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『チャイナギャップを見極めろ』小林一成(2016年)を読書。

南京で暮らす著者が中国を評価している。南京の状況などは参考になった。

中国の経済成長の詳細を解説している。
農村部が裕福になり、消費市場として期待される。

これまでに何冊も中国本を読んだが、政治経済的な解説が主だった。しかし本書は社会的な視点も含まれている。
また数少ない親中と思う。

お勧め度:☆☆
内容:☆☆☆(情報量は膨大で詳細)

キーワード:<成長減速と東芝買収が同時進行の中国>チャイナギャップ、中国経済、南京、<Eバスと消えた爆竹>大気汚染、<人気の日本、料理も車も>日本料理、<日本人専門家来る>基礎研究、サッカー指導者、<我家から見える建設現場>汚職/反腐敗、<12月13日>南京虐殺、70周年行事、<元祖爆買い地・香港>可処分所得、<米国でも消費NO.1>中国人留学生、海外旅行、不動産投資、投資移民制度、<超買いたい物=日本企業>パナソニック/シャープ、M&A、<中国最大富豪の交代>アリババ/馬雲、<富豪1位2回の不動産王>大連万達集団/王健林、インド、<香港の超人>長江ハチソン/李嘉誠、<香港メディア王の挫折>壱伝媒/黎智英、アパレル王・メディア王、反共、<海亀帰る、留学生続々帰国創業>インターネット、<成長を支える人口>インド、一人っ子政策、<戸籍制度改革、2億人の消費3倍化>都市化/出稼ぎ、補助金、<中国の富豪村、山形/福井でコメ作り>華西村、郷鎮企業、<インターネットが雲南とフクシマを結ぶ>昆明、福島プロジェクト、<アリババと農村と毛沢東>ネット販売、<農民7千万人貧困脱出>土地改革、土地成金、<英銀、早くも農村進出>HSBC/村鎮銀行、<輸入車破壊1万台超>天津、トヨタ、<金持ちも一般消費者も>個人消費、<過剰在庫「鬼城」、出稼ぎ者を市場に>不動産在庫、<日本百貨店文化、故郷に帰る>高島屋、大丸、<天津の多彩な顔、日系が賭けるエコシティ>天津エコシティ、環境保護産業、<習主席は英国に何を期待したか>中英黄金時代、<ヘッジファンド撃退の香港>空売り/買い支え、<新たな大気汚染源>トウモロコシ、PM濃度、<古都を走るEバス>BYD、軽EV、<紅都、リンゴ輸出の緑都に>延安、緑色革命、<バングラデシュ歴史的架橋>アジアインフラ投資銀行(AIIB)、パドマ橋、<自信と不安の中国の開発援助>アフリカ、ミャンマー、<なぜ中国で新幹線が走らなかったか>高鉄外交、<不景気な飲む・打つ・買う業界>反腐敗運動、<官・軍・財・学界も容赦なし>周永康、<海外逃亡汚職犯を捕まえろ>狐狩り、遠華事件、<汚職退治トリオの青春>知識青年、延安、王岐山、劉源、<超大国中国との交際方法>人権、世界最大

<はじめに 成長減速と東芝買収が同時進行の中国>
○チャイナギャップ=ビジネスチャンス
・「チャイナギャップ」とは何でしょうか。それは南京に住む私(著者)が見る中国と、メディアが報道する中国の大きな溝の事です。しかしこれは大きなビジネスチャンスです。書店には『中国経済の破綻』『日本は中国に侵略される』『自壊する中国』などの本がありますが、これらは役に立ちません。

・私は3年前にフリーになり、中国にある33の行政単位の内、25を訪ねました。その人口100万人以上の都市で見たのは、次の光景です。4~5車線の高速道路/高速鉄道の駅ビル/大型空港/建設中の地下鉄/高層ビルなどです。私が住む南京では電気バス(Eバス)をよく見るようになりました。

○世界が注目する中国市場
・2016年東証の大発会は前年末から500円近く下げ、世界各国の株式市場も同様に下落します。この主な原因が「中国経済への不安」でした。ゴールドマンサックスは、2010~19年世界経済成長への寄与度で、中国を30%超としています。
・日本も中国が最大の貿易国で、輸出の24%が中国向けです。また貿易だけでなく、世界の中国人観光客は、2015年は前年比12%増で、1億2千万人に達しました。その消費額は2290億ドル(27兆円)に達しています。

○ネット通販1.6兆円
・中国の2015年国内総生産(GDP)は実質成長率6.9%の67兆7千億元(10兆ドル)になりました。これを支えたのが「消費小売と生産投資」です。「輸出と公共投資」から変わったのです。消費小売のインターネット販売は33%増です。「独身の日」にアリババは前年比6割増の913億元(1兆6千億円)を売り上げました。李克強首相はインターネットで農業を牽引する「インターネット・プラス」を提唱しています。

○急進する宅配便
・宅配事業も急伸しています。国は2020年までに年間200億個としていましたが、2014年52%増の140億個になり、2015年で200億個は超えたと思われます。日本からヤマト運輸/佐川急便が進出していますが、期待されています。

○資源相場の引き下げ
・プーチンが「今心配するのは原油の値下がりだ。これは中国経済の減速による」と発言しています。中国が最大の輸入国なのは原油だけでなく、天然ガス/鉄鉱石/銅/食糧などがあります。そのため強圧的に見える中国ですが、資源確保のため他国と妥協点を探る事になります。南シナ海も漁業資源の確保が目的と考えられます。※だからと言っても許されない。

○工業生産/貿易で世界一
・2011年中国は世界最大の工業国になりました。これは歴史的な事です。中国が世界一の製品は、粗鋼/スマートフォンなど200種類以上です。繊維製品などの労働集約産業は弱まり、今は情報通信機器がメインです。
・2013年貿易でも世界一になりました。中国の輸出入総額は4兆1600億ドル、米国は3兆9100億ドルになりました。また2024年中国の消費規模が米国を抜き、GDPも28兆ドルで米国を抜くとされています。

○中国の海外投資、中国への海外投資
・2015年中国の対外直接投資(ODI)が、前年比15%増で1180億ドルに達しました。中国企業の海外M&Aは382件ありました。また海外からの非金融対内直接投資(FDI)は、1263億ドルとなりました。※ピンと来ない数字だ。
・一方で外貨準備を5500億ドル減らしました。この原因はユーロの評価損と考えられます。中国はドル(米国経済)の影響力軽減を図っています。外貨準備のドル比率を下げています。また貿易決済を人民元に誘導しています。

○BRICS銀とAIIB
・2015年の中国経済で最大の話題は「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)の創設でした。米国は国際通貨基金(IMF)/世界銀行で世界の覇権を握っていますが、それを脅かすものです。ところがアジアではインフラ投資の供給が不足しており、IMF/世界銀行は歓迎しています。

・銀行の資本力の世界トップ5に、中国工商銀行/中国建設銀行/中国農業銀行/中国銀行が入っています(※独占だな)。人民元の国際化で、日本の金融機関との協力も増えるとみられます。※具体的な説明が欲しい。
・中国の商業銀行の不良債権率は1.59%です。これは世界的に低い水準です。※問題はシャドウバンキングでは。

○邦銀の人民元ビジネス
・2014年5月三菱東京UFJ銀行の香港支店が人民元建て債(点心債)を発行しました。香港は外国扱いなので、オフショア・人民元ビジネスに参入しました。
・中国との貿易・投資決済はドルで行われます。そのため日本から送金する場合、円をドルに換え、それを受けた中国側はドルを元に換えています。円または元で送金できれば、交換は1回で済みます。

○見極めが難しい中国証券市場
・中国の株式市場はファンダメンタルズを反映していません。2015年6月5000ポイントを超えますが、2016年2月に3000ポイントを割ります。これはリーマン後の水準です。2008年名目GDPが31.7兆元から2014年63.6兆元に成長したのに、株価は6年間低迷していたのです。この様に中国の株式市場はファンダメンタルズを反映していません。それは機関投資家が少ないためです。※そういう事か。

○わが街南京
・私は南京を終の棲家にするつもりです。南京は中国6番目の都市です。9つの王朝の首都になっています。1994年私は香港で経済紙記者・編集者のキャリアを開始します。毎週末に広東省や中国本土を訪れていました(※週末?)。2001年南京生まれ・南京育ちの妻と結婚します。
・その後シンガポールに駐在し、『中国に勝つ アセアン製造業界』『中国に勝つ アセアン自動車業界』『アジアの道』を執筆しています。その後上海に駐在し、3年前にフリーになり、中国及び周辺国を取材し、原稿を執筆しています。
※まだ10ページ位しか読んでいないが、データなどの羅列だ。感想文を書くのが大変だ。先が思いやられる。

第1章 中国第6の都市、建設ラッシュ続く

○南京は怖い?
・上海での日本人組織の集まりで「南京にも来て下さい」と誘うと、「南京は怖くないですか」と返ってきて、困惑した。その1ヵ月前、南京の副都心・河西区で「南京日本文化交流会」が開かれた。日本語を専攻している大学生などが参加し、華道/柔道/ゴスロリファッションなどのアトラクションが行われた。南京市及び市民は日本人を歓迎し、共存共栄を求めている。

・まず江蘇省の南京市を紹介する(※以下大幅に省略)。GDPは9600億元(16.8兆円)、人口は820万人、西安(長安)と並ぶ城壁都市である(※北京は?)。江蘇省は、GDPは7.1兆元(1.1兆ドル)、人口は7800万人(トルコと同じ)である。穀倉地帯で4千年前から文明が栄えた。長江と黄河を結ぶ大運河により、南京に8つの王朝が都を置いた(※さっきは9つ)。中国の行政単位(省、自治区、中央直轄都市)は国と見るべきである。

<1.1 Eバスと消えた爆竹>
○世界的Eバスセンター
・2014年南京市はユースオリンピックに合わせ、Eバスを導入する。全バス5600台の1/3を、Eバスに変える計画だ。この大半がBYD社の「K9」である。

○Eバス、電池で2種
・BYDは元は電池メーカーで、BYDのEバスは電池固定式でプラグイン充電である。BYDは携帯電話の電池で世界的になり、その後自動車製造業に進出した。

○導入コストを行政が支援
・Eバスの価格は210万元(4千万円)で、通常のバスの3倍である。そのため地方政府の支援がなければ導入できない。南京は電力を石炭火力発電に依存し、製鉄所も隣接している。そのため大気汚染は悪化の一途だった。そのため市バスの電化を決めた。
・バス本体への投資だけでなく、配車・整備施設10ヵ所の建設、充電スタンド150ヵ所の設置も行った。またBYDも市内南部にEV工場を建設した。

○午前2時の花火
・2014年朝母が「あんなにビックリした事はない」と言った。午前2時に鳴り響いた花火に肝を潰したのだ。私の家の回りに花火店が5軒もある。私は慣れていたが、母は驚いたのだ。中国の爆竹はサイズが違う。直径2Cm×長さ10Cmある。これを一度に爆発させるので、すさまじい。死者も後を絶たない。ところが2015年より聞こえなくなった。花火・爆竹類禁止規定が適用されたのだ。

○大気汚染対策に取り組む南京市
・花火禁止の主要な目的は、環境保護にある。2014年正月9日間の内、4日間で大気汚染が観測された。その原因は花火・爆竹である。南京市長は、「2016年市政報告」で、2015年の大気良好日は45日増え、235日になったと報告した。またPM2.5は2013年より27%改善したと報告した。
・また南京市は「5ヵ年計画」(2016~20年)で、①工業地区4ヵ所の工業の配置転換、②新エネルギーの普及、③EV充電スタンドの拡充、④野焼きなどの汚染源への対策を取り上げている。※中国が環境に配慮する事は、日本にも喜ばしい。

<1.2 人気の日本、料理も車も>
○ピンもキリも繁盛、日本料理
・南京に日本に対する嫌悪感がない証拠は、日本料理の盛況ぶりだ。2015年南京の日本料理店で食事をしていた時、地元の客が入ってきた。その時ウェイトレスが「もうお寿司がないのですが」と伝えると、「それでは」と帰っていった。生魚を食べない中国人が、寿司を目当てに日本料理店に来るようになったのだ。
・南京の孔子廟近くに商業施設「水遊城」がある。この地下2階に日本料理店が4軒もある。高級な「万歳料理回転寿司」もあれば、リーズナブルな「争鮮回転寿司」もある。他は和食定食の「和風食堂」と一番敷居が低い「鮮道寿司」である。南京には日本料理店が600店あり、外国料理店として異例の多さである。

○マツダの最大の苦労は
・「長安マツダ汽車」の社員に「苦労した事」を尋ねると、「オート三輪メーカーのイメージを払拭する事」と答えた。日本では生産を止めていたが、中国で生産を続けていたのだ。中国ではオート三輪に免許がいらないため普及し、「農車」と呼ばれている。しかし今は撤退し、デミオ/アクセラ/CX-5を生産している。2015年の販売台数は前年比45%増となった。

<1.3 日本人専門家来る>
○基礎科学から撤退する日本
・永井優は京都大学工学部大学院を卒業するが、南京工業大学で教授をしている。日本の大学/企業は、基礎研究を重視しなくなりました。彼は富士電機で有機ELの研究をしていたが撤退したため、太陽電池に異動する。ところがそれからも撤退します。これをかつての中国人の同僚に伝えると、「南京工業大学に来て欲しい」と誘われます。
・彼は社会主義国なので心配したのですが、杞憂に終わります。日本と違い、研究は自由で、実用化も催促されません。待遇も日本を上回りました。※日本の学界は本当に懸念される。

○江蘇サッカーの夜明け
・金子隆之は江蘇省サッカー管理センターに技術ディレクターとして勤務しています。2014年彼は江蘇省の女子ユースチームを見て、基礎ができていないので驚いた。それは彼らが「好きでやっている」のではなく、学費免除/住居提供/就職の保証などの優遇があるからだ。南京当局も「運動神経に優れた子供を集め、結果を残せば良い」と考えている。

○アジアの底上げで、日本を強くする
・金子氏は7歳からサッカーを始めた。社会人になり、5年ほどサッカーから離れるが、少年チームの指導を始める。2001年12歳以下の日本代表の監督を務める。その後プロチームのコーチも務めている。
・金子氏の元の職業は歯科技工士である。2000年代から日本で型を取り、中国で冠歯/義歯を作り、日本へ送っている。コストが数分の1なのだ(※往復の航空輸送費が高いのでは)。金子氏は歯科技工士に見切りを付けた。

<1.4 我家から見える建設現場>
○着工ラッシュ
・2015年南京市は低所得者向け住宅を、300万㎡(3.3万戸)完成させた。同時に老朽危険住宅250万㎡を改造した。また河西にオリンピックを開催できる競技場、国際見本市会場、床面積55万㎡のオフィスを建設した。我家からは、「鉄心橋~西善橋再開発」が見える。
・南京市は中央政府から江北新区の開発を認可された。これは上海の摩天楼と空港を含めた浦東地区と同格の開発が可能になる。私の視界からクレーンが消える事はない。

○南京市トップ逮捕
・中国の不動産開発は許認可のかたまりで、多くの大型汚職事件が摘発されている。元共産党最高指導部の周永康は、軍用地の払い下げで、数%のマージンを得ていた。2015年は「南京市政府トップが取り調べ中」のニュースで年が明けた。南京市は習近平の反腐敗運動の最前線になった。李建業・元市長は懲役15年/200万元没収の判決を受けた。楊衛沢・前市長も公判中である。※経緯が詳しく記されているが省略。
・南京市規律委員会は2015年の反腐敗活動を報告した。前年比75%増の1333件を立件し、588人を処分した。

<1.5 12月13日>
・南京虐殺の12月13日が、2014年から「国家慰霊日」になった。当日習主席は、「歴史記念」「未来志向」「日本軍国主義と人民の区別」を演説している。

○特別な日
・国家行事に格上げされたため、自由に参加できなくなり、テレビで中継を見た。会場は軍人を中心に、1万人の来場者で埋まっている。国歌斉唱/黙とう/平和の誓い/鼎の除幕式/習主席の演説で式は終わった。※平和記念式典を思い出した。

○未来志向だった習主席演説
・習主席の演説は2つの点が注目される。1つは「日本については、歴史問題だけ言及した」。現在の尖閣問題については触れなかった。「日本の中国侵略は忘れない」としながらも、「軍国主義で日本を仇敵視すべきではない」とした。また「慰霊祭の目的は憎しみの助長ではなく、平和志向・堅持を訴える事」とした。
・2つ目は「平和」を23回も使用した事である。そして犠牲者への最大の慰めは、「中国が侵略を跳ね返した事」「中国が世界平和を守る実力を付けた事」とした。
※この内容は自重的だな。少し驚いた。まあ世界にアピールする場だからな。

○1日だけ日本人お断り
・当日馴染みの喫茶店に入ると、「今日は日本人の注文は受けられません」と言われた。1週間後同じ店に入ったが、普通通りだった。南京で「南京虐殺」で不快な思いをする事はない。それは余りにも悲しい歴史だからかもしれない。

○日本軍人英雄ドラマ、ゴールデンタイム放映
・2015年日本人を主人公にした革命ドラマが、ゴールデンタイムに放映された。これは「日本軍国主義と人民の区別」の方針に沿っている。また「中国人民抗戦勝利70周年記念軍事パレード」を「反日運動」と誤解させないためでもあった。※近年は反日を煽っているのではなく、抑制しているみたい。

・このドラマ『白雲飄々的年代』は、30話(1話1時間)のドラマで、毎日午後7時30分から3話が放映された(※3時間はキツイな)。内容は終戦直後に、日本陸軍航空隊が中国人民解放軍のパイロット学校の創設に協力した実話である。※ドラマの内容が解説されているが省略。この話は知っていたが、ドラマになっていたのか。
・このドラマは共産党機関紙『人民日報』とのコラボで、抗日戦や革命に参加した日本人を記事にしている。インターネットの掲示板には、「感動した、軍国主義と別の日本人がいたんだ」などが書き込まれた。※中国は帝国日本をナチスと同様にしたいようだ。

・日本は「70周年行事」を「反日」として欠席した。一方ドイツ/イタリアなどは政府代表を送り、メルケル首相は「過去の反省、平和・互恵の姿勢」をアピールした。日本が中国のサインを見逃したのは残念である。※日本には、尖閣問題/南シナ海問題があるからな。

○ドイツ人の場合
・南京ではドイツ人が尊敬されています。それは日本軍が南京を占領した時、ドイツ人ジョン・ラーベらが国際安全区を設け、市民20万人を保護したからだ。彼の私邸が記念館として保存されている。このドイツ方式は、日本も参考になる。実際「航校創立者」のように、革命に参加した日本人が数千人いる。

第2章 「爆買い」世界事情、観光から投資

○次は不動産、企業
・中国人の「爆買い」は、2003年香港から始まった。最初はブランド品/家電/不動産だった。それが東南アジア/欧州/オーストラリア/北米/韓国に広がり、2014年日本でも目立つようになった。「買い物」は中国企業によるM&A(買収・合併)にも及び、2015年は過去最大になった。これは中国政府が海外投資を奨励している事にもよる。

<2.1 元祖爆買い地・香港、市民生活を圧迫>
・爆買いの始まりは、2003年個人旅行が解禁された香港である。しかし過激な生活品の爆買いが、香港市民を圧迫している。

○金持ち伯父さん来る
・香港島で高級宝石店を営む香港人中年女性が、「大陸のお客は行儀が悪い。でもお金離れが良いですから」と苦笑する。新型肺炎SARSが流行し、香港経済が低迷した。それを支援するため、2003年香港への個人旅行が解禁される。これにより香港のGDPは-3.1%だったが、翌年には8.2%に回復する。
・中国人観光客は金宝飾品/ブランド衣料/アクセサリー/化粧品/最新家電/携帯電話/マンション/株式などを爆買いした。香港のフリーライターが香水売り場で店員と話していると、彼らに店員を奪われ、10倍の金で買って帰った。あるいは金宝飾店で、金の首飾りを陳列したショーケースを丸ごと買った。店には良い客なので、わがままが許されている。

○3倍になった可処分所得
・「爆買い」の背景は収入の増加だ。2005年都市住民の可処分所得は10500元(18万円)から、2015年3100元(54万円)に増えた。南京は4万6千元(81万円)、上海は5万元(88万円)に増えた(※全然低いな。これでは爆買いできない)。広東省では人手不足で賃金の上昇が続いている。彼らは車の購入や海外旅行が可能になった。

○人の流れの逆転
・2008年深圳から香港に入った。香港に向かう人で、まるで渋谷駅のラッシュアワーである。1990年代は逆で、休日になると安価な日用品・食品・飲食・娯楽を求めて、香港市民が深圳に押し寄せていた。

○ついに旅行者制限
・2011年DCブランド店の前で香港人がガールフレンドの写真を撮ろうとしたが、警備員に阻止される。これを聞いて地元大手紙『蘋果日報』(リンゴ日報)が、記者を一般人に装わせ、DC店の写真を撮らせる。直ぐに店員が出てきて、「警備員を呼ぶぞ。警察を呼ぶぞ」と脅し、「大陸人なら許すが、お前らは道の向こうから撮れ」と言い放った。
・これが『蘋果日報』の第1面の記事になり、DC店への謝罪キャンペーンが始まる。DC店に数千人が集まり撮影する抗議が始まった。その後DC店は謝罪し、キャンペーンは終わる。※面白い集団行動パターンだ。

○本土客、吊るし上げられる
・2008年中国で「毒ミルク事件」が起き、水客(運び屋)が深圳にミルク缶を運び、香港の粉ミルクが品薄になった。
・2015年香港新界地区の屯門/上水などで、香港~深圳を往復する水客を市民が包囲する事件が起きた。中国公安部(警察省)は、「数次ビザ」を持つ深圳住民の香港への入境を週1回に制限した。
・中国は香港を「一国二制度」のショーウィンドウにしている。香港の安定・繁栄を世界/台湾に見せなければいけない。なお国際条約「中英共同声明」には、「香港の資本主義/生活様式は50年間維持される」と規定されている。※今香港の統治制度が著しく変更されている。

○対中国政府で鋭敏反応
・では50年後はどうなるのか。それは深圳河の向こうにある。それは窮屈そうで、香港市民は自由を制限する動きに敏感に反応する。2003年温家宝首相が香港返還記念式典で訪れた時、治安条例に反対するデモが起きた。※2014年雨傘運動があったが記されていない。

<2.2 米国でも消費NO.1>
○人数ではカナダ人、消費額では中国人
・2014年米国を訪れた観光客は、カナダ人2300万人、中国人219万人だった。しかし消費総額はカナダ人260億ドル、中国人230億ドルと余り変わらない。1人当たりの消費は、2011年5271ドルで第1位になった。

○留学生消費220億ドル
・2013~14年米国での中国人留学生の消費が220億ドルだった。外国人留学生の31%が中国人で、27.4万人いる。従って1人当たり8万ドル消費している。※凄い額だな。
・ロサンゼルスのショッピングモールでは卒業式シーズンになると中国人父兄で溢れる。ニューヨークの高級ブランド店でも、若い中国人学生がブランド品を買いあさっている。またロサンゼルスでは、中国人留学生が住宅や商業ビルを買うそうだ。

○旅行先は韓国からタイへ
・2014年韓国に中国人客が612万人訪れた。2015年はMERS(中東呼吸器症候群)により横ばいになる。この目的はショッピングで、化粧品が人気である。
・2015年8月バンコクで爆弾テロが起きるが、中国人観光客は前年比75%増の800万人が訪れる。中国人の海外旅行先の第1位はタイとなった。

○欧州に超大型社員旅行
・2015年健康産業の天獅集団6400人が、創業20周年の社員旅行を仏国で行った(※この話は聞いた事がある)。4日間でパリ/ニースを観光した。これに合わせパリのデパートは営業時間を延長した。仏国は中国人に欧州で最も人気のある旅行先である。その魅力は日本人と同じく、歴史/文化/ファッションである。

○人民日報、海外ショッピングを論ず
・2016年1月『人民日報』が「消費の海外流出に重大関心」とする記事を2回に分けて論じた。『人民日報』は国営新聞社だが、独立採算を強いられ、読者が関心を示す記事を書くようになった。その第1回は「海外ショッピング、買うのは何?」として、3つの商品「良質の生活用品」「新しく個性的な商品」「文化を内包するブランド品」を挙げた。

○欧米で日用品
・「ドイツで買った調理器具を毎日使っています」。彼女は旅行用品/ポット/肌荒れ防止クリームなどのドイツ製品をスーパーマーケットで買っていた。「中国製品より安く安全なので購入します」。彼女は定期的に米国に買い出しに行っている。※何か逆だな。海外ではメイドインチャイナが売れまくっているのに、中国ではメイドインチャイナが敬遠されている。まあ外国製品を買うのは、富裕層に限る話かな。

○日本で医薬品
・「買い物リストは、来る度に長くなります」、留学生斡旋業の劉彗さんは言う。出国する時、友人から医薬・化粧品の購入を頼まれるからだ。彼女が驚くのは、来る度に新しい工夫された商品が出ている事だ。中国の商品にそんな工夫は見られない。※これは日本人の特徴かな。

○ブランド品に期待するもの
・「小型バッグは友人ので5千元。大型バッグは自分ので1万5千元。北京だと3万元する」「ブランド品には文化を感じます」、銀行員の王洋さんは言う。

○豪州での不動産買いは一段落、次はスペイン
・NHKでドキュメンタリー「次は不動産爆買いか?」が放送された。中国人の不動産投資も香港で始まり、オーストラリア/欧州へと広がっている。

・2015年12月シドニーの大手不動産企業の重役が「中国人は今も買っています。15%位減りましたが」と語った。2015年住宅相場は平均で月1.3%下がった。しかし過去3年間で47%上昇した。中国人による住宅購入は2010年頃から始まった。これは中国人留学生の急増による。2015年9月新学期で、15.6万人の留学生がいる。彼らは家賃を払うより、家を買ってしまうのだ。

○スペインは投資移民で
・2013年スペインは投資移民制度を始めた。条件は簡単で犯罪歴がなく、50万ユーロ(6250万円)以上の不動産を購入すれば良い。当時スペインは失業率は20%を超え、多くの住宅が売れ残っていた。2014年中国人が1530戸を購入し、これは同年の販売総数の25%に当たる。※実際に移住するのかな。

○投資移民制度
・2015年1月香港政府は投資移民制度の中止を発表する。これは650万香港ドル(9600万円)以上の金融証券/不動産を購入し、居住すれば、7年後に永住権を得られる制度です(その後条件変更あり)。この制度で2058香港ドル(3.2兆円)を得ましたが、不動産が高騰しました。一層問題だったのが、中国本土人が香港で簡単に入手できるアフリカ/中南米の国籍を取得し、それから香港の永住権を取得し、香港をタックスヘイブンや資産の持ち出しに利用しました。※先に海外の国籍を取得?

○投資移民は日本にもある?
・NHKが「日本不動産爆買い」を放映しましたが、不動産売買高に対する中国資本の割合を示す統計データはない。日本には8万7千人の中国人留学生がいる。政府は留学生30万人を目標にしているが、まだ半数程度である。これが達成されると、大都市で留学生による不動産ブームが起こる可能性がある。

・日本も投資移民制度に相当する「経営・管理ビザ」が、2015年より始まった。これは日本へ投資する法人向けの制度で、経営者と従業員に滞在ビザが発給される。条件は銀行口座に500万円を入金し、事務所を構えれば良い。これは爆発的に増える可能性がある。※日本に起業の魅力があるかな。

<2.3 超買いたい物=日本企業>
○本命はパナソニック
・2014年中国人ジャーナリスト徐静波は「中国企業にはシャープよりパナソニックの方が興味がある」と書いている。2013年パナソニックは、プラズマテレビ事業の売却/携帯電話事業の縮小/半導体事業の縮小を行った。それでも研究開発能力/生産技術で評価が高い。パナソニックは2期連続黒字となり、買収は遠のいたが、BtoBへの転換が奏功するか注目される。

○シャープ買収の最初の挑戦
・シャープ買収は2回あった。前回は2012年3月、シャープが鴻海に株式の10%を670億円で譲渡すると発表し、公になる。しかし3月期決算が2年連続の赤字になり、株価が暴落し、鴻海が一層の株式譲渡を要求したのでご破算になる。
・今回(2016年2月)は、鴻海がシャープ再建の意向を表明した。シャープは官民ファンドの産業革新機構から3500億円を得て再建する方向であった。ところが鴻海は、液晶事業の継続/経営陣の続投/雇用維持/資金7千億円を掲示した。3月買収契約が結ばれる。

○鴻海とは?
・鴻海グループの本社は台湾にあるが、株式は香港に上場し、工場は大半が中国にある。世界最大の電子機器受託製造(EMS)メーカーで、アップルのアイフォンや任天堂のゲーム機を製造している。売上高4.2兆元(15.2兆円)で、台湾最大の企業である。1974年創業で、当初はプラスチック部品を製造していたが、1990年代中国でEMSを開始し発展した。

○パソコンと冷蔵庫・洗濯機
・日本のパソコン市場で最大のシェアを持つNECのパソコン部門は、2011年中国のレノボの傘下に入った。2004年レノボはIBMのパソコン部門を12.5億ドルで買収していた。1984年レノボは、中国科学院計算機研究所職員により創業されている。
・サンヨーの冷蔵庫・洗濯機部門は、2011年ハイアールに100億円で買収される(※100億円って安くない?)。ハイアールは生産拠点5ヵ所/研究センター2つ/経営販売ルート6つを獲得する。同時に特許/商標/意匠権も譲渡された。そのため「SANYO」「AQUA」も使われている。

○フォーチュン500社、半数が中国企業
・『フォーチュン』が発表する「世界的企業500社番付」で中国企業が急増している。2010年は米国139社/日本71社/中国46社だったが、2015年は米国128社/中国106社/日本54社になった。このペースでは2020年に中国が最多になり、2030年には過半数が中国の企業になるだろう。

○M&Aで世界的企業に、最大の投資国中国
・2016年は中国企業によるM&Aが、記録を更新するだろう。インターネットセキュリティ企業「奇虎360」によるソフトウェア企業「オペラソフトウェア」の買収(12億ドル)、重慶財信企業集団によるシカゴ証券取引所の買収(※シカゴ・マーカンタイル取引所とは別だろうな)、ハイアールによるゼネラルエレクトリックの家電部門の買収(54億ドル)などがある。2015年は、600件以上/総額1120億ドルのM&Aを行ったが、2016年はそれを軽く破りそうだ。

・中国の対外直接投資(ODI)は1千億ドル台で、対中直接投資(FDI)に迫っている(※投資するが、投資されてもいるのか)。メルカトル中国研究所(ドイツ)/ロジウムグループ(米国)によると、「中国の海外資産6.4兆ドルは、2020年には20兆ドルに達する」とした。※日本は世界最大の海外資産国だったと思うが、比較はないのか。

第3章 チャイニーズドリーム、ソフトバンク超含み益

○三大富豪から見えるビジネスチャンス
・中国企業は国営企業のイメージがあるが、中国経済を牽引しているのは民営企業経営者だ。アリババグループ会長・馬雲は、2014年中国一の富豪になった。彼は「海亀」と呼ばれる海外留学・就職者だ。中国政府は「中国夢」を掲げ、起業を推奨・優遇している。2014年アリババはニューヨークで上場するが、ソフトバンクが8兆円の含み益を計上した。孫正義社長は、「タイムマシン経営」を標榜し、米国で成功したビジネスは、他国でも成功するとしている。※孫正義が出てくるんだ。

<3.1 中国最大富豪の交代、ネット王登場>
・2014年馬雲は中国一の富豪になる。しかし翌年には不動産王・王健林(万達集団)に奪回される。しかし2人共、香港の超人・李嘉誠(長江ハチソン実業グループ)には及ばない。

○孫正義6分間/8兆円伝説
・1999年馬雲はモルガンスタンレー証券のアナリストに勧められ、ソフトバンク社長・孫正義に会う。馬は孫に今後やりたい事業を伝えると、孫は「4千万ドル投資したい。条件はアリババの株式の49%譲渡だ」と伝える。結局、2千万ドル出資/株式譲渡30%で合意する。孫社長は事前に慎重に検討をしていた。

○ニューヨーク史上最大の上場
・2014年アリババがニューヨーク証券取引所に上場される。調達資金218億ドルは、フェイスブックの160億ドル(2012年)、VISAの175億ドル(2008年)を抜いている。この上場でソフトバンクは8兆円の含み益を得る。

○アリババ、中国小売市場を制す
・2015年11月11日前、知人にネットで買い物するか聞くと、全員が「買う」「多分買う」だった。当日の売上高は、前年比6割増の913億元(1.6兆円)になった。日本のネット販売上位300社の前年の総売上高が2.9兆円なので、1日でその6割を売り上げた。馬会長は日本/米国などへの参入も仄めかしている。

○無名校の英語教師、インターネットに出会う
・1964年馬雲は浙江省杭州市に生まれる。1988年杭州師範学院の外国学部を卒業し、英語/国際貿易の講師に就く。この講師時代に海外ビジネスの雑誌を読み漁り、情報通信産業に注目する。1992年講師を辞め、通訳会社を興す。
・1995年米国でインターネットに触れ、ホームページを制作する企業を創業する。国務院の国際貿易/投資誘致などの官営ウェブサイトを多く開設する。
・1999年オンライン商取引サイト「アリババ」を創業する。2014年ニューヨーク上場により2兆円の資金を得て、農村向けサービス/電気自動車/映画作成などへの参入を計画している。これらは中国政府が推奨する事業でもある。

<3.2 富豪1位2回の不動産王・王健林>
○インドは建設需要が多い
・2016年大連万達集団・王健林会長はインドを訪れ、ハリヤナ州に100億ドルを投資し、工業団地を建設する覚書を交わす。インドにとって中国は最大の貿易国だが、大幅な貿易赤字を計上している。そのためインドへの生産シフトが望まれている。インドは道路/電力/上下水道などのインフラ整備が遅れ、開発需要は無限にある。※インドも中国と政治的に摩擦があるが、経済は緊密かな。
・2016年1月王会長は「2015年グループ連結売上高は3千億元、2020年に6千億元にする。そのため海外事業を3割にする」と語る。

・中国で富豪1位を争っているのは、馬雲とこの王健林だ。1954年彼は四川省に生まれる。父は長征に参加した軍人で、帰郷し、地方政府の幹部をした。彼も陸軍に入隊し、1986年遼寧大学でMBAを取得し、大連市西崗区人民政府(区役所)に務める。1989年西崗区住宅開発公司の社長に就く(1992年大連万達住宅房地産公司として再編民営化)。※エリートで出世が早そうだな。
・現在当社は、中国全土で不動産開発/文化産業/金融を手掛け、複合施設133/ホテル84を経営している。シネプレックスなどの文化産業は売上高512億元、金融はインターネット金融/投資/保険などで売上高209億元である。また資産総額は6340億元で、世界最大の総合不動産企業である。※万達の広告を見たことがある。万達の意味は何だ?
・2016年万達集団は米国の映画製作会社レジェンダリーを35億ドル(4200億円)で買収する。彼は中国映画史上でのハード(シネプレックス)とソフト(作品)への自信を表明した。

<3.3 北京も一目置く香港の超人>
・王健林の資産は242億ドル、馬雲は227億ドルだが、香港の長江ハチソン実業グループ(※以下長江グループ)の李嘉誠は、それを上回る335億ドルだ。彼は「超人」(スーパーマン)とあだ名される。

○李会長記事、1日2本配信の意味
・2015年10月新華社の『人民網』は1日に2回も彼を称える報道を行った。1つは「広東イスラエル理工学院大学の開校」、もう1つは「深水天然ガス田、珠江デルタへの安定供給」である。後者の肝は、「ガス田の開発会社が、彼と長江グループの70%出資である」事で、「党・政府は彼を批判しない」事の表明である。
・9月新華社のシンクタンクが、長江グループのインフラ事業部の再編成やタックスヘイブンに新会社を移転する事を批判し、中国国内でも彼への批判が起きていた。党・政府は、それが主流でない事を示したのだ。

○マスコミを手玉に
・2000年私は長江グループの決算発表記者会見で「NTTドコモとの提携事業の内容は?」と質問すると、「霍社長、この日本人記者に毎日会っているなら、次回日本語で答えてあげて下さい」とあしらわれた。
・この記者会見は、李会長/ビクター李副会長(長男)/霍社長の3人が行った。普通の大手企業は会長・社長は挨拶だけで、後は財務担当が引き受けるが、長江グループは違う。※ワンマンの証拠かな。

○香港経済台頭の象徴
・李会長は、香港経済を見るのに最も重要な人物だ。それは彼が香港の金融を除く基幹産業を常にリードしてきたからだ。※香港の大財閥かな。
・1928年彼は広東省の知識人の家に生まれる。日中戦争が始まり、香港に移住する。15歳の時父が亡くなり、働き始める。以下はその後の軌跡だ。彼は香港経済のパイオニアで、英国資本を制してきた。
 1950年代-プラスチック造花で香港軽工業界をリード。
 1960年代-工場ビルで不動産業界に新しい市場を開く。
 1970年代-地下鉄駅開発で、英系銀行/香港政庁と地場業者を結び付ける。英系商社ハチソン・ワンポアを買収する。
 1980年代-広東省での製造業勃興を受け、港湾事業を拡大し、香港を世界最大のコンテナ港にする。港湾事業は、パナマ/英国/オランダ/タイ/韓国にも進出。
 1990年代-ポケベルで通信業界に進出。北京の東方広場開発を機に、中国本土で不動産事業を始める。
 2000年代-ポータルサイト「トム・ドットコム」を創業し、IT業界に進出。第3世代携帯電話で欧州通信市場に進出。

○李超人、ネットビジネスでも成功
・2000年香港でも「ドットコム企業」の上場ブームが起こる。彼は「トム・ドットコム」を「成長企業市場」に上場させる。当日、株式購入予約窓口に30万人が押し寄せた。

<3.4 早すぎた男、香港メディア王の挫折>
・2000年「早すぎた男」が創業したネット利用スーパーマーケット「アドマート」が廃業する。

○元アパレル王にしてメディア王
・1990年黎智英(ジミー・ライ、1948年生まれ)は、まず週刊誌『壱週刊』を発行する。全ページカラーで、発行部数1位になる。1995年日刊紙も発行する。こちらもCGを応用し、ビジュアル性/読み易さ/スキャンダル重視で発行部数3位以内に入る。

○ユニクロのビジネスモデル
・彼はカジュアルウェア専門店「ジョルダーノ」を30か国/2千店以上経営し、アパレル王だった。実はファーストリテイリングの柳井正会長は、彼のビジネスモデルを参考にしている。
・彼の新事業「アドマート」は、インターネットで注文し、宅配するスーパーマーケットである。7億香港ドル以上を初期投資し、5千万香港ドルでシステムを構築し、配送員1千人/コールセンター員150人を雇用し、倉庫8ヵ所を整備し、トラック250台を配備するなどした。

○ネット販売のパイオニア
・しかし「アドマート」は1年余りで廃業になる。理由は、①準備不足-商品分析・市場分析が不十分。配送システムも未完成で、誤配・未配が出た。②既存大手スーパーとは顧客層が違うのに、安売り攻勢を仕掛けた。また悪質な業者から商品をつかまされる事もあった。
・彼はアパレル事業「ジョルダーノ」を処分し、メディア事業に集中し、週刊誌・日刊紙で成功するが、ケーブルテレビ事業に失敗し、2012年メディア事業からも撤退する。

○1枚のチョコレート
・1948年彼は広東省広州市に生まれる。裕福な家だったが、革命で財産を没収される。12歳で糊口を凌ぐため、広州駅でポーターを始める。この時香港人からチョコレートをもらい、香港に行く事を夢見る。間もなく香港に密航し、アパレル工場に勤め資金を貯め、29歳で自分の工場を操業する。

○メディア王、政治活動へ
・彼はメディア王になると中国共産党への敵意を示す。2003年香港で治安立法反対の「50万人デモ」が行われるが、これは彼が1ヵ月前から日刊紙『蘋果日報』(リンゴ日報)でデモ参加を呼び掛けていたからだ。夜になっても香港政府の庁舎から人が去らなかった。※先日逮捕されていたな。

○複雑なジミー・ライの本心
・しかしこの彼の姿勢には疑問がある。間もなく香港外国人記者クラブが昼食会に彼を招くが、自由・民主などの話はなく、ビジネスの話しかしなかった。※効果絶大だったので、怖じ気付いたのかな。
・彼のメディア企業・壱伝媒のライバルは東方報業(オリエンタルエキスプレス)だった。日刊紙では『蘋果日報』対『東方日報』『太陽報』、週刊誌では『壱週刊』対『東週刊』である。この東方報業は香港返還前は反共だったが、今は親共に変わり、オーナー自体が全国人民代表大会の香港代表である。そのため権力を盾にした東方報業の壱伝媒攻撃はえげつない。※オリエンタルエキスプレスはそんな企業なのか。

○世界影響力100人の一人
・2015年彼は「世界で最も影響力のある人々100人」に選ばれている。行政長官選挙に反対する「金融街占拠運動」(オキュパイ・セントラル)を支援し、現場で騒乱罪で逮捕されている。これらを評価されたのだ。逮捕を受け、蘋果日報社長/壱伝媒会長を辞任し、「これからは興味ある事の打ち込む」と表明している。しかし壱伝媒の株式の7割以上を保有している。

○民主化運動=文革
・2000年代初頭、中国共産党の統一戦線(※知らない)の担当者は、「民主主義?、それは文革の時に散々やった」と吐露した。彼らにすれば、オキュパイ・セントラルなどの集団抗議活動/台湾議会でのデモ隊乱入などは、プロレタリア文化大革命と同類なのだ。彼らは政治的な正しさ(民主主義)を追求する事が、多数の幸福にならなかった事を経験している。文革により共産党幹部の7割が失脚し、子女は田舎に追いやられた。習主席もその一人だ。中国は文革期、世界最貧国グループにいた。中国では、大衆政治活動=社会・経済混乱=経済衰退なのだ。※この説明は参考になる。しかし文革は民主化運動だったかな。

<3.5 海亀帰る、留学生続々帰国創業>
・中国には海亀の言葉がある。海亀は故郷に帰って卵を産む。中国政府はこの帰国を促進している。

○留学生の帰国起業を支援
・2014年ケンブリッジ大学で修士号を取得し、グーグル/マイクロソフトに勤務した劉氏は、遼寧省瀋陽市の起業スキームに魅力を感じ帰国する。彼は「衆雲科技サービス公司」を設立し、サービスセンターを拡大している。瀋陽市は会社設立を容易にする「ミニ企業創業・技術革新基地規範都市」に指定されている。

○帰国が未帰国を逆転
・2014年累計海外留学生352万人の半数以上(181万人)が帰国となった。これは2009年から始まった「高級人材吸収スキーム」による。

○五大海亀
・中国のウェブサイト「創業網」の「五大海亀」は以下である。
 ①李彦宏-ポータルサイト「百度」創業者。1968年生まれ。北京大学卒業後、ニューヨーク州立大学で修士取得。ダウ・ジョーンズ社のアドバイザー、ウォールストリートジャーナル社の金融情報システムを設計。1999年帰国し、百度を創業。
 ②張朝陽-ポータルサイト「捜狐」(SOHU)創業者。1964年生まれ。北京精華大学卒業後、マサチューセッツ工科大学で博士号取得。1998年SOHUを開設。
 ③汪延-ポータルサイト「新浪網」(サイト・ドット・コム)創業者。1972年生まれ。1996年パリ大学卒業。同年新浪網を開設。
 ④沈南鵬-旅行サイト「携程網」(CTRIP)/ホテルチェーン「如家」創業者。1967年生まれ。上海交通大学卒業後、エール大学で修士号取得。1991年からリーマンブラザーズ証券/シティバンク/ドイツ銀行に勤務。1999年CTRIPを創業。
 ⑤田溯寧-1963年生まれ。遼寧大学卒業後、中国科学院研究院で修士取得。1991年ダートマス大学で博士号取得。1993年インターネット企業「亜信」創業。1995年帰国し、「亜信科技」創業。その後中国電信/中国移動などのインターネット事業を立ち上げる。

・以上の5人は、1990年代インターネット事業で成功している。1999年新華社系の「チャイナ・ドット・コム」が上場し、ブームになる。時代の寵児となった同社は、「中華網科技」として健在である。

○帰国しない留学生
・一方で帰国しない留学生もいる。その理由は以下である。
 中国は人口が多く、競争が激しい。やりたい仕事に就けるか不安。
 最終的に共産党が決めるので嫌だ。
 子供の事を考えると、詰め込み教育に反対。
 環境悪化で、健康に不安。

第4章 一人っ子政策廃止、日本メーカー株価上昇

○人口=経済パワー、改革の中国
・中国で「一人っ子政策廃止」「農村・都市二元戸籍の廃止」(都市化推進)が行われ、日本企業の株価を上昇させている。中国は「全面小康」(15億人に達する人口に、健康で文化的な最低限以上の生活を保障)を目標にしている。そのための経済発展には労働生産年齢(15~64歳)の人口維持が不可欠で、この2つの政策はそのためのものだ。

<4.1 成長を支える人口>
・ゴールドマンサックスなどは、インドの経済成長を中国以上とする。インドの人口が、2022年までに中国を超えるとするからだ。

○インドと異なる中国の人口パワー
・2000年代初頭広西チワン族自治区南寧市で「中国アセアン見本市」が開かれた。そこである国の首脳が中国人ダンサーを見て「やはり中国には勝てないな。これだけ美女を揃えるとは」と呟いた。

・中国の人口パワーはインドとは中身が異なる。2000年代インドもGDPが増大したが、貧困人口は増えた。それは国際競争に勝つため、最新鋭の機械を導入したからだ。インド人の国際基金(IMF)北京事務所長は「中国もインドも格差は拡大している。しかし中国は底上げができているが、インドは底が抜けている」と発言している。

○中国の人口政策、日本の株式相場に影響
・インドも巨大な人口を擁するが、世界市場への影響は中国に比べると希薄である。2015年中国の人口政策「一人っ子政策の全面廃止」が発表されると、すぐさま日本の株式相場に影響が出て、乳幼児用品メーカーの株価が値上がりした。

○子供向け商品の爆買い
・2016年2月『新華網』が中国人の日本での乳幼児用品の爆買いを報じた。子供用感冒薬を大量に買った消費者は、「日本製は口当たりが良い、錠剤のデザインも可愛く、子供に飲ませ易い」と答えた。
・2015年秋第18期五中全会が「一人っ子政策廃止」を発表するとピジョン/花王などの乳幼児用品メーカーの株価が上昇する。ピジョンは10年以上前から中国で生産しており、売上も海外が半分を占める。

○ランドセルに人気
・隠れた人気商品にランドセルがある。「セイバン」「ハシモト」などのブランド品が売れている(※中国もランドセルなんだ)。ランドセルは『名探偵コナン』で知られるようになった。
・教育サービス産業の市場も拡大している。公文/ベネッセなどが進出しているが、コンテンツは変える必要があるので、合弁相手が重要になる。日本は少子化なので、中国市場は無視できない。

○市場拡大分だけで日本の数倍
・2014年中国の新生児は1700万人で日本(100万人)の十数倍もある。中国の出生率は1.2~1.3だったが、これが1割増えるだけで170万人、すなわち日本の1.7倍の市場が生まれる。中国政府の目標は、300~500万人増となっている。

○労働人口の未来
・経済用語に「人口ボーナス」がある。これは労働生産年齢人口が総人口の70%を超える状況を指し、経済成長の要因とされる(※単に人口増加を指すと思っていた)。2010年中国は74.5%だったが、今後は低下すると推定される(2020年72.8%、2030年69.7%)。ちなみに日本は、2014年61%だった。

○人口ボーナスの地域化
・人口ボーナスには地域差がある。①人口ボーナスが強力な地域-東部沿岸地域(北京、上海、浙江、広東など)、②人口ボーナスが強力でない地域-西部(四川、新疆、甘粛など)、③中間の地域-中部(山西、湖北、湖南、河南など)(※単に都市化が進んでいるか否かでは)。注目すべきは②の地域で、経済発展の余地が大きく、人口ボーナスの効果も大きい。そのため中国政府は「西部開拓」を掲げ、大型投資を行っている。これにより経済成長率の上位は、常に貴州/江西などが来る。

○人口ボーナスを増やせ、出産2300万
・2015年11月『人民日報』は五中全会で決まった「全面小康、全民共亨(受)」を解説した。これまで両夫婦が一人っ子の場合、第二子を認めていたが、その対象者は1千万人で60%が第二子を希望していた。「二人っ子政策」が全面解禁されると、対象者は9千万人に広がり、年300~500万人出産数が増えると予測される。これにより2030年頃に総人口が14.9億人でピークになり、2050年頃13.5億人に減ると予想される。

○二人っ子政策=労働・財政政策
・1980年「一人っ子政策」が始まった。当時の人口は10億人で、このままでは2050年に40億人に達するとされ、一人っ子政策でも20億人になると推測された。「人口及び計画出産法」や条例が定められる。
・1999年65歳以上が人口の7%を超える高齢化社会になる。2004年には工業地帯で若者労働者(15~25歳)の不足が深刻化する。また一人っ子政策は、出生の許可/違反者への処罰/強制堕胎などで西側からも非難された。また無国籍者や男女比率の不均衡も生んだ。それでも中国政府は人口増加を野放しにできなかったのだ。ただし少数民族は一人っ子政策の規制外だった。

○徐々に緩んだ一人っ子政策
・2001年「人口及び計画出産法」の見直しが行われ、「条例で第二子の出生を認める」となった。2010年「夫婦の一方または両方が一人っ子の場合、第二子を認める」となった。その後二人っ子政策に移行する。
・2010年男女別出生比率は、女性100対男性118に拡大する。そのため結婚適齢期男性(25~35歳)1.1億人に対し、同女性(20~30歳)は7千万人しかおらず、男性の3人に1人が結婚できない状況になった。

○三人子ならなお良い、人口老化対策まったなし
・第18期五中全会は、二人っ子政策が基本で、三人子も認める方針である。先進国では出産数は2.1が適当とされる。しかし今の二人っ子政策では1.7程度にしかならない。

○シンガポールの経験
・人口動態でシンガポールが参考になる。同国は、「人口抑制期」(1966~82年)、高学歴女性だけに出生を推奨する「優生学期」(1983~86年)、そして今の「出生推奨期」(1986年~)になっている。
・1960年代の出生率は6.0を超え、「二人っ子」に抑制された。しかしその後下降を続け、推奨期に入る頃には1.9にまで低下する。その後「三人子政策」を実施するも、今は1.2前後である。※これは危機的なのでは。
・同国の少子化は社会変化による。これは女性の高学歴化による晩婚化/結婚離れ/教育費負担の重圧/仕事を続けるためのメイド費の高騰などが要因である。

・中国は都市国家ではないが、都市部での人口減少は止められそうにない(※日本と同じだな)。人民日報にも第二子を産む事による問題の特集が見られる。北京大学の専門家は「二人っ子は素晴らしい、三人子ならもっと良い」と述べている。そのためには奨励金などの措置が必要と述べている。

<4.2 戸籍制度改革、2億人の消費3倍化>
・2016年3月李克強首相は全国政治協商会議(上院)で、戸籍制度改革による農民の市民化計画を発表する。2020年までに都市戸籍保有者を36%から45%に増やし、都市常住者を56%から60%に増やすと発表した。※都市戸籍保有者と都市常住者の差は、農民の出稼ぎになるな。

○戸籍制度改革始まる
・2016年広西チワン族自治区南寧市は、農村部から同市への戸籍移動を認める戸籍制度スキームを開始する。従来、農村戸籍者は都市で医療・教育などの公共サービスを享受できなかった。この制度改革が中央政府の「城鎮化」(都市化)政策の成功例になるか注目される。
・2012年南寧市公安局は戸籍管理制度改革の細目を発表しているが、都市戸籍を取得できる条件は極めて低い。

○二元戸籍の解消
・南寧省(※市?)関係者はこの目的を、①農村と都市の戸籍の統一、②戸籍移動を可能にするとした。これは戸籍を「住民戸籍」で統一する事を目指している。

○不公平だった戸籍制度
・1958年中国政府は食糧配給制度維持のため、戸籍を農民戸口(農村戸籍)と城市戸口(都市戸籍)に分けた。ところが都市の「居住民」(都市戸籍保有者)と出稼ぎ者の「暫住者」(農村戸籍保有者)との間で、教育・医療・社会保険などで不平等が見られるようになった。2009年出稼ぎ者の保護から、党中央で戸籍改革が議題になる。

○都市化と戸籍改革
・1978年改革開放が始まる。当時の都市化率は18%だったが、2011年には50%になり、戸籍地を離れた人口は2.3億人に達した。これは世界4位のインドネシアの人口に匹敵する。
・2012年中国共産党中央工作会議に提出された「2013年経済工作の主要任務」に「都市化の推進とその質の向上」があった。しかしそのための福祉予算は膨大になる。2013年全人大(※全人代?)常務委員会は戸籍改革の道筋を示すが、それには小都市から中都市へと徐々に進めると記された。

○一挙多得の新人口政策
・従来の戸籍制度は人材移動が不自由で、経済成長の足枷になっている。戸籍移動が自由化されれば、都市の消費は増大すると考えられる。それは都市住民の可処分所得が、農村住民の3倍以上あるからだ。
・また農民に支給している様々な補助金を縮小できる。さらに農民が土地を放棄する事で、規模が拡大され、生産性を向上させる事ができる(※中国の農業生産性は相当低いらしい)。また都市でダブついている住宅在庫を減らす事ができる。
・しかし農業・農民保護政策が充実しているため、農民は都市に移住したがらない。アンケート調査では、出稼ぎ者の4割しか都市戸籍を希望していない。※これは意外。農業保護を縮小するんだろうな。

○変わる出稼ぎ
・四川省は年1200万人の出稼ぎ者を省外に送り出した。2011年末の出稼ぎ農民は2300万人だったが、省外へは1200万人で初めて減少し、以降減り続けている。これは中国政府の西部開発政策や、外資企業がより安いコストを求めて内陸に移ったからだ。一方南京では我が家から500mの場所に地下鉄駅ができる予定だったが、人手不足で工事が進んでいない。

○地元で働き、事務より高い給料
・2013年ネットで重慶の建築工事現場で働く出稼ぎ農民の給与が話題になった。最高で1万4千元(22万円)、最低で5千元(9万円)だった。仕事は厳しいので、それに見合う給与を払わなければ、人が集まらないのだ。

○年貢を納めず、補助金をもらう農民
・2006年は中国の歴史で画期的な年になった。農民は農業税/地方行政費用(年貢)を払わなくてよくなり、逆に多くの補助金を供与されている。1999年前者は140元(2400円)、後者は108元で、可処分所得に占める割合は、前者は6.3%、後者は4.9%だった。農業収入には地域差があり、山西/安徽/河南などでは、地方行政費用だけで可処分所得の50%を超えていた。※地域差があり過ぎだな。

・1997~2003年GDPは年率8~9%増加したが、農民の可処分所得は4%しか増えず、農民は置き去りにされた。中国政府が無策だった訳ではないが、抜本的解決はできなかった。さらに世界貿易機関(WTO)加盟のため、食糧市場を自由化したため、食糧価格は下落し、食糧生産は減少した。

○胡・温体制での大改革、少なく取り、多く与える
・2003年胡錦涛/温家宝体制に移行する。胡・温体制は、農民の所得を増大させる抜本改革を打ち出す。以降、毎年年頭に発表する最重要案件「中央1号文件」は「三農問題」(農業、農村、農民)を掲げるようになる。それは以下の6つである。①農業税/地方行政費用の廃止、②農業補助の実施、③農産物最低買付価格、④国家臨時備蓄政策、⑤貧困補助/農村最低生活保障制度、⑥災害補償制度。

・①は2003年に試行が始まり、2006年全面実施される。これにより地方財政は1千億元減収したが、中央政府および地方政府が費用を捻出した。補助金は増え続け、農民に直接渡される補助金が1600億元、全体では1兆元を超えている。※これは②では。

・②農業補助には、食糧栽培農民直接補助/優良品種補助/農業機械購入補助/農業生産資材総合補助/農業保険費補助の5種類がある。農業生産資材総合補助が50%以上を占め、化学肥料/ディーゼル燃料費などである。
・しかし農業補助には以下の問題もある。①地方政府に重荷、②中央政府の処理能力が十分でなく、タイムリーに受けられない、③地方政府はシステム化されていない。従って中央政府にも地方政府にも負担になっており、農民の市民化を望んでいる。

・これらの政策で農民の所得は上昇し、2004~08年は年率10%増えた。しかし農村と都市の所得格差は依然3倍以上あるが、農村が一大消費市場になる基盤は整いつつある。

第5章 日本農家を雇う、豊かな中国農村

○中国農村企業の勃興、新土地改革が追い風
・中国の農民企業が日本の農家を雇っている。これは最大の認識ギャップである。日本は市場の縮小や原発事故に直面し、高い技術を持った農家が中国の農民企業に雇われている。さらに中国政府の「脱貧困7千万人」により、資金・人材が注ぎ込まれる。一方で2015年から始まった土地所有制度の改革は、「土地成金」を生み出す可能性がある。

<5.1 中国の富豪村、山形/福井でコメ作り>
○日本のコメ作りに感動
・中国一の富豪村・江蘇省華西村の呉協恩・共産党委員会書記は、日本のコメ作りを視察し、化学肥料・農薬・除草剤などを使わない水稲栽培に感動する。2014年彼が会長の華西集団は福井/山形の農協と契約し、2015年華西村から送った種もみを日本で水稲栽培し、500トンの米を輸入した。
・500トンの内180トンが福井県越前町で生産された。2016年は240トンに拡大する予定だ。そのため農協は講習会を開き、契約内容を説明し、追肥・土壌改良などを指示した。JAの買取価格は、コシヒカリより1俵当たり1千円高い。
・華西村は1人当たりの年収が53元の貧村だったが、今は中国きっての富豪村である。

○上海でビルが建つと、タイでトヨタ車が売れる
・話はタイに移る。2004年タイの農民テパラックさんはトヨタのピックアップトラックを購入した。さらに従来所有していた水田2.4ヘクタールに、1.6ヘクタール買い増した。毎年「銀行に田を差し押さえられる」と心配していた彼からは考えられない事だった。これは中国のコメ輸入の急増が原因で。コメ輸出は前年同期比で54%も増えている。
・この中国のコメ輸入の急増は、中国沿岸部の大都市で公共投資が30%増え、出稼ぎ農民が増えたため、都市部のコメ需要が増え、一方で農村の供給が減った事による。既に10年前、中国経済の影響がタイに及んでいた。つまり「上海でビルが建つと、タイでトヨタ車が売れる」となっていた。

○華西村物語
・華西村の発展は、呉仁宝・前委員会書記(現委員会書記の父)の指導力による。彼は農業を近代化させ、58社を創業した。その持ち株企業「華西集団」は、2015年売上高は480億元で、中国企業の265位にいる。
・これを象徴するのが、村の中央に聳える74階建ての超高級ホテルだ。最も高いスィートルームは1泊10万元する。華西村は田舎町だが、「天下一村」を見ようと観光客/地方政府関係者が訪れている。

・華西村の起業は1960年代後半の人民公社で、ネジ・クギなどの金属製品の製造に始まる。1970年代末には、外資との合弁で染料製造/アパレル製造で成功する。1990年代末に深圳株式市場に上場し、ベンチャーキャピタル事業にも進出する。
・華西集団の成功の秘密は、給与や配当の7~8割を強制貯蓄させ、それを新事業に投資している。近年はヘリコプター輸送事業に進出しようとしている。※全然農業に限定されていない。

○中国経済を牽引した郷鎮企業
・華西集団は郷鎮企業である。改革開放開始後の中国経済を牽引したのは外資企業/国有企業ではなく郷鎮企業だ。1995年輸出額の60%は、郷鎮企業による。2007年でも、全工業生産の47%を郷鎮企業が生産し、またGDPの29%を郷鎮企業が生産している。
・農村部での郷鎮企業の貢献も顕著で、農村部人口の29%(1.5億人)を雇用している。また農村部での純収入の35%は郷鎮企業による。※郷鎮企業は農業もやっているのかな。
・郷鎮企業は人民公社が経営し、「社・隊企業」(人民公社・生産大隊企業)と呼ばれていた。毛沢東主席が推進した人民公社は、農業・工業・軍事・商業・教育を担った。これが「世界の工場」の土台を作った。改革開放開始後、社・隊企業の改革委員会主任/党委書記が経営に苦心し、成果を挙げた。※農村に産業の基盤が元々あったのか。

○世界の工場の産声
・郷鎮企業の蠢動は香港でも見られた。1970年頃、日本貿易振興会(JETRO)の香港トレードセンターに勤務していた小泉氏は、広東省で製造される家電製品の仕上げの良さに感心している。郷鎮企業がなければ改革開放は頓挫したかもしれない。少なくとも「世界の工場」への歩みは穏やかだっただろう。
・今の南京などの農村部の収入(※2万元)は、10年前の爆買いが始まった頃の都市部の収入(※1万元)を超えている。農村は新たな消費市場となった。

<5.2 インターネットが雲南農社とフクシマ農民を結ぶ>
・2013年福島県の農家/雲南省の農業企業/四川省の小売業者がコラボしたトマトの栽培・販売が始まる。日本人が中国に移り住み、日本式でトマト栽培している。

○雲南からの呼びかけ
・2012年5月福島県の農家・武田忠道さんは、ブログに目が留まった。「中国に農場を用意し、スタッフ/通訳/宿泊施設などを準備しました」とあった。マスコミ/消費者は「福島、頑張れ」と応援するが、福島産農作物の需要は少なく、売れても買い叩かれた。ブログの書き手は、雲南省の農業企業「晨農集団」に勤める上下信人さんで、「福島プロジェクト」を立ち上げていた。

○桃太郎栽培へ
・武田氏は上下氏にメールし、雲南省昆明市を訪れる。「福島プロジェクト」は、4.5ヘクタールの農地を与えられ、武田氏の指示で社員が作業する仕組みだった。武田氏には月給が支給され、売上次第で利益配分もある。

・武田氏は帰国後、8月昆明に戻る。昆明から2時間の場所に、総面積67ヘクタールの「嵩明生態園」があった。彼はトマト「桃太郎」やキュウリ/パブリカの種子をまいた。翌年3月熟したトマトが生った。かじると甘く、日本と同じ味だった。※種子管理の法律があると思うが、問題ないのかな。
・彼が作ったトマトは、四川省成都市にあるイトーヨーカ堂の現地法人「成都伊藤洋華堂」で4月から販売される。6月からはパブリカも出荷される。

○農業企業「晨農集団」
・昆明市にある農業法人「晨農集団」は、野菜の苗栽培/野菜の加工/包装材料製造/物流/販売などを行っている。省内に670万㎡の農地を持ち、年商2億元(35億円)で、省内の非公営農園企業15強の一つである(※農業企業/農業法人/農園企業、同じなんだろうな)。1992年創業で、苗栽培から始まり、成長拡大した。産品は東南アジア/カナダ/オーストラリア/日本などにも輸出されている。※中国の農業生産性は随分低いらしいが、どうなんだろう。

○昆明は東南アジアの玄関口
・昆明は中国政府により、東南アジア/南アジアの玄関とされている。またアセアンとの実務レベルの交渉は、雲南省が行っている(※そんな事があるんだ)。従ってメコン河流域問題の多国間協議は、雲南省が行っている。そのため空港/鉄道/高速道路などの交通インフラが建設されている。また最大級の巨大国際卸売りセンターもある。※昆明は内陸にあるが、ベトナム/ラオス/ミャンマーに近いな。

<5.3 アリババと農村と毛沢東>
・2014年アリババは農村でのネット販売に100億人民元(1900億円)を投資すると発表した。

○シアーズと毛沢東
・1947年毛沢東は「シアーズの通信販売は中国に向いているのでは」と語っている。彼は「中国のような広い国では、全国に在庫を持つより、注文の都度、届ける方が良い」と考えたようである(※この頃は電話もないのでは。まあ毛沢東なので)。シアーズは、19世紀末から米国の農村でのカタログ販売で伸びた企業だ。

○潜在成長性が高い農村市場
・農村部では耐久消費財の普及率が都市部より20~30%低い。パソコンは43%で、自家用車は半分以下である(※スマホがあり、トラックがあれば困らないのでは)。アリババはネット販売を推進しているが、現物を手にできない通信販売では、日本商品に商機がある。また各地の特産品のネット販売も期待できる。

○ネット利用者、年4千万人増
・2015年中国でのネット利用者は4千万人増え、6.9億人となった。これは全人口の50%である。農村部は2億人、都市部は4.9億人だが、農村部は2億人伸びる余地がある。

○通販の発展を妨害する偽ブランド品
・「天猫」(アリババのネット販売サイト)の利用者は、「ここでは高級商品は購入しない」と言う。偽ブランド品が多いからだ。国の調査では、正品率は6割しかない。中国では粉ミルクへのメラニン混入事件(2003年)、農薬入り餃子事件(2007年)なども起きている。

<5.4 農民7千万人貧困脱出>
・2015年習主席は「今後5年間で、農民7千万人を貧困から脱出させる」と演説する。これは2020年までの「全面小康」と同調している。

○4対策で貧困退治
・貧困の国際基準は「1人当たりの消費が、1日1.25ドル未満」だが、中国の農村部にはこれに該当する人が7千万人いる。
・中国政府は貧困の原因は、病気42%/災害20%/学歴10%/身体能力8%/その他20%とした。その対策を、①生産力改善(3千万人)-農業/郷鎮企業の支援、②移住(1千万人)-別の農作地域への移住、③職業転換(1千万人)-農村部から都市部への移住、④社会保障(2千万人)-老齢者/心身障害者への生活保障とした。※病気/身体能力が5割もいるけど。

○農民を経済改革の受益者に
・2015年より中国政府は土地改革を試行している。農民の土地使用権の売却価格は、農産物の生産者価格が基準のため、企業が購入する価格より2桁安い。これが農民と政府の対立を生んでいた。

○土地担保融資
・2015年湖南省衡陽市の農民が茶畑を担保に20万元を融資された。同市では林地流通権以外に、①農地使用権流通権、②山地貯水池経営請負権、③農民住宅所有権、④農業機械所有権を担保にできるようになったからだ。※この辺り難解。
・同様の取り組みは各地で試行されている。安徽省では、「農民土地株式制合作社試点工作展開に関する意見書」により農家の集団化が行われている。※他の事例も紹介されているが省略。
・中国政府が模索しているのは、土地使用権を農民が売却・賃貸・抵当する事を認めるが、使用権の細分化/非農地化/地質劣化の防止である。新制度は農民が共同組合/企業を設立するのを目指している。

○経済成長の果実分配
・この土地改革の目的は、土地使用権の移転・賃貸による利益が農民に還元されない現状の是正で、経済成長の利益を公正に分配し、農民の支持を得る事にある。
・1970年代の経済改革により広東省深圳では、外資メーカーに土地使用権を譲渡し、数億円の収入を得た者や、マンション建設用地として土地を賃貸し、毎月数万元の地代を得る者がいる。このような土地成金が多出するだろう。一方で農地の細分化/非農地化/荒廃が、社会を不安定化させかねない。

○日本の土地成金時代
・1960年代後半、産経新聞の福田定一(司馬遼太郎)は東大阪市の都市化に驚いた。また土地売却により多額の不労所得を得た農民の結末(※省略)を嘆いた。彼は「結構な国家」だった戦後日本の倫理が崩壊する危機感を抱いた。中国政府は日本経済を研究し、土地が完全市場化された場合の破壊力を当然認識している。

<5.5 英銀、早くも農村進出>
・2007年湖北省随州市の小さなビルに「HSBC」のマークが掛かった。HSBCは世界最大級の英国の銀行で、戦前の中国では最大だった。改革開放により中国に戻り、リテール市場に挑戦している。

○村鎮銀行
・「匯豊村鎮銀行」(資本金1千万元)の開業式にHSBC中国の会長なども出席した。中国では外国の商業銀行の支店開設の規制が厳しいため、村鎮銀行の開設となった。村鎮銀行は農民/農業企業向け専業の金融機関だ。
・匯豊村鎮銀行は第1段として、地場企業・湖北同星農業の輸出金融を行う。第2段として、地場農業信用合作社と提携し、農家向け融資を行う。

○広がるHSBCネットワーク
・HSBC中国は匯豊村鎮銀行以外に、北京市/重慶市など8省3市に12行を営業している。HSBC中国本体も支店/サービスセンターを170ヵ所を有する。中国革命前、HSBCはリテール業務に不熱心だったが、革命後、香港地場最大手・恒生銀行を子会社にして支店網が最大になった。今はリテール業務に自信を持っている。

第6章 世界最大消費市場へ、車も家も売れる

○レクサス4千台が燃える
・2015年天津市で大爆発事故が起こる。これで天津が輸入車ハブである事が明らかになった。中国は一般消費者の貯蓄性向が極めて高く、潜在性の高い消費市場だ(※貯蓄性向は低いと思っていた)。「中国が世界の工場でなくなる」とは、中国経済が衰退するのではなく、経済が外需主導から内需主導に移行する事を示している。

<6.1 輸入車破壊1万台超>
○トヨタ生産再開も・・
・2015年8月天津港で4回にわたり爆発が起こり、185人(内消防隊員110人)が亡くなる。この時、輸入車約2万台が破損する。原因はニトロセルロース/硝酸アンモニウムによる爆発だった。※先日レバノンでも大爆発があった。
・事故から5週間後、現場に入った。地下鉄は再開されていないので、タクシーで回った。運転手は「天津一汽トヨタ(TFTM)は、まだフル操業じゃない」と言った。

○トヨタ中国最大生産基地
・TFTMは従業員1万2500人で、2014年ヴィオス/カローラ/クラウンなど44万台を生産した。トヨタは広東省にも同規模の広汽トヨタ自動車(GTMC)を持つ。
・トヨタは世界製造・販売でGM/VWと競っているが、トヨタは中国市場で遅れを取っている。また高級車レクサスは中国で生産していない。一方BMW/アウディ/ビューイックなどは中国製品の日本投入を考えている。

○出遅れは、禍福はあざなえる縄の如しか
・世界の家電・情報通信メーカーは中国市場に進出し、技術的優位からシェアを独占してきたが、その後技術を吸収し、コスト安で台頭する中国メーカーに敗れてきた。これが自動車業界でも起きないとは限らない。GM/VWのように中国に依存し過ぎるは問題である。しかし高級車市場は外国車の天下が続くだろう。そう考えれば中国に近い福岡県にレクサスの工場を持つトヨタは優位にある。
・天津爆発事故で、トヨタはレクサスなど4700台が破壊された。しかしレクサスは人気車種で、2015年は前年比114%増の8.9万台が売れた(※これは前年比114%で、14%増なのでは)。国内が112%だったので、爆発の影響はないようだ。

○インフィニティ追走
・一方日産自動車は中国での高級車製造・販売に積極的である。2014年11月インフィニティの生産を、湖北省襄陽市の東風日産工場で始めた。中国でのインフィニティの販売は好調で、2016年1月は前年同月比36%増の3600台を販売した。

○並行輸入車の7割は天津港から
・天津爆発事故で以下の自動車が破壊された。ルノー6千台/現代・起亜4千台/フォルクスワーゲン2.8千台/メルセデスベンツ100台/三菱自動車600台。天津港は中国が輸入する自動車の55%を扱っている。並行輸入車も多く、全体の7割を天津港が扱っている。
・正規ディーラーの輸入車は汚職退治の影響を受け、並行輸入車の方が2割安くなっている。カーマニアなどが並行輸入を利用している。※ゴルフクラブでも並行輸入が安いとかあった。

<6.2 金持ちも一般消費者も>
・「お金を儲けるには2つの方法がある。1つは貧乏国の金持ちを顧客にする方法。もう1つは金持ちの国の貧乏人を顧客にする方法だ」。これは「金儲けの神様」と云われた邱永漢の金言だ。今の中国は金持ちが世界一多いが、貧乏人の消費は世界2位である。※世界の4人に1人が中国人だったかな。

○個人消費世界2位
・彼はさらに詳説している。「貧乏国の金持ちは日本の金持ちより10倍金持ちで、自家用ジェット機などを保有している。一方金持ち国の貧乏人はカラーテレビ/車/冷蔵庫などを持っている。相手にするなら、金持ち国の貧乏人だ」。これまで日本の企業は中国の金持ちを顧客にしてきた。ところが今後は貧乏人を顧客にする時代だ。

・2015年中国の個人消費額は4.2兆ドルで、米国(12.4兆ドル)に次ぐ2位である(※でも随分差がある。1人当たりにすると1/10位かな)。しかし中国が都市化される事で、2025年には米国を抜くとされる。2030年都市化率は70%を超え、都市に10億人が住むようになる。このビジネスチャンスを逃す手はない。※本書には一貫してビジネスチャンスの視点がある。

○贅沢品、旅先でネットで
・2015年中国人による時計・宝飾品・ブランドファッション品などの奢侈市場の消費は、前年比9%増え1168億ドルとなり、世界の46%を占めた。2位の米国は19%である。ここで特徴的なのは、この消費の78%が、旅行先/インターネットなど海外で行われている。※国内に店舗を設けるのは、規制が厳しそうだ。

○億万長者が世界一多い
・2015年超億万長者(資産20億元以上)は1877人で、中国人(香港、台湾を含む)が596人となり、世界で最も多くなった。その1ランク下の億万長者(資産5~20億元)の中国人は1.7万人いる。また資産100万ドル(6500万元)以上は360万人いる。彼らが奢侈市場を支えている。

○なぜ中国の富豪は増えた
・富豪が増えた発端は、1990年代に朱鎔基首相が行った国有企業改革による。基幹産業/先端技術の国有大企業を除く国有企業を民営化・私営化した事による。これは年金・医療などの福利厚生費の削減が目的だった。
・利益を出していた企業は、共産党員によりMBOされた。私営企業経営者の党員の割合は、1992年13%だったが、2002年30%に上昇している。※逆に私営企業経営者を党員にしたため、党員が増大したと聞いたことがある。

<6.3 過剰在庫「鬼城」、出稼ぎ者を市場に> ※何時もだが分かり難いタイトル。
・2010年代、過去最大規模に膨れ上がった不動産在庫を出稼ぎ農民に買ってもらう構想が実現しそうである。これにより戸籍移動も円滑に行えそうだ。

○農民を買い手に
・2016年住宅及び都市農村建設相・陳政高が、この構想を発表する。不動産販売=実需は毎年11~12億㎡あり、不動産在庫=供給が年1億㎡増えている(※在庫=供給?供給は毎年12~13億㎡なのでは)。特に需給がアンバランスなのが3~4線都市(5大都市=上海・北京・広州・深圳・天津と省・自治州の首府より小さい都市)だ。
・中国農民銀行は「農民安家賃」の名前でローンを提供し、1月だけで5.4万世帯のローンを提供した。農民には様々な補助金が出ているため、貸し倒れは少ない。

・現在出稼ぎ農民が2.5億人いる。中国政府は貧困退治政策として、出稼ぎ農民の都市定住を推奨している。しかし戸籍/社会保障/子女教育/農地耕作権などの関係法令がまだ完備されていない。
・四川省政府が省内の主要9都市でアンケート調査した。その結果、出稼ぎ農民で都市移住を希望する者は15%だけで、希望しない者は54%もいた。しかし出稼ぎ農民2.5億人の15%が住宅を購入した場合、33.8億㎡の不動産がさばける。これは現有在庫の4倍もある。

○鬼城解消か
・南京郊外の「鬼城」(ゴーストタウン)に行ってみると、幾らか明かりが点っていた。この物件は条件が悪くないので、売れているようだ。売れない高級マンションは政府が買い取り、改造して分譲する事もありそうだ。

<6.4 日本百貨店文化、故郷に帰る>
・日本の百貨店は上海生まれである。しかし今の上海には百貨店文化は復活していない。それを復活させるのは、日系百貨店かもしれない。※ショッピング/食事など家族で一日中楽しめる場所(総称を忘れた)は人気のようだが。

○高島屋、シンガポールから上陸
・2012年尖閣諸島の国有化により、各地で反日デモが荒れ狂った。その年末、上海の日本総領事館から近い場所に高島屋が開店した。2015年2月期決算で売上高は、目標の100億円に及ばない62億円だった。しかしシンガポールでの成功例があるので、心配はしていない。

・シンガポールの高島屋は、ショッピングモール街オーチャードロードの真ん中にある大型モール義安シティにある。その成功の要因は立地にあるが、他に2つある。1つは他業種とのコラボで、紀伊国屋書店/ベスト電機(※電器?)/コールドストレージ(高級スーパー)/プラダなどが一堂に会している。特に紀伊国屋書店は、同国で最大の書店で、1日で1万人以上の来客がある。もう1つは、義安シティの前は噴水広場で、休日には必ず芸術イベントが開かれる。※これが要因?
・1997年私が訪れた時は客がいなかった。しかし2015年2月決算で、シンガポール店は500億円の売上高があった。上海店もまだまだだが、「10年後の黒字」を目指している。

○三越に花やしきと旅館
・上海には戦前、共にオーストラリア系華僑が創業したシンシア(先施)とウィンオン(永安)があった。1920年代それを訪れた日本の文人は、「三越と浅草花やしきと旅館をくっ付けたもの」と称している。その頃に大丸百貨店も開業している。その大丸が、2015年上海の南京東路にオープンした。大丸は、1960年代香港/バンコク/シンガポールなどで実績がある。

<6.5 天津の多彩な顔、日系が賭けるエコシティ>
・天津市郊外にエコシティが建設されている。これは中国とシンガポールの合弁で始まったが、日本企業も参加している。

○天津エコシティは大型国家プロジェクト
・天津生態城(エコシティ)は爆発現場から30分程の所にある。事務局から説明を聞けたが、質問はできなかった。実は天津エコシティは10年前から取材してきた。

○エコシティ100ヵ所計画
・中国にはエコシティを100ヵ所建設する計画があり、天津はその先行事業である。この背景に、1990年代後半からの環境汚染や都市化の促進がある。天津エコシティは投資額2500億元で、総面積30㎢の大事業だ。2020年までに11万戸のモデル都市(※住宅?)を建設し、再生可能エネルギー利用率20%/水道水比率100%/廃棄物リサイクル率60%/グリーン交通比率90%/グリーン建物比率100%が目標だ。※グリーン建物って何だ?
・この事業に日立製作所/三井不動産レジデンシャルが参加している。三井不動産レジデンシャルは環境配慮型住宅を2650戸を建設・分譲した。

○環境保護産業4兆元、15%成長
・2014年環境保護省は、「環境保護産業が年率15%成長すると期待する」と表明した。環境保護産業は大別して、①インフラの建設、②既存汚染の除去の2つがある。①は大規模だが、②は比較的容易に営業できる。また中国は環境基準が甘かったため、有害物資の除去作業の需要も多い。

第7章 人民元で儲けろ、手本は英国

・対中経済関係において、日本と西欧の違いは金融部門への積極性にある。中国経済の2015年の最大の話題は、国際金融界での地位向上である。アジアインフラ投資銀行(AIIB)の開設はその一つだ。日本はこれへの出資を断ったが、英国は率先して出資した。また人民元ビジネスが最も先行しているのは香港の金融機関だが、そのリーダーのHSBCは英国資本だ。日本は英国を参考にすべきである。

<7.1 習主席は英国に何を期待したか>
・2015年10月習主席は英国を訪問し、手厚い歓迎を受けた。両国は「黄金時代に入った」と称される。日本は英国に学ぶべきである。

○中英黄金時代
・2015年習主席はシティでの歓迎会で「シティは中英協力深化の縮図で、経済開放の見本である」と述べる。シティでは4兆ドルの資産が運用され、中国の5大商業銀行も営業し、人民元取引センターもある。彼は最後に、「両国が世界戦略で全面的にパートナーになり、黄金時代を作る」と強調した。
・この「中英黄金時代」は、英国キャメロン首相が言い出した言葉である。オズボーン財務相も毎年訪中している。

○世界一の金融センター
・英国の金融業は世界最高峰にある。「Z/Yen」が発表する「国際金融センター指標ランキング」ではロンドンとニューヨークが首位を争っている。国際決済銀行(BIS)が発表する外国為替取引額では英国が全体の42%を占め、断トツである。
・2016年2月、AIIBの北京常駐の副総裁5人を発表した。英国からは元主席財務官ダニー・アレクサンダーが選ばれた。他は韓国/ドイツ/インドネシア/インドから選出された。

○人民元国際化
・2015年11月国際通貨基金(IMF)は、人民元を特別引出権(SDR)構成通貨に採用すると発表する。2015年人民元の貿易決済額は7.2兆元(1.1兆ドル)あり、貿易決済で人民元が圧倒的な存在感があるからだ。
・これにより「人民元が国際通貨の仲間入りした」と云えるが、以下の4点では5%以下である。①外貨準備、②外国為替取引、③国際的な銀行間取引、④国際的な債券発行。そのためSDRへの採用をバネにしたいところだ。それには英国の支援が重要になる。

○人民元国際化で先行する英銀
・2014年10月英財務省が30億元(520億円)の人民元建て債権を発行する。これはその前月オズボーン財務相が提案した案件である。また習主席が英国を訪問した翌日には、中国人民銀行が海外初となる人民元建て手形を50億元(850億円)発行している。
・日本では、2015年6月三菱東京UFJ銀行が人民元建て債を発行している。同行は中国法人/香港法人を通して、人民元建て債を発行している。同行の日中間の貿易決済で、人民元は1割に満たないそうだ。

○中英証取リンクも
・ロンドン株式取引所(LSE)と上海証券取引所とのリンクが進んでいる。LSEでは人民元建て債39点が発売され、人民元投資ファンド7種類が取引され、中国企業49社が上場されている。※ロンドン株式取引所かどっかが、中国の証券取引所(上海?)に吸収されなかった。

○英国が中国に求めたもの
・万達集団は、王健林個人も企業もロンドンの不動産に投資している。万達のライバル深圳万科は、2025年までに総額1050億ポンド(17兆円)をインフラ投資する。
・英国が中国に求めるのは、金融投資ではなく、雇用を生む製造業への投資である。その最大の投資は華為科技によるもので、13億ポンドを投資し、1千人の雇用を生んでいる。※今ファーウェイ問題があるが、どうなっているんだろう。
・習主席の訪英中に、以下の投資案件が発表された。①ヒンクリー・ポイント原発-60億ポンド(1兆円)。②アストンマーチンの電気自動車事業-5千万ポンド(80億円)。③ロンドン無公害タクシー開発-5千万ポンド。④ロンドン東部再開発-国有投資企業・中信が40%出資。

○中英関係2012~15年
・中英の親密さは、閣僚級以上の相互訪問を見れば明らかだ。それに比べ、日中間の交流は異常に疎遠である。

<7.2 ヘッジファンド撃退の香港、中国経済への最大の窓口>
○ヤム総裁の武勇伝
・1997年東南アジアを食い荒らしたヘッジファンドは、翌年香港に襲い掛かった。1997年7月私はビクトリア湾を望むホテルで朝食を取っていた。そこに飛び込んできたのが「タイ変動相場制へ移行」の第一報だった。タイは1ドル=25バーツの固定相場制を取り、外資を導入し、経済成長していた。ところが貿易収支は赤字で、不動産市場はバブルだった。それでヘッジファンドがシンジケートと化し、タイバーツを標的にした。

・1997年5月ヘッジファンドはタイ国内でバーツを調達し、ドル買いバーツ売りの空売りを仕掛けた。タイ中央銀行のドル準備は減り、2ヵ月後変動相場制へ移行する。
・1ドル=25バーツで調達し、1ドル=60バーツまで暴落させたので、投資利回りは50%である。しかしバーツの暴落は、タイ企業を直撃し、製造業の破綻が続出した。消費市場も不況に陥り、泰国トヨタ自動車の販売台数は3割まで落ちた。

○香港株式市場の攻防
・1998年8月香港特別行政区(SAR)の曽蔭権(ドナルド・ツァン)財政官は、行政会議(閣議)で「英国人が去って1年しかたっていないのに、衰亡してたまるか」と述べ、市場への介入を提案した。彼は貧家に生まれ、高卒で下級公務員になり、今の地位まで上り詰めた。
・タイで味を占めたヘッジファンドは、1997年10月以降、3回にわたり香港に攻撃を掛けていた。香港政府の金融管理局(HKMA)の総裁・任志剛(ジョセフ・ヤム)が30億ドルを使い撃退していた。
・当時HKMAは500億ドルの「外為基金」を擁していた。これは発券銀行(※香港ドル?)が発行相当額を預けている米ドル/財政備蓄/新界地区土地使用代金で構成されていた。

○香港政府vsヘッジファンド
・1998年夏、ヘッジファンドは4回目の決戦に挑んできた。7月「人民元の切り下げ、香港ドルのドルペッグ制度離脱」の情報を流した。手形で300億香港ドルを調達し、1年ローンで資金を用意した。香港株式市場のハンセン指数先物の空売り契約を結び、さらに銀行/証券から多量の香港株を借りる契約を結んだ。※資産家が資金をヘッジファンドに託すのだろうな。

・1998年8月3日ヘッジファンドはニューヨーク/シドニー/香港/ロンドンと香港ドルの売りに出た。翌日も地球を一周した。HKMAのヤム総裁は20億ドルを使い、香港ドルを買い支えた。
・10日から戦場は株式市場に移った。HKMAは42億ドルを使い、買い支えた。しかし13日ハンセン指数は7千ポイントを割り、このまま28日を迎えれば、ヘッジファンドは年換算で25%の利回りを得る事になる。その後白兵戦は続く、先物契約が1日11万枚に達する事もあったが、50億香港ドルで買い支えた。27日出来高は過去最高の270億香港ドルに達するが、政府側が買い支えた。

○ヘッジファンドを押し出した政府
・先物決算日の28日、ヘッジファンドは最後の決戦に出る。前日欧州市場は3~8%下落し、ダウ平均指数も218ポイント暴落していた。この日取引額は10年は破られないだろう790億香港ドルに達する。結果ハンセン指数は、介入前より1169ポイント高い7829ポイントで終わり、ヘッジファンドは撃退された。※アジア通貨危機は必ずしもヘッジファンドが勝った訳ではないんだ。
・9月7日ツァン財政官は勝利宣言する。香港政府は1580億香港ドル(210億ドル)を投入し、ハンセン指数構成銘柄を買い漁った。1年後ハンセン指数が1万ポイントを超え、これらを「トラッカーファンド」として販売し、香港政府は利益を得た。

○香港証券市場、深圳ともリンク
・2016年3月中国証券監督管理委員会が「深港通」(深圳・香港両証取間の相互乗り入れ株取引)の導入を発表する。両証取の会員はそれぞれの銘柄を取引できるようになる。これで旅行先の香港でも購入できるようになる。

○小口投資家を守る香港政府
・日中貿易で人民元建て取引への関心が高まっている。これには邦銀の後押しが必要で、香港はその足場になる。
・香港政府は個人投資家の味方である。2008年リーマンショックの時も、香港政府は「リーマンミニ債権」を時価で買い戻した。香港金融市場は財産を託すに足ると信じる。

第8章 環境汚染も商機、日本のお家芸の出番

○5年間で300兆円投資
・中国の環境汚染は問題だが、大気・水質・緑化などの面で改善がみられる。日本の環境産業は93兆円だが、面積が24倍ある中国は60兆円しかない。中国の環境ビジネスは無限にある。中国は電気自動車(EV)500万台を掲げている。また緑化事業も大規模で、環境モデル都市も各地に建設されている。

<8.1 新たな大気汚染源>
○華北平原を覆う煙
・2015年華北平原をトウモロコシの茎を焼く煙が覆った。以前は肥料・飼料や燃料にしていた。これは機械化が大きく影響している。コンバインは実だけを取って、茎を残すのだ。河北省のトウモロコシ栽培面積は3100㎢で、牛4700万頭の飼料になる。しかし牛は390万頭しかおらず、そのまま燃やす事になる。
・2015年国務院環境保護部(環境省)の調査では、野焼きが前年比7%多い862ヵ所観測された。山東省179ヵ所/河南省155ヵ所/遼寧省110ヵ所となっている。

○PM濃度は改善しているが
・中国367都市のPM濃度は改善しているが、8割の都市が国の基準を満たしていない(※8割も)。北京のPM2.5濃度は前年比17%低下したが、2015年12月に391μg/㎥を記録した。これは日本で外出自粛が勧告される70μgの5倍以上である。※酷そうだな。
・北京市環境保護局は、大気汚染を5%引き下げるため、165億元(2900億円)投じると発表する。これには農村部での石炭消費の削減、古い自動車の運転禁止、汚染源企業300社の閉鎖などが含まれる。※日本は海に囲まれ、雨が降るので救われている。

○急拡大する環境ビジネス
・第13次5ヵ年計画では短期で6兆元(105兆円)を環境保護に投資する。2015年7月環境省環境企画院の副院長は、「今の大気・水質・土壌の環境汚染は史上最悪で、短期(1~2年)で6兆元の投資が必要」とした。環境企画院は、「13期全期で総額17兆元(300兆円)必要で、年2兆元ずつ増やす」としている。

<8.2 古都を走るEバス、ブラジル/米国でも>
○南京と京都
・2014年夏頃から、京都/南京でBYDのEバスが走るようになった。2015年2月京都駅~京都女子大前などの3路線でEバスが運行を始めた。これは国土交通省の「地域交通グリーン化事業」の支援対象である。導入されるEバス5台は、BYD製「K9」である。K9はリン酸鉄リチウム電池を搭載し、1回の充電で250Km走行できる。

○オリンピックの街でも
・K9は2016年リオデジャネイロのオリンピックでも運行される。ブラジルでの生産は2015年3月から始まっている。私の住む南京市では、2014年からK9が800台運行されている。

○政府とメーカーがギブ&テイク
・南京市での運行はギブ&テイクで、2012年BYDは工業団地にEV工場を立ち上げ、雇用と地代収入を市にもたらした。BYDは武漢/長沙/杭州/天津でも同様の戦略を進めている。

○本命はEVセダン
・これでBYDがEV市場で覇を唱えられる訳ではない。大型商用車の技術は乗用車に使えないのだ。大型商用車は世界で250万台、一方乗用車は1億台以上である。BYDの本命はハッチバック乗用EVの「e6」である。

○EV重視の中国政府
・2014年国務院交通運輸部は「タクシー/市バス/配送トラックなどの新エネルギー車率を、2020年までに30%以上にする」と業界に提案している。

○携帯用電池メーカーとして創業
・1995年BYDは冶金学者により創業され、携帯電話用電池で成功し、2003年西安秦川汽車を買収し、自動車製造業に進出した。BYDはEV専業を宣言しているが、2015年秋南京で開催された国際自動車ショーに出展しなかった。それは壁にうち当たっているからだ。

○EV市場50万台、環境政策追い風、2015年実現?
・2014年新エネルギー車(電気自動車、プラグインハイブリッド車)の販売台数は7.5万台だったが、2015年には33.1万台に激増する。EV専業の20数社は年間10万台を目標にしている(※江蘇道爵実業/新大洋電動車科技/山東唐駿電動汽車の目標が記されているが省略)。この調子だと、2012年国務院が発表した「2015年までに新エネルギー車の生産販売台数を50万台、2020年までに500万台」を達成できそうだ。

○2014年販売台数7.5万台、カウントされない軽EV
・2014年電気自動車/プラグインハイブリッド車は7.5万台売れた。ところがこれに道爵/新大洋/唐駿などが販売する軽EV(低速度電動車)36万台は含まれていない。軽EVの魅力は低価格だ。BYD「e6」は30~36万元(525~630万円)するが、軽EVは3.6万元(63万円)である。

○モジュール化される自動車
・中国製造業の特徴は、中核装置が外販されている点にある。インテルのCPUが外販されているように、トヨタのエンジンが外販されている。三菱自動車のディーゼルエンジンも20数社の車が搭載している。日本の完成品メーカーが部品メーカーを抱え込む系列と大きく異なる。
・2000年代初め中国には百社以上の自動車メーカーがあった。さらに農業機具とされ自動車の規制を免れる「農車」メーカーがあり、軽EV市場に参入している。

○非摘出子=軽EV
・「純電動乗用車技術条件」でEVとして認証され、免税/購入補助の対象になるには、様々な条件が必要になる。①5人乗り以下、②電気のみで走行、③最高速度80Km以上、④連続走行80Km以上などである。山東唐駿の主力車「唐駿王子」は最高速度が55Kmなので、この条件に適合しない。国家経済改革委員会は、軽EVを「内燃エンジン車でもEVでもない」とし、非合法生産/非合法販売/非合法路上走行の「三非製品」としている。※そんな非合法製品が36万台も売れているの?
・中央政府が軽EVの生産・販売を取り締まった例はない。一方地方政府はナンバー取得を始め様々な規制を定め、管理下に置いている。山東省では軽EVを購入し、警察・交通行政部門に配備している。これは習主席が提唱する、個人の起業を推奨する「中国夢」運動にも反する。

○なぜ未公開
・中央政府が軽EVを認めていないのは、軽EVがローテクのためである。軽EVは電池に鉛蓄電池を使っている。電極の鉛、電解液の希硫酸は共に有害である。※この8.2章は面白かった。

<8.3 紅都、リンゴ輸出の緑都に>
・陝西省延安市はエネルギー産業地帯だが、環境緑化の先頭ランナーで、「緑色革命」をリードしている。

○省待遇の環境規範都市
・2014年延安市の「革命故地延安市エコ文明先行模範区建設実施案」が「全国エコ文明模範地区第一陣」に選ばれる。全国55ヵ所が選ばれ、これには浙江州杭州/安徽省黄山などの景勝地が含まれている。延安は「退耕還林」(耕作地を森林・草地に戻す一方、土地改良/代替産業で農民を自立させる)でも対象となった。
・延安の環境の良さを示す以下のデータがある。①緑化率68%、②累積造林面積50万ヘクタール、③大気優良日322日、④飲料水源水質達成率98%以上。※①②はピンとこない。

○革命第一世代は「うらやましい」
・青少年からすると「革命第一世代(毛沢東、周恩来、劉少奇)は、こんな環境の良い土地で指導したのか」となる。市街地は緑に囲まれ、学校/病院/高層集合住宅もあり、繁華街も賑わっている。※詳しく説明されているが省略。

○エコ文明建設計画
・2013年延安市は、全国レベル環境保護模範都市化/同森林都市化の2020年までの目標を掲げている。※森林/土壌/大気/水質などの目標が記されているが省略。

○エコ都市を実現する延安の経済力
・延安がエコ都市を実現できたのは、北京/上海/天津や江蘇省/浙江省と並び、1人当たりGDPが1万ドルを超える富裕都市だからだ。GDPの割合は第1次産業8%/第2次73%/第3次19%で、圧倒的に工業都市で、石炭・天然ガスの大産地である。

○環境を支えるリンゴ、日本の3倍
・2014年米国商務省動植物検疫局係官らが延安のリンゴ園を訪れ、環境保全状況に賛辞を贈った。米国に輸入されるリンゴジュースの6割は中国産である。延安のリンゴ生産量だけで、日本の3倍以上ある。延安市洛川県は洛川リンゴの原産地である。

○ただの田舎町だった20年前
・1998年延安で日本語教師をしていた小田空によると、延安は遅れている所だった。当時の農民の収入は1千元に満たなかったが、15年後には8千元を超えている。延安は緑色革命の先頭に立っている。

○日本とドイツも緑化援助
・2000~12年ドイツ政府が無償援助による造林事業を行った。2万ヘクタールが植林され、延安の森林率は4.3%向上した。この事業を管理したのが「林業外援工程管理弁公室」である。中独財政協力植林事業は1993年に始まり、15省90県余りで行われ、22件に達し、投資額は20億元を超えている。※やはり中独は仲が良いのかな。
・2000~07年日本も林業関連の援助を行っており、1200億円に達している。これは造林面積123万ヘクタールで、第10次5ヵ年計画の1.7%に相当する。陝西省だけで42億円(3.2億元)で、10万ヘクタール植林し、林道や技術指導センター/生態観測所などを建設している。ODA植林事業の終了後も、政府系の日中緑化交流基金により植林が続けられている。※黄砂の発生源は延安やその北の一帯かな。

第9章 AIIB、アジアはインフラを求める

○雪崩を打ったアジア、そして欧州
・2015年アジアインフラ投資銀行(AIIB)が話題になった。その締切り間近に英国が申請し、欧州の主要国が雪崩を打って参加表明した。しかし2014年秋、北京でAIIB設立が提案された際、国境問題を抱えるインド/フィリピンなど21ヵ国が加盟を表明している。アジアはインフラ投資を渇望しているのだ。私をそれをガンジス川の岸辺で見た。

<9.1 バングラデシュ歴史的架橋>
・バングラデシュのパドマ橋はGDPを0.6%増やすとされる。1990年代日本の政府系機関や日米の影響力がある国際金融機関で進められていたが、2013年バングラデシュ政府の単独事業になり、中国企業が施工を受注した。

○全長14Kmの大橋
・パドマ橋は、ガンジス川の支流パドマ川に架かる全長14Kmの大橋である。同橋はバングラデシュを東西に分断しているガンジス川に架かる最初の橋になる。現在はフェリーで渡るため、最短でも5時間掛かるが、これが10分余りになる。

○首相が日本政府に直談判
・2010年12月ハシナ首相は訪日し、同橋の建設を緒方貞子JICA理事長や菅首相に要請した。2011年5月550億円の円借款契約が調印される。建設資金29億ドル(3480億円)も確保される。その内訳は、世界銀行12億ドル/アジア開発銀行(ADB)6.1億ドル/JICA4億ドルなどとなった。バングラデシュが同橋の建設を要請したのは1990年代で、2003年JICAが事業化調査(FS)を行っていた。しかし事業が進まない事に同国がしびれを切らしたのだ。

○中進国目前のバングラデシュ
・2011年円借款の調印時、JAICAは「バングラデシュは人口1.6億人で世界7位で、『ネクスト11』(BRICSに続く新興国)である」としていた。成長を牽引しているのがアパレル製造業で、年215億ドルを輸出している。また中東への出稼ぎ労働者から年140億ドルが送金され、農村の消費を支えている。首都ダッカにはビルが立ち並び、マーケットには多種多様な食料品・日用品・家電・携帯電話があふれている。しかし地下鉄は通っておらず、オフィス街を一歩出れば、文盲の物乞いにねだられる。

○国内改革を要求する世銀としない中国
・バングラデシュが日本/世界銀行の援助を断ったのは、内政干渉に反発したからだ。それを救ったのが中国である。
・工事現場を訪れると、その巨大さに驚く。施工業者は中鉄大橋局集団で、長江に初めて橋(武漢大橋)を架けた企業だ。最近では杭州湾海上大橋(全長36Km)を建設している。

○世銀、パドマ橋融資をキャンセル
・2012年6月世界銀行は、「政府高官による収賄があった」として融資を中止した。さらにバングラデシュに対し、①関係した公務員の休職、②特別捜査班の設置と起訴、③世銀が設置した委員会への真相の報告を要求する。同国がこれに同意したため、世銀は軟化するが、同国は「汚職はなかった」と報告する。2013年2月、結局日米主導によるパドマ橋事業は終焉する。
・2013年6月パドマ橋主要部分の入札が行われるが、応札に指名されたのは中鉄大橋局集団など中国系2社、韓国系2社などであった。しかし同国への信用から、応札の延期が続いた。※AIIBの最初の融資先がバングラデシュだったと思うが、パドマ橋建設だったかな。

○パドマ橋、中国企業が落札
・2014年6月パドマ橋建設を中鉄大橋局集団が受注する。総額30億ドルを超えると思われるが、中国の国策銀行・中国輸出入銀行がつなぎ融資したと思われる。
・2015年12月ハシナ首相は、「パドマ橋は2018年末に予定通り完成する。全体の62%(主橋工事13%、河川改修17%、付属道路59%)が完成している」と述べている。彼女は工事遅延の原因を、「①前政権の計画変更、②世銀のいわれのない汚職疑惑による融資キャンセル」と述べた。
・彼女の実父は初代大統領である。1975年彼女の英国滞在中、実父はクーデターで暗殺されている。帰国後、1996年アワミ連盟が総選挙で勝ち、初めて政権を獲得している。前政権BNPのジア党首も1981年に暗殺された大統領の未亡人で、二人は「二人の女帝」と呼ばれている。

○世銀・IMFvs途上国
・世銀の汚職への干渉は、過度の内政干渉と思う。1997年アジア通貨・金融危機で、世銀と姉妹関係の国際通貨基金(IMF)が各国に政治・社会改革を要求した。この各国の事情を無視した要求は反感を招いた。被援助国は「金を出すが、口も出す」世銀を警戒し、「金を出すが、口は出さない」金融機関の誕生を望んでいる。これがAIIB設立に対し、アジアの途上国が直ちに賛成した理由である。※これは重要なポイントだな。パクス・アメリカーナからパクス・シニカへの移行の象徴か。

<9.2 自信と不安の中国の開発援助>
・中国のアフリカへの開発援助は1960年代に始まっている。アジアでは貿易→投資→インフラ協力と進んだが、アフリカではインフラ協力→貿易→投資と進んだ。

○タンザン鉄道がアフリカ関係の起点
・2013年習主席はタンザニアの中国人墓地を訪れた。ここにはタンザン鉄道工事に従事した51人が葬られている。タンザン鉄道(全長1860Km、1970年着工/1976年開通。※長いな)はタンザニアとザンビアを結ぶ鉄道で、中国が4.3億ドルを無利子で供与した。当時の中国は国連代表権を持っておらず、外貨準備も30億ドルしか持たなかった。
・当時の中国は「革命外交」を掲げ、民族独立運動/社会主義革命運動を支援していた。タンザン鉄道はその一環で、間接的に大成功したと云える(※革命外交か。ソ連が中国を援助していた時期もあった)。1971年中国は国連に復帰するが、賛成76ヵ国中26ヵ国がアフリカ諸国だった。1979年中国の対アフリカ貿易は輸出入で8億ドルに過ぎなかったが、安定的に拡大し、2000年アフリカにとって中国が最大の貿易国となる。

○対アフリカ貿易・投資は続伸中
・2000年10月「中国アフリカ協力フォーラム」(FOCAC)が設立され、中国とアフリカの経済関係が飛躍する。これを受けて、債務減免/関税免除/人材育成基金の開設/出国制限の緩和などが行われる。
・輸出入額は、2002年50億ドルから2008年500億ドルに急増し、2015年には3千億ドルに達した。投資も2008年117億ドルと過去最高になり、2014年累計で870億ドルになった。陳徳銘・商務相は「今後も中国企業の対アフリカ投資を推奨する。インフラ建設に3170億元(500億ドル)投資する用意がある」と述べている。これには「アフリカ緑の長城計画」などの環境援助も含まれている。

○広州アフリカタウン
・広州市に「アフリカ村」がある。アフリカ系を多く見かけ、スワヒリ語の看板もある。路上では「ドネルケバブ」を売っている。中国とアフリカ諸国の関係は1950年代に始まり、留学生などを迎え、広州には短期間の滞在者を中心に20万人のアフリカ人がいる。近年の資源需要の高まりで、アフリカ諸国との関係はさらに深まっている。

○アフリカ人、広州官憲と摩擦
・広州は歴史的に貿易で栄えたが、アフリカ人は地元民から暖かく迎えられていない。2012年タクシー料金で揉めたアフリカ人が派出所で亡くなり、アフリカ人による抗議デモが起こった。しかし地元民は彼らに同情しなかった。※米国での事件と類似しているな。

○ダム工事棚上げ-ミャンマー
・中国によるインフラ援助は、全てが順調ではない。ミャンマーのイラワジ川上流のミッソン・ダムでは、建設中止を求めるデモが起きた。同ダムは高さ152m/出力360万KWだが、電力の9割が輸出される。また巨大な貯水池で1.5万人が移住となり、農地/漁場/薬草採取場が失われる。また指定された移住先には農地がない。
・開発業者の中国電力投資公司は本流1ヵ所/支流6ヵ所にダム建設を計画(総出力1360万KW)しているが、これは三峡ダムの6割に相当する。ミャンマーへの累積直接投資(FDI)は中国147億ドル/香港72億ドルで、全体の46%を占めている。

○ダム工事再開?
・ミャンマーは電力が不足している。人民日報は「2015年ミャンマーのGDPは400億ドルだったが、ダム工事の中断で50億ドルを失った」と報じた。2015年5月北京で両国の水力発電の責任者が工事の再開について協議している。

○鉄道建設再開-ラオス
・2015年12月ラオスの首都ビエンチャンに中国共産党中央政治局常務委員・張徳江が招かれ、同国初の高速鉄道の起工式が行われた。これはビエンチャンから国境の町ボーデンまで403Kmを、2020年までに完成させる予定だ。総投資額は400億元(7千億円)となり、中国が6割を負担し、残りは中国からの借款となる(※全額中国?日本の新幹線も世銀から融資された)。当初2015年完成予定だったが、5年間棚上げされていた。

○ミャンマー再開せず
・2011年ミャンマーのマンダレーと雲南省昆明を結ぶ高速鉄道事業(全長1200Km、総工費200億ドル)でも覚書が交わされた。こちらも2015年が完成予定だが、中国側は着工されているが、ミャンマー側は着工されていない。

○ミャンマーは在来線改良を優先
・ミャンマーは在来線改良を優先している。最大幹線のヤンゴン-マンダレー線(602Km)でさえ、1日4往復しか走っていない。そこに時速300Kmの列車を1時間に数本走らせるのはギャップがある。
・2014年JICAとの間で老朽施設の改良を主とする円借款契約(200億円)が結ばれた。これによりマンダレー-ヤンゴン-ネピドーの改良が行われる。中国の計画には、相手先の経済力・技術力などの障害があった。

<9.3 なぜ中国で新幹線が走らなかったか>
・中国の高速鉄道外交が7年前より積極的に繰り広げられている。日本はこれにも学ぶべき事が多い。

○新幹線を中国に輸出しよう
・2000年頃中国で「新幹線」計画が浮上した。日本の政財界は対中売込みが活発化する一方、技術流出が懸念された。しかし中国政府はそれを外交カードにする計画で、先進国(日本、仏国、ドイツ)との関係は車両とその製造技術の購入に留めるつもりだった。※難解。「線路建設/列車運行などは自国でやる」の意味かな。

○高鉄外交
・2016年中国鉄路総公司の社長は「総延長が1.9万Kmになり、世界の高速鉄道の6割に達した」と述べた。2008年に最初の北京-天津が開通しているので驚異的である。さらに驚くべき事は、2009年ロシアとロシア高速鉄道建設支援で覚書を交わしている。その後高鉄(高速鉄道)を売り込み、2013年末までに50数ヵ国と覚書を交わし、輸出総額は200億ドルを超えている。

○日中、インド投資を競う
・インド向け鉄道インフラ投資では日本が先行している。1998年からの第1・第2期事業(総額2630億円の円借款)で190Kmが運行中である(※高速鉄道?)。さらに2014年交通・電力・上水道事業の第3期事業(総額1831億円の円借款)が調印された。
・インドの高速鉄道はこれからだ、モディ首相は全長6500Kmを超えるダイヤ型路線(デリー-ムンバイ-チェンナイ-コルカタ)の建設を表明している。インド市場を制するのは新幹線か中国高鉄か。インドの価格重視/安全性軽視から中国高鉄が制すると思われる。

○中国外交、日本を模倣
・中国の経済外交/対外援助に対し、「独裁国家でもお構いなし」との批判があるが、これは日本を模倣している。戦後東南アジアで官憲が発砲するなどの騒乱事件があったが、日本は経済制裁などしなかった(※東南アジアは開発独裁かな)。中国もこれを模倣している。また中国に対し、「アフリカ諸国の資源を担保に、自国製品を輸出している」(資源収奪)との批判がある。これも日本を模倣している。

第10章 経済成長を犠牲にしても汚職退治

○トラとハエ、そして狐狩り
・習主席が「トラを撃ち、ハエも叩く」(大物も小物も逃さない)とする反腐敗運動を、日本では一過性の権力争いと矮小化する。しかし数万人の党員が逮捕・起訴され、公用車廃止/国有企業経営者の報酬引き下げ/公費飲食の制限などの行政改革が行われ、経済への悪影響も出ている。さらに海外逃亡者を追う「狐狩り」も行われている。そこには「このままでは政権を失う」と云う危機感や、「知識青年」体験の精神的ルーツがある。

<10.1 不景気な飲む・打つ・買う業界>
・GDPに占める消費の比重は増大しているが、反腐敗運動により賭博/高級蒸留酒/外国製高級車の消費は減少している。

○最高級車の販売が半減
・ロールスロイスは中国で300~800万元(5千万~1億3千万円)で売られている。中国で販売される高級車の大半は輸入されている。高級車は海外で買い、国内に持ち帰る事ができない。2015年ロールスロイスの販売台数が半減したが、これは実需が減っているからだ。ところが自動車販売全体は5%増であり、ドイツ/アメリカなどの高級車は20%も増えている。超高級車だけが減少したのは、反腐敗運動により官僚や彼らに超高級車を贈る企業が購入しなくなったからだ。

○カジノ売上、2割減
・カジノホテルを経営するマカオ・サンズは、2015年第4四半期の利益が前年同期比19%減になったが、会長は「市場は底を打ち、上昇に転じた」と述べた。同社はラスベガス・サンズの子会社で、彼は世界20指に入る富豪である。
・2005年世界最大のカジノ都市マカオ(※ラスベガス?)への中国本土住民の旅行が解禁される。マカオのGDPは年数十%成長し、1人当たりで世界4位になった。これを支えているのが中国からのVIP客である。マカオにはマネーロンダリングの機能がある。不正に入手した現金をチップに換え、それを小切手/現金に換金すれば洗浄される。※そう云う仕組みか。

○マオタイ酒苦戦
・2012年共産党は「8項目規定と6項目禁令」を公布し、公費による豪華飲食を禁止する。かつては会合後にマオタイ酒(国酒と称する蒸留酒)で乾杯していたが、それができなくなった。そのためマオタイ酒は4割以上値を下げた。中国ではビールの売上高1890億元に対し、蒸留酒(白酒)は3060億元あり、蒸留酒が中心である。

○上海蟹も売上減少
・2014年高級料理店の売上が減少した。これは公費飲食が禁止されたからだ。四半期毎の売上は-2.2%/-1.8%/-1.3%/-1.7%だが、飲食業全体は8.6%/8.9%/9.3%/9.2%と安定成長している。そのため高級料理店は低価格戦略に変更し、高級食材・上海蟹の生産は4割減少した。
※これだけ反腐敗を徹底できるのは、これまでが相当甘かったのか、それとも危機感か。

<10.2 官・軍・財・学界も容赦なし>
・2016年1月習主席は規律委員会第6回全体会議で、前年の反腐敗運動の成果を演説した。最高裁判事/国有企業経営者から下級公務員まで34万人を処分した。

○2016年初頭のトラ狩り
・反腐敗の摘発は5年目の2016年も続いている。直近の事件を見る。※時系列が逆。
 2月4日-広東省副省長の取り調べを公表。彼は東莞市党委書記(2004~11年)を務め、「三多」(金、家、女性)と云われていた。
 同日-四川省前省長を公金流用などで降格/取り調べ中と公表。
 1月26日-保安統計局長を拘束し取り調べ中。前職・財政副相での収賄と見られる。
 1月11日-北京市共産党委副書記を収賄で起訴。
 同日-中国科学技術協会の党組織委書記の裁判が始まる。1999~2014年総額9千元余り(16億円、※すごい額)を収賄した。

○最大のトラを退治したか
・習主席の反腐敗運動は複数の「潜規則」(裏規則)を破った。それは周永康・前中央政治局常務委員(最高指導者9人、※7人では?)への処罰で顕著だ。これにより最高指導部は処罰されない裏規則が否定された。
・彼は公安(警察)相として法務畑を歩んだが、その汚職は石油業界や四川省などにも及んだ。国家資源委員会主任/四川省委元副書記/中国石油元副社長/公安副相などが起訴されている。

○汚職追及は軍・金融界にも
・汚職追及は軍にも容赦ない。中央軍事委員会の前副主席が起訴された。これは建軍以来、汚職容疑で失脚した最高位になる。また後方勤務部隊総本部の前副本部長は執行猶予付きの死刑判決を受けた。これも裏規則が無視された事になる。
・金融界でも証券監督管理委員会の主席も取り調べを受けている。これも金融行政官の汚職で失脚した最高位になる。
・ビジネス界でも、中国石化集団会長/中国電信会長が取り調べを受けている。中央規律委員会が調査した国有企業は26社に及んでいる。

○2015年、1.4万人を司直の手に
・2015年共産党党規委員会は33万件を処理し、33.6万人を処分した。司法に委ねた者は1.4万人に上る。※まず共産党内で処理し、それから司法に委ねるらしい。
・2015年綱紀粛正で問題行動があった4.3万人を処罰した。問題行動には、①冠婚葬祭、②公費飲食、③公費観光旅行、④贈収賄がある。

○反腐敗の制度化
・2016年1月、上海市は管理職公務員家族による事業経営を禁止した。これは前年5月から実施されていたもので、対象管理職は1561人に上った。165人が問題ありとされ、112人の家族が事業から手を引いた(※徹底しているな)。南京市でも同様の試行が行われている。中国は家族を重視するが、共産党の反腐敗に対する強い意識が感じられる。※これまでの話から、日本は中央集権で、国土が広い事もあるが、中国は地方政府による地方分権の感じだな。

○法治へ新党規則、ウェブによる市民運動も
・習主席はこの反腐敗運動を「法治」の一環に位置付けている。中国では党が政府より上位にあるため、党員を起訴するには、党内での調査・事情聴取が必要となる。そのため逃亡などのタイムラグを与えてしまう。そこで2015年「中国共産党廉潔白準則」「中国共産党巡視工作条例」「中国共産党自律処分条例」を発布し、党内で汚職の芽を摘もうとしている。
・党規律委員会は、一般国民がインターネットで汚職を告発できるようにしている。これは2009年開設されたが、その後改良され簡単に告発できるようになった。

○幻のスクープ、習主席反対勢力によるクーデター
・2015年春、読売新聞の編集委員・加藤隆則は、中国共産党中央から幹部への「内部報告書」に驚く。そこには「周永康にクーデター計画があった」と記されていた。報告書は大臣級幹部だけに配布され、局長級にはテレビ会議で伝えられた。内容は、周永康(中央政治局常務委員)/薄熙来(重慶市トップ)/令計画(党中央弁公室主任)が、2007年習近平の政権継承を阻止し、周政権を誕生させる計画だった。
・「周は習主席の暗殺を2回計画した」とされた。2012年3月薄は、妻の殺人事件をもみ消そうとして失脚していた。同月令も息子の交通事故をもみ消そうとして降格していた。彼らのクーデターの目的は、「汚職による集金システムの維持」とされた。

<10.3 海外逃亡汚職犯を捕まえろ(狐狩り作戦)>
・中国で経済犯罪を犯した者が海外に逃亡している。中国当局は海外の捜査当局の協力を得て、「狐狩り」を行い、成果を挙げている。

○建国以来最大の汚職「遠華事件」
・2012年5月建国以来最大の汚職「遠華事件」の主犯・頼昌星がカナダから送還され、厦門で裁かれた。密貿易/贈賄の罪で、無期懲役/全財産没収となった。1991~99年彼は公務員64人を贈賄し、税関を通らない密貿易で、関税149億元(2600億円)を脱税していた。

○首相まで買収、関係者1千人を処分
・1999年朱鎔基首相は頼に「払うべきものは払え、そうすれば罪は問わない」と妥協案を示した。そうすると彼は「総理に10億元払えばよろしいでしょうか。20億元でしょうか」と答えた。翌週規律委員会は福州に捜査本部を置き、2年間で党・政府関係者1千人を免職・起訴する。中央政府公安省/税関/軍/福建省・厦門市政府高官など20人は死刑判決を受けた。

○経済改革立て直しの生贄
・朱首相は危機に瀕していた中国経済を立て直すため、2つの病巣にメスを振るっていた。1つは地方政府の資金調達機関の乱脈経営である。彼はショック療法として「GuangDong(広東)ITIC」を倒産させた。※こんなのあったかな。
・同時に手掛けたのが沿岸部での「税関を通る密輸」の撲滅である。例えば自動車の関税率は120%だったが、それを無関税で輸入されては、まじめな貿易業者はやってられない。頼はこのターゲットにされたのだ。

○紅楼の夢
・遠華事件で一般の目を集めたのが、頼が所有する8階建ての供応施設だ。そこで政府関係者に対し「飲ませ、抱かせ、握らせる」買収行為が行われていた。
・頼は摘発直後にカナダに逃亡するが、13年ぶりに強制送還される。その間に中国は大きく変わり、WTO加盟で低関税になり、中国政府の顔ぶれも変わった。
・この事件を経験し「狐狩り作戦」を始める。経済犯を拘束・送還する手段は、帰国勧告/現地訴追/捜査官派遣/犯罪者引渡協定などがある。中国は38ヵ国と協定を結び、送還させている。

○トラ・ハエ・狐
・2016年1月国務院公安部は、2015年の「狐狩り」の成果を発表した。66ヵ国で、857人を拘束した。この内212人が1千万元(1.7億円)以上を持ち出していた。また逃亡期間は、667人が5年以上で、最も長い者は21年だった。地域別ではASEAN諸国が33%を占めた。米国での拘束は、たった2人だった(※これは米中関係を表しているのかな)。前年は680人を拘束している。
・中国銀行による海外送金状況から、海外逃亡者は9千人余りと推定されている。公安部は海外逃亡者を追跡する「境外逮捕工作局」を新設した。また国際協力を得るため、駐英大使館書記/外交部スポークスマン/報道局長などを歴任した劉建超を、中央規律委員会国際合作局長に就かせた。

<10.4 汚職退治トリオの青春>
・反腐敗運動は、習主席/王岐山(共産党規律委員長)/劉源(中央軍事委員会副委員長)の三人組により推進されている。彼らは上級幹部の子弟で、文化大革命時に辺境で「知識青年」(知青)として青春を送った。知青出身者は政官界の一大勢力になっている。※他に中国共産主義青年団/上海閥などがあるらしい。

○青年は朝焼けの谷を出た
・1975年秋の早朝、やせた長身の青年(習近平)が陝西省延安の村のヤオトン(横穴式住居)を出た。道で見送る者は「大学で頑張って下さい」「体を大事に」などと声を掛けた。

○習近平の青春
・1953年習近平は北京に生まれるが、1968年16歳の時、陝西省梁家河村に下放される。彼は昼は農作業し、夜は読書に励んだ。彼は知識青年として、村の指導者になる。
・当時は毛沢東が極左路線を断行していた。1千万人の青少年を動員し、党・政府幹部の7割を失脚させた。彼の父・周仲勲は毛沢東に糾弾され、全ての役職を解かれた。彼は20歳で村支部書記になり、1975年精華大学に推薦入学し、北京に戻る。

・彼の経歴は以下である(※大幅に省略)。1979年精華大学化学工業学部を卒業。1979~82年国務院弁公庁/中央軍事委員会弁公庁に勤務。1982~85年河北省正定県党委員会書記(県トップ)に就く。1085~2002年福建省で省長などに就く。2002~2007年浙江省党委書記などに就く。2007年上海市党委書記/党中央委員会政治局常務委員などに就く。2012年中央委員会総書記(党トップ)/中央軍事委員会主席(軍トップ)に就く。2013年国家主席に就く。

・延安は彼の父・周仲勲と関係が深い。1934年共産党は陝甘(陝西・甘粛)辺区ソビエト政府を樹立する。周仲勲は政府主席になり、「廉潔な政府を実践する」とし、「5元(1~2万円)以下の汚職は免職、10元以上は銃殺」とした。この陝甘紅軍は毛沢東の中央紅軍と共に「人民から針一本奪わない軍隊」と云われた。そして国共内戦に勝利する。※紅軍は分かれるのか。この辺り無知だな。

○1枚の掛布団
・習主席が梁家河村に住み始めた頃、北京から帰れなくなり、王岐山のヤオトンに泊めてもらった。その時同じベットに1枚の掛布団で寝た。彼は経済学の本を置いて帰った。

・1948年王岐山は山西省の知識人の家に生まれる。1969年陝西省延安県に下放される。1976年西北大学歴史学部を卒業し、陝西省博物館に勤務する(※こちらは歴史学部か)。1983年共産党に入党し、以下の経歴を持つ(※大幅に省略)。1979~88年社会科学院研究員/国務院農村発展センター処長/同農村発展研究所長などに就く。1988~97年は金融界に移り、中国農村信託投資公司社長/中国建設銀行頭取などに就く。1997年政界入りし、広東省副省長/海南省党委書記(省トップ)/北京市長などに就く。2008年国務院副総理に就き。2012年共産党中央政治局常務委員/中央規律委員会書記に就く。2003年4月北京市長に就任するが、これはSARS対応のためだった。

○劉少奇の息子・劉源
・習主席は「下放により社会の底辺に降りた者の中で、私と劉源は最も耐え、自分を鍛えた」と述べた。1951年劉源は第2代国家主席・劉少奇の長男に生まれる。習主席が反腐敗運動を始めると、彼は軍でそれを推進した。
・1968~75年彼は山西省山陰県で下放生活を送る。1981年北京師範大学史学部を卒業し農村幹部の道を選ぶ。河南省新郷県の副郷長を皮切りに、河南省の首府・鄭州市の副市長を務め、1988年36歳の若さで副省長に選ばれる。これは非業の死を遂げた父への償いと云える。父は文革派から集中砲火を浴び、軟禁先の河南省で治療も受けられずガンで亡くなった。1992年軍に属する武装警察に少将として勤務する。2009年上将に昇進し、総後勤部政治委員に就く。

・彼の名前が知れ渡ったのは、2012年総後勤部副部長・谷俊山中将の汚職の告発による。谷の自宅からトラック4台分の宝飾・美術品が押収され、執行猶予付きの死刑判決を受ける。谷の不正蓄財は200億元(3400億円)に及んだ。後勤部は兵器から食料まで扱っており、汚職の温床になり易い。また軍は広大な土地を有し、この払い下げで自動的にマージンを得るシステムを作り上げていた。2015年彼は退役し、軍での反腐敗運動の行方が心配されている。

○知青網
・習近平/王岐山/劉源は元勲の子弟であり、彼らは「理想主義」を抱いているため、反腐敗運動を推進していると云われる。しかし私は「知青派思想」があると考える。※二代目としての団結心かな。
・2008年頃から中央政府/地方政府で知青出身者が目立つようになった。党中央委員会政治局常務委員会委員7人の内、3人が知青出身である。省クラス行政単位(省、自治区、中央直轄市)31の内、11のトップが知青出身である。※他にもデータが記されているが省略。

・1968~80年1200~1800万人の知青が農村で暮らしていた(※全て下放された人?)。上海の新聞は「彼らは問題の認識・解決法が他のグループと異なる」とした。反腐敗運動で摘発された周永康/徐才厚/薄熙来らは知青を経験していない。彼らは底辺で暮らす人々の歓喜・辛苦を知り、強い・豊かな・汚職のない中国を残したいと思っているのではないだろうか。※恥ずかしながら、知青派の存在は知らなかった。大体習近平は少数派で孤立していると思っていた。

○知青の再評価がムーブメントに
・定年退職を迎えた知青らは文化活動も行っている。知青を主人公にしたドラマなどがムーブメントになっている。陝西省延安市にはテーマパーク「知青文化体験園」が開園した。2008年「中国知青網」が開設された。これは文化活動のバーチャル版である。

○南京を見よ
・2016年1月共産党機関紙『人民日報』に、「反腐敗運動は経済成長の障害物ではない」とする論文が掲載された。これは市政のナンバー1/ナンバー2が逮捕・失脚した南京を例にして、「南京は9.3%経済成長し、反腐敗運動は経済成長の妨げになっていない」とした。この論文は以下2点について反駁している。
 反腐敗は経済成長を減速させた-中国経済は世界2位になり分母が大きくなった。成長が鈍化するのは当然である。
 腐敗は必要悪-汚職が横行する経済は健全でない。その様な社会は企業・投資家から見捨てられる。新しい技術/高品質の製品/技術革新/サービス開発より賄賂が有効な社会では、起業家は育たない。

・同月『人民日報』は「広東は反腐敗と経済成長を共に推進している」との南京と同趣旨の評論を掲載した。前年広東省では規律違反で1.5万件が立件され、省政府中間幹部以上170人が失脚した。しかしGDP成長率は全国平均を1.1ポイント上回る8%だった。
・中国共産党は1970年代末からの経済発展による福利向上で国民の信頼を得てきた。中国指導部は、その権威を危うくする汚職に危機感を持ち、反腐敗運動を推進している。※対ウイグル・チベット(?)・台湾では賛同できないが、国内においては新しいステージに入ったのかな。

<おわりに 超大国中国との交際方法>
・中国指導部は「最大の人権侵害は貧窮」と述べている。中国は30年で7億人の国民を貧困から脱出させた。これを「世界の人権に対する巨大な貢献」としている。私達は人権と云えば言論・政治を思い浮かべるが、彼らは生存権・発展権としている。彼らは「社会主義は人民を幸福にできる手段」と確信している。現実主義なのだ。

・2016年3月全国人民代表大会が開幕した。『人民日報』に「決勝全面小康」が記された。これは「5年以内に全国民が最低限度以上の生活を送れる」を意味する。中国の人口は14億人で、その予算・消費は巨額だ。1970年代末には台湾人、1980年代末には韓国人が日本で「爆買い」したが、インパクトにならなかった。それに比べ中国のパワーは絶大である。
・中国は既に世界最大の工業国・貿易国だ。さらに5~10年経てば、世界最大の投資国・金融国・消費国になる。本書がビジネスの内外で中国に接する皆様のお役に立つ事を期待する。

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