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『好きになる免疫学』萩原清文を読書。

コロナウイルス/免疫などの理解のため、本書を選択。

前半は免疫システムの概要、後半は免疫システムの過剰・過少による疾患を解説。
リンパ球(T細胞、B細胞)が病原体を死滅させる仕組みや、抗体/ワクチンなどについて理解できた。

膨大な量なので、免疫システムを深く知る事ができる。
しかし図や比喩を多く使っているので、分かり易い。

お勧め度:☆☆(量が多い)
内容:☆☆☆(大変詳しい)

キーワード:<免疫学>病原微生物、ワクチン/ジェンナーの種痘、<免疫応答の基本骨格>上皮細胞、胃酸/共生細菌、マクロファージ/サイトカイン、樹状細胞、ヘルパーT細胞、B細胞/抗体、<免疫応答の導火線>パターン認識受容体、飛び道具/フォーク/警報機、エンドソーム/細胞質、トル様変容体/ノッド様変容体/リグアイ様変容体、ペプチドグリカン、<私が私でなくなる>クラスⅠMHC分子/クラスⅡMHC分子、特殊な樹状細胞/クロスプレゼンテーション、細胞傷害性T細胞、<私の敵は数えきれない>末梢リンパ器官、B細胞受容体/抗体、遺伝子、<ハシカに2度罹らない>抗体、中和/オプソニン化/補体、免疫学的記憶、ワクチン療法、<免疫は自分を攻撃しない(前編)>胸腺、細胞死(アポトーシス)、<免疫は自分を攻撃しない(後編)>自己免疫の嵐、免疫学的寛容、妊娠、ナチュラルキラー細胞、<母と子の免疫学>免疫グロブリン、トランスサイトーシス、乳腺/IgA、胎盤/IgG、<適応免疫応答の過剰>臨床免疫、過敏反応/アレルギー、IgE/マスト細胞/2型ヘルパーT細胞、1型ヘルパーT細胞/17型ヘルパーT細胞/濾胞性ヘルパーT細胞、IgG/IgM、結核菌、<自然免疫応答の過剰>マクロファージ/炎症性サイトカイン、全身性炎症反応症候群/敗血症、自己炎症性疾患/痛風/動脈硬化、<自然免疫応答と適応免疫応答の過剰>関節リウマチ/滑膜、末梢性ヘルパーT細胞/異所性リンパ組織、滑膜線維芽細胞/破骨細胞、<腫瘍免疫>癌細胞、遺伝子、免疫監視/免疫学的寛容、チェックポイント阻害、<エイズウイルス>ヘルパーT細胞、抗レトロウイルス療法、免疫不全症、<生命の技法>胚中心/濾胞樹状細胞、開花と刈り込み、脳/星細胞/胸腺上皮細胞、原腸形成

<序曲 免疫学> ※本書の章立ては劇場になっており、途中に談話室/楽屋裏などもある。
・免疫は、「疫」から「免」れる仕組みです。「疫」とは疫病/伝染病などの事です。14世紀欧州でペストにより1/3の人が亡くなりました。「疫病は微生物による」と考えられるようになったのは17世紀です。
・それまでは「人間は、血液/黄胆汁/黒胆汁/粘液の液体からなり、そのアンバランスで病気になる」と考えられていました。そのため血液を抜く方法(瀉血療法)が採られていました。

・17世紀「疫病は微生物による」と考えられるようになり、丁度その頃顕微鏡が誕生します。ところが病原微生物が発見されるのは、200年後の19世紀になってからです。
・19世紀欧州で結核/コレラが流行します。1882年ロベルト・コッホが、結核菌/コレラ菌を発見します。北里柴三郎による破傷風菌(1889年)/ペスト菌(1894年)、志賀潔による赤痢菌(1898年)の発見などもあります。

・1885年ルイ・パスツールは「伝染病から回復した人は、その後は致命的にならない」(二度なし現象)から、コレラ菌を無毒化しニワトリに注射したり、狂犬病の病原を無毒化し人に注射したりして予防できる事を発見します。彼は、これを「ワクチン療法」とします。
・時を17世紀に戻します。17世紀から18世紀にかけて、天然痘が流行ります。しかし牛の乳搾りの女性は、牛の伝染病「牛痘」に罹ると、天然痘に罹らなかったのです。それに気付いたエドワード・ジェンナーが、「牛痘」の膿を子供に注射したのです。すると子供は天然痘に罹らなくなりました(ジェンナーの種痘)。
・これをパスツールが「ワクチン療法」として開発したのです。なお”ワクチン”とは、ジェンナーが目を付けた”雌牛”に由来します。この様にアイデア(概念)から、実用化までに時間が掛るのです。

・人類は病気との闘いです。14世紀ペスト、17世紀天然痘、19世紀コレラ/結核、20世紀にはエイズが登場します。このエイズウイルスは表面の分子を様々に変えるので、ワクチンを作れていません。※そして今はコロナウイルスか。
・この様な中で免疫学が生まれます。しかし免疫の仕組みは単純ではありません。「自分を攻撃せず、自分でないものだけを攻撃する」単純な仕組みではないのです。その代表が子宮の中で育つ胎児です。また癌細胞もこれに相当します。

第1部 病原体との合戦
<前奏曲 自然免疫応答と適応免疫応答>
・免疫応答には、「自然免疫応答」「適応免疫応答」の2種類があります。自然免疫応答は、全ての細胞にある能力で、咳・くしゃみ/下痢なども含まれます。適応免疫応答は、特定の病原体に対応する免疫応答です。いずれの免疫応答も様々な種類の病原体に対応できます。

・防御反応は3段階で行われます。第1段階は感染した場所で、「自然免疫応答」が行われます。ここで活躍するのが「マクロファージ」「樹状細胞」です。第2段階はリンパ節/末梢リンパ器官での「適応免疫応答」です。ここでは「T細胞」「B細胞」が活動します。第3段階は感染した場所に戻り、第2段階で作られたT細胞と「自然免疫応答」で病原体を排除します。※殺菌が行われるのは、第1段階/第3段階みたいだな。

<第1幕 免疫応答の基本骨格>
・病原体にはウイルス/細菌/真菌(カビ)/寄生虫がいます。また感染の仕方には細胞外寄生/細胞内寄生があります。

○決戦前夜-上皮細胞と共生細胞によるバリアー
・「上皮細胞」にもバリアー機能があります。気道の上皮細胞は繊毛を持ちます。また「杯細胞」は粘液を分泌しています。この両者により、病原体は排出されます。これを「物理的バリアー」と呼びます。
・また上皮細胞はリゾチーム/デフェンシンなどの抗菌物資を分泌しています。これを「化学的バリアー」と呼びます。

・食べ物に含まれた病原体は胃酸で殺菌されます。小腸に入ると蠕動運動や腸液により排出されます。大腸には数十兆個の「共生細菌」がいます。

○いざ決戦-マクロファージと樹状細胞
・病原体が上皮細胞の中に入ると、食いしん坊な「マクロファージ」「樹状細胞」が活躍します。彼らは病原体を細胞内に取り込みます(貪食)。さらに彼らは興奮し、マクロファージは白血球を呼び寄せ、樹状細胞は援軍を求めてリンパ節に向かいます。

○マクロファージが鳴らす警報
・細菌が侵入するとマクロファージは警告を発します(※マクロファージは白血球の一種みたい)。これが化学物資「サイトカイン」です(※メッセージ物質/ホルモンの一種かな)。サイトカインには「炎症性サイトカイン」「ケモカイン」があります。
・「炎症性サイトカイン」が放出されると、血管が広がり、血管中を流れる白血球/タンパク質が滲み出し易くなります(滲出)。炎症を起こすと赤く腫れるのはそのためです。またマクロファージは「ケモカイン」も放出します。これに白血球(好中球)が引き寄せられるのです。マクロファージと好中球は病原体を貪食し、それが膿になります。

○談話室-リンパ球とは
・血液は液体成分と血液成分(赤血球、血小板、白血球)からなります。そして白血球は、好中球(貪食する細胞)/単球(マクロファージの前身)/リンパ球などからなります。リンパ球はT細胞/B細胞に分かれます。
・リンパ球は10μmの大きさで(※結構デカいな、肉眼で見えそう)、表面に病原体を捕まえるアンテナ分子(※以下アンテナ)を持っています。病原体の捕らえられる部分が「抗原」で(※コロナの部分だな)、リンパ球のアンテナが「抗原受容体」です。B細胞は抗原を捕まえる「抗体」を発射しますが、T細胞は抗原を捕まえる事ができません。※抗原に対する抗体を作れるかが重要だな。ところで発射とはどんな現象だ。

○走れ!樹状細胞
・一方、樹状細胞は病原体を食べると、「輸入リンパ管」を経由して「リンパ節」に向かいます。リンパ節には、「Tリンパ球」(T細胞)/「Bリンパ球」(B細胞)などのリンパ球がいます。彼らが病原体に応じ個別に対応し、「適応免疫応答」を行います。
・樹状細胞はリンパ節に達すると、取り込んだ抗原を「ヘルパーT細胞」に掲示します。そうすると「ヘルパーT細胞」は「エフェクター・ヘルパーT細胞」に変質し、増殖します。しかしこれには数日が必要になります。

○エフェクター・ヘルパーT細胞
・「エフェクター・ヘルパーT細胞」は血管に入り、感染した場所に呼び寄せられます。そこで樹状細胞から渡された抗原と同じものを、マクロファージから掲示されます。そうするとサイトカインを放出し、マクロファージ/好中球の活動を刺激します。これがヘルパーと呼ばれる所以です。※ヘルパーT細胞もサイトカインを放出するんだ。
※感染場所を火事現場、リンパ節を消防署に例えると良いかな。そうするとマクロファージは現場で消火活動する人、樹状細胞は連絡役、T細胞は消防署から真っ先に駆け付ける指揮官、B細胞は消防士かな。

○適応免疫応答のもう1人の主役
・B細胞も適応免疫応答の主役です。抗原は「輸入リンパ管」を経由して「リンパ節」に届きます。その抗原と一致する受容体を持つB細胞が、それを取り込みます。そして樹状細胞/マクロファージと同じように、それをエフェクター・ヘルパーT細胞に掲示します。そうするとエフェクター・ヘルパーT細胞はサイトカインを放出し、B細胞を刺激します。B細胞は細胞分裂を繰り返し、抗原受容体「抗体」を発射するようになります。
・「抗体」は血菅に入り、感染した場所に呼び寄せられ、病原体に結合します。それをマクロファージ/好中球が貪食します。※抗体の説明が少ないが、後述かな。
※本幕だけで、全部分かった感じ。全部で14幕もある。この4者(好中球を含めると5者)は凄く似ているな。しかしどれかが欠けても機能不全になる。

○楽屋裏-免疫を担当する細胞
・マクロファージの意味は「大食い」です。樹状細胞も食いしん坊です。しかし樹状細胞は食べると直ぐ、リンパ節に駆け込みます。B細胞はY字型のアンテナ(抗原受容体)を量産し、抗体として発射します。ヘルパーT細胞は前者達の司令官です。※他の資料を読むと、T細胞が細胞性免疫で、B細胞が液性免疫みたい。

○談話室-2つの抗原掲示
・ヘルパーT細胞への抗原掲示は2度あります。1回目はリンパ節で樹状細胞が掲示し、2回目は感染場所でマクロファージが掲示します。またリンパ節でB細胞が掲示するのも2回目に含まれます。第6幕でもう1つの掲示を説明します。

<第2幕 免疫応答の導火線>
・マクロファージ/樹状細胞が病原体を認識できるのは「パターン認識受容体」を持っているからです。

○病原体の捕まえ方
・「自然免疫応答」も「適応免疫応答」も病原体を捕まえますが、認識の仕方が違います。まずは適応免疫応答から見ます。ここでの主役はリンパ球(T細胞、B細胞)です。ヘルパーT細胞は樹状細胞が掲示する「抗原」を認識して、活性化します。一方B細胞は抗原を直接認識します。そしてヘルパーT細胞に刺激され、「抗体」を発射します。「T細胞受容体」「B細胞受容体」を「抗原受容体」と呼びます。これらの認識は厳格で、「特異性が高い」と云います。

・適応免疫応答はT細胞/B細胞に限定された免疫応答です。一方自然免疫応答は全ての細胞が持つ免疫応答です。これらの細胞も抗原を認識しますが、T細胞/B細胞ほど厳格ではありません。彼らはパターンで認識しますが、このパターンを「病原体関連分子パターン」と呼びます。※複雑な名前。
・例えば、「これは細菌の細胞壁だな」「これは細菌の鞭毛だな」などで認識しています。これを認識するのが「パターン認識受容体」です。※抗原受容体とパターン認識受容体か。

・1つのT細胞/B細胞は、1種類の抗原受容体しか持ちません。一方普通の細胞は、複数のパターン認識受容体を持ちます。

○談話室-病原体の認識
・T細胞/B細胞が「抗原」を捕らえ、「抗体」を発射する仕組みは、19世紀末から100年かけて解明されました。この「抗原」「抗体」の概念は異なる時期に生まれています。
・初めに生まれたのは「抗体」で、1890年べーリング/北里柴三郎が血液から発見します(この時は抗毒素)。そして1899年抗体を生み出す素が「抗原」とされます。
・一方「病原体関連分子パターン」「パターン認識受容体」は、1989年チャールズ・ジェーンウェイが唱え、数年後に実証しています。※100年遅れだな。

○3種類のパターン認識受容体
・パターン認識受容体は、3種類あります。1つ目は細胞外に飛び出し、病原体(※細菌とあるが病原体で統一)の表面に付着し、免疫応答を発動させます。要するに「飛び道具」です(※学術的な名前はないのかな)。例えば「マンノース結合クレチン」は、病原体のマンノースに結合し、「補体」を呼び覚まします。※ここに補体の説明はない。

・2つ目は、マクロファージなどの貪食細胞の表面にいて、病原体を細胞内に取り込む分子です。要するに「フォーク」の役割をします。例えばマクロファージには「スカベンジャー受容体」があり、病原体だけでなく、酸化したコレステロールも細胞内に取り込みます。※スカベンジは貪食かな。

・3つ目は、全ての細胞にあり、病原体を感知すると警報を出すパターン認識受容体です。要するに「警報機」です。ジェーンウェイがパターン認識受容体の概念を唱え、その後実体が認められたのは、多くはこの種類です。警報には、「白血球よ、集まれ」「ウイルスを増殖させるな」「樹状細胞よ、リンパへ走れ」などがあります。

○警報機の3つの設置場所
・細胞から見ると、病原体の存在場所は3つあります。そのため「警報機」も、3つの場所に設置されています。1つ目は細胞の表面で、ここに設置された警報機は、病原体を感知すると細胞を刺激します。刺激された細胞は「炎症性サイトカイン」を放出し、白血球が集まります。
・2つ目の設置場所は、細胞内の「エンドソーム」(endosome、endoは「内」を意味する)です。エンドソームは細胞の「胃袋」に相当し、細胞外のものを取り込み、酸で消化します。この時、エンドソームの膜に設置された警報機が病原体を認識します。マクロファージ/樹状細胞が病原体を認識するのは、このタイミングです。
・3つ目の設置場所は、細胞内の「細胞質」です。※細胞1つだけでも、ヒトみたいな構造になっているんだ。まあ単細胞の生物もいるからな。

・細胞の表面/エンドソームに設置された警報機は、「トル様変容体」(Toll-Like Receptor、TLR)です。細胞質に設置された警報機は、「ノッド様変容体」(NOD-Like Receptor、NLR)「リグアイ様変容体」(RIG-I-Like Receptor、RLR)です。何れも複数種類あります。※詳しい話になってきた。

○細胞の表面に設置された警報機
・全ての細菌は「内膜」(細胞膜)の外側に、「細胞壁」をまとっています。細胞壁の成分は「ペプチドグリカン」で、アミノ酸と糖で構成されます。ペプチドグリカンは病原体の重要な構造で、病原体を認識する「病原体関連分子パターン」です。
・ちなみに抗生物資「ペニシリン」は、ペプチドグリカンの合成を阻害し、病原体の殺菌します。
・細胞の表面でペプチドグリカンを認識するのがTLR2です。TLR2はTLR1/TLR6と協力し、様々なパターンを認識します。

・さらに細胞壁の外側に、「外膜」をまとったグラム陰性菌などの病原体もいます。これは細胞表面のTLR4が認識し、細胞を活性化させ、「炎症性サイトカイン」を放出させます。また鞭毛を持つ病原体もいます。これは細胞表面のTLR5が認識します。※鞭毛は長い毛が1本で、繊毛は短い毛が複数かな。
※細胞表面には、TLR1/TLR2/TLR4/TLR5/TLR6がいるみたいだな。

○細胞の内側に設置された警報機
・マクロファージ/樹状細胞のエンドソームには、TLR3/TLR7/TLR8/TLR9がいて、ウイルス/細菌の遺伝子を認識します。ヒトの遺伝子は核の中にあり、エンドソームの中の遺伝子を外敵と判断します。
・細胞質には「リグアイ様変容体」(RLR)がいて、侵入したウイルスのRNA遺伝子を認識します。認識すると細胞を活性化させ、ウイルスの増殖を阻止するサイトカインや、「炎症性サイトカイン」を放出させます。

・この様にパターン認識受容体は細胞の内外に存在し、自然免疫応答を発動させます。また樹状細胞により適応免疫応答を誘導します。

○談話室-背が腹にかえられた
・1980年代ショウジョウバエの遺伝子の変異で、腹に背中の構造ができる事が発見されます。この時、発見者が言った言葉が「toll」(見苦しい、凄い)で、それがToll遺伝子の由来です。※Toll遺伝子とトル様変容体は関係があるのかな?
・ヒトには10種類のトル様変容体がありますが、ムラサキウニには200種類のトル様変容体があります。それはウニに適応免疫応答がないためとされます。※自然免疫応答だけで病原体を撃退できるのかな。ヒトは、不要となったトル様変容体の機能を捨てたのかな。

<第3幕 私が私でなくなる>
・抗体は細胞の外にいるウイルスを排除します。本幕は、細胞の中に入ったウイルスを、細胞ごと排除する仕組みを解説します。※コロナウィルスが急激に悪化する現象だな。肺の細胞は一旦死ぬと再生されないと聞いた事がある。

○私を証明するリボン
・ヒトは1個の受精卵が細胞分裂し、37兆個の細胞になります。そのため全ての細胞は同じ「クラスⅠMHC分子」を持っています。これに各細胞が作ったペプチドが結合し、「私」の目印になっています。
・この目印が異なると「細胞傷害性T細胞」が排除します。臓器移植で拒否反応が起こるのは、このためです。※血液では、なぜ起こらないんだ。次節に「赤血球にはその目印がないため、問題は起きない」とあった。

○私が私でなくなった
・ウイルスは細胞に付着すると、自分のペプチドをクラスⅠMHC分子に結合させます。これにより目印が「私」でなくなるのです(自己の非自己化)。

○特殊な樹状細胞
・「特殊な樹状細胞」もウイルスを飲み込み、エンドソームのパターン認識受容体でウィルスを認識します。そしてリンパ節に駆け込みます。ここまでは通常の樹状細胞と同じです。しかし特殊な樹状細胞は、抗原の掲示の仕方が違うのです。

・まず樹状細胞による抗原掲示の「通常ルート」を説明します。細胞の感染には細胞内/細胞外の2種類があります。樹状細胞もそれに応じ、細胞内の抗原はクラスⅠMHC分子に、細胞外の抗原はクラスⅡMHC分子に乗せます。そしてクラスⅠMHC分子に乗せられた抗原は細胞傷害性T細胞に、クラスⅡMHC分子に乗せられた抗原はヘルパーT細胞に掲示されます。
・次に特殊な樹状細胞による抗原掲示の「特殊ルート」を説明します。特殊な樹状細胞はウイルスを飲み込むと、クラスⅠMHC分子/クラスⅡMHC分子の両方に抗原を乗せるのです(クロスプレゼンテーション)。

○特殊な樹状細胞がT細胞の仲人に
・そのため「特殊な樹状細胞」がリンパ節に駆け込むと、ヘルパーT細胞/細胞傷害性T細胞の両方を活性化します。細胞傷害性T細胞は増殖し、血管へ入ります。

○ウイルス感染場所
・サイトカインにより細胞傷害性T細胞は、感染場所に集まります。そこでクラスⅠMHC分子で掲示された抗原を持つ細胞を排除します。
※抗体の説明はほとんどないけど、1部が終わった。

第2部 自己と非自己
<第4幕 私の敵は数えきれない>
・「B細胞は抗体を発射し、病原体を攻撃する」と説明しました。1つのB細胞は、1種類の抗原受容体「B細胞受容体」しか持ちません。これが抗体で、1億種類に近い抗原を捕捉できるとされています。本幕はこのB細胞が主役です。

○談話室-T細胞/マクロファージは自律神経から指令を受ける。
・近年、「自律神経」と免疫との関係が注目されています。自律神経とは胃腸/血圧などを無意識で調節する神経で、交感神経と副交感神経が調節しています。※話が神経系まで拡大した。

・リンパ節は末梢リンパ器官(2次リンパ器官)ですが、ここにも自律神経が分布しています。交感神経がノルアドレナリンを放出すると、T細胞はリンパ節から飛び出さなくなります。ストレスが溜まると免疫力が低下するのは、そのためです。
・脾臓も末梢リンパ器官ですが、脾臓にも自律神経が分布しています。マクロファージは脾臓に多く滞在しますが、そこの自律神経により、興奮を制御されています。
・腸や気道にある「粘膜関連リンパ器官」(※初耳)も末梢リンパ器官です。近年、腸と免疫と神経の関係が注目されています。

○いきなり一休み
・B細胞は、無数の種類のアンテナ(B細胞受容体、抗体)を作ります。※ここで寿司の話が出るが省略。

○設計図を切り貼りしてアンテナを作る
・B細胞のアンテナは、2本の長いタンパク質(heavy chain、H鎖)と、2本の短いタンパク質(light chain、L鎖)からなります。アンテナはタンパク質なので、遺伝子の設計図に基づいて作られます。ところがアンテナの先頭部分は可変領域で、ヒトの場合100万種類以上の抗体が作られます。※「タンパク質の遺伝子は、V遺伝子群/D遺伝子群/J遺伝子群から、1つずつ選ばれる」など、詳しく説明されているが省略。
※これが行われるのは「抗体が作られる時」と書いてある。それなら1つのB細胞から無数の種類の抗体がつくられる。そんな無駄な事をしているのか?そうではなく、1つのB細胞から1種類のB細胞受容体を作り、それを発射・複写するのでは。
※もう1つ疑問がある。ヘルパーT細胞に刺激されてB細胞は増殖するが、各B細胞は同じB細胞受容体を持つのだろうか。これは当然かな。そうしないと増殖する意味がない。

・同じリンパ球のT細胞も同様で、様々な種類のT細胞が作られます。これは利根川進の発見です。

○遺伝子とは
・遺伝子/DNA/染色体/ゲノムなど、似た言葉があります。DNA(デオキシリボ核酸)は、A・G・C・Tの小分子からなる「ひも状」の分子です。遺伝子はDNAの中の、タンパク質の設計図の部分です。このDNAをタンパク質で保護したものが染色体です。この染色体全てがゲノムです。

・タンパク質はアミノ酸が繋がった分子です。遺伝子3つでそのアミノ酸が決定されます。例えば「A-T-G」は、タンパク質の開始で、メチオニンです。次が「C-C-C」であればプロリン、次が「G-A-A」であればグルタミン酸、次が「T-G-A」であれば、タンパク質の終了です。これからメチオニン-プロリン-グルタミン酸のタンパク質が合成されます。※ヒトには10万種類のタンパク質があると聞いたが、その情報がDNAに収まっているのか。しかも遺伝子はDNAの2%しかないらしい。

○遺伝子はどこにある
・DNAは核の中にあり、その中に2万個以上の設計情報(遺伝子)を収めています(※この1個は、タンパク質1つ分かな)。細胞は、合成するタンパク質の遺伝子だけを転写した「mRNA」(messenger RNA)を核外に作成します。

○遺伝子にまつわる見解の変遷
・「ヒトの37兆個の細胞は、全て同じ遺伝子を持つ」とされてきました。ところがB細胞が抗体を作る時、新しい遺伝子(※mRNA?)を作っていました。そのため前の見解が覆ったのです。一方で「ゲノムから、性格や罹る病気なども分かる」との見解も生まれています。

・抗体の遺伝子は、V遺伝子群/D遺伝子群/J遺伝子群から偶然に決まります。そのため遺伝子は2万個余りしかないのに、抗体は1億種類もあるのです。※アンテナ/抗体は細胞の一部(タンパク質の分子)で、抗体自体は遺伝子は持たないのでは?これは抗体を作るためのmRNAで、これを基にB細胞受容体/抗体が作られるのでは。
※本幕は遺伝子の解説が多かった。遺伝子に関してはDNA/ゲノムの本を読んだ事があったので事前知識になった。

<第5幕 ハシカに二度罹らない>
・一度ハシカに罹ると二度罹りません。これはB細胞/T細胞に記憶する機能があるからです。また本幕では「ワクチン療法」ついても解説します。

○リンパ球のアンテナ
・リンパ球(B細胞、T細胞)はアンテナを持っています。その働きを見ます。リンパ球はリンパ節に滞在しています。そこにいるヘルパーT細胞は樹状細胞が掲示する抗原を受け取ると、興奮し増殖します。またB細胞はリンパ節に届いた異物を飲み込み、その抗原をヘルパーT細胞に掲示します。そうするとヘルパーT細胞は、B細胞を刺激し、B細胞は増殖し、抗体を発射します(前述)。※B細胞が抗原に対応する抗体を作れるかは、どこでチェックするんだろう。

○抗体が抗原をやっつける
・抗体が病原体をやっつける方法は、3つあります。1つ目は病原体に取り付き、表面を覆います。これを「中和」と云います。
・2つ目は取り付く事で「ふりかけ」となり、マクロファージ/好中球の食欲をそそります。これを「オプソニン化」と云います。

・3つ目が血液中の「補体」を覚醒します。抗体が病原体に取り付くと、まず補体第1成分(complement1、C1)が覚醒されます。すると第4成分(C4)、次に第2成分(C2)など、次々と連鎖反応が起きます。それによりマクロファージが食べやすくなったり、好中球を呼び寄せたりします。最後に第9成分(C9)の複合体が、病原体の膜に穴を開け、病原体は死滅します。
※抗体様様だな。しかし抗体の種類が1億種類もあれば、どんな病原体も退治できそうだけどな。ところで補体は、誰がどこで作っているんだ。

○一度戦った相手を忘れない
・B細胞はヘルパーT細胞に刺激されて増殖しますが、この時一部が「記憶B細胞」となってリンパ節に残存します(免疫学的記憶)。そのため二度目は罹らないのです。
・T細胞も同様です。ヘルパーT細胞は樹状細胞から抗原を受け取り増殖し、感染場所に駆け付けますが、一部は「記憶ヘルパーT細胞」となって残存します。※兄弟は似ているな。

○ワクチン療法
・この「免疫学的記憶」を利用したのが「ワクチン療法」です。無毒化した病原体を接種し、記憶B細胞を作らせるのです。
※抗体/ワクチンの解説が終わったので、理解できていない部分は、ほぼなくなった。まだ5幕で、1/3だけど。後は病原体の後始末かな。タンパク質に分解して、吸収するのかな。

<第6幕 免疫は自分を攻撃しない(前編)>
・T細胞/B細胞は自己を攻撃しません。それは「胸腺」が教育したからです。

○免疫細胞の生い立ち
・実はT細胞/B細胞/樹状細胞/マクロファージ全てが、1種類の「造血幹細胞」から作られます。まず「骨髄」で造血幹細胞が分裂し、「未熟リンパ球」が作られます。これが「胸腺」の中で「未熟T細胞」になります。そしてこの胸腺の中で、自己/非自己を区別できる「成熟T細胞」になります。

○恐怖の胸腺学校
・「胸腺」学校には、怖い先生(胸腺上皮細胞)がいます。彼は自己抗原を、生徒(未熟T細胞)に見せます。これに強く反応する生徒は、将来自己を攻撃する可能性があるので、失格にします(負の選択)。失格となった生徒は、「アポトーシス」(細胞死)の信号を受け、あらかじめ決められた手順で死にます。

・逆に自己抗原に全く反応しない生徒は「用無し」とされ、生存に必要なシグナルを受け取れず、これもアポトーシスします(無視による死)(※彼は無害と思うけど)。これらにより未熟T細胞の97%が除去されます。※3%しか生き残れないとは、過酷だな。

○選りすぐられた細胞
・”自己抗原に適度に反応する”一握りの生徒(未熟T細胞)だけが、胸腺上皮細胞から生存シグナルを受け取ります(正の選択)。卒業生には目印が与えられ、ヘルパーT細胞/細胞傷害性T細胞の役割が果たせるようになります。

○楽屋裏-アポトーシス
・細胞死には2通りあります。1つは毒物/酸欠などによる物理的・化学的な死で、「ネクローシス」と呼ばれます。もう1つが「アポトーシス」です。こちらは決められた順序でタンパク質を活性化します。※活性化すると死ぬの?

・実はアポトーシスは大切な機能なのです。例えば、オタマジャクシがカエルになるのは、尾がアポトーシスするからです。また人間の指の中に骨があるのは、肉の中心の細胞がアポトーシスし、骨が作られるからです(※1つの細胞が、10ヵ月で人間になるのは神秘的だ)。また戦い終えたリンパ球もアポトーシスします。

<第7幕 免疫は自分を攻撃しない(後編)>
・免疫応答は自己に機能しません。それを「免疫学的寛容」と云いますが、それを解説します。

○自己免疫の嵐
・自己に反応するT細胞/B細胞の多くは、胸腺で除去されます。生き残った自己反応性T細胞/自己反応性B細胞が起こすのが「自己免疫の嵐」です。

○自己免疫の嵐を防ぐ作戦
・「自己免疫の嵐」を防ぐ作戦は、少なくとも4つあります。1つ目は「アナジー」です。通常のヘルパーT細胞は樹状細胞から抗原を掲示され、覚醒します。この時、別の刺激「共刺激」を与えているのです。ところが自己抗原を持った樹状細胞は興奮していないため、自己反応性ヘルパーT細胞に共刺激を与えません。これを「アナジー」(無反応)と呼びます。※通常は樹状細胞のCD80/86と、ヘルパーT細胞のCD28が結び付き、覚醒する。

・2つ目は、「共刺激」を奪い取る作戦です。それでも自己反応性ヘルパーT細胞が共刺激で覚醒された場合、ヘルパーT細胞自身が共刺激を切断します。※詳しくはヘルパーT細胞のCD28がCTLA-4に変わり、興奮が鎮まる。

・3つ目は、自己反応性細胞傷害性T細胞を萎えさせる作戦です(※今度は細胞傷害性T細胞)。細胞傷害性T細胞は増殖し、「自分の細胞」を傷害しようとします。この時、細胞傷害性T細胞の「PD-1」に対し、「自分の細胞」は抑制性受容体「PD-L1」を出し、細胞傷害性T細胞は萎えます。
・共刺激を鎮めるCTLA-4や、細胞傷害性T細胞を萎えさせるPD-L1を「免疫チェックポイント分子」と呼びます。※アンテナで抗原を認識する時、目印で相手を確認するみたいだ。まるで、商談に入る前に、名刺を交わす感じかな。

・4つ目は、自己反応性T細胞を抑え付ける作戦です。それでも活動する場合、「制御性T細胞」がサイトカインを放出し、興奮するT細胞を抑え付けます。※多重セキュリティだな。

○免疫学的寛容
・胸腺での細胞の選別や、リンパ節での細胞同士の働きで「自己免疫の嵐」を抑える事を「免疫学的寛容」と云います。

○自己に対する免疫学的寛容のまとめ
・「免疫学的寛容」を、リンパ球が集う場所から見ます。リンパ球が集う場所には、中枢リンパ器官(1次リンパ器官)/末梢リンパ器官(2次リンパ器官)/末梢組織です。中枢リンパ器官は未熟なリンパ球が成熟する場所で、胸腺などです(※骨髄は含まれないみたい)。末梢リンパ器官は活性化していないリンパ球が集う場所で、リンパ節/脾臓などです。末梢組織は活性化したリンパ球が働く場所です。

・胸腺での細胞の選別を「中枢自己寛容」と云います。またリンパ節での「共刺激」のコントロールや、末梢組織での自己反応性細胞傷害性T細胞を萎えさせる働きや、末梢組織での制御性T細胞の働きを「末梢自己寛容」と云います。

○自分でないものに寛容
・ここまで「自分」に対し免疫応答を起こさない仕組みを見てきました。ここで「自分でないもの」に対し免疫応答を起こさない仕組みを見ます。
・それは「妊娠」です。胎児の細胞は、本来であれば母親の細胞傷害性T細胞に攻撃されます。ところが胎児の細胞(特に胎盤の絨毛上皮細胞)はクラスⅠMHC分子を隠し、攻撃を避けています。※アンテナを出していないのか。

・しかしそれでも「ナチュラルキラー細胞」に攻撃される可能性があります。ナチュラルキラー細胞はクラスⅠMHC分子を隠した細胞を無条件に攻撃します。そのため胎児の細胞は、人類共通の「HLA-G」と云うクラスⅠMHC分子を出して、攻撃を免れています。

<第8幕 母と子の免疫学>
・抗体は免疫グロブリン(immunoglobulin、Ig)とも呼ばれ、IgG/IgA/IgM/IgD/IgEの5種類に分かれます。胎児は胎盤からIgGを受け取り、乳児は母乳を通じIgAを受け取ります。

○抗体のパーツ
・抗体はY字形をしていますが、そのパーツを分ける方法が3つ種類あります(※図があるので分かり易い)。1つ目はY字の上の部分(fragment antigen binding、Fab)と下の部分(fragment crystalizable、Fc)に分ける方法です。「antigen binding」は「抗原と結合する」を、「crystalizable」は「結晶化可能」を意味します。丁度abcになっています。

・2つ目は前述した重鎖(H鎖)/軽鎖(L鎖)に分ける方法です。※抗体は2本のH鎖と2本のL鎖からなります。Y字の上の部分(Fab)はH鎖とL鎖が結合し、下の部分(Fc)はH鎖同士が結合している。

・3つ目も少し述べた、遺伝子が可変の可変領域(V領域)と、固定の定常領域(C領域)です。Y字の上の部分(Fab)の上半分が可変領域(V領域)です。
・抗体はIgG/IgA/IgM/IgD/IgEの5種類に分かれますが、それは「重鎖(H鎖)の定常領域(C領域)」で決まります。※具体的な説明はない。

○トランスサイトーシス
・胎児が胎盤からIgGを受け取るのも、乳児が母乳からIgAを受け取るのも「トランスサイトーシス」を利用しています。

・これを説明する前に、細胞が分子を飲み込む過程が4種類あるので、それを説明します。まずは「エンドサイトーシス」(endocytosis)です。マクロファージや樹状細胞などの細胞は、分子を飲み込み小胞を作ります。この小胞は「エンドサイトーシス小胞」と呼ばれます。「endo」は「内」を意味します。この逆が「エキソサイトーシス」(exocytosis)です。「exo」は「外」を意味します。※何語だろう。インポート/エクスポートとかにしないか。

・分子を取り込み/分泌する過程には2種類あります。1つは取り込んだ側と同じ側に分泌する「リサイクル経路」(recycling)と、反対側に分泌する「トランスサイトーシス」(transcytosis)です。「trans」は「向こう側」を意味します。母から子への抗体の受け渡しは、この「トランスサイトーシス」を利用しています。※この違いは重要でなさそうだが、後で分かる。ここには記されていないが、加工が入るかは重要でないのかな。

○母乳
・まず「乳腺」で母乳が作られる仕組みを説明します。乳腺は「腺房」と「乳管」からなります。腺房は「乳腺上皮細胞」が袋状になっており、その外側に筋上皮細胞が付いています。赤ちゃんが乳首を吸うと筋上皮細胞が収縮し、乳が出るのです。※免疫とは随分話が逸れた。

○細胞の中を横切るIgA
・母乳の生成を詳しく説明します。「乳腺上皮細胞」の内側は「腺腔」です。乳腺上皮細胞は、外側の糖質(乳糖)/脂質(乳脂肪)/タンパク質(カゼイン、抗体など)を、内側の腺腔に送り出します。※これが反対側に送り出すトランスサイトーシスだな。

・脂質は乳腺上皮細胞に取り込まれると「脂肪滴」に成長します。そして腺腔に送り出され、細胞膜に包まれた「乳脂肪球」になります。※細胞ではないのに細胞膜に包まれるのか。
・乳腺上皮細胞は腺腔に、タンパク質も送り出します。カゼイン(チーズの原料)は乳腺上皮細胞が作り、送り出します(エンドサイトーシス)。※乳腺で作られる栄養もあるのか。凄いな。

・抗体IgAを作るのはB細胞です。そのため乳腺上皮細胞はB細胞をそばに呼び寄せ、作られたIgAを腺腔に送り出します(トランスサイトーシス)。
・乳腺上皮細胞の外側の細胞膜には、IgAの下の部分(Fc)を捕捉するFc受容体「ポリIg受容体」があります。ポリIg受容体はIgAを取り込み、そのまま腺腔に送り出されます。乳児は母乳を飲み、他の栄養分は消化しますが、IgAはポリIg受容体に守られているため、消化されません。※カプセル化か、凄い話だ。

○IgGを運ぶ新生児Fc受容体
・母乳はIgAを運びましたが、胎盤はIgGを運びます。ただし母乳は母親側(乳腺)の機能でしたが、胎盤では胎児側の機能になります。

・胎盤の構造は外側から、脱落膜/絨毛膜/羊膜/羊水/胎児となっています。脱落膜だけが母親に由来し、その内側は胎児に由来します(※大半を胎児が作るんだ)。脱落膜に接する絨毛膜には「新生児Fc受容体」(neonatal Fc receptor、FcRn)があり、母親のIgGを捕捉します。

○新生児Fc受容体は慈愛に満ち溢れている
・ここで「新生児Fc受容体」(FcRn)と対照的な分子を紹介します。脂質は水に溶け難いため、血液中ではタンパク質と結合し、粒子「リポタンパク質」(lipoprotein、lipoは脂質を意味する)になっています。
・特にコレステロールを多く含む粒子が、「低比重リポタンパク」(low density lipoprotein、LDL)で、アポリポタンパクBがコレステロール/コレステロールエステル/リン脂質を包み込んだ構造になっています。※悪玉コレステロールだな。巨大だな。

・ここでLDLを運ぶ「低比重リポタンパク受容体」(LDL受容体)を紹介します。LDL受容体は、肝臓の細胞の表面にあり、血液中を流れるLDLを捕捉します。肝臓の細胞は「初期エンドソーム」を作りますが、LDL受容体はLDLを直ぐに手放します。そのためLDLは細胞外に放出されます。※取り込んで、直ぐに放出するのか。無駄な作業だな。
・しかし一部のLDLは「初期エンドソーム」に残り、「後期エンドソーム」になり、さらに消化酵素を含んだ「エンドリソソーム」になり、LDLは消化分解されます(※リソには分解の意味があるみたい)。「エンドリソソーム」は小腸の細胞にもあります。
※何か変だな。小腸は消化分解して栄養分を血液に流し、さらにその栄養分を肝臓が消化分解して蓄積している。2段階になっているが、消化分解の内容が異なるのかな。

・LDL受容体と対照的な分子が「新生児Fc受容体」(FcRn)です。血液中のIgGは血管内皮細胞に飲み込まれ、初期エンドソームに取り込まれます。そこでIgGはFcRnに捕捉されたまま、消化分解されず、留まります。やがてIgGはFcRnに捕捉されたまま、胎児の血液に送り出されます(※トランスサイトーシスだな)。IgGはFcRnに捕捉されたまま、血液中に半年以上も存在します。※そのため半年後くらいから免疫が弱まるのか。

第3部 臨床免疫学
○前奏曲-臨床免疫の地図帳
・臨床免疫の応答の強弱を縦軸に、特異性を横軸にした表が「臨床免疫の地図帳」です。右上(特異性が高く、免疫応答が過剰過激)には、アレルギー(無害な抗原に対する過剰な適応免疫応答)/自己免疫疾患(自己に対する過剰な適応免疫応答)/移植片拒絶反応(移植した臓器に対する過剰な適応免疫応答)が入ります。
・左上(特異性が低く、自然免疫応答が過剰)には、全身性炎症反応症候群(敗血症など)/自己炎症性疾患や動脈硬化/痛風が入ります。

・左下は自然免疫応答が機能しなくなった状態(生体防御不全)で、後天性免疫不全症候群が入ります。
・右下は特定の抗原に対する免疫が低下した状態です。これには前述した「免疫学的寛容」が入ります。※列記されていないけど、ここに入る疾患は様々かな。※免疫応答は過剰でも、過少でも問題だな。

・第3部では、この「臨床免疫の地図帳」を順を追って説明します。※疾患については興味なかったんだけど。事前知識もほとんどない。まだ全体の半分くらいだ。

<第9幕 適応免疫応答の過剰>
○過敏反応とアレルギー
・本幕では「臨床免疫の地図帳」の右上に入るアレルギーについて解説します。その前に「過敏反応」と「アレルギー」にいて述べます。過敏反応には、①免疫応答とは関係しないものと、②適応免疫応答と関係するものがあります(※特異性が高いので、適応免疫応答だけか)。①には牛乳を飲むと下痢をする「乳糖不耐症」などがあります。

・一方②が「アレルギー」です。ただしアレルギーの定義は様々で、抗体IgEの過敏反応だけをアレルギーとする定義もあります。この場合、抗体IgEの抗原は「アレルゲン」と呼ばれます。※抗体以外のB細胞などによる免疫応答はアレルギーに含めないようだ。
・本書では「適応免疫応答に関係する過敏反応」を「広義のアレルギー」、「IgEに関係する過敏反応」を「狭義のアレルギー」とします。また古典的には「IgEに関する過敏反応」を「Ⅰ型過敏反応」、それ以外の過敏反応を、それぞれ「Ⅱ型~Ⅳ型過敏反応」としています。

○IgEがⅠ型過敏反応の引き金
・IgEの抗原(アレルゲン)は、ホコリ/ダニ/花粉などです。B細胞から発射されたIgEは、「マスト細胞」(mast cell)に捕捉されます(※抗体は抗原に取り付くと習ったが)。マスト細胞は皮膚/気道粘膜/腸管粘膜の下に分布しています。マスト細胞は顆粒を持ち、その中に化学伝達物資(ヒスタミン、セロトニン)を保持しています。マスト細胞はIgEを使って、アレルゲンを捕まえ、化学伝達物資を放出します。

○マスト細胞が化学伝達物資を放出すると
・マスト細胞が放出する化学伝達物資にヒスタミンがあります。普通の細胞がヒスタミン受容体でヒスタミンを捉えると、くしゃみ/痒みなど様々な反応を起こします。※ヒスタミンは危険信号だな。細胞は無数の受容体が必要だな。

・花粉による鼻アレルギーを見ます。花粉に対するIgEを鼻粘膜のマスト細胞が捕捉すると、化学伝達物資が神経を刺激し、くしゃみ/鼻水が出ます。また血管の透過性が上がり、タンパク質が沁み出し、鼻が詰まります。
・花粉症に対する目薬/飲み薬は、ヒスタミンの作用を抑える薬です。細胞のヒスタミン受容体に先回りして捕捉される事で、それによる反応を抑制します。

・次に気管支喘息を見ます。気管支喘息ではヒスタミンよりロイコトリエンが重要になります。マスト細胞は顆粒に予めヒスタミンを作っていますが、ロイコトリエンはアレルゲンを捕捉してから、アラキドン酸から作ります。
・ロイコトリエンは気管支の筋肉を収縮させ、気管支が狭くなります。またその後、ロイコトリエンやサイトカインにより白血球が呼び寄せられ、炎症を起こします。これは「遅発相反応」となります。※余計な免疫応答があるもんだ。

○遅れて参上-2型ヘルパーT細胞
・IgEがアレルゲンを捕捉し、直ぐに起こるのが「即時反応」(immediate reaction)で、数時間後に起こるのが「遅発相反応」(late-phase reaction)です。この遅発相反応の主役が、2型ヘルパーT細胞と「好酸球」です。

・実はヘルパーT細胞にも1型/2型など様々な種類があります。ヘルパーT細胞は抗原を捕捉すると、「2型ヘルパーT細胞」(Th2細胞)になります。そしてマスト細胞が呼び寄せる場所に向かいます。※マスト細胞は白血球を呼び寄せるとあったが、ヘルパーT細胞も白血球の一種なので問題ないか。
・そこでTh2細胞はインターロイキン-5を放出し、「好酸球」を活性化します(※インターロイキンはサイトカインの一種)。好酸球は顆粒より化学物資(主要塩基性タンパク質、主要カチオン性タンパク質)を放出します。これは寄生虫を破壊する強力な化学物資です。※顆粒はマスト細胞だけでなく、好酸球にもあるのか。
・またTh2細胞はインターロイキン-4/-13も放出します。これが腸であれば腸液を分泌させ、下痢になります。気管支であれば粘液が分泌され、痰になります。

○ヘルパーT細胞の兄弟
・2型ヘルパーT細胞以外のヘルパーT細胞を紹介します。実は前述したマクロファージ/好中球などを指揮するヘルパーT細胞は、「1型ヘルパーT細胞」です。また好中球を指揮するヘルパーT細胞は、「17型ヘルパーT細胞」です。この名前はインターロイキン-17を放出するからです。

・以前は2型ヘルパーT細胞が、リンパ節でB細胞のIgE産生を指揮していると考えられてきました。今は「濾胞性ヘルパーT細胞」が、リンパ節の濾胞で、B細胞を指揮しているとされます。

・簡単に纏めると、1型ヘルパーT細胞-(直轄部隊)マクロファージ-(指揮対象)マクロファージが飲み込んだ病原体、17型ヘルパーT細胞-好中球-細菌・真菌(カビ)、2型ヘルパーT細胞-好酸球-寄生虫、濾胞性ヘルパーT細胞-B細胞-抗体産生です。※基本的にヘルパーT細胞は指揮官だな。

○Ⅰ型過敏反応の例
・皮膚で「Ⅰ型過敏反応」が起こると、皮膚は赤くなり、腫れ上がり、痒みも起きます。腸で起こると下痢や腹痛を起こします。これは「食物アレルギー」です。最も重篤なのが血管で起こる場合で、血管の透過性が亢進し、血管から体液が流れ出て、血圧が低下します。これが全身で起こるのが「アナフィラキシーショック」です
・これらの「アレルギー」は未解明の事が多くあります。これまでアレルギーの治療法として、少量のアレルゲンを投与して慣らす「脱感作療法」「舌下投与」がありますが、さらに新しい治療法が開発される事を望みます。※直前に、マスト細胞/抗ヒスタミン剤の話があったが。

○IgEが関与しない過敏反応
・「狭義のアレルギー」(Ⅰ型過敏反応)以外の過敏反応を見ます。まず「Ⅱ型過敏反応」は、抗体IgG/IgMによって細胞表面あるいは細胞間で発生します。抗体が抗原に取り付くとオプソニン化や補体が活性化され、抗原は食べられ易くなり、好中球/白血球は呼び寄せられ、抗原に穴を開けます(前述)。この反応が赤血球で起こるのが「自己免疫性溶血性貧血」「血液型不適合輸血」です。※赤血球が食べられる疾患か。

・「Ⅱ型過敏反応」は細胞表面あるいは細胞間で発生しますが、「Ⅲ型過敏反応」はIgG/IgMによって体液中(※血管?)で発生する過敏反応です。可溶性抗原に抗体が取り付くと、「免疫複合体」になります。これが腎臓/肺などの毛細血管に引っ掛かり、その部分に補体/好中球が呼び寄せられ、組織が傷害されます。
・例えば全身の血管で起こると「血清病」になります。腎臓の毛細血管で起きると、「糸球体腎炎」になります。糸球体は毛細血管が糸くずのようになっており、尿を作る組織です。

・「Ⅳ型過敏反応」は上記と異なり、抗体ではなくヘルパーT細胞/細胞傷害性T細胞が関与します。
・結核菌はマクロファージの「エンドソーム」に取り込まれます。エンドソームはプロトン(H⁺)で消化しようとしますが、結核菌はアンモニアを産生したりして、しぶとく生き残ります。さらにエンドソームは活性酸素を注入しますが、結核菌はこれを分解します。普通、エンドソームは強力な消化器官である「リソソーム」と結合しますが、結核菌はその結合を妨げます。
・お手上げとなったマクロファージは、1型ヘルパーT細胞に助けを求めます。マクロファージとT細胞は集団(肉芽種)になり、結核菌の消化を試みます。しかしこれは難儀で、周りの細胞が損傷します。肺結核の吐血は、結核菌が直接の原因ではなく免疫応答が直接の原因です。

○単語帳
・「Ⅳ型過敏反応」はヘルパーT細胞による過敏反応です。結核菌とは別に「遅延型過敏反応」があります。この代表が「ツベルクリン反応」です。これは結核菌を注射し、その反応を見ます。結核菌やBCGに感染していれば、発赤や硬結が見られます。

・「遅延型過敏反応」は前述した「遅発相反応」とは異なります。IgEとマスト細胞が起こす過敏反応の内、分単位で起こるのが「即時反応」で、時間単位で起こるのが「遅発相反応」です。ただし「遅発相反応」はヘルパーT細胞と好酸球による過敏反応のため、「遅延型過敏反応」に含める場合もあります。

<第10幕 自然免疫応答の過剰>
・本幕は「臨床免疫の地図帳」の左上、特異性が低く自然免疫応答が過激な疾患を解説します。マクロファージやそれが放出する炎症性サイトカインが話の中心になります。

○炎症性サイトカインの過剰
・マクロファージ/樹状細胞/マスト細胞は、外界と接する場所にいる門番です。マクロファージは「パターン認識受容体」で病原体を感知し、「炎症性サイトカイン」「ケモカイン」を放出し、炎症反応を起こします。これらは血管を緩め、白血球を呼び寄せ、血管には血栓を作ります。これが全身の血管で起こると、「敗血症」になります。

・「グラム陰性菌」が全身の血管に入った場合を見ます。グラム陰性菌は「リポ多糖」から成る「細胞外膜」をまとっています(※リポは脂質で、リボは糖で、リソは分解かな)。マクロファージはこれを、パターン認識受容体「トル様受容体4」(TLR4)で認識します。するとマクロファージは、「腫瘍壊死因子-α」(tumor necrosis factor-α、TNF-α)/インターロイキン-1β/インターロイキン-6などの「炎症性サイトカイン」を放出します。
・今回のケースは細菌が全身の血管に回っているので、全身の血管が緩み、血圧が低下します(敗血症ショック)。また全身の血管に血栓ができます(播種性血管内凝固症候群)。これらにより心臓/腎臓などに血液が回らなくなります(多臓器不全)。※これらは合併症かな。病原体が全身に入ると怖いな。それにしても医学用語は日本語も外国語も難しい。

・炎症性サイトカインは、外傷や熱傷によっても全身に放出されます。これらは敗血症も含め、「全身性炎症反応症候群」と呼ばれます。

○パターン認識受容体
・炎症性サイトカインが外傷や熱傷によっても全身に放出されるのは、マクロファージなどのパターン認識受容体が病原体だけでなく、細胞が発信する信号も認識するからです。この信号は「傷害関連分子パターン」と呼ばれています。※パターン認識受容体は、病原体関連分子パターンと傷害関連分子パターンを認識するのか。
・細胞内でイオン濃度の変化を感知するのが「ノッド様受容体P3」(NLRP3)です。尿酸結晶などを飲み込むとリソソームが傷害します。※書かれていないが、これらが「傷害関連分子パターン」が発信され、認識されるケースかな。

○合体戦隊「インフラマソーム」
・マクロファージは細胞表面の「トル様受容体」で信号を受け取ると、「NF-κB」(nuclear factor kappa B、※サイトカイン産生の起因となる転写因子かな)を活性化します。核はそれを読み込み、TNF-α/インターロイキン-1βを産生します。TNF-αは直ぐに細胞外に放出されます。

・一方インターロイキン-1βは細胞内に留まります。ノッド様受容体「NLRP3」は巨大な構造体「インフラマソーム」となり、それがインターロイキン-1βを成熟させ、細胞外に放出します。※もう少し複雑な手順が記されているが省略。受容体なのに、サイトカインの放出まで制御しているんだ。
・炎症で体温が高くなるのは、インターロイキン-1βが脳に届き、体温中枢に働くからです。

○自己炎症性疾患
・明らかな原因はないのに、周期的に発熱を繰り返す先天的な疾患「先天性周期性発熱症候群」があります。これは自然免疫応答(先ほどのノッド様受容体「NLRP3」)の遺伝子の異常が原因です。
・先天性周期性発熱症候群を含め、自然免疫応答の遺伝子の異常による疾患が「自己炎症性疾患」です。この「自己」は「自分」の意味ではなく、自然免疫応答の「自動」に近いものです(※安易な翻訳が原因かな)。次幕では、適応免疫応答の正に「自己」に対する疾患、「自己免疫疾患」を解説します。

・自己炎症性疾患は当初は先天的なものだけでしたが、後天的なものも含まれるようになりました。その代表が「痛風」です。これは尿酸結晶を食べたマクロファージが起こす疾患です。痛風の治療薬にコルヒチンがありますが、これはインフラマソームの合体を阻止します。※尿酸結晶って、何だ。
・「動脈硬化」もマクロファージがコレステロールを食べる事で進行するため、自己炎症性疾患に含まれます。

・近年、炎症性サイトカイン(TNF-α、インターロイキン-1β)を直接抑制する薬剤が開発されています。しかし自己炎症性疾患には未解明の部分が多く残されています。※過度の免疫応答と適度の免疫応答の境目だな。

<第11幕 自然免疫応答と適応免疫応答の過剰>
・免疫応答は自然免疫応答と適応免疫応答の協力で行われています。その両方の過剰で起こるのが「関節リウマチ」です。本幕ではこれを解説します。

○クイズコーナー
・「リウマチ性疾患」「自己免疫疾患」「膠原病」の違いは分かりますか(※全く分かりません)。リウマチ性疾患は関節・筋肉が痛む疾患です。自己免疫疾患は免疫応答が自己に向けられる疾患です。
・「変形性関節症」「肩関節周囲炎」(五十肩)はリウマチ性疾患ですが、自己免疫疾患ではありません。逆に「橋本病」「自己免疫性溶血性貧血」は自己免疫疾患ですが、リウマチ性疾患ではありません。また「関節リウマチ」などの膠原病は、リウマチ性疾患と自己免疫疾患の両方の性質を持ちます。※リウマチ性疾患と自己免疫疾患を集合とするベン図がある。その共通部分が膠原病。

○リウマチで働く5人の役者
・関節リウマチで過剰に働くのが「自己反応性ヘルパーT細胞」「自己反応性B細胞」です。また自己反応性ヘルパーT細胞により、マクロファージも活性化され、炎症性サイトカインを放出し続け、炎症は慢性化します。また「滑膜線維芽細胞」「破骨細胞」により関節が破壊されます。

○関節リウマチの現場
・関節は「滑膜」で覆われ、滑膜は「滑膜線維芽細胞」で構成されています。関節リウマチになると、ここで慢性炎症が起き、滑膜線維芽細胞が増殖し、関節を圧迫します。やがて関節を固化します。

○関節リウマチの4つの側面
・関節リウマチについても多くの事が解明されていません。しかしこれには、4つの側面があります。1つ目は、「自己免疫疾患」としての側面です。「Ⅱ型コラーゲン」が自己抗原になっていると考えられています。2つ目の側面は、「慢性炎症」としての側面です。そのため腫れと痛みが生じます。3つ目の側面は、「アポトーシス(プログラムされた細胞死)の異常」です。自己反応性ヘルパーT細胞/滑膜線維芽細胞が、アポトーシスを起こさなくなったと考えられます。4つ目の側面は、「関節の破壊」です。滑膜線維芽細胞/破骨細胞により関節が破壊されます。

○自己免疫疾患としての側面
・関節リウマチでも、自己反応性ヘルパーT細胞を活性化するのは樹状細胞です。「自己免疫の嵐」を防ぐ第2の作戦が、樹状細胞とヘルパーT細胞による自己抗原の授受で、「共刺激」を妨げる「CTLA-4」でした。そのため治療薬として、CTLA-4が使われています。

○様々なヘルパーT細胞
・関節リウマチでも、マクロファージはヘルパーT細胞(主に1型)により活性化されます。また本来B細胞を指揮するのは、リンパ節の「濾胞性ヘルパーT細胞」ですが、滑膜に集まったリンパ球が、リンパ節に類似の組織(異所性リンパ組織、3次リンパ組織、、3次リンパ器官、※先の説明にはなかった)を作るのです。ここで「末梢性ヘルパーT細胞」がB細胞の抗体産生を指揮します。※出張所が作られるのか。
・ここで放出された自己抗体は自己抗原と結合して「免疫複合体」を作り、免疫応答が活発に行われます。※自己が抗原にされるのは怖いな。

・異所性リンパ組織による疾患として、甲状腺での「橋本病」があります。細胞が集まりリンパ組織になり、さらにリンパ組織が集まりリンパ器官になります。

○慢性炎症としての側面
・関節リウマチで活性化されたマクロファージは、TNF-α/インターロイキン-1/インターロイキン-6を放出します。TNF-αはマクロファージ自身を活性化させるため、炎症は慢性化します。そのため治療薬として、炎症性サイトカイン(TNF-α、インターロイキン-6など)を抑制する薬が使用されますが、これにより感染症に罹り易くなったり、感染症が治り難くなります。

○アポトーシスの異常としての側面
・関節リウマチの原因に、アポトーシス(プログラムされた細胞死)しなくなった事もあります。本来は自己反応性T細胞は胸腺でのアポトーシスなどにより、生存できないはずです。※「自己免疫の嵐」を避ける4つの作戦があったが、それを掻い潜ったやつかな。
・また「滑膜線維芽細胞」はアポトーシスしなくなり、増殖し、腫瘍となります。この原因は解明できていません。※本来、細胞にアポトーシスの命令を下すのは誰なんだろう。

○関節を破壊する側面
・関節は「滑膜線維芽細胞」「破骨細胞」により破壊されます。マクロファージが炎症性サイトカインを放出すると、滑膜線維芽細胞は骨を破壊する分子を放出します。これに破骨細胞が反応し、骨を溶かします。

○洗練された治療
・自己免疫疾患に対しては、自己反応性T細胞を抑制する治療が行われます。慢性炎症性疾患に対しては、炎症性サイトカインを抑制する治療が行われます。しかしいずれも完全な治療ではありません。それは関節リウマチの根本原因が分かっていないからです。

○番外編-破骨細胞
・本幕では「破骨細胞」を恐ろしい細胞として説明しましたが、重要な細胞です。破骨細胞は、マクロファージと同じく「骨髄系前駆細胞」から生まれます。それが「骨芽細胞」により育てられ、破骨細胞になります。成熟した破骨細胞は骨を溶かしますが、その後に”育ての親”の骨芽細胞が来て、骨を再構築します。

<第12幕 腫瘍免疫>
○癌細胞
・私達の細胞は増殖しますが、それは適切に制御されています。ところが異常に増殖し(無制限の増殖)、それにより他の細胞を破壊したり(浸潤)、血液に乗り他の場所に移動し、その組織を破壊します(転移)。この細胞を「癌細胞」と云います。癌は「臨床免疫の地図帳」の右下に入る疾患です。

○癌細胞の5つの特徴
・細胞増殖は、増殖を促進するタンパク質と抑制するタンパク質のバランスで調節されます(※詳しく知りたいが、まあ良いか)。ところが癌細胞では、増殖を促進するタンパク質が活性化される一方で、抑制するタンパク質は活性が抑えられます。

・2つ目の特徴は、「細胞死(アポトーシス)からの逸脱」です。正常な細胞は脂肪分裂が有限で、ある回数に達すると、細胞死します。ところが癌細胞は細胞死しません。※遺伝子のコピーミスかな。

・3つ目の特徴は、これらの原因は遺伝子の異常と考えられます。細胞分裂する時、DNAは複製され、エラーを起こすと修復されます。この修復機能が低下したと考えられます。これを「ゲノム不安定性」と云います。
・具体的には細胞増殖を促進する遺伝子や抑制する遺伝子が変異し、これらの遺伝子を「癌遺伝子」と云います。これらの癌細胞は、「非自己」(腫瘍抗原)として認識されます。※非自己として認識されるなら、排除されるのでは。

・4つ目の特徴は、癌細胞は自身の周囲に血管を作らせ、正常な細胞に比べブドウ糖を多く摂取します。
・5つ目の特徴は、癌細胞は免疫応答により攻撃されると思われますが、そうでもありません。慢性の炎症は癌を促進します。例えばB型肝炎ウイルス/C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎は癌を促進します。※この辺りページ調整のためか、説明の多寡がある。

○癌細胞に対する適応免疫応答
・癌細胞は「非自己化」し、適応免疫応答により排除されます。この「免疫監視」は3段階になっています。第1段階は、「特殊な樹状細胞」が癌細胞を飲み込み、異物と認識して興奮します。
・第2段階は、「特殊な樹状細胞」はリンパ節に駆け込み、「細胞傷害性T細胞」「ヘルパーT細胞」に抗原を渡します(クロスプレゼンテーション)。
・第3段階は、活性化された細胞傷害性T細胞は癌細胞を傷害します。※これは正常な流れで、そうならないから増殖を続けるのでは。

○免疫監視からの逃亡
・癌細胞は「免疫学的寛容」を利用し、この免疫監視から逃亡します。胎盤の絨毛上皮細胞は「非自己」を隠す事で、母親の免疫担当細胞(※以下免疫細胞)からの攻撃をかわしていました。癌細胞も同様に振る舞います。
・癌細胞は「クラスⅠMHC分子」を隠し、細胞傷害性T細胞からの攻撃をかわします。またサイトカインのTGF-βを放出し、ヘルパーT細胞を抑え付けます。また細胞傷害性T細胞が差し出す抑制性受容体「PD-1」に対し、肩たたき分子「PD-L1」を差し出します。この様に癌細胞は「免疫学的寛容」を利用します。

○免疫チェックポイントの阻害
・癌細胞に対し、免疫細胞を再活性化する「免疫療法」があります。例えば不活性化された細胞傷害性T細胞を取り出し、活性化させて戻す治療法があります。また癌細胞に免疫を刺激する「共刺激分子」を発現する遺伝子操作して、戻す治療法もあります。
・最近注目されるのが、「免疫チェックポイント分子」(PD-L1など)を阻害する治療法です(チェックポイント阻害)。しかし当然、自己免疫応答の副作用が生じる危険があります。

<第13幕 エイズウイルス>
・1980年WHOが「全世界天然痘根絶宣言」を発表します。天然痘は17~18世紀に猛威を振るいましたが、ワクチンにより根絶されます(※根絶に200年掛ったのか)。しかし翌年「後天性免疫不全症候群」(AIDS、エイズ)が報告されます。このエイズウイルスは、ヒトの免疫応答を根底から破壊します。エイズは「臨床免疫の地図帳」の左下に入る疾患です。

○エイズウイルスは免疫応答の司令官を破壊する
・免疫細胞にはマクロファージ/樹状細胞/好中球/好酸球/B細胞/T細胞などがあります。エイズウイルスは免疫応答を指揮するヘルパーT細胞に感染し、破壊します。エイズウイルスはヘルパーT細胞の目印であるCD4分子に取り付き、徐々にヘルパーT細胞を破壊し、次のヘルパーT細胞に感染します。※最強のウイルスだな。

○路頭に迷う実働部隊
・ヘルパーT細胞には、1型ヘルパーT細胞/17型ヘルパーT細胞/2型ヘルパーT細胞/濾胞性ヘルパーT細胞があり、それぞれが指揮する実働部隊(マクロファージ、好中球、好酸球、B細胞)を持ちます。そのためヘルパーT細胞が破壊されると、免疫応答ができなくなり、命が奪われます。しかもエイズウイルスは直ぐに人の命を奪はないため、感染した人の性交渉などにより伝播します。

○エイズウイルスは変身する
・エイズウイルスに対するワクチンは開発されていません。それはタンパク質(遺伝子)の変化が目まぐるしいからです。

○抗レトロウイルス療法
・そこで開発されたのが、3種類の薬剤でウイルスの増殖を阻害する「抗レトロウイルス療法」です。レトロウイルスは「逆転写酵素」を持つウイルスで、エイズウイルスも含まれます。DNAからRNAを合成するのが「転写」で、RNAからDNAを合成するのが「逆転写」です(※逆転写って不思議な反応だな)。抗レトロウイルス療法は、逆転写酵素の働きを抑える薬剤や、ウイルスの遺伝子をヒトのDNAに潜り込ませるインテグラーゼをブロックする薬剤などを使います。この治療法により、エイズウイルスの量を減らし、疾患の進行を抑えます。

・しかし問題は幾つかあります。1つ目はエイズウイルスは根絶できないため、薬を飲み続ける必要があります。2つ目は、免疫力が回復した時、強い炎症反応が起きます(免疫再構築症候群)。3つ目は、費用の問題で、1人で1億円が掛かります。

○単語帳-原発性免疫不全症
・「免疫不全症」には「原発性免疫不全症」「続発性免疫不全症」があります。前者は先天的なもので、後者は後天的なものです(※それなら先天性/後天性を使えば)。後者に「後天性免疫不全症候群」(エイズ)、栄養不良による免疫不全症、薬剤による免疫不全症などが含まれます。
・ところが2011年、自然免疫応答の過剰による「自己炎症性疾患」が「原発性免疫不全症」に含まれる事になりました。これは「不全」ではなく「過剰」なので、「免疫不全」は「免疫制御不全」と解釈を改める必要があります。※とんでもない改正だな。

○談話室-体液性免疫
・免疫応答は、「自然免疫応答」「適応免疫応答」に区別されます。適応免疫応答は、さらに「体液性免疫」「細胞性免疫」に区別されます。体液性免疫は抗体が主体で、細胞性免疫はT細胞が主体ですが、様々な免疫細胞が協力します。

・この体液性免疫/細胞性免疫が明確になったのは1965年で、体液性免疫を担うリンパ球(B細胞)は、ニワトリのファブリキウス嚢(Bursa of Fabricius)、細胞性免疫を担うリンパ球(T細胞)は、同じくニワトリの胸腺(Thymus)に由来します。
・しかし哺乳類にはファブリキウス嚢がないため謎でしたが、1974年B細胞が肝臓/骨髄で作られる事が発見されます。たまたま骨髄(Bone marrow)もBで始まりました。体液性免疫(humoral immunity)におけるユーモア(humor)な話です。

○間奏曲-真理と云う大海原
・第3部は臨床免疫学の全体像を見ました。これらの治療法は目覚ましく発展しています。「関節リウマチ」では炎症性サイトカインを抑える治療法や、共刺激を遮断する治療法が行われています。「腫瘍免疫」では「チェックポイント阻害療法」が行われています。これらは人間の英知の結集です。しかし「アレルギー」「自己炎症性疾患」「関節リウマチ」「癌」「エイズ」、何れも未知の部分が多くあります。
・ここでニュートンの言葉を紹介します(※随分長いので省略)。彼は自分の発見を「小石」「貝殻」に例えているのです。ただ最後の「whilst the great ocean of truth lay all undiscovered before me」だけは、皆さんと共有したいと思います。

<第14幕 生命の技法>
○主題と変奏
・様々な免疫細胞のドラマを見てきました。これらは「造血幹細胞」から作られます。37兆個の細胞も、本を正せば1つの「受精卵」です。これは音楽の主題と変奏の関係のようです。

○試行錯誤の極み
・抗体は遺伝子がランダムに組み合わされるため、無数の種類になります。B細胞はリンパ節でヘルパーT細胞に刺激され増殖しますが、その時「胚中心」を作ります。ここはB細胞が増殖する場ですが、沢山のB細胞が細胞死する場でもあります。
・B細胞は、後に抗体として発射される「B細胞受容体」を持ちますが、高い頻度で変異し、これは「体細胞超変異」と呼ばれます。B細胞は胚中心で増殖しますが、大半のB細胞が抗原に結合できないため、細胞死(アポトーシス)します。
・胚中心にはB細胞受容体の品質をチェックする「濾胞樹状細胞」がいます(※胚中心と濾胞は同一なのかな)。濾胞樹状細胞に「生のシグナル」を与えられないと、B細胞は細胞死します。

・「生のシグナル」を与えられたB細胞は、濾胞性ヘルパーT細胞に刺激され、抗体を発射します。これは「抗体の親和性の成熟」と呼ばれ、これも生命の技法です。※胚中心とB細胞の関係は、胸腺とT細胞の関係に似ているな。

○とてつもない無駄
・胸腺でT細胞の97%が除去されます(開花と刈り込み)。この時作られるT細胞受容体は、遺伝子の偶然で決まります。
・実は脳も同様なのです。脳で「脳神経細胞」(ニューロン、脳細胞)が沢山作られます。個々の脳細胞は突起を伸ばし、それは偶然に他の脳細胞と結合します。そして結合できなかった脳細胞は除去されるのです。共に「開花と刈り込み」の無駄の多い技法を使っているのです。

○性格や人格は遺伝子で決まる?
・「性格や人格は遺伝子で決まるか」が、よく問われます。しかし遺伝子はタンパク質の設計図に過ぎません。脳細胞がどう結合するかは、偶然で決まります。一卵双生児の遺伝子は同じでも、作られるB細胞/T細胞は偶然で決まります。偶然で決まるからこそ、1つ1つの命は大切なのです。※本の終盤は感情的になる。

○脳と胸腺の類似
・脳と胸腺の類似点は他にもあります。脳の主役は脳細胞ですが、それは「星細胞」に囲まれます。一方胸腺の主役はT細胞ですが、それは「胸腺上皮細胞」に囲まれます。この星細胞/胸腺上皮細胞は共に「神経堤細胞」から生まれ、兄弟なのです。そして共に血管を包んだり、役者(脳神経、T細胞)に「滋養の因子」(?)「細胞死の因子」を与えています。※医学での解明で、類似性は役に立ちそう。
・生命は、「単純なものから複雑なものを作る」「試行錯誤する」「偶然を活かす」などの技法を活用し、個性が生まれるのです。

○後奏曲-免疫学はどこに向かう
・免疫学は、1890年ベーリング/北里柴三郎の抗毒素(抗体)の発見に始まります。そのためB細胞/T細胞による「適応免疫応答」が中心でした。1989年チャールズ・ジェーンウェイが「パターン認識受容体」を提唱した事で、「自然免疫応答」にも研究が向けられるようになり、今は適応免疫応答/自然免疫応答が複合的に研究されています。

・これからの免疫学は、第3部で解説したように、細分化されると思われます。一方で「脳神経と免疫」のように、生命科学の他の領域とも連携すると思われます。

・「腸管と免疫」の関係も開かれようとしています。腸には、ヒトの細胞と同数の共生細菌がいます。免疫細胞はこれと病原体を、どう区別しているのでしょうか。これらが「粘膜免疫学」です。※消化による無毒化も重要な機能だな。
・少し話を変え、「原腸形成」の話をします。脊椎動物は心臓/神経より先に、腸(原腸、卵黄嚢)を作ります(※消化器官は皮膚に近いからな)。脊椎動物の魚類・両生類・鳥類・爬虫類は、卵黄嚢で栄養(卵黄)を吸収し、そこで造血幹細胞を作ります。哺乳類は卵黄嚢で栄養を吸収しませんが(※へその緒かな)、同じくそこで造血幹細胞を作ります。そして造血幹細胞から作られたマクロファージは、各組織に分布されます。この様に腸と免疫は、深い関係にあります。※解説範囲を広げれば、幾らでも広がりそう。

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