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『25%の人が政治を私物化する国』植草一秀(2019年)を読書。

安倍内閣の政策に対し批判を行っている。確かに米国従属や、富裕層/大資本の優遇が目に付く。
「小さな政府」の3つの類型(民営化、社会保障支出、利権支出)と、政治を刷新するための5つの方策(分配、税制、民営化、TPP、財政)は覚えておこう。

基本的な内容だが、情報量は十分あり、また参考になる主張も多々ある。
ただし前半は感情的な部分、後半は簡略化された部分が多い。

お勧め度:☆☆☆
内容:☆☆☆

キーワード:<国家的改竄が横行するこの国の異様さ>実質賃金、安倍政治、ガーベラ改革、<メディアによる情報操作>16社体制、ポータルサイト、政治利権、町内会、<1%で99%を支配する5つの道具>洗脳/3S、教育、堕落、恐怖/人物破壊、買収、<アベノミクスの正体>非正規労働者、金融緩和、成長戦略、経済統計、<3つの政治哲学から、望ましい社会像を考える>財政、リバータリアニズム/経済格差、リベラリズム、コミュニタリアニズム/共通善、<良い小さな政府と悪い小さな政府を区別する>利権支出、民営化/水道事業、社会保障、利権支出、<日本政治を刷新する5つの方策>最低賃金、消費税、民営化・特区、TPP、財政改革、<歪んだ所得分配を変える>働き方改革/裁量労働制/高度プロフェッショナル制度/同一労働・同一賃金、入管法改定/最低賃金、理想社会、<税制の抜本的改革>消費税、森友問題、中曽根内閣/橋本内閣、鳩山内閣/菅内閣/野田内閣、法人税減税、消費税廃止、<利権創出のための民営化を止める>水道事業、天下り、<不公正なTPPプラス交渉を止める>TPP/日欧EPA、関税、種子法・種苗法/食の安全安心、ISD条項、医療保険、<利権政治が温存する財政を変える>プログラム支出/裁量支出、小さな政府、<米国による支配と云う戦後日本の基本構造>対米隷属、日本国憲法、非民主化、吉田茂/日米安保条約、鳩山一郎、岸信介/砂川事件、<利権集団に支配された情報空間>芸能プロダクション、NHK/ポータルサイト、<政治を変えるには教育改革>普通教育、<政治の実権を握る官僚機構>天下り、職名、公務員の人事・採用、<刑事司法の近代化>裁量権、冤罪、基本的人権/完全可視化、<政策の下に主権者が結集する>教育

<プロローグ 国家的改竄が横行するこの国の異様さ>
○統計数値の改竄までする三流以下の国
・多くのメディアが「アベノミクスで経済は良くなった」と報道するが本当だろうか。しかし正規雇用比率は低下し、実質賃金は減り続けている。第2次安倍政権の6年半で、実質賃金は5%減っている。

・2019年は政治決戦の年で、統一地方選と参議院選挙がある。これは12年に一度で、亥年に巡ってくる。そのため安倍内閣は2018年の実質賃金の伸び率をプラスにしたかった。そのため行われたのが経済統計の改竄だった。統計の作成で高く出る方法を採用したのだ。本来なら前年の統計も新しい方法で再算出しないといけないが、それは行わなかった。これにより高い伸び率になった。
・余りに不自然なので、専門家から疑問が上がり、統計不正が発覚した。結局改竄したままになっている。

○景気回復の実感がないのではなく、事実がない
・メディアは「アベノミクスが成功した」と言い、安倍首相も「有効求人倍率が全ての都道府県で1を超えた」「名目GDPが増えた」と言う。しかし真実は、景気回復していないのだ。そのため普通の人は「景気が回復した実感はないが、メディアが景気が回復したと言うので、そうなんだろう」となっている。

・私達は真実を知る事が重要である。日本の停滞は30年になり、現在40歳の人でも経済低迷期しか知らない。私達は生活の不安に脅かされながら生きてきた。しかし政治権力と企業は結び付き、反権力の言動を示せない。特に若者が異議を唱えなくなった。
・しかし日本は代議制民主主義で、国権の最高機関である国会に代表者を送れる。政治で最も重要なのは法律と予算である。「世の中がおかしい」と思うのであれば、選挙で政治を変える事ができる。しかし権力に物を言わない国民が増え、安倍内閣が6年半続いた。

・安倍内閣は国民の反発が強い決定を強行してきた。特定秘密保護法を制定し、集団的自衛権を容認し、戦争遂行のための平和安保法制を制定した。さらにTPPに参加し、種子法廃止/漁業法改定/水道法改定を強行した。※他に、働かせ改革、入管法改定、原発再稼働が記されている。

○戦争と弱肉強食
・安倍政治の1つの特徴は、戦争と弱肉強食である。そしてもう1つの特徴は、対米従属・対米隷属である。しかし平和/分かち合う経済/自立した日本を目指す人も多い。
・ガーベラは、多様性/希望/前進/挑戦などの象徴である。私は誰もが笑顔で生きれる「ガーベラ改革」を希望する。

○政治を刷新するための5つの心得
・そのための5つの心得を掲示する。第1は「情報を鵜呑みにしない」である。塩野七生は「ルネサンスは、全てを疑う事から始まった」とした。私達はメディアから多くの情報を得ているが、メディアは自身の判断で情報発信している。ガーベラ革命を実現するには、ある情報が伝えられた時、「誰が発したのか」「それは事実か」など全てを疑う事が重要である。
・第2は「権利を粗末にしない」である。日本は代議制民主主義で、その参政権を粗末にしてはいけない。

・第3は「政党任せにしない」である。政治には政党が不可欠だが、近年政党が主権者の意見を正面から受け止めなくなっている。そのため政治を、政党だけに任せられない(※対応が難しいな)。山本太郎参議員が新しい政党を作ろうとしているが。その様な試みが必要である。
・第4は「目標を絞り込む」である。例えば安倍政治に対し、「戦争推進から平和維持に変える」「原発推進から原発廃炉に変える」「辺野古基地を作らせない」「TPPから離脱する」「弱肉強食の経済政策を共生重視に変える」などの絞り込みが必要である。

・第5は「諦めない」である。敵を喜ばせないためにも、諦めてはダメだ。そのためには運動に明るさが必要である。そこには愛・夢・希望が必要である。政治に無関心でいられても、政治に無関係ではいられない。政治は、私達の生活に直結している。

第1章 あなたも既に騙されている

<1.1 メディアによる情報操作>
○国民が情報操作され易い日本特有の事情
・私達が得ている情報の情報源は限られていて、日本には「16社体制」がある。1千人の集会を1千回開けば、100万人に伝える事ができる。しかしテレビで1%の視聴率があれば、簡単に100万人に伝える事ができる。
・テレビにはキー局が5社あり、日テレ/TBS/テレ朝/フジ/テレ東がある。これに公共のNHKがある。キー局は、それぞれ読売/毎日/朝日/産経/日経の新聞社を持つ。全国紙ほどではないが広域に新聞を発行しているのが、北海道新聞/中日新聞/西日本新聞である。また地方紙に情報を提供しているのが通信社で、共同通信/時事通信がある。これら16社が情報源になっている。
・インターネットで最初に開くページ(ポータルサイト)がある。これも、Google/Yahoo!/MSN/@nifty/livedoorなどに限定されている。

・私達は、これらを疑う事から始めないといけない。諺「『この人は信用できない』と分かるまで信用するのが日本人。『この人は絶対信用できる』と分かるまで信用しないのが中国人」にあるように、日本人は騙され易い。
・信用度が高いのがNHKだが、NHKは政治権力の支配下なので、鵜呑みにできない。外国では、端からメディアを信用していない。米国のトランプはメディア批判で共感を得た。しかし日本では権力がメディアをコントロールし、世論を操作している。

○選挙結果を左右する情報操作
・参政権を放棄している人もいるが、選挙に熱心な人もいる。彼らは政治を利権化しているからだ。これが最大の政治問題である。安倍内閣が得ている票は、全体の1/4で、自民党の得票率が18%、公明党の得票率が7%である。しかし議会では3/4の議席を得ていいる。
・自公が半数弱の票を得て、非自公が半数強の票を得ているが、衆議院・参議院の選挙区は大半が1人区なので、自公が議席を独占している。

・25%の利権に群がる勢力は、棄権率ゼロで選挙に臨んでいる。そして敵対勢力には、逆に選挙に行かないよう工作している。例えば政治に関心を持たせないように、選挙前になると、芸能人や著名人の麻薬事件を表面化させる。2012年総選挙前には、PM2.5が大々的に報道された。2019年地方統一選挙前には、オレオレ詐欺/アポ電詐欺/新元号などが大々的に報道された。これらは政治問題を隠し、敵対勢力に投票に行かせないためである。※この辺は常識だな。

○町内会にも見られる利権構造
・この政治状況は町内会とダブる。町内会費は月600円(年7千円)程度である。この一部は懇談会/飲食費など利権的に支出されている。多くの世帯は町内会に関心を持たず、総会にも出席せず、町内会費を近所付合いのコストと考えている。しかし多くの人が町内会に関心を持ち、経費節減に努めれば、それは可能だろう。
・この町内会も自公の利権に関与している。市は町内会への助成金を増やし、ゴミ有料化の賛同を得た。財政資金を用い、町内会レベルの意思決定を誘導している。この利益誘導は全国津々浦々の町内会で行われている。

<1.2 1%で99%を支配する5つの道具>
○民主主義の再建に必要なのは、情報操作の排除と教育の刷新
・利権勢力が人民を支配する手段が5つある。①洗脳、②教育、③堕落、④恐怖、⑤買収である。民主主義では過半数の勢力が主導権を握るが、日本の安倍政治はハゲタカファースト/大資本利益追求になっている。
・社会は1%の超富裕層と99%の労働者勢力からなり、その1%が社会を支配している(※余りにも漠然)。これが実現しているのは、99%の人を騙しているからで、その方法が先の「5つの道具」(ツールファイブ)だ。
・第1の道具「洗脳」は、マスメディアによる情報操作である。マスメディアをコントロールし、知識・関心・判断を誘導している。インターネットのポータルサイトであれば、芸能・スポーツ情報を前面に出し、政治問題・社会問題に関心を持たせないようにしている。

・日本の民主主義を再建するのに、「教育」は重要である。特に小学校・中学校までの義務教育は重要である。均質な能力/高い読み書き能力/従順な性格を培った教育システムで、日本は重化学工業を発展させた。しかし今はモノ作りから、ICTやソフトウェア開発に移行しつつある。日本は自動車のウェイトが高いが、電気自動車になると根幹技術が変わり、企業の勢力図が塗り替わる可能性がある。
・安倍内閣は2006年教育基本法を改定し、教育方針を歴史・伝統・郷土を重んじるように変えた。本来教育は個人のためで、国家のためではない。

○敵対勢力を排除する人物破壊工作
・第3の道具が「堕落」である。これはGHQも、3S(スポーツ、セックス、スクリーン)として用いた。読売グループの創始者・正力松太郎は戦犯として収監されるが釈放される。彼は原子力政策を推進したり、情報操作を行い、読売巨人軍で人々の関心をスポーツに引き寄させた。またスポーツ新聞には、セックス/スクリーン情報に溢れている。
・近年スポーツ産業は利権産業になり、人々の関心を政治から引き離す道具になっている。またスポーツ振興は、国威発揚/滅私奉公/学徒動員(?)に誘導している。東京五輪に関しても、後ろ暗い部分がある。

・第4の道具が「恐怖」である。政治権力に好ましからざる人物を破壊する。著者もその一人である(※あったな)。鳩山元首相は、今も叩かれ続けている。これは彼の重要性が高いからで、彼の存在が利権勢力に脅威だからだ。2006年小沢一郎が民主党代表になり、民主党の躍進が始まる。しかし代表になった瞬間から「人物破壊」が始まる。彼らが日本の政治を刷新しようとしたからだ。
・戦後史を見ると、片山哲内閣/芦田均内閣/鳩山一郎内閣/石橋湛山内閣/田中角栄内閣/細川護熙内閣/鳩山由紀夫内閣の対米隷属から抜け出そうとした人物が、「人物破壊」を受けている。

・第5の道具が「買収」である。日本人なのに日本を売国し、グローバル資本/米国の支配者の代理人になっている人がいる(※グローバリズムの事かな?)。彼らはバックマージンを受けていると考えられる。安倍内閣を持ち上げていたジャーナリストが準強姦罪で逮捕状を発布されるが、警視庁幹部がそれを握り潰した(※こんなのあったかな)。一方で無罪の人間の犯罪を捏造している。
※この1%による支配も、トリクルダウン思想だな。

第2章 私物化された政治を止める5つの改革

<2.1 アベノミクスの正体>
○3つの論点
・安倍首相は「アベノミクスは成功した」と力説する。その理由は、①有効求人倍率の上昇、②雇用の増加、③就職内定率の上昇、④企業利益の増加、⑤株価の上昇、⑥訪日外国人の増加である。しかしこれは、❶雇用の数の増加、❷企業部門の好調、❸訪日外国人の増加に要約できる。
・❶雇用の数の増加が、労働者の幸福に直結する訳ではない。問題はその質である。❷企業部門の好調も、労働者の犠牲の上で成り立っているのであれば、喜べない。円高(1ドル=75円)から円安(1ドル=120円)になれば、その分外国人は多くの買い物ができる。企業は外国人の消費に期待し、政府も観光事業に予算を投下している。

・これらの経済の一面でアベノミクスを評価してはいけない。まず経済成長率は低迷している。実質賃金は5%も減少している。それは増加した雇用が、非正規労働者だからだ。2000年以降、非正規労働者が急増している。その割合は正規6/非正規4になっている。経済は低迷している中で、労働分配率は低下し、企業の利益が増え、労働者の所得が大幅に減っている。

○インフレ誘導は労働コストの削減が目的
・アベノミクスは、金融緩和政策/財政出動政策/成長戦略を「3本の矢」としている。そもそも経済政策には財政政策/金融政策のマクロ経済政策と、経済構造に関わる政策(構造改革)のミクロ経済政策である。従ってアベノミクスは、これらの名称を変えたに過ぎない。しかしアベノミクスは、企業には都合が良いが、市民にとっては都合が悪い「3本の毒矢」である。

・金融緩和政策はインフレ誘導が目的である。インフレになると企業は労働コストを抑制できるため、企業に有利に働く。逆に賃金労働者/年金生活者には不利となる。

○「第3の矢」こそアベノミクスの神髄
・「第2の矢」は財政出動で、2013年度は積極財政となった。しかし2014年度は消費税が5%から8%に引上げられ、緊縮財政に転じる。これにより2014年3月から2016年5月までの2年余り、生産活動(鉱工業生産指数)が減少している。2015年後半には中国経済が急速に悪化した。世界的な悪化で、為替レートは1ドル=125円(2015年6月)が100円(2016年6月)を割り込む。この2年余りは、景気後退期となる。
・「第1の矢」の目的はインフレ誘導だったが、幸い失敗してくれた。「第2の矢」も景気後退に陥り、失敗となった。※1本目・2本目は失敗か。しかし金融緩和は、出口で大きな課題を残したのでは。

・「第3の矢」は成長戦略である。名前がカッコ良いのは、得意の印象操作である。成長戦略の柱は、①農業の自由化、②医療の自由化、③労働規制の撤廃、④法人税減税、⑤特区・民営化推進である。
・これらの目的は、グローバル資本(ハゲタカ資本、※ハゲタカってどんな動物なのか)の利益を極大化する事にある。堤未果『日本が売られる』には、「経済特区/国家戦略特区の創設などの民営化推進は、グローバル資本の利益極大化である」と書かれている。※金融緩和に関する本は何冊も読んだが、成長戦略に関する本はほとんど読んだ事がない。
・アベノミクスが始まった頃、トリクルダウンがよく聞かれた。しかし結果的には、企業の利益は2倍になったが、労働者の賃金は5%減少した。

○2つの経済指標から見る、日本経済の本当の姿
・マスメディアの報道を鵜呑みにすると、印象操作されてしまう。そのためアベノミクスの実態を2つの経済指標から評価する。まず「実質GDP成長率」を見る。実質GDPは3ヵ月置きに発表され、その時、前期比成長率も算出される。安倍内閣では、この実質GDP成長率は平均1.3%である。民主党政権(2009~2012年、2011年東日本大震災)では、平均1.7%で、実は安倍内閣の方が低い。※リーマンショックもあったからな。

・次に「鉱工業生産指数」を見る。これは前述したように、2014年3月から2016年5月までの2年余り減少し、景気後退期に入っている。安倍内閣は2012年11月から景気拡大が6年続いたように宣伝したが、これは偽造・捏造である。
・従って景気が改善したのは、2016年5月からの2年余りだけで、その後2018年10月をピークに景気後退が始まっている。これは2019年10月の消費税増税を延期したいため、景気悪化と強調している。

・安倍内閣で目覚ましく改善した経済指数が企業利益だ。法人企業統計の税引き前純利益は、2012年から2018年で倍増している。
・一方実質賃金は民主党政権では横ばいだったが、安倍内閣で5%減少した。実は2016年だけ実質賃金が小幅に増加したが、これはデフレに回帰したからである。日銀幹部は「インフレ誘導が実現しないと職を辞する」と明言していたが、誰も責任を取っていない。

・前述したが、2018年1月より実質賃金の算出方法を変えたが、前年の統計数値を再算出せずに前年比を発表している。国会で野党が追及したが、それに応じていない。※酷い事をやっているな。

<2.2 3つの政治哲学から、望ましい社会像を考える>
○政府はGDPの1/4を差配している
・日本国憲法で議会制民主主義が採用され、選挙で選ばれた代表者が「国権の最高機関」である国会で意思決定を行っている。この国会で決められるのが、法律と予算である。そしてそれを執行するのが内閣である。内閣は徴税し、警察権力を持っているが、その根拠は法律にある。これが政治である。

・経済政策は予算の決定と執行に深く関わる。日本政府の歳出は、一般会計/特別会計を合わせ239兆円である。ここには国債費88兆円/財政投融資13兆円の最終需要でないものが含まれ、これを除くと139兆円の支出となる。これはGDP550兆円の1/4である。※政府が国富の1/4を動かしているのか。放って置く訳にはいかないな。
・この139兆円の内訳は、社会保障関係90兆円/政策関係30兆円/地方交付税交付金20兆円となっている。この資金源は、税金(年金保険料、健康保険料など)と借金である。

○市場原理に委ねるリバータリアニズム
・政治哲学(政治活動、財政活動)で基軸になる類型がある。リバータリアニズム/リベラリズム/コミュニタリアニズムである。これを分ける尺度は、自由/福祉/美徳である。※自助/公助/共助でもあるな。

・リバータリアニズムは米国などで信奉者が多く、国家は市民の経済活動に介入しない。税金は財産権の侵害と考える。自由主義であり、結果として格差が生じる。アベノミクスはこれに近い考え方である。
・かつての日本は「1億総中流」と呼ばれたが、1990年代以降、特に2000年代の小泉政権で自由主義・市場原理主義が強くなった。これは「新自由主義」と呼ばれている。
・この考え方では社会保障は圧縮され、年金/医療費は自己責任で備える必要がある。問題は格差の拡大である。個人が稼いだ富は子孫に引き継がれ、生まれながら億万長者の生活を保障される。一方富を保有しない家庭に生まれると、生活環境は劣悪で、十分な教育も受けられず、貧困状態は次世代にも引き継がれる。これにより格差は固定される。※これは今の人種問題の背景かな。

○リベラリズムは弱者に手当する
・この状況を放置しないのがリベラリズムである。そこで行われるのが、弱者への手当である。これには財源が必要で、これを富裕層に多く求める事になる。
・現代の民主主義では、基本的人権の1つとして生存権が認められている。そのため生活保護政策/障害者福祉政策がある。しかしこれに対する批判も見られる。

・日本は社会保障関係に90兆円を支出している。この大半は年金/医療費/介護費で、高齢者向けになっている。一方生活保護/教育/失業などへの支出は国際比較で低くなっている。

○3つの政治哲学を併存させた社会
・リバータリアニズムとリベラリズムの対立から一歩距離を置いて、政治の在り方を追求するのがコミュニタリアニズムである。コミュニタリアニズムはリベラリズムを、階層間対立をベースにしていると批判する。リベラリズムは富裕層の富を貧困層に移転する施策となり、これを多数決に委ねる事になる。
・一方コミュニタリアニズムは全ての構成員が一致する善悪の基準で、共通の解を見い出す考え方である。コミュニタリアニズムは「共通善」によって問題解決される(※高負担・高福祉かな)。しかしこれは容易でなく、結局は自己の利益を追求する政策が多数決で採用される可能性が高い。
※最近コミュニタリアニズムをたまに聞くが、この説明も参考になった。

・日本の最大の問題は格差の拡大である。フルタイムで働いているのに年収が200万円に届かない「ワーキングプア」が1100万人を超えている。一方で頑張っていないのに巨大な利益を得ているシロアリ/ハイエナがいる(※色々な動物がいるな)。これが日本の実相である。
・私(著者)としてはリベラリズムの考え方に立つべきと考える。共通善をベースにするコミュニタリアニズムは理想だが、現実的ではない。保障の水準を上げるべきと考えるが、一方で自由な経済活動を行う意欲を失わせない構造にする必要がある。市場原理に委ねれば、階層は固定化される。これに対する政策は必然である。この視点に立てば、アベノミクスは弱者の生存を許さないメカニズムを内包している。※少し抽象的だな。

<2.3 良い小さな政府と悪い小さな政府を区別する>
○多くの人の心に響く「小さな政府」
・リバータリアニズム/リベラリズム/コミュニタリアニズムの3つの政治哲学を説明した。コミュニタリアニズムは、美徳/共通善を基軸にするが、これは主観に依存する。実際は政治の実権を握った人々が、自己の利益を追求しているのが現実である。
・リバータリアニズムに基く自由放任(レッセフェール)の経済政策は単純明快で、自然界の弱肉強食に通じる。しかし自然界の弱肉強食とは大きく異なる。それは自然界では必要以上の殺戮はしない。しかし人間界の大資本による利益追求は、際限がない。与えられるパイは有限なので、弱者は生存の危機に晒される。※この違いは面白い。人間界は自然界以上に冷酷だ。

・リベラリズムは全ての人に、一定水準の生活を保障する考え方である。一方リバータリアニズムは、政府の経済への介入を嫌う。そこで常套句になるのが「小さな政府」である。これは税負担に喘ぐ市民に好評で、「弱者救済は止めろ」「『小さな政府』を作るべきだ」などの主張が人気を集めている。
・しかし私達は言葉の本当の意味を知る必要がある。小泉政権は「民でできる事は民に」「改革なくして成長なし」と叫んだ。しかし「改革」とは変える事だが、その内容が示されていない。「改革」「小さな政府」などの美辞麗句に踊らされてはいけない。

○「小さな政府」の3つの類型
・「小さな政府」は、3つの類型に分けて考えるべきだ。①民営化・営利化、②社会保障支出の排除・圧縮、③利権支出の排除である(※この考え方は凄そう)。私は③には賛成する。国家支出は139兆円で、社会保障関係90兆円/政策関係30兆円/地方交付税交付金20兆円と説明した。社会保障関係以外の50兆円には、利権支出が含まれている。これを排除するのが、本当の財政構造改革だと考えている。

・しかし現実は、①民営化・営利化に向けられ、「民でできる事は民に」が掲げられている。しかし「民ができる事でも、公が担うべきか、民が担うべきか」を判断する必要がある。ところが民営化政策は「小さな政府」のための正義の政策になっている。
・特定の事業を公が担っているのは、明確な理由がある。現在水道事業の民営化が論議されている。日本は水資源に恵まれているが、水道事業は規模が大きいほど採算が改善する。必然的に1社独占となる。また水道事業は生活必需品を供給している。
・営利企業と公益企業の違いは、利益の追求にある。水道事業のように独占形態だと、不当に価格が吊り上げられる。公益企業が水道事業を行っている事で、安価なサービスを提供している。当然事業の継続性も保障される。※独占/必需性/継続性などが条件の場合は、民営化は無理だな。

○「民でできる事は民に」ではなく、「民がやるべき事は民に」
・公益企業で問題なのは、経営努力が行われるかである。公益企業の事業に対しては、市民が経営状態/経営努力/サービス向上の取組などを監視・指導・助言する体制が必要になる。

・また老朽化した水道設備も問題になっているが、民営化しても解決されない。老朽化した設備の更新には債権を発行すれば良い。これは不健全な債務にならない。国の場合は財政法第4条でインフラ設備に関する国債の発行を認めている(※建設国債だな)。地方債/公益企業債券の発行も財政の健全性に反しない。またこの場合、民間営利企業より低い金利で調達できる。

・それでも民営化が推進されるのは、民間営利企業が利権を求めているからである。民営化を政治家/学者が推進しているのは、彼らと民間営利企業との間に癒着があり、彼らがハゲタカ資本(民間営利企業)から見返りを受けているからだ。「民でできる事は民に」ではなく、「公がやるべき事は公に、民がやるべき事は民に」が正しい。

○利権支出の削除/社会保障支出の拡大が、財政構造改革の目標
・第2の類型は②社会保障支出の排除である。米国を源流とするリバータリアニズムでは、経済活動の結果に国は介入しない。そのため生活保護のために、富裕層から私有財産を強奪する事を認めない。
・2005年米国南東部をハリケーン「カトリーナ」が襲った。この時現地で生活物資が不足し、「便乗値上げ」が横行した。これに対し議論が起こった。リバータリアニズムでは市場メカニズムを信じるので、これは正しい事になる。一方、福祉/美徳の立場の人からは、これは規制すべきとなる。

・リバータリアニズムからは、社会保障制度は不要な制度である。しかし経済活動の結果に政府が一切関与しないとなると、貧しい者は医療も受けられない。とりわけハンディを負った者は生存の危機に晒られる。2000年以降の日本は、この「小さな政府」路線が追求されている。
・一方で不可解なのが、民営化や社会保障削減などの「小さな政府」に賛同する者が、利権支出の削減に強く反対している点である。彼らは政府と特殊な関係を築き、特定の利害関係者に恣意的に政府支出させている。※天下りとかかな。

・今の日本で推進されているのは、①民営化・営利化、②社会保障支出の排除・圧縮である。一方③利権支出の排除は全く見られない。財務省の基本戦略は、「社会保障を削減し、利益支出を拡大させる」である。また財源は、消費税増税に注力し、一方で法人税減税と金持ち優遇税制の温存を路線としている。日本の真の財政構造改革は、利権をもたらす「裁量財政」から「プログラム財政」への転換である。
※この節の「小さな政府」の3つの類型は大変参考になった。

<2.4 日本政治を刷新する5つの方策>
○政治権力と結び付き、私腹を肥やす21世紀の政商
・アベノミクスの問題を明らかにした。これは政治利権を拡大させる部分以外は、市場原理を重視するため、リバータリアニズムの立場である。
・米国は、金融資本/軍事資本/多国籍企業が支配している。これらの巨大資本は世界を支配しようとしている。自然界の弱肉強食と異なり、彼らの資本への欲望は無限である。一握りの人が富を独占すれば、世の中から消費が消滅する。需要と供給の均衡は崩壊する。経済は崩壊し、恐怖が発生する。彼らはそこに至るまで、増殖を続けるだろう。※この結末は考えた事がなかった。

・アベノミクスは市場原理を金科玉条とし、資本の利益追求を後押しし、格差を容認してきた。シャンパングラス・タワーに注がれたワインは、下段まで届かなかった。「資本栄えて、民滅ぶ」となった。
・明治時代、国家から利権をかすめ取る政商が跳梁跋扈した。彼らは政治権力と結び付き、私腹を肥やした。シロアリとハイエナの交配種である。それが21世紀にも現れ、「頑張った人が報われる」と唱えている。私達はアベノミクスの正体を知り、日本の政治を刷新しなければいけない。

○日本政治を刷新する5つの方策
・日本の政治を刷新する5つのテーマを検討する。第1が「所得の分配」である。具体的には最低賃金の全国一律1500円である。
・第2は、税制の抜本的な改革である。1989年消費税が導入され、平成は消費税の30年だった。私達はこの実相を知り、これに終止符を打つ必要がある。

・第3は民営化の名の下で、特区が創設されている。これにより強い機能を持つ国家戦略特区がある。これは加計問題でクローズアップされた。これは「岩盤規制に穴を開けた」と喧伝されたが、実態はお友達の子息のための制度だった。シロアリとハイエナの交配種である政商が、政府の施策を決定しているのが現実である。民営化/特区/TPPにより、日本は壊されつつある。

・第4はTPPプラスの問題である。2010年TPPは菅内閣により進められた。2012年12月安倍自民党は総選挙で「TPP断固反対」を公約としていたが、翌年3月TPP参加を表明する。しかしトランプ大統領は巨大資本に支配されず、TPPから離脱する。その代わりTPPを超えるFTAを日本と結ぼうとしている。2019年5月トランプ大統領は来日し、8月までにサービス/制度を含むFTAを結ぼうとしている(TAG協議)。
・2016年11月安倍内閣は衆議院でTPP批准を強行する。これは大統領選の翌日だった。2017年1月トランプ大統領がTPP離脱を表明したため、TPPは発効できなくなる。安倍内閣は「米国を留まらせる」として強行批准したが、米国抜きでのTPPに転換する。
・日本はTPPに参加するため、様々な制度・規制を変更した。これらは日本に不利益を与えるものだった。私は「TPP交渉差止」「TPP批准阻止」の運動を行ってきた。安倍内閣は米国抜きのTPP発効に暴走し、さらにEUとの間に、日欧EPAも成立させた。
・安倍内閣が推進したTPPプラス(※TPP11?)、及び米国との不平等合意(※TAG協議?)は、日本の食糧確保や食の安全を脅かしている。

・第5は財政改革である。2009年鳩山内閣は、10兆円の財源を捻出するため「事業仕分け」を行った。しかし財務省が仕切ったため、見せかけに終わった。蓮舫議員の「2位ではダメなんですか」だけが語り継がれた。利権支出/裁量支出に切り込めれば、10兆円は捻出できる。※「再々々々委託」とかあるからな。

<2.5 歪んだ所得分配を変える-最低賃金1500円の実現>
○大企業のために進められた「働き方改革」
・再分配・労働政策/税制/民営化/TPPプラス/財政構造改革の5つのテーマについて考察する(※前述の5つの方策に対応かな)。まずは再分配・労働政策である。安倍内閣は「働き方改革」(働かせ方改革)を強行制定した。2018年臨時国会では過酷な労働を外国人に押し付ける入管法改定も強行した。
・「働き方改革」が労働者の利益になると思わせるため、安倍内閣は長時間労働で自殺した「高橋まつり」さんを利用した。東京簡易裁判所は、東京地検の労働基準法違反で略式起訴を不相当とし、刑事裁判と決定した。これは安倍内閣がこの事件に世間の目を向けさせるためだった。2017年10月東京簡易裁判所で、求刑通り50万円の罰金となる。
※この事件で「働き方改革」に関心が集まったかな。「働き方改革」自体が何だったのか、よく理解していない。高プロはこれに属したと思うが。

・安倍内閣が提案した法案には、4つの基軸が含まれていた。①長時間残業の枠組み整備(※それまでなかった?)、②同一労働・同一賃金の構築、③裁量労働制の拡大、④高度プロフェッショナル制度の創設。
・2007年第1次安倍政権の時、ホワイトカラー・エグゼンプションの法案を提出したが、廃案となった。高度の労働では、時間と賃金をリンクさせない仕組みだが、過労死が懸念された。安倍内閣の法案は、これの焼き直しである。
・裁量労働制は「みなし労働時間」を基準に賃金を支払う制度である。1987年労働基準法改正で導入され、1998年適用範囲が拡大され、2018年安倍内閣がさらに拡大しようとしたが、内閣が提出したデータに重大な不正があり、提出を断念する(※捏造・偽造の嵐だな)。「裁量労働制の拡大」を除く他の法案は提出される。

・裁量労働制は「みなし時間外労働」に対し賃金が支払われる。一方「高度プロフェッショナル制度」は定額賃金で、働かせ放題である。またその年収が、なし崩しで引き下げられる懸念がある(※年棒制で個人交渉か)。また残業時間の概念がなくなり、労働時間の管理が全くされなくなる。

・同一労働・同一賃金制度は導入されたが、正規・非正規の格差は温存された。この実質的な実現の見通しは立っていない。安倍内閣は、正規労働者の処遇を非正規労働者と同レベルに引下げる事を目指している。
・「高橋まつり」さんの過酷労働が報じられたが、最終的には月100時間までの残業が認められた。裁判では月80時間が過労死ラインとされている。彼女の母親は「これが日本の現状」と嘆いた。
・これらの全ての施策は、大資本(ハゲタカ資本)の労働コストの削減のためである。安倍内閣によって、長時間残業の合法化、残業させ放題の定額プランの創設、正規・非正規の処遇格差温存が決定された。次にハゲタカ資本が求めているのが、解雇の自由化である。具体的には低水準の金銭的補償による解雇の容認である。
※働き方改革は4本柱だったのか。何となく記憶している。同一労働・同一賃金はこれからかな。

○年収を200万円を300万円に引き上げる最低賃金1500円
・もう1つ重大施策が強行された。過酷で低賃金の労働を外国人に解禁する法律である。政府は介護/外食/宿泊/建設/清掃/農業/飲食料品製造で人手が不足するとしている。しかし人手不足の実相は賃金の不足である。従って問題を解決するには、賃金を上げれば良い。ところが大資本は賃金の上昇を嫌う。そのため外国人に労働力を求めたのが入管法改定である。※最低賃金の引き上げは、グローバル化の影響(例えば空洞化)がさらに強まる。一方入管法改定は、グローバル化を国内に取り込む方法である。
・これまでは技能実習生として外国人の労働力を不正利用してきた。労働基本法は外国人にも適用されるべきだが、技能実習研修生制度で人権侵害・権利侵害が放置されている。

・日本の格差問題で重大なのは賃金が低い方である。フルタイムで働いても年収が200万円に届かない人が1100万人を超えている。この年収200万円が時給1000円に相当する。この時給を1500円に引き上げると、年収300万円に引き上がる。これが最低賃金を1500円に引き上げる目的である。
・夫婦共働きで年収600万円あれば、子供を安心して養育できる。全国一律1500円にすれば、地方経済も活性化される。これは地方創生の有効な手段である。※英国かどこかで成功していたな。ただし中小零細企業の負担増を考慮する必要がある。

○最低賃金の引き上げは、経済悪化を防ぐ
・最低賃金1500円への引き上げは、中小零細企業には死の宣告かもしれない。韓国では文政権が最低賃金の大幅引き上げを断行した。しかしプロセスを誤れば、良薬も毒薬になる。これを実行するには、2つの条件が必要になる。第1は、中小零細企業に対する支援である。第2は、引上げプロセスに十分な時間を確保するである。
・最低賃金1000円のビジネスモデルと最低賃金1500円のビジネスモデルは大きく異なる。この移行に一定の時間(5~10年)が必要である。これが実現すると、劇的な社会変化が起きる。

・日韓の間で徴用工問題が解決していない。政府間での解決ができただけで、個人の請求権は消滅していないし、司法が行政と異なる判断をする可能性もある。日本では司法は行政の支配下に置かれているが、国際的にはそうでない。そんな中で奴隷貿易制度を創設する政府は人権意識が欠如している。

○どんな社会を理想とするか
・アベノミクスの本質は、「資本の利益の極大化」である。これに対するアンチテーゼが「最低保障の引き上げ」で、例えば最低賃金1500円への引き上げである。これに連動し生活保護の支給基準も引き上げられる。この適正化も重要である。
・しかし日本では地方公共団体が生活保護の支給を阻止したり、利用者が申請を躊躇する傾向にある。日本には「生活保護は恥」の意識がある。生活保護は「貧窮策」ではなく、生存権と認識すべきである。

・社会保障支出を切り詰めるべきだと主張する者が、裁量支出を容認するのは筋が通らない。このダブルスタンダードを見落としてはいけない。日本における財政運用の特徴は、生活保護/社会保障に切り込む一方、利権支出・裁量支出を温存・拡大している点にある。これを刷新するのが、本当の財政構造改革である。
・これはリバータリアニズムとリベラリズムの対立で、「自然界の弱肉強食を人間界にも当て嵌めるべきだ」との主張もあれば、「豊かな社会とは、最低水準を引き上げる事だ」との主張もある。
・今の日本は若者が希望が持てない。若者は右傾化し、与党寄りのスタンスを取りがちである。これは権力に迎合せざるを得ないからである。しかしそうななれば、与党は若者を益々底辺に追い込むだろう。弱肉強食の社会を目指すのか、多くの人が笑顔で生きていける社会を目指すのか。それは主権者一人ひとりの判断に掛かっている。
※本節が著者が訴えたい核心と思ったが、まだ中間点。

<2.6 税制の抜本的改革-消費税の廃止は可能>
○森友問題で安倍首相が財務省に作った借り
・経済政策で重要な、もう1つの問題が税制である。財務省は「財政は危機に直面しており、消費税増税は必須」と説明する。2019年4月OECDの事務総長は日本記者クラブで、「日本の消費税率10%への引き上げは不可欠」と指摘した。さらに「プライマリーバランスの黒字化には、20~26%への引き上げも必要」と提言する。メディアはこれを大きく報道する。

・IMF/OECDは、日本への提言を定期的に発表している。これらの対日経済政策を作成するのは、霞ヶ関から派遣された官僚である(※これは気付かなかった)。IMFには財務省から、OECDにはかつては経済企画庁/通商産業省から派遣された。大蔵省/財務省の官僚は緊縮財政、経済企画庁の官僚は積極財政を提言していた。省庁再編により経済企画庁は、財務省が実権を握る内閣府に吸収された。以降OECDには財務省の幹部が派遣されている。※実際の派遣者が記されているが省略。

・2019年4月この提言がされたのは、財務省が「安倍内閣が消費税増税を延期するのでは」と警戒したからである。安倍首相には消費税増税に踏み切れない事情があった。それは森友学園への国有地不正払下げの疑惑である。2017年2月安倍首相は「私や妻が関与していれば、総理も国会議員も辞職する」と明言していた。その後安倍夫人の関与が明らかになるが、財務省は事実を隠蔽し、虚偽公文書を作成するなどして、詳細を明らかにしなかった。
・国会での偽証/虚偽公文書の作成/国会への虚偽公文書の提出/国有地の不正売却などの重大な刑法犯罪が明確になる。正常な刑事司法であれば、逮捕者が続出したであろうが、この巨大犯罪は全て無罪放免となった(※日本では検察も裁判所も政府の支配下にある)。財務省は情報を隠蔽し、安倍首相はその犯罪をもみ消した。彼は消費税増税の再々延期が可能と判断したのかもしれない。

○大蔵省による消費税増税のための言論統制
・私は消費税は正当な税制ではなく、廃止すべきと考える。ところが財務省は、一貫して消費税を追求し、かつて大平内閣が消費衛の導入に失敗しています。
・その後1985年中曽根内閣で消費税を導入するためのプロジェクト「TPR」が大蔵省に創設されます。私はそれに参加しました。政界/財界/学界3000人のリストを作り、職員が彼らを説得して回りました。中曽根内閣は「売上税」を導入しようとしますが、頓挫します。本間正明教授が「中間層以下は税負担増になる」と報告し、これを朝日新聞が報道したのです。TPRは彼を大蔵省財政金融研究所に招聘し、毒まんじゅうを積み上げ、大蔵省寄りに転向させます。

・1989年消費税が導入されます。当初は税率3%で、1997年5%に引き上げられます。その前年私は消費税問題を訴えました。バブル崩壊で、日本の不良債権は100兆円に膨らんでいました。増税すれば金融恐慌を起こすと警告したのです。
・しかし橋本内閣により増税され、金融恐慌が起きます。三洋証券/北海道拓殖銀行/山一證券/日本長期信用銀行/日本債券信用銀行などが破綻します。この件で私は政治権力から敵視されるようになります。

○抵抗した政治家への人物破壊工作
・2014年消費税率が8%に引上げられます。この方針を打ち出したのは菅内閣です。その前の鳩山内閣は、「天下り利権を根絶しない限り、消費税増税は認めない」としていました。一方財務省は「消費税を引き上げる」「天下り利権を拡大する」「社会保障支出を切り、裁量支出を拡大する」を3大目標としていました。

・鳩山内閣は、子ども手当/戸別所得補償/高速道路無料化/高校授業料無料化などを提案します。彼は裁量支出からプログラム支出への転換を図ります。しかしこれにより、彼は財務省の天敵になります。※提案ができたのは、彼に賛同する者もいたからだな。
・彼は「米国による政治支配」「官僚による政治支配」「企業による政治支配」から脱却しようとします。企業献金の禁止も明示しています。しかしこれらにより、既得権勢力から総攻撃を受け、8ヵ月で退陣させられます。※彼だけは異質の首相だったみたい。今でもメディアに出る事が許されない。

・後継菅内閣は、これらを見ていたため、対米従属/財務省利権の温存に転向します。そして2010年参院選前に消費税10%の方針を打ち出し、参院選で大敗します。
・次に野田内閣が誕生します。彼は2009年「シロアリ退治しないで消費税を上げるのはおかしい」と演説して知れ渡りました(※本文省略)。ところが2012年8月野田民主党/自民党/公明党により消費税増税法が強行制定されす。
・この時、マニフェスト堅持を訴える小沢一郎を始めとする真正民主党議員50名が離党し、新党を結成します。同年12月野田首相は彼らに政党交付金を渡させないため総選挙を実施し、民主党は大敗します。
・2014年4月安倍内閣の下で8%に消費税増税されます。この影響で2016年5月まで、不況が日本を襲います。※消費税だけでも色々な経緯があるな。

○消費税は金持ちに緩く、低所得者に過酷
・消費税増税には重大な問題が3つある。第一は、景気の悪化である。消費税は消費に対する懲罰で、「消費懲罰税」と云える。そのため消費を抑制し、景気を悪化させる。
・企業の内部留保は446兆円に達した。これだけ蓄えられたので、それに課税する提案が生まれる。しかしこれに対し「二重課税」との反論がある。企業の利益には法人税が掛けられる。残った所得が、配当/役員報酬/内部留保となる。従って「内部留保への課税は二重課税」との反論が起こる。しかし同様な事は個人にも云える。個人は所得に対し所得税を納め、残りが可処分所得になる。これは自由に使えるお金だが、消費に使うと消費税を徴収される。まぎれもなく二重課税である。

・第2の問題は、格差の拡大である。所得税は所得に応じて課税される。標準世帯で年収が350万円に達しないと課税されない。また所得が増えるにしたがって、税率は高くなる。一方消費税の場合は、全ての人が8%である。今日の最大の問題は格差拡大にある。それを踏まえれば、所得税の適正化と消費税廃止が望ましい。

・第3の問題は、価格転嫁の問題である。消費増税分を価格転嫁できない中小零細企業は、自己負担する状況にある。これにより零細企業が倒産に追い込まれている。他方輸出事業者は消費税分を還付されている。そのため下請け事業者が消費税分を価格に転嫁していない場合、輸出事業者は輸出奨励金/輸出補助金として還付金を受け取る事になる。

○消費税増税は、法人税/所得税の減税のため
・2012年野田内閣が消費増税を強行制定して以降、法人税が引き下げられている。2007年政府税制調査会は、「法人税の減税は必要ない」と報告していた(※こんなのあったかな)。社会保険料を含めた企業の負担は、英米より高いが、欧州より低いと報告していた。これにより「法人税減税は必要ない」が政府統一見解であった。
・ところが野田内閣以降、法人税減税が強行されている。この理由が3つある。①消費税増税を遂行するため。②大企業であるメディアを味方につけ、民意を消費税増税に向かわせる。③日本の上場企業の株式を保有する外国資本(ハゲタカ資本)が法人税減税を求めた。最大の理由は③と考えられる。

・1989年度は税収54.9兆円で、内訳は所得税21.4兆円/法人税19兆円/消費税3.3兆円だった。2016年度は税収55.5兆円で、内訳は所得税17.6兆円/法人税10.3兆円/消費税17.2兆円である。すなわち所得税を4兆円/法人税を10兆円減らし、その分消費税を14兆円増やしている。要するに庶民への大増税を強行してきたのだ。※金持ちは益々金持ちになり、貧乏人は益々貧乏になる。格差は拡大するばかり。

○法人税/所得税を適正化すれば、消費税は廃止できる
・所得税は所得が増えると税率が高くなる制度である(応能原則)。ところが高額所得者は、利子配当所得/株式譲渡益所得が増えるが、これに20%の分離課税が認められている。そのため所得税の累進構造が崩れている。

・他方財務省が喧伝する「財政の危機」は真っ赤な嘘である。政府の債務残高は1297兆円あるが、資産残高が1336兆円もある。政府は資産超過のバランスシートを保持している。政府はバランスシートを掲載するようになったが、財務省は549兆円の負債超過とした。それは資産に実物資産(土地など)を含めていないからである。電力会社/鉄鋼会社などがバランスシートに実物資産を含めないと、すべての企業が倒産してしまう。

・法人税/所得税を適正化すると、消費税は廃止できる。利子配当所得/株式譲渡益所得の分離課税を5%引き上げると4.5兆円増収する。分離課税の税率を40%に引上げれば10兆円増収する。これに政府政策支出50兆円を2割カットすれば10兆円捻出できる。さらに法人税を適正化すれば、消費税は廃止できる。
・これらが実現するかは主権者次第である。既得権勢力の情報に惑わされる事なく、固定観念を根底から考え直す時期に来ている。
※消費税廃止を公約する政党が幾つかある。本節も著者が強く訴える主張だな。

<2.7 利権創出のための民営化を止める-暴利を得る人々の排除>
○民営化は独占事業になり、超過利益が得られる
・「小さな政府」の3つの類型として、民営化を批判した。安倍内閣で行われている民営化は、資本による事業の独占による営利化である。競争原理が働くのであれば、民営化しても問題はない。ところが電力事業/水道事業/空港などは独占形態で、競争は起きない。
・電力事業には、発電/送電/変電(※配電?)のプロセスがある。近年太陽光発電パネルの価格が急激に低下した。送電/変電のプロセスが公的管理されるのであれば、電力の供給構造は一変するだろう。一方水道事業は、水源が限定されているため、1つの地域に複数の水道事業は成り立たない。空港事業も同様で、1つの地域に1つしか空港は存在せず、独占形態となる。

・非営利事業は利潤を必要としないため、その分価格が安くなる。また生活必需品は公的管理下に置かれるべきである。ただし公的管理下に置かれると、効率が下がるのではとの懸念がある。
・マイケル・サンデルが以下を記述している。「2004年ハリケーン・チャーリー(※翌年にカトリーナ)が米国南東部を襲った。オークランドでは、2ドルの氷が10ドルで売られた。屋根の上の2本の倒木を除去するのに、2.3万ドル取られた。通常は250ドルの発電機が、2千ドルで売られた・・」。独占市場で超過利潤が貪られる事例を紹介した。水道事業の民営化はこれに該当する。

○郵便事業/水道事業/空港で日本が売られる
・2001年発足した小泉内閣は「郵政民営化」を強行した。「改革なくして成長なし」を絶叫し、これを正義の施策とした。しかし郵政の民営化を求めたのは、米国の巨大資本だった。彼らは350兆円の資金、全国津々浦々の郵便局ネットワーク、全国一等地にある巨大不動産に目を付けた。彼は郵政民営化を行い、ハゲタカ資本に利益を供与し、日本を売った(※株式としてかな)。巨大な不動産は開発事業利権を生み、極めて優良な資金融通先になり、巨大な売上を確保できる。※難解。

・水は命の源である。日本は水資源大国であるが、水源は遍在する。そのため小規模の地方自治体は水道事業の効率が悪い。日本の全ての地域で均等なサービスにすべきではある。郵便事業は全国一律で52円である。水道事業も広域化/全国統合方式により、共通料金にすべきである(※広島県は広島市とそれ以外になっているらしい)。ところが安倍内閣は、水道設備を自治体に保有させたまま、運営を民間に委託しようとしている。そうなると料金体系が変更され、価格は高騰するだろう。
・空港も同様で、民営化されると価格は高騰し(※離発着料?)、利用者が高額を負担し、事業者は超過利潤を手にするだろう。

○市民による監視体制で効率化を図る
・企業が生んだ利益は、配当/役員報酬/内部留保になる。従って民営化の目的は、民営化後の企業の役員に就任する者の利益追求である。国鉄が民営化されると、運輸省/国土交通省の官僚が天下り、旧国鉄の幹部が民営化後の役員に就任した。結局民営化で官僚や元幹部が巨大な利権を手にしただけだ。※監督官庁からの天下りは続いているんだろうな。官僚の出世は、天下り先を作ったか否かで決まるらしい。

・安倍内閣でこの民営化が推進されている。2015年内閣府PFI推進室が、優先的検討規定の策定要請(?)に対しての通知を地方自治体に送付した。内閣府は自治体がPPP/PFIの導入を検討しているか調査し、公表した。これは地方自治体が民営化を推進しているかの監視である。同時にコンセッションを希望する企業向けに、公共施設等総合管理計画/固定資産台帳を作らせた。※難解。民営化と云っているが、民間委託も含まれるみたいだな。
・これらは主権者のためでなく、巨大資本に濡れ手に粟のビジネスを提供するためだ。民営化の目的は、事業の効率化/生産性の向上とされるが、結局は価格に企業の利潤が上乗せされるだけだ。

・公的管理下で事業を行う場合、市民による監視を可能にする仕組みを構築する必要がある。民間企業より地方公共団体の方が信用度が高いので、資金の調達コストは安い。老朽化した設備は債券の発行で整理すれば良い。※対処法が十分解説されていない。
・結局今の日本は、日本全体を収奪しようとするハゲタカ、政治と癒着し民営化で私腹を肥やそうとしているノミ・シラミ・ダニによって蝕まれている。
・世界銀行のチーフエコノミストを務めたジョセフ・スティグリッツは、「民営化は賄賂化」と指摘している。この指摘をジャーナリストは「国のリーダーは喜んで電力・水道会社を売り払った。国家財産を少し割り引く事で、スイスの銀行口座に10%のコミッションが振り込まれた」と紹介している。※オイオイ。少し話は変わるが、政治献金の問題もあるな。

<2.8 不公正なTPPプラス交渉を止める-売国的自由貿易協定からの離脱>
○TPPで農業は壊滅する
・2012年12月の総選挙で安倍自民党は「TPP断固反対」を掲げていた。自民党はTPP交渉参加の判断基準を以下としていた。
 ①「聖域なき関税撤廃」の場合、反対する。
 ②自動車等の数値目標は受け入れない。
 ③国民皆保険を守る。
 ④食の安全安心を守る。
 ⑤政府調達/金融サービス等は、我が国の特性を守る。
・①は重要5品目(コメ、麦、砂糖、肉、乳製品)の関税死守である。しかし結果的には死守できず、農業は壊滅的打撃を受けるだろう。⑤の政府調達とは、地方自治体の公共事業を、地元企業に優先する事である。また金融サービスとは、郵貯・かんぽ等の事業環境を守る事である。しかしいずれも守れない状況に至った。②自動車等の数値目標も、事前協議で飲まされている。③国民皆保険は崩壊する恐れがあり、④食の安全安心も急激に崩壊するだろう。

・米国がTPPから離脱した事で、TPPの発行は不可能になった。TPP合意文書の批准を急いだ安倍内閣は、TPP11の合意を主導した。これは恐るべき亡国外交である。
・2018年12月TPP11は発効した。さらに2019年2月同じく売国協定の「日欧EPA」が発効した。さらに安倍内閣は「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP、TPPプラス)を発行させようとしている。
・米国資本に支配されているマスメディアは、TPP/日欧EPAを礼賛している。「牛肉を安く食べられる」「ワイン/チーズが安くなる」などである。これが災厄になる事を伝えない。
・要約すると重大問題は3つある。第1は、農業の壊滅的打撃である。食糧は安全保障上の最重要物資である。農業生産に占める公的補助金の比率は、英国63%/米国75%/仏国44%/ドイツ61%/日本38%で、日本が最も低い(※米国が多いのは驚いた。仏国より英独の方が保護されているのか)。メディアは「農業は過保護だったので、抵抗している」と批判するが、逆である。各国は補助金を出して、需要な産業である農業を保護している。
・牛肉は38.5%の関税が9%に引き下げられる。豚肉はキロ482円だった関税が50円まで引き下げられる。畜産業も壊滅的な打撃を受ける。

・一方日本の最大の輸出品目である自動車は関税を引き下げられなかった。主力車種であるSUV(ライトトラック)は29年間、高関税(25%)のままである。これは日米事前協議で日本から要求したとされる。完全なる売国交渉である。

○食の安全の崩壊
・農業の壊滅が予測される中、政府は「主要農作物種子法」を廃止した。日本はコメ/麦/大豆の種子の保全・開発に、地方公共団体が関与してきた(※これは知らなかった)。これにより優秀な種子が適切に管理され、農家に提供されてきた。これは米国のハゲタカ資本には邪魔者で、圧力を掛けて廃止させた。

・同時に政府は「種苗法」を改定しようとしている。これは農家の自家採種を認めているが、禁止しようとしている(※自分で種苗を作れなくなる?)。日本は育種権者を保護する「UPOV条約」に批准している。また「食料・農業植物遺伝資源条約」も批准している。これは農業者が種子を利用する権利を保証している。安倍内閣はTPPを機に、この農業者の権利をハゲタカ資本に独占させようとしている。※関税ばかり気にしていたが、様々な問題があるな。

・もう1つの看過できない問題が、食の安全安心である。遺伝子組み換え食品(GM食品)の危険性は確認されている。本来なら危険性の高い農薬やGM食品は、安全性が確認されるまで食べないのがふつうである(予防原則)。ところがGM種子メーカーは「科学主義」を主張している。この「科学主義」は「因果関係が科学的に立証されるまで、規制してはいけない」とする理論である。EUも予防原則の立場のため、米国からGM食品/成長ホルモン/成長促進剤(ラクトパミン)などで圧力を受けている。
・また種子メーカーは強い農薬に耐性を持つGM種子を開発しており、この種子と農薬をセットで販売している。このセットで、その作物だけを生育できる。ところが毒性の強い除草剤「ラウンドアップ」によりがんが発症し、裁判で敗訴している(※被害者は農家?地域住民?消費者?)。しかしその除草剤は日本でも売られている。※聞いた商品名だ。

・成長ホルモンは欧州/中国/ロシアでは禁止されているが、米国/オーストラリアでは認められている。両国から安価な牛肉が輸入されているが、成長ホルモンは発がん性が疑われている(※牛ではなく、食した人間ががんになるの?)。日本では乳がんが増えているが、輸入牛肉との因果関係が疑われている。※乳がんは、女性の妊娠回数が少なくなったから(女性ホルモンの多分泌)との説もある。
・米国から輸入するオレンジ/グレープフルーツ/マンゴーなどは中々腐らない。これは収穫後に防カビ剤「イマザリル」を投与するからである。日本では、収穫後に防カビ剤を投与する事は禁止されている。しかし米国の投与は、食品添加物として認められた。

○国民皆保険も破壊される
・TPPプラスの第3の問題はISD条項である。日本に投資したが、日本の制度により損害を被った場合、世界銀行傘下の仲裁廷に提訴できる(※世界銀行なんだ)。3人の仲裁官が審議するが、その大半が巨大資本との関係を持つ。従って結論はハゲタカ資本の意向に沿うのは明らかである。国はこの裁定に異議できないので、国家の上にハゲタカ資本が居座る事になる。
・NAFTAでは米国とカナダ間ではISD条項が削除された。メキシコ間では対象が限定された。TPP11では、大半の国がISD条項に否定的だが、安倍内閣だけが推進しようとしている。日米FTAで米国は、自国に有利なISD条項を存続させるだろう。

・医薬品価格の自由化や医療機器価格の自由化で、公的医療保険の収支が悪化する恐れがある。そうなると公的医療保険/非公的医療保険の並立になり、公的医療保険では十分な医療サービスを提供できなくなる。これにより医療格差が起こるだろう。
・安価な牛肉やワインが食べられると喜んでいるが、危険な牛肉を食べさせられ、日本の農畜産業は崩壊し、脱出のできない地獄に落される。
※当然だが、このTPPだけで1冊の本が書けるな。

<2.9 利権政治が温存する財政を改革する-プログラム支出を基軸に>
○利権政治が温存する裁量支出が基軸の予算編成
・私達が目指すべき方向は、安倍内閣が進行している方向と真逆である。公的に管理すべき事業を、政治権力と癒着する資本に明け渡すべきでない。予算編成は利権支出を社会保障に充てるべきだ。財務省は、利権支出や天下りこそ権力と考えている。彼らは収賄に該当しない方法でキックバックを得ている。この利権支出に関与する人々が、利権政治を支持し、与党に投票している。そのため政治権力は、社会保障支出を利権支出に振り向けるよう努めている。※戦前の政友会かな。

・社会保障支出は制度により自動的に決まるので「プログラム支出」と呼ばれる。これに対し財務省がさじ加減を行う利権支出は「裁量支出」と呼ばれる。一般会計/特別会計を総和すると、その他支出29.7兆円/地歩交付税交付金19.1兆円で約50兆円の支出が存在する。この中は公共事業関係費6.9兆円/文教および科学技術振興費5.4兆円/防衛関係費5.2兆円などである。※これらはその他支出かな。
・2019年4月この予算の私物化が、塚田・国土交通副大臣から発せられた。彼は「安倍総理と麻生副総理に忖度し、下関と北九州を結ぶ道路事業に予算を付けた」と漏らしたのだ(※詳細省略)。この事業で土木・建設事業者は収入を得て、その売上の一部が政治権力に還流するのだ。これが日本財政の根本的な問題である。

○利権支出を10兆円削り、社会保障支出に充てる
・防衛予算に5.4兆円が投下されている。トランプ大統領が来日するだけで、「オスプレイを100機買う」とか、「ファントムF35Bを100機買う」とかで1・2兆円の予算が計上される。しかしこの様な支出こそ切るべきである。
・日本の半導体メーカーは競争力を失い、倒産の危機に瀕した。これを経済産業省が血税を投入して助けたが、無駄であった。市場原理主義/競争重視を掲げながら、特定の産業・企業に血税を投入している。

・政策経費30兆円/地歩交付税交付金20兆円の2割は削減できる。これを主導するのが行政の役割である。企業であれば、経営トップが判断・命令し実行させている。これが組織の正しい動き方だ。
・日本の社会保障支出は年金/高齢者医療/介護が大半で、子育て/教育/失業/生活保護/障害者保護が少ない。10兆円を捻出し、それらに充てるべきだ。裁量支出を排除し、プログラム支出を拡大する。これが金権腐敗体質の除去である。
・安倍内閣は「小さな政府」を掲げているが、実態は真逆である。金権腐敗と表裏一体の裁量支出を拡大し、社会保障支出を切り、権力に癒着する資本に独占利潤利権を供与し、公的事業の営利化を推進している。
・「小さな政府」にも善し悪しがある。利権支出を切り、社会保障支出を拡大し、公的管理下に置くべき公的事業は、その執行体制を整えるべきだ(※小さな政府の3類型だな)。これが財政の構造改革である。

第3章 日本を蝕む5つの深層構造

<3.1 米国による支配と云う戦後日本の基本構造>
○米国の巨大資本のための政治を推進する安倍内閣
・日本国憲法は国民主権になっており、これが戦後日本の基本原理である。ところがこの原理から遠ざかり、政治利権のための政治になっている。安倍内閣の政治は、米国/日本を支配している巨大資本のための政治になっている。その具体的な表れが、「米国への隷属」「米国軍産複合体のための戦争遂行態勢」「弱肉強食経済の構築」である。

・まず対米隷属から脱却する必要がある。しかしこれを試みた為政者は、ことごとく人物破壊工作を受けた。圧倒的多数の政治家は安泰を求め、米国に隷属した。
・現代の戦争は「必然」から起こるのではなく、「必要」から起こっている。米国の軍事支出は55兆円あり、その1/3が軍事産業への支出である。日本政府も軍産複合体への大量発注を課せられている。安倍内閣もトランプ大統領とのランチで、欠陥戦闘機/欠陥ヘリコプターを1兆2兆と買っている。これで「シンゾウはグレートだ」と称賛される。こうして弱肉強食を推進し、資本の利益を極大化している。
・安倍内閣は米国に隷属する限り安泰である。森友疑惑/加計疑惑などの刑事犯罪があっても重大にならない。主権者である私達が変わらない限り、この現状は変わらない。

○戦後の日本民主化の挫折
・この日本の路線は、いつから始まったのか。「日本は戦後、民主化された」と教えられるが、それは真実でない。1947年5月日本国憲法は施行された。安倍首相はこの憲法を毛嫌いしている。一方安倍政治に反対し、日本の自立を主張する者は、この憲法を尊重・擁護している。この立場は矛盾するようだが、それは日本の戦後間もない時期の「屈折点」を認識していないからだ。

・戦後、財閥解体/農地解放/労働組合育成などドラスティックな民主化が行われた。その集大成が日本国憲法だった。この憲法を主導したのがGHQの民政局(GS)だった。そこにはケーディス/ホイットニー/マッカートなどのニューディーラーがいた。ただし天皇は、「統治を容易にする」との判断で存続された。
・日本は戦争責任を「一億総懺悔」で曖昧にした。戦争犯罪者への対応は、米国の占領政策と連動し、政治化された。米国は自国の代理人となる人物を免責・釈放し、利用した。
・日本国憲法はGSにより、世界でも稀な民主化された憲法になった。国民主権/基本的人権/戦争放棄(平和主義)を明記した。

・しかしこの憲法の誕生は間一髪であった。1947年前半には米国は占領政策を転換していた。米国の外交路線の基本方針が「ソ連封じ込め」に変わると、「占領政策の民主化は、社会主義を助長する」とし、これを反転させた。具体的には思想統制/反共化/非民主化/重工業育成などである。GHQの主導は、GSから参謀第2部(G2)に移された。ここに民主化路線/平和主義路線は崩壊した。※最近「今の日本政治は朝鮮戦争が決めた」とする本を読んだが、当然朝鮮戦争の前に敷設がある。

○1947年からの逆コースが現在まで続く
・日本国憲法は平和主義を根本原理としていたが、1950年朝鮮戦争が起こる。米国は日本の再軍備/産業強化/民主化抑制に拍車を掛ける。米国が協力者に選んだのが、吉田茂/岸信介だった。
・春名幹男が『秘密のファイル-CIAの対日工作』で吉田と米国の関係を詳述している。1946年1月吉田外相は、内閣改造の機密情報をマッカーサーに送っている。この様な手段で、彼は公職追放を逃れたと考えられる。
・彼の公職追放の理由は以下だった。①1927年東方会議(?)で主導的役割を果たした。②1935年駐英大使赴任後も満州・中国侵攻を支持した。③1941年治安維持法の死刑条項に関与した。日本のアジア膨張主義を開始したのが東方会議とされる。彼はこの会議で主導的役割を果たし、翌年異例の外務事務次官に就任している。

・1946年5月彼は天皇から大命を受け、首相に就く。本来であれば鳩山一郎が就くはずだった。1946年4月戦後初の総選挙で、自由党141/進歩党94/社会党93/協同党14/共産党5などとなる。進歩党の幣原喜重郎首相は内閣総辞職する。自由党党首・鳩山の首相就任は時間の問題であった。ところが鳩山は公職追放され、吉田が首相となった。
・吉田は「鳩山の公職追放は寝耳に水だった。政党は気が進まなかったし、内政に経験・知識はなかった。政局を安定させるため受諾した」と述べている。しかし彼はマッカーサー夫人に、花/メロン/リンゴ/トマト/桃を度々贈答している。
・1947年4月総選挙で自由党は敗れ、日本社会党・片山哲が組閣する。吉田はG2と連携し、GSと連携する片山内閣/芦田均内閣の崩壊工作を展開する。1948年10月芦田内閣は、昭和電工疑獄事件で総辞職する。※GHQ内部でのGSとG2の主導権争いと連動していたのか。

・以降6年間(1948年10月~1954年12月)、GHQを後ろ盾に吉田内閣が日本を統治する。この6年間で日本の非民主化の基本構造が構築される。そのため民主化路線を支持する者は憲法を肯定し、「逆コース路線」(対米隷属、非民主化)を支持する者は憲法を否定している。※これが憲法改正論争の根底だな。
・再軍備のため、戦争責任を問われた旧軍人も、活用可能な人物は釈放された。逆コースで吹き荒れたのがレッドパージだった。彼らは非民主化・反共化により追放された。この時期(1947~51年)、怪事件(国鉄3大事件、帝銀事件)が多発する。これを松本清張が『日本の黒い霧』に書いている。※松本清張は幾つか読んだが、これは読んでいない。彼の著作は緻密である。

・米国は、自国に隷属し、日本の民主化を踏みにじる人物を重用した。自民党はCIAの資金で創設され、左の防波堤として民社党が創設された(※民社党って、どんな党だったかな)。朝日新聞も左の防波堤として育成された。※この辺の話は知らなかった。

○米国に隷属した政治家、自立を志向した政治家
・米国はGHQの参謀第2部(G2)主導で日本を隷属化させ、左傾化を防いだ。その傀儡政権の首魁が吉田茂/岸信介である。1951年9月吉田は「サンフランシスコ講和条約」「日米安保条約」を締結する。日米安保条約により米軍の日本駐留が維持された。また「日米地位協定」により、米軍の治外法権は維持されている。※表向きの条約があるが、実際は密約が決めているらしい。

・1954年12月吉田は造船疑獄事件で退陣し、公職追放から復帰した鳩山一郎が首相に就く。彼は米国と一定の距離を保ち、ソ連との国交を回復し、シベリア抑留者50万人を帰還させる。1956年ソ連との平和条約締結寸前まで交渉が進むが、米国が「歯舞・色丹返還で合意するなら、米国は沖縄を返還しない」と横やりを入れる。これから日本は四島返還を主張するようになり、今も維持されている。※鳩山は、1955年11月保守合同を成し、1956年10月日ソ共同宣言に署名し、12月内閣総辞職している。
・1956年12月自民党総裁選で石橋湛山が岸信介に勝利する。石橋は「自主外交の確立」を掲げるが、1957年2月病気により首相を辞する。この石橋の内閣を岸が傀儡政権として引き継ぐ。

・1960年岸内閣は日米安保条約を改定する。1959年3月東京地裁で伊達裁判長が「米軍駐留は違憲」の判決を下す(砂川事件)。これに政府は巨大な工作を展開し、12月最高裁で一審判決の差し戻しを判決する(※判事に全員一致らしい)。この過程で、駐日大使ダグラス・マッカーサー2世が、藤山愛一郎外相/田中耕太郎・最高裁長官と接触している。米国は政府だけでなく、裁判所まで支配した。

・米国と一定の距離を置く政権は何度か誕生している。片山内閣(1947年5月~)は社会党党首による内閣であり、芦田内閣(1948年3月~)はその路線を継承した。しかしGHQによる工作で崩壊する(昭和電工疑獄事件)。鳩山内閣(1954年12月~)は日ソ国交回復するが、米国の横やりを受ける。石橋内閣(1956年12月~)は短命に終わる。
・時代は下り、日中国交回復した田中角栄は、刑事被告人の立場に追い込まれる。米国と距離を置こうとした細川護熙内閣は失脚させられる。小沢-鳩山内閣も8ヵ月で崩壊させられる。鳩山は外務省幹部が作成したニセの秘密情報を掴まされた。

・他方対米隷属の首相は守られた。吉田/岸/佐藤栄作/中曽根康弘/小泉純一郎/安倍晋三などの系譜である。しかしこの状態は、米国の属国・植民地の継続に過ぎない。※最近米軍(日米合同委員会)が日本政府の上位にあるとする本を読んだ。

<3.2 利権集団に支配された情報空間>
○マスメディアと大手芸能プロに支配された日本の情報空間
・日本を支配する「5つの道具」(ツールファイブ)を紹介した。洗脳/教育/堕落/恐怖/買収である。国民の半数を選挙に行かせず、野党を分裂させ、与党が半数の票を得る。これで政治を私物化し、利権政治を行ってきた。
・この構造を維持させているのが、情報空間のコントロールだ。この情報空間で主導的役割を果たしたのが芸能プロダクションである。具体的には、男性アイドルを擁するJ事務所/女性アイドルを擁するAグループ/お笑い芸能人を擁するY事務所/芸能界に睨みを利かすB事務所などである。マスメディア16社と芸能プロダクションが情報空間を支配している。
・またインターネットの入口サイトも大手企業(Google、Yahoo!、@nifty、livedoorなど)に支配されている。マスメディア/芸能プロダクションは、資金の出し手である巨大資本に隷属している。従って情報空間は巨大資本/政治権力によりコントロールされている。

○NHK改革とポータルサイト構築の必要性
・NHKが情報空間の風穴として考えられるが、放送法により政治権力の下に置かれている。NHKの最高意思決定機関である経営委員会の人事権は内閣総理大臣にある。そのためNHKの幹部をお友達で埋める事もできる。予算も国会での承認が必要である。この放送法がある限り、NHKは政治権力の方を向いて行動すれば安泰である。
・NHKは消費税増税が迫っても、それを放送しない。消費税増税される事を前提に情報発信するだけである。※「日曜闘論」の話があるが省略。

・日本人はメディア情報に誘導させる傾向が強い。そのためこの情報空間を変革する必要がある。まず第1はNHKの改革で、NHKを政治権力から切り離す。それには受信契約を任意制に移行する必要がある。任意制にすれば契約者の意向を無視できなくなる。
・第2にインターネットに主権者側に立つポータルサイトを構築する。インターネットには優良なコンテンツが多数存在するが、認知度が低い。これらに繋がるパイプが必要である。この主権者に立つポータルサイトで、1千万アクセスを超える本流を作る。

<3.3 政治を変えるには教育改革>
○国家が管理し易い人間を養成する事が教育の目的
・政治は国民の力の結果である。「主権者の権利が守られない」「主権者の利益が追求されない」、これが今の国民の力である。権力者が政治を私物化し、公文書を改竄し、国会で嘘をつく。これに対し国民は怒らない、デモも行わない。この状態は、既得権益者には天国である。この国民の特性を作ってきたのが教育で、この改革が不可欠である。

・第1次安倍内閣は唯一の置き土産を遺した。教育基本法の改悪である。第1条「教育の目的」に「国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた国民の育成」とある。教育は国家のためではなく、個人のためにある。第2条「教育の目標」に「五 伝統と文化を尊重し、国と郷土を愛し、他国を尊重し、国際社会に寄与する態度を養う」とある。これらを否定するつもりはないが、これらを法律で強制するのは、憲法が保障する思想の自由に反する。

・これらから安倍首相は、「教育は個人のためではなく、国家のためにある」と考えているようだ。日本の優等生は、正確に記憶し、目上の者に従う。本来教育の目的は、個人の潜在能力を発揮させる事にある。「education」には「引き出す」の意味がある。外から詰め込むのではなく、内在する力を引き出すのが教育の目的である。
・教育で養うのは、覚える事/従う事ではなく、考える事/発言する事である。しかしそんな人物は日本では、問題児として扱われる。こうして上意下達に従う、管理し易い国民が養成された。

○普通教育の場を学校に限定するな
・憲法は教育の義務を定めているが、これが勘違いされている。これは「普通教育を受けさせる義務」であり、「学校教育を受けさせる義務」ではない。いじめなどにより不登校になる子供がいるが、学校に行かせる事を優先している。「義務教育」の言葉が、誤解を生んでいる。※要するに普通教育の1つの方法が学校での義務教育。
・海外では普通教育を学校に限定していない。学校では子供の人権・命・健康が守られないため、家庭で普通教育が行われている。日本が批准している「子供の権利条約」には、「子供の最善の利益」が考慮され、子供が学校に行くのを拒否する場合、学校に行かせる事はできない。

・2016年「教育機会確保法」が制定され、「休養の重要性」「学校以外での学習機会の重要性」などが記されたが、以前「不登校生徒」などの差別用語が用いられている。
・「義務教育」の言葉が誤解を招いている。保護者に要求されているのは、学校に行かせる事ではなく、普通教育を受けさせる事である。従って「学校教育法」を改正し、「普通教育法」を制定し、そこに学校以外での家庭/フリースクールでの普通教育を明記すべきである。

・安倍内閣が普通教育を学校に限定するのは、教育基本法に記したように、「伝統と文化を尊重し、国と郷土を愛する態度を養う」ためである。家庭で普通教育を行い、個性豊かな人間を育てると、この目標に反するからである。
・今の日本に要求されるのは、物事を暗記し、目上の人や国家に従順な人間ではない。自分の目で見て、自分で考え、それを堂々と発言する人間である。権力者の不正・改竄・捏造に目をつぶり、権力者に迎合する人間ではない。工業社会では均質性・同質性が重視されたが、今は独創性・創造性や個性が要求される時代である。※今の教育は、確実に日本を衰退に導いた。
※教育に関する本は、ほとんど読んだ事がないので、参考になった。

<3.4 政治の実権を握る官僚機構>
○日本の政治は国会議員ではなく、官僚が動かしている
・日本の政治は官僚機構に主導権がある。本来であれば行政権は内閣にあり、内閣の決定・指示で官僚機構が行政を執行する。ところがそれが逆転し、官僚機構が立案したものを国会審議に掛け、政治家は官僚が用意した原稿を読むだけになっている。「leader」が「reader」になっている。

・明治維新により中央集権となった。官僚は天皇の官僚であり、支配者の一翼になった。高等文官試験に合格した高級官僚が支配者となった。
・終戦後の民主化で、GHQは2つの失敗をした。1つは天皇制の温存で、もう1つは権力者としての官僚の残存である。いずれも統治に好都合だったからだ。そのため官僚は自分達を特権階級と認識している。

・彼らは各種利権を獲得し、拡大させてきた。憲法には「全体の奉仕者」となっているが、彼らは自己を支配階級と規定した。この特権的な官僚は解体すべきである。本来官僚に要求されるのは、内閣の意思決定を着実に執行する能力である。この逆転が日本政治をダメにしている。※この手の本は何冊も読んだ。日本の支配者を「米官業政報」(米国、官僚、財界、内閣、マスメディア)とする本もあった。

○官僚機構改革の3つの方策
・官僚機構改革のための3つの方策を掲示する。第1は天下りの根絶である。退官後に政府機関/民間企業に天下っているが、これが最大の利権である。役所は業界の生殺与奪の権を握っているため、これを武器にポストを獲得している。役所は天下り企業の利益を優先して行政を執行する。彼らは高額報酬/個室/秘書/専用車を要求するが、出勤しても新聞を読むだけで何もしない。
・財務省は天下り利権の根絶に踏み込むべきだ。日銀/日本取引所/政策投資銀行/国際協力銀行/政策金融公庫/JT/横浜銀行/西日本シティ銀行への天下りを根絶してから、消費税増税に訴えるべきだ。

・天下りを受け入れる企業は、利権支出や裁量的運営を受けられる。また警察OBを受け入れるのは、不祥事を起こした際、裁量を期待できるからだ。これらの天下りは全面的に禁止すべきだ。
・自民党の憲法改正案の第22条では、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住・移転・職業選択の自由を有する」の「公共の福祉に反しない限り」を削除している。これは天下りを正当化するためである。

・第2は職名の変更である。官僚の職名の多くに「官」が付く。この官は「官尊民卑」にあるように、上位にあると思わせる。「官」を「員」に変えるべきだ。「事務官」は「事務員」である。「裁判官/裁判員」は「職業裁判員/民間裁判員」に変えるべきだ。「事務次官」は「事務長」、「審議官/企画官/参事官」は「審議員/企画員/参事員」に変えるべきだ。「大臣官房」は「総務部」、「主計局/理財局」も「主計部/理財部」でよい。※この考えは面白い。

・第3は公務員の採用方法の変更である。政治を仕切りたいと考える人物は、公務員に有害無益である。政治に関与したいなら、議員を目指すべきだ。専門的な知識を持つ者が国会議員に選ばれ、大臣になり意思決定する。それを忠実に執行するのが公務員である。
・第1種国家公務員になる者は成績優秀で、上昇志向が強い。彼らを、どう動機付けるかが重要である。役所の人事考課は、不幸な事に主権者への貢献度ではなく、省の利益(省益)への貢献度となっている。※正しく天下り先を作ると貢献度が高くなる。
・近年「内閣人事局」が作られ、人事権が各省庁から官邸に移行している。そのため内閣への貢献度が問われ、公文書の改竄や国有地の不正な払下げなどの刑法犯罪が生まれるようになった。政治権力が「今だけ、カネだけ、自分だけ」である以上、官僚機構も暗黒の機構にならざるを得ない。

・公務員の省庁別採用を一括採用にすべきだ。ここから省益優先が始まっている。この省益優先が利権支出/無駄な支出の主因である。
・「小さな政府」には3つの類型があった。①民営化、②社会保障支出の削減、③利権支出・裁量支出の削減であるが、③だけが望ましい類型である。裁量財政からプログラム財政への転換、これこそが財政構造改革である。日本が予算規模の割りに豊かでないのは、シロアリ・ハゲタカ・ダニ・シラミ・ノミがいるからだ。※官僚主導を批判する本は何冊も読んだ。

<3.5 刑事司法の近代化>
○日本の刑事司法の根本的問題
・刑事司法の近代化は、近代国家の出発点である。1789年「フランス人権宣言」には刑事司法の鉄則が列記されている。罪刑法定主義/法の下の平等/適法手続き/無罪推定の原則である。しかし今の日本はこれが遂行されていない。※何か難しくなった。

・1947年総選挙で片山哲内閣が誕生する。しかし同時に米国による思想統制が急激に拡大した。民主主義政権はGHQの工作で破壊される。GHQ・G2のウィロビー少将による昭和電工疑獄事件で芦田均内閣は崩壊する。
・全く同じ図式で、鳩山由紀夫内閣も崩壊する。この小沢-鳩山内閣は米国が支配する構造を、根底から刷新しようとする内閣だった。そのため既得権勢力から不正な工作が続けられた。他にも石橋湛山内閣/田中角栄内閣/細川護熙内閣などで見られる。

・日本の刑事司法には3つの重大な問題がある。第1は、警察・検察に巨大な裁量権が付与されている。その裁量権は、①犯罪が存在するのに無罪放免する裁量権、②犯罪が存在しないのに犯罪者に仕立てる裁量権である。
・2019年4月池袋で高齢男性が車を暴走させて歩行者を殺害した。しかし警察は逮捕しなかった。一方神戸で起きたバスによる暴走事件では、運転者を逮捕している。前者の男性は元経産省のキャリア官僚で、叙勲された人物だった。官僚は国民を上級/下級に分類している。※米国と変わらないな。

・日本の取調室はベールに覆われている。供述が密室で行われるため、調整・加工され、無実の者が犯罪者に仕立て上げられる。小沢一郎が強制起訴された事案では、石川知裕への事情聴取が強制起訴の決め手となったが、彼が事情聴取を録音していたため、検察の報告書が捏造であった事が判明する。※この手の犯罪は頻発している。
・大阪地検が厚生労働省・村木厚子を立件した事案では、検事がフロッピーディスクを改竄した事が発覚し、特捜部長などが有罪判決を受けている。しかし小沢の事案では、東京地検特捜部は無罪放免になっている(※米国が関与しているか否かの違いかな)。石川が秘密録音しなければ、この犯罪は発覚しなかった。

・森友学園への国有地不正払下げ事案では財務省職員が14の公文書を改竄した。これは虚偽公文書作成罪である。また不当な価格での払下げなので背任罪であり、国会での偽証は偽計業務妨害罪である。しかし警察・検察はこれらすべてを無罪放免とした。市民が検察審議会に訴えたが起訴されなかった。※最強の首相だな。

○基本的人権の無視と政治権力に支配された司法
・刑事司法の第2の問題は、基本的人権の無視である。罪刑法定主義/無罪推定の原則/適法手続きなどが蔑ろにされている。冤罪は絶対起こしてはいけない。
・第3の問題は、裁判所が政治権力に支配されている問題だ。裁判官の人事権は内閣にある。1959年砂川事件裁判であったように、裁判所は政治権力/米国の支配下にある。

・刑事司法における基本的人権の無視を手直しする方法は、取調べの完全可視化である。被疑者だけでなく、被害者/目撃者/関係者など全ての完全可視化が不可欠だ。小沢の強制起訴により刑事司法改革が提起されたが、司法取引/通信傍受/おとり捜査など、不当な捜査権限が拡大されただけに終わった。※完全可視化は進まないな。警察・検察には有効な手段なんだろうな。

<3.6 政策の下に主権者が結集する> ※この節は纏め的。
○消費税廃止と最低賃金1500円は実現可能
・安倍内閣が長期政権となった原因は、3つある。①情報空間を支配、②刑事司法を支配、③国民の不正・悪事に対する容認である。日本は米国に隷属し、その始祖が吉田茂/岸信介であり、今はその孫の安倍晋三/麻生太郎が日本を牛耳っている。彼らは米国にひれ伏す事で、政治的・社会的・経済的に安泰である。

・米国に隷属しない為政者を生むためには、主権者が覚醒する必要がある。そのためには教育を手直しし、優秀な人材を生む事が出発点になる。
・政治権力は情報空間を支配し、主権者を堕落させている。主権者の半分しか投票に行かず、さらにその半分の得票で議会の2/3を占め、「今だけ、カネだけ、自分だけ」の利権政治を行っている。年収200万円の人が年収300万円になれば、世の中は変わる。しかし巨大資本はそうさせない。彼らは労働コストを最小化する事で、最大の利益が得られる。

・消費税廃止と最低賃金1500円は実現できる。法人税・所得税の適正化、50兆円の利権支出の2割カット、超富裕層の金融所得優遇税制の廃止で実現できる。
・財政は健全財政が基本である。財政赤字は幾らでも増やせる訳ではない。中期的には物価・資産価格の変動とマネー供給量は比例する。健全財政を基本に、法人税・所得税の適正化/利権支出の削減/超富裕層の金融所得優遇税制の適正化を行えば、消費税廃止と最低賃金1500円は実現できる。
・金融所得に対する課税強化は、資本の国外流出を招く懸念がある(※タックスヘイブンだな)。これには為替取引税を導入したり、国際政策協調する必要がある。

・現在の政治を刷新する政策を掲げ、その下に結集し、投票率を上げる事ができれば政権を奪取できる。教育を変え、自分の目で見て、自分で考え、行動する人が増えれば、日本を刷新できる。教育を変えるには、政権の交代が不可欠である。そのためには多くの主権者が賛同できる政策を掲げ、結集する必要がある。
・政権が交代すれば、まずは予算の抜本改革、税制の抜本改革、NHKなどの放送法改定、普通教育法の制定などを行うべきだ。まずは主権者が覚醒し、行動し、連帯する必要がある。

<あとがき>
・「安倍一強」と云われるが、実際は主権者の18%に支持されているに過ぎない。これにより自公が議会で7割の議席を得ている。主権者はマスメディアの情報に誘導されてはいけない。私達は、自分の目で見て、自分で考え、行動しなければいけない。※何度も出てくる。
・2015年「オールジャパン平和と共生」を立ち上げた。これは平和/共生/脱原発/TPPプラス離脱/対米自立/消費税廃止/最低賃金1500円/最低保障年金/奨学金徳政令/1次産業戸別所得補償などを提言してきた。今この提言が広がりつつある。

・主権者の25%が明確な政策の下に結集すれば、政治を刷新できる。ある成功者にその秘密を聞けば、「諦めない事」と答えた。2009年主権者の7割が投票し、主権者のための政権が誕生した。しかし一部の代表者により、その政権は破壊された。今度は裏切りのない政権を誕生させなければいけない。
・消費税廃止と最低賃金1500円を実現すれば日本は変わる。誰もが笑顔で生きられる社会になる。主権者のための日本を創ろう。

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