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『大過剰』中島厚志(2017年3月)を読書。

需給ギャップ(供給過剰)は以前から云われていますが、それについて書かれています。
ヒト・モノ・カネ・エネルギーが過剰にある環境で、ブレークスルーを求めています。

世界経済の近年の流れや現状を理解するには、大変良い本と思います。
しかし概念論/総括論が多く、少し退屈する。また説明不足も一部あると思う。

お勧め度:☆☆(読み易い、面白い)

キーワード:<疑われる世界経済の常識>EU離脱(Brexit)/トランプ、OPEC/原油価格、新常態(ニューノーマル)、保護主義/減税/インフラ投資、ヒト・モノ・カネ・エネルギーの過剰、<モノが余る時代>輸出主導型成長モデル、直接投資/経済特区、先進国経済、需給ギャップ(GDPギャップ)、貿易収支、需要拡大/供給力削減、トランプの経済政策、物品/サービス、第一次所得収支、インフラ投資/生活スタイル、<世界で流動化する人材>米国大統領選、EU、移民・難民、失業率、労働規制、高度人材、大学進学率、<史上初のマネー過剰>通貨供給量(マネーサプライ)/量的金融緩和、外貨準備/対外負債残高、先進国バブル、民間債務/緊縮財政、マイナス金利、金融バブル、投資、<エネルギー過剰時代>原油価格、シェールオイル/シェールガス/オイルサンド、オイルシェール、シェール革命、再生可能エネルギー、ユビキタス型、天然ガス、<行き詰る世界経済>新興国の時代、先進国/新興国/途上国、EU、ブレトンウッズ体制、経済活性化、規制緩和/財政出動、<世界経済ブレークスルーの方向>構造改革、産業革命、ブレークスルー、ユビキタス・ネットワーク社会、エネルギー革命、スウェーデン/シンガポール、<日本経済の最大の逆転策>勝ち組/負け組、長期停滞/少子高齢化/生産性、グローバル化、付加価値、サービス消費/シェアリング・エコノミー、AI時代、第4次産業革命/超スマート社会

<疑われる世界経済の常識>
○通用しなくなった従来の見方
・2016年世界は英国のEU離脱(Brexit)、トランプ大統領の誕生、過剰生産力/不動産バブルに揺れる中国、原油価格の乱高下などの激動に見舞われた。

・トランプの誕生は、移民などに対する保護主義的(反グローバル)な訴えが人々に響いたためである。BrexitはEU域内からの移民への反発による。
・一方の新興国も様変わりした。中国の勢いはなくなり、産油国/資源国も苦境に陥る国がある。これでは中東の難民問題も収まらない。
・日本は金融緩和/積極的な財政政策/円安株高/エネルギー安などの追い風にも拘らず、経済成長できていない。

○存在感が低下するOPEC
・2016年初め、原油価格が急落する。11月OPECの協調減産が8年ぶりに合意される。12月非OPEC諸国(ロシア、メキシコなど)とも協調減産が、12年ぶりに合意される。これにより原油価格は取り戻す。
・背景は中国経済の減速とされる。しかし中国の原油消費量は、2013年4.2%、14年5.9%、15年4.8%と増え続けている。

・原油価格の下落は、新興国/途上国の勢いの低下にある。大産油国ベネズエラの物価上昇率は700%を超え、世界最悪水準である。世界最大級の産油国サウジアラビアでさえ経常赤字に陥っている。新興国が世界経済をリードする時代は終わった。

○中国経済減速の異常視は間違い
・中国の経済成長率は、2010年10.6%、16年6.7%で一貫して減速している。企業債務や不動産バブルが懸念され、中国は牽引役から”心配事の種”になった。
・しかし中国は、2014年「新常態(ニューノーマル)」への移行を表明している。「新常態」は、①高速成長から中高速成長、②粗放型成長モデルから質・効率重視の集約型成長モデルを指す。

・中国の企業債務残高は対GDP比209%である。日本のバブル崩壊時(1990年)が対GDP比214%で、中国は安心と云えない。しかし企業債務は経済成長が急減速した時に生じる現象で、問題はそれが処理できる範囲にあるかである。
・企業合併などによる過剰生産力削減で企業体質の改善が望まれる。また中国経済は国家により統制・制御が行われているが、中国の国家財政は、日本/米国は元より、ドイツよりも健全である。中国の公的債務残高は対GDP比43.9%、ドイツは71%である(※灰色のサイは心配ない?)。また企業債務は対内債務で、金融危機は起こりにくい。

○トランプ大統領誕生の背景
・原油価格が下落すると米国経済が拡大すると思われているが、そうでもない。今やエネルギー関連産業が米国の重要な産業で、2010年設備投資額の6割がシェール関連への投資であった。原油高/大幅減税/大胆なインフラ投資が行われば、米国経済は良くなるだろう。

・世論調査では、質問「移民が仕事を奪っている」には、2006年55%から、16年45%に低下している。また質問「雇用を脅かしているものは」には、「海外へのアウトソーシング」80%、「外国製品の国内での販売」77%であった。
・これらからグローバル化による海外移転/輸入増/移民流入などの不満が、トランプを大統領に押し上げたと云える。今後米国は保護主義に進むと思われる。

○支持者を救済しないトランプの政策
・トランプの経済政策として、「レーガノミクス」が参考になる。「レーガノミクス」により景気拡大し、ドル高/減税/歳出増となり、「双子の赤字」に陥った。
・その結果、1985年「プラザ合意」でドル安推進が決まり、これにより世界的な不動産バブルの発生/崩壊に至る。米国の経済政策は短期的には効果があっても、長期的には世界に悪影響を及ぼす恐れがある。
・トランプが主張する減税/インフラ投資が行われれば、景気は回復するが所得格差は増々拡大し、彼の支持者をさらに窮地に追い込む。

○Brexitは認識不足からではない
・英国は反移民などからEU離脱を選択した。Brexitは経済的にマイナスと思われる。これは欧州が営々と築いてきた統合の歩みが、人々に浸透していない証拠である。※ホント反EUは顕著に存在する。
・英国政府は離脱後の経済政策として、法人税の引下げ/タックス・ヘイブンなどに言及している。英国は決して反グローバルではない。

・ユーロ圏では金融政策は一律なのに、財政政策は個別である。そのため経済格差は拡大し続け、経済が好調なドイツにヒト・モノ・カネが集中している。
・”移民の流入が自由”の中でEU離脱を問うのと、”移民の流入がない”中でEU離脱を問うのでは、その結果は違ったであろう。※EU内移民をある程度規制していたら、離脱はなかった。
・英国の人口の13%は外国人である。英国は決して反グローバルではない。
※英国のEU離脱に関する本を数冊読んだが、英国は大陸欧州と異なるため、離脱に賛成する本もあった。

○過剰の時代に入った世界経済
・今はヒト・モノ・カネ・エネルギーが供給過剰になった。
・原油安になったのは、シェール革命による供給過剰にある。米国などの非OPECが供給力を高めた事により、市場経済が導入されたのである。※好ましい傾向だ。
・シェールオイル/シェールガスだけでなく、カナダではオイルサンド(!)などの非従来型石油も大増産されている。一時、ピークオイル説などが騒がれたが、今はすっかり下火である。
・中国経済の減速は、新興国の輸出供給力を先進国が吸収できなくなったためである。今の世界の経済状況では、原油高/資源高は見込めない。

・Brexitは、移民によるヒトの過剰にあった。移民によるヒトの過剰は米国でも欧州でも見られる。
・マネーの過剰もある。世界の主要国が量的金融緩和政策を続けている。対GDP比でみた通貨流通量(マネーサプライ)は、日本/米国/欧州とも史上最高水準で、その増加は止まりそうにない。
・工業製品の過剰もある。新興国の多くは、中国に続く「世界の工場」の予備軍として待機している。

・これらの供給過剰に見合う需要を作り出すのは困難である。トランプの財政政策も知れたものである。
・ヒトの需要を作り出すの難しい。グローバル化により、ヒトの移動は容易である。さらにAI/ITにより、ヒトに代替するものが加速度的に普及し、ヒトの需給は益々緩和される。

○模索されるブレークスルー
・世界各国の経済状況は一様ではない。米国/日本の雇用の需給は逼迫している。米国は減税/インフラ投資で経済の立て直しを図っている。OPEC/非OPEC国は協調減産で需給の引き締めを図っている。新興国は経常収支悪化/経済成長鈍化に直面しているが、米国が輸入を縮小すれば、新興国はさらに厳しくなる。
・”不足の時代”から”過剰の時代”に変わり、世界秩序は変化するであろう。EUでは経済格差拡大で、ヒト・モノ・カネの自由移動が俎上に載せられる。Brexit/トランプ現象が世界に広がる懸念もある。

※以上で序章が終わり。既に1冊本を読んだ気分。

<モノが余る時代>
-戦後経済成長モデルの帰結-
○戦後世界の経済成長モデル
・戦後に行われた経済成長モデルは、「輸出主導型」成長モデルである。これは国内で不足する資本/技術を海外からの直接投資で惹きつけ、国内にある資源/安い労働力で工業製品を生産・輸出する経済成長モデルである。

・日本もこのモデルで経済成長した。しかし海外の技術は導入したが、外資系企業の進出は抑制した。不足する資本は家計の預貯金による間接金融や企業・銀行間の株式持合いで対応した。この日本の成功は、戦前からの技術・人材の蓄積や朝鮮特需の幸運もあった。

・1978年中国は改革開放政策を始め、外資系企業の誘致で高成長した。製造業GDPは、2006年日本、10年米国を抜き、世界トップになる。中国の特徴は規制緩和などの改革を、同時に実施した事にある。これによる公私合併/外資系企業との合併を経て、国営企業でない民間企業も好業績を上げるようになった。

・1980~2015年で世界の名目GDPは6.7倍に、輸出額は11.2倍に拡大した。中でも新興国/途上国の輸出額は46倍に拡大している。中国などの新興国/途上国の経済成長は、この「輸出主導型」成長モデルによる。

○大きい直接投資の寄与
・GDP比(?)での世界の対内直接投資額は、2015年24.6兆ドルとなり、1990年の11.2倍になる。直接投資もグローバル化が進展している。特に先進国から新興国への直接投資が増加している。これにより先進国は安い生産コストや現地市場を確保できる。新興国は技術/資本/雇用が得られ、産業が高度化され、輸出力が強化された。

・日本では優先度が高い産業に投資させるため、日本銀行は金融機関の貸出増加額を調整する窓口指導を1990年まで行っていた。また1960年代には好景気になると輸入が増え、外貨準備が底をつくため、あえて景気を後退させていた(国際収支の天井)。※日本は外貨に敏感だったな。

・今は安い労働力/豊富なエネルギー・資源があれば、資本も技術も直接投資で簡単に入ってくる時代になった。※カネのグローバル化の恩恵だな。
・新興国であったシンガポール/香港は「国際金融センター」として成功している。金融取引や税制の自由化により、「国際金融センター」に最適な環境を整備してきた。
・中国の「経済特区」は経済成長や輸出拡大の決め手になった。「経済特区」はインド/韓国/フィリピン/カンボジアにも広がり、日本でも規制改革の切り札になっている。
・シンガポール/ドバイ/仁川空港/釜山港はアジアと欧州を繋ぐハブになっている。

○輸出成長モデルの限界
・しかしこの輸出型成長モデルは転機を迎えている。どんな国でも外資系企業の誘致や輸出振興で経済成長/工業化が達成できる状況になったが、先進国経済が低調で、需要が伸びないためである。米国/中国などの減速は世界的な需給を緩和させている。
・2000年以降世界の工業生産量は1.5倍に増えた。新興国では2.3倍に達している。特に新興アジア諸国は4.1倍である。一方先進国の工業生産量は1.1倍しか伸びていない。

・先進国の貿易収支や移民流入の状況はそれぞれ異なるが、日本でも輸入が増え、工業生産が伸び悩めば、経済的不満が高まるであろう。※確かに。日本は貿易収支はトントンで、移民は少ない。米国のような状況にない。

・サブプライムローン・バブルまでは良かったが、リーマン・ショックが起こると世界の需給は一気に緩和された。主要国の財政金融政策により底入れを脱するが、その後は原油安/資源安で世界経済は低迷し、鉄鋼などの基礎素材から高度の工業製品に至るまで、多くの財が供給過剰になっている。※日本はモノが溢れているが、これは世界的かな。

-モノの供給過剰-
○偏在する需要と供給
・需給の状態は、世界銀行やOECDが発表する「需給ギャップ」(GDPギャップ)を見れば分かる。近年欧州は財政健全化が優先され、日本は少子高齢化で成長が止まり、米国は原油安で景気は低調である。これにより「需給ギャップ」の改善は進まない。

・世界の地域別貿易収支から、需要国・地域/供給国・地域を見る事ができる。米国はシェール革命で貿易赤字の拡大は止まった。貿易黒字国・地域は中国/欧州/韓国である。韓国は日本に代わって貿易黒字国として定着した(※直近は悪そうだが)。産油国はエネルギー需給の緩和で、貿易黒字国から消えた。欧州はユーロ安/原油安と域内経済の不振で輸入が伸び悩んでいる。ただし貿易黒字なのはドイツ/オランダだけで、二極化が進んでいる。

○事態を解決しないトランプの経済政策
・需給緩和への対策として、需要拡大と供給力削減があるが、需要拡大が望ましい。しかし一番効果的な財政金融政策は使えない状況にある。財政政策は既に何度も使われ、財政赤字は大きく膨らんでいる。金融政策も米国を除いて既にゼロに近く、緩和の余地はない。
・一方の供給力削減は、企業の生産力削減や整理淘汰であり、容易でない。輸出型成長モデルでしか成長できない新興国に、輸出力削減を求めるのは酷である。

・この状況で登場したのがトランプである。彼は法人税の税率を35%から15%への引下げ、10年間で1兆ドルのインフラ投資を掲げた。トランプの経済政策は2017年10月から実施され、実際に効果が出るのは2018年後半からになる。これらの経済政策が実施されれば、80年代後半の世界的不動産バブル/90年代末のITバブル/2000年代のサブプライムローン・バブルに次ぐ経済成長が期待される。
※丁度10年毎にバブルが起きているな。2018年後半から米中通商問題などで怪しくなってきた。

・しかしこれらの政策が実施されると雇用が逼迫し、賃金が上昇したり、金利高/ドル高で米国経済が冷える事も考えられる。トランプの経済政策はアクセルとブレーキを両方踏む政策である。

○目に付く過剰供給力
・新興国の過剰生産力が問題になっているが、中国に焦点を当てる。世界の粗鋼生産量16億トンの半分を中国が生産している。OECDは世界の鉄鋼(?)の過剰生産能力を7億トンとしていた。中国政府は1~1.5億トンの能力削減を目標に、鉄鋼メーカーの淘汰・再編を行っている。調整は数年掛かるが、状況は改善している。
・また石炭の過剰に対し、低効率炭鉱の閉鎖などで石炭生産能力10億トンの削減を行っている。

・パソコンの出荷台数は2015年、3億台を切った。この要因はタブレット端末/スマートフォンの普及にある。しかし中国ではスマートフォンで熾烈な競争が見れれる。

-変化する世界経済-
○回避すべき縮小均衡
・トランプの経済政策は従来型の財政刺激策で一時的な効果しかない。また保護主義的政策は縮小均衡であり、拡大均衡ではなく、世界経済の安定成長や高所得国と低所得国の格差縮小にならない。
・トランプは米国企業の海外移転やアウトソーシングを阻止する姿勢であり、その結果長期的には米国は割高な財/サービスを購入する破目になる。新興国も技術/資本/雇用の呼び込みができなくなる。

・そこで自国経済と世界経済の両方を拡大させる政策が必要になる。世界貿易を物品とサービスに分けて見ると、サービス貿易の方が高い伸びを示している。2000~15年では、物品輸出は年平均6.7%増、サービス輸出は年平均7.5%増である。2010~15年では物品輸出は年平均2.0%増、サービス輸出は年平均4.7%増である。
・先進国はサービス業に競争力がある。2010~15年でOECD諸国の物品輸出は年平均1.2%増、サービス輸出は年平均3.9%増である。先進国はサービス輸出で、新興国は物品輸出で稼ぐ輸出主導型経済成長が期待できる。

○経常黒字は先進国が中心
・経常収支は貿易・サービス収支/第一次所得収支/第二次所得収支からなり、金融収支は含まれない。第一次所得収支は金融債権債務の利子/配当金である。これは先進国が黒字で新興国は赤字である。先進国の企業は世界に直接投資し、その利益を本社に送金している。
・先進国は貿易収支は赤字だが、サービス収支/第一次所得収支が黒字のため、経常収支は黒字で、その基調は拡大している。※新興国の経常収支は赤字なんだ。
・簡潔に言えば、新興国は物品の輸出で稼ぎ、先進国はサービスの輸出と自国のグローバル企業が稼いでいる。

・米国は経常収支が赤字だが、これは第一次所得収支の黒字がサービス収支の黒字より少ないためである。これは米国のグローバル企業が海外収益を米国に送金していないためであり、また逆に米国に進出した海外の企業が、米国での収益を本国に送金しているためである。さらに各国は外貨準備をドルで保有し、その利子・配当金が米国から各国に送金されているためである。
・トランプの法人税引下げにより海外のグローバル企業が米国に拠点を持ち、米国企業の海外移転は鈍る可能性がある。また米国のグローバル企業が収益を米国に送金するようになると、米国の第一次所得収支は拡大する。また先進国は米国に同調し法人税を引き下げ、保護主義による縮小均衡の動きは鈍るであろう。
※基軸通貨は経常赤字で維持される不思議。

○投資は製造業からインフラ・文化へ
・先進国と新興国がウィンウィンで拡大均衡する方法は他にもある。新興国のインフラは不足しており、アジア開発銀行(ADB)は、アジア・太平洋地域で20年間に8兆ドルのインフラ投資が必要としている。インフラ投資は産業基盤の整備だけでなく、生活インフラの充実であり、収益性が見込める。
・経済水準が上がるとサービス消費が増える。文化・芸術/旅行/医療・介護などである。先進国は新興国に「生活スタイル」を提供しているが、これらはサービス収支/第一次所得収支にカウントされる。
※何か大雑把な解説。※一般的な話が多いので、少し退屈。

<世界で流動化する人材>
-雇用への影響が高まるグローバル化-
○世界で増える製造業就業者
・新興国は安い労働力で外資系企業を惹きつけている。典型は中国で13.7億人の人口は安い労働力としても、将来の消費市場としても魅力を持っている。メキシコも「北米自由貿易協定」(NAFTA)により外資系企業が進出し、米国/カナダ向け自動車/家電製品を生産している。

・世界の部門別就業者数を見ると、工業部門の就業者は1994年22%から、2010年29%に増加している。人口にすると5.5億人が、9.2億人に増えた事になる。この約4億人の増加は新興国/途上国での増加で、生産力の増加である。この影響が先進国に及ばないはずはない。

○米国大統領選が示した衝撃
・米国の失業率は5%を割り、サブプライムローン・バブル以来の低い水準にある。
・マサチューセッツ工科大学(MIT)のデビッド・オウター教授は、新興国からの輸入増の影響を分析した。彼は米中双方が利益を得たとするが、1990~2007年で200~240万人の雇用が失われ、米国人の所得の減少/国の失業保険支出の増加なども生じたとした。最も影響を受けたのは白人/低学歴者/高齢者/低所得者とした。また彼はNAFTAの影響も分析し、最も影響を受けた高校中退者の給与は17%下落したとした。※日本での農産物の輸入自由化みたいな話だな。
・急激な環境変化が起こると、これらの悪影響は顕在化する。これが2016年大統領選挙を動かした。

○欧州に広がる移民・難民への不満
・欧州は輸出が好調である。そのため米国のように輸入増への危機感はない。また社会保障制度が充実しているので雇用への不安もない。あるのは移民・難民に雇用を奪われる漠然とした不安や、彼らに文化・伝統が乱される不安である。

・EU域内から英国などのEU主要国への移民流入は、国民所得の格差による。EUで最も国民所得が低いのはブルガリアであるが、それは英国の1/6であり、EUで最も高いルクセンブルクの1/10である。そのためEUはヒト・モノ・カネの自由移動を保障しているため、ブルガリア人は仕事を求めて英国/ルクセンブルクに移る。そのためEU主要国は外国人の割合が増加し続けている。特にドイツ/英国は外国人の割合が高い。

○世界的な移民の増加
・移民は増加している。1995年は総人口の2.7%であったが、2015年には3.3%に増えた。米国/欧州などは移民の恩恵を受けている。移民はこれらの国のヘルスケア/先端技術関連などの成長産業に多く従事している(※ITも含まれるのかな)。米国ではノーベル賞受賞者の3人に1人が外国生まれである。逆に衰退産業を支えているのも移民である。

・移民の動機は所得格差だが、近年は中所得国から高所得国への移民が多くなっている。それは運賃や教育が影響している。
・二国間の移民数(1995~2015年)で最大なのがメキシコ→米国540万人、第2位インド→アラブ首長国連邦280万人、第3位ミャンマー→タイ150万人、第4位ポーランド→ドイツ150万人、第5位インド→米国120万人である。

・一方難民は移民の7%とされる。しかし難民の発生国は、シリア/アフガニスタン/ソマリアで半数以上を占めている。これらの難民の87%は低中所得国に留まっているが、EUは発生国に近いため、その受入れで不協和音が生じている。2015年16万人の受入れ分担に、チェコ/ハンガリー/ルーマニア/スロバキアは反対した。
・移民・難民は増える傾向にあり、彼らを有為な人材として活用できるかが課題になっている。

-硬直的枠組みで余る先進国の労働力-
○労働需給逼迫を意味しない先進国の低失業率
・先進国の失業率はリーマン・ショックで上昇するが、今は低下している。米国は5%を割り、ドイツは4%そこそこ、日本は3%に低下している。一方でギリシャ/スペインの失業率は20%前後である。

・ドイツは少子高齢化で人手不足が深刻化しそうだが、移民・難民により緩和されている。米国も同様で、若者の労働参加率が低いのにも拘らず、メキシコなどからの移民により労働需給は緩和されている。
・日本でも賃金上昇が加速するとされる失業率を下回っているが、賃金上昇は穏やかである。それは賃金が相対的に低い「非正規雇用者」が増加しているためである。日本は中途採用市場が不十分で、「非正規雇用者」が活用されていない。

○雇用規制改革に取り組む仏国
・先進国の雇用形態は硬直的で、人の能力を活かせていない。その典型が日本である。日本は長時間労働の是正/同一労働同一賃金などの「働き方改革」を行っている。
・米国ではトランプが「不法移民1千万人の内、犯罪歴のある200万人を送還する」と発言している。しかし若者の就学率が上がり、不足する労働力を移民が補っている。移民は農業/小売などの季節的な繁閑がある分野の労働力を支えている。※就学率の件は知らなかった。教育ローンとか問題になっているのに、どんな背景があるのか。
・仏国は解雇規制が厳しいため、正社員の採用が絞られている。正社員は新規雇用の2割しかなく、残り8割は期間限定などの非正規社員である。そのため2016年7月、解雇規制/労働規制を緩和した労働法改正を行った。※この辺りは知らなかった。

○先進国は人の過不足がある
・EUでは「ヒトの自由移動」が保障されている。2009年「公的債務危機」により景気低迷に至ったギリシャ/イタリア/スペインなどから、景気が好調なドイツへの移動が止まらない。イタリアでは大卒以上の高学歴者の流出が顕著で、長期的に見れば南欧諸国から高度人材が少なくなる。実際、産業構造は第3次産業のウェートは上げ止まり、第1次産業のウェートが上昇している。※イタリアの食料自給率は80%あるらしい。EU内でのグローバル化(世界的分業)だな。

・仏国/日本などは労働規制により、人材を活用できていない。いずれの先進国も移民への警戒があり、米国が移民を制限すると、米国では人手不足になり、メキシコではヒトが余剰になる。

-求められる人材と余る人材-
○増える高度人材
・高度人材へのニーズは高まり、先進国では教育水準が上がっている。韓国/米国では大学進学率が特に高い。※100%に近い!

・さらに先進国では大学院卒業者も増加している。大学院卒業者は学部卒に比べ、1~3割賃金が高い。さらに60歳の定年後、学部卒は賃金が大幅に低下するが、大学院卒は低下が穏やかである。
・また大学院卒や博士号を要件とする職種も多い。IMFの専門的な職種では修士以上が最低要件であり、博士号を要件とするポストも多い。

・一方で厳しさを増すのが低賃金/低スキル労働者である。低賃金の職種では移民との競合により、賃金の下落が見られる。※次の節と少し矛盾かな。

○移民の教育水準の上昇
・各国の大学進学率を見ると、高所得国は高止まりしているが、中所得国/低所得国の大学進学率の上昇は著しい。特に中所得国では1995~2014年で、大学進学率は10%から32%に上昇している。国別では中国は大学進学率が4%から39%、インドでは6%から24%、メキシコでは14%から30%に上昇している。
・また英国では国民が大学教育を受けた割合は23%(?)なのに、移民は45%に達している。これはアフガニスタン/シリアなどからの難民は、それなりに資力を持ち、かつ教育を受けた人と思われる。※移民の方が税金を多く納めているはず。

○差別化が急務
・このような状況であり、労働需給の逼迫は起きそうにない。米国に見られる中間層の没落に対処するためには、労働者の技能を熟練させ、知識/経験を深め、新興国の労働者/移民との差別化が必要になる。※具体的でないな。
・輸入増/移民流入により製造業の雇用が失われ、非製造業がそれを吸収している。従って非製造業の生産性を、IT/AI/知的財産/経験などを駆使し高める必要がある。

<史上初のマネー過剰>
-GDPとマネーの歴史的逆転-
○GDPを追い越した通貨供給量
・余っているのはモノ・ヒトだけでなく、カネ(資本)も余っている。契機はリーマン・ショックで、主要国中央銀行の量的金融緩和政策による。OECD諸国+BRICs諸国の通貨供給量(マネーサプライ)は世界GDPを超えた。2014年米国は量的金融緩和政策を終了するが、通貨供給量は落ちていない。
・米国の「マーシャルのk」(=通貨供給量/名目GDP)を見ると、増加の一途である。なお金融緩和を続ける日本は、「マーシャルのk」が異常に高い。

○世界で増えるマネー
・世界各国の外貨準備も増大している。2000~13年で外貨準備は6倍、年率15%で増えている。新興国/途上国だけを見ると、外貨準備は11.8倍に増えている。外貨準備を増やしたのは中国などの新興国であり、その要因はサブプライムローン・バブル/中国経済の高成長/原油高・資源高/新興国・途上国の輸出増である。

・2000年以降、先進国/新興国の経済好調を背景に、新興国に巨額の投資が行われ、外貨準備は増大した。対外負債残高を見ても、2014年に143兆ドルに積み上がっている。2000年の対外負債残高は世界GDP比95%であったが、2014年には1.83倍に増大している。この期間、マネーは世界を駆け巡り、今やマネーは世界に潤沢にある。

○マネーの過剰と不足が混在する
・この背景に世界経済の好調があり、これはサブプライムローン・バブルや中国経済の高成長によるものである。しかしバブルが崩壊し、中国経済の成長が鈍化し、原油価格/資源価格が下落すると、「新興国の時代」は終わる。

・これは新興国の経常収支の悪化を見ると明らかである。2015年OPEC諸国は経常赤字に転落する。サウジアラビアは財政支出の減少を補うため、国営石油会社サウジアラムコの上場を計画している。
・新興国の株/金融資産/不動産に流れ込んでいたマネーも、米国などに還流している。2016年中国の人民元は切下げに転じ、外貨準備も大幅に減少している。

・それでも主要先進国の量的金融緩和政策によりマネーは豊富にある。米国のマネーの内訳(現金、要求払預金、定期預金)は、いずれも増加しており、以前リスクを取りに行っている。

・これらが意味する所は、先進国/新興国/途上国いずれも良好な経済成長は望めず、先進国バブルの修正時期と云える。※こんな時にリーマン・ショックみたいなのが起こらなければ良いが。Brexitはどうなんだろう。

-先進国で続くマネー余剰-
○「マーシャルのk」上昇の意味
・世界GDPと主要国の通貨供給量の逆転は、量的金融緩和政策で通貨供給量が高水準にあっても世界GDPが伸びなくなった結果でもある。「マーシャルのk」の逆数(=名目GDP/通貨供給量)を通貨の流通速度と云うが、これが下がっており、マネーが増えても経済成長に結びついていない事になる。
・大量に通貨が供給されるとマネーの価値が下がり、理屈では物価上昇/金利上昇になるが、そうなっていない。それは原油価格/資源価格の下落や、世界的にモノも過剰のためである。

・主要先進国の経済低迷は、少子高齢化や生産性上昇の鈍化による。また高水準の民間債務も経済低迷の要因である。欧州では銀行救済を国が公的債務で引き受けた。高水準の債務を抱えている国では、投資/消費が抑制され、経済成長の足枷になっている。
・「公的債務危機」を起こした欧州では、緊縮財政を優先した。これでは有効な経済政策も打てず、金融政策で幾ら通貨供給量を増やしても、経済成長できない。

○マイナス金利
・景気/物価を上向かせるためには、実質金利を低位にする必要がある。物価がマイナスの状況では政策金利をマイナスにするしかない。企業の設備投資/家計の住宅投資を刺激するのに、マイナス金利は効果的である。そのためユーロ圏/日本などでマイナス金利が導入された。
・しかしマイナス金利は金融機関の収益を減少させ、経済成長にプラスにならない。また日本の高齢化社会では、預貯金で暮らす高齢者の不安要因になる。さらに日本の多くの企業は投資額より貯蓄額が上回っており、マイナス金利は歓迎されない。

○時間が掛かるカネ余りの解消
・低調な世界経済/ディスインフレ/低金利が定着し、主要国の金融緩和政策により、マネーの需給の緩和は続いている。
・しかし2016年半ば、マネーを活発化させる動きが起きた。1つは原油価格/資源価格の回復である。これはOPEC諸国などの協調減産による。もう1つはトランプによる減税/インフラ投資である。トランプ当選後、これを期待して長期金利が上昇に転じた。※最近逆イールドになった。

・ハーバード大学教授で元財務長官のローレンス・サマーズは、「リーマン・ショック後、勤労所得が回復しなかった理由は過剰貯蓄と投資先の不足」とし、「公共事業を増やし、規制緩和や税制改革で企業の設備投資を増やし、経済を活性化できる」とした。
・トランプの政策により経済が活性化する可能性があるが、2018会計年度からになる。

-経済金融同列の時代-
○経済主・金融従を変える
・今はマネーの規模(通貨供給量)が経済の規模(GDP)を凌駕する時代になった。世界はこの豊富なマネーを活用できていない。トランプが保護貿易に向かえば、新興国がマネーを惹き付けるのは難しい。産油国の財政は膨張し、少しぐらいの原油価格上昇では影響はない。ギリシャ/イタリアなどでは、過剰債務で政府/民間ともにマネーが行き渡らない状況である。

・今までは「経済が主で、金融が従の時代」であった。しかし経済活性化のためには、金融取引の活発化が必要である。金融取引の付加価値は、有形無形の資産負債のやり取りで生じる差益/手数料であり、卸小売業/サービス業と性質が似ている。※金融は好きでない。

・金融業は益々隆盛になっており、「経済が主で、金融が従」の固定観念を捨て、経済と金融が共に主の「経済金融同列の時代」と認識しなければならない。
・「経済金融同列の時代」であるならば、時代に合わせ、金融制度を変化させる必要がある。これまでに金利/金融取引の自由化が行われる一方、金融危機の度に規制が重ねられた。金融規制の緩和とリスク管理は両輪で、どちらも重要であるが、金融業がいかに収益を拡大できるかが重要である。※リーマン・ショックで反省したと思うけど。

○起きやすい金融バブル
・米国経済/世界経済は何度もバブルを起こしてきた。1971年「ニクソン・ショック」により「ブレトンウッズ体制」が崩壊し、ドルと金のリンクが外れると「変動相場制」に移行し、バブルが頻繁に起こるようになる。その直後の「オイル・ショック」は、ドル下落による原油価格の補填が起因である。※知らなかった。
・1980年代末の「不動産バブル」は、ドル切り下げを行った「プラザ合意」が起因である。97年「アジア通貨危機」、98年「ロシア危機」「LTCM破綻による金融危機」、2000年代初頭「ITバブル崩壊」、2008年「サブプライムローン・バブル」などの金融バブルが起きている。

・現在はマネーが豊富にあり、バブルが発生しやすい状況にある。金融危機が起きた際に対処する枠組みだけでなく、金融危機を予防する枠組みの充実も必要である。ヒト・モノ・カネのバランスが必要であり。金融規制の緩和とリスク管理を両輪とし、「経済金融同列の時代」で経済成長を実現する必要がある。
※三本足の脚立が高くなり過ぎて、不安定な感じだな。※本書は概念論が多い。

○貯蓄から投資の時代
・マネーの希少性が薄れた事により、マネーを保有(貯蓄)するメリットは減り、マネーを運用(金融投資)するメリットが増している。
・日本の家計の金融資産に占める預貯金の割合は52.3%で、世界で唯一50%を超えている。経済成長し、株価/金利が上がる局面(?)では、これはリスクである。

・マネーが豊富な時代では、安い資金を調達するメリットは大きい。今は投資不足にあり、投資を誘発するブレークスルー型の社会システムを構築し、イノベーションを起こし、新たな需要を創出する必要がある。今までに供給がない新たな財/サービスの供給に繋がる研究開発への投資が必要である。

<エネルギー過剰時代>
-終わりを告げる石油希少時代-
○オイル・ショックに匹敵するシェール革命
・ヒト・モノ・カネに続き、エネルギーの過剰について述べる。2014年原油価格は100ドル(/バレル)を超えていたが、16年初めに20ドル台に下落する。原油価格を分析すると、原油価格は原油先物売買に起因している事が分かる。
・また原油価格は、2009年以降のシェールオイルの増産も影響している。2015年米国のシェールオイルの生産量は日量489万バレルで、米国の原油生産量の半分を超えている。
・リーマン・ショック後、行き場を失ったマネーが原油先物市場に流入し、原油先物取引が増大している。そのため原油価格の変動幅は近年大きくなった。※やはり余剰マネーは投資ではなく、投機に向かう。碌な事はない。

○厖大なシェールオイル/オイルサンド
・原油価格は戻ってはいるが、シェールオイルの採算価格には達していない。しかしシェールオイルはヒト・モノ・カネと違って、採掘しなければ良い。シェールオイル/シェールガスで世界トップの埋蔵量を持つ米国は、今や原油価格を決める”スイング・プロデューサー”(※初耳)である。
・非従来型の石油資源にオイルサンドもある。カナダはオイルサンドにより、石油埋蔵量で世界第3位である。カナダは天然ガスでも世界第3位の生産国/輸出国である。

・1980年以降、シェールオイル/シェールガスにより原油の確認採可埋蔵量は2.6倍になり、天然ガスは2.7倍に増えた。現在はオイル・ショックとは逆の状況で、エネルギーの需給も長期的に緩む時代である。

○希少性が薄れる化石燃料
・近年「オイルシェール」も発見されている。これは石油を抽出できるケロジェンを含んだ堆積岩で、ケロジェンを高温無酸素状態で加熱すると石油が得られる。これはコストが高く、本格的な開発・生産は行われていない。しかし米国のグリーン・リバー鉱床だけで、埋蔵量はサウジアラビアの推定採可埋蔵量の3倍あるとされる。世界の埋蔵量は石油の埋蔵量を超えると推定されている。
・豊富なエネルギー資源により、資源価格は市場メカニズムで決まるようになった。今後はこの豊富なエネルギー資源を活かす事が重要になった。

-変わる地政学的リスク-
○一変する売り手/買い手
・「シェール革命」は原油需給と原油価格の決定方法を変え、さらにエネルギーの売り手/買い手も変えた。特に天然ガスでは、米国はカタールから液化天然ガス(LNG)を購入するプロジェクトがあったが、急遽このプロジェクトを取り止めた。そのためカタールはこのLNGを欧州に売り、弾き出されたロシアは天然ガスの買い手を中国などの極東に求めている。
・2013年シェールガスを大量に産出するようになった米国は、自由貿易協定(FTA)を結んだ国へのシェールガス輸出を解禁する。

・この「シェール革命」により、世界のエネルギーの流れが大きく変わった。従来は地政学的リスクの高い中東/ロシアがエネルギー輸出国であったが、これに地政学的リスクの低い米国が加わり、世界の地政学的リスクは変化した。

○構造的に変化する地政学的リスク
・地政学リスクに影響するエネルギーの変化は天然ガス以外にもある。従来型の原油/天然ガスは中東/北アフリカに集中していたが、シェールオイル/シェールガスは米国が中心で、オイルサンドはカナダに存在する。
・国際エネルギー機関(IEA)は世界の資源別エネルギー量を発電量で算出し、石炭は830TW年、石油は335TW年、天然ガス220TW年、ウラニウムは185TW年存在するとしている。1TW(テラワット、=10の9乗=1,000,000,000)は、100万KWの原子力発電所が1千基が出力する電力である。

・ウラニウムの確認採可埋蔵量はオーストリア/カザフスタン/カナダ/ロシアの順で、以上の4ヶ国で6割を占める。近年発電量が増えているのが再生可能エネルギーの太陽光発電/風力発電で、これは世界中のどこでも発電できる。IEAによると地球の地上全てで太陽光発電すると、2万3千TW年の発電量が得られるとしている。

・これらのエネルギー供給源の多様化で中東への依存度が低下し、地政学的リスクも低下してきた。太陽光発電のコストが下がれば、エネルギーに絡む地政学的リスクはなくなる。技術革新が進み、再生可能エネルギーが安価になれば、”エネルギー過剰の時代”が到来する。

○シェール革命最大の受益国は米国
・「シェール革命」で最も恩恵を受けるのは米国である。シェールオイルと共に得られる豊富なシェールガスで、石油化学製品の原料となるエチレンを安価に精製している。日本/欧州はナフサからエチレンを精製している。そのため米国の石油化学産業は、世界で最も競争力を有する事になった。米国の天然ガスの価格は欧州の半値である。
・この「シェール革命」により米国産業は極めて大きい競争力/収益力を持ったと云える。この傾向は今後も数十年続くだろう。※羨ましい。

-到来する第3次エネルギー革命-
○再生可能エネルギーはユビキタス型資源
・かつては再生可能エネルギーと云えば水力/風力/地熱だったが、今はそれにバイオマス発電/太陽光発電/波力発電が加わった。これらの再生可能エネルギーはどこでも得られるメリットがある。これは「ユビキタス型」で、第3次エネルギー革命である。

・「ユビキタス型」になるとエネルギー価格を供給者側が決めるのではなく、市場メカニズムで決まる事になる。そのためには欧米で進んでいる「発送電分離」と云った電力システムの改革が必要になる。
・「ユビキタス型」になれば、誰でもエネルギーを生む事もできるし、どんな僻地/離島でも電気が供給され、電気自動車が走り、電化による快適な生活が送れるようになる。※電気が溢れる時代、夢があるな。

○エネルギー多様化で広がるエネルギー戦略
・エネルギー源の多様化は世界経済の安定/成長に繋がる。先進国は太陽光発電などによりエネルギー自給率を高め、エネルギー資源国離れが可能になる。熱帯/亜熱帯地域の非産油国も豊富な太陽光を活用し、新たな輸出資源にもなる。

・エネルギーの多様化は各国のエネルギー戦略にも影響を与える。米国ではガス田から消費地まで、ガスパイプラインが縦横に拡がっている。天然ガスはエネルギー源としてだけではなく、原料としても利活用される。天然ガスは二酸化炭素の排出量が少なく、温暖化対策にも有効である。
・日本はこれまでは原油/LNGを、工業地帯/消費地の港湾に陸揚げするだけであった。しかし豊富な天然ガスを運搬/利用するためのガスパイプラインの敷設が進み始めている。※石油から天然ガスの流れがあるのかな。

○21世紀型エネルギー革命の到来
・エネルギー源は多様化され、その活用方法も多様化され、今は21世紀型のエネルギー革命が始動している。かつてはエネルギーが経済成長を抑制していたが、その制約は緩和された。
・このエネルギー革命は産業の革新をもたらすだろう。石油だけでなく天然ガスも利活用する社会、IT/AI/ロボットにより自動化された社会が構築される。地方でエネルギーを作り出し、売電すれば、地域格差は是正される。このエネルギー革命を最大限に活用するためには、新たな社会の仕組み作りや、経済を活性化させる戦略が重要である。

※ヒト・モノ・カネ・エネルギーが有り余って、可能性は絶大だな。材料は全て揃っているのに、なんで経済成長しないんだろう。

<行き詰る世界経済>
-過剰時代の帰結-
○過剰が経済にもたらす影響
・ヒト・モノ・カネ・エネルギーは過剰だが、各国の状況は様々である。欧州の多くの国は失業率が高いが、英国は景気が堅調で失業率は低い。日本は少子高齢化により、失業率は低くなっている。米国は若者の労働参加率が低く、失業率は低くなっている。しかし先進国の賃金は低位である。これは相対的に低賃金の非正規雇用が増えた事による。
・モノは原油価格の低位が背景にあり、供給過剰の鉄鋼を始め、世界的にディスインフレ傾向にある。
・マネーは通貨供給量が史上最大規模に達しているのに、インフレには至っていない。
※基本はカネとカネ以外と思うが、「カネも余っているが、カネ以外も余っているのでディスインフレ」かな。

○異例だった新興国の時代
・今はヒト・モノ・カネ・エネルギーが過剰な時代であるが、先進国/新興国/途上国の経済状況に注目したい。先進国/中所得国/低所得国の経済成長率を見ると、1990年代は中所得国が高成長している。これは中国の改革開放政策や日本企業のアジア移転などによる。

・2000年以降では、低所得国が高い経済成長率となる。この経済成長率は、CRB指数(天然資源/農産物などの国際商品指数)と重なっている。この時期、米国のバブルや中国経済の高成長があり、農産物/エネルギー価格/資源価格が上昇し、低所得国はその恩恵を受けた。
・2000年以降の新興国/途上国の高成長は、これらの国際的な好条件が揃った事によるが、インフラ整備/経済特区・工業団地整備による外資系企業誘致/教育水準の向上/政治的安定なども高成長の要因である。※条件揃い踏みだな。

○新興国の高成長を支えられなくなった先進国
・2000年以降の「新興国の時代」は、先進国から見ると、輸入増/対外直接投資増/対外証券投資増により大量のマネーが新興国/途上国に流出した時期であった。これにより、新興国/途上国の人々は豊かになり、経済格差が縮小する時期であった。

・しかし米国のバブルが崩壊し、中国経済の高成長が止まる。先進国は製造拠点を新興国に移したため、製造業の雇用は相対的に賃金の安い非製造業に吸収された。これがトランプの誕生を生んだ。※2000年以降の「新興国の時代」は世界が平準化する時代かな。

-世界経済はパイの奪い合い-
○高まる先進国の不満
・先進国は輸入増や移民・難民流入の増加に直面している。それへの不満が英国のEU離脱や米国でのトランプ勝利である。
・先進国はサブプライムローン・バブルで輸入を増やし、原油価格・資源価格が高騰し、厖大のマネーを新興国/途上国に流入させ、その分先進国の雇用/投資を減少させた。先進国の労働生産性は鈍化し、潜在成長率(※景気循環を除去)も鈍化し、新興国/途上国からの輸入増/移民増を警戒するようになった。

・これに対しトランプは保護貿易政策/移民規制政策を実施する事になる。米国は年2回「為替報告書」を発表している。そこに為替監視国として、中国/ドイツ/日本/韓国/台湾/スイスが記されている。為替操作国の基準は①対米貿易黒字200億ドル超、②経常黒字がGDPの3%超、③為替介入額がGDPの2%超である。中国は1項目、日本は2項目に該当している。
・米国で貿易赤字/移民流入に最も該当するのがメキシコで、トランプはNAFTAの見直しを発言している。

○「新興国の時代」の終わり
・先進国は不満を持っているが、新興国/途上国が満足している訳でもない。今後トランプが企業の海外移転を阻止すれば、新興国に取っては輸出増/対内直接投資への逆風になる。原油価格/資源価格の上昇も望めそうになく、新興国/途上国は新たな経済モデルを模索する必要がある。特に中南米/中東/北アフリカの経済成長の鈍化が著しい。

○EUで続く試練
・EUは「ヒトの自由移動」を前提としているが、それが揺るがしかねない状況にある。さらにEUには域内貿易不均衡の問題がある。ギリシャがドイツと同じ通貨を持つには限界がある。
・2017年オランダ/フランス/ドイツで総選挙や大統領選がある。今の枠組みのままでは、EUの求心力は弱まるばかりである。
・2016年末ユーロ圏GDPの0.5%に相当する追加財政支出が提案された。財政健全化が最優先されてきたが、初めての転換である。※記憶にない。

-限界を迎えた世界経済システム-
○岐路に立つ国際経済秩序
・ヒト・モノ・カネ・エネルギーが過剰になる時代は、世界経済の大きな転換を思わせる。戦後の経済体制は幾度か転換してきた。最初の体制は「ブレトンウッズ体制」であった。これは自由貿易による経済成長と完全雇用を目的としたもので、IMFと「自由貿易協定」(GATT)が柱であった。IMFは為替の安定を目的とし、GATTは貿易自由化/関税引下げを目的とした。

・ところが1971年、米国は金とドルの兌換を停止する(ニクソン・ショック)。これ以降世界の為替相場は固定相場制に移行する。一方1995年、GATTは常設機関「世界貿易機関」(WTO)に発展する。今日ではグローバル化/貿易自由化が前提となり、二国間/多国間の「自由貿易協定」が結ばれている。

○先進国の経済活性化が鍵
・先進国/新興国/途上国、いずれもが経済成長できる解決方法/国際ルールを見付けるのは難しい。戦後は米国が世界経済を牽引し、2000年以降は米国のバブルと中国経済の高成長がそれに代わった。これからは米国/EUなどの先進国の経済活性化が期待されるが、トランプの政策は一時的であり、EUは求心力を失っている。

○構造改革抜きでは世界経済は成長しない
・第1章「モノの過剰」では、経済成長の解を「先進国のサービス貿易」とした。第2章「ヒトの過剰」では、「移民元の経済成長」が重要とした。第3章「カネの過剰」では、「先進国の家計の貯蓄を、投資に向かわせる事」とした。これらは強調しておきたい。

・ヒト・モノ・カネ・エネルギーが過剰な時代は、かつてよりなかった。18世紀後半の「産業革命」以前は、農業生産の増減が経済成長を規定していた。この時代は人口増も成長も乏しい時代であった。
・「産業革命」が起きると、エネルギー源は木炭から石炭になり、蒸気機関が実用化される。蒸気機関車/蒸気船が作られ、工場制機械工業により供給力は劇的に増大した。その後も技術革新は続き、賃金労働者は増え、大量生産/大量消費の時代になる。そして今はヒト・モノ・カネ・エネルギーが過剰な時代になった。

・従来は規制緩和で企業の供給力の強化を図ってきた。経済が低調な場合は、需要喚起策としての財政金融政策が機能していた。トランプの減税/財政支出増は、この需給両面を刺激する政策である。トランプは実質成長率4%、物価上昇率2%、名目成長率6%を目標としている。しかし財政赤字を縮小させるためには名目成長率8%が必要で、トランプの政策では規模的にも期間的にも不足している。
・世界経済を活性化するには、大胆な構造改革が必要である。

<世界経済ブレークスルーの方向>
-新たな社会を築く経済構造改革-
○どの方向の経済構造改革が必要か
・主要先進国での構造改革による経済活性化が決め手である。供給力が過剰な現在には、従来型の供給力を増やす構造改革は不要である。また長続きしない一時的な景気刺激策も意味がない。ましてやトランプの保護貿易政策でも移民流入規制でもない。今求められているのは、新しい需要/供給を創出する事である。

・今までの構造改革は規制緩和/民営化/競争促進/既得権解体などであった。小泉改革に「技術革新や新事業への積極的な挑戦を生む基盤を築く」があったが、ヒト・モノ・カネが過剰な時代では、まさにこれらを活用する基盤/環境を築く事が重要になる。

○生活スタイルを変えた産業革命
・ここで「産業革命」が参考になる。「産業革命」は大量生産/大量消費をもたらしただけでなく、新しい財/価値を生み出し、それは新しい需要を生み、生活スタイルを変えた。
・蒸気機関の発明で蒸気機関車が作られ、大量/遠距離の輸送が可能になり、人の移動が容易になり旅行・観光を生んだ。旅行の一般化で、旅行代理店/ホテル業が盛んになった。物流が盛んになって、天然資源のある国も天然資源がない国も、経済が活性化された。工場制機械工業により貴族しか着れなかった衣服を、庶民が着れるようになった。人々に余暇が生まれ、生活スタイルが変わった。

・重要なのは、蒸気機関の発明から始まった「産業革命」は、社会に様々な影響を及ぼし、需要を生んだ事である。主役が新興国から先進国に戻り、先進国はブレークスルーを生み出すしかない。※最近、破壊的イノベーションをよく耳にする。

-フロンティア拡大と第4次産業革命-
○経済成長を生むフロンティア拡大
・経済成長はフロンティア拡大の歴史でもある。大航海時代にポルトガル/スペイン/英国/仏国などが植民地を獲得し、そこで得られる農産物/資源は膨大な富をもたらした。その後の「産業革命」も前述した通りである。
・今日では女性の活躍で、家事/育児のビジネスが誕生し、ICT技術の発達で、BtoB/BtoCのビジネスも生まれている。今は様々なモノが過剰にあり、新しい価値を生むチャンスである。※ヒト・モノ・カネ・エネルギーだけでなく、インターネットにより情報も過剰だな。これらは5大要素だな。

○ユビキタス・ネットワーク社会の到来
・需給の観点で見れば、”不足の時代”は供給者優位の時代であったが、”過剰の時代”は消費者優位の時代である。人材で見れば、付加価値のある人材を有する国が優位になる。ビッグデータの処理能力/分析能力や、IT関連の専門能力を持つ人材は付加価値が高いと云える。
・イノベーションを生みだす「仕組み」も重要になる。10年余り前、政府は「ユビキタス社会」を推進した。エネルギー面では「ユビキタス型エネルギー革命」が進み始めている。
・インターネットでは「ユビキタス・ネットワーク社会」が実現しつつある。「ユビキタス・ネットワーク社会」は通信環境だけではなく、全く新しい財/サービス、例えば通信と融合したロボット/自動車/AIなどである。※IoTとかMaaSだな。ユビキタスは聞いた事があるが、ユビキタス・ネットワーク社会は初耳。

○条件が整った第4次産業革命
・「第1次産業革命」は木炭から石炭へのエネルギー源の移行で起こった。「第2次産業革命」はエネルギー源が石炭から電気に広がった事による。戦後も「エネルギー革命」(安価で使い勝手の良い石油)により「産業革命」が起きた。21世紀の「エネルギー革命」(シェール革命、再生可能エネルギー、市場メカニズムによる価格形成)は、「第4次産業革命」を起こす土台である。
・今はAI/ビックデータ/IoTなどが発展を遂げた「ユビキタス・ネットワーク社会」で、ブレークスルーがもたらしたフロンティアにより、先進国/新興国が共に経済成長する土台が整った。

-社会システムで勝負する国がある-
○社会システムが支える経済成長
・エネルギー革命/第4次産業革命/ユビキタス・ネットワーク社会などはイノベーションを生む土台となるが、他にもある。需要と供給がマッチングできる情報化社会や、資金不足/購買力不足/国民所得の不均衡などをなくせる教育制度/社会福祉制度の充実も土台になる。
・先進国はこれらを、それなりに備えているが、画期的な技術革新までには達していない。しかしこれらを満足させる社会システムを作り上げた国が、以下である。

○社会保障の充実と市場経済で成長するスウェーデン
・1つ目はスウェーデンである。2000~15年の年平均経済成長率は、スウェーデン2.3%、米国1.9%である。スウェーデンは”充実した社会保障”と競争社会が両立している。”充実した社会保障”は企業が負担しており、高い社会保障を負担できない企業は退出となる。その代わり失業者は生活資金/研修・再教育/良質な就業先の斡旋などを受けれる。
・またスウェーデンは人材教育にも力を入れている。スウェーデンの公的教育支出の対GDP比は世界一高く、7.7%である。
・日本は失業を防ぐため、企業の倒産を抑える政策を採り、公的教育支出の対GDP比は84ヶ国中53位である。これはスウェーデンと対照的な政策である。※それで日本はゾンビ企業ばかりになり、生産性が低下し続ける。

○絶え間なき産業政策で高成長を遂げたシンガポール
・シンガポールの1人当たりGDPは世界第4位である。日本はシンガポールの45%で半分にも達していない。この高成長の背景に産業高度化政策がある。※シンガポールの産業政策は徹底しているらしいね。
・シンガポールの歴史を振り返ると、1965年マレーシアから独立するが、中継貿易で稼ぎ、英語を公用語として国民皆教育を徹底した。1970年代には加工貿易に政策の重点を置き、労働集約型からエレクトロニクス/化学などの資本・技術集約型にウェートを移した。さらに金融業にも力を入れた。1990年代には自由貿易協定を締結し、物流インフラや世界有数の空港・港を整備し、サービス経済化(?)を推し進め、バイオメディカル産業を振興した。2000年代には環境・水資源/バイオメディカル/デジタル関連などの分野でR&D戦略を進めた。
・今は基礎インフラ/生活インフラをIoTで結ぶ「スマート国家戦略」を進めている。主要先進国はシンガポールを目標にしている。自動運転タクシーが営業している国はシンガポールしかない。

<日本経済の最大の逆転策>
-過剰の時代に勝つ前提条件-
○勝ち組になり切れない日本
・原油価格/資源価格の下落で、日本は原油/LNGの輸入額を、2015年対前年比で8兆円、16年対前年比で4.9兆円減少させている。また財/サービスの輸出額は、2000年1Q対GDP比8%から、2016年3Q対GDP比16%に倍増させている。日本は負け組ではない。2000年以降の中国経済の高成長/米国のバブルは、日本の不動産バブル崩壊後の景気低迷を脱する機会となった。

・しかし日本は勝ち組とは言えない。家電製品/半導体で、韓国/中国にシェアを奪われた。2005~15年でテレビの輸出数量は1/5に減じ、逆に電話機(スマートフォンなど)の輸入数量は2.2倍に増え、純輸入国になった。
・また2000~15年で欧州/米国は工業生産を増やしているが、日本は減じている。また世界は価値ある人材を流動化させたが、日本はそのような人材を獲得できていない。またマイナス金利政策は借り手優位の政策にも拘わらず、おカネは投資されず、現金/要求払預金に向かっている。

○長期停滞が先行する日本
・日本の経済は低調で、世界の人材を獲得する動きもなく、新興国の追い上げに対抗して投資する動きもなく、安いマネーを活用して収益を上げる動きもない。
・要求払預金と定期預金の伸び率を見ても、常に要求払預金の伸び率が高く、リスク回避する経済状況が続いている。

・この長期低迷の要因は、少子高齢化と生産性の低調な伸びにある。出生率と潜在成長率/実質経済成長率は極めて高い相関関係にある。※人口と経済規模は相関だろうね。
・人材の活用も不十分である。高齢者の大半は定年後、再雇用されるが待遇は大幅に減じる。女性の活用もOECDで最低クラスである。

○欧米企業と比べて不活発な日本企業
・日本の労働生産性も低い。2011~15年の年平均の労働生産性上昇率は、日本0.3%、米国0.8%、ドイツ0.6%である。特に非製造業の労働生産性が低く、金融/運輸/卸小売/飲食・宿泊は米国の半分以下で、飲食・宿泊は米国の34%しかない。

・人手不足が深刻になり、合理化/省力化が必要であるにも拘わらず、それは低調である。日本の企業はIT投資に消極的で、貯蓄投資バランス(ISバランス)を見ると一目瞭然である(内部留保)。
・機械設備への投資だけでなく、IT/AI/知的財産などの無形資産への投資もイノベーションには重要であるが、それは低調である。

-過剰時代にどう対応するか-
○グローバル化余地が大きな日本経済
・以上のように、日本は人材の活用や生産性向上のための投資で遅れている。さらに①過剰なヒト・モノ・カネを活用するグローバル化/サービス化、②AI/第4次産業革命への対応、③人材の高度化が重要である。※最初に要点を挙げ、個別に進めば良いのに、最終章は構成が練られていない。

・日本経済のグローバル化は世界最下位クラスである。TPPなどの自由化度が高い自由貿易協定を結び、国内市場を活性化する必要がある。※今の日本の自由貿易協定の比率は高いはず。
・グローバル化の遅れは対内直接投資に限らない。輸出額は世界第4位であるが、GDP比では第183位である(※日本は地理的に閉ざされた国で、正しくガラパゴスかな)。特にグローバル化が遅れているのが中小企業である。輸出している中小企業は2.8%、対外直接投資をしている中小企業は0.3%しかない。

○日本企業の付加価値力は強い
・先進国では付加価値の中心は、モノからサービス/知財に移行している。日本は消費でサービスが占める割合は4割を超え、さらにその割合を増やしている。しかしサービス貿易の伸び率(2000~15年)は、OECD全体は2.7倍だが、日本は2.3倍に留まっている。
・「世界貿易機関」(WTO)は「付加価値貿易」を発表している。それで見ると日本はOECD諸国で第2位85.3%で高い。ただし「研究開発付加価値」(R&D)は低い。日本は研究開発に補助金を付けたり、研究開発費への税制優遇を強化するなどの対策が必要である。※付加価値貿易/研究開発付加価値の説明が欲しい。

○付加価値はモノからコトへ
・サービス貿易を増やすには、国内でのサービス消費を充実させる必要がある。日本の家計支出に占めるサービス支出の割合は42.2%である。消費の中心がモノからサービスに向かっている背景に、所得向上(?)/生活スタイルの多様化/女性の活躍/高齢化などがある。この傾向は今後も変わらない。
・近年急激に増えたのが通信費である。また特に「コトの消費」が増えている。旅行/テーマパークでの体験/演劇/音楽などがこれに該当する。

・米国のサービス消費の割合は44.6%で、日本の割合はそれ程高くはない。米国では自宅の部屋を宿泊用に貸し出したり、一般人が自家用車で他人を運ぶサービスを行っている。※米国は反規制主義で自由主義が強い。
・総務省『情報通信白書』に、個人の遊休資産を貸し出す「シェアリング・エコノミー」が記されている。「シェアリング・エコノミー」はインターネットのBtoB/BtoCが、CtoCに拡がる事であり、それを支援する政策や企業の積極的な参入が望まれる。

-日本でイノベーションは起こせる-
○社会システム革新で成長する
・2016年政府は『日本再興戦略2016』を発表した。IT/AI/ロボット/インターネットの活用で「第4次産業革命」を起こし、2020年に30兆円の新市場創設を目指すものである(超スマート社会)。自動運転/介護ロボットなどがこれに含まれる。政府は「超スマート社会」を狩猟社会/農耕社会/工業社会/情報社会に続く第5世代社会(ソサエティ5.0)としている。

○ヒトの過剰とAI時代に生き残る人材
・AI時代/第4次産業革命に入る前に、解決しないといけないのが人材である。2013年オックスフォード大学の準教授が、AI時代で消える職業/残る職業を分類した。702の職業を分析し、47%の職業は消え、34%の職業は残るとした。消える職業は運送・物流/オフィス事務・管理業務/生産/多くのサービス業務とした。一方で賃金や教育水準が高い人の職業はAIに代替されないとし、低スキル/低賃金の労働者は高いスキルを身に付ける必要があるとした。残る職業はセラピスト/歯科医など、コミュニケーションが重視される職種が並んでいる。※この分析結果は、AIの能力を低く見ているのでは。

・OECDも同様の分析を行っているが、AIに置き換わる割合を9%としている。この割合は国によって6%~12%の幅があり、フェース・ツー・フェースの状況で異なる。ただし教育水準の高い人ほど置き換えられないとする点は一致している。
・国としてはAIに駆逐されない人材を揃える事が不可欠であり、AIを使いこなせる人材の育成が必要である。それは創造力/コミュニケーション力に秀でた人材の育成であろう。

○日本がブレークスルーの契機となるチャンス
・”不足の時代”から”過剰の時代”に入り、世界で様々な軋轢が生じている。これに対しトランプによる保護主義、英国のEU離脱、日本の家計の金融行動/企業の内部留保などのリスク回避が目立つ。
・幾つかの世界経済の展開が考えられる。①今のパイの奪い合いが継続される、②トランプの政策により、バブルが発生する、③「第4次産業革命」が起き、成長ステージに入る、④米国が世界銀行/IMFのメカニズムを放棄し、経済力のある国が新しい経済ルールを適用する、などが考えられる。③「第4次産業革命」が望ましいシナリオである。

・日本は「第4次産業革命」を実現する「超スマート社会」を推進しており、世界経済再生のリーダーになれる。

<あとがき>
・2016年は原油価格の下落・回復/英国のEU離脱/トランプ大統領の誕生など、想定外の出来事が起きた。その背景は需要減少/反グローバルなどと云われている。しかし世界経済は成長し、原油の需要は増え続けている。また英国は今もグローバル化を推進する国であり、米国もグローバル化の恩恵を受けた国である。

・なぜ需要減少とする見方が多かったのか。なぜ英国で移民流入を問題視する見方が少なかったのか。なぜ”錆ついた工業地帯”に以前から焦点が当たらながったのか。※分水嶺を超えて、初めて現実を知るのかな。
・その答えは「過剰の時代」である。2000年以降、サブプライムローン・バブル/中国経済の高成長で世界経済は大いに盛り上がった。しかしリーマン・ショックにより世界経済の高成長は途切れ、ヒト・モノ・カネ・エネルギーは供給過剰に転じた。
・この状況は、1980年代後半の日本と同じ状況である。当時の日本は債務/設備/雇用の過剰が云われていた。高成長が急減速すると、需給が緩和し、供給力の過剰により「過剰の時代」になる。※需要は簡単に減るが、供給は簡単には減らせないだな。

・本書は前半でヒト・モノ・カネ・エネルギーの需給を述べ、後半で今後の世界経済がどう動くかを述べた。最後に日本がブレークスルーを起こせる事も強調した。

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