『アミノ酸の本』味の素(株)を読書。
食品だけでなく、健康/美容/スポーツ/医療などに関しても解説。
アミノ酸の種類と、その機能の多様さに驚く。余りに多いので覚えられない。
ただアミノ酸の重要性だけは理解できた。
プラス面だけの解説なので、マイナス面がないのか心配になる。
広く浅く解説しているので、特定の分野を深く知りたい方は、別途調べる必要がある。
お勧め度:☆☆(アミノ酸の重要性が理解できる)
内容:☆☆
キーワード:<アミノ酸って何>タンパク質/ペプチド結合、DNA、必須アミノ酸/非必須アミノ酸、芳香族アミノ酸/脂肪族アミノ酸、中性アミノ酸/酸性アミノ酸/塩基性アミノ酸、エネルギー源/神経伝達物質、非タンパク質性アミノ酸、尿素回路、エネルギー、<アミノ酸はどうやってできる>抽出法/合成法/発酵法、分析法、<アミノ酸と食・栄養>うま味、発酵、フレーバー、アスパルテーム、母乳、栄養素、<アミノ酸と健康>免疫、睡眠、アルコール分解、メタボリックシンドローム/筋肉、健康寿命/サルコペニア現象、アルギニン、グルタミン、食欲回復、指紋採取、<アミノ酸と美容>肌/保湿/バリア機能/メラニン/コラーゲン、毛髪、抗酸化、化粧品、<アミノ酸とスポーツ>分岐鎖アミノ酸(BCAA)、筋肉、プロテイン、<アミノ酸と医療>癌、輸液、肝不全、腎不全、抗癌剤、<アミノ酸利用の広がり>栄養改善、培地、飼料、乳牛、菌、D-アミノ酸、ノーベル賞
<はじめに>
・アミノ酸は結合してタンパク質として存在します。動物はアミノ酸を作る事ができないので、食物から体内に取り込みます。アミノ酸は生命に根源的な物質であり、様々な機能を持っています。
<第1章 アミノ酸って何>
○タンパク質を作るアミノ酸
・人間の6割が水で、2割がタンパク質です。人間には10万種類のタンパク質があり、肌/毛髪/筋肉/骨/内臓/赤血球/白血球などになっています(※10万種類は驚いた)。しかしアミノ酸は20種類しかなく、タンパク質は、そのアミノ酸のアミノ基(-NH₂)とカルボキシル基(-COOH)が結合したものです(ペプチド結合)。タンパク質は体を作っているだけでなく、酵素になり代謝に関わったり、ホルモンになり体の調整をしたり、抗体になり体を守っています。
○アミノ酸が体を作る
・食物のタンパク質をそのまま吸収する事はできないため、消化酵素でアミノ酸に分解し、吸収します。アミノ酸は血液により細胞に送られ、そこでタンパク質に再合成されます。アミノ酸が繋がる順番は、DNAが決めます。DNAは塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)が30億個並んだものです。
○アミノ酸の構造
・アミノ酸は炭素(C)/水素(H)/窒素(N)/酸素(O)から成り、一部は硫黄(S)も含んでいます。またアミノ基とカルボキシ基を持っています。アミノ酸には、α-アミノ酸/β-アミノ酸/γ-アミノ酸があります。しかしタンパク質は、α-アミノ酸がペプチド結合したものです。※α-アミノ酸は、アミノ基とカルボキシ基が隣接している。
・ペプチド結合すると、アミノ基の水素イオン(H+)とカルボキシ基の水酸化物イオン(OH-)から水(H₂O)が作られます。通常、アミノ酸が2~数十繋がったものをペプチド、それ以上繋がったものをタンパク質と呼びます。※何か曖昧だな。タンパク質は相当複雑になりそう。なので10万種類もあるのか。
○アミノ酸の種類①
・アミノ酸には、体内で合成できない「必須アミノ酸」(9種類)と、合成できる「非必須アミノ酸」(11種類)があります。必須アミノ酸には、イソロイシン/バリン/ロイシン/スレオニン/トリプトファン/ヒスチジン/フェニルアラニン/メチオニン/リジンがあります。※それぞれの機能が説明されているが省略。
○アミノ酸の種類②
・次に体内で合成できる非必須アミノ酸の8種類を紹介します。アラニン/アルギニン/グリシン/グルタミン/グルタミン酸/システイン/セリン/プロリンがあります。※機能など省略。聞いた名前もあるが、20種類もあると覚えられない。
○アミノ酸の分類
・前節ではアミノ酸を栄養学的(合成できる/できない)に分類しました。他に構造で分類する方法もあります。大別すると芳香環を持つ芳香族アミノ酸(4種類)と脂肪族アミノ酸(16種類)に分かれます。※大半が脂肪族アミノ酸なのか。脂肪についても知る必要がある。
・芳香族アミノ酸は、ベンゼン環/インドール環/イミダゾール環を持つものに分かれます。
・脂肪族アミノ酸は、枝分かれを持つ分岐鎖アミノ酸、硫黄を含む含硫アミノ酸、水酸基(ヒドロキシル基)を持つヒドロキシアミノ酸に分かれます。プロリンはアミノ基ではなくイミノ基(=NH)のためイミノ酸ですが、遺伝子DNAに暗号化されているためアミノ酸として扱われます。
・アミノ酸を科学的性質によって、中性アミノ酸/酸性アミノ酸/塩基性アミノ酸に分類する方法もあります。グルタミン酸/アスパラギン酸は、アミノ基が1つ/カルボキシ基が2つなので、酸性アミノ酸です。リジン/アルギニン/ヒスチジンは、アミノ基が2つ/カルボキシ基が1つなので、塩基性アミノ酸です。それ以外はアミノ基とカルボキシ基が同数で、中性アミノ酸です。
○アミノ酸の体内での働き
・アミノ酸の働きはタンパク質を作るだけではありません。次に重要な働きはエネルギーを作る事です。エネルギー源にはグルコース/脂肪酸がありますが、アミノ酸もエネルギー源になります(※エネルギー源は糖/脂肪だけと思っていた)。飢饉や長時間の運動では、タンパク質を分解し、アミノ酸をエネルギーとして利用します。
・側鎖に分岐がある「分岐鎖アミノ酸」(BCAA、イソロイシン/バリン/ロイシン)は、筋肉でエネルギー源になります。アラニンは肝臓でグルコースになりエネルギー源になります。グルタミンは腸/免疫のエネルギー源になります。
・グリシン/アスパラギン酸/グルタミン酸は神経伝達物質になります。チロシン/トリプトファン/ヒスチジンからは、神経伝達物質/ホルモンが作られます。
・抗酸化物質グルタチオンはグルタミン酸/システイン/グリシンから成ります。ヒスチジンも抗酸化物質の材料になります。
・エネルギー貯蔵物質クレアチンリン酸は、グリシン/アルギニン/メチオニンから合成されます。グリシンはヘモグロビンにも合成されます。
・アルギニンから作られる一酸化窒素(NO)は中枢神経伝達を制御したり、血管を拡張します。DNAの4つの塩基は、グリシン/グルタミン/アスパラギン酸から合成されます。※グリシンは様々に利用されるな。
○アミノ酸の誕生
・アミノ酸は生命に根源的な物質です。原始の地球は、水(H₂O)/メタン(CH₄)/アンモニア(NH₃)/水素(H₂)に覆われていました。1953年ユーリー/ミラーは、これらからグリシン/アラニン/アスパラギン酸を作ります。その後の生命が誕生した頃は二酸化炭素(CO₂)/窒素(N₂)で覆われていたと考えられ、そこからのアミノ酸の生成も確認されています。
・一方アミノ酸は宇宙からもたらされたとする説もあり、1969年隕石から検出されています。欧州宇宙機関の彗星探査機ロゼッタも、彗星でグリシンを確認しています。
○アミノ酸発見の歴史
・1806年アスパラガスからアミノ酸が初めて発見され、アスパラギンと命名されます。1810年尿結石からシスチンが発見され、システインに調整されます。1935年スレオニンが発見され、人体のタンパク質に関連する全てのアミノ酸が発見されます。
※他に、1819年ロイシン/1820年グリシン/1850年アラニン/1890年トリプトファン/1900年プロリンが説明されているが省略。しかしどうしてアミノ酸だと判定するのかな。
○タンパク質を作らないアミノ酸①
・アミノ酸はタンパク質を構成しますが、タンパク質を構成しない「非タンパク質性アミノ酸」もあります。これらのアミノ酸は血液を介して様々な組織/臓器に存在します。近年これらの生理機能が明らかになり、健康食品に機能性素材として活用されています。
・神経伝達物質は、グルタミン酸/アスパラギン酸やアミン類(アミノ基を持つセロトニンなど)です。非タンパク質性アミノ酸の「γ-アミノ酪酸」(GABA)は、脳内でグルタミン酸から作られる神経伝達物質です。
・「ドーパ」(L-DOPA)から脳内で神経伝達性アミンのドーパミンが作られます。ドーパミンの不足によりパーキンソン病になるため、ドーパはその治療薬になっています。
○タンパク質を作らないアミノ酸②
・肝臓は有害なアンモニアを尿素に変換し排出します。この尿素回路に非タンパク質性アミノ酸のオルニチン/シトルリンが関係しています。オルニチンと余分なアンモニアからシトルリンが作られ、シトルリンはアルギニンに変換されます。アルギニンは尿素とオルニチンに変換され、尿素回路が一回りします。
・オルニチンは成長ホルモンの分泌促進や、消化管の保護作用もあります。シトルリンがアルギニンに変換される時、一酸化窒素が産生され、血流を改善します。※尿素を作る過程で、血流も良くなる。
・非タンパク質性アミノ酸のクレアチン/カルニチンはエネルギー生産に関わっています。クレアチンはリン酸と結合し、エネルギー再生に関わっています。カルニチンは脂肪酸をミトコンドリアに運び、燃焼させ、エネルギーを生産させています。
・非タンパク質性アミノ酸の5-アミノレブリン酸は、血液成分やエネルギー生成に関わっています。※エネルギー生産とエネルギー生成は違うのかな。
○コラム-アミノ酸利用の歴史
・アミノ酸の機能は4つあります。①栄養素になる、②味を作る(呈味成文)、③体の働きをサポートする(生理作用)、④科学的反応性。これらの機能から、医薬品/食品/香粧品/飼料/樹脂添加剤などに利用されています。
・1909年小麦からグルタミン酸を製造し、うま味調味料「味の素」を作ったのが、アミノ酸の工業生産の始まりです。1956年さらに日本は輸液(静脈栄養剤、点滴)を製造しています。
・食品としては、うま味調味料の他に、グリシンの食品添加物への利用、甘味料アスパルテームの商品化、粉ミルクへ/給食パンへのリジン添加、栄養飲料へのアミノ酸添加などがあります。
<第2章 アミノ酸はどうやってできる>
○アミノ酸を生産する方法
・アミノ酸を生産する方法は幾つかあります。まず抽出法ですが、小麦/大豆のタンパク質を加水分解し、アミノ酸を抽出します。ただしこの方法だと、デンプン/油脂などの副生物が多く作られます。
・科学的に合成する方法もあります。単純な構造のグルタミン酸などの生産に適しています。ただし大変な設備が必要なため、現在は行われていません。
・大量生産に適しているのが発酵法です。微生物に天然の糖(サトウキビなど)とアンモニアを食べさせ、アミノ酸を作ります。味噌/醤油/お酒/納豆/ヨーグルトなどは発酵で得られます。
○発酵法でアミノ酸を作る
・発酵法は有用な方法ですが、微生物を見付けるのが大変です。自然界には多様な生物がいて、土1gには1億個の微生物がいるとされます。協和発酵工業がグルタミン酸を作る「コリネバクテリウム菌」を発見します。※年が記されていない。
○発酵法によるアミノ酸生産
・微生物を見付けると、生産方法の開発が必要になります。同じ微生物でも、原料や条件で生産効率は大きく変わります。
・微生物を糖蜜が主成分の原料液で培養すると、グルタミン酸が得られます。これを結晶させ、水酸化ナトリウムで中和させ、グルタミン酸ナトリウム(うま味調味料)を得ます。この方法は特殊な設備を必要とせず、低コストで多量に生産できます。また副生物も少ないため、原料が豊富な途上国で生産されています。
・この生産方法が改変され、リジン/スレオニン/トリプトファンが生産されるようになり、鶏/豚の飼料に添加されるようになりました。※自然の動物と比べると、家畜の成長は桁違いだろうな。
○日本が誇るアミノ酸発酵工業
・日本は、応用微生物学のグルタミン酸発酵/核酸発酵で世界をリードしています。日本は、バイオ研究・産業で世界の第一線を走っています。日本の企業は競争により、微生物の分離・改変・培養・精製などの技術を蓄積しています。
・うま味調味料(グルタミン酸ナトリウム)は、タイ/ベトナム/マレーシア/インドネシア/中国/米国/ペルー/ブラジルなどで生産され、世界の100以上の国・地域で販売されています。
○環境にやさしいアミノ酸発酵
・アミノ酸は発酵法により世界で生産されています。東南アジアではサトウキビの糖蜜/キャッサバ/サゴヤシが原料として使われ、欧米や中国ではサトウダイコンの糖蜜/トウモロコシの糖などが原料として使われています。
・発酵副生物にはアミノ酸/窒素/有機物などが含まれているため、肥料/飼料として利用されています。要するに持続可能な循環型の生産サイクルになっています。
○日本で進化する全自動分析計
・1906年ツヴェットがアミノ酸の一斉分析法「クロマトグラフィーの原理」を発見ます。これは筒(カラム)を流れる速さでアミノ酸を分け、さらにニンヒドリン試薬で色素を着け、その吸光波長で分類する方法です。
・これを自動化したのがロックフェラー研究所のスタイン/ムーアで、後にノーベル化学賞を受賞しています。日立製作所/日本電子なども同様の機械を製作しています。
○質量分析計を用いたアミノ酸分析法
・微量なアミノ酸を分析する方法に、蛍光物質を結合させ、蛍光検出器で検出する方法があります。最新の方法としては、イオン化させ、質量と電荷の比を検出する質量分析法が使用されています。
・分析法の高精度化/高感度化/短時間化が進められており、マイクロチップ化/リアルタイム検出/3次元分布などが可能になるでしょう。
○コラム-昆布ではなく小麦から製造
・アミノ酸の生産は、1908年池田菊苗博士が昆布からグルタミン酸を抽出したのが始まりです。この時昆布12Kgから、グルタミン酸30gを抽出しています。続いて小麦/大豆から抽出する製法を開発します。しかし塩酸分解するので研究所ではできても、工場で大量生産する事はできません。ようやくたどり着いた容器が、常滑市の道明寺甕でした。
・小麦グルテンにはグルタミン酸以外にも沢山のアミノ酸が含まれており、これによりアミノ酸事業が始まります。
<第3章 アミノ酸と食・栄養>
○うま味の相乗効果
・1908年池田菊苗が「昆布だし」のうま味がグルタミン酸である事を発見します。さらに小玉新太郎が「かつおだし」のうま味がイノシシ酸である事を発見します。
・イノシン酸の製造には時間が掛かりますが、國中明がリボ核酸を分解するとグアニル酸/イノシン酸が得られる事を発見します。彼はグルタミン酸とグアニル酸が口の中で混ざると、強いうま味を感じる事を発見します。
・昆布とかつおの「合わせ出汁」が濃く感じられるのは、この相乗効果によります。このアミノ酸系と核酸系のうま味の混ぜ合わせは、世界中で見られます。※昆布(グルタミン酸)とかつお(イノシン酸)か。
○うま味を用いて減塩
・塩は必須のミネラルです。ところが高血圧などの生活習慣病と食塩摂取量の関連が知られるようになります。日本人の塩分摂取量は男性10.9g/女性9.2gで、世界保健機関/食糧農業機関(WHO/FAO)の5gを大きく超えます。
・減塩料理を補うものとして、うま味(出汁)/酸味(柑橘類)/辛味(スパイス)/食感(香ばしさ)などがあります。※食感は歯ごたえ/喉ごしでは。
○グルタミン酸は健康な食生活を支える?
・和食がUNESCO無形文化財に登録され、動物性油脂の少ない和食の出汁(うま味)が注目されています。
・食欲は生理的な「飢え」と「満腹」のバランスで決まります。英国のサセックス大学が、食前のスープにうま味(グルタミン酸と核酸)を添加すると、食後の満腹感が高まる事を報告しています。
○グルタミン酸で健康な食生活
・ドライマウス(口腔乾燥症)は唾液の減少により、話し難い/食べ物の味がしない/傷が治り難いなどの様々な不具合が生じます。唾液は三大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)/小唾液腺から分泌されます。
・うま味(グルタミン酸ナトリウム)は、唾液を持続的に出させる効果があります。またうま味は、他の基本4味(苦味、酸味、塩味、甘味)と比較して、唾液を持続的に出させる効果があります。
○アミノ酸の味
・味覚は味細胞によります。味覚は、甘味/塩味/酸味/苦味/うま味の5つです(基本味)。大きな分子のデンプンは、唾液で分解され麦芽糖になり甘くなります。同じく大きな分子の大豆タンパクは、麹菌で分解され味噌/醤油になるとグルタミン酸になり、うま味を呈します。グルタミン酸と似たアスパラギン酸も、うま味を持ちます。分岐鎖アミノ酸(BCAA)は苦味があります。グリシン/アラニンなどはカニ/ホタテに含まれ、甘味を持ちます。
※味について長々と書いてあるが、通常口にするのはタンパク質で、アミノ酸ではないのでは。
○発酵食品はアミノ酸の宝庫
・発酵は数千年の歴史があります。発酵には食材を保存する役割があり、ブドウは数日で腐敗しますが、ワインだと長く持ちます。チーズ/鰹節なども同様です。またビタミンなどの栄養価値も向上します。
・しかし発酵の一番の特徴は美味しさにあります。肉/魚はしめた直後より、8~24時間後が美味しくなります(熟成)。これはタンパク質がアミノ酸に分解されるためです。大豆/米/乳などもそれ自体は味がありませんが、発酵する事でペプチド/アミノ酸に分解され味を呈します。
・発酵すると遊離アミノ酸が10~100倍に増えます。主にグルタミン酸(うま味)/アラニン(甘味)/ロイシン(苦味)が生成されます。他に有機酸(クエン酸など)/香気成分も生成されます。
○フレーバーとしてのアミノ酸
・食品の美味しさは、味覚/香気(フレーバー)/食感(テクスチャー)で構成されます。アミノ酸は調理(加熱)する事で、香気成分が形成されます。「メイラード反応」(アミノカルボニル反応)はアミノ酸と糖の複雑な反応ですが、様々な香気成分/着色物質を形成します。肉を焼いた時の香りや焼け焦げが、それに当たります。
・これを活用したのが「リアクションフレーバー」です。硫黄を含んだシステインなどを用いると肉のフレーバーが得られます。これはスープやラーメンにも利用されています。
○砂糖の200倍の甘味料
・アスパルテームは、アスパラギン酸/フェニルアラニン/メチルエステルが結合した甘味料です。この甘味度は砂糖の200倍です。そのためダイエット食品/ガム/菓子/飲料などに使われています。アスパルテームは消化性も高くなっています。また安全性も確認されています。※人工甘味料はこれなのかな。
○アミノ酸の安全性
・アミノ酸を過剰摂取しても健康障害は起きません。アミノ酸は体内で、タンパク質/核酸/糖/脂質などの生体物質やエネルギー源になります(※アミノ酸の用途は多様)。ただし分解して作られるアンモニアは尿素に変換され排泄されますが、その能力には限界があります。現代人はアミノ酸を1日70g摂取していますが、代謝できるアミノ酸は250gとされています。余程の偏食をしないと、超えません。
○母乳とアミノ酸
・母乳にはタンパク質/乳糖/脂質/ミネラル/アミノ酸などが含まれています。生後数時間の赤ちゃんに甘味を与えると、穏やかな表情をします。一方酸味/苦味を与えると、嫌な表情をしますが、これにうま味を加えると、穏やかな表情になります。※可哀そうな実験。
・グルタミン酸のうま味はタンパク質である事を教え、消化・吸収の準備をします。酸味は腐っているかも、苦味は毒かもと警戒させるのです。
・母が食べたものは母乳に移ります。和風であれば鰹節/醤油/味噌、洋風であれば肉/トマト/チーズなどのうま味が母乳に移り、赤ちゃんの嗜好が作られます。※血液から母乳を通して、同じ物質を摂取しているのか。
○食事で摂るアミノ酸の量
・食品には栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなど)が含まれます。厚労省は「日本人の食事摂取基準」で、必要な栄養素を定めています。しかし食品にどれだけ栄養素が含まれているか知る必要があります。そのため文科省(※こちらは文科省)は「日本食品標準成分表」を作成しています。
・「日本食品標準成分表」2015年版には2,191食品/52成分が記され、その内1,558食品がアミノ酸成分を記されています。2016年版では1,586食品に拡充され、タンパク質源の大半がカバーされました。※米/肉/魚など主要7食品の成分が記されている。大半は水分だけど、魚/肉は18%がタンパク質、卵も10%がタンパク質。
○コラム-納豆のネバネバ
・大豆は40度/20時間で納豆菌が作る酵素(プロテアーゼ、アミラーゼ)により、アミノ酸/糖質に分解され、うま味が生まれます。納豆のネバネバは、グルタミン酸が鎖状になった、アミノ酸ポリマー(ポリグルタミン酸、PGA)です。PGAには、苦味/エグ味を抑える作用や、カルシウムの吸収を助ける作用などがあります。※味の素(株)なので、やたらとうま味が出てくる。
<第4章 アミノ酸と健康>
○免疫システムを維持するアミノ酸
・私達には免疫システムが備わっています。細菌・ウイルスの侵入を防いだり、癌・毒物などを排除します。体を治癒する機能もあります。白血球は異物の排除で、中心的な役割を果たしています。
・アミノ酸は免疫細胞の重要な栄養素です。特にグルタミン酸は重要で、腸のバリア機能を高めます。またアルギニンは殺菌作用のある一酸化窒素(NO)の原料になります。
・シスチン/テアニンは白血球の貪食能を高めたり、風邪の発症を抑えたり、インフルエンザの抗体産生を高めます。また抗酸化物質であるグルタチオンの供給源になります。
○睡眠とアミノ酸
・睡眠にはレム睡眠(体の眠り)とノンレム睡眠(脳の眠り)があります。アミノ酸の一種グリシンを寝る前に飲むと、深い眠りが得られます。
○アルコール分解
・アルコールは肝臓で酵素ADHによりアセトアルデヒドに、さらに酵素ALDHにより無害な酢酸に分解されます。しかし日本人の4割はALDHが不完全でアルコールを分解できません。ところがアラニンとグルタミンの混合物を摂取すると、この作用が働き、アルコールを分解します。※アルコールと共に肉・魚を食べると、翌日スッキリか。そんな気がする。
○血液中のアミノ酸で健康状態が分かる
・体内には「遊離アミノ酸」(単体のアミノ酸)が存在します。大部分は細胞に蓄積されていますが、一部は血液中に存在します。
・糖尿病は糖の代謝の異常と思われがちですが、血液中のアミノ酸のバランス異常も影響しています。血液中のアミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン、チロシン、フェニルアラニン)の濃度から、生活習慣病に罹るリスクが予測できます。
○メタボリックシンドローム
・メタボリックシンドロームは内臓脂肪蓄積/高血圧/脂質代謝異常/糖代謝異常などの病態です。内臓脂肪を減らすためには基礎代謝を高める必要があり、それには筋肉の量を増やすのが有効です。
・筋肉を増やすには、筋肉のタンパク質の合成を高め、分解を抑制する必要があります。その機能を「分岐鎖アミノ酸」(BCAA)のロイシン/バリン/イソロイシンが持っています。ただし筋肉は20種類のアミノ酸からできているので、必須アミノ酸をバランス良く摂る必要がります。また運動はタンパク質の合成を高めるので、これも効果があります。
・リジン/スレオニン/BCAAには脂肪の蓄積を抑制する機能があります。また高血圧に対し、アルギニンは血管を柔軟にする機能があります。※この本は良い事しか書いていないが、逆に血管を硬くするのもアミノ酸なのでは。
○健康寿命の延伸
・日本の65歳以上は総人口の27%で過去最高になりました。平均寿命は男性80.2歳/女性86.6歳ですが、健康寿命は男性71.2歳/女性74.2歳です。
・健康寿命を延ばす事が重要ですが、介護状態になる原因に、筋肉が減少する「サルコペニア」現象があります。ここでもタンパク質の合成を促すロイシンの摂取と運動が重要になります。※「高齢者ほどタンパク質を摂れ」とかあった。
○医療現場
・アルギニンは多機能なアミノ酸で、条件付必須アミノ酸です。アルギニンは一酸化窒素(NO)の原料で、血管を広げたり、柔軟にします。また免疫細胞マクロファージで作られたNOは、ウイルス・病原菌を攻撃します。またアルギニンは成長ホルモンの分泌も刺激し、筋肉の量を増やしたり、傷付いた筋肉を修復します。
・さらにアルギニンは肝臓でアンモニアを解毒する尿素回路の構成要素です。またアルギニンは細胞増殖に不可欠なポリアミンの原料になります。これらの機能から、アルギニンは医療現場でも利用されています。
○グルタミン
・グルタミン体内で合成されますが、怪我・外科手術・激しい運動により不足するため、条件付必須アミノ酸です。グルタミンが不足すると、筋肉を分解しグルタミンを供給するため、筋肉が減少します。※それで長距離選手は足が細いのかな。
・小腸絨毛は細胞分裂が速く、摂取したグルタミンの大半が腸で使われます。また腸は体外と通じているため、有害な細菌・毒素など体内に入れない機能があります。そのためグルタミンは、腸の粘膜細胞を密にしたり、バリアを修復しています。またグルタミンは免疫細胞のエネルギー源で、免疫機能に直接関係しています。
○食欲回復
・「アルギニン・グルタミン酸塩」(ArgGlu)は、減塩調味料/高アンモニア血症改善剤/緑茶の調味料などで利用されています。最近ArgGluに胃の運動を促進する作用が確認されました。精神的ストレス/極度の疲労/睡眠不足/暴飲暴食などで食欲不振になっても、これを摂取する事で食欲不振が緩和されます。
○脳の疲れ
・朝味噌汁を飲むと、疲れが取れます。それは「かつおだし」の中に含まれている必須アミノ酸ヒスチジンによります。ヒスチジンは血液に取り込まれ、脳でヒスタミンに変わり、集中力・判断力を高めます。アレルギーの薬を飲むと、ヒスタミン受容体が阻害され、逆に頭がボーっとしたり、眠くなります。
○コラム-犯罪捜査
・鑑識が指紋を採取しますが、ここでもアミノ酸が使われています。汗は水分/塩分/タンパク質/アミノ酸/尿素/脂肪などが含まれています。指紋採取の方法は幾つかありますが、汗に含まれるアミノ酸をニンヒドリンを利用して採取する方法が長く使われています。※指紋は汗のアミノ酸なんだ!
・アミノ酸はニンヒドリンと化学反応し、赤紫の化合物(ルーエマンズパープル)をつくります。紙にニンヒドリンの水溶液を噴霧し、それに汗を染ませ指紋を採取します。この方法に改良が加えられ、さらに金属などと反応させ、より鮮明に採取できるようになっています。
<第5章 アミノ酸と美容>
○肌の潤い
・肌の表面は角層で、水分を含み、表面を柔らかく、滑らかにしています。この水分保持は天然保湿因子(NMF)が行っており、その40%がアミノ酸です。また10%は、グルタミン酸が還化したピロリドンカルボン酸(PCA)です。
・まず角層の下でタンパク質フィラグリンが作られます。フィラグリンはアミノ酸に分解され、最終的にPCAなどに変換されます。※詳しく説明されているが省略。
・PCAは高い保湿効果を持ち、保湿剤として利用されています。またフィラグリンの産生が少ない人が、アトピー性皮膚炎になる事も分かってきました。
○肌を守る
・肌には、菌・ダニ/金属・化学物質から守るバリア機能が4つあります。1つは物理的なバリア機能で、角層ではタンパク質ケラチンと脂質が覆い、その下の表皮層ではタンパク質タイトジャンクションが細胞間を塞いでいます。この構造はフィラグリンにより作られます。
・2つ目は抗菌機能で、抗菌ペプチドが担っています。抗菌ペプチドには微生物を殺す効果や、壊れたバリア機能を修復する効果があります。また抗菌ペプチドは汗にも含まれ、肌の外でも殺菌効果を発揮しています。
・3つ目は紫外線からのバリアです。ウロカニン酸は紫外線を吸収します。また次節で解説しますが、メラニンは様々な光を吸収します。4つ目が免疫機能で、侵入した異物から守ります。
○美白
・アミノ酸は肌・髪の色に大きく関与しています。日光を浴びると肌が黒くなるのは、メラニンを作るからです。メラニンはチロシンとシステインが結合した巨大な物質です。メラニンは様々な光を吸収するので黒く見えます。※美白の人は光に弱い。
・チロシンだけでメラニンが作られると黒色のメラニンが作られます。システインが混ざると色が薄くなり、赤褐色・黄褐色になります。メラニン自体を合成できないと、髪は白髪になります。※たまに真っ白な動物が見られるが、メラニンを作る遺伝子が存在しなくなるんだろうな。
○コラーゲン
・コラーゲンは靭帯・骨・血管などに含まれるタンパク質です。コラーゲンは「-グリシン-X-Y-」の配列の繰り返しです。XとYには、プロリン/リジンなどのアミノ酸が入ります。コラーゲンは、このアミノ酸鎖3本が合わさり、らせん構造になり、これが集まって「コラーゲン線維」になっています。コラーゲンはプロリンがヒドロキシプロリンに変換される事で崩れ難くなっています。
・加齢するとコラーゲンを産生されなくなり、壊れたコラーゲンが残り、シワになると考えられます。
○毛髪
・毛髪は外側から、キューティクル/コルテックス/メデュラからなります。キューティクルが複数重なって内部を守りますが、痛むとキューティクルが開き、内部の水分が流れ出ます。コルテックスは毛髪の9割近くを占め、物理的性質(髪質)を決めます。コルテックスはタンパク質ケラチンからなります。メデュラは毛髪の中心部にあります。
・毛髪の9割がケラチンで、他は脂質/メラニン/水などです。ケラチンは硫黄を含むシスチンが主成分です。肌には修復機能がありますが、毛髪にはありません。
○肌の抗酸化
・肌のたるみ/シミ/シワは、老化と太陽光による光老化が原因です。太陽光に含まれる紫外線により作られた活性酸素(ROS)が、タンパク質/脂質(セラミドなど)を酸化します。しかし肌のアミノ酸からなる天然保湿因子(NMF)には抗酸化機能があります。
・例えばニキビはROSの一重項酸素が原因ですが、ヒスチジンは一重項酸素を消去します。またチロシンはROSの毒性の強いペルオキシナイトライトを捕捉して、酸化を抑えます。またコラーゲンに含まれるプロリンは脂質の酸化を抑えます。
・アミノ酸の構造を一部変更(誘導体化)し、抗酸化機能を高めた化粧品もあります。
○化粧品
・肌の天然保湿因子(NMF)のアミノ酸は保湿機能を持ちます。また肌の乾燥を予防・改善するためのスキンクリームには、アミノ酸(アルギニン、グルタミン酸など)が多く含まれています。
・最近ではシャンプー/洗顔フォームにもアミノ酸が利用されています。味の素(株)もアミノ酸由来の洗浄剤成分を工業化しています。※内からも外からもだな。
・洗浄剤成分以外でも、抗菌剤・コンディショニング剤(アルギニン由来)/紫外線防御(チロシン由来)/美白・抗酸化(システイン由来)にアミノ酸が利用されています。
○コラム-化粧品の開発
・グルタミン酸などのアミノ酸は、性質が異なる脂肪酸などと結合します。味の素(株)では、これを利用して化粧品原料を作ってきました。グルタミン酸は、洗浄剤/保湿剤/油剤/ゲル化剤などの化粧品原料に利用されています。
<第6章 アミノ酸とスポーツ>
○スポーツアミノ酸BCAA
・分岐鎖アミノ酸(BCAA)はロイシン/イソロイシン/バリンの総称で、体内で合成できない必須アミノ酸です。BCAAは筋肉に関係が深く、スポーツアミノ酸と云われています。
・筋肉を動かすにはエネルギーが必要で、通常は糖質/脂質が使われますが、これらが少なくなるとBCAAなどのアミノ酸が使われます。また運動後は筋肉がダメージを受けるので、素早く回復する必要があります。BCAAのロイシンはタンパク質の合成を促す機能があるので、筋肉の回復に有効です。なおBCAAは3種類均等に摂取する必要があります。
○持久力
・運動はタンパク質/アミノ酸を消耗するため、長く運動する場合、途中でアミノ酸を補給する必要があります。糖原性アミノ酸は肝臓で糖に変換され、エネルギーとして利用されます。例えばタンパク質の分解で作られたアラニンは肝臓で糖(グルコース)に変換され、筋肉に戻ってエネルギーとして利用されます(グルコース・アラニンサイクル)。同じく糖原性アミノ酸のプロリンは長時間の運動で減少する事が確認されています。
・BCAAも酸化分解され、エネルギーとして利用されます。またBCAAは運動時の筋肉の分解を抑える作用もあります。
○疲労・筋肉痛を回復
・ハードな運動をすると疲労したり、後日筋肉痛を起こしたりします。これらの回復にはアミノ酸の補給が効果的です。特に必須アミノ酸は体内で合成できないため、補給しなければいけません。必須アミノ酸のBCAA(ロイシン/イソロイシン/バリン)は筋肉痛を和らげる効果があります。またアルギニン/グルタミンも疲労回復に役立ちます。
○プロテインで不足がちな栄養素を補給
・アスリートは、一般の人のタンパク質摂取量(60g、※肉魚300gが必要なのか、結構な量だな)の1.5~2倍摂取する必要があります。そのため三食の間(補食)でプロテインを摂っています。プロテインは、牛乳から作られるホエイや大豆から作られます。プロテインは消化器官でアミノ酸に分解され、体に吸収されます。
・体作りには、運動後の筋肉の回復が重要ですが、運動により消化器官も機能が低下しているので、素早く吸収できるアミノ酸を摂取するのが重要です。
○コラム-アスリートの海外での食事
・アスリートが海外に遠征すると、最初は食事が珍しいのですが、次第に飽きて、食欲がなくなります。最近は味噌汁などを提供する宿泊施設もありますが、単に味噌を溶かしただけで、出汁を使っていません。こんな時に「うま味調味料」(グルタミン酸)を持参していれば、食事も美味しくなります。グルタミン酸は唾液分泌を促進する機能もあり、胃腸が疲れたアスリートの食欲を高めます。※そう言えばマラソンの高橋尚子は食欲が凄かったらしい。
<第7章 アミノ酸と医療>
○アミノ酸で癌を見る
・癌細胞は無限に細胞分裂し、通常の細胞と代謝が異なります。そのため血液中のアミノ酸のバランスが変わります。これは早期の癌でも見られる事や、特定の癌で変化するアミノ酸がある事などが分かっています。※癌検診は、まだ個別に検査している。
・アミノ酸の濃度を統計解析の1つ多変量解析する事で、癌の有無を判別できます。この方法を利用したのが「アミノインデックス癌リスクスクリーニング」(AICS)です。この方法は、①1回の採決で複数の癌の罹患を調べることができる、②早期癌を見付けることができるなどのメリットがあります。
○栄養輸液
・栄養輸液は口から食事ができない場合や、緊急に投与が必要な場合に有効な治療法です。水分/電解質/酸塩基平衡の維持のための輸液は、「電解質輸液」と云われます。
・栄養補給のための輸液は「栄養輸液」と云われ、アミノ酸が含まれています。初期は牛乳カゼインや卵白アルブミンから作られていましたが、結晶アミノ酸が作られるようになり、「アミノ酸輸液」が作られるようになりました(※牛乳は凄いな。赤ちゃんはこれだけで生きているからな)。現在では分岐鎖アミノ酸を配合したり、腎不全用に必須アミノ酸を配合したり、肝不全用にアルギニンを配合したりしています。※配合には色々問題があるみたいだが省略。
○クローン病と成分栄養剤
・クローン病は小腸・大腸などで炎症が起こる病気です。腸に潰瘍(深い傷)を作り、腹痛・下痢・血便・発熱・痛み・体重減少などの症状が長く続きます。
・高タンパク質・高脂肪食が症状を悪化させるため、アミノ酸が主成分の「エレンタール」が治療薬です。近年「抗TNF-α抗体製剤」が開発され、治療法が変貌しています。
※クローン病は命名者Crohnからきている。UNIXのコマンドcronは、ギリシャ神Cronusからきている。生物複製のクローン(clone)は、ギリシャ語の集まりが語源。
○肝疾患と分岐鎖アミノ酸
・肝硬変などの肝不全になると、血液中の分岐鎖アミノ酸(BCAA、ロイシン/イソロイシン/バリン)は減少し、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン)が増加します。そのためBCAAを増量したアミノ酸輸液が治療に使われます。
・またタンパク質アルブミンの濃度が低下すると、むくみ/腹水/筋肉の減少が起きます。この場合経口BCAA製剤「リーバクト」が使われます。BCAAを投与すると、合併症の発現を抑制したり、肝細胞癌の発症も抑えるそうです。
○腎不全用栄養剤
・腎臓は血液中の水分や不要になった成分を排出し調節します。腎臓に過度の負担が掛かると炎症を起こし、やがて広がっていきます。腎臓の機能が完全に失われると、透析が必要になります。他に赤血球の産生を促すホルモンや、血圧を調節するホルモンを産生する機能があります。
・腎臓への負担を減らすには、不要な栄養成分を産生させないバランスの良い食事が重要です(※腹八分かな)。腎臓の機能が低下した慢性腎不全では、電解質や尿素の排出を減らすため、塩分やタンパク質の摂取が制限されます。
○癌化学療法
・癌は自分自身の細胞が変化したもので、治療は自分自身を傷付けます。治療手段には手術/抗癌剤(化学療法)/放射線治療があります。
・抗癌剤は細胞の異常増殖を抑えるもので、細胞の増殖が盛んな消化管粘膜/骨髄に強い副作用が現れます。グルタミンは消化管を保護したり、口内炎の治療に使われます。シスチンとテアニンの組み合わせも、下痢/口内炎の治療に使われます。
・抗癌剤による酸化ストレスは細胞にダメージを与えますが、グルタチオンはそれを防御します。グルタチオンはシスチン/テアニンが供給源です。※抗酸化物質グルタチオンは免疫システムで出てきた。
○コラム-成分栄養剤の始まりは宇宙食
・宇宙船は積み荷の制限があり、そのため成分栄養剤の先駆けとなる栄養剤(化学的既成食)が作られました。1981年小越章平と味の素(株)により、成分栄養剤が上市されます。
・成分栄養剤は窒素源がアミノ酸のみで組成されているため、そのまま消化管から吸収されます。脂質も含まれておらず、エネルギー源は糖質になっています。日本で上市されている成分栄養剤に「エレンタール」「へパンED」があります。
<第8章 アミノ酸利用の広がり>
○途上国の栄養改善
・世界の8億人が栄養不良にあり、20億人がビタミン/ミネラルが不足しています。国連は「持続可能な開発目標」(SDGs)を設定し、栄養不足改善の目標を定めました。
・開発途上国では穀類が主食です。ガーナではトウモロコシのお粥「koko」を離乳食にしています。しかしトウモロコシには微量栄養素(?)/タンパク質が不足しています。これが低身長/貧血の原因になっています。これを補う「koko Plus」が開発されました。これには微量栄養素/植物タンパク質(大豆粉)/リジンが含まれています。※テレビCMで見た気がする。
○細胞培養用培地
・iPS細胞などの細胞培養用培地の構成成分として、アミノ酸の重要性が増しています。培地にはグルタミンが多く含まれますが、グルタミンは不安定のため、別のアミノ酸と結合したジペプチドとして供給されています。また細胞種により必要なアミノ酸が変わります。
○アミノ酸コンクリート
・海岸でコンクリートが多く使われていますが、自然環境を破壊する原因になっています。そこで味の素(株)などがアルギニンを含むコンクリートを開発しました(※驚き)。アルギニンはコンクリートから溶け出し、藻類を繁殖させます。藻類は水中の栄養塩類/炭酸ガスを吸収し、浄化します。さらに藻類は貝類・魚類の餌になり、自然環境を守ります。
○動物のエサ
・畜肉の生産量は年2%増え続けています。家畜用の飼料は、大豆粕/トウモロコシなど天然原料が利用されます。
・飼料はアミノ酸を「桶の理論」で配合するのが一般的です。これは個々のアミノ酸を桶の1枚の板に例えるもので、全てのアミノ酸を過不足なく配合する必要があります。そのため天然原料に不足するリジン/メチオニン/スレオニン/トリプトファンなどのアミノ酸を添加する方法が採られています。※この分野は発展の余地が大きいだろうな。
○乳牛用アミノ酸
・乳牛には胃が4つあり、第1胃ルーメンの大きさは200Lもあり(※デカい、関取が入る)、この微生物で揮発性脂肪酸が作られ、エネルギー源になります。またこの微生物はタンパク源になり第4胃以降で吸収されます。そのため吸収されるアミノ酸の5割以上が微生物由来で、残りが飼料由来です。
・ルーメンによる分解を避ける技術が、「バイパスアミノ酸製剤化技術」です。これはルーメンで分解されず、早く通過させ、第4胃以降でアミノ酸を放出します。この技術により、ムダな飼料を与える必要がなくなりました。
○肥料
・植物は、根から吸収したアミノ酸と光合成で生産した炭素源からタンパク質を合成しています。そのため土壌の窒素が不足したり、天候不順で光合成が不十分の場合、アミノ酸の施用が有効になります。またアミノ酸は植物の免疫機能を高める事なども分かってきました。
・アミノ酸肥料として各種発酵液や、魚汁の抽出精製液がありますが、研究は緒に付いたばかりです。
○菌でアミノ酸を作る
・アミノ酸は発酵により作られますが、タンパク質も発酵で作る事ができます。アミノ酸を繋げる順番はDNA(遺伝子)が決めています。この仕組みは全ての生物で共通です。そのため微生物の遺伝子を組み換え、任意のタンパク質をつくる事ができます。
・生産菌ができると、培養条件を最適化し、生産物から不純物を分離(精製)し、目的のタンパク質を取得します。タンパク質は高分子のため、アミノ酸に比べ難度が高くなります。しかし洗剤用の酵素から、医薬品の原料まで幅広い用途があります。
○D-アミノ酸
・生体内のアミノ酸は全てL型と考えられていましたが、D型も存在する事が分かってきました。D-セリンは神経伝達を助け、D-アスパラギン酸はホルモンの産生を助けています。腎臓病/肝臓病になると、D-アミノ酸が増える事も分かってきました。
・細菌はD-アミノ酸を合成する事ができ、チーズ/ヨーグルト/酢/お酒などの発酵食品には、D-アミノ酸が多く含まれています。また貝/エビ/カニなどもD-アミノ酸を多く持ち、浸透圧を調整しています。D-アミノ酸も未知な事が多く、研究が進められています。
○コラム-ノーベル賞とアミノ酸
・2016年大隅良典教授が「オートファジー」でノーベル生理学・医学賞を受賞します。オートファジー(自食作用)は、細胞が自己細胞内の器官を分解する機能です。これにより取り出されたアミノ酸が、エネルギー源や新たなタンパク質を作るために使用されます。
・この現象を最初に発見したのがド・デューブで、1963年リソソームがタンパク質を分解する現象を、オートファジーと命名します。1974年彼もノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
・大隅教授はオートファジーに必要な14種類の遺伝子(※DNAかな)を発見し、その後オートファジーの研究が一気に進んでいます。
・パーキンソン病/アルツハイマー病/ハンチントン病などの神経変性疾患は、オートファジー機能の異常による不要なタンパク質の蓄積が原因と分かってきました(※認知症もかな)。また癌もオートファジーの異常と考えられています。
※頻出回数の多いアミノ酸は、アラニン(5回)、アルギニン(10回)、イソロイシン(5回)、グリシン(6回)、グルタミン(8回)、グルタミン酸(12回)、バリン(5回)、リジン(6回)、ロイシン(7回)、BCAA(8回、イソロイシン、バリン、ロイシン)です。頻出回数からは、グルタミン酸/アルギニン/グルタミン/ロイシンが特に重要かな。