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『日銀失墜、円暴落の危機』藤巻健史(2015年)を読書。

日銀の金融緩和を解説しています。今回のコロナ対応にも少し関係します。
著者は「日本維新の会」に所属する参議院議員です。

金融緩和の本質が分かった。主旨は単純で、文章も読み易い。
現場を知っていて、遠慮のない解説をしている。

お勧め度:☆☆☆
内容:☆☆

キーワード:<日本は財政崩壊へ>金融緩和、マネタリーベース、マネタイゼーション、バブル、ハイパーインフレ、マネーサプライ/信用創造、<金融緩和の本質が見破られると>インフレ、マネタリーベース、日銀当座預金、長期国債、財政破綻、<米国にはできて、日本にはできない>量的緩和の縮小、国債供給/買い手、資金運用部ショック、ハイパーインフレ、相場操縦、金利、長期国債、<日銀は確信犯か>独立性、財政改革/成長戦略、円安、利ザヤ、VaRショック、赤字国債/国債の引き受け/銀行券ルール、<ハイパーインフレに備えよ>ジンバブエ、預金封鎖・新券発行、ブラジル/財政赤字、ユーゴスラビア、指導者、逆進性、実現益/評価益、デノミネーション、円安ドル高、ドル資産、<どうすれば経済は良くなる>円高/円安、ドル/米国債、マイナス金利

<第1章 日本は財政崩壊へ>
○追加の金融緩和を発表
・2014年10月31日、日銀が「追加の量的緩和」を発表します。「マネタリーベース」(流通現金と日銀当座預金)を年間60兆円増やすとしたのです。この発表で、日経平均株価は700円以上上昇し、円は4円近く安くなります。

○過激なのは誰?
・これは国民を巻き込む、自殺行為です。1998年アナウンサーが「日銀が倒産しました」と放送して、ビックリした事がある。これは日債銀の間違いでした。しかし今度「日銀が倒産しました」と聞いても、驚かないでしょう。この日銀の追加の量的緩和は、おんぼろのバスで200Kmを250Kmにスピードアップした感じです。
・新聞には「金利低下を促し、設備投資/住宅購入を促す」とありますが、既に10年国債の利回りは0.4%です。

○これしか道がなかった
・黒田総裁は「物価上昇2%を達成するため」と説明しました。例え2014年末に2%を達成していたとしても、この量的緩和を行ったでしょう。それはこの目的が「マネタイゼーション」(国債の引き受け)にあるからです。マスコミなどは「景気を良くするため」「消費者物価指数を2%にするため」(※以下消費者物価)と報道していますが、この目的はマネタイゼーションで、国をファイナンスする事です。
・このマネタイゼーションが認識されれば、日本売りが起き、円・債券・株のトリプル安となる恐れがあります。※今回のコロナ対応で国債が暴落しないかな。

○なぜ10月に決定したか
・2013年4月、日銀は「異次元の量的緩和」を開始します。「2014年末にマネタリーベース270兆円、長期国債保有190兆円」とするものです。今回の量的緩和は2014年末に発表しても良いはずですが、それだと国が倒産してしまうのです。

○出口がない
・追加の量的緩和の発表前、参議院財政金融委員会で私(著者)は黒田総裁に「出口を教えて欲しい」と質問しますが、「時期尚早」と答えるだけでした。実際は出口戦略がないのでしょう。黒田総裁はルビコン川を渡り、異次元の量的緩和をした以上、突っ走るしかないのです。

○日銀の政策ミスは政治家・国民のせい
・雁の群れに見張りをする「奴雁」(どがん)がいますが、日銀は「ドンカン」です。中央銀行は監視の役割をすべきなのに、アベノミクスの「第1の矢」(異次元の量的緩和)を担っています。この状況では株・不動産は高騰するでしょう。消費者物価は安定しているのに、土地・不動産が急騰したバブルの再現です。日銀は「そろそろお開きに」と言うべきを、鐘や太鼓を鳴らしています。
・2014年4月、日銀は「展望レポート」を発表しました。そこには物価見通しを1.9%としています。一方日経新聞は0.5%としています。日銀は国民を煽っているだけです。これは「展望レポート」ではなく「願望レポート」です。※信用が置けないのか。

・日銀の政策ミスを起こさせたのは、巨額の財政赤字です。これは政治家の責任であり、彼らを選んだのは国民です。
・この借金を返す方法は2つしかありません。「大増税」と「ハイパーインフレ」です。大増税は国民から政府への富の移転です。ハイパーインフレは債権者から債務者への富の移転で、債務者が政府なので、これも大増税と同じです。増税の延期は、「ハイパーインフレの道を選んだ」とも考えられます。

○ルビコン川を渡った
・2013年4月、日銀は「異次元の量的緩和」を開始し、ルビコン川を渡ったのです。一方「欧州中央銀行」(ECB)は国債の大量購入をせず、マイナス金利を採用しています。日銀は毒薬を飲み続けるしかなくなったのです。「異次元の量的緩和」は真珠湾攻撃に相当します。

○国民は自分で守るしかない。
・追加の量的緩和の発表後、黒田総裁は会見で「出口を考えるのは、時期尚早だ」と答えています。それは出口がないからです。※売りオペは不可能なのかな。

○インフレ目標2%はカモフラージュ
・給料や日常品などの物価の上昇は「フローのインフレ」です。一方、株価・不動産など資産価格の上昇は「資産インフレ」で、別物です。
・1985~90年バブルが発生し、株価は3.4倍、東京の土地は10倍になります。この時、株・土地で儲かった人が「シーマ現象」を起こします。しかし1985~87年の消費者物価の上昇は1%以下です。狂乱したのは土地・株だけなのです。

・日銀は資産価格などの急騰も監視すべきですが、「消費者物価2%」を金科玉条のように唱えています(※項目別に監視しているはず)。もっとも目的はマネタイゼーションで、消費者物価はカモフラージュです。日銀は資産価格の上昇にハラハラしています。かつては金利のブレーキがありましたが、今はブレーキが存在しません。※ブレーキがないのか。

○財政破綻はいつ起きる
・1988年以降「フローのインフレ」も起き、日銀は「金融引き締め」を行います。「資産インフレ」と「フローのインフレ」でタイムラグがあったのです。今回も同様の事が考えられます。

・マネタリーベースを急増させていますが、「マネーサプライ」(金融機関・政府を除く通貨量)は増えていません。それは「信用創造」が縮小しているからです。これが回復すると、ハイパーインフレが起きます。消費者物価が2%になった時には、財政破綻も迎えるでしょう。※ハイパーインフレは借金を返す方法では。

<第2章 金融緩和の本質が見破られると>
○インフレになっても景気は良くならない
・バブルの頃は、長期金利8%/消費者物価3%で、実質金利は5%でバブルを説明できません。一方土地は20%以上上昇したため実質金利は-12%で、バブルを説明できます。※これなら幾らでも投資する。
・「景気が良くなれば、インフレになる」は真実でしょう、しかし「インフレになれば、景気は良くなる」は真実ではありません。※インフレには、ディマンド・プル・インフレやコスト・プッシュ・インフレがある。

○金融緩和の本質が見破られると
・「追加の量的緩和」(※”更なる”としているが、”追加”で統一)で長期国債の買い入れ枠を30兆円増やし、80兆円にしました。これは「国債引き受け」です。2014年度は40兆円の国債を発行するため、新規国債以外も買い取ります。明らかに「マネタイゼーション」です。そのため民間金融機関の国債購入のモチベーションが上がっています。

○追加の量的緩和で期日に言及しなかった
・2013年4月の「異次元の量的緩和」で、黒田総裁は「政策の逐次投入はしない」と発言したため、1回限りの「バズーカ砲」とされました。しかし今回これを拡大します。日銀総裁が許される嘘は公定歩合だけだったのですが、これも加わったようです。
・私は「追加の量的緩和をする」と予想していました。それは日銀が国債を購入しないと、政府が倒産するからです。しかも今後もQE3/QE4が宣言されるでしょう。今回の量的緩和の期限は明示されていません。それは日銀は長期国債の購入を、未来永劫止められないからです。

○マネタリーベース
・日銀のバランスシートの負債サイドの「発行銀行券/当座預金」と「貨幣流通量」を合計したものが「マネタリーベース」です。貨幣流通量は相対的に小さいので前者です。
・2000年まで私はモルガン銀行にいましたが、当時の日銀の当座預金は4兆円でした(今は161兆円)。かつては金融政策として、この「法定準備預金額」を変動させていました。

○量的緩和は日銀当座預金を増やす
・しかし銀行が潤沢なお金を持っている訳ではありません(※資本注入とかで増えたのかな)。私が三井信託銀行千葉支店にいた時、支店では最小限の現金(数千万円)しか持っていませんでした。
・量的緩和は日銀の当座預金を増やしました。これに金利を掛ければ、現金を持ちたくない銀行は、融資/運用にお金を回すでしょう。※マイナス金利だな。

○量的緩和はハイパーインフレを起こす
・私が銀行マンだった1990年代後半は、マネタリーベースは40兆円でした。2001年日銀がそれを80兆円にすると発表し、大変驚き、「強烈なインフレが起こる」と思いました。しかし今は250兆円に拡大しています。これは「コップに水を注いでいる」と考えて下さい。一杯になると、一気に溢れるのです。日本は社会主義的国家なので、このコップが巨大なだけです。日銀が信用力を失い、円が暴落すると、ハイパーインフレになります。※日銀の当座預金のお金が市場に出ると、一気に貨幣の価値が下がり、インフレになるかな。

○インフレが起きなかった理由
・通常、量的緩和すれば海外にお金が流れ、円安/ドル高になり、インフレになります。ところが社会主義的国家の日本(例えばゆうちょ銀行)は海外に投資せず、国債を買うのです。

○日銀の資産は、対GDP比70%を超える
・日経新聞に「主要国中銀、資産が膨張」とあった。「FRBのバランスシートを平常化するのに、10年必要」とする記事です。FRB/ECB/英国中央銀行の資産規模はGDP比で25%です。しかし日銀は50%もあります。2015年末には、さらに70%を超えます。
・私は「日銀は未来永劫、バランスシートを拡大させる」と考えています。バランスシートの大半は「マネタリーベース」(発行銀行券、当座預金)で、日本はインフレのリスクが高くなっています。

○日銀はインフレを阻止できない
・中央銀行が資産規模を直ぐに縮小できるなら、インフレは回避できます、しかしFRB/日銀は長期国債を購入したため、それができません。短期国債であれば直ぐに満期となり、バランスシートは縮小します。長期国債を売ろうとしても、それを買う民間金融機関がいません。FRBの正常化が10年掛るのは、そのためです。日銀は長期国債を未来永劫、買い続けるしかないのです。
※「日本の国債は国民が保有しているので心配ない」と云われるが、日銀が買っているだけで、極度に不健全な状況だな。これってMMTでは。

○国の倒産を防ぐため、日銀は国債を買う
・メディアの多くは「量的緩和は資金供給のため」と報道します。この「市中にお金を供給する」のコインの裏側は「日銀は市中から国債を買う」です。従って量的緩和の目的は「国の倒産を防ぐ」にあるのです。
・米国では借金の上限が法律で決まっているので、国立公園や自由の女神が閉鎖されました。それを避けるため、日銀は国債を買い続けるのです。

○国債を売り抜けようとする銀行・公的年金・生保
・2014年9月国の借金は1039兆円になりました。これまでは国民が預金したお金で、銀行が国債を買っていました。ところが2013年4月「異次元の量的緩和」が始まると、民間金融機関は国債を売り始めます。2013年3月末と2014年6月末で、銀行51兆円/公的年金4兆円/生命保険1兆円、それぞれ国債保有を減らしています。国債の買い手は、日銀だけになったのです。

○日銀サマサマ
・2014年度は40兆円の国債が発行されます。その後も同額の国債が発行されるでしょう。識者は「日本国民が国債を買っているので売られる事はない」と発言しますが、これに唖然とします。「誰も売らない」だけの話ではなく、毎年40兆円もの国債を、誰かに買ってもらわないといけないのです。
・繰り返しますが、国債を買い増しているのは日銀だけです。麻生財務大臣は「日本国債は信用され、買われているので、金利が上がらない」と発言しますが、「日銀が国債を買っているから」に過ぎません。「日本は安定している」と多くの人は思っていますが、日銀がカモフラージュしているだけです。

○政府は既に財政破綻
・私は日本を「終戦直前」に例えてきました。しかし今は解決手段はなく、「終戦後」と考えています。日本は既に財政破綻したのです。私はこの20年、「穏やかな円安」「資産インフレが重要(?)」「マイナス金利」「財政規律」「日銀は米国債を買え」などを主張してきました。しかし「藤巻は過激」として退けられました。国債を民間銀行が買っている間は、財政破綻ではありません。しかし日銀が国債をファイナンスするようになり、終戦となったのです。

<第3章 米国にはできて、日本にはできない>
○量的緩和の縮小の誤解
・量的緩和の縮小を「テーパリンング」と云います。2014年10月FRBが「量的緩和の縮小(テーパリンング)を完了した」と発表します。マスコミはこれを「量的緩和の終了」と報道しますが、これは誤解を招きます。
・かつての金融政策は、金利の上げ/下げでした。その頃は中央銀行のバランスシートの規模は、ほぼ一定でした。ところがFRBは国債/不動産担保証券(MBS)を大量に購入し、バランスシートの規模を拡大するようになります。この「量的緩和の縮小の完了」は「バランスシートの規模拡大」を止めただけです。今のバランスシートの規模を、量的緩和前の規模に戻すには、10年近くかかるでしょう。

○量的緩和の縮小の条件
・量的緩和の縮小は困難な作業です。これまで国債を買っていた中央銀行が購入を止めると、価格が暴落するからです。これには2つの条件があります。1つ目は、国債の供給が減る事です。需要が減っても、供給も減れば問題は起きません。2つ目は、国債の購入者が増える事です。※日本は両方とも困難では。

○なぜ米国でできたか
・米国の財政は急速に好転しています。2013年米国で財政破綻騒動がありましたが、これは国債の発行上限で与野党が紛糾しただけです。2009~14年度までの財政赤字(対GDP比)を見ると、急速に減少し、国債の発行も減少しています。またドルは基軸通貨なので、世界各国が米国債を保有したがります。以上から、米国は「量的緩和の縮小の完了」が可能だったのです。

○日本は国債供給過多
・2014年度予算は96兆円、税収は55兆円で、41兆円の大幅赤字です。この傾向は今後も変わりません。2020年「プライマリーバランス」の黒字化が目標とされていますが、これに国債費(元本償還、利息)31兆円は含まれていません(※凄い額だな)。これでは国債の供給を減らすのは困難です。日銀は未来永劫、国債を買い続けるしかないのです。

○国債の買い手が日銀しかいない
・供給が減らなくても、買い手が増えれば問題ありません。しかし日銀以外に買い手がいません。魅力がない日本国債を買う外国政府もいません。暴落必至の国債を買う人は、どこにもいません。そのため日銀が買い続けるしかないのです。※これを「最後の買い手」と云うらしい。

○買い増す余力
・1998年「資金運用部ショック」により長期金利が0.6%から2.4%に跳ね上がりました。当時、大蔵省資金運用部は国債を運用していました(※国が国債を運用?)。宮澤大蔵大臣が「資金運用部は国債の買い入れを停止する」と発言し、債券・株・円が急落しました。※詳しい経過が書かれているが省略。でも資金運用部ショックの内容を知れて良かった。
・ここでのポイントは「大口の”買い手”がいなくなると暴落する」です。「大口の”売り手”が出ると暴落する」ではないのです。またこの時、速水日銀総裁の「日銀が50兆円も国債を保有するのは、自然な形ではない」の発言もありましたが、今は229兆円保有しています。

○大口の「買い手」がいなくなると暴落する
・当時の資金運用部の購入額は、国債発行額76兆円の15兆円(20%)です。今は新規国債41兆円/借換債122兆円で計163兆円の80兆円(50%)を日銀が買うのです。この日銀が国債を買うのを止めたら、国債は暴落します。

○ハイパーインフレへの道は整備された
・この時速水総裁は「日銀が50兆円も国債を保有するのは・・」と発言していますが、これはハイパーインフレを危惧したためです。しかしその後、保有額は増え続けます。特に黒田総裁が就いた2年間で倍増(2012年114兆円→2014年229兆円)しています。

○時効となり書ける機密事項
・実は資金運用部ショックで、忌々しい思い出があります。この時私は国債を先物で売りまくり、12月だけで300億円稼いだのです。当時弟が勤務していた伊勢丹の純利益は60億円でした。ニューヨークのボスは「もう出社しなくて良い」と言いましたが、永遠に破られない記録を作りたいと思い、勝負を続けたのです。その結果、利益は全部飛んでしまいました。
・JPモルガンでは12月から翌年の11月までの実績でボーナスが決まるので、12月だけで止めとけば、会長並みのボーナスがもらえました。

○財政出動しても長期金利が上がらない
・資金運用部ショックで大蔵省は国債購入を停止していましたが、翌年2月には再開します。同時に日銀も短期金利を引き下げます(ゼロ金利政策)。また大蔵省は長期国債を減らし、短期国債を増やし、危機を乗り越えます。これは「政府・日銀による相場操縦」です。
・正常であれば、財政出動すると長期金利は上昇します。しかし長期国債を減らし、短期国債を増やす事で、長期金利を上昇しないようにしたのです。財政出動にマーケットの機能が働かなくなりました。

○バランスシートの拡大を止められない
・日銀はルビコン川を渡った(異次元の量的緩和をした)ため、伝統的金融政策(金利の上げ/下げ)が取れなくなりました。ブレーキがない車になったのです。日銀はバランスシートの縮小どころか、拡大を止める事さえできなくなりました。

○異次元の量的緩和で、金利を上げられなくなった
・「量的緩和、大いにやるべし。インフレが懸念されたら、金利を上げれば良い」とする論文を読んで驚きました。日銀が金利を誘導できたのは、銀行間市場で資金の需給が均等だったからです。銀行間市場にお金がジャブジャブなので、金利の操作は不可能です。ハンドルを10回転しても反応しない状況です。

○FRB/日銀は、バランスシートを縮小できるか
・FRBは「量的緩和の縮小」を完了させたので、資産規模の縮小は可能です(※バランスシート≒マネタリーベースだったな)。一方日銀は加速を続け、しかもその加速を止める方法はありません。もしFRB/日銀が短期国債だけを買っていたら、それは可能です。しかし彼らは長期国債を買っているのです。

○短期国債なら縮小は簡単
・短期国債であれば、満期になると国債は償還され、日銀にお金が返されます。その分日銀にある政府の当座預金も減少し、日銀の資産は減少します。
・私がモルガン銀行に勤めていた頃(2000年3月まで)は、日銀は長期国債を買っていませんでした。正確に言えば、「成長通貨供給分」(経済成長分)のみ買っていました。しかし今の状況だと、資金回収は困難です。

○長期国債だと縮小は困難
・長期国債は満期が10年なので、バランスシートを縮小するには10年掛ります。それどころか日銀は、30年国債/40年国債も購入しています。「金利を上げる」と「国債の価格を下げる」は同義です。金利を上げたい時に、その国債を買う人がいるでしょうか。
・白川前日銀総裁は政府の圧力で、2年国債/3年国債を買い始めます。その結果分かったのは「国債は満期まで待つしかない」でした。それなのに黒田総裁は、10年国債さらに30年国債/40年国債を買い始めたのです。
・「逆ツイストオペ」(長期国債を売って、短期国債を買う)を主張する人がいますが、そうすると長期国債は暴落します。

○FOMCの出口戦略
・以前FOMCが発表していた出口戦略は、「バランスシートの縮小」→「利上げ」の順番でした。しかし一旦インフレになると歯止めが利かないので、FOMCは順番を変えました。
 ①短期金利を引き上げる。
 ②その際、FED(連邦準備制度)の当座預金の金利を引き上げる。
 ③必要であれば「売り現先」(債券の先物取引)を行う。※債券が売られるので、利回りが上がるのか。
 ④米国債の「借り換え」を停止し、残高を増やす。※これは逆効果では?
 ⑤「不動産担保証券」(MBS)は別扱いとする。

・ここで重要なのは②です。かつては当座預金に利息は付かなかったのですが、2008年「準備預金分」を上回る「超過準備」には利息が付くようになり、今は0.1%です。※今はマイナスかな。これを上げれば利上げになるのでは。

○FRBにはできるが、日銀はできない
・米国10年国債の利回りは2.3%、MBSはもっと高く、FRBは購入した資産から収入を得ています。一方日本の10年国債の利回りは、0.47%です。もし当座預金の金利を上げたら、収入より支出が大きくなります。
・日銀は引当金3.8兆円/準備金2.9兆円で、6.7兆円以上の損をすると債務超過になります。保有債券229兆円の平均利回りは0.48%で、年1.1兆円の収入です。当座預金は161兆円あり、これに1%の利息を付けると年1.6兆円、3%の利息を付けると年4.8兆円の支出になり、収支にすると年3.7兆円の損失です。要するに金利3%を、2年も続けられないのです。※正確には超過準備にだけ金利が掛かるのでは。

・日銀への信用がなくなると、円は暴落し、インフレになります。3%の金利で、インフレはコントロールできません。3%は歴史的にも低金利です。かつての日銀は自由に金利を変動できたので権威があったのです。
※解決策は長期国債を国民か外国が買うしかない。毎年40兆円、国民1人当たり毎年40万円借金を続けたんだからな。しかし外国が買うと、それこそ危ない。

<第4章 日銀は確信犯か>
○準備金の積み上げ
・2014年10月参議院財政金融委員会で共産党大門議員が、「3月に過去最高の準備金の積み上げたが、その理由は」と質問します。これに黒田総裁は「金融緩和政策を行っているので、収益の振幅が大きくなるため」と回答します。これは当座預金の金利を上げる備えと考えられますが、保有国債の利回りが0.48%では、それは不可能です。しかし一応日銀は出口戦略を考えているようです。

○全てのリスクが日銀に向かう
・2014年7月日経新聞に「地銀の国債依存を点検」の記事がありました。金融庁幹部が「日銀が買ってくれる今が売り時」とコメントしています。GPIFの資産構成の見直しを行った伊藤隆敏も、6月同様に「GPIFは国債を売る事が重要」と発言しています。公的年金は6月までに4兆円減らしましたが、さらに減らせと言っているのです。日銀は大量に国債を買い、金利上昇のリスクを一手に引き受けています。

・日銀は銀行法の対象ではなく、政府からの独立性を認められています。しかし現状は、アベノミクスの「第1の矢」を、鐘や太鼓で囃し立てているのです。もはや日本に独立した中央銀行はないのです。
・2014年10月参議院財政金融委員会で黒田総裁は「今のところ、金融機関が過大なリスクテイクをしているとは考えていない」と回答します。日銀はどうなんでしょうか。

○日銀の資産の8割が国債
・日銀の引当金・準備金が減少すると、権威は失墜し、円は暴落し、ハイパーインフレになります。かつては金本位制で、日銀が保有している金が銀行券の価値を保証していました。1992年日銀の資産の48%が国債でしたが、今は82%に達しています。この国債が「偽金」だったら大変です。「バランスシートの両サイド(国債、銀行券)が棄損するので問題ない」と言わないで下さい。ハイパーインフレになると国民は生活できません。

○政府と日銀のバランスシートを合算する
・日銀が政府のお先棒を担いでいるので、政府と日銀のバランスシートを合算してみました。国債は相殺されるため、負債サイドは当座預金となります。これは「逆ツイストオペ」で、短期資金で調達している事になります。通常低金利であれば、長期資金を調達しますが、逆になっています。この状態で金利が上がると、資産サイドの有形固定資産からの収入は増えませんが、負債サイドで支払う金利は増大します。

○財政改革/成長戦略の効果は?
・アベノミクスの「第2の矢」は財政政策です。政府は巨額な財政出動を続けてきましたが、その結果は1039兆円の累積赤字です。この20年間日本の名目GDPは伸びていません。一方米国/英国は名目GDPを1.9倍、中国は7.2倍にしています。さらに財政出動するのは、財政破綻/ハイパーインフレのリスクを高めるだけです。

・「第3の矢」は成長戦略です。1986年「前川リポート」以降、何千本もの矢を放ってきましたが、「これは!」と思うものはありません。そもそも政府主導の成長戦略は無理と思います。政府ができるのは規制改革位でしょう。
・私が考える成長戦略は「相続税の廃止」です。世界には相続税がない国(オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、スイスなど)があり、相続税を減税する傾向にあります。贈与税は相続税を補完するもので、贈与税も相続税も廃止すべきです。そうすれば消費は増加すると考えます。※相続税が贈与税を補完しているのでは。

○量的緩和の世界での評価
・日経新聞にオーストリア中銀総裁の記事があり、彼は「世界には2つの潮流がある。1つは国際通貨基金(IMF)と英米の金融緩和を志向する流れと、もう1つは国際決済銀行(BIS)の金融緩和を止める流れです。ECBはこの中間にあり、理性的と考える」と回答しています(※IMFとBISで異なるのか。確かにIMFはイケイケで、BISは健全性を要求しそうだな)。量的緩和は無条件に支持されていないのです。

・ECBは「資産担保証券」(ABS)の買い入れを決定したものの、国債の購入は避けています(※金融緩和の内容が千差万別とは。これからは注意しよう)。これはハイパーインフレを経験したドイツが反対しているからでしょう。量的緩和に米国の共和党も反対していますし、白川前総裁も反対していました。

○円安は景気好転に資する
・ジャブジャブとなったお金は「ゆうちょ銀行」に預金され、ゆうちょ銀行は日本国債を購入します。ゆうちょ銀行は半公務員なので、リターンを極大化するモチベーションがありません(※銀行はゆうちょ銀行だけではないけど)。もし米国の銀行なら、金利0.5%の国債など購入せず、海外に投資します。

・もし海外に投資すれば、ドル高/円安になり、これは日本経済にプラスです。他の本にも書いていますが、円安にすべき理由を2つ説明します。1つは、かつては貿易収支が大幅黒字だったため、外需を増やすのは御法度でした。しかし今は貿易赤字なので外需に期待すべきです。円安になれば高い日本製品も売れます(※昔から言われていた事では)。需要には、民間消費/民間投資/政府支出/貿易・サービス収支があります。円安→貿易・サービス収支の黒字→景気回復→デフレ脱却となります。
・もう1つは、外国人旅客による国内消費です(※インバウンドだな)。2014年10月「訪日客が1千万人に迫る」との記事がありました。これは観光庁の努力や、「クールジャパン」の効果もありますが、最大の要因は円安でしょう。※円安はインフレの原因になるらしいが。

○金融緩和が円安を招いた?
・2014年7月日経新聞に「異次元量的緩和により円安になり、物価が上昇した」との記事がありました。しかしこれは間違いで、マネタリーベースは1990年43兆円が、2011年118兆円に拡大しますが、為替は134円から77円に円高になっています。※この長期の20年で、為替と量的緩和の関係を断定するのは無理があるのでは。
・2013年4月マネタリーベース146兆円から、異次元の量的緩和で2014年7月236兆円に増大していますが、為替は97円から101円に、4円しか円安になっていません。※円安になっている。

・2012年秋から70円台後半から20円の円安になりますが、これは安倍首相が「円高が問題!」と発言したからです。国力に見合う為替は、180~200円と思っています。そうならないのは、個人金融資産1650兆円が眠っているからです。※外国への投資かな。

○量的緩和が金融機関に与える影響
・本来銀行は、低い短期金利(当座預金、普通預金)で資金を調達し、長期金利(10年国債など)で運用します。しかし量的緩和により長期金利は低下しています。全国銀行協会会長は「利ザヤがマイナスになっているのは、危機的事態」と述べています。横浜銀行と東日本銀行の統合が発表されました。地銀は100行ありますが、「再編ドミノ」が進むでしょう。

○売りが売りを呼ぶ
・日銀による長期国債の買い集めで、市場が縮小し、値ブレが大きくなっています。そのため「売りが売りを呼ぶ」リスクがあり、これを「VaRショック」(Value at Risk)と云います。
・「VaR」は私が勤めていた「JPモルガン」が作ったものです。多くの銀行がVaRでコントロールするようになり、「売りが売りを呼ぶ」ようになりました。※VaRについて詳しく説明されているが難解。VaRは、日々のディーリングの損失上限みたいだな。

○量的緩和のメリット
・量的緩和の最大のメリットは、「財政破綻の回避」ですが、「ハイパーインフレは不可避」になりました。インフレは債権者(国民)から債務者(政府)への富の移行で、大増税と同義です。またハイパーインフレになると、給料/年金は数日でなくなります。安倍政権の量的緩和は、「後は野となれ山となれ」なのです。後回しになればなるほど、混乱は大きくなります。
・私は「異次元の金融緩和」の代わりに、「マイナス金利」「米国債の購入」を主張しましたが、「藤巻は頭がおかしい」と過激者扱いされました。

○禁止されている赤字国債の発行
・財政法では赤字国債の発行は禁止され、赤字国債は「とんでもない事」なのです。しかし2014年度予算は、建設国債6兆円/赤字国債35兆円が発行されています。これは1年限りの「赤字国債法案」によります。
・この法案のため、菅首相/野田首相の首が飛んでいます。しかしその後「2015年度まで赤字国債の発行を認める」法案が成立します。「歳出削減を実施し、消費税を引き上げる」事ができない首相は、1年で交代すべきです。警戒警報のスイッチを切り、国民を安堵させる政治は末期的です。※日本の常套手段「先送り」だな。

○禁止されている国債の引き受け
・私が三井信託銀行ロンドン支店で債券ディーラーをしていた1980年代、邦銀はユーロ円債を発行した当日に買ってはいけなかった。これは国内外の敷居をなくすための政府の指導だった。そのため外国の銀行に口約束して、購入してもらっていた。
・しかしこれと同じ事が政府と日銀の間で行われています。日銀の「国債の引き受け」は財政法で禁止されています。しかし市場で金融機関が購入し、それを日銀が「買いオペ」し、10年国債の7割以上を日銀が購入しています。

○先人の知恵を無視する日銀
・以前は「発行銀行券以上に国債を保有しない」と云う「銀行券ルール」がありました。これもハイパーインフレを起こさないための、先人の知恵です。しかし「資金買入れ基金」を導入し、「銀行券ルール」を一時停止します。今は発行銀行券87兆円に対し、長期国債が187兆円に達しています。黒田総裁は、先人の知恵を何とも思っていないようです。

<第5章 ハイパーインフレに備えよ>
○量的緩和の後はハイパーインフレになる
・戦争中ハイパーインフレになり、新券発行・預金封鎖を行っています。1923年ドイツも紙幣を刷りまくり、ハイパーインフレを起こしています。お金をジャブジャブにするとハイパーインフレになるのは歴史の常です。麻生大臣/黒田総裁は「ハイパーインフレになりません」と断言しますが、その根拠を聞きたいです。
・腫物を大きくしないためには、社会保障費の削減/大幅な消費増税が必要です。それでもインフレは回避できないでしょう。そのため自身で自分を守る必要があります。

・世界のハイパーインフレを表にしています。最悪なのが1946年ハンガリーでのハイパーインフレで、15時間余りで物価が2倍になっています。2番目が2008年ジンバブエで、1日で物価が2倍です。3番目が1994年ユーゴスラビアで1.4日、4番目が1923年ドイツで3.7日です。
・2番目のジンバブエの場合、翌日に2倍、3日目に4倍、、4日目に8倍になり、1週間で64倍になります。「給料をもらって2日間はパンを買えるが、その後は何も食べれない」となるのです。

○ハイパーインフレ下での国民生活
・『経済セミナー』の「第1次世界大戦後のドイツと第2次世界大戦後の中南米」の記事を見ます。「バスに乗るのに数十億マルク払いました。演奏会の報酬をもらうのに、人の手を借りました。その人のために報酬の半分でソーセージを買うと、2本しか買えませんでした。しかし翌日には、1本も買えませんでした」、「1980年代の中南米も高インフレで、給料日にはスーパーの駐車場が一杯になりました。少しでも現金を物に替えるためです」。※笑うな。

・『NewsWeek日本版』にジンバブエのハイパーインフレについて書かれています。「ジンバブエは年率100万%のインフレである。それでも独裁者は『国家に崩壊なし』と言っている。食パンは統制され、1斤30億ジンバブエ・ドルで買える。そのため長い行列ができる。しかしそれではパン屋は赤字になるので、ケーキ・菓子パンを優先して作っている。銀行の引き出しは1日250億ジンバブエ・ドルで、これにも長い行列ができる」。※抜粋。

○日本のハイパーインフレ
・日本は昭和2年/昭和21年に預金封鎖を行っています。「日本国債は国内で買われているので暴落しない」と言われますが、戦後日本国債は紙屑になります。今の累積赤字の対GDP比は当時と同じです。
・朝日新聞の記事「昭和史再訪」を見ます。「1946年渋沢蔵相がラジオで『生活で必要なお金以外は払い出しを禁止する。10円以上のお札は3月で無効になる』と伝えます。これは翌日からの預金封鎖・新円切り替えの宣言です」、「世帯主は1月300円しか引き出せなくなり、給料も500円に制限された。この時『500円生活』の言葉が生まれた」、「市中に出回る日銀券は1/4に減少し、インフレは一時沈静化した」。
※話は変わるけど、国債デフォルトの手段がある。これでも円は暴落し、ハイパーインフレになるかな。と言うよりも恣意的にハイパーインフレにして、国債を紙屑にするのかな。

○ブラジルのハイパーインフレ
・機関紙『国際金融』の記事を見ます。「ブラジルのハイパーインフレの原因は、物価を凍結するが賃金を上げた事、財政赤字削減策の不在、累積債務による対外信用力の低下などです。一時的な対症療法は行われたが、インフレの根源である財政赤字は放置され、これを改善するための行政改革・財政改革は行われなかった」。これは正しく日本の事を言っています。※欧州で財政規律が厳しいのは、そのためかな。やはり日本は異常だな。

○ジンバブエと日本はそっくり
・雑誌『週刊エコノミスト』を見ます。2007~2008年ジンバブエの毎月のインフレ率を表にしました。「ジンバブエは20世紀末よりインフレになり、デノミネーションを繰り返しますが、効果はありませんでした。インフレは年率10の21乗に達しました。貿易赤字はGDPの2割を超え、ジンバブエ・ドルを刷りまくったのです」。

○ユーゴスラビアのハイパーインフレ
・日経新聞にユーゴスラビアの記事がありました。「昨年は1兆2千億倍(※10の12乗)のインフレであったが、2月の物価上昇率は前月比1%増に留まった。これは独マルクとの交換を保証した新通貨導入による。財政赤字を紙幣増刷で凌いだのが原因である」。
・朝日新聞の「聞蔵Ⅱビジュアル」にも同様の記事がある。「政府は自国通貨ディナールを外国通貨と兌換可能にし、交換レートを独マルクと連動させ、通貨流通量を適正化した。赤字企業のために行われていた増刷は止められた」。これには日本にヒントになる事も書かれています。

○日本が学ぶ事
・前述の『経済セミナー』には、「ハイパーインフレの原因は戦争ではありません。1980年代の南米諸国がそうです。第1次世界大戦後のドイツは、新通貨の導入と『独立性』を持つ中央銀行の設立で終息させました。新しく設立された中央銀行は、財政赤字を増刷で賄う事を拒否し、政府に財政の健全性を強いたのです」。
・以上から明らかです。「徴税能力を持たない政府」と「独立性を持たない中央銀行」がハイパーインフレを起こすのです。この事実を、政治家も国民も頭に叩き込む事です。日本は突出した財政赤字を持ち、突出して低い消費税率で、所得税を払っている人が極めて少なく、日銀は独立性を失い、財政赤字を増刷で賄っています。私はハイパーインフレの警鐘を鳴らします。

○お札を刷った国と刷らなかった国
・『週刊エコノミスト』に早稲田大学の原田教授が書いた記事がありました。ハイパーインフレとなったジンバブエと、ならなかったチャドを比較しています。「チャドはむしろデフレーションである。物価とマネタリーベースは連動しており、2000~07年ジンバブエはマネタリーベースを130万倍にしますが、チャドは2.8倍です。ジンバブエは、中央銀行にお金を刷らせ、それを政府が使い、さらに銀行・民間銀行にドンドン貸したのです。ジンバブエはインフレになり、チャドは困難に耐えたのです」。いかに国の指導者の質が大切かが分かります。※それを選んでいるのは国民。

○消費増税とハイパーインフレ
・消費税は「逆進性が高い」として反対する人がいます。所得税は14.8兆円/法人税は10兆円の税収です。これを倍増しても財政赤字41兆円を賄えません。やはり消費税増税しかないのです(※今の消費税収は21.7兆円だな。3倍の30%なら財政は黒字化かな)。他に所得税の課税最低限の引き下げも考えられます。
・しかしハイパーインフレになると、高所得者はドル資産や不動産を買う事でダメージを小さくできますが、低所得者は無抵抗です。これこそ逆進性が高いのです。

○ハイパーインフレからの脱却法
・ハイパーインフレになると余分な貨幣を吸収しなければなりませんが、その方法は預金封鎖・新券発行になると考えられます。しかしこの場合、私有財産権が問われます。新券切り替えは、現1万円札100枚と新1万円札1枚が交換されます(※オイオイ)。これはハイパーインフレになった後の話なので、ハイパーインフレになる過程の話に変えます。

・私は20年間、「財政再建が最優先」と訴えてきました。以前は「財政破綻しても、日銀も政府も生き延びる」と考えていました。しかし今は「日銀も政府も共に倒れる」と考えています。新しい中央銀行ができると、現日銀は残務処理をするだけになるでしょう。

○富裕層の株含み益に課税
・日経新聞に「海外移住者の株含み益に課税」の記事がありました。この対象者は100人程度でしょう。税の根本的思想は「実現益に対する課税」で、この抜本改革はそれに反します(※難解。売買による利益が実現益で、価格変動による利益が評価益かな)。この評価益への課税の実例を作ると、課税の対象が拡大されます。例えば資産価格を引き上げ、その評価益に課税するのです(※今でも固定資産税はあるが、これに付加するのかな)。そうなれば株/不動産などは持てなくなり、資本主義は終わりです。※資本主義の根本に私的所有権がある。

○デノミはある?
・「デノミネーション」(デノミ)は、全ての値段/紙幣のゼロを削る事です(※単に桁ずらし)。しかし私が考えている「預金封鎖・新券発行」はデノミとは異なります。国はハイパーインフレを起こし、借金をなくした後に、ハイパーインフレを抑制させるでしょう。1998年以前は国債に「繰り上げ償還することがありうる」と記載されていましたが、それ以降は記載されていません。

○円安/ドル高を予想
・FRBは「量的緩和の縮小」を完了させました。一方日銀は「追加の量的緩和」で、ヘリコプター・マネーをばら撒いています。この結果、円安/ドル高になるのは確実です。また米国は近年財政赤字を急速に改善し、シェールガス革命で貿易収支も急速に改善させています。要するに米国は「双子の黒字」になり、日本は「双子の赤字」になるのです。これも円安/ドル高に向かう要因です。

○ハイパーインフレになると、円は大暴落
・ハイパーインフレになると、1万円札の価値は下がります。為替を「購買力平価」で考えてみましょう。日本のタクシーの初乗りが700円で、ニューヨークの初乗りが7ドルだと、1ドル100円です。日本の初乗りが7千円になると、1ドル1千円になります。これがドルを買っておいた方が良い理由です。

○ハイパーインフレに備える
・円以外の資産、ドル資産を持つのが良いでしょう。お勧めは米国のMMF(マネー・マーケット・ファンド)です。これはドル建ての投資信託です。ただし外貨預金は元本が保証されていますが、これは保証されません。
・また変動金利の住宅ローンを組んでいるなら、固定金利に変更すべきでしょう。また企業であれば、デリバティブ(債券先物、金利スワップ、スワップション、為替先物、為替オプション、日経225先物など)をお勧めします。これらについては『藤巻健史の実践・金融マーケット集中講座』を出版しています。

<第6章 どうすれば経済は良くなる>
○110円は円安?
・2014年11月、日経新聞に「安倍首相は消費刺激策を軸とした経済対策の検討を指示した。これは4月の消費増税や円安による物価高に対応するため」との記事がある。10月6年振りに110円台になり、経済財政諮問会議でも円安がテーマになった。
・1971年固定相場制の360円から2012年76円になるまで、一貫して円高が進みました。それなのに何で110円で円安と騒ぐのでしょうか。円安を怖がる本当の理由は「売りが売りを呼ぶ」、際限のない円安を怖れているのです。
・私は円安政策を説いてきました。それは日本経済低迷の原因を、「異常に高い円」と考えているからです。しかし「円安に向かう」と信じられ、円預金が引き下ろされるようになると、銀行は国債の売却を迫られ、国債は暴落し、財政破綻へ向かいます。財界人はそれを怖れたのでしょう。※2015年からは穏やかな円高(120円→110円)に戻っている。

○日本は主張すべき
・円安に向かうと、モノ・サービス・労働力を円で売る人に有利です。逆に円高に向かうと、モノ・サービス・労働力を円で買う人に有利ですが、そうなると日本の産業は海外に移ります(空洞化)。やはり円安が望ましいのです。
・私は180~200円程度の円安が望ましいと考えています。そうなれば企業も日本に回帰し、給料も上がります。諸外国も日本製品を買うようになります。近隣諸国は「近隣困窮化政策」と非難しますが、これを主張すべきです。これを行うのが国益を守る政治家の使命です。

○円安は進む
・量的緩和の縮小ができない限り、円安に進みます。115円程度は、最初の1歩に過ぎません。

○円安を止める為替介入はできない
・円安を止める方法に、「ドル売り介入」があります。しかしこれには膨大なエネルギーが必要です。また円なら刷れますが、ドルは刷れません。またドルは財政破綻後の復興資金として、残して置く必要があります。ドルの保有は個人だけでなく、国にも云えるのです。※介入はないだろな。基軸通貨は強いな、世界通貨だな。

○日銀は米国債を買うべきだった
・私は20年間、「日銀は米国債を買うべき」と主張してきました。為替介入の判断と財布は財務省ですが、実働部隊は日銀です。そして為替介入で得られたドルは米国債で保有しています。
・私が主張するのは、日銀が米国債を買う事で、これは円高対策になります。また「もし量的緩和するのなら、日本国債ではなく、米国債を買え」と主張してきました。日銀は日本国債を未来永劫、買い続けなければいけなくなりました。もし米国債を買っていれば、量的緩和の縮小も可能だったのです。米国債を売れば、「ドル売り円買い」なので、円暴落の歯止めにもなります。※米国の圧力があったのかな。

○取るべきはマイナス金利だった
・私は「マイナス金利」も、20年間主張してきました。1997年『時事解説』に私の事が書かれています。「モルガン銀行東京支店長・藤巻が時の人になった。彼は『長期金利は1.5%を目指す』と言っていたが、長期金利は世界最低の1.8%を割り、1.5%になった。また彼は『マイナス金利も研究する必要がある』と述べている」。この頃は「藤巻は気がおかしくなった」「藤巻は過激だ」と言われていた。

・ところが2014年6月、ECBがマイナス金利政策を採用します。民間銀行はECBに預金すれば、お金を支払う事になり、貸出の増加が期待されます。この延長が民間銀行と顧客のマイナス金利の世界です(※しかしこれは酷いな。「お金を一切持つな、損するぞ」みたいな)。そうなると皆がドルで預金し、ドル高/円安になり、経済は回復します。あるいは株を買い、資産効果でこれも経済を回復させます。またローンを組むと利息がもらえるなら、喜んで家を建てるようになり、これも経済を回復させます。日本はかつて低所得者向けの現金給付を行っており、これはマイナスの所得税です。

○マイナス金利は効くか?
・ECBは6月に金利を-0.1%にし、9月に-0.2%にしました。まだ下げる事は可能です。私はマイナス金利より、量的緩和の方が異常と思っています。

○量的緩和からマイナス金利への変更は可能か
・量的緩和からマイナス金利への変更は、まず不可能です。「量的緩和政策」は、「日銀の当座預金を無限大にする政策」です。一方「マイナス金利政策」は、「当座預金を極小にする真逆の政策」です(※完全に真逆でもない。入ったら、それを出せば良い)。「ECBは今後、国債を大量購入する」との予想がありますが、そうしないでしょう。
・量的緩和政策はハイパーインフレに突進する危険がありますが、マイナス金利政策には金利を上げる出口戦略が残されています。量的緩和は「百害あって一利なし」です。

○祖父の給料・賞与
・私の祖父は第一銀行(みずほ銀行)に入行し、朝鮮銀行に移り、ニューヨーク支店長に就いています。その祖父の給料・賞与・退職金などを、曾祖父が記録しています。祖父の初任給は30円で、退職金は5万2千円です。これを預金していたら、今は「雀の涙」でしょう。みずほ銀行の今の初任給は20万5千円で、110年前の7千倍近くになっています。今はデフレなので「ハイパーインフレなど起こらない」と思われるかもしれませんが、長い目で見ると、物価は確実に上昇しています。※裏返えせば、紙幣の価値は必ず下がる。

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