『ポピュリズム政治にどう向き合うか-メディアの在り方を考える』新聞通信調査会(2018年)を読書。
本書は同名のシンポジウム(2017年11月)を書籍化したのです。
基調講演(水島治郎)での政治を四象限に分ける考え方は、大変分かり易い。
続いて三浦瑠璃/芹川洋一/津田大介/山田惠資(何れも著名人)がプレゼンテーションしています。
それぞれ国際政治の現状/メディアの変化/ソーシャルメディアの現状/2017年衆院選を解説しています。
基調講演は分かり易く、インパクトもあったが、後のプレゼンテーション/質疑応答は時間の関係もあるのか、少し雑に感じた。
しかし4人の「なぜ日本でポピュリズムが起きないか」「2017年衆院選の見解」は一致していた。
またポピュリズムを一方的に悪としていない点でも、4人は一致していた。
お勧め度:☆☆
内容:☆☆(基調講演は簡潔で良かった)
キーワード:<中抜き時代のデモクラシー>ポピュリズム、人民党、四象限、大統領選/総選挙、冷戦終結/産業構造、左派ポピュリズム、福祉国家、中抜き、ウィルダース、元SMAP、大衆迎合主義、ポスト・トゥルース、脱近代、<欧州/米国で何が起こっているのか>グローバル/分配、米大統領選、<ポピュリズムとメディア>新聞・雑誌/ラジオ/テレビ/インターネット、グローバル化、<ポピュリズムとソーシャルメディア>動員の革命、ポスト真実、フェイクニュース、まとめサイト、フィルター、<2017年衆院選は何だったのか>安倍対反安倍/政権選択、排除の理論、公明党、<質疑応答>ファシズム、直接民主主義、小池百合子、風、利権、メディア
<あいさつ>
・今年(2017年)はトランプ大統領の誕生で始まりましたが、欧州の情勢も見逃せません。仏大統領選があり、オランダなどで国政選挙があり、極右/ポピュリズム政党が躍進し、それがEUにどう影響するかです。昨年はブレグジット(Brexit)が決まりました。ある官僚OBは「統合は理性、分裂は感情が決する」と言われました。
・このタイミングで出版されたのが水島治郎『ポピュリズムとは何か』です。日本では野党第一党が小池百合子にあやかろうとして分裂します。
・水島氏に基調講演をお願いしています。「ポピュリズム」「メディアの在り方」について認識を深めて頂ければ幸いです。
第1部 基調講演
<中抜き時代のデモクラシー ポピュリズムが映し出す21世紀型社会> 水島治郎
○ポピュリズム系の政党や政治家が躍進
・私は千葉大学の「法政経学部」に在籍しています。元は「法経学部」だったのですが、政治学が重要になり、「法政経学部」と改名されました。
・2016年6月ブレグジット(Brexit)が決し、秋にトランプが大統領に当選します。今年に入るとオランダ/仏国/ドイツの総選挙で、ポピュリズム系の政党/政治家が躍進します。中・東欧でも同様の傾向が見られます。本日はポピュリズムを「中抜き」の観点から述べます。特にメディアとの関係を焦点にします。
・私は『ポピュリズムとは何か』(2016年12月)を書いていますが、2年前から準備していたのが、丁度ポピュリズムが注目されるタイミングと合ったのです。
・ポピュリズムが台頭する起点は、2017年1月21日のドイツでの会合にあります。その前日はトランプ大統領の就任式で、この流れで「私達も政権を取ろう」と気勢を上げたのです。
・ポピュリストの主張には、反自由主義/反民主主義/アンチグローバリゼーション/アンチイスラム/反移民などが含まれています。このリベラルに対するアンチテーゼから、ポピュリズムに対し様々な議論が行われています。しかもこのポピュリズムは、途上国ではなく先進国で起きているのです。20世紀、「民主化により排外主義/アンチリベラルは淘汰される」とされてきましたが、その逆の現象が起きているのです。
・この会合の中心人物がマリーヌ・ルペン(仏国、国民戦線)/ヘールト・ウィルダース(オランダ、自由党)/フラウケ・ペトリ(ドイツのための選択肢)です。他のオーストリア/スイス/イタリア/ベルギー/デンマーク/ノルウェー/スウェーデンなどでも、ポピュリズム政党が議席を取っています。英国は小選挙区制なので議席獲得は難しいのですが、反EUを訴え、ブレグジットの国民投票で勝利しました。
○米国の人民党がポピュリズムの起源
・ポピュリズムは日本では「大衆迎合主義」と訳されます。ポピュリズムの語源はラテン語の「人民」で、直訳すれば「人民主義」です。一般的には「人民・民衆に依拠し、エリートを批判し、人民の意思を直接反映させる急進的な革命運動」と云えます。
・この起源は19世紀末の米国にあります。二大政党・大企業による独占的な支配に対し、農民・労働者が「第三党運動」を起こし、「人民党」を結成したのです。その意味で当時のポピュリズムは左翼的な立場にありました。ところが二大政党が人民党の主張を取り込んだため、短期間で終わります。
・このエリートは誰でしょうか。これは国によって様々です。既成政党/国会議員/官僚/地方組織/労働組合・農業団体/メディア/知識人などで、政治・経済・社会・文化で権力を握っている人達です(※こんなに広範囲?)。ポピュリストは「彼らから権力・富を取り戻そう」と主張しています。
○「右対左」ではなく「上対下」
・ポピュリズムは左翼的な傾向を持つと言いましたが、本質は「上対下」の対立です。米国の大統領選は、右派・保守の共和党と中道左派・リベラルの民主党の争いです。ところが2016年の大統領選で明白だったのは、党のエスタブリッシュメントに反発する動きがあった事です。共和党ではトランプ、民主党ではバーニー・サンダースです。
・共和党ではトランプが勝利し、民主党ではサンダースがヒラリー・クリントンを脅かしました。これは「既成政治志向」と「ポピュリズム志向」の争いです。つまり政治を図に表すと、左右の対立だけでなく、上下の対立が明白にあったのです(四象限)。※これは理解し易い。
・左下のサンダースは敗れますが、左上のクリントンにダメージを与えました。大統領に選ばれたのが、右下のトランプです。この選挙は「自分達こそが米国を代表する」と主張した2人が揺り動かしたのです。
○大衆迎合主義は適切か
・ポピュリズムを英英辞典で引くと、「特権的なエリートと対抗する人々の権利を主張する運動」となります。少なくとも否定的に感じられる「大衆迎合」の意味はありません。※大衆迎合が否定的なのは、少し後で説明される。
○マクロンが勝利した背景
・2017年仏国大統領選も同様です。仏国の右派は共和党で、左派は社会党です。共に伝統ある党です。そしてこの選挙で右下にルペンが登場したのです。彼女は反EUを掲げ、既成の国際秩序/国内政治を批判したのです。
・これに右上のフランソワ・フィヨンは支持を得られず、左上の現職フランソワ・オランドも不人気でした。これに同じく反EUを掲げる極左(左下)のジャンリュック・メランションとエマニュエル・マクロン(中道?)が出て来て、最終的にマクロンが勝利します。
・マクロンは既成政党での閣僚経験がありますが、既成政党を批判するために閣僚を辞しています。やはり仏国でも既成政党は否定され、マクロンが大統領に選ばれたのです。
○不安定さを増すドイツ
・同様の現象はドイツの総選挙(2017年9月)でも見られました。ドイツの政治は安定しており、保守にキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)がいて、左に社会民主党(SPD)がいて、さらにど真ん中に自由民主党(FDP)がいます。この3党の内、2党が組めば政権を維持できました。
・ところがこの選挙で、右下に「ドイツのための選択肢」(AfD)が出て来たのです。この党は既成政党を厳しく批判し、反移民・難民を打ち出します。この党が第3党になりますが、右翼政党が第3党になるのは戦後初です。
・この選挙により既成政党は縮小します。CDU・CSU/SPDは戦後最低の得票率になります。最終的にはCDU・CSU/SPDが連立を組まざるを得ないでしょう。※大連立だな。
○日本でもポピュリズム政党が台頭
・日本も似た政情にあります。従来は右上に保守の自民党、左上に中道左派の民進党(民主党)、その中間に公明党、最も左に共産党/社民党がいました。
・ところが近年、既成政党と距離を置く「日本維新の会」「希望の党」「立憲民主党」が出て来ました。ポピュリズム志向は左程強くありませんが、既成政党のネガティブなイメージを払拭しようとしています。2017年総選挙で、立憲民主党/希望の党が野党第一党・第二党になります。※先の参院選では「れいわ新撰組」も出て来た。
・小池百合子と橋下徹を比べると、橋下氏の方がポピュリズム志向が強いと思います。小池氏は元自民党の閣僚で、本人も「マクロンを目指す」と言っています。いずれにしても既成政党に留まるのは不利なのです。
・ルペン/トランプの主張は排外主義/右翼的ですが、本質は人民の主張を代弁しているのです。
・思想家ツベタン・トドロフは「ポピュリズムは左右ではなく、下に属する運動である。上の既成政党に対抗する運動である」と言っています。また「民主主義のロジックを使い、民主主義を批判している」と言っています。※民主主義の批判は、民主主義による決定を批判かな。よく分からない。
○冷戦の終結と左右対立の変容
・次にポピュリズム台頭の要因を考えます。1つ目は「冷戦の終結と左右対立の変容」です。かつては冷戦構造で、それに呼応し国内政治も左右対立になっていました。ところが冷戦終結により、社会主義理念の再考が迫られます。
・左派の弱体化は、「社会主義政党に政権を渡すな」を使命とした右派にも影響を与えます。日本/イタリアでは冷戦崩壊後に保守政党の危機が訪れています。日本では自民党が下野し、イタリアでは一党独裁だったキリスト教民主党が、汚職などから消滅します。※ここにも敵を作る意味が見られる。イタリアは消滅か。
○産業構造の転換とグローバル化の影響
・2つ目は「既成政党や既成団体の弱体化」です。多くの人が既成政党を支える組織・団体にそっぽを向いています。※利益誘導性が低下したのかな。左が消滅し、政党間の政策の違いがなくなった点が大きい。
・3つ目は「産業構造の転換とグローバル化」です。欧州は国境を越えた統合や移民の流入で産業構造が変わりました。これは工業労働者や貧困層により厳しく作用しました。そのため彼らは「既成政党は私達を守っていない」となり、ポピュリズム政党に向かったのです。※この観点は適切だ。
・既成政党の弱体化を見ると、2017年オランダの総選挙で、保守の巨大政党「キリスト教民主勢力」の得票率は12.4%に下がり、左派の「労働党」も5.7%に下がります。仏国大統領選では右の共和党フィヨンは19.9%、左の社会党ブノワ・アモンは6.4%で、共に第1回投票で敗退します。全く二大政党の時代ではないのです。※二大政党時代の終焉か。注目ポイントだが、このところ国政選挙はなさそうだ。
○ラテンアメリカ諸国は左派ポピュリズム
・しかしポピュリズムの実情は、各国様々です。欧米のポピュリズムは「右派ポピュリズム」が主流ですが、ラテンアメリカでは「左派ポピュリズム」が主流です。その代表がアルゼンチンのファン・ペロン元大統領とその夫人です。これは社会立法・労働立法(?)/分配強化/政治経済エリートへの攻撃などが共通項で、労働者大衆を基盤とする左派ポピュリズムです。他にベネズエラのウゴ・チャベス前大統領やボリビア/エクアドルなどで、左派ポピュリズムが強い支持を得ています。
・ラテンアメリカで左派ポピュリズムが強い支持を得られるのは、貧富の格差が激しいためです。そのためエリートが持つ権力・富・土地・財産を引き剥がそうとする動きは左派的にならざるを得ません。※これも同意する。
○福祉国家の恩恵を受けるカッコ付き特権
・他方欧州はラテンアメリカと事情が異なります。欧州は社会福祉が充実し、ジニ係数も低くなっています。そのため特権的な権力・富を引き剥がすのではなく、再分配で利益を得ている人(公務員、労働組合、生活保護受給者など)や移民・難民に批判が向けられます。※それで右派ポピュリズムが支持されるのか。こちらはマズマズ同意だな。
・日本は再分配システムもそれ程充実しておらず、また移民も少ないため、欧州とは異なります。
・2017年ドイツの総選挙でAfDを支持した人は「難民には衣食住が提供されるのに、私達は貧しいままだ」と言っていました。欧州などの福祉国家は、民主主義が成功した故に、その内部に敵を作ってしまったのです。※中間層が没落し、同じレベルでの争いが始まった感じだな。納得する事が多い。
○利益誘導政治への批判
・日本は社会事情から右派的・排外的ポピュリズムは起こっていません。一方で「人民がエリートを包囲する」左派ポピュリズムも起こっていません。そこで起きる可能性があるのが、「反既得権益」「反既成政党」などのポピュリズムです。自民党政治はクライエンテリズム(恩顧主義)的な利益誘導政治だったため、これに対し「市民のための政治」を掲げる事が考えられます。
・事実小池氏/橋本氏は、既成政党への違和感を動員(?)しています。ここで注意しないといけないのは、これが有効なのが大都市に限られる点です。日本の戦後政治は、都市の富を地方に流すシステムでした。そのため日本で「反既成政党の狼煙」が上がるのは都市となります。これが正に維新や「都民ファースト」や名古屋での「減税日本」だったのです。※この辺りの分析は大変参考になる。
・日本の現象は、米国のラストベルトや英国北部/仏国北東部の古びた工業地帯でのポピュリズムと異なる状況と云えます。
・右下の小池氏が「排除発言」で失速した事で、左下の「立憲民主党」が注目されます。枝野幸男がこの立ち位置をアピールしていけば、無党派リベラル層を引き付ける事ができると考えます。
○無組織層が大幅に増加
・実はポピュリズムの動きは政治だけでなく、社会/経済/文化などにも広がっています(※そうなると、正しく人民主義/民衆主義だな)。これを「中抜き」で説明します。中抜きは、元々は流通において中間業者をバイパスする考え方です。政治ではリーダーがSNSを介して直接支持者に訴えています。
・例えば近年、様々な組織率が低下しています。1980~2014年を見ると、自治会の参加率は64%→24%、農業団体は9.7%→4.4%、労働組合は12.2%→5.9%、経済団体(商店会、振興組合など)は5.8%→1.7%で、何れも半分以下になっています。要するに無党派化・無組織化が進んでいるのです。※この無組織化は探求したいな。
・そのため小池氏は都知事選/都議選の際、既成の組織を並べず、逆に「既成の組織・団体・政党に不当に支配されている」と訴えたのです。※この辺の分析も面白い。
○20世紀型の組織・権威の弱体化
・組織の弱体化は政党/労働組合/職業団体だけでなく、自治会/町内会/宗教団体にも表れています。またピラミッド型の大企業も調子が悪い(※具体例が欲しい)。従来型のメディア(新聞、テレビ、ラジオ)も弱くなっています。要するに20世紀型の組織・権威は凋落し、個人が独立して行動するようになったのです。これが「中抜き」です。※中抜きと云うより、無組織化/平準化/平坦化かな。
・かつては新聞・テレビ・ラジオが読者に情報を提供していましたが、今は個々人がインターネットに直接情報を求めるようになりました(※私の場合、ネット>テレビ>新聞>ラジオかな)。かつては文壇・論壇・知識人などは権威がありましたが、今はその言葉自体が化石になりました。
・政治に戻りますと、オランダの自由党は組織になっていません。党員は党首ウィルダースしかいないのです(※これは知らなかった)。組織を作ると意思決定が煩雑になり、分裂する恐れもあり、それを避けたのです。そのため彼は反EU/反既成政党などの主張を積極的にツイッターで行っています(※正確には反既存政策の主張では)。彼のフォロワーは93万人いますが、日本だと700万人位に相当します。※トランプもツイッターを活用している。
・学校で政党を基盤とする政党政治を習いましたが、今はそれが古いモデルになっているのです。
○元SMAPがネットTVで高視聴率
・日本の2017年総選挙も似たところがありました。左派の共産党/社民党は組織に依存し苦戦しますが、立憲民主党はSNSでアピールし、リベラル無党派層を引き付けました。枝野氏は「もう左右の対立ではなく、上下の対立」と言っています。組織的な動員ではなく、草の根の運動が成功したと云えます。
・同じような現象が芸能界でも見られます。元SMAPの3人は大手事務所を離れ、自由な活動を行っています。かつてであれば「事務所に干された芸能人」となり、行き場がなくなっていたのですが、そうなっていません。彼ら3人はインターネットの「AbemaTV」で「72時間ホンネテレビ」に出演し、7400万視聴を獲得しました。そしてツイッター/インスタグラムでフォロワー100万を獲得しました。
・この様な既存のしがらみ/権威に抗する動きは、政治だけでなく文化・芸能にも起きています。立憲民主党や元SMAPの事象は偶然ではありません。既存の組織・メディア・権威に違和感を持つ視聴者・ファンは、そちら側に付いたのだと思います。
・この様に爽やかな笑顔で組織を離れた人もいれば、評判が悪くなった人もいます。民進党の前原誠司前代表と元SMAPの木村拓哉です。※基盤(ネットなどのメディア)が変わると、盛者必衰の理を表すかな。
○大衆迎合主義には、上から目線がある
・ここでポピュリズムが大衆迎合主義と訳された件に戻ります。ポピュリズムは既存の政党・国際秩序に違和感を感じる人の思いを受け止めるため、それらを脅かす存在となります。そのためメディアはポピュリズムを否定的に大衆迎合主義と訳しました。しかしこれには抵抗感があります。
・この訳には「大衆・人民・人々は誤った判断をする」との思い込みがあり、「上から目線」や、お説教的な部分が感じられます。メディアが大衆を批判的に見て、エリートを擁護するようであれば、大衆は「エリートとメディアは同じ立場にある」と見るでしょう。
○無視できないポスト・トゥルース
・現在ポスト・トゥルースの問題がありますが、これは受け入れがたい問題です。既存のメディアが「私達は真実を語っている。大衆は私達の情報に従えば良い」とするのも問題である。「既存のメディアは、上から目線のエリート」と思う人が増えています(中抜き)。ポピュリストには「既存のメディアは偏った考え方をする」とし、自らSNSで情報発信する人もいます(※トランプだな)。SNSでは「いいね」が使われ、そしてピュリストは、この「いいね」をもらうのが巧みです。若い人は新聞を読まず、SNSを利用します。これでは大衆と既存メディアの距離は広がるばかりです。
○新たな情報革命は脱近代の幕開け?
・これまでの話だと「既存メディアには未来がない」と思われるかもしれませんが、そうではありません。若い人は意外とラジオを聞いていますし、インターネットでラジオを聞く事もできます。
・2017年は宗教革命から500年です。宗教革命が成功したのは、印刷革命のお陰です。それまで教会に独占されていた情報が、庶民に行き渡ったのです。ルターはドイツ語で聖書を書き、庶民に聖書を普及させました。近代はメディアによって作られたのです。※大同意。
・今の情報革命は「脱近代」をもたらすでしょう(※ポスト近代だな)。印刷革命により教会が独占していた「知」が、庶民に開放されます。インターネットの発達も同様の効果をもたらすでしょう。それがもたらす変化は政治に限らず、社会・芸能にも表れるでしょう。
第2部 パネルディスカッション ポピュリズム政治にどう向き合うか-メディアの在り方
<プレゼンテーション.1 欧州/米国で何が起こっているのか> 三浦瑠璃
○グローバルな生活、ローカルな生活
・水島氏は政治を四象限で説明されましたが、私も同様なものを用意しました。問1は「グローバルな生活をしているか、ローカルな生活をしているか」です。これが上下になります。問2は「政府は、もっと分配を重視すべきか、それとも政府は、もっと経済成長を重視すべきか」です。これが左右になります。※問1はグローバルを肯定するか、否定するかだな。
・左上には学者/官僚/リベラル系メディアの人が入ります。右上には投資家/グローバル企業の経済人が入ります。右下にはローカル企業の経営者/農業従事者が入ります。左下にはマイノリティ(※人口の6割が白人なので、それ以外)/労働組合に属する人が入ります。ここはメディアに出てこない、見失われがちな層です。※多数なのに。
○ローカルに生きている人がトランプを支持
・トランプを支持したのが、右下の反グローバリズムの人達です。これに対抗したのがメディアで発言力のある左上の人達です。彼らはトランプ支持者を「白人、無教養、肥満、酒飲み」「憎しみに満ちた負け組」と批判します。しかし彼らはニューヨーク/ワシントンなどで暮らし、トランプ支持者に接する機会はないと思います。※分断だな。
・右下は負け組ではありません。米国は分権が進んでおり、各州に有力企業があります。従って「ローカルな金持ち」は幾らでもいます。
・選挙で勝つには四象限の内、2つ以上を取らなければいけません。しかも大半は左下に属しているのです。
・米国は伝統的に、分配重視の民主党、成長重視の共和党が対立して来ました。しかし両党ともグローバリズムに親和的な勢力と批判的な勢力がいるのです。※単に四象限の説明だな。
・大統領選の報道が偏ったのは、左上に属するメディアが右下に属する人と接点がなく、彼らを理解していなかったからです。私は左下のマイノリティ/労働組合を取材しましたが、彼らはヒラリー・クリントンを支持するどころか、「反ヒラリー」でした。
・ペンシルベニア州の地元紙に、「2007年以降に入社した人の賃金が、先輩の半分しかない」とする記事がありましたが、民主党はこれを無視します。その代わり彼らは「共和党の支持者は人種差別主義者」とのレッテルを貼り、南部諸州の黒人票の掘り起こしを図ります。彼らは「分配重視」と「成長重視」の争いである事を分かっていなかったのです。※結局民主党は左下を失ったのか。
○人々の関心は、自分に対する分配
・日本はどうでしょうか。日本は大半の人がローカルに住み、そして成長ではなく分配を重視します。少子高齢化で高齢者が多く、彼らは年金による分配が気になります。
・人々はポピュリズム/反グローバリズムなどは気にしていないのです。そのため既存の政党が「マイナスの分配」(※説明なし)をやろうとした時に問題が起きます。
・既存の政党は分配と成長の良いバランスを取ってきましたが、それが反映されず、ポピュリズム政策に転換されるのは実に危険です。「足して2で割る社会」(※説明なし)が好まれなくなった時、大きな課題が押し寄せます。※相変らず、この人の言う事は難解。
<プレゼンテーション.2 ポピュリズムとメディア> 芹川洋一
○明治以降を動かした各種メディア
・最初に「デモクラシーとメディア」の話をします。日本には、まず「明治デモクラシー」(自由民権運動)がありました。これは福沢諭吉『時事新報』(1882年)などの新聞が起点になっています。
・大正に「大正デモクラシー」が起きます。これは『中央公論』などの雑誌が起点です。1916年1月号には吉野作造の有名な論文「憲政の本義を説いて・・」が掲載されています。
・戦後の民主主義は『世界』が引っ張り、丸山真男の論文が掲載されます。60年安保/70年安保の頃は、『朝日ジャーナル』が引っ張ります。しかし今は「論壇」の影響力はなくなっています。
・活字の次はラジオです。1929年浜口雄幸が政策放送をしています。1931年満州事変の勃発はラジオの臨時ニュースになっています。そして1941年/1945年の太平洋戦争の開戦/終戦もラジオで伝えられています。
・次にテレビの時代が来ます。1953年放送が始まります。60年代には、番組『総理に聞く』『総理と語る』がありました。この頃、藤原あき/石原慎太郎/青島幸男/横山ノックなどのタレント議員が当選しています。1976年三木武夫が「三木おろし」にテレビで対抗します。これらがテレビ時代の前史です。
・1991年山崎拓/加藤紘一/小泉純一郎(YKK)が海部俊樹を批判しています。当時日曜日朝に3つの政治番組があり、「政治は日曜朝に動く」と云われました。次に「テレポリティクス」の時代が来ます。1993年政権交代し細川政権が誕生します。※テレポリティクスの説明はこれだけ?
・次にインターネットの時代(平成デモクラシー)が来ます。2000年「加藤の乱」がありましたが、加藤氏のホームページに応援するメールが殺到し、それが彼を推したのでしょう。
○ラジオの近衛、テレビの小泉、ツイッターの橋下
・本日のテーマ「ポピュリズム」に触れます。水島氏はポピュリズムを「下からの運動」としました。ところがメディアは「政治指導者が上から誘導している」と捉え、「大衆迎合主義」と呼んでいます。※それなら大衆に迎合するのではなく、大衆を誘導するので大衆誘導主義では。これなら小泉政権の敵を作る動きなど、かなり納得できる。
・吉田徹は「ポピュリズムは否定の政治」と言っています。これは価値体系を丸ごとひっくり返す動きです。※要するに人を惹きつければ良いので、手法は様々かな。
・80・90年代、ポピュリズムは「人民主義」「大衆主義」と訳されていました。ところが90年代後半になると「大衆迎合主義」と訳されるようになります。その切っ掛けは渡辺恒雄『ポピュリズム批判』です。
・ラジオ時代のポピュリストが近衛文麿で、テレビ時代のポピュリストが小泉氏でしょう。小泉氏の劇場型/ワンフレーズのやり方は、正にポピュリズム的です。ネットの時代では橋下氏が注目されます。彼はトランプより先に登場したため、トランプには既視感があります。
・ネットが出て来る前は、メディアは政治の様々な情報を濾過し、有権者に伝えていました。ところが今は、政党・政治家が直接有権者とコミュニケーションするようになりました。
・トランプのフォロワーは、当選当時1500万人位でしたが、今は4100万人います。彼が物議を醸すツイートをすると、それをマスコミが取り上げるようになりました。水島氏が云われた「中抜き」となっています。
○グローバル化/民主主義/国家主義はトリレンマ
・中間層は「グローバル」と云う構造変化により没落し、下から移民・難民に突き上げられ、その不満が既成政党/政治エリート/マスメディアに向けられています。これは「民主主義の機能不全」で、これによりポピュリズムが生まれたと考えられます。
・これだけでは説明できないと思っていたところ、ダニ・ロドリックが「グローバル化/民主主義/国家主義はトリレンマ」と説きました。中国は国家主義で民主主義を抑え込んでいます。トランプは国家主義/民主主義でグローバル化に対抗しています。
・19世紀「第1次グローバル化」が起き、第1次世界大戦まで続きます。この時もポピュリズムがありました(※具体例がない)。そして今「第2次グローバル化」が起き、同時にポピュリズムが起きています。※時代の変化が著しい時は、それに遅れる者/抵抗する者が出るかな。
・なぜ日本で「下からのポピュリズム」が起きないのか。それはグローバル化が進んでいないからです(※移民・難民の影響は少ないが、企業のグローバル化は進んでいると思うが)。また経済格差が小さいのも要因です。生活満足度の調査では、74%の人が今の生活に満足しています(※ホントか)。完全失業率2.8%/有効求人倍率1.5%は完全雇用の状態です。
・日本はまだ「情報インフラ」が残っています(※既存メディアの事かな)。宅配制度のため、新聞の影響はまだあります。米国は有料のケーブルテレビですが、日本は無料で地上波/BSが見れます。
○4列化と4層化が起きている
・今回の衆院選で「小池さんの失敗、枝野さんの成功」が見られました。これを補足すると、小池さんはテレビによる失敗で、枝野さんはSNSによる成功です。小池氏の政策は杜撰で、それをメディアもテレビも批判しました。一方枝野氏はSNSによる情報拡散が奏功しました。
・星浩/逢坂巌が『テレビ政治』を書いています。ここに「政治メディアは3列」と書かれています。1列目-新聞・通信、2列目-硬派な政治ニュース、3列目-軟派なスポーツ紙/ワイドショーです。10年以上前に書かれた本なので、これに4列目-ネットメディアを追加します。
・同時に4層化も起こっていると考えます。全国紙は新聞社毎に違います。雑誌・週刊誌もそれぞれ立ち位置が違い、テレビも報道番組とワイドナショーで違います。当然ネットは多様です。この様にメディアは4層化し、多様化しています(※第1層-新聞、第2層-雑誌、第3層-テレビ、第4層-インターネット。4列と余り変わらない)。そのため日本の民主主義はチェックが利いていると云えます。※そうかな。辛辣な政治批判は見られないし。日本の「報道の自由」は、かなり低く評価されていたと思う。
・ポピュリズムに流されないためには、どうすれば良いか。それには「リアリズム」(現実主義)で現実を冷静に見る必要があり、特定の立場/イデオロギーに捉われてはいけません。また「言論の自由」などの「リベラリズム」(自由主義)も忘れてはいけません。また一方的な主張に距離を置く「寛容」「バランス」も重要です。
<プレゼンテーション.3 ポピュリズムとソーシャルメディア> 津田大介
○ネットはマスメディア並みの影響力を持った
・テレビは視聴率1%で100万人です。ニュース番組で15%なら、1500万人です。ラジオはずっと少なく、新聞は未だに影響力があります。雑誌は、『週刊現代』が150万部売れていた時もありますが、今は『週刊文春』で40万部位です。
・一方ブログは自分から見に行かなければなりません。日本で一番見られたブログはタレント上地雄輔さんのブログで、1日23万人です。これだとテレビ・新聞には届かない。ところが「ヤフーニュース」は7千万人が見ています。これがツイッターなどで拡散されると、さらに増えます。これがネットメディアの影響力が増している背景です。
・東日本大震災の時、スマホの契約者は1千万人で、ツイッターのユーザーは670万人でした。ところが今はスマホの契約者は8100万人、ツイッターのユーザーは4500万人です。これもポピュリズムに影響を与えるでしょう。
○SNS的なものが政治を動かす
・この流れでSNSが政治を動かしています。「アラブの春」(中東民主化運動)、「Occupy Wall Street」(ウォール街を占拠せよ、反格差社会デモ)、「首相官邸デモ」、「雨傘革命」、「安保法制反対運動」などの運動が起きています。
・オバマ前大統領やミュージシャン・タレントにはツイッターのフォロワーが7千万人います。これは時代の大きな変化です。
・メディアはコストが掛かります。新聞であれば、記者が取材し、新聞を印刷し、それを家庭に配る。一方ネットは簡単に情報発信ができます。これによって良い現象も悪い現象も起きています。
・首相官邸前デモは20万人が参加しましたが、このデモをツイッターで知った人が37%、ウェブや友達からが18%、フェイスブックは10%でした。一方テレビは4%、新聞は2%です。これは感情に訴える動員で、『動員の革命-ソーシャルメディアは何を変えたのか』(2012年)を出版しました。本来繋がらなかった人が、ネットにより自然に繋がるようになったのです。
○客観的事実より、感情的訴え掛けが世論に影響
・悪い現象の代表が「ポスト真実」(post-truth)です。これは「客観的事実よりも感情的訴え掛けの方が、世論形成に大きく影響する状況」を云います。これはブレグジットやトランプ現象により生まれた言葉です。私は『「ポスト真実」の時代-「信じがたいウソ」が「事実」に勝る世界をどう生き抜くか』(2017年)を出版しています。
・この背景は4つあります。①ソーシャルメディアにより、「炎上」が起きるようになりました。②「ファクト」(※事実と言えば)より「感情」が優越するようになり、「フェイクニュース」が増え、政治家は開き直るようになりました。③弱者が軽視され、「ネットリンチ」が増えました。④差別が顕在化し、移民の排斥が起きています。※これは背景ではなく、状況そのものでは。
・なぜポスト真実が起こるのか。それは「氷山の一角」と同じで、一部のポジティブ/ネガティブな情報だけが拡散していく。本当は下に色々なコンテクスト(事実、背景)があるのに、上の部分だけでイメージが作られていく。それが混乱(※ポスト真実かな)をもたらしているのです。※余りにもたくさんの情報が溢れているので、深く検証しなくなったかな。
・トランプの大統領選の会場を見ると黒人の支持者もいます。これにはからくりがあって、黒人・ヒスパニックが訪れると、最前列に席が与えられるのです。※これはソーシャルメディアではない。
・『中央公論』(2017年7月号)にフェイクニュースの特集があり、マケドニアのルポが載っていました。少年達は一からニュースを捏造するのではなく、既存のニュースを切り取って過激に書き換えるそうです。その方が賞味期限も長くなり、アクセス回数も増えるそうです。
○日本では「まとめサイト」が問題に
・日本では「まとめサイト」が問題になりました。例えばイチローへのインタビュー記事を纏めたものがあります。そこに「記者が『錦織が海外で評価されていますね』と訊ね、彼が『海外が騒いでいるので、日本も騒ぐ。それはダサい』と答えた」とあります。これが「イチローが反日発言」に発展するのです。これが「スマートニュース」などの「ニュースアプリ」でオーソライズされるのです。これは問題です。
○情報の濾過装置がキーポイント
・なぜネットでポピュリズムが加速するのでしょうか。そこには義憤に燃えた人、敵に社会的制裁を与えないと気が済まない人がいます。あるいは愉快犯で「他人の不幸は蜜の味」の人、情報を鵜呑みにする発信志向の人がいます。※情報を鵜呑み=発信志向?
・電車の中の中刷りを見て、それを人に話しても情報は拡散しません。ところがネットでリツイートすると、10万・100万に拡散する場合もあります。多くの人は詳細を見ず、見出しだけを見てリツイートしています。これだとフェイクニュースを流した方の「流し得」になります。※詳細を見るとリツイートしない?
・その意味で、ポピュリズムは濾過装置(フィルター)と密接に関係しています。ツイッターは自分が好む情報が入る仕組みですし、フェイスブックもリアルな友人関係がベースです。最近はグーグルの検索機能も、その人向けにカスタマイズされています。そのため「自分達が多数派だ」と勘違いしてしまいます。
・「このフィルターバブル/エコーチェンバーを、どう破っていくか」がメディアの課題です。ネットの利用者はマスコミの濾過装置より、ネットの自動リコメンド/AIを信じています。「AIは公正なのか」の論点もあります。
・ドイツはこの対策が進んでいて、ソーシャルメディアにヘイトスピーチ/フェイクニュースが投稿された場合、24時間以内に削除する仕組みになっています。
・米国は言論の自由を重視するので、規制していなかったのですが、シャーロッツビルの女性が殺害された事件で、その女性を中傷したネオナチのサイトを運用停止にしています。また人種差別的なメッセージを含む商品(?)の資金決済サービスも停止させています。またフェイスブック/ツイッターも、そう云ったアカウントを凍結しています。
○AIがフェークニュースを作る時代
・2017年6月トレンドマイクロが衝撃的なリポートを公開しました。フェイクニュースは30ドルで作られ、フェイク動画は600ドルで作られるそうです。米国ではこれらを使って、ジャーナリストを攻撃したり、選挙キャンペーンを行っているそうです。
・『日本経済新聞』にAIが決算書から書いた記事が載りました。その内容は人間にも書けない鋭い内容でした。こうなればAIにフェイクニュースを書かす事も可能でしょう。
・「ワシントン・ポスト」のHPにはファクトチェックする拡張機能があります。これは面白い機能です。
・問題の本質は広告配信で、フェイクニュースを作る目的は広告収入です。悪質なアカウントは停止したり、銀行口座を押さえるなどの対策が必要でしょう。
・フェイクニュースを作っている人を名誉棄損で訴えるのは難しい。そのためプロバイダー責任法を改革して、フェイクニュースを発信している人に責任を取らせるべきです。
<プレゼンテーション.4 2017年衆院選は何だったのか> 山田惠資
○衆院選は安倍対反安倍で始まった
・私はポピュリズムに対しニュートラルな立場です。良いポピュリズム/どっちでもないポピュリズム/悪いポピュリズムがあると思っています。
・今回の衆院選で安倍晋三首相は「与党で過半数の233」を勝敗ラインとします。結果は自民-6/公明-5で313議席を確保します。安倍首相は改憲のための2/3議席を失う可能性もあったため、葛藤があったと思います。
・この選挙は「安倍対反安倍」で始まりました。ところがそこに小池百合子が「政権選択」を持ち込みます。「排除発言」により失速しますが、「希望の党」が100~150議席取った可能性はありました(結果は50議席)。小池氏登場で安倍首相は自公連立政権に危機感を持ったと思います。
○なぜ小池氏は排除の理論を持ち出したか
・「排除の理論」は憲法改正と安保法制がテーマです。小池氏のテーマは、寛容な保守/消費税凍結/ミニマムインカム/内部留保課税/原発ゼロなど分かり易い。しかし連立政権のため憲法改正/安保法制を持ち出したのです。
・2つ目は、希望の党が150議席獲得し、他党と協力し多数党を結成しても、参議院では自公が過半数を占め、「ねじれ現象」になります。そのため「排除の理論」が必要だったのです。自民党と組むには、憲法改正/安保法制で一致している必要があったのです。※1つ目も2つ目も自民党と一致している事だな。政策より政局だな。
・結果的に、これにより反安倍が分裂し、安倍首相が利する事になりました。反安倍のリベラルな人は立憲民主党に投票しましたが、反安倍の保守的な人は投票先を迷ったと思います。
・新聞は「3極の選挙」と書きましたが、小池氏は保守なので、「三つ巴の選挙」が正しい。
・2007年小池氏にインタビューしましたが、北朝鮮に対し強硬派でした。小さな政府/大きな政府に対しても小さな政府を目指しており、経済面も新自由主義で、「安倍さんより右」と言う人もいます。
○旧来型の保守ハト派勢力が空席に
・今回の選挙は「保守の仲間割れ」と考えられます。小池氏は防衛大臣の時に靖国神社に参拝し、保守の側にも批判する人がいました。その中で空席となったのが「旧来型の保守ハト派勢力」です。
・最近岸田文雄が、安倍氏を諭すような発言を国会でしています。また公明党は、創価学会と世代交代のペースが異なり、意見の食い違いが見られるようになりました。創価学会の立場は「平和の維持」でハト派です。これは岸田氏に近い立場です。
・ある作家が、「今回の選挙は、30Cmの物差しの、右5Cmで争った選挙」と言っていました。憲法改正に関しては賛否が半々です。消費税増税は反対が多数なのに、消費税増税推進の安倍氏が勝利しました。有権者の政策への関心と選挙結果が異なった選挙でした。
<質疑応答> ※発言者の名前は省略。
○ポピュリズム台頭は民主主義の弱点を突くか
-質問 中国は「民主主義は公正な選挙でナチスを生んだ」と批判しますが、どう思われますか。
・本来なら一笑される陰謀論を信じる人もいます。人は友人の言う事を信じるとの調査結果もあります。そのためこの状況に対抗するには、人間的な関係を築く事が重要です。マスメディアは上から目線ではなく、同じ目線で伝える必要があります。
・ポピュリズムを悪いと捉える人たちは、それに負けた人達です。ポピュリズムによりナチスの独裁が始まりましたが、これはマーケットにも存在します。マイクロソフトに対するアップルの批判などです。経済ではシェアの独占は邪悪とされます。それは嗜好性/欲望の反映(?)/選択肢/多様性がなくなるからです。※経済にもポピュリズムがあるか。
・民主主義にはポピュリズムの権下である「ファシズムの芽」が潜んでいます。これが生じる条件は2つあります。1つは資本主義に絶望した場合、もう1つは外的への脅威です。今の欧州は金融危機があり、高い失業率があり、さらに難民・移民の存在があります。しかしファシズムが生まれる程の条件は揃っていません。
○ファシズムこそ怖れるべき
・恐れるべきはポピュリズムではなくファシズムです。その対処法は政治が外敵から目をそらさない事です。共産主義/テロに対し効果的な対応を取れば、大衆は不安になりません。資本主義経済がつまずいた時、きちんと対応する事です。
・やはり政治が多様な意見を纏める事が重要です。意見を纏め、人間関係/社会環境を作っていくことが重要です。※政治の柔軟性かな。
・この質問は胡散臭い。まず民主化に絶対反対の中国の質問である点と、ナチスを持ち出している点です。
・ポピュリズムには善悪があります。政権を取るにはポピュリズムが必要です。実際「印象操作」「レッテル貼り」「ばらまき」などが行われています。結局負けた人がポピュリズムとしているのです。
・ポピュリズムには「表に出るポピュリズム」と「隠されたポピュリズム」があると考えます。安倍首相は理念の政治家で、高い株価で、支持率を維持したいと考えています。一方小池氏は、自民党都連の前幹事長や東京五輪の森喜朗を敵にする事で、支持を得たいと考えていました。二人はテーマも手法も違いますが、目的は同じと云えます。
○ポピュリズムと直接民主主義は関連性がある
-質問 近年国民投票などの直接民主制の動きが目立ちますが、これはポピュリズムと通じますか。
・先日『ファイナンシャル・タイムズ』に、「日本にはポピュリズムがない」とする記事がありました。その理由を投票率の低さと自殺率の高さ(?)としていました。日本には不満を救い取るための仕組みや選挙制度がなく、それがネットに表れていると考えられます。
・代議制民主主義は、本来は選出されたエリートによる政治です。一方直接民主主義は下からの決断を採り入れるので、ポピュリズムとは関連性があります。しかしここで考えないといけないのは、政治への関心です。経済・社会・文化に満足していれば、政治への関心は起きません。一方で「政治に希望が持てない」との逆の見方もあります。自分の生活を変えられるのは、堀江貴文/三木谷浩史など、ごく僅かです。そこに投票率の低さがあります。※政治に無関心なのは、満足しているためか、それとも希望が持てないからか。対極だ。
・暴動や紛争が起こるのは世俗的な問題がアイデンティティの問題に発展した場合です。例えば都市と地方の所得格差が紛争になるのは、それがアイデンティティに繋がった場合です。イスラム世界で云えば、スンニ派とシーア派のアイデンティティと結び付いた場合に、国際紛争になります。ブレグジットも移民のコントロール/失業率/所得格差などの世俗的な問題がアイデンティティ問題に発展し、EU離脱となったのです。従って世俗的な問題は世俗主義(?)で解決すべきで、アイデンティティ問題をいきなり解決しようとするのは困難です。
※津田氏は個別的・具体的な見方をし、三浦氏は全体的・概念的な見方をする。
・ヤン・ヴェルナー・ミュラーが『ポピュリズムとは何か』で、「ポピュリズムはレファレンダム(国民投票、住民投票)を要求する」と書いています。大阪で都構想の住民投票をやりましたが、これは多くの人が間接民主主義に不満を持っている事の表れと思います。
・日本だと突然現れ、国会議員に選ばれ、首相になる事があり得ます。ただし辞めさせるのも簡単です。一方米国は十分時間を掛けて大統領を選出し、辞めさせるのも簡単ではありません。日本は議院内閣制がふさわしいと思いますが、小選挙区制度のため、その度に首相を選出します。そのため政策論争が深まり難いのです。
○高過ぎる供託金とノーリターンルールの改善
-質問 日本の総選挙をポピュリズムの観点からどう評価しますか。
・「小選挙区制が良いのか」の議論に正解はないと思います。それとは別に、世界一高いとされる供託金を下げるべきです。また国会議員/地方議員になるには会社・大学を辞めなければいけません。またその後の職場復帰もできません(ノーリターンルール)。これらの慣行を止め、選挙参加へのハードルを下げるべきです。
・結果的に希望の党が失速したのでポピュリズム選挙になりませんでした。まだ小池旋風が吹いていた頃、ブログに「深奥を覗き込んだ感じがした」と書きました。知識人にはアラートが鳴る思いだったのではないでしょうか。非常にダークなポピュリズムを感じました。
・小池氏をポピュリストと感じました。記者会見すると「アウフヘーベン」(止揚)とか「パラダイムシフト」(発想の転換)とか、訳の分からない事で終わるのです。結果的に良かったと思います。
-質問 日本では、突然特定の候補・政党に投票が集中する事があります。この「風」はポピュリズムでしょうか。
・「風」は政策論争ではなくイメージなので、ポピュリズムと思います。そのため今回「風」となった立憲民主党が今後どうなるか注目です。
・「風」は「反自民の受け皿」として起きます。1972年共産党/1976年新自由クラブ/1989年社会党、その後の新党ブームもそうです。1回切りなので、ポピュリズムとは云えません。※両者の意見が少し異なる。
○日本は反利権のポピュリズム
-質問 日本でポピュリズムが起きないのは、何故か。
・まず移民問題が発生していない点にあります。また与野党間で財政政策に違いがない点もあります。
・都知事選の時、皆さんを3つに分ける質問をしました。まず「『輝け憲法』と思いますか」です。これに「はい」と答えた人は戦後日本的な護憲派リベラルで、立憲民主党に投票します。「いいえ」と答えた人に、さらに「あなたは利権に関わっていますか」と質問します。これに「はい」と答えるのは土木事業者とか官僚の方で、自民党に投票します。これに「いいえ」と答えた人が無党派の人で、小池氏はここを狙ったのです。しかし政策の中身がなかったため、失速します。
・日本でポピュリズムは起きないと断定はしませんが、移民問題などの重要なトリガーが存在しません。先ほどの利権に関わっていない人達が起こしたのが、維新ブーム/みんなの党ブーム/希望の党ブームだったのです。この反利権が、嫉妬・憎しみ・恐怖などで強化されるようになれば、気を付けなければいけません。
-質問 若者の判断基準は何か。
・この質問は「若者は右傾化しているか」に近いと感じます。若者の6割が自民党に投票したとされます。しかし全体で見ると投票しなかった人が多数派です。
・若者が一番気にしているのは、将来などへの不安です。アベノミクスにより雇用などで一定の成果が出ており、現状維持を望む傾向にあると思います。
○多様なメディアを通してチェックする習慣
-質問 今はメディアに左右される人が多いように感じますが。
・今のメディアに、そんな力はないと思います。ただワイドショーの影響力はあると感じます。色々なメディアを通し、自分でチェックする習慣を身に付けて下さい。
-質問 メディアの政治部と政権の癒着を感じますが。
・この質問自体に、政治記者・記事への不信・不満を感じます。現実は癒着(食い込む)をしないと、特ダネを取れないのです。食い込めば食い込むほど、厳しい記事になる。しかし厳しい記事を書くと、食い込めなくなるのです。しかし最近は受け手に情報が溢れているので、記者はそれ程気にしなく良くなったと感じます。
・また批判的な記事を書くには、相当高いレベルが必要になります。芹川氏が権力とメディアの距離感を4つに分類しています。1つは「監視型の犬」(番犬)です。これはメディア本来の役割です。2つ目は「誘導犬」です。これは政府の言う事を伝えるだけです。3つ目は「護衛犬」です。これは政府に都合の良い事だけを受け手に伝えます。4つ目は権力に従属する「愛玩犬」です。最近3つ目/4つ目が多い気がします。※それは最低だな。
・政治家が朝の討論番組で、「当たり前の事を言う」(ポジショントーク)のは普通です。ところがメディアがポジショントークするのは良くない。最も悪いのは従属型の犬が、番犬を批判する事です。その結果、誰が喜ぶのかです。
○ネットに対するリテラシーが必要
-質問 前進するには、何から手を付けるべきか。
・技術と情報発信に責任を取ってもらう事です。トランプが大統領になった事で、『ワシントン・ポスト』『ニューヨーク・タイムズ』が売れています。これは単に彼を批判しているからではなく、ネット空間を理解し、デジタル技術を上手く使っているからです。日本のメディアは、ネットやデジタル技術に否定的です。
・これはコンパッション(共苦)や愛を持った、責任感のある頭の良い政治家にやってもらわなければいけません。ではメディアはどうすれば良いか。今のメディアはジリ貧ですが、良い番組を作るには、社会部/政治部などの壁を越え、超党派で作るべきです。
・メディアは受益と負担の問題をもっと突っ込むべきです。これは真剣に考えないといけない問題で、メディア、特に新聞にその役割をして頂きたい。
・今メディアは競争・競合していますが、速報性のメディア/ビジュアルでリアリティのメディア/分析のメディアなどに分かれると思います。私は自由度が高いラジオに期待しています。
○極論を廃して、世論の中和性を考える
-質問 ポピュリズムの台頭に、メディアはどう向き合うべきでしょうか。
・先週、人種差別的な投稿を纏める「保守速報」を在日コリアンが訴えた裁判で判決が出ました。新たな差別が生じたとして、高額の損害賠償を命じました。
・不当な批判に対しては、法的措置で対応すべきです。野放しにしたヤフージャパンやツイッタージャパンの責任も問うべきです。健全な情報流通の環境を作るため、メディアがすべき事は、たくさん残っています。
・基本は時代に残るものを作る事にあります。動画は通り過ぎますが、番組・記事は残ります。
・今の報道は政局が多過ぎます。小池氏の失速は排除発言の前です。それをメディアは自信過剰から「排除発言で失速した」と喧伝する。そんなメディアに政局を誘導する能力はありません。
・いかに極論を排するかにあります。一般紙はスポーツ新聞化し、社会の分断を招いていると感じます(※過剰な記事かな)。「世論の中和性」が大切と思います。二・二六事件直後、石橋湛山は「事件の反省を含め、言論機関の役割は極論を排し、中和性を持たせる事にある」と書いています。
・オピニオンでも解説でも、もっと自由に意見を述べるべきと考えます。選挙中でも、色々な意見・報道があって、その中で有権者が判断すれば良いと考えます。
・既存メディアには大変な時代です。既存メディアもネットも自分達の役割を考え、後世に残る記事を書き、健全な情報を発信し、お互いに対等な関係を保って行く事が重要なのではないでしょうか。※司会の纏めが簡潔で素晴らしい。