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『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫(2014年)を読書。

書名に惹かれ選択。
フロンティアがなくなった資本主義は、電子・金融空間を創出し、バブルを繰り返している。
その資本主義は終焉し、脱成長の新しい経済システムに替わるとしている。
今の米国の分断を見ると、正しく資本主義の終焉を感じる。

「長い16世紀」と「長い21世紀」の比較も面白い。
第4章「欧州」の頃から抽象的になるのが残念。

お勧め度:☆☆☆
内容:☆☆☆

キーワード:<資本主義の延命策で苦しむ米国>成長、利子率革命、オイルショック、電子・金融空間、新自由主義、バブル、空間革命、量的緩和、シェール革命、<新興国の近代化がもたらすパラドックス>過剰マネー/過剰設備、価格革命、資本主義、近代化、民主主義、バブル、覇権、<日本の未来をつくる脱成長モデル>バブル、所得、アベノミクス、成長、国家債務、<西欧の終焉>欧州危機、資本帝国/領土帝国、新中世主義、蒐集、過剰、時間/知、<資本主義はいかにして終わるか>ブレーキ、無限/過剰/蒐集、終焉、中国バブル、財政均衡、労働規制、民主主義、情報革命、脱成長

<はじめに>
・資本主義の死期が近付いています。それはフロンティアがなくなったためです。資本主義は「中心」と「周辺」から成り、「中心」が利潤率を高め、自己増殖するシステムです。「地理的・物的空間」はなくなり、米国は「電子・金融空間」で生き残りを賭けています。さらに重要なのは、中間層が資本主義を支持しなくなった事です。自分達を貧困層に陥れる資本主義を支持するはずはありません。資本主義の終わりが始まったのです。

<第1章 資本主義の延命策で苦しむ米国> ※本章は米国の話が中心。
○経済成長と云う信仰
・大半の人は「資本主義が終わる」とは夢にも思っていません。世界は今だに経済成長を追い求めています。近代になり資本主義が導入され、国家はそのための環境・基盤を整備しました。しかしその「成長教」は、人々を苦しめ、国家の存在を危うくしているのです。利潤を上げれない空間で、無理やり利潤を追求すると、弱者にしわ寄せがいくだけです。そのため圧倒的多数であった中間層が没落しているのです。
・これに「新興国は成長しているじゃないか」「利益を上げている企業もある」と反論するでしょうが、これは局所的な現象にすぎません。現状を検証すると、成長が止まるのは明白です。中世封建主義が近代資本主義に変わったように、近代資本主義も終焉するのです。歴史家フェルナン・ブローデルは、その1450~1640年を「長い16世紀」と呼んでいます。今はそれに相当する時期なのです。

○利子率の低下は資本主義の死の兆候
・昨今先進国の利子率が低下しています。日本の10年国債は1997年2%を切り、2014年0.6%にまで低下しています。米国/英国/ドイツも同様です。『金利の歴史』には紀元前3000年から現在までの主要国の金利が掲載されています。この中で一番低かったのが、17世紀初頭のジェノヴァで、2%を切りました。今の日本はそれ以下になったのです。
・これが重要なのは、利子率は資本利潤率に等しいからです。これは資本主義が機能しなくなった事を意味します。ブローデルはジェノヴァの投資が行き渡った状態を「利子率革命」と名付けました。ジェノヴァはスペインからの銀で溢れていたのです。彼は『イタリア史』から、「山の頂上までブドウ畑になった」と述べています。当時ワイン製造は最先端産業で、その投資先も尽きたのです。

○繰り返される「利子率革命」
・利子率=利潤率が2%を切れば、資本側が得るものはなくなります。この状態が10年続くと、経済・社会システムは維持できません(※マイナス金利になると、お金を投資するより、持っていた方が良い)。「長い16世紀」後半のジェノヴァがそうでした。そのため今を、21世紀の「利子率革命」と呼んでいます。ROA(総資本利益率)は国債利回りに連動します。従って利子率が2%を切ると、投資しても満足するリターンは得られません。
・日本の国債利回りは約0.7%で、米国/英国/ドイツの利潤率も1~2%です。そのため企業は設備資産を拡大しません。ある新聞記者はブドウ畑になぞらえ、「山のてっぺんまで行き渡ったウォシュレト」と言っています。

○1970年代に始まった資本主義の終わりの始まり
・この利潤率の低下の始まりは、1974年です(※転換点をオイルショックとする説は、最近よく聞く)。日本/英国はこの年が国債利回りのピークで、米国は1981年がピークになっています。1970年代は、1973年/1979年にオイルショックがあり、1975年ヴェトナム戦争が終結しています。これらは近代資本主義の大前提である「もっと先へ」「エネルギーコストの不変性」が成立しなくなった事を意味します。
・「もっと先へ」は空間の拡大の事です。米国がヴェトナムに敗れた事で、「地理的・物的空間」の拡大ができなくなったのです(※領土の拡大ではなく、市場の拡大かな)。またオイルショックにより「エネルギーコストの不変性」が失われ、先進国はエネルギー/食糧を安く取得できなくなりました。
・これにより利潤率は低下し、「利子率革命」が起き、「長い21世紀」が始まったのです。この利潤率の低下は、資本主義の死に繋がります。※グローバル化とか世界の平準化とも云えるかな。

○交易条件の悪化がもたらした利潤率の低下
・米国の利潤率の低下を、「交易条件」の観点から見ます。「交易条件」は、輸出物価指数を輸入物価指数で割った値です。例えば基準年、自動車1台で原油1単位が輸入できたとします(交易条件指数=100)。その後原油価格が倍に値上がりすると、原油は0.5単位しか輸入できなくなり、交易条件指数=50と半減します。※考え方はシンプルだが、算出は大変そうだな。
・つまり資源を安く入手し、工業製品を高く売れば、利潤を多く得られます。すなわち「日本国株式会社」の粗利益を示しているのです。

・図は日本の交易条件(=輸出デフレーター/輸入デフレーター)を表しています。1973年(第一次オイルショック)までは伸ばしていましたが、その後低下します。さらに1999年以降は資源価格の高騰で。急激に悪化しています。
・原油価格の高騰の過程を確認します。1973年オイルショック前は1バレル2~3ドルでした。1974年オイルショックにより11.2ドルまで上昇します。2002年までは13.6~29.2ドルの範囲で推移します(一時的には40ドルまで高騰)。ところがその後上昇し始め、2004年40ドルを突破し、リーマンショック直前には147ドルまで上昇します。
・この原油価格の高騰により、先進国は粗利益を圧迫され、利潤率=利子率は低下したのです。

○米国の延命策-電子・金融空間の創造
・交易条件が悪化し、モノづくりではやっていけなくなりました。ヴェトナム戦争に負けた事で、「地理的・物的空間」の拡大も失敗します(※ヴェトナム戦争にそんな意図はあったかな)。これは中世イタリアの領主・貴族と同じ状態です。
・本来ならこの時点で、資本主義に代わる新しいシステムを模索すべきでした(※新自由主義が生まれたのでは)。ところが米国は「電子・金融空間」を見付け、「金融帝国」と化したのです。※フロンティアを作ったのかな。

・この「電子・金融空間」は、ITと金融自由化により創り出した空間です。1971年ニクソン・ショックによりドルと金が切り離されます。これによりバブルが起きやすくなります。同じ年にインテルはCPUを開発しています。1984年米国の全産業の利益で、金融業が占める割合は10%に達していなかったのですが、2002年には30%を越えます。またこの流れはグローバリゼーションとも一致しています。※今はこの空間を金融緩和も支えているかな。
・米国は債権の証券化などにより、世界の余剰マネーを「電子・金融空間」に呼び込みました。しかしその過程で、ITバブル/住宅バブルを起こしたのです。エネルギーを必要とせず、利潤を極大化する空間を作りだしたのです。

○新自由主義と金融帝国化との結合
・米国の「金融帝国化」は格差を拡大させます。それは新自由主義により金融市場が拡大されたからです。新自由主義は市場原理主義に依拠する考え方で、1980年代のレーガノミクスに始まります。資本配分を市場に任せれば、当然労働分配率は下がり、中間層は衰退します。
・1991年ソ連が崩壊し、世界が資本市場になりますが、当時は資本の完全移動が実現されていませんでした。ところが1995年に財務長官に就任したロバート・ルービンが「強いドル」に政策転換し、世界からマネーを集め、「米国投資銀行株式会社」となったのです。1999年には銀行と証券の兼務を認める「金融サービス近代化法」を成立させています。

・従来、マネーは銀行の信用創造により作られていました(※実態経済の成長かな)。そのためには家計の所得が増え、貯蓄率が高くなる必要がありました。しかし利潤率が低下し、所得が増えなくなったので、米国は商業銀行を投資銀行化させたのです。さらに金融・資本市場を自由化し、資産価値の値上がりで利潤を得ようとしたのです。※20世紀が終わる頃、「これからは金融業だ」と、度々聞いた。
・「地理的・物的空間」では労働者/商業銀行が主役でしたが、「電子・金融空間」になると、ボタン一つで多額の資金を動かせる資本家/投資銀行に替わったのです。※この辺りが真髄だな。
・米国の全産業利益で金融の占める割合は、1929~84年までは12%でしたが、それ以降は20%に上昇しています(※この説明だと階段状に上がったみたいだが、実際は5%から25%に右肩上がりになっている)。またその過程で、ITバブル/住宅バブル(※リーマンショックかな)を起こしています。

○資本主義の構造変化
・図は東インド会社ができてからオイルショックまでの、資本主義の構造を表しています。X軸は粗利益(交易条件)、Y軸は市場規模を示し、この積が名目GDPです。しかしオイルショック後は、資源高、少子化などにより、共に増えなくなったのです。
・そこでこれを3次元化し、Z軸に「電子・金融空間」を作ったのです。金融はグローバリゼーションになじみます。1995年以降米国は日本/アジアで余っているお金を「電子・金融空間」に投資できるようにしたのです。※郵政民営化も、これが目的だったらしい。

・しかしインターネット・ブームによりITバブルが起きます。さらに住宅バブルが起きますが、これはCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)などの証券化商品により増長されました。リーマン・ショック前には100兆ドルのマネーが創出されましたが、回転率を掛ければ、実物経済を遥かに凌駕するマネーが世界を駆け回りました。「金融サービス近代化法」により、商業銀行も証券業務に参入できるようになり、無限大に投資できるようになったのです。
・しかしリーマン・ショックで金融帝国は崩壊します。自己資本の12倍までしか投資できなかったのが、40~60倍も投資していたからです。これにより「電子・金融空間」は縮小します。※コロナ・ショックを受けても、拡大し続けているみたい。

○日本が経験した道を、米国も繰り返す
・今の米国は、積極財政と超低金利政策で成長を取り戻そうとしています。これはバブル崩壊後の日本と同じです。2008年12月米国は非伝統的金融政策のゼロ金利政策に踏み切りました。1990年代の日本と同様に、過剰債務の返済に必要なキャッシュ・フローを生むため、リストラが行われ、賃金は低下し、経済はデフレ化しています。※米国は金利も付き、デフレではないのでは。
・実物経済の利潤低下を「電子・金融空間」で補おうとしていますが、バブルの生成と崩壊を繰り返しているだけです。バブルが崩壊すると中間層はリストラに遭います。さらに金融機関は公的資金の投入で救済されますが、その負担は中間層に掛けられます。バブルの度に中間層は没落していくのです。※まさにサバイバル・ゲームだな。これが米国の分断の実状かな。

○「長い16世紀」の「空間革命」-海を通じた支配
・利潤低下に直面した米国は、グローバリゼーションを加速させ、「電子・金融空間」を作り、金融帝国に邁進しました。このグローバリゼーションは、現在の「空間革命」と云えます。「陸の国スペイン」から「海の国英国」へ覇権が移ったのを、法哲学者カール・シュミットが「空間革命」と呼んでいます。※以前空間革命の本を読んだが、複数回も起きていた気がする。モンゴルの大陸制覇とかも含まれていたような。
・当時のスペインは無敵艦隊を擁していましたが、これは穏やかな地中海で陸軍兵士を運ぶ艦隊でした(※スペインは米大陸からフィリピンまで進出しているが)。それが1588年英国に敗れ、英国の時代が始まったのです。英国は1600年東インド会社を設立し、略奪行為を重ね、資本を蓄積していきます。すなわち英国は海と云う「空間」を創造したのです。※これを支えたのが三角貿易かな。

・16~17世紀の投資家は、利潤を生まないイタリア/スペインに投資せず、オランダ/英国に投資したのです。これは現代の投資家が、「電子・金融空間」や新興国に投資するのと同じです。またこの時代は中世のイデオロギー/価値観などが一新されています。主役は神から人間になり、政治・経済は荘園制・封建制社会から近代資本主義・主権国家に変わります。つまり空間が創造されると同時に、ルール/価値観も変わったのです。※1648年ウェストファリア条約があったな。

○「長い21世紀」の「空間革命」の罪
・一方「長い21世紀」(※長いので現代/今などに置き換えるところあり)は「電子・金融空間」を創り出し、雇用者がその犠牲になっています。1974年までの「地理的・物的空間」は、資本家と雇用者に利益を与えました。ところが「電子・金融空間」のグローバリゼーションは、資本家にのみ利益を与え、中間層を没落させました。

・グローバリゼーションは「ヒト・モノ・カネが自由に国境を越える」を掲げました。これに乗り遅れまいと、金融ビッグバン/労働の規制緩和/TPPなどが行われました。グローバリゼーションは、政治的側面の帝国システムと経済的側面の資本主義システムの「中心」と「周辺」を結び付けるイデオロギーです。BRICSが台頭する前は、「中心」は北の先進国、「周辺」は南の途上国でした。しかし途上国が新興国に転じた事で、新たに「周辺」を作る必要が生じました。それが米国ではサブプライム層、日本では非正規社員、欧州ではギリシャ/キプロスだったのです。
※誰を被搾取者にするかだな。経済だけでなく政治も含めている点が何かを語っている。

○「資本のための資本主義」が民主主義を破壊
・「長い21世紀」は国内で格差を広げた事で、「資本のための資本主義」となり、民主主義を破壊したのです。
・民主主義では情報の独占が許されません。そのためスノーデン問題は21世紀の大問題になるでしょう。「長い16世紀」は、情報の独占の移行期になりました。中世はラテン語のカトリック教会が情報を独占していいましたが、これに俗語(ドイツ語、英語など)のプロテスタントが抵抗し、戦いに勝利したのです。

○賞味期限切れの量的緩和政策
・FRBの量的緩和政策も民主国家の危機です。これはバブルを醸成し、富裕層を豊かにするだけです。この金融政策の有効性は、1995年に終わっています。
・この政策は「貨幣数量説」の「物価水準は貨幣の数量が決める」に基づいています。数式では、M(貨幣数量)v(貨幣流通速度)=P(物価水準)T(取引量)となります。ところが低金利になり、貨幣数量Mを増やしても貨幣流通速度vが低下しているのです。さらに金融市場の株や土地の取引量が増えているだけで、実物経済のガソリン代/電気代/食糧費の需要は縮小し、物価水準にも変化はありません。※右辺がΣである事も重要だな。

・「電子・金融空間」には余剰マネーが140兆ドルあり、さらにレバレッジにより数倍のマネーが「電子・金融空間」を徘徊しているのです。これに対し実物経済の規模は74兆ドルしかありません。※実物経済より金融の方が大きいんだ。
・レバレッジを掛ければ、瞬時にして実物投資の10倍の利益が得られるのです。従って量的緩和はバブルをもたらすだけです。このバブルはどこで発生するか分かりません。新興国に流れたマネーは、新興国を不安定にしています。量的緩和政策は、グローバリゼーション以前の閉鎖的経済なら成立しました。

○オバマの輸出倍増計画は頓挫する
・超低金利となった米国は、金融帝国としてしか生き残れません。オバマは「地理的・物的空間」を建て直そうとしていますが、不可能でしょう。20世紀前半シュミットは「20世紀は技術の時代」と言っています。しかしリーマン・ショックを起こし、福島原発事故を起こし、金融工学も原子力工学も制御不能と分かりました。
・一方米国はサービス収支の黒字を増やしています。これは金融収支やライセンス料なので、ドル高の方が利潤を増やせます。そのためドル高にして、世界から資本を集めて、新興国に投資するしかないのです。
・先進国が輸出により成長できたのは、途上国の資源を買い叩く事ができた1970年代までの話です。オバマの「輸出倍増計画」は、没落する中間層に配慮しているだけで、構造的デフレの解決は困難です。

○近代の延命策のシェール革命
・国際エネルギー機関(IEA)は、「米国はシェール革命により、2020年までに世界最大の石油生産国になる」としています。先進国の利潤低下は資源高騰によります。米国はシェール革命により、覇権国として復権するのでしょうか。
・米国はシェール革命で延命するでしょうが、たかが100年程度でしょう(※100年延命とは凄いな)。しかし成長とは「より遠く、より速く」(※「より多く」がない)で、多くのエネルギーを消費します。従って成長ためには永久エネルギー(※再生可能エネルギー?)が必要になります。新興国は現地生産を求めるため、輸出倍増は叶いません。※今脱炭素からエネルギー革命が始まった。産油国優位が変わる可能性がある。

・1983年米国は石油価格の主導権を取り返すため、石油先物のWTI市場を作りました。これにより石油輸出機構(OPEC)の言いなりではなく、セブン・メジャーズ(現在は4社)の言い値で取引できるようになりました。そしてこのシェール・ガスも金融商品化し、「電子・金融空間」に組み込まれるでしょう。結局はバブルの生成と崩壊を繰り返し、過剰債務(※財政赤字?)/賃金低下になるだけです。
・中東の石油産出国はいずれも非民主主義国です。よって多額のマネーは王侯貴族に流れているだけです(※国民は無税で、働きもしないらしいが)。またシェール革命が新自由主義に組み込まれるなら、米国の格差は拡大するだけです。※何か論理矛盾がある。資源高騰を避けられるなら、米国は利潤を得られるのでは。ここでは、「新自由主義になった以上は、どうしようもない」を言いたいのかな。

○バブル崩壊と反近代の21世紀
・世界はバブル崩壊を繰り返しましたが、「さらなる成長」を信仰しています。バブルの後始末に公的資金が投入され、それを一般国民が負担しています。企業は需要が縮小したため、リストラを断行します。まさに富裕層/銀行には国家社会主義で臨み、中間層・貧者には新自由主義で臨んでいるのです。※米国の政治は、ロビー活動/寄付で決まるのかな。日本の政治も同様で、陳情政治だと思う。そこに献金もあるかな。

・バブルが崩壊すると再び成長させるため、金融緩和/財政出動などを総動員します。しかしそのマネーは再び投機マネーになり、資産/金融でバブルを起こすのです。この状態を、バーナンキFRB前議長は「犬の尾尻(金融経済)が、頭(実物経済)を振り回す時代」と言っています。私(※著者)はこの状態を、「脱成長時代に逆行する悪あがき」と考えています。松宮秀治はこれを「近代自らが反近代を作る」と言っています。米国同時多発テロ/リーマン・ショック/福島原発事故は反近代(デフレ、経済の収縮)を引き起こしたのです。

<第2章 新興国の近代化がもたらすパラドックス> ※本章は新興国の話が中心。
○先進国の利潤低下が新興国にもたらしたもの
・1974年以降、先進国は資源が高騰し、交易条件は悪化し、「地理的・物的空間」で利潤を得られなくなった。これにより長期利子率(長期国債の利回り)は低下します。そのため日本/ドイツは、17世紀初頭のジェノヴァ以来の「利子率革命」を経験します。
・そこで先進国は「電子・金融空間」を創設し、30年間延命させてきました。これと同時に生み出されたのが、BRICSなどの「新興国市場」で、投資機会が生み出されたのです。

○先進国の過剰マネーと新興国の過剰設備
・2000年代BRICSは急成長しますが、その経済成長率は低下してきました。中国は2012年成長率は7.7%になり、初めて8%を切りました。ブラジルは2011年2.7%、インドは2012年3.2%と同様に低下しています。
・この新興国の足踏みの原因は、新興国が輸出主導のためです。先進国はリーマン・ショックを起こし、そこから完全に立ち直っておらず、消費ブームは二度と戻りません。そもそもグローバリゼーションは、「中心」と「周辺」の組み替えです。20世紀までは、「中心」は「北」(先進国)、「周辺」は「南」(途上国)でしたが、「中心」はウォール街、「周辺」は自国民となったのです。これでは先進国の消費ブームは戻りません。

・新興国は過剰マネーで過剰設備となりましたが、先進国で消費ブームが起きないので、輸出主導に持続性はありません。先進国の過剰マネーと新興国の過剰設備は、時間を掛けて解消するしかありません(※ある本で「全てが余剰している」とする本を読んだ。お金/生産力/モノ/労働力など)。その間先進国は、「ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレ」が続く事になります。

○新興国の成長が招く資本主義の臨界点
・ここで問題なのは新興国が経済成長を続けられるかではなく、新興国の経済成長により資本主義が限界に向かっている事です。※よく分からない理論になってきた。
・先進国の量的緩和により、余剰マネーが新興国に流れ込みました。この量的緩和は「電子・金融空間」を膨張させるのが目的ですが、これは強化するしかなく、出口はないのです。ここで参考になるのが「長い16世紀」(1450~1640年)に起きた「価格革命」です。これと同じ現象が「長い21世紀」でも起きているのです。

○「長い16世紀」のグローバリゼーションと「価格革命」
・「価格革命」とは資源・食糧などの価格が非連続に高騰する現象です(※非連続は分かり難いな。段階的かな)。これは価格体系が異なる空間が統合され、均質化する過程で起きます。一方インフレは、一定の空間における需給逼迫により起きます。「長い16世紀」では、「周辺」(東欧)から「中心」(ローマ)に供給される穀物の価格が高騰しました。「長い21世紀」では、資源価格が高騰しているのです。

・まずは「長い16世紀」の英国の価格変動を見ます。1477年に物価上昇が始まり、1650年までに10.5倍に急騰しています。その中心が燕麦・麦芽・小麦などの農産品の高騰です。同じ時期に賃金は4.5倍しか上昇しておらず、実質賃金は急低下したのです。

・1477年までは物価の上昇は穏やかでしたが、以降高騰します。その要因の1つが、ペスト収束による人口増加です。※ペストは不定期に流行ったみたい。
・2つ目の要因が欧州の統合です。「中心」である地中海地域(イタリア)2400万人、「周辺」で新興地域の西欧(英蘭仏独)3200万人、後進地域の東欧1400万人の統合が始まったのです。これにより食糧が逼迫し、物価が高騰したのです。この統合により長期に亘る「価格革命」が起きたのです。※市場原理に則っているな。しかし現状は資源価格は上昇したが、先進国はデフレだ。「中心」はデフレで、「周辺」はインフレが「価格革命」かな。

・さらにこの物価上昇を加速させたのが、1545年ボリビアのポトシ銀山の発見です。新世界の金銀が流入し、貨幣価値は下がり、物価が上昇したのです。
・そしてこの「価格革命」で注目するのは、「価格革命」が危機となり、荘園制・封建制から資本主義・主権国家システムに移行させたからです。

○中世は労働者の黄金時代
・この「価格革命」の前(14世紀初頭~15世紀後半)はデフレ期でした。1316~1477年英国では物価が年率0.6%下がり、ピーク時の38%まで下がります。この期間、農業技術が革新され、生産性が向上したのです。※三圃制/犂とかかな。
・歴史家ペリー・アンダーソンは「農村の開拓が頂点に達したため、冒険家が大航海を始めるようになった」と言っています。「地中海経済圏」で利潤を上げられなくなったため、新しい空間を求めたのです。これは「長い16世紀」と「長い21世紀」の類似性です。※話が次の「価格革命」の時代に移っている。また一般的にはオスマン帝国の存在が原因と云われている。

・14世紀末までに人口の1/3がペストで亡くなります。そのため労働者の実質賃金は増えたのです。その割を食ったのが荘園領主です。ブローデルはこの時代を「労働者の黄金時代」と呼んでいます。
・この1316~1477年に封建領主は没落し、封建制は崩壊します。1477年の労働分配率は117%で、封建領主は付加価値の17%を貯蓄から切り崩していたのです。※「暗黒の中世」は、労働者に優しかったのか。何か不思議な話だな。

○「価格革命」期に起きた権力システムの大変動
・封建領主が没落する中、15世紀後半に新しい動きが起きます。封建領主の最有力者が国王になり、絶対王政が確立する動きです。15世紀末はコロンブスの新大陸発見やヴァスコ・ダ・ガマのインド航路開拓があり、またイベリア半島をイスラム勢力から奪回した時代です。やがてカール5世(位1519~56年)/フェリペ2世(位1556~98年)がスペイン国王になり、資本家になる時代です。

・この時代、荘園制・封建制から資本主義・主権国家に転換します。この間に労働者の実質賃金は下がります、1477年を100とすると、1597年には24にまで下落しています。ここに資本と権力の狡知を見ます。封建領主は権力を集中させ、労働者の賃金を下げ、自らの利潤を確保したのです。これが16世紀の姿です。

○「長い21世紀」の「価格革命」とBRICSの統合
・この様に「長い16世紀」の「価格革命」はシステムを転換させました。では「長い21世紀」の「価格革命」は何を変えるのでしょうか。現代もグローバリゼーションにより、資源価格は非連続に高騰しています。また1545年ポトシ銀山の発見が「価格革命」を加速させましたが、現代では、1995年国際資本の完全自由化により、世界中のマネーがウォール街のコントロール下に置かれました。※緩和マネーではないのか。
・この自由化からリーマン・ショックまでの13年間にレバレッジの高い商品が開発され、新興国の近代化に必要な量を遥かに超えるマネーが創り出されます。さらにリーマン・ショック後、量的緩和が行われ、投機マネーが増やされたのです。

・原油価格を見ると、1バレル30ドルが上限でしたが、2004年40ドルを超え、リーマン・ショック前には147ドルまで上昇します。これは新興国でも物価の上昇をもたらしています。
・この様に「中心」と「周辺」が統合される時に、「価格革命」は起きます。中国/インド/ブラジルなども近代化がなされていますが、食糧価格・資源価格は高騰しています。そして先進国でも新興国でも、階層の二極化が起きています。
※本書は「バブル崩壊が二極化を促進する」としていたな。これは危機になると資本主義の本質である力関係(資本>労働者)が露になるからかな。これを解消するのが政治の役目かな。

○現代の「価格革命」が引き起こした実質賃金の低下
・「長い16世紀」に労働者の実質賃金の低下が起きましたが、それと同じメカニズムで、現代でも実質賃金の低下が起きています。
・実質賃金が最も低かったのが第一次世界大戦後の1918年です。そこから1991年までが「労働者の黄金時代」で、実質賃金は4.9倍(年率2.2%)に上昇します。ところが1970年代に「価格革命」が始まり、企業は利潤を上げられなくなり、賃金をカットし始めたのです。
・英国/日本の名目GDPと雇用者所得の関係を図にしています。1865年から1998年まで弾性値は1で、名目GDPと雇用者所得の伸び率は一致していました。ところが1999年以降、弾性値は急激に下がり、2006年にはマイナスになります。すなわち企業の利益は増えたのに、労働者の所得は減少したのです。

・これは労働分配率(例えば7対3)が変わらなかったのに、グローバリゼーションが起こると、資本がこれを変えたのです(※企業の内部留保が増えたのもこれかな)。グローバリゼーションにより資本は生産拠点を自由に選択できるようになりました。政治も資本の側に付き、法人税を減税したり、雇用の流動化を促進しました。
※整理すると、「グローバル化が始まり、資源高などの「価格革命」が起こる。企業は利潤を上げ難くなり「利子率革命」が起こり、労働者の所得は下げられた」となる。企業は利潤を上げるため、さらにこのグローバリゼーションを加速させている。その結果グローバル企業や知識集約型のIT企業/金融企業が優位になったのかな。

○「長い21世紀」の「価格革命」はいつ終わる
・「長い16世紀」の「価格革命」は、いつ終わったのでしょうか。当時新興国であった英国の物価上昇は1477年に始まり、17世紀半ばに収束しています。※200年近く続いたのか。
・現代の日本と中国の関係を見てみます。2012年日中の1人当たりの実質GDPは、4倍の開きがあります。日本の成長が1%、中国の成長が8%とすると、20年後に同水準になります(※中国の成長率は落ちているけど)。つまり20年後に「価格革命」が収束し、その時には新しい政治・経済システムが立ち上がっている可能性があるのです。※現状からすると、欧米の自由民主主義・資本主義は崩壊し、中国の社会主義・国家資本主義が台頭するように見える。

○資本に国家が従属する資本主義
・現代の「価格革命」をどう評価すべきでしょうか。「価格革命」は市場が統合されるグローバリゼーションにより起きています。これにより資源・食糧などの価格が非連続に高騰しています。この裏側で先進国の資本は「電子・金融空間」を創出し、過剰資本を新興国に投資しているのです(※当然金融空間にも投資しているかな)。そのため「長い21世紀」の「価格革命」は、資本が国家を超越し、国家が資本に従属する資本主義に変貌したのです。※以前「ルールは国が作っていたが、民が作るようになった」とする本を読んだ。グローバル化により、様々な面で国際的なルールが必要になってきた。
・「電子・金融空間」で作られた過剰マネーは、新興国での過剰設備を生み、モノに対しデフレ圧力になっています。一方供給に限りがある資源の価格は、先物市場で押し上げられているのです。※当然だが需給により価格が決まっている。総体的にはデフレだが、資源価格・食糧価格が上がっているのが「価格革命」だな。

・16世紀以降国家・国民と資本は利害を一致させ、資本主義を進化させてきました。資本主義/民主主義はセカンドベストとして支持されてきました。ところがグローバリゼーションは、これを壊そうとしています。1995年資本が国境を越えるようになると、国に閉じ込められる国民と、閉じ込まれない資本で利害が一致しなくなったのです。資本主義は1億総中流だった社会から中産階級を没落させ、「資本のための資本主義」に変質したのです。これは資本主義の退化と考えられます。※この理由を絶対王政で説明しているが、よく分からないので省略。

○新興国の近代化がもたらす近代の限界
・以上より「新興国の近代化」は、世界に福音をもたらさないと考えられます。また「新興国の近代化」は、「先進国の近代化」とは異なるのです。「先進国の近代化」は先進国12.4億人(全人口の2割)を豊かにしましたが、「新興国の近代化」は中国人13億人/インド人12億人の全員を豊かにしません。

・今のグローバリゼーションは、BRICS29.6億人/残る27.2億人を先進国と同様に豊かにすると期待されています。しかしこれらの人々が自動車を所有し、電気製品を持つようになると莫大なエネルギーが必要になります。
・今の日本は、1人当たりの所得水準は3.5万ドルで、1人当たりの電気消費量は8100KWhです。中国は同じく8千ドル/3100KWhです。図に示すように、所得と消費電力は正の相関関係にあります。もし中国が近代化され、先進国と同等の電力を消費するようになると、2倍弱の電力を消費します。同様にインドが近代化すると、9倍の電力を消費します。この2ヵ国が近代化されると、世界の消費電力は2/3上乗せされます。これにブラジル/インドネシア/アラブなども近代化すると、優に2倍は超えます。先ほど中国が1人当たりGDPで日本に追い付くのは20年後としました。20年後に発電所が2倍必要になるのです。

・同様な事は粗鋼生産量(消費量)からも確認できます。2011年世界の粗鋼生産量(消費量)は15.4億トンで、先進国が9億トンで、1人当たり0.7トンを消費しています。全世界70億人が0.7トン消費するようになると、今の3倍強の粗鋼生産量が必要になります。「粗鋼の消費とエネルギーの消費は比例する」と考えると、エネルギーも3倍必要になります。そのため原油価格は高騰すると考えられます。
・さらに考えないといけないのは、資源の有限性です。これらから全世界の近代化は不可能なシナリオです。※今脱炭素化が進められているが、エネルギー革命は必須だな。

○グローバル化と格差の拡大
・かつては豊かな国と貧しい国に分かれていましたが、グローバリゼーションが始まると、一国内で貧富の二極化が現れます。北でも南でもその格差が拡大します。
・図にあるように米国では、所得上位1%の富裕層が全所得に占める割合は、1976年8.9%から、2007年23.5%まで上昇します。さらに2008年にはリーマン・ショックが起き、中間層はその最大の被害者になります。
・興国は経済成長しますが、かつての先進国の経済成長とは異なります。先進国の経済成長は所得格差を縮小させましたが、新興国は格差拡大を伴って、経済成長します。

・先進国の中間層は、民主主義/資本主義を支持しました。ところがグローバル資本主義の下では、民主主義は成立しないでしょう。中国が「13億総中流」になる事はなく、階級闘争が激化するでしょう。これは共産党の一党独裁を揺さぶるでしょう(※成長している間は大丈夫だろうが、成長が止まった時に問題になるかな)。新興国/途上国の近代化は、民主主義の前提を欠いているのです。※平等かな。

○中国バブルは必ず崩壊する。
・さらに懸念されるのが、新興国が金融経済に呑み込まれ、バブルの発生・崩壊に巻き込まれるようになった事です(※世界の金融資産は、世界のGDPの7倍あると聞いた気がする)。1995年国際資本が国境を越えるようになると、米国は「電子・金融空間」を作り、わずか10年で、140兆ドルのマネーを創出します。リーマン・ショック/欧州危機により、この余剰マネーは新興国に流れ込みました。
・新興国の経済規模は28兆ドルです。経済成長に必要な固定資本形成(?)は、経済規模の3割です。従って新興国の貯蓄がゼロだとしても、9兆ドルで十分なのです。とても140兆ドルの余剰マネーを吸収できません。そのため新興国では過剰な投資となり、中国では誰も住まないマンションが建てられ、そしてバブルが崩壊するのです。

・リーマン・ショックで日本/ドイツが、これを実証しました。日本/ドイツは過剰な生産設備で、被害を受けたのです。今度はそれが、過剰な生産設備を持ったBRICSで起きるのです。※一昨年位に中国の余剰鉄鋼が問題になった。
・中国は既にバブルが起きています。これは不動産バブルだけではありません。GDPの半分を、住宅投資/設備投資/公共投資などの固定資本形成が占めてきました。中国ではこの異常な状態が10年以上続いているのです。世界市場がこの受け皿にならず、中国も輸出主導から内需主導に転換できないと、「生産能力過剰時代」になります。そうなると中国も、デフレ/ゼロ金利/ゼロ成長になるでしょう。

・「長い16世紀」後の17世紀はデフレになります。英国の物価は、1650年をピークに、1734年まで下がり続けます。21世紀の中国も供給力過剰により、「デフレの時代」になるでしょう。
・日本はバブルが崩壊すると「失われた20年」に入りますが、そこにはBRICSがありました。ところが中国のバブルが崩壊しても、そこにBRICSはなく、その影響は甚大になるでしょう。この現状に対し、G20がブレーキを掛けるべきでしょうが、その気配はありません。リーマン・ショック/欧州危機に対処できなかったように、国民国家はグローバル資本主義に対し、対応不全に陥っているのです。※確かに中国バブルが発生すると世界はどうなるだろう。まず中国バブルの内容を想像できないのが問題だな。

○資本主義システムの覇権交替は起きない
・中国バブルを考慮すると、中国が覇権国になる可能性は低い。イタリアの歴史社会学者はジョヴァンニ・アリギは「資本が投資先を失い、利潤が下がると、金融を拡大させる。それと同時に、その国の覇権は終わる」と言っています。従って利子率の推移は、世界経済の覇権国の推移を表しているのです。覇権はイタリアの都市国家に始まり、オランダ/英国に移り、20世紀前半に米国に移ったのです。
・少し詳しく説明すると、ジェノヴァはスペインの国王にお金を貸すようになります。イタリアは商業から金融に替わり、凋落します。その後オランダに覇権が移り、オランダは東インド会社に投資しますが、利潤を得られなくなり、ナポレオン戦争で勝った英国に投資します。これにより英国は産業革命を起こし、黄金時代を築きます。その英国はバブル崩壊「英国大不況」(1873~96年)を起こし、台頭するドイツ/米国に投資します。そして米国が覇権を握ったのです。

・ここで注目されるのが金利です。ある国の覇権が確立する時は、世界で最も低い金利になるのです(※覇権を失う時に金利が下がるのでは)。どの国も最初は実物経済で利潤率を上げますが、資本蓄積が進むと、投資効率が下がるのです。※この理論だと、経済成長を終えた後に覇権国になるんだ。
・この理論に従えば、米国の利子率は下がり、中国の利潤率は高くなっています。ところがこの理論は資本主義の枠内で成立する理論なので、中国は覇権国になれません。※中国は十分に資本主義国(国家資本主義)だけど。

○グローバリゼーションが危機を加速する
・私は、「21世紀は、海の国(英米)に対する、陸の国(BRICSなど)の闘いの世紀」と考えます。ただしこの新興国の経済成長も「近代」の土俵にあり、数十年の一時的なものです。これは「長い16世紀」に、オランダ/英国が近代システムを持ち出して、中世封建システムのスペイン/イタリアに替わったのとは別の話です。この新興国の経済成長も、エネルギーを無限に消費できる事を前提にした「近代の延命」に過ぎません。※しかし今日は石油から再生可能エネルギーへの「エネルギー革命」が起きようとしている。
・従って、新興国も先進国と同じ課題に直面します。既に新興国で、少子高齢化/バブル崩壊/国内格差/環境問題の危機が訪れています。新興国も近代資本主義の同じ土俵にいる限り、覇権交替は起きません。※英国から米国への覇権交替があったけど。また先ほどは「中国は資本主義でないので覇権交替しない」と説明したが。
・次に覇権国になる国は、新しいシステムを持った国です。その可能性が高いのが日本です(※日本はこんなに金利が低いのに。いや金利が下がった後に覇権国になるのだったかな)。ただしアベノミクスで「成長戦略」を追っているようでは、それは無理です。

<第3章 日本の未来をつくる脱成長モデル> ※本章は日本の話が中心。
○先の見えない転換期
・中国が次の覇権国になる見方もありますが、中国は主権国家体制の中にいないので、覇権国になれません。資本主義の残されている「空間」は限られているので、中国が経済成長のトップになっても、そう遠くない時期に利潤率は低下します。その時が近代資本主義の臨界点です(※終焉ではなく臨界点か。臨界点は終わりの始まりかな)。ただし資本主義の次の社会・経済システムが何になるかは分かりません。
・1648年ウェストファリア条約が近代の始点とされます。しかし人々がそれに気付くのは50年後です。「長い21世紀」(1970年~)も「長い16世紀」(1450~1640年)と同様に徐々に変わっていくでしょう。

○資本主義の矛盾を最も体現する日本
・新しいシステムを生み出す上で、日本は最も優位な立場にあります。それは日本が最も早く資本主義の限界に突き当たったからです。1997年から超低金利が続いているのが、それを立証しています。資本主義は1970年代半ばに「実物投資空間」(※新しい言葉が出てきた。地理的・物的空間とは違うのかな)で利潤を上げられなくなります(※正確には、資本主義ではなく先進国かな)。その先頭を行ったのが日本です。

・日本の交易条件が改善したのは、1955~72年です。一人当たり粗鋼消費量のピークは1973年です。近代の特徴である大量生産・大量消費が、1970年代半ばでピークになったのです。
・中小企業・非製造業の資本利潤率も1973年がピークで、9.3%になります。中小企業・非製造業は国内が基盤なので、これが日本国内の資本利潤率と考えて問題ありません。また1974年、合計特殊出生率が人口維持に必要な2.1を切ります。この様に、あらゆる指標が「地理的・物的空間」の膨張が止まった事を示しています。
※本書では述べられていないが、1973年オイル・ショックだけでなく、1971年ニクソン・ショックの影響も大きいのでは。1ドル=360円が崩れ、1973年変動相場制に替わり、円高が始まる。

○バブルは資本主義の限界を覆い隠すためのもの
・この様に日本は1970年代に「地理的・物的空間」の縮小を起こしました。なぜ日本がいち早くバブル(?)になったのかを見ます。米国は後に金融帝国化しますが、当時は国際資本の自由な移動は不完全で、1970年代・1980年代は交易条件の悪化を最も強く受けていました。そのためNYダウ平均株価は、1972年11月に1千ドルを超えますが、その後低迷していました。
・一方日本はオイル・ショックを乗り越え、1980年代には自動車・半導体などで「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれるようになります。日本はわずかに残された「実物投資空間」で世界一の経済大国になったのです。

・金融バブルを起こすには2つの条件が必要です。1つ目は貯蓄が豊かで、かつユーフォリア(陶酔)がある事です。2つ目は「地理的・物的空間」(※これに戻った)の拡大が限界にある事です。1980年代の日本は貯蓄率が13%と高く、「土地は上がり続ける」との土地神話もありました。また日本は中間層が7割の社会を作ったため、乗用車・テレビなどはほぼ100%普及し、「地理的・物的空間」の拡大も止まっていました。日本は2つの条件を満たし、土地バブルを起こしたのです。
・一方欧米は、1980年代に「地理的・物的空間」の拡大による利潤増大は終わっていましたが、条件は整っていませんでした(※貯蓄かな)。当時の米国は貯蓄率は低く、財政と経常収支の双子の赤字で苦しんでいました(※米国がいつ頃から、なぜ経常赤字になったのか知りたいな。ヴェトナム戦争かな)。米国は1990年代後半に国際資本の自由な移動を実現させ、世界の貯蓄を利用できるようになり、ITバブル/住宅バブルを起こしたのです。

○自由化の正体
・グローバリゼーションの礼賛者は「金融の自由化/貿易の自由化はウィン・ウィン」と言いますが、これは正しくありません。英国は18世紀半ばからインドを支配しますが、1700年インドの1人当たりGDPは550ドルありましたが、1870年は533ドルに減少しています。
・ウォーラーステインは「自由貿易は、もう一つの保護主義」(※よく分からない。植民地経済/ブロック経済の事?)、「自由主義は、最貧の者から搾取できる完璧な力を最強の者に与える」と言っています。新自由主義者は自由主義者の後継者で、最貧の者から住宅を奪い、一方で最強の者の財産は公的資金で保護されたのです。

・金融バブルを「景気循環の一過性のもの」と考えてはいけません。資本主義の限界や矛盾を覆い隠すために引き起こされているのです。資本主義の限界とは、実物経済で稼げなくなった事です。例えば工場を建てて10年で得られる利潤率や、オフィスビルを建てて30年で得られる利潤率が低下し、正常運転しているかのように、バブルで偽装するしかなくなったのです。
・しかしバブルは崩壊し、2年分のGDPの成長が打ち消されます。その時行われるのが、賃金カットや解雇なのです。同時に国債増発/ゼロ金利政策が行われ、国家債務膨張の時代に突入しています。資本主義はバブルを厭わなくなり、超低金利/利潤率低下を招いています。※完全に負のスパイラルだな。

○グローバリズムは資本の絶対的優位を目指す
・1991年日本のバブルは崩壊します。1995年国際資本の自由な移動が実現し、日本は長期停滞とグローバリゼーションに飲み込まれ、資本主義の最終局面を迎えます。
・その顕著な現象が「利子率革命」による「景気と所得の分離」です。通常であれば景気が回復すれば賃金水準も上がりますが、景気とは無関係に賃金の低下が始まったのです。2002~08年戦後最長の景気回復になりますが、賃金は逆に減少したのです。グローバル資本主義は「雇用なき経済成長」を推し進めるだけです。

・これを物語っているのが1990年代の労働政策です。1999年労働者派遣法が改正され、派遣対象業務が拡大され、2004年には製造業への派遣も認められます。これにより資本は人件費の変動費化を実現します(※損益分岐点の低下に成功したのか)。拠点を自由に移せる企業と、住む場所を簡単に変えられない雇用者の力関係が明確になります。労働市場の規制緩和は、総人件費の抑制手段になっています。
・本来労働市場の規制緩和は、柔軟な労働機会を提供するのが目的でしたが、企業はバブルが崩壊した際に、大量の派遣社員の雇止めを実施しました。労働者派遣法は立法趣旨からかけ離れて利用されているのです。※為政者も経済成長が最優先だからな。

○金融緩和でデフレは脱却できない
・経済成長を目的とする経済政策は、危機を深めるだけになり、資本主義は「雇用なき経済成長」でしか維持できなくなりました(※正確には、経済成長してもその後のバブル崩壊で雇用が失われるだけになったかな)。その経済背策の典型が「アベノミクス」です。2012年12月安倍政権は誕生しますが、デフレ脱却に至っていない。2013年6月消費者物価指数が円安によりわずかに上昇しますが、12月の実質賃金は前年同月比-1.1%になっています。

・アベノミクスの「第1の矢」は金融緩和です。貨幣数量説は、M(貨幣数量)v(貨幣流通速度)=P(物価水準)T(取引量)です。金融緩和はM(貨幣数量)を増やし、P(物価水準)を上げようとする政策です。金融緩和は1995年までは「地理的・物的空間」を拡大させ、物価を上昇させました。ところがそれ以降は「電子・金融空間」を膨張させるだけになりました。
・つまり経済が国家に閉じていれば成立しますが、グローバリゼーションで成立しなくなったのです。金融・資本市場に流れた貨幣はバブル崩壊を起こし、労働者の雇用を苦しめるようになりました。

○積極財政政策が賃金を削る理由
・ではアベノミクスの「第2の矢」の財政出動は有効でしょうか。これは90年代以降の財政政策が、「効果はない」と実証しています。1992年宮澤内閣での総需要政策で、200兆円以上の外生需要が追加されますが、持続的に経済成長させる事はできませんでした。それは需要が既に飽和点に達していたからです。
・2002~08年戦後最長の経済成長で、GDPは年率2.1%成長します。しかしこれは米国のバブルと新興国の近代化などの外需が要因です。この間の個人部門(個人消費、民間住宅投資)の伸びは0.6%で、戦後の景気回復で最も伸びが低くなりました。※この頃は「買いたいものはそれ程ないし、将来も不安だし、大体浪費するお金がない」かな。
・2008年9月リーマン・ショックで外需がしぼむと、震源地の米国以上にGDPは落ち込みます。それは「日本国輸出株式会社」と「米国投資銀行」が密接に関係していたからです。日本の外需は、「米国投資銀行」が作り出した幻の供給力に依存していたのです。※ならば中国の外需依存も危ういのかな。

・さらに財政出動は「雇用なき経済成長」の元凶です。積極財政による過剰設備は、それを維持するための固定資本減耗(?)を増大させ、賃金を圧迫します。※それで「モノから人へ」が起きたのか。
・これを2002年からの景気回復で見ます。2002年1月が「景気の谷」で、08年2月が「景気の山」で、73ヶ月の景気回復になり、製造業の名目GDPは2.7兆円増えました。この2.7兆円を分配サイド(固定資本減耗、雇用者報酬、営業余剰・混合所得)で見ると、固定資本減耗が1.5兆円も増えています。この原因は過剰設備にあり、この維持費が高く付くようになったのです。※GDPは国家/企業/家計で分けるな。減価償却は固定資産の減少分だが、固定資本減耗は単なる維持費かな。

・そのため雇用者報酬/営業余剰・混合所得は1.2兆円しか増えていません。しかも営業余剰・混合所得は2.7兆円増えていますが、雇用者報酬は1.5兆円も減っているのです。それは企業経営者が株主配当を増やすため、雇用者報酬を削ったのです。21世紀の景気回復は、雇用者のためではなく、株主のために変わったのです。※役員報酬が株価に連動するからだろうな。
・雇用者報酬の減少の原因は過剰設備にあるため、それを解消するには物理的に設備を廃棄するか、M&Aで海外企業に売却するしかありません。しかし後者は世界での総量は不変なので、経営者はこれまでと違った方法で稼働させる必要がります。これは雇用者報酬を下げる要因になります(※以前、「全てに余剰が発生している」とする本を読んだが、正しくそうだ)。また前者は除却損(※損失確定だな)が発生するため、経営者は中々踏み切れませんが、またこれを行っても設備に伴う雇用が失われます。

・いずれにしても財政出動は過剰設備を生み、その設備の維持・補修にGDP増加分の半分を取られるのです。「日本国輸出株式会社」の経営は失敗しているのに、経営者は「六重苦」(※説明が欲しい)と言って、責任を取っていません。

○構造改革や積極財政では乗り越えられない
・この様に量的緩和は実物経済には反映されず、資産価格を上げバブルを導くだけになります。また積極財政政策も固定資本減耗を膨らますだけです。バブルが崩壊し、積極財政で景気回復しても、賃金は抑制されます。ならば日本の得意な「モノ作り」となりますが、それには構造改革が必要になります。しかし既存のシステムを強化しても、新しい「空間」を作る事はできません。

・16世紀スペイン帝国は、フィリップ2世が何度も財政破綻を宣言しています。スペインは借金をして、ポルトガル/仏国に進攻したのです。これは今の先進国と似ています。社会システムが変わろうとしている時、スペインは既存のシステム(帝国システム)を強化しようとしますが、失敗して歴史の表舞台から消えたのです。※国家と資本が結合していて、ダメだったのかな。
・日本はインフレ目標政策(第1の矢)/公共投資(第2の矢)/法人税減税・規制緩和(第3の矢)で、近代システムと成長を維持・強化しようとしていますが、中間層の没落が始まっています。これはスペインが財政破綻した道筋に似ています。成長を信奉する限り、どんな構造改革であっても、近代システムの危機を乗り越えられません。成長に期待すればするほど、中間層を没落させます。

○ケインズの警鐘
・私達はポスト近代(脱成長)システムを見据えなくてはいけません。南欧のギリシャなどは国債金利を上乗せしないと資金調達ができません。一方日米英独仏では国債金利が低下していますが、国内に不満はありません。金利を下げられない国は、資本主義を卒業できる状態に至っておらず、金利が下がっても不満がない国は、「卒業したくない」と駄々をこねている国です(※曖昧な表現だな)。政財界の実権者が近代に引き籠っているのです。
・利子は神に帰属していました。利子率がゼロになるのは、先進国12億人が神になる事です(※急に非学術的になった)。「知」についても同様で、中世は神が独占していましたが、近代になり国家とマスメディア独占します。しかし現代はインターネット/スマートフォンにより先進国12億人が独占するようになったのです。

○ゼロ金利は資本主義を卒業した証
・ここで本章の命題に戻ります。日本はゼロ金利が長く続き、世界で最も新しいシステムを生む優位な立場にあるのです。デフレも超低金利も経済低迷の元凶ではありません。何れも新しいシステムを構築するための与件なのです。
・問題は「雇用なき経済回復」です。これは資本の分配ができなくなった事を意味し、民主主義の崩壊であり、日本を政治的・経済的に焦土化しています(※正しく米国の現状だな。日本は中間層が厚かったから、焦土化を逃れている感じ)。成長を追い求めるアベノミクスは、バブル崩壊/過剰設備の危機に導くだけです。
・資本主義は老朽化したのです。グローバリゼーションにより新興国も豊かさを追い求めるようになりました。世界の資本が国境を越え、高い利潤を求めて「電子・金融空間」に流れ込んでいます。これにより新興国もグローバル・エリートが富を独占するようになりました。

・この危機から逃れるため、日米英独仏などの先進国は、ポスト近代資本主義を構築しなければいけません。ダンテはそれを見抜いていました。彼は「資本家は強欲で妬み深く、思い上がった手合い」と非難しています。「強欲」はウォール街に始まった事ではなく、12~13世紀の資本主義の黎明期からあったのです。

○前進するための脱成長
・「どの様なポスト近代システムを作れば良いか」に明確な答えはありません。それにはホッブス/デカルト/ニュートンらの知性を総動員する必要があるでしょう(※集合知ではないが、それは既に始まっているのでは。その中からある方向に向かうのでは)。新しい制度設計ができるまで、新たな「破壊」を避けなければいけません。そのためには資本主義の「強欲」「過剰」にブレーキを掛ける必要があります。
・日本も米国も膨大な国家債務を抱えていますが、これは成長を追い求めた結果です。この様に巨額の債務を抱え込んだのは、日本の経済・社会構造と近代資本主義が不適合である証です。日本の国家債務は1千兆円あります。民間にこれに匹敵する資産がありますが、民間の資産で相殺するようになれば、国家の信頼は崩壊します。※誰も国家のために、1人1千万円の資産を投げ出さないと思う。なのでこれを担保とするのは間違い。

・近代資本主義を乗り越えるには、まず成長志向を捨てる事です。そして財政を均衡させておくのも重要です。そうしないと次の一歩を踏み出せません。もう一つ重要なのがエネルギー問題です。世界はエネルギーを大量に消費する社会になり、それが企業の収益を圧迫しています。交易条件がこれ以上悪化すると、マイナス成長に陥ります。エネルギーの自給が重要です。※交易条件はゼロサムゲームなのでは。
・「脱成長」「ゼロ成長」と言うと、後ろ向きに捉えられますが、成長主義こそ「倒錯」しています。これを止めるのが前向きの「脱成長」です。

<第4章 西欧の終焉> ※本章は西欧の話が中心。
○欧州危機が告げる本当の危機
・2010年ギリシャの財政破綻から欧州危機に至ります。PIIGS諸国(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)は国債金利を高騰させ、若年の高失業率などの問題を山積しています。ドイツなどのユーロ加盟国の救済で、なんとか小康状態を保っています。ドイツがギリシャを救ったのは、ユーロが経済同盟ではなく政治同盟だからです。ここで重要なのが、欧州危機はリーマン・ショック(近代資本主義)を超える「歴史の危機」で、西洋文明の「終焉の始まり」である事です。
※ギリシャ危機の原因は、経済格差が大きい国を、無理やりユーロで統一したからだと思うが。

○英米資本帝国と独仏領土帝国
・EUはどんな国だったでしょうか。まず「海の国」米英について述べます。1974年先進国は利子率=利潤率が低下し、米国は「電子・金融空間」を作り、各国に金融の自由化を求め、金融帝国=資本帝国として君臨します。この段階に入り、資本と国家の関係は大きく変化します。資本は国境を越えて自由に移動するようになり、国家による制約から解放されたのです。米国は国民国家から、資本が主役の帝国システムに変貌し、資本を蒐集(コレクション)してきました。

・一方「陸の国」である独仏は、資本を蒐集する帝国とはならず、領土を蒐集する帝国となったのです。英米は政治と経済が一体化しますが、独仏では一体化しませんでした。彼らは単一通貨ユーロを導入し、領土を拡げる「領土帝国」となったのです。この過程で国民国家は鳴りを潜めました。これが欧州統合なのです。※政治と経済の分離がよく分からない。
※英米/独仏とも国民国家が後退したのは分かるが、欧州の領土帝国はイマイチ理解できない。欧州は多国乱立では世界的な影響力を持てないので、統合する必要があったように思う。これが領土志向と言えなくもない。

○新中世主義の躓き
・この「ユーロ帝国」における欧州危機を、どう見れば良いのか(※領土帝国と云ったり、ユーロ帝国と云ったり。違いがあるのかな)。シュミットは「世界史は陸と海の戦い」としています。その重要な戦いが、16~17世紀の英国(英国教会)とスペイン(カトリック)の戦いです。スペインはカトリックの権威と自国の軍事力(権力)によって、中世の中心国でした。これに海洋貿易で海を制覇した新興国の英国が勝ち、覇権国家になったのです。※これは頻繁に聞く覇権国家論だな。

・しかし今日は、「海の国」米英が衰退し、「陸の国」EU/中国/ロシアが台頭しています。中国/ロシアは新興国で、近代化の最中にあります。ところがEUは近代化が終わり、脱近代に足を踏み入れている地域です。そこで選択したのがユーロ導入だったのです。
・ドリー・ブルは主権国家システムを超える形態を、5つ掲示しています。そして欧州の方向性を④「新中世主義」としています。※初めて聞いた。
 ①システムではあるが社会ではない。※難解。経済システム/政治システムの共同体かな。
 ②国家の集合だが、システムではない。※難解。国家連合だが、ルールの強制力は弱いかな。
 ③世界政府。
 ④新中世主義。※中世は封建国家で、近代は連合国家かな。
 ⑤非歴史的選択。※解説がないと理解できない。
・①~③の反対が、近代の主権国家です。①「システムではあるが社会ではない」は、主権国家は存在するが、国際社会が構成されていない状態です。つまり自然状態/闘争状態です(※国際機関が存在しない戦国時代かな)。②「国家の集合だが、システムではない」は、主権国家が相互の関係を持たない状態で、保護主義に近い状態です(※システムはルールと考えれば良いのかな。これは①に近い分裂状態かな)。③「世界政府」は文字通り、世界が単一の独裁政府になる事です(※なぜ独裁に限定する)。⑤「非歴史的選択」は、全く考えられない状態です。

・④「新中世主義」について、彼は「主権国家が消滅して世界政府になるのではない。中世のカトリック教のように、近代的・世俗的な相当物が普遍的政治組織になる」「主権国家の概念が失われ、様々な権威や忠誠心を集める能力が共有されるようになると、新中世的な普遍的政治秩序が登場したと言える」(※簡略化)と述べています。※要するに神に相当する理念が存在するのかな。
・この「新中世的な普遍的政治秩序」とは、キリスト教のような価値観の下に成立する普遍的な政治組織で、そこには複数の国家・地域が重層的に折り重なっています。簡単に言えば、権威(キリスト教)と権力(スペイン皇帝)の分離です(※キリスト教+皇帝>国家・地域ではなく、キリスト教>皇帝>国家・地域かな)。この「ユーロ帝国」は、新中世主義と云う主権国家システムを超える萌芽を宿しています。

・以上より①「システムではあるが社会ではない」と③「世界政府」の実現性はありません。②「国家の集合だが、システムではない」は実現性はありますが、生き抜く事はできません(※北朝鮮かな)。そこで④「新中世主義」の「ユーロ帝国」が試されているのです。

○欧州危機がリーマン・ショックよりも深刻である理由
・主権国家が支持されるのは、それが国民に富をもたらすからです。絶対王政では国家と資本が一体化し、国民は登場していませんでした。その後市民革命が起き、民主主義と資本主義が一体化します。これと同時に主権在民となり、国民は中産階級になり、主権国家システムが維持されたのです。しかしグローバル化で、国民は置き去りにされました。これに対応するため生まれたのが、国家の枠を拡大するEUだったのです。しかし結局はグローバル資本主義の理論に巻き込まれています。
・ベックは「欧州では25歳以下の1/4が失業している。ギリシャ/スペインでは若者の半数以上が失業している」と述べています。EUは近代資本主義の限界を乗り越えられないのです。※何か特別な変革を行ったとは思えないのだが。

・ユーロによる「新中世主義」が行き詰っている事は、リーマン・ショック以上に深刻です(※通貨だけを統合し、財政を統合していないからだろ。財政も統合すれば、欧州内の南北問題は起きない。ただしそれでも近代資本主義の限界の問題は解決しない)。リーマン・ショックは近代の限界として片付けられますが。EUの新中世主義の行き詰まりは、古代ローマ帝国から連綿と続いた「蒐集」の終わりであり、欧州の終わりなのです。
・『蒐集』(※著者省略)には「帝国は諸国/諸民族をコレクションした。欧州は蒐集の歴史である。中世キリスト教は魂を蒐集し、近代資本主義はモノを蒐集した」とあります。※蒐集の話もたまに聞く。「資本主義と芸術は蒐集において一致している」みたいな本も読んだ。
・英米は領土を拡大せず、資本を「蒐集」し、覇権を握りました(※英国の領土は巨大だったと思うが)。しかしヴェトナム戦争以降、空間を拡げられなくなると、「電子・金融空間」を作り、マネーを「蒐集」しました。一方EUは資本や軍事ではなく、「理念」によって領土を「蒐集」する帝国なのです。

○それでもドイツは蒐集を止めない
・そのためドイツはギリシャを見捨てないのです。ギリシャの離脱は自己否定になるのです。ユーロ危機は政治的な駆け引きにより救済されています。ドイツはPIIGS諸国を救済し、領土の「蒐集」を続けています。独仏は政治的統合を目指しています。ECは「経済連合」の性格が強かったが、EU(マーストリヒト条約)になり「政治統合」へ向かっています。コール独首相もミッテラン仏大統領も「政治統合」が最終目的だったと思われます。※EUの組織が三権分立になっている。
・1990年東西ドイツが統合されますが、この時東西マルクの価値は10倍位違っていましたが、1対1で交換されました。これも「経済統合」より「政治統合」を最優先したためです。EUで財政統合がなされると、ドイツは安値でギリシャ議会をコントロールできるようになります。

○古代から続く欧州統一のイデオロギー
・ユーロ共同債を発行し財政統合するには、ギリシャ/スペイン/イタリアに緊縮経済を迫り、金利を安定させる必要があります。領土の「蒐集」を目指すドイツは、経済的リスクを負っても、財政統合するでしょう。そうなればカール大帝以来の政治統合が実現します。

・クシシトフ・ポミアンは「ローマ帝国に異民族が侵入した時、欧州が歴史的存在になった」とし、「異民族がローマ風の衣服を着るには、代償として奴隷を供給しなくてはならなかった」とした(※ローマはトガ、ゲルマンはブレー)。そのためには2つの方法しかなく、「内部の不平等を増大させる。あるいは異邦人を隷属させる。言い換えれば戦争を続ける」しかなかった(※この主語は異民族ではなく、ローマ市民に思える)。ローマは奴隷を「蒐集」しなければ成立せず、欧州は誕生以来、過剰に「蒐集」する必要があったのです。※これも中心/周辺だな。

・カール大帝のカロリング朝の領土はピレネー山脈からエルベ河まででした。リュシアン・フェーヴルは「この帝国は外的・内的特徴から、ローマ帝国と一線を画する歴史的欧州を予示する」と述べています。※説明が一切ないので、詳細が分からない。
・ハプスブルク家のカール5世はスペイン国王かつ神聖ローマ皇帝で、オスマン帝国に対抗し、欧州を統一しようとしました。ナポレオンも然り、ナチス・ドイツも然りです。※ナポレオンが第3帝国、ナチスが第4帝国だったかな。

・1849年ヴィクトル・ユゴーは国際平和会議の議長になり、欧州合衆国構想を打ち上げています(※世界大戦前の19世紀からあったのか)。それから100年経ち、1952年欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が設立され、1967年欧州共同体(EC)となり、1992年マーストリヒト条約により欧州連合(EU)になります。
・2002年統一通貨「ユーロ」が誕生します。21世紀になり、バルト3国/東欧諸国などが加わり、加盟国は28ヵ国になります。独仏は領土の「蒐集」を続けています。※トルコは加盟できそうにないが、旧ソ連諸国の加盟は進むかも。

○資本主義の起源から、過剰は内蔵されていた
・「蒐集」を基本とする独仏の「領土帝国」も、英米の「資本帝国」も限界に近付いています。2001年同時多発テロ、2008年リーマン・ショック、2011年福島原発事故/欧州危機、いずれも過剰な「蒐集」が原因です。9.11は米国が第3世界から富を「蒐集」したため、リーマン・ショックはマネーを過剰に「蒐集」したため、3.11は安価なエネルギーを「蒐集」したため、欧州危機は独仏が領土を「蒐集」したために起きたのです。

・資本主義の過剰な「蒐集」は、その起源からあります。資本主義の始まりを、いつにするかは諸説があります。「12~13世紀説」は利子の成立を始まりとし、「15~16世紀説」は海賊資本主義を始まりとし、「18世紀説」は産業革命を資本主義の始まりとしています。
・私は「12~13世紀説」に説得力を感じます。それは2つの出来事によります。1つ目は「利子」の容認です。キリスト教は聖書で利子(ウスラ)を禁止していました。ところが12世紀貨幣が社会に浸透するようになると、フィレンツェなどで金融が発達し始めます。メディチ家では為替を利用し、利子を取るようになりました。利子は「時間」に値段を付ける事で、本来「時間」は神の所有物でした。ところが1215年ラテラノ公会議で利子が認められたのです(※その理屈が書かれているが省略)。当時の市場金利は10%程度でしたが、その公会議は33%までを「正当な価格」としました。これは余りに「過剰」「強欲」です。
・2つ目の出来事は、ボローニャ大学の容認です。12世紀神聖ローマ皇帝がボローニャ大学を認めたのです。本来「知」も神の所有物でしたが、それが人間に委託されたのです。※教皇ではなく皇帝だけど。

○人類史上「蒐集」に最も適したシステム
・これらから12~13世紀から15世紀までが資本主義の懐妊期間で、「時間」「知」の所有が交代しました。そして「長い16世紀」に「海賊資本主義」「出版資本主義」が結実したのです。16~17世紀英国は「時間」を所有し、海を支配し、タダ同然で資源を手に入れ、「実物投資空間」で利潤を得たのです。一方「知」は、聖職者がラテン語を独占していましたが、宗教革命が起き、俗語が主役になり、「出版資本主義」が成立します。※印刷技術の発明も、この頃だな。

・この「時間」「知」の所有は、欧州の本質的な理念である「蒐集」に駆動されたのです。『蒐集』の著者エルスナーは、「ノアの方舟が最初の蒐集」と言っています。キリスト教は霊魂を「蒐集」し、資本主義以前の帝国は農産物を「蒐集」し、資本主義は利潤を「蒐集」したのです。※蒐集は人間の欲望の本質かな。

○中心/周辺構造の末路
・この「蒐集」の概念は、マイケル・ドイル/ウォーラーステインの「中心/周辺」の枠組みとも関わっています。西欧はこの「蒐集」に抜群に効力のある資本主義を発見し、海の覇権国になったのです。この資本主義は時代に応じ変化します。当初は重商主義でしたが、工業が発達すると植民地主義に変わり、IT/金融が自由化されるとグローバリゼーションに変わったのです。
・この「蒐集」を止めない限り、巨大な危機は訪れ続けるでしょう。しかし超低金利になり、その「蒐集」が困難になっています。次に先進国がどの方向に舵を切るのか。ブルの5番目の形態は「非歴史的選択」でしたが、この内容に心を惹かれます。近代を超えるには、この選択しかないように感じます。

<第5章 資本主義はいかにして終わるか>
○資本主義の終焉
・米国/新興国/日本/欧州の順番で資本主義の矛盾を見てきました。資本主義は終焉に向かっているのです。資本主義は西欧の「蒐集」を基本とするシステムで、その形態は重商主義/帝国主義/グローバリゼーションなどに変化してきました。そして「中心」と「周辺」から成るシステムなのです。グローバリゼーションにより、先進国と新興国の所得の格差は縮小しています。

○近代の定員15%ルール
・一方でグローバリゼーションにより、国内に「中心/周辺」が生み出されています。図にあるように1870年以降、世界の15%の人が豊かな生活を享受するようになったのです(※1870年からか)。1870年以降の130年間は、先進国の15%の人が、新興国/途上国の85%の人から資源を安く手に入れ、利益を享受してきたのです。
・しかしグローバリゼーションになると、それが難しくなり、国内に「周辺」を作ります。米国では低所得者にサブプライム・ローンを貸し付け、ウォール街が富を独占しました。日本では規制緩和で非正規社員を増やし、社会保障費/福利厚生費を浮かせたのです。これがグローバル資本主義の現実です。

○ブレーキ役が資本主義を延命させた
・今の新自由主義で、グローバル企業など一部の勝者が利潤を独占し、ドメスティックな企業や中流階級は敗者に転落しています。15%ルールがある資本主義が延命したのは、ブレーキ役がいたからです。18世紀アダム・スミスは『道徳感情論』で、「お金持ちが富を求めるのは堕落」と説きました。19世紀カール・マルクスは『資本論』で、「資本家の搾取が利潤の源泉」と見抜きます。20世紀ジョン・メイナード・ケインズは「失業は市場が解決せず、政府が責任を持つべき」と説きます。彼らがブレーキ役を果たしたのです。
・経済学がない時代でも、ダンテは「強欲は人の道から外れる」と批判します。シェイクスピアは『リア王』で国王の圧政を批判します。
・マルクスのブレーキは、ソ連を誕生させました。ケインズは1929年大恐慌で資本主義の暴走を止めました。しかしオイル・ショックが起きると一転し、ブレーキ役だったケインズ政策が停滞の犯人にされます。そこでミルトン・フリードマン/フリードリヒ・ハイエクの新自由主義が登場し、ブレーキがないグローバル資本主義に替わったのです。※共にフリー(ただしfrie)が付くのが面白い。

○長期停滞論では見えない資本主義の危機
・そしてリーマン・ショックを経て、新自由主義に警鐘を鳴らすようになったのが今日です。ところが「金融緩和によってインフレ期待を起こせば、経済は好転する」とのリフレ論が優勢になっています。そしてリフレ論者は「株価が上がった」として、それを正当化しています。※当然上がる。お金を増やし貨幣価値を下げ、余剰マネーは実物経済でない金融・資産市場に流れ、相対的に資産価値をげているのだから。

・しかしこれは間違いです。サマーズ元財務長官は、「貯蓄過剰になり、需要不足から長期停滞に陥っている」と述べています。しかしこれも甘い認識です。彼は「ケインズ的な積極財政で需要を創出すれば、経済は回復する」と考えているのです。資本が自由に国境を越えるグローバル資本主義の下では、ケインズ政策は焼け石に水なのです。このケインズ政策は、今日の「ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレ」の世界でも、経済成長を目的にしています。そのため失敗を運命付けられています。
・私達は「長期停滞論」から脱出しなければいけません。「周辺」を必要とする資本主義は終焉するのです。「アフリカのグローバリゼーション」を耳にした時、世界は資本主義で覆い尽くされ、「ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレ」となります。

○無限を前提にする近代
・資本主義の矛盾は、その定義にあります。資本の自己増殖のプロセスなので、ゴール(目標地点)がないのです。13世紀地中海で合資会社により資本主義が始められ、17世紀東インド会社に発展します。当時の地球は「無限」だったのです。
・16世紀初めポーランド人のニコラウス・コペルニクスは地動説を唱え、さらに「宇宙は40万倍も広い」と唱えます。これをイタリアのジョルダーノ・ブルーノも主張しますが、火炙りにされます(※1600年に処刑されている。その頃には地動説などは信じられていたと思うが)。16世紀の欧州人は中世の人と異なり、「無限」の空間を知り、「過剰」を意識する必要はなかったのです。これが近代の特徴になります。

・近代は経済は資本主義、政治は民主主義です。民主主義も「過剰」を作り出します(※意味不明)。この希望を幻想にさせたのが、グローバル資本主義です。2008年『蟹工船』ブームが起き、貧困問題が深刻化します。さらにリーマン・ショック/福島原発事故が起き、金融工学/原子力工学への疑念が生じます。

○未来からの収奪
・「地理的・物的空間」が消滅し、新しい「電子・金融空間」が作られます。前者では南北に壁がありました。グローバル資本主義になり後者が作られ、所得のある上層の人と、所得のない下層の人との間に壁を作り、「努力した者が報われる」として収奪を行ったのです。下層の人は米国であればサブプライム層で、欧州であれば南欧の人で、日本では非正規社員です。

・さらに重要なのが、この収奪は未来からも行われているのです。財政出動により、大幅な財政赤字になっています。これは未来からの収奪です。※確かに、これはとんでもないな。「無限」「過剰」「蒐集」、人間の欲望は際限がない。
・これは金融の世界でも同じです。1990年代末より時価会計が主流になりました。これは将来の価値を織り込み、将来の人々の利益を先取りしています(※会計について詳しくないので分からない)。ある時点でこれが達成されると、さらに次の目標を立てます。つまり「後退」はなく、「前進」しかないのです。これも「無限」が背景にあります。
・また時価はバブルのリスクを高めます。時価会計は将来の人々の利益を先取りするだけでなく、バブルが弾けると巨額の債務が発生し、税負担の増加を先送りします。※これは税収減の事かな。
・地球環境からも同じ事が云えます。数億年前に堆積した化石燃料を、わずか2世紀で消費尽くそうとしています。ある科学者は「この人間圏は後100年しか存続し得ないだろう」と言っています。※近年は気候変動にうるさいので、延命できるか。

・「蒐集」に駆動され、拡大・成長を追い求め、未来世代からも収奪を行っているのです。無理に拡大・成長を追い求め、リーマン・ショックを起こし、信用力の低い人の未来を奪いました(※これが今の米国かな)。福島原発事故を起こし、数万年の未来にまで放射能の災厄を残しました。資本主義は未来世代に、巨大な債務/エネルギー危機/環境危機を残したのです。※罪深い。

○バブル多発時代と資本主義の退化
・地球から「周辺」が消滅し、未来からも収奪するようになりました。これは単に「長期停滞」としてではなく、近代の「蒐集」の終焉で、もっと深く考えるべきです。世界の70億人が資本主義のプレーヤーになった時、資本帝国/領土帝国などは死ぬのです。そのため資本主義を、むき出しのままハード・ランディングで終わらせるか、ブレーキを掛けながらソフト・ランディングで終わらせるかが重要になります。※終わらせる前に、次のシステムを準備しないといけないのでは。

・今の資本主義はバブルを繰り返し、永続型資本主義からバブル清算型資本主義に変質しています。資本主義の効率は利潤率に表れます。その金利がゼロになったため、「電子・金融空間」を作り、そこに投資するようになり、バブルを繰り返すようになりました。17世紀に誕生した永続型資本主義は、21世紀にバブル清算型資本主義に退化したのです。※17世紀に既にチューリップ・バブルがあったけど。
・13~15世紀の事業清算型資本主義は、事業に失敗すれば資本家の責任になりました。ところが21世紀のバブル清算型資本主義では、利益は資本家に還元されるが、失敗しても資本家は公的資金で救済され、その税負担は国民に回されたのです。「人間は進化する」とするのは怪しいものです。

○ハード・ランディング-中国バブルが世界を揺るがす
・日本の資産バブル、アジア危機、米国のネット・バブル/住宅バブル、欧州のユーロ危機など、これに続くのは中国の過剰バブルになるでしょう。中国は4兆元の設備投資を行い、生産過剰が明らかです。※しかし中国は国家資本主義なので、その辺りを調整している。
・その代表が粗鋼生産能力です。2013年粗鋼生産量は7.8億トンでしたが、10億トンに増えました。欧米の消費量は減少し、東アジアの日本/韓国/ASEANとは領土問題を抱えています。中国は消費が細いので、内需も望めません。※この頃に「一帯一路」を掲げている。
・中国でバブルが崩壊すると、海外資本/国内資本が海外に逃避します。そうなると外貨準備の米国債を売り、ドルは終焉するでしょう。

○デフレ化する世界
・中国バブルが崩壊すると、新興国も低成長/低金利に変わります。世界全体がデフレ化します。それはバブルが弾けると一気に設備過剰になり、稼働率が下がります。これにより鉱物資源などの価格も下落します。
・新興国で起きるバブルは欧米で起きた資産バブルではなく、日本で起きた過剰貯蓄による過剰設備バブルとなります(※日本で過剰設備バブルがあったかな)。新興国は潤沢な量的緩和マネーにより、高スピードで近代化されたためです。

・過剰設備バブルは資産バブルと異なり、崩壊に時間が掛かります。そして世界は「ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレ」の定常状態になります。日本は賃金が下がり、国家債務も膨れ上がります。
・かつては戦争が起きていましたが、核戦争が懸念されるため大規模な戦争は起きません。その代わり資本家対労働者の闘争・内乱が始まるでしょう。この最悪のシナリオを否定できません。※これが中心/周辺の闘いになる。この状態は今の米国に近い。

○ソフト・ランディングの道を求めて
・資本主義にブレーキを掛けながら、ソフト・ランディングする道はないのでしょうか。今は国境を自由に越えられる資本にとって、国家は足手まといになっています。しかしバブルが崩壊すると資本は公的資金で救済され、そのしわ寄せが国民に回されます。

・EUは規模を大きくして、グローバル資本に対抗しようとしましたが、欧州危機を起こした事からすれば、まだ規模が小さいのかもしれません。※これは通貨と財政の分離が原因だろ。
・世界政府は想定しにくいので、G20で解決策を見付ける必要があります。例えばトービン税で(※通貨取引への課税)、徴収した税金を、食糧危機/環境危機を起こしている地域に分配する事が考えられます。※資本は国境を越えるのに、政策・課税は国境を越えられない。これは明らかに資本の拡大を優先させた結果である。これは欧州での通貨統合と政治統合の空間的・時間的ギャップと同じである。
・G20は世界GDPの9割近くを占めます。G20であれば巨大資本に対抗できます(※リーマン・ショック後G20が注目されたが、その後どうなったのか)。今は労働者が団結できない状態です。国家が団結する必要があります。

○定常状態とは、どんな状態か
・次のシステムが見い出せない状況では、資本主義にブレーキを掛けながら、ソフト・ランディングするしかありません。では「定常状態」とは、どんな状態でしょうか。これはゼロ成長で、純投資がない状態です。純投資とは設備投資から減価償却費を引いたものです。純投資ゼロを家計で云えば、車を乗り潰して、次の車を買い替える状況です。
・歴史を振り返れば、15世紀までは激しいアップダウンがある定常状態でした(※気候に大きく左右されたのかな)。21世紀の定常状態では、余計な金融政策/財政政策をせず、アップダウンを小さくする事を望みます。※金融政策/財政政策は、アップダウンを小さくする事に役立っていると思うが。ただし付けが後生に残されるが。

○日本が定常状態を維持するための条件
・この定常状態を維持する能力を持っているのが、いち早く「ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレ」に突入した日本です。ただし巨額の債務を抱えているのは問題で、基礎的財政収支(プライマリー・バランス)を均衡させる必要があります。

・日本は1千兆円の債務残高があり、毎年40兆円財政赤字を増やしています。債務残高はGDPの2倍以上あります。破綻しない理由は、金融機関に800兆円の預金があり、年24兆円増えているからです。さらに企業は本来は資金不足なのですが、年23兆円資金を余剰させています。この47兆円で、国債40兆円を消化できているのです。
・しかし金融機関のマネー・ストックが減少すると、国内の資金だけでは国債の消化ができなくなります。日銀は「2017年に預金が減少に転じる」としています。そうなると国債を外国人が買うようになり、金利は不安定になり、上昇する可能性も高くなります。そのため財政均衡が必要なのです。

○国債は日本株式会社の会員権
・日本の1千兆円の債務は、「日本株式会社」の会員権と考えるべきです。国民は銀行や生命保険会社にお金を預け、金融機関がそれで国債を買っています。要するに国民は間接的に国債を買っています。金利がゼロなので配当はありませんが、それにより様々な行政サービスを受けているのです。その「日本株式会社」への出資金が1千兆円と考えるべきです。
・しかし国の歳出90兆円に対し、税収は40~50兆円しかありません。このまま債務が増え続けると、外国人が買うようになり、金融商品に変わります。そうなると金利を上げざるを得ず、財政破綻から免れなくなります。
・財政均衡のため、増税は必須です。消費税は20%近くまで上げざるを得ないでしょう。しかし法人税/金融資産課税を増税し、持てる者の負担を増やすべきです。財界は「法人税を下げろ」の一点張りで、「彼らはリバタリアン(※完全自由主義者、自由市場主義者)か無政府主義者か」と皮肉りたくなります。

○エネルギー問題
・定常状態を実現するのにエネルギー問題も重要です。これには、①人口を9千万人程度に留める、②エネルギーを国内で作る、が必要になります。電力1Kwを作るのに、原油は20数円、太陽光は38円掛かっています。これを20円以下で作る必要があります。

○ゼロ成長すら困難な時代
・マイナス成長が続くと貧困社会になります。そのため人口問題/エネルギー問題/格差問題などに、金融緩和/積極財政より高度な対応が必要です。リフレ論者は近代資本主義の成長至上主義にしがみつき、逆にその死期を早めているのです。※定常状態がベストかな。

○アドバンテージを無効にする日本の現状
・定常状態へのアドバンテージがあるにも関わらず、成長主義に捉われたため、日本はグローバル資本主義の猛威にさらされています。2人以上の世帯で金融資産を持たない世帯は、1987年には3%しかなかったのに、2013年には31%に増えています。新自由主義的な政策が取られ、3%から31%に増え、今後も増える傾向にあります(※国内に周辺が作られた)。アベノミクスで浮かれていますが、その一方で生活保護世帯/低所得世帯は増え続けているのです。非正規雇用者は1900万人、年収200万円以下は1100万人、生活保護受給者は200万人います。

・勤労機会を増やすためには、労働時間の規制強化やワークシェアリングの促進が必要です。日本の一般労働者の年間労働時間は2030時間で長時間労働です。規制を強化し過剰労働/超過勤務を減らし、その分雇用を確保するべきです。
・年収200万円世帯の多くは非正規雇用者でしょう。彼らにボーナス/福利厚生/社会保障はありません。私はこの雇用形態に反対です。「働く人のニーズに応える」は幻想です。労働規制の緩和は資本家の利益を増やすだけです。※固定費が変動費になった。

○「長い21世紀」の次のシステム
・これまで指摘したように、グローバル資本主義は国民に負の影響を与えます。新興国では、先進国より速いスピードで格差は広がるでしょう。しかしグローバル資本主義が破壊するのは経済面だけでなく、民主主義も破壊します。市民革命以降は、資本主義と民主主義が両輪となり主権国家システムを発展させたのです。ところが1999年以降、企業の利益と労働者の所得は分離しました。そして政府は新自由主義的な政策で、それを加速させています。
・グローバル資本主義により、国家は資本の使用人になりました。18世紀から築き上げた市民社会/民主主義/国民主権も、グローバル資本主義に破壊されたのです。

・「長い16世紀」(1450~1640年)で、政治・経済・社会体制の転換が起きます。「利子率革命」により荘園制・封建制社会は、近代資本主義・主権国家システムに変わったのです。1970年代から始まる「長い21世紀」も、「長い16世紀」と同様に政治・経済・社会体制の転換が起きるのです。
・資本主義の凶暴性に比べると、空洞化は進んでいますが、民主主義/国民主権は捨て難いものです。ならばグローバル資本主義にブレーキを掛けるべきです。「ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレ」の定常状態を維持するため、「成長教信者」に金融緩和/積極財政を捨ててもらわなければいけません。

○情報の独占への異議申し立て
・「長い16世紀」と「長い21世紀」には、他にも類似点があります。社会が不調な時、誰が情報を握るかの争いが起こるのです。第4章「欧州」で簡単に触れましたが、中世はラテン語を読み書きできる教会・聖職者が「中心」を形成していました。「周辺」のドイツ/オランダ/仏国には、財産権・行政権・司法権がありませんでした。そのためプロテスタントが「権利をよこせ」と独立運動を起こしたのです。
・「長い16世紀」、資本主義で最大の産業は出版業でした。その出版業はラテン語の聖書を出版していましたが、飽和状態でした。そこにプロテスタントが現れ、独語・仏語・英語の聖書を出版させたのです。そして情報は社会を支配する礎になります。宗教革命はプロテスタントが特権階級から情報を奪う「情報革命」でもあったのです。

・ここで重要なのが「情報革命」と「利子率革命」が同時に起きた事です。政治・経済・社会体制が安定している時は情報の独占に反旗を翻す事はないのですが、これが不安定になると情報の所在が問題になるのです。
・今の「長い21世紀」での「情報革命」の発端が、スノーデン事件です。1%対99%の富の偏在があり、政治・経済・社会体制への不満が渦巻く中、米国の情報収集活動を内部告発した象徴的な事件です。この事件は「長い16世紀」でのルターの行動と一致しています。
※今はインターネットにより、情報が氾濫するようになった。本書に従えば、かつては「中心」と「周辺」が存在したが、全てが「中心」になりつつある。

・16世紀ルターはカトリック教会が贖宥状を販売したのに対し、「贖宥状では救われない」と批判します。彼は教会の情報操作を批判したのです。スノーデンも国家の情報管理の秘密を暴いたのです。さらに彼は聖書をドイツ語に翻訳し、1%の特権階級が独占していた情報を、99%の人に開放したのです。これにより国民国家への移行の端緒を開いたのです。
※近代は「中心/周辺」を作ってきたとしていたが、これは「独占(中心)からの開放」であり、「中心/周辺の壁をなくす」で、新しい状態の気がする。富もそうなれば良いが。

○脱成長と云う成長
・私は12~13世紀にリスク性資本が生まれたのが、資本主義の原型と考えます。ただし当時は合資会社なので、1回限りの資本主義です。そして「長い16世紀」になり「空間革命」が起き、資本主義も株式会社などで、「永続型」の資本主義に変わりました。しかし今日は「バブル清算型」の資本主義になり、先祖返りしています。それは「周辺」がなくなったため、「永続型」が不可能になったのです。※この辺は不整合の気がする。国内の労働者を「周辺」にしたとしていたし、グローバル企業は健在だし。

・そろそろ資本主義は、「過剰利潤の追求は間違っていた」と認めるべきでしょう。これまでダンテ/シェイクスピア/アダム・スミス/マルクス/ケインズなどが、この欠陥の是正に努めてきました。この欠陥に対し近代経済学は、供給曲線と需要曲線の均衡が価値としてきました。しかしこれは「周辺」であった産油国から原油1バレルを2~3ドルで買えた時代に通用した理論です。地球に「周辺」がなくなり、無理やり国内に「周辺」を作るようになった資本主義は、退場してもらうべきです。

・ミヒャエル・エンデは豊かさを「モノが必要な時に、それを手に入れる事ができる」と定義しています。それに倣えば、「ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレ」の定常状態になった日本は、急いで買う必要がなく、最良の国と云えます。
・近代資本主義は「より速く、より遠く、より合理的に」を理念としています。これを「よりゆっくり、より近く、より曖昧に」に転じる必要があります。私は定常状態を語りましたが、それを支える政治体制/思想/文化などは明確に語れません。これには21世紀のホッブスやデカルトを待たねばなりません。しかし今は「脱成長と云う成長」に向かう必要があります。

<おわりに 豊かさを取り戻すために>
・1997年日本の国債利回りが2%を下回ります。その頃私は証券会社のエコノミストをしていました。その後ITバブルになっても、戦後最長の景気拡大になっても、一向に2%を超えませんでした。ある時この状況が、「長い16世紀」のジェノヴァでの「利子率革命」と同様なのに気付きます。ならば「中世封建制が終焉したように、近代資本主義が終焉するのでは」と考えるようになりました。その仮説を携えて「長い16世紀」と現代を比較すると、多くの相似性が見付かったのです。

・1215年ローマ教皇が利子率の上限33%を容認します。これが資本主義の起源です。「不確実なものに貸与する際、利息を付けて良い」としたのです。これがリスク性資本の誕生です。
・マックス・ウェーバーは、資本主義の倫理をプロテスタントの「禁欲主義」に求めました。しかし資本主義は、禁欲して蓄積した資本を再投資し、新たな資本を生み出すのです。要するに「余剰を蕩尽しない」(禁欲)が必要なのです。禁欲/強欲はコインの表裏なのです。※禁欲主義ではなく強欲主義だな。
・しかしフロンティアが消滅すれば、資本の自己増殖は臨界点になり、投資しても利子率はゼロになります。これは資本主義の終焉を意味します。

・この資本主義をソフト・ランディングさせるか、強欲を貫きハード・ランディングさせるかです。先進国は後者に邁進し、バブル崩壊を繰り返し、国内の「周辺」や未来世代から収奪しています(※物言わぬ未来世代も周辺と云える)。その代償は経済危機だけでなく、国民国家/民主主義/地球持続可能性の危機を顕在化させました。
・日本は定常化社会/ゼロ成長社会を準備しなくてはいけません。資本の蓄積・増殖などの強欲を手放し、豊かさを求めるのです。この「歴史の危機」をどう乗り越えるかは、私達に掛かっています。

・本書のタイトルは、演劇『世界の果てからこんにちは』(鈴木忠志)からヒントを得ています。劇の中で「歴史を終わらせろ」「日本はお亡くなりになられました」などのセリフがあり、この作品のテーマと資本主義の終焉が結び付くのです。私はこのセリフを「蒐集の西洋史を終わらせろ」「近代日本の死」と読み替えました。
・近代経済学の住人から見れば、私は「変人」でしょう。しかしこの「変人」には、資本主義の終焉を告げる鐘の音が聞こえるのです。※経済学は現状を説明する学問と云われる。そのため将来を含めて俯瞰する事ができないのでは。

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