『「レジリエンス」の鍛え方』久世浩司を読書。
最近たまに聞くレジリエンスの言葉が書名にあったので選択。
ビジネスなどで失敗した時に、気持ちが落ち込みますが、そこから回復(レジリエンス)する7つの方法を解説しています。
内容的にはポジティブ・シンキングに近いと思われる。
安易な気持ちで選択したが、内容は相当豊富で、論理的・学術的でもある。
お勧め度:☆☆☆(一度は読んでおいた方が良い)
内容:☆☆☆
キーワード:<はじめに>エリート、P&G、レジリエンス、<レジリエンスを学ぶ前に>復元力/回復力、無理、充実感、営業/学校、ビジネス、技術、ポジティブ・シンキング、失敗、学習性無力感、適切な対応、<ネガティブ感情の悪循環から脱出する>感情認知、運動系、ノルアドレナリン、音楽系、ドーパミン、呼吸系、セロトニン、マインドフルネス、筆記系、<役に立たない思い込みを手なずける>オートパイロット、思い込み/思い込み犬、<自信(やればできる)を科学的に身に付ける>レジリエンス・マッスル、自己効力感、実体験、お手本/ロールモデル、励まし、ムード、<自分の強みを活かす>診断ツール、コーチング、弱み、<サポーターは心の支えになる>高リスク家庭、長寿村、親密/孤独、同期、妻、対話、スティーブ・ジョブズ、伊那食品工、チャイナクライシス、大前研一、大切な人、<感謝のポジティブ感情を高める>感謝、<痛い体験から意味を学ぶ>成長、松下幸之助、物語、俯瞰、仕事観、ボブ・マクドナルド、コーリング、<おわりに>ベイビーステップ
<はじめに>
○逞しいエリートと脆いエリート
・私(※著者)は世界のエリートと仕事をしてきました。それでエリートには2種類あると知りました。逞しいエリートと脆いエリートです。前者は精神的に強く、自分の感情をコントロールできます。彼らは継続的に成果を挙げ、成功を収める事ができます。後者は精神的に弱く、キャリアの途中で挫折し、復活できないタイプです。私は「なぜこの両者が存在するのか」を、自分が逆境に直面して知る事ができました。
○逞しいエリートが生まれる人材輩出工場
・私は外資系企業のP&Gで、16年間働きました。当社は多くのビジネスリーダーを輩出しています。多くの先輩が外資系企業の日本法人の要職についています。私も何度もヘッドハンティングされましたが断っています。
○人材が生まれる理由
・その理由は3つあります。まず入口が狭いのです。5千人の採用に100万人以上がエントリーします。その中にはMBA取得者もいます。
・2つ目は、エリートの薫陶を受けられる点です。日本は世界で最も厳しい市場で、そのため日本には世界のトップエリートが送られます。彼らをロールモデルとして手本にできるのです。
・3つ目は、若い時から大きな仕事を任せられます。私は台所洗剤の平社員から、化粧品部門のマーケティング責任者まで体験しました。またマーケティング本部は幹部候補を要請する部署なので、経営管理も学びました。
・ピータ・F・ドラッカーは「成功の鍵は責任」と記しています。私も「成功の鍵は地位ではなく責任」と考えています。
○有名ビジネススクールでは教えない事
・しかし失敗を怖れて責任を避ける脆いエリートがいます。逞しいエリートは責任を回避する事はなく、チャレンジを続けます。これはビジネススクールでは学べません。この2種類のエリートの違いこそ、「レジリエンス」なのです。私は当社での国内外でのキャリアで、その重要性を知りました。また日本人がレジリエンスに関する知識/スキルが不足している事も知りました。
・そこで私はレジリエンスを人に教える事業を立ち上げたのです。そして子供からシニアまでにレジリエンスを教えています。
<序章 レジリエンスを学ぶ前に>
-Part1 レジリエンスとは何か-
○無理と言い訳する時代から、レジリエンスのある時代へ
・「レジリエンス」は、元は環境学の「復元力」です。それが心理学で「精神の回復力」として使われるようになりました(※辞典の引用もあるが省略)。また「再起」「再生」などの意味もあります。
・これは「失われた20年」となった日本に当てはまる言葉です。日本はアベノミクスにより、明るい兆しが出てきました。それは人々の会話/行動などから感じられます。安倍首相自身が再起した人物であるため、彼の言葉は心に響きます。
・しかし日本はバブルの失敗を経験し、無理や挑戦をしなくなりました。また日本には挑戦(※失敗?)を批判する風潮があります。しかし「無理」は、「無謀」「無茶」とは違います。お金もないのに起業するのが「無謀」です。何日も不眠不休で働くのが「無茶」です。失敗を怖れず挑戦するのが「無理」です。「無理」であれば、失敗しても学ぶ事ができます。
○失敗への怖れで機会を失う
・「失敗を怖れる」とは何でしょうか。あなたは仕事で「嫌だな」と思っている、それがそうです。「新規プロジェクトを止める事ばかり考える」「新しい上司の指示に付いて行けない」「嫌な仕事は先送りする」「新しい目標を立てても、三日坊主になる」「初めてのお客様に営業に行けない」などもそうです。これらは「行動回避」と云われるもので、心の中で「無理!」と思っています。
・これは「無理」の本来の使い方ではありませんが、今では「言い訳用語」として普遍的に使われています。そして内面に「失敗への怖れ」があるのです。これが癖になると、今の日本のように、低調な状態が続きます。この様な人は仕事の機会も与えられず、能力アップもできません。海外進出の機会があっても、個人的には「英語ができない」「子供の教育が心配」と行動回避します。会社であれば、「前例がない」「当社では無理」と言い訳し、韓国/中国にビジネス機会を奪われるのです。
○行動回避は慢性的な不満を生む
・私は「行動回避する人は、幸せになれない」と思っています。特にビジネスではそうです。ビジネスでの充実感は、無理とも思える挑戦を成功させた時に得られるのです。高い目標を乗り越えた時、達成感を得られるのです。従って行動回避する人は、充実感/幸福感を得られません。
○私がレジリエンスを身に付けた時
・私は講演会で、よく「人生チャート」(縦軸が幸福度、横軸が時間)を書き、そこにN字のラインを入れます。30代の時、海外勤務でストレス/疲労/将来への不安から、睡眠障害/肩・腰の痛み/頭痛・腹痛などに襲われたのです。不安/怖れ/憂鬱/罪悪などのネガティブ感情の悪循環です。※具体的な話が欲しい。説得力に乏しい。
・この頃「レジリエンス」を主題とする心理学者の集中講義を受けたのです。そこで学んだ7つの技術を実践した事で、うつ病などに掛かる事もなく、頑張る事ができたのです。そしてネガティブ感情の悪循環から脱し、心理的に底打ち状態にする事ができました。何事も底を打たせる事が重要です。
・次は這い上がるプロセスになります。そこで自分が本当にやりたい事は何かを考え、それを目標にしたのです(※ここも具体例が欲しい)。これにより再起する事ができ、責任も増え、部下も増え、給料も増えました。そして今は自分が本当にやりたかったレジリエンスを教える仕事をやっているのです。
○レジリエンスは企業や学校で活用される
・レジリエンスは逆境に打ち勝つための技術で、ロイヤル・ダッチ・シェル/IBM/J&J/グラクソ・スミス・クラインなどが、マネージャー教育に取り入れています。また国内の企業でも取り入れており、私が最近行った愛知県の老舗企業でも取り入れていました。
・この会社はファインセラミックの技術を持っていましたが、営業チームの「無理だ」との意識から営業が上手く行っていませんでした。そこでレジリエンス研修を行い、営業のレスポンスを高めました。
・元々はレジリエンス研修は「うつ病の若年化」に対処するため、学校で行われていました。私も協会を立ち上げ、小学校から大学までの教員にレジリエンスを教えています。ワタミグループの郁文館夢学園でもレジリエンスの授業を行い、生徒の目を輝かせました。教師は「精神論から脱し、逞しさに関し共通の言語ができた」と述べました。授業後には、レジリエンスの指標(感情コントロール、楽観性、自尊感情、自己効力感、人間関係力)が改善されました。※レジリエンスは理論的なんだ。詳細は後述かな。
○レジリエンスが必要な理由
・レジリエンスが必要な理由は3つありますが、1つ目は現代社会の「心の健康」です。現代社会では精神を疲労させている人が多く、うつ病が社会問題になっています。うつ病は若年層の問題と思われますが、ミドルでも「中年の危機」になっています。ビジネスは長期戦です。「短距離走」ではなく「長距離走」なのです。
・キャリアのなるべく早い段階で「働き方」を身に付けるべきです。ビジネスマンの実力はキャリアの後半ほど高くなり、後半ほどリターンが大きくなります。最後の10年で生涯所得の大部分を稼ぐビジネスマンも多くいます。そのためにもレジリエンスを身に付ける必要があるのです。
・2つ目がグローバル化です。海外から日本に来て働く人が増え、外資系企業も日本への進出を増やしています。そのためビジネスマンには、変化に対応する柔軟性が求められます。中国/香港/東南アジア/インドからやってきたエリートが、日本の高賃金の業務を奪うでしょう(※高度人材の導入が進むかな)。これに対応するため、ビジネスマンには英語/ビジネススキルだけでなく、レジリエンスも求められるのです。
・3つ目は働き方のロールモデルが存在しない問題です。「ゆとり教育」を学んだ若手社員の見本になるのが、合理的に考え、困難に対応する逞しさを持ち、レジリエンスを持った人なのです。そのため本書では、松下幸之助/樋口廣太郎/スティーブ・ジョブズ/大前研一などを紹介しています。彼らは無理な仕事を体現してきた人です。近年は本を読まなくなり、お手本となるロールモデルを得られなくなっています。彼らはその見本になります。
○レジリエンスを鍛える技術
・レジリエンスには3つのステージがあり、それに応じて7つの技術があります。まずは精神的な落ち込みを底打ちさせる段階(※ステージ?)です。この段階で必要なのが「ネガティブ感情の悪循環から脱出する」技術で、悪循環を断ち切る気晴らしです。2つ目の技術が「役に立たない思い込みを手なずける」技術です。これはネガティブ感情の根本原因を解消させます。
・次が上に這い上がるステージです。逆境をばねにする技術が必要になります。レジリエンスの開発者は、これを「レジリエンス・マッスル」と呼んでいます。このステージには、「自信を付ける」「自分の強みを活かす」「サポーターを作る」「感謝の気持ちを高める」の4つの技術があります。
・そして最後が全体を俯瞰し、「逆境から学ぶ」技術です。※これは部分的なステージではなく、全体に及ぶみたい。
○レジリエンスはポジティブ・シンキングとは異なる
・「失敗への怖れ」は積極性を失わせます。しかし「ネガティブ感情は悪」とは思ていませんし、「ポジティブ・シンキングになるべき」とも思っていません(※ポジティブ・シンキングを厳密に知る必要があるな)。「失敗を怖れる」事は自然な事であり、無理にポジティブになる必要はないのです。「失敗を怖れる」からこそ、真剣になれるのです。ネガティブ感情による悪循環は避けなければいけません。
・レジリエンスでは3つの姿勢を重視します。①現実を重視する、②物事をしなやかに柔軟に捉える、③合理的な思考を持つです。これらを備えていると、悪循環に陥りません。幻想的・楽観的なポジティブ思考とは異なります。
・レジリエンスに適齢期はありません。子供でもシニア世代でも身に付ける事ができます。これを身に付けると、働き方/生き方/人生が大きく変わります。
○失敗とは
・「失敗が最高の教師」「大失敗する者だけが大成功する」「失敗は成功の素」などの諺があります。しかし失敗は批判され、精神的にも落ち込みます。重要なのは、失敗した後に心や体がどう反応をするかを知る事です(※これは直後かな、それとも落ち着いてからかな)。失敗について知る事は重要なので、Part2として説明します。
-Part2 失敗を理解する-
○失敗後のネガティブ感情は危険
・失敗するとパニックになり、冷静に考えられなくなり、怖れ/不安/罪悪感/憂鬱感/羞恥心などのネガティブ感情に覆われます。これらから無力/無気力になり、逃避行動に向かいます。これを「学習性無力感」と云います。
○無力感は離職に繋がる
・この無力感は問題です。仕事での失敗が、人間関係などの他の領域にも影響を与え、全てを悲観的に考えるようになるのです。これは若手社員の出社拒否、中高年のやりがい喪失、従業員のうつ病などに現れます。不登校/引きこもり/アパシー(無感動)/ニートなども、同様の現象です。
○学習性無力感の研究
・この「学習性無力感」は、心理学教授マーティン・セリグマンによるものです。彼はうつ病の権威でしたが、「ポジティブ心理学」の創始者になります。
・彼は「パヴロフの条件反射」の実験をしていて、犬が無力になる事に気付いたのです(※実験内容が説明されているが省略)。またこれは彼の父の現象(ハードに働いていたが、50歳頃に無気力になる)と同じだったのです。これが「学習性無力感」の発見に繋がります。
○ブラック企業が従業員のやる気を失わせるメカニズム
・「学習性無力感」は以下の順で形成されます。※ウイグル人への洗脳みたいだな。
①不快な体験をする。
②この状況をコントロールできないと認識する。
③この不快な体験は継続されると考える。
④将来も、この状況をコントロールできないと認識する。
⑤無力感を学習する。
・これをブラック企業に当て嵌めます。
①従業員に不快な勤務(過剰労働など)をさせる。
②この状況をコントロールできないと認識させる。
③この不快な勤務は続くと考えさせる。
④将来も、この状況をコントロールできないと認識させる。※会社を辞めれば続かないけど。
⑤従業員は無力感を学習する。※従業員が無力になり、非効率になると困ると思うけど。
・上場企業でも、シニア社員に精神や肉体を疲弊させる職務を与える会社が多くあります。組織の若返りなどを考え、シニア社員を隔離したり、単純労働をさせる会社もあります。日本は雇用の安定を優先しているので、どの会社も人事に悩まされています。※そんな良心的な会社はないのでは。
○失敗には良い失敗と悪い失敗がある
・失敗すると以下の悪循環になります。
①パニックになり、思考停止する。
②自責の念などのネガティブ感情が生まれる。
③ネガティブ感情が繰り返される。
④不快な体験を怖れ、行動を回避する。
⑤不快な状況が変えられないと認識し、無力感が生まれる。
・この悪循環を止めるには、まず①の失敗を冷静に分析する必要があります。失敗には「良い失敗」「悪い失敗」があるのです。
・エイミー・E・エドモンドソン教授は、失敗を3種類に分けています。「①予防できる失敗」「②避けられない失敗」「③知的な失敗」です。「①予防できる失敗」は、不注意/不勉強などによる失敗で、職場環境を改善する事で発生を抑制できます。また所定の手順/慣行に従わなかった場合にも発生し、適切に研修/訓練が行われていると発生しません。
・医療の世界では、この「①予防できる失敗」を最小限にする必要がります。ある500人規模の総合病院で、この仕組みが導入されていました。看護の管理職は「協働スキル」「人材育成スキル」が要求されます。また自身が「レジリエンス」を身に付け(セルフケア)、さらにその下の看護師を「ラインケア」する必要があります。看護師はバーンアウト(燃え尽き症候群)するケースが多いので、これが重要になります。
・この病院で「ヒヤリ・ハット」への対応を聞きました。ヒヤリ・ハットを起こすと「ヒヤリハット・レポート」を書き、師長/婦長に提出するのです。しかしこれで看護師を責めるのではなく、「コーチングの機会」にしているのです。
○自分のコントロールが
・業務プロセスでの問題から失敗が起こる場合もあります。これが「②避けられない失敗」です。複雑なプロセスなどが要因で、不確実性が高いプロジェクトなどでも起きます。これは自分がコントロールできない要因で起こった失敗も含まれます。例えば上司の間違った意思決定や、市場環境の突然の変化なども含まれます。
・この失敗で「自責の念」を強く抱いてはいけません。それはレジリエンスの姿勢「②物事をしなやかに柔軟に捉える」に反します。「上司や環境に問題があった」と柔軟に考えて下さい。
○歓迎すべき「価値ある失敗」
・「③価値ある失敗」はシム・シトキン教授の造語で、歓迎すべき失敗です。これはアイデア/設計や革新的な知識を実験する時に発生します。例えば新規ビジネス/革新的なデザイン/新薬などに挑戦した場合に起きます。これは「良い失敗」です。日本では「失敗は全て悪」となっているので、これも許されておらず、レジリエンス的ではありません。※これは「許される失敗」「積極的な失敗」とかかな。
・海外の企業では、革新的な商品/サービスを生むために、これは必要な試みです。グーグル/アップル/3M/P&Gなどは、これを教訓として成長してきたのです。P&GのCEOのA・G・ラフリーは「成功より失敗から学ぶ事が多い」「成長に失敗は不可欠」「失敗から本気で学ぶ姿勢が重要」と言っています。※大幅に省略。
・P&Gでは新商品を出す前に、地域限定のテストマーケットを実施します。地域限定の広告を行ったり、複数の価格設定などを試験します。小さな失敗を大きな成功に繋げているのです。
※仕事内容によるな。ルーチンのように悪い失敗しか起きない仕事もあれば、企画のように良い失敗しか起きない仕事もある。
○失敗と付き合う
・失敗するとネガティブ感情が生まれ、行動回避に向かいます。しかし失敗には3種類あると知ると、柔軟に適切に対応できるようになります。「①予防できる失敗」であれば、原因を分析し、今後繰り返さないようにしなければなりません。ネガティブ感情をバネに、モチベーションを高めて下さい。
・「②避けられない失敗」の原因の多くは複雑さにあります。仕事や意思決定の手順を見直すべきです。これは自分がコントロールできない原因なので、罪悪感を持つ必要はありません。
・「③価値ある失敗」は、挑戦の結果生まれた失敗です。これも罪悪感を持つべきではなく、この経験を成長/発達に繋げるべきです。レジリエンスのある人は、積極的にこの失敗を受け入れているのです。
・以上より、失敗した時の対処は以下になります。
①失敗が、3種類のどれかを判断する。
②不必要に自責の念を持たない。
③失敗の種類に応じ、適切な対応を取り、学習をする。
※これが序章か。各技術を説明する前提だが、随分重厚だな。
<第1章 ネガティブ感情の悪循環から脱出する>
○不安や怖れを感じるのは当然で、感じないのが問題
・序章で失敗がネガティブ感情(怖れ、不安、罪悪感、憂鬱感、羞恥心)を生み、行動回避に至るメカニズムを説明しました。またその失敗には、予防できる失敗/避けられない失敗/知的な失敗がある事も説明しました。全ての失敗に自責の念を感じる必要はないのです。またレジリエンスではネガティブ感情を否定していません。「ミスをして上司に叱られる」「三日坊主に終わる」「納期に遅れ、人に迷惑を掛ける」、これらの失敗からネガティブ感情を持つのは当然です。逆に持たない方が異常です。
・ポジティブ・シンキングでは「ネガティブ感情を悪」としています。「怒りは感じるべきではない」「怖れは自身の中に押し込める」と諭しています。しかし「ネガティブ感情を持たない人」が「ポジティブな人」「精神的に強い人」ではありません。それは「ロボットのような人」です。
・自分らしく生きる生き方を「オーセンティック」と云います。これは自身の内部から生まれた全ての感情を受け入れ、自然体で生きる生き方です。※また別の話が出てきた。
○問題はネガティブ感情の繰り返し
・レジリエンスでは、ネガティブ感情を感じたら、それを受け入れます(感情認知)。しかし日本では感情認知の教育がなされていません。欧米では、学校で感情調整の授業(SEL、SEAL)があります。日本のイジメ/青少年の非行/うつ病の若年化/キレる子供/男女間のDVなどは、この感情の認知/調整の欠如が原因です。※日本は「和」など、集団を重んじる教育はなされているが、権利/自由/主張/感情などの個人を重んじる教育はなされていないと思う。
・問題は、ネガティブ感情が繰り返され、悪循環に陥る事です。相手が自分に対し理不尽や不誠実な事をしてきたり、傷付ける事を言ってきたり、間違った意見を押し付けてきたりすれば、怒って当然です。しかしこれが自分の中で反芻されるようになると問題です。
○ネガティブ感情は、その日の内に解消する
・レジリエンスでは、失敗/トラブル/人間関係のもつれなどでネガティブ感情が生じた場合、それを認知します。そして、それを反芻させないために、素早く「気晴らし」する事を推奨しています。その方法として、①運動系、②呼吸系、③音楽系、④筆記系を勧めています。それぞれ本人と相性があるので、自分に適した方法を選択して下さい。
・実施するタイミングは休憩時間でも帰宅前でも、早い方が良いでしょう。私は睡眠を重視しているので、寝る前には解消するようにしています。ビジネスは長期戦のマラソンと同じです。ネガティブ感情を反芻させて、エネルギーを浪費させないようにしましょう。
○運動系の気晴らし
・体を一定のリズムで動かすのが「①運動系」です(※別に一定のリズムでなくても)。エクササイズ/ダンス/水泳/ジョギング/ウォーキングなどが含まれます。運動は体を鍛えるだけでなく、ストレス解消になります。それは「天然の妙薬」と云われる脳内ホルモン「βエンドルフィン」が分泌されるからです(※学術的になった)。これは、うつ病にも効果があります。
・ある実験が行われました。うつ病の人を3つのグループに分け、4ヶ月間の実験をしました。1つ目のグループには、有酸素運動を課しました。2つ目のグループには、うつ病の薬を処方しました。3つ目のグループには、その両方を課しました。4ヶ月後、何れのグループもうつ病は改善され、運動が薬と同等の効果があると証明されました。しかも運動は安価です。さらに驚く事が、6ヶ月後に起きます。運動以外のグループは、うつ病が再発し、薬の服用が必要になったのです。
・運動には他にも以下のメリットがあります。
糖尿病/大腸がんの予防。
骨/筋肉/リンパを強くする。
睡眠の改善。
肥満防止。
負担の少ない有酸素運動は、自信を回復させる。
大脳皮質の前頭葉が活性化される。
脳内の血流量が増え、脳卒中の予防になる。※血流が増えると、逆に起きる気がする。
成長要因BDNF(?)を増やし、ニューロンの健康が保たれる。
脳内神経細胞の生成を促し、脳の健康が保たれる。
・他にも運動には心理的効果もあります。
テニスの打ち返しは、イライラ感情を発散させる。
水泳は、穏やかの気持ちにさせる。※全身疲労で、そんな感じかな。
柔道/空手は、憂鬱な気分を改善する。
マラソン/ウェイトリフティングは、自信を高める。※マラソンの達成感はあるだろうな。
チームスポーツは社交的スキルを高める。※これは、そうだろうな。
トレッキングは、精神性が向上する。※精神性って何?感受性かな。
ダンスは想像性を刺激し、平凡な人生から抜け出す感覚を与える。
○起こった時は、早足散歩
・イライラしがちな人にお勧めなのが、早足散歩です。これによりネガティブ感情は穏やかになり、腹立たしい記憶が遠のき、怒りの反芻を防げます。さらに冷静さを取り戻し、状況を分析する準備も整います。歩く場所は、緑がある場所が望ましいです。※歩道とかは、車で不快になる。
・怒りが収まらない時は、職場から出て、散歩するのが良いでしょう。職場にいると「ノルアドレナリン」の分泌を止められないでしょう(※またホルモンが出てきた)。これは「怒りホルモン」と呼ばれ、人は攻撃的になり、暴言を吐き、暴力を振るうようになります。これが分泌されると、血圧が上昇し、動脈硬化を進攻させます。このタイプの人は、脳梗塞/心筋梗塞のリスクが高くなります。
・ノルアドレナリンは肝臓で処理されますが、肝臓の負担になります。肝臓が悪化すると、顔色が赤黒くなります(※そうなんだ)。自分の健康のためにも、人を傷付けないためにも、イラっとしたら早足散歩しましょう。
○好きな音楽に没入する(音楽系)
・気晴らしの2つ目が「②音楽系」です。音楽の視聴や楽器の演奏に没頭できれば、何でも構いません。音楽が快楽的な刺激を与える事が、MRIでの脳のスキャンで分かっています。音楽を聴くと、「快楽ホルモン」のドーパミンが分泌される事が分かっています。ただしパンクミュージック/ハードロックなどは逆に「怒りホルモン」のノルアドレナリンを分泌させ、攻撃的になります。私は「いきものがたり」の歌を聴くようにしています。
・楽器を演奏するのも「気晴らし」になります。息子は就寝前にギターを弾きますが、学校の疲れのストレス解消になっているようです。大人になると音楽を聴かなくなりますが、健康を保つために良質な音楽を聴きましょう。
○呼吸と感情の関係
・3つ目の気晴らしが「③呼吸系」です。呼吸と感情は深く関係しています。「ショックで口が聞けない」と云いますが、ショックを受けると呼吸が止まり、声が出ないのです(※これは一瞬の事で、持続される訳ではない)。感情が乱れると、呼吸も乱れるのです。怒りなどに襲われると、口は開いたままになり、軽い呼吸困難になるのです。ここで必要なのが深い呼吸です。
・呼吸には良い呼吸と悪い呼吸があります。良い呼吸は長く深い「腹式呼吸」で、悪い呼吸は短く浅い「胸式呼吸」です。犬は悪い呼吸で、亀は良い呼吸と云えます(※亀の呼吸は知らないな)。実際犬は短命で、亀は長寿です。
・ゆったりと呼吸すると「セロトニン」が分泌されます。これは「抗ストレスの秘薬」「癒しのホルモン」と呼ばれています。これが分泌されると、脳は鎮まり、幸せを感じ、ストレスは減少します。実際抗うつ病剤として使用されています。
○心を落ち着かせる呼吸法
・呼吸により、ネガティブ感情を鎮静化できます。それには様々な種類があります。私が勧めるのが欧米で人気の「マインドフルネス」です。不安/イライラを感じた時や、ネガティブ感情の悪循環に落ちりそうな時、これを実践して下さい。※マインドフルネスは生き方で、呼吸法ではないみたいだが。
・マインドフルネス呼吸法は以下の手順です。
①椅子に座り、首肩をほぐす。
②背筋を伸ばす。
③目を閉じ、呼吸に集中する。
④吐くとストレスが外に出る感覚を持つ。
⑤吸うとエネルギーが入ってくる感覚を持つ。
⑥活力が戻ると、仕事に戻る。
※細かなコツが書かれているが省略。要するに深呼吸かな。
・これは横隔膜を上下させる腹式呼吸の「横隔膜呼吸」です。リズムはゆっくりで、深く長くなり、「亀の呼吸」となります。怒り/怖れ/不安などを感じたら、呼吸を正して、感情を鎮めて下さい。
○書く事によるストレス解消
・最後が「④筆記系」です。これには自由記述/内省的記述/日記などが含まれます。感情や考えなどを筆記すると、感情が鎮静化されます。臨床心理士はうつ病の患者に日記を書く事を勧めています。しかしこれは書く事が好きな人に限ります。
・人は没頭していると、喜びや苦しみを感じません。この状態は「フロー」と呼ばれ、「心理学の生みの父」ミハイ・チクセントミハイが名付けました。彼は芸術家/科学者/スポーツ選手/経営者/僧侶/修道女/登山家/羊飼いなどに、「その仕事から富を得らえなくても、それに取り組む価値/意義は何か」と問いました。その調査で誰もが、仕事に没頭する精神状態を体験していたのです。彼はこれを「フロー体験」としました。
・私は執筆している時や、パワーポイントを作成している時によく没頭します。妻は料理している時に没頭するそうです(※他に、作曲家/アスリート/ダンサー/税理士/エンジニアの例が書かれているが省略)。人は「フロー体験」によりネガティブ感情を鎮め、心的エネルギーの消耗を抑え、暮らしを充実させる事ができます。
※第1章はまずまず良かった。ネガティブ感情の悪循環は、運動系/音楽系/呼吸系/筆記系で早めに断ち切るかな。
<第2章 役に立たない思い込みを手なずける>
○幸福の鍵は、刺激と反応の間
・スティーブン・R・コヴィは『7つの習慣』を書きました。その切っ掛けになったのが、ある本に書かれた「刺激と反応の間にスペースがある」です。彼は当書に「刺激と反応の間にスペースがあり、それをどう生かすかが、その人の成長/幸福の鍵となる」と書いています。※読み進めば分かるが、刺激とは外界からの刺激、反応はそれに応じて生じた感情や行動の意味。
・私達は失敗や困難に直面すると、ネガティブ感情が生じます。例えば渋滞している時に、前に車が割り込んでくると、イライラしてクラクションを鳴らしたりします。これが刺激と反応です。
・シンガポールの友人は、年末年始を日本で過ごします。京都から帰国するため、成田空港に向かったのですが、新幹線が事故で止まり、帰国する飛行機に間に合いませんでした。そのため空港で一夜を過ごしました。想定外の事が起こると、自動的にネガティブ感情が生まれますが、これは「オートパイロット」と呼ばれます。「渋滞に巻き込まれるとイライラする」「乗り物に乗り遅れて後悔する」「不合格になって落胆する」「失敗して不安になる」、これらは全てそうです。
○困難に直面しても困らない人がいる
・しかし同じ出来事が起きても、ネガティブ感情を起こさず、平然としている人がいます。先の空港で一夜を明かした友人は、同じく乗り遅れた人とビールを飲んでワイワイとやったそうです。同じ事が起きても、ネガティブな反応をする人と、ニュートラルな反応をする人がいるのです。この違いが「刺激と反応の間のスペース」にあるのです。
○色眼鏡の存在
・この「オートパイロット」を起こさせているのが、過去の経験により形成された信念/意見/解釈などで、これが「思い込み」です。
・認知療法を開発したアルバート・エリスは、これを「ABCモデル」として解説しています。
A(Adversity、逆境)-発生した困った状況。
B(Belief、信念)-自分への説明。※もっと適した表現があると思うが。
C(Consequence、結果)-感情/行動などの反応。
・このモデルも、刺激と反応の間に「色眼鏡」(信念)があるとしているのです。
○事例①-騒がしい隣人
・私は海外で勤務していた時、ひざの手術で入院した事があります(※手術の内容などが記されているが省略)。共同部屋だったのですが、隣の患者が、テレビは大音量、家族とは大きな声で喋るなど大変騒がしいのです。これを体験/思い込み/反応の「思い込みワークシート」に書くと、こうなります。
体験-隣の患者がうるさい。
思い込み-隣の患者は悪い。
反応-イライラで眠れない。
・実は隣の子供は耳が不自由だったのです。
○事例②-機嫌の悪い上司
・社会人1年目のある日、上司が朝から私を無視しています。「先週末、報告書の提出が遅れたからかな」などのネガティブ感情が生じました。これを「思い込みワークシート」に書くと、こうなります。
体験-上司が冷たい。自分を無視している。
思い込み-私は価値がないのか。
反応-憂鬱で、仕事にならない。
・しかし後で聞くと、上司は夫婦喧嘩で、仕事どころではなかったそうです。
○思い込みとネガティブ感情の関係
・思い込みとネガティブ感情には一定の関係があります。※詳しい説明だな。
「怒り」は「権利の侵害」から起こる-渋滞している時、前に車が割り込むとイライラします。これはスムーズに運転する権利を奪われたからです。
「不安」「心配」「怖れ」は「将来の脅威」が原因-「予定通りに行かないのでは」「望んでいた事が叶わないのでは」など、将来への否定的な思い込みが、不安などの感情を起こす。
「悲しみ」は「損失」の思い込みから起こる-モノや自尊心を失うと、悲しみの感情が起きます。
「失望」は「期待が実現しない」との思い込みが起こす-人が期待通りに動かない時や、自分が他人の期待に応えられない時、ガッカリ(失望)します。
「恥ずかしさ」は「私は人から賛同されない」との思い込みが起こす-他人の目を気にし、「人に馬鹿にされる」との思い込みが、羞恥心を起こします。
「申し訳ない」との罪悪感は、人の権利を侵害した時に起きる-自分の権利が侵害されると怒りが生じますが、人の権利を侵害すると、罪の意識を感じます。
・「感情的な人」は、このメカニズムが強いのです。逆の「理性的な人」は、このメカニズムを理解していて、冷静に対応できる人です。※鈍感な人もいるかも。
○7種類の「思い込み犬」
・レジリエンスでは思い込みを、7種類の犬に例えます。※様々な負の性格(犬)があるな。
正義犬-何が公正かを気にします。「××すべきだ」の「べき思考」が強く、公正でないと感じた時、「怒り」「憤慨」「嫉妬」が起きます。
批判犬-他人を批判しがちで、頑固で、曖昧を嫌い、「白黒思考」を持ちます。「彼らが悪い」「バカな人達だ」などが口癖です。これは「怒り」「不満」の原因になります。
負け犬-自分の欠点を強く気にします。「自分はダメな人間」「他人は自分より優れている」「自分は情けない」などが口癖です。「悲しみ」「憂鬱感」「羞恥心」などの感情を起こし易い。
誤り犬-悪い事が起こると、自分の責任にします(※負け犬に近いかな)。「私の責任で失敗した」「人に迷惑を掛けた」「社会人失格だ」などが口癖です。「罪悪感」「羞恥心」などの感情が生まれ易い。
心配犬-「今後も上手く行かない」と悲観的に考えます。「全てが上手く行かない」「酷い事になる」「この部下は大丈夫かな」などが口癖です。「不安」「怖れ」などの感情が生まれ易い。
諦め犬-自分の状況をコントロールできないと信じます。「それはできない」「上手く行かない」「自分の手に負えない」などが口癖です。「不安」「憂鬱感」「無力感」などの原因になります。
無関心犬-物事に無関心で、将来に対しても無関心です。「まあ何とかなる」「焦っても仕方がない」「どちらでも良い」などが口癖です。「疲労感」を感じ易く、周囲の意欲も喪失させます。※これは楽観的な人に思えるが。
・人には、以上の「思い込み犬」が何匹か住み着いています。私にも住み着いています。事例①は「批判犬」による怒りで、イライラしたのです。事例②は「自分は価値がない」と憂鬱感を持ちましたが、これは「負け犬」によります。私の「負け犬」は時々顔を出します。
※本書を読むと、逆に「自分にはこんな欠点があるのかな」と落ち込んでくる。
○過去の辛い体験
・思い込みは後天的なものです。例えば母親/先生からの言葉が、その形成に大きく関係しています。私の「負け犬」は、高校時代の体験が大きく影響しています。サッカーの決勝戦で延長でも勝敗が着かず、PKになりました。私は5人目のキッカーだったのですが、そこで外してしまったのです。これが劣等感になり、「プレッシャーに弱い」「大事なところで失敗する」などと思うようになりました。
○思い込み犬を手なずける
・思い込み犬は「学習棄却」(アンラーニング)により捨てる事ができます(※そんなに簡単にできる?)。思い込み犬の対処方法は3つあります。1つ目は「追放」で、手放すのです。2つ目は「受容」で、思い込み犬が言っている内容に合意できる場合です。3つ目が「訓練」で、思い込み犬が言っている内容が、全く正解でも間違いでもない場合です(※これだと個別対応/ケースバイケースだな)。多くの場合、「追放」「訓練」です。
・私の思い込み犬について説明します。学生の頃までは、「批判犬」は住み着いていませんでした。ところが社会人になり、外資系企業で徹底的に「クリティカル・シンキング」を鍛えられた事で、批判的になったのです。そのため「この人の年収は、どれ位だろう」と数値で判断するようになりました(※これは観点であって、思い込みかな。また批判犬かな)。さらにこれに「負け犬」が絡み、自分と他人を比較し、自分を批判するようになったのです。
・「批判犬」がワンワンと吠え始めると、手が付けれなくなります。そのため距離を置いて、彼を観察するようにします。そうすると、その内に帰って行きます。「負け犬」に対しては、優しく頭をなでてあげるのです。「自分はダメだ」と思っていますが、無理に励ます事はしません。そうすると、その内に泣き止みます。※これは冷静な精神コントロールで、犬が吠え始めたら、取り敢えず一歩引くかな。
○思い込み犬は本来のあなたではない
・思い込み犬は「本来のあなた」ではなく、「自分の中に住み着いている、ただの犬」と気付く事が重要です。本来のあなたと思い込み犬は、別の存在なのです(※犬に支配される人間になってはいけないな)。住み着いた犬を現実的・合理的に見て、両者に距離を置けるようになって下さい。
・レジリエンス研修を行った企業の部長さんから「これまではネガティブ感情に無理に蓋をしようとしていたが、楽になった。今は7つの思い込み犬をカードにして、机に並べている。これを始めてから部下に怒らなくなったし、自分が好きになった」と言われました。
※最近会話に関する本を読んだが、いずれも冷静さが重要としている点で共通している。しかしこれができないと、「冷静になれない自分」と云う「負け犬」が住み着くかな。結局「学習棄却」(アンラーニング)は何だったのか。
<第3章 自信(やればできる)を科学的に身に付ける>
○どん底から這い上がる筋力「レジリエンス・マッスル」を鍛える
・ここまでは失敗などで落ち込んだ時に対処する2つの技術を解説してきました。ここからは、その落ち込んだ状態から再起する技術を解説します。これにはそれなりの筋力「レジリエンス・マッスル」が必要です。これを鍛える方法が4つありますが、本章ではその1つ目を紹介します。
○自信を科学的に養う
・自分に自信を持ち、自分の能力を信じる事は重要です。仕事ができるビジネスマンは、「自分の能力で問題を解決できる」と信じ、将来を楽観的に見れるのです。しかし自信は曖昧な概念です。そこで本章では、科学的に高められる自信を説明します。これを心理学で自己効力感と呼びます。※初めて聞く言葉だ。科学的に高められる自信か。
・この自己効力感は大変有益な知識なので、私も「早く知っておけば」と思っています。これはスタンフォード大学の心理学部教授アルバート・バンデューラが発展させました。彼はこれを「人が持つ目標・成果の達成への、自己能力への確信・自信」と定義しています。簡単に言えば、目標を達成するための自信です。
・この効力感を測るための10の質問があります。
私は困難な問題でも、頑張って解決できる。
私は他人が反対しても、自分が欲しいものを手に入れる手段を見付けられる。
目的を見失わず、目標を達成するのは、私には難しくない。
予期せぬ出来事が起きても、私は効率よく対処できる。
私は才略があるので、思わぬ出来事が起きても、対処できる。
必要な努力を惜しまなければ、大概の問題は解決できる。
私は物事に対処する能力が高いので、困難な出来事に直面しても、動揺しない。
問題に直面しても、複数の解決策を思い付く。
困難な場面でも、必ず解決策を思い付く。
どんな事が起きても、それに対処できる。
※これは西洋的な思想で、自信過剰かな。
○自己効力感を高めやすいのは、得意な分野
・会話では自信がなさそうですが、説得力のある文書を書ける人がいます。これは財務・経理/弁護士/公認会計士などの専門家に見られます。運動でも、普通の運動能力しかないのに、マラソンや遠泳が得意な人がいます。数学が強い人は「自分はどんな問題でも解答できる」との自信があります。この様に自己効力感は特定の分野だけで発揮されるポジティブな心理なのです。
○自己効力感を養う4つの方法
・自己効力感はダイナモ(発電機)みたいなもので、物事を成し遂げるための動力になります。これを養う方法が4つあります。
①成功体験を持つ(直接的達成体験、実体験)。
②上手く行っている他人を観察する(代理体験、お手本)。
③他人から説得的な暗示を受ける(言語的説得、励まし)。
④高揚感を体験する(生理的・情動的喚起、ムード)。
○実体験の積み重ね
・自己効力感を高めるのが実体験の積み重ねです。新入社員に小さな仕事を任せ、成功体験を味合わせるのは効果があります。また毎週の報告会でそれを報告させるのも、効果があります。
・泳ぐ事も一緒で、「自分は溺れず、泳ぐ事ができる」との自己効力感が必要です。私の息子は泳げなかったのですが、海外でプライベート・レッスンを受け、泳げるようになりました。そのトレーナーは、サバイバル・スイミングの専門家で、まず教えたのが立ち泳ぎだったのです。「これは間違った」と思い、キャンセルしようとしたのですが、息子が「面白い」と言うので続けました。数週間もすると、息子は泳ぎが上手になりました。「自分は立ち泳ぎができるので、浮かび続けられる」が自信になり、次に発展したのです。
○英語ができないのは「実体験」の不足
・日本人の多くは英語でのコミュニケーションが苦手です。英語漬けの生活をすると、英語が上手になります(イマージョン)。私は英語が話せませんでしたが、外資系の会社に入ったので、サンフランシスコで4ヶ月間の研修を受けました。研修で英語漬けになり、研修後にはスキューバダイビングのスクールに通いました。当然テレビもラジオも英語です。リスニングができるようになると、会話も何とかできるようになりました。英語は知識・スキルではなく、実体験からの自己効力感(自分は英語で伝える事ができる)が重要なのです。日本人は場数を踏んでいないだけです。
○自分のロールモデルに見習う
・自己効力感を高める2つ目の方法が「お手本に見習う」です。他人の成功を見て、自分も同じ事ができると考えるのです(※「彼は優れていたからできたんだ。自分は・・」と考えないかな)。このお手本を、「ロールモデル」と云います。
・学校であれば、先生がロールモデルです。スポーツであればベーブルース/ペレ/マイケル・ジョーダンなどがロールモデルになります。家庭では両親がロールモデルになります。母は子供を抱きしめる事で愛情を伝え、父は背中を見せる事で、生き方を教えます。子供は幸せに暮らす両親を見て、「自分も充実した人生を送れる」との自己効力感を持つのです。会社であれば、上司・先輩がロールモデルになります。
○上司をモデリングして、スキルアップ
・ビジネスでは、上司・先輩をモデリングします。これはお手本となる人の思考・行動を真似る方法です。私が勤務したP&Gは「ワンページメモ」が伝統でした。これは意思決定する書類は、全て定型のフォーマット1ページに収めるのです。これができる様になると、一人前なのです。
・午前中に書類を作成し、午後に上司にアカで訂正してもらい、夕方から終電近くまで修正していました。上司は文書でのコミュニケーションに長けた人でした。最初は何度も訂正され、自信を失いましたが、次第に耐性が付きました。しかし上司の指示に従って修正する事で、上司をモデリングしていたのです。
・P&Gは「人材輩出工場」と云われますが、それはこの「ワンページメモ」で鍛えられるからです。
○無理を可能にさせたお手本
・他人が偉業を成し、それが代理体験となり、自己効力感が発生する事があります。英国のバニスター選手は中距離ランナーでした。オリンピックの1500mで4位に終わり、メダルを逃します。彼は引退も考えましたが、「1マイル4分の壁を超える」と宣言したのです。これは人間の壁とされた記録でした。彼はインターバルトレーニングを取り入れ、肉体を改造し、この壁を越えたのです。
・この記録はギネスブックに載りました。ところが2ヶ月後、別の選手がこの記録を更新します。結局1年間で「1マイル4分の壁」を23人が超えたのです。バニスター選手がロールモデルになり、神話が神話でなくなったのです。
○励ます人がいる幸せ
・自己効力感を高める3つ目の方法が「励まし」(言語的説得)です。「あなたならできる」「あなたは才能がある」などの励ましをもらうのです。これにより成功し、好循環になる事があります。自分で自分を励ます方法もあります(アファーメーション)。これは自己啓発本でも推奨しています。しかしアファーメーションには限界があるとされています。
・私は他人の助けを借りる方が、自己効力感が高まると考えています。しかし自信がない人ほど、他人の助けを借りる行動を回避します。これを克服しなければ、次に進めません。
・私は老舗企業でレジリエンス研修をした事があり、その主人公は営業課長でした。彼は度重なる商談の失敗から自信を失い、新規顧客を開拓する自己効力感が低下していました。レジリエンス研修で、この第3の技術「自己効力感を高める」を教えていて、彼に「あなたを励ましている人は誰ですか」と尋ねると「社長です」と答えたのです。彼は技術畑にいたのですが、社長に期待され営業に異動していたのです。社長はこの答えを聞いて、自分の育成責任を強く感じたようです。
・間もなく国際見本市が開かれ、社長は営業を叱咤激励しました。彼もそれに応え、新規顧客の獲得に努めました。いつもはフォローの電話を入れても、にべもなく断られていましたが、その年はアポイントメントに結び付いたそうです。それは他のブースに比べ、当社のブースには活気があったからだと思います。※励まされるのは重要だけど、励ますのも重要って事だな。
○手紙による励ましは、長期の効果がある
・口頭による励ましは効果がありますが、書面による励ましは、受け手が何度も目にするので、効果が継続されます。ある病院では院長が看護師に「感謝の手紙」を送っているそうです。例えば「患者さんの家族から、あなたのサービスが素晴らしかったと知らせがありました。あなたに10年も勤めてもらい、感謝しています。あなたがこの病院を素晴らしくしている事に感謝します」です(※大幅に省略)。ある看護師は、この「感謝の手紙」を額に入れ、部屋に飾っているそうです。
○JALの「サンクスカード」
・企業ではお互いに励まし合い、集団としての効力感を高めようと取り組んでいます。想定以上の速さで回復したJALには、社員の自助努力があったのです。当社は縦割りで、横の繋がりがありませんでした。そのため航空会社で重要な「定時到着率」の達成が困難でした。要するに予想外のトラブルに対し、部署を越えた対応ができていなかったのです。
・そこで当社は経理理念「JALフィロソフィ」を掲げ、3ヶ月に1回の研修を始めました。そしてパイロット/キャビンアテンダント/空港スタッフ/整備士などが同じテーブルに集まり、ディスカッションするようにしたのです。当初はネガティブな発言があったのですが、次第に改善され、「JALフィロソフィ」が浸透しました。
・当社は「オールコール」の仕組みを取り入れました。これは困った時に「オールコール」を発信し、他部署の社員に助けてもらう仕組みです。そして、その感謝の念を「サンクスカード」で伝えるようにしたのです。これで社員同士が褒め合う風土が形成されたのです。
※この3例(営業、病院、JAL)は、いずれも励まされると云うより、励まし合うで、チームワークかな。
○不安や怖れに気付いたら、ムードを変える
・自己効力感を高める最後の方法が、「ムードを変えて、ポジティブな気分にする」です。恐怖症の人は、高所・暗所/動物(クモ、ヘビ)/人前で話すなどに恐怖を感じます。人前で話す時は汗をかいたり、心臓の動悸が高まるなどの生理的変化が起きます。これは「上手く行かないかもしれない」などの悲観的なスイッチが入ったためで、その前にムードを変え、高揚感を高める必要があります。※高揚感を高める?
・例えば「祝福」があります。チームが目標を達成した時に、お祝いをするのです。海外旅行なども良いでしょう。心理学者のロバート・ビスワス=ディーナーは、講義前に一人で静かな音楽を聴き、また講義後にも同じく音楽を聴くそうです。女性であれば、自分への小さなプレゼント(洋服、アクセサリーなど)もあるでしょう。またそれを身に付ける事で、高揚感も高まります。※人前で話す時の解決法はないのか。即時の対応と、そうでない対応の2種類があると思うが。
○アサヒビールの試飲会
・会社でもムードを一変させる行事が行われる場合があります。樋口廣太郎はアサヒビールの「中興の祖」と呼ばれます。彼は住友銀行から当社の社長に就きました。当時当社は「夕日ビール」と呼ばれ、シェアは37%から10%に落ちていました。
・彼は社長に就任する前、ライバル会社の社長などを訪問し、「ビールには何が一番必要か」と訊き、「品質」との答えを得ていました。社長に就任した頃、当社のビールは店で売れ残り、「アサヒのビールは古すぎる」と言われていました。そこで彼は、製造3ヶ月を超えたビールを回収させたのです。その費用は会社の利益の1年半分にも達しました。
・当社では毎月社員にビールを振る舞う「ビールデー」がありました。そこで1本目は新しいビールを飲んでもらい、2本目からは回収したビールを配ったのです。社員は不味いビールに驚きます。これで古いビールの回収が一気に進みます。古いビールが回収された事で、「うちのビールに古いのはない」となり、営業社員の効力感が一気に高まったのです。
<第4章 自分の強みを活かす>
○全ての人に強みはある
・「レジリエンス・マッスル」の2つ目が、「強みを活かす」です。失敗から行動回避する人と、失敗しても挑戦し続ける人の違いは、自分の強みを把握し、それを活かしているかの違いです。つまりレジリエンスのある人は、①自分の強みを把握している、②自分の強みを平時に磨いている、③自分の強みを有事に活かせるです。逆にレジリエンスの弱い人は、①自分の強みを知らない、②自分の強みを磨いていない、③自分の強み有事に活かせないです。
・あなたは自分の強みを3つ言えるでしょうか。演習すると、これができるようになります。人には必ず強みがあります。
○仕事で成功したいなら、強みを活かせ
・経営学者ピーター・ドラッカーは「何かを成し遂げられるのは強みによる。弱みでは何もできない」と言っています(※野村監督の言葉の逆だな)。強みを活かす事で、生産的になり、満足し、達成感を得られます。
・レジリエンスの「傘」であるポジティブ心理学では、強みに関して様々な研究がなされています。そこから以下の事が分かりました。
強みを活かしている人は、充実感・達成感が高い
強みを活かすと、自尊心が上向く。
強みに焦点を当てるマネージャーは、部下の意欲を高める。
強みを活かすと、ストレスを感じ難くく、落ち込んだ時の回復力も高い。
※本章は前章の「自信を得るのは成功体験の積み重ね」に近いかな。
○自分の強みを見い出す方法
・自分の強みは、自然な思考・感情・行動の中にあります。その強みを使った時は、ワクワクし、熱気・元気が湧き、それを再度試したくなります(※この辺り抽象的だな)。部下の強みを見い出すコーチング能力のある上司に恵まれると幸せです。その上司は部下の意欲を格段にアップさせます。その上司は「強みは誰にでもあり、それを活かすだけで成果が出せる」と信じています。
・P&Gでは、人事評価/人材育成は各本部が行います。査定は360度フィードバックで行います。この時どうすれば伸びるかの潜在的ポテンシャル(※強み?)に注目します。ある時この内容が変わりました。それまでは「強み」「改善点」それぞれ2つを文章にしていたのですが、「強み」だけ3つになったのです。これは結構大変でした。人は自分の弱みは認識していますが、強みは認識していないからです。しかし当社の今の社員は、自分の強みをスラスラと言えるでしょう。これも「人材輩出工場」と呼ばれる背景の1つです。
○自分の強みを研究・開発する
・教育学者ケン・ロビンソンは人の才能を「エレメント」と称し、「大半の人は、自分の才能を知らない」としています。自分の強みを把握していない人は、他人の強みも見い出す事ができません。強みに焦点を当てるマインドセットも、強みを表現するボキャブラリーも持っていないのです。そのため部下の強みを伸ばす事もできません。
・自分の強みを知り、それを活かすのが基本です。それは「自己の研究・開発」です。これにより「レジリエンス・マッスル」が鍛えられます。この方法は2つあります。1つ目が「自己診断ツール」を使う方法です。2つ目が信頼できる人に「強みコーチング」してもらう方法です。
○強みを測定する診断ツール
・有名な「強み診断ツール」が3つあります。「VIA-IS」「ストレングス・ファインダー」「Realise2」です。いずれもオンラインで30分程度で診断できます。
・「VIA-IS」はポジティブ心理学者クリストファー・ピーターソンにより開発され、これにマーティン・セリグマン博士も関わっています。この研究は当初は子供に限定されていたのですが、全世代に拡大されました。また汎用性・普遍性が重視され、ギリシャ哲学/宗教(仏教・ユダヤ教・キリスト教・イスラム教など)/過去現代の哲学などから、以下の6つの美徳を導き出しました。
良い生き方をするための知識・情報を利用する「知恵」
目標を達成する強い意志「勇気」
他者との思いやりのある関係を築く「人間性」
個人と社会の最適な相互作用である「正義」
行き過ぎを防ぐ「節制」 ※自律性かな。
強みを活かして宇宙と繋がる「超越性」 ※創造性かな。
・この6つの美徳から、24の「強みとしての徳性」を見い出しています(※全ての徳性が表にされているが省略)。例えば「正義」を体現するには、「強みとしての徳性」として「公平さ」「チームワーク」「リーダーシップ」が必要としています。この「VIA-IS」はエビデンスも多く、メイヤーソン財団のサイトで無料で利用できます。
・2つ目の診断ツールが「ストレングス・ファインダー」です。これは心理学者ドン・クリフトンが開発しました。ギャロップ社のサイトから10ドルで購入できます。これはビジネスマン用で、34の才能で構成されています。177の質問に答えると、レポートに強みが表示されます。この利用者は1千万人おり、前者を越えています。
・3つ目の診断ツールが「Realise2」です。これは心理学者アレックス・リンレイが開発しました。これは新しく高額ですが、強み・弱みが分析・理解できます。「強みを広く深く把握でき、コーチングに向いている」との評価があります。
・3つの診断ツールがありますが、「VIA-IS」は人生を幸せにする強み、「ストレングス・ファインダー」は仕事における強み、「Realise2」は包括的な強みを理解するための診断ツールです。「VIA-IS」は無料で、普遍的で、用語が分かり易く、お勧めです。
○自分の強みを見い出すコーチング
・自分の強みを見い出す2つ目の方法が、「強みコーチング」です。これはセルフ・コーチングではなく、信頼できる人にしてもらうのが理想です。多くの人は自分の強みを当たり前と思っています。私の強みは「好奇心」と思っています。そのため本を読んだり、行動するのは、当然と思っています。私が教えるトレーニングでは、二人がペアになり、互いの強みを把握するようにしています。
・「強みコーチング」をする時は、信頼できる人にしてもらって下さい。それはコーチが「弱みフォーカス」「欠乏型志向」だと、ネガティブな影響を受けるからです。つまり多くの人は弱点に目が行き、「弱点を正す事」に重点を置き、「強みコーチング」にならないのです。従って「強みフォーカス」「繁栄型志向」の人にコーチングしてもらって下さい。
・「強みコーチング」には5原則があります。
強みは全ての人にある。
強みにフォーカスするのが成果を挙げる秘訣。
強みは可能性を最大にする。
小さな事でも強みを活かすと、大きな違いが出る。
成功の多くは、強みによる。
・そしてコーチングでは、以下の5つの質問をします。
最も大きな達成・成功は何?
自分の最も好きな点は何?
何をしている時が最も楽しい?
どんな時が。最も自分らしい?
自分がベストなのは、どんな時? ※ベストとは力を発揮している時かな?
・この質問に即答を期待してはいけません。多くの人は自分の強みは考えた事がないからです。しかしこの質問から、「皆にあって当然」と思っていた事が、強みとして「見える化」されます。
○弱みは克服しても、平均にしかならない
・強みは把握しただけではダメで、それを活かして、成果に繋げなければいけません。ただ多くの人は弱みの克服にエネルギーを使います。また克服しても、強みになるのは稀です。社会は「平均的な能力」は必要としていません。「平均的な能力」は代替できます。強みを活かせる仕事であれば、成果を挙げ、褒められ、高い報酬を得られます。反対に弱みを克服しても、報いはありません。弱みが顕在化して、トラブルになる事もあります。弱みの克服に拘るべきではありません。
○弱みに効果的に対処する方法
・弱みに対処する方法が3つあります。1つ目は、最小限の時間で、弱みをなくす訓練をするのです。あくまでも弱みに対しては最低限の時間・労力を費やし、強みに最大限を費やすのです。
・2つ目が「アウトソーシング」です。自分の不得意の分野を他人や他社に任せるのです。独立・起業した人が会計ソフトを買って、自分で処理したり、自分でホームページを作ったりしていますが、これはエネルギー・時間の浪費です。独立・起業して活かすべきは、強みである専門性です。
・3つ目がパートナーと組む事です。これは偉業を成し遂げた経営者に共通します。ソニーの井深大と盛田昭夫、ホンダの本田宗一郎と藤沢武夫、松下電器の松下幸之助と井植歳男などです。シリコンバレーでは、ベンチャーキャピタルが若い創業者に熟練経営者を付けるのが通例です(※そうなんだ)。グーグルにはセコイア・キャピタルがエリック・シュミットを付けています。
○自分の強みを活用する
・「ストレングス・ファインダー」を開発したギャロップ社は、「生産性が高い組織を見分ける12の質問」を見い出しました。その中で最も明確な質問が「あなたは自分に最善な事を行う機会が毎日ありますか」です。これに米国では32%が「イエス」で、日本は15%だけでした。さらに「強みコーチング」を行っている組織では、7割が「イエス」と答えています。
・自分の強みに関心がない人は、他人の強みにも関心を持ちません。また自分の弱みが気になる人は、他人の弱みも気になります。そんな会社は自社の劣っている点ばかりが気になり、強みを把握していません。その様な会社は成功しません(※SWOT分析とかあったな)。逆に社員の強みにフォーカスする会社であれば、しがみついてでも、付いて行くべきです。
・たとえどんな会社でも、自分の強みを磨き、有事に備えるべきです。自分の強みが会社にそぐわない場合、まずは自分の強みに合わせるように仕事内容を変えていくべきです(※こんな事できる?)。それができなければ、辞めるしかなく、自分の強みに合った業種・職種を探すべきです。
<第5章 サポーターは心の支えになる> ※本章はこれまでとは違い具体的な話。また記述量も多い。
○ハワイの高リスク家庭の子供
・逆境から再起するには、家族・友人・同僚などのサポートが不可欠です。この「ソーシャル・サポート」を平時から整えるのも、「レジリエンス・マッスル」を鍛える事になります。
・ハワイで700人の子供を、1歳・2歳・10歳・18歳・32歳・40歳で追跡調査したレジリエンス研究があります。対象となった子供は、両親が死別したり離婚した「高リスク家庭の子供」です。この「高リスク家庭の子供」は発達障害/注意欠陥障害や、家出・非行などの問題を起こし易いとされています。
・結果1/3以上が健常者として育ちました(※2/3が問題児!)。エミィ・ワーナー博士はこの要因を3つ挙げています。1つ目は「本人の考え方」です。彼らはポジティブな気質を持ち、楽観的で希望を持っていました。2つ目は「家族との絆」です。彼らは、両親あるいは祖父母の少なくとも一人と強い絆を持っていました。3つ目は「地域からのサポート」です。彼らは先輩や友人から感情的なサポートを得ていました。特に学校の恩師/教会の牧師は、彼らのロールモデルになっていました。
・ワーナー博士は「健常者に育った彼らは人生をポジティブに考え、他者に積極的に相談していた」と述べています。
○沖縄の長寿村
・世界でセンテナリアン(100歳以上)の研究がされています。『ブルーゾーン 世界のセンテナリアンに学ぶ健康と長寿のルール』には、ニコヤ半島(コスタリカ)/サルディーニャ島(イタリア)/ロマリンダ(カリフォルニア州)/大宜味村(沖縄)が長寿村として載っています。その秘訣を、適度の運動、腹八分、植物性食品、赤ワイン、目的意識、人生のスローダウン、信仰心、家族を優先、人との繋がりとしています。ここで注目するのが最後の2つです。
・ドキュメンタリー映画『Happy』に大宜味村のウシさん105歳が出演しています。彼女は毎晩地酒を飲み、踊りもするそうです。彼女は元気を人に上げるのが好きで、彼女に会いに来た人は「元気をもらいに来た」と言います。同村には世界最高齢の皆川ヨネさんも住んでいます。彼女は「恋多き女」を自認し、顔にお粉、髪に油を塗り、香水を振っているそうです。センテナリアンはポジティブで、人との繋がりが密接なのです。
○幸せの原動力は親密性、不幸を招くのは孤立感
・心理学者クリストファー・ピーターソンは、「ポジティブ心理学のエッセンスを一言で言うと」の質問に「他者」と答えています。私もポジティブ心理学の知見を「おばあちゃんの知恵」と考えています。「おばあちゃんの知恵」は「人との親密な関係が、満足感・幸福感の源泉になる」と言っています。
・ある調査では、恋人や家族との関係が深い学生ほど、成績が良く、充実感を持っています。また人との繋がりが深い人は、病気からの回復も早く、長生きします。ある調査では、孤独な人より、家族・近隣と良い関係にある人の方が7年長生きしたそうです
・先進国では「独身貴族」が増えていますが、既婚者の方が人生の満足感が高く、心身が健康だそうです。特に男性は既婚の方が長生きします。結婚していても家庭内別居していては幸福度は低くなります。デンマークは幸福度が高い国ですが、離婚率も高い国です。社会保障が充実しているため、家庭内別居せず、離婚を選択しているのです。日本では「一人暮らし」が増えていますが、孤独と幸福は逆相関の関係にあります。
・会社でも親密性は重要です。ギャロップ社の「生産性が高い組織を見分ける12の質問」にも、「職場に親友がいるか」が入っています。
○同期は貴重なサポーター
・会社での気の置けない同僚となると、同期が欠かせません。しかし近年は採用が縮小され、同期が少なくなっています。また働く人の1/3が派遣社員/パート社員で、彼らに同期の考えはありません。私は海外勤務した時、職場に同期がいなくて、その有難さを痛感しました。
○あなたを支えているのは、傍にいる人
・私は海外勤務になり、心が折れそうになりました。そんな時妻から「息子があなたの目を見なくなったの気付いてる?」と言われました。息子は食事中に私の目を見なくなり、食後も直ぐに部屋に戻るようになっていたのです。それは息子が「今心がここにあらず」の私を気遣っていたのです。かつて「人生を決める瞬間が数回ある」と聞いていましたが、「これがその瞬間だ」と感じました。
・当時私は「私は不幸なんだ、このまま不幸の方が楽だろう」と考えていました(※随分ネガティブだな)。この息子の忠告から、「状況に流されてはいけない。自分から、この谷から脱出しなければ」「問題は自分にある。周りのせいではない」と考え方を変えたのです。またそれまでは「問題は自分で解決できる、他人に頼る必要はない」と考えていましたが、「何としてでもこの悪循環から脱出しなくては」の思いが、自分を謙虚にさせました。妻は以前は同じ会社に勤めていました、そのためそれからは妻に悩みを相談するようになりました。これが私の再起の切っ掛けになりました。
○人と対話する事で得られる癒し
・信頼する人との困難な体験は、ネガティブ感情へのヒーリング(※癒し)効果があるとされています。フレッド・ブライアント博士はこの理由を「喜びや楽しさのポジティブ感情がネガティブ感情を相殺するから」としています。人は他人といると、愉快になり、遊び心が生まれ、創造性が喚起されるのです。※人間は集団的動物なので、集団だと安心するのかな。
・また辛い体験をした人が、家族/親友/カウンセラー/セラピストと話をすると、本人の注意が相手に向かい、自己のエゴが下がるのです(※これは一時的なのでは。まあ「話してスッキリ」もあるかな)。うつ病の人も「自分がどう見られているか、悪く思われているのでは」と自己中心的になっているのです。これがカウンセラーを受けると、対話から些細な喜びに気付き、感情がポジティブに変わるのです。
・私は妻との対話でストレスが解消され、ネガティブ感情がリセットされました。会社に戻るとストレスは再度溜まりますが、痛みを共有する妻の存在により、精神的な弾力性は高まりました。
○家族に助けられたジョブズ
・家族を考える場合、スティーブ・ジョブズは外せません。彼はアップル・コンピュータを創業し、2億ドルの会社にします。一旦離れますが復帰し、iMac/iPod/アップルストア/iPhone/iPadなどのヒット商品を制作します。またピクサーを買収し、CG映画『トイ・ストーリー』などのメガヒットも作っています。
・彼は輝かしい成功の一方、逆境続きの人生を歩んでいます。彼は生まれて直ぐ養子に出されたため、それがトラウマ(心的外傷)になっています。彼は大学を中退し、ヒマラヤを旅したり、座禅を習ったりしています。このトラウマが自分の力を誇示しようとする欲求の動機になったと思われます。
・彼は30歳の時、自分が創業したアップル・コンピュータから追い出されます。アップル株を売却した資金でNeXTを創業しますが、苦難が続きます。彼の資産は1/4にまで減ります。
・しかしこれを支えたのが彼の妻でした。アップルを辞めて4年後、学生ローリーンと知り合い、その後結婚します。夫婦には子供が生まれました。億万長者でしたが、一般の住宅で暮らしました。NeXT/ピクサーは苦境でしたが、精神の安らぎを得ました。妻・子供が彼のレジリエンスを高めたと考えられます。
○職場の繋がりの強さが、逆境を乗り超える
・企業には、「金融資本」(お金、資産)/「人的資本」(従業員)の他に、「社会関係資本」があります。これは継続して業績を伸ばし、社員の満足度を高める上で重要です。※社会関係資本は初耳だな。ESGのSかな。具体例はこれからかな。
・この重要性を、伊那市の寒天メーカー「伊那食品工業」で実感しました。当社は48期連続で増収増益した会社です。本社社屋に300人が働いていますが、フラットなので席を立てば、仲間が見渡せます。また会長・社長以外は「さん付け」で呼んでいます。当社には以下の社会関係資本を形成する仕組みがあり、全社員の顔と名前が一致しています。また「社員の幸せを通して、社会に貢献する」との企業理念があります。
毎朝、社員総出で「かんてんぱぱガーデン」(会社敷地)を掃除する。
毎年、全社員で社員旅行する。
歓迎会/誕生日会などの祝福会を行う。
休日のサークル活動が盛ん。
・そんな当社も逆境に直面した事がありました。2005年「寒天ブーム」が起き、需要が急増したのです。当社も40%増収になり、夜間操業などで対応したのです。しかし無理な勤務になったため、企業理念に反し、社員を苦しめる事になりました。
・間もなく「寒天ブーム」は終わり、増収増益も48期連続で止まります。しかし当社は設備投資も社員増員も行なわなかったので、経営上の問題はありませんでした。ただ毎月の売上の減少は、社員を失望させました。しかし当社は早期に増収基調に戻ります。それは社員の繋がりが強いと云う社会関係資本があったからです。
○お客様に支えられて再起する
・私には、「お客様に支えられて再起した」経験があります。P&Gが中国で売っていた化粧品が風評問題に遭ったのです。中国のある省が化粧品の成分をチェックし、数社のスキンケアに認められない成分が含まれていたのです。当時は靖国参拝問題があり、政治的背景があったと考えられます。中国のデパートのカウンターでは美容部員が危険に晒され、カウンターを閉じました。※尖閣国有化の時と同じだな。
・この時私は日本/韓国を担当していました。日本は影響はなかったのですが、韓国ではウェブサイトが炎上し、メディアではバッシングされました。新規のお客様は止まり、買い控えも起きました。これは韓国に進出し、日が浅かった事も関係していたと思われます。韓国のメーカーはP&Gのお客様だけ割り引くなど、敵対的なセールスも始めました。この「チャイナクライシス」からの再起が、私の最優先課題になりました。
・この時私達を励ましてくれたのが、P&Gブランドの愛用者でした。彼女達はわざわざデパートのカウンターに足を運び、美容部員に励ましの言葉を投げて頂いたのです。また自宅に使いかけがあるのに、購入してくれたのです。P&Gには「お客様はボス」の哲学があります。上司と同等にお客様を見ていたのです。これは消費財メーカーならではの哲学です。※日本では普通だが、欧米では珍しいかな。
・このお客様に励まされ、韓国人に火が着きます。彼らは日本人以上に果敢で、様々なアイデアが出てきました。「カウンターに来たお客様に、花束を上げたり、無料エステを行っては」「弊社のブランドを勧める雑誌記者に、感謝の手紙を送っては」「バイヤーさん(※卸売?)への売上を回復し、再起可能を実証しては」「日本からベテラン美容部員を呼んで、カウンターを強化しては」などが出てきました。
・これらの対策を行う事で、再起が叶いました。この危機により、「ブランドの本当の資産は何か」が理解できました。それは「お客様」「美容記者」「小売店」だったのです。この逆境で、私達は打たれ強くなりました。さらに新商品投入/新タレント起用などで、韓国で念願のトップブランドになったのです。※凄いな。P&Gは日本商品かな、欧米商品かな。まあポカリスエットとかも売れているか。
○トップコンサルタントが味わった逆境
・私は経営コンサルタントの第一人者・大前研一さんのファンです。彼は経営に関する本から、若手サラリーマンにスキルアップを促す本まで執筆しています。私が心を打たれたのが逆境を記した『大前研一敗戦記』です。当書は彼にとって異質の本ですが、彼のビジョン/思想/分析眼/批判的精神などが書かれています。※これは読みたい。
・彼は負けず嫌いでしたが、高校時代はクラリネットに没頭し、登校拒否していました。しかし試験は何時も満点だったそうです。早稲田大学では応用化学を専攻しますが、東京工業大学の大学院に進み、原子力工学を専攻します。しかし日本のレベルは低いと痛感し、マサチューセッツ工科大学(MIT)に留学します。ここで「カネなし、ヒマなし、アソビなし」で鍛えられたそうです。
・彼は帰国し、日立製作所で原子力発電を設計します。留学時代に知り合った女性と結婚しますが、「嫁姑の確執」が逆境になったそうです。彼は日立製作所を辞め、マッキンゼーに採用されます。MBAを取得していませんでしたが、ただ一人の面接官が彼を推したため、採用されたそうです。その後マッキンゼー・ジャパンの社長、マッキンゼー本社の常務に就いています。
・今であれば大企業(日立製作所)から数人の事務所(マッキンゼー)に転職するのは考えられません。しかもコンサルタント業は一般的でなく、特にマッキンゼーのフィーは高額で、顧客の獲得は難しかったそうです。しかし彼のノートが『企業参謀』として出版され、ベストセラーになると、顧客の申し込みが殺到したそうです。
○逆境で支えてくれる人、離れる人
・私は大前研一を、生まれながらにレジリエンスを備えた人と思っています。彼の最大の逆境は、都知事選で青島幸男に敗れた事と思います。彼は「平成維新の会」を設立し、多くの政治家などが集まってきました。ところが都知事選に立候補すると、その支持者が離れて行ったのです(※公認が青島幸男に行ったのかな)。エスタブリッシュメントは逃げ、アンチ・エスタブリッシュメントだけが残ったのです。彼を応援したのは、ほんの数人でした。「陰ながら応援する」と言って、何もしなかった人や、選挙後に音信が途絶えた人もいました。
○自分のサポーターはどこに
・レジリエンスを高めるため、「大切な人」(VIP)のリストを作成する事を勧めます。これは心を支えてくれる人なので、友人/家族だけでなく、会社の上司/先輩/同僚や、恩師/メンター(指導者)などが含まれます。研修でこれを行ったところ、旅先で出会った同性や、入院した時の看護師などがありました。あるいは既に亡くなったおじいちゃん/おばあちゃんでもOKです。
○大切な人は5人まで
・「大切な人」は5人までが適当でしょう。彼らとは普段からギブ・アンド・テイクの関係を築いておきましょう。私はこれに息子を入れています。もし彼のバスケットボールの試合と大事な会議が重なったらどうすべきでしょうか。これは自分の誠実さが問われる瞬間です。
・このリストはレジリエンスにとって重要です。選ぶ時は「あなたに大切な人は誰か」「親身に相談してくれた人は誰か」「叱咤激励してくれる人は誰か」を参考にして下さい。
○あなたが心の支えになるストロークの習慣
・リストが作成できたら、あなたはその「大切な人」の心の支えになって下さい。「利他心」はあなたを活性化する原動力になります。その方法に「声かけ」があります。プラン・ドゥー・シー社(PDS、※変な社名だな)ではこれを「ストローク」と呼んでいます。当社はホテル/レストランを経営し、オリジナル・ウェディングの草分けです。当社は、社員が働き甲斐を持っている事で有名で、20名採用に4万人がエントリーしました。「心から愛せる商品を提供できる」「人を大切にする会社なので、自分も成長できる」などが人気の理由です。
・しかし基本飲食業なので仕事はハードです。そこで効果を上げているのが「ストローク」なのです。若い社員が店舗のジェネラル・マネージャーを任されました。しかしその店舗はピープル・マネージメントに問題があったのです(※横文字が多いな)。そこで彼はウェディング事業に焦点を絞り、社員/アルバイトのリストを作成し、「ストローク」を始めたのです。これにより職場の親密感も高まり、彼への信頼も高まりました。そして彼が掲げた目標「京都で最も多くのウェディングを獲得する」が達成され、海外旅行も行われました。
<第6章 感謝のポジティブ感情を高める>
○感謝には、様々なメリットがある
・「レジリエンス・マッスル」を鍛える最後の方法が、「感謝を高める」です。感謝は、自分の境遇をありがたいと思う感情です。優しくしてくれた人や、神様に感謝するなど、奥深い感情です。そのため感謝は古くから研究されてきました。ロバート・エモンズ博士は、その効果を5つ述べています。
①幸福度を高める。
②ネガティブ感情を中和する。
③体を健康にする。
④思いやりが生まれる。
⑤前向きになる。
・①感謝は幸福度を高めます。また感謝は「順応」を抑制します(※次の説明で分かる)。「順応」はアイスクリームの話に例えられます。夏の日のアイスクリームは大変美味しいのですが、二口・三口と食べると余り美味しく感じません。これは「順応」するからです。これは逆の痛み/不快などにも見られます。この「順応」に「新しさ」をもたらすのが感謝なのです。私達は「ありがたい」「当たり前ではない」と感謝を感じた時、出来事を新鮮に感じるのです。※「順応の抑制」とはリセットだな。
・②感謝はネガティブ感情を中和します。例えば将来に不安があっても、今ここにあるものや、自分にもたらされたものに目を向ける事ができます(※これは順応に近いかな)。感謝によるポジティブ感情はネガティブ感情を相殺するのです。
・③感謝は体を健康にします。感謝を多く感じる人は、高血圧になり難い、免疫力が高いなどの作用が確認されています。
・④感謝を持つ人には、思いやりが生まれます。感謝の気持ちが豊富な人は、「利他」の精神を持ち、道徳的な行動をします。これにより本人も満たされます。
・⑤感謝を持つと、前向きになります。感謝を持つ人は前向きです。逆境に直面しても諦めません。過去の全ての体験に意味があったと思っています。
○感謝の大爆発
・私は感謝が大爆発した経験があります。コーチングを受けていた時、コーチから「あなたが経験した危機的な状況を教えて下さい」と言われ、余りにもショッキングな阪神淡路大震災の経験を話したのです。
・私は神戸市灘区に住んでいました。朝の5時激震で起こされます。家中に物が散乱していました。外に出たのですが、道路は張り裂け、電柱は折れ、自動車はひっくり返り、木造住宅は倒壊していました。非難した小学校の近くでは、倒壊した家屋から老女を助け出そうとしていました。また倒壊した家屋の前には、即死したと思われる娘に手を合わせる母もいました。灘区では4千人が命を失ったのです。
・この話を終えると、コーチは「なぜあなたは、自分が生かされた事に気付かなかったのですか」と言われました。私は自分が生き残った事を当然と思っていたのです。この時、私が生き残ったのは奇跡で、「神様が生かしてくれた」と自覚し、「感謝の大爆発」が起きたのです。
・これで私の人生観は一変しました。これまでの悩みは、余りにも矮小と感じるようになりました。その後もピンチは多くありましたが、「生かされた」と悟ってからは、トラブルにも右往左往せず、図太くなったようです。あの「感謝の大爆発」で、一瞬にして「レジリエンス・マッスル」が強化されたのです。
○『ONE PIECE』の主人公フィルが感じた感謝
・私は研修で、マンガ『ONE PIECE』の話をよくします。それは主人公フィルが逆境で感謝を実感し、再起するシーンです。彼は「頂上決戦」で兄を失い、罪悪感に苛まれ、自暴自棄になります。そこでメンター的存在であるジンベエが「失った物を数えるな!無い物はない!お前に残っているものは何じゃ!」と叱咤激励します。彼は自分の仲間が8人残っている事に気付くのです(※マンガは読んでいないけど、このシーンは記憶にある)。感謝は自分が恵まれていると感じた時に起きます。不幸・不満・不安などのネガティブ感情が渦巻いている状況では起きません(※それでないのか)。フィルは8人の仲間が残っている事に気付き、再起します。そして2年後、新時代の指導者になります。
○感謝を育むための日記
・感謝を豊富に持つ人の特徴は、「ないもの」ではなく「あるもの」に焦点を当てます。感謝の心を高める方法は、自分の恵まれた点にフォーカスする習慣を身に付ける方法で、以下の3つがあります。
①感謝日記を書く。
②3つの良い事を思い出す。
③感謝の手紙を書く。
・①感謝日記は以下の手順で行います。
一日の終わりに感謝した事を思い出す。
それを日記に書く。
できれば、それが起きた経緯を考える。
「ありがたいな」の気持ちで、日記を閉じる。
・第1章でネガティブ感情を鎮めるライティングを説明しましたが、これはポジティブ感情を高めるライティングです。ライティングは、考える/書く/読むなどの行為が含まれるため、その効果は長続きします。また感謝の気持ちで寝付くと、翌朝は幸せな気分で目が覚めます。
・②「3つの良い事を思い出す」方法は、以下の手順で行います。※感謝日記と同じ感じ。
その日に起きた3つの良い事を回想する。
それを箇条書きする。
その理由を考える。
・これは幸福感が高まるだけでなく、抗うつの効果もあります。これは仕事においても効果があります。保守的な会社だと失敗に目が向けられ、行動回避する悪循環が生まれます。
・ある外資系ITコンサルティング会社はこれを取り入れ、アイスブレイク(※緊張をほぐす)を起こしました。当社はシックスシグマで業務改善を試みていましたが、あるベテラン社員が会議に消極的で、アイデアが出ませんでした。ここで司会進行役が「会社で上手く行った事を共有しよう」と提案したのです。これにより若手がどんどんアイデアを出すようになり、やがてそのベテラン社員もアイデアを出すようになりました。
・この様に「上手く行った事」を共有する事で、感謝の感情が生まれ、創造力・発想力・満足度が高まるのです。
・③感謝の手紙は以下の手順で書きます。
お世話になったが、感謝を伝えられなかった人を選びます。
その感謝を伝える手紙を書きます。
してもらった親切・好意を回想します。
どの様な好影響があったかも言及します。※記述する?
その人がいなかったら、どうなっていたかを考えます。
書いた手紙は、手渡すか、送付するか、そのまま保管します。
・この手紙は渡さなくても効果があるのです。私が行った演習では、感動で涙が止まらなかった人もいます。逆に手渡すと、日本人は羞恥心が高いのでポジティブ感情が高まらないかもしれません。
・この「感謝の手紙」は、誕生日/父の日/母の日/敬老の日など、書く機会は沢山あります。また会社でも「サンクスカード」として取り入れる事もできます。これは両者にポジティブ感情を起こします。
<第7章 痛い体験から意味を学ぶ>
○修羅場を乗り越えて成長する人
・痛みを感じる経験をした後に、素晴らしい成長を遂げる人がいます。そこでまず思い出すのが、『ドラゴンボール』の孫悟空です。彼は修羅場を乗り越え、必ず成長するのです。子供はこの「修羅場の後の成長」を見て、ワクワクするのです。この成長は計画的にはできません。困難や苦しみから逃げず、挑戦するから得られるのです。これを学者は「トラウマ後の成長」(PTG)と呼んでいます。
○奮闘した人にもたらされる5つの成長
・ノースカロライナ大学のリチャード・テデスキ博士は、「もがき奮闘する事で、ポジティブな変化がその人の内面に生まれる」としています。PTGを体験すると、以下の5つの変化が現れます。
生に対する感謝の気持ちが増す-小さな出来事にも、喜びを感じるようになります。
人間関係の変化-修羅場で手を差し伸べてくれる人もあれば、親友だと思っていたが、助けてくれない事もあります。
自分の強さの再認識-自分の強さを正確に認識します。これにより自信が湧きます。
価値観が変わる-前の3つの変化から視野が広がり、人生観・価値観・仕事観が根底から変化します。
存在/霊性に対する目覚め-命の危険を乗り越えると、自己の存在に対する意識が高まります。※これはよく分からないな。
・簡単に纏めると「生への感謝」「深い人間関係」「自己の強さ」「新しい価値観」「存在と霊的意識の高まり」です。PTGを体験すると人生の優先順位が変わり、看護師/心理カウンセラー/ソーシャルワーカーなどに転職する人もいます。
○松下幸之助に起きた最大のピンチ
・修羅場を乗り越えて成長した著名人に、「経営の神様」松下幸之助がいます。松下電器は戦前に著しく成長しますが、日立/東芝/三井/三菱には及びませんでした。戦時中は、軍に命令され、従業員を増やし、軍需品を作りました。そのため銀行から融資を受け、バランスシートは肥大化しました。
・敗戦すると、松下電器はGHQから軍需産業として生産停止を受けます。彼は資産を凍結され、巨額の負債だけが残ります。公職追放されたため、職務からも追放されます。この状態が1946年から1950年まで続くのです。
○松下幸之助は、どうピンチを乗り越えたか
・会社の資産は没収され、莫大な負債が残り、自由に活動する事もできなくなります。人は自分の事は自分で決められると幸福度は上がります(自己決定感)。そのため経営者はサラリーマンより幸福度が高くなります。彼は毎週東京に通い、GHQに陳情しますが、GHQは聞く耳を持ちませんでした。彼は無力感・罪悪感などのネガティブ感情からアルコールに頼り、睡眠薬も使用するようになります。
・彼は50代後半のこの不遇な時期に、「高次の目的」を見い出し、逆境を乗り切ったのです。彼は自分がなぜ苦境になったのか自問します。「経営の神様」ともてはやされ、奢っていたと反省します。日本は国家資産の1/4を失い、数百万の命も失いました。なぜ日本は自殺行為をしたのか考えました。
・これが「PHP研究所」を発足する動機になります。PHPとは、繁栄(Prosperity)、幸福(Happiness)、平和(Peace)です。「繁栄によって平和と幸福を」です。彼はPHP研究所の活動に全ての時間を費やすようになります。しかし人々の反応は良くなかったようです。当時は、「人間の本質より、食べ物」だったのです。しかし彼はPHP研究所の活動を、心の拠り所としました。4年後に制限を解かれ、松下電器の経営に戻ります。※彼は松下政経塾も立ち上げているな。この「政経」は政治経済ではなく、「政治経営」らしい。
○危機後の繁栄
・その後松下電器は躍進します。彼も60歳を過ぎ、所得日本一を10回記録します。彼は60代半ばで社長を息子に譲り、PHP研究所の活動を再開します。彼は著書を50冊近く書きします。『道をひらく』は450万部の超ベストセラー・ロングセラーになります。
・危機の言葉は、「危ない」と「チャンス」から成ります。「太極図」も黒の部分に白い丸、白の部分に黒い丸があります。これらは「不運の中には成功の種が、有頂天の中には失敗の種がある」を表しています。
・彼は家電によって多くの人を幸せにしました。しかし長い目で見ると、PHP研究所の出版・教育により、より多くの人が救われた気がします。
○人生を俯瞰し、逆境の意味を学ぶ
・これまでにレジリエンスの6つの技術を紹介しました。最初にネガティブ感情の悪循環から脱出する方法と、「思い込み」を手なずける方法を紹介しました。次に「レジリエンス・マッスル」の「自己効力感」を身に付ける方法、自分の「強み」を活かす方法、「サポーター」を作る方法、「感謝」のポジティブ感情を高める方法を紹介しました。そして最後が、これから紹介するつらい体験から、意味を学び、自己成長を促す方法です。これには逆境体験を俯瞰する作業です。
・レジリエンス・トレーニングでは、逆境体験を「物語化」してもらっています。しかしその解釈に「思い込み」が入り、真実が歪められます。レジリエンスでは逆境を正確に把握する必要があり、そのため「レジリエンス・ストーリー」を語る場を設ける事で、主観的な意味づけを理解できます。※主観性を理解する?逆の客観性を理解するのでは。
・レジリエンス・ストーリーを作成する際、以下のポイントがあります。
①被害者としてではなく、再起者として物語を作成する。
②精神的な落ち込みから抜け出した切っ掛けを回想する。
③どん底から、いかに這い上がったかに着目する。
・物語を作る際、被害者の立場になりがちですが、困難を乗り越えた者として物語を作らなければいけません。2つ目の再起した切っ掛けは重要です。どんな行動によったのか、誰に助けられたのか、この回想は重要です。
・3つ目の這い上がるために、どのレジリエンス・マッスルを使ったかも重要です。自分の「強み」を使ったのか、サポーターに助けられたのか、何に感謝したのか、これらの実例を物語に含める必要があります。
○人に物語る事で逆境の意味に気付く
・最後が「俯瞰」です。これはコーチングで「メタビュー」と呼ばれる手法です。自分のレジリエンス・ストーリーを語り、この体験にどんな意味があったかを探求します(※物語の作成と俯瞰がセットなんだ)。つらい体験をすると、不安・怖れ・怒りなどから近視眼的になります。これは問題解決には必要ですが、これを知恵に変換するには俯瞰的な視野が必要です。
・レジリエンス・トレーニングでは、これを数人のグループで行います。順番にレジリエンス・ストーリーを語るのです。この時、聞き手に以下の質問をしてもらいます。
この体験から、何を学びましたか。
この体験は、その後にどのような意味を持ちましたか。
俯瞰して、共通点や大きな流れなどが見えましたか。
・これらの質問で、語り手は眠っていた深層心理に気付く事があります。この真実に気付いた瞬間が、その人の成長の瞬間です。
○仕事観の研究
・この演習を行って気付いたのですが、私はやりたい事が分からなくなると幸福度は下降し、新しい目的が定まると幸福度が一気に上昇するパターンを繰り返してきました。これを体系化できたのは、心理学者・経営学者ジェーン・ダットンの「仕事観」の研究を知ったからです。
・彼の弟子で心理学者のエイミー・ルゼスニュースキーが仕事の価値観を3タイプに分けています。まずその寓話を紹介します。※超簡略化。
3人の大工が教会を建てていました。旅人が「なぜその仕事をしているのですか」と訊くと、Aは「お金のためですよ」、Bは「この仕事を頑張れば、次の仕事をもらえる」、Cは「今は忙しいので」と答えます。Cが休んでいる時に再度質問すると、「立派な教会を建てると、神様も信者も喜ぶ」と答えました。
・Aさんは「ジョブ」タイプで、生産性は高くありません。早く帰宅して、娯楽を楽しみたいと思っています。Bさんは「キャリア」タイプで、「仕事は地位と名誉のため」と考えています。仕事に熱心ですが、失敗すると失望します。目標を達成しても、次の目標が立てられるので、走り続ける事になります。Cさんは「コーリング」タイプです。「コーリング」には「天職」の意味があり、宗教では神から授けられた使命です。このタイプは、仕事だけでなく人生に対しても前向きです。また引退も考えておらず、健康である限り働き続けます。
・「ジョブ」「キャリア」タイプは仕事以外に目的があり、「外発的な動機」と呼ばれます。一方「コーリング」タイプは仕事自体が目的で、「内発的な動機」と呼ばれます。後者は仕事の成果だけでなく、そのプロセスにも意義を感じています(※重視かな)。自分が進む一歩一歩に満足感を感じています。※この仕事観は面白いな。
○「コーリング」タイプは誰か
・会社のオーナー/経営者、医師、弁護士、スポーツ選手、作家、芸術家などの大半は「コーリング」タイプです。また主婦・主夫にもこのタイプが多くいます。しかし医師でも最初は「コーリング」タイプだったが、大学病院に長く勤めていると「キャリア」タイプに変わったなどがあります。また逆に最初は「キャリア」タイプだったが、逆境体験/転職/独立などにより「コーリング」タイプに変わる人もいます。※他にも例が沢山紹介されているが省略。
・私は「どのタイプが望ましい」と断言しませんが、一般的に「コーリング」タイプの人は、仕事/人生に対する満足感が高く、心身が健康で、私的にも公的にも成功しています。
○「コーリング」に従うCEO
・私にはそのロールモデルになる人がいました。後にP&GのCEOを務めるボブ・マクドナルドです。私がP&G日本法人のブランド・マネージャーをしていた時、彼はその社長でした。彼は私の名前を憶えてくれて、優しく話しかけてくれました。
・彼と一緒に昼食する機会があり、「なぜ陸軍を辞めて、P&Gに入社したのですか」と訊きました。彼は陸軍士官学校を卒業し、陸軍でキャリアを歩んでいましたが退役し、大学院でMBAを取得し、実業界に転向していたのです。彼は「人の役に立ちたいと考え陸軍に入ったが、ベトナム戦争になり考えが少し変わった。それは消費財企業でも貢献できると思うようになった」と答えました。彼は生粋のサーバント・リーダー(奉仕型)だったのです。私は彼に惚れ、長くP&Gに勤める事になったのです。
・彼はP&GのCEOになると「中国/インドなどの新興国で、新たに10億人のユーザーを獲得する」を目標とし、それを成し遂げました。
○本当にやりたい事を仕事にしているか
・やりたい事が分からなくなると幸福感が下降し、目的が定まると幸福感が上昇するのは「仕事観」の研究から説明できます。私は自分が愛する商品・サービスを提供するのが好きで、それをP&Gで行えたので、満たされた社会人生活を送れました。時にはハードワークもありましたが、それが「コーリング」と思っていたので、乗り切る事ができました。
・ところが先輩や同期がいなくなり、ベテランになると、「コーリング」から「キャリア」に変わっていきました。それは本部間の競争が激しくなり、「成果を出して昇進するか、社外に転職するか」(アップ・オア・アウト)を迫られるようになったからです。
・会社に残るためには「キャリア」に変わるしかなかったのです。担当範囲は日本から世界に広がり、部下も増え、仕事内容はマーケティングからオペレーションに変わりました。売上を管理する数字中心の仕事に変わりました。仕事観は「キャリア」から、さらに「ジョブ」に変わっていきました。
・上司にも部下にも不満はなく、会社の待遇にも不満はありませんでした。しかしやりたい事ができなくなり、「慢性的な不満」に陥りました。しかしコーチングを経て、新しい「コーリング」を見付け、会社を辞め、独立・起業する事にしたのです。その後、幸福度は上昇基調です。
○逆境体験を俯瞰して得られる教訓は、成功への鍵
・私は逆境から、「コーリングから外れると充実感を得られない」と悟りました。ところが次の行動(※転職?)を起こせず、行動回避を続けました。それは単に臆病だっただけでなく、自己認識が足らなかったのです。自分の感情、「思い込み」、自分の「強み」などの自己効力感の源泉を理解していなかったのです。
・今では自分の「弱み」も知り、レジリエンス・マッスルを鍛える事もできるようになりました。多くの人は、自分を理解していません。人はそれにもっと時間・労力・お金を使うべきです。「私は何者か」を知り、その延長に「私は何をすべきか」「私が本当にやりたい事」があるのです。
・レジリエンスの最後の技術は、逆境体験から「自分は何者か」を知るプロセスです。このプロセスで「コーリング」を知り、勇気を持って一歩踏み出し、充実しワクワクした世界を得られます。また不幸の中にも成功の種は隠されています。そんな中でも希望をもって前向きに行動して下さい。それがレジリエンスを持つ人の生きる楽しみです。
※会社の退職後に、よく勉強し、ここまで体系化できたな。まさしくこれがコーリングなのかな。
<おわりに>
・以上がレジリエンスを鍛える7つの技術です。ここでもう一度言いますが、「行動回避や言い訳は止めませんか。新しい事にチャレンジして下さい」。最初は小さな一歩でも良いのです。これを「ベイビーステップ」と云います。小さな成功体験でも、自己効力感が生まれます。レジリエンスを身に付けていれば、なおさらできます。失敗は成功に必要なのです。成功体験/失敗体験/喜び/悲しみ、全てがあなたの人生の生きた教訓になります。
・私は36歳の時、「コーリング」と思える方向に進みました。それは自分の体験を基に、レジリエンスに関する本を出版する事です。しかしそれは一旦は諦めざるを得なくなり、レジリエンスを教える仕事に移りました。しかし私は執筆している時に充実を感じるので、その後も文章は書き続けていました。それがある偶然で、本書を出版する事になったのです。これが実現し、皆様に深く感謝しています。
・2020年東京オリンピックが開かれます。目標を定めると「希望」が生じ、それを達成するための「意志力」と、道筋を想像する「見通し力」(※新しい言葉だな。想像力かな)が生まれます。子供は「オリンピックに出たい」と、スポーツに燃えているかもしれません。大人も充実した人生を送るため、新しい事にチャレンジすべきです。最初は小さな「ベイビーステップ」で構いません。しかし数年経ち、それが積み重さなると、行動回避した人と比べ大きな差になります。言い訳や行動回避は止めて、一歩踏み出して下さい。