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『AIIBの正体』真壁昭夫(2015年)を読書。

AIIBについて知りたいので本書を選択。
AIIBは米国と対立する組織だが、その本質は米国vs新興国であり、脱一極集中/多極化である。

AIIBは中国クローズなので、AIIB自体の解説は少ない。
本書の趣旨は中国の台頭と、それに日本がどう対応すべきかである。

内容的にはシンプル。後半は抽象的で退屈する。

お勧め度:☆☆

キーワード:<AIIBの脅威>インフラ開発、新常態、シルクロード経済圏構想(一帯一路)、バブル/影の銀行(シャドウバンキング)、多極化、潜在的な動機、<世界の金融体制とそれ歴史>ブレトンウッズ体制、IMF/世界銀行、アジア開発銀行(ADB)、基軸通貨、IMF改革、アフリカ/最貧困層(BOP)、<米国を追い落とし、覇権を狙う中国>海外直接投資(FDI)、特許、株式市場、香港、国有企業、人民元、<多極化する世界>リーマン・ショック、パクス・アメリカーナ/強いドル、通貨安競争、人民元/アジア単一通貨、米中関係、内向き、<日本はどうすべきか>参加表明、米国追従、スイス、イノベーション、技術/知的財産/ノウハウ、競争力

<まえがき>
・本書は「アジア・インフラ投資銀行」(AIIB)について解説します。2013年10月「アジア太平洋経済協力会議」(APEC)で、習近平主席がアジアでインフラ投資する国際的な金融機関を提唱します。これがAIIBのスタートです。
・2015年3月参加しないと見られていた英国が参加を表明すると、ドイツ/仏国/イタリアなども参加を表明します。これは関ケ原の戦いでの小早川軍の寝返りようです。

・本書を書こうとした理由は2つあります。1つは、20世紀は”米国の世紀”でしたが、21世紀に入り退潮しています。一方中国は2桁成長を続け、世界第2位の経済大国になりました。
・もう1つは、日本は米国追従を続けてきましたが、今後は自国の国益を守る判断が必要になります。

<AIIBの脅威>
○設立の経緯とその役割
・AIIBは世界を多極化させる可能性がある。米国経済の存在は大きく、米国だけがファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を回復させた。欧州ではデフレリスク/財政リスクがある。日本は金融緩和しているが、単純に回復できる状況にない。中国も輸出/投資に陰りがみられる。
・そんな中でアジアでのインフラ投資は注目される。またアジアの盟主中国がインフラ開発を主導する事は注目される。AIIBは世界多極化のカタリスト(触媒)になるだろう。

・AIIBは開発金融する国際的な金融機関である。2013年10月「アジア太平洋経済協力会議」(APEC)で、習近平主席がAIIB設立を提唱した。この背景にASEAN(東南アジア諸国連合)などとの「シルクロード経済圏構想」があった。
・この会合にオバマ大統領は出席しなかった。そのため中国の存在感は、より一層高まった。

・2014年10月AIIBの設立覚書に、東南アジア/南アジア/中東の多くの国(21ヵ国)が調印する。締め切りとなる2015年3月、英国などが参加を表明する。翌月創設メンバー57ヵ国-アジア太平洋(25)、中東(10)、南米(1)、アフリカ(1)、欧州(20)-が発表される。※BRICSが全て参加している。当然日米は参加していない。

・この陣容から、世界経済の米国一極集中から多極化が示唆される。1971年8月「ニクソン・ショック」にあったように国際金融は米国に大きく影響されてきた。米国は国際通貨基金(IMF)/世界銀行(WB)を通して世界経済に大きな影響を与えてきた。これは「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる。特にIMFは、旧社会主義国の構造転換/南米危機/アジア通貨危機/欧州財政危機などで主導的役割を担った。
・米国は、新興国のインフラ需要を中国に握られるのを警戒している。2015年5月時点、米国は新興国/西側主要国との対米協調で失敗したと云える。

・AIIBの役割は、①インフラ開発のための金融支援、②アジアを牽引するリーダーの創出である。①インフラ開発では、アジアの経済発展には港湾/鉄道/水利システムなどの開発が不可欠である。道路だけでなく地下鉄などの交通システムや、発電所の建設も不可欠である。アフリカ(?)などでは上下水道などの生活基盤も必要である。協調的に進めるAIIBは、IMFよりも歓迎される可能性がある。

・②アジアのリーダーは長期的な視点で見る必要がある。これまでの中国の成長は輸出が支えた。しかしリーマン・ショック後は世界経済が停滞し、投資に切り替えた。しかしこれも収益性は悪化し、国内の生産設備のリストラが要求されている。中国も内需を拡大するには外需を取り込む事が必要で、それにはアジアのインフラ需要が有効である。またアジアのインフラ需要を取り込む事で、アジア経済圏でのリーダーになれる。※”取り組み”ではなく、”取り込み”か。

○中国経済が抱える問題
・中国の実質国内総生産(GDP)成長率は、リーマン・ショック後、10%から7%にシフトした。リーマン・ショック前は米国の住宅バブルが米国内の消費を牽引し、中国は輸出を拡大した。これにより中国は家電製品などで”世界の工場”となった。しかしリーマン・ショック後は輸出の伸びを鈍化させた。

・日本のGDPの6割は個人消費が占めているが、中国は4割しかない。中国は個人消費を伸ばす必要があるが、個人消費は沿岸部の”豊かな階層”に限られている。
・2012年中国で初めて生産年齢人口が減少した。日本と同様、中国も海外市場の開拓が不可欠となった。そのため「シルクロード経済圏構想」を具体化し、AIIBが資金を提供するのは、これらの課題に対する重要な対策となる。

・2015年3月李克強首相は全人代で中国経済を「新常態」と表現し、高度成長が終わった事を国内に示した。同月「ボアオ・アジアフォーラム」で習近平主席は「シルクロード経済圏構想」(一帯一路)に自信を示した。これはASEANの成長を中国が取り込もうとする試みで、その資金をAIIBが提供する。これによりアジア経済を中国がコントロールする事になる。※ボアオ・アジアフォーラムは世界経済フォーラムのアジア版。

○中国がAIIBを必要とする訳
・新興国のインフラ整備には8兆ドルの資金が必要とされ、それをAIIBが担う事になる。

・中国は資本主義と共産主義の両方を用い、経済成長してきた。人民元のレートも中国人民銀行によりコントロールされている。このように規制された経済では、特定の市場/分野が膨張し易い。不動産市場の上昇/セメント・鉄鋼の生産能力の拡大は、その一例である。人為的にバブルを起こし、中国は成長してきたと云える。※日本の傾斜生産方式と一緒かな。

・伝統的な経済学は、バブルを説明できていない。それは伝統的な経済学では、人間は合理的に行動し、情報は的確に市場に伝わるとしているためである。それなのに日本の資産バブル/リーマン・ショックで崩壊した住宅バブルなど、バブルの崩壊は惨憺たる状況をもたらす。

・バブル崩壊を起こさないためには、”バブルの乗り継ぎ”が必要になる。今の中国には「影の銀行」(シャドウバンキング)問題があり、”バブルの乗り継ぎ”が難しくなっている。
・中国の預金・貸出金利は規制されてきた。しかし資金を必要とする家計/企業の信用力には差がある。そのため信用力の低い地方政府(!)は投資会社を設立し、それを経由して資金を得ていた(シャドウバンキング)。しかし中国経済の減速で、その投資会社のデフォルト(債務不履行)が発生し始めた。
・バブルの後始末には、①不良債権の処理、②バランスシートの調整が必要になる。①不良債権の処理は、貸借対照表から融資債権を償却する事である。②バランスシートの調整は、借金の返済のため、資産を売却する事である。今の中国には、これらの動きが見られるようになった。

・中国が「シルクロード経済圏構想」を打ち出したのは、国内で余剰する生産能力を海外向けに稼働させるためである。AIIBを巡る議論を見ると、日米などは共産党の視点から批判しているが、新興国は直接投資(?)/雇用の増加/技術・ノウハウの蓄積を望んでおり、AIIBによるインフラ開発は双方のメリットになる。

○英国が中国陣営に付いた理由
・2015年3月英国はG7加盟国で初めてAIIB参加を表明する。これは日米に衝撃を与えた。

・米国はAIIBに対し傍観した。それは東南アジアには中国との領土・領海問題があり、「これらの国は中国と友好的にならない」との思い込みがあった。また米国にはIMF/世界銀行があり、楽観していた。
・2015年10月オバマ大統領は「アジア太平洋経済協力会議」(APEC)を欠席した。これはアジア諸国に「米国はアジアを重視していない」と思わせた。
・日本は中国と領土問題があり、米国に追従した。結果的に日米は孤立する。

・英国がAIIBに参加したのは、G7の利害より、アジアの成長を取り込む事を優先した結果である。ASEAN諸国がAIIBへの参加を表明し、「シルクロード経済圏構想」の協力体制の確立も、英国を後押しした。「シルクロード経済圏構想」は、EUを超える経済連携のステップになるかもしれない。

・先進国は高齢化が進む一方、アジアの新興国は人口が増大し、必然的にインフラ開発が必要になる。中国には人権/環境/市場の効率性・透明性/国際的規制の遵守に課題がある。しかしG7に世界を牽引する力はもうない。それは先進国の超低金利が示している。
・アジアでのインフラ開発は、これまでは国対国で行われきた。しかし「シルクロード経済圏構想/AIIB構想」は、アジア新興国/先進国の参加により巨大なパワーになるだろう。

・「シルクロード経済圏構想/AIIB構想」により、中国は存在感を増し、多極化が始まるだろう。リーマン・ショックまでは世界経済は米国中心で、「米国に良い事は、世界に良い事」(ワシントン・コンセンサス)で回っていた。リーマン・ショック後、「米国と新興国は異なる景気循環に入る」(デカップリング)の発想が生まれるが、結果的には起きなかった。結局分かった事は、「世界は繋がっている」であった。中国を中心としたアジア経済ができるのも時間が必要である。米国の政治経済力/軍事力も直ぐに力を失う訳ではない。
※ここまでの展開はシンプルだな。

○世界の主要国がこぞって参加する背景
・多くの先進国がAIIBに参加しているのは、アジア経済成長の恩恵を受けたいためである。しかしアジア経済成長を取り込みたいのであれば、トップセールスでも可能である。金融支援でもこれまでのノウハウで可能である。それなのに参加を表明したのは、国際関係の交渉を優位に進めるためだろう。

・米国は議会の反対姿勢もあり傍観した。その理由としたのが、国際機関としての透明性であった。オバマ大統領が国内政府機関の一部閉鎖の問題から「アジア太平洋経済協力会議」(APEC)を欠席したが、これは「米国のアジア軽視」と写った。※何度も出てくる。

・ドイツはAIIBを、アジアでプレゼンスを高める大きなチャンスと捉えた。欧州経済におけるドイツの存在感は突出しているが、発言力は制限されている。超国家的なEU/ユーロにはデフレリスク/財政リスクがあるが、EU/ユーロは民主的に運営されているため、ドイツがリードする事はできない。ドイツはAIIB参加を、自らの存在感を世界に示すチャンスと捉えた。

・AIIBへのG7参加には、2つの意義がある。①中国の政治体制も盤石ではなく、フレキシビリティ/客観性を担保する必要がある。②国際金融機関の運営のノウハウの補完である。
・中国には民族問題がある。チベット/ウイグルで暴動が起き、これに対する対応で国際的に非難されている(内憂外患)。※これが①の解説?時々理解が難しい解説がある。

・中国には国際金融機関としてのノウハウがない。アジア各国の地理的条件/文化/商習慣/法体制を把握しておらず、情報開示/資金調達の方法/各国の利害調整に上手く対処できるか確信できない。そのため英国/ドイツなどの補完は不可欠である。
・日米はADB(アジア開発銀行)などで、そのノウハウを持っていたが、初動を誤ったかもしれない。AIIBは米国に続く国を生む可能性がある。

○取り残された米国/日本
・AIIBには英国/ドイツ/仏国などの先進国や、中国と領土問題があるフィリピン/ベトナムも参加し、57ヵ国となった。日米が見送った理由は、①米国のプライド、②米国の自負と日本の追従である。

・まず①米国のプライドを考える。米国はAIIBを、”米国への挑戦”と捉えた。中国がアジアで軍事/経済で影響力を高めるのは好ましくない。米国はAIIBを傍観ではなく、積極的に参加すべきであった。しかしオバマ大統領は、2011年債務上限の引き上げで、「ティーパーティー運動」に強固に反対された。またオバマ大統領は、2014年中間選挙で敗れ、オバマ政権への不信は募っていた。信任を維持するために、AIIBを認める事はできなかった。

・次に②米国の自負と日本の追従を考える。リーマン・ショック後、中国の景気刺激策で新興国の景気は回復するが、長続きしなかった。一方米国は「シェールガス革命」を起こし、2013年には世界経済は米国頼みとなった。市場関係者は「世界経済はやはり米国頼み」となり、これは米国の自負に繋がった。日本は米国に追従した。

・米国は中東などにも関与し、「米国が世界を安定させている」との自負がある。しかしこの思考には注意が必要である。全ての国に、自国優先の考えがあるからである。EUは独仏の衝突を避ける根本的な目的があるが、両国には欧州の覇権を自国が握りたい潜在的な動機がある。
・これは英国も同様で、第2次世界大戦まではポンドが基軸通貨であった。その後「ブレトンウッズ体制」が確立され、ドルが基軸通貨になった。英国も隙あらば影響力を回復したい潜在的な動機があると思われる。

<世界の金融体制とそれ歴史>
○米国主導の世界金融システム
・第2次世界大戦までは金の価値を基礎にして”お金”を発行する「金本位制」であった。これは合理的な仕組みだが、世の中に出回る”お金”をコントロールするのには向いていなかった。1929年「世界恐慌」により「金本位制」は崩壊する。

・1944年7月ブレトンウッズで戦後の経済体制が議論された。ここで確立したのが「ブレトンウッズ体制」で、要点は、①国際的な流動性の供給、②国際収支の調整機能である。①として、金と兌換が可能なドルなどの”お金”で国際的な決済を行う「金為替本位制」で、1オンス=35ドルとなった。
・「ブレトンウッズ協定」により、IMF/世界銀行(当初はIBRD)が創設された。IMFは短期、世界銀行は中長期の融資を行っている。

・日本/ドイツの経済復興により米国の貿易赤字が積み上がった。1971年8月ニクソン大統領は、ドルと金の兌換を停止する(ニクソン・ショック)。米国は経常収支が黒字の国に通貨の切り上げを要求し、12月「スミソニアン合意」により、円は1ドル=308円に切り上げられた。その後も切り上げ要求は強く、1973年2月日本は変動相場制に移行した。1985年9月「プラザ合意」が結ばれ、米/英/仏/西独/日本によりドル売りの協調介入が行われた。このように戦後の国際金融は、米国の利害で動いた。

○IMFと世界銀行
・IMFの業務は、①外貨の貸付、②サーベイランス、③技術支援にある。これらの業務は単独ではなく、複数で運営される。※本書は横文字(カタカナ)が多いが、なるべく漢字に直しています。

・①外貨の貸付は、対外的な支払いが困難になった場合、資金支援を行う。リーマン・ショック後では、ウクライナ/ハンガリー/ギリシャに行われた。
・1997年タイから始まった「アジア通貨危機」では、IMFは資金支援と引き換えに、大胆な構造改革を要求した(コンディショナリティ)。
・アジア新興国の企業統治(コーポレート・ガバナンス)は縁故・血縁主義だが、米国流は社外取締役など客観性を持った人員を配する。「アジア通貨危機」で韓国の財閥が解体されたが、これはIMFの要求による。

・②サーベイランスとは監視業務で、IMFは加盟国の通貨/国際収支をモニターしている。
・③技術支援とは、経済政策を運営するためのノウハウを教授する業務で、財政・金融政策の研修や、銀行システムの健全性を確保するための助言などを行っている。

・IMFも万能ではなく、過度なコンディショナリティが批判されている。近年、新興国は外貨準備を増やし、外的ショックへの抵抗力は増した。2015年4月新興国の議決権を高める提案があったが、米国が反対した。

・世界銀行は国連の機関で、長期的な視点での経済発展を重視し、”貧困の削減”をミッションにしている。世界銀行は、国際復興開発銀行(IBRD)/国際開発協会(IDA)/国際金融公社(IFC)/多数国間投資保証機関(MIGA)/投資紛争解決国際センター(ICSID)からなる。
・世界銀行の中核はIBRDで、中所得国/貧困国向けの融資や助言を行ってきた。具体的にはボスニア・ヘルツェゴビナへの小口融資、ギニアでのエイズ防止などがある。ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦は、戦後で最悪の紛争で、民族対立/経済破綻/市民生活の崩壊をもたらした。この支援は経済再生の重要なステップになった。
※IMF/世界銀行には短期/中長期の違いもあるが、新興国/低所得国の違いもあるかな。

・IMF/世界銀行とAIIBは機能の重複が見られ、IMFのサーベイランス/コンディショナリティに存在意義はあるのだろうか。米国主導で進められてきた金融システムを問い直す契機である。米国、特に米国議会は国際的な金融システムを問い直す必要がある。

○アジア開発銀行と日本
・1966年アジア開発銀行(ADB)は、アジア/太平洋地域の経済開発を目的として設立される。2014年の出資比率は、日本15.7%/米国15.6%/中国6.5%/インド6.4%などで、先進国の比率は64.6%である。ADBは日米がリードしている。人事では、歴代の総裁は全て日本人で、財務省/日銀の関係者である。※これは驚き。
・戦後、日本は短期間で国力を回復し、”世界の工場”になった。この日本の姿はアジアのモデルになり得る。

・ADBの目的に”貧困の削減”がある。ADBはそのために”統合”(?説明がない)を視野に入れている。具体的には、政府とのコミュニケーション/融資/出資/技術協力/保証などのサービスを提供している。そのための基金(貧困削減日本基金、アジア・クリーンエネルギー基金、日本奨学金プログラムなど)を作り、日本はそこに資金を提供している(※間接的だな)。こうした取り組みを行っているが、中国からは官僚主義/手続きが煩雑などと批判されている。
・2015年4月ADBとAIIBは意見交換し、協力する方向で進んでいる。

○基軸通貨の強さ
・戦後の世界経済は、IMF/世界銀行が復興/開発の支援を行い、通貨制度は米ドル(以下ドル)中心に回ってきた。貿易決済はドルで行われ、各国の外貨準備もドルが中心となり、新興国の債権もドル建てとなった。日本の円もドルで評価され(USD/JPY)、原油/金などの商品もドルで評価された。世界の為替取引の85%はドルで、ユーロは30%、円は19%である。

・そのため米国の経済が世界に大きな影響を与えてきた。アベノミクスにより円安になり、輸出産業の収益性を高めたが、その背景に「シェールガス革命」で米国の景気が回復し、FRBによる利上げ期待があった。
・各国は米国の経済/金融に良くも悪くも影響を受ける。そのため新興国は反発を強めている。「シルクロード経済圏構想/AIIB構想」は、その表れである。一朝一夕に通貨体制が転換するとは思われないが、AIIBは新興国の支持を得ていくものと思われる。これは米国の一極集中から、多極化への流れでもある。

○広がる米国主導の経営運営への不満
・米国の影響が大きく、自国の経済政策を運営する事ができないため、各国から不満が高まっている。

・「ワシントン・コンセンサス」は、新興国の経済危機/経済発展に重要な役割を果たしてきた。ところが冷戦後、ポーランドは急速に市場経済を導入したが、景気が著しく悪化した。これはIMFが掲げたコンディショナリティ(改革要求)が、早急かつ厳しすぎた結果である。
・しかし結果論からすれば、こうしたIMFの取り組みにより新興国は経済成長した。韓国は「アジア通貨危機」により、財閥の解体を進め、半導体/液晶パネルで世界シェアを獲得した。これはインドネシア/タイなども同様である。つまり「ブレトンウッズ体制」(※今度はこっち)は、世界経済が秩序を保ち発展するモデルを提供したのである。

・しかし新興国が経済発展を遂げた事で、米国への批判が高まりつつある。G20は、G7にロシア/オーストラリア/中国/ブラジル/インド/アルゼンチン/インドネシア/韓国/メキシコ/サウジアラビア/南アフリカ/トルコ/EUが加わった組織である。しかしG20の登場で新興国の要望が先進国に聞き入れられた訳ではない。
・リーマン・ショック後、IMFは米国に金融セクターの是正/財政の健全化を要求してはいない。そのため新興国から「自分達には指図するが、米国には指導しない」との反発が起こる。2015年4月G20では、IMF批判/米国批判が相次いだ。

・2010年IMFで、新興国の出資比率を高める改革案が出されるが、米国の財務相が拒否権を持つため進んでいない。そのため新興国は、自国の利益を重視する共和党をねじ伏せれないオバマ大統領を批判している。
・中国が提唱したAIIBに先進国/新興国が賛同したのは、このような批判の表れである。AIIBの登場により、IMFの存在感は低下する可能性が高い。

○成長の中心となるアジア/アフリカ
・マクロ経済学では経済成長の3要素を、①労働の投入量、②資本の投入量、③インベーション(全要素生産性)としている。
・先進国と新興国との大きな違いは人口動態である。合計特殊出生率の世界平均は2.56で、日本は1.43である。高い国ではニジェール7.15、アフガニスタン6.63、東ティモール6.53などで、アジア/アフリカ地域が高い。人口が増えれば需要が増え、投資を生み、経済成長の最重要条件である。

・アフリカは人口の増加が望めるが、貧困/紛争が課題である。北アフリカでは「アラブの春」「ISの台頭」があり、治安の維持以前に国家運営そのものが危ぶまれる。投資するためには、政権の安定が大前提である。
・一方アジアは民主化は進められ、インフラ需要は内陸部/農村部にもある。過度のリスクテイクを取らない投資家にとって、アジアは現実的な投資先である。

・そう考えると中国の「シルクロード経済圏構想/AIIB構想」は合理的な判断である。しかし中国の本心はアフリカにあると思われる。2000年以降中国は「中国アフリカ協力フォーラム」(FOCAC)を開いている。2012年第5回フォーラムで200億ドルを融資すると約束した。
・中国はアフリカに対し、低額貸付/軍事取引/平和維持活動/人材教育など広範囲の協力をし、見返りに中国製品の流通/エネルギー・天然資源の権益確保を得ている。

・中国はアジアではインフラ開発を狙い、アフリカでは最貧困層(BOP)ビジネスを狙っている。BPOビジネスとは貧困層の需要を取り込むビジネスである。BPOビジネスはリスクが伴うため大企業は参入していない。また私達には貧困対策は企業ではなく、政府/世界銀行/NPO・NGOが担当すべきとの考えがある。中国が今後、アフリカでのビジネスをどのように展開するかは未知であるが、アフリカの成長を取り込もうとしている事は確かである。
※数年前、中国のエネルギー・天然資源確保が問題になったな。今はどうなっているんだろう。

<米国を追い落とし、覇権を狙う中国>
○世界の工場から世界の覇権国を目指す
・海外直接投資(FDI)とは企業が海外で工場を保有したり、株式を取得(通常10%以上)する事である。これは投資される国が期待されている証拠であり、先進国の技術/製品開発力/組織的マネジメントなどを得られるチャンスでもあり、雇用の創出/賃金の底上げにもなる。

・2013年FDI流入額は米国1590億ドル/中国1270億ドル/ロシア940億ドルであったが、2014年は中国が第1位に躍り出ると予測されている。iPhoneはアップルの製品だが、生産は台湾の企業が中国で行っている。
・中国は生産年齢人口が減少に転じ、生産拠点から流通拠点に転換する必要がある。FDI流入額で第1位になったのは、それが期待されているからである。この事実は”世界の工場”以上のインパクトを与えた。

○米国と云えども、無視できなくなった中国
・2012年と13年の特許出願件数で中国は25.4%増やし、米国は5.3%増やし、日本は4.2%減らした。なお出願件数が伸びている分野は、コンピュータ技術/機械関連・エネルギー/計量/デジタルコミュニケーション/医療技術の5分野である(※分かりにくい区分)。この5分野が占める割合は米国37%、中国28%、日本27%、韓国25%である。主要分野(5分野?)での出願件数は米国29%、日本20%、中国12%で、この3ヵ国で6割を占める。※日本は出願件数は多いが、減少傾向にあるかな。
・中国の出願件数の伸びを考えると、中国の技術力は無視できない(※出願件数で既に日本を抜いたはず)。博士号取得者も2007年頃に米国を抜いた。

・中国で出願件数が多いのは、機械関連・エネルギー/デジタルコミュニケーション(※5Gかな)/コンピュータ技術である。米国はコンピュータ技術/製薬/医療技術である。
・専門性(?)を見ると、コンピュータ技術ではイスラエル/米国の順である。デジタルコミュニケーションではフィンランド/スウェーデン/中国の順である。特許出願件数の総数では米国がトップだが、専門性で必ずしも米国がトップではない。情報伝達の分野でもインド/中国の順である。※それぞれ得意分野があるのか。

・特許出願件数を企業別に見ると、2013年はパナソニックがトップであった(※パナソニックがトップ!)。2014年は、ファーウェイ(中国)3442件/クアルコム(米国)2409件/ZTE(中国)2179件/パナソニック1682件となっている。※それでファーウェイ/ZTEを叩いたんだ。
・スマートフォンのシェアはサムスン電子(韓国)/アップル(米国)/レノボ(中国)/ファーウェイとなっている。米国ではモバイル通信のクアルコム、CPUのインテル、パソコンOSのマイクロソフトなどが健闘している。

・気になるのは日本の企業である。2013年特許出願件数で世界第6位であったシャープは赤字に転落し、経営基盤が脆弱化している。日本の企業は技術力はあるが経営力がないため買収され、技術が海外に流出してしまう。※既にシャープは鴻海精密工業(台湾)に買収された。”既に”ばっかりだ。

○世界の金融市場における中国の地位
・証券市場を評価するポイントに規模/機能/透明性などがある。中国が経済成長するにつれ、中国の株式市場の時価総額(規模)も増加してきた。2014年末の証券取引所の時価総額を見ると、ニューヨーク証券取引所(NYSE)19.4兆ドル/ナスダック(NASDAQ)7.0兆ドル/日本取引所グループ(JPX)4.4兆ドル/上海証券取引所3.9兆ドル/ユーロネクスト3.3兆ドル/香港取引所3.2兆ドルとなっている。上海証券取引所が第4位、香港取引所が第6位、深圳証券取引所が第8位となっている。

・ただし中国の国内市場(?詳しい説明がない)で外国人が自由に売買する事はできない。外国人の投資家は「適格外国機関投資家」(QFII)の認定を受ける必要があり、さらに投資限度額も認めてもらう必要がある。上海/深圳のA株市場はQFIIでないと売買ができない。そんな制約がありながら、中国の証券取引所は拡大してきた。

・近年、他の取引所を買収して規模/機能を拡大する動きが顕著になっている。ニューヨーク証券取引所(第1位)とユーロネクスト(第5位)は合併し、NYSEユーロネクストが運営している。また香港取引所(第6位)は、世界最大の非鉄金属取引所であるロンドン金属取引所を買収した。
・また2014年11月上海(第4位)と香港(第6位)の相互取引が可能になった。外国人投資家はQFIIの認定がなくても、上海のA株式へ投資できるようになった。これにより上海総合株式指数はリーマン・ショック後の最高値を更新している。
※2014年上海総合株式指数は2000近辺だったが、2015年は5000を超えバブルとなり、2016年バブルが崩壊し、3000付近で落ち着いている。その要因はこれか。

○投資される側から投資する側へ
・2013年各国の海外直接投資(FDI)は、米国3380億ドル/日本1360億ドル/中国1010億ドル/ロシア/香港となっている(※香港が第5位!)。先進国/新興国で比較すると、1999年は先進国が91%を占めていたが、2013年は先進国61%/新興国39%となり、新興国の企業は格段に競争力を高めた。

・2014年中国が発表したFDIは、22.8%増の1078億ドルとなっている(※前数値と矛盾)。中国のFDIを地域別に見ると、アジアを増やし7割に達している。一方で減じているのが欧州である。セクター別に見ると、鉱業/ビジネスサービス(リースなど)が半分を占め、次に金融/卸小売が続き、この4業種が85%を占める。企業別に見ると、中国石油化工集団公司/中国石油天然気集団公司/中国海洋石油総公司/中国移動通信集団公司となっており、「国有企業」が投資を盛んに行っている。※投資先は石油権益かな。

・中国からの投資を考える上で香港は重要である。香港は特別行政区で中国とは異なる政治体制である。中国石油化工集団公司(シノペック)はアパッチ(米国)のエジプトでの権益を買い取っている。シノペックはブラジルへの投資も積極的に行っている。シノペックは香港を経由して、投資していると思われる。中国は西洋文化に慣れ親しんだ香港を玄関にして、株式相互取引で自国の株式市場を魅力的なものにし、その裏でエネルギー/鉱業/金融などの分野に積極的に投資を行っている。
※それで香港が第5位なんだ。中国マネー恐ろし。

・中国の金融システムは共産党がコントロールしている。中国には4大国有銀行がある。中国工商銀行/中国建設銀行/中国農業銀行/中国銀行である。中国工商銀行は世界でもトップクラスである。中国の国有企業はこれらにバックアップされ、世界の権益/企業への投資を加速させるだろう。中国は国有企業を40社程度に減らすと思われる。これにより国内での過当競争を避け、資本を効率的に配分させるだろう。※国有企業って何社位あるんだろう。

○シルクロード経済圏構想
・中国の投資の7割はアジアに向けられれている。これは中国企業がアジアで基盤を固めるための「シルクロード経済圏構想」(一帯一路)と直結している。この構想は、中国から欧州に繋がる”陸のシルクロード”と”海のシルクロード”からなる。中国にとって欧州は、重要な貿易相手である。
※中国は貪欲に着実に拡大成長戦略を進めている。一方日本は米国追従/無戦略・無策。どうしようもなくなってから、騒ぐだけで終わるんだろうな。全てがこのパターン。

・欧州はエネルギーをロシアに依存してたが、ウクライナ問題が発生したため、黒海経由のパイプラインの建設計画が立ち上がった。ロシアはウクライナなど旧ソ連諸国に圧力路線を選択したため、EU/米国から経済制裁を受け、経済成長への期待は失われた。

・中国に云えることは、ロシアと違って、軍事的行動など、明確に緊張感を高める行動を取っていない。「シルクロード経済圏構想」で、中国と欧州を結ぶ地域での市場拡大を目指している。
・2014年11月北京で「シルクロード経済圏構想」に関する会合が開かれ、中国が400億ドルを拠出するインフラ開発のファンドが打ち出された。このインフラ・ファンドとAIIBは、「シルクロード経済圏」で道路/都市を開発するだけでなく、「シルクロード経済圏」を過剰な生産能力の吸収先にする。またこれは「シルクロード経済圏」での取引/投資を、人民元で行わせる誘因になる。

・中国は「シルクロード経済圏構想」で輸出/投資を拡大し、企業の収益を高め、内需を拡大させようとしている。またこの構想は中国経済と欧州経済を繋ぐ壮大な構想で、開発途上国も参画させる魅力を持っている。この魅力から、中国と領土問題を抱えるフィリピンやG7もAIIBに参加した。この構想は透明性などで問題があるにせよ、合理性が存在する所以である。
※たまにAIIBの融資案件を聞くが、順調なのかな。

○人民元を基軸通貨へ
・中国が「シルクロード経済圏」で経済的基盤を強化するためには、各種経済取引/投資を人民元で行わせる必要がある。人民元改革をし、人民元を基軸通貨にする事は、「シルクロード経済圏構想」と表裏一体である。

・今の基軸通貨である米ドルは、多くの国で外貨準備として保有されている。貿易/有価証券の決済もドルで行われている。そのため米国経済は世界各国に大きな影響を与える。2013年「テーパリング危機」により、アジアの通貨は対ドルで大きく下落した。

・そのため中国は「シルクロード経済圏」で人民元での決済を拡大するだろう。また人民元建て国債を各国で保有できる環境を整備するだろう。ユーロでは超国家的な機関が法体系を作り、統合を進めているが、「シルクロード経済圏」ではそれは難しい。「シルクロード経済圏」では、中国は経済面での協力を優先するだろう。それには人民元の流動性/信認がどの程度あるかが、「シルクロード経済圏構想」のメルクマールになる。

・人民元は、中国の中央銀行である人民銀行が為替レートをコントロールしている。1990年代中盤以降。人民元は1ドル=8.2765元で固定されていた。2005年7月から人民元改革が進み、「通貨バスケットによる管理フロート制」になった。
・さらにドル以外の通貨(ポンド、円、豪ドル、シンガポール・ドル、ウォンなど)と直接取引できるようになった。これは「シルクロード経済圏構想」を打ち出した時期と一致している。これにより人民元の流動性は高まり、市場規模も拡大するだろう。

<多極化する世界>
○低下する米国の威信
・リーマン・ショックにより米国の金融システムの脆弱性が露わになり、世界経済を停滞の底に陥れた。これは米国が世界経済に及ぼす影響の大きさを示す危機であった。この危機にIMFは何ら提言をせず、IMFは米国の議会/財務省に支配されている事が明らかになった。
・これにより米国の威信は低下した。さらに2011年夏、米国財政への懸念が高まり、米国議会は信用を失い、オバマ大統領の統率力/交渉力に疑問符が付けられた。

○Gゼロの世界
・イアン・ブレマーはこの状況を、リーダー不在の「Gゼロ」と称した。中国は自国の利益を追求しているが、そこに安全保障の意識はない。「シルクロード経済圏構想」で協調姿勢を取っているが、あくまでも自国の利益を優先している。米国の威信は低下し、米国民は世界の基軸国になるよりも、国内を優先した政策/政府を志向していくだろう。※自国ファーストだな。
・この結果、米国、中国を中心とする新興国、ユーロ圏などのグループ毎に経済/安全保障が議論されるだろう。英国がAIIBに参加したように、利害調整は複雑化するだろう。

○覇権国と歴史の流れ
・19世紀から20世紀初頭までは「パクス・ブリタニカ」であった。英国は蒸気機関の開発により工業力/軍事力を高めた。経済力/軍事力を高めた英国のポンドは基軸通貨となった。しかし第1次世界大戦から第2次世界大戦の間、ドイツなどのキャッチアップにより多極化する。英国はブロック経済体制を進め、米国はケインズ政策(ニューディール政策)で世界恐慌から脱した。

○パクス・アメリカーナ
・第2次世界大戦により「パクス・アメリカーナ」となる。米国が主導する「ブレトンウッズ体制」になり、米ドルは基軸通貨になり、米国は政治/経済/軍事のリーダーになった。
・英国は、社会保障制度の手厚さや、国有企業の生産性の停滞が足枷となり低迷する。しかしサッチャー政権による構造改革で息を吹き返す。
・米国は朝鮮戦争/ベトナム戦争を戦い、1990年代には湾岸戦争に勝利する。ソ連は崩壊し、IMFは東側諸国の資本主義への体制転換を支援した。

・「双子の赤字」の言葉がある。レーガン政権下でFRB議長を務めたポール・ボルカーは、インフレ抑止のため高金利政策を推進する。その結果ドル高になり、輸出の減少/輸入の増加から貿易赤字になった。クリントン政権も”強いドル政策”を推進し、海外からの資金流入を促した。ドル上昇(?)により輸入物価は抑制され、インフレリスクは低下した。
・これらのドル高政策で米国経済は成長した。1990年代「ITバブル」を起こし、「同時多発テロ」で「ITバブル」は収縮するが、グリーンスパンFRB議長の低金利環境(?)が住宅市場への資金流入を生み、「住宅バブル」となる。こうした一貫した”強いドル政策”は米国への資金流入を支えた。
※1985年プラザ合意でドル安にしたのに、その直後から強いドル政策を継続?※グリーンスパンは低金利なのに強いドル政策?
※米国は経常収支が赤字なので、世界にドルをばら撒き、基軸通貨でいられるのでは。この辺り疑問だらけ。

○激化する世界的な経済戦争
・今世界各国は「通貨安競争」で需要を奪い、景気を回復させようとしている。日本は「量的・質的金融緩和」、ユーロ圏は「量的緩和+マイナス」で資金を調達し易くしている。これらの金融政策の目的は2つある。①低金利により株式投資/設備投資を促す、②通貨安により、輸出企業の収益を増やす。

・新興国も同様であるが、インドネシア/インド/ブラジルなどでは、輸入価格の上昇でインフレリスクが高まる。新興国の経済は低迷し、通貨は売られ易くなっている。米国が金融政策を転換すると、新興国の株式/債務/通貨は売られ、金利上昇/通貨安/株価下落の三重苦に陥る。新興国は輸出促進のため通貨を切り下げる一方、インフレリスクを下げるため通貨を切り上げる(利上げ?)矛盾する経済環境にある。
・以前の米国は、”ドル高が国益”であったが、近年は輸出によって成長を高めようとしており、シェールガス開発もその一つである。

・米国では徐々に景気回復し、FRBによる金融政策の正常化(利上げ)は各国の懸念材料になっている。米国が金融政策を正常化すると、リスク資産(株式、不動産、高利回りの債権)は影響を受ける。懸念が高まれば、多くの国は追加の利下げを行う必要がある(※緩和の強化が必要なのかな)。
・日本は経済を安定させるため緩和策を強化する。ユーロ圏も財政懸念/高い失業率の問題があり、量的緩和は有効な手段である。
・中国も景気を回復させるため「シルクロード経済圏構想/AIIB構想」で各国の需要を取り込もうとしている。米国への批判は中国が構想を進める上で、有利に働いている。

○高まる人民元の重要性
・中国は「シルクロード経済圏構想」により、国有企業を支援し、アジアでのインフラ開発を進めるだろう。これにより人民元は存在感を増すだろう。これが日本とって何を意味するのか考える必要がある。

・日本は円安になり、韓国はウォン高になった。韓国は今でもウォン高を警戒し、為替介入している国である。
・世界が需要争奪戦に向かう中、韓国は中国との関係を強化している、中韓は通貨スワップ協定に合意し、中韓貿易の決済で人民元/ウォンを拡大する事に合意している。一方2015年日韓の通貨スワップ協定は終了した(※終了しなくても、多国と結んでいた方が良いと思うが)。日韓の通貨スワップ協定は、ASEAN+3(日中韓)の「チェンマイ・イニシアティブ」で結ばれた協定である。日韓には歴史問題があり、日本より中国との経済連携を重視したためである。

・日本は今後の中国の可能性を無視すべきではない。中国は「シルクロード経済圏構想」を提唱し、韓国/インドなどの影響力ある国とも連携している。そのため各国は投資/決済のための人民元の確保(?)を急いでいる。

・「シルクロード経済圏構想」により、人民元がユーロのように「アジア単一通貨」になるためには、多くの制約をクリアする必要がある。
・「アジア単一通貨」の構想として、「アジア通貨単位」(ACU)があった。これは「アジア開発銀行」(ADB)が構想した通貨で、域内の多国通貨建て債券市場/資本市場を促進する考えである。※先日マレーシア首相が東アジア共通通貨を提唱した。

・「シルクロード経済圏構想」で、人民元が「アジア単一通貨」になる事はない。しかし中国がインフラ開発を取り込む事で、各国は人民元での貿易決済を望むようになり、人民元の重要性は高まる。これにより日本が関与できる「アジア通貨単位」の必要性を低下させてはいけない。

○米中はどのような関係になるのか
・米中関係は基本的には相互不信である。米国の輸入元は中国が1位、輸出先は中国が3位であり、米国債の保有も日中が上位である。米国がベトナムへの武器輸出を解禁したのは、中国のアジアでの政治/経済/軍事における存在感を抑止するためである。
・米国のAIIB傍観は、①AIIBの経営体制への懸念、②米国の威信が理由である。①では、AIIBが中国主導で進められる懸念があり、逆に米国はそれにより問題が発生するのを望んでいる。②では、中国が提唱したAIIBに参加すると、米国の威信は低下する。米国の政治家/保守党などには、「第2次世界大戦後は米国が世界秩序を整備してきた」とのプライドがある。米国の立場を脅かす勢力を警戒するのは、自然の流れでもある。

・しかし米国も中国の存在を無視し続ける事はできない。米国がAIIBを傍観するのは、「AIIBが改善されれば、協力しても良い」とのメッセージかもしれない。しかし英国などが参加し、ノウハウを提供すれば、米国に参加してもらう必要性はない。

・中国はアジアだけでなく、アフリカに対しても経済支援しており、最貧困層(BOP)ビジネスを推し進めている。アフリカでは先進国米国に比べ、新興国中国は歓迎されやすいだろう。現に米国はIMF改革などで批判を受けている。
・西側諸国から経済制裁を受けているロシアは中国に接近している。2018年から30年間、中国に天然ガスを供給する合意がなされている。
・「シルクロード経済圏構想」により、中国とロシアの関係は強化されるだろう。また中国と英国/ドイツなどとの関係も強化されるだろう。※ホント同じ事の繰り返しが多い。

・以上より米国は中国に対し不信を表すだろうが、正面から批判する事はない。そんな中で中国は着実に存在感を増すだろう。
※今のトランプは明確に批判している。と云うより、自国ファーストから密接に関係する国を批判している。

○米国一極集中から多極化へ
・新興国の発言力が高まり、米国の威信は徐々に低下する。しかし米国の経済は強く、リーマン・ショック後も株価指数は史上最高値を更新している。
・2013年オバマ大統領は「アジア太平洋経済協力会議」(APEC)を欠席し、「米国は内政に足を取られ、外交を御座なりにしている」との不信を買った。IMFは「ワシントン・コンセンサス」の結果として新興国に様々な要求をしてきたが、リーマン・ショックのように米国自体をコントロールできなかった。
・米国はG7だけでなく、G20の意向も包括的に取り込む必要がある。米国は新しい経済コンセプトの提唱や、中国との定期的な会合など、積極的なコミュニケーションを取れば、新興国の批判は低下するかもしれない。

・しかし米国は”内向き志向”を強めている。その結果、国際社会の調整をする国が不在になる恐れがる。そのため多極化は繁栄の切っ掛けになる可能性もあるが、不安定さを高める可能性もある。※今のトランプは世界の協調体制から”一抜けた”である。
・2015年米国ケリー国務長官は、米国の内向きを批判し、「積極的に世界に関与すべき」と述べた。議会で海外よりも国内、”大きな政府”より”小さな政府”と云う主張が浸透すれば、ロシア/中国の動きは活発になり、日本は極東で孤立する恐れがある。ケリー国務長官は「TPPへの参加は、世界経済を米国の影響下に置く上で重要」と述べた。

<日本はどうすべきか>
○AIIBはどうなるか
・結論から言うと、日本はAIIBに参加すべきである。G7の中心国である英国などが参加し、フィリピンなどの中国と領海問題を抱える国も参加した。台湾は参加を表明したが、国名(チャイニーズ・タイペイ)から拒否された。これらの動きは、アジアにおいて中国の影響が、いかに大きいかを示している。一方日本は日米同盟の関係で、見送りを決めた。
・2015年3月、AIIB創設メンバーの申請が締め切られ、4月創設メンバー57ヵ国が発表された。地域別では、アジア太平洋25ヵ国/欧州20ヵ国/中東10ヵ国/アフリカ1ヵ国/南米1ヵ国である。G7からは英独仏伊が参加した。

・AIIBに対する日本の懸念事項は、①ガバナンスの透明性、②審査体制である。日本は、米国流のガバナンスや審査体制が整備されなければ賛同できないとした。世界が多極化する中で、この選択は賢明と言えない。米国だけに追従するのではなく、成長が期待できる中国/東南アジア、さらには英国/ドイツなどへの感度を高める必要がある。多極化する国際社会に日本が提供できる事を把握し、前向きにイニシャティブを発揮する事が重要である。

・政府によると、まだ参加表明する可能性はあるそうだ。日本は米国/英国などと意見調整してきた経験がある。日本は歴代のADB総裁を送り出した実績があり、このノウハウを提供すべきである。日本は米中日の利害を調整する役割を果たすべきである。参加によって日本の国際社会での役割を引き上げるべきである。
・中長期的な観点からすると、相対的に高い経済成長が望めるアジア市場に積極的に参加すべきである。インフラ開発にしても、道路/港湾の整備だけで終わるものではない。インフラ開発は、どの国でも手に入れたい事業である。「リスクがあるから参加しない」ではなく、問題解決に積極的に関わる姿勢が必要である。

○日本はこれからも米国追従で大丈夫か
・中国が国際社会で発言力を高める事で、各国は中国との関係を強化する。日本は米国流のコーポレートガバナンスを取り入れ、それに従い株主優先の経営をしてきた。「米国は正しい」とする画一的な態度は、合理的な意思決定を疎外している。
・中国には中国のイデオロギーがあり、それを学ぶには中国のプロジェクトに参加する必要がある。

・米国は”内向き志向”を強める傾向にある。リーマン・ショックまでは、IMFなどによる「ワシントン・コンセンサス」が浸透し、米国を中心とするグローバリズムは歓迎されていた。第2次世界大戦後の日本/アジア/南米などの経済発展・安定は米国抜きに考えれれない。今後中国が台頭すると、一極集中が崩れ、国際社会は不安定化するだろう。

・日本は孤島で、民族的に均質性が高く、家父長制が温存する国である。そのため盲目的になり易い。2016年米国で大統領選が行われる。”内向き志向”の強い大統領が選ばれるようであれば、日本は世界から取り残される可能性が高い。

・日本はもっとリスクに敏感にならなければならない。多極化に備え、リスクを分散させる必要がある。「シルクロード経済圏構想/AIIB構想」により中国はアジアで認められたが、今後は世界の新興国のリーダーとして認められるだろう。これは新たな基軸の形成に繋がる。

・スイスの「世界経済フォーラム」が、2014年「国際競争力ランキング」を発表した。これによるとスイスは6年連続で第1位となった(※手前味噌だな)。スイスは時計/食品/機械/金融などに優秀な企業があり、競争力が高い。スイスは永世中立国で、スイスフランは安全通貨となっている。
・日本はスイスと共通点が多いが、ブランド力で劣る。アジアでブランド力を持つ企業は、トヨタなどに限られる。日本は産官学連携/知的財産の保護などで、技術を磨く必要がある。※技術はあるが、経営がダメと述べていたが、結局経営ではなく技術か。

○日本がこれから考えるべき事
・アベノミクスは、大胆な金融緩和/機動的な財政政策/投資を喚起する成長戦略からなる。また経済成長の3要素は、①労働力の投入量、②資本の投入量、③イノベーションである。①労働力の投入量は、生産年齢人口が増えるのが不可欠である。さらに②資本の投入量が増える事で、多くの付加価値を生み出す事ができる。日本は高齢化が進むため、①②共に減少する。そのため③イノベーションが必要になる。イノベーションは”創造的破壊”と訳され、旧習を打破し、新しい製品/プロセス/コンセプトを生む事である。
・国内で展開されてきた電力/水道/鉄道などを、海外で展開するのもイノベーションである。今のソニーは、スマートフォンの高機能カメラが収益を支えている。この部品開発への特化もイノベーションである。企業の自由度を高めイノベーションを生み易くする事と、それにより海外から投資を呼び込む事が重要になる。

・日本のインフラ開発の技術力は高い。例えば火力発電の運転管理技術、液化天然ガス/石油化学関連での工程管理、鉄道車両の生産技術などは競争優位にある。自動車でのハイブリッド技術/燃料電池なども競争優位にある。これらは中国での環境問題や内陸部での都市開発のインフラ需要である。
・政府はインフラ需要を獲得するため、労働力の流動性を高める政策や、設備減税などの政策が必要である。ただし設備減税は企業の延命や過剰な生産設備となる恐れがあり、分野でメリハリを付ける事が重要になる。

・金融政策も重要である。1980年代バブルから景気回復できなかったのは、日銀などによる金融政策の失敗が原因である。
・しかし金融政策に過度に期待できない。2013年4月以降、日銀は異次元金融緩和(量的・質的金融緩和)を行っているが、2年で2%の物価上昇は達成されていない。物価目標を達成するには、需要の喚起が必要である。
・金融政策により円安になり、輸出企業は収益性を高めたが、これはイノベーションではない。過度の金融緩和は市場を麻痺させ、経済に健全でない。

・日本は経済成長が望めるアジアに隣接している。この利点を生かすべきで、アジアの需要を取り込むべきである。※インフラ需要だな。

○中国との関係をどうするか
・中国に対しては、尖閣諸島を自国領にするのではとの脅威論がある。これを自力で解決するのは難しく、日米同盟による安全保障の傘の下に入るしかない。中国/韓国からは常に歴史認識で批判される。これには過度に反応しないのが得策と思われる。中国との関係を強めていく上で重要なのが、日本が優位な技術である。

・中国との関係で、いち早く進めるべきなのが知的財産の保護である。商標は「マドリッド協定議定書」で国際的に保護されているが、知的財産はキャッチアップされていない。米国の通商代表部(USTR)は、ロシア/インド/インドネシア/タイ/ウクライナなど13ヵ国を知的財産の「最重要監視対象国」に指定している。※中国は入っていない?

・日本はiPS細胞などの再生医療分野で優位にあるが、この技術を流出/コピーさせてはいけない。
・日本は先進技術の基礎研究に対する資金支援が十分でない。知的財産を蓄積するためには、産官学の協力体制が必要である。

・中国の技術力は高まっているが、基本的な管理ができていない。例えば自動車の販売台数を2500万台と予測しているが、生産能力は5000万台もある。一方日本は「かんばん方式」などノウハウを沢山持っている。
・中国に対応する”ひな形”はない。中国を脅威と決め付けるのも良くない。日本の豊富なノウハウに対する中国の需要を喚起すべきである。※結局盗まれるだけ?

○多極化する世界の体制にどう対応するか
・中国が”世界の工場”となったのは、消費者向け製品(B2C)である。中国には生活の質を高めたい人が多いため、これは当然の結果である。このコモディティー化された製品で日本が対峙するのは無謀である。日本の家電メーカーはスマートシティ/スマートハウスなどに事業転換する必要がある。
・日本のインフラ開発/生産管理には強い需要がある。日本は企業向けビジネス(B2B)に活路を見い出すべきだ。また日本は部品の競争力は高い。コンデンサやLTE通信用パーツには強みがある。※5Gはどうなんだろう。

・中国は日本をどう見ているのだろうか。中国は日本のバブルを十分研究している。1985年「プラザ合意」後、日本は円高に苦しむが、1987年「ルーブル合意」によりドル安が抑制され、”乾いた薪”と称される金融緩和が行われる。これにより溢れた資金は株式/不動産に流入し、バブルを発生させた(※重要な話と思うが、初めて出てきた)。中国はこれを見て、金融緩和のリスクを学んでいる。
・為替レートを市場原理に任せる(変動相場制?)のは、経済変化への抵抗力を低下せせる。為替レートは経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)とは関係なく、ヘッジファンドなどの投機筋によって動かされている。そのため中国は経済をオープンにしない。

・内需の低迷は、日本/米国/中国に共通の課題である。日本が内需を拡大させる事ができれば、バブルだけでなく、内需拡大の手本になる。量的・質的金融緩和はドル高円安を支えたが、物価上昇には至っていない。

・中国は生産年齢人口が減少を始め、内需喚起は重要な課題になった。そのため競争力の強化が必要である。中国は「シルクロード経済圏構想」により、経済規模を拡大させるが、それは競争力の強化にはならない。そこに日本が付け入る隙がある。
・日本も同様に競争力の強化が必要だが、日本の競争力は基礎技術の高さと、生産管理のノウハウにある。日本はこの分野を磨き、内外の需要を喚起すれば良い。

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