『中流崩壊 日本のサラリーマンが下層化していく』榊原英資(2015年)を読書。
日本は低成長・低インフレの成熟期ですが、格差が拡大しています。
その原因をグローバリゼーションとし、その対応に再配分政策が必要としています。
文章が平易で、しかも内容が一般論・常識論なので、インパクトに欠ける。
統計を多用している。
お勧め度:☆☆(概要把握に良い)
内容:☆☆
キーワード:<貧困化するサラリーマン>低成長・低インフレ、格差、<アベノミクスの展開と終焉>金融緩和、貿易/双子の赤字、インフレ/賃金、円安、<世界経済停滞の流れ>ユーロ危機、BRICS、デフレ、再配分、<近代資本主義の終焉への大転換>利子率革命、フロンティア、アラブの春/イスラム国、米国、長い21世紀/成熟、<1億総中流の奇跡>池田勇人/下村治/所得倍増、田中角栄/列島改造計画、円高、所得格差、<2020年東京オリンピック>公共事業、外国人観光客、リヨン・サミット/食、<インターネット社会が変える>スマートフォン、新聞/漫画/メディアミックス、<サラリーマンの下層化>格差、1億総中流、賃金/非正規雇用、プロフェッショナル、再配分、<ゼロ成長時代>環境/安全/健康、高福祉・高負担、消費税
<はじめに 貧困化するサラリーマン>
・世界は転換期にあります。先進国は軒並み、低成長・低インフレの時代になりました。2014年の実質GDP成長率は、米国2.39%、英国2.55%、イタリア-0.42%、ドイツ1.61%、仏国0.36%です。消費者物価の上昇率は、米国1.61%、英国1.46%、イタリア0.22%、ドイツ0.79%、仏国0.62%です。ちなみに日本は成長率-0.06%、インフレ率2.74%(消費増税を含む)です。
・しかし先進国の1人当たりGDPは、日本3.6万USドル(円安で低い)、仏国4.5万USドル、英国4.6万USドル、ドイツ4.7万USドル、イタリア3.6万USドル、米国5.5万USドルと高いレベルにあります。※国の順番が統一されていない。
・ところが問題なのが、相対貧困率(格差)の拡大です。日本は1970年代までは高度成長期で、中産階級は拡大します。しかしその後格差は拡大し、若者の失業が増加し、子供の貧困が拡大し、非正規雇用が増大しています(※グローバル化が原因)。1990年非正規雇用の比率は20%でしたが、2014年は38%に倍増しています。
・この原因は、中国/インドなどの新興国の追い上げです(グローバリゼーション)。唯一の解決方法は欧州のような再分配で、国民負担率が低い米国/日本は転換点に来ています。
<第1章 アベノミクスの展開と終焉>
○異次元金融緩和が招いた貿易赤字拡大
・アベノミクスの「第1の矢」は金融緩和です。2013年3月日銀総裁に黒田氏が就任し、①2%のインフレ目標、②無制限の量的緩和、③円高是正、④マイナス金利が実行されています。2013年4月黒田総裁は「資金供給量を2倍にする」「国債・上場投資信託を買い増し、借入金利の低下を促す」「国債の買い入れ額を、月7兆円超にする」などを発表します。
・この結果94円前後だった為替は、年末には100円代に切り下がります。これに連動し、日経平均株価も上昇します。実質GDP成長率も1.52%になります。
・米国も3度の金融緩和(QE)を実施します。2009年QE1、2010年QE2、2012~13年QE3です。これで経済は回復し、2014年成長率は2.39%に上昇します。ただしドル安円高は進み、2012年には80円を切ります。しかし黒田総裁の異次元金融緩和で為替は反転し、2015年6月には120円台に乗ります。
・日銀の追加金融緩和は2014年4月の消費増税への対応でしたが、円安・株高の効果をもたらします。貿易収支も改善し、2015年3月に黒字に転じます。
・しかし円安効果は、かつてほどではありません。それは海外生産比率が急速に高まっているからです。自動車を見ますと、2002年は国内生産が60%を越えていましたが、2011年で40%に低下しています。海外生産比率が高まり、円安による輸出促進効果は低下したのです。一方日本の輸入は原油・LNGなどのエネルギーで、それを減少させる事はできません。
○財政政策は股裂き状態
・アベノミクスの「第2の矢」は「機動的な財政運営」です。しかし政府債務残高はGDP比245%で、世界最大です。しかも毎年40兆円(GDP比8%)の財政赤字を出し続けています。日本が財政危機にならないのは、家計の金融資産がGDP比300%あり、その資産で間接的に国債が買われているからです。※買っているのは日銀です(財政ファイナンス)。
・また日本は経常収支が黒字です。しかし2011年貿易収支は赤字に転じ、それに合わせ経常収支も大幅に減少しています。2014年の経常収支は243億円で、2005年の14%しかありません。※日本大丈夫か。
・これは海外生産比率が上がった事と、新興国の追い上げが原因です。日本はこのままでは双子の赤字になります。米国も双子の赤字ですが、ドルが基軸通貨なのでファイナンスされます。日本は外貨準備でファイナンスするしかなく、これが続けば経済危機になります。
○株高だけのアベノミクス
・米国の金融緩和により2011年末に為替は80円を切りますが、異次元金融緩和で2013年12月には100円台に乗ります。さらに2014年10月追加緩和で円安は加速します。これに連動し、日経平均株価も上昇します。アベノミクスは株価では、大変な成功を収めます。
・しかし円安により2014年の物価上昇率は2.74%に達しました(消費増税分を含む)。これは2%のインフレ目標に近付いたと言えますが、サラリーマンの給与総額は増えていません。物価は上昇を始めたのですが、賃金の上昇は見られません。円安等による物価上昇で、庶民にはマイナスです。※コストプッシュ・インフレの説明があるが、逆の気がする。
○構造変化による円安のマイナス面
・「円安は日本に有利」とされてきましたが、2013年貿易赤字は拡大します。海外移転が進んだため、円安になっても輸出量が増えない構造になったのです。2013年貿易収支では逆に円安により、原油の輸入は16.3%増えています。かつての経済理論は通用しなくなったのです。2014年は貿易収支を改善させていますが、それは原油安の影響です。
・日本の輸出は2007年がピークで、2013年はその83%に減少しています。一方輸入は上昇傾向にあり、2007年から11%増えています。※輸出減/輸入増なんだ。
・日本の輸入相手国は中国/米国/資源国(オーストラリア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦)などで、中国/ASEANが36%を占めます。輸入量の変動は少なく、円安は不利です。一方輸出は海外移転で、円安になっても増えていません。
・1980~90年代は、「円高是正」が至上命題でした。しかし今は1ドル100円前後の円高が望ましいと思います。今は「強い円は日本の国益」と言う時代です。
※本章は基礎かな。
<第2章 世界経済停滞の流れ>
○ユーロ危機は終わっていない
・2010年ギリシャ危機に始まり、欧州ソブリン危機に拡大します。PIGS諸国(ポルトガル、アイルランド、ギリシャ、スペイン)やオーストリア/ハンガリー/イタリアなどが巨額の債務残高を抱えていたのです。これらの国は欧州連合(EU)/国際通貨基金(IMF)に救済されますが、その見返りに財政赤字/経常収支赤字の削減を要求され、緊縮財政となります。そのためギリシャはマイナス成長になります(2010年-4.9%、2011年-7.1%、2012年-7.0%、2013年-3.9%)。他の国も同様となります。ユーロ圏全体では、2012年-0.7%、2013年-0.5%となります。
・これは共通通貨ユーロによる構造的な問題です。導入前、ドイツのマルクは切り上がり、ギリシャのドラクマなどは切り下がっていたのですが、その調整が不可能になりました。図はユーロ導入(1999年)前後の欧州各国の国際収支の推移ですが、導入後にドイツ/オランダは改善させ、ギリシャ/イタリア/仏国などは悪化させています。ユーロ導入により、23の国・地域は為替による調整手段を失い、南北の格差が拡大したのです。※こんな暴挙が、よく許されているな。
・欧州の危機は終わっていません。金融・為替の統合が財政に進めば、格差は再配分により解消できます。ユーロは政治的に進められましたが、経済面では中途半端なのです。※EUとユーロ圏が不一致なので、対応が難しいかな。
・財政収支は国際収支とほぼ連動しており、2013年ドイツは財政を黒字化させます。仏国/イタリア/スペイン/ギリシャはGDP比で3%余の赤字です(※欧州は財政規律が厳しいはず)。欧州は構造問題を抱える以上、ユーロ危機は終わっていません。
○停滞し始めた新興市場国 ※こんな言葉があるんだ。以下新興国とします。
・ブラジル/ロシア/インド/中国を「BRICs」と呼びます。これはゴールドマン・サックスが作った言葉です。これに南アフリカを加え「BRICS」としています。当社の予想では2050年、中国のGDPは70.7兆ドルで断トツになり、次に米国38.5兆ドル、インド37.7兆ドル、ブラジル17.3兆ドルとなっています。
・BRICS諸国は2000年代は高成長していましたが、2010年代に入ると減速しています(中国10.6%→7.7%、インド7.7%→5.0%、ブラジル3.8%→2.5%、ロシア4.8%→1.3%)。
・2012年から世界経済は停滞しています。しかし先進国は、2012年1.2%/2013年1.4%/2014年1.8%と好調ですが、新興国・途上国は、2012年5.1%/2013年5.0%/2014年4.6%と成長率を下げています。従って世界経済停滞の原因は新興国・途上国にあるのです。今後新興国・途上国は成長率をさらに下げると予測されます。
○成熟段階の先進国は低成長
・先進国は、かつてに比べると成長率を落しています。2014年米国は好調で2.4%成長しましたが、1990年代の3.2%に及びません。英国/ドイツ/日本も同様です。それは先進国が成熟段階に入ったためです。
・日本の1991~2012年の平均成長率は0.9%です。これは高度成長期(1956~73年)9.1%、安定成長期(1974~90年)4.2%から大きく下がっています。しかし「失われた20年」とは思いません。
・図は1人当たりGDPの推移ですが、日本は1987~97年で世界一になっています。これは1987年頃からの円高も影響しています。※やはりバブルの頃は、ジャパン・アズ・ナンバーワンなんだ。
○先進国共通のデフレとディスインフレーション
・先進国は成長率を下げ、それに伴いインフレ率は2%を切り、ディスインフレーションを起こしています。中でも日本は、1999年から消費者物価が下がるデフレーション(デフレ)を起こしています。
・なぜ日本だけデフレなのでしょうか。それは日本がアジアにあり、中国などの新興国に隣接しているからです。日本の輸入の44%はアジアからで、物価が穏やかに収斂しているのです。※この考え方は大変参考になる。
・デフレとセットにされるのが不況ですが、物価と不況は分けて考えるべきです。不況から脱却するための金融緩和は賛成ですが、物価目標を2%にするのは反対です。日本はアジアにあるため、経済成長を高める一方で、物価を安定させるのが本筋と考えます。異次元金融緩和で円安・株高や成長率を高めた点は評価できますが、物価を2%上昇させる必要はありません。※国債の負担の軽減のためかな。物価上昇は現実的に難しいかな。円安次第かな。
・平均賃金は名目でも下がっているため、物価が上昇すると、実質賃金は益々下がります。賃金の下落はグローバリゼーションによって起こっているので回避できません。そのため物価は安定してもらわないと困ります。※正論。
・政治家・エコノミストは「成長シンドローム」に囚われていますが、高度成長期(9.1%)/安定成長期(4.2%)のような成長は望めません。日本の1人当たりGDPは十分高いが、かつての成長は望めません。
・先進国は「ゼロ成長時代」に入ったのです。成長戦略が求められた時代から、成熟戦略が求められる時代に移行したのです(※当然政策の変更が求められる)。低成長時代は再配分が求められます。江戸時代の中期・後期は低成長で、享保の改革/寛政の改革/天保の改革が行われ、倹約/物価安定/養生所設立などで再分配が行われています(※混在。違いはあるのか?)。これから目指すのは、欧州型の福祉社会です。
<第3章 近代資本主義の終焉への大転換>
○利子率革命が近代資本主義を終わらせる
・水野和夫は「2%以下の低金利が長期間続く状況」を「利子率革命」と呼びました。「それが10年続くと、経済・社会が維持できなくなる」としたのです。日本は1997年以降、10年国債の利回りが2%を切り、その状況にあります。同様の状況が1611~21年のジェノヴァで起きていて、これを「長い16世紀」(1450~1640年)とし、中世のシステムを終わらせたとしています。そして「今の利子率革命は近代資本主義を終わらせる」としています。※これはローカルな話だと思うが。衰退する国もあれば、成長する国もある。
・日本の長期金利は低下し続けています(2009年1.3%→2015年0.43%)。これは米国(2006年5%→2014年2.2%)、ドイツ(2009年3.2%→2014年0.66%)も同様です。この現象は先進国共通で、その原因は低成長/低インフレにあります。
・彼はこれを「資本・国家・国民の利害が一致していた資本主義の地殻変動」とし、「長い16世紀は中世を終わらせ、利子率革命は近代資本主義を終わらせる」としています。
・利子率低下の背景に、利潤率の低下があります。資本の投下(投資)が減少しているのです。彼はこれをアダム・スミスを引用し、「日本は社会が必要とする資本を築き上げ、近代資本主義が目指した地点に到達した」としました。※難解。グローバル化時代における、ローカルな話だと思うが。要するに均質化しているだけでは。
○フロンティアの消滅が世界経済を行き詰まらせる
・フェルナン・ブローデル/イマニュエル・ウォーラスティン(※何れも歴史学者)は、「近代資本主義は、長い16世紀に始まる」としています。この時代はスペイン/ポルトガル/オランダ/英国などによる「大航海時代」です。この時代に旧体制に対し、様々な挑戦が行われています。※活版印刷による、知の普遍化が大きいかな。
・この時代、米大陸/インド/東南アジアなどのフロンティアが存在しました。1942年コロンブスが米大陸を発見し、1498年喜望峰が発見され、・・、1537年ポルトガルがマカオを植民し、1556年スペインが米大陸を植民地化します。1571年スペイン/ヴェネチア連合軍がオスマン帝国を破り、欧州優位が確立されます。1588年英国がスペインの無敵艦隊を破り、スペインは衰退を始めます。
・日本は信長/秀吉/家康の時代ですが、秀吉は明の征服を夢見ますが、家康は鎖国に向かいます。
・欧州各国は米大陸/アフリカ大陸/アジアで植民地を争います。そんな中で1776年米国が独立します。1842年香港が英国に割譲され、1857年ムガール帝国が滅亡し、英国の植民地になります。インドシナ/エジプトも植民地となります。日本だけが残り、明治維新により富国強兵されます。
・この植民地化(フロンティ拡大)の時代の後期(1870~1913年)が「パックス・ブリタニカ」です。ジョン・メイナード・ケインズ(※あのケインズ)は『平和の経済的帰結』で、この時代を「英国にとって、夢のような時代」としています(※長い本文が記されているが省略)。英国は巨大な投資を行い、その富を享受していました。しかし第2次世界大戦後、植民地は独立します。
・第2次世界大戦後、アジアの日本/韓国/台湾/香港/シンガポール/ASEAN/中国が次々と経済成長します。2010年代に入ると、アフリカ諸国の経済成長が高まっています。しかしそれが終わるとフロンティアは消滅します。
○増大する地政学リスクと米国のモンロー主義
・「地政学リスク」とはテロ・戦争や財政破綻などのリスクを云います(※経済も含むんだ)。これは2002年にFRBが使い始めました。2010年アラブで、民主化を求める「アラブの春」が起きます。エジプト/リビア/シリア/チュニジアなどで起きますが、民主化に成功したのはチュニジアだけです。
・2006年「イスラム国」が組織されます。彼らはオスマン帝国を継承し、「サイクス・ピコ協定」(1916年)による中東分割を批判しています。またイスラム法を重視し、奴隷制の復活を公表します。彼らは原油で資金を調達し、銀行・発電所・礼拝堂・パン屋なども運営しています。現実的に国家を樹立する方向に進んでいます。※正にイスラム国だな。この辺り知らなかった。
・アラブの民主化は、結果として親欧米の独裁国家が、反欧米/過激化/イスラム化したと云えます(※ポイントだな。国家主権の確立かな)。イスラム国は各国の過激派組織(ボコ・ハラムなど)から支持されています(※詳細省略)。
・米国やシリアは、イスラム国の首都ラッカを空爆します。また米国はイラクに1500人の米兵を追加派遣します。かつて米国はイラク戦争/アフガニスタン戦争で地上部隊を派遣していますが、オバマ大統領はイラク/アフガニスタンから米軍を撤退させています。
・米国も成長率を下げていますが、相対的経済力も下げています。米国の経常収支は1980年代から赤字になり、近年は対GDP比で-2.5%程度の赤字です。財政収支も2000年代から赤字で、2014年は対GDP比で-5.5%の赤字でした。政府債務残高は2003年対GDP比で59%でしたが、2014年には106%で倍増しています。※酷い状況だが、基軸通貨なので怖くない。
・また米国には、貧富の格差の問題があります。富裕層1%の所得シェアは、1981年8%でしたが、2012年に20%を越えました。先進国は10%前後で、米国は突出しています。2013年格差問題からウォール街でデモが起きます。※オキュパイ・ウォールストリートだな。
○大転換期「長い21世紀」
・I・ウォーラスティンはF・ブローデルの分析から、「長い16世紀」(1450~1640年)を中世から近代への移行期とします。F・ブローデルの名著『地中海』のクライマックスは「レパント海戦」ですが、F・ブローデルは「レパント海戦は、キリスト教世界の劣等感の終わりであり、トルコ優位の終わりである」と書いています。
・「長い16世紀」の初期の中心はヴェネチア/ジェノヴァでしたが、北のアントワープ/アムステルダム/ロンドンに移ります。近代資本主義は英国が中心になり、第1次世界大戦/第2次世界大戦を経て米国に移ります。
・水野氏は、「長い21世紀は、近代資本主義の終わり」「中国/インドが再浮上し、金融経済が実務経済(?)を支配し、資本優位が確立し、西欧の中産階級は崩壊する」としています。さらに「産業革命により経済は飛躍的に成長します。それは動力革命/エネルギー革命で、エネルギーを無尽蔵に蒐集します」「9.11以降は一歩進もうとすると、中東から攻撃されるようになりました。一番問題なのは、一歩進んで富を得る人と逆風で被害を受ける人が別な事です(※格差問題だな)」「逆風を受けるのは貧しい人や若者で、雇用削減/負担増のしわ寄せが起きています」「『前進=善』の考え方の転換が必要です」としています。彼は「成長を諦め、爛熟した庶民文化が花開いた時代に戻れ」としています。
<第4章 1億総中流の奇跡>
○高度成長を実現させた池田勇人/下村治
・高度成長期(1956~73年度)の平均成長率は9.1%に達します。この時池田勇人首相(1960~64年)が「所得倍増」を掲げています。彼は大蔵省出身で、事務次官を務めています。1949年衆議院議員になり、1年目で吉田首相の大蔵大臣を務めています。彼は岸内閣の頃から、下村治/宮澤喜一/大平正芳らと「所得倍増計画」を練っていました。
・下村治は大蔵省出身で池田の後輩です(※1959年退官。経済学者)。彼は高度成長を強く主張し、所得倍増計画を支えます。彼の主張は楽観論とされましたが、池田首相に採用されます。彼らを支えたのが宏池会で、大蔵省・通産省の適切な政策により、1960年代の平均成長率は11.6%に達します。
・当時の通産事務次官・佐藤滋を主人公にしたのが、小説『官僚たちの夏』です(※他に大蔵事務次官・森永貞一郎/石田正などが紹介されているが省略)。そして1962~65年大蔵大臣を務めたのが田中角栄でした。※著者は1965年大蔵省入省で、大蔵省の人事が詳しく説明されているが全部省略。
○高度成長と格差縮小を進めた列島改造計画
・1964年池田首相は後任の総裁に佐藤栄作を指名します。佐藤首相の任期(1964~72年)は8年弱で、戦後最長になります。自民党は池田派(宏池会)と佐藤派(周山会→田中派→経世会→平成研究会)に分かれますが、福田赳夫は別に清和会を結成します。※佐藤政権の説明は、これだけか。
・1972年田中内閣が発足しますが、1974年金脈問題から総辞職します。総理就任直前に発表した『日本列島改造論』はベストセラーになります。これは公共事業などで人・カネを地方に分散させる政策で、地方に雇用を作ります。これは高度成長と格差縮小を実現します。
・建設業の就業者は、1955年195万人から、1975年479万人に増大します。田中は1950年代から、この活動を行っていました。新道路法(1952年)/道路整備費に関する措置法(1953年)を議員立法し、1958年道路整備緊急措置法を立法し、道路整備特別会計を設け、揮発油税の特定財源化を恒久化しています(※これは田中が作ったのか)。彼はその後も、石油ガス税/自動車重量税/地方道路譲与税/軽油引取税/石油ガス譲与税/自動車取得税/自動車重量譲与税を道路財源に加えています。※車関係で、こんなに一杯徴税されているのか。
・1952~59年、道路整備特別会計/特定多目的ダム建設工事会計(治水特会)/国営土地改良事業特会/特定港湾施設工事会計(港湾設備特会)など特別会計が新設されます。※特別会計はどれ位あるんだろう。一般会計と比べて、規模はどうなんだろう。※「裏ではすき焼き」の話があったな。
・また1955年以降、郵便貯金/公的年金などを原資に公団/事業団が新設されます。住宅公団/日本道路公団/首都高速道路公団/阪神高速道路公団/日本鉄道建設公団/水資源開発公団/や、産炭地域振興事業団/石炭鉱業合理化事業団などが新設されます。
・公共事業が地方に配分され、1972年農業世帯の収入が勤労者を上回り、1985年には勤労者の所得を12%上回っています。この時期、第2種兼業農家(※農業以外からの収入が主)が急増し、1985年専業農家が25%、第2種兼業農家が70%となります。田中は金権政治家と批判されますが、中産階級中心の豊かな社会を作ったのです。※凄い実績だな。
○GDPの上昇と共に、円高も進行
・日本は1987年1人当たりGDPで世界一になります。1956年からの高度成長、1974年からの安定成長で日本は世界有数の国になります。それと共に円は切り上がります。1971年まで360円の固定レートでしたが、1970年代後半から200円台、1990年代から100円台に切り上がり、近年は100円前後で推移しています。※詳しい推移が説明されているが省略。
○1990年代から成熟局面へ
・日本は1991年より低成長期に入り、平均成長率は0.9%に低下します。これを「失われた20年」と呼ぶ人がいますが、成熟期に入ったと云えます。
・主要先進国は2000年代に入り、成長率1~2%の成熟段階に入っています(※成熟局面、成熟期、成熟段階)。2013年日本は1人当たりGDPで24位ですが、大国では米国/ドイツ/仏国/英国の次です。ジニ係数では、米国/英国より低く、仏国/ドイツと同レベルです。所得上位10%と下位10%の比率も同様で、格差は小さいグループに入ります。しかし格差は拡大しており、非正規雇用者比率は1990年20%が、2014年38%に増加しています。※5人に1人が、2人に増えた。
・日本は豊かになり、成熟段階に入ったが、相対貧困率は増加し、格差は拡大しています。所得再分配が大きな政治課題になっています。
<第5章 2020年東京オリンピック>
○先進国に追い付いていなかった1964年
・1956~73年、日本は高度成長期を迎えます。1964年の1人当たりGDPは30.5万円でした。これは世界平均の2倍で、仏国/イタリアにも追い付いていませんでした。先進国の道を歩み始めた日本のシンボル的イベントが東京オリンピックでした。
・「東京オリンピック組織委員会」が設置され、国家予算(?)として、施設整備164億円/運営費164億円/選手強化23億円が計上されます。10月10日開幕し、金16/銀5/銅8を獲得し、米ソに次ぎます。
・東海道新幹線は10月1日に開業します。1959年首都高速道路公団が新設され、短期間で高速道路が建設されます。土地買収が難しかったため、既存の道路や河川を利用する「空中作戦」が採られます。
・1964年9月国際通貨基(IMF)/世界銀行の総会が東京で開かれます。翌年の入省が決まっていた著者は、それを手伝っています。この総会で記憶に残るのは、1997年大蔵省財務官時の総会です。著者は「アジア通貨基金」の創設を主張したのですが、米国の副財務長官とIMFの副専務理事に潰されます。
○新しい公共事業
・2020年東京オリンピックは7月24日から開催されます。選手村から8Km以内に、競技場の85%があります。ただし一部の競技を岩手・宮城・福島で行い、また施設建設に被災地の企業を優先して発注します。
・メイン会場は新国立競技場です。デザインは英国ザハ・ハディドの作品に決まります(※覆った件かな)。総工費1625億円は承認されています(※国/都どっちだ。国立だから国か)。地下鉄の駅の改修も行われます。多くの競技がお台場/夢の島公園で行われ、それらの改修もあり、かなりの公共事業が実施されます。※色々説明されているが省略。
○官民の努力で、外国人観光客が増大
・訪日外国人は十数年で2倍になり、2013年1千万人の大台を突破しました。観光ランキング(※訪日外国人数みたい)で日本は27位ですが、アジアでは中国/タイ/マレーシア/香港/日本の順です。2008年国土交通省に観光庁が設置されます。訪日外国人は、2016年2千万人、2019年2千5百万人を目標にしています。これに伴い、ホテルの建設計画が相次いでいます。
・「トリップアドバイザー」の調査では、人気の観光地は、伏見大社/広島平和記念資料館/厳島神社/金閣寺/東大寺の順になっています。著者が学生の時、通訳のアルバイトをしていましたが、広島は観光ルートになっていました。京都には伏見大社/金閣寺/清水寺などがあり、外国人の宿泊者が大幅に増加しています。月別に見ると、4月/7月/10月が多くなっています。
○成熟日本をどう見せるか
・1964年は高度成長期で、2020年は成熟期です。東京オリンピックはそれを見せる機会になります。オリンピックではありませんが、1997年リヨンで開かれたG7首脳会議は記憶に残ります。リヨンは仏国の「食の都」です。シラク大統領は報道関係者用のレストランに三ツ星シェフを連れてきて、料理を振る舞いました。当然報道は甘くなります。
・首脳の晩餐会も同様で、「レオン・ド・リヨン」で催されました。外相・蔵相は「ヴィラ・フロランティーヌ」で行われました。事前にメニューが送られ、選んだ料理が出されました。※先日、仏国料理とイタリア料理を比較する「日本人のおなまえ!」を見たが、面白かった。
・このサミットは食以外の演出も見事で、夜は花火を打ち上げました。外交で迎賓は重要なのです。※サミットは、結構世間話・自慢話が多いらしい。
・パリでの迎賓の場はエリゼ宮ですが、日本で『エリゼ宮の食卓』が出版されています。これは毎日新聞の記者が書いた本で、エリゼ宮の料理・ワインを高く評価しています。※羽田首相/小渕首相のワインの話がされているが省略。
・リヨンの話をしたのは、東京オリンピックでも食が重要と考えるからです。選手村では寿司・テンプラなどの日本食をアピールするのが良いでしょう。※西洋人は肉などをメチャ食うからな。しかもスポーツ選手。そう言えば「おもてなし」があったな。
・日本は食だけでなく、花火も得意です。また東京には、皇居/浅草/新宿御苑があり、平将門の首塚/大森貝塚/明治神宮外苑/六義園/小石川後楽園/浜離宮などの旧蹟もあります。※浅草タワー/渋谷スクランブル交差点などもある。
<第6章 インターネット社会が変える>
○インターネットで社会は激変した
・1982年インターネット・プロトコルが標準化され、1990年代半ばになるとインターネットは文化・商業に影響を与えるようになり、電子メール/VOIP/ソーシャル・ネットワーキングなどが可能になります。双方向通信でインターネットが占める割合は、1993年は1%でしたが、2007年97%に増大します。総務省の調査で、2010年インターネットの利用者は9500万人、普及率は78%になっています。
・電子メールは大変便利です(※詳細省略)。ポータルサイト「yahoo.JAPAN」なども大変便利です(※詳細省略)。また遠隔医療/インターネットバンキングなども可能になっています。
○スマートフォンの普及
・1999年スマートフォンがインターネットに接続されました。2014年日本のスマートフォンの普及率は40%になっています。スマートフォンは会社・個人で利用が進んでいます。2011年スマートフォンの出荷台数は1千万台で、全携帯端末の半数です。2015年にはこの割合が70%を超え、普及が進みます。
○活字メディアの衰退
・こうした中で活字メディアは衰退しています。新聞の発行部数は2000年4740万部から、2013年4310万部に減少しています。そのため各社は電子版サービスを始めています。
・一方漫画は発行部数を増やしています。累計発行部数では、『ONE PIECE』が3.2億部、『ゴルゴ13』が2億部、『ドラゴンボール』が1.6億部となっています。大人が新聞から漫画に流れています。
・月刊誌・週刊誌では、『週刊文春』が70万部、『週刊少年ジャンプ』が270万部、『週刊ヤングジャンプ』が60万部となっています。ここでもコミックが優勢になっています。また近年「メディアミックス」(※こんな言葉があるのか)が進んでおり、漫画のアニメ化/ドラマ化/小説化が行われています。
<第7章 サラリーマンの下層化>
○グローバリゼーションが招く格差拡大
・トマ・ピケティ『21世紀の資本』が話題になっています。彼は資本収益率(r)と経済成長率(q)を歴史的に比較し、基本的に資本収益率が高く、お金は資本家に集まると説いたのです。これに対応するためには、純資産に対する累進課税が必要としますが、資本の移動は自由なため、それは不可能としています。
・グローバリゼーションにより先進国と新興国との貿易・直接投資が活発になると、両者間で物価/賃金の収斂が起きます。そのため1980年代半ばより、先進国のインフレ率は大きく下がっています。1990年代のインフレ率の平均は、日本1.2%/米国3.0%/英国3.3%/ドイツ2.4%となっています。
・賃金は新興国と競合する業種は下がりますが、競合しない業種は上がります。日本は格差を拡大させていますが、それは低所得者が増えたからです。2008年非正規雇用者比率(※以下非正規比率)は34%でしたが、2014年には38%に高まり、貧困が拡大したのです。
○子供の貧困、若者の失業、中産階級の崩壊
・平均経済成長率9.1%の高度経済成長期(1956~73年)はオイルショックで終わり、平均経済成長率4.2%の安定成長期(1974~90年)になります。この間に中産階級は大幅に増加し、「1億総中流」の時代になります。1988年1人当たりGDPは世界一になります。この状況は2000年頃まで続きます。
・1961年国民皆保険が確立します。消費者ローン/住宅ローン/自動車ローンなども普及し、多くの世帯がそれらを手にできるようになります。通常、高度成長期には格差が拡大しますが、「列島改造計画」などにより、農家の所得は勤労者の所得を上回ります。
・しかし1990年代の低成長期・成熟期に入ると、格差の拡大が始まります。1990年0.43だったジニ係数は、2005年には0.53まで上昇します。※ジニ係数はピンと来ない。
・1985年からの相対貧困率/子供の貧困率を表にしていますが、それは上昇し続けています。特に貧困率が高いのが、1人親世帯です(※核家族が、さらに高齢化・単身化した)。OECD30ヵ国で相対貧困率を見ると、日本は4番目に高く、米国は3番目です。
・非正規比率は1990年20%から、2014年38%にまで上昇しています。特に高いのが65歳以上と15~24歳の若者層です。また男性20%/女性58%で、大きな差があります。これは女性のパートが圧倒的に多いためです。※この辺り、統計データを多用している。
※男性の非正規比率は、1990年9%から2014年22%、女性は1990年38%から2014年58%。この問題は女性の問題?と言うより女性の生活スタイルの実態?
・平均年収は1997年をピークに下がっています。2013年度は414万円で、ピーク時から1割減少しています。これは先進国に共通の現象です。先進国と新興国の物価/賃金は収斂していますが、質の高い製品やその生産者の賃金は下がっていません。グローバリゼーションにより中産階級は分裂し、非正規雇用者が低所得者層に流れたのです。
・2012年15歳以上の有業者は6442万人、無業者は4639万人です。無業者は2007年に比べ、207万人増加しています(※1997年度頃から有業者が減少し、逆に無業者が増加している)。また転職は、正規から非正規への移動が増えています。
・経営者の経歴を見ると、戦前は所有型・転職型が多かったのですが、戦後は終身雇用者が半数を占めるようになりました。大学を卒業し、企業で出世し、社長・会長になるパターンです。銀行/商社に所有型はなく、製造業でも15%しかありません。財閥解体/農地改革で、日本はサラリーマンと自営農家の社会になったのです。
・しかし非正規雇用者が増え、サラリーマンの時代は終わったと考えられます。大学を出て正規社員になるのが難しくなっています。2014年15~24歳の非正規比率は、男性46%/女性57%です。1990年は男性の90%が正規社員でした。※グローバリゼーションが若者の職を奪った。
・また欧州では若者の失業が問題になっています。2013年スペインの若者の失業率は26%、ギリシャ27%、仏国10%、イタリア12%などとなっています。
○「サラリーマンの時代」から「プロフェッショナルの時代」へ
・日本の中産階級は分裂しました。水野和夫は、この原因をグローバリゼーションとしています。「近代は国民の均質化を要求したが、グローバル経済により『1億総中流』は崩壊した」(※均質化の範囲が、国から世界に広がったのでは)。中国やインドの人に置き換えられない仕事をしている人は、賃金を相対的に高くできます。サラリーマンはルーティン作業する『ホワイトカラー』と『プロフェッショナル』に分解されたのです。
・「サラリーマンの時代」は「ゼネラリストの時代」でした。人事畑・企画畑でキャリアを積んだ人が、トップに登り詰めました。しかし2000年代に入ると、プロフェッショナル/スペシャリストが評価されるようになります。
・例えば日銀の総裁には、財務省・大蔵省の事務次官経験者が就いていましたが、今回は黒田東彦が就いています、彼は国際金融行政を専門としています。民間銀行も同様で、3メガバンクの頭取は、何れも国際派です。私が財務官だった頃(1997~99年)、都市銀行10行の頭取の大半が国内派でした。
・プロフェッショナルが求められるようになったのは金融だけではありません。日本でも為替ディーラーが経営者になるケースが見られます(※これも金融では)。ある分野を極めた人は、優秀な経営者になれると思います。様々な事に通じる事が求められる「サラリーマンの時代」は終わり、「プロフェッショナルの時代」に転換したのです。これからは「職人」が求められます。
○所得の再配分
・グローバリゼーションにより中産階級は分解され、格差が拡大しています。格差縮小には、国による再配分が必要です。北欧諸国などは、所得の再分配(※混在)により相対貧困率を減少させています。そのため国民負担率(租税/社会保険の負担率)は、デンマーク68%/仏国60%など、高くなっています。日本は39%、米国は31%です。消費税率は、欧州は軒並み20%台ですが、日本は8%、米国は州で異なりますが5%前後です。※欧州は高福祉・高負担。
・これらの努力で、仏国は出生率2.0を回復しました。先進国で2.0を超えているのは米国2.1と仏国くらいです。他は日本1.4/英国1.9/ドイツ1.4/イタリア1.4/スウェーデン1.9/デンマーク1.9などです。※1.9と1.4に集中している。
・このままでは日本は、2040年頃に人口1億人を割り、2060年頃に8600万人程度になります。同時に高齢化も進み、2060年頃は高齢者(65歳以上)が4割になります(※これは凄いな。半分近くが高齢者)。日本は世界の先頭を切って、超高齢化社会に入ります。
・これに対し、定年制・年功序列賃金の見直しや、年金制度/医療制度の修正が求められます。むしろ若者層の貧困も問題で、高齢者に向けられていた社会福祉を、若者層に向ける必要があります。
<第8章 ゼロ成長時代>
○ゼロ成長時代が始まった
・先進国は低インフレになり、成長率も低下しています。2014年日本の成長率は-0.1%、米国2.4%/英国2.6%/ドイツ1.6%/仏国0.4%/イタリア-0.4%となっています。インフレ率は、日本-0.3%、米国2.0%/英国1.6%/仏国0.7%/ドイツ0.9%/イタリア0.1%です。「ゼロ成長時代」に入り、成熟段階に入ったと云えます。これからは成長を求めるのではなく、日本の良さを享受する時代です。日本は「環境」「安全」「健康」が優れています。
・日本は海洋国家で、緑にも恵まれます。日本の森林化率はフィンランド/スウェーデンに次いで、3位です。欧州は12世紀、麦作・牧畜のため森林を開墾しました。欧州では森は魔女が住む場所ですが、日本は神が住む場所です。比叡山には延暦寺があり、高野山には金剛峯寺などがあります。
・日本の河川は急流で清流です。そのため鮎・山女・岩魚が生息しています。また日本は海洋国家で、排他的経済水域の面積は世界6位です。また水深が深いため、体積では世界4位です(※面白い評価基準だ)。そのため海洋生物は豊富です。
・日本は「安全」でもトップランナーです。日本は1年間で犯罪に巻き込まれる割合が9.9%で、先進国(OECD)で2番目に低くなっています(※それでも1割か)。日本は長く平和を維持した国です。明治維新までは対外戦争は、「白村江の戦い」「元寇」「朝鮮出兵」しかありません。国内戦争も少なく、「保元の乱」「戊辰戦争」くらいです。※戦国時代は?
・日本は、そのエネルギーを教育・文化に向けたのです。ただし明治維新以降は日清戦争/日露戦争/第1次世界大戦/第2次世界大戦に巻き込まれますが、総じて平和な国でした。
・日本は「健康」でもトップランナーです。平均寿命は世界一で、肥満率は世界最低です。これは米・魚を中心にした和食にあります。また健康を支えているのが、1961年に整えられた国民皆保険です。
○低負担・中福祉から高福祉・高負担へ
・日本は先進国で米国に次ぎ、国民負担率が低くなっています。日本は39%ですが、欧州は60%前後です。欧州は「家族関係の給付」が日本の3~4倍あり、これにより相対貧困率を大きく減少させています。その高負担の中心が消費税です。欧州の大半は、消費税率が20%台です。
・日本の一般会計は社会保障費が33%を占めます。国債費を除く基礎的財政収支だと、43%を占めます。これに年金/医療・介護を加えると80%に達します。つまり歳出の大半が高齢者向けなのです。一方欧州は出産・育児・保育等への歳出も充実しています。
・日本では「子ども手当」(児童手当)が支給されますが、これの国負担分は1.2兆円です。これは社会保障費の3.8%で、年金と比べると1/10です(※ピンと来ない比較だ)。そのため欧州は家族関係給付が対GDPで3%前後あるのに、日本は0.8%しかありません。※シルバー民主主義かな。そうなる理由に、①高齢者の人口が多い、②過去より未来の政策を支持するなどがある。
・貧困率が上昇していますが、特に目立つのが子供の貧困率です。また若い男性の貧困率も上昇しています。子供の学力と親の年収は相関関係にあるため、貧困は世襲されています。
・これらから年金/医療が中心の社会保障制度を変える必要があります。高齢者の貧困より、若者層の貧困/母子家庭の貧困に対処する必要があります。年金/医療に所得制限を設けたり、年金を保険方式から税方式にすべきです(給付を困窮者に限定する。※裕福な高齢者に給付しないだな)。
・課題は高負担に踏み切るかです。現在消費税収は15.3兆円で、20%に引き上げると23兆円の増収になります。特例公債(※赤字国債かな)の発行が35兆円あり、その2/3にしかなりません。いずれ消費税率は20%半ばまで上げる必要があります。当然赤字国債の解消だけでなく、家族関係給付を増やす必要があります。欧州並みの家族関係給付をするには、11兆円が必要になります。
※この辺りを詳細解説すれば1冊の本になるが、超簡潔に解説している。
○格差を是正できるのは政府
・資本主義が格差を拡大させるのは自明です。資本収益率(r)>経済成長率(q)なので投資するのです。マルクスが共産主義を説いたのも、政府が再分配政策を行うのも、富の偏在をなくすためです。
・日本は戦後、財閥解体/農地解放により格差が是正されます。日本は格差が小さい国ですが(※相対貧困率が欧州の倍だけど)、成熟期に入ると相対貧困率は上昇し、特に「子供の貧困」は重要な課題になっています。そのため政府は再分配政策を推進する必要があります。※戦後が他者から強制された社会改革なら、今は自身の力で第2の社会改革を行う必要がある。