戦略は出世競争で決まる>朝日新聞、慰安婦問題/鈴木則雄、本流、大衆紙、権威、<サンクコストを無視できない>使用済み核燃料、燃料再処理/国策民営、核燃料サイクル、豊洲市場、ポピュリズム、テレビ、<小さく儲けて、大きく損をする>バブル崩壊、イトマン事件/住友銀行、山一證券/ビック・バン、国債バブル、<軽い神輿は危機に弱い>官僚主導/政治主導、社会保障、ガラパゴス国会、大日本帝国憲法(明治憲法)、元老、主権者/代理人、教育勅語、<勤勉革命の終わり>資本集約型/労働集約型、社員、産業革命、イノベーション

<はじめに>
・プロ野球の野村克也は「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と言っています。この出典は江戸時代の大名・松浦静山の剣術書『剣談』です(※剣術書なんだ)。ビル・ゲイツと同じ事をしてもビル・ゲイツにはなれない。

・負けには法則性があるので、集めると「失敗の法則」が見えてくる。日本経済は「長期停滞」し、その原因は「生産性が低い」「イノベーションがない」などとされるが、具体的には「何をすべき」なのか。
・IT分野での勝負はつき、日本の製造業も勢いを失った。日本の高度成長は偶然が重なった「不思議の勝ち」であり、今の「長期停滞」は「不思議の負け」ではない。

・この原因は「暗黙知」が時代遅れになったためと考えている。日本は「暗黙知」を「技」「すり合わせ」と誤解している。マイケル・ポランニーの云う「暗黙知」は「人々が潜在的に共有している暗黙の前提」である。※ややこしい話になってきた。
・日本の失敗を論じた本に『失敗の本質』(1984年、野中郁次郎ほか)があるが、当書は個々の分析はされているが、抽象化がされていない。本書は「失敗の法則」を抽象化し、具体的な事例で検証してみる。※この先不安。

<エピローグ 優秀な兵士と無能な将軍>
・1939「ノモンハン事件」でソ連軍の司令官は、「兵士/青年将校は頑強だが、高級将校が無能である」と評している。これは日本の企業も同様で、どんな無理でもする労働者が、無能な経営者をカバーしている。

○日本の会社は縦にも割れていない
・著者がNHKに勤務し始め、「なぜこんなに中間管理職が多いのか」疑問に思っていた。自分が中間管理職になって、それが分かった。中間管理職が集まり、連日「打ち合わせ」が行われているのである。※業種によると思う。
・「NHKは当たり前の事しか放送しない」と言われるが、それはこの「打ち合わせ」で、部長クラスが分かる事しか残らないからである。

・日本の管理職は責任を分散させるのが仕事になる。そのため「調整型」の人間が出世競争で生き残る。優秀な人はプライドが高く、調整ができないので出世しない。
・日本の官僚を「縦割り」と云うが、正確にはその「縦割り」を繋げる調整型の人が管理職になっている。※官僚と会社では違うかな。
・日本の社員は自発的に精力的に仕事をしますが、海外のスタッフは、上司が命令しないと動かない。※らしいね。

○労働生産性はなぜ低いのか
・この20年、日本の名目GDPは米国の70%から26%に縮小、英国の4.3倍から1.5倍に縮小した(※こんなに!1/3だ)。1人当たりGDPは世界27位で、G7で最低である(!)。なのに危機感がないのは、役所/大企業/マスコミ/老人の生活水準が高いためである。1千兆円を超える政府債務が彼らを支えている。
・日本の貧困層は若者/女性に偏っている。非正規社員の比率は40%を超えている。彼らが労働生産性を支えている。日本の労働者の能力は世界最高水準にある。それなのに労働生産性が低いのは、資本市場/労働市場が機能せず、効率の悪い企業が多く残っているからである。

※「市場が機能していない」、これが答えかな。労働市場の流動化を進めても、経営内容が変わらなければ、生産性は高まらない。結局労働者をますます貧困にするだけ。

<法則1 現場が強いリーダーを許さない>
・日本には後醍醐天皇/織田信長などの「強いリーダー」の待望論があるが、田中角栄/小沢一郎など、彼らは必ず潰される。それは「現場が優秀」のためである。この「現場が優秀」は従来型の製造業では有利であった。

-東芝を暴走させたカリスマ社長-
○決算の粉飾
・東芝は2017年3月決算で1兆円の最終赤字を計上する見通しだ。この最大の原因は原子力事業の損失にある。東芝は弱電/重電を持つ総合電機メーカーで、「和」を大事にする「公家さん会社」である。

・2005年西田厚聡が社長に就任する。2008年パソコン事業で184億円の営業赤字を出すと、この”カリスマ社長”は「最低100億円やれ」と”チャレンジ”(粉飾決算)を指示した。この時使われたのが、海外から部品を安く調達し、下請けに高く買い取らせる”バイセル取引”(飛ばし)である。
・このように現場を知らないリーダーがトップに立つと、長年の「貸し借り」の関係(?)が崩れるのである。
・日本でこのような不祥事が起こると「ガバナンスがない」と批判されるが、東芝は委員会設置会社であった。日本の会社はガバナンスで動いているのではなく、「空気」で動いている。

○傍流から社長に
・西田は東京大学大学院の法学政治学研究科の修士課程でフッサール、博士課程でフィヒテを研究する。妻がイラン人で、イランで東芝に採用される。
・1980年代、東芝ヨーロッパの販売部門の責任者に就く。当時世界にノートパソコンはなく、東芝のパソコン部門の責任者・溝口哲也がそれを開発した。本来新製品は常務会の承認が必要だったため、そのノートパソコンは海外専用機として西田が責任者の欧州で販売された。
・当時の社長・西室泰三がこれを評価し、2005年西田は社長に就任する。

○高く評価された原子力部門買収
・2006年西田はWHを買収する。東芝の原子炉は沸騰水型(BWR)であったが、WHは加圧水型(PWR)の最大手であった。彼は原子力部門の売上を1兆円(当時2千億円)に増やすと発言した。
・当時地球温暖化から原子力は注目され、中国はWHの新型原子炉を60基発注する予定であった。2010年鳩山内閣の「エネルギー基本計画」でも原子力の比重を50%以上にする方針であった。

・ところが2011年「福島第一原発事故」で西田のビジョンは狂う。2013年社長・佐々木則夫は「原子力部門は、サービス/燃料事業で安定利益を上げる」を方針とするが、成長が望めない部門となった。

○浮き上がるワンマン経営者
・西田の決断が成功した例も多い。次世代DVDで「HDD DVD」と「ブルーレイ・ディスク(BD)」の競争があったが、2008年彼は性能で勝る「HDD DVD」から撤退している。

・彼は2014年まで会長を務める。それは2010年退任する「日本経済団体連合会」御手洗会長の次を狙っていたためとされる。しかし「日本商工会議所」会頭に東芝相談役・岡村正が就いていたため、あり得ない話で、ワンマン西田は東芝で浮いていたのではないだろうか。

○オプション契約で負った無限責任
・「福島第一原発事故」により米国の「原子力規制委員会」(NRC)は安全性の見直しを求めた。当時WHは米国で原発4基を工事していたが中断し、工期が2年以上遅れる。工事をしていた「ストーン&ウェブスター」(S&W)がこの損害を負担するが、S&Wはその賠償を受注元のWHに求める裁判を起こす。そのためWHはS&Wを買収する事になる。

・電力会社に対する損害賠償は、当初1億ドルと予想されていたが、61億ドルにも上った。電力会社は原発工事を「固定価格オプション」で契約しており、事故など何らかの問題が生じた場合、これを行使すると、増えたコストは全て受注会社が負う事になる。日本では「不測の事態が生じた場合、双方が誠意を以て協議する」のが一般的で、米国と文化的にギャップがある。※リスクファイナンスかな。

○総合電機メーカーの終わり
・2015年「不適切会計」が発覚する。これは原子力部門の巨額損失を、他の部門で穴埋めしようとした事が原因である。

・米国でも日本でも、ソフトバンク/ファーストリテイリングなどのオーナー企業なら「強いリーダー」は成功するが、東芝などの大企業では上手く行かない。日本は封建社会の頃から小家族化で生産性を高めてきた。大家族の上にカリスマが存在する体制は短命に終わるのである。後醍醐天皇は3年、織田信長は5年、田中内閣は2年余りしか持っていない。東芝で噴き上がった内部告発は、カリスマへの反発だったと思う。

※東芝の本は読んだと思うがほとんど記憶にない。※日本は合議制の国かな。織田信長/豊臣秀吉は短命に終わり、徳川家康の徳川幕府は300年近く続いた。今日では日産ゴーンが問題になっている。

○BOX-約束を破るメカニズム
・2010年日本航空(JAL)は「会社更生法」の適用を申請し、企業再生支援機構が3500億円出資(公的資金)し、法的整理された。JALは国策会社のため、地方空港への赤字路線を多く持ち、従業員の給与は高く、客室乗務員はタクシーで送迎される状況であった。
・その後JALはV字回復し、2012年過去最高の2049億円の営業利益を出す。その要因は銀行債権の大幅カット、1万5千人の人員整理などであった。またリース価格を高めに見込んで、値引き分を利益計上していたが、この「お化粧」を止めて、設備費/燃料費を節約したら、1千億円節約できた。
※この節は専門的なので、解釈が間違っているかも。

<法則2 部分が全体を決める>
・日本は「分業」し、部分最適で意思決定する体制を得意とする。しかし情報産業のよう特定分野に特化し、グローバルに水平展開する体制は不得意である。この問題は分業が固定化された公務員にも当て嵌まる。

-霞が関の不思議な世界-
○天皇の官吏
・著者は2001年から3年間、独立行政法人「経済産業研究所」に勤務した。その時感じたのは「霞が関は民間と全く異なるルールで動いている」であった。同研究所では、「検認」と呼ばれる作業に膨大な時間を要している。「検認」は健康保険証/被扶養者申告書/給与所得証明書などに押印するだけの作業である。これを毎年、公務員/独立行政法人職員110万人に行っている。

・霞が関の看板に「官衙」と書いてあった。要するに「天皇の官吏」であり、根底に儒学的エートスがある。中国では権力の正統性を示すため「科挙」が行われた。「科挙」は「四書五経」の暗記や文書能力が問われる試験である。合格者は人口3万人に1人の超エリートである。中国の官僚は「君子は器ならず」(論語)で、臨機応変の能力が必要とされた(※官僚=君子?科挙=臨機応変?)。そのため「士大夫」(科挙官僚)は、個別の行政知識を持つ「幕僚」(ノンキャリア)を従えた。

○官僚の正統性を支える科挙の伝統
・日本は「科挙」を輸入しなかった。それは武士による軍事政権であったためである。日本では江戸時代になり、武士が字を読めるようになった。日本は300の”国家”(藩)に分かれ、独自の法/税制で統治された。
・明治維新により中央集権化され、初めて官僚機構が導入された。日本も東京大学法学部を頂点とする「メリトクラシー」(能力主義)が導入された。

○権力分立の弱点
・国民の文書能力が上がると東京大学法学部の権威は低下してきた。日本には2種類の政治家(永田町、霞が関)がいるが、法律的には前者が優位だが、実際は圧倒的に後者が優位で、全体をコントロールしている。そのため日本の国家機構は三権分立ではなく、各省の権力分立である。

・日本の法律は相互依存性が高く、1本の法律を改正すると、何本もの改正が必要になる。「個人情報保護法」には1800本もの関連する政令・省令がある。

○全員が拒否権を持つ
・日本の意思決定は「リゾーム」(根茎)と云える。まず関係官庁全てで合意され(合議、あいぎ)、その後事務次官会議に進み、閣議に上がる。事務次官会議に上がった法案が否決される事は、まずない。簡潔に言うと、「合意によるボトムアップ」である。著者が携わった「NHKスペシャル」でも同様であった。

○決定者のいない稟議
・日本には欧米にない「稟議」システムがある。法案は課長補佐が「稟議書」を作成し、課長がこれを持って政治家と調整する。

・日本は江戸時代からボトムアップで意思決定された。三河岡崎藩水野家では藩政改革を試みた藩主を、家臣団が座敷牢に押し込めた(押込)。若く隠居する藩主が多いが、これらは「押込」と推定される。この「押込」の原因は、①文字通りバカ殿、②改革に対する家臣の抵抗である。他に下野黒羽藩大関家/出羽上山藩松平家などの例がある。※一杯ありそう。
・日本は戦前に「強いリーダー」がいなかったため、戦争に邁進したのである。※近衛/東郷はそうなのかな。

○行政国家の生む部分最適
・このような行政国家では、外部からチェックできない部分最適に陥る。欧州では国王を法的に拘束するため「議会」が生まれたが、日本は内部で処理する「稟議」システムになった。
・このシステムでは現場の意思が反映されので、士気を保てる。幕末に外国に柔軟に対応できたのも、明治維新が実現できたのも、明治以降の失敗も、全てこのシステムによる。関東軍の暴走は、石原莞爾などの中間管理職によって行われたのである。
・このシステムは超民主的な意思決定システムである。「稟議書」は江戸時代から現代に至るまで残存している。※日本はかつてから民主的なのか。

※今の安倍内閣は官邸主導と云われ、これに対し忖度が見られるが。これは官僚が踊らせているだけかな。
※脱官僚主導の本は何冊か読んだ。官僚の場合、予算や天下り先を多く取った人が評価される、これは民間と逆である。

-日本軍を暴走させた現場主義-
○「統帥権の独立」は魔法の杖か
・日本軍は最高のエリートであったが、1930年代以降「失敗のデパート」になる。この原因とされるのが「統帥権の独立」である。この「統帥権の独立」は、政党内閣制になり、政党により軍事クーデターが起こされる事を警戒したためである(?)。実際は「現役武官制」により、内閣における軍部が力が増したことが原因であろう。

○中間管理職が戦略を決めた
・昭和初期元老に代り、軍の主導権を握ったのが、「一夕会」に集まった40人の佐官級幕僚であった。このメンバーに陸士(陸軍士官学校)15期-河本大作、16期-永田鉄山/小畑敏四郎、17期-東条英機、18期-山下奉文、21期-石原莞爾、25期-武藤章/田中新一などがいる。錚々たるメンバーであるが、彼らは中間管理職である。
・愚かな日米戦に突入した原因は、永田/石原らの「軍事的合理性による政治介入」であった。彼らは対ソ戦を強く意識し、総力戦体制を国家戦略としていた。この頃のクーデターのほとんどに「一夕会」が関係している。このメンバーで生き残ったのが東条である。
・日本軍は現場主義で、彼らの部分最適が全体を支配したのである。犬養毅/高橋是清などの政治的リーダーは暗殺され、近衛文麿のような首相しか残っていなかった。

○出世競争と派閥抗争
・陸軍には統制派/皇道派などの派閥があった。統制派は永田/石原などの佐官級の中間管理職、皇道派は荒木貞夫などの将官級と権限のない青年将校で、最初から勝負は見えていた。
・1930年代前半、統制派の中心は永田であったが、1935年皇道派の青年将校に暗殺される。翌年皇道派が「二・二六事件」を起こし、これを統制派が鎮圧する。しかし統制派の東條は人事は得意だが戦略がなく、石原は戦略は大きいが人望がなかった。※統制派なのに軍を統制できなくなったのか。

○情報の共有できない軍隊
・南方に戦線を拡大した事で、米国は石油禁輸などの制裁を下す。参謀本部と陸軍省は同格で、参謀本部作戦部長・田中新一と陸軍省事務局長・武藤章は対立していた。1941年9月御前会議で日米開戦の方針が決定する。武藤は外交交渉の道を探ったが、近衛首相は「戦争に自信がない」と政権を投げ出し、東條陸相が首相に就く。
・参謀本部と陸軍省で情報共有はされなかった。参謀本部は膨大な戦力を必要とする作戦を立て、一方陸軍省はそれを抑制するため補給を絞った。「日本は補給を軽視した」のではなく、「補給の情報がないまま作戦を立てた」のである。その結果、戦死者の半数が餓死/病死となった。

○短期決戦の思想
・1941年11月「対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案」に当時のコンセンサスが記されている。米国の戦力は構築途上であり、長期戦になると補給が不足する事から、短期決戦は合理的だった。
・1940年「日独伊三国同盟」が結ばれた時、司令官・山本五十六は近衛首相に「やれと言われれば、半年や一年は暴れて見せよう」と言っている。もしこの時「勝てない」と言っていれば、日米開戦はなかったかもしれない。※山本が美化されるのは、米軍と戦ったため。

○真珠湾攻撃と云うギャンブル
・「真珠湾攻撃」はギャンブル性が高かったが、結果としては成功した。図上演習では敵に迎撃され、損害が大きかったため、軍令部は反対していた。宣戦布告は外務省の手違いで、開戦の1時間後に手渡されている。
・山本はこの奇襲攻撃で米軍の戦力を消耗させ、講和に持ち込もうと考えていたと思われる。しかしこの奇襲攻撃で米国の世論が高まり、米軍は迅速な戦力化を成した。「近代戦での最強の武器は、国民世論である」と云える。日本軍は「現場主義」の成功と失敗を、劇的に示したのである。※部分最適と全体最適か。

※戦争責任は参謀本部にあったとされる。そのため今の自衛隊ではシビリアンコントロールが重視されている。

○BOX-情報の非対称性と現場主義
・トップダウンが機能するのは、トップに情報が集中している場合に限る。通常は現場が情報が独占しているので、経営者は現場に任せる(情報の非対称性)。
・古来から名目的な主権は天皇に、実権は摂政・関白/将軍にあり、天皇制は洗練されたシステムである。このシステムは今の日本にも遍在する。株式会社の名目的な主権は株主にあるが、実権は経営者にある。
・「事業部制」は松下幸之助が始めたイノベーションと云われる。情報は各事業部に分散され、各事業部の自律性も保障される。情報の非対称性が大きい方が、経営者のインセンティブが強まる(逆では?)。「事業部制」は雇用が安定している時は柔軟に対応できるが、トップの力が弱いので雇用の削減は難しい。※こんな解釈で良いのか。

<法則3 非効率を残業でカバーする>
・「過労死」は日本独特の現象とされるが、長時間労働はどこの国にもある。外資系企業では管理職は夜遅くまで働く。日本のキャリアも同様である。日本に特徴的なのはブルーカラーまで残業する事である。これは日本の労働者が、長期雇用で企業に囲い込まれているためである。

-電通に残る江戸時代の働き方-
○なぜ女性社員は自殺したか
・2015年クリスマス、電通で新入社員の高橋まつりさんが社員寮で自殺した。「過労自殺」はそれ程珍しくなく、2015年度は199件あった。彼女は月100時間程度残業しているが、これも珍しい事ではない。この事件をマスコミが派手に取り上げた要因に、電通/東大卒/美人などがある。
・彼女のツイッターを見ると、正常な判断が失われているのが分かる。10月13日「休日返上で作った資料をボロクソに言われる」、10月14日「眠りたい以上の感情を失った」、12月9日「1日2時間の睡眠はレベルが高い」、12月17日「遺書メールのCCに誰を入れるか考えた」などである。

・日本の自殺率と失業率は相関関係にある。1998年自殺者数は一挙に増えて3万人を超えた。この時失業率も3.4%から、4.1%に上昇している。前年に北海道拓殖銀行/山一證券、同年に日本長期信用銀行/日本債権信用銀行が破綻し、最悪の年であった。

○自殺率は失業率で決まる
・「過労自殺」でいつも思うが、会社を辞める選択はなかったのだろうか。自殺の原因は鬱病などの精神疾患のため、合理的に説明できないが、「会社と人生が一体化」していたからであろう。彼女は東大卒なので、「今頑張れば、将来は」の気持ちもあったと思う。
・この頃、電通は「ネット広告の不正請求」で111社(633件)から訴えられていた。彼女のデジタル・アカウント部にはその苦情が入っていたと思われる。「新卒一括採用」の日本では中途退社は不利になる。

・日本は失業と自殺が相関関係にあるが、スウェーデンは全く無関係である。1992年金融危機で失業率が2%から10%に激増したが、自殺率は無関係に減り続けている(※元々北欧は自殺率が高いはず)。北欧は失業給付が充実しており、失業中でも就業中と変わらない所得がある。
・日本の失業と自殺の相関関係は、男性に限られる。また日本の自殺率は旧社会主義国に次いで高い。日本では会社は単なる職場ではなく、個人のアイデンティティになっている。※よく言われる。

○働き方が間違っている
・「電通事件」の根本的な原因に、広告代理店と云う時代遅れの仕事にある。今や広告の中心はインターネットにある。グーグルの時価総額は72兆円で、電通の45倍に達している。
・電通は新入社員を明け方まで働かせ、マスコミが「ブラック企業」と指弾しても、「労働基準監督署」が是正勧告しても直らない。そのマスコミ/中央官庁自体が長時間残業/サービス残業で悪名高い職場である(※笑った)。エリートほど自発的に残業する。
・この原因に会社の「空気」(暗黙知)がある。経済学では、これを「共有知識」と呼ぶ(※また難しくなりそう)。正社員は定年まで勤める事を知っているので、命令しなくても残業する。「空気」を共有しない契約社員は定時で帰宅する。

・製造業では「共有知識」が重要になる。自動車の部品は1万点以上あるので、個々に契約していては、膨大な契約になる。そのため少数の部品メーカーと”長期間”の契約を結ぶ。
・日本の製造業が強いのは、この長期雇用などの「共有知識」のお蔭である(※バブル前、日本型経営が注目された)。銀行はその製造業に寄生していた。しかし今日製造業は生産拠点を海外に移し、「共有知識」は無駄になった。しかし雇用慣行は残った。

○サラリーマンは会社が嫌い
・空気を変えるのは難しい。OECDは労働基準法/労働契約法で、解雇基準の明確化や金銭的補償による「雇用の流動化」を提言している。
・また彼女のような幹部候補生は、長時間残業/サービス残業で実績を作ろうとする。電通などの「ブラック企業」を血祭りに上げるのは逆効果で、政府は「正社員」と云う規範を否定し、労働者の外部オプション(?)を増やし、退出規制を下げる必要がある。

・日本の高い自殺率は、社会の根底にあるストレスの蓄積を示している。日米のサラリーマンにアンケートを取ると以下の結果となった。「会社のために、言われた以上に働く」日本54%/米国74%。「自分の価値と会社の勝ちは一致する」日本19%/米国41%。「今の状況を知っていても、今の会社を選ぶ」日本23%/米国69%。日本人は今の会社に不満を持っているが、それでも辞められないのである。
・日本も戦前は雇用の流動性が高く、平均勤務年数は5年以下であった。戦後、生産性を高めるため、「終身雇用」となった。企業年金/退職一時金は「終身雇用」が前提で、転職すると、これを失う。政府は福祉の負担を会社に押し付け、失業保険/生活保護は手薄で、失業した場合の救済手段はほとんどない。

○勤勉革命の伝統
・この日本の働き方は、中世の「家」に由来する。江戸時代、この「家」は親子三代の小家族になった。「家」の自律性は高く、男子がいない場合は養子を迎えた。これは労働集約的な農業で、「勤勉」により生産性を高めるシステムで「勤勉革命」と呼ばれる。この「勤勉革命」が300年続き、これが日本人のエートスになった。※勤勉を革命にするのか。※勤勉革命は以下で重要になります。

・日本が近代化されても、このエートスは残り、工場では長時間労働で高品質を成し、日本軍は貧弱な装備を「大和魂」で補った。日本の会社は、「家」を引き継ぐ「家族主義」で経営された。しかし90年代グローバル化が始まると、「家」システムは限界に達する。会社中心の「家」システムから、個人中心に変えるしかない。

※雇用の流動化/非正規化は進んでいるが、社会保障が付いてきていない感じ。

○BOX-長期的関係と共有知識
・ゲームの理論に「囚人のジレンマ」がある。相手が「協力」した場合、自分が「協力」すると利益は2、「裏切」ると利益は3である。相手が「裏切」った場合、自分が「協力」すると利益は0、「裏切」ると利益は1である。よって何れの場合も「裏切」った方が得である。
・しかし双方が「裏切」を選択すると、双方の利益は1となる。しかし長期的関係を成立させ、共有知識を持ち、双方が「協力」を選択すると、双方の利益は2となる。

     相手
     協力 裏切
自分協力| 2 | 0 |
  裏切| 3 | 1 |

※自分の利益のみ表記。相手も自分と対称。

<法則4 空気は法律を超える>
・1945年戦艦大和は特攻出撃を行い、九州近海で撃沈される。これを命じた軍令部次長は、戦後「全般の空気から、当時も今日も特攻出撃は当然と思う」と述べている。日本社会に遍在する「空気」とは何だろうか。

-東電を束縛する空気-
○21.5兆円の請求書
・目的合理性を考えないで、「空気」で意思決定するのが日本の特徴である。1967年「公害対策基本法」の目的に「経済の発展と調和を図る」と規定されていたが、1970年野党の反対でこの条文は削除される。これにより「イタイイタイ病」の原因とされるカドミウムの除染に、8千億円が投じられた。またダイオキシン対策として、全国のゴミ焼却炉の改造に数兆円が投じられた。

・同様の「空気」が「福島原発事故」にも見られる。当初は除染の「追加被曝線量」を年5mmSv(ミリ・シーベルト)としたが、地元の反対で1mmSvに下げた。この数字に科学的根拠はない。
・2016年12月経産省は廃炉や賠償などの費用が21.5兆円になると試算した。この費用に東電以外の電力会社も「託送料」から徴収される事になった。
・東電の負担は15.9兆円だが、不足分は40年間(2020~59年)、廃炉費用は30年間で払う事になった。この約16兆円を東電の利用者に割り振ると、1世帯当たり80万円の負担になる。※こんなの払えるの。

○廃炉や除染は本当に必要か
・21.5兆円の内、8兆円が廃炉費用である。原子炉に残っている「デブリ」の除去を20年代に始め、40年代に終わらせる計画であるが、「デブリ」はそのままにして、「石棺」にする方が経済的である。今の対策は地元を意識したものと思われる。※私達に判断能力はないが、今の廃炉対策は適切なのだろうか。
・廃炉費用の内、2兆円は「汚染水」の処理費用である。この水は国の水質基準を満たしているが排水せず、100万トンのタンクに貯水し、毎日3千人が除染作業している。

・除染費用は4兆円に達している。「原状回復し、住民を帰還させる」が目的であるが、過疎地に膨大な税金を使う意味があるのか。それよりも被災者の新しい生活を支援する方が効果的と思われる。
・人的被害がなかったので、賠償は風評被害が対象になるが、これは朝日新聞「プロメテウスの罠」など、マスコミが騒いで作り出したものである。

・東電の負担は約16兆円だが、これを実際に負担するのはフィクションである。2013年「汚染水問題」が表面化した時、安倍首相は「私が責任者として対応する」と述べ、「凍土壁」を建設する事になった。しかし「凍土壁」は今だ機能していない。※結局大企業に税金が回ってるだけかな。

○支援機構と云う無責任体制
・このように筋違いの対策の原因は、民主党政権にある。「原子力損害賠償法」に、「政府の負担の上限は1200億円」とあるが、但し書きに「異常に巨大な天災地変は、この限りではない」とある。民主党政権は、この免責事項を適用しなかったのである。また東電の勝俣恒久会長も、裁判で勝てないとみて、この適用を求めなかった。
・さらに勝俣会長は「会社更生法」の適用も申請しなかった。それは経産省の事務次官が銀行団に暗黙の債務保証をしたためである。これにより東電を生かしたままスケープゴートにする無責任な支援機構が作られた。

・支援機構は電力会社12社と政府が半額ずつ出資する特殊会社である。東電は賠償を特別損失に計上し、これに政府が交付国債(?)で資金を立て替える。東電はこの資金を特別利益に計上し、通常業務と分離する。
・東電は支援機構に毎年700億円の「特別負担金」を払い、他の電力会社も毎年1600億円の「一般負担金」を払っている。

○原発を止める3枚のメモ
・2011年5月菅首相の要請で浜岡原子力発電所は停止する。これに法的根拠はなかった。その後も全ての原子力発電所が運転を再開できなくなった。
・2012年「原子炉等規制法」に「発電用原子炉施設は原子力規制委員会規則に適合するように維持する事」が追加され、2013年7月からの施行となった。2013年3月原子力規制委員会の田中俊一委員長は「7月に新規制が施行されても、9月まで運転を認める」田中私案を出した。これは大飯原発の運転を認めるものだった。
・2014年2月政府は「原発再稼働に関する政府答弁書」を閣議決定する。これには「原子力規制委員会に、再稼働を認可する規定はない」とあった。しかし田中委員長は民主党政権に迎合し、全ての原発を止めるように安全審査を運用する。
※この節は難解だったが、原発が止まったのは安全審査を厳しくしたためか。

○原子力村を動かす忖度
・原発停止などの質問を電力会社にすると「法令で決まった事ですから」と答える。しかし田中私案は、正しくは法令ではない。この役所を「忖度」する官民関係を「原子力村」と呼んでいる。規制産業には、他に「通信村」「放送村」がある(※そうなんだ)。監督される企業は監督官庁より多くの情報を持っているため、監督官庁を操っている。
※原子力村って産官学の癒着だったような。同じかな。

・2000年代、電力会社と経産省は「電力自由化」で論争となる。結果、大口電力の新規参入は認められるが、「発送電分離」は先送りになる。電力会社が送電網を支配している限り、電力会社の優位は揺らがない。これは「通信自由化」でNTTがハンディを負わされたのと異なる。※電気料金の総括原価方式とかもあった。

○官民の共有する暗黙知
・規制官庁と規制される企業が闘うのは、どの国でも同じだが、米国では行政訴訟で闘う。しかし官民の敵対関係はなく、裁判で巨額の賠償を取った弁護士が、ロビイストとして規制官庁に出入りしている。

・一方日本では企業が役所に訴訟を起こす事はない。官民の利益が一致するまで話し合う。逆に企業の利益を保障し、「天下り先」を確保している。こんな無責任が通用するのは、国会に役所をチェックする能力がないためである。日本の政治家は役所に対し圧倒的な情報劣位にあり、原発の場合は電力会社と役所の中間管理職のコンセンサスで決まっているためである。
※日本はマンション建設でも道路建設でも、コンセンサスが取れてから次に進む。訴訟になる事はない。※日本軍と一緒だな。上の者はハンコを押すだけみたいな。

※会社更生法/民事再生法などは知っておいた方が良いな。※日本軍も役所も、中間管理職が意思決定している話は面白かった。

-忖度する電波行政-
○マルチメディア放送の破綻
・2015年11月NTTドコモ(以下ドコモ)のグループ会社は、マルチメディア放送「NOTTV」「モバキャス」のサービス停止を発表する。「マルチメディア放送」は3年半で破綻した。これらのサービスはアナログ放送が使っていたVHF帯の空きチャネルを利用していた。
・テレビ局はUHF帯をふさぐため、「地上デジタル放送」をUHF帯に移した。この無線局の移設に1兆円以上掛かったが、総務省が3千億円以上を補填した。本来この補填は違法であるが、「VHF帯を空ける」と云う理由で行われた。

・この空いたVHF帯の利用で総務省=ドコモとクアルコム=KDDIで争いになる。

○役所と業者の貸し借り
・2007年2.5GHz帯の割り当てが行われ、ドコモではなく、ウィルコムが当選する。これは「日の丸技術」のPHSを通したかった菅義偉・総務相の意向とされる。しかし経営破綻したウィルコムは、最終的にソフトバンクに買収される。これはソフトバンクの総務省への「貸し」となった。
・ドコモが2.5GHz帯の割り当てに落選したのは、外資(クアルコム)が参入しようとしているVHF帯をドコモに与える「バーター取引」があったからである。これにより電波監理審議会は、ドコモ=民放連グループに免許を与える答申をする。

○電波共同体のコンセンサス
・700MHz帯/800MHz帯の割り当てでも同じような問題が起こった。国際標準と異なる用途に割り当てたのである。これはノキア/クアルコムが第4世代の半導体で市場を占有しており、ドコモ/富士通/NECなどが国際標準に反対したからである。※5Gも安全保障ではなく、経済要因かな。
・つまり役所が決めているようで、官民の「電波共同体」が決めているのである。これは「原子力村」と同じ構造で、業者は「情報の非対称」を利用し、役所を操っている。

○八百長のネットワーク
・このように電波行政には前近代的な「貸し借り」「贈与」が残っている。これは日本の商習慣や相撲にも残っている。
・官民関係で最大の「貸し借り」は「天下り」である。これは役所が強制しているのではなく、企業が自主的に受け入れている。ドコモが赤字覚悟で「マルチメディア放送」を続けたのも、ソフトバンクがウィルコムを救済したのも、これに当たる。
・「貸し借り」「贈与」はアウトサイダーを排除するインセンティブにもなる。これはメンバーが固定されていないと機能しない。そのためオークションは脅威になる。

○議会なきデモクラシー
・中国の「科挙」は、全国民から公務員を試験で選ぶ、能力主義のシステムである。この目的は地方の豪族を解体し、皇帝が全国を直接統治するためであった。一方欧州は国王の力を抑制するため貴族が団結し、議会を立ち上げ、「法の支配」が成立した。公務員は国民に選ばれた議会に奉仕した(civil servant)。
・一方日本は「科挙」を真似た高等文官試験を採用したが、天皇は空虚な存在で、明治初期は元老がトップにいたが、大正期になると立憲政友会/立憲民政党の二大政党による「政治主導」になった。しかし官僚は地縁/金銭にまみれた政治家を信用せず、国家社会主義を報じる軍部と結び付き、議会制度は葬られた。戦後は関係業界が軍部に代わった。

・教科書では選挙で選ばれた国会議員が選んだ首相が行政を統率する事になっている。しかし実際は関係業界からの陳情を受けた官僚が政策を決め、政治家/国会はそれを承認しているに過ぎない。日本は議会からではなく、関係業界を通して「民意」が反映されている。
※これが日本の政治を経済界が動かしている仕組みか。政治家は情けないな。

※規制業界に村が多いのが納得できた。

○BOX-忖度は遺伝的な機能
・人間関係では「空気」を読む力(忖度)が重要である。この他人の意図を「忖度」する能力は、人間に遺伝的な能力であり、人間しか持たない。※集団生活する動物は持つのでは?
・また言語で文を組み立てる能力も人間しかない。「太郎がラーメンを食べる」「太郎がラーメンを食べるのを見た」「太郎がラーメンを食べた店」など、無限の組み合わせがある。これは遺伝的には習得しない能力である。また文字を書き、人に伝達する能力も「不自然」な能力で、後天的に身に付ける必要がある。
※この節は理解困難。忖度は先天的な能力で、言葉を聞く・話す能力/文字を読む・書く能力は、後天的な能力と云いたいのかな。

<法則5 企業戦略は出世競争で決まる>
・「日本は年功序列で競争がない」は間違いである。「本流」に残れるかの熾烈な競争があり、30代で「本流」に残るために必死で働く。出向先にもランクがあり、人事部が順序を決めている。この競争で残った人が企業戦略を決めている。

-朝日新聞のリベラルな出世主義-
○慰安婦問題の知られざる主役
・朝日新聞(以下朝日)の最大の失敗は、慰安婦を「強制連行」とし、それを20年以上放置した事である。1991年この第一報があったが、その後これを訂正せず、執拗に政府を追及した。1993年「河野談話」で日韓両国が幕引きするが、これが国連などに広まり、2000年代に再燃する。

・1991年8月第一報は大阪社会部デスク・鈴木則雄の下で植村隆が書いた。1992年1月宮澤首相の訪韓前、東京社会部次長に異動した鈴木は、辰濃哲郎に問題の記事を書かせた。1997年「慰安婦特集」は、鈴木が大阪社会部長の時に書かせている。この時政治部長は「訂正すべき」と主張し、「真偽は確認できない」との曖昧な記事になった。
・鈴木は大阪社会部で頭角を現し、蜷川虎三・京都府政/黒田了一・大阪府政を応援する記事を書いている。彼は朝日の「本流」であり、慰安婦問題は社を挙げてのキャンペーンであった。そのため20年以上放置されたのである。※そんな話なんだ。

○労働者管理企業のバイアス
・マスコミでは国政を担当するのは政治部で、地方政治は社会部の傘下にある支局が担当する。そのため社会部の影響力は強い。また朝日の場合、左寄りの記事が受けるので、社会部は左翼的になる。政治部でも幹部を継承し、左翼的な記事を書く人は出世し、保守的な記事を書く人は出世街道から外れる。

・朝日の社長は労働組合の委員長経験者が多い。朝日の筆頭株主は従業員持株会で、朝日は「労働者管理企業」である。※初めて聞いた。企業風土は変わるのかな?
・どこの新聞社も「本流」は政治部であり、渡辺雅隆は社会部出身の2人目の社長である。東京は官庁発表の記事が多いが、大阪は在日韓国人/被差別部落などの記事が多い。

○日本企業の戦略は組織に従う
・大卒ホワイトカラーの出世競争は激しい。「異動」は学生の成績評価に相当するが、社員全員に公開されるので残酷である。

・朝日に入社すると、最初は”サツ回り”をする。その後県庁担当になり、2局位回ると本社勤務になる。
・マスコミでは東京とそれ以外では、別の仕事である。東京は世界中から入るニュースを圧縮して記事にするが、地方では事件/事故以外は基本的に記事にならない。そのため東京では、人事を査定する上司に迎合する記事を書く。「組織は戦略に従う」と云うが、日本は長期的関係から「戦略は出世競争に従う」である。

・朝日は読売新聞(以下読売)に次いで、世界第2位の発行部数で、「大衆紙」である。政治・経済記事だけで「大衆紙」は維持できない。そのため社会ネタが重要になる。
・例えば、単なる”万引き”では記事にならない、「自衛官が万引き」となると記事になる。これを朝日では「角度」と云う。日本の新聞は事件/事故をトップニュースにすることが多い。これは「大衆紙」としての立場を維持するためである。※そうかな?

○中ソ対立による派閥抗争
・朝日の派閥抗争は「中ソ対立」であった(※これはビックリ)。戦後、社長を長く務めた広岡知男は共産党べったりであった。1976年毛沢東が亡くなり、四人組が逮捕されると、広岡体制は崩壊する。このクーデターを仕組んだのが、親ソ派の秦正流・専務と渡辺誠毅・副社長であった。渡辺体制(1977~84年)では親ソ路線になり、ベトナム戦争/沖縄返還問題では反米路線が徹底された。
・中江利忠・社長(1989~96年)は「マルクス主義」を自認した。彼の時代に慰安婦問題が起きたが、誤報と判明しても訂正しなかった。

・広岡/秦/森恭三などの朝日の主役達は、大阪本社の幹部である。関西には反東京/反権力の意識が強い。
・慰安婦問題と同様の報道は、原発事故/安保法制の報道でも見られる。朝日では左翼的な「角度」の記者は出世し、上司もそのような記者を出世させる悪循環に陥っている。

○落ちこぼれたインテリ
・マスコミを「第四権力」と呼ぶ。本来は聖職者/貴族/平民に次ぐ身分を指していた。マスコミは実際は権力を持たないが権威を持つため、「第一身分」に近い。
・中世の欧州は聖職者(知識人)と王権の二元体制であった。近代になると教会の権威は低下し、それに代わったのが新聞の知的権威であった。

・日本でそのトップにいたのが朝日であった。戦前、東京朝日/大阪朝日の発行部数は日本で最大であった。1930年代緒方竹虎・主筆は「時局迎合」で大政翼賛会の中心になった。
・戦後、朝日はリベラルに転じ、生き残る。朝日は発行部数で読売にトップを譲るが、インテリ/反権力のイメージから影響力は絶大であった。
・キャリア官僚は知識レベルは高いが、ものが言えない。NHKも公共放送なので同様である。新聞は情報量が多く、政治を動かす力があった。しかし今は新聞は不要になった。※不要の理由が全く書かれていない。

※中々良かった。朝日新聞の核心が分かった気がする。

○BOX-出世競争の経路依存性
・出世競争競争を「協調ゲーム」で考える。「ナッシュ均衡」は2つあり、両者が賛成すると全体最適になる。
・左上から出発すると、部分最適(双方の利益が1)になり、その状態が継続される。要するに複数均衡の場合、どこから出発するかによって均衡が異なる「経路依存性」がある。例えば上司が安保反対だと、部下は安保反対の記事を書き続け、安保賛成の記事を書くと左遷されるのである。
・ところが経営危機などの「突然変異」が起きると、全体最適にジャンプする事がある。※面白い話だ。

     上司
     反対 賛成
部下反対| 1 | 0 |
  賛成| 0 | 2 |

<サンクコストを無視できない>
・経済学では自明だが、一般社会では理解されていない言葉に「サンクコスト」(埋没費用)がある。例えば高級レストランで料理を食べ残した時、無理して食べるのは錯覚(?)である。既に払ったコストは戻ってこない。考えるべきは、その後の変動費(キャッシュフロー)で、無理して食べると不快感で変動費が増える。

-核燃料サイクルに未来はあるか-
○原発は「トイレなきマンション」ではない
・「トイレなきマンション」は初歩的な誤解である。原発をゼロにしても既存の核廃棄物が残る。また「核のゴミ」(使用済み核燃料)には、まだ燃料として使えるプルトニウムが含まれ、ゴミではない。※この意見には疑問あり。

・処分方法の技術的な問題は解決されている。最も安全なのはドラム缶に入れ、深海に沈めれば問題はない。ところが日本は核廃棄物の海洋投棄を禁止する「ロンドン条約」に加盟しているので、これはできない。次に安全なのはモンゴルなどに引き取ってもらう事である。どちらも政治的問題である。
・他に政治的に可能な方法は、今「使用済み核燃料」は核燃料プールに置いてあるが、これを最終的に地中に埋める法方である。地中に埋めた場合に問題になのは、プルトニウムが地下水に混入し、経口するケースだが、プルトニウムの毒性は水銀/ヒ素より低い。※放射能は問題ないのかな。

○最終処分地は存在する
・青森県六ヶ所村に250K㎡(大阪市程度)の最終処分地がある。最終処分が政治的に困難なら、地上に乾式貯蔵する中間貯蔵で良い。1994年田中真紀子・科学技術庁長官と青森県知事との間で、既に確認書が交わされている。この処分方法を言い出せないのは、再処理工場に2兆円以上を投資した「サンクコスト」があるためである。

○国が電力会社にただ乗りする国策民営
・1956年「原子力の研究・開発及び利用に関する長期計画」で、日本の原子力開発の方針が決まる。これを立案したのが原子力委員会長・正力松太郎と中曾根康弘だった。これに「燃料サイクルの確立のため、増殖炉/燃料再処理の技術向上を図る」とあった。これにより「日本原燃株式会社」(原燃)が再処理技術の開発に当たった。これは国が計画を立て、電力会社がコストを負担する「国策民営」であった。
・1970年代米国は核燃料サイクルの開発を止める。日本は予定通り進めるが、科学技術庁は後退し、「資源論」から通産省が前面に出る事になった。
※外国では、どうやって使用済み核燃料を処分しているのか知りたいものだ。原発に関する本は何冊か読んだが、外国での処分方法は見た事がない。

○帳簿上の利益よりキャッシュフロー
・核燃料サイクルの開発は、設備投資で3兆円、保守経費で7~12兆円掛かる予定である。問題はサンクコストを無視して、投資の現在価値と将来のキャッシュフローのどちらが大きいかである。答えは分かっていて、「使用済み核燃料」をそのまま捨てる場合は1円/KWで、再処理の場合は2円/KWである。

・六ヶ所村の再処理工場は800トンの「使用済み核燃料」を処理する能力を持っている。処理する「使用済み核燃料」が減り、分離するプルトニウムが減ると、利益が減る(※今はフル稼働?)。
・また再処理工場は電力会社の積立金「再処理等拠出金」で運営されているが、これは再処理にしか使えない。
・再処理工場をフル稼働させると、年8トンのプルトニウムが分離される。MOX燃料(プルトニウムとウランの混合燃料)を使う大間原発でさえ、年1トンしかプルトニウムを消費しない。

・核燃料サイクルはキャッシュフローで見ると明らかに赤字で、民間企業のプロジェクトとしては正当化できない。

○機会費用を考える
・日本人は特にサンクコストを錯覚している。正確に云うとサンクコストは投資額から転売できる資本設備の価値を引いたものだ。六ヶ所村の再処理工場の場合、まだ稼働していないので設備が2千億円で売れると、サンクコストは2兆8千億円となる。また労働者を解雇できないので、これはキャッシュフローの赤字になる。しかしこれは労働者を中間貯蔵施設のスタッフにすれば良い。科学者は「核エネルギーの1%しか使わないで捨てるのはもったいない」と言っているので、「使用済み核燃料」を50年間位保存し、今後の技術開発を待てば良い。

・もう一つ核燃料サイクルを見直す理由がある。これが計画された1970年代は石油危機があり、エネルギー安全保障が重要であった。またウランの埋蔵量は消費量の80年分位と見られていた。
・キャッシュフローを計算する場合は、実際に掛かったコストではなく、機会費用(代わりに掛かる費用)で、天然ウランを利用するコストになる。※キャッシュフローって総和では。総和を出した後、比較するのでは。
・OECDの報告によると、ウランの価格上昇で可採年数は300年に延びた。さらにリン鉱石などを含む「非在来型ウラン」を加えるると、700年に延びる。さらに海水中には9千年分のウランが含まれ、これを精製し利用する事も考えられる。

・以上のように技術的には様々な解決方法があり、サンクコストを無視し、合理的な計画を立てるべきである。原燃を延命すると損をするのは電力会社であり、電力利用者である。

※役所での”既存のプロジェクトの中止”は上司の否定になるので、できないらしい。※原発政策はグレーな部分が多い。

-宙に浮いた豊洲市場の6千億円-
○小池知事のサンクコストの錯覚
・2017年1月豊洲市場での地下水モニタリング調査で、環境基準の79倍のベンゼンが検出された。これに対し小池百合子・東京都知事は「元々豊洲に決めた事に疑義がある。サンクコストにならないために、どうすべきか考えていく」と述べた。サンクコストは既に投資された6千億円で、この使い方は間違っている。また環境基準は飲料水の基準なので、豊洲市場では意味を成さない。

・移転反対派は豊洲での保守・管理費用と減価償却費で年間140億円掛かるとするが、減価償却費を加えるのは間違いで、21億円の赤字が正しい。これに築地市場が4300億円で売れるので、3250億円(4300億円-21億円×50年)の大幅黒字になる。
・一方築地を使い続けた場合、不衛生のため環境基準どころか食品衛生法に違反している。また建物は老朽化し、建築基準法に違反する建物も多く、火事になると全焼する恐れがある。豊洲より築地の方が機会費用は大きくなる。
・なお豊洲/築地以外の市場を造るとなると、6千億円の投資が必要になる。

○固定費がモラルハザードを生む
・公共投資のようにサンクコストが大きい場合、継続が合理的になる場合が多い。そのため豊洲のような公共施設では、採算コストを考えず巨額の投資を行い、財源が不足すると公債で将来世代から前借し、「モラルハザード」になる可能性がある。

・小池知事の見直し発言は、好意的に見れば、この「モラルハザード」を防ぐ意図かもしれないが、単なるスタンドプレーに思える。当選直後に「盛り土がされていない」として移転延期を決めた。最初の地下水モニタリングで異常が検出されず、幕引きしようとしていたところ、79倍のベンゼンが検出された。しかしこれは地下水を飲む場合の基準で、豊洲には無関係である。ところがマスコミは、これを煽り立てた。彼女がこれに迎合するのは、政治家として当然と云える。

○悪を作り出す小池劇場
・小池知事は1992年日本新党で初当選し、多くの政党を渡り歩き、女性として最多の閣僚経験があり、女性初の首相の可能性もあった。そんなキャリアを持ち、2016年東京都知事選で当選する。2017年1月石原慎太郎・元都知事に対する住民訴訟の原告に加わる検討をするなど、彼を「悪」として民衆の増悪を掻き立てた。

・これは1930年代にヒトラーが採った手法である。彼はラジオを通し、刺激的な演説で民衆から喝采された。テレビを利用したポピュリストが小泉純一郎・首相である。彼は「ぶら下がり」を1日2回開き。「ワンフレーズ」で印象的な情報発信を行った。「小池劇場」も”石原”と云う敵を作り、マスコミを利用したポピュリズムであった。

○テレビは反射神経のメディア
・豊洲問題への対応は、メディアによって異なった。ワイドショーは「豊洲は危ない」と盛んに煽ったが、新聞は静観した。
・NHKでは「テレビ・ニュースの原稿は、中学3年生が見ていると思って書け」と教わる。テレビ・ニュースをテキストで読むと、分かり切った事しか書かれていない。テレビ・ニュースは新聞と違い、複雑な条件分を使えない。テレビは反射的に訴えるメディアなのである。

・小池知事は小泉政権で環境相を務めている。この「エコ」イメージで小池新党を作り、国政を狙うつもりだったのだろう。

※中々面白い話だ。※サンクコストは「過去を捨てろ」みたいな話だな。※ポピュリズムについては何冊か本を読んだが、厄介なものだ。

○BOX-なぜサンクコストを錯覚するのか
・サンクコストの錯覚が誤り(?)である事を証明するのは簡単である。このサンクコストの錯覚は鳥でも見られる。
・人間でみると、A部族は襲われた場合逃げる、B部族は襲われた場合戦うとする。A部族がB部族を襲うとA部族は逃げる。B部族がA部族を襲うとB部族は戦う。個人的にはA部族が合理的であるが、人間は集団的動物なのでA部族は生き残れず、サンクコストを守ったB部族が生き残る。そのため人間はサンクコストを守る動物になったとする説である。

・このような非対称性(?)は所有権が起源との説もある。所有権により紛争を防ぐ事ができる。未開社会には共同所有権が多いが、近代社会では自然権として所有権が認められている。

<法則7 小さく儲けて、大きく損をする>
・世界的なベストセラー『ブラック・スワン』に「日本人は小さな失敗に厳しく、大きな失敗は無視する」と書かれている。社会はボラティリティ(変動性)を持っているが、それを無理に抑圧して、大きな爆発を起こしている。
・トランプは4度破産している。米国の連邦破産法では、破産しても経営陣は辞める必要はないが、日本で会社を潰すと社会から追放される。そのため彼らは問題を先送りし、結果的に爆発を起こす。※面白い表現。

-不良債権は繰り返す-
○100兆円の損失を生んだ5つの失敗
・日本の「バブル崩壊」は、1990年初めからの日経平均株価の値下りから始まる。1990年4月大蔵省は不動産融資の総量規制を始めるが、公示地価はまだ上昇していた。バブルの象徴である「ジュリアナ東京」が開業したのは、1991年である。
・1992年時点での不良債権はグロスで12兆円しかなかったが、先送りしている内に、ネットで100兆円の損失になった。※グロス?ネット?

・「バブル崩壊」の要因は幾つかある。第1の失敗は、1985年プラザ合意後の円高対応にある。「円高不況」対策として超低金利施策が採られ、1989年5月日銀は地下高騰により公定歩合を引き上げたが、橋本龍太郎・蔵相などの政治家はこれに抵抗した。
・第2の失敗は、1990年株価が下がり始めるが、日銀は金融引き締めを続けた。1990年3月大蔵省は不動産融資の総量規制を始めるが、これが「バブル崩壊」を加速させた。1991年7月日銀は金融緩和に転じている。
・第3の失敗は、1992年「不良債権問題」が表面化するが、その処理を先送りする。10月住宅金融専門会社(以下住専)の日本住宅金融の不良債権が表面化し、清算する方針となったが、大蔵省銀行局長は封印する。
・第4の失敗は、1995年末の住専処理の失敗である。この時メインバンクだけでは処理できないので農協に負担を求めたが、断られる。そのため政府が6850億円を贈与する事になった。翌年これを決定した武村正義・蔵相は内閣総辞職で逃亡する。
・第5の失敗は、1997年11月三洋証券の破綻処理である。この破綻処理で10億円の債務不履行が発生し、北海道拓殖銀行/山一證券が破綻する。

○バブルは二度崩壊する
・現代は金融自由化でバブルは防げなくなった。今を「国債バブル」とする人もいる。

・日本の意思決定はボトムアップで行われる。現場は問題を早くから認識するが、情報を独占して経営陣に上げないので処理は始まらない。現場が損切りしようとしても、トップは責任問題を恐れ、先送りする。
・この結果、バブルは二度崩壊するのである。第1段階では1990年のように実質資産の価値がその収益に見合うレベルに正常化する。これに見込み違いが起こると、第2段階で1997年のようなショックが起こる。この第2段階が本当の「バブル崩壊」である。

・米国の金融危機も、2007年「サブプライムローン危機」が起こり、翌年ベアー・スターンズは救済されるが、リーマン・ブラザーズが破綻し、銀行を救済する法案が否決されて、金融危機となる。結果論で云うと、連邦政府がリーマン・ブラザーズを救済していれば、金融危機は起きなかったかもしれない。
・日本の不良債権処理も純損失98兆円の内、46兆円を公的資金で埋めたが、回収できなかったのは10兆円である。1992年住専の破綻処理でメインバンクに資本注入していれば、その後は回避できたであろう。

・公的資金の注入は「モラルハザード」を招くが、事後的な処理には、このようなアドホック(臨時的)な処理しかない。
・これからは日銀の「出口戦略」が問題になる。日銀のテーパリング(国債買い入れの減額)で金利が上がり、日銀が保有する国債に評価損が発生する事になる。

○住友銀行のはまった罠
・著者は「イトマン事件」を番組にした事がある。イトマンは住友銀行のダミー会社で、住友銀行は暴力団との繋がりが昔からあった。1985年住友銀行は平和相互銀行の買収に成功するが、これにイトマンの河村良彦社長/川崎定徳の佐藤茂社長が関係している。この買収で河村はヒーローになり、住友銀行の磯田一郎会長は世界から絶賛された。しかしこれは悪しき成功体験になる。

・日本の借地借家法では店子の権利が強く、訴訟で立ち退かせる事はできない。そのため不動産に暴力団が絡み、「地上げ屋」が店子を追い出すのが普通である。暴力団は不動産では「地上げ屋」として、株式では「仕手筋」として稼いでいる。ただし最近は警察の力が強まり、不動産/株式で利益が出せなくなり、暴力団の力は弱まっている。※暴力団排除条例とかもある。

○5千億円はどこへ消えた
・住友銀行はイトマンを不動産融資の道具として使っていた。しかしバブル期に問題になり、大蔵省は銀行の不動産/建設/ノンバンクへの融資残高を報告させるようにした。そのため銀行は商社/農協などを使って迂回融資するようになる。
・住友銀行はイトマンのバックに山口組がいる事に気付くが、住友銀行の磯田会長/イトマンの河村社長は弱みを握られていた。イトマンは住金物産に吸収されるが、その時住友銀行はイトマンの債務5千億円を負担している。

○山一證券の謎の自主廃業
・1997年四大証券の山一證券がなぜ「自主廃業」したのか謎である。1997年11月初めまでは大蔵省証券局は救済の意思を示していた。しかし17日に「自主廃業」を要請されている。それは2600億円の簿外債務の「飛ばし」があったためとされる。
・「自主廃業」の第1の原因は、直前の三洋証券には「会社更生法」が適用されたが、山一證券の場合は規模が大きく、適用は困難であった。
・第2の原因は、三洋証券の破綻でインターバンク市場で10億円の債務不履行が生じたが、日銀が債務保証をしなかったため、インターバンク市場が凍り付いた。当初は富士銀行は山一證券を救済する予定であったが、これにより諦めた。
・第3の原因は、「飛ばし」を大蔵省に報告していなかった。

○日本版ビック・バンの失敗
・山一證券の「自主廃業」の原因に以上のような説明がされるが、何れも根拠としては弱い。これは証券局長・長野厖士の「リーマン・ショック」だったと思われる。彼は41年入局のトップで事務次官候補で、「日本版ビック・バンの中心は証券局」「護送船団方式から訣別しないといけない」と言っていた。彼は「潰すべき金融機関は潰す」方針だったと思える。

○崩壊した銀行神話
・その後信用不安が拡大し、1998年初頭から金融危機が始まる。それまでは「大蔵省は大手銀行を潰さない」との神話があったが、山一證券の「自主廃業」でその神話は崩れた。富士銀行は救済合併し、みずほ銀行として残存したが、日本長期信用銀行/日本債権信用銀行は救済されなかった。最終的に政府は不良債権の最終処理に追い込まれる。

・今の日本経済には「国債バブル」への不安がある。ソフト・ランディングできるかはインターバンク市場が鍵を握っている。今は低金利のため国債を担保に資金を借りる事ができるが、地方銀行が国債で巨額の含み損を抱え、メガバンクがそれを危険と判断した時、予想外の事態になるかもしれない。

※これも規制産業だな。イトマン事件の本は読んだ事があるが、絵画の取引とかあったような。※国債バブルの話は怖いな。

○BOX-時間非整合性のパラドックス
・サンクコストを守る方が合理的になる場合がある。例えば経営不振の会社に100億円を融資し、成功すれば問題はない。失敗し融資が回収できなくなった時、「追い貸し」すると80億円の資産価値を得て、債務者も10億円の資産価値を得れる。清算すると100億円の損失となるが、「追い貸し」すると、損失は20億円で済む。※経営が上手く行くとは限らないけど。先頭の100が「追い貸し」分かな。

(銀行、債務者) 成功--→(200、100)
(100、0)    失敗→救済(80、10)
         失敗→清算(0、0)

<法則8 軽い神輿は危機に弱い>
・「神輿は軽くてパーが良い」、これは海部俊樹・首相の時の小沢一郎・幹事長のオフレコ発言とされる。小沢は羽田孜を担ぎ自民党を離党し、細川護熙・首相の時に幹事長を務め、民主党鳩山由紀夫・首相の時も幹事長を務めている。
・大企業でも意思決定はボトムアップで行われ、社長が追認するのが普通だが、実権は”力のある専務”や”強い相談役”にあったりする。

-民主党政権の自滅-
○政治主導と云う幻想
・2009年に誕生した民主党政権は、自公の”バラマキ公共事業”を批判し、”バラマキ福祉”を行った。民主党は「政治主導」をスローガンにし、官僚に敵対したため、意思決定が混乱する。

・憲法には「国会は国権の最高機関」と書かれている。しかし国会に提出される法案の8割は、内閣が提出している。法案は各省庁の課長補佐が起案し、他省庁と調整し法案となる。これを局長/審議官が「族議員」に根回しし、自民党の政策調査会で了承されると、総務会で全員一致となり、閣議決定される。この「事前審査」で法案は確定する。
・民主党はこれを批判し、政策調査会を廃止し、「国家戦略局」を創設しようとしたが、その法案が成立しなかった(※あったな)。これにより政務三役だけで官僚をコントロールする破目になり、官僚主導はさらに強まった。

・しかし国会は立法府の役割を成していないが、拘束力は強い。法案の優先順位/審議時間を決め、廃案に追い込む事ができる。※与党多数では意味がないのでは。

○最大のムダは社会保障
・民主党はマニフェストで「子ども手当」などの社会保障に16.8兆円を出すと約束していた。その財源は特別会計を含めた207兆円の総予算の組み替えで可能としていた。埋蔵金の話は、塩川正十郎・財務相の発言「母屋では・・、離れでは・・」にあったように、小泉政権の頃からあった。
・民主党はこれを政治主導で実現すべく「国家戦略局」の創設を試みるが、法案が成立しなかった。「事業仕分け」の発想は良かったが、「周波数オークション」のように行政刷新会議がトップダウンで決めても、総務省が拒否するケースもあり、節約できたのは6千億円に過ぎない。

・最大のムダは社会保障にある。「社会保障特別会計」は116兆円あり、さらに一般会計から「社会保障関係費」として30兆円以上を穴埋めしている。
・この財源を調達するため消費税の増税が必要になった。「三党合意」により消費税を5%から10%に引き上げる事になるが、小沢一郎はこれに反対し離党し、民主党は分裂する。

・「三党合意」で増税分は社会保障に当てる事になっているので、国債残高は減らない。2017年安倍政権はプライマリーバランスの黒字化目標も破棄した。今の国債残高は市場の限界に達し、OECD/IMFは警告を発している。※日銀が買うしかないのか。

○何も決められないガラパゴス国会
・日本の政治のボトルネックは、時間ばかりかかって大きな決定ができない「ガラパゴス国会」にある。国会対策委員長の会談で法案の優先順位が決まり、議院運営委員会が審議日程を決める。これは全会派一致で決まる。内閣は国会審議をコントロールできないので、「事前審査」を行っている。

・橋本首相は、この複雑な意思決定システムを改革しようとするが失脚する。
・小泉首相は郵政民営化法案を「事前審査」せずに国会に提出し、大混乱になる(※そうだったのか)。彼は竹中平蔵/飯島勲などのスタッフを携え、一時的に「官邸主導」を実現した。彼は財務省が概算要求をする前に、内閣が「骨太の方針」を作る改革に成功する。このガラパゴス国会は法律でなく慣例であり、空気を読まない小泉なので改革できた。
・安倍内閣になると元の自民党に戻る。ただし内閣人事局が官僚の人事を掌握するようになり、内閣の影響力は強まった。

・この政治システムを支えているのは江戸時代以来の「稟議」で、ボトムアップで意思決定され、一人でも反対すると先送りされる。

○政官の共生は壊れもの
・英国の政治システムは政府と与党が一体なので、政府が優先して法案を審議する。日本の場合、政府は国会の審議日程に口を出せない。無力に見える野党も時間切れに持ち込めば廃案にできる。この強過ぎる国会を是正するため「国家戦略局」を創設しようとしたが、そのガラパゴス国会に潰される。
・この”強過ぎる国会”は米国型であり、国会対策委員会は与野党対等で、審議日程では拒否権を持ち、採決で勝てない野党を救済している。自民党の政策に「バラマキ福祉」が取り入れられ、野党が受け入れない「小選挙区制」は、常に審議未了で廃案になった。

・自民党が「事前審査」し、総務会で全員一致するのは、国会での造反を出さないためである。
・民主党政権は政策調査会を廃止し、トップダウンに切り替えたが、「長妻事件」も起こり、政府の意思決定は混乱する。民主党は官僚を無視し、官僚の士気は下がった。民主党は政府と官僚の「共生関係」が”壊れもの”である事を理解していなかったようである。

・以上より国会法を改正し、国会の独立性を弱め、政府と与党で法案を成立できる仕組みに変える必要がある。※大丈夫かな。一党独裁政治になるよ。

※軽い神輿は政府かな国民かな。官僚主導は重たい問題だ。

-天皇と云うデモクラシー-
○国を”しらす”受動的な君主
・日本の組織は現場の自律性が強く、トップは形骸化され、「強いリーダー」は許されない。それが制度化されたのが天皇である。

・大日本帝国憲法(以下明治憲法)を起草した井上毅の原案の第1条は、「大日本帝国は万世一系の天皇之を治す(しらす)所なり」となっていた。「治す」とは「知る」の尊敬語である。これは家臣が行政を行い、天皇はそれを知らされて、承認する君主を意味する。ただし最終的には「之を統治す」となった。
・そのため天皇が能動的に統治する「天皇大権」の解釈が自然で、美濃部達吉などの「天皇機関説」は解釈改憲である。

○明治憲法の中心のない構造
・最初に憲法草案を起草したのは、福沢諭吉/大隈重信の交詢社だった(※大隈重信も参加?)。彼らの「私擬憲法案」は議院内閣制を規定していた。しかし井上が内閣/首相を削除したので、明治憲法には記されていない。
・明治憲法の第10条には、「天皇は文武官を任命する」とあり、天皇が閣僚は任命する。実質的には「元老」が人事権を握った。

 交詢社案・・・・天皇-首相-各省/陸軍/海軍
 明治憲法・・・・天皇-各省/陸軍/海軍

・井上は首相が実権を持つと、天皇が有名無実化し、内戦が再燃するのを恐れたのである。彼は政党が幕府となり、「革命」が再び起こる事を恐れていたのである。彼の制度設計により、内閣が官僚を統括する力は弱く、元老が官僚を統括する構造になった。

○無答責の天皇
・臣下は天皇に「上奏」する説明責任を負うが、天皇は承認するだけなので「無答責」である。この構造は千年以上前から同じである。名目的な「主権者」は天皇であるが、実権は摂政・関白/将軍などの「代理人」にあった。幕府でも将軍は合議に参加せず、老中が決定していた。老中/大目付などは輪番制で、全ての役職は二重化されていた。

・明治維新は、代理人である将軍を倒し、本来の主権者である天皇に権力を取り戻す「尊皇攘夷運動」である。これはよくあるパターンで、中国の易姓革命/欧州の宗教革命/フランス革命などは、何れも「本来の〇〇に戻す」がスローガンであった。

・幕藩体制は各藩の連邦であったが、明治政府は「各省の連合政権」になった。明治憲法はドイツ憲法(プロイセン王国憲法)を参考にしたが、ドイツは議院内閣制でビスマルク首相が強大な権限を持った。日本は元老が首相を指名したため、首相は大きな意思決定を行う主権者になれなかった。
※明治憲法前/明治憲法後/原政党内閣後を、もう一度勉強し直した方が良さそうだ。

○遍在する二重権力
・日本は「二重権力」構造で、かつては天皇と幕府の関係で、今は天皇と内閣の関係である。明治時代に元老が幕府に変わった。元老は初期には「黒幕」(!)と呼ばれた。ただし元老に関する法制度はなく、当然「黒幕」に関する法制度もない。
・1892年伊藤博文は松方正義首相の後継を決めるため「黒幕会議」を開く。参加者は他に山縣有朋/黒田清隆/井上馨であった。この会議で伊藤が後継となる。これ以前は元勲が首相を指名していたが、以降は「黒幕会議」で首相を指名するのが慣例になる。元勲が元老になり、求心力が弱まると明治憲法の欠陥が露わになる。※首相の無力と軍部の台頭かな。

※日本は古代より天皇を頂点とし、その基本構造は変わらないのかな。

○BOX-教育勅語の同調圧力
・明治以降、日本の国民意識を決めたのが「教育勅語」だが、これは315文字で、その内容を理解できる子供はいなかった。これは仏教の「お経」、キリスト教の「オラショ」と同じである。これは「国体」と云う大きな家への”同調圧力”(?)であった。

・日本は”Religion”を「宗教」と訳した。日本には宗旨/宗門はあったが、儒学などの勉強する「教」はなかった。キリスト教/イスラム教は「死んだら天国に行ける」とされ、戦争に効果があった。明治政府はそれをまねて、「国家神道」を作ろうとした。※靖国精神かな。

<プロローグ 勤勉革命の終わり>
・ここまでに説明したように、日本の失敗は現場主義による部分最適と、誰も決めない「空気」による。このような超民主的な国は、他に存在しない。それを支えたのが勤勉革命である。

○土地の生産性は世界一
・日本の面積当たりのGDPは、都市国家の香港/シンガポールを除き世界一である。欧州の産業革命は資本集約型で、資本を蓄積するため海外を植民地にした。一方東アジアは労働集約型の勤勉革命で発展し、領土的野心を持たなかった。これが東西の成長率などを特徴付けた。

・日本が近代化できたのは、この勤勉のエートスである。これはヴェーバーの「プロテスタンティズムが資本主義を生み出した」と云う議論に似ている。※どちらも勤勉?
・日本の技術は零戦や戦艦大和などの部分最適は生むが、全体最適にはならなかった。※分かり易い例え。
・日本は土地不足/労働過剰のため、労働を浪費する勤勉革命が定着した。江戸時代、労働集約型の農業では勤勉革命により生産性を高めた。明治以降も労働集約型の繊維産業などで工業化が進められた。

○労働を浪費する社会
・日本の企業は「労働者管理企業」である。商法では株主が「社員」だが、日常では労働者を「社員」と呼ぶ。これは1920年代、鐘淵紡績の武藤山治・社長が「使用人」を「社員」と呼び、会社の所有者を「株主」と呼んだ事に始まる。※これは知らなかった。

・株主が主権者で労働者を支配するのが「資本主義」だが、日本では労働者が株主を支配する「人本主義」である(?)。ただしこれは”人間を大事にする”システムではなく、”長時間労働させ、労働者を浪費する”システムである。またサラリーマン経営者と労働者が労使共同体を作って、株主を犠牲にするシステムでもある。
・他方欧州では、黒死病などにより、16世紀後半まで人口は増えなかった。そのため希少な労働を技術で補う資本集約型の産業革命が起こった。※参考になる。

・世界では大半が勤勉革命を辿ってきたが、勤勉革命には限界があり、産業革命には限界がない。そのため成長で大きな差が生じた。
・戦後、日本でも資本集約化が進むが、これは典型的な株主市場によるものではなく、低金利で預金を集めた銀行が戦略産業に投資する「開発主義」であった。※他に言葉があった気がするが、「傾斜生産方式」かな。
・欧州以外で”離陸”に成功した国のほとんどが、政府の「ビッグ・プッシュ」である。社会主義国家の初期の成功も、これによる。
・日本の「ビッグ・プッシュ」後の高度経済成長は、生産性の向上と旺盛な投資意欲にある。しかしその源泉は低賃金と低い為替レートにあり、これは1980年代で消滅した。
・日本の製造業はまだ効率的で、資本装備率(=資本/労働)も世界最高水準にある。しかしサービス業は勤勉革命のエートスを受け継ぎ、資本装備率は低い。
※この節だけで1冊の本が書ける。

○イノベーションとは空気を読まない事
・在日韓国人は、日本で「根無し草」として育つ。それを補うのは在日の仲間意識と、日本人から見返される気持ちである。

・2001年ソフトバンクの孫正義はADSLで通信事業に参入する。NTTは「回線の開放」に反対するが、政府の「IT戦略」に従う。さらに彼は、「あんなボロボロの設備で通信事業をやるのは自殺行為」と云われたボーダフォンを買収する。2008年彼は”iPhone”を日本で独占販売する契約をアップルと結ぶ。
・ADSLで成功する確率は1/10位、携帯電話で成功する確率も1/10位で、彼が生き残る確率は1%しかなかった。彼が成功した要因は、競争相手がいなかったからである。

・日本は投資機会が少なく、資金供給が過剰である。みんな空気を読んでリスクを避ける。大企業/官庁のエリートは社会的な地位も収入もあり、リスクは取らない。日本では、ハイリスクのプロジェクトには資金が付き、人が集まり、しかも競争がない。起業家にこんな有利な国はない。
※「日本の大企業はリスクを取らないが、起業家には有利」かな。それなら日本の企業は大半が小規模なので、「企業はリスクを取れるのに、取っていない」になる。混乱してきた。

※ボトムアップで空気を読む日本は転換期にきていると思う。

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