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『マイナス金利の標的』長谷川慶太朗/田村秀男(2016年5月)を読書。

関心のあるマイナス金利なので、本書を選択。
ただしマイナス金利導入直後に書かれているので、その実際の効果については書かれていない。

中盤以降は、経済成長/デフレ脱却/消費税増税などの一般的な話になる。

対談だが、それを余り感じさせない。また文章も読み易い。

お勧め度:☆☆

キーワード:<マイナス金利は経済をこう動かす>所要準備額/超過準備額、政策委員会、貸出金利/預金金利、ゼロ金利、量的・質的金融緩和/追加金融緩和、国債、住宅ローン、金融業界の再編、地方、<マイナス金利の効果はこれから>日経新聞、雇用/景気、幅と規模、利益剰余金(内部留保)、円安、訪日外国人/ホテル/民泊、資産逃避、<デフレ脱却は可能か>人口減少、デフレ脱却、同一労働同一賃金、技術革新、<政府が資金を使え>緊縮財政、投資、消費税増税、インフラ投資、官民ファンド、<消費税増税延期をめぐる思惑>消費税増税の再延期、普天間問題、憲法改正

<まえがき>
・2016年1月29日日銀はマイナス金利の導入を発表した。8日前、黒田総裁は参議院決算委員会で「マイナス金利は考えていない」と明言していた。そのため金融関係者は衝撃を受ける。
・ただしマイナス金利は個人/企業の預金口座には付かず、金融機関の日銀の口座(日銀当座預金)に付けられる。しかしこの金融政策は金融業界だけでなく、他の業界にも変革をもたらすだろう。
・著者2人はマイナス金利肯定派だが、デフレ/インフレに関しては意見が異なっている。長谷川氏は金融政策/財政政策ではデフレを脱却できないと考えているが、田村氏は可能と考えている。

<マイナス金利は経済をこう動かす>
○初めて導入されたマイナス金利
・信用力の高い通貨/債権/金融商品はマイナス金利になった事がある。2011年ドイツ国債がマイナス金利になっています。2016年1月日銀が-0.1%のマイナス金利を発表し、一般人にも注目されるようになりました。
・ただし2月16日以前に預けた日銀当座預金には従来通りの0.1%の金利が据え置かれ、それ以降に預けたお金に-0.1%のマイナス金利が付けられます。

・日銀当座預金には法律で定められた「所要準備額」(法定準備預金額)と、それを超えた「超過準備額」があります。「所要準備額」には金利は付きませんが、「超過準備額」には、2008年より0.1%の金利が付けられていました。全ての金融機関で「所要準備額」は9兆円、「超過準備額」は210兆円あり、金融機関は1年で2100億円の利息を受けていました。
・1月29日日銀の「政策委員会」の金融政策決定会合でマイナス金利が決定され、「所要準備額」は0%、「超過準備額(マイナス金利以前)」は0.1%、「超過準備額(マイナス金利以降)」は-0.1%の3段階になった。※マイナス金利以降は日銀に預けず、金融機関内で保管かな。

○日銀総裁のリーダーシップ
・これまで日銀当座預金に金利を付けていたのは、白川前総裁の”負の遺産”であった。「政策委員会」は総裁/副総裁(2名)/審議委員(6名)の9名で構成される。今回のマイナス金利は、この内5名の賛成で決定した。そしてこの5名は、何れも2012年12月安倍政権が発足した後に「政策委員会」に入った人である。
・マイナス金利に反対した4名中2名は年内に交代するので、黒田色が益々強くなる。

○豚積みされていた預金が企業活動に使われる
・金融機関は資金を日銀当座預金に豚積みしておけばよかったが、マイナス金利でそれができなくなりました。日銀当座預金の金利は事実上の基準金利になり、貸出金利はこれに近付きます。
・銀行が利鞘を稼ぐには、貸出金利より預金金利を下げる必要があり、都銀4行(三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、りそな銀行)は定期預金の金利を0.025%から0.01%に下げました。
・いずれ銀行は預金口座にマイナス金利や手数料を課すでしょう。そうなると企業はそのお金を、設備投資/賃上げ/研究開発に回さざるを得なくなります。

・日銀当座預金には、①金融機関同士の決済手段、②個人/企業への支払い準備、③「所要準備額」(法定準備預金額)の役割がある。日本には合計1559の金融機関があり。その内訳は、ゆうちょ銀行1、都市銀行5、信託銀行3、地方銀行64、第二地方銀行41、ネット銀行など13、信用金庫265、信用協同組合153、労働金庫13、農業協同組合679、証券会社など255、生命保険41、損害保険26である。※額はどんな割合なのか。

○まぜ日銀当座預金に金利が付いていたか
・0.1%の金利は基準金利になっていました。金融機関同士も0.1%で融通する事になります。金融緩和はマネタリーベースで測りますが、0.1%の金利により、日銀当座預金が年80兆円増えました(※日銀当座預金が増えると金融引き締めの気がするが)。
・白川前総裁はこれを「ゼロ金利政策」と言っていました。白川前総裁は金利を完全にゼロにすると政策余地がなくなると考えていたのです。

・黒田総裁はこの制度を破棄しましたが、当然評価できます。黒田総裁はマイナス金利を決定した会合で、「量/質に加え、マイナス金利を追加した。3つの次元で金融緩和を行う」と決意を述べています。

○安倍首相は総裁就任直後からマイナス金利を考えていた
・田村氏もマイナス金利を推奨していますが、安倍首相は総裁就任前の演説でマイナス金利に触れています。日銀総裁が白川氏から黒田氏に代わり、金融市場メカニズムを理解している黒田総裁が判断したものと思います。

○異次元金融緩和だけでは、お金は動かない
・日銀は年80兆円の国債を購入しましたが、銀行貸出は10兆円しか増えませんでした。黒田総裁はこれに警戒し、マイナス金利導入に踏み切ったのです。※それまでの金融政策では効果がなかったって事?

・アベノミクスは、①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略を掲げました。そこで2013年4月4日の金融政策決定会合で発表したのが「量的・質的金融緩和」で、これをマスコミが「異次元金融緩和」としました。
・この中身が「マネタリーベース/国債保有残高を2倍にする」「マネタリーベースを年60~70兆円増加させる」(※以下省略)などでした。

・消費税増税(2014年4月)や原油価格急落により、「デフレマインドの転換が遅延する」とし、日銀は2014年10月31日「追加金融緩和」を決定します。

○マイナス金利の最大の受益者は政府
・マイナス金利導入直後、10年物国債(利率0.1%)が発行されましが、101円25銭の値が付きました。要するに100円で25銭の利益が政府に入ったのです。同条件の国債を10兆円発行すると、250億円の利益になります。しかも国債発行で景気は刺激されます。

・日本国債の利回りは以前から米国/ドイツより低く、長期資金がだぶついていました。そのため海外の企業は、日本のメガバンクに融資を求めます。これによりメガバンクはマイナス金利でも乗り切れます。※これも円キャリートレードかな?

○住宅ローン金利に連動する不動産価格
・マイナス金利を受けて、都銀は10年固定型住宅ローンの金利を0.8%に切り下げました。ネット銀も変動型住宅ローンの金利を0.5%台に切り下げました。一部では0.5%を切ったところもあり、これは始まって以来です。

・銀行の儲け口と云われる住宅ローンですが、実際は住宅ローンの未済は3割近くあります。未済物件は競売となりますが、その買い手はいません。
・住宅ローンは不動産が担保になりますが、不動産価格は上がっていません。東京で上がっているのは、山手線内だけです。※土地余り、家余りだな。

○都銀以外の金融機関は融資能力がない
・マイナス金利は金融業界の再編を促しています。バブル崩壊によって整理・統合されたのは都銀だけでした。都銀は海外に融資先を持っているので、マイナス金利の影響は小さい。他方都銀以外は融資の判断能力がないので、影響が大きい。日本国債の金利もマイナスになっており、国債への依存はできなくなりました。金融業界の再編(整理・統合)が不可欠になっています。

○マイナス金利の狙いは金融機関の整理・統合
・マイナス金利の真の狙いは、金融機関を近代化/合理化/国際化する金融機関の整理・統合にあります。日銀は地銀/第二地銀の整理・統合を望んでいます。※整理・統合はそれ程聞かない。

○地銀/信金/信組は統合しかない
・地銀/第二地銀の預貸率は低く、マイナス金利の影響は大きい。実は地銀/第二地銀の整理・統合を妨げていたのは国会議員でした。しかしマイナス金利によって、整理・統合をせざるを得ないでしょう。
・信組/信金も整理・統合を迫られるでしょう。ゆうちょ銀行は分割して地銀/第二地銀と統合するかもしれません。農協も地銀/第二地銀と統合すると考えられます。保険会社の整理・統合も進むでしょう。※MS&ADとかもできたな。
・金融機関の整理・統合は2017年度末までには終わるでしょう。これは黒田総裁の大きな業績になります。※マイナス金利を始めて2年で?

○外国から有能な人材を確保すべき。
・金融機関は国際化する必要があります。都銀は何とかなっても、都銀以外の金融機関は人材が不足しています。整理・統合で幾らか補強できます。しかし年功序列を捨て、有能な人材を中途採用し、確保する必要があります。

・別の観点では、日本の長期資金の余剰は、世界経済の活性化に寄与できます。

○農業にも改革の波が
・地方は人口流出で地方公務員の消費に期待しています(※そうなの?)。しかし地方行政を効率化するには、地方自治体を統廃合する必要があります。

・地方にはUターンなどで移り住み、志を持った中小企業の経営者がいます。銀行は彼らに資金を提供し、経営のノウハウ/マーケティングの知識を与えれば、必ず成功します。
・農協は新しい事をしようとすると妨害します。農機具/肥料を買えなどと注文を付けます。そんな農協はいりません。農協にもマイナス金利の影響は及ぶでしょう。

・これまでに述べたように、マイナス金利は経済全体に大きなインパクトを与えます。
※やっと第1章。随分時間が掛かった。先が思いやられる。

<マイナス金利の効果はこれから>
○アナウンス効果だけでも目を見張る
・マイナス金利の発表により、銀行は定期預金の金利を0.01%に下げ、住宅ローンの金利も固定型を0.8%前後に、変動型を0.5%台に下げました。10年物国債もマイナス金利に下がりました。日銀のアナウンス効果は絶大です。

・マイナス金利の効果が本格的に出るのは1年後位でしょう。日経新聞はマイナス金利を全く評価していません。それは日経新聞が「マネー」(国際金融資本、大手銀行、大口機関投資家)を主財源にしているからです。これは日経新聞がマーケットの後追いをしている証しです。

○中央銀行は景気にも責任を持つ
・日銀は初のマイナス金利ですが、欧州では導入済みで、スイス-0.75%/デンマーク-0.65%/スウェーデン-0.5%/ECB-0.5%となっています。ECB以外の非ユーロ国は、過剰な資金流入による自国通貨高を警戒し、マイナス金利を導入しています。ECBがマイナス金利を導入したのは、雇用/景気に責任を持つからです。

・米国ではFRBが年2回、上下両院に金融政策報告を提出しています。それはFRBが「物価の安定」「雇用の最大化」に責任を持つからです。

・日本銀行法では「日銀は物価の安定に責任を持つ」となっていますが、異次元金融緩和/マイナス金利は景気を強く意識した政策です。黒田総裁はこの事を、もっと発言して欲しいです。
・ちなみに中央銀行の役割は、①法定通貨の独占発行、②銀行の銀行、③政府の銀行です。

○マイナス金利は幅と規模で拡大余地がある
・今回発表したマイナス金利は-0.1%でしたが、まだ拡大の余地があります。黒田総裁は-0.5%位まで引き下げる考えでいます。
・さらに今回のマイナス金利は、2月16日以降に日銀当座預金に預けられた「超過準備額」に付きますが、それ以前に預けられた「超過準備額」(約200兆円)には0.1%の金利が付いています。これにマイナス金利を適用するとなると、相当のインパクトになります。そうなると金融機関の整理・統合に益々拍車が掛かるでしょう。

・前述しましたが、日銀当座預金には「所要準備額」「超過準備額(マイナス金利以前)」「超過準備額(マイナス金利以降)」の3段階の階層が取られています。

○企業の巨額な余裕資金
・2012年末から2015年末で、企業は利益剰余金(内部留保)を80兆円(※約3割)増やし、356兆円にしました。一方設備投資は8千億円(※約1割)増やし、9兆7千億円にしました。企業がやろうとしている事は「自社株買い」位で、これでは経済への影響はありません。

・日銀がマイナス金利を強化すれば、銀行は法人預金をマイナス金利にするか、手数料を取るしかありません。そうなると企業の余裕資金も動かざるを得ません。国が財政から補助金を出し、企業を後押しするより、企業が自主的に投資する方が採算性は高いと思われます。※何か拷問だな。

○円安基調に動く
・マイナス金利により資金調達が増え、その円は売られ円安になります。株価は、中国経済の悪化/原油価格の下落などの下落要因にも拘わらず、円安により上昇します。

○急増した訪日外国人
・2010年訪日外国人は861万人でした。2011年東日本大震災で減らしますが、2015年1974万人まで急増します。この原因は円安です。2012年1ドル80円を切っていましたが、2014年120円台まで円安になります。

・この訪日外国人の急増で宿泊施設が不足しています。そのため上京したビジネスマンは都心から離れたネットカフェに泊る有様です。倒れかけた東横インは息を吹き返しました。アパホテルは5年間で都心に約40店をオープンしました。

・そのため今問題になっているのがホテル従業員の確保です。特に問題なのが宴会部門/調理部門を抱えるシティホテルで、コック/ウェイター/ハウスキーパー/フロントスタッフ/ポーターなどが全く不足しています。人材の取り合いになっており、これが原因でホテル建設を断念するところも出るでしょう。帝国ホテルでさえ、他から引き抜いたスタッフを人材派遣会社経由で雇っています。

○民泊ビジネスが伸びる
・宿泊施設の不足で、民泊ビジネスが拡大しています。民泊ビジネスは空き部屋を貸す事から始まりましたが、今ではワンルーム・マンション1棟を丸ごと使う業者も増えています。それは個別に賃貸するより、民泊の方が5倍売り上げがあるからです。
・厳格な旅館業法を緩和させた条例で民泊を推進している地方自治体も増えました。

・1965年(東京オリンピックの翌年)、訪日外国人37万人/出国日本人16万人でした。1971年海外旅行ブームで訪日外国人66万人/出国日本人96万人となり、出国日本人が多くなります。2015年訪日外国人が1974万人で、44年振りに訪日外国人が出国日本人を超えます。
・なお国別では中国499万人/韓国400万人/台湾368万人/香港152万人/米国103万人となっています。

○中国による日本国債の爆買い
・マイナス金利により円安基調なのですが、円高になっているのは、中国の国有企業の幹部が日本国債を爆買いしているからです。そのため中国は元安を阻止するため元を買い、外貨準備を減らしています。
・2015年11月IMFはSDR(特別引き出し権)に元を入れる事を決定しました。これにより2016年10月までは円との交換が可能になり、「資産逃避」のため日本国債を爆買いしているのです(※円と元の交換はこの1年間だけ?)。

○中国国有企業の幹部
・日本国債を爆買いしているのは上海電力や石油会社で、何れも江沢民の「上海閥」です。「資産逃避」により、2015年中国は外貨準備を5.1千億ドル失い、2016年1月に1千億ドルを失い、外貨準備の1/4を失いました(※何で円安基調なのに円資産を買うかな?)。

・中国からの「資産逃避」は、日本への投資にも表れています。上海電力は大阪南港に大規模な太陽光発電所を建設し、稼働させています。

<デフレ脱却は可能か>
○人口減少でも経済を成長させる
・1997年から2011年で日本は名目GDPを50兆円縮小させました。これは緊縮財政/消費税増税などの政策の失敗が原因のです。原油価格の下落は日本経済にはプラスですが、産油国にはマイナスです。人口減少を縮小の原因とする人がいますが、生産年齢人口の減少は年1%で、それ以上に経済成長率を高めれば良いのです。

○格差拡大
・田村)世界で所得格差が問題になっています。米国の大統領選で共和党でトランプ、民主党でサンダースが多くの支持を得たのは、”持たざる者”の危機感の反映です。
・田村)日本も同様で、年収300万円以下の非正規労働が増加しています。日本経済を大きくするには「デフレ脱却」しかありません。勤め人であれば、企業年金/厚生年金を受け取れます。しかし非正規労働者/フリーターでは無年金者もいます。これは重大な問題です。

・長谷川)自由経済である以上、格差拡大は避けられません。彼らには生活保護を提供するしかありません。※この章では二人の意見に違いがある。

○同一労働同一賃金
・安倍政権は正規労働と非正規労働との格差解消のため「同一労働同一賃金」に着手しました。しかし企業の賃金体系が年功序列のため、まず「職能給ベース」に移行しないと「同一労働同一賃金」を導入できません。

・また「職能給ベース」に移行するとなると、労働者の流動性も確保しなければなりません。しかし日本の大企業の解雇規制は非常に高いので、解雇せず別の仕事を与えています。
・労働判例から確立された「整理解雇4条件」(必要性、解雇回避義務、選定の合理性、解雇手続き妥当性)を満たさなければ解雇できません。そのため倒産寸前か倒産後にしか解雇できません。

・1997年全雇用者の内、非正規労働は23%でしたが、2015年には38%に達しました。また正社員の平均賃金は32万円ですが、非正規社員は21万円となっています。

○インフレ/デフレ
・長谷川)「デフレ脱却」は戦争が起きないと実現できません。平和時はデフレになります。中国が米国と同盟している日本に戦争を仕掛けるのは、戦力的に無理です。
・田村)理論上は需要が供給を上回れば「デフレ脱却」は可能です。マクロ的景気刺激策で「適度なインフレ」は可能です。
・長谷川)原油/鉄鉱石/非鉄金属/石炭なども下がっています。インフレには向かいません。※この節も両者の意見が異なる。

○技術革新
・長谷川)技術革新はデフレの産物です。東大教授がCNF(セルローズ・ナノ・ファイバー)を発見しました。鉄の1/7の重さで、5倍の強度があります。問題は製造コストですが、実用化すると思います。デフレ期は少しでも商品が売れるように努力するものです。

・田村)インフレ期の方がリスクが取れます。本田宗一郎/盛田昭夫/井深大など、皆そうです。デフレ期と違って、挑戦者が現れ、銀行も投資し易いです。※この節も両者の意見が異なる。

<政府が資金を使え>
○アベノミクスは「デフレ脱却」に繋がるか
・アベノミクスは、①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略でスタートしました。①大胆な金融政策により円安/株高を演出しました。しかし企業は増益分を内部留保し、株高による消費刺激効果も大きくありませんでした。②機動的な財政政策で景気を上向かせましたが、2014年4月消費税増税と共に、緊縮財政に転換します。
・安倍政権は「デフレ脱却」を掲げましたが、これは戦争でもない限り無理な話です。すなわち「デフレ脱却」は政治的なスローガンだったのです。これは経営者から政治資金を得るためです。
・異次元金融緩和により民間の活力は復活しましたが。継続できるかは株価次第です。日本の株価上昇による効果は米国の1/3しかありません。それは日本では株式が個人に普及していないためです。
・限界に来ていたためマイナス金利を導入しましたが、需要を喚起するには時間が掛かるでしょう。安倍政権は「貨幣数量説」(お金を刷ればインフレになる)を信じていますが、これには財政政策も必要です。

○緊縮財政を止めない安倍政権
・2016年度予算は総額96兆円余りになり、4年連続で過去最高を更新しました。これは当初予算なので、補正予算を含めないと合計額は分かりません。また国債費も除く必要があります。デフレ期には財政政策が必要です。

・2015年6月安倍政権は「骨太の方針」で、2020年度までに「プライマリーバランス」(PB)の黒字化を目標としました。しかし緊縮財政では経済はゼロ成長あるいはマイナス成長になり、デフレ圧力になります。
・税収を増加させていますが、それを国債の償還に充て、民間に還流させていません。これでは需要は伸びません。
・2016年度予算で社会保障費が33%を占めます。国債費を除くと44%です。社会福祉に予算を投入すればお金は回り、社会福祉は決して悪い事ではありません。

・2015年9月安倍内閣は「アベノミクスの第2ステージ」を立ち上げました。そこで「一億総活躍社会」を打ち出しました。家庭にいる主婦が働ける環境を整える方針ですが、それには介護福祉士/保育士の賃金を引き上げる必要があります。

・2015年9月安倍内閣は「アベノミクスの第2ステージ」を立ち上げました。「新三本の矢」を掲げ、①「強い経済」としてGDP600兆円、②「子育て支援」として希望出生率1.8、③「安心の社会保障」として介護離職ゼロを目標としました。
・そして2016年1月、日銀は「マイナス金利の導入」「国債を80兆円購入する」などの異次元金融緩和/マイナス金利を発表します。※一応連携かな。

○「大きな政府」「小さな政府」
・田村)累積赤字は1千兆円を超え、GDPの2.3倍に達しています。しかしこれは総債務で、純債務だとGDP比90%です(純債務=総債務-金融資産-固定資産。※純債務でも赤字?)。これだと国際的には問題になりません。日本国債は安全資産として人気商品です。日本は「大きな政府」なので、借金をして資産を増やしています。

・長谷川氏はデフレを受け入れる立場です。それには政府は「小さな政府」でなければいけません。「小さな政府」に転換するためには財政赤字の縮小・解消が必須で、公務員のリストラ/賃金引下げなどの行政改革が必要です。※益々デフレが進みそう。

○政府が投資し、内需を喚起
・田村)日銀が異次元の金融緩和をしても、消費/投資に回っていません。さらに安倍政権の緊縮財政/消費税増税により、内需は高まりそうにありません。安倍政権は緊縮財政を止め、まともな財政政策に転換する必要があります。民間が消費/投資を控えている今こそ、政府が財政支出を拡大し、内需を喚起すべきです。
・田村)日銀が年80兆円国債を購入するので、超低コストで国債を発行できます。一気呵成に効果的な投資をすべきです。

・長谷川)デフレ時代は、政府が内需を喚起しても「デフレ脱却」はできません。無駄な投資は止めた方が良い。むしろ外貨準備から20兆円を引き出しファンドを作り、それを成長産業に財政投資すべきです。※この節も両者の意見が異なる。

○消費税増税
・田村)2014年4月の消費税増税で消費者物価は上昇しましたが、賃金はそれほど上昇しませんでした。2015年には物価が上がったのに、賃金は下がってしまいました。家計は物価に敏感です。
・田村)安倍政権は法人実効税率(法人税+法人事業税+法人住民税)を32%から30%に引き下げました。しかし2%程度では、投資を増やす効果はありません。

・長谷川)インフレ時代は直接税が中心で構いませんが、デフレ時代は間接税が中心になります。デフレ時代は不動産価格が上がらないので、売買益がプラスになりません。そのため間接税を強化する消費税増税に賛成です。※そんな理論があるのか。
・長谷川)インフレ時代は間接税の比率を高めるしかありません。直間比率は66:34でしたが、4対6に逆転させるのが望ましい。

○成長産業に絞って投資せよ
・従来型の公共事業投資では効果がありません。2016年3月北海道新幹線が開業しましたが、これは赤字になります。新幹線/高速道路の建設は土建屋を儲けさせるだけで、無駄な投資です。リニアモーターカーにしても、採算が取れるかどうかです。名古屋まで、リニアモーターカーだと1万円余りですが、LCCだと3千円程度で行けます。

・国の財政投資は分野一律で拡大/縮小させていますが、航空宇宙産業/防衛産業/バイオ/先端技術/基礎研究/教育/社会福祉などに集中的に投資すべきです。
・国はANA/JALを保護していますが、逆にLCCを育てる政策に転換すれば、地方にLCCが飛ぶようになり、地方経済も活性化します。

○ニーズがあるインフラへの投資
・デフレ下でもインフラ投資は必要です。ただし新幹線/高速道路を新たに造ってはいけません。道路/橋梁の補修が中心です。
・先日山陽自動車道のトンネルで多重事故がありました。負傷者の大半は煙を吸ったためでした。これはトンネルに排煙設備/スプリンクラーがなかったからです。

・地方のインフラ整備は進められましたが、大都市の再開発は放置されています。首都高速の補修、開かずの踏切、成田空港と羽田空港を結ぶ新幹線などのニーズがあります。

○潰れる企業を助けるな
・国による投資に「官民ファンド」があります。額が大きいものに「産業革新機構」(資本金3千億円)があります。「産業革新機構」は政府保証により、2兆円を超える投資能力があります。「産業革新機構」がシャープに出資する話がありましたが、これは流れます。役人は潰れる大企業を助けようとしますが、そんな企業ではなく、基礎研究に投資すべきです。
・東芝も粉飾決算の疑いが掛けられていますが、そんな企業を助けてはダメです。

<消費税増税延期をめぐる思惑>
○緊縮財政での消費税増税は内需を冷やす
・2014年4月消費税は8%に引上げられました。同年12月安倍首相は2015年10月に予定されていた消費税10%への引き上げを、2017年4月に延期します。「デフレ脱却」を目指す以上、消費税率を引き上げるべきではありません。
・2016年3月安倍首相は「国際金融経済分析会合」を立ち上げました。これは5月「伊勢志摩サミット」の準備とされますが、消費税増税の再延期のムード作りでした。しかし消費税増税を遅らせるだけでは、何の効果もありません。緊縮財政路線を放棄すべきです。※何度も出てくる。

・2014年11月黒田総裁は衆議院財政金融委員会で「先月の追加金融緩和は来年10月の消費税増税を前提にしていた」と発言し、安倍首相に面罵されます。以降黒田総裁は消費税に触れなくなります。

・2012年8月「社会保障と税の一体改革関連法案」が成立し、2014年4月消費税率が8%、2015年10月10%に引上げられる事になります。2014年11月安倍首相は、「消費税率10%への引き上げを、2017年4月に延期する」と表明します。そこでは「リーマンショックや大震災がない限り実施する」と表明していました。
・そこで2015年秋から自民党/公明党で、「軽減税率」の協議が始まります。同年12月食品(酒、外食を除く)に軽減税率を適用する事で合意します。

○普天間問題で和解案を受け入れた理由
・2016年3月安倍首相は普天間基地移設問題で、裁判所の和解案を受け入れます。政府は沖縄県への補助金を増やす事になりますが、翁長県知事が代わるまでの時間稼ぎができます。
・辺野古以外に佐賀空港などの候補地がありますが、有力なのが鹿児島県の馬毛島です(※今でも薩長土肥)。馬毛島は旧海軍の基地で、4200mと2500mの滑走路があります。しかし防衛省と地主の交渉が上手くいっていないのです。

・前県知事は辺野古埋立を承認しましたが、翁長県知事はこれを取り消します。そのため2015年11月政府は福岡高裁沖縄支部に提訴しました。そこで裁判所が掲示したのが「暫定和解案」と「根本解決案」です。
・「暫定和解案」は政府は訴訟を取り下げ、協議を再開する案です。「根本解決案」は沖縄県は埋立を承認し、政府は普天間基地を日本に返還するか、軍民共用にするか決定する案です。2016年3月安倍首相はこの「暫定和解案」を受け入れたのです。

○伊勢志摩サミット
・安倍首相は2017年4月に予定通り消費税率を10%に引上げるか検討しています。安倍首相は「リーマンショックや大震災がない限り実施する」と表明していましたが、消費税増税自体がそれ以上のショックになります。リーマンショックや東日本大震災では、半年後には家計消費は回復しました。ところが8%の消費税増税では家計消費の落ち込みは2倍で、しかも2年経っても回復していません。※そんなに消費を冷やすのか。

・日経新聞は予定通りの消費税増税を主張していますが、馬鹿げています。デフレから脱却できるまでは、増税(消費税増税?)を凍結すべきです。
・2016年5月「伊勢志摩サミット」は、消費税増税を先送りする踏み台になります。G7はセレモニーですが、消費税増税の先送りは、安倍首相の存在感を高めます。

・「衆参同日選挙」ですが、野党は資金などの準備ができていません。安倍首相が「消費税増税を先送り」を掲げれば有利になります。さらに馬毛島への移設が決まれば、さらに有利になります。
・自民党が両院で議席の2/3を獲得しても憲法改正には踏み込まないでしょう。まず緊急事態条項を設置するでしょう。これにより緊急事態で内閣が権限を持つ事ができます。これを認めさせれば、国民は憲法改正を受け入れやすくなります。

<あとがき>
・経済の先行きを見通すには、カネの流れを掌握し、その主体(消費者、企業、投資家、政府)の動きを掌握する事である。その意味で長谷川氏は経済先読みの大家である。

・長谷川氏が着目した中国国有企業による「日本国債の爆買い」は、マイナス金利を導入しても円安にならない要因である。中国には資産を海外に移したい富裕層がゴマンといる。国際金融情勢が不安定な今、世界の投資家は日本/ドイツ/スイスの国債を購入している。

・国債はその国を代表する資産である。日本国債の相場は日本経済に追い風である。政府は国債を発行すると金利負担ではなく、金利がもらえる。家計の住宅ローン金利はゼロに近い。企業の社債もマイナス金利である。マイナス金利は日本経済に良い事づくめである。

・ただし著者2人は財政政策では相違がある。田村氏はデフレから脱却できるまでは、10%への消費税増税を中止すべきと考えますが、長谷川氏は直接税(法人税、所得税など)の比重を軽くするため、消費税増税すべきと考えます。この相違は、「デフレは脱却できる」とする田村氏と「デフレは脱却できない」とする長谷川氏の違いからきています。

・消費税増税によりアベノミクスは失速したが、安倍首相は「伊勢志摩サミット」に合わせ、消費税増税の凍結/財政出動を決断しようとしている。

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