top learning-学習

『分断した世界』高城剛(2018年)を読書。

ユニークな本である。情報とバブルを結び付けたり、1990年代の米国を金融の視点で解説している。
グローバル化/ポピュリズムが主題だが、本流の解説は抑え目で、裏の流れを詳しく解説している気がする。

米国のトランプ関係に詳しく、欧州の英国/仏国なども解説している。

金融用語がたまに出るが、説明がないのは残念。ページ数は多いが、文章は読み易い。

お勧め度:☆☆
内容:☆☆☆

キーワード:<プロローグ>メディア/バブル、<ベルリンの壁崩壊からのグローバリゼーション>社会主義、<Windows95の登場、グローバリゼーションの加速>空洞化、パーソナル・コンピューター/ニュー・エコノミー/ドル高政策・市場中心主義、IT投資、<二極化の始まり クリントンは政治的陰謀に嵌った?>グラム・リーチ・プライリー法/金融サービス・市場法、タックスヘイブン、弾劾裁判/宗教右派、ロビイスト、シオニズム/ネオコン/ユダヤ人、<リーマン・ショックによる世界的金融危機>サブプライム・ローン、量的金融緩和、住宅バブル、<グローバリゼーションの終わりとインターネットの壁>グローバル企業/タックスヘイブン、パラダイス文書/パナマ文書、<日本人は東海岸・西海岸しか知らない>ラストベルト/ホワイト・トラッシュ、カリフォルニア州、<ラストベルトがトランプ大統領を誕生させた?>労働者/農家、<レーガンは統一、トランプは分断で復活を目指す>レーガン、<トランプ旋風は百姓一揆か>リバタリアン党/ティーパーティー、第3極、白人至上主義/オルト・ライト、メキシコ移民、工場移転、<時代は米国から中国に移るか>コーク兄弟、アメリカンズ・フォー・プロスペリティ(AFP)、シェルドン・アデルソン、ジャレッド・クシュナー、FRB、ヘンリー・キッシンジャー、覇権、中国バブル、<欧州最大の問題は難民と経済>欧州連合(EU)、移民・難民、トルコ/イタリア、欧州債務危機、<英国は無事に離脱できるか>マーガレット・サッチャー/新自由主義、トニー・ブレア、ブラック・ウェンズデー、EU離脱(ブレグジット)、<仏国はフレグジットするか>マリーヌ・ルペン、パリ郊外暴動事件、<イタリアは日本に酷似>五つ星運動、ボローニャ、<カタルーニャ/スコットランドなどの独立運動>バイエルン、<メルケル失墜>ドイツのための選択肢(AfD)、ゲアハルト・シュレーダー、<EUにインターネットの壁ができる>欧州一般データ保護規則(GDPR)

<プロローグ>
・メディアの近代史を見ると、1920年代米国は好景気に沸き、大量生産・大量消費の時代になる。この時普及したのがラジオだった。ラジオはリアルタイムで情報を伝えた。ラジオでオーケストラの演奏を流そうとしたが、部屋の壁に反響して聞けるものではなかった。その時テントの中で演奏するとそれなりに聞け、それで壁に布を張るようになった。※逆では。ラジオより生演奏が先では。
・ラジオは投資家に熱狂された。それは遠隔地の情報をリアルタイムで得られるからだ。こうして株式市場はバブルになり、1929年世界恐慌となる。

・第2次世界大戦後テレビが普及する。1946年全米に1.7万台しかなかったが、3年後には月25万台も売れるようになる。しかし1960年代経済は急速に悪化し、1971年8月ニクソンはドルと金の兌換を停止する(ニクソン・ショック)。
・1980年代ケーブルテレビ/衛星放送などの「ニューメディア」が急成長する。これによりニュース/音楽などの専門性の高い放送局が開局される。そんな中、1987年10月世界的な株価暴落「ブラックマンデー」が起きる。

・私(著者)はバブルは「情報の爆発」が引き起こすと考えている。「魔法の機械」で様々な情報が得られるようになり、欲が湧き、悪巧みを考える。
・1980年代ケーブルテレビ/衛星放送は欧州でも普及した。これにより海外の情報が得られるようになった。東側諸国は西側諸国の豊かさに驚いた。これが「壁」を崩壊させた。※冷戦の終結は衛星放送が起こしたのか。情報(メディア)が経済/歴史を動かす。

・1995年「Windows95」を搭載した「魔法の機械」が発売される。この「魔法の機械」はネットワーク(パソコン通信)に接続できた。これは投資家に熱狂的に利用された(※パソコン通信はほとんど利用しなかった)。こうしてインターネットバブルは起き、2000年に崩壊する。※インターネットバブルが何だったのか、イメージが湧かない。
・実はインターネットバブル後にインターネットは復旧している。2001年頃の普及率は50%で、2007年に75%に達する。そして後述するが、サブプライム問題が発生する。

・私は「魔法の機械」による「情報爆発」がバブル崩壊をもたらすと仮説している。そして今、スマートフォン/高速ワイヤレス回線が普及するが、そのバブル崩壊を迎えていない。私はこの仮説を確かめるために、世界を駆け回った。ちなみにメディアは「霊媒」から来ている。※「アラブの春」はSNS革命と云われている。また「オキュパイ・ウォールストリート」などの反格差運動も起きた。
・本書は前編と後編に分ける。前編は、冷戦終結の1989年から2019年までの「分断」の時代を記する。後編は、2020年から2049年までの未来を予測する。※読み終えたが後編はなかった。

第1章 統合と再「分断」の歴史

<1.1 ベルリンの壁崩壊からのグローバリゼーション>
○「ベルリンの壁」はなぜ生まれた
・1989年「ベルリンの壁」は崩壊した。第2次世界大戦後ドイツは米英仏ソに分割占領された。東ドイツにあったベルリンも米英仏ソに分割統治された。当初は壁はなかったが、東ベルリンから西ベルリンに亡命する者が現れ、1961年壁が作られる。

○壁の崩壊は、メディアとうっかり者による
・1980年代後半ハンガリー/ポーランドで民主化の改革が始まる。1985年ソ連ではミハイル・ゴルバチョフにより、経済改革「ペレストロイカ」が始まる。これは衛星放送の影響が大きい。東ドイツでは市民運動が盛んになり、「外国旅行の無条件許可」「出国ビザの遅延なき発行」などの規制緩和が検討される。これが一人のうっかり者により、壁の崩壊を招く。

・1989年11月東ドイツ政府の新任スポークスマン(政治報道局長)が記者会見で前任者のメモを見て、「直ちに全ての国境通過点からの出国を認める」と発表したのだ。そしてこの4時間後には、市民により壁が破壊され始めた。

○世界の統合へ
・1948年米国により「マーシャルプラン」が発表される。この「欧州経済復興計画」により「欧州経済協力機構」(後のOECD、※元は欧州限定か)が結成される。翌年には米国/西欧で「北大西洋条約機構」(NATO)が結成される。一方東側は「コミンフォルム」を結成する。双方は軍拡を続け、大量の核兵器を保有する。
・1950年米ソの代理戦争の朝鮮戦争が始まる。1962年キューバ危機では、核戦争が一歩手前で回避される。

・1979年ソ連がアフガニスタンに侵攻する。両陣営の軍拡は続いていたが、ソ連の経済は停滞した。ゴルバチョフはペレストロイカなどを実施するが、思わしくなかった。1986年にはチェルノブイリ原発事故を起こし、民主共和制度を導入せざる得なくなった。1991年共産党の保守派がクーデターを起こし、ソ連の解体が決定的になる。
・「ベルリンの壁」が崩壊した1ヶ月後、ゴルバチョフとジョージ・ブッシュ米国大統領はマルタ島で会談し、冷戦終結を確認している。世界は資本主義/民主化で統一へ向かう。

<1.2 Windows95の登場、グローバリゼーションの加速>
○モノづくり大国米国の衰退
・1970年代日本/西欧/韓国/台湾/シンガポール/香港などの新興国が経済成長する。一方で米国の製造業は競争力を失う。1973年石油危機(オイルショック)は更なる打撃になる。2016年米国の石油消費量は1963万バレル/日である(日本は404万バレル)。これは物流をトラックに頼っているためである。オイルショックにより、米国はインフレになり失業率も上昇し、スタグフレーションに陥る。日本からの輸入は増え、貿易赤字は拡大する。

・この産業空洞化を進めたのが、多国籍企業/グローバル企業による海外直接投資(FDI)である。皮肉にも、この米国の空洞化(モノづくり大国からの逸脱)が世界経済を牽引する。※1990年代日本の空洞化があったが、米国がそれに先行していたのか。世界の工場は、米国→日本→中国の流れかな。
・貿易赤字に悩む米国は、ドル高・円安に危機感を持つ。1985年G5でドル安へ向ける決定が成される(プラザ合意)。1ドル230円だったドル円は、1年で120円まで円高になる。日本は金利を大幅に下げ、これがバブルをもたらす。

○1995年の大転換
・1995年は3つの出来事が起き、グローバリゼーションへの大転換の年と考えます。1つ目が「Windows95」の登場である。これによりパーソナル・コンピューター(PC)が一気に普及する。PCがスーパーマーケットでも売られるようになり、同時に「アメリカ・オンライン」などの通信サービスも普及する。
・データ通信の定額制も始まる。当時のモデムの速度は28.8Kbpsで、今の4G(LTE)は下り150Mbpsなので、1/5000の速度だが、インターネットも普及し始める。

・インターネットの黎明期に忘れてはならないのがブラウザ「ネットスケープ」です。これにより文字だけでなく、画像も扱えるようになる。ネットスケープ・コミュニケーションズは株式公開するが、初値設定は14ドルだったが、終値は58ドルになり、その後171ドルまで上昇する。これが「ニュー・エコノミー」の始まりで、2つ目の出来事です。

・この背景に3つ目の出来事があった。1985年プラザ合意以降、米国はドル安政策を続けていましたが、ゴールドマン・サックスを育てたロバート・ルービンがクリントン政権(1993~2001年)の財務長官に就き、「ドル高政策」に転換します。彼は米国経済を製造業から金融業に切り替えたのです。
・為替市場では協調介入が行われ、1ドル84円が、一気に105円に上昇します。ウォール街に資金が集まり、米国の株・債券への投資が始まり、米国経済は回復します。ダブついた資金がネットスケープ・コミュニケーションズなどにも向かったのです(市場中心主義)。また彼は「ジャパン・パッシング」「チャイナ・シフト」を始めます。

○情報ソーパーハイウェイ構想
・1993年から始まったクリントン政権は、国内経済の再建を最優先課題とします。そこで目を付けたのが、日本の「トヨタ式」「新高度情報通信サービス」などです。日本は「INSネット64」(1988年)「INSネット1500」(1989年)を開始していました。これから副大統領アル・ゴアが「情報スーパーハイウェイ構想」を立ち上げます。クリントン政権は1994~98年で、2億7500万ドルをICTに投資します。
・このICT投資により、需要・供給は回復し、生産性も高まります。しかしこれは「オールド・エコノミー」の切り捨てであり、「ニュー・エコノミー」の登場となります。ICT投資で生産性が高まったため、雇用は増えず、賃金上昇/インフレは起きませんでしたが、企業は収益を増やします。米国は製造業を中心とする「オールド・エコノミー」から、「ニュー・エコノミー」に転換したのです。※1990年代に色々あったんだ。

<1.3 二極化の始まり クリントンは政治的陰謀に嵌った?>
○金融システムを破壊したクリントンとルービン
・1990年代初頭、クリントンは資金を必要としていた。そこで彼はゴールドマン・サックスの重役ケン・ブロディと連携を深める。これにより彼はウォール街の支持者を得る。彼はロバート・ルービンを経済顧問に据えたのち、財務長官に任命する。

・1999年「グラム・リーチ・プライリー法」が成立するが、これは66年間の金融秩序を覆すものだった。1933年「グラス・スティーガル法」が成立するが。これは資金の流動性を健全に保つため、銀行業務と証券業務の分離を定めていた。ところが「グラム・リーチ・プライリー法」により、銀行/証券/保険の垣根がなくなり、「投資銀行」の躍進が始まる。ITを介しデリバティブ商品/資産投資が膨大になり、後にリーマン・ショックに至る。

○ルービン財務長官とゴードン蔵相による金融ビッグバン
・2000年英国ブレア政権(1997~2007年)は「金融サービス・市場法」で金融改革を行う。これは「グラム・リーチ・プライリー法」に近いもので、米国と同様に銀行/生保/投資(証券)の垣根がなくなり、金融業の歯止めがなくなる。
・1986年サッチャー政権で証券取引所の大改革が行われる。その前年のロンドン証券取引所の時価総額は東京市場の1/3、ニューヨーク市場の1/5だった。シティが衰退した理由は3つあった。第1は手数料が高かった。第2はブローカーとジョバーの統一がされていなかった。第3は外部資本の参加を認めなかった。これらを改革し、シティは国際金融センターとして復活する。

・この1990年代後半からの金融改革は、ゴードンとルービンが手を組んだと考えられる。これにより為替はシティに集中し、先物取引はシカゴのマーカンタイルに集中するようになる。シティは世界の為替取引の4割が集中している。マーカンタイル取引所では年1千兆ドルの取引が行われている。
・しかしシティには裏の顔があり、「タックスヘイブン」のネットワークを持っている。英国は、ジャージー島/ガンジー島/マン島/ケイマン諸島/ジブラルタル/シンガポール/キプロス/バヌアツ/香港などと協業が可能で、資金を洗浄できる「オフショア金融センター」(?)を持っている。そのためフィンテックの中心地はシティなのだ。※資金洗浄とフィンテックは無関係と思うが。
・実はシティは、1189年から自治権を持つ世界最古の自治都市である(※知らなかった)。そのため多国籍企業/富裕層に、租税回避/守秘性などを提供する金融センターになった。一方米国にはワシントンの近くに「タックスヘイブン」のデラウェア州がある。人口は90万人なのに、95万社が存在する。※米英が「タックスヘイブン」を公認しているので、なくなる訳がない。

・日本はバブルが崩壊し、不良債権が大きな課題だった。しかし個人資産は1200兆円あり、政府はこれを運用させようとする。1996年橋本龍太郎内閣は、サッチャー政権のFree(自由な市場)/Fair(公正な市場)/Global(国際的な市場)を掲げ、金融システムの改革を始める。しかし国内にしか目を向けなかったため、シンガポール/香港に負ける。
・また不良債権は、アジア通貨危機/ロシア通貨危機でさらに増え、60兆円の公的資金を注入する。日本長期信用銀行(長銀)には7.9兆円が投入される。2000年長銀はリップルウッドなどの米国資本に10億円で売却される。長銀は貸しはがしを行い、そごう/マイカルなど152社が倒産する。長銀は1部再上場をなし、時価総額は1兆円に達した。彼らは海外が本拠のため、課税される事はない。中途半端に米国に追従し、シンガポール/香港に地位を奪われ、収奪されるだけに終わった。それが今も続いている。

○クリントンが追われたのは政治的陰謀か
・1998年クリントン大統領の不倫スキャンダルが発覚する。モニカ・ルインスキーはクリントンとの赤裸々な内容を同僚に話し、それを録音したテープが報道された。クリントンが「性的な関係はない」と偽証した事が問題視され、弾劾裁判へ発展する。
・弾劾裁判となったのは2人目である。1人目はリンカーン大統領を継いだアンドリュー・ジョンソンで、役職任期法に反するとして弾劾裁判が行われた(※詳しい経緯は省略)。リチャード・ニクソンはウォーターゲート事件で追い詰められるが、弾劾裁判直前に辞任した。
・クリントンの場合は大統領選を前に、共和党が汚名を着せようとしたのは間違いないが、もっと大きなものが渦巻いていた。

○弾劾裁判は宗教右派が引き起こした
・1970年代、「多様な保守主義運動」として「宗教右派」が登場する。米国の56%がプロテスタントで、宗教右派運動はその内部から起きた。近代科学を受け入れる「近代主義者」と、聖書に従う「原理主義者」に分かれていたが、「原理主義者」からさらに分かれたのが「福音派」である。※福音派の本を読んだが、「富を得たのは、信仰が篤かったから」みたいな、結果主義の信条だった。

・1960年代フェミニズム/同性愛/黒人の人権などのリベラル色が強まる。これを宗教右派は「伝統的価値の後退」「伝統的家族の崩壊」と危惧した。1979年「モラル・マジョリティー」が結成され、政治運動も始める。彼らはレーガンを担ぎ上げ、政治で社会的・宗教的・文化的な争点を取り上げるように圧力を掛ける。「キリスト教連合」も勢力を拡大し、政治的な発言権を高める。
・そんな彼らは、黒人・同性愛者の擁護/人工中絶の容認/銃規制法などを成したクリントンは許せなかった。この弾劾裁判は、「文化の争い」だったと考える。※米国にも変な争いがあるな。

○米国政治に大きく影響するロビイスト/ネオコン
・政治家にとってロビイストなどの献金者は重要である。建前は「国民のための政治」だが、実際は「スポンサーのための政治」となっている。日本も同様だが大きな違いは、米国ではロビイストは登録が義務付けられ、正式な職業である。2014年連邦レベルで1万1500人が登録され、ロビー活動に24億ドルが計上された(※要するに闇献金はないのか)。日本では政治家がこの役割を担っている。

・親イスラエルのロビー団体が「米国イスラエル公共問題委員会」(AIPAC)である。彼らはイスラエルの安全を確保する活動を行ってきた。
・1844年「キリスト教徒を救済するために、ユダヤ人をイスラエルに帰還させる運動」(シオニズム運動)が起こる。シオニズムは宗教イデオロギーではなく、米国独特の政治的イデオロギーである。※1844年?キリスト教徒を救済するため?米国独特?

・一方ネオコンはリベラル派(?)から転向した保守派で、ユダヤ系が多く、反全体主義/反共/反専制思想である。彼らは伝統主義/自由主義で、レーガン政権下(1981~89年)で軍産複合体と結託してタカ派を形成した。彼らは「米国が善意の覇権国になる」と考え、米国を「世界の警察」と称した。

○クリントンの金融改革はユダヤ系富裕層が関係
・1998年12月イラク爆撃が行われる。湾岸戦争後、サダム・フセインを退陣させる事ができず、米軍・英軍は大量破壊兵器の監視を続けていた。弾劾裁判の最中、国連安保理の承認を得ないままバグダットへの空爆が実行される。

・1993年クリントンの口利きで、イスラエルとパレスチナの間で「パレスチナ暫定自治宣言」(オスロ合意)が結ばれる。これによりイスラエルはガザ/ヨルダン川西岸から撤退し、相互が存在を認め、交渉が始まる。クリントンがネタニヤフ首相に西岸からの撤退を求めた直後に、クリントンのスキャンダルが発覚している。
・このスキャンダルには多くのユダヤ人が関係している。モニカを始め、弁護士/告白を聞いた友人/出版社のゴールドバーグなど皆そうである。またスキャンダルの影には、反クリントン運動を立ち上げた保守派の大富豪リチャード・メロン・スカイフの策略があったとされる(※内容省略)。

・もう1つ忘れてはいけないのが、1999年「グラム・リーチ・プライリー法」の成立である。クリントンが金融システムのモラルを破壊した背景に、ユダヤ系富裕層がいる。その1人がシティ・グループの会長になったサンフォード・ワイルである。彼はアメリカン・エキスプレの社長になり、保険業/消費者金融/投資運用などの総合金融サービス会社トラベラーズ・グループを生み出す。1988年にはシティコープ社とトラベラーズ社を合併させている。
・しかし彼には1つだけ障害があった。それが「グラス・スティーガル法」で、同じくユダヤ人のルービン財務長官/ローレンス・サマーズ財務長官に、これを廃止するようにクリントンに迫った。

・「グラム・リーチ・プライリー法」が成立し、米国はITバブル/住宅バブル/新興通貨バブルなどの「バブルの種」を撒き散らすようになる。グローバリゼーションが進み、貧富の差は拡大し、世界は「二極化」する。
※この頃、「これからは金融業」と言われていた。結局クリントンは、ユダヤ系に好きなように翻弄されたのかな。この1.3章は内容があった。

<1.4 リーマン・ショックによる世界的金融危機>
○世界的金融危機はなぜ起きた
・2007年夏「サブプライム・ローン」が世界金融危機の引き金を引く。1990年代半ば、米国では住宅ローンの貸付審査が甘くなる。これを金融商品として証券化し、低リスク・高メリットの商品にした。これにより低所得者も住宅ローンを組めるようになった。返済できなくなれば家を引き渡すだけで済んだ。住宅バブルが起き、住宅価格は2000年代初頭の倍になった。しかし2006年頃からローンを返済できず、住宅価格の下落が始まり、2009年にはピーク時の30%まで下落する。※この辺りの本は何冊も読んだ。CDSとかの商品もあった。

・格付け機関は、サブプライム・ローン関連の証券の評価を下げた。これにより金融機関/投資家は莫大な損失を被る。大手金融機関でさえリスク資産の売却を始め、金融市場は揺れ動く。これは米国だけではなく、サブプライム・ローン関連の証券を購入していた欧州の金融機関も巻き込まれる。
・2008年3月米国5位の投資銀行ベアー・スターンズが経営破綻するが、JPモルガンに2億3600万ドルで買収される(前年の時価総額は200億ドル)。9月米国4位の証券会社リーマン・ブラザーズが、負債総額は6130億ドルで経営破綻する。ちなみに山一證券の負債総額は3.5兆円で桁が違う(※1ドル100円とすると、350億ドル)。これで世界はパニックになり、株価/原油価格などが暴落する。

・ジョージ・ブッシュ大統領は救済策を打ち出すが、「小さな政府」路線の共和党は否決する。この時、次期大統領選を共和党ジョン・マケインと民主党バラク・オバマが争っていたが、これが共和党の敗北に繋がる。
・2009年世界の経済成長は大きく低迷する。それまでは世界平均で3.5%、先進国3%/発展途上国5%だったが、米国は-3%/日本-5.4%となる。先進各国の財政赤字も増大する。しかも2009年10月にはギリシャ債務問題が顕在化し、欧州債務問題に拡大する。2008~11年世界の経済成長率は1.5%に低迷する。ここから「分断」が始まる。※グローバリゼーションにより始まるのではなく、リーマン・ショックからか。

○お札をばら撒く量的金融緩和政策
・2008年9月米国は「量的金融緩和政策」(QE)を実施する。量的緩和とは中央銀行が国債・債券を買い入れ、通貨量を増やす政策で、「非伝統的」政策と云われる。これを実施したのがベン・バーナンキFRB議長で、「ヘリコプター・ベン」と呼ばれた。
・米国の量的緩和は、QE1(2008年11月~2010年6月)/QE2(2010年11月~2011年6月)/QE3(2011年9月~2014年10月)の3段階で行われた。QE1では1兆7250億ドル、QE2では6000億ドルが投入された。国が証券を買う事で利回りが下がり、経済活動が刺激されるとするアプローチである。
・米国政府は9000億ドルの減税を行ったが、失業率の改善に繋がらなかった。そのため雇用改善を目的とし、毎月住宅ローン担保証券(MBS)400億ドル/長期国債450億ドルのQE3を開始し、2014年10月終了する。

・ゼロ金利政策/金融緩和政策によりFRBの保有資産は4兆5000億ドルに拡大する。各国で金融緩和が行われたため、中央銀行の保有資産は10兆ドルに達する。端的に言えば、ウォール街/シティ/東京などの金融市場は資金が溢れた。債券市場は100兆ドル、株式市場は50兆ドルを超えた。異常な低金利を「正常化」するだけで、均衡が崩れかねない状況になった。※金融バブルが、量的緩和により新たな金融バブルを起こす。

○中国は空前の住宅バブルへ
・米国のバラマキ政策の影響で、2010年中国で「住宅バブル」が起こる。2009年3月サブプライム・ローンの崩壊で主要70都市の不動産価格は前年比-1.3%となる。ところが中国の3度の利下げ/4兆元の景気刺激策/融資拡大政策などで、不動産価格はV字回復する。※土地は国有なのに住宅価格が変動するのは、少し不思議だ。まあ自由市場かな。
・北京/上海などでは、住宅価格が可処分所得の20~30倍に達する(※広さは関係ないの?)。これに危機感を抱いた政府は、「2軒目の購入では頭金で4割以上支払う」「3軒目の購入には融資を中止する」などの規制を設ける。しかし住宅価格は、今でも高水準で推移している。※人民が怒るので下げられないらしい。
・深圳市の住宅価格は年収の70倍で、シリコンバレー(サンノゼ)に次いで高い。これはソフトウェアが1番で、ハードウェアが2番と云える。適正価格は年収の3~6倍と云われるが、主要16都市では10倍を超えている。

<1.5 グローバリゼーションの終わりとインターネットの壁>
○資本主義が世界を覆い尽くした
・かつての世界は「分断」されていたが、今はどこにでも簡単に行けるようになった。これは冷戦終結/格安航空会社による。しかし最大の要因は情報産業である。今はスマートフォンとWi-Fiがあれば、世界のどこにいようが、誰とでも連絡が取れる。

・インターネットの普及率は51%で、半年で利用者は1億人増えた。北米88%/欧州79%が高くなっている。2017年エチオピアを訪れたが、水・電気がないのにスマートフォン/携帯電話は持っていた。充電は電気のある村に充電に行っていた。グローバリゼーションとITは、世界に行き渡っていると感じた。アフリカで携帯電話の普及率が80%を切っているのは、ウガンダとタンザニアだけである。またエチオピアで彼らにカメラを向けると、「5ブル(25円)払え」と要求してくる。世界は資本主義で覆われている。

○富の配分は狂い、グローバル企業が独り勝ちした
・今は多国籍企業/グローバル企業が世界を席巻している。世界から壁がなくなり、彼らは世界の人々から利益を吸い上げている。それだけではない。彼らは法人税を払っていないのだ。『フォーチュン』は毎年、世界企業番付500社を発表しているが、この半数以上が税金を払っていない。2010年ゼネラル・エレクトリックは140億ドルの利益を上げるが、法人税を払わなかった。
・彼らは「合法の節税」と主張する。Googleはバミューダ諸島のシェル・カンパニー(ペーパー・カンパニー)に98億ドルの資産を移し、20億ドルを節税した。彼らはこの資金で研究開発を行ったり、ライバル企業を吸収している。
・バミューダ諸島などの貧しい国は税収を手放す代わり、グローバル企業を誘致している。これが「タックスヘイブン」(租税回避地)である。彼らは「ダブル・アイリッシュ」「ダッチ・サンドウィチ」などの手法で合法的に節税している(※詳しい手法が解説されているが省略)。

○国境を超えたマネーの流出は止められるか
・2017年「パラダイス文書」がバミューダ諸島の法律事務所から漏洩する。これにはエリザベス女王やウィルバー・ロス米国商務長官の名前があった。2016年には「パナマ文書」が流出している。これにはウォール街のバンク・オブ・アメリカ/ウェルズ・ファーゴ/JPモルガン・チェース/モルガン・スタンレー/ゴールドマン・サックスや、HSBC/バークレイズ/ドイツ銀行/BNPパリバ/ソシエテ・ジェネラル/ABNアムロ/クレディ・スイス/USBなどの名前があった。

・これに対しトマ・ピケティなど経済学者355人が各国政府に書簡を送った。彼らは「タックスヘイブンは富や福祉の増進に寄与せず、経済的な有益性はない」とした。
・国際決済銀行(BIS)によると、「タックスヘイブン」の非居住者の銀行債務残高(※預金?)は6兆ドルあり、世界の21%とした。オフショア金融センター(?)にある富裕層の資産は5.8~11.5兆ドルあり、年間2550億ドルの税収が失われている。「タックスヘイブン」により富裕層/大企業は富み、その失われた税収を中間層以下が負担している。※これは、どうかして欲しい。
・「パナマ文書」には、三井住友ファイナンシャルグループ/NTTドコモ/三菱UFJファイナンシャルグループ/JT/三井住友トラストホールディングス/トヨタ自動車などの名前がある。

第2章 米国の分断は民主主義の終焉か

<2.1 日本人は東海岸/西海岸しか知らない>
○ラストベルトを赤で染めたトランプ
・2016年大統領選でドナルド・トランプは勝利するが、大都市での得票率は低かった。ニューヨークのマンハッタン10%/ワシントン4.1%/ロサンゼルス郡23.4%/サンフランシスコ郡9.4%である。
・米国の大統領選は二大政党の候補者の一騎打ちになる。大統領選は州毎の一般投票と、選挙人による本選挙の2段階である。ここで重要なのが、大半の州で選挙人の総取りになっている点である。そのためトランプの総得票数は6298万票/ヒラリー・クリントン総得票数は6584万票で、クリントンが多かったにも拘わらず、トランプが勝利した。
・多くの日本人/マスコミ/専門家は、トランプが大敗すると想定していた。トランプが「青」から「赤」にひっくり返したのが、イリノイ/インディアナ/ミシガン/ペンシルベニアなどの五大湖周辺のブルーカラーが多い「ラストベルト」だった。

○南北戦争から生まれた新しい奴隷システム
・南北戦争での奴隷解放宣言により、南部の綿花畑で働いていた黒人が、北部の工業地帯で働くようになり、北部の第2次産業が発展した。そのピークが1950年代の自動車産業である。しかし1970年代になると日本などの新興勢力に押され、工場はメキシコなどへ移転し、正しく「錆び付いた地域」になる。財政破綻したデトロイトやイリノイ州は停滞を続けている。

○熱狂的なトランプ支持者ホワイト・トラッシュともう1つの米国
・マスコミ/専門家は、トランプ勝利の要因をラストベルトと見ている。トランプを熱狂的に支持したのが、貧困にあえぐ白人労働者「ホワイト・トラッシュ」である。工場は海外に移転し、移民が流入し、彼らの雇用機会は奪われた。
・米国民の3人に1人が、貧困あるいは貧困予備軍である。貧困階級は、1982年30%だったが、2010年には41%にまで増えた。2012年フードスタンプ(食料補助)を受けた人は6500万人いる。国民の5人に1人が生活保護を受けた。
・従って彼らの矛先は、富裕層や移民に向けられた。しかし知的階級や国際社会はトランプの演説に眉をひそめ、日本人は冷ややかに見つめていた。トランプは「この状況を作った政治家/マスコミが悪い」と叫び、彼らの救世主になった。※分かり易い説明。既存政治家への不信とも云われた。

○2060年白人社会からヒスパニック社会へ
・2012年白人の人口比率は63%だが、2060年には43%にまで下がる。一方ヒスパニック系は2012年17%だが、2060年には31%にまで上昇し、マジョリティーになる(※逆転はしていないけど)。米国は私達が知る米国ではなくなる。

<2.2 二極化の象徴ポートランド>
○全米一住みたい街ポートランド
・2013年オレゴン州ポートランドはベストシティ1位となった。1970年代高速道路の建設を路面電車「MAX」に代えさせたり、行政をバックアップする「ネイバーフッド・アソシエーション」を創設した。ポートランドは鉄鋼・造船の町で、大気汚染・河川汚濁に悩んでいた。1960年代産業が衰退するが、産業重視から暮らしやすさ重視の町に変貌した。

○10代のホームレス
・私は時々ポートランドを訪れていたが、2017年は様相が変わっていた。ホームレスが点在していて、特に10代のホームレスもいた。17歳のホームレスの女性に聞くと、「両親の離婚でホームレスになり、コーヒーショップで働いていたが首になり、アパートを出た」そうだ。米国では時給6ドルで暮らす人が少なくない。一方量的緩和により、ハンバーガー1つが15ドルに値上がりしている。

・米国では若者のホームレスが420万人いる。アフリカ系/ヒスパニック系/LGBTが、そのリスクが高くなっている。ニューヨーク市でもホームレスの児童が増え、2%がホームレスである。今後7人に1人(※14%)がホームレスになるとされる。

○米国では、1%が大半の資産を持つ
・米国では、上位1%の資産の方が、残り99%の資産より多い。2010年の貧困者は4618万人で、貧困率は15.1%で、1993年以降で最悪となった(※グローバリゼーションは世界を平準化させ、グローバリゼーションと同期している)。4人家族の年収は2万2300ドルで、厳しい暮らしである。一方この間、上位5%の世帯収入は42%上昇している。※本書の前に利権政治の本を読んだが、ハゲタカ資本(巨大資本)を批判していた。
・2009年以降の景気回復期も貧富の差を拡大させた。ミドルクラスの純資産は住宅で、富裕層の純資産は金融資産が占める。住宅バブルによりミドルクラスは純資産を42%失ったが、富裕層は株・債券の回復で、純資産を回復させた。2009年上位7%が総資産の56%を所有していたが、2011年には63%まで増やした。※中間層以下は生きる分しか与えられず、富裕層だけが肥えていく。

○カリフォルニア州の独立運動
・トランプ当選後、若者/黒人/ヒスパニックなどが全米主要都市でデモや集会を行った。彼らには移民が多く、「トランプは我々の大統領ではない」「米国から出て行こう」などが掲げられた。※今度は人種的分断の話かな。
・オレゴン州/カリフォルニア州では「独立」を目指すグループも現れる。カリフォルニア州のGDPは仏国よりも上で、世界6番目に入る。成長率は米国2.6%に対し4.1%で、財政も黒字である。世論調査では32%が独立を支持している。この動きは「Calexit」(カレグジット)と呼ばれている。カリフォルニア州シリコンバレー(サンタクララ郡、サンマテオ郡)では、3軒に1軒が年収15万ドル以上ある。富める者は米国の貧困層の面倒を見るよりも、独立を選ぶだろう。
・2017年トランプは「パリ協定」から離脱した。これに対し、自治体が他国と連携し、地球温暖化対策に取り組んでいる。

<2.3 ラストベルトがトランプ大統領を誕生させた?>
○ラストベルトの労働者にトランプ支持者はいない
・2017年5月、私はデトロイト/フリント/・・/シカゴ/ミルウォーキーなど2千キロを4日間で走破した。ミシガン州フリントは「不幸な街」で第3位だった。警察官の1/4は解雇され、凶悪犯罪件数はワースト3位だった。多くの人に聞いたが、「もう政治には期待していない」が大半だった。「民主も共和も碌な政治家がいない。この国の政治は金で動いている。だからトランプに入れた」、これが本音である。

・インディアナ州の共和党地域本部の訪ねた。トランプTシャツを着た女性に尋ねると、「トランプを支持しているのは農家」だそうだ。トランプは就任100日の前日、全米ライフル協会で演説を行った。現職大統領が演説するのはレーガン以来である。農業地帯では、自衛のため銃を日常的に持っている。
・トランプ現象は「知的階級の富裕層VS低学歴の低所得者」だけではなく、農村部の「自分の事は自分でやる」人達が起こした百姓一揆である。※正しくは古い米国(農村)がトランプの岩盤で、白人労働者がトランプ旋風を起こしたのでは。

○ニクソン・ショックから「栄光の米国」は躓く
・米国の躓きは、1971年ニクソン・ショックから始まる。これにより金とドルの交換が停止された。米国はベトナム戦争を泥沼化させ、日本/西ドイツに経済力で迫られた。人々がドルを金に交換する中、ニクソンは交換を停止した。これを機に、固定相場制は変動相場制に移行する。
・第2次石油危機で米国の貿易赤字は膨れ上がった。経常収支も悪化し、インフレ率も高騰した。そんな中、カーター政権は公定歩合を8.5%から9.5%に引き上げ、円安・ドル高に急展開する。これは自動車産業などのサプライサイドの打撃となった。

<2.4 レーガンは統一、トランプは分断で復活を目指す>
○トランプはレーガンの再来か
・レーガンは「強い米国」、トランプは「米国を再び偉大に」を掲げた。また大型減税/規制緩和など、類似点が多い。
・第2次世界大戦後、各国が年金・失業保険・医療保険の拡充/公共事業による景気調整/主要産業の国有化などを推進した。これは「大きな政府」「福祉国家」の路線である。一方1980年代ミルトン・フリードマンは新自由主義を唱える。これは規制緩和/減税/関税撤廃を掲げた。

・1981年に大統領に就任したレーガンはこれに従い、「レーガノミクス」を実行する。これにより経済成長率は高まり、失業率は低下し、一定の効果があった。その後大型の税制改革は行われなかったが、トランプが大型の税制改革を行った。※大改革だったのか。

○トランプとレーガン
・トランプの「トランポノミクス」とレーガンの「レーガノミクス」はどう違うのか。レーガンの政策は、大型減税/社会保障費の削減/軍事費の拡大(※以下省略)である。一方トランプの政策は、インフラ投資/法人税・所得税の引き下げ/相続税の廃止(※以下省略)である。両者は供給力重視/企業収益重視で共通点が多い。※供給サイドの優遇・強化だな。

○トランプは「分断」、レーガンは「統一」
・両者の違いは「分断」と「統一」にある。トランプは個別の企業の海外移転を阻止した。TPP/NAFTAから離脱した。トランプは「米国は米国、他国は他国」である。一方レーガンは「プラザ合意」で協調介入を行ったり、「世界の警察」を前面に出し、レーガンには「米国が世界をリードする」との考え方があった。※米国の衰退が分かる。英国が衰退し、米国が衰退し、日本も衰退するかな。

<2.5 トランプ旋風は百姓一揆か>
○トランプは第3極の旗印
・私は、トランプは共和党ではないと思っている。民主党はリベラルな左派、共和党は保守的な右派である。しかし大衆には両党は企業優遇で、多額の寄付をする者のための政党である。これは米国の政治システムの根源的な問題である。

・そんな中で「リバタリアン党」への期待が高まっている。彼らは「国家は個人や社会に介入すべきではない」との思想を持つ。新自由主義に似るが、より個人の自由を重視する(※超自由主義だな)。1971年リバタリアン党が生まれる。彼らは、所得税/銃規制/徴兵制/医療保険制度に反対した。1972年から大統領候補を立てていたが、泡沫候補だった。ところが2016年、ゲーリー・ジョンソンが10%の支持率を得て、「第3の候補」として注目される。

・リバタリアンはリバタリアン党だけではない。近年「ティーパーティー」の躍進が目覚ましい。これはオバマの「大きな政府」に反対する集会から始まった。白人中流階級層が中心になり、企業優遇政策/弱者保護政策に反対した。彼らは「全ての人は平等・自由であり、それを確保するために政府がある。これに反する政府を改廃し、新たな政府を作る権利がある」と主張した。
・2010年共和党は中間選挙で、「ティーパーティー議員連盟」の候補者を立て、下院435議席で60議席を得た。ティーパーティーは共和党内で、見過ごせない勢力になる。
・2016年大統領選ではティーパーティーの有力団体「ティーパーティー・パトリオット」が激戦州でトランプを支援している。ティーパーティーも二者択一の中でトランプを選んだ。
※オバマ時代はやたらティーパーティーの話があった気がするが、2016年大統領選/2018年中間選挙では余り聞かなかった気がする。

○トランプ勝利の要因
・南カルフォルニア大学の教授・学生が『ラストベルトの反乱と云う神話』を書いた。彼らはラストベルト5州(アイオワ、ミシガン、オハイオ、ペンシルベニア、ウィスコンシン)で、2012年/2016年の大統領選の投票を比較した。民主党は年収10万ドル以下で155万票を失っている。この内36万票しか共和党に流れていない。一方で51万票が「第3極」に流れていて、残りは棄権などである。※政治不信。既成政党への不信だな。

○大統領選の行方を第3極が握った
・2016年の大統領選の投票率は53.1で、前回(54.9%)から400万人棄権が増えた(※意外と低いんだ。日本の国政選挙と一緒だ)。前回、民主党オバマは6600万票獲得していたが、クリントンはそれから600万票減らしている。いずれにしても勝ち目のない「第3極」を選んだか、棄権している。
・二大政党に左右はあるが、共に大企業優遇で、都市の知的階級にしかメリットがない。移民は安価な労働力として求められ、中産階級の労働者は貧しくなる一方で、政治は企業のためのものになった。そこで生まれたのが、「第3極」であり、リバタリアンであり、トランプ大統領だった。「国に頼らず、個人の自由をもっと主張しよう」との流れからトランプ大統領が生まれた。二大政党でない、しがらみのない、政治家ではない実業界から、農村部からトランプ大統領が生まれた。
※政治不信の言葉は出て来ないな。労働者も農村部にいると考えれば良いかな。正確には労働者のブルーカラーは農村に居住し、労働者のホワイトカラー(知的階級?)は都市に居住かな。

○第3極のトランプ神輿を担ぎ上げた百姓一揆
・トランプが選ばれた背景は「アメリカ・ファースト」ではなく、「自分ファースト」であり、「現代の百姓一揆」である。
・2016年大統領選直後のブラックフライデーで市民が買ったのは銃だった。18万丁以上が売れ、過去最高になった。彼らは軍隊・警察に守られていたが、自分達で守る事にしたのだ。社会保障なども自分達でやると決めたのだ。米国は中東・東アジアからの軍の撤退だけでなく、寒村地域の警備も撤退しようとしている。当然この要因は財政の逼迫である。※コロナでも同じだな。真っ先に売れたのは銃だった。

○トランプを支持する白人至上主義「オルト・ライト」
・近年「白人が米国を支配すべきだ」との白人至上主義が台頭している。この団体に「オルト・ライト」(オルタナ右翼)があるが、大統領選後から注目されるようになった。彼らはトランプの反イスラム/反移民/女性蔑視を支持した。トランプの首席戦略官・上級顧問を務めたスティーブン・バノンはこの団体と密接な関係がある。

○トランプは白人至上主義を否定できない
・2017年7月ヴァージニア州シャーロッツビルで白人至上主義の集会が開かれ、反対派との衝突が起きた。集会の目的は、南北戦争の南軍を指揮したリー将軍の銅像撤去に反対するものだった。
・極右関係者が反対派に車で突っ込み、死傷者を出した。この事件を切っ掛けにバノンは更迭される。この事件に対しトランプは「双方に暴力があった」と発言し、世間から非難を受ける。
・トランプのバックにはヘッジファンドで財を成したマーサー一族がいる。彼はリバタリアンで、バノンの極右サイト「フライバート・ニュース」に資金提供している。※マーサー一族は聞いたような。

・2017年8月ミシガン/ペンシルベニア/ウィスコンシンの世論調査でトランプの支持率が低下している。民主党支持が46~48%で、共和党支持の35~38%を大きく上回った。※この頃、反トランプ運動が盛んだったが、いつの間にか鳴りを潜めた。

○メキシコ大統領が否定した壁の建設
・トランプは「不法移民対策として、メキシコ国境に壁を作る」と公約した。2016年8月トランプはメキシコ大統領と会談し、①国境警備の強化、②壁の建設、③麻薬カルテルの解体、④NAFTAの改革、⑤製造業の富をアメリカ半球(※北米?)から流出させないを主張した。訪問前には、「メキシコが壁建設の費用を負担する。そうでなければ、メキシコ移民の母国への現金送金を停止する」と発言している。

・メキシコ国境は3111Kmある。2017年1月トランプは、壁を建設する大統領令を発している。しかしメキシコ大統領は、費用の支払いを拒否している。トランプは「メキシコからの輸入に20%の関税を課す」と発言したが、これはWTO違反である。
・米国にはメキシコ出身者が1200万人いる。またメキシコ企業は米国に200億ドル投資し、米国の対メキシコ輸入額は年3千億ドルある。

○荒唐無稽な壁は実現するか
・2017年7月トランプは「壁や柵のない2100Kmの内、1100Kmは壁が必要」とした。1050Kmに亘ってフェンスが作られた。高さ20m/厚さ30Cmの壁を1600Km作ると、270~400億ドル掛ると試算された。この壁は実現するのだろうか。

○『ニューヨーク・タイムズ』も称賛した工場移転の阻止
・トランプのTwitterのフォロワーは4780万人いる。彼はこれを利用し、企業への口先介入を行ってきた。例えば冷暖房機器メーカー「キヤリア」への介入である。同社はメキシコへの移転を決めていたが、2016年12月彼は工場を訪れ、従業員の前で「1100人の雇用を維持する事で親会社と合意した」と話した。※大統領就任前だけど。
・フォード/ゼネラルモーターズ/トヨタなどが、同様に雇用の維持や国内への投資を宣言している。これらは異例の事で、『ニューヨーク・タイムズ』もトランプを称賛した。

○トランプは企業と取引した
・先のキヤリアは10年(700万ドル)の税優遇を受ける事で移転を見直し、1600万ドルの投資を決めた。この時のイディアナ州知事は、後に副大統領となるマイク・ペンスだった。そのため同社は巨額の補助金を得る事ができたのだ。また2017年7月には雇用が維持された1100人とは別件として、600人が解雇される。また1600万ドルの投資は、工場のオートメーション化に使われ、雇用の削減になる。

<2.6 時代は米国から中国に移るか>
○既得権者の力を借りなかった初の大統領
・トランプの父は不動産業を営み、母はスコットランド移民で、彼はエスタブリッシュではない。しかし大学を卒業して3年後、不動産業を始め、のし上がっていく。1980年マンハッタンにグランド・ハイアット・ホテルを開業し、大富豪への一歩を踏み出す。1991年に破産するが、1997年ミス・ユニバース事業を買い取り、復活する。2000年大統領選に出馬するが、撤退する。

・2015年大統領選への出馬を表明する。「米国を復活させる」とし、「選挙資金は私費で賄い、資金提供者の言いなりにならない」と公言する。クリントンを「史上最も腐敗した候補者」と批判した。これには「反ユダヤ主義者」と非難された。
・共和党への影響力が強い人物が、リバタリアンのコーク兄弟である。2016年『フォーブス』の世界長者番付の第9位に、チャールズ・コーク/ディビット・コークがいる。彼らは石油・化学・日用品の「コーク・インダストリーズ」を経営している。同社は米国で2番目の非上場企業である。※コーク兄弟は聞いたような。

○コーク兄弟の正体
・共和党は、メロン・スカイフやコーク兄弟などのユダヤ系大富豪に操られ右傾化した。コーク兄弟は反ホワイトハウス・反ワシントンのリバタリアンである。シンクタンクや非営利団体を作り、メディアや大学にその思想を広めている。保守系のヘリテージ財団/アメリカ・エンタープライズ研究所/ケイトー研究所/マルカタスセンターや、ブラウン大学/ニューヨーク大学/アリゾナ大学などに資金を寄付している。※影響力のある資本だな。

・2016年大統領選で共和党からは、保守エスタブリッシのジェブ・ブッシュ、宗教右派のテッド・クルーズ、ネオコンのマルコ・ルビオ、リバタリアンのスコット・ウォーカーなどが立った。トランプにはティーパーティーの半分と、「アメリカンズ・フォー・プロスペリティ」(AFP)が支援した。AFPはコーク兄弟が支援しているので、トランプは間接的に彼らに支援された事になる。
・コーク兄弟の祖父はオランダから移住した。父はソ連の石油精製所の建設に関わり、苦い経験(※説明なし)をする。これにより反共・極右となる。彼らは父の影響で、反規制・反税金のリバタリアンになった。
・トランプと彼らの政策は共通点が多い。ブッシュ時代に共和党に入り込み、イラク戦争を起こしたネオコンを、共に批判している。

○ホワイトハウスに渦巻く、様々な勢力
・トランプの最大の献金者は、AFPと2人の大富豪である。1人はマーサー家当主のロバート・マーサーである。彼は投資会社のCEOでマーサー財団を経営し、共和党や右翼の非営利団体に多額の寄付をしている。
・もう1人が、カジノを経営するサンズグループのシェルドン・アデルソンだ。彼は米国議会で最も影響力のあるイスラエル右派(シオニスト)の黒幕である。彼はネタニヤフ首相と深い関係にあり、共和党に親イスラエル政策を強要してきた。

・トランプの娘婿ジャレッド・クシュナーはユダヤ系財閥の御曹司である。「反縁故法」があるのに、彼は上級顧問に指名された。トランプ政権にはクシュナー以外にもユダヤ系が多く、スティーブン・ムニューチン財務長官/ゲーリー・コーン国家経済会議議長/ウィルバー・ロス商務長官などがいる。※経済関係を押さえている感じだな。

・2017年12月トランプはエルサレムをイスラエルの首都として認めた。これは中東の混乱・分断をもたらすだろう。1993年「オスロ合意」により、ガザ/ヨルダン川西岸からイスラエル軍は撤退し、パレスチナ暫定自治は認められ、東エルサレムに首都が置かれる構想もあった。トランプがエルサレムに大使館を移転すれば、パレスチナ自治政府/アラブ諸国は反発するだろう。

・2018年3月トランプは「ドット・フランク法」を見直した。これはリーマン・ショックにより制定された法律で、各種の規制が含まれている(※詳細省略)。トランプはオバマのレガシーであるドット・フランク法/オバマケアの撤廃を公約としていた。※一杯あったな。TPPやパリ協定もそうかな。
・この見直しは、破綻した銀行の処理を債権者や預金者に回すもので、ウォール街に都合が良い。2017年6月に発表された見直し案は、中堅以下の金融機関の規制を緩和するもので、大手金融機関には恩恵はないものになっている。

・2017年12月、イエレンFRB議長のわずか1期での異例の退任が決まる。トランプは「連邦準備制度が虚構の経済を作っている」「FRBを解体あるいは改革なくして経済は回復しない」と述べている。かつてジョン・F・ケネディが暗殺されたが、これは銀行家に私物化されたFRBを閉鎖し、政府紙幣を発行する大統領令を発行したからと言われている。※こんな話があったのか。トランプのFRBを批判する発言も多いな。

○キッシンジャーが外交を握る
・2016年『ワシントン・ポスト』が、「ロシアがトランプを当選させるため、民主党のメールをハッキングし、ウィキリークスに渡した」と報じる。FBIが捜査を進めるが、トランプはコミーFBI長官を解任する。

・トランプの外交政策はヘンリー・キッシンジャーの意向を受けている。1972年ニクソン大統領が電撃訪中するが、その前年「ニクソン訪中宣言」をし、これがもう一つの「ニクソン・ショック」とされる。このニクソン訪中の道筋を付けたのがキッシンジャーだった。さらに彼はベトナム戦争の終結も実現している。その彼がトランプの外交の指南役を務めている。

・2017年2月トランプは習近平主席に電話して「一つの中国」を認めている。その狙いは北朝鮮の非核化/駐韓米軍の撤退にある。※非核化が成されれば、台湾併合を認める?
・米国の国力は弱まりつつあり、三大重点地域(東アジア、中東、欧州)での主導権はない。フィリピンのドゥテルテ大統領は「私はプーチンを訪れ、中国/フィリピン/ロシアは世界に立ち向かう存在だと伝える」と発言している。

○米国は世界の覇権を譲り渡した?
・リーマンショック後に米国債を買ったのは中国/日本である。2017年6月中国は米国債を1兆1500億ドル、日本は1兆900億ドル保有している。米国以外が保有する米国債の1/3を両国が保有している。
・2009年オバマは経済立て直しのため、「米中はパートナーであるべき」と述べている。3月温家宝首相も「国家の利益も大事だが、国際金融の安定も考慮する」と述べている。4月G20サミットで、サルコジ大統領は「規制の失敗が危機の元凶。米英型の金融は終わった」と述べる。中国/ロシアからは基軸通貨の見直し論が飛び出した。胡錦涛主席は「基軸通貨発行国の通貨政策の監視を高めるべきだ」「国際通貨システムの多様化・合理化を推進すべきだ」と述べている。これらは米国型金融システムの終焉と云える。

・米国にとって中国は2番目の貿易パートナーである。飛行機の26%/大豆の56%/自動車の16%/集積回路の15%が中国に輸出されている。米国の対中貿易赤字は3470億ドルで、米国の貿易赤字の半分を占める。イエール大学の研究員は「米国は他国の貯蓄を利用し、自国の生産能力を上回る消費をしている」と指摘した(※その代わりにドル紙幣を渡しているのかな)。クリスマスプレゼントの95%がメイド・イン・チャイナなので、「サンタクロースは中国人」と言われた。
・2017年8月トランプは中国の知的財産権での慣行を調査するよう、通商代表部(USTR)に指示した。米国は中国に対し独善的・単独行動主義の「通商法301条」を適用すると考えられる。
・中国が米国債を手放せば、米国経済は大打撃を受ける。しかしドルの価値が下がれば、米国債の価値は低下する。ドル体制の維持は両国にとって死活問題で、対立しても衝突はできない。

○中国は勢いを増すが、バブルはすでに崩壊している
・世界の勢力は中国/EU/英米になると考えられる。中国の不動産バブルは既にはじけたと考えている。中国のバブル経済は2015年6月に崩壊し、今はソフトランディング中にある。
・2010年から始まった中国の住宅バブルは、1980年代の日本のバブルと重なり、ともに米国経済と関連している。この頃からオバマはG2を口にし、中国を持ち上げている。2015年6月中国の株式暴落でバブルは崩壊し、今は中国政府がソフトランディングしようとしている。1995年日本はプラザ合意でバブルが始まり、1991年バブルが崩壊した。
・2018年2月複合企業「海航集団」(HANグループ)は150億元のへ返済が不足する。海航集団の経営難が問題なのは、ドイツ銀行や大手ホテルチェーン「ヒルトン」などを所有しているからだ。これは中国マネーを世界に落とす時代の終わりを予見させる。※これは、その後どうなった。

・2007年頃李克強首相は「中国のGDPは信用していない。一方貨物輸送量は誤魔化しできない」と述べている(※李克強指数かな)。2017年1~6月期、東北部/遼寧省のGDPが前年同期比-20%となった。これは捏造を戒める習近平主席の意向だろう。
・中国バブルで懸念されるのが中央政府/地方政府/国有企業の債務で、総額3700兆円あるとされる(※凄い額)。中国が崩壊すると、その規模はリーマン・ショックの数十倍になるだろう。※この辺りは、話しが細切れ。

第3章 城壁発祥の地EUの分断

<3.1 欧州最大の問題は難民と経済>
○EUの成り立ち
・2014年以降、「欧州連合」(EU)への難民流入が急増している。2015年4~6月の難民申請件数は21万件で、前年同期比85%となった。
・EUの前身は、1951年に成立した「欧州石炭鉄鋼共同体」(ECSC)で、パリ条約に6ヵ国が調印した(※詳しい説明があるが省略)。1958年「欧州経済共同体」(EEC)/「欧州原子力共同体」(EAEC)も設立される。1967年これらの共同体が統合され「欧州共同体」(EC)となる。さらに1993年「欧州連合条約」(マーストリヒト条約)によりEUになる。
・EUは人・物・資本・サービスの移動が自由で、経済は活性化された。また多くの国は単一通貨「ユーロ」を導入している。東欧諸国/旧ユーゴスラビアも加わり、現在は27ヵ国が加盟している。EUは東欧の民主化に寄与した。しかしどの国にも居住できるため、移民が押し寄せている。※移民と云っても、EU内とEU外からがあるが、この場合はEU外かな。

○難民はスマートフォンで情報を得る
・「難民」は迫害を受けるために外国に逃れた人で、「移民」は経済的事情で海外に移住した人です。難民の多くは、2011年から内戦の続くシリアや、アフガニスタン/エリトリアから逃れた人です。2014年の難民申請者は6千万人で、戦後最多となる。これは世界の21番目の国に匹敵する。これらの多くがEUを目指して移動した。

・難民保護はジュネーブ条約に基づいており、EU諸国は保護の責務を負っている。「国連高等弁務官事務所」(UNHCR)によると、2016年難民・避難民は過去最高の6500万人になった(※これも単年?)。主な受け入れ先は、トルコ290万人/パキスタン140万人/レバノン100万人/イラン100万人/ウガンダ95万人/エチオピア79万人となっている。EUは2014年63万人/2015年130万人を受け入れている。その3割がシリアからである。※6500万人に比べると、受け入れは少ない。
・難民が最初に到着するギリシャ/イタリアでは、受け入れるための食料・水・避難所が負担になっている。到達した国は庇護申請(※難民申請?)の審査するが、不適格なら母国か他国に送り返す。

・全ての難民が困窮している訳ではなく、スマートフォンを持っており、「ドイツは比較的受け入れてくれる」「ハンガリーには有刺鉄線が張られた」などの情報を得ている。「ベルリンの壁」は衛星放送により破壊されたが、今の再編(※移民?)はスマートフォンにより起こされた。※活版印刷が近世を興したように、メディアが世界を変える。
・庇護申請の75%は、5か国(ドイツ、ハンガリー、スウェーデン、オーストリア、イタリア)に集中している(※ハンガリー/オーストリア/イタリアは難民に難色の国では)。そのため国境の検問を復活させた国もある。
※最初に到着した国で審査され、適格であれば、受入国に移住するのでは。「線路を歩いて移民が押し寄せた」とかあったが、彼らは審査されたのかな。

・主な流入ルートは「地中海ルート」「西バルカンルート」である。ここで重要なのが、シリアとギリシャの間にあるトルコである。トルコは310万人の難民を登録しており、世界最大の受入国となった。そのため施設・食料・衛生管理などに70億ユーロを拠出している。
・EUとトルコ間で「EUトルコ共同行動計画」(2015年11月)「EUトルコ声明」(2016年3月)が合意され、合法的な難民を受け入れるようになった(※内容省略)。またエーゲ海における偵察・監視・査察活動も強化された。これによりトルコからギリシャに流入する難民は、2016年86万人になり、前年の2割に減少した。※これでトルコ経由は、ある程度解決したのかな。

○密航船はランペドゥーザ島に向かう
・一方北アフリカからイタリアへの難民は、2016年6月末時点で8万人余りで、前年と変わっていない。彼らはナイジェリア/ギニア/コートジボワール(※中央アフリカから!)から政情不安のリビアにやって来る。そこで働いて密航費用(1千ドル)を稼ぎ、チュニジアとイタリアの間のランペドゥーザ島に密航船で渡っている。※詳しい説明があるが省略。
・密航船は古い漁船やゴムボートで、そこに数百人が詰め込まれる。そのため海難事故も多く発生している。2015年4月難民800人を乗せたトロール漁船が転覆し、助かったのは28人だけだった。当初はイタリアが移民海難救済を行い、月900万ユーロを負担していたが、2014年11月よりEUが負担するようになり、月290万ユーロに減じられた。

○強制収容所となったランペドゥーザ島
・難民はランペドゥーザ島に向かうが、通常着岸する前に、島をパトロールする財務警察/港湾監視監督局に拘束され、ランペドゥーザ島の収容所に連行される。この収容所は、2002年より政府が管轄し、カトリック教会が運営している。この収容所は18ヵ月間の拘束が可能で、その後母国に強制送還される。※着岸すれば難民として扱われ、海上で拘束されれば、海難者・不法入国者として送還されるのかな。
・イタリアの『エスプレッソ』紙によれば、収容所はベッド数800に1600人が押し込まれ、トイレ/水道は故障し、食事は地面に置かれているそうだ。一方リビア側で拿捕されても、同様に留置される。

・2016年イタリアに2万5800人の同伴者がいない子供が辿り着いた(※半年で8万人なので、子供の割合は高いな)。移民・難民の子供の91%が同伴者がいない。※単独で逃げて来たのか!
・リビアからイタリアに渡る移民・難民は増え続けている(※これは中東とアフリカの政情の違いかな)。EU/UNHCRなどはリビアに支援を行っている。またイタリアも海軍船艇を派遣するようになった。

○国境を強化し、難民を押し付け合うようになったEU
・EUに入った移民・難民は最初の受入国(※入国した国?)が審査を行い、国際保護を認めた場合、EUを自由に移動できる。しかしこの対応に苦慮し、国境管理を再導入している国もある。2015年ドイツは国境を開放するが、大量の難民が押し寄せたため、1週間で国境を閉じた。同時に国際列車の運行も停止した。同様な対処は、ハンガリー/オーストリア/ベルギー/デンマークなどでも行われた。※結局どっちが多いんだろう。
・ドーバー海峡も国際問題になっており、カレーには難民1万人のキャンプが形成されている。英国は難民の流入を防ぐため、港に高さ4mの壁を作っている。

・2017年イタリアに辿り着いた移民・難民は9万人余りである。ドイツなどが受け入れを制限しているため、イタリアは持続不可能な状態にある。しかしEUは、この解決策を打ち出せていない。
・2015年9月「緊急リロケーション・スキーム」が採択された。16万人の庇護申請(イタリア4万人、ギリシャ6.6万人、※数が合わない)を、EU諸国が国力に応じて受け入れる内容である。2017年6月までに2万人(ドイツ6000人、仏国3500人など)だけが受け入れられた。ただしハンガリー/ポートランド/チェコは受け入れを拒否している。※難民は16万人の内、2万人では、全然解決していない。

○EU経済に打撃を与えたサブプライム問題/ギリシャ危機
・2007年EUは加盟国が27ヵ国になり、世界GDPの3割を占めるようになった。これは東欧の安価な労働力を得た事や、成長期待から投資が増えた事による。しかし2007年秋頃からサブプライム問題で経済は減速する。2008年第2四半期、GDP成長率は前期比-0.1%になり、第4四半期には-1.5%に落ち込む。※日本より良いのでは。まあ欧州は回復が遅かったかな。
・EUは「正の連鎖」から「負の連鎖」に陥った。英国/スペインでは住宅バブルが崩壊した。ドイツは海外からの資金を得られなくなった。金融機関は融資を厳格化した(※これが信用収縮として、一番騒がれたかな)。

・そんな中で起きたのが、2010年「欧州債務危機」(ギリシャ危機)だった。2009年ギリシャで新民主主義党(中道右派)から全社会主義運動党(中道左派)に政権交代し、前政権が財政赤字を隠蔽していた事が発覚する。前政権は「財政赤字はGDPの4%」と発表していたが、実際は13.6%だった。前政権はEU加盟条件の3%をクリアするため、粉飾していた。
・この財政赤字の原因は、異常なまでの公務員優遇にある。55歳になれば、現役時代と同程度の年金を得られた。政権交代の度に公務員が増え、労働者の20.7%が公務員となった。

・1999年ギリシャは加盟申請するが、財政赤字のため加盟できなかった(※加盟は1981年となっているが?)。2004年粉飾が発覚するが、加盟は取り消されなかった。2010年再度の粉飾発覚で、ギリシャ国債の信頼は地に堕ちる。財政赤字の大きかったスペイン/ポルトガル/アイルランド/イタリアの国債も暴落する。ユーロはリーマン・ショックに加え、欧州債務危機により信用を失う。

○ギリシャ危機は欧州債務危機へ
・EUはギリシャを見捨てなかった。ギリシャは融資を受けるため、年金の11%カット/公務員の給与14%カット/付加価値税の2%引上げなどの緊縮財政を行った。しかし2013年GDPは30%縮小し、失業率は25.6%に達した。15~24歳の失業率は49.7%に達した。優秀な若者は国外へ出た。
・これらの反動で、2015年反緊縮財政の急進左派連合のアレクシス・ツップラスが圧勝する。彼は「年金・社会保障の充実」「借金返済の延期」を政策としたが、交渉は決裂し、デフォルト(債務不履行)となる。2016年「欧州安定メカニズム」(ESM)で第3次支援が決まる。

・この債務問題はPIIGS諸国(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)に広がる。ユーロ圏第3位のイタリアは、GDP成長率は0.6%に留まり、公的債務残高はGDPの120%にまで膨張した。2011年ベルルスコーニ首相が自分の首を差し出し、年金改革法が成立する。これらの国はユーロバブルに沸いた国で、何れもバブル崩壊/銀行危機などの問題を抱えていた(※詳細省略)。
・PIIGS諸国はEU/国際通貨基金(IMF)から金融支援を受ける。2010年6月「欧州金融安定化基金」(EFSF)が設立され、中国/ロシア/新興国からも資金を受けている。※EFSFが先で、ESMが後。
・欧州債務危機は、2017年に至っても解決できていない。イタリア向け債権の多くを仏国の銀行が持っており、イタリアで債務危機が起これば、仏国を直撃する。ユーロ圏は一蓮托生にある。

<3.2 英国は無事に離脱できるか>
○英国病と揶揄された背景
・1970年代英国は産業構造を変える前にオイルショックが起き、米国以上に不況になり、「英国病」と揶揄された。財政破綻し、1976年には国際通貨基金(IMF)から救済を受ける。1983年には失業率が13%(失業者300万人)を超える。

・1980年代サッチャー政権は「生活水準の低下を受け入れるしかない」とし、緊縮財政を行う。自助努力を求め、「小さな政府」路線を打ち立て、失業保険の削減/炭鉱の閉鎖などを行う。さらに通信・鉄道・エネルギーの民営化などを行い、教育・警察・交通・医療などの公共サービスは質を低下させる。一方で富裕層への所得税減税が行われた。
・金融自由化/住宅購入の奨励により、1988年住宅バブルが起こるが、1990年代に入ると崩壊する。サッチャーを継いだ、同じく保守党のジョン・メイジャーも「小さな政府」路線を継承する。経済は活性化されたが、貧富の差は拡大し、若者の失業も増え、社会は荒廃した。

・1997年労働党トニー・ブレアは総選挙で勝利し、英国で最も若い首相となる。彼は「大きな政府」でも「小さな政府」でもない「第3の道」を提唱する。

○アンダークラスを排除した英国の分断
・ブレアは労働党党首だが新自由主義者で、市場原理主義を推し進めた。しかし「第3の道」は保守党が目指したものとは違い、「機会の平等」を確保するため職業訓練/生涯教育などを行った。これは労働組合/富裕層/金融業界などから支持を得た。

・英国の若者失業者「アンダークラス」(※初めて聞いた)は、義務教育課程でドロップアウトした者で、リテラシー(読解記述力)/ニューメラシー(数的思考能力)が不足していた。彼らの親の多くは、長期の失業状態にあった。※英国病の被害者だな。
・これらの背景に産業構造の変化がある。1971年英国の労働者の30%(760万人)が製造業に従事していた。ところが1996年になると16%(430万人)まで減少している。サービス業に転換したのだが、サービス業には高学歴・高技能で高賃金を得られる金融業もあれば、低賃金・不安定雇用の飲食業/小売業もある。これらの二極化は、日米とも共通している。

・1997年時点、無収入の家庭は450万人あり、6人に1人が給付金で暮らしていた(※酷い状態だな)。ブレアは18~24歳の若者失業者に対し教育・訓練を実施する。しかしその効果はなく、彼らは低賃金で不安定な雇用を繰り返すだけだった。※制度の内容と、その効果が詳しく説明されているが省略。問題は労働需要の不足だと思う。
・またブレアはアンダークラス対策として、「反社会的行動禁止令」を実施し、問題行動を取る者が特定の地域に入るのを禁止した。これは分断をさらに深めた。※フーリガンは英国かな。

○新しい民族移動
・ブレアは優秀な人材を海外から受け入れるため、移民の緩和を行った。「高度技能移民プログラム」により、学歴/職歴/過去の収入などの条件を満たせば入国を許可した。経済移民は4つのカテゴリーに分類された。①大卒者/医師免許所有者、②大学院生、③労働力不足の業種、④季節労働者。

・このプログラムの実施で、移民は2万人から15万人に増える。さらに東欧諸国がEUに加盟した事で増え、2005年より審査を厳しくする。それでも2010年純流入者は24.2万人となり、前年同期比65%増となった。
・また未熟練職種従業者の20.6%が外国人になった。これに分類される英国人は、2002年304万人から2011年256万人になり、英国のアンダークラスなど50万人が仕事を奪われた。しかし英国がEUに加盟している以上、英国人を優先する事はできなかった。

○英国人の1%がスーパーリッチ
・2010年英国で「貧富の格差」が戦後最大になる。上位1%(スーパーリッチ)の家計所得は2600万ポンド以上ある(※34億円位かな)。上位100人の資産と下位1800万人の資産が等しくなっている。

・英国には明文化されていないが階級制度があり、国民はそれを意識して暮らしている。英国では階層によって、住む場所や買い物する店などが異なる。その階層を変えるには3代必要とされる。
・英国の中世末期は、王族/聖職者/貴族/ジェントリ(下級地主層)の上流階級と、自作農/小作農(※労働階級かな)に二極化していた。英国は戦争に負けた事がないため、上位10%の上流階級はスーパーリッチとして生きてきた。産業革命により財を成したのが工業ブルジョアジーで、これが今の中流階級である。

・中流階級・労働者階級は7つの階級に分類されている。Ⅰは「専門職」で、弁護士/判事/医師/教授/建築家などである。Ⅱは「中間職」で、国会議員/経営者・重役/農場主/記者/教師/警部などである。ⅢAは「非筋肉労働の熟練職」で、不動産業者/銀行員/秘書などである。ⅢBは「筋肉労働の熟練職」で、電気技師/運転手/コック/大工/職人などである。Ⅳは「半熟練職」で、農場労働者/救急隊員/ウェイター/猟師などである。Ⅴは「非熟練職」で、掃除人/土木作業員/日雇い労働者である。Ⅵは「経済活動に携わっていない者」である。ⅢA以上が中流階級で、ⅢB以下が労働者階級である。

・しかし英国には上流階級にはエリート育成教育、労働者階級には職業教育の観念が強く残っている。公立小中学校は無料だが、私立になると150~300万円、寄宿制になると1千万円必要になる。名門大学は上流階級が占め、階級は存続する事になる。
・英国には食料の配給制度「フードバンク」があるが、2016年110万人以上が利用した。

○EU離脱の要因はブラック・ウェンズデー
・サッチャー政権で今に続く重要な政策が行われた。域内(当時はEC)の為替レートを固定する「欧州為替相場メカニズム」(ERM)への参加である。当初英国は距離を置いていたが、1990年参加を決めた。

・ドイツ統合後、欧州の金利は上昇し、英国ポンドも連動し上昇せざるを得なかった。そこで過大評価されているポンドに目を付けたのがジョージ・ソロスだった。1992年9月彼は100億ドル相当のポンドを空売りする。イングランド中央銀行は1日に2度公定歩合を引き上げるが、ポンドは急落し、固定相場制は崩壊する。これがポンド危機「ブラック・ウェンズデー」である。
・翌日英国はERMを脱退し、変動相場制に切り替わる。これにより英国は失業率の改善/経済の安定成長/物価の安定が実現され、さらにEU離脱が可能になった。

○なぜブレグジットに向かったか
・英国では度々国民投票が行われている。1973年EC残留/2014年スコットランド独立などである。2016年6月国民投票で「EU離脱」が決まる。
・「ユーロ危機」(※欧州債務危機とは別かな)により、ドイツと東欧諸国などで経済格差が広がっていた。英国はドイツ/仏国が推進する欧州統合に抵抗があった。EUへの拠出金は、ドイツ21.9%/仏国15.8%/イタリア11.9%/英国10.6%/スペイン8.4%で、英国民は不満であった。また東欧からの移民に対しても不満が鬱積していた。

・2016年6月EU離脱を問う国民投票が行われ、賛成(離脱)51.9%/反対(残留)48.1%となる。投票率は71.8%だった。イングランド/ウェールズでは賛成(離脱)が多数だったが、スコットランド/北アイルランドでは反対(残留)が多数となった。翌日ディビット・キャメロン首相(保守党)は辞意を表明し、世界の為替市場/株式市場が混乱する(ブレグジット・ショック)。

○メイ首相による離脱交渉
・後任首相に内相だったテリーザ・メイが就く。メイ首相が離脱を発動したのが2017年3月で、交渉期間は2019年3月までの2年間となる。
・離脱交渉では、北アイルランドとアイルランドの国境が問題となっている。現在は自由に行き来できるが、離脱すると国境管理が必要になる。

○ブレグジットを支持したのは、年寄り/低所得者/極右団体
・投票結果を分析すると、世代間の「分断」が見られる。18~24歳では73%が残留を、25~34歳では62%が残留に投票している。45~54歳で離脱増え、65歳以上では60%が離脱に投票している。また有権者登録では、18~24歳の30%が登録していない。一方65歳以上で登録していない者は5%しかいない。※若者が投票すれば残留になっていた。

・EUには「シェンゲン協定」があるため、英国で職に付けなくても欧州で見付ける事ができる。今の外国の優秀な移民を雇う制度は年寄りが作ったものだ。年金制度も年寄りが作った制度である(※残留すれば、これらの制度は変えられる?)。革命が起きても不思議ではない状況だが、若者はスマートフォンなどの娯楽で牙を抜かれている。※残留/離脱の話ではなく、若者の政治信や世代間の分断の話か。
・ブレグジットは世代による分断が顕著になった事例である。インターネットは世界を1つに繋げたが、世代間の分断も生んだ。※この辺り理解できない。世代間の分断はインターネット以前からあったのでは。

・極右団体もブレグジットを支持している。「英国独立党」(UKIP)のナイジェル・ファラージは20年間、EU離脱の運動を続けてきた。2013年の地方選挙では、25%の得票率で、147議席を獲得する。2014年欧州議会選挙では24議席を獲得し、英国で最多の議席を得る。2015の地方選挙では、得票率27.5%で、161議席を獲得する。※英国は三大政党と思っていたが、英国独立党が第1党?
・彼は「移民により高速道路が渋滞し(?)、犯罪が急増し、住宅・医療・学校が不足し、若者の仕事もなくなった」と叫び続けた。彼は国民投票の翌日、「目的を果たした」として党首を辞任する。彼はトランプの選挙活動にも参加している。

<3.3 仏国はフレグジットするか>
○ルペンが注目された2017年大統領選
・仏国の大統領は国民の直接投票で選ばれる。また第1回投票で過半数を取れなかった場合、上位2者で第2回投票が行われる。2017年4月の大統領選で注目されたのが、極右政党「国民戦線」(FN)のマリーヌ・ルペンである。彼女は仏国の国益を第一とし、EU/グローバル主義/移民・難民などに反対の立場を取っている。国民戦線は極右とされてきたが、彼女が中絶/同性愛を容認する事で、支持が広がった。

・第1回投票で、エマニュエル・マクロン(中道の独立候補)24%/ルペン21.3%/フランソワ・フィヨン(最大野党の共和党)20%/メランション(左翼)19.6%/ブノア・アモン(与党の社会党)6.4%となった。二大政党が決選投票に残れなかったのは、1965年以来である。これは既成政党への不信を表している。※既得権益者を優遇する政治が行き渡っているので、これは世界共通だな。
・第2回投票は、中道のマクロンが66.1%/ルペンが33.9%で、仏国で最も若い大統領が誕生する。英国のEU離脱/トランプ当選/ルペンの善戦は、ポストグローバルの兆候と云える。

○国民戦線の成り立ち
・国民戦線は1972年に設立され、5月革命での反ド・ゴール派の右翼学生運動が起源である。党首ジャン=マリー・ルペンはマリーヌ・ルペンの父で、国家介入に徹底的に反対し、新自由主義者である。1980年代経済の悪化で支持者を増やすが、1983年統一地方選挙での35議席がピークとなる。
・2002年彼は大統領選に出馬し、第1回投票で、ジャック・シラク19.9%に次ぐ16.9%を得る。さらに2004年欧州議会選挙で得票率9.8%で、7議席を得る。さらに2005年移民により「パリ郊外暴動事件」が起き、支持を増やす。

・娘のマリーヌ・ルペンは、1986年入党し、2003年副党首になり、2011年党首に就く。彼女は人種差別的なスローガンを控え、ソフト路線で支持を拡大する。2012年大統領選に出馬し、第1回投票で17.9%を得て、3位になっている。
・2014年統一地方選挙で5%を得票し、オランド大統領の左派連合を上回る。同年の欧州議会選挙で25%の得票を得て、24議席を獲得し、仏国第1党になる。翌年彼女は父を除名している。

・2017年大統領選で極左のメランションは4位となったが、ルペンとは2%しか差がない。彼は緊縮財政/新自由主義の即刻停止を掲げている。またEUからの離脱もほのめかしている。彼は労働者階級から支持されているが、社会的弱者に支持されている点で、ルペンと共通している。

○国民の12%が移民
・2005年「パリ郊外暴動事件」は移民に対する感情を変えた。これは北アフリカの若者が警察に追われ、変電所で感電死した事件が引き金になり、これに怒った移民の暴動が仏国全土に発展する。緊急事態法が発動され、夜間外出禁止令が出された。車1万台以上、学校・教会・役所などが放火され、逮捕者は2千人以上となった。

・仏国は第2次世界大戦後、復興のために北アフリカ・西アフリカから移民を受け入れた。2014年には移民が790万人に増え、人口の12%に達している。※元々欧州は、移民を受け入れていた歴史があるんだ。
・2013年の調査(対象1026人、※少な過ぎ)では、74%が「仏国に移民が多過ぎ」と答え、77%が「移民は社会保護を受けるためにやって来る」と答えている。
※東アジアと欧州でのグローバル化の違いを感じる。東アジアでは工場移転などが行われ、東南アジアで現地生産が行われている。一方欧州では中東/アフリカへの工場移転は行われず、移民が押し寄せる事になったのかな。

○東西に分断された仏国
・仏国は東西に分断されていると考える。東側は移民が流入し、特に北東部は貧しい地域だ(※逆と思っていた。北東部はドイツに近く、工業地帯と思っていた)。一方西側は移民への脅威は少ない。しかし特に産業もなく、衰退している。※結局東西が貧しいのかな?
・私は北部のリールを訪れた。1970年代までは紡績で栄えたが、1980年代に工場はモロッコ/中国に移転した。1970年代ポートランド人・ポルトガル人・トルコ人が移住し、今もドミトリーが残る。

・パリの国民戦線の事務所を訪ねた。事務局長は「国民戦線の支持者は、南西部の国粋主義者(パトリオット)と北部の貧困者」とした。また「仏国の問題は、グローバリゼーション/移民による格差拡大で、仏国もEU離脱を考えるべきだ」とした。また「我々は2020年総選挙に向けて準備している」と述べた。2018年国民戦線は「国民連合」に党名を変えた。

<3.4 イタリアは日本に酷似>
○反体制派政党「五つ星運動」
・2009年極右政党「五つ星運動」は、コメディアンのベッペ・グリッロと企業家ジャンロベルト・カザレッジョにより創立される。重要事項は国民投票で決めるとし、直接民主主義を掲げている。政党助成金や企業からの献金を受け取らず、市民の寄付で成り立っている。反グローバリズム/環境保護を主張し、「国会議員は2期・10年」「国会議員の歳費の引下げ」などの議員改革も掲げている。2018年総選挙で、政権獲得まで迫った。※グローバリゼーションとグローバリズムは違うらしいが。本書は区別しているのかな。

・「五つ星運動」の報道官と面会した。彼はボローニャ市議会員でソフトウェアの営業も兼職している。彼は「イタリアの問題は、政治家による国家の私物化・汚職・腐敗」とした。「国内総生産などを重視するのではなく、人間としての幸福を重視すべき」とした。
・2016年ローマ市長選で「五つ星運動」の敏腕弁護士が、37歳の若さで初の女性市長になる。同日トリノ市長選でも「五つ星運動」の候補者が勝利する。

○15~24歳の失業率は40%
・イタリアはEUの前身・欧州経済共同体(EEC)からの加盟国で、欧州統合を支持してきた。しかし近年は経済停滞/欧州危機(※欧州債務危機?)/移民問題で、EUに幻滅している。
・2008年金融危機で、イタリアは工業生産の25%失った(※これは一時的?確かにイタリアだけは経済停滞が続いている)。EUの15~24歳の失業率は22%だが、イタリアは40%もある。日本は6%だが、日本の方が悲壮である。イタリアには地下経済があり、それがGDPの30%以上ある。イタリアは日本より1人当たりGDPが低いが、生活は日本より豊かだろう。※地下経済って、どんな世界なのか。闇で靴や農産物を売っているのかな。30%以上は相当デカいな。

○赤のボローニャ
・人口37万人のボローニャは、街並みが赤レンガのため、「赤のボローニャ」と呼ばれる。しかしこれは左派の街の側面が強い。
・第2次世界大戦後、ボローニャはイタリア共産党などの左派政党が市政を握っていた。そのためCIA/NATOは極秘裏に「グラディオ作戦」を実行する。イタリアでは政治家・警官・司法関係者・資本家・ジャーナリストなどが無差別に殺害された。その裏に「共産主義は悪」を市民に植え付けようとする米国の策略があった。イタリアには極左のテログループ「赤い旅団」があったが、次第に過激になったのは、米国の「赤狩り」に触発されたからである。
・1980年ボローニャ駅で極右勢力が爆弾を爆発させ、85人が死亡する。これによりボローニャの共産主義は後退するが、これが偽造テロ「グラディオ作戦」だった。

・このボローニャから中道左派政党連合「オリーブの木」が生まれる(※小沢一郎を思い出す)。1995年この政党連合は、経済学者で政治家のロマーノ・プロディの下に誕生する。左派民主党/「オリーブの木」運動/イタリア人民党/イタリア社会主義党/ヴェルディなど13の党が結集した。
※「オリーブの木」はボローニャで生まれたのか。詳しく知らなかった。ボローニャは学問でも有名なはず。

・2018年3月総選挙に戻る。「五つ星運動」は南部で支持を得て、上下両院で第1党になる。しかし過半数315議席には90議席足らなかった。豊かな北部では、同じく反グローバリズムの中道右派連合「同盟」が支持を得たが、この両党は連立しないだろう。「五つ星運動」を敵視している中道右派連合「民主党」が「同盟」と連立すると考えている(※総選挙は3月、本書の出版は4月)。この選挙で鮮明になったのが、南北の「分断」である。※これは昔から云われていたな。

・日本とイタリアは似ている。「長い歴史がある」「南北に長い」「第2次世界大戦で敗退するが、工業化で復興する」「その後新興国にキャッチアップされ、美食/コンテンツを世界に提供する」「イタリア統一は1861年、明治維新は1868年」などである。他に「決められない国」「老人支配、反体制政党(共産党)が憲法擁護」「社会党が消滅」「ポピュリズム政治」「メディア重視」などがある。さらに「冷戦終結後、政治不信から小選挙区比例代表制を導入した」「一党優位のキリスト教民主党/自民党」「いつまでも君臨する長老政治家」「『赤い旅団』と『連合赤軍・日本赤軍』」「『鉛の時代』(?)と『団塊の世代』」「デモで射殺されたジョルジャーナ・マーシと樺美智子」「長い混迷」などがある。
・イタリアが日本の少し先を歩んでいるなら、イタリアで起きた事は日本でも起こる。それはインターネットから湧き上がる。※この辺りは説明不足で、別書でだな。

<3.5 カタルーニャ/スコットランドなどの独立運動>
○カタルーニャはスペインか
・欧州では、スペインのカタルーニャ自治州の独立も問題になっている。スペインは17の自治州から成り、東部のカタルーニャ州と北部のバスク州は自治意識が強い。カタルーニャ州は人口750万人で、スペインGDPの2割を稼ぐ。カタルーニャがスペインの統治下に入ったのは300年前である。※スペイン継承戦争におけるスペイン統一だな。
・1936年社会・共産主義の人民戦線政府に対し、フランコ将軍がクーデターを起こす(スペイン内戦)。ソ連が手を引いた事でフランコが勝利し、フランコ独裁時代が始まる。人民戦線側に立ったカタルーニャは徹底的に弾圧される。1978年民主化により自治権を回復する。

・カタルーニャ州は自治憲章を制定していたが、2010年憲法裁判所がこれを違憲とする。カタルーニャはこれに反発し、独立の機運が高まった。2017年10月住民投票で独立賛成が90%となった。中央政府はこの投票を治安警察を使って妨害し、世界から非難される。スペイン政府は自治権を剥奪し、州首相/州議会議長を国家反逆罪/扇動罪/公金不正使用罪で起訴した。これに対しカタルーニャ州は独立を宣言する。※2018年6月自治権を回復している。
・2017年12月カタルーニャ州の議会選挙が行われ、独立派3党が過半数を得る。この選挙は民主主義の形を取った内戦と云える。この時独立派3党の党首1人は亡命中で、1人は投獄されていた。

・カタルーニャ州が独立するには他国からの支持が必要である。ところがEU各国が同様の問題を抱えているため、支持は得られていない。欧州には他に、バスク/スコットランド(英国)/フランドル(オランダ)/クルド(トルコ)などの独立問題がある。
・しかしEU条約では、人間の尊厳/自由/民主主義/平等/法の支配/マイノリティなどが尊重されている。投票を暴力で妨害する行為は容認されない。スペインも「分断」している。

○EUに残留したいスコットランド
・EUに残留したいスコットランドは、2度目の住民投票を決めた。英国はイングランド/スコットランド/北アイルランド/ウェールズから成る。スコットランドの人口は全体の1割で、議席数も少ない。しかし北海油田があり、英国の財源に大きく貢献している。2014年の住民投票では、独立賛成44.7%/反対55.3%だった。しかし英国がEUから離脱すると、話しは変わる。

○300年前の欧州の地政学
・ブレグジットを機に、欧州では独立/EU離脱を考える国が増えた。ドイツ南部のバイエルン州は人口1250万人で、BMW/アウディなどの企業がある。この州も、3人に1人が独立を支持している。2016年極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のバイエルン支部は、オーストリアの極右政党・自由党との関係を深めている。またAfDは、独立を掲げる「バイエルン愛国党」とも関係を深めている。

<3.6 メルケル失墜>
○極右政党AfDが第3党に躍進
・2017年9月ドイツ連邦議会(下院)選挙で、「ドイツのための選択肢」(AfD)が第3党に躍進した。彼らは難民/イスラムの排斥を訴えたが、民族主義の政党が議席を占めるのは60年振りである。旧東独では得票率が20%を超え、「社会民主党」(SPD)を上回る第2党となった。
・この要因は移民問題である。2015年アンゲラ・メルケル首相は110万人の難民を受け入れた。2015年9月ハンガリーで足止めされていた大量の難民を、道義的責任で受け入れた。

・2017年総選挙でメルケルの「キリスト教民主同盟」(CDU)は辛勝するが、これに対抗したSPDは大幅に議席を減らす。彼女は「キリスト教社会同盟」(CSU)/自由民主党(FDP)/緑の党との連立を目指すが、エネルギー政策でFDPと緑の党の間に相違があり、決裂する。これにより中道左派のSPDとの大連立を図っている。

・AfDの広報と面会した。彼は「2013年移民法が制定されたが、これは問題で、長期的視点に立つ移民法が必要」とした。また「ドイツには10年前からイスラム系移民が流入し、コミュニティを形成し、犯罪が多くなっている。移民の審査を厳格化する必要がある」とした。「統合」については、「移民はドイツの価値を許容ではなく、受容する必要がある」「EU諸国は国境を閉鎖ではなく、管理する必要がある」とした(※やはりドイツ人)。AfDはEUを、元の形に戻したいと考えている。※以前は移民を受け入れていなかった?

○ドイツで脈々と続いた極右政党の歴史
・第2次世界大戦後、ドイツは労働力不足で外国人労働者を受け入れた。冷戦終結後も東側から移民を受け入れ、1992年には移民が650万人に膨れ上がった。特にトルコからの移民は191万人に上った。そんな中でネオナチによる外国人襲撃事件が発生していた。
・第2次世界大戦後、極右政党「ドイツ帝国党」(DRP)/「社会帝国党」(SRP)が登場する。1964年「ドイツ国家民主党」(NPD)が結成される。彼らは1966年/1968年の州議会選挙で7~8%の得票を得て、61議席を獲得している。2004年/2006年の州議会選挙では、「ドイツ民族同盟」(DVU)も誕生している。

・そして2013年設立されたのがAfDである。2013年連邦議会選挙では得票率4.7%、2014年欧州議会選挙では得票率7.1%で7議席を獲得している。
・AfDの躍進は移民・難民問題だけでなく、EUに否定的な欧州懐疑主義がある。2010年ギリシャ危機では緊急融資の28%(224億ユーロ)をドイツが負担している。
・AfDの党員は1万人を超えるが、経済学者328名が加入している。この内9名が連邦経済問題エネルギー省の学術諮問委員会のメンバーである。これもAfD躍進の要因である。

・1990年代ドイツは建設ブームになる。しかし1995年には財政赤字はGDP比の10%になり、経済成長も低迷し、2000年代に入ると「欧州の病人」と呼ばれた。
・そこからドイツは急速なV字回復をする。社会民主党のゲアハルト・シュレーダー首相(1998~2005年)は、労働市場改革/社会保障制度改革/医療制度改革/税制・企業制度改革などを行う(※概要が説明されてるが省略)。また単一通貨ユーロの導入で、ユーロ安によりドイツは輸出大国になる。※ドイツの繁栄はユーロ導入によると思っているけど。
・2005年首相がアンゲラ・メルケルに変わると、失業率は11.9%から10.8%に低下し、経済成長率は0.6%から2.9%に上昇する。2015年ドイツはEUの経常黒字の8割を稼ぎ出し、2016年には中国を抜き、世界最大の経常黒字国となる。

<3.7 EUにインターネットの壁ができる>
○GoogleとFacebookが作った罪
・メルケルは社会民主党(SPD)が進める「欧州一般データ保護規則」(GDPR)を酷評していたが、極右政党に押されないためGDPRの推進に転換する。この法律により個人情報を収集する業者に対し、様々な義務や罰則が課せられる。
・2016年1月SPD党首マルティン・シュルツは、ブリュッセルでのCPDP総会で演説する。「21世紀個人情報が最も重要なコモディティなら、個人情報の所有権の強化は、政治と法廷の仕事である。これまでに狡猾に手に入れていたGAFAに、世界を具現化させるのは許せない」とします。※GDPRはそんな思想なのか。

・一方新自由主義を受け継ぐメルケルは、2017年1月「行き過ぎたデータ保護は、ドイツ/欧州のデジタル分野の発展を抑制する」と表明していた。しかし極右政党の躍進で、GDPRを受け入れざるを得なくなった。
・2018年5月GDPRが施行され、EUのデジタルユーザーの情報をシリコンバレーに集めるのは違法になった。企業の場合、2000万ユーロまたは売上高の4%の大きい方が過料になった。

・中国は独自のサービスを定着させ、シリコンバレーの侵略を防いだが、欧州もこれによりサイバースペースを守ろうとしている。ついにインターネットも「分断」されたのだ。※インターネットの壁とは、この事か。
※前半(米国)はかなり詳しいが、後半(欧州)は簡略化された気がする。もしそのままだったら、相当な分量になった。

top learning-学習