『米中の危険なゲームが始まった』福島香織(2017年6月)を読書。
トランプ政権誕生直後に書かれた本で、当時の世界情勢を中国を中心に解説している。
必ずしも予想通りになっていないが、参考になる。
習近平の権力闘争は大変面白い。彼は孤立しているのか。
中国が戦争・紛争を起こす可能性はどうなんだろう。
中国は100年先を見据えた政策を取るが、習近平は功を焦っている気がする。
日本人に対しては日本的な普遍的価値に自信を持てとしている。
お勧め度:☆☆(中国に相当関心が強い方)
内容:☆☆☆(大変詳しい)
キーワード:<米中ロの思惑が交錯する世界秩序の分水嶺>文化大革命、普遍的価値/力こそ正義、関税、為替、自由貿易、一帯一路/AIIB、イスラエル、ピーター・ナヴァロ/ジェームズ・マティス/スティーブ・バノン/マット・ポッティンガー、スノーデン事件、オバマ、<権力闘争が習近平を戦争に駆り立てる>天安門事件、中産階級理論、反腐敗運動、政治的緊張、軍制改革、経済破綻、軍民融合、王岐山/栗戦書/曾慶紅、郭文貴事件、蕭建華事件、共青団派、之江新軍、核心、<半島・台湾・南シナ海での戦争の火種>北朝鮮、核開発、金正男、米中首脳会談、半島有事、1つの中国、蔡英文、ドゥテルテ、<多極時代の一極を獲れ>大陸国家と海洋国家、多極化、一帯一路、東シナ海/尖閣諸島、沖縄、超限戦、核保有、権力闘争、アジアの盟主、普遍的価値、和、パブリックディプロマシー
<はじめに>
・国際情勢は麻雀に例えられる。三大プレーヤーは中国/米国/ロシアである。そこに日本も加われるのか。いや積極的に加わって欲しい。このゲームは場の流れが速すぎて、読み切れない。2017年4月の米中首脳会談以降、トランプは北朝鮮問題で中国の協力を得るため、台湾/南シナ海の花牌を切った。そのトランプは「ロシアンゲート」(※ロシアゲート?)で揺れている。米国がTPP牌を切ると、中国は「一帯一路」の役満を狙っている。それに振り込むのは日本のAIIB牌かもしれない。
・この激変する世界に生き残ってもらうため、本書を執筆した。自分達はどの様な役を作れるのか、上がれないまでも、敵を勝たせない策を講じなければならない。
・日本人一人ひとりが考える事が必要である。何もかも米国に任せ、その言う通りにしてきた。ところが米国は「自国第一主義」を宣言した。日本は自国の安全・利益を自分達で守らなければいけなくなった。
・第1章は米中の思惑、第2章は「中国は戦争を欲している」との仮定、第3章は危機のありか、第4章は日本が成すべき外交について整理・分析する。
・著者は「中国屋」である。日本の最大の脅威は中国である。またその中国に最も影響を及ぼすのが米国である。米国は「自国第一主義」のプラグマティズム(※昔勉強したが忘れた。実用主義かな)の権化である。一方中国は共産党のメンツを優先する国である。
<第1章 米中ロの思惑が交錯する世界秩序の分水嶺>
○トランプは文革をやろうとしている
・トランプ政権が発足すると中国のインターネットに「トランプがやろうとしているのは、米国版文化大革命」との書込みが多く見られた。※他に沢山の書込みが記されているが省略。
・「文化大革命」(文革)は政治・社会動乱であったが、本質は毛沢東が仕掛けた権力闘争である。壁新聞「大字報」により、大衆の矛先を特定の目標に向かわせた。判断力のない若い紅衛兵は尖兵に使われた。目標は走資派の共産党幹部/知識層/富裕層/旧地主に向けられた。
・中国人から見るとトランプ現象は、トランプの権力闘争であり、ウォール街に支配された社会に対する庶民の動乱に見られた。
○米国の親中派がトランプに警戒
・2017年2月中国専門家による研究会で、「中国政策を変更すべきではない」「貿易/台湾/南シナ海の問題で対立が続けば、軍事衝突が起きる」「トランプは民衆を煽り、外交路線をひっくり返そうとしている。我々は分水嶺にある」「トランプは『一つの中国は、話し合い次第だ』と述べた」などの意見が出た。
・中国専門家は、「トランプのブレーンには首席戦略官/大統領上級顧問スティーブン・バノンなどの対中強硬派(ドラゴン・スレイヤー)もいる。彼は『権力によって平和はもたらされる』と考えている」と警告する。これらの中国専門家は、中国の内情に詳しい親中派(パンダハガー)である。
・米国人が自分より豊かな人を妬み、それを権力闘争に利用する者が現れた事は、中国人にとって米国は分かり易い国になったと云える。
○中国人がトランプを好きな理由
・トランプは旧秩序・旧価値観を否定している。彼は対中強硬姿勢を見せているが、中国人は概ね彼を好感している。その4つの理由を挙げる。
①TPP離脱を宣言した。これは中国主導の「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP)の存在意義を高める。
②オバマのリバランス政策や日米同盟/NATOを見直す可能性が高い。これは中国に優位である。また軍拡するなら、中国も相応に軍拡する。
③彼はイデオロギーに固執せず、取引を好むので、御しやすい。
④トランプ現象は民主主義の敗北であり、ポピュリズム/ナショナリズムがグローバリズムを凌駕した結果である。彼は普遍的価値/人権や自由/ポリティカルコレクトネスなどを追いやった。これは米国式グローバリズムから中国式グローバリズムへの転換となる。
・フランシス・フクヤマは言っている。
トランプはヒラリーを執拗に攻撃した。これは米国の分水嶺だけでなく、「世界秩序の分水嶺」である。我々は新たなポピュリズム/ナショナリズムの時代に入った。世界はナショナリズム競争のリスクに陥った。
○中国が一番嫌がるのは普遍的価値
・中国人研究者は言う。「米国が経済/軍事力で臨んでくるなら、分かり易い。しかし普遍的価値(人権、自由)を押し付けて来ると、交渉の余地はない。その点トランプは組易い」。共に「力こそ正義」の国である。トランプの拷問に対する発言に、中国人は留飲を下げるのである。
・一方亡命中国人で中国の民主化を目的とする「公民力量」の韓連潮は、トランプの対中強硬姿勢に期待している。
○トランプと中国の価値観は近い
・在米中国人は親共産派も反共産派もトランプを支持した。それは彼と価値観が近いからである。例えば同性愛/GLBT(LGBT?)への反感である。中国では同性愛者に対し迫害が行われていた。
・もう一つが有色人種への反感である。在米中国人はヒスパニック/アフリカ系に対し優越感や差別感を持っている。在米中国人は平均収入/教育水準が米国人より高い。そのためオバマの弱者救済政策には反対していた。
○中国人票がトランプを当選させた
・そのため在米中国人はトランプを支援し、中国人団体にはトランプへの寄付が3倍以上集まった。「華裔北米助選団」はトランプを大絶賛した。トランプの実利主義は中国人に歓迎されている。
・実は中国は選挙の早い時期にトランプの勝利を確信していた。それは中国に発注される選挙グッズが、圧倒的にトランプの物が多かったからである(※赤い帽子は中国製)。
・中国政府もこの事を知り、トランプを応援する側に立っていた。ただし中国人から選挙資金が流れたかは不明である(※ロシアなら一大事なのに、中国は問題ないのかな)。
○トランプはレーガンか鳩山由紀夫か
・トランプが当選し、その政権に対中強硬派が含まれていたため、中国人は「レーガンがソ連を追い詰めたようになるのでは」と不安であった。それは彼の対中経済強硬策や「一中政策」(ワンチャイナポリシー)への発言からである。
・1981年レーガンは大統領に就任し、減税/軍拡/規制緩和/通貨高によるインフレ収束などのレーガノミクスを実施し、経済を拡大させたが、莫大な双子の赤字を残した。「SDI構想」(戦略防衛構想、スターウォーズ計画)などからなる秘密戦略文書「国家安全保障防衛指針」を打ち立て、ソ連の政治的・経済的弱点を突いた。さらにアンゴラ/ニカラグア/アフガニスタン/ポーランドの反共活動を支援した。
・1985年ゴルバチョフが書記長に就き、ペレストロイカ/グラスノスチ/新思考外交などを打ち出すが、ソ連は崩壊し、冷戦に終止符が打たれた。中国はその再来を怖れたのである。
○関税45%なら
・トランプが公言している関税45%が実現すると、対米輸出が中心のアパレル業界/家具業界/皮革産業/電子産業は倒産が相次ぐだろう。韓国の民間シンクタンクのリポートでは、輸入関税が15%になると中国の対米輸出は11.2%減少し、関税30%だと25.1%減少、関税45%だと39.1%減少すると試算している。
・ソ連と中国の違いは、中国はグローバル経済の要となり、その恩恵を受けて大国となった。もし高関税を掛ければ、中国も米国から輸入する農産物に報復関税を掛けるだろうし、ボーイングからエアバスに乗り換えるだろう。
・2017年1月中国の元官僚が米国を訪れ、「中国製品の受益者は米国の中低層なので、トランプの高関税は恐れる必要はない。米国の農産品に報復関税を掛けると、農業は多大な影響を受ける」と述べている。
・トランプは「中国を為替操作国に認定する」と脅しているが、これは事実誤認である。中国は逆に為替操作で、人民元急落に歯止めを掛けようとしている。中国はキャピタルフライト(資産逃避)によるドル需要を満たすため外貨備蓄を使い、外貨準備高は3兆ドルを割り込んだ。このままキャピタルフライトが続けば、益々米国債を売らねばならなくなる。人民元切り下げ/デノミをする議論はあるが、そうなれば中国初の世界恐慌になるだろう。
○TPP消滅で存在感を取り戻す
・米国のTPP離脱は、中国にとって朗報である。12ヵ国のGDPは世界の40%であった。これが無関税の状態になると、中国への影響は絶大であった。これにより中国主導の「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP)が注目されるようになる。
・2017年1月習主席はダボス会議に出席し、その開幕式で「中国はグローバル経済のリーダーであり、庇護者である」と演説した。しかし中国は徹底した保護貿易で、WTOからダンピングで何度も提訴された。また輸入品に高い関税を掛け、国内産業を守り、そのため国内にゾンビ企業が溢れる事になった。中国はグローバル経済の受益者だが、推進者ではない。
・しかしこの会議にトランプ政権は参加せず、EUの元首も参加しなかったため、習主席にスポットライトが当てられた。
○人権・法治で中国を牽制する大国の不在
・BBCやダボス会議のスポークスマンは、習主席を称賛する報道を行った。ニューヨーク・タイムズは「米国のTPPの離脱により、中国の周辺国では著作権/労働者の権利/製品の安全性/環境問題などは軽視されるようになる」と皮肉った報道をした。
・イスラム7ヵ国からの入国を禁止する大統領令の差し止めを求めた判事を、大統領が攻撃した。中国の最高人民法院の判事がこれを「欧米の民主主義の危機」と批判し、中国の一党独裁を称賛した。AFPがこれを記事にしている。しかし中国の実情を知っていれば、「どの口がものを言う」である。
○「一帯一路」構想に火が着く
・トランプが保護主義に走る事により、中国版マーシャルプラン「一帯一路」が注目される事になった。この構想は海陸シルクロードの沿線国(東南アジア、中央アジア、※中東、欧州も含んでいると思う)の経済を一体化する中国版グローバリゼーションである。この構想のため、「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)/シルクロード基金が創設された。
・この構想の特徴は、人民元を決済通貨にする事にある。また表向きは自由貿易圏の創設が目的だが、資源輸送ルートの確保など地政学的目的も需要である。またインフラ資材の過剰生産を救済する目的もある。
・AIIBに関しては米国/日本が参加しなかったため、国際金融機関としてAAAの格付けを得られなかった。そのため資金を調達できず、機能していない。※そうなんだ。欧州は参加したのに。
・2017年5月北京で「一帯一路国際協力サミット」が開かれた。これは同年の習政権の最大国際政治イベントであった。
・2017年3月李克強首相が、トランプと喧嘩したオーストラリアのターンブル首相を訪れた。中国は国家基金NAIFを一帯一路とリンクさせるつもりだったが、米豪同盟の関係から、それは成らなかった。しかし民間レベルでは、総額50億豪ドルの港湾・鉄道敷設/鉄鉱石鉱山開発の大型開発プロジェクトの覚書を交わした。
○中国に接近するイスラエル
・イスラエルは中国に接近している。2017年3月ネタニヤフ首相は、環境/技術/衛生/経済/農業の5官僚と100近い企業代表を引き連れ、中国を訪れた。これにより入植地への労働者の派遣などが調印され、FTAの協議も加速した。さらに彼は「一帯一路構想のためイスラエルは、どんな協力もする」と述べる。
・中国は元々はパレスチナを応援していたが、軍事技術を求めイスラエルに接近し、1992年国交を樹立している。中国空軍の飛躍的進歩(ステルス技術など)はイスラエルによると推測される。1999年余りの軍事協力で、イスラエルは米国に多額の違約賠償金を支払っている(ファルコン事件)。※中国とイスラエルが緊密とは知らなかった。
・トランプの娘婿ジャレッド・クシュナーは大統領上級顧問であり、正統派ユダヤ教徒で、イスラエルの右派と関係が深い。彼はネタニヤフ首相にも影響を及ぼす人物である。トランプがエルサレムを首都と認めたのも、彼の影響だろう。一方で彼が所有するビルの再開発に中国の企業が4億ドルを投資するなど、チャイナコネクションも強い。彼の娘は中国語を習っている。※漢字も習うのかな。
・米国は一帯一路に正式に参与しなくても、右派ユダヤ人が参与する可能性がある。2016年11月李首相が訪米するが、その時トランプ政権(?)やニューヨークの金融街は一帯一路に関心を示していたらしい。※世界はユダヤ人が金融で動かしているとの話もある。
○アメリカ・ファーストを好機と見る中国のIT企業
・中国のIT企業家はトランプのアメリカ・ファーストを好機と見ている。2017年1月アリババのCEOジャック・マー(馬雲)はトランプと会見し、「米国に100万人の雇用を作る」と約束した。※孫正義みたいだな。
・これは「NASA計画」と呼ばれるもので、電子商業/電子金融などのプラットフォームを作る構想である。これには量子コンピューターを使ったAIビジネス/顔認証決済/人工知能都市などが含まれている。彼は「このプラットフォームで米国の商品を13憶人の市場へ届ける」とトランプに伝えた。
・「PayPal」の創業者で、シリコンバレーで唯一のトランプ支持者のピーター・ティールは、「米国は市場を欲し、中国はイノベーションを渇望している。両国は多元的に経営(※協力?)できる」と答えている。
・中国は労働集約型工場による製造業中心の産業構造から、宇宙技術/AI/ITなどの先端技術の輸出に転換したいと考えている。米中は経済関係において、必ずしも敵対しない。
○トランプ政権のドラゴン・スレイヤー
・米中は経済ではウィンウィンの関係になるかもしれないが、安全保障上は先鋭化するだろう。それはトランプ政権の顔ぶれである。ドラゴン・スレイヤーの筆頭は、国家通商会議委員長/大統領補佐官ピーター・ナヴァロだ。関税45%は彼の案らしい。しかしトランプが気に入ったのは、彼の著書『米中もし戦わば』などに示された中国軍事脅威論である。彼は台湾の地政学的重要性、1つの中国原則の放棄をトランプに提言した。
・彼は下院議員に民主党から立候補した事があり、レーガン政権の保護主義を批判している。中国批判は人権・環境無視の重商主義や保護主義の批判から始まっている。その後中国研究を続け、『中国による死』などを出版している。ただし政権がスタートすると、彼は表舞台に出てきていない。
・次に”狂犬”と云われる国防長官ジェームズ・マティスである。しかし彼は物腰の柔らかい、読書家の知識人である。2017年2月訪日すると「尖閣は日米安保の適用範囲」とし、日米同盟における日本の役割をねぎらった。一方朝鮮半島での軍事プレゼンスを重視しており、北朝鮮/中国に厳しい発言を繰り返している。
・首席戦略官/大統領上級顧問スティーブ・バノンも対中強硬派である。トランプを大統領にした人物で、影響力も強い。白人ナショナリズム/反ユダヤ/白人至上主義/排外主義/反フェミニズムでオルタナ右翼(オルト・ライト、極右)である。軍歴があり、ゴールドマンサックスに勤務し、やがてメディアに参入した。
・2015年頃彼は「中東で戦争が起こる」「南シナ海で戦争が起こる」と発言し、好戦的である。これに対し香港のメディアが、ある中国幹部の発言として、「南シナ海での米中戦争は現実的である」と書いている。しかし彼は国家安全保障会議(NSC)のメンバーだったが更迭され、同じく表舞台から消えた。※極端な政策は官僚と合わず、政権に残れないのでは。
・NSCのもう一人の対中強硬派がマット・ポッティンガーだ(※こんな人いた?)。1998~2005年彼はロイター通信/ウォールストリートジャーナルの北京特派員を勤めた。環境破壊問題/腐敗汚職問題/人権問題などを書き、中国から危険人物とされた。その後海兵隊に入隊し、2010年大将で退役している(※5年で大将!)。彼は中国の実情を知っており、筋金入りの反中派で、中国が最も警戒する人物である。
※これだけ対中強硬派がいるのに、中国人はトランプを応援したの?
・この様にトランプ政権には反中派が多い。他方、親ロシア派(ロシアコネクション)も多い。国務長官レックス・ティラーソンはエクソンモービルの前会長で、油田開発の交渉でロシア人脈を持つ。※米ロが協力?
・トランプの娘婿クシュナーも親ロシアで、政権移行期にロシア開発対外銀行の頭取と面会した事が問題に成り掛けている。彼以外に5人が、選挙期間中や政権移行期にロシア政府関係者やエージェントと接触している(※この辺りがロシアゲートかな)。大統領補佐官マイケル・フリンはロシア大使と面会し、辞任に追い込まれている。ロシアの大統領選への介入はどうなるか分からない(※弾劾裁判は無罪となった)。
・トランプ政権は当分は反中国・親ロシアで進むだろう。そのため中国は、トランプがソ連を倒したレーガンになるのではと狼狽している。※トランプとは組み易いと言っていたが。まあ良いか。
○トランプはロシアのハニートラップに脅されていた
・ロシアの大統領選介入疑惑を振り返る。これはロシア連邦保安局(FSB)が民主党全国委員会にサーバー攻撃を掛け、取得したスキャンダルメールをウィキリークスに暴露した事でヒラリー・クリントンに打撃を与えた。これはトランプとロシアの共謀とする疑惑である。
・フォーリン・ポリシーによれば、FSBの情報セキュリティ・センター長や、ウィルス対策やFSBのサイバーインテリジェンスを担当するカスペルスキー研究所の専門家など、複数人が「国家反逆罪」で解任・逮捕されている。
・もっと深刻なのが国営石油会社ロスネフチの幹部が変死体となって発見された。彼は、トランプの「ハニートラップ事件」を記述した英国の秘密情報局(MI6)の「トランプ文書」の情報源とされる。※彼らが事件の真相を知っているので処分された?トランプ文書は英国が作成・保持している?
・トランプがプーチンを批判しないのは「ハニートラップ」で脅されているからとされる。ロシアコネクション問題(※=ロシアゲート?)がどう展開するかは不明だが、「世界秩序の分水嶺」においてロシアも主役である事を忘れてはいけない。
○米中の影にスノーデンを利用するロシアあり
・大統領選の時期に、映画『スノーデン』が公開された。米国の「PRISM計画」を暴露したスノーデンを英雄として扱った映画である。
・スノーデン事件を説明する。2017年6月5日(2013年?)元CIA職員スノーデンが、香港で英ガーディアン/米ワシントン・ポストに、秘密監視・情報収集プログラム「PRISM」の存在を暴露した。丁度オバマが中国の人権問題/ハッカー攻撃を批判した米中首脳会談の直後で、彼の暴露でこれは説得力を失った。
・彼は「安全保障局(NSA)は中国などを6万回以上ハッキングした」と暴露し、「これはプライバシー/インターネットの自由の侵害だ」と批判した。彼はFBIに指名手配されるが、香港からロシアに亡命する。
・この暴露に中国も関わっている。香港では解放軍が彼の安全を保障し、米中首脳会談に合わせ暴露するように誘導したとされる。彼はロシアに亡命し、機密情報をロシアに暴露したのではとの疑惑もあるが、彼は中国/ロシアへの協力は否定している。しかし彼の行動は米国の暗部を世界に広め、総体的に中国/ロシアの「腹黒さ」を薄めた。
・しかしプーチンは国家を裏切った彼を嫌っており、彼を米国に引き渡す話もある。彼の運命は「世界秩序の分水嶺」の行方にリンクしている。
○トランプも習近平もオバマが嫌いでプーチンが好き
・米中ロの指導者には共通点が多い。独裁的であり、メディアに暴言を吐き、米国的な普遍的価値を軽視し、国家利益を優先する。さらにオバマが嫌いである。プーチンがオバマを嫌う理由は、ウクライナ問題での経済制裁である。
・習近平がオバマを嫌う理由は何だろうか。オバマの親族には中国人がおり、彼は親中派だった。「王立軍事件」でも王立軍の亡命を即決で拒否した。ところが胡錦涛から習近平に代わると反転する。それは最初の首脳会談で習近平が横柄であった事や、「スノーデン事件」をぶつけてきた事による(※横柄な態度をしたのは、先に陰で人権問題を批判されたからでは)。その後習近平は南シナ海の軍事拠点化を進め、彼はアジアリバランス政策に転換する。
・またある中国人学者は「中国人は強者に敬意を払う。習近平は強者の態度に出たが、オバマは弱腰だった」と言った(※民主党は議会で劣勢だった)。また別の中国人学者は「中国人には中華思想・華夷思想があり、黒人を嫌っている」と言った。中国人の人種差別的感覚は、著者も感じるところがある。
・トランプも習近平もプーチンが好きである。習近平はプーチンを理想としている。彼は感情面からオバマを怒らせ、プーチンに接近したと思われる。
・トランプがプーチンに秋波を送っている事に関しては、様々な説がある。「プーチンにスキャンダルを握られている」「プーチンの間接的支援で大統領に当選した」「米ロ接近により、中国を孤立させる」などである。
・この3人に共通しているのが、「オバマ嫌い」である。そのオバマは3人と異なり、普遍的価値を掲げ、政治的正しさ(ポリティカルコレクトネス)を重視した。これまではオバマ的なリベラルが世界秩序の建前だった。ところがトランプがその旧秩序は破壊し、大統領に就いた。そしてその旧秩序の破壊を望む習近平/プーチンの3人が揃った。
<第2章 権力闘争が習近平を戦争に駆り立てる-赤い帝国主義>
○中国が豊かになれば民主化が進む「中産階級理論」の破綻
・2017年3月、中国の民主化を推進する米国NGO「公民力量」の楊建利が東京を訪れていた。彼は共和党/民主党、中国共産党にも知人がいる。1989年民主化運動に参加し、米国に移住する。2002年中国に入国し逮捕されるが、2007年釈放され米国に帰国する。
・まず1989年民主化の失敗を振り返る(天安門事件)。この結果、共産党は人民が民主化を望んでいる事を知り、また中国は国際社会で孤立した。これに救いの手を差し伸べたのがブッシュ政権だった。外交上は中国を非難するが、米中関係は維持すると伝え、鄧小平を安堵させた。これに日本も同調し、対中経済制裁を解除する。
・やがて欧米諸国も立場を変えるが、その根拠が中国が豊かになれば、民主・自由を求めるだろうとする「中産階級理論」だった。
○腐敗と有限会社共産党が統治の手段
・鄧小平の南巡講話以降、共産党は「人々の共産党への忠誠は経済である。そのため党員を腐敗させ、それで党に忠誠させる。さらに党に資本家を招き入れ、有限会社共産党にする」との結論を得る(※一時党員が急増したが、それは資本家だったらしい)。一方で人権を抑制し、人民を安価で働かせ、外国資本により、奇跡的な経済成長を達成する。
・これにより共産党は、政治エリート/経済エリート/知的エリート/文化エリートの集団になった。中産階級は金儲けのために共産党に忠誠を誓う体制になり、「中産階級理論」は破綻した。
・しかしその結果、中国は有限会社共産党に属するエリートと、それ以外の庶民に分断された。また国際社会は中国経済によるコントロール「中国ウイルス」に感染してしまい、中国を批判できなくなった。
・さらに重要な安全保障の問題が起こった。共産党は、経済力/ナショナリズム/軍事力によって正当化される。経済成長する事で、これらが強化された。
○反腐敗はエリート(中産階級)潰し
・この状況で習近平政権が登場した(※2013年)。彼は反腐敗運動を起こし、一方で民主化・法治化を抑え、独裁の維持を明確にした。
・反腐敗運動には3つの理由がある。①政敵打倒/独裁の強化、②国民の支持、③エリート(中産階級)の弾圧である。この結果、中国は2つの分断が、3つの分断に変わった。
・共産党は経済力/ナショナリズム/軍事力により正当化されていたが、経済発展が揺らぐ事で、外部に敵を作る軍事力が重視されるようになる。※経済発展の鈍化は最近の事では。
・共産党統治の不安定化は、民主化のチャンスである。民主化には4つの条件が必要である。①共産党への強い不満、②持続可能な民主化運動、③共産党指導部の分裂、④国際社会の支持・承認。
・①は既に存在する。②は反腐敗運動で追われたエリートが庶民と結び付くと、新たな勢力が形成されるかもしれない。③も現状は見られないが、何時起こっても不思議ではない。現に薄熙来のクーデターが未遂に終わっている。
・問題は④である。楊建利はこう分析している。「習近平は2期10年の統治を3期に変えようとしている。そのためには正当性の理由がいる。1つは大統領制にする似非民主の導入である。もう1つが戦争により政治的危機を演出する方法である」。
・習近平は毛沢東のように庶民に支持されていない。そのため中産階級と庶民が結び付く事を怖れている。長期独裁政権は、これまでの期限付き寡頭独裁体制を打ち壊す事になる。習近平がこの鄧小平システムを破壊するためには、大統領制か戦争を起こすしかないだろう。しかし庶民は習近平をそれ程信じていないため、それらは無理なため、習近平は「政治的緊張」を起こすかもしれない。※政治的緊張とは、具体的には外交面での強硬かな。
○軍制改革の狙いは、習近平の私軍化
・2013年三中全会で軍制改革が盛り込まれた。これまでの陸軍中心の「軍区制」から、空海軍中心の「戦略区制」に改編し、軍令と軍政を分離させるとした。
・習近平は2つの100年を掲げている。①共産党成立100年(2021年)までに、ゆとりある(小康)社会の実現(2010年比所得倍増)。②中国設立100年(2049年)までに、社会主義現代国家の実現である(※中華思想の覇権国かな)。
・軍制改革は具体的には、①7大軍区制から、5大戦略区制への移行。②軍令と軍政の分離と、軍の司法機構の一新。③30万兵力を削減し、200万兵力とする。④「有償サービス」の廃止である。
・軍区制はソ連の制度に倣ったもので、敵が国境を越えて侵略する事を想定している。そのため軍区の司令は、強い指揮権を持つ。そのため利権の温床にもなった。一方戦区制(※戦略区制?)は米軍がモデルで、戦略・作戦ごとに統合軍が設置される。指揮権もそこが持つ。
・軍区制は以前から時代遅れとされ、胡錦涛は解放軍を国軍化しようとしたが、軍の抵抗で頓挫する。一方習近平は共産党が軍を失うと、権威も失うとして、党の軍として改革を試みている。
・利権の温床となっていた4大総部(総参謀部、総政治部、総装備部、総後勤部)を解体し、中央軍事委員会の傘下に同等な15部局を置いた。また統合作戦指揮系統も中央軍事委員会の直轄とした(※中央集権化だな)。これまでは軍政が軍政権・軍令権を持っていたが、習近平が軍令権を持った事になる。
・軍の司法改革としては、軍事政法委員会を作り、そのトップを中央軍事委員と兼任させた。これにより厳しい裁きも可能になった。
・30万人の兵力を削減するが、これは軍縮ではない。習近平の政敵・徐才厚/郭伯雄の残党の粛清であり、17万人が江沢民系・徐才厚系・郭伯雄系の将校である。2016年大規模な退役軍人のデモが起きている。
・有償サービスの廃止で、軍の利権は奪われてしまった。これは軍病院/軍事学院/倉庫の開放/歌舞団/文芸工作団などであり、軍用地のマンションへの譲渡もあった。
○異例のお友達人事で大軋轢
・習近平は、徐才厚系・郭伯雄系の長老を排除し、自分のお気に入り将校を昇進させた。多くが南京軍区の第31集団軍(アモイ軍)の出身だった。ところがアモイ軍はB級集団軍だったため、軋轢を招いている。
・習近平が軍を視察している映像をテレビで流すのは、軍権掌握に自信がないためである。共産党の正当性には、軍権掌握が絶対条件である。そのために習近平は戦争・紛争を起こすかもしれない。
○経済破綻に怯える習近平
・中国経済の破綻が予測される中で、習近平は戦争をする余裕はあるのだろうか。そもそもソ連が崩壊したのは、レーガン政権が軍拡競争に巻き込み、経済を破綻させた事にある。中国経済の失速の根本原因は、独裁政治と自由市場経済の矛盾にある。
・共産党が経済をコントロールしているため、フェアな市場ではなく、能力のない企業は存続し、優良企業の成長は妨げられる。原材料より安い建築資材を生産するゾンビ企業が、幾らでも存在する。この解消のためには、経済への介入を止め、フェアな市場とし、外国資本も取り入れるしかない。
・リコノミクス(李克強の経済学、※経済政策?)は、政府の介入を減らす/大型財政出動を控える/投資・貿易依存から消費拡大への転換などを挙げていたが、権力闘争/既得権益などにより進んでいない。
・また習近平は経済のコントロールを強化している。2015年株価暴落時に、空売りした投資家を逮捕している。これは自由市場ではあり得ない。また反腐敗による中産階級潰しも、経済成長の阻害となる。この様な中国経済への暗さから、キャピタルフライト現象が起きている。
・2017年党大会前に前年を上回る経済成長率6.9%が出たが、これは大型インフラ投資による。これは権力闘争に過ぎず、遅かれ早かれ中国経済は破綻するだろう。そうなれば戦争どころではなく、習近平はA級戦犯となり、3期目続投どころか、失脚する恐れもある。
○中国が唱える軍民融合
・2017年中央軍民融合委員会が設置され、習近平が主任になる。彼は前年頃から「軍民融合」の声を挙げていた。フェニックステレビが、これを説明しているので引用する。※相当あるので省略。
○軍改革/国有企業改革で対立する李克強と習近平
・軍民融合発展委員会を新設した目的は、軍事建設と経済建設の一体化である。これは軍拡競争により崩壊したソ連と、同じ轍を踏まないためでもある。
・興味深いのは、軍民融合を国有企業改革の処方箋にしている点である。実は、李克強と習近平には路線対立がある。李克強は国有企業をスリム化・民営化する路線である。一方習近平は、大手国有企業と中小国有企業を合併させ、その超大手国有企業を党中央がコントロールする路線である。※大変な相違だな。
・李克強は民営企業の技術・サービス・資産の軍事利用を強調している。例えば、ある物流企業の貨物集散センター/空港などを軍事利用する案がある。これは民営企業の国防動員である。
○軍事経済体制のスタート
・2010年「国家国防動員法」が成立し、国防動員は人民・社会の義務になった。これと同時に軍民融合の言葉も生まれている。軍民融合の目的は、民営企業の技術・サービス・資産を軍事建設に充てる事にある。軍民融合発展委員会の設立により、軍民融合株はストップ高になった。
・日本には軍需企業があり、米国には巨大軍産コングロマリットがある。中国は適度に戦争を起こす事で、経済を復活させようとしている。ただし中国は党がその軍産企業体をコントロールするため、事実上、軍事経済体制がスタートしたと云える。習近平が軍事主導型経済を方針とした事で、新たなバブルが生まれたり、人民が戦争を期待するようになる。※ケインズ主義でも軍事には向けて欲しくない。
○暴力文化に煽られる中国人
・中国人学者が、「中国が戦争に向かい易い要因」を述べていた。まず「民族主義が芽生え、その青春期にある」点である。中国人は元々は愛国心が薄いが、江沢民が愛国教育を導入した事で、ナショナリズムが起こった。これがまだ青春期のため、非常に挑発的で攻撃的である。
・しかもこの民族主義は中華意識/帝国主義と結び付いている。民族国家としての自信がないと、これが領土拡張や覇権主義に向かう。今の中国にはその傾向が見られ、習近平が「戦争する」と言えば、大衆は「やってしまえ!」と熱狂するだろう。しかし真の民族国家ではなく、政権により操られたものである。※中国人は個人主義と思う。
・2つ目の要因は、中国の「暴力文化」にある。中国は力の信奉者で、問題が起これば、権力のある者は権力で、金のある者は金で、腕力のある者は腕力で解決する。これは個人レベルでも政権レベルでも共通している。そのため外交問題でも内政問題でも、暴力で解決する傾向が強い。
・ある論文に中国の人口推移が紹介されているが、度々短期間で激減している。これは中国人のDNAに刻まれた暴力文化による。
・共産党によりこの暴力文化が強化されている。体罰/敗者への嘲笑/家父長制/子供への暴力/DVなどが普遍的に存在する。※米国と似ているかな。
・3つ目は要因は民主化である。労働者の権利意識が向上し、労働争議/ストライキが急増している。ネット文化の発達で世論も形成され始めている。※これが戦争に向かい易い要因?
○戦争勃発を危惧する党中央知識人
・民主化の萌芽期は戦争が起き易い。この時期は権威的な政治体制が弱体化している時である。またこの時期は権力闘争が展開されている事が多い。そのため大衆が動員される危険性が高い。今の中国は、共産党による世論誘導や反腐敗キャンペーンが行われ、正しくこの状態にある。
・また急激に近代化・現代化が進む国家も戦争を起こしやすい。近代化・現代化により資源・原材料の不足に直面すると、戦争によって領土を拡大し、資源を確保しようとする。近代化・現代化がさらに進むと、物質主義からポスト物質主義に変わる。そうなると命を大切にするようになる。
・これらから中国は非常に戦争を起こしやすい状況にある。これに中国知識人も警戒している。※本当にそうなのかな。
○独りぼっちの習近平
・ここで習近平の権力闘争の状況を見る。「彼は共産党中興の祖となる」とする人もいれば、「彼は失脚する可能性もある」とする人もいる。著者は後者であるが、それは彼が党内で孤立しているからだ。
・反腐敗キャンペーンの王岐山との関係も微妙である。その切っ掛けは任志強バッシング(十日文革)である。太子党で不動産王の任志強は、王岐山と親友であった。彼は放言癖があり、習近平の個人崇拝キャンペーンを批判した。彼は党からバッシングされ、さらに王岐山もバッシングされるようになった。これに王岐山はメディアを沈黙させ、彼を擁護した(十日文革)。これ以来、習近平と王岐山の関係は冷え込んでいる。
・政治局常務委員には68歳定年の不文律がある。反腐敗キャンペーンで特別な成果を残した王岐山が、2017年秋の党大会で残留するか注目である。
・そしてもう一人、習近平から離れようとしているのが栗戦書である。彼は「習近平の大番頭」と呼ばれていた。2016年全人代で彼は「習核心キャンペーン」を提言するつもりだったが、十日文革を見て、「習近平に求心力はない」と感じ、取りやめる。2016年11月彼は人民日報に論文「党中央の権威を断固維持しよう」を発表し、習近平を礼賛するが、逆に習近平の孤立を匂わせる内容だった。
・習近平は太子党のサラブレッドだが、同じ太子党の胡徳平/王雁南とも疎遠になっている。
○スキャンダルの相次ぐ流出は曾慶紅の暗躍
・習近平が支持を失った最大の理由は、太子党の曾慶紅との権力闘争によると考えられる。彼は江沢民政権を支えた政治家である。彼の母・鄧六金は革命の烈士で、幼稚園を作り、同志の子供を育て、太子党のメンバーから信頼・尊敬を得ている。そのため彼の人脈は強固なのだ。習近平はその曾慶紅を、反腐敗キャンペーンで追い落とそうとした。
・2015年1月国家安全部の副部長・馬建が身柄を拘束される。彼は諜報機関の幹部として、指導者の会話を盗聴するなどしていた。彼は曾慶紅のスパイで、権力闘争のために情報を収集していた。習近平は曾慶紅の情報収集能力に驚愕し、馬建を逮捕する。しかし習近平のスキャンダルは米国に逃避した政商・郭文貴に渡っていた。
・国家安全部は自由に使える「特費」があり、腐敗の温床になり、政商などと結び付き易い。このため馬建と郭文貴は結び付いたと思われる。
・馬建が失脚した後、王岐山寄りの財新グループが郭文貴への批判を展開する。2015年3月郭文貴は、財新グループの背景に王岐山がいる事をほのめかす。さらに自分が米国政府に庇護されている事もほのめかす。
・胡錦涛閥の令完成も馬建から機密情報を受け取っていたとされる。本来胡錦涛閥と太子党(曾慶紅)は対立関係にあるはずだが、それなりの関係があったようである。いずれにしても郭文貴/令完成のスキャンダル情報を持っての米国逃亡の背後に、曾慶紅がいる。
○2017年春に再燃した郭文貴事件
・習近平は郭文貴/令完成の引き渡しを要求するが、オバマ大統領は断った。2016年12月国際刑事警察機構(ICPO)に孟宏偉が選ばれ、人権問題に無関心なトランプ政権が誕生した事で、郭文貴スキャンダルが再燃してきた。
・2017年4月習近平が訪米し、翌日郭文貴を国際指名手配にする。すると郭文貴は米国政府系ラジオ「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)の3時間のインタビューに出演する。ところが2時間目に入ったところで、中国の圧力で中断される。
・しかし彼はこのインタビューで、「中国公安部副部長・傅政華から、王岐山などの家族を調査するように依頼があった」と話した。また「これは習近平からの命令で、習近平は王岐山を信用していない」とも語った。またこの番組中、司会者は「VOA北京市社長が中国公安部に呼び出され、圧力を受けている」と話した。
・郭文貴はこのインタビューだけでなく、在米華字ネットニュースの明鏡やニューヨークタイムズのインタビューで、汚職などを暴露している。彼は複数国のパスポートを持ち、米国に庇護されていると述べている。
・2017年に入り、彼は習近平政権を揺るがすスキャンダルを、立て続けに暴露している。これを習近平政権が妨害しようとしている事も明確である。この郭文貴vs.習近平政権の戦いは、中国国内だけでなく国際問題へも発展した。
○香港で超大富豪が拉致される
・党大会前の権力闘争でもう1つ注目するのが、蕭建華事件である。2017年1月香港のフォーシーズンズホテルから大富豪・蕭建華が拉致される。公式発表はないが、北京に拉致されていると思われる。2015年秋これに似た銅鑼湾事件も起きている。習近平のスキャンダル本を出版しようとした書店関係者が次々北京に拉致された。これは「一国二制度」を揺るがす事件であった。
・しかし蕭建華事件に震え上がったのは香港市民ではなく、中国の企業家・官僚だった。彼のバックには曾慶紅がおり、彼は天文学的な資産を持つ超大富豪である。またフォーシーズンズホテルは、「反腐敗キャンペーンのターゲットにされるかもしれない」と恐れる太子党/官僚の子弟/大企業の幹部が身を寄せる場所だった。
・彼は1999年「明天ホールディングス」を創設し、金融・証券・保険などを買収し、「明天金融帝国」と呼ばれている。彼は曾慶紅/江沢民などの不正蓄財に手を貸したとされる。他に魯能事件など様々な事件に関与したとされ、出国していた。
○党大会に向けて激化する権力闘争
・蕭建華が拉致された理由をニューヨークタイムズは、習近平の姉夫婦の投資会社の株を240万ドルで購入した件としている。彼は他にも、胡錦涛政権の序列4位・賈慶林の親族、元人民銀行行長・戴相龍の親族に利益誘導したとされる。彼は「紅色貴族」(太子党、官二代、紅二代)の不正蓄財を手助けしている。※習近平がトップにいる間は拉致され続けるだろうな。そう言えばパナマ文書に習近平の義兄(姉の夫?)の名前が載っていた。
・2つ目の理由は、2015年上海株の大暴落「株災」に、彼が関与したとの見方である。この件で彼は逃げ切れないのでは。
・もう1つある。今の中国には人民元暴落の噂が絶えない。キャピタルフライトに歯止めが掛らず、外貨準備の減少が続いている。そのため外為管理局長は、外国で上場した企業が集めた外貨を人民元にして、国内に還流させる方針を打ち出している。彼を拉致したのは、紅色貴族/国内企業家のキャピタルフライトを牽制する目的もあった考えられる。
・だが国内外の政治ウォッチャーが一番注目しているのは、曾慶紅の去就である。彼はダークホースであった習近平を、総書記/国家主席の座に付けた最大の功労者である。しかし習近平は彼の政治手腕を怖れている。
○共青団派若手実力派vs.習近平
・以上から、秋の党大会までの権力闘争の第1段は、曾慶紅が失脚するか、それに続いて王岐山が続投するかにある。また共青団派(中国共産主義青年団、団派)の去就も注目される。李源潮(国家副主席)/汪洋(副首相)/胡春華(広東省党委書記)/孫政才(重慶市党委書記)は、秋の党大会で政治局常務委員になる可能性がある(※チャイナセブンだな)。胡春華/孫政才は1963年生まれで、ポスト習近平でもある。逆に習近平からは潰したい人物である。※現在、李源潮/汪洋は政治局常務委員、胡春華は国務院副総理(副首相)、孫政才は失脚。
・習近平は広東省党委書記・胡春華の足元でいかに腐敗が進んでいるかを印象付けてきた。それは胡春華を追い詰めるための権力闘争とされている。しかし団派は彼を守る事で一致している。また彼も広東省で腐敗摘発が一番多い事を、反腐敗キャンペーンに取り組んだ証しとしてアピールした。
・焦った習近平が仕掛けたのが、2016年「鳥坎村村長汚職摘発」事件である。これは、2012年中国で初めて民主的選挙で選ばれた村長が、濡れ衣を着せられた事件である。この鳥坎村の民主・自治は、胡春華の団派の先輩である汪洋の実績である。習近平は胡春華に「この村を武力弾圧すべきか否か」を迫った。胡春華は武力弾圧に同意したのである。※選挙が行われた話があったな。この村だったのか。何でこの村だけなのか。それにしても習近平はえげつないな。
・2017年春になり、汪洋/胡春華は習近平派に寝返ったとされる。これは秋の党大会で、より多くの団派を政治局常務委員にするためで、偽の忠誠心と思われる。
○習近平派「之江新軍」の不安要素
・習近平と王岐山との関係も微妙で、習近平は孤立している。そんな中でも習近平派「之江新軍」が形成されている。この名称は彼が浙江省党委書記だった時、彼が『浙江日報』に連載したコラム「之江新語」に由来する。2007年このコラムは本になり、彼の部下はこの政策を忠実に実行した。
・彼が登場する前、党中央は江沢民派(上海閥)/団派/太子党が権力闘争していた。軍権は上海閥/太子党が握り、地方官僚は団派が優勢で、国有企業・金融は太子党がハンドリングしていた(※石油などの経済は上海閥では?)。彼が総書記となれたのは、この3勢力の妥協点だったからだ。
・そこで彼は自分の派閥を作ろうとした。しかし優秀な官僚は団派に結び付いている。そのため下っ端の能力の低い人材を、かき集めるしかなかった。その習近平派「之江新軍」は3つに分類される。
・まずは彼の幼馴染と地方官僚時代の部下である。幼馴染には栗戦書/劉鶴/陳希/宋濤/何立峰がいる。次に浙江省党委書記/上海市党委書記時代の部下で、浙江省時代の黄興国/黄坤明/蔡奇/バヤンチョル/陳敏爾/李強/応勇/劉奇/楼陽生、上海時代の丁薛祥/鐘紹軍/杜家毫/陳豪/徐麟がいる。福建時代は彼に人事権なかったため、これに含まれない。3つ目が彼の下放先・陝西の官僚で、栗戦書/趙楽際/李希/王東峰/高選民/景俊海がいる。※彼が陝西省にいたのは、16~23歳頃。
・これらに優秀な人物はおらず、習近平の後継者になれる人物はいない。彼は毛沢東が引き起こした密告・裏切りの文革時代に思春期・青年期を送り、疑心暗鬼が強いため、「之江新軍」には彼に絶対服従する者しかいない。そのため利権と汚職で結び付いた上海閥、革命で血を流した太子党、頭脳で結ばれたエリート集団・団派に対抗できる勢力ではない。結局彼は孤立を免れられない。
○習核心キャンペーンは張子の虎
・江沢民は汚れ仕事を厭わない曾慶紅や、経済政策に命懸けで取り組む朱鎔基に仕事を任せる度量があり、これが上海閥の結束を強めた。一方団派のトップ胡錦涛は経済を温家宝に任せ、能力を重視した。後継者とした李克強は正しく秀才である。その後を期待される胡春華も秀才である。団派にはプライドがあり、結束力も強い(※習近平の後は胡春華かな)。当然革命戦争を戦った太子党も結束が固い。※2世となると、結束は緩むのでは。
・習近平は同じく孤立した毛沢東の戦略を真似る。綱紀粛清キャンペーン「四風運動」/反腐敗キャンペーン/大衆路線運動(※以下省略)などは毛沢東の模倣である。
・極めつけが「習核心キャンペーン」である。これは彼を唯一無二の存在とする思想である。これまでに核心とされたのは、毛沢東/鄧小平/江沢民しかいない。しかも江沢民は、鄧小平により核心とされた、おまけである。
・今の共産党秩序は鄧小平が作ったものだ。党内の権力闘争が激しくなると、文化大革命/天安門事件などの動乱を起こす可能性がある。そのため複数の政治局常務委員が責任を負い、決定は合議・多数決で行い、68歳定年/任期最長10年とした。ところが核心となると、鶴の一声で合議による決定を覆す事もできる。
・習近平は2015年頃から核心と呼ばれるように根回していたが、2016年の全人代では叶わなかった。ところが2017年全人代の開幕式で、李克強は「習近平同志を核心とする」と演説する。彼は政敵である李克強に、何度も「核心である」と言わせたのだ。
・ところがある評論家は「核心を喧伝するのは、党内に信望を寄せれる人物がいないためである。泥の足を持つ巨人で、非常に脆弱なのだ」とした。
・2017年の政治活動報告には、新しい点がある。「民衆の不満」がリスクとして認識されている。中国は共産党が経済を支配し、人民を搾取し、世界第2位の経済大国になった。そのため世界でも稀な程、貧富の格差が生じた。それが情報化により人民に伝播し、共産党の正当性・権威が危うくなっている。習核心キャンペーンは、これを維持させるたである。
○追い詰められた赤い皇帝
・習近平は孤立し権威もないが、10近い肩書を持ち、長期独裁を望んでいる。彼は皇帝職と云える「党主席」の復活を望んでいるが、これには臣下からの要望(勧進)が必要である。これは夏の北戴河会議(党中央幹部/長老らによる非公式会議)を待たないと分からない。
・だが彼が党主席になっても、肩書が1つ増えるだけだろう。毛沢東も孤立したが、毛沢東は大衆から崇拝されていた。しかし彼にはそれもない。そのため秋の党大会で彼は総書記を続投し、政権2期目に入るが、党内の権力闘争は存続するだろう。経済は失速するが、軍民融合による軍拡は進められる。社会不満は増大し、共産党はそれをメディアコントロールと警察・武力警察で抑え込むだろう。中国が戦争・紛争を起こすシナリオを、真剣に検討する必要がある。
※共産党の状況や、習近平が孤立している事が良く分かった。しかしその後中国は戦争・紛争を起こしていない。それを起こせるほど大衆からの求心力があるとは思えない。ここには書かれていないが、大衆は民主化まで行かないまでも、自由・平等を求めているのでは。
<第3章 半島・台湾・南シナ海での戦争の火種>
○2017年4月、なぜ半島の緊張は高まったか
・2017年4月北朝鮮(※以下朝鮮)周辺は何時戦争が起こってもおかしくなかった。この危機はトランプ政権の登場による。また習近平政権も権力闘争から戦争・紛争を起こそうとしていた。この危機を高めたのが、2月の金正男暗殺事件だった。
・まず朝鮮の核開発を振り返る。この危機が表面化したのは、1993年朝鮮の核拡散防止条約(NPT)からの脱退表明である。この時カーター元大統領が訪朝し、米朝衝突の危機は解消される。しかし結果的には危機が大きくなる。
・2002年朝鮮が核開発を継続していた事が公になり、2003年朝鮮がNPT脱退を再度表明する。6ヵ国協議で核開発を放棄させようとしたが、合意に至らず、2009年4月朝鮮は6ヵ国協議から離脱し、時間的猶予を与えただけになった。翌月朝鮮は2回目の核実験を行う。その後金正日は非核化に同意するふりをし、食糧援助や経済支援を引き出してきた。
・2011年金正恩政権が発足すると、ミサイル発射実験を繰り返し、核開発を加速する。2013年2月大陸間弾道ミサイル(ICBM)の燃焼実験を行っている。これはアラスカまで到達するミサイルだった。さらに同月、3度目の核実験を行い、その後も核実験を繰り返す。そこに登場したのがトランプ政権である。
○江沢民時代からの核保有のバックアップ
・中朝関係は複雑である。朝鮮の核は北京の脅威でもあり、中国はこの解決を望んでいるとの見方が一般的である。しかし「中国が朝鮮の核開発を後押しした」とする情報をウィキリークスが漏らす。それは、在中米国大使館は中国の外交官から「米国が台湾での影響力を高めたので、朝鮮への影響力を高めるため、核を提供した」と伝えられ、それを本国に打電していた。
・それ以前に中国の核工業部関係者が「朝鮮の核技術エンジニアは中国で研修している」「核実験の原料/技術は中国がコントロールしている」などを話した。※これもウィキリークス?
・2013年2月米国国務省が「イラン・朝鮮・シリア核拡散防止法」に関する声明を発表し、制裁措置企業に中国企業(※企業名省略)が含まれていた。
・なぜ中国は朝鮮の核保有を後押しするのか。それは江沢民政権と金正日政権が利権で深く結び付いていたからだ。
○北朝鮮を巡る権力闘争
・江沢民派は朝鮮と深い関係にあるが、習近平は良い感情を持っていない。そのため2015年下半期の中朝関係はドタバタだった(※詳細省略)。12月のモランボン楽団のドタキャンは、江沢民派が朝鮮の核開発を彼に認めさせようとしたが、彼が激怒したためらしい。中国が厳しい経済制裁できないのは、党内での権力抗争のためである。
○朝鮮問題の核心は中国と喝破したトランプ ※看破?こんな言葉があるんだ
・米国は、朝鮮問題は台湾問題(一中政策)と連動している事を分かっていた。「トランプ政権は台湾との関係を強化し、中国の軍事プレゼンスを削いでいく」と考えられていた。
・しかし2017年2月になると、それが転換する。それは、マイケル・フリンによるロシアコネクション問題/中国との距離感の変化/外交上の優先順位の変化などが連鎖的に起こったためである。フリンは選挙期間中から、ロシアへの経済制裁の解除をロシア大使と協議していたとされる。またロシアはヒラリー陣営のスキャンダル情報をハッキングし、大統領選を干渉したとされる。
・そのためトランプ政権は「一中政策」を維持するとし、その代わり朝鮮への制裁強化を求めた。同時に高関税問題/為替操作国認定も言わなくなった。
・2017年2月、張成沢粛清事件(2013年12月)以降、脅威にならないと考えられていた金正男が、突然暗殺される。
○金正男暗殺で米中関係が急変更
・まず事件の概要を整理する。2017年2月金正恩の異母兄・金正男がクアラルンプールの空港で暗殺される。彼はマカオからマレーシア入りし、その日の飛行機で帰る予定だった。マレーシアは11人を指名手配し、4人を逮捕する。彼の遺体を遺族に引き渡すとしていたが、朝鮮は、朝鮮に残るマレーシア人を人質に取り、彼の遺体を回収する。
・この事件後、中国は中朝国境の兵員を増強している。『デイリーNK』(※韓国の北朝鮮民主化ネットワークが発行)は、「金正恩が、親中で人気のある金正男を殺害した」とした。また彼の息子ハンソンが優秀で、亡命政権が樹立されるとの噂もある。
・この事件後、中国は朝鮮からの石炭輸入を停止している。彼は金正日存命時から後継者から外されていたため、中国は彼を庇護していた。彼の最初の妻は北京に住み、2番目の妻はマカオに住んでいる。
・2013年の張成沢粛清事件は、金正恩が「張成沢と金正男が結託し、親中政権を発足させる」と疑ったからである。しかしこの事件で中朝関係は過去最悪な状態になった。この2つの事件は金正恩の中国に対する姿勢と云える。この金正男暗殺事件により、中国は対朝鮮政策を変更する。
○習近平と金正恩は仮面夫婦
・しかし中朝関係の先鋭化は見られない。中朝は共に朝鮮戦争を戦った「血潮で固めた友誼」がある。中国にとって朝鮮は重要な緩衝地帯である。また「中朝友好相互援助条約」で、第三国からの攻撃に両国は協力する事になっている。
・しかし金正恩にとって中国は、金正男を庇護した国であり、自分達を散々外交カードに使う潜在的な敵である。中国にとっても朝鮮は、弱小国なのに自分達に刃向かい、自分達に依存しながら、自分達を振り回す潜在的な敵である。要するに両国は、何時か殺してやると思いながら同じベッドに寝る仮面夫婦である。※お互いに潜在的な敵で、仮面夫婦。辛辣。
・中国では、これに権力闘争も絡む。金正男/張成沢は、江沢民派の利権に大きく関わっていた。張成沢らの親中派の粛清は、習近平の政敵である江沢民派/旧瀋陽軍区を潰す好機であり、習近平が新たな朝鮮利権を模索する好機でもある。
・韓国のTHAADミサイル配備で、中朝関係が修復される可能性もある。一方で習近平派で朝鮮に核関連の物資を輸出した女企業家・馬暁紅は逮捕された。
○中朝関係の安定化が目標
・これらの状況や新華社/中国社会科学院のリポートを読むと、以下が云える。
①中朝関係は最悪である。しかし金正男/張成沢の事件は、習近平の権力闘争に利用された感がある。ただし習近平の新しい朝鮮利権は構築されていない。
②トランプ政権の登場で米朝関係は悪化するだろう。中国はこれを利用し、潜在的仮想敵の朝鮮への経済制裁を強化するだろう。
③朝鮮の核保有は認めざるを得ない。最も警戒する事は、米国がそれを利用し、朝鮮半島をアジア太平洋の拠点にする事である。
④米国のアジア太平洋戦略を阻むには、韓国にTHAADミサイルを配備させてはいけない。韓国に親北政権ができたので、譲歩させる事は可能である。
⑤韓国に親北政権ができたが、米韓同盟は揺るがないだろう。そもそも米韓同盟が存在するのは、南北問題があるからで、中国は南北融和に積極的に手を課すべきだ、
・中国が恐れるのは日米韓同盟なので、中朝関係に楔を入れる事はない。中国にとって金正恩でない親中政権になるのが望ましい。さらに言えば、南北が統一され、親中的な政権ができるのが理想である。
○シリア爆撃に虚をつかれた習近平の失態 ※うつろ?
・中国にとっては半島問題がくすぶり、その解決を中国に委ねられるのが最良である。これをトランプ政権が軍事行動なので強行されるのは好ましくない。ところが幸いにも2017年4月の米中首脳会談でトランプは朝鮮への制裁強化を求めてきた。その代わり為替操作国の認定/中国製品に対する高関税を見送った。これは米中協力であり、一部論者の米ロ接近による対中強硬姿勢とはならなかった。習近平としても秋の党大会前に半島有事などを起こしたくない。
・この首脳会談中、米国はシリア爆撃を行った。これは米国にとって、①米国の内政、②朝鮮への警告、③対中政策で意味があった。①内政的な意味は、ロシアコネクション問題などの追及を対外にそらす効果である。またトランプは「世界の保安官は止める」と言っていたが、化学兵器使用に対する懲罰は民主党からも世界からも評価された。ただしアサド政権を支援しているプーチンとの距離は遠のいた。
・またシリア爆撃を主張したのは娘婿のクシュナーで、バノンはこれに反対した。その結果、バノンは国家安全保障会議常任委員から降ろされる。これらからトランプ政権は、伝統的な共和党路線に戻ると考えられる。
・②朝鮮への警告は、説明する必要はないだろう。米国が最も恐れているのは、核がイラン/シリアに流れ、それが対米テロに使われる事である。実際、シリアの化学兵器は朝鮮から流れたとされる。※朝鮮は、いざとなったら核を売るだろうな。
・③このシリア爆撃は思わぬ効果があった。攻撃直前、トランプは習近平に伝えるが、習近平は「子供に化学兵器を使うやつなら、仕方ない」と発言したのだ。中国は国連安保理決議でシリアの化学兵器使用に対する制裁に拒否権を発動しており、習近平はそれを変更してしまったのだ。
・彼の帰国後、習近平発言を打ち消すため、シリア爆撃を非難する論評を出し始める。しかしこれは習近平の外交音痴が表れた発言であった。
○金正恩亡命か、米国の先制攻撃か、重油停止か
・米中首脳会談により、中国は朝鮮への制裁を強める。4月11日韓国の朝鮮日報は、「4月末までに金正恩が中国亡命を受け入れなければ、米国が先制攻撃に出る」と報じた。中国はカンボジア国王シアヌークの亡命を受け入れた事もあり、金正男の庇護も行った。政権移譲後の主導権を中国が握れるなら、これはない話ではない。※こんな話もあったのか。
・他に「6回目の核実験を行ったら、中国は重油の供給を停止する」「米朝戦争が起きても、中国は朝鮮を援助しない」などの報道もあった。
・中国も朝鮮の核放棄を期待しているが、それは不可能と云える。また話し合いのできる指導者への交代としてハンソンが考えられるが、彼は親中と云うより、親米である。
・ロシアメディアは「米国による金正恩政権の転覆は受け入れられない。米国が朝鮮を攻撃すれば、中国は中朝友好相互援助条約で米国と戦う事になる」と報じている。
・習近平として秋の党大会まで半島有事を起こしたくない。ところが中国世論は戦争に肯定的な意見が多い。その積極参戦派には、①朝鮮に味方する、②米国に味方するの2通りある(※これは驚き。でも朝鮮で主導権を持つため、②もあり得る)。朝鮮応援派の意見は、「朝鮮は北の入口で、これを守るのが中国の中心利益」である。一方米中協力派の意見は、「米国に単独軍事行動を起こさせてはいけない。中国も金正恩排除に参加すべき」である。他に「米国の朝鮮攻撃を容認する代わり、中国の台湾攻撃を容認させる」もあった。※これは過激すぎる。
・中朝友好相互援助条約は2021年に期限が切れる。その時期は習近平の3期目継続が問われる時期である。そのため党/人民を納得させるような行動を取る可能性が高い。それは半島有事かもしれないし、台湾進攻かもしれない。
○中国で盛り上がる台湾武力統一論
・2017年上半期、半島情勢に目を奪われたが、その背後に台湾問題がある。中国で武力統一論が盛り上がっているが、それは前年、民進党・蔡英文政権が誕生し、またトランプ政権が対台湾政策を変えると考えられているからである。トランプ当選直後、蔡英文との電話会談で、彼女をプレジデントと呼び、今年行われたインタビューでも「1つの中国」政策(一中政策)に縛られないと答えている。
・習近平が台湾に執着する理由は多くある。彼は台湾の対岸の福建省の省長や、台湾有事に対応する旧南京軍区が置かれている浙江省書記に就いており、自分が最も台湾に詳しく、台湾統一に最もふさわしい指導者と考えている。また経済成長の失速や社会不安の増大で共産党の権威が失われる恐れがあり、それには台湾統一が必要と考えている。また毛沢東は日本/国民党を退け、中国を建国した。鄧小平は中国を世界第2位の経済大国にし、香港返還を実現した。これらに並ぶには、台湾統一しかないと考えている。
・そのためトランプ政権による「1つの中国」政策の放棄は習近平政権だけでなく、共産党体制の根幹を揺るがしかねない。そのため武力統一論が浮上したのである。
○複雑な「1つの中国」
・ここで「1つの中国」のおさらいをする。第2次世界大戦で日本が敗北し、台湾の施政権は国民党の蒋介石政権が持つようになる。しかし国民党政権は腐敗・汚職にまみれ、台湾人は怒り・不満を爆発させる(1947年、2.28事件)(※米国系政権は腐敗する事が多い)。1949年国民党は共産党に敗れ、台北に国民党臨時政府を設置する。大陸では中華人民共和国が建国され、両国が同じ領土を主張し、中国を名乗った。
・1971年ニクソン政権はキッシンジャーを中国に派遣し、共産党との関係改善を図る。翌年ニクソンが訪中し、「台湾は中国の一部」とする中国の主張を認める(上海コミュニケ)。1978年「国交樹立に関する共同コミュニケ」により、翌年米中国交が正式に回復する。一方米華国交は断絶し、台湾に駐留していた米軍は撤退する(※撤退したんだ)。1982年「武器売却に関するコミュニケ」で、台湾に売却する武器に質的量的な制限を設けた。この3つのコミュニケが、中華人民共和国を中国とする「1つの中国」の基礎になっている。
・ただし共産党の「1つの中国」は「台湾は中国の一部」とする原則だが、米国の「1つの中国」は、台湾関係法と3つの共同コミュニケからなる対台湾・対中国政策である。従って「1つの中国」の内容は米中で異なる。
・1992年中国と中華民国が非公式な「九二共識」に合意する。これも双方が「一中原則」を堅持するが、その解釈は各自が行う「一中各表」とし、双方の相違を認めている。
○トランプの対中最強カードは台湾
・2016年12月トランプは蔡英文をプレジデントと呼んだ。「1つの中国」を揺るがしかねない発言である。しかも習近平が「中国の古い友人」(キッシンジャー)と会談しているタイミングだった。さらに数日後、トランプは「我々は『1つの中国』政策に縛られる必要はない」と発言する。米中貿易/朝鮮の核/南シナ海で中国が変わらない限り、「1つの中国」政策の放棄もあり得るとした。
・中国はこれに狼狽し、外交部報道官は「深刻な懸念」と表明する。『環球時報』は台湾武力統一が第一選択肢になったと報道した。また退役軍人も台湾武力統一があり得ると論じた。元国務院官僚は、上策は台湾政権の内部瓦解を画策する「北平モデル」とし、中策は短期決戦による武力統一とした。また人気コラムリストは、「北平モデル」は甘い、クリミア侵攻と同様に武力統一しかないとした。
・習近平にとって台湾での譲歩はできない。台湾独立となると、政変/クーデターの可能性が高まる。そうなるとチベット自治区/新疆ウイグル自治区/香港の独立も起こり得る。
・この「1つの中国」放棄戦略は、共和党系シンクタンクやピーター・ナヴァロが主張してきた戦略だ。彼らは「1つの中国」政策は冷戦期の遺物で、放棄すべきとしている。
・また台湾は民進党が2度目の政権を取り、国民党政権ではない。蔡英文は「九二共識は台湾の民意に反しており、受け入れない可能性もある」と発言している。
・トランプが「1つの中国」を放棄し、中国共産党の崩壊を進めるシナリオは、中国にとって最悪である。キッシンジャーはトランプに、①中国の思想・文化・歴史に精通した人物を政権に入れる、②米国の利益に立ち、米中の協力点を見い出すの2点を勧めている。
○台湾が米中衝突の天王山
・ところが2017年2月トランプは習近平との電話会談で、このカードを引っ込める。これには中国側の「戦略的忍耐」が功を奏したと思われる。また米国側の国家安全保障補佐官マイケル・フリン/国務長官レックス・ティラーソンも「一中政策」の維持を促したらしい。この時取引されたのが、先の朝鮮への経済制裁だった。しかしこれは遅かれ早かれ台湾問題が顕在化する予感となった。
○習近平は台湾を取る
・米国は「一中政策」放棄を引っ込めたが、中国は「国家統一法」の制定を急いでいる。2005年「反国家分裂法」を定めていたが、それ以上に効力のある法律を制定しようとしている。
・反国家分裂法には非平和的手段(武力統一)が記されており、その条件は、①台湾独立が画策された場合、②台湾独立が発生した場合、③平和統一の可能性が喪失した場合となっている。反国家分裂法は、陳水扁政権が憲法改正をやろうとした事に対して作られた法律で、胡錦涛政権は平和統一を目指していた。彼の対台湾政策は、経済と人的交流を深め、中国依存を高め、平和的に統一する政策だった。
・しかし習近平政権が中台統一を喧伝した事で、台湾の学生は立法院を占拠し、中国依存抵抗運動を始める。これが台湾全土に広がり、蔡英文政権の誕生となる(※習近平は強硬策が目立つ。やはり核心になりたいんだろうな)。さらに米国がトランプ政権になり「一中政策」を振りかざすようになった。2017年秋の党大会を無事に乗り越えれば、習近平政権は武力統一に踏み切るかもしれない。
○米中に翻弄される蔡英文
・蔡英文はトランプの「一中政策」放棄発言に触れていない(塩対応)。若者もアンチ・トランプ派で、台湾の世論も同様である。しかし元米国大使ジョン・ボルトンの「米軍を台湾に駐留させ、東アジアでの軍事力を強化すべき」の発言に、台湾世論は肯定・歓迎していた。民進党系の『自由時報』/反共産党の『台湾蘋果日報』は、「トランプの対中カードを利用すべき」としている。
・しかし官僚出身の蔡英文は融和的で現状維持派のため、「これでは民進党政権にした意味がない」との声が聞かれる。そのためか、彼女の支持率は、じりじり下がり続けている。2021年台湾本土派で台湾独立を主張する頼清徳政権が発足した場合、習近平は武力統一に出るかもしれない。
○南シナ海情勢を攪乱したドゥテルテ
・2016年上半期までは、米中対立で最も警戒されたのは南シナ海だった。ところが6月ドゥテルテ政権の登場で、危機は遠のく。彼はポピュリスト政治家で、人権問題を軽視し、力を信奉している。大統領就任後、人道主義のオバマ政権とは悪化している。一方で祖母の出身国である中国に接近している。バリバリの左派(※驚き)であった彼は、4人の共産党系閣僚を迎えている。
・2016年7月ハーグ国際仲裁裁判所でスカボロー礁領有問題の判決が下る。これは中国完敗、フィリピン圧勝の判決であった。ところが彼はこの判決を聞き流し、軍事同盟を結ぶ米国とは距離を置き、むしろ資源開発や武器購入で中国に融和的になる。
・スカボロー礁の問題を振り返る。これは2012年フィリピン海軍が中国漁船を拿捕した事に始まる。フィリピンは国際仲裁裁判所に訴え、軍を引く。しかし中国は居残り、軍事施設を建設する。
・2016年7月の判決は、以下の内容である。
中国の九段線内の権利に根拠はなく、国連海洋法に違反する。
中国のリード堆での資源採取はフィリピンの主権の侵害であり、南沙諸島のサンゴ礁を破壊している。
中国は南シナ海でのウミガメ漁/サンゴ採取を停止する責任がある。
美済礁/仁愛礁/渚碧礁は満潮時に水面下に没し、領海とならない。
・この判決は習近平政権に痛手となったが、茶番として無視した。
○米国と決別し、親中路線に走る
・ところがドゥテルテは大統領就任前から、戦争はしない/2国間協議で解決と主張しており、判決を棚上げし、南シナ海の共同開発に向かう。
・2016年10月彼は訪中し、中比経済貿易フォーラムで「我々は軍事・経済での米国依存から脱却する」と述べる。共同声明では、「南シナ海での争議問題が中比関係の全てではない。双方は平和・安定を維持・促進する。南シナ海での航行・飛行の自由を確認し、武力に訴えない」などとなった(※大幅に省略)。中国からフィリピンへの援助は13項目あり、海上警察協力、135億ドルの経済協力、フィリピン産果物の輸入禁止の解除、フィリピンへの旅行禁止の解除などが盛り込まれた。※大幅譲歩だな。
○フィリピンは中ロのパートナーになる
・フィリピンを米国から離反させ、スカボロー礁の実効支配も確実になったので、この結果は習近平の勝利と思える。さらにドゥテルテは中比経済貿易フォーラムで「日本は我々に援助してくれるが、中国もできる。中国は融資の返済を帳消しにしてくれた事もある。これは日本にはできない」「私が中国を好きなのは、人を犯した事がなく、侮蔑した事もないからだ」「私はロシアに行って、プーチンに中ロのパートナーになると告げる」「米国からの離脱を宣言する。米中に問題が起これば、中国に味方する」と述べる。※中国べったりだな。
○南シナ海危機の原凶は米国 ※元凶?
・その後もドゥテルテは中国への傾倒を強めている。2017年4月中国軍艦に乗船する。一方秋には「二度と米軍との合同演習を行わない」と発言する。スカボロー礁海域では中国海警船が監視する事で、フィリピン漁民は安心して漁労できるようになった。2017年ASEANの議長はフィリピンなので、この傾向は強まりそうである。
・中国学者には「ドゥテルテを信用するな」との意見も多く、「フィリピンをカンボジア/ラオスのように、完全に中国サイド引き込むのは非現実的」の見方が強い。そのためスカボロー礁の軍事拠点化のピッチが早まると考えられる。その時米国がどう出るかだが、中東問題/朝鮮問題を抱えた米国には荷が重いだろう。
○火種は南シナ海、台湾、東シナ海へ拡大する
・南シナ海の軍事拠点化は順調に進んでいる。米国(※中国?)にとって南シナ海/台湾海峡/朝鮮は核心的利益である。そのため必ず米中対立は先鋭化する。そのタイミングは何時だろうか。
・まず考えられるのが、11月フィリピンでの東アジア・サミット/ASEAN首脳会議と、ベトナムでのAPEC首脳会議である。この時には秋の党大会は終わっており、習近平が「スカボロー礁の軍事拠点化を完成させる」「南シナ海に防空識別圏を設定する」などを行うと、これに対しベトナムが南シナ海の滑走路/軍事施設を攻撃する可能性がある。一方の中国も内政に行き詰ると、ベトナムに二度戦争を仕掛けている。ベトナムは親米でないため、仕掛け易いのだ。
・海南島には中国の原潜基地があり、南シナ海は太平洋に出るための接続水域である。そのため第1列島線から米軍を排除するためには、南シナ海の制空権/制海権は必須となる。中国は米軍を第2列島線(小笠原諸島、グアム、ニューギニア)、さらにハワイ辺りまで後退させるのをゴールとしている。そのため中国は南シナ海/バシー海峡(台湾)/東シナ海と攻略を進めるため、空母を始めとする軍容を整えている。中国が南シナ海/台湾/東シナ海と侵攻した時、トランプ政権はどう出るのだろうか。
<第4章 多極時代の一極を獲れ-日本の外交姿勢>
○ランドパワーが圧倒するこれからの世界
・トランプ政権が発足した頃、中西輝政の勉強会に参加した。テーマは「激変した世界秩序と日本の長期戦略」だった。2016年はブレグジット/トランプ政権誕生/日ロ交渉の挫折などがあったが、その背景を①グローバリゼーション、②ウクライナ危機・南シナ海問題、③中東混迷とした。※これらは直結していないと思うが。
・中東の混迷は湾岸戦争が起点で、この背景に石油を買うためのグローバリゼーションがあった。このグローバリゼーションが中国をWTOに加盟させ、中国が経済大国となる。その中国は米国の軍事力を見て、同様に軍事大国化し、南シナ海問題を起こしている。他方ロシアは民主化/市場経済化が進むと思われたが、プーチンの独裁国家となる。NATOが東欧を併合した事で、ロシアはクリミアを併合せざるを得なかった。
・彼はこの世界秩序の激変期に、ランドパワー国家(中国、ロシア)がシーパワー国家(米国、英国、日本)を圧倒する時代が来るとの見方を示した。大陸国家と海洋国家は性格や思考が異なり、これをグローバリゼーションで1つの共同体/同盟に収めようとしたため、矛盾・対立が生じた。衛星で地球を俯瞰するようになると、海洋国家の優位性はなくなる。そのため大陸国家同士で共同体/同盟を形成するようになった。それが米国のNATOからの離脱であり、英国のEUからの離脱である。※納得できるような、できないような。
・彼は3つの変化しない基軸と、4つの可能性を示した。変化しない基軸は、①米中に決定的な対立はない、②中ロの同盟は崩れない、③米ロの接近はない。※これは正しそう。
・4つの可能性は、①米国は復活し、今後もルールメーカーの地位を維持する。②米中冷戦時代の到来。③米中だけでなく、ロシア/インド/英国/EU/中東などが争う多極化の時代。④同じ多極化でも、安定的な多極時代。
○日本は多極時代の一極を取れ
・中西氏の話は、こんな内容だった。「一帯一路戦略」(新シルクロード構想)は、海へのアクセスが限定された中国が、陸の交通輸送路を見直す戦略である。最終的には海のシルクロード沿線国家に港湾インフラを建設する戦略である。海洋国家時代の次に、大陸国家時代が来るのなら、この狙いは適切である。
・先の4つの可能性で、日本に望ましいのは④で、しかもその一極になる事である。しかし日本は米国追従で、その姿勢が見られない。
○東シナ海有事は何時でも起こる
・前章で半島危機/台湾危機/南シナ海危機について解説したが、尖閣諸島/沖縄を奪われる東シナ海危機も何時起こっても不思議ではない。それは習近平政権が、鄧小平以来の「韜光養晦」を捨て、覇権国家への野望を隠さなくなったからである。また米国の弱体化も大きい。
・中国が東シナ海を欲するのは海底資源が大きかったが、今は軍事的目的が大きい。尖閣諸島は、第1列島線から米軍を排除するために必要な戦略的要衝である。また日本は尖閣諸島を奪われると、世界6位の海洋国家の地位を失う。
・日本が東シナ海問題を考えるようになったのは、2010年「尖閣諸島中国漁船衝突事件」である。これにより中国漁船が日常的に違法操業している事や、中国漁船が戦闘的である事が知られた。
・2012年これが「尖閣諸島国有化問題」に繋がる。東京都がこれを買い取るとして、多額の寄付を集める。これに対し野田政権が国有化を行う。中国はこれに反発し、中国全土で反日デモが行われる。胡錦涛から禅譲を約束された習近平が「反日デモを抗日圧力に利用すべき」と主張した事で、収拾がつかなくなる。そのため習近平政権は、日中関係が最悪な状態でスタートする。これに米国は尖閣諸島は日米安保の適用範囲とした。
・これに対し中国は海洋警察局を発足させる。これは尖閣諸島奪取のための準備で、以下の効果があった。①国内法を適用できる、②日米安保を適用されない、③日本漁船は拿捕を警戒し、漁を止めた。結果的に尖閣諸島海域は中国漁船が占領した。これが既成事実になれば、領有権・領海権を主張する事になる。正にサラミスライス戦略である。
・ちなみに中国漁船の乗組員は解放軍の訓練を受け、燃料費は解放軍から支給され、海警船は駆逐艦を白色に塗り替えた武装船であるのは自明である。
○日本は一番安心して挑発できる
・2016年になると日本への挑発は大胆になる。6月ロシア軍艦を追尾する形で、中国軍艦が尖閣諸島の接続水域に侵入する。外務次官が中国大使に警告する事で、領海への侵入は免れた。その15日後にはインド軍艦を追尾する形で、中国軍艦が口永良部島の領海に侵入する。
・同じく6月には、尖閣諸島上空で、日中の戦闘機が異常接近する。これは事実上のドッグファイトで、自衛隊機はフレアを発射し、空域を離脱した。中国はこれを、①自衛隊機が挑発した、②中国戦闘機がドッグファイトで勝ったと報じた。※色々あったんだ。
・8月には、海警船2隻/漁船230隻が尖閣諸島領海を侵犯する。日本は抗議するが、後日公船15隻/漁船400隻が接続水域に侵入している。※海警船と公船の違いは?公船の方が範囲が広そう。
○尖閣諸島の実効支配を守り抜く事が生命線
・ところが8月、中国漁船とギリシャ貨物船が衝突し、漁民6人を海上保安庁の巡視船が助ける事件が起きる。これを機に中国漁船は撤退する。しかし2017年4月米中首脳会談後、海警船の尖閣諸島の接続海域への侵入は増えている。
・漁民/海洋警察で海域を占領する戦略は中国の常套手段である。これにどう対応するかは国民の世論次第である。何時中国が尖閣諸島を奪取しにくるか、日本人は警戒する必要がある。
・米国は日本の施政権を認めているが、領土とは認めていない。習近平は長期政権のため、政治的緊張/軍事的緊張を欲した場合、尖閣諸島を奪取する事が考えられる。尖閣諸島の実効支配を守り抜くには、国民の共通認識/政治的合意が不可欠である。
○沖縄世論の分裂で中国はほくそ笑む
・防衛政策でもう一つ重要な世論が、沖縄の米軍基地問題である。2016年「高江ヘリパッド問題」が起こる。このデモに中国/韓国から資金援助された県外の左翼運動家が参加したとされる。
・米国の議会で、「沖縄の米軍基地の周辺の土地を、中国の投資家が購入している」「中国は沖縄の米軍基地の情報を収集するため諜報工作員を送り、日米を離反させるため政治工作員を送っている」「中国の政治工作員は、基地反対の集会・デモに参加し、反米感情を煽っている」などが報告された。
・繰り返すが、第1列島線から米軍を排除するのがファーストステップで、これには沖縄から米軍を撤退させるのが含まれる。そのため米軍基地反対運動や沖縄独立世論を後押ししている。
・胡錦涛政権で、沖縄が中国に属する根拠を調べさせている。2015年「琉球フォーラム」、2016年「琉球・沖縄最先端問題国際学術会議」を北京で開いている。この会議で、沖縄の抑圧に対する自己決定権に理解を示している。
・中国は、「この様な工作活動は当然存在し、米国が台湾で行っている」と確信している。一方日本の沖縄に対する世論は、中国の思惑通りに誘惑されている。
・自国に他国の軍隊が駐留するのは、気持ち良いものではない。米兵による暴行事件も見逃せない。「日米地位協定」は不平等であり、米軍駐留の真の目的は日本を守る事ではない。本来であれば沖縄・本土は自衛隊が守り、中国の太平洋進出を同盟国である米国と共に阻止するのが、あるべき姿である。沖縄基地問題は、日本の安全保障の在り方を問う議論に持っていく必要がある。
○中国は戦争を超限戦と捉えている
・2016年北京で喬良/王湘穂の『超限戦』が並んでいるので驚いた。この本は1999年に出版され、中国では珍しく再版されている。また米国/イタリア/仏国の軍部で、戦略・戦術書として利用されている。この超限戦は、「戦争は軍による通常戦だけでなく、外交/国家テロ/諜報/金融/ネットワーク/心理/メディアなど民間の資源も利用する」とする理論である。
・2016年彼らはインタビューで「南シナ海での成果は超限戦による」と応えている。確かに漁民を使い、フィリピンには経済援助を行い、ASEAN各国を個別の外交で取り込んだ。
・中国には「国防動員法」があり、民間企業/民間人までコマとして使える。そのため日本に来ている中国の企業/投資家/観光客までもが、党の意思に沿った行動をしている。従って沖縄/北海道でのチャイナマネーによる土地買収/水源買収は単に商機で片付けられない。華為の無線技術が軍事戦略で意味を持つ事も考えられる。永田町/霞が関のコンビニの中国人店員が中国大使館に報告している事もあり得る。
・2017年習近平は金融での党指導を強化すると表明している。中国の金融は市場ではなく、党が意思を決定している。ドル基軸を揺るがすため、人民元を国際通貨に押し上げようとしている。これは国家利益を掛けた戦争である。
・日本は民主主義国で個人の自由・権利を尊重する。しかし中国では、民間と軍部がいかに融合するかを、賢明に研究している。一方日本では大学で軍事を研究する事さえ正当化されない。これでは対等ではない。そのため中国官僚は「日本は自分の力で戦えない。米国/国連に陳情するしかできない」とバカにする。
・中国と対等になるためには、①相手の思考・立場を知る、②いざとなれば戦う気概が必要である。
○中国は米中二大大国時代を喧伝
・2017年5月共同通信が関係筋の話として、「習近平指導部が北朝鮮制裁の見返りに、太平洋司令官ハリー・ハリスの更迭を求めたが、トランプ政権は拒否した」と報道する。ところが米中共、これを否定している。
・問題は中国の否定の仕方である。大衆に政府の立場を伝える『環球時報』は、「日本は米中の分断を狙って、デマを流した」とした(※前報道が米中の分断?)。この報道は、中国が米中二大大国時代/蜜月時代に入る事を国内外に示す目的があったと思われる。※難解。そりゃあ裏取引は色々あるだろうが。そこまで突っ込んだ事を要求する仲である事を示したかったのかな。
・米中は対立しているよう見えるが、補完関係にある。また両国の思考回路は似ている。またトランプは力の信奉者で、軍事/非軍事を並べて交渉できる人物で、それは中国にとって理想の交渉相手なのを忘れてはいけない。※尖閣/台湾などで、あり得ない取引があるかも。
○米国が日本を見捨てる日
・4月米中首脳会談でトランプは北朝鮮制裁のため、過剰に譲歩した。高関税も為替操作国の認定も棚上げし、南シナ海問題は議題にすらしなかった。トランプは中国の南シナ海の実効支配を容認したと云える。このトランプの態度は、秋の党大会を前にする習近平にとって有利に働く。
・日本はこの米国の態度を覚えておく必要がある。尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲であっても、日本の実効支配が奪われれば、米国はそれを容認するだろう。クシュナーは中国で投資セミナーを開き、台湾にWHO総会の招待状は届かないし、トランプは蔡英文に2度目の電話協議を行っていない。これらは米国が中国を重視している傍証である。尖閣諸島が米中取引の材料にされる可能性は当然ある。
○核兵器は最終兵器ではない
・日本の安全保障で必ず議論されるのが核保有論である。核保有は大国の証しであるが、核兵器が最終兵器とは思っていない。毛沢東は核兵器を怖れていなかった。当時中国の人口は6億人で、彼は「3億人が死んでも、3億人が残っている」と発言していた。また中国は「少数の君子と多数の小人がいる」とし、西側の普遍的価値と異なる。習近平は毛沢東の先祖返りで、核兵器を正しく恐れないだろう。
・中国は衛星破壊兵器を作り、宇宙軍を創設し、超限戦を前提にする国である。そんな国に対し核弾頭を数発持っても効果はない。
○日本は核保有を議論せよ
・核保有となると、それを使いこなせる技術・設備/覚悟・責任が必要になる。核兵器を秘密裏に輸送する設備や、照準を合わせるための情報システムが必要である。情報システムには独自のGPS網が必要で、それを守るためのサイバー部隊も必要になる。この様に宇宙空間/サイバー空間における設備・機能も必要になる。
・また核保有には覚悟・責任が問われる。被爆国として核アレルギーも克服しなければならない。また「いざとなれば核を使う」との脅威を持たれなければ、抑止力にならない。日本は核保有を本気で議論する必要がある。※核輸送には原子力潜水艦が望ましいらしいが、日本にはない。また国際的な経済制裁が掛けられる。
○ババ・ヴァンガの予言
・ブルガリアの預言者ババ・ヴァンガが、「2018年中国は新しい超大国になる。搾取者が搾取される」と予言していた。彼女は9.11事件やオバマの出現を的中させている。習近平はこの予言を、自身の長期政権の確立と捉え、反腐敗キャンペーンの成果と捉えるだろう。この予言は逆に共産党体制の崩壊で、搾取者は共産党と考えられなくもない。
○赤い帝国となる最悪シナリオ
・習近平政権が長期独裁体制「赤い帝国」になるかは、米国と蜜月関係になり、対等の立場に立てるかに掛かっている。そうなれば南シナ海/台湾海峡/東シナ海でのベトナム軍/台湾軍/自衛隊は太刀打ちできない。
・トランプ政権は北朝鮮の核の解決のため、中国に大幅に譲歩した。もし中国が核を放棄させれば、対等のパートナーとして認めざるを得ない(※核放棄できなかったので、高関税を掛けたのかな)。核放棄に至らなくても、半島情勢が安定すれば、米国がAIIBに参加する事も考えられる(※結局米朝直接対話で一先ず安定した感がある)。そうなると国際社会は中国に期待し、一気に中国に投資が向かい、瀕死の経済は復活する。中国は人材は豊富なので、一気に超大国に駆け上がるだろう。
・米国は世界最強の国であろうとしてきた。ところがトランプはそれに固執せず、G2を受け入れる可能性がある。トランプには民主主義を世界に広める普遍的価値を持たない。世界が米国に従ったのは、民主/法治/人権/言論の自由などの普遍的価値があったからである。ところがトランプは、人権弁護士の拷問問題、ウイグル/チベットの弾圧に関心を持っていない。これは独裁傾向が強い指導者の特徴でもある。
・この様に価値観を持たない独裁的な指導者は、実利主義/現実主義で、「力のない国より、力のある国と手を組んだ方が得である」と考える。後になり「トランプが、共産党体制の延命・発展のチャンスを与えた」となるかもしれない。これは日本に最悪のケースである。
○中国が法治国家となる可能性
・次に中国の体制が変わるケースを考える。これは秋の党大会後、政治局拡大会義か中央委員会総会で習近平が失脚するケースである。政治局常務委員会の過半数を共青団(汪洋、李源潮、胡春華、孫政才)が占め(※汪洋しか選出されていない)、これに太子党の反習近平派が組めば、政治局拡大会議か中央委員会全体会議(※総会?)で習近平の実権が奪われる可能性がある。実際、華国鋒/胡耀邦が奪われている。
・1978年第11期三中全会で華国鋒は「二つの全て」を否定され、党の指導方針は階級闘争から経済建設に転換し、鄧小平により失脚する。この時彼は、党主席/首相/中央軍事委員会主席/中央委員会主席などの肩書を持っていた。彼は習近平と同じく肩書マニアであった。
・1987年1月政治局拡大会議で胡耀邦は総書記を解任され、11月一中全会で政治局員に降格される。彼は鄧小平/趙紫陽と共にトロイカ体制を組んでいたが、鄧小平が学生/知識人/大衆から支持される彼を快く思っていなかったのだろう。彼は失意の中で死去し、彼を慕う学生/知識人が天安門事件を起こす事になる。
・最近では2004年中央軍事委員会拡大会議で江沢民・中央軍事委員会主席が引退させられている。これには彼の腹心の曾慶紅が関係している(※詳しい経緯が記されているが省略)。曾慶紅は太子党のラスボスとされ、江沢民に引導を渡し、胡錦涛の後継に習近平を据えている。ところが習近平は恩人である曾慶紅を、郭文貴事件で追い落としている。
・政治局拡大会義か中央委員会総会で、習近平が批判されるケースは幾つか考えられる。「令完成/郭文貴などから習近平の決定的な汚職の証拠が暴露される」「香港で共産党の存続を揺るがす社会事件が起こる」「習近平が独裁体制を築くために起こした政治的緊張・軍事的緊張が失敗に終わる」などで、そうなれば彼への信頼は失われるだろう。
・その後共青団派が政権を継げば、違う体制になるだろう。共青団派には胡耀邦を慕うものが多く、官僚的で、欧米への留学者も多い。そのため経済の自由化/法治化、さらには民主化に進むかもしれない。基本的には、これは日本に望ましいシナリオである。※こんな事もあり得るのか!
・他にも様々なケースが考えられる。習近平が2期無事に務め、2022年胡春華に禅譲される可能性も高い。しかし不確定要素が多過ぎる。ただし日本にとって「赤い帝国」になるより、法治国家/民主主義国家になるのが望ましいのは確かである。
○日本はアジアの盟主たれ
・2017年中国の亡命漫画家・辣椒と対談する機会があった。彼は対談の最後で訴えた事を伝える(※大幅に削減)。
日本は普遍的な価値を掲げ、中国を批判すべきだ。中国は文化大革命/大飢饉で何人も殺してきた。抗日戦争で戦ったのも共産党ではない。中国は「日本は南京大虐殺など、歴史の真実を認めない」と批判するが、そんな時こそ、中国の歴史問題を列挙して反論して下さい。長春包囲戦で何人の市民が餓死したか。
中国が文明国家になるのは、中国人だけでなく日本人にも良い事です。中国が文明国家になるように手助けして下さい。
・この対談は、中国人弁護士が逮捕・拘束・拷問され(7.09事件)、これを調査するように11ヵ国の大使館が要請した時期に行われた。ただしこれに米国の大使館は含まれていなかった。そして最後に彼は「日本こそアジアの盟主になるべきです。民主主義の国々を纏めて、中国を変えて欲しい」と訴えた。
・「日本はアジアの盟主たれ」と思っている中国の知識人は少なくない。それは台湾の本土派や香港の若者にもいる。日本がアジアの盟主にならないと、共産党中国がアジアの盟主になる。そうなるとアジアの秩序は中華秩序になり、中国が民主化されるチャンスは益々なくなる(※これは厄介だな)。トランプ政権に替わり、米国は民主・自由の旗を掲げなくなった。なのでなおさら価値観外交が望まれる。
○自国ファーストでも普遍的価値を失うな
・自国ファーストに異論はないが、普遍的価値を蔑ろにしてはいけない。民主・自由・法治・人権などの価値観に軸足を置かなければ、それは単に覇権拡大と見做される。
・中国が苦手にするのが、この普遍的価値である。習近平政権は、これを大学で学ぶのを禁止している。習近平政権がトランプ政権を歓迎するのは、普遍的価値を外交カードにしないからだ。
・中国は軍事であれ経済であれ、力の強い方が弱い方を譲歩させる理論である。普遍的価値を外交カードにされても、中国は困るだけだ。近年欧米諸国は中国の経済力を前に、中国の人権問題を批判しなくなった。日本が自由・民主などの普遍的価値に軸足を置き、外交に臨むのは、国益にかなっている。※実際日本ができるのかな。経済依存度は高いし、軍事力も劣位にあると思うが。
○外国人は尊敬している、日本は自信を持て
・「日本はアジアの盟主たれ」に日本が応えられないのは、日本人が自信を持っておらず、また”愛国”を嫌う人が多いためである。しかし中国の知識人には、日本をポジティブに評価する人も多い。中国が核を持ち、世界第2位の経済大国になり、有人宇宙飛行しても、法治/言論の自由/民主的価値がなく、人権が弾圧されている状況を憂いている。国民の幸せは、経済発展/軍事力/科学技術の高さでは測れない。内面文化(?)の成熟に頼るところが大きい。
・中国の民主化・近代化を研究している知識人は、明治維新は成功し、「戊戌の変法」が失敗した理由を考え、台湾が民主化し、中国が民主化しなかった理由を考え(※党が違う)、「日本的な要素」を結論付ける人がいる。中国で『知日』などの雑誌が人気なのは、「日本人的なものが何か」を解明したいと思っているからである。※最終章になると、抽象的・精神論的になる。
○日本には普遍的価値のアイデンティティがある
・では日本的なもの/日本人的なものはなんなのか。普遍的価値は西洋で生まれた価値観で、日本の普遍的価値はそれと全く同じではない。日本と西洋のフェミニズムは異なるし、日本の外国人への”区別”は、海外では”差別”になる。日本では女性専用車両や議員の女性枠など、女性を特別視するのがフェミニズムになっている。
・日本は外国の文化を日本ナイズし、違和感がないように吸収してきた。宗教/法律/言語/価値観/料理/技術/人、全てを日本ナイズし受け入れてきた。デモクラシー/リバティ/儒教/禅、全てがそうである。そのため日本は排他的と云われたり、逆に受容性があると云われる。
・この根源は「和」にある。日本が排他的・同調的なのは、このネガティブな面である。この衝突を避け調和を重んじる思想・性質が、外来の制度/文化/価値観をしなやかに変容させ、受け入れてきた。そのため日本的なもの/日本人的なものは変わらないのである。
○日本人一人ひとりができる事
・今は「世界秩序の分水嶺」にある。ここで日本人一人ひとりができる事は、日本的なもの/日本人的なものを咀嚼し、肯定的に考え、自信を持つ事にある。
・21世紀になり、「日本がいかに凄いか」「日本がいかに世界から尊敬されているか」と云った番組や書籍が出版されるようになり、やっと日本人も自信を持てるようになった。日本の受容性に誇りを持ち、日本人アイデンティティを確立する事が重要である。
・「愛国」「誇り」に違和感を持つ人も多いだろうが、自分を愛せない人が、他人を愛せないように、自国に誇りを持てない人が、他国の誇りを理解し尊重する事はできない。
・激変期の今は、国家アイデンティティを持つ事が重要になる。これを持っていると、外国人と接する時や、海外に出た時、好意的に受け止められ、尊敬される。これは「パブリックディプロマシー」と呼ばれるもので、外交は政府官僚だけが行うものではなく、国民一人ひとりの姿勢が重要なのだ。
・日本がアジアの盟主になるには、これが必要である。この多極時代、日本は日本的な普遍的価値を掲げ、「赤い帝国」の野望を阻止し、中国を法治国家に変容させなければいけない。