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『残念な政治家を選ばない技術』松田馨(2016年)を読書。

政治家を選ぶ心得を解説しています。
序盤は政治制度、中盤は公職選挙法/投票率などの問題、終盤は選挙の現状/政治と社会などを解説しています。

地方政治に関する本を読む事は少ないので、その辺りは参考になる。

お勧め度:☆☆☆(選挙を身近に思える)
内容:☆☆☆(広範囲の事が解説されている)

キーワード:<はじめに>対話・共感、<選挙の基本>国政選挙/地方選挙、首長/地方議会、二院制/議院内閣制、得票数/当選回数、政治活動/選挙運動、衆議院/解散総選挙、政党、供託金、平等選挙、<どんな人を選べば良いか>首長、地方議会/条例、市町村長、市町村議会議員、都道府県知事、都道府県議会議員、東京都知事、国会議員、小選挙区制、公認・推薦、本部・支部、衆議院議員、参議院議員、<選挙アレルギーの元凶 公職選挙法>買収行為/戸別訪問/文書図画、選挙カー、選挙管理委員会、政治改革、政治運動、<なぜ投票に行かないか>投票率、シルバー・デモクラシー/18歳選挙権、投票所、メディア、組織票、主権者教育、選挙啓発団体、<投票相手はどう選ぶ>選挙リテラシー、政務活動費/身を切る改革、一票、感じる、政治と選挙、ウェブサイト、<選挙現場>選挙プランナー、三浦博史、出馬の掟、エライ方、無投票、風、白票、<これからの選挙>家入一真/ネット選挙/弱いリーダー、駒崎弘樹、社会、一票

<はじめに>
・日本人の大半は、政治家に良いイメージを持っていません。その政治家不信・政治不信の現われが、投票率の低さです。多くの人が、「投票したい人がいない」「ほっといても社会は真面に動く」「自分の人生に影響はない」と考えています。これに対し政治家は、「政治に関心を持って下さい」「政治は身近な課題を解決しています」「社会の未来を真剣に考えましょう」と訴えます。ここには大きな溝があり、対話・共感が必要と感じます。

・著者は選挙プランナーとして、①候補者の熱意/ビジョンを有権者に伝える、②有権者が何を求めているかを候補者に伝える、を心がけています。本書は政治学・法律の専門書ではなく、選挙マニュアルでもありません。選挙で何が起きているのか、どんなルールが存在するかを伝えたいと思います。

<第1章 選挙の基本>
○選挙に行くのに、政治の入門書は必要ない
・普段生活していて、政治の事を考えるのは稀です。選挙期間になると候補者が、「あの議員の国会答弁、あり得ない」と演説しても、意味が分かりません。結局投票に行きません。本書で「選挙リテラシー」を伝えたいと思います。本章では、それに必要な最低限のポイントを解説します。

○選挙はどこかで行われている
・「松田さんは選挙がない時は何をされているのですか」と訊かれますが、「選挙がない時はないんです」が答えになります。日本は国政選挙(衆議院議員選挙、参議院議員選挙)と地方選挙(県知事選挙、県会議員選挙、市長選挙、市会議員選挙など)があり、どこかで選挙をやっているものです。
・18~80歳まで62年間投票すると、衆議院議員選挙20回、参議院議員選挙24回、さらに都道府県知事選挙/市区町村長選挙/各議会議員選挙を加えると104回になります。1年に2回近く選挙があるのです。

○選ぶのは色々な政治家
・国政選挙で選ぶのは「国会議員」です。それ以外の地方選挙では「地方自治体の政治家」を選びます。また地方選挙では「長」と「議員」を選んでいます。それは国と地方でシステムが異なるからです。

○地方選挙は2種類の政治家を選ぶ
・地方自治体(地方公共団体、※以下自治体)には「自分達の都合に合わせた政治」(地方自治)が認められています。自治体の行政機関の長を「首長」と呼びます。首長には予算案を考えたり、それを実行する権限があります。これをチェックするのが議決機関の「地方議会」です。首長は議決を拒否し、再議を要求できます。一方地方議会は首長の不信任を議決でき、互いに緊張感があります。
・住民は両者を選ぶ事ができ、この仕組みを「二元代表制」と云います。

○国政では議員だけを選ぶ
・国政では議員だけを選挙しますが、衆議院議員と参議院議員を選挙します(二院制)。国政の行政機関が「内閣」で、その長が「内閣総理大臣」(※以下首相)です。しかし首相は国会議員の選挙で選ばれます(議院内閣制)。
・なお地方選挙など「地方」を使いますが、これは「一定の地域」を意味します。東京の特別区区長選挙/特別区区議会選挙も地方選挙です。

○地方の政治家と国会議員は仕事内容が異なる
・国会議員は、外交/安全保障/教育/経済/国家財政/社会保障などを担っています。一方地方の政治家は、条例の制定/予算配分/地域の課題解決や発展を担っています。
・「地方分権」と云う言葉がありますが、1993年頃から地方分権改革が進められています。基本的には国会議員と地方の政治家は対等ですが、幾らか国会議員の方がヒエラルキーが高いと感じます。

○得票数が議員の戦闘力
・政治家のヒエラルキーを決めるものに「得票数」「当選回数」があります。選挙区によって当選票数は異なりますが、得票数は絶対的な力になります。負けるにしても得票数は重要になります。また複数回勝ち抜いてきた方の存在感は凄いものがあります。

○政治家の任期は決まっている
・政治家の任期は、参議院議員は6年で、それ以外は4年です。任期が来ると、強制的にクビになります。政治家を続けられるかは、有権者次第なのです。年配であろうと、民間で業績があろうと、1期生・2期生は「こわっぱ」として扱われます。大臣になるには、期数を重ねなければいけません。

○候補者は、政治活動と選挙運動の両方を行う ※活動か運動かに統一して欲しい。
・候補者は選挙で当選するため「選挙運動」をします。これができるのは、公職選挙法で定められた「選挙期間」に限られます。しかしこの「選挙期間」は、一番長い参議院議員選挙/都道府県知事選挙でも17日間しかありません。そのため候補者は、普段は自分の政治的意思を伝える「政治活動」を行っています。
・選挙期間外に選挙運動すると公職選挙法に違反するので、それ以外のロビイング活動/デモ/勉強会/講演会などを行っています。「市議選に立候補するので、一票をお願いします」と言うと違反になるので、ビラ/駅前/集会などで政治的主張をします(第3章で詳しく解説)。

・いずれにしても政治活動/選挙運動は大変で、日々変わる社会情勢と民意に対応し、政治的主張を有権者に分かり易く伝える必要があります。大量の印刷物を作り、様々な組織・団体とコミュニケーションをとり、早起きして駅前に立つ必要があります。それには並外れた気力・体力が必要です。※秘書とか重要だな。お金も幾らでも必要になるな。

○せわしい衆議院、おっとり参議院
・参議院議員以外は原則4年おきに選挙ですが、衆議院は首相に解散権があるので、平均2年半で選挙しています(解散総選挙)。日本は国民主権なので、大きな議題があると国民の民意を問うため、衆議院を解散するのです。ちなみに2005年は「郵政解散」、2014年「アベノミクス解散」と通称されています。そのため衆議院議員は常に選挙に備えています。
・一方参議院議員は任期が6年なので、課題にじっくり取り組めます。参議院は「衆議院の議論に参画する院」です。

○政党をつくると、お金がもらえる
・「政党」は「政治目的を実現するためのグループ」ですが、年始年末になると、政党の合流や新党結成が行われます。それは「政党助成法」により、1月1日時点の政党に対し、「政党助成金」が出るためです。10人に満たなくても、数億円が交付されます。ただし政党助成法/公職選挙法/政治資金規正法/政党法人格付与法が「政党要件」を定めていますが、それぞれ微妙に異なります。また共産党は政党助成金を受け取っていません。

○政党は選挙のために作られる?
・日本には資金周りの規定はあっても、存在意義・ガバナンスを規定する法律はありません。そのため政治家は「選挙に勝つために政党を選んでいる」と云えます。選挙に強い政党が、資金力があり、人手も多く、業界とのパイプもある自民党です。公明党は創価学会が支持母体です。

・野党は「与党から政権を奪う」のを目的としているため、「野党結集」しますが、政策を一致させる事が難しく、上手くいきません。2012年衆院選頃から「第三極」の言葉が使われるようになりました。自民党/民主党(民進党)に続く政党ですが、こちらも上手くいっていません。

○選挙にはお金が掛かる
・選挙にはお金が掛かります。「あちこちで札束を配って」ではありません。まず立候補する際に法務局に預ける「供託金」があります。地方議員で数十万円、それ以外は数百万円です。規定の票を得なければ、没収されます。※オウム事件の遠因とされる。

・東京都知事選挙には15名位が立候補しますが、それぞれが300万円を預けます。供託金の目的は「売名行為の防止」ですが、出たい人は出てきます。むしろ「若い人の参入障壁」「資金力のある政党に有利」などの弊害の方が大きいと思います。
・例えば2010年参院選で「みんなの党」は44人が立候補し、10人が当選しましたが、供託金を2億円以上支払っています。また資金力のある共産党は、衆院選で全ての選挙区に候補者を擁立しますが、比例区と重複させると供託金は18億円になります。

・供託金以外に、ビラを配る、事務所を設ける、選挙カーを走らせるなど、選挙にはお金が掛かるのです。

○選挙に資金力は必要?
・市議会議員に立候補すると100~300万円、首長だと500万円以上、選挙区が広く、選挙期間も長くなる都道府県知事選挙/参議院選挙だと2千万~1億円必要になります。候補者はこれらの資金を、どこから捻出しているのでしょうか。政党が公認すると、「公認料」として援助金が出ます。しかし多くの候補者は私費を使っています。供託金制度や公職選挙法を見直すべきと考えます。

○政治家は有権者の代理人
・政治家には「定数」があります。国会議員の定数は公職選挙法で、地方の議員の定数は地方自治法で決まっています。この定数には、多すぎる/少なすぎるや不平等の問題があります。

・憲法は「平等選挙」を保障していますが、現実は「一票の重み」に格差があります。これに対し最高裁判所は「違憲状態である」と判決しました。そのため2016年参院選では、鳥取・島根/徳島・高知が「合区」になります。
・しかしこれにも問題があります。参議院は本来は「都道府県の代表」で、候補者も有権者もその行政区分に沿った選挙運動/投票行動を取ってきました。そのため「何で他県の代表に投票しないといけないんだ」となっています。米国の上院は全州で同じ定数ですが、下院は人口に応じて配分されています。

・議員の定数に関し、「ろくでもない議員がいるので、定数を減らせ」との意見が多くありますが、彼らを選んだのは有権者なのを忘れてはいけません。定数を減らすより、有権者の代表者を選ぶ意識を高める方が重要です。

<第2章 どんな人を選べば良いか>
○国の制度改革を地方の政治家が約束?
・国会議員/地方議員/首長はそれぞれ役割が異なります。市議会で優秀な人と首長で優秀な人は違いますし、参議院で優秀な人と衆議院で優秀な人も違います。※この辺まで見分けられれば。

・実は候補者自身も分かっていないようです。かつて市長選挙で、マニフェストに「後期高齢者医療制度を廃止します」と書いた候補者がいましたが、これは国の制度です。地方の政治家が作れるのは「条例」です。他にも、外交・安全保障に関する項目をマニフェストに書く地方政治家がいます。
・なぜこんな事が起きるのか、それは候補者がウケが良い言葉で票を集めようとし、それに乗せられる有権者がいるためです。「号泣議員」で有名になった彼は、「大阪維新の会」にあやかり、何の関係もない「西宮維新の会」を設立し、選挙公報には「one 大坂」を文字って「one 西宮」と書いています。

・会社では営業の経験者を経理部に配属する事はありませんし、野球でもピッチャーを4番に据えませんし、サッカーのストライカーとゴールキーパーでは役割が異なります。

○地方の政治家は何をしているのか
・自治体は首長と地方議会で動いています。首長は職員の指揮を執り、議会で決められた内容に従って、行政を進めています。また予算を編成したり、職員の人事を行っています。議会が否決しても、再度審議を要求できます(拒否権)。そのため首長の権限が強過ぎるのではとの指摘もあります。

・一方議会は条例を作ったり、首長が提出した予算案を審議します。議会の3/4の賛成があれば、首長の不信任決議ができます。
・条例はその自治体だけに適用され、「ポイ捨て禁止条例」などがあります。また渋谷区の「同性パートナーシップ条例」のように、国に先行する場合もあります。

○市町村長選挙-2期目の現職を甘やかすな
・基礎自治体の市町村の首長に求められるのは、まずリーダーシップです。職員のモチベーションを高める事が重要です。首長の権限は強いので、「首長が経営する冠婚葬祭会社を使わないと、出世させない」と云った事が起きます。首長には組織の調整力や謙虚さが必要になります。※これで選べとは酷だな。

・市町村長には、市議会議員/県議会議員からなる人が多い。これは首長以外で経験を積み、やがてリーダーシップを発揮して首長になるのです。また国会議員から市町村長選挙に出る事も多くなっています。それは地元の後援会をそのまま使えるからです。
・また首長は現職が圧倒的に強く、2期連続が多くなっています。有権者には、どの候補者が適任かを見極めて欲しいものです。

○市町村議会選挙-首長にベッタリは駄目
・その首長の暴走を止め、住民の声を最も近くで拾う存在が市町村議会です。市町村議会選挙は、大選挙区制です。またリーダーを選ぶのではなく、メンバーを選びます。そのため議会にどんな人物が足らないか、例えば世代/キャリア/考え方などから選んで下さい(※これこそ全員のプロフィールを見る必要がある)。難しいようであれば、働く女性の立場の人/若い人などで選べば良いのです。
・また議員には、異なる立場・考え方の人と議論するコミュニケーション能力が重要です。

・また候補者には二元代表制の目的を理解していない人がいます。よく市長と親密である事をアピールする市議がいますが、望ましいと云えません。
・マスコミが「市長与党」と報道しますが、地方議会には与党/野党はありません。首長と議会が感情的に対立するのは避けるべきですが、「住民福祉の向上」を目的に協力して欲しいです。
・議会の権限も決して弱くありません。コツコツと改革を進める地方議員もいます。有権者は地方議会に、もっと目を向けて欲しいです。

○都道府県知事選挙-基礎自治体を束ねる会長
・都道府県は基礎自治体を纏めた広域自治体です。会社に例えると、市町村長が社長で、知事はグループ会社の会長になります。そのため知事には特に調整力が必要になります。なお人口50万人以上の政令指定都市は都道府県と同じ権限を持つ自治体です。※変だな。政令指定都市でも県知事選/県議選はある。

・都道府県知事は国とのパイプが重要になります。例えば「うちの町に道路を通して欲しい」と云う陳情の仲介を、町と国交省の間でするのです。しかしそれだけでなく、都道府県全体を良く知り、基礎自治体間の調整をする胆力が必要です。
・著者は政治家出身でもなく、官僚出身でもない人の選挙支援をしましたが、彼は県の事を良く知り、周りの人からも応援される人物で、県知事に当選したのは当然だったと思います。

○都道府県議会議員選挙-広い視点で自治体間の調整をする
・都道府県議会議員選挙は複数の選挙区を設け、それぞれから数名の議員を選出します。市町村議会議員は基礎自治体の代表ですが、都道府県議会議員は選挙区の代表になります。しかし一義的には都道府県全体の利益を考えないといけません。そのためには長期的な視野が必要になります。
・知人の県議は市議出身でした。彼は「市議の経験は役に立った。県議になると、基礎自治体の発展には、隣接自治体や県との関係も重要なのが分かった」と言っていました。

○東京都知事選挙-圧倒的黒字都市
・東京都の予算は7兆円で、これは山口県の予算(7千億円)の10倍です。そのため東京都での選挙は、いずれも桁違いのお金が掛かり、政党の支援が不可欠になります。
・そんな特殊な自治体なのに、他の都道府県知事選挙と同じ規定になっています。そのため候補者にとっても過酷ですが、有権者にとっても過酷な選挙です。そのためか「後出しジャンケン」となっています。

○「国民の代表を選ぶ」とは
・次に国政選挙について話します。何度も繰り返しますが、「選挙は国民の代表を選ぶ」のです。国会議員の仕事は、予算の編成/条約の締結/法律の作成にあります。
・社会は大量の法律で育まれ、発展してきました。警察・消防があるのも、歩道を安心して歩けるのも、ドラッグストアで薬を買えるのも、飲食店で適切な価格で食事できるのも、海外旅行できるのも、皆法律のお蔭です。法律は、外交/安全保障/教育/福祉/経済などで、強い想いや明確なビジョンがあって作られます。国会議員はその議論のために存在します。その議論を慎重に行うため、二院制になっています。

・地元への利益誘導を武器にする国会議員もいます。しかし国会議員は「税金の選挙区への再配分」を考える人ではなく、「国家のあるべき姿」を見据えて、尽力できる候補者・政党を選ぶべきです。

○政党を選ぶ選挙
・今の国政選挙は実質、政党を選ぶ選挙です。このスタイルになったのは、1994年衆議院議員選挙が小選挙区比例代表並立制になってからです。それまでは中選挙区制だったので、「政党の対決」ではなく、「会派・派閥の争い」でした。そのため政策による違いではなく、誰が有権者に利益誘導するかで争われました。
・中選挙区制だと、大きな政党の地位は揺るぎません。そのため小選挙区制が導入されました。ところが小選挙区制だと、小政党に圧倒的に不利です。当然「死票」も多く出ます。そのために比例代表制も導入されたのです。小選挙区制により、政党と候補者の関係が強化されました。※小選挙区制はそれなりに問題がある。

○政党と候補者の関係にはグラデーションがある
・政党と候補者の関係には、強い順に公認/推薦/支持/支援があります(※支持と支援は逆の感じがする)。公認されるには政治団体の党員である事が条件です。
・推薦になると政党からスタッフを送られるなどの支援を受けられます。「自民党が公認し、公明党が推薦」や、その逆も行われています。また「政党本部は公認しないが、県連(※後述)が推薦」などもあります。

・国政選挙では当選後は党として活動するので、公認を取るのが一般的です。一方地方の首長・議会選挙では公認を取らず、推薦・支持に止まるのが一般的です。それは政党色を出さない方が浮動票を得票できるからです。
・1人の候補者に複数の政党が推薦・支持を出す「相乗り」も多く見られます。地方選挙で無所属の候補者に、自民党/公明党/民主党/維新の党/社民党が支援と云うのもありました。

○選挙を動かす都道府県支部連合
・自民党/民進党/公明党/共産党などは全国に支部を持っています。自民党は各都道府県に支部を持ち、各自治体に連合会を持ちます。東京都には東京都連があり、千代田区には千代田区総支部があります(※支部と連合会が、説明と逆)。各連合に会長/顧問/幹事長/政調会長などの役職があり、国会議員/地方議会議員などが就いています。
・彼ら(※組織の事かな)は、後援団体や関係する団体を動かす事ができ、また電話を掛ける「名簿」を持っています(※地盤・看板・カバンの地盤だな)。そのため候補者には強力な助けになります。

・ただし党本部と各支部は別組織になっています。公認を得るには、まず区の支部から推薦され、都連の審議会を経て、党本部で公認される必要があります。党本部で公認されないと、「党本部は公認しないが、県連が推薦」となるのです。県連にはプライドがあり、党本部に従わない事もあります。※最近国政選挙で、党本部と県連が別々の候補を立てる事があった。
・党が公認するかは様々な判断基準があると思いますが、「その候補者が勝てるか」が一番大きいと思います。

○衆議院議員選挙-自分達の代表
・最も注目される選挙が衆議院議員選挙です。衆議院議員選挙は「小選挙区」「比例代表」があり、有権者は2票を投じます。候補者はどちらか一方、あるいは両方に立候補が可能です。小選挙区は全国295区で、人口30~40万人になっています。
・比例代表は全国11ブロックで180人が選ばれます。有権者は政党名で投票し、「政党名簿」の順で当選します。ここで起こる現象が「比例復活」で、小選挙区で落選した候補者が、比例代表で当選する現象です。

・衆議院議員は「大衆に代わって議論する議員」で、古くから「代議士」と呼ばれてきました。衆議院には強い権限が与えられ、内閣総理大臣(首相)を輩出できます。閣僚も多くが衆議院から選ばれます。そのため自身の選挙区の利益をひたすら主張する候補者がいますが、国の未来をどうするかを考えている候補者に投票すべきです。
・小選挙区制になり、野党同士が協力する事が多くなりました。そのため政策の軸がブレるようになりました。また自民党にも党の政策に反対する候補者もいます。
・投票に当たって、自分の考えと政党の政策が完全に一致する事は稀です。従って、政策に優先順位を付けて、「自分の考えに一番近い政党」に投票するようにして下さい。

○参議院議員選挙-国会の思考力を高める
・参議院は任期が6年なので慎重に議論する事ができます。選挙があると、人手の確保/印刷物の準備/団体・会社への挨拶など様々な準備が必要になります。いつ選挙になるか分からないと、短期的視野に陥り易くなり、迎合主義になりがちです。参議院の場合、こうしたドタバタを避けられます。そのため参議院議員にはスペシャリストが向いており、「良識の府」と呼ばれます。
・しかし参議院議員と衆議院議員の差がなくなってきています。また参議院には「タレント議員」が出やすい制度になっています。
・参議院も衆議院と同様に、選挙区選挙と比例代表選挙があります。選挙区選挙は都道府県単位で、比例代表選挙は全国のみです。ただし比例代表選挙は政党が決めた順位ではなく、得票数の多い順に当選します。そのため全国的に知名度が高い候補者が、圧倒的に有利になります。
・国会議員は「私達の将来を決める代表」であり、「私達自身」なのです。それを忘れないで下さい。

<第3章 選挙アレルギーの元凶 公職選挙法>
○選挙が怖い/分からないの原因
・選挙の全てを規定しているのが、1950年制定された公職選挙法(※以下公選法)です。この法律は有権者と政治家の関係を決定付け、「公正な選挙」を目的にしています。この法律は定数を定めているだけでなく、「あれはしてはいけない」などの規制が多くなっています。違反すると当選無効や公民権停止などの処分を受けるため、選挙に関わる人は必ず学びます。

・しかし規制内容が広範囲で仔細で、「事務所に来た人にミカンを出すのはOKだが、ケーキはNG」「ビラを配った人にアルバイト料を払うのはNG」「選挙運動した人に、缶ジュースをおごるのはNG」「ポスターを貼った人にアルバイト料を払うのはOKだが、その人が通り掛かった人を誘導するのはNG」「LINEで誘導するのはOKだが、電子メールで誘導するのはNG」などになります。
・そのため初めて立候補する方は「選挙は怖い」となります。その不安を取り除くのが、著者の最初の仕事になります。本章ではこの公選法の内容を説明します。

○公平な選挙、不公平な公選法 ※公正ではなく公平?
・公選法は規制が多いので「べからず法」と呼ばれます。代表的な違反行為は以下です。
 ①買収行為-当選を目的に、有権者・運動員に利益を与える。
 ②利害誘導-利害関係を利用し、投票を誘導する。
 ③戸別訪問-家・会社などを訪問する。※やってるのでは。
 ④自由妨害-選挙運動を妨害したり、利害関係を利用し脅迫する。
 ⑤人気投票の公表-人気投票の結果を公表する。※事前調査をやっている調査機関があるのでは。
 ⑥虚偽事項の公表-経歴・職歴を偽る。
 ⑦事前運動-選挙期間外で選挙運動をする。
 ⑧連呼行為-定められた時間外に連呼行為をする。※単呼ならOK?
 ⑨特定公務員の選挙運動
 ⑩法定外文書図画の頒布-定められた文書図画以外の配布。※団扇はこれかな。タスキ/旗の数まで決められているらしい。
※資金力などで差を付けないため、基本は選挙運動の抑制だな。

・先ほどのミカン/ケーキの話は、①買収行為に当たります。③戸別訪問は金品の授与などに繋がるため、禁止しています。しかし先進国で戸別訪問を禁止している国は珍しい。
・⑩文書図画の掲示は厳しく規制されています。候補者の氏名/候補者が類推される事項/後援団体の名称が入った文書図画は、選挙期間に定められた場所・用途・枚数でしか頒布できません。東京都知事選の場合、ビラの枚数は30万枚に限定されています。これでは全く不足です。※インターネットのホームページ/ブログ/SNSなどは訴求力が高いと思うが、制限なしかな。
・この様に不都合が多いのは、公選法が古いためです。しかし法律として存在するので、候補者はこれとの勝負でもあります。

○選挙カーで候補者名を連呼する理由
・選挙期間になると、選挙カーから名前を連呼する状況に遭遇します。これは公選法によって、走行中の選挙カーでの選挙運動を、「連呼行為」を除いて禁止しているからです。そんな制限があるなら、選挙カーを止めればと思うかもしれませんが、支援者から「私の町には来なかった」と文句が出るのです。
・選挙カーを使わない人や、自転車を使う人もいますが、選挙結果には影響はないみたいです。選挙運動は限定されているので、候補者からすれば使える手段は全て使いたいのでしょう。※必勝のガラス張りの選挙カーとかもあったな。

○選挙管理委員会-民主主義の番人
・選挙違反した時に飛んでくるのは警察です。しかしその前に注意喚起してくれるのが、「選挙管理委員会」(※以下選管)という行政機関です。選管は、日本の全ての選挙を取り仕切っています。投票所入場券が送られてくるのも、投票所のセッティングをするのも選管です。また選挙に関係する人達や、政治団体・政党・候補者などを監視するのも選管です。

・選管には国を担当する「中央選挙管理会」と、各自治体の選挙管理委員会があります。中央選挙管理会は総務省の管轄で、衆参両議院の比例代表選挙や最高裁の国民審査などを担当します。中央選挙管理会の5人の委員は、国会が選出し、首相が任命します。
・中央選挙管理会の下に各都道府県の選管があり、衆議院選挙区/参議院選挙区/都道府県議会/都道府県知事の選挙を担当します。ただし投開票/選挙人名簿の作成・管理などの事務は、各市区町村の選管が担当します。※基本は3階層だな。

・選管は立候補者の手続きを行います。また選挙運動を監視し、疑わしい場合、イエローカードを出します。そのため選挙を支援する著者は、選管と積極的に連絡を取ります。選管は民主主義の根幹である選挙の執行役で、正に「民主主義の番人」です。

・厄介なのは選管毎や選管委員毎に、公選法の解釈が異なる点です。さらに地域性や、県と市で解釈が異なる場合もあります。基本的には上位の解釈を優先します。
・以前、男の子のイラストを載せたビラを配ったのですが、「これは候補者の子供時代を連想させる」と指摘を受けました。最終的にはお咎めを受けなかったのですが、神経を使いました。実際選挙では様々な問題が発生しますが、事例を積み重ねていくしかありません。※選管の話は、初めて知る事が多い。

○選挙制度は「クリーンな選挙」を目指してきた
・公選法の悪い面を説明してきましたが、良い面も説明します。公選法の目的は「選挙の公平性」です(※公平かな、公正では)。お金や支援組織の有無に関係なく、誰でも立候補できる。有権者は買収されたり、利益誘導されず、「公益」を考えて投票できる。そんな選挙を実現するための法律です。※公平性のため、公正な選挙を実施するかな。

・日本の選挙は、明治時代に「25歳以上の男性で、納税額15円以上の有権者」(制限選挙)で始まります。この不平等に対し、戦前のゴールは「25歳以上の男性全員」(男子普通選挙)となります。この時制定された「普通選挙法」が、公選法の前身です。この時代も政府は「選挙粛正運動」を先導し、買収・贈賄などの防止に努めました。
・1945年「20歳以上の男女全員」に選挙権が付与され、1950年「公職選挙法」(公選法)が制定されます。その後大小の改正がなされますが、平成では①1994年連座制の強化/小選挙区比例代表並立制の導入、②2013年インターネット選挙の解禁、③2015年18歳選挙権の解禁がなされています。

○汚職事件と政治改革
・1994年公選法と「政治資金規正法」が改正され、「衆議院議員選挙区画定審議会設置法」「政党助成法」が導入されます。合わせて「政治改革四法」と呼びます。
・政治改革が行われたのは、汚職事件が連続したからです。1988年「リクルート事件」が起きます。これはリクルート社の元会長が、子会社の未公開株を、90名もの政治家・官僚・業界有力者に渡していた大規模贈収賄事件です。1992年には政治家が佐川急便から5億円のヤミ献金を受け取っていた事が発覚します(東京佐川急便事件)。
・そもそも55年体制は80年代から揺らいでいました。ソ連崩壊により日本経済は失速し、そんな時に汚職事件が起き、政権交代したのです。これにより政治改革が行われたのです。

○ルール厳格化で変えられなかったもの
・1994年の改正で、「連座制」が強化されます。これは、「チームで一定の立場の人が違反した場合、リーダーの責任も問われます」。これにより候補者は「秘書が勝手にやった」で「勝ち逃げ」できなくなりました。
・また中選挙区制から小選挙区比例代表並立制に変わり、党の代表同士が争うように変わります。同時に選挙区の区割りをする「衆議院議員選挙区画定審議会」が設置されます。

・「カネの問題」から、「政治資金規正法」で企業・団体から政治家への献金は禁止されます。ただし政党支部(※本部?)への献金は認められます(※実質的には変わらないのでは。自分達には甘過ぎる。ただ透明性は高まるかな)。しかし「政治家を資金面で締め上げるのは良くない」とし、要件を満たした政党に政党助成金を交付するようにします(政党助成法)。これらの改革で、選挙は「札束の応酬」から解放されます。
・しかし根本的な「資金力によって当落が決まる問題」は解消されていません。また高すぎる供託金も、変わる気配がありません。そのため候補者は、公選法/政治資金規正法に抵触しない範囲で選挙運動を行っています。

○バナナはおやつ?
・この様に候補者と公選法の関係は「いたちごっこ」になり、変遷します。政治家への献金は禁止されたので、政治団体への寄付に切り替えます。公選法に違反する活動は「政治活動」に回し、選挙運動と政治活動を使い分けるようになります。しかし選挙運動の定義はないのです。一般的に、①選挙の特定、②候補者の特定、③得票を得るための行為が揃うと、選挙運動となります。
・定番のやり取りに、先生「遠足のおやつは300円までだぞ」、生徒「バナナはおやつですか」があります。これは「おやつ」の定義がないからで、選挙運動も同様なのです。あらゆる行為は「選挙に有利な行為」ですが、行為が選挙運動ではないアリバイがあれば、公選法は効力しません。

○公選法にある「お国柄」
・公選法が曖昧のため、「お国柄」があり、「無公選法地帯」の地域もあります。1台に限定されている選挙カーが、複数台走っている地域があります。本来タスキは選挙グッズですが、選挙期間外でも使用されている地域もあります。これは「選挙期間外の選挙運動」で違法のはずです。その地域では「タスキは名札なので問題ない」となっているのです。

・違法と思われる場合、選管/警察は柔らかく警告し、ゆるゆると調整が行われます。公選法のグレーゾーンはスピード違反に例えられます。80Km制限の高速道路を90kmで走ってみる、しかし100Kmで走ると捕まってしまいます。
・「うちの地区は昔から、こうなんだよ」となっており、各地域で妥協点が出来上がっています。そのため日本を同一基準で捉える事は困難になっています。

○それでも変わっていく選挙制度
・公選法は、増改築を繰り返した古い旅館のイメージです。常連には心地良いのですが、新しい客は満足できません。こんな法律になったのは、政治家が改正に難色を示してきたからです。また公選法は有権者のためにあるのに、その目線が欠如しています。政治家・選挙関係者・知識人の一部が、抜本的改革を主張していますが、大勢になっていません。
・公選法を改正するのは国会議員なので、自分達が不利になる改正をしません。私達ができる事は、そんな選挙に勝つ事しか考えていない政治家を当選させない事です。著者も志を持った方を当選させ、貢献したいと思っています。

・ネット選挙は、現実のネットの活用度の高さから解禁されました。この様に現実と公選法には大きな乖離があるのです。それを表しているのが投票率の低さです。もっと選挙制度への批判を高めるべきです。
・しかし著者は2006年よりこの仕事に就いていますが、ネット選挙の解禁/18歳選挙権の解禁など、少しづつ前進しています。民主主義国家である以上、今後も前進する事を期待します。
※この章はマズマズ面白かった。公職選挙法の抜本的改革が必要か。

<第4章 なぜ投票に行かないか>
○上がらない、悲しき投票率
・選挙日になると「ぜひ投票に行って下さい」との催促の電話が掛かります。これを「追い出し電話」と云います。電話を掛けているのは、立候補者を応援している人で、投票率を上げると有利になると考えている人達です。ただし候補者名を挙げると、違反になります。
・しかし投票率は下がり続けています。2015年統一地方選挙は史上最低を更新しました。国政選挙も下降気味です。著者も投票率を上げるように努めていますが、頭を抱える問題です。

○投票率のリアル
・衆院選/参院選/統一地方選挙の投票率の推移を示しました。衆院選は1958年がピークで、8割近くあります。当時は55年体制が始まった頃で、政治への関心は大変高かったのです。
・1996年投票率は一気に下がります。それは小選挙区制になり、1人しか当選しなくなり、「死票」が多くなったためです(※やはり小選挙区制は民主主義を崩壊させた。国会は議論の場でなくなった)。その後、郵政解散(2005年)/政権交代(2009年)で投票率は上がりますが、次の選挙(2012年)で元の低投票率に戻ります。

・参院選も同様で、1995年の選挙で一気に投票率が下がります。この年にあった阪神淡路大震災/地下鉄サリン事件が影響しました。※そうかな。

○18歳選挙権とシルバー・デモクラシー
・近年選挙界で「シルバー・デモクラシー」「18歳選挙権」の言葉がよく使われます。シルバー・デモクラシーとは、有権者の数が多く、投票率も高いシルバー世代の意見が政治に反映され易い状況を云います。この状況に賛否両論ありますが、これが若者に「投票しても無駄」と思わせ、若者の投票率を下げる原因になっています。

・2015年選挙権を18歳に引き下げる公職選挙法改正案が成立します。総務省・自治体は選挙啓発活動に力を入れます。しかし18・19歳の人口は少なく、投票率も低いので、特に大きな変化はないと考えます。

・18歳選挙権が生きてくるのは、10年後と考えています。2003年と2015年の統一地方選挙の投票率を比較すると、都市部では50.5%→44.2%の低下に対し、都市部以外では55.6%→46.3%の大幅な低下になっています(※これは低下ではなく、同質化かな)。これは都市部以外は高齢化により投票が難しくなったと考えられます。
・これは衆院選の年代別の投票率を見ても理解できます。一番高いのが60代、二番目が50代、次が70代以上となっています。日本の高齢者(65歳以上)は人口の1/4を占めます。それには「団塊の世代」(1947~49年生まれ)が多く含まれ、彼らが70代になると、高齢者の投票率は下がると予測されます。

※年代別の投票率の推移を見ると、面白い事が分かる。歳を取っても、その世代の投票率は変わらない。2000年代に20代の投票率は40%位で、10年後の30代の投票率も40%位(若干上がる)。以下各年代で同様で、2000年代に30代の投票率は50%位で、10年後も同じ。2000年代に40代の投票率は60%位で、10年後も同じ。2000年代に50代の投票率は70%位で、10年後も同じ。要するに年が経つにつれ、政治への関心/投票する意思がなくなっている。なお2000年代に60代の投票率は80%位だが、10年後の70代は60%位に激減する。これは著者の意見と一致する。

・リクルート進学総研が行った高校生への意識調査では、「選挙に必ず行く」35%/「選挙に多分行く」41%でした。カルチュア・コンビニエンス・クラブが行ったアンケートでは、18歳50%/19歳48%/20歳39%が「選挙に行く」と回答しています。これらから10代の選挙への関心は低くありません。
・一方後期高齢者の投票率の低下も問題です。そのため島根県の浜田市選挙管理委員会は移動式の期日前投票所を出動させています。

○なぜ投票は、めんどくさいのか
・2014年衆院選の意識調査で、投票に行かなかった理由は、「関心がない」23%/「仕事」18%/「適当な候補者・政党がない」18%/「解散に納得できない」15%/「政治は変わらない」15%(※以下省略)などです。これは政治と有権者との距離感を感じさせます。
・投票率を高める方法として、「駅・ショッピングセンター・コンビニで投票できる」34%/「投票所が近い」11%などがあります。法改正により、指定場所以外で投票可能な「共通投票所」が設置できるようになりました。また期日前投票の時間も拡大されました。

・愛媛県松山市では、3回連続で20代前半の投票率が上がっています。要因は、①大学内(松山大学)に期日前投票所を設けた、②大学内に選挙啓発活動/投票所設置を行う学生スタッフ「選挙コンシェルジュ」を募集したからです。
・法改正により、自治体の判断で投票所を自由に設置できるようになりました。最近ではショッピングモールに期日前投票所を設ける自治体が増えています。

○投票率を一気に上げる方法
・投票率は報道の量に比例します。2005年「郵政選挙」は、前回の60%から68%に投票率がアップします。これはメディアが「郵政民営化」を繰り返し報道したからです。善悪は別にして、報道の効果は絶大です。

・一方不利なのが地方選挙です。ローカル番組・ローカル紙で取り上げる事はありますが、自治体によっては地方紙より全国紙が強かったりします。またゴールデンタイムに放送される番組は、ドラマ/バラエティや国政に関するニュースで、地方選挙に関する放送はまずありません。
・2011年大阪市長選挙では投票率が44%から61%に上昇します。この時当選したのが全国的に知名度が高い橋下徹でした。この時もメディアの報道が大きく影響しています。

○投票率が上がると、政治家は困る
・かつて自民党の大物政治家が「無党派層は寝ていてくれれば良い」と発言しました。これは無党派層が投票せず、自民党の組織票だけなら、多くの当選者を出せるからです(※具体的な例を説明しているが省略)。
・選挙は「有権者が政治を日々チェックし、必要であれば交代させるシステム」です。このシステムの質は、政治を考え判断できる人の数に比例します。「投票率が低い方が当選する候補者」より、「投票率が高い方が当選する候補者」を応援したいものです。

○あなたが一票を入れる時
・意識調査で「投票の基準」を問うと、「政策」「実績」などです。ところが出口調査で「投票した理由」を訊くと、「人柄」が大変多くなります。結局理屈ではないのです。田中角栄は「戸別訪問3万軒、辻説法5万回」と言っていました。「政策」「思想」より、直接のコミュニケーションが重要なのです。人は頼まれたら断れず、まだ「義理と人情」の世界なのです。定番の「主人を男にしてやって下さい」との訴えは、絶大の効果があります。

・著者はスピーチライティングもしますが、政策の訴えや「目覚めて下さい」などの啓蒙活動より、知人による「○○に一票入れてよ」の訴えの方が効果があると感じます。政策を吟味し投じた一票も、人に頼まれて投じた一票も同じ一票ですが、「考えて投じた一票」の方が重みがあり、それを増やしていきたいと思っています。サミュエル・スマイルズは「国民全体の質が、国の政治の質」と言っています。この意味を考えたいものです。

○高校の現場と主権者教育
・選挙権年齢が引き下げられ、若者の主権者教育が課題になっています。文科省は総務省と連携し『私達が拓く日本の未来 有権者として求められる力を身に付けるために』を製作しました。また「歴史総合」「公共」は高等教育で必修科目になります。特に「公共」はディベート/模擬投票/模擬裁判を行う事になっています。※やっと現実的な社会科になるかな。
・しかし教育現場では、専門家でも方法論が確立していないのに、押し付けて良いのかと思われています。特に進学校では、「日本史」「世界史」以外は重視されず、親達からも批判されています。また「教育基本法」で教員は「政治的中立」を求められているのです。
・この様に国の指導と現場に齟齬が見られます。受験者も「何で主権者教育を受けないといけないんだ」となります。これを打破するためには高校・大学の入試で、主権者教育を問うしかないと考えます。※これは深刻な問題だな。若者が政治から益々離れていく。

○学んだけど、選挙の事は分からない
・2015年NHKが、10代の若者に世論調査しています。「選挙に戸惑いはあるか」の質問に、49%が「ある」と答えています。その理由は「政治が分からない」36%/「どの政党・候補者に投票すべきか分からない」30%です。「選挙の仕組みを理解しているか」の質問に、56%が「理解していない」と答えています。ところが「選挙の仕組みについて学んだか」の質問に、76%が「学んだ」と答えています。※現実の政治は学ばないからな。
・それでは若者に政治を理解する機会は訪れるのでしょうか。就職先で後援会の選挙運動に関わるかもしれません。大学の授業で学ぶかもしれません。結婚・出産により未来を考えるようになるかもしれません。しかし現実は、投票率が下がり続けています。政治側の「政治に関心を持ってくれ」「選挙に行ってくれ」の要望は、有権者の「政治・選挙が分からない」と噛み合っていません。

○選挙啓発団体
・若者に政治に関心を持ってもらうための活動をしている選挙啓発団体があります。これらの団体は各種講演/出前授業/政治家を招いてのイベントなどを行っています。教員や行政職員は、これらの団体と連携して頂きたい。以下に紹介します。

・NPO法人「YouthCreate」-「若者と政治を繋ぐ」をモットーにしています。代表理事の原田謙介は選挙啓発活動のベテランで、先に述べた『私達が拓く日本の未来』を執筆しています。ワークショップでの主権者教育、講演活動、地方議員との「飲み会イベント」なども行っています。彼は政治家と触れ合う事が一番有効と言います。
・学生団体「ivote」-2008年原田氏が創設した学生団体です。国会議員との飲み会イベント「居酒屋ivote」や、池上彰などを招いての勉強会「まなぼーと」や、模擬選挙/出前授業などを行っています。「不偏不党」を活動方針にしているため政治的中立性は確保されます。創設者が去った後もこれらは守られ、発展を続けています。※国会議員/地方議員との飲み会はテレビで見た記憶がある。
・NPO法人「僕らの一歩が日本を変える」-通称「ぼくいち」は学生が主体で、各地で出前授業/人材派遣/プログラム提供/各種イベントを行っています。一番の目玉は「票育プログラム」で、エンターテイメント性があり、中高生に「社会の課題を見つけ出す思考」を体験させる出前授業です。また全国から高校生を募り、国会議員・有識者とディスカッションさせる「高校生100人×国会議員」と云うイベントも行っています。

<第5章 投票相手はどう選ぶ>
○誰に投票したら良いか分からない
・「誰に投票したら良いか分からない」、よく訊かれる質問です。選挙ごとに状況は変わり、立候補者も変わり、有権者の立場も変わるので、答えを出すのは困難です。まず大切なのは選挙に行く事、そして次の選挙にも行く事です。何事も同じですが、「仮説を立て、試行し、結果を検証する」事です。これによりリテラシーが構築されていきます。

・まず選ぶポイントですが、国政であれば、「現政権を支持できるか」です。支持できるなら与党、できないなら野党です。地方政治でも、現状に納得できるなら現職、できないなら現職以外です。また一旦変えてみるのも一つの手です。
・「候補者を応援している人達」も判断材料になります。応援者は著名人/政治家もいれば、政党/労働組合/業界団体/宗教団体などもあります。通常候補者は応援者に「借り」があるので、当選後は借りを返そうとします。応援者も判断材料にして下さい。

・投票後も大切です。自分が選んだかに関係なく、当選者の働きを観察して下さい。地方政治では、この判断は難しいかもしれませんが、些細な事で結構です。役所の対応でも、役所のホームページの情報でも、首長への印象でも結構です。
・悩んで一票を入れ、その結果を次の行動に反映させるのです。これを繰り返すしかありません。この積み重ねにより、あなたの「選挙リテラシー」は築かれるのです。

○政務活動費と「身を切る改革」
・2014年号泣議員が有名になりましたが、そこで問題になったのは「政務活動費」(元政務調査費)です。これは議員報酬とは別に支給されます。ただし正式な支出である証明(報告書、領収書など)を提出する必要があります。しかしこのチェックがザルになっている自治体が多く、マスコミやオンブズマンにより、その不正が度々追及されています。※金券ショップの切手/特急券などもそうかな。

・これらが「政治家は税金で私腹を肥やしている」との不信感に繋がっています。そのため議員報酬の削減/政務活動費の廃止/議員定数の削減などの「身を切る改革」を主張する候補者が多くいます。しかし著者は、「身を切る改革」を主張する候補者も、「お金を使わない政治家が良い」と判断している有権者にも疑問を感じます。現実的に見れば、議員報酬・歳費などは微々たるものです。重要なのは政治家が機能(?)するかです。

○「選挙は続く」ので一票は重い
・「どうせ与党が勝つから、投票は無駄」「投票した人が落選したので、意味がなかった」と思っている有権者が多いと思いますが、これらは間違いです。第1章にも書きましたが、得票数は最高の戦闘力なのです。過去にどれだけ得票したか、落選したけど、幾ら得票したかが政治家に取って重要なのです。

・政治家は普通、一回の選挙で終わりません。自分の意志を成し遂げようと、何度も立候補します。その思いが応援者にも伝わり、応援し続けるのです。その結果、議席に辿り着いた政治家は国政にも地方政治にも沢山います。
・例えば2009年の政権交代は、かつてより民主党を支持していた人がいたからです。1998年民主党は結成されますが、その後10年存続しえたのは、支持者が投票し続けたからです。結党から10年後、「自民党はダメだ」となり民意の受け皿になったのです。

・「一票」は、単に「当落を判断する」だけではないのです。一票は候補者への応援であり、投資であり、期待なのです。※これは認識していなかった。

○あなたは選べている
・「政治は分からない」と言っている人でも、投票できている人は「あなたは選べている」と思います。「この人は感じが良い」「この文章は共感できる」などの勘を大切にして下さい。それが「分かる」を作っていくのです。

・政治家には「有権者は何も分かっていない」と、タカをくくっている人がいます。実際有権者には、マニフェストをしっかり読んでいる人は少ないし、根も葉もないゴシップ・怪文書を信じる人は多いし、特定の政党を口汚く罵る人もいます。
・それでも多くの有権者は「考えて(※感じて?)投票している」と思っています。それは出口調査で投票理由が「人柄」になっている事からも分かります。「この人は本気なのか」「常に前進し、学び続ける気力があるか」「仲間にどう接しているか」「弱い立場の人にどう接しているか」「感謝の気持ちがあるか」「嘘で塗り固めていないか」、有権者はそんな候補者の資質を見ています。

・知人の選挙プロが候補者の演説を聞いて、「この人は落ちる」と感じたそうです。彼の演説には「勝って、これを成し遂げよう」と云う自信(?)が感じられなかったのです。実際その候補者は落選しました。有権者はそれを感じたのです。候補者と有権者はその駆け引きをしているのです。

○投票に正解はない
・「投票に正解はない」のです。これは「誰が当選すべきか」と同じ意味です。政治の状況は常に変化します。また政治は積み重ねであり、ゼロにリセットできないのです。その政治の一部の政治家を選ぶ行為が、選挙なのです。政治家が変わっても、世の中は直ぐに変わりません。これが皆様が「選挙に行っても無駄」と感じる理由かもしれません。※「選挙は政治の一部」、これだと気が楽。

・よく「選挙は戦争」と云われます。しかし勝者が敗者を絶対服従させる事はできません。以前著者が支援した地方選挙で、相手にネガティブキャンペーンする案がありました。ところが地元の応援者の「私達は、これからもここに住み続けるんだ」の声で取り止めになりました。この時も、「政治は積み重ね」と感じました。
・選挙は「社会を少しづつ良くする」ためにあるのです。「絶対にこの人」と思える人がいれば、その人に投票して下さい。そうでないなら「ベスト」でなくても「ベター」でも構いません。各自の人生も同じと思います。あらゆる選択肢から、より「ベター」と思える選択肢を選んでいる思います。

○初めて投票に行く18歳へ
・初めて投票に行く人は「気負わなくて良い」と思っています。これは「始まり」であって、その後も選挙に関わって、それを続けて行けば良いのです。次に投票する時は、「前回誰に投票したか」とか、「その後、政治はどんなに変わったか」などを考えて投票して下さい。投票に「正解」はなく、「失敗」もないのです。とんでもない人を選んだ場合は、首長・地方議員をリコール(解職請求)する事もできます。※こんな場合は普通辞職する。国会議員は別かな。

・どうしても選挙に行きたくなければ、行かなくて良いと思います。ただし著者は「政治に関心を持たなくて、今は後悔している」と云う有権者を多く見ています。
・配偶者・子供を持つと社会の助けが必要になります。また「知りたいのに、分かっていない事」が増えるのです。その頃になると「投票に行ってみようか」と感じ始めます。「家族が安心して暮らすためには、どんな制度があるのか」「市内のどこで、どんなサービスを受けられるのか」「防災対策は、どうなっているのか」。これらの疑問を、有権者と政治家が解決してきたのです。まずは選挙に行って、それを続けて下さい。

○選挙情報を提供するサイト
・本章の最後に、選挙情報を提供するウェブサイトを紹介します。選挙情報を取得するには、広報などよりウェブサイトが充実しています。

-候補者のウェブサイト/SNS
・2013年インターネット選挙が解禁され、多くの政治家がサイトを持っています。まずはプロフィールを見て下さい。次に見るのが、日々のウェブログやSNSです。単に報告しているだけでなく、有権者が求める情報が書かれているかが重要です。

-マスメディアの選挙特設ページ
・朝日新聞(www.asahi.com/senkyo/)、読売新聞(www.yomiuri.co.jp/election/)、毎日新聞(mainichi.jp/senkyo/)、産経新聞(www.sankei.com/politics/newslist/election-n1.html)などがあります。マスメディアの選挙ページは情報量が豊富です。特に選挙情報に強いのが朝日新聞です。「外交・安全保障」「経済・財政」などのカテゴリーに分けています。
・最近では「ボートマッチ」するページもあります。有権者と立候補者の一致度を測る機能があります。2014年衆院選の時、毎日新聞が「えらぼーと」サービスを提供しています。

-「マニフェストスイッチ」(www.manifestojapan.com/)
・2015年統一地方選挙からサービスを開始しています。複数の政治家のマニフェストを閲覧できます。本来マニフェストは書式がないので、各候補者が自由に書いています。このサイトはそれを「政治家を志した理由」「地域のありたい姿」「解決したい問題」「解決するための政策」などに分け、検索を可能にしています。

-「政治山」(seijiyama.jp)
・地方議会や政党・政治家の情報を載せています。官公庁/自治体/政党の政治情報を多く載せており、選挙より行政を重視しています。政党・政治家向けサービスや、セミナーなども開催しています。会員登録した政治家にレポート・論文などを提供させ、双方向の啓蒙活動を行っています。※何か凄そうだな。

-「選挙ドットコム」(go2senkyo.com)
・本サイトの運営に著者も関わっています。この前身は2006年にオープンした「ザ選挙」です。国政選挙・地方選挙の全ての選挙情報を保有しています。「My選挙ページ」サービスで自分が住んでいる場所の全ての選挙情報が閲覧できます。本サイトの特徴は、全国の選管と連絡を取り、地方選挙の情報に強い事です。
・今「投票履歴」サービスを開発中です。これに自分が投票した候補者を残せます。また政策をタグで検索する機能も開発中です。例えば「子育て」で検索すれば、それに関する政治家・政党の情報を得られます。
※沢山のサイトがあるな。今度見させてもらおう。

<第6章 選挙現場 悲喜こもごも>
○選挙のプロ・選挙プランナー
・2008年政界ドラマ『CHANGE』が放映されました。これは木村拓哉が演じる教師が、国会議員になり、首相になるドラマです。このドラマで阿部寛が「選挙プランナー」を演じました。彼は主人公の衆院選/総裁選をサーポートし、やがて官房長官になります。このドラマで選挙プランナーの知名度も上がりました。
・選挙プランナーは、「選挙コンサルタント」「選挙プロ」「選挙参謀」なども名乗っています。議員秘書で選挙のノウハウを蓄積し、選挙参謀になる人もいます。ドラマ『民主』で高橋一生が演じた役がそれです。※色々なドラマがあるんだ。
・選挙には候補者がいて、応援する仲間がいて、さらに投票所にはスタッフなどもいます。本章では、これらの「選挙の現場」を紹介します。

○選挙プランナーの仕事
・選挙プランナーの仕事は大きく分けて3つあります。①スケジュール/予算を組む、②コンプライアンスの徹底、③当選までの戦略作りです。
・①スケジュール/予算を組む-政治家には任期があり、衆議院には解散がありますが、何となく解散の予想ができます。その選挙までの日数からスケジュールを決めます。同時に選挙の規模/候補者の資金に応じ、予算を決めます。※大枠の決定だな。
・②コンプライアンスの徹底-公職選挙法は複雑な規定が多く、「うっかり違反」する恐れがあり、陣営から違反者を出さないよう、研修会などを実施し、「違反ゼロ」を徹底します。
・③当選までの戦略作り-データを分析し、集票戦術を立てます(※著者はデータ分析が得意みたい)。候補者に実現したい政策をヒアリングし、他の候補者と差別化できるPRポイントを考案します。この仕事内容から、広告代理店の仕事に近いと思われるかもしれません。要は「いかに効率良く、候補者を売り込むか」です。

・一昔前選挙プランナーは、強引な集票から「選挙ゴロ」「選挙ブローカー」と呼ばれていました。そのかつての閉ざされた選挙の世界を、元祖選挙プランナーの三浦博史は、「中世の教会が聖書を母国語に訳さなかった」事に例えています。しかし公選法の厳格化で、今は変わっています。
・「選挙のプロ」を名乗るには実績が必要です。それには規模の大きい首長選挙などでの実績が必要になります。

○米国型イメージ戦略の輸入と成功
・1994年公選法の改正は選挙を大きく変えました。先述の三浦氏はその先駆けで、『CHANGE』の監修も担当しています。議員秘書を務めていた彼は、1988年米国国務省に招聘され、渡米します。
・その時民主党マイケル・デュカキスと共和党ジュージ・ブッシュの大統領選があり、彼はトニー・シュワルツ/ディック・モリスなどの選挙コンサルタントと出会います。米国は規制が緩やかなので、各陣営はテレビCM/エンターテイメント性に富んだ演説会/戸別訪問など、自由な選挙運動を繰り広げます。何十億円も費用が掛かるのですが、「金権政治」の雰囲気はなく、お祭りの雰囲気です。そこでは選挙コンサルタントの地位は、必然的に高くなります。彼はそれに感銘を受け、帰国後、選挙コンサルタント会社を興しました。

・戸別訪問/町内での演説/有権者との握手など、直接のコミュニケーションは「地上戦」と云います。一方、ビラ/ポスター/広報誌/インターネットなどを「空中戦」と云います。三浦氏はこの空中戦に力を注ぎ、スタイリッシュなイメージ戦略や、他候補者に対する理論的なネガティブキャンペーンを行います。これらはその後、選挙運動のスタンダードになります。
・著者は選挙プランナーとして話題になりましたが、それは三浦氏が切り開いていたからです。また選挙プランナーがドラマに登場する事もなかったでしょう。

○出馬の掟
・候補者に「私は選挙に勝てるでしょうか」とよく訊かれます。その勝敗ポイントを10個挙げておきます。①立候補する理由、②実現したい政策・政治、③家族の了解、④健康やスキャンダル、⑤これまでの経歴、⑥選挙に注力できるか、⑦選挙を共に闘う仲間、⑧選挙区内の人脈、⑨応援してくれる組織・団体、⑩最低限の資金です。※大きく分けると、人・政策/組織/資金だな。地盤(組織)/看板(経歴)/カバン(資金)と、ほぼ同じだな。
・依頼を受けた時、特に重視するのが①②です。当選は目的ではなく、手段だからです。次に重視するのが③です。選挙運動は相当なストレスになるので、家族の支援は必須です。配偶者が頑張っていると、「あそこの奥さんは本当に良い人」となって、票も集まります。選挙は一人では勝てないのです。

○「わしゃ聞いとらん」トラブル
・よく起きるのが、「わしゃ聞いとらん」トラブルです。これは地元の「エライ方」(政治家OB、自治会会長、名士など)に挨拶せずに立候補すると起きます。政治・選挙の世界は、まだ「メンツの世界」なのです。
・特に首長選挙は1人しか当選しないため、「敵を作らない」事が重要になります。そのためクライアントには、必ず「挨拶回り」してもらいます。そんな人が、それ程集票力があるとは思えないのですが、選挙運動を進める上で、そんな事まで思案を巡らせなければいけません。

○100%勝てる方法
・絶対勝てる方法があります。それは「無投票」になる事です。定数5人に5人しか立候補しないと、必ず当選します。
・以前ある県会議員選挙で定数2に2人が立候補していました。そこに3人目が立候補しようとしたのです。そうすると両陣営は、その人の友人・親族などを探り、立候補しないように圧力を加えました。これには驚きましたが、現実にはあるのです。そのためその選挙区の現職は誰で、引退を予定している人はいるのか、その後釜はいるのかなども調査します。

○風が吹く
・選挙で「風が吹く」の言葉はよく使われます。2005年郵政選挙/2009年政権交代は、「風が吹いた選挙」でした。この場合、追い風の政党は誰が出ても当選する雰囲気になります。
・2009年衆院選で自民党議員から依頼を受けました。彼は2005年郵政選挙の小選挙区で落選し、比例代表で復活当選した議員でした。ところが逆風下の2009年衆院選で小選挙区での当選を要望します。彼とは方針が一致せず、依頼を断りました。結局彼は落選しました。

・しかし風は予測できません。不利と思っていたが、突然追い風に変わる事もありますし、逆に有利と思っていたが、一気に逆風に変わる事もあります。
・普通風を起こすのは国政で、それをメディアが報道する事で作られます。そのため地方政治から風が起きる事は、まずありません(※基地・原発などローカルな問題も多いと思うが)。そのため地方選挙では、その国政での風に依存する候補者が多くいます。ところが重要なのは、選挙区の人達と少しでも合い、一票一票を掘り起こす地味な仕事です。地方選挙で、やたらと国政を批判する候補者がいますが、それは風で勝とうとしている候補者かもしれません。

○白票は麻薬
・選挙の現場で忘れてはいけないのが、選挙管理委員会の方々です。選挙では白票(候補者の名前がない)/無効票(候補者の判別ができない)/持ち帰り票(有権者が持って帰る、※これはあり得る?)が幾らか発生します。選管の集計ミスを、これらで誤魔化す行為があるのです。

・2015年相模原市の市議選で、0.66票の差で落選した候補者が再集計を依頼し、1票が加算され当選しました。また別の市議選では、投票総数より集計表が8票多くなったため、白票8票を持ち帰り票としたのですが、誤魔化せませんでした。
・2013年参院選では白票の水増しが行われました。集計表が300票足らなくなり、それを白票としたのです。ところがそれによりある候補者の得票が0になり、その候補者に投票した人の訴えで、不正が発覚します。※集計中に誰かが300票を処分したのかな。

・これらから「白票は麻薬」と云われる理由が分かると思います。「選挙結果は操作されている」と思われる方がいるかも知れませんが、簡単に操作できる仕組みになっていません。公正な選挙のために丁寧な業務をこなされている方に、敬意を表します。

○選挙プランナーと云う天職
・著者が選挙プランナーになったのは、大学の教授が選挙に出馬し、その広報を手伝ったのが切っ掛けです。それから10年が経ちました。
・同じ市長選でも毎回状況は異なります。選挙の無慈悲さに、この仕事を辞めようと思った事もあります。しかし辞めなかったのは、周りの人から評価して頂いたからです。また辞めようと思っても、依頼が後を絶たなかったのです。今では天職と思っています。

・「天職は自分の好きな仕事ではなく、社会に求められる仕事」と云われた事があります。自分なりにベストを尽くしてきたつもりですし、今後もそうするしかありません。「人間万事塞翁が馬」です。
・10年経っても、投開票日の選挙速報には緊張します。今後もこうした一喜一憂から逃れられないでしょうが、志ある者が政治家となり、本来の目的を果たす手助けをやっていきたいと思っています。

<第7章 これからの選挙>
○唯一引き受けた「勝たなくて良い選挙」
・著者は「勝たなくて良い選挙」を引き受けた事があります。2014年東京都知事選挙です。都知事選は最も苛烈な選挙です。その時は舛添要一(公明党、自民党など)/宇都宮健児(共産党、社民党など)/細川護熙(民主党など)らが立候補し、非自民が割れた事で、舛添氏の圧勝が見えていました。

・この時手伝ったのが、IT実業家の家入一真です。彼は独得な人物で、アイデアマンで、多くのプロジェクトを成功させています。打ち合わせに遅れる/嫌になった仕事から逃げるなど、常識にとらわれない一面も持ちます。
・勝てないと分かっていた選挙でしたが、学ぶ事は多くありました。この「家入選挙」の特徴は、①様々な若者が集まった、②情報の発信より、受信に比重を置いた、③他候補者と闘わなかったにあります。

○出入り自由の選挙事務所
・この選挙では、①選挙違反を出さない、②多くのボランティアに参加してもらう、③参加者に「楽しかった」と思ってもらう、を意識しました。③はこれまで考えた事もないテーマでした。
・家入選挙事務所は、これまでと全く違いました。誰でも自由に出入りができ、フリーター/IT技術者/アーティスト/学生など、様々な人が訪れました。そのため選管に「事務所でテレビゲームをやって良いか」「演説でスモークを焚いて良いか」などを問い合わせ、絶句させました。しかし事務所には大勢の人がやってきて、ポスター貼り/ビラ配りなどを手伝ってくれました。

○ネットから民意、SNSから生まれた政党
・家入選挙の暴挙、いや冒険は、「政策を自分で考えなかった」点です。彼は政策を、有権者にツイッターのハッシュタグで求めたのです。しかしこれで4万件ものコメントを集めました。これを基に、政策ブレーンチームが「僕らの政策」を作りました。
・その内容は、「保育バウチャーの導入」「公共施設へのエレベーターの設置」など基本的なものから、「都の条例を公開し、良いね/悪いねを評価させる」などもありました。この様に「受信」により政策を作成したのです。
・ネット選挙が解禁され、候補者はネットを「情報発信」のツールとして活用してきました。しかし彼はネットを「情報受信」のツールとして活用したのです。

・4万ものコメント(民意)を見て、著者は勇気付けられました。これは「国民の意見に耳を傾け、国民の代わりに議論する」政治家の基本的な役割で、先鋭的な実験になったと思います。情報の発信・受信が組み合わさる事で、ネット選挙は活性化するのではないでしょうか。

○闘わない弱いリーダー
・選挙では「自分は他の候補者より優れている。このポジションに就くのは自分しかいない」と、戦闘モードになるのが普通です。しかし彼は最後まで「闘う」事をしませんでした。他の候補者にツイキャスでの対談を申し込みました。※闘論にならないと、相手は腰が抜けるだろうな。

・しかしこの中に「新しい可能性」を感じました。これまでは政治家には決断力や、批判者に対する「強さ」が求められていました。しかし彼はこれと正反対の態度を取りました。それなのに彼の周りには人が絶えず、少なからぬ人が彼が政治家になるのを期待しました。彼には「弱いリーダー」の資質が見られました。
・「自分は欠けている。だから助けてくれ、手伝ってくれ」。「強いリーダー」が取りこぼした人達が、「みんな俺についてこい」ではない「弱いリーダー」を共感を持って応援していました。

○選挙に勝たなくても、政策は実現できる
・都知事選の投票率は前回の63%から、前日の記録的な大雪により、46%に大幅に下落しました。家入氏の得票数は88,936票(16人中5位)で、泡末候補では1位でした。彼は落選後、「選挙には敗れましたが、『僕らの政策』はこれからも取り組んでいきます」と表明します。これも「当選によって、始めて政策実現の道が開ける」と考えていた著者には衝撃でした。

・「選挙に勝たなくてもできる事」は、少しづつ増えています。近年社会起業家が増え、それは政治・行政に影響を与えています。
・駒崎弘樹はNPO法人「フローレンス」を立ち上げ、病児保育問題の解決に取り組んでいます。他にも待機児童問題・障害児保育問題などにも取り組んでいます。彼の取組は行政に採用されています。※色々あるが省略。
・彼は鳩山内閣で非常勤国家公務員になり、次のように語っています。「これまでは首相になれば、何でもできると思っていた。しかし機構全体が、それをさせないのが分かった」。社会を変えるのに、政治家にならないとできない事もありますが、逆に政治家でない方ができる事が多いのです。今は個人の取組で社会を変えられる時代になったのです(※「天職は社会に求められる仕事」にも通じる)。社会意識の高い人が増えれば、政治・選挙の質も高まるでしょう。※21世紀になり、ソーシャルが注目されるようになった気がする。

○選挙・政治に参加する人は増えるのか
・「政治家を目指す人は増えていますか?」、よく訊かれる質問です。依頼が特に増えていないので、そうは感じません。ただ1995年阪神淡路大震災など、大きな出来事が起きた後は増える気がします。2011年東日本大震災が起き、地元の原発に関心を寄せる人が増えました。
・2015年安保法案も多くの人を国政に向けさせるトピックでした。この時SEALDsなどへのバッシングも目立ちました。著者としては、より多くの人に政治に関心を持ってもらいたいので、これは残念でした。ある学生団体の子が「『お前ら安保法案に反対し、毎日デモをやっているのか』と揶揄される」と愚痴っていました。これは若者が政治に参加するのを否定している腹立たしい発言です。

・18歳選挙権の施行により、学生の政治活動も認められようになりました。しかし校則で「政治活動は届出制」となっている事が多く、選挙運動・投票運動(※投票の催促?)を抑制しています。また貧困・障害・LGBTなどの活動をしたい人には、届出は大きな障壁になります。
・若い人に限らず、政治について声を上げられない状況では、選挙に出る人/投票する人は増えないでしょう。※日本で政治の話題はタブー。
・2014年統一地方選挙は東日本大震災の影響で自粛モードでした。しかしそう云う時こそ候補者は政策を伝え、有権者はそれに耳を傾けて欲しかったです。選挙は日常の一部ですから。

○あなたの一票は何をつくるか
・著者が選挙の世界に入ったのは25歳の時ですが、その原点が小学生の時にありました。島根県は全国で最も投票率が高く、小学校の生徒会長の選挙も活発です。3人の候補者がいて、お調子者の男子/真面目な女子/目立たない細身の女子でした。選挙の最後で体育館で演説がありました。最後に目立たない女子が演説しましたが、途中から熱が入り、「あなたの一票が学校をつくるんです!」と訴えたのです。彼女は落選しましたが、「あなたの一票がつくる」、それが著者の原点になっています。

○選挙リテラシー
・2015年ミャンマーで総選挙が行われました。この選挙でアウン=サン・スー・チーが率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝します。彼女は民主化運動の先頭に立ったため、軍事政権により軟禁されました。彼女の半生は映画『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』で知る事ができます。この中で彼女は「あなたが政治を考えなくても、政治はあなたの事を考える」と言っています。この言葉は日本の「政治に無関心でも、無関係ではいられない」と似ていますが、より惹かれる言葉です。実際政治は私達の事を強く考えていると思います。あなたは「政治は胡散臭い」と思っているかもしれませんが、政治はあなたの事を考えています。従って投票は政治を候補者に託すメッセージであり、投票を通じて政治と対話し続ける事が重要です。

<あとがき>
・政治は連綿と続く営みで、政治家と有権者、どちらかが欠けると成り立ちません。過去から積み重ねられたものを、次の世代にも引き継いでいきたいと感じています。

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