『海から見た世界経済』山田吉彦を読書。
海に関する領海/貿易/紛争/エネルギー鉱物資源/水産資源/保険などを解説しています。
図解となっていますが、内容は十分あります。
お勧め度:☆☆
キーワード:<海が分かれば、世界が分かる>海洋資源、サンホセ号、<海で成り立つ世界経済>海上輸送(海運)、造船、コンテナ船、内陸国/スイス、領海法、国連海洋法条約、<海を制する者が、世界を制する>海峡、運河、南シナ海、華僑・華人、イスラム商人、ロシア、北極海航路、海洋紛争、海軍、<海の奪い合い-海洋資源開発>石油/天然ガス、メタンハイドレート、海底熱水鉱床、マンガン団塊、コバルトリッチクラスト、<岐路に立つ日本の水産業>漁業・養殖業、200海里漁業制度、北海道、<世界で繰り広げられる水産資源争奪戦>北西太平洋/グランドバンク/北海周辺海域、中国/インドネシア/インド/ペルー、<海から生まれた文化と富>東インド会社、捕鯨、海賊、保険、クルーズ船、島国根性
<はじめに 海が分かれば、世界が分かる>
・2015年「平和安保法制」が制定されました。その目的はシーレーンの確保です。21世紀のキーワードは「海」です。海洋資源(石油、天然ガス、※海洋?)が集中するアラビア半島は、IS/シリア/イランとサウジアラビアなどの問題を抱えています。また南シナ海では中国の海洋侵出が見られます。
・本書は世界情勢を、「海」の視点(海運、海洋資源、水産など)から見るものです。
○海と経済の関わり
・人は古来から海に乗り出しました。文明の交流/文化の伝播/宗教の布教/経済の交流などで世界は一体化しました。
・海運なくして世界経済は成り立ちません。海は動物性蛋白質の供給源です。
○海は誰のものか
・1708年コロンビア沖で沈没したスペイン軍艦「サンホセ号」が、2015年発見されます。サンホセ号は金貨1100万枚を積んでいました。この財宝の所有を、コロンビア/スペイン、さらにサンホセ号を発見した米国のサルベージ会社が主張しています。
<第1章 海で成り立つ世界経済>
○海なくして、人は生きられない
・地球の表面積の7割が海です。陸には山間部/砂漠/密林などがあり、そのほんの一部に人は住んでいます。海は5大陸を結ぶ、重要な交易ルートです。
○海と経済の繋がりをデータで見る
・海運は世界経済を支えています。8世紀頃からペルシャなどのイスラム商人が、中国とアラブを結ぶ「海の道」「海のシルクロード」を開拓します。「1隻のダウ船は、600頭のラクダに匹敵する」と云われました。
・現代でもエネルギー資源(石油、石炭、天然ガス)/鉱物資源/穀物/自動車/電化製品は海上輸送されています。航空路での大量輸送は不可能です。
・世界の海上輸送量は、1990年43億トンから、2014年105億トン(2.4倍)に増大します(※凄い伸びだな)。顕著なのがコンテナ貨物で、2000年6.1億トンから、2013年15.3億トンに(2.5倍)に増大しています。※資源から製品の流れかな。
・貿易ランキングでは輸出金額では1位中国(2.3兆ドル)、2位米国、3位ドイツ、4位日本となっています。輸入金額では1位米国(2.4兆ドル)、2位中国、3位ドイツ、4位日本となっています。※ドイツは大陸にあるのに多いな。これは陸上/海上など総合計かな。
・日本は貿易の99.7%を海上輸送に依存しています。輸出は機械類(2470億ドル)、自動車(1468億ドル)、鉄鋼(387億ドル)です。輸入は機械類(1601億ドル)、原油(1457億ドル)、液化天然ガス(723億ドル)です。※輸出品に偏りがあるな。
・品目別に見ると。石油の輸出は、サウジアラビア/ロシア/イラクの順で、輸入は米国/中国/インド/日本となっています(※米国は純輸出国になったと思うが)。天然ガスの輸出は、ロシア/カタール/ノルウェーで、輸入は日本/ドイツ/米国です。※ノルウェーが天然ガスを輸出?
・小麦の輸出は、米国/オーストラリア/カナダで、輸入はエジプト/ブラジル/アルジェリアです(※北アフリカか)。米の輸出は、インド/ベトナム/タイで、輸入は中国/ナイジェリア/インドネシアです(※インドネシアは輸入なんだ)。
・工作機械の輸出は、ドイツ/日本/イタリアで(※イタリア?)、輸入は中国/米国/ドイツです。
・主要国の貿易相手国を見ます。日本は輸出は、米国/中国/韓国で、輸入は中国/米国/オーストラリアです。米国は輸出は、カナダ/メキシコ/中国/日本で、輸入は中国/カナダ/メキシコ/日本です。中国は輸出は、米国/日本/韓国で、輸入は韓国/日本/台湾です。ドイツは輸出は、仏国/英国/オランダで、輸入はオランダ/仏国/ベルギーで、EU域内の貿易が中心です。
・日本/米国/中国/ドイツの貿易相手国は何れも先進国です。※結局、生産財・消費財を作れないとダメだな。
○船から読み解く世界経済の拡大
・世界経済の拡大で、造船量は30年間で3倍になりました(※この伸びも凄いな。本当にグローバル化は凄い)。世界の造船量(2014年)は6462万総トンです。この内、中国/韓国が共に35&、日本が20%を占めています。※3国で90%だ。
・造船業界は激しい受注競争にありますが、アベノミクスによる円安で、日本は受注高を増やしています。
・中国/韓国/日本で90%を占めています。欧州の造船所はダンピング競争に敗れ、豪華客船・軍艦などの付加価値の高い船舶を作っています。
・日本は2000年頃まで世界一の造船量でしたが、中国/韓国に技術が移転し、職場は3Kとされ人手の確保も難しくなっています。そのため使用年数の長い船や、高度の技術を必要とするLNG船・省エネルギー船などの建造を手掛けています。
○海運が分かれば、マーケットも分かる
・世界経済は回復基調で、原油価格も低い水準で、FTAは普及しいます。そのため海運は益々拡大するでしょう。一方で新興国の景気減速、商船過剰による運賃低迷、中東情勢の不安(イスラム武装勢力ISの動き、イランとサウジアラビアの対立)などの懸念材料もあります。
・海上輸送量は24年間で2.4倍に増えました。その内訳は、石油27%/鉄鉱石13%/石炭11%で、資源エネルギーが50%を越えます。
・機械製品などはコンテナ船で運ばれますが、近年このコンテナ船が増加しています。2015年コンテナ船は5240隻で、前年から137隻増えています。
・特にアジアからのコンテナ輸送量が増え、北米向けは1年間で6%増、欧州向けは1年間で8.8%増となっています。これらの増大に複数企業がコンソーシアム/アライアンスを組んで対応しています。
○海洋富国-海を活かす国々
・領海・排他的経済水域を多く持つ国は経済的に豊かです。GDPの上位は、米国/中国/日本/ドイツ/英国/仏国/ブラジル/イタリアなどですが、人口が多い中国/ブラジルを除くと、何れも海を利用し豊かになった海洋先進国です。
・一方、海がない内陸国は、スイス/オーストリア/エチオピア/モンゴルなど48ヵ国あります。
・「国連海洋法条約」では、「内陸国には通行税を課さない」となっています。※逆に通行税の存在に驚いた。海峡は幾らでもあるが、通行税が掛かっているのかな。
・国連の国際海事機関(IMO)は内陸国にも船籍を認めています。例えばモンゴル船籍の船は、ウランバートルが船籍港になっています。維持が安価のため、現在283隻が登録されています。※これは知らなかった。
・スイス船籍の船もあります。こちらは自国の経済を維持するためで、スイスには6社の海運企業があり、40隻の船が登録されています。※スイスらしい。
・スイスの海運企業MSCは、コンテナ船で世界2位の保有量です。スイスは「海洋富国」で、1人当たりGDPは世界2位です。※スイスは金融とかも優秀そう。
○海と経済のルール①-領海と排他的経済水域
・1958年海洋法の議論が始まり、1982年「国連海洋法条約」が採択され、1994年発行します(※随分時間が掛ったな)。この条約は領海を12海里(22Km)、排他的経済水域を200海里(370Km)とし、それ以外を公海としています。
・1977年日本は「領海法」を先行して制定します。これには外国船が多く通航する宗谷海峡/津軽海峡/対馬海峡/大隅海峡の領海を3海里(5.6Km)とし、中央部を主権の及ばない公海としています。主権を放棄したため、極端な話、対馬海峡で他国の船が大砲を日本に向けても、文句は言えません。
・領土・領海の上空が「領空」です。領空を通過するには当該国の許可が必要です。多くの国は領空侵犯を防ぐため「防空識別圏」を設定しています。この空域に無断で侵入するとスクランブル発進します。空は海に比べ、厳格になっています。
○海と経済のルール②-国連海洋法条約の制定
・海底資源が注目されるようになりましたが、それには海洋調査が不可欠です。1945年米国は「大陸棚は公海であっても沿岸陸地の延長にある」として、米国に接する大陸棚の天然資源の領有を宣言します。1958年「第1次国連海洋法会議」で領海条約/大陸棚条約/公海条約/公海生物資源保存条約が採択されます。この4条約は、1982年「国連海洋法条約」までの海洋秩序になりますが、締結国が少なく、各国は慣習法に従います。
・1973年「第3次国連海洋法会議」が始まり、1982年「国連海洋法条約」が採択され、領海/排他的経済水域/大陸棚の概念が確立されます。この条約が発効したのは1994年で、2014年締結国は166ヵ国になっています。
・各国はこの条約に従い海洋資源を開発していますが、中国は独自の解釈で開発を行っています。
<第2章 海を制する者が、世界を制す>
○世界を繋ぐ三大海峡と二大運河
・世界のシーレーン(海路)には、チョークポイント(要衝)があります。マラッカ海峡/ジブラルタル海峡/トルコ海峡や、スエズ運河/パナマ運河がこれに該当します。
・マラッカ海峡は日本の石油の80%が通過します。シンガポール/マレーシア/インドネシアに接する海峡で、海賊が頻出します。浅瀬/岩礁/沈没船が点在し、大型船が通航できる幅は600mしかありません。何かあるとアジア経済に大きな影響を与える海峡です。
・地中海の出口が、年間8万隻が通航するジブラルタル海峡です。キリスト教国とイスラム教国を隔てる海峡でもあります。
・黒海の出口のトルコ海峡(ボスポラス海峡はこの一部)も複雑な状況にあります。両岸はトルコの領土ですが、自由通航が認められた国際海峡です。ただし航行安全/環境保全のため通行料を徴収しています。
・スエズ運河はエジプト政府が管理しています。しかし政情が不安定な中東にあります。パナマ運河は拡張工事が進んでいます。米国政府の影響を強く受ける運河です。
○南シナ海は、20兆円の貿易圏
・2015年習主席は「南シナ海は古代から中国の領土だ。主権を守る責務がある」と述べます。中国は海洋進出を続け、これに周辺国は反発しています。2015年中国はスプラトリー(南沙)諸島に7つの人工島を建設しました。
・同年オバマ大統領は習主席に、「南シナ海における国際法の遵守」「航行の自由」を求めますが、中国は一蹴しています。これに対し米国はイージス駆逐艦を派遣しました。国連海洋法条約では領海であっても軍艦の航行を妨ぐ事はできません。
・中国は南シナ海に「九段線」を引き、領有を主張しています。元は日本が管理していましたが、敗戦により沿岸各国が実効支配に乗り出しました。中国は、1974年パラセル(西沙)諸島を占領し、1988年スプラトリー(南沙)諸島に侵出し、1995年ミスチーフ礁を占領しています。2000年ASEAN諸国は「南シナ海における関係国の行動宣言」(DOC)を締結しますが、中国は黙殺しています。
・日本は南シナ海で、中東からの原油を始め、タイ/ベトナム/シンガポールなどと総額20兆円の貿易を行っています。
○海から広がるチャイニーズマネー史
・世界に中国語を話す人が14億人います。中国人・台湾人が12億人で、華僑(中国国籍で海外に居住)・華人(非中国国籍で海外に居住)が2億人です(※どちらも非中国国籍で商業を営むのが華僑と思っていた。華僑・華人だけで日本人を超える)。シンガポール/マレーシアなどでは、華僑・華人が経済活動の中心にいます。
・この切っ掛けは、1368年元を倒した明の洪武帝が中華思想に基づき、東南アジア諸国と朝貢貿易を始めます。一方で1371年「海禁令」を発し、民間人による貿易を禁止します。これにより広東・福建で貿易を生業としていた人々が、東南アジアに移住しました。
・1405年3代皇帝・永楽帝は、鄭和に東南アジア/インド/北アフリカ(※東アフリカ?)に達する大遠征をさせています。この遠征は28年間/7回に及び、マラッカ王国を救済するなどもしています。しかし1430年頃から海外との貿易はなくなり、華僑・華人は現地に住み着きます。
・中国に代わって東南アジアに進出したのがイスラム商人です。彼らは欧州/ペルシャなどの荷を積み訪れ、香辛料などを積んで戻りました。イスラム教徒だと取引に優位なので、東南アジア全域にイスラム教/イスラム文化が浸透します。※東南アジアにイスラムが多いのは商売に有利だからか。
○海を巡る長き戦い-ロシアVS欧州
・19世紀産業革命を経て近代化した英国/仏国/米国は、世界に進出します。これに対し不利なロシアは3つの海域に進出します。1つ目はバルト海ですが、その先に北海の英国がいました。
・2つ目は黒海です。「エジプト・トルコ戦争」(1831~33年、1839~40年)で、ロシアはオスマン帝国を支援しますが、失敗します。
・3つ目が日本海で、日露和親条約で択捉島とウルップ島の間を国境とし、樺太を共有とします。
※具体的に書かれていない。進出の目的は領土(不凍港)の取得で、それが叶わなかったと理解すれば良いのか。
・ロシアは現在も南下政策を取っています。その目的は天然ガスの輸出ルートの確保です。バルト海では、バルト3国やEU緒国はロシアを仮想敵国とする北大西洋条約機構(NATO)に加盟しています。カリーニングラードはポーランド/リトアニアに囲まれた飛び地になりました。
・黒海では、クリミア半島を軍事力で支配下に置きました。そのため欧米は経済制裁を掛けています。地中海に出るためにはトルコ海峡を通過する必要があり、トルコとの関係も重要です。
・日本海では、2014年プーチンはウラジオストクを自由港(※定義不明)にすると発表しています。日本は宗谷海峡/津軽海峡/対馬海峡の中央部を公海としていますが、日本との関係も重要です。
○航路開拓の歴史に迫る-コロンブスから北極海航路まで
・15世紀オスマン帝国が地中海の制海権を持ち、貿易を支配します。そのためスペイン/ポルトガルは大西洋に乗り出します。1492年コロンブスはバハマ諸島に到達し、新大陸に進出します。1498年バスコ・ダ・ガマは喜望峰を回り、インドに到達する航路を開拓します。1520年マゼランは米大陸南端を回り、フィリピンに到達し、そのクルーが世界一周を成します。
・現代、二大運河の拡張が進められています。1869年スエズ運河が開通します。2015年スエズ運河の拡張は完了し、幅77.5m/喫水20mの船舶の通過が可能になりました。※この幅は上下同時は無理だろうね。
・1914年パナマ運河が開通します。海抜26mの地点に人造湖ガトゥン湖を作り、ドック形式で横断します。幅32m/長さ294m/喫水12m(パナマックス)の船しか通過できませんが、拡張工事が進められています。※水を確保するために人造湖を作ったんだ。
・新航路として期待されているのが「北極海航路」です。北極海の氷の減少で、7~11月の航行が可能になりました。これによりアジアの荷をウラジオストクに集積し、北極海航路で欧州に運ぶようになります。また日本の苫小牧/鹿島/清水などの港も重要性が増します。
○世界経済を脅かす海洋紛争
・海洋紛争は4つに分類されます。1つ目が「国家間の対立」です。1982年英国とアルゼンチンがフォークランド諸島を巡って、戦争を起こしました。1990年「湾岸危機」でイラクがペルシャ湾に機雷1200個を敷設しています。2015年イエメン政府(スンニ派)と反政府組織(シーア派)の内戦が激化し、サウジアラビアとイランの代理戦争になっています。
・他に南シナ海での中国と沿岸諸国の対立、東シナ海での中国と日本の対立、ペルシャ湾でのイランとサウジアラビアの対立などが懸念されています。
・2013年フィリピンは南シナ海における紛争を国連海洋法条約に基づき仲裁裁判所に依頼しましたが、中国が応じていません。
・2つ目が「過激組織による海上テロ」です。過激組織(IS、アルカイーダなど)が海上テロや、武器を海上輸送する可能性があるため、「海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約が改正されました。※救命設備の設置基準などの条約だな。
・3つ目が「環境保護団体の過激行動」です。環境保護団体シーシェパードは環境テロリストと呼ばれ、日本の捕鯨船に酢酸を投げつけるなどしています。代表者ポール・ワトソンは国際指名手配されています。グリーンピースも同様の活動を行っています。※両者の区別ができていない。
・4つ目が「海賊行為」です。2000年頃マラッカ海峡で海賊事件が多発しています。2010年頃ソマリア近海でシージャック/誘拐事件が多発し、1千人以上が人質になりました。総額14億円を要求する事件もありました。※ソマリアは無政府だからな。
○世界の海軍とその経済活動
・金融大手クレディ・スイスの「国際情報分析レポート」では、軍事力は1位米国/2位ロシア/3位中国/4位日本/5位インドとなっています。日本はヘリ搭載艦を3隻持ち、潜水艦の能力が高いのが理由です。
・海軍だけを見ると、米国が1位です。空母11隻/巡洋艦・駆逐艦85隻/原子力潜水艦71隻などを保有し、世界の海軍力の半分を有しています。世界の空母は21隻で、半数を米国が保有しています。2位はロシアで、イージス艦・駆逐艦105隻/原子力潜水艦70隻などを保有しています(※イージスは対空で一般的な用語かな)。日本はイージス艦8隻を持ち、巡洋艦・駆逐艦などの大型艦の保有数は3位です。
・海上警備を目的とし、各国の海軍と自衛隊の協力が進んでいます。2001年アルカイーダに対応するため、インド洋で米国/英国/仏国/ドイツ/パキスタンに協力し、補給活動を行いました。2009年ソマリア海賊への対応として「海賊対処法」を制定し、護衛艦を派遣しました。2011年ジプチに海上自衛隊の拠点を置き、哨戒機による監視も行っています。※先日アラビア海に自衛艦が派遣された。
<第3章 海の奪い合い-海洋資源開発>
○世界を動かす石油・天然ガスのリアル
・2014年原油の生産量は44億キロリットル(1バレル=160リットル)でした。埋蔵量は2633億キロリットルと云われています。石油(※原油?)の3割を海洋油田から産出しています。メキシコ湾では水深2600mから採油しています。
・日本は18世紀末、尼瀬油田(新潟県出雲崎町)で採油しており、世界で最初に海底油田を開発しました。1959年秋田県土崎沖にプラットホームを設置し、海底油田を開発しましたが、1977年に閉鎖されました。
・ただし申川油田(秋田県男鹿市)では、日産85キロリットル(260万円)の原油を生産しています。また水深36mの岩船沖油ガス田(新潟県)でも年10万キロリットルの原油を生産しています。日本は年90万キロリットルの原油を生産していますが、全消費量の0.5%に過ぎません。
・天然ガスの生産量は1位米国7300億㎥、2位ロシア5800億㎥です。米国は国内で消費しますが、ロシアは最大の輸出国になっています。
・2015年エジプト沖で世界最大のガス田が発見されました。埋蔵量8500億㎥は、エジプト国内で消費される数十年分に相当します(※でも米国の1年分の生産量しかない)。2010年イスラエルのハイファ沖でも大規模なガス油田が発見されています。※やはりエジプト/イスラエル両国にあるのか。
・東シナ海では中国がプラットホーム16基を設置し、天然ガスを生産しています。
・日本は岩船沖油ガス田などから、年2万㎥の天然ガスを生産しています(※微々たるもの)。日本は石油も天然ガスも99%以上を海外に依存しています。
○石油価格はどうして決まる
・2015年石油価格が暴落しました。WTI原油価格は1バレル当たり、2014年6月108ドルが、2015年12月36ドルまで下落します(※半年で1/3)。これは米国のシェールオイル開発の影響です。米国は石油の産出量が1日500万バレルから、810万バレルに増大しました。そのため法律を改正し、石油の輸出を始めました。2014年時点シェールオイルの生産コストは1バレル当たり、80ドル前後ですが、40ドル位に下がると予想され、そうなると産油国の脅威になります。
・サウジアラビアの生産コストは1バレル当たり18ドルで価格競争に耐えられます。OPECは生産体制を維持しましたが、それはシェールオイル潰しが目的です。一方ロシアの生産コストは1バレル当たり50ドルと高く、原油価格が50ドルを切ると利益が出ません。従って原油価格の低迷はロシアへの経済制裁になっています。※生産コストはバラバラだな。
・石油・天然ガス開発への投資額は世界で68兆円で、その半分が海洋での油田開発です。石油価格の低迷は、海洋での油田開発を鈍らせます。
・なお世界には954基の海洋掘削リグがあり、内メキシコ湾186基/中東153基/東南アジア125基などとなっています。※リグとプラットホームの違いは?1つのプラットホームに複数のリグかな?
○メタンハイドレートは石油の代替になるか
・日本の海域に12.6兆㎥の「メタンハイドレート」が埋蔵しています。これは日本の消費量の100年分以上です。これは低温・高圧の下で、水の分子がメタンの分子を包み込んだ個体結晶です。※生成過程を知りたいな。
・1930年代メタンハイドレートはシベリアの永久凍土で発見され、2007年カナダの永久凍土で回収に成功しました。
・日本では、網走沖/秋田県・新潟県沖/島根県沖など各所で確認されています。2013年水深1千メートルの南海トラフで回収に成功しますが、パイプが詰まり中止になりました。今後の課題は、環境に与える影響/精製過程のコストダウンなどです。年間の生産量は500億㎥(1.5兆円)になると推定され、2018年に商業化が計画されています。※もう過ぎているけど。
○争奪戦が始まる海底の金山・銀山
・近年、金・銀・銅などを含んだ「海底熱水鉱床」が注目されています。これはマグマに含まれる金・銀・銅・亜鉛・鉛などが熱水により海底に噴出して凝固したものです(※なぜ鉱物だけなのか)。これも世界各地350ヵ所で確認されています。
/・日本では小笠原諸島海域/沖縄諸島海域など10ヵ所で確認されています。日本での埋蔵量は7.5億トンとされますが、今でも1.7億トンは採取可能とされます。
・日本の海底熱水鉱床は、水深700~1600mの場所にあります。沖縄県久米島の鉱床は、南北1500m×東西300mあり、含有率は銅13%/亜鉛12%と高く、採算が取れます。
・同じく沖縄県伊是名島の鉱床は、縦6Km×横3Kmあり、1トン当たり金2.68g/銀216gが含まれています。
・ロシア/仏国/中国/韓国/インド/ブラジルなども、公海の海底熱水鉱床の開発に取り組んでいます。これらの国は海洋開発を管理・調整する「国際海底機構」から探査権を取得し、調査を行っています。日本は「しんかい6500」が探査を行っています。
○深海6千メートルに存在する希少金属
・陸の平均標高は840mですが、海の平均水深は3700mです。水深3千~6千mが全体の7割を占めます。海底には鉱物資源を多く含んだ「マンガン団塊」が5千億トン存在します。
・しかし深海底の開発は至難の業です。光が届くのは水深200mまでです。例えば水深1千mでは、水温は0~5度、水圧は100気圧になります。深海の開発は宇宙より難しいと云われます。※水中で、しかも水圧が凄いからな。海底で気体は存在しえない。
・マンガン団塊は直径2~15Cmの球体で、水深4千~6千mの海底に多く存在します。鉄/マンガンが主成分で、他にニッケル1%/銅1%/コバルト0.3%などを含みます。マンガン団塊は年輪になっており、100万年で1mm成長します。※これも生成過程を知りたい。海中に浮遊する鉱物が付着して成長するのかな。
・マンガン団塊は、1868年北極海で発見され、1872年以降英国の海洋調査船「チャレンジャー」が世界中で存在を確認しています。
・1994年「国連海洋法条約」が発効します。国連海洋法条約は「深海底およびその地下の資源は人類共通の財産」としており、これを管理する「国際海底機構」が組織されます。資源開発を行う国は同機構から探査鉱区の割当を受ける必要があります。2009年日本/仏国/インド/ロシア/中国/韓国/ドイツ/旧共産国の連合体が鉱区を持っていましたが、その後7ヵ国が加わっています。※米国は締結していない。
○日本に眠る時価100兆円の海底資源
・「コバルトリッチクラスト」も注目されている海底資源です。これも鉄・マンガンを主成分としますが、コバルトが0.9%と多く含まれています。ただし存在する海域が北西太平洋に限られています。マンガン団塊は平坦な場所に存在しますが、こちらは斜面や凹凸の多い場所に存在します。埋蔵量は24億トンで、2.1億トン(時価100兆円)の採取が可能と云われています。※コバルトリッチクラストは知らなかった。リッチは厚いで、クラストは外皮の意味かな。メタンハイドレートが年1.5兆円なので、経済効果は凄いな。
<第4章 岐路に立つ日本の水産業>
○世界中の目が魚に向かっている
・地球の人口は73億人ですが、50年前は30億人で2倍以上に増えました。食物の確保が重要ですが、温暖化/砂漠化などがそれを妨げています。農地の開発は森林を減少させ、温暖化を促進させます。※ブラジル/インドネシアの現状だな。
・そこで注目されているのが水産資源です。「国連食糧農業機関」(FAO)の統計では、世界の漁業・養殖業生産量は1.9億トンで、50年前の5倍で、毎年5%増えています。特に養殖業は前年比8%増の9700万トンで、漁船による生産量を越えました。※養殖の方が多いんだ。これは驚いた。
・生産量の増大は、人口増だけでなく、人が魚介類を多く食べるようになったためです。50年前は1年1人当たり9Kg食べていましたが、現在は18.9Kgと倍増しています。この要因は、交通網の発達/冷凍・低温技術の発達により、内陸部・山間部の人まで魚介類を食べるようになったためです。
○日本は世界で最も魚を輸入している
・世界の魚介類の1日1人当たりの供給量は52gです。1位モルディブ454g、2位アイスランド247gです。アジアでは1位韓国/マレーシア159g、3位ミャンマー151g、日本141gです。
・日本の1年1人当たりの供給量は、魚介類48.8Kg(※上記と少し差がある)/肉類45.6Kgです。英国は魚介類19Kg/肉類82.5Kg、米国は魚介類21.6Kg/肉類117.6Kgです。欧米は肉類に偏重しています。※米国はよく食べる。肉より魚の方がオメガ3脂肪酸が多いのに。
・水産物の輸入金額で日本は世界一(180億ドル)で、2位米国176億ドル、3位中国74億ドルです。輸入金額を魚種別に見ると、エビ類/サケ・マス類が共に14%、カツオ・マグロ・カジキ類11%、タラ類9%です。輸出金額を国別に見ると、1位中国、2位ノルウェー、3位タイです。※中国/タイは日本への輸出で、ノルウェーは欧州/米国への輸出かな。
・水産物の価格は、国際情勢や気候によって大きく変動します。
○競争力が落ちた日本漁業
・魚種は2万8千種あり、日本近海には3800種が生息し、豊かな海域です。しかし世界の生産高は上昇していますが、日本は減少しています。日本の生産高は1984年1282トンから2014年479トンで、30年で4割に減少しました。
・衰退に追い打ちを掛けたのが「海洋法条約」(※国連?)の制定です。これにより排他的経済水域(200海里)での漁業管轄権は認められましたが、逆に遠洋漁業の活動が制限されました。クジラ/マグロの捕獲は保護目的から制限されました。一方沿岸漁業は海洋汚染や乱獲により生産高が減少しています。
・日本の漁業は、企業体経営は少なく、大半が漁業協同組合に加入する猟師です。漁業就業者18万人に対し、漁業経営体は8.9万あります。また漁船数は15.3万隻で、これからも個人経営である事が分かります。※大半が単独だな。
・地域間の対立も見られます。東シナ海・日本海でのマグロ漁では、九州の猟師は一本釣りで大型のマグロを獲っていますが、日本海の猟師は「まき網」で小型のマグロを大量に獲っています。
・漁業集落は6298集落あり、海岸線5.6Km毎に存在します。また漁港は2909港あり、12.1Km毎に存在し、漁港の整理統合は進んでいません。漁業の衰退を防ぐには、経営体への転換が必要です。
○漁業の国際化の影響
・水産業の生産量の世界一は中国7367万トンで、2位インドネシア1927万トン、3位インド920万トン、日本は8位479万トンです。中国が世界の40%を占めます(※中国が突出している)。1980年日本は1112万トン(シェア14.8%)でした。
・この衰退の要因が「200海里漁業制度」です。これは排他的経済水域での権益を沿岸国が独占できます。しかしロシア/カナダ/アメリカなどでの遠洋漁業が制限され、沿岸漁業に転換しました。
・また衰退の要因に漁業人口の減少もあり、ピークが1950年の110万人で、現在は18万人を切りました。
・日本の沿岸漁業者の平均所得は190万円で、これにはほとんど出漁しない高齢者も含まれているので、実際は300万円程度です。他方養殖業者の平均所得は506万円、サラリーマン猟師(会社経営で働く人)は447万円となっています。日本の衰退を抑えるには、養殖業への転換が必要です。
○北海道の水産業は儲かる
・日本の水産業は東高西低です。最も東にある歯舞漁業協同組合は470人で100億円の生産額です。魚種はサケ/サンマ/ホタテ/カニ/ウニ/コンブです。根室市の他の組合も、1人当たり2千万円の生産額です。
・隣接する野付漁業協同組合も、260人で75億円の生産額です。野付は国後島から16Kmしか離れておらず、その中間線を越えるとロシアの警備船に拿捕されます(※やはり北方領土返せ)。野付では獲ったサケを、衛生・安全管理基準「HACCP」に認定された工場で加工・販売し、差別化しています(※ならば衛生基準を満たさない工場もある?)。またホタテは大きくなった5年物だけを出荷しています。
・歯舞漁業協同組合では上質のコンブを収穫し、大手醤油メーカーが醤油を製造しています(※コンブから醤油?)。サケの捕獲では、ロシアが排他的経済水域での「流し網漁」を禁止しました。そのため日本は、大量捕獲ではないが、大型の魚を獲れる「はえ縄漁」を提案しています。※「流し網漁」は網でごそっとで、「はえ縄漁」は一匹づつみたい。
・また日本の排他的経済水域より東の公海で、中国/台湾/韓国の漁船が大量にサンマを獲っています。2014年台湾の捕獲量は20万トンに達し、日本を越えました。※それで今年はサンマがいなくなったのか。酷い話だ。絶滅か。
<第5章 世界で繰り広げられる水産資源争奪戦>
・世界三大漁場の1つが、日本の太平洋岸の「北西太平洋」です(※太平洋北西部の方が分かり易い。普通、大から小でしょう)。この海域で世界の海面漁獲量(※生産量?)の25%を占めます。2つ目が北西大西洋の米国/カナダ沿岸の「グランドバンク」です。3つ目が北東大西洋の英国/ノルウェー沿岸の「北海周辺海域」です。いずれも、暖流と寒流がぶつかる海域です。
・北西太平洋は暖流「黒潮」と寒流「親潮」がぶつかり、東に流れます。親潮は黒潮の5~10倍の栄養塩(※重要そう)があり、プランクトンが大量に発生し、魚が育ちます。サンマ/イワシ/マグロ/サバなどの漁場です。19世紀は米国/英国が捕鯨し、現在は日本/ロシアがサケ/タラ/サンマを獲っています。近年台湾/中国/韓国の乱獲が問題になっています。
・グランドバンクも寒流「ラブラドル海流」と暖流「メキシコ湾海流」が交差(交錯?)する海域です。15世紀英国/スカンジナビア諸国などが漁を行っていました。新大陸発見後は、北米を支える漁場になります。タラ/ロブスターが獲れますが、「底引き網漁」(トロール漁)により漁獲量は急減しています。※ここもか。
・北海周辺海域は古くから、サバ/タラ/ニシンなどの漁場でした。ノルウェー/デンマークは、近代的な漁法/企業化で世界の水産業をリードしています。
・近年インド洋アフリカ東岸も注目されています。ここではマグロ/イカ/ロブスターが獲れます。南東太平洋も注目されます。ここではペルーカタクチイワシが獲れますが、エルニーニョ現象の影響を大きく受けます。
○世界一の漁業国・中国の暗躍
・世界の漁業生産量の1位は中国で18%を占めます(※先は40%としていた)。国際法では中国が管轄する海域は100万K㎡ですが、300万K㎡を主張しています。中国の水産業は養殖業が中心で、全生産量の78%を占めています。また海面より内水面での養殖が中心で、その生産量は1656万トンです。※養殖の生産量は、全生産量(7367万トン)×78%=5746万トン。そうだと内水面での養殖の生産量(1656万トン)は全然多くない。
・また漁船生産量の40%(705万トン)が「その他の水産物」であったり、「種類が特定されない海産魚類」が全体の17%(288万トン)と、何を獲っているのか不明です。※サンゴは食物ではないのでこれらに含まれないか。
・中国には漁民が800万人いると云われますが、実際は1200万人位と思われます。また中国では「三無漁船」(魚業許可証、魚船登録証、魚船検査証)が問題になっています。
・また乱獲も問題で、浙江省には法律を遵守する漁船が2.2万隻ありますが、三無漁船が1.2万隻も操業しています。日本はこの乱獲を黙認しています。※黙認するな。
・2000年日本と中国は東シナ海に「暫定措置水域」を設定しました。2015年同水域での漁獲量上限を、中国166万トン/日本11万トンとしました。漁船数も中国1万7500隻/日本800隻と大差があります。さらに中国には、これに違法操業1万隻が加わります。
・2011年東シナ海に中国の「虎網漁船」が1千隻以上現れました。これは強い集魚灯を用い、長さ1km以上の「まき網」で魚を獲り尽くす漁法です。
・中国の漁船はコーストガードの監督下にあり、遠洋漁業の漁船は自動船舶識別装置「北斗」(※中国版GPSだな)を装備しています。そのため勝手な操業はできません。また南シナ海では漁船は政府の指示で動いており、「海上民兵」と呼ばれています。また中国は南太平洋/インド洋でサメ(フカヒレ)/ロブスター/マグロなどを獲り、自然保護国との間で問題を起こしています。
○世界2位の漁業国インドネシア
・インドネシアの漁業・養殖業生産量は1927万トンで世界の10%です。領海・排他的経済水域の面積は世界4位です。インドネシアは中国とは逆に海面漁業が9割を占めます。またその95%が帆船/無動力船/船外機付き小型漁船です。
・近年養殖業が盛んで、生産量の半分以上になりました。バナメイエビの養殖が盛んですが、その排泄物や餌による海洋汚染が問題になっています。
・海面漁業での主要な生産物はカツオ・マグロ(130万トン)で、全漁業生産量の2割です。マグロ類(クロマグロ、ミナミマグロ、キハダ、メバチ、ビンナガ)だけで27.3万トンで、これはEU(25万トン)/日本(18.8万トン)を抜いて世界一です。
・インドネシアは環境問題/密漁問題を抱えています。排他的経済水域で他国漁船による違法操業が絶えず、その被害額は3兆円に達します。中国漁船は拿捕しても、中国海軍により奪還されるそうです。そのため2015年、拿捕したフィリピン/ベトナム/タイ/中国の漁船20隻を爆発させました。中国は南シナ海の大半を自国の領海と主張しており、インドネシアと紛争に発展する恐れがあります。※ベトナム/マレーシア/フィリピンなども同様だろうね。
○インドとペルーの悩み
・世界3位の漁業国がインドです。人口13憶人で、さらに増え続けています。漁業の生産量は、1970年176万トンが2013年920万トンに5倍以上に増えました。特に養殖は12万トンから455万トンに増えています。日本のエビ輸入先の2位です。沿岸部の水産資源は枯渇し、国際的に批判されています。
・ペルーは1970年水産生産量が1248万トンで、世界一になります。しかし1980年271万トン、2000年1千万トンを超え、2013年600万トンとエルニーニョ現象により不安定です。
・ペルー沖には南から北へペルー海流が流れ、そこでペルーカタクチイワシ(アンチョビ)が獲れます。これを肥料・飼料として輸出していますが、エルニーニョ現象が発生すると、海水温が上昇し激減します。資源管理を行っていますが、産卵親魚が減少したため、2014年12月/翌年1月は操業を中止しました。
<第6章 海から生まれた文化と富>
○世界は海を越えて作られた
・国際社会は中世欧州に始まります。当時、海とは地中海の事でした。12~13世紀に栄えたヴェネチアは、アドリブ海を自分達の領土と考えていました。ヴェネチアの指導者ドーチェは海と結婚しています。
・15世紀になるとスペイン/ポルトガルが大海原に旅立ち、大航海時代になります。1492年コロンブスはアメリカ大陸に到達し、1498年バスコ・ダ・ガマはインド洋航路を開拓します。1494年ローマ教皇は大西洋上に植民地分界線を設定し、それ以西で発見された土地はスペイン領、それ以東で発見された土地はポルトガル領とします。両国はキリスト教の布教を背景に、世界を支配下に置こうとします。
・遅れて英国/仏国/オランダも海洋利権に乗り出し、「東インド会社」を設立します。東インド会社は貿易や植民地管理の特権を与えられます。1700年代になると東インド会社は植民地経営よりも、利益の獲得を重視するようになります。
○シンガポールに学ぶ資本主義
・18世紀アダム・スミスは『富国論』で経済システム論を展開します。彼は「投資家は、収益とリスクを考慮し、意思決定している」とし、航海者の行動を裏付けます。国王家・投資家は航海者・海賊に投資し、配当を受け取ります。
・しかし彼は「東インド会社は植民地の主権者である事を忘れ、利益を追求する商人になっている」「主権者の義務は、商業を育て、公共事業を行い、植民地を維持する事にある」と批判します。
・彼の考えはシンガポールの創造に寄与します。1824年英国はシンガポールの領有権を獲得します。1851年ホースバー灯台/1854年ラッフルズ灯台を建設し、海峡の管理者となります。ホースバー灯台はジャーディン・マセソン商会などの募金で建設されました。当商会は武器を扱い、日本の窓口がグラバー商会です。
○捕鯨がもたらした富と繋がり
・捕鯨は古代から行われていました。11世紀バスク人はクジラの油を灯火用として欧州全域に売っていました。17世紀英国/オランダが、北大西洋でホッキョククジラを獲るようになり、中頃には年1500~2000頭を捕獲するようになります。その後米国も加わり、20世紀になると、セミクジラ/ホッキョククジラはいなくなります。※米英は自然保護の概念がない。
・18世紀米国は本格的に捕鯨を始めます。捕獲したクジラを船上で解体し油を採り、不要な物を廃棄するようになり、長期間の捕鯨が可能になります。19世紀中頃、米国/英国は北太平洋で年1万頭のクジラを捕獲するようになります。
・1830年米国人/ハワイ人が捕鯨の拠点にするため、小笠原諸島に入植します。1853年ペリーが浦賀に来航する際、小笠原諸島に寄港しています。日本は小笠原諸島が領土である事を米国/英国などに通告し、認められます。1968年小笠原諸島は日本に返還されますが、今でも欧米系住民と日本人が住んでいます。
○海賊による航路開拓と交易拡大
・英国人ドレークは私掠船の船長になり、1580年世界一周を2番目に達成します(※世界初は、1522年マゼラン一行)。私掠船は国家が公認する海賊です。1580年帰港した時、英国の歳入を超える30万ポンドの財貨を王室に献上しています。彼はドレーク海峡を発見しています。
・1545年(※諸説ある)種子島でポルトガル人から鉄砲が伝来します。しかし正確に記すると、種子島に漂着した船は「倭寇」の頭目・王直の船で、その船の修理の代価として鉄砲を渡したのです。
・この16世紀頃の後期倭寇は、大半が中国人/朝鮮人で、普段は密貿易を行っていました(※明は解禁令を発していた)。王直は平戸の松浦党と貿易しており、ポルトガルが最初に日本と交流したのも平戸でした。
・戦国時代、瀬戸内海には「村上水軍」がいました。彼らは海域の統治者であり、商人です。彼らは支配する海域を通行する船から、通行料を取っていました。※陸には関所があった。
・当時世界東西の海賊は交通路を広め、貿易を行い、安全保障の役割を担っていた。今のソマリア沖/マラッカ海峡の海賊とは異なります。
○保険は海から生まれた
・保険制度は古くからあり、船・積み荷を担保に資金を借り、海難事故に遭うと債務は免除されたが、無事帰還すると2・3割の利子を付けて返還していました(※利息が高い貸借かな。これはいつ、どこの制度だ?)。14世紀イタリアの諸都市(ピサ、ジェノバ、フィレンツェ、ヴェネチア)で、現在と同様の保険契約が結ばれています。
・日本でも江戸初期の朱印船貿易でポルトガルから伝わった保険制度が使われています。鎖国後は船主・船乗りがお金を出し合う「海上請負」の制度がありました。
・この様に保険制度の起源は海上保険にあります。「ロイズ」には2つの意味があります。①ロンドンにある保険取引所の名前で、保険市場全体を指します。②世界最大の保険企業体「ロイズ保険組合」を指します。
・17世紀後半(※1688年?)エドワード・ロイドがロンドンに「ロイズ・コーヒーハウス」を開きます(※紅茶ではなくコーヒーなのかな)。ここに貿易商・船乗りが集まるようになり、やがて保険業者も集まるようになります。18世紀海上保険の法人組織を作り、独占企業になります。※独占となったのは、英国が勅許会社に指定したためで、これにより賭博保険が横行したみたい。
・1773年保険取引業者は「ロイズ委員会」を組織し、王立取引所の中にコーヒー店を置き、これが保険取引市場の中核になる。※賭博保険の横行に危機感を持ったみたい。
・しかしロイズ委員会は不正を働いた者や支払い能力のない者を除名できず、1871年議会でロイズ法が制定され、法人「ロイズ組合」となる。※面白そうな長い歴史だ。
・海運には「共同海損」の考えがあります。船舶が座礁・衝突・火災などに遭った時、発生した損失を船主・荷主などが共同で負担する制度です。
○クルーズ船が生む経済効果
・1912年タイタニック号は処女航海で沈没します。クルーズ船にはタキシード/ドレスが必需なものあれば、Tシャツ/短パンで楽しめるものまであります。クルーズ船に乗船した人は1990年470万人から、2013年2280万人に増大しました。この内米国人が1400万人で、日本人は24万人です。※半数以上が米国人だな。最近は中国人もかな。インド系(東南アジア?)もよく見る。
・世界最大のクルーズ船は米国の「オアシス・オブ・ザ・シーズ」で、全長361m/幅66m/船客5400人です(※五日市港で見たクァンタム・オブ・ザ・シーズも同社が保有している)。英国の「クイーン・メリー2」は、全長345m/幅39.9m/船客2620人です。英国はクルーズ船に威信を掛けており、119日の旅費は240~2800万円です。日本で最大のクルーズ船は「飛鳥2」で、全長241m/幅29.6m/船客872人です。104日で世界一周し、旅費は422~2624万円です。
・日本でクルーズが普及しないのは、台風などによる海の荒れが考えられます。日本に寄港するクルーズ船は年100隻を超えるようになり、横浜/神戸/沖縄/石垣などに寄港しています。※近年インバウンドに注力している。
○今こそ島国根性を持て
・「島国根性」は「了見が狭い」「閉鎖的」「こせこせした」など悪い意味で使われます。ところがこれは日本特有の考えで、英国/ニュージーランド/フィリピン/インドネシアでは、「開放的で自立した社会」と前向きに考えています。
・島国根性の語源を調べると、佐賀藩出身で岩倉使節団に参加した久米邦武が書いた『特命全権大使 米欧回覧実記』にあります。彼は「英国人は島に住み、沢山の船を持ち、世界と貿易して、7つの海の王者になった。日本も、その島国根性を持たねばならない」と書いています。島国根性は「逆境を乗り越える不屈のチャレンジ精神」だったのです。
・鎖国は貿易による利益を幕府が独占し、海外からの文化・宗教の流入を制限する制度です。幕府は中国/朝鮮/オランダから情報を入手し、分析していました。
・日本は世界の航路の安全を確保し、日本周辺の海洋資源を開発し、世界に乗り出すべきです。
<おわりに>
・人類は海に乗り出し、他の地域と繋がり、世界経済を築いてきました。また海には水産物や海洋資源が豊富にあります。海は人間にとって「母」です。海の漢字には「母」が含まれています。また仏語の「母」(Mere)には海(Mer)が含まれています。
・著者は海の魅力に取りつかれ、海を横断的に考える研究者になりました。今はその魅力を伝えるのを使命と思っています。